ゲスト
(ka0000)
めくるめく
マスター:愁水

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/10/22 22:00
- 完成日
- 2017/10/28 01:35
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
人々に感動を。
或いは、涙や笑顔を通して束の間の非日常的空間を――『夢』を、見せよう。
白いダイヤが降り注ぐ“咆哮”なる夜。
黒い天幕を撫でるように“水晶”が響くことだろう。
紅く凜々と“舞い踊る”は地上の月。
――猛獣使いの団長、白亜。
――スローイングナイフの歌い手、黒亜。
――舞姫、紅亜。
嗚呼、我らが『天鵞絨サーカス』――今宵も熱狂なるショーをお目に見せましょう。
しかし。
黄昏の風に流され、闇の欠片が夜を連れてくる前に、如何せん――……
「……何とかせんとな」
●
自由を謳う都市。
市井の衆。
芸事が集えば、娯楽の流行が兆しを見せる。
そのサーカス団は、都市の近郊部に大きな天幕を据えていた。
夜になれば、賑やかな歓声と音楽が訪れた人々を迎えてくれる『天鵞絨サーカス団』。
熟練の猛獣使いでもある団長の白亜を中心に、様々なエンターテイメントで市民を楽しませているのだ――が。
「――来たか」
天幕をくぐったあなた達へ落ち着きのある低い声音をかけてきたのは、団長の白亜であった。
見目は三十代前半。オールバックに、胸元に紫のクロッカスを挿した白い軍服を纏う姿勢のいい出で立ちが、彼の実直な性格を覗かせる。
「天鵞絨サーカス団団長の白亜だ。足労をかけたな。此度は当サーカス団の依頼を引き受けてくれたこと、感謝する。早速だが、詳しい状況を説明させ――……す、すまない、女性はもう少し此方に……いや、何でも無い。気にしないでくれ」
寄せた眉間の皺を緩やかに解き、白亜は「では」と前置きをして説明を始めた。
「当サーカス団は今、深刻な人員不足でな。どうにか来週には人員補充の目処は付くのだが、今夜の公演は正直、猫の手も借りたい。パフォーマーに自信があればサーカスアーティスト、他にもクラウンや美術等の仕事など、やることは山ほどある。自分の技量に見合った芸事を披露してもらいたい」
公演は18時。
サーカス内にある花弁のようなデザインの掛け時計に目を向けると、時刻の針は14時を五分ほど過ぎていた。公演まで4時間もない。
「――ハク兄。なに、そいつら」
その声音は、水晶のような透明感で響いた。一同が振り返ると、右手で投げナイフをジャグリングしながら、一人の少年が冷ややかな目線をあなた達へ向けている。
「クロか。先日、お前にも話しただろう。今夜の公演の為、手助けを依頼したと」
「あー……そんなこと言ってたっけ。ふぅん……?」
見目は十代後半だろうか。胸元に金盞花を挿した黒の軍服に、白い素足が見えるショートパンツ姿。黒水晶色の前髪から覗く柘榴の双眸が、あなた達を値踏みするかのように見据えていた。――が、
「まあ、オレの足だけは引っ張らないでよね」
ふい、と、関心の湧かない視線を外すと、少年は投げナイフを操りながらステージの方へ戻っていった。そのステージでは他の団員達が稽古に励んでいる。……見間違えだろうか。十代後半と思われる女性が一人、空ろな瞳を擦りながら空中ブランコの練習をしている。
……サンダルの左右が違う。黒薔薇を耳許に挿した髪、寝癖もすごい。だが、遠目からでもわかるほど、傾国なる美姫。
「彼は弟の黒亜。投げナイフと歌い手を務めている。ステージの空中ブランコで欠伸をしているのは、妹の紅亜だ。このサーカスのトリを務めているが……見ての通り、何時もあのような様子でな。本番になれば襟を正すので気にしないでほしい」
一癖も二癖もありそうな弟と妹を余所に、白亜が改めてあなた達に向き直った。
「それでは、諸君。草の縁と相成るが、よろしく頼む」
期待しているぞ――と、優しい声色で囁いた白亜は、ステージの裏へと姿を消した。
さあ、幕を開ける準備をしなければ。
深々と刻が更ける前に、華やかに輝く、膨らむ『夢』へご招待――。
人々に感動を。
或いは、涙や笑顔を通して束の間の非日常的空間を――『夢』を、見せよう。
白いダイヤが降り注ぐ“咆哮”なる夜。
黒い天幕を撫でるように“水晶”が響くことだろう。
紅く凜々と“舞い踊る”は地上の月。
――猛獣使いの団長、白亜。
――スローイングナイフの歌い手、黒亜。
――舞姫、紅亜。
嗚呼、我らが『天鵞絨サーカス』――今宵も熱狂なるショーをお目に見せましょう。
しかし。
黄昏の風に流され、闇の欠片が夜を連れてくる前に、如何せん――……
「……何とかせんとな」
●
自由を謳う都市。
市井の衆。
芸事が集えば、娯楽の流行が兆しを見せる。
そのサーカス団は、都市の近郊部に大きな天幕を据えていた。
夜になれば、賑やかな歓声と音楽が訪れた人々を迎えてくれる『天鵞絨サーカス団』。
熟練の猛獣使いでもある団長の白亜を中心に、様々なエンターテイメントで市民を楽しませているのだ――が。
「――来たか」
天幕をくぐったあなた達へ落ち着きのある低い声音をかけてきたのは、団長の白亜であった。
見目は三十代前半。オールバックに、胸元に紫のクロッカスを挿した白い軍服を纏う姿勢のいい出で立ちが、彼の実直な性格を覗かせる。
「天鵞絨サーカス団団長の白亜だ。足労をかけたな。此度は当サーカス団の依頼を引き受けてくれたこと、感謝する。早速だが、詳しい状況を説明させ――……す、すまない、女性はもう少し此方に……いや、何でも無い。気にしないでくれ」
寄せた眉間の皺を緩やかに解き、白亜は「では」と前置きをして説明を始めた。
「当サーカス団は今、深刻な人員不足でな。どうにか来週には人員補充の目処は付くのだが、今夜の公演は正直、猫の手も借りたい。パフォーマーに自信があればサーカスアーティスト、他にもクラウンや美術等の仕事など、やることは山ほどある。自分の技量に見合った芸事を披露してもらいたい」
公演は18時。
サーカス内にある花弁のようなデザインの掛け時計に目を向けると、時刻の針は14時を五分ほど過ぎていた。公演まで4時間もない。
「――ハク兄。なに、そいつら」
その声音は、水晶のような透明感で響いた。一同が振り返ると、右手で投げナイフをジャグリングしながら、一人の少年が冷ややかな目線をあなた達へ向けている。
「クロか。先日、お前にも話しただろう。今夜の公演の為、手助けを依頼したと」
「あー……そんなこと言ってたっけ。ふぅん……?」
見目は十代後半だろうか。胸元に金盞花を挿した黒の軍服に、白い素足が見えるショートパンツ姿。黒水晶色の前髪から覗く柘榴の双眸が、あなた達を値踏みするかのように見据えていた。――が、
「まあ、オレの足だけは引っ張らないでよね」
ふい、と、関心の湧かない視線を外すと、少年は投げナイフを操りながらステージの方へ戻っていった。そのステージでは他の団員達が稽古に励んでいる。……見間違えだろうか。十代後半と思われる女性が一人、空ろな瞳を擦りながら空中ブランコの練習をしている。
……サンダルの左右が違う。黒薔薇を耳許に挿した髪、寝癖もすごい。だが、遠目からでもわかるほど、傾国なる美姫。
「彼は弟の黒亜。投げナイフと歌い手を務めている。ステージの空中ブランコで欠伸をしているのは、妹の紅亜だ。このサーカスのトリを務めているが……見ての通り、何時もあのような様子でな。本番になれば襟を正すので気にしないでほしい」
一癖も二癖もありそうな弟と妹を余所に、白亜が改めてあなた達に向き直った。
「それでは、諸君。草の縁と相成るが、よろしく頼む」
期待しているぞ――と、優しい声色で囁いた白亜は、ステージの裏へと姿を消した。
さあ、幕を開ける準備をしなければ。
深々と刻が更ける前に、華やかに輝く、膨らむ『夢』へご招待――。
リプレイ本文
●
――“天鵞絨”の帳がひとふり下がれば、其処には夢夜が訪れる。
「みんな、わくわくニャスか? みんな、どきどきニャスか?」
お伽の国からやってきた“猫”――ではなく、“南瓜”が舞台でくるりとturn。
「ミアもニャス」
客席からは和やかな笑いが零れてきた。
「今日がキラキラだった子も、今日がしょんぼりだった子も、一日のさいご――寝床ですやすや夢の中に旅立つ前に、ミア達がみんなの“夢”になるニャス!」
ようこそ、めくるめく、天鵞絨サーカスへ。
「夢中になって、八色自由な夢をご覧あれーなのニャスよ!」
奇妙なCouleurが織り成すショウタイムのはじまりはじまり――……。
**
心躍らせる、天幕の裏。
耳を澄ませれば、懐かしき“兄”の“囁き”が耳朶を撫ぜる。
「(サーカスかぁ……懐かしいなぁ。兄さんがよう、色々してくれとったなぁ……)」
白藤(ka3768)の灰水晶の双眸に見え隠れするのは、追憶。
「(幼い頃に死んでもうた兄さんが、見せたがってたサーカスを見に来たのも一つの目的やろかな)」
ふと、白藤の鼻腔に、慣れ親しんだ甘みある香りが意識を寄せた。訛りのあるしっとりとした声音が、彼――白亜(kz0237)の耳へ届く。
「なんやええ香りすると思うたら、白亜も煙草吸うん?」
「む……? ――ああ、パルファムを付け忘れていたか。まあ、煙管を嗜む程度に、だがな」
白亜は軍服の内ポケットから小瓶を取り出すと、点を手首に一滴付けた。紫煙の香が、沈丁花に咲く。
何とはなしに白亜の仕草を眺めていた白藤が、「そうや」と、艶やかな赤で飾ったネイルの指先を口許へ添わせた。
「ショーで一緒させてもらう動物の紹介だけやのうて、リハーサルまで一緒させてもろておおきに。おかげで、予想してた以上に動物達と仲良くなれた気ぃするわぁ」
彼の症状は他の団員から耳にしていた。女性恐怖症の白亜が窮屈にならないよう、ゆとりある距離感を保ちながら白藤が告げる。女性との接触や、意図しない接近には過敏な反応をしてしまうようだ。
配慮ある彼女の対応に、白亜は礼を示すように眦を下げた。
「習うより慣れろですまんな。だが、君は此処の動物達と相性が良いようだ」
「ほんまに?」
「ああ。注意事項や流れは記憶したな?」
「それはOKなんやけど……白亜、一つかまへん?」
「何をだ?」
「サーカスが終わったら動物に抱き着いてもええやろかな?」
白藤のおめめから星の流れのように注がれるきらきら。
「あぁ勿論、白亜からの許可がおりひんかったら抱き着かへんよ……!」
しかし、このeyeビームは切実だ。妹の紅亜(kz0239)もよく同じ表情を寄越してくるものだから。
「……まあ、構わんよ」
「おおきに、白亜!」
「それはそうと、間もなく出番となるが……君は着替えなくてよかったのか?」
「格好? あぁ、こないしとったらえぇ客寄せになるやろ? お触りはお断りやけどな」
確かに、その美しい容貌と、香油で拭ったような潤いある和膚は観客の目を大いに惹くことだろう。
「そんな無礼は俺がさせんよ。――さあ、出るぞ」
鮮やかなネオン。
響く拍手。
二人の影が、一夜の夢舞台へ歩みゆく。
――さあさあ、お立ち会い。
百獣の王のヴァイスが白亜のかけ声で火の輪をくぐり、熊のグラウが白藤の合図で玉乗りポーズ。彼女がパチンと指を鳴らせば、ぴよっこブラザーズのひよこ達がぴよぴよぴよと綱渡り。
「(楽しいサーカス、かわえぇ動物! はぁ、癒されるわぁ……)」
黙然と笑顔を湛えながらアシスタントに努める白藤であったが、胸中はあにまるぱらだいす。幸福感を噛みしめつつ、動物達の見せ場を演出していく。
舞台に散らばる星屑な光をかき集め、最後の曲芸――馬のヴィオレットの曲馬がぱっぱかくるり。
――と。
その舞台裏では「……ニャスり」と、“ぱんぷきんふぉるむ”が舞台を覗き見ていた。ミア(ka7035)である。その装いはハロウィンを意識しているようだ。
「おー、白亜ちゃんと白藤ちゃんの息がぴったりニャスネ」
ふと、ミアは思案するように「白と白……」と口の中で反復した後、「ふニャ!」と思いついた声を出した。
「ホワイトコンビ誕生ニャスか!」
身体は南瓜、手は肉球。の、ぷにぷにグローブでちぱちぱ拍手。
「もうちょっと傍で見たいニャス……」
ミアが幕から身を乗り出そうとしたその時――ちょい、と、猫の首を掴むかのように、無骨な指先がミアに触れた。
「ココに居たのか。次、出番だろ?」
軽薄な見目と色香を放つ、浅生 陸(ka7041)だ。舞台音響を賄い、尚且つ、サーカスが円滑に進行するよう支援している。
「今いいとこニャス。10秒待つニャス」
「あいよ。1、2――10。うっし、行くぞー」
「Σうニャ!? 3から9はドコに行ったニャス!?」
ミア、回収。
高らかな拍手を背に、ミア曰く“ホワイトコンビ”が舞台から戻ってきた。
白藤は蝶の形を宿した胸元に掌を添え、高鳴る鼓動を吐息と共に緩やかにほぐす。
「あぁドキドキした、白亜……おおきに」
今宵のパートナーに礼を告げると、白藤は焦がれる底へ意識を落とした。
「(兄さんがみせたかったんは、こういう楽しさ、ドキドキやったんやろかな?)」
遠き日の憧れに、そっと心を募らせた。
●
「ミアも空中ぷらぷらやるニャス。紅亜ちゃん、どうぞよろしくニャスよ。おー、お人形さんみたいに綺麗ニャスネ。いい香りするニャス」
「おー……かぼちゃの、にゃんこ? 美味しそう……。さっき、クロがなにかぷしゅーってしてきたけど……ショコラの香りがよかった……」
「ミアはオレンジピールがいいニャス」
凸のミアと凹の紅亜、ブランコゆらり、言葉もくらり、宙高々に行ってきます。
「おぉ……こわ……。空中ブランコとかよくできるなぁ……俺、むり」
顔を蒼白にさせながら、高い場所を苦手とする陸が、二人の背を見送りながらぽつりと零した。
陸は先程、紅亜に、
『高い所が怖くないコツとかあんの?』
と助言を聞いてみたのだが、
『高いところって、どこ……?』
ハイ、何でもないです。すみません。By 陸
「――それはそれとして、天鵞絨サーカス……ねぇ。ま、今日は一員ってことで」
腕に飾った漆黒のベルベットスカーフを、ぴん、と軽やかに指で弾く。
「楽しい時間に黒子は必須、ってな。全員が楽しくやれりゃベストだ」
陸は前以て、白亜から本日の演目や流す効果音などを聞いていた為、演目に合わせて効果音や短い音楽を選択できる簡易ミキシングコンソールを設置していた。又、それに紐付くスピーカーも手直しをしている。勿論、陸が管理する音響については、もう一人の黒子とパフォーマー達と話し合い済みだ。
陸はレパートリーに添って、音響類の一切を器用にコントロール。多少ではあるが、応用も利くようだ。只のチャラ男ではない。
「一応元に居た世界じゃこういう関係の仕事してたからな、少しはまかせていいぜ。意識を逸らして怪我だけはしてくれるなよ。あんたたちパフォーマーは、自分の演目を成功させることだけを考えてな」
音響の舞台裏――隅に積まれたダンボールに足を組んで座る彼、黒亜(kz0238)に言葉を投げかける。
「……黒亜だっけか、スピーカーのコードに引っかかってコケんなよ?」
黒亜は関心のない様子でパックの苺牛乳を啜っていた。だが、そのストローの音は、ずずずー(訳:やかましいよ)、と代弁しているかのようで、陸は笑いを噛み殺したのであった。
・
・
・
「おはよう世界。今日も変わらず素晴らしいわね。いいことだわ」
そう謳うもう一人の裏方は、縁の下の力持ち――ケイ(ka4032)
「舞台美術を主に、照明は手分けして行う形かしらね? 魅せて見せます裏方魂!! はい、SS照明いきます!!」
黒子特有の黒ずくめな衣装を身に纏い、ケイの気合いが響く。眼光が煌めく。指が唸る。パネルを操作するケイぱいせんの力加減パネェっす(from 操作パネル)
「ふふん、美術ですって。照明・音響・演じる人全て含めて舞台美術らしいじゃない。これは深い。深すぎるわ」
ケイは予め、サーカスの団員やパフォーマーに本番のイメージや流れを確認していた。陸と共に手分けして裏方に徹し、各々の演目に合った背景制作が挑めるようにだ。
「ケイ、助かるわ、ありがとな」
「こちらこそ。さっきの効果音、とてもよかったわよ。――ああ、そうだわ。飲み物とおやつを用意しておいたの。よかったらどうぞ」
「へぇ、気が利くな」
頬を傾け、口角を上げた陸が、レモンの蜂蜜漬けをひょいと口に入れた。
「ベターでしょう? 美味しいのよ、これ。サーカスの団員さんや白藤さん達も遠慮なく召し上がって頂戴。特に一演目やった後なんて汗もダラダラ喉も乾くってもんじゃない?」
舞台の袖に戻ってきたパフォーマーには、「お疲れさま」と労って、飲み物と飴をプレゼンツ。全部が楽しくて最高だった――そう、添えて。
「――さてと。空中ブランコもそろそろ山場ね。光と色彩で素敵なクライマックスにしてあげるわ!」
・
・
・
あっちへ。
右へ。
ゆらゆらり。
こっちへ。
左へ。
くるくるり。
空中を舞う美姫と、空中を翔る南瓜――その見目のアンバランスさが観客に好評のようだ。勿論、釣り合いの取れた空中披露にも目を見張るものがある。紅亜の合図を読み、空中を軽やかに廻るミア。時にダイナミックな動きで観客の目を釘付けにする彼女は、とても初心者とは思えない。
――照明がミアを捉える。
ブランコから高らかに舞い上がったミア。
空中で泳ぐように身体を捻った後、くるくるくる、丸くなった南瓜が勢いよく落下していく。そして――
パカッとな。
体操選手のように美しい姿勢で着地をした南瓜が二つに割れて、なんと、猫(の着ぐるみを着たミア)が生まれた。なにこのイリュージョン。
陽気な音楽が鳴り響き、肉球マークの照明が舞台を更に盛り上げたのだった。
●
空色の軍服に袖を通すと、仄かに陽射しの香りがした。
「(いつか僕も、彼の様に自らの声で音を。奏でたい。此れはきっと、その為の一歩)」
姿見に映る襟を正しながら、レナード=クーク(ka6613)は物思いに耽る面差しを瞼と共に閉じ込めると、ふわ、と細められた双眸へ朗らかな色を灯した。
「なーんて、らしくない事は置いといて……! 今日の公演と出会いが、ええ経験の一つになれば嬉しいやんね」
鏡に映る自分へ、そう、語りかけると、レナードは“新しい景色”へ歩み始めた。得た経験、宿してきた大切な心と想い出、どれもかけがえのないものだから――全力で頑張れる。
お次は皆様、お待ちかね。
今宵、最後にお披露目致しますのは、夢一夜に隠れた秘密の音色。
ピュリリリィ。
ピュリリリィ――……。
お“道化”る芸に一歩一歩、持参したフルートの音色を乗せて。
本番前に用意しておいた蝋燭が、打ち合わせ通り、舞台の縁を描くように設置されていた。手拍子と相性のいい軽快な演奏に、一人、また一人と、手の鳴る会場。
「(楽しい雰囲気を作るのも、大事やもんね)」
レナードの空色がかった銀髪が緩やかに風を帯び、蝋燭の方へ歩みを進める。
そして――
ぽぅ、
灯されたのは、赤い真綿のような優しき火。
レナードの発動させた小さな火球が、音色と共に全ての蝋燭に淡い影を宿した。
彼は舞台中央で演奏を終えると、観客へ一礼。月光のようなスポットライトを浴びながら、レナードは面を上げた。言葉の代わりに紡がれるのは、緑に輝く風と――歌の一節。
それは、心に翳る想いを控えたような。そんな、小さく、美しい声質だった。
「(……正直歌についてはまだ、怖いけど)」
けれど、
「(声が震えても、精一杯の想いを込めて)」
緑の流れに消えた灯火の先には、まだ、花が残っているから――。
「こういう小さな驚きも、見逃したらあかんで?」
蝋燭に咲き誇らせた、鮮やかな花。
そっと摘まんだその花を、レナードは観客にプレゼントしたのであった。
――そして、カーテンコール。
大きな拍手。歓声や花束。裏方も、パフォーマーも、等しく喝采を浴びる。
最後の一礼に合わせて、彼らの背面からスモークが噴射。虹色のライトに照らされながら、銀紙のシャワーが煌びやかに会場を包む。ケイの提案による締め括りは見事な晴れやかさを残し、今宵のサーカスはおひらきの時間となった。
●
「皆おつかれさん♪ 格好よかったで?」
緊張と心をほどいた打ち上げが、舞台裏で賑やかに“開催”される。
「お疲れー! 皆とっても輝いていたわよ。さあ、お酒を嗜める人は飲んで頂戴。勿論、適度に、ね? 今の時間を楽しみましょう!」
「俺からも、今日はおつかれさん。近くの有名な焼き菓子だ、美味いらしいぜ?」
ケイの柔和な微笑みが一同を労い、陸からは甘い菓子の差し入れ。ミアも手製のおむすびを振る舞いながら、自身も鮭おむすびを頬張る。
「そういえば、ココって団員の募集とかしてるニャスかネ?」
「ん? ああ、万年人不足のサーカス団なのでな」
「――白亜。コンソールなんだが、中の曲さえ変えれば誰でも使えるようにしてある。人手が足りない時の玩具として使ってくれ」
「ありがとう、浅生。助かる」
無事にトリを務めたレナードが、黒亜に声をかけた。改めて、挨拶と演目の感想を述べる。
「よかったら歌のコツとか、どんな想いを込めて普段歌ってるんか聞きたいなぁ……なんて」
「コツ? 別に、オレは誰かの為に歌ってるわけじゃないし。授かった声があるから、自分の為に歌ってるだけだよ」
理性ではなく、それは黒亜らしい本能。
「ふふ、なるほどなぁ。……舞台袖から黒亜君の歌や紅亜さん達の演目を見て、僕も楽しかったし、勇気付けられたやんね。またサーカスのお手伝いが出来たら、その時は一緒に歌ってみても……ええかなぁ……?」
「……好きにすれば。オレの歌についてこれるならね」
今宵の“経験”を、約束にして。
あにまるもふもふの前に、命の水で打ち上げを楽しむ白藤。
ふと、紅亜に移った眼差しが、羨みに浮かんだ。それは、白藤も妹であったからか。
「でもな、黒亜もかわえぇとおもう! なんか遅めの思春期みたいで」
丁度、前を通りがかった黒亜の頭を、白藤はわしゃーっと撫でた。黒亜は憮然たる面持ちで彼女を見上げる。
「黒亜と紅亜を纏める白亜は愛情深くて、凄いなぁって思うんや。恵まれてるなぁ?」
「……。ドコが似てるんだか」
「んー?」
「ハク兄が言ってた。あんたとクーは少し似てるって」
「うちと紅亜が?」
「朧朧としていて、なんか危ういってさ」
楽しい時間。平和な時間。
こういう時間こそが大切なのだと、幸せなのだと、“朧朧たる姫”はつくづく思う。
更けゆく宵に瞳を閉じて、今夜の“夢”に、さようなら――。
――“天鵞絨”の帳がひとふり下がれば、其処には夢夜が訪れる。
「みんな、わくわくニャスか? みんな、どきどきニャスか?」
お伽の国からやってきた“猫”――ではなく、“南瓜”が舞台でくるりとturn。
「ミアもニャス」
客席からは和やかな笑いが零れてきた。
「今日がキラキラだった子も、今日がしょんぼりだった子も、一日のさいご――寝床ですやすや夢の中に旅立つ前に、ミア達がみんなの“夢”になるニャス!」
ようこそ、めくるめく、天鵞絨サーカスへ。
「夢中になって、八色自由な夢をご覧あれーなのニャスよ!」
奇妙なCouleurが織り成すショウタイムのはじまりはじまり――……。
**
心躍らせる、天幕の裏。
耳を澄ませれば、懐かしき“兄”の“囁き”が耳朶を撫ぜる。
「(サーカスかぁ……懐かしいなぁ。兄さんがよう、色々してくれとったなぁ……)」
白藤(ka3768)の灰水晶の双眸に見え隠れするのは、追憶。
「(幼い頃に死んでもうた兄さんが、見せたがってたサーカスを見に来たのも一つの目的やろかな)」
ふと、白藤の鼻腔に、慣れ親しんだ甘みある香りが意識を寄せた。訛りのあるしっとりとした声音が、彼――白亜(kz0237)の耳へ届く。
「なんやええ香りすると思うたら、白亜も煙草吸うん?」
「む……? ――ああ、パルファムを付け忘れていたか。まあ、煙管を嗜む程度に、だがな」
白亜は軍服の内ポケットから小瓶を取り出すと、点を手首に一滴付けた。紫煙の香が、沈丁花に咲く。
何とはなしに白亜の仕草を眺めていた白藤が、「そうや」と、艶やかな赤で飾ったネイルの指先を口許へ添わせた。
「ショーで一緒させてもらう動物の紹介だけやのうて、リハーサルまで一緒させてもろておおきに。おかげで、予想してた以上に動物達と仲良くなれた気ぃするわぁ」
彼の症状は他の団員から耳にしていた。女性恐怖症の白亜が窮屈にならないよう、ゆとりある距離感を保ちながら白藤が告げる。女性との接触や、意図しない接近には過敏な反応をしてしまうようだ。
配慮ある彼女の対応に、白亜は礼を示すように眦を下げた。
「習うより慣れろですまんな。だが、君は此処の動物達と相性が良いようだ」
「ほんまに?」
「ああ。注意事項や流れは記憶したな?」
「それはOKなんやけど……白亜、一つかまへん?」
「何をだ?」
「サーカスが終わったら動物に抱き着いてもええやろかな?」
白藤のおめめから星の流れのように注がれるきらきら。
「あぁ勿論、白亜からの許可がおりひんかったら抱き着かへんよ……!」
しかし、このeyeビームは切実だ。妹の紅亜(kz0239)もよく同じ表情を寄越してくるものだから。
「……まあ、構わんよ」
「おおきに、白亜!」
「それはそうと、間もなく出番となるが……君は着替えなくてよかったのか?」
「格好? あぁ、こないしとったらえぇ客寄せになるやろ? お触りはお断りやけどな」
確かに、その美しい容貌と、香油で拭ったような潤いある和膚は観客の目を大いに惹くことだろう。
「そんな無礼は俺がさせんよ。――さあ、出るぞ」
鮮やかなネオン。
響く拍手。
二人の影が、一夜の夢舞台へ歩みゆく。
――さあさあ、お立ち会い。
百獣の王のヴァイスが白亜のかけ声で火の輪をくぐり、熊のグラウが白藤の合図で玉乗りポーズ。彼女がパチンと指を鳴らせば、ぴよっこブラザーズのひよこ達がぴよぴよぴよと綱渡り。
「(楽しいサーカス、かわえぇ動物! はぁ、癒されるわぁ……)」
黙然と笑顔を湛えながらアシスタントに努める白藤であったが、胸中はあにまるぱらだいす。幸福感を噛みしめつつ、動物達の見せ場を演出していく。
舞台に散らばる星屑な光をかき集め、最後の曲芸――馬のヴィオレットの曲馬がぱっぱかくるり。
――と。
その舞台裏では「……ニャスり」と、“ぱんぷきんふぉるむ”が舞台を覗き見ていた。ミア(ka7035)である。その装いはハロウィンを意識しているようだ。
「おー、白亜ちゃんと白藤ちゃんの息がぴったりニャスネ」
ふと、ミアは思案するように「白と白……」と口の中で反復した後、「ふニャ!」と思いついた声を出した。
「ホワイトコンビ誕生ニャスか!」
身体は南瓜、手は肉球。の、ぷにぷにグローブでちぱちぱ拍手。
「もうちょっと傍で見たいニャス……」
ミアが幕から身を乗り出そうとしたその時――ちょい、と、猫の首を掴むかのように、無骨な指先がミアに触れた。
「ココに居たのか。次、出番だろ?」
軽薄な見目と色香を放つ、浅生 陸(ka7041)だ。舞台音響を賄い、尚且つ、サーカスが円滑に進行するよう支援している。
「今いいとこニャス。10秒待つニャス」
「あいよ。1、2――10。うっし、行くぞー」
「Σうニャ!? 3から9はドコに行ったニャス!?」
ミア、回収。
高らかな拍手を背に、ミア曰く“ホワイトコンビ”が舞台から戻ってきた。
白藤は蝶の形を宿した胸元に掌を添え、高鳴る鼓動を吐息と共に緩やかにほぐす。
「あぁドキドキした、白亜……おおきに」
今宵のパートナーに礼を告げると、白藤は焦がれる底へ意識を落とした。
「(兄さんがみせたかったんは、こういう楽しさ、ドキドキやったんやろかな?)」
遠き日の憧れに、そっと心を募らせた。
●
「ミアも空中ぷらぷらやるニャス。紅亜ちゃん、どうぞよろしくニャスよ。おー、お人形さんみたいに綺麗ニャスネ。いい香りするニャス」
「おー……かぼちゃの、にゃんこ? 美味しそう……。さっき、クロがなにかぷしゅーってしてきたけど……ショコラの香りがよかった……」
「ミアはオレンジピールがいいニャス」
凸のミアと凹の紅亜、ブランコゆらり、言葉もくらり、宙高々に行ってきます。
「おぉ……こわ……。空中ブランコとかよくできるなぁ……俺、むり」
顔を蒼白にさせながら、高い場所を苦手とする陸が、二人の背を見送りながらぽつりと零した。
陸は先程、紅亜に、
『高い所が怖くないコツとかあんの?』
と助言を聞いてみたのだが、
『高いところって、どこ……?』
ハイ、何でもないです。すみません。By 陸
「――それはそれとして、天鵞絨サーカス……ねぇ。ま、今日は一員ってことで」
腕に飾った漆黒のベルベットスカーフを、ぴん、と軽やかに指で弾く。
「楽しい時間に黒子は必須、ってな。全員が楽しくやれりゃベストだ」
陸は前以て、白亜から本日の演目や流す効果音などを聞いていた為、演目に合わせて効果音や短い音楽を選択できる簡易ミキシングコンソールを設置していた。又、それに紐付くスピーカーも手直しをしている。勿論、陸が管理する音響については、もう一人の黒子とパフォーマー達と話し合い済みだ。
陸はレパートリーに添って、音響類の一切を器用にコントロール。多少ではあるが、応用も利くようだ。只のチャラ男ではない。
「一応元に居た世界じゃこういう関係の仕事してたからな、少しはまかせていいぜ。意識を逸らして怪我だけはしてくれるなよ。あんたたちパフォーマーは、自分の演目を成功させることだけを考えてな」
音響の舞台裏――隅に積まれたダンボールに足を組んで座る彼、黒亜(kz0238)に言葉を投げかける。
「……黒亜だっけか、スピーカーのコードに引っかかってコケんなよ?」
黒亜は関心のない様子でパックの苺牛乳を啜っていた。だが、そのストローの音は、ずずずー(訳:やかましいよ)、と代弁しているかのようで、陸は笑いを噛み殺したのであった。
・
・
・
「おはよう世界。今日も変わらず素晴らしいわね。いいことだわ」
そう謳うもう一人の裏方は、縁の下の力持ち――ケイ(ka4032)
「舞台美術を主に、照明は手分けして行う形かしらね? 魅せて見せます裏方魂!! はい、SS照明いきます!!」
黒子特有の黒ずくめな衣装を身に纏い、ケイの気合いが響く。眼光が煌めく。指が唸る。パネルを操作するケイぱいせんの力加減パネェっす(from 操作パネル)
「ふふん、美術ですって。照明・音響・演じる人全て含めて舞台美術らしいじゃない。これは深い。深すぎるわ」
ケイは予め、サーカスの団員やパフォーマーに本番のイメージや流れを確認していた。陸と共に手分けして裏方に徹し、各々の演目に合った背景制作が挑めるようにだ。
「ケイ、助かるわ、ありがとな」
「こちらこそ。さっきの効果音、とてもよかったわよ。――ああ、そうだわ。飲み物とおやつを用意しておいたの。よかったらどうぞ」
「へぇ、気が利くな」
頬を傾け、口角を上げた陸が、レモンの蜂蜜漬けをひょいと口に入れた。
「ベターでしょう? 美味しいのよ、これ。サーカスの団員さんや白藤さん達も遠慮なく召し上がって頂戴。特に一演目やった後なんて汗もダラダラ喉も乾くってもんじゃない?」
舞台の袖に戻ってきたパフォーマーには、「お疲れさま」と労って、飲み物と飴をプレゼンツ。全部が楽しくて最高だった――そう、添えて。
「――さてと。空中ブランコもそろそろ山場ね。光と色彩で素敵なクライマックスにしてあげるわ!」
・
・
・
あっちへ。
右へ。
ゆらゆらり。
こっちへ。
左へ。
くるくるり。
空中を舞う美姫と、空中を翔る南瓜――その見目のアンバランスさが観客に好評のようだ。勿論、釣り合いの取れた空中披露にも目を見張るものがある。紅亜の合図を読み、空中を軽やかに廻るミア。時にダイナミックな動きで観客の目を釘付けにする彼女は、とても初心者とは思えない。
――照明がミアを捉える。
ブランコから高らかに舞い上がったミア。
空中で泳ぐように身体を捻った後、くるくるくる、丸くなった南瓜が勢いよく落下していく。そして――
パカッとな。
体操選手のように美しい姿勢で着地をした南瓜が二つに割れて、なんと、猫(の着ぐるみを着たミア)が生まれた。なにこのイリュージョン。
陽気な音楽が鳴り響き、肉球マークの照明が舞台を更に盛り上げたのだった。
●
空色の軍服に袖を通すと、仄かに陽射しの香りがした。
「(いつか僕も、彼の様に自らの声で音を。奏でたい。此れはきっと、その為の一歩)」
姿見に映る襟を正しながら、レナード=クーク(ka6613)は物思いに耽る面差しを瞼と共に閉じ込めると、ふわ、と細められた双眸へ朗らかな色を灯した。
「なーんて、らしくない事は置いといて……! 今日の公演と出会いが、ええ経験の一つになれば嬉しいやんね」
鏡に映る自分へ、そう、語りかけると、レナードは“新しい景色”へ歩み始めた。得た経験、宿してきた大切な心と想い出、どれもかけがえのないものだから――全力で頑張れる。
お次は皆様、お待ちかね。
今宵、最後にお披露目致しますのは、夢一夜に隠れた秘密の音色。
ピュリリリィ。
ピュリリリィ――……。
お“道化”る芸に一歩一歩、持参したフルートの音色を乗せて。
本番前に用意しておいた蝋燭が、打ち合わせ通り、舞台の縁を描くように設置されていた。手拍子と相性のいい軽快な演奏に、一人、また一人と、手の鳴る会場。
「(楽しい雰囲気を作るのも、大事やもんね)」
レナードの空色がかった銀髪が緩やかに風を帯び、蝋燭の方へ歩みを進める。
そして――
ぽぅ、
灯されたのは、赤い真綿のような優しき火。
レナードの発動させた小さな火球が、音色と共に全ての蝋燭に淡い影を宿した。
彼は舞台中央で演奏を終えると、観客へ一礼。月光のようなスポットライトを浴びながら、レナードは面を上げた。言葉の代わりに紡がれるのは、緑に輝く風と――歌の一節。
それは、心に翳る想いを控えたような。そんな、小さく、美しい声質だった。
「(……正直歌についてはまだ、怖いけど)」
けれど、
「(声が震えても、精一杯の想いを込めて)」
緑の流れに消えた灯火の先には、まだ、花が残っているから――。
「こういう小さな驚きも、見逃したらあかんで?」
蝋燭に咲き誇らせた、鮮やかな花。
そっと摘まんだその花を、レナードは観客にプレゼントしたのであった。
――そして、カーテンコール。
大きな拍手。歓声や花束。裏方も、パフォーマーも、等しく喝采を浴びる。
最後の一礼に合わせて、彼らの背面からスモークが噴射。虹色のライトに照らされながら、銀紙のシャワーが煌びやかに会場を包む。ケイの提案による締め括りは見事な晴れやかさを残し、今宵のサーカスはおひらきの時間となった。
●
「皆おつかれさん♪ 格好よかったで?」
緊張と心をほどいた打ち上げが、舞台裏で賑やかに“開催”される。
「お疲れー! 皆とっても輝いていたわよ。さあ、お酒を嗜める人は飲んで頂戴。勿論、適度に、ね? 今の時間を楽しみましょう!」
「俺からも、今日はおつかれさん。近くの有名な焼き菓子だ、美味いらしいぜ?」
ケイの柔和な微笑みが一同を労い、陸からは甘い菓子の差し入れ。ミアも手製のおむすびを振る舞いながら、自身も鮭おむすびを頬張る。
「そういえば、ココって団員の募集とかしてるニャスかネ?」
「ん? ああ、万年人不足のサーカス団なのでな」
「――白亜。コンソールなんだが、中の曲さえ変えれば誰でも使えるようにしてある。人手が足りない時の玩具として使ってくれ」
「ありがとう、浅生。助かる」
無事にトリを務めたレナードが、黒亜に声をかけた。改めて、挨拶と演目の感想を述べる。
「よかったら歌のコツとか、どんな想いを込めて普段歌ってるんか聞きたいなぁ……なんて」
「コツ? 別に、オレは誰かの為に歌ってるわけじゃないし。授かった声があるから、自分の為に歌ってるだけだよ」
理性ではなく、それは黒亜らしい本能。
「ふふ、なるほどなぁ。……舞台袖から黒亜君の歌や紅亜さん達の演目を見て、僕も楽しかったし、勇気付けられたやんね。またサーカスのお手伝いが出来たら、その時は一緒に歌ってみても……ええかなぁ……?」
「……好きにすれば。オレの歌についてこれるならね」
今宵の“経験”を、約束にして。
あにまるもふもふの前に、命の水で打ち上げを楽しむ白藤。
ふと、紅亜に移った眼差しが、羨みに浮かんだ。それは、白藤も妹であったからか。
「でもな、黒亜もかわえぇとおもう! なんか遅めの思春期みたいで」
丁度、前を通りがかった黒亜の頭を、白藤はわしゃーっと撫でた。黒亜は憮然たる面持ちで彼女を見上げる。
「黒亜と紅亜を纏める白亜は愛情深くて、凄いなぁって思うんや。恵まれてるなぁ?」
「……。ドコが似てるんだか」
「んー?」
「ハク兄が言ってた。あんたとクーは少し似てるって」
「うちと紅亜が?」
「朧朧としていて、なんか危ういってさ」
楽しい時間。平和な時間。
こういう時間こそが大切なのだと、幸せなのだと、“朧朧たる姫”はつくづく思う。
更けゆく宵に瞳を閉じて、今夜の“夢”に、さようなら――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談テント 白藤(ka3768) 人間(リアルブルー)|28才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/10/22 14:50:40 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/19 03:51:22 |