ゲスト
(ka0000)
【東幕】学問のススメ
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在6人 / 4~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2017/10/17 15:00
- リプレイ完成予定
- 2017/10/26 15:00
オープニング
●小さな商人の大きな商売
エトファリカ連邦国、天ノ都の空は高く澄み渡っている。気持ちの良い風が吹き抜け、大地の埃をさらってゆく。
小さな幌馬車の御者台に座るひとりの少年が、風の行く末を見上げて目を細めた。さらさらと黒髪をなびかせるその面差しは、誰もがついうっとりしてしまうほど愛らしいものだった。
「こういう日は、よく売れるんだ」
少年──史郎は、街道を進み、大きな屋敷の前へ馬車をつけた。とある織物問屋だ。天ノ都に現在、着実に店舗を増やしている優良企業である。
「やあ史郎くん、よく来たね。注文の反物は手に入ったかな」
「こんにちは、番頭さん。ばっちりですよ。さすがの目利きですね、この柄は今年流行しますよ」
「こりゃあ上物だ。この天ノ都でこれほどのものを見られる日が来るとはねえ。高くつくかね」
「ええ、まあ。ですが、ずいぶんたくさん仕入れていただきましたからね、少しオマケしますよ」
「そうかい、それは有難いね」
弾むような声の調子で史郎が気前の良いセリフを吐くと、問屋の番頭はたちまち上機嫌になった。史郎は、このタイミングを逃さない。黒い瞳がきらりと光る。
「ところで番頭さん。この反物によく合う、宝石なんかもいかがです?」
「宝石?」
「ええ。西方からいいものを仕入れられたんです。ちょっと宝石商にツテができましてね。なんせ物流が安定しませんから、ずいぶん待たされましたけど、待った甲斐があったというものです。いかがです、ご覧になるだけでも」
「う、うーん、まあ見るだけなら……」
「ありがとうございます」
史郎は、この世で一番とも思われるほどの輝かしい笑顔を見せた。
織物問屋や薬問屋を相手に商売を順調に済ませた史郎は、品物などを厳重に自宅に仕舞い置いたあと、市場の方へ足を向けた。青果や乾物、日用品と、市場には「生活」のにおいがあふれている。史郎は、それを胸いっぱいに吸い込んだ。
「どうだい、ぼうや、見ていっておくれー!」
見目麗しく、人当たりもよい史郎は、様々な店から声をかけられ続けた。それに返事をしながら、史郎は人々の様子に目を配る。このあたりの取引は安定してきた。ようやく、といったところではあるが。南の方はまだまだ厳しいらしい。
「柿が安いよ!」
「松茸、ひとつどうだね!」
活気のある呼び込み。市井は順調な回復を見せているかに思われる。だが、きな臭い噂も聞こえてくる。
「殺し屋家業が儲かってるって本当?」
「噂だろ、そんなの。ようやく歪虚が出なくなったってのに、そんな奴らに横行されてたまるかよ」
「なあ、それより、夜な夜な忍が暗躍してるらしいぜ、こっちの方が気になるよ」
(忍、ね……)
史郎が少しだけ、笑みをこぼしたそのとき。
「あっ、史郎兄ちゃん! 久しぶり!」
史郎よりも一回り小さな少年が呼び止めた。着丈の合わない着物を着て、焼き栗の入った籠をかかえて売り歩いているこの少年はまだ十歳にもならないはずだ。家族総出で働いている。
「おう、久しぶり。どうだ、今日は。よく売れるだろ」
「うん、まあ、いつもよりはね。ねえ、史郎兄ちゃん、またさ、勉強教えてよ。っていうかさ、旅の話聞かせてよ」
前のめりになる少年のその言葉で、彼が本当にやりたいのは商売ではないことがわかる。ましてや、「焼き栗売り」ではありえない。史郎は厳しい顔つきになりそうな自分を抑え込んで、カラリと笑って見せた。
「おう、明日にでも行ってやるよ。皆集めとけ」
「うん! じゃあね!」
少年に手を振って、史郎は足音もなく小路へ入った。
●寺子屋
乳飲み子同然の幼さだったという。
史郎が、拾われたときの話である。彼は、橋のたもとに捨てられていた子だった。一滴の血のつながりもない初老の男が偶然拾い、引き取り、育ててくれた。そればかりか、商人の仕事も、それ以外の仕事も、ひとりでやっていけるようにと仕込んでくれた。商売で世話になっている高貴な血筋の邸宅にも出入りをさせて、そこで行儀見習いのようなこともした。おかげで、史郎は十五歳にして一人前だ。
誰もが生きることだけで精一杯あった中でのことである。養父には、感謝してもしきれない。
だが。もちろん、そんな恵まれた教育環境にある子どもなど少ない。読み書きすら出来ぬ子が、この国にはあふれている。
史郎は、そうした勉強の場を得られなかった子どもたちに、読み書きやそろばんを教えていた。不定期開校される「寺子屋」のようなものだ。不定期なのは、史郎が巡業に出るからであるが、史郎がその旅の中で見たものの話も、子どもたちが楽しみにしていることのひとつだった。
明日は、久しぶりにその寺子屋の開校だ。
だが。
「は!? 三十人!?」
いつもは十人そこそこの寺子屋参加希望者が、三倍に膨れ上がっているというのだ。
「史郎兄ちゃんが久しぶりに帰って来たぞ、って声かけたら、そんなことになっちゃってさ」
焼き栗売りの少年がへへへ、と笑う。史郎はこめかみを押さえた。
「なっちゃって、って……。そんな人数で勉強は無理だぞ」
講義形式の授業ではなく、ひとりひとりの学力と進度に合わせて教えているため、三十人などとても一度に見てはやれない。
「……しゃーねえなあ、今回はおはなし会にするか。どうせ、お前らそれが目的なんだろ?」
史郎がニヤリと笑うと、少年もニヤリとした。
「そんなにたくさん集まるなら、もうちっと豪華にしてやろうかね」
史郎はぱちりとそろばんを弾く。珍しい話をしてくれる人物を呼べないかと算段しているのである。予定外の出費だが、今回の商売ではかなり儲かったことだし、少しくらいいいだろう。
「スメ……、じゃねえや、スーさんも来るかな。久々に会いたいよな」
ひょんなことから友人となった人物のことを思い出して、史郎は呟いた。「俺のことはスーさんと呼んでくれ」なんて言って正体を隠しているつもりらしいが、史郎にはすぐわかった。彼が、このエトファリカの帝……スメラギであると。
「子どもたちはわかってないみたいだが……、すっかりお忍び成功してるつもりでいるからなあ、あの人」
寺子屋にもたびたび現れては、子どもたちと全力で遊んでいく彼のことを思って、史郎はひとり、くすくすと笑った。
エトファリカ連邦国、天ノ都の空は高く澄み渡っている。気持ちの良い風が吹き抜け、大地の埃をさらってゆく。
小さな幌馬車の御者台に座るひとりの少年が、風の行く末を見上げて目を細めた。さらさらと黒髪をなびかせるその面差しは、誰もがついうっとりしてしまうほど愛らしいものだった。
「こういう日は、よく売れるんだ」
少年──史郎は、街道を進み、大きな屋敷の前へ馬車をつけた。とある織物問屋だ。天ノ都に現在、着実に店舗を増やしている優良企業である。
「やあ史郎くん、よく来たね。注文の反物は手に入ったかな」
「こんにちは、番頭さん。ばっちりですよ。さすがの目利きですね、この柄は今年流行しますよ」
「こりゃあ上物だ。この天ノ都でこれほどのものを見られる日が来るとはねえ。高くつくかね」
「ええ、まあ。ですが、ずいぶんたくさん仕入れていただきましたからね、少しオマケしますよ」
「そうかい、それは有難いね」
弾むような声の調子で史郎が気前の良いセリフを吐くと、問屋の番頭はたちまち上機嫌になった。史郎は、このタイミングを逃さない。黒い瞳がきらりと光る。
「ところで番頭さん。この反物によく合う、宝石なんかもいかがです?」
「宝石?」
「ええ。西方からいいものを仕入れられたんです。ちょっと宝石商にツテができましてね。なんせ物流が安定しませんから、ずいぶん待たされましたけど、待った甲斐があったというものです。いかがです、ご覧になるだけでも」
「う、うーん、まあ見るだけなら……」
「ありがとうございます」
史郎は、この世で一番とも思われるほどの輝かしい笑顔を見せた。
織物問屋や薬問屋を相手に商売を順調に済ませた史郎は、品物などを厳重に自宅に仕舞い置いたあと、市場の方へ足を向けた。青果や乾物、日用品と、市場には「生活」のにおいがあふれている。史郎は、それを胸いっぱいに吸い込んだ。
「どうだい、ぼうや、見ていっておくれー!」
見目麗しく、人当たりもよい史郎は、様々な店から声をかけられ続けた。それに返事をしながら、史郎は人々の様子に目を配る。このあたりの取引は安定してきた。ようやく、といったところではあるが。南の方はまだまだ厳しいらしい。
「柿が安いよ!」
「松茸、ひとつどうだね!」
活気のある呼び込み。市井は順調な回復を見せているかに思われる。だが、きな臭い噂も聞こえてくる。
「殺し屋家業が儲かってるって本当?」
「噂だろ、そんなの。ようやく歪虚が出なくなったってのに、そんな奴らに横行されてたまるかよ」
「なあ、それより、夜な夜な忍が暗躍してるらしいぜ、こっちの方が気になるよ」
(忍、ね……)
史郎が少しだけ、笑みをこぼしたそのとき。
「あっ、史郎兄ちゃん! 久しぶり!」
史郎よりも一回り小さな少年が呼び止めた。着丈の合わない着物を着て、焼き栗の入った籠をかかえて売り歩いているこの少年はまだ十歳にもならないはずだ。家族総出で働いている。
「おう、久しぶり。どうだ、今日は。よく売れるだろ」
「うん、まあ、いつもよりはね。ねえ、史郎兄ちゃん、またさ、勉強教えてよ。っていうかさ、旅の話聞かせてよ」
前のめりになる少年のその言葉で、彼が本当にやりたいのは商売ではないことがわかる。ましてや、「焼き栗売り」ではありえない。史郎は厳しい顔つきになりそうな自分を抑え込んで、カラリと笑って見せた。
「おう、明日にでも行ってやるよ。皆集めとけ」
「うん! じゃあね!」
少年に手を振って、史郎は足音もなく小路へ入った。
●寺子屋
乳飲み子同然の幼さだったという。
史郎が、拾われたときの話である。彼は、橋のたもとに捨てられていた子だった。一滴の血のつながりもない初老の男が偶然拾い、引き取り、育ててくれた。そればかりか、商人の仕事も、それ以外の仕事も、ひとりでやっていけるようにと仕込んでくれた。商売で世話になっている高貴な血筋の邸宅にも出入りをさせて、そこで行儀見習いのようなこともした。おかげで、史郎は十五歳にして一人前だ。
誰もが生きることだけで精一杯あった中でのことである。養父には、感謝してもしきれない。
だが。もちろん、そんな恵まれた教育環境にある子どもなど少ない。読み書きすら出来ぬ子が、この国にはあふれている。
史郎は、そうした勉強の場を得られなかった子どもたちに、読み書きやそろばんを教えていた。不定期開校される「寺子屋」のようなものだ。不定期なのは、史郎が巡業に出るからであるが、史郎がその旅の中で見たものの話も、子どもたちが楽しみにしていることのひとつだった。
明日は、久しぶりにその寺子屋の開校だ。
だが。
「は!? 三十人!?」
いつもは十人そこそこの寺子屋参加希望者が、三倍に膨れ上がっているというのだ。
「史郎兄ちゃんが久しぶりに帰って来たぞ、って声かけたら、そんなことになっちゃってさ」
焼き栗売りの少年がへへへ、と笑う。史郎はこめかみを押さえた。
「なっちゃって、って……。そんな人数で勉強は無理だぞ」
講義形式の授業ではなく、ひとりひとりの学力と進度に合わせて教えているため、三十人などとても一度に見てはやれない。
「……しゃーねえなあ、今回はおはなし会にするか。どうせ、お前らそれが目的なんだろ?」
史郎がニヤリと笑うと、少年もニヤリとした。
「そんなにたくさん集まるなら、もうちっと豪華にしてやろうかね」
史郎はぱちりとそろばんを弾く。珍しい話をしてくれる人物を呼べないかと算段しているのである。予定外の出費だが、今回の商売ではかなり儲かったことだし、少しくらいいいだろう。
「スメ……、じゃねえや、スーさんも来るかな。久々に会いたいよな」
ひょんなことから友人となった人物のことを思い出して、史郎は呟いた。「俺のことはスーさんと呼んでくれ」なんて言って正体を隠しているつもりらしいが、史郎にはすぐわかった。彼が、このエトファリカの帝……スメラギであると。
「子どもたちはわかってないみたいだが……、すっかりお忍び成功してるつもりでいるからなあ、あの人」
寺子屋にもたびたび現れては、子どもたちと全力で遊んでいく彼のことを思って、史郎はひとり、くすくすと笑った。
解説
■成功条件
子どもたちに珍しい話を聞かせて楽しませる。
■寺子屋
史郎の知り合いが営む甘味屋の一室を借りて行う。
(甘味屋の女将はひとがよく、子ども好きで、寺子屋が終わる頃にはいつもおやつを出してくれる)
部屋は二階にあり、広さ三十畳の座敷。土足不可。普段は机を置くが、今回は参加人数が多いためなし。集まる子どもたちは五歳から十歳くらいまでの男女三十名。
■おはなし
ひとり持ち時間5~10分。
史郎が子どもたちの親とも話し合って決めた方針により、金儲けの話はOK、政治の話はNGとしている。戦闘の話はOK(ただし聞いている子どもの年齢を考えたものにしてください)。
小道具等の使用は可能だが、武器は不可。また、子どもたちに何か物を配る(あげる)ことも禁止とする。
※何名かでまとまって行う場合、同行情報を忘れずにご記載ください。
■史郎
十五歳にして大人顔負けの仕事ぶりを見せる商人。
驚くほどの美少年だが、中身は儚さとは無縁の思い切りの良さで男気あふれている。
商売の為に天ノ都や詩天の各地を行き来しており、なかなか家に帰ってこれないことも多い。
捨て子であった自分を育ててくれた養父への恩返し代わりに、不定期に「寺子屋」を開いて子どもたちの勉強の世話をしている。
■スーさん
史郎の友人。史郎よりも少し年上らしい青年。寺子屋の開校日にたまに遊びに来る。今回も来るのか来ないのかわからない。
家がどこなのか、どんな仕事をしているのかまったく教えてくれないが、とても明るく元気で、全力で遊んでくれるため、子どもたちに大人気。
史郎はその正体に気が付いているようだが……。
※以下PL情報
今回は顔を出す可能性が非常に低く、もし顔を出したとしても史郎に挨拶するだけの程度になるようです。
子どもたちに珍しい話を聞かせて楽しませる。
■寺子屋
史郎の知り合いが営む甘味屋の一室を借りて行う。
(甘味屋の女将はひとがよく、子ども好きで、寺子屋が終わる頃にはいつもおやつを出してくれる)
部屋は二階にあり、広さ三十畳の座敷。土足不可。普段は机を置くが、今回は参加人数が多いためなし。集まる子どもたちは五歳から十歳くらいまでの男女三十名。
■おはなし
ひとり持ち時間5~10分。
史郎が子どもたちの親とも話し合って決めた方針により、金儲けの話はOK、政治の話はNGとしている。戦闘の話はOK(ただし聞いている子どもの年齢を考えたものにしてください)。
小道具等の使用は可能だが、武器は不可。また、子どもたちに何か物を配る(あげる)ことも禁止とする。
※何名かでまとまって行う場合、同行情報を忘れずにご記載ください。
■史郎
十五歳にして大人顔負けの仕事ぶりを見せる商人。
驚くほどの美少年だが、中身は儚さとは無縁の思い切りの良さで男気あふれている。
商売の為に天ノ都や詩天の各地を行き来しており、なかなか家に帰ってこれないことも多い。
捨て子であった自分を育ててくれた養父への恩返し代わりに、不定期に「寺子屋」を開いて子どもたちの勉強の世話をしている。
■スーさん
史郎の友人。史郎よりも少し年上らしい青年。寺子屋の開校日にたまに遊びに来る。今回も来るのか来ないのかわからない。
家がどこなのか、どんな仕事をしているのかまったく教えてくれないが、とても明るく元気で、全力で遊んでくれるため、子どもたちに大人気。
史郎はその正体に気が付いているようだが……。
※以下PL情報
今回は顔を出す可能性が非常に低く、もし顔を出したとしても史郎に挨拶するだけの程度になるようです。
マスターより
ごきげんいかがでしょうか、紺堂カヤでございます。
このたび、東幕連動の末席にて尽力の機会を賜りました。不束者ではございますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
さて。
まずはひとつ、子どもたちのお相手をお願い申し上げます。誰も彼も、日々を必死に生き抜いている子たちです。楽しませてくださると有難いです。
また、今回初お目見えの史郎くんは、今後のシナリオで何度も登場することになるかと思います。どうぞ仲良くしてやってくださいませ。
このたび、東幕連動の末席にて尽力の機会を賜りました。不束者ではございますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
さて。
まずはひとつ、子どもたちのお相手をお願い申し上げます。誰も彼も、日々を必死に生き抜いている子たちです。楽しませてくださると有難いです。
また、今回初お目見えの史郎くんは、今後のシナリオで何度も登場することになるかと思います。どうぞ仲良くしてやってくださいませ。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2017/10/23 09:15
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/14 22:03:20 |
|
![]() |
相談卓 神代 誠一(ka2086) 人間(リアルブルー)|32才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/10/16 22:28:13 |