• 東幕

【東幕】亥子の賀儀

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
3日
締切
2017/10/15 19:00
完成日
2017/10/23 21:23

みんなの思い出

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オープニング

 ――エトファリカとはかつて往来があった辺境民が美しさを讃え、その景観そのものにつけた『美しいもの』を示す名である。
 歪虚の侵攻により東方の国が尽く滅び、その体裁を保てなくなり――生き残った者達が暮らす場所が必要となった。
 歪虚に包囲され、この地から出ることもままならなくなった彼らは、西方との繋がりが希望に繋がると信じ、いつか来るその日の為、西方諸国と政治的に渡り合う枠組みを欲した。
 東方大陸南部の小さな島国だったその地の帝は、いつか東方の全てを取り戻す為、自らの名を捨て「エトファリカ」を掲げたという。

 ――生き残った民達に土地と符術を分け与えた初代の帝は、連邦制へ以降する前から存在した政府、「朝廷」の長として君臨した。
 一方、歪虚に対抗するべく急激に肥大化した武家という軍事力を監督する為、「幕府」という第二政府を新設する。
 「陰陽寮」と呼ばれる符術師運用機関を抱え、国防の要たる大結界「天ノ御柱」を維持する帝と、それを支える朝廷。
 その朝廷から軍権、即ち武家四十八家門の運用を任された幕府は、最上位第一家門の長「征夷大将軍」と上位六家門により管理されていたが――九蛇頭尾大黒狐 獄炎との戦いにより黒龍が消滅。
 それはエトファリカの首都圏を覆っていた広域結界の消失と……歴代の帝が長きに渡り、その命を燃やしながら続けてきた「お柱」の役目が終了したことを同時に意味していた。
 結界の維持を生業としていた朝廷の立場の変化。そして以前と変わらず力を持ち続ける幕府――。
 国内が復興へと進む中、水面下では緊張した状態が続いている。


●亥子の賀儀
 エトファリカ連邦の天ノ都、朝堂院。
 荘厳な雰囲気のあるそこを、深紫の狩衣を着たスメラギ(kz0158)が仏頂面で歩いていた。
 ――この衣装が正式な礼装であることも、儀式の折にはこれを着ないといけないことも承知している。
 ……でも、何でこんなに動きにくいんだろう。
 こんなに布引きずってたらいざという時に走れないではないか。
 ――以前、このことを朝廷で儀式を取りまとめる立場である左大臣、足柄天晴(あしがら・てんせい)にモノ申したら『そもそも儀式において走る必要はない』から始まり2時間に渡る説教を受けた。
 天晴は一事が万事こんな感じなので、スメラギは左大臣が若干苦手なのであるが……今日はそうも言っていられない。
 そう。これから数日に渡って執り行われる『亥子の賀儀』の儀式に参加しなければならないからだ。
 亥子の賀儀とは、分かり易く言うと収穫を祝う祭である。
 朝廷の長であるスメラギが、エトファリカの守りの要である黒龍や精霊達に初穂を供え、その年の新米で餅を作り、それを食すというもので、黒龍の巫子である帝が自らが食すことで新たな力を得、翌年の豊穣を約束するものとされてきた。
 何より、この儀式を行うことで市井の民もまた収穫祭を各々出来るようになるのだ。
 民が喜び、笑い、この一年の実りに感謝し、来年の豊穣を願う最初の儀式。
 他の儀式はハッキリ言ってクソくらえだが、この儀式だけは面白いし、好きだ。
 毎年エトファリカが明るい雰囲気に包まれるこの季節に、いつか大勢のハンター達を呼べたらいいのだが……。
 そこまで考えたスメラギ。
 ふと東西交流祭で会った詩天の王、三条 真美(kz0198)を思い出す。
 ――そういや、紫草が変な話振って困らせたみてえだし、詫びに呼んでみるか。
 収穫祭が嫌いなお子様はいねーだろうし。
「……亥子の賀儀の後にやる祭に九代目詩天を招待する。紫草と天晴のおっさんに話通しといてくれねーか」
「は……? スメラギ様、それはどういう……?」
「ダチを祭に呼ぶんだよ」
 スメラギの突然の申し出に固まる近侍。
 見合い(予定)の相手を公式の場に呼ぶ、というのは、朝廷の面々が騒ぎそうな事態であるのだが。
 当のスメラギはそれに全く思い至らないようだった。


 エトファリカ連邦、詩天。若峰の黒狗城。
 スメラギの代わりに、と添えられた立花院 紫草(kz0126)からの書状に、真美は困った顔をしていた。
「武徳。これどう思います……?」
「むう……。行事への招待のように見えますが……」
 三条家の軍師である水野 武徳(kz0196)も難しい顔。
 無理もない。先日、スメラギと真美との見合いを仕掛けて来たのは他でもない紫草だ。
 そんなことがあって、こういった公式の場に招待されるということは、何かあるのではと考えてしまう。
「……釣書も御座いませんし、正式な見合いの打診という訳ではないように御座いますな。さりとて、裏がないとも言い切れぬ……」
 真美を呼び寄せて、正式に見合いの話をするつもりなのかもしれない。
 あまり喜ばしい状況とは言えぬが――かといって断るのも角が立つ。
「……私、このご招待受けようと思います」
「は……!? しかし……」
「スメラギ様とはお友達ですし、お誘いをお断りする理由はありません」
 きっぱりと断じた真美にため息をつく武徳。見合いの話がある以上、気軽に天ノ都に乗り込むのは得策ではないという話なのだが……。
 しかし、このままこの話を放置しておくのも身動きが取りづらく――。
「……腹の探り合いは得意とするところでは御座るが……このままでは憶測が憶測を呼び、真美様の身の回りが面倒なことになりかねませんな」
「それに、立花院様からお見合いの話をされても、お断りしようかと思いますし」
「……いえ、真美様。その場で返事をすると角が立つ場合が御座います。その際は、まずは拙者にご報告くだされ」
 素直に頷く王にどこかホッとした表情を浮かべる武徳。
 彼が安堵したのは勿論政治的な面もあるが、この王があまりにも幼く素直で……主の健やかな成長を願う身としての本音もある。
 もっとも真美が見合いをしない、と決めたのは政治的な面は一切なく、大切なお友達や臣下に『結婚は、一番好きな人とするのがいい』と言われたからなのだが……。
 問題は、真美自身がその『一番好き』が良く分からないことだ。
 いずれ自分にも分かる日が来るのだろうか……。
「……招待を受ける旨は承知致しました。ただし、お供を同伴して戴きたく存じます。万が一のことも考えて、腕の立つ者が宜しいでしょうな」
「そうなると、ハンターさんがいいでしょうか」
「そうですな。彼らはこの国においては中立な立場。面倒事も起こりにくいかと存じます」
「分かりました。早速ですが手配をお願いできますか」
「御意」
 武徳は深く頭を下げ――。

「……招待を受けて下さいましたか。それは何よりです。では、手筈通りに進めて戴けますか」
「紫草様、本当に宜しいのですか?」
「ええ。スメラギ様に便乗するだけです。何の問題もありませんよ」
 心配そうな朱夏(kz0116)に笑顔を返す紫草。
 ――様々な思惑を乗せて、エトファリカの収穫祭が始まる。

リプレイ本文

「やあ、真美。元気だった?」
「お久しぶりですわね」
 2人を見るなり真っ直ぐに飛び込んできた三条 真美を笑顔で受け止めるバジル・フィルビー(ka4977)と金鹿(ka5959)。
 子供らしいところを見せる真美に、三條 時澄(ka4759)が目を細める。
「暫く見ない間に随分と挨拶の方法が激しくなったようだな」
「……? 西方では親しい方にはこうやって挨拶すると聞きましたが……」
「それ、ごく一部の人じゃないかなあ……」
 キョトンとする真美に乾いた笑いを返すノノトト(ka0553)。
 そこに七葵(ka4740)がスメラギを伴って戻って来た。
「真美様。失礼致します。帝がいらっしゃいました」
「あ、スメラギ様……! お招き戴いてありがとうございます」
「このような場にお誘い戴き感謝致しますわ」
「良く来たな。あー。堅苦しい挨拶はいいって」
 居住まいを正す真美。続く金鹿にスメラギは手をヒラヒラ振って見せて……疲労が色濃く出た様子に、ノノトトが小首を傾げる。
「何か疲れてるみたいだけど大丈夫です……?」
「あー。ここんとこ立て込んでてな……」
「そうだろうな。亥子の賀儀も結構長い時間のかかる儀式だと聞いた事がある」
 東方出身の時澄の話をふむふむと聞き入るノノトトとバジル。そこに遠慮がちに黒の夢(ka0187)が顔を覗かせた。
「スーちゃん、こんにちはなのな」
「おう。元気にしてたか」
「…………」
「どうした?」
「……ううん。何でもないのな。我輩、ちょっと先行して護衛するのな。変な人がいないか見て回るのな」
「一緒に回らないんですか?」
 スメラギをまじまじと見つめてから目を伏せた黒の夢。バジルの問いに、こくりと頷く。
「……我輩は今迄もこれからも、ただその場限りで雇われたハンターなのな。それじゃ、お先になのな」
「スメラギ様、宜しいのですか?」
「……あいつがしたいようにさせてやれよ。じゃ、行こうぜ」
 金鹿の気遣うような声に肩を竦めたスメラギ。歩き出そうとした帝を、彼女は慌てて呼び止める。
「お待ちください。あの、お二人共これを……お守り程度ですがお持ちくださいませ」
 スメラギ様にお渡しするのも烏滸がましいのですが……と続けながら加護符を差し出す金鹿。それを受け取って真美が頬を緩ませる。
 その光景を眺めて目を細めるバジル。
 ――聞こえるどこか懐かしい感じのする祭囃子。
 屋台に客を呼び込む声。収穫を祝って舞い踊る巫女。大道芸を盛り上げる声。子供達のはしゃぐ声……。
 天ノ都は数年前に壊滅的なダメージを受けたと聞いていたけれど――収穫を祝うこの都の人々はとても元気で、明るくて。
 歪虚や災害にも負けずに復興を続ける強さを感じて、何だかとても絵心を擽られる。
「詩天の若峰も描いてみたいと思ったけど、ここも描いてみたいな」
「……とても心温まる光景ですわよね」
 ぽつりと呟くバジルに頷く金鹿。
 こうした光景を守る一助となれたと思うと、ハンターとして歩みを進めてよかったと思う。
 笑いながら彼らの横を駆け抜ける子供達。
 それに負けない勢いでノノトトが走って戻って来る。
「お団子屋さん見つけたから買ってきたよ!!」
「ノノトトさん、見つけた屋台片っ端から試してません……?」
 モグモグとお団子を食べながら言うノノトトに首を傾げる真美。それに彼はアワアワと慌てる。
「く、食い意地張ってる訳じゃないよ! 一番おいしいのを2人に食べて欲しいだけ!!」
「あそこの団子屋は美味いぞ。俺様が保証する」
「確かに美味しい……って、スメラギ様、このお団子屋さん知ってるの?」
「おう。時々こっそり町中歩くからなー」
 さらっと帝として問題のある発言をしたスメラギ。
 全く悪びれない様子に時澄が苦笑する。
「いやはや、これでは紫草殿も武徳殿も心労が絶えんなぁ」
 この様子から見るに、自身の名において見合い相手を招待した事の意味すら気にしていないのだろう。
「帝も真美様も真っ直ぐでいらっしゃる」
 頷く七葵。
 スメラギと深く付き合いがある訳ではないが……彼の今までの話を聞くに、裏表のない性格なのは理解できる。
 そして七葵の主である真美もまた素直な愛らしい方で――。
 贔屓と言われるかもしれないが、真美様は素晴らしい方だ。
 帝には真美様の事について正しくご理解戴きたい気持ちはある。
 七葵の脳内が主馬鹿全開になっている間も、時澄の声が聞こえて来る。
「ところでスメラギ。友人と喧嘩でもしたのか?」
「いや、別に? 何でだ?」
「黒の夢さんに避けられてるのかなーって……ねえ? 」
「……そうだね。少し様子がおかしかったね」
 2串目の団子を食べながら言うノノトトに、頷くバジル。
 それにスメラギは小さくああ……と声をあげる。
 心当たりがない訳ではないが……。
 彼女とは結構長い付き合いで……自分だけでなく、色々な人物に愛を囁いているのを見ていたし、誰に対してもそういう愛情の示し方をする人物なのだろうと思っていた。
 その表現がストレート過ぎるというか、直情径行な彼女に戸惑って、機会がある度に『そういうことを気軽にしないで欲しい』と伝えてきたつもりだった。
 確かに、冗談っぽく言って誤魔化していた部分はある。
 ……友達だと思っていたからこそ、傷つけたくなかったから。そういう伝え方になってしまった部分はあるのだが――。
 要するに伝え方が悪かったのだろう。
 自分なりに話をしてこうなった以上は仕方がない。
「あの……。お友達は大事です。喧嘩したなら仲直りした方がいいですよ?」
「ちびっこがそんな事気にしないでいーんだよ」
「真美様、何とお優しい……!」
「本当、何ていい子なんでしょう……!」
「……2人共暫く見ない間に大分ダメになったか?」
「割といつもこんな感じだよ……?」
「うん。そうだね……」
 おずおずと言う真美に淡々と答えるスメラギ。感涙に咽ぶ七葵と金鹿に、3人が顔を見合わせて苦笑する。


「ふぉー! 綺麗な髪飾りばっかりなのなー……」
「お姉ちゃん、髪飾り買う?」
「んー。でも、我輩には似合わないかなー」
「そんなことないよ! おいらたちが選んであげる!」
 子供達に手を引かれるがままに小物売りの屋台に足を運ぶ黒の夢。
 以前ここに来た時は、歪虚の侵攻の傷跡が深く、街並みもボロボロで人々も疲れ果てていたけれど。
 今日の天ノ都は活気に溢れて、人々の生命は輝いていて……。
 勿論、復興はまだ途中で、まだまだやる事はあるのだろうけど……あの後どうなったか気になっていたし今日は来られて良かった。 そんな中。ふと……彼の顔が頭を過る。
 ――黒の夢の気持ちに嘘はなかった。それは事実。
 でも、それは……伝わらなかった。
 声も、想いも。自分の思ったように相手が受け取るとは限らない。
 相手が同じように思いを返してくれる保証などない。
 黒の夢の言う通り、想いが伝わらなかったのだとしたら。
 スメラギの言葉もまた、彼女に伝わらなかったのだろう。
 伝わらなかった思いは『偽物』だというのなら。
 ――行きついた答えはあまりにも悲しい。
 あの人と道が交わることはないかもしれない。
 それでも……一時期でも暖かな気持ちをくれた人だから。ただただ、あの人の幸せを願う。
「……お姉ちゃん、どうかした?」
「ううん。何でもないのな! これが終わったら皆のおススメの食べ物教えてほしいのな!」
「いいよ!」
 輝く笑顔の子供達に、優しい目線を返す黒の夢。
 心に吹く風は少し冷たいけれど。子供達の笑顔は癒される――。


「振る舞いのお餅も美味しいね」
「ああ。流石は帝が手ずから作られただけはあるな」
「褒めても何も出ねーぞ」
「いやいや食べた方がいいよ。ホント美味しいよこれ」
 朝堂院で振る舞われたお餅を頬張るバジルと時澄。
 ノノトトが帝の口までそれを運んで……打ち解けた様子の仲間達に金鹿が微笑む。 
「皆さまはお祭り屋台、何がお好きですか? 私は飴細工など見た目も可愛く特別感があって好きですわね」
「あ、私も飴細工好きです! 飴なのに色々な形があってすごいですよね……!」
「飴細工は土産にも良いし、思い出として買っていかれては?」
「だなー」
 にこにこと笑い合う金鹿と真美。七葵の言葉に、スメラギが頷いて……そんな彼に、七葵がそっと耳打ちする。
「……帝。少々失礼致します。お土産などを購入される場合、男子が女子に贈るのが定石では?」
「は? 俺様と真美は別にそーいうんじゃねえぞ?」
「そこは理解しております。が、我が主は女性故、相応の扱いをして戴きたく」
 真美様はこんなに幼くしかも女性でありながら、王としての責任感もあり、民に誠実で家臣を大事にされる素晴らしい方ですから相応の扱いを受けて当然です。
 息継ぎもなく真顔で一気に言った七葵に、腕を組むスメラギ。少し考えた後、口を開く。
「おい、真美。お前好きな花あるか?」
「……そうですね。梅でしょうか」
「親父、飴細工1つ頼めるか? 梅の花作ってくれ」
「えっ。あの……!?」
 手慣れた様子で注文するスメラギにオロオロする真美。
 それをじっとりとした目で金鹿が見つめる。
「宜しいんですの? 取り持つような事をなさって……」
「俺は別に真美様が帝の妃になること自体は反対ではない。それが第三者にいいように利用されるのは許せないがな」
「現状このまま行くと、十中八九そうなる気がするんだが」
 きっぱりと断じた七葵に肩を竦める時澄。
 征夷大将軍である紫草がスメラギと真美との見合いを推しているという事は……現に紫草にとっては、真美は利用価値があるのだろう。
 スメラギの相手などそれこそよりどりみどりであろう筈なのに、わざわざ真美との話を持ち出すのはそういう事だ。
 そして、それを面白くないと思うのは天ノ都にも、詩天にもいる訳で――。
「難しい話だよね。僕達が簡単に口を出していい事とも思えないし……」
「うーん……。でも、中立な立場ではあるんだよね。ちょっと話をしてみようか……?」
 頭を巡らせるバジル。ノノトトの言葉に仲間達が頷いて……休憩がてら、場所を移すこととなった。


 ハンター達は人払いをした茶屋の一室で、のんびりと足を休めていた。
 ――とはいえ、早々に難しい話を始めていたのだが。
「……という訳で、俺様の国はこういう面倒臭え機関が2つもある訳よ」
「ええと……武家から作られた幕府と公家から作られた朝廷……だっけ」
「黒竜の消滅と同時に結界が消失したことで、結界の維持を生業としていた朝廷の仕事がなくなり、立場が弱くなりつつある。そのせいで軋轢が生じている、と。それで合っているか?」
 確認するように言うバジルと時澄に頷くスメラギ。不穏な話に、ノノトトがため息をつく。
「同じ国の人同士なんだから仲良くすればいいのにね……」
 聞こえた理想に遠い目をする七葵。
 彼が仕えている詩天でも、同じ国の者同士が争い沢山の血が流れた。
 仲良く出来るのであれば、それに越したことはない。
 だが、権力というものは人や政を狂わせるのだ。
「……スメラギ様。ちょっと思ったのですけれど……朝廷に、権力を持つ大義名分といいますでしょうか、結界の維持に代わる役目を与えることは出来ませんの? 幕府と対等になり得る意義があれば、不穏の種も消えるのではないかと……」
「あー。何か編み出せればその手も取れるかもしれねえな。だがそもそもの話として、幕府も朝廷もいい加減変わるべきなんだよ。俺様達が守るべきは民と暮らしであって権力じゃねえ」
「そうだね、そう出来たらいいのかもしれないけど……突然変えたら反発が出るんじゃないかな?」
「まあなあ。だから紫草も長期戦狙ってるみてえなんだが……俺様はもっとズバーンと行きたくてな」
 心配そうなバジルに答えながら、スメラギは真美を見る。
「国内に不穏な動きをしてる奴がいる。その動きを探りたい。見合いの話が進めば絶対尻尾を出すはずなんだ。真美、頼む。協力してくれ」
「……それは。そういう状況で話を進めれば真美の身に危険が及ぶんじゃないのか?」
「残念ながらそうなるだろうな。まあ、お前達のことだから守るだろ?」
「「それは勿論です」わ」
 鋭い目線を向けて来た時澄と即答する七葵と金鹿。
 スメラギは幼い詩天の王を守る者達の頼もしさにニヤリと笑うと。真美に目線を戻す。
「勿論最後は破談で構わねえ。目的は炙り出しだからな」
「私に出来る事であれば協力したいとは思うのですが、即答はしかねます。……少し、時間をください」
 身を張って見合いから守ろうとしてくれたあの人とも話をしなくてはいけない。
 スメラギの言葉に頷く真美。あの……とおずおずと口を開く。
「スメラギ様。結婚は、一番好きな人とするのがいいそうですよ」
「ははは。そうだな、その通りだ」
「ええ。国を背負う者としての重圧、孤独を共に支え苦難と幸福を分かち合える、そんな伴侶を見つけて戴きたいものだ」
「それが出来たら苦労してねえっつーの!」
 笑う時澄とうんうんと頷く七葵。吠えるスメラギを、バジルが宥めて――。


 お茶会も一息ついた頃。縁側に座る真美を見つけて、ノノトトはその隣に腰掛ける。
「真美ちゃん。『結婚は、一番好きな人とするのがいい』って思ってるの?」
「はい。お友達も金鹿さんも七葵もそう言いますし」
「そっかー。僕もそうしたいなって、思ってる。でもね、一番に好きじゃない人と結婚したけど、幸せになった人も沢山いるんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。それに……真美ちゃんはそう思ってなかったらゴメンだけど、君の一番好きな人は秋寿さんなんじゃないの?」
 秋寿が最期に遺した言葉をはっきりと覚えている。
 それは他の誰でもない、真美の幸せで――。
 ふと横を見ると、真美がボロボロと涙を零していて、ノノトトが飛び上がる。
「……これが、『特別』なのですか?」
「えっ?」
「これが、『特別に好き』という感情なのですか……?」
「……多分、そうだと思う。僕にはそう見えた」
「……そう、ですか……」
 俯いて涙を流し続ける真美。
 胸が痛い。苦しい。
 ……今更分かったところで、あの人にはもう――。
「……真美さん? どうしたんですの? ノノトトさん? これは一体……?」
 そこにやってきた金鹿。ノノトトに笑みを向け……いや、目が笑っていない。
 ――ヤバい。動いたら殺られる。
「何があったのか可及的速やかに教えて戴けます?」
 真美を抱き寄せながら一層笑みが深くなる金鹿。
 ――これ拒否権ないやつですよね。
 ごくりと唾を飲むノノトト。
 蛇に睨まれた蛙はそんな事を思いながら正座をし直した。


 街中に響く祭囃子。収穫を祝う祭りは、この地に生きるものに未来の希望を与えるもので――。
 そして、亥子の賀儀が終わってまもなくして。詩天の真美の元に、紫草からの書状が届いたのだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師

  • ノノトト(ka0553
    ドワーフ|10才|男性|霊闘士
  • 千寿の領主
    本多 七葵(ka4740
    人間(紅)|20才|男性|舞刀士
  • 九代目詩天の信拠
    三條 時澄(ka4759
    人間(紅)|28才|男性|舞刀士
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師

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アイコン 【相談・雑談】収穫祭前日
黒の夢(ka0187
エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/10/14 22:14:45
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/12 19:42:53