ゲスト
(ka0000)
昏き沼底より這い上がる爪
マスター:文ノ字律丸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/17 07:30
- 完成日
- 2017/10/21 01:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●暗がりの道の外れ
ザクザク――。
踏みしめるたびに、青、が匂い立ち、鼻を突き刺す。
その匂いに昨日の大雨を思い出した。
道を歩くのはまだ半人前にもなりきれていない行商の少年。腰には小刀を携帯しているが、これは盗賊なりが現れた時の威嚇用だった。行商の師匠から手ほどきは受けていたものの、元々虫も殺せないような性格の彼だ。
悪意のある人間が襲ってきたら、きっと身がすくんで動けなくなる。
それを思うと、少年は踏み出す足に力が入らなくなりそうだった。
もう一つ。少年には気がかりなことがあった。
『小僧、そいつがもし人間じゃなかったら、おしまいだ。〝死〟を覚悟しな』
人間じゃないもの。
師匠の言っていたそれを想像して、少年は震えた足が、ぎこちなく軋んだ気がした。
ぴちゃ、ぴちゃ……。
雨の音のような音を聞いた。
空を見上げる。雲一つない晴天だ。
そよぐ風に湿り気は感じない。雨の降る気配はない。
ぴちゃ
まただ。
少年は立ち止まり、その音――がする方向に体を向ける。
ピチャピチャ
その音はゆっくりとだが、しかし確実に、近づいてきているような気がした。
――足音?
ふと、少年の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
少年が見つめたのは、道の脇に生い茂った木々の群れ。
その奥は暗くて見えないが、水があるような気がした。沼か泉だろう。
(生臭い……)
少年は思った。
足音は、やんでいない。
まるで水たまりへ躊躇なく足を下ろし、その音をこだまさせて、こちらへ来る。
来る。少年は震える手で、ナイフを取りだした。
震える口で、その『何か』を威嚇する。
「だ、誰だ! そこにいるのは! 答えろッ」
しかし、返事はない。
足音が早くなった気がした。
「く、来るなッ!」
矢継ぎ早に出した少年の咆哮に、木々が裂けた。
そう見えたのは、タイミングよく『何か』が飛び出してきたからだ。
道に、ピチャ、と着地したそれは人ではなかった。
ぬめりとした粘膜の皮膚を持った、顔は魚、鋭い爪の――化け物。
ギョロリと光る、化け物の瞳。
「う、ううぇあああああああああああああ」
少年は、走り出した。
死に物狂いに。
ピチャ。
そんな音を聞く。
目の前に――化け物が、もう一体立っていた。
それは鋭い爪を、大きく振りかぶり、突き出した。
ぐしゃり
と自分の中にこだまする大きな音を聞いた。
急速に薄れゆく、音。匂い。日の光。暗い……。
少年が最期に感じたのは、ぴちゃりと跳ねた、生々しいほどの水の音だった。
●ハンターオフィス
「それは、前回現れた際に、『這い上がる爪』という名前で扱われた雑魔であることは間違いありません」
『這い上がる爪』とは、その特殊な格好から付けられた、仮の名前らしい。
ハンターオフィスで、職員がそう話し始めた。
職員の前には、数人のハンターがいる。
彼らを見回した職員は、それから話を続ける。
「最近、街道に出没しているという、いわゆる化け物の話です」
職員の話では、駆け出しの行商人の少年が見るも無惨な姿で発見されたという。
「それらは半魚人の見かけをした魔獣です。正式名称を『ダゴニア』。犠牲者は後を絶ちません。このままでは、街道が封鎖されてしまいます」
そうなれば、物流も止まり、貧苦にあえぐ人が出てくるだろう。
「どうか、あなたがたの力で、旅人を助けてあげてください」
職員の言葉には熱がこもっている。
早急に解決しなければならない問題だ、とハンター達は、感じた。
ザクザク――。
踏みしめるたびに、青、が匂い立ち、鼻を突き刺す。
その匂いに昨日の大雨を思い出した。
道を歩くのはまだ半人前にもなりきれていない行商の少年。腰には小刀を携帯しているが、これは盗賊なりが現れた時の威嚇用だった。行商の師匠から手ほどきは受けていたものの、元々虫も殺せないような性格の彼だ。
悪意のある人間が襲ってきたら、きっと身がすくんで動けなくなる。
それを思うと、少年は踏み出す足に力が入らなくなりそうだった。
もう一つ。少年には気がかりなことがあった。
『小僧、そいつがもし人間じゃなかったら、おしまいだ。〝死〟を覚悟しな』
人間じゃないもの。
師匠の言っていたそれを想像して、少年は震えた足が、ぎこちなく軋んだ気がした。
ぴちゃ、ぴちゃ……。
雨の音のような音を聞いた。
空を見上げる。雲一つない晴天だ。
そよぐ風に湿り気は感じない。雨の降る気配はない。
ぴちゃ
まただ。
少年は立ち止まり、その音――がする方向に体を向ける。
ピチャピチャ
その音はゆっくりとだが、しかし確実に、近づいてきているような気がした。
――足音?
ふと、少年の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
少年が見つめたのは、道の脇に生い茂った木々の群れ。
その奥は暗くて見えないが、水があるような気がした。沼か泉だろう。
(生臭い……)
少年は思った。
足音は、やんでいない。
まるで水たまりへ躊躇なく足を下ろし、その音をこだまさせて、こちらへ来る。
来る。少年は震える手で、ナイフを取りだした。
震える口で、その『何か』を威嚇する。
「だ、誰だ! そこにいるのは! 答えろッ」
しかし、返事はない。
足音が早くなった気がした。
「く、来るなッ!」
矢継ぎ早に出した少年の咆哮に、木々が裂けた。
そう見えたのは、タイミングよく『何か』が飛び出してきたからだ。
道に、ピチャ、と着地したそれは人ではなかった。
ぬめりとした粘膜の皮膚を持った、顔は魚、鋭い爪の――化け物。
ギョロリと光る、化け物の瞳。
「う、ううぇあああああああああああああ」
少年は、走り出した。
死に物狂いに。
ピチャ。
そんな音を聞く。
目の前に――化け物が、もう一体立っていた。
それは鋭い爪を、大きく振りかぶり、突き出した。
ぐしゃり
と自分の中にこだまする大きな音を聞いた。
急速に薄れゆく、音。匂い。日の光。暗い……。
少年が最期に感じたのは、ぴちゃりと跳ねた、生々しいほどの水の音だった。
●ハンターオフィス
「それは、前回現れた際に、『這い上がる爪』という名前で扱われた雑魔であることは間違いありません」
『這い上がる爪』とは、その特殊な格好から付けられた、仮の名前らしい。
ハンターオフィスで、職員がそう話し始めた。
職員の前には、数人のハンターがいる。
彼らを見回した職員は、それから話を続ける。
「最近、街道に出没しているという、いわゆる化け物の話です」
職員の話では、駆け出しの行商人の少年が見るも無惨な姿で発見されたという。
「それらは半魚人の見かけをした魔獣です。正式名称を『ダゴニア』。犠牲者は後を絶ちません。このままでは、街道が封鎖されてしまいます」
そうなれば、物流も止まり、貧苦にあえぐ人が出てくるだろう。
「どうか、あなたがたの力で、旅人を助けてあげてください」
職員の言葉には熱がこもっている。
早急に解決しなければならない問題だ、とハンター達は、感じた。
リプレイ本文
●
湿った風と、土の匂い――。
それを鼻先に感じながら、ユリアン(ka1664)は窓の外から、視線を戻した。
ここは件の襲撃事件が多発しているという『道』の、直近の宿屋。
町の商館から来ていた使いの者や、先遣としてギルドから派遣された職員、事件の進捗が気になっている旅人達が、一階待合室にたまっている。
「行商人見習いの少年まで犠牲になった、とか?」
ユリアンが言を発すると、がやがやとしていた空気がいったん収まる。
「ああ。心臓を一突きだった」
商館の人間が答える。
「遺体を弄ばれた形跡は?」
「なかったな。肉が食われた形跡もなかった」
「犠牲者の特徴は?」
「だいたいが、女や子供。背の小さいのがターゲットなんだろう。ざっと二十人以上だ」
それから、また話し合いが停滞する。
風穴を開けたのは、時音 ざくろ(ka1250)だ。
「その子の遺体はどの辺りで見つかったの?」
「大人の足でここから一時間ほど歩いて行ったところだ。俺が見つけてきたんだ」
と、旅人の男。
「襲撃場所、どんな状況でした?」
ユリアンが聞く。
旅人は、顔を曇らせて、こう呟いた。
「ちょっとした地獄だ」
●
道がぬかるみ、ぐにゅっと踏みしめるたびに、緑が匂い立つ。
囮役から先発するように、ルドルフ・デネボラ(ka3749)とパトリシア=K=ポラリス(ka5996)が、その道を歩いていた。
水の匂いが漂う場所を抜けると、鬱蒼とした雑木林も同時に抜ける。
ルドルフは、雑木林の始点に立てたものと同じ、『一日通行止め ハンターオフィス』と書かれた看板を打ち立てた。
「ねぇ、ルディ。パティたちは、覚醒者で良かたネ」
パトリシアは、暗がりの道を振り返りながら、蕩々と語る。
彼女は、胸の内で、苦しくて寂しかったであろう犠牲者を想っていた。
「戦うチカラがるっての、有難いねぇ」
そんなパトリシアの頭に、ルドルフの手が乗る。
見上げると、彼はゆっくりと微笑んでいた。
「囮役の方が心配です。そろそろ戻りましょう」
「大丈夫。加護符ペタペタしたから! 心臓狙ってくるとか、おっかないからネ」
自信満々なパトリシア。
危なっかしげな彼女に、ルドルフは気を揉みながら、
「足下がぬかるんでいます。パティ、転ばないようにね」
そう言うと、パトリシアは、
「迷い込んだ人がいないか探しながらネ」
にこりと返した。
こうして、二人は『道』に戻る。
道のあちこちには、遺品が散らばっていた。
遺体は道の上にはない。あるとしたら、――奥だろうか。
岩井崎 旭(ka0234)は落ちていた遺品に触れる。
伝わってくるのは、家族や愛する者への感謝や悲泣、そして運命を呪う声。
「まぁ、斧でダゴニアに百万倍くらい叩き込んでおくからよ」
勘弁してくれ、と霊を慰む。
それから、道の様子を確かめた。
「馬は……徐行なら駆けられそうか」
ここは腐っても街道。
人の往来があるということは、それなりの利便性はある道なのだ。
しかし、思っていた以上にぬかるんでいる。
水はけの悪さが起因しているのだとは思うが、もしかしたら、ダゴニアという雑魔の影響かもしれないな。
そんなことを思い浮かべていたが、思考はズレた。
「被害に遭っていた大半は、女子供か」
やるせなさに口をつく。
もとい、動物的には、それは普通のことかもしれない。
雑魔になっていたとしても、その習慣から抜け出せないのだとしたらなおさら……。
霊の加護を得て、鋭くなった嗅覚で、その場に残る『血』の臭いを嗅ぐ。
肌が粟立つようだった。
「せいぜい覚悟しな」
彼らがいるであろう深淵に向かい、ふつと呟く。
●
「愛梨よ。よろしくね」
そんな挨拶をしたのが、一時間以上前。
襲撃事件のあった道に入ったのが、三十分前。
沼を目指して、林の中に分け入ったのが、数分前のことになる。
ハンターらしい仕事だ。意気揚々と足を踏み鳴らしながら、獣道を歩いていた愛梨(ka5827)だったが、暗さと、肌にまとわりつくじめっとした空気に不安をあおられていた。
「ダゴニア、ね。薄気味悪いなあ……」
半魚人のような相貌に、長い爪。
いかにもな『怪物』だ。
生まれ育った村で、その手の怪談は良く聞かされたものだ、と思い出す。
沼まで行き着き、地図にマークする。
それから、元来た道を引き返した。
「170センチ以下ってことは、わたしも狙われるかもしれないわね」
注意する。
ぴと――と愛梨は立ち止まった。
耳を澄ます。
ぴちゃぴちゃ……。
水が跳ねるような『音』が聞こえた。
黒い瞳で、右側から現れたダゴニアを視認する。
「くっ」
禍々しく伸びた爪が、素早く、その心臓を貫こうとした。
が、わずかにそれる。
その隙を見て、愛梨は沼の方へと方向転換。
そして、地縛符を張り巡らせる。
追撃してきたダゴニアの気配が消え……その瞬間、背後にダゴニアが現れた。
気配の遮断とも言うべき妙技に、愛梨は対応が追いつかなかった。
その時だ。
羽が空中に舞っていた。
「間に合った――」
残像を身にまとったユリアンが、鬱々とした空気を切り裂いて現れ、精霊刀「真星」の一撃をダゴニアに食らわせる。
その一撃は重く、ダゴニアは悲鳴を上げるように空へ吠えた。
だが、戦意は失っておらず、殺意のこもった魚類の目がギロリと剥く。伸ばされた爪。それをいなしたユリアンは、さらに追撃を与えた。
ユリアンとアイコンタクトを取った愛梨は、その手に持っていた魔導スマートフォンで地面を照らす。
「なるほど」
彼女が符術師で、なにごとか地面を示している、つまり――。
ユリアンは刹那にして、彼女の思惑に気づいた。
愛梨がその場から離れたところで、ユリアンは刀を振り上げ、
「たああああああああああああああ」
その攻撃は、ためも大きく、案の定避けられた。
が、ダゴニアが逃げた先で、踏み込んだ先に張られた結界が発動した。
地面が底なし沼のように波打ち、その膝から下を埋めて、固まった。
動けなくなったダゴニア。
愛梨は、金色に輝いた瞳で目標を捉え、弓をつがえ引き打つ。
それは動けなくなったダゴニアを中心に、地面に刺さり、二重の結界となった。
結界の中が閃き輝き、焼き尽くすかのような光が、ダゴニアを包む。
その光が消えた後、ダゴニアはいなくなっていた。
「斃したの?」
「いや、まだだ」
深手を負って《潜伏》している。
実力差は身にしみているはずだと、ユリアンは思う。
それならば、次の行動は『攻撃』ではなく、『回復』――。
念のため、近くの深みに、ソティスのウォーターウォークを纏った足で踏み込んだが、やはりいない。
「沼か」
雑木林の奥からの増援を警戒しながら、愛梨の地図を頼りに、二人は沼へと向かった。
●
「ホシノ、今、ざくろ達の絆は結ばれた!」
事件現場となった道の始まり、立ち入り禁止と看板が立てかけられたところで、ざくろは、同行のモフロウ――ホシノを低空に飛ばして、周囲の状況を確かめることにした。
その目は、今、ホシノと同調している。
さきほど聞いていた、少年の遺品を回収した『道の中腹』を中心にして探りを入れて、だいたいの位置が掴めると、視界の共有をとりやめ、ホシノを戻した。
ざくろは、旅人風のマントを羽織る。
「うん、女の子を囮にするわけにいかないし、ざくろに任せてよ!」
そう宣言して、囮役を買って出たのだ。
不安はなかった。
なにしろ、パーティーメンバーにはソティス=アストライア(ka6538)がいる。
「半魚人、ねぇ……焼き魚にでもしてくれようかね?」
そう言って、オフィスから提供された情報を読んでいた彼女のことを思い出す。
「なに、ざくろなら上手くやってくれるだろう? 期待しているぞ、我が『主』よ?」
そう言ってからかわれたことまで思い出し、苦笑する。
彼女のことを信頼しながら、ざくろはその『道』に足を踏み入れた。
中腹まで来た頃だっただろうか。
ぴちゃ、という例の音を聞いたのだ。
攻撃が飛んでくることを察知した。
「超機導パワーオン、弾け飛べ!」
闇の中から襲来したダゴニア。
その爪が触れたのは、電撃をまとったざくろだった。
半魚人は弾け飛ぶ。
――ざくろがダゴニアと交戦中という一報。
それを受けた旭は走り出す。走り出した直後、足下に水を纏った気配があった。ソティスのウォーターウォークだろうと察する。ぬかるみも、もはや気にならない。
速度を上げた旭は、ざくろとダゴニアを見つけた。
ダゴニアは蹈鞴を踏んでいる。好機だ。
(好き放題やってきたテメーらの死がやってきたぜ)
ぎりっと奥歯を噛み、悪魔の名を冠する斧で切り込んだ。ゴリゴリという感触が、斧の持ち手を通して伝わってきた。
満身創痍というようによろついたダゴニアは、逃げようと《潜伏》をしようとした。
だが、それを予期したように、土の壁が出現したのだ。
ダゴニアは、もたついてしまった。
「今だ。我が『主』」
ソティスの声だ。
ざくろは、にやり、と笑う。
「沼には帰らせないよ」
マテリアルを足裏から噴出し、飛び跳ね、ダゴニアの背後に回り込む。
彼の持つ聖なるランスが、強大なマテリアルを込められ、打ち込まれたその一撃は強烈――。
「宿れ内なる力……必殺ざくろクラッシュ!」
ダゴニアは、それを胴部で受けた。
最後の力を振り絞ったように、爪を伸ばす。
しかし、旭の、音もかき消すほどに精錬された二連の刃がトドメを刺した。
ダゴニアはその場で崩落していく。
●
交戦の音が響く。
沼の近く、雑木林の中で、リン・フュラー(ka5869)は、この事件の凄惨さに心が乱れそうになっていた。もっと早く来ていれば、被害者はこんなにも多くならなかったのでは、という可能性に目が行く。
否。
(犠牲者の多寡に関わらず、見過ごすわけにはいきませんし、こんな事件はいつもどこかで起こっているのだから、特別に力を入れて取り組むわけでも逆に手を抜くわけでもありません)
ただ、これ以上の被害を出さないために、雑魔を倒す。それだけ……。
ぴちゃん。音を聞いた。
姿は見えない。
不意に、強烈な殺気を感じて振り返る。
ダゴニアが爪を伸ばしていた。間一髪のところで受け流すことに成功したが、
「……かすめましたか」
急所だった。受け流しをしなければ、致命傷だったかもしれない。
目を振る。すでにダゴニアはいなかった。
しかし、隠れているだけ。また攻撃を仕掛けてくる。
それだけがわかれば、十分。
リンは心を静かに研ぎ澄まし、激情を抑え、ただその一点だけを――待つ。
背後。体を引いて振り返り。ダゴニアの出現を捉える。
彼が爪を構えるよりも早く、リンは大太刀を振るう。
一閃、翻って、もう一閃。
そのダゴニアは、その切れ味に呻く。
反撃と爪を伸ばしてきた。それを受け止めたのは光の障壁だった。
「大丈夫ですか?」
駆けつけたのは、ルドルフだった。
敵は一体だけか。奇襲に警戒しながら、状況を見極める。
背後に置いてきたパトリシアも注意して、銃を構える。
それを見、形勢不利と判断したのか、ダゴニアは逃げ出した。それを追いかけるようにルドルフが飛び跳ねて回り込む。持ち替えた剣にマテリアルを流し込んで巨大化させ、薙ぐ。
手応えは……あった。
だが、直前で《潜伏》してしまったので、どうなったかわからない。
パトリシアも、きゅぴーんと気張り、符を構えていたのだが、目標がいなくなってしまい、打てずじまいだ。
「ルディ、ダゴニアは?」
「おそらく――」
「ええ。沼でしょう」
ルドルフの言葉を継ぎ、リンが答えた。
沼へと集結したハンター達だったが、どこにダゴニアがいるかわからなかった。このままでは膠着だ。
「我々が逃がすとでも思ったか? 餌は餌らしく狩られるがいい!」
ソティスの声だ。
「あー。みんな、下がった方がいいよ」
訳知り顔で、ざくろが忠告する。
「狩りの時間だ、我が眷属の餌となるがいい!!」
ソティスの言葉を聞いて、ハンター達は全員いったん避難した。
次の瞬間、複数の魔方陣が沼の上に展開したかと思いきや、青白い炎を纏った狼が現れ出でる。召喚された狼たちは膨大なエネルギーの塊である火球を放ち、爆裂させる。
一瞬にして、沼が干上がった。
その焼け野原の中に、黒ずみになったダゴニア二体が発見できた。
こうして、凄惨な事件は終結したのだ。
●
湿った空気が流されていく。
その中に、未だ残留する血の臭いを感じ、旭はやるせない気持ちになった。
せめてもの救いになれば、と遺品や遺体を探し弔った。
雑木林のさらに奥に遺品や遺体は落ちていた。
気づかれなかった『人』を見つけて、ユリアンは、ほぼ白骨化した彼ないし彼女に手を合わせる。まだ気づかれなかった人はいるんじゃないかな、そう思って道を歩く。
さんざん捜索し終わり、帰る時、黙祷を捧げた。
「さ、早く見つけてあげましょ」
ダゴニアの死を確認した後、愛梨は、捜索を続けていた。
犠牲者を見つけなければ。探す指針として『占い』続ける。
やがて、一人の遺体を発見した。自分と同じ年齢くらいの女の子だった。
痛ましく思い、それを連れ帰って、丁重に弔う。
「せめて安らかに……」
そう願いを込めて。
道の近くの宿屋。
その脇に、墓標のように立てかけられた石がある。
簡易的なこの墓は、寄る辺なき者達や、あえなく発見されず朽ちていった者達へ惜別を示し、魂を鎮めるもの。
リンはそこへ花を手向けた。
「安らかな眠りを」
跡形も無い沼を見下ろしながら、ソティスは岸辺に落ちていた白い髪留めを見つける。これも亡き者の遺品なのだろうか。
「きっとここまで逃げてきたんだな」
しかし、逃げ切れず犠牲になってしまった。それを思うと、やるせなくなる。
「ソティス」
その声に振り向き、そこにいた人物を目に宿す。
「行こう、我が『主』」
戻り、集めた遺品を、ざくろと共に弔ったのだった。
沼が、ぽこぽこと湧き始めていた。再生するのだ。
パトリシアは物憂げに見て、そこに手をかざす。彼女を中心として広がった結界に新しく生まれかけた沼が取り込まれる。
土の中から吹き出したのは、どす黒い泥水ではなく、清浄化した透明な水だった。
「……助けてあげられなくテ、ごめんダヨ」
その言葉は、沼に囚われていた悲しいマテリアルを慰められただろう。
そして、やがて優しいマテリアルになって、次に巡る。
パトリシアは遺品を集めた後、道に戻り、そのまま進む。
雑木林が開けたところに、ルドルフがいた。看板を外しているようだ。
「ルディ」
「もうこれは必要ありませんから」
「うん」
二人は、もう一度『道』を振り返る。
吹き抜けた風に湿り気はなく、青い空がその旅程を照らしていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/16 00:27:32 |
|
![]() |
相談卓 リン・フュラー(ka5869) エルフ|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/10/17 01:04:19 |