ゲスト
(ka0000)
仕込みはOK
マスター:KINUTA
オープニング
●ジェオルジ。シャン郡ペリニョン村。
煌々と月が照る秋の夜。
英霊ぴょこは祠の中で、壁にかかった鏡とにらめっこしていた。
映っているのは黒いまるごとうさぎではない。金髪のグラマーな女性である。
ぴょこは英霊としてずっと『姿』というものを持っていなかった。
だが最近はこのように着ぐるみを離れた際、人の形を取ることが増えてきた。
しかし本人には「これが自分だ」という実感が、どうにも持てないでいる。
『……わし、こんな顔じゃったのかのー……?』
呟きながら振り向くと、今し方抜け出た黒いまるごとうさぎが壁を背に座り込んでいる。
そちらの姿の方がよりいっそう馴染み深くて自分らしい、と彼女は思う。
『やっぱりおぬしには見覚えないのう。のう?』
話しかけられた鏡の中の顔は戸惑っている。
『スペットはの、これがもともとのわしの姿じゃと言うのじゃがのう……それにマ』
と言いかけてぴょこは、泡を食ったように口をふさいだ。名前を出すことで本人がひょいと出て来てしまうのではないかという不安に襲われたのだ。
ので、なるべく声を小さくする。
『……ゴイもそう言うのじゃ……』
ぴょこはマゴイが苦手だ。彼女の前に出るとすくむような心地がする。とてもかなわないという気持ちになる。
『……しかしわしは覚えがないのじゃ……』
そこで言葉を切ったぴょこは、ため息を漏らす。
『……やっぱりちょーせいしたからかのー……じゃから覚えてないのかのー』
そこから更に考えようとしたが、もう夜も遅いこともあって、眠たくなってきた。
一つのことを持続し突き詰め考えるのが、ぴょこは大の苦手なのだ。生きていたときと同じように。
というわけで寝る。馴染んだうさぐるみの中に入って。
『ぐぅー……』
●ジェオルジ。ハンターオフィス・ジェオルジ支局。
「――親戚の結婚式があったんです。それで、御祝儀を出さないといけなくて。もう成人したんだからあなたはあなたで別に出しなさいってお母さんが言いだして、いえまあそれは当然だからいいんですけど、それとは別に郷一番の長老が急に亡くなられましてお葬式があってそのお悔やみもまた家族とは別に出すことになって、やっとその2つが終わったと思ったら今度は近所で赤ん坊が生まれまして、そのお祝いも家族とは別で出すことになって」
「わー、バタバタだね」
「そうなんですよバタバタですよ……」
とジュアンに答えてカチャは、テーブルに伏した。
彼女は辺境にある故郷からリゼリオへ戻る途中。ジェオルジ支局に立ち寄り、一息ついたところ。
「冠婚葬祭は出費がかさむわよねー。特に田舎では。リアルブルーではそのへんどうなの?」
「あー、ほぼ一緒一緒。田舎は面倒臭いわよ。エルフハイムもそう?」
「もちろんよ」
マリーと杏子の世間話が頭上を通過する中カチャは、涼しくなった懐具合を噛み締めると共に、金糸銀糸と飾り石に彩られた花嫁衣装の華麗さを思い起こす。
あれはとてもきれいだったな。でもあの子が着たらもっときれいだろうな、と恋人の姿を脳裏に浮かべる。ちなみに彼女の恋人は女の子だ。
それはそれとして、マリーと杏子の話は続いている。
「――で、そういえば何の依頼を持ってきたわけ、杏子」
「ああ、それそれ。忘れるところだったわ。あのね、これ」
と言って杏子は、封筒に入った企画書を出し広げて見せた。
「……『和気あいあい・ガーデンパーティー』って何」
「ジェオルジの何ヵ村かが共同で立ち上げた企画でね。私が仕事を請け負ってる広告会社がスポンサーになってるの。ほら、田舎ってどうしてもこう、刺激がなくて男女の出会いにも乏しいじゃない?」
思い当たるところおおありなマリーは、激しく首を縦に振る。
「そうすると結婚率が下がる、出生率が下がる、地域活性化にとってよろしくない、ということで善男善女の手助けをしようということなのよ。平たく言えば……集団合コン?的な? 都会からの移住も見込んで、参加者資格に制限なし」
「……まあ、よくある流れね」
「そう。でもね、こういう企画には欠点があるのよ」
「何?」
「成り行きに任せておくと一組もカップルが成立しないまま終わる危険性があるというところ。そうなると次回以降も参加しようと思う人間がいなくなるかもしれないじゃない? だから前もって成立カップルを何人か仕込んでおきたい、とこういう次第で」
黙って2人の話を聞いていたジュアンが、ええええ、と声を上げる。
「それっていいの? 完全に八百長だよね?」
杏子は言う。
「八百長じゃないわ、サクラよ」
一緒のことではと思いつつカチャは、企画書を確かめてみた。
合コンの流れは。
開催・主催者からの挨拶→一対一の自己紹介→皆でバーベキュー→フリータイム→告白タイム→成立カップル表彰
というもの。
よく読んでみれば企画立ち上げの中に、シャン郡ペリニョン村も入っていた。
(……これ、もしかしてぴょこ様も参加するんじゃ……)
まるごとうさぎな英霊の姿を思い浮かべ、不安になってくるカチャ。
彼女の懸念は、おおむね実現した。
●和気あいあい・ガーデンパーティー
『うむ? どうした皆のもの。見合ってばかりでは何も始まらんぞ。とりあえず手近なものから組み合ってみねば、組み合ってみねば。ほれこのように』
と言ってぴょこは手近な参加男性の襟首を掴み、組み合って投げ飛ばした。
カチャは大急ぎで、うさぐるみを場から引き剥がす。
「今のは余興、余興ですからお気になさらず!」
煌々と月が照る秋の夜。
英霊ぴょこは祠の中で、壁にかかった鏡とにらめっこしていた。
映っているのは黒いまるごとうさぎではない。金髪のグラマーな女性である。
ぴょこは英霊としてずっと『姿』というものを持っていなかった。
だが最近はこのように着ぐるみを離れた際、人の形を取ることが増えてきた。
しかし本人には「これが自分だ」という実感が、どうにも持てないでいる。
『……わし、こんな顔じゃったのかのー……?』
呟きながら振り向くと、今し方抜け出た黒いまるごとうさぎが壁を背に座り込んでいる。
そちらの姿の方がよりいっそう馴染み深くて自分らしい、と彼女は思う。
『やっぱりおぬしには見覚えないのう。のう?』
話しかけられた鏡の中の顔は戸惑っている。
『スペットはの、これがもともとのわしの姿じゃと言うのじゃがのう……それにマ』
と言いかけてぴょこは、泡を食ったように口をふさいだ。名前を出すことで本人がひょいと出て来てしまうのではないかという不安に襲われたのだ。
ので、なるべく声を小さくする。
『……ゴイもそう言うのじゃ……』
ぴょこはマゴイが苦手だ。彼女の前に出るとすくむような心地がする。とてもかなわないという気持ちになる。
『……しかしわしは覚えがないのじゃ……』
そこで言葉を切ったぴょこは、ため息を漏らす。
『……やっぱりちょーせいしたからかのー……じゃから覚えてないのかのー』
そこから更に考えようとしたが、もう夜も遅いこともあって、眠たくなってきた。
一つのことを持続し突き詰め考えるのが、ぴょこは大の苦手なのだ。生きていたときと同じように。
というわけで寝る。馴染んだうさぐるみの中に入って。
『ぐぅー……』
●ジェオルジ。ハンターオフィス・ジェオルジ支局。
「――親戚の結婚式があったんです。それで、御祝儀を出さないといけなくて。もう成人したんだからあなたはあなたで別に出しなさいってお母さんが言いだして、いえまあそれは当然だからいいんですけど、それとは別に郷一番の長老が急に亡くなられましてお葬式があってそのお悔やみもまた家族とは別に出すことになって、やっとその2つが終わったと思ったら今度は近所で赤ん坊が生まれまして、そのお祝いも家族とは別で出すことになって」
「わー、バタバタだね」
「そうなんですよバタバタですよ……」
とジュアンに答えてカチャは、テーブルに伏した。
彼女は辺境にある故郷からリゼリオへ戻る途中。ジェオルジ支局に立ち寄り、一息ついたところ。
「冠婚葬祭は出費がかさむわよねー。特に田舎では。リアルブルーではそのへんどうなの?」
「あー、ほぼ一緒一緒。田舎は面倒臭いわよ。エルフハイムもそう?」
「もちろんよ」
マリーと杏子の世間話が頭上を通過する中カチャは、涼しくなった懐具合を噛み締めると共に、金糸銀糸と飾り石に彩られた花嫁衣装の華麗さを思い起こす。
あれはとてもきれいだったな。でもあの子が着たらもっときれいだろうな、と恋人の姿を脳裏に浮かべる。ちなみに彼女の恋人は女の子だ。
それはそれとして、マリーと杏子の話は続いている。
「――で、そういえば何の依頼を持ってきたわけ、杏子」
「ああ、それそれ。忘れるところだったわ。あのね、これ」
と言って杏子は、封筒に入った企画書を出し広げて見せた。
「……『和気あいあい・ガーデンパーティー』って何」
「ジェオルジの何ヵ村かが共同で立ち上げた企画でね。私が仕事を請け負ってる広告会社がスポンサーになってるの。ほら、田舎ってどうしてもこう、刺激がなくて男女の出会いにも乏しいじゃない?」
思い当たるところおおありなマリーは、激しく首を縦に振る。
「そうすると結婚率が下がる、出生率が下がる、地域活性化にとってよろしくない、ということで善男善女の手助けをしようということなのよ。平たく言えば……集団合コン?的な? 都会からの移住も見込んで、参加者資格に制限なし」
「……まあ、よくある流れね」
「そう。でもね、こういう企画には欠点があるのよ」
「何?」
「成り行きに任せておくと一組もカップルが成立しないまま終わる危険性があるというところ。そうなると次回以降も参加しようと思う人間がいなくなるかもしれないじゃない? だから前もって成立カップルを何人か仕込んでおきたい、とこういう次第で」
黙って2人の話を聞いていたジュアンが、ええええ、と声を上げる。
「それっていいの? 完全に八百長だよね?」
杏子は言う。
「八百長じゃないわ、サクラよ」
一緒のことではと思いつつカチャは、企画書を確かめてみた。
合コンの流れは。
開催・主催者からの挨拶→一対一の自己紹介→皆でバーベキュー→フリータイム→告白タイム→成立カップル表彰
というもの。
よく読んでみれば企画立ち上げの中に、シャン郡ペリニョン村も入っていた。
(……これ、もしかしてぴょこ様も参加するんじゃ……)
まるごとうさぎな英霊の姿を思い浮かべ、不安になってくるカチャ。
彼女の懸念は、おおむね実現した。
●和気あいあい・ガーデンパーティー
『うむ? どうした皆のもの。見合ってばかりでは何も始まらんぞ。とりあえず手近なものから組み合ってみねば、組み合ってみねば。ほれこのように』
と言ってぴょこは手近な参加男性の襟首を掴み、組み合って投げ飛ばした。
カチャは大急ぎで、うさぐるみを場から引き剥がす。
「今のは余興、余興ですからお気になさらず!」
リプレイ本文
●開催
「おらのねっちゃが『独居老人』さならねよに、おらちゃーんとけっぱるだんず」
杢(ka6890)はぽてぽてした足取りで田舎道を急ぐ。天使の装備を自作するのに手間取り、現地へ出発するのが遅れてしまったのだ。
「開会式、間に合うとええだんずけど」
「じゃあぴょこ様のこと頼みますね」
と言ってカチャはぴょこをエルバッハ・リオン(ka2434)、ハンス・ラインフェルト(ka6750)、天竜寺 舞(ka0377)に預け、慌ただしく場を辞した。リナリス・リーカノア(ka5126)と一緒に。
ぴょこは短い手をぱたぱたさせ、抗議。
『何事じゃ。わしまだ引っ込むターンではないぞよ。ないぞよ』
それをリオンがなだめる。
「ぴょこさん。お願いですから、今日のところは私の指示に従ってください」
『やじゃーい』
「……聞いてくれないならば、ウインドスラッシュで八つ裂きにしてから、ファイアーボールで燃やし尽くしますよ。布の一片も綿の一欠けも残らない方向で」
『それは困るのうー。わしこの体気にいっとるで』
ハンスも説得にかかる。
「ぴょこさま、いくらあなたが英霊でも、真面目につがおうとする男女の仲を邪魔しようと言うなら……叩き斬りますよ?」
『むー? わし、邪魔なぞしとらんぞ。見合うばかりでは試合になるまいて』
舞も重ねて言い聞かせる。
「相撲大会じゃないって。妹に聞いたけどあんたスペットが好きなんでしょ? これはそんな風に自分が好きになれる人を探すイベント。だから生暖かく見守ってあげなきゃ駄目だよ」
サクラカップルとして依頼に参加したパトリシア=K=ポラリス(ka5996)は万歳丸(ka5665)に肩車されつつ、整然と並んだ会場席を見回した。参加者の人数と構成を見極めるためだ。総勢人数はざっと100。男女の比率はおおむね半々――なかなかの盛況ぶり。
「おおっ♪ 今日ハ、オヒガラモヨクーだネっ♪♪ マルの背中ハ、見通しがいーんダヨー♪」
「すげェな。こンだけ、相棒を求めてるやつらがいるってェのは……うっし! いっちょ良縁を見極めてやろうじゃァねェか……この、未来の大英雄さまがよォ!」
穂積 智里(ka6819)は片隅の席に座り、この依頼への参加をハンスに申し込んだことについて、1人物思いにふける。
(……私、ハンスさんについて本当にどう思っているんでしょう……)
そんな彼女の隣にちょこちょこと入ってきて腰を下ろす杢。
「やれやれ、何とか間に合ったず」
臨時にしつらえられた壇へ、進行役の舞が戻ってくる。
「申し訳ありません、英霊様はフリータイムの際に行うイベントを今やるものと勘違いされてしまったようで――さて、本日はお集りいただきありがとうございます。司会進行を務めさせていただきます天竜寺舞です。おっとあたしはスタッフだからあたしには惚れるなよ♪ なんてねー。と、滑ったかな? それじゃ主催者の挨拶いってみよー」
各村代表者の話が始まった。大した内容ではないので全面的に省く。
●自己紹介いってみよう
「あ、あの、ぼ、僕はその、あの、と、特に何も……」
自己紹介の時間は短い。人柄がいくらよくても、スピーチが下手では伝わらない。なので舞は出来る限り、そういった参加者のフォローをするようにした。
「履歴書によりますとあなたの趣味は、絵を描くことだそうで。賞を取ったこともあるとか――」
「あ、はい。県展で金を……」
「それは凄いですね」
ぴょこはゲスト席でうずうずそわそわしっぱなし。
『わしの出番まだかの、まだかの』
「まだです。落ち着いてください」
今にも動き出しそうな相手を言葉と手で押さえるリオンの視界に、どこの王子様かといった少年が入ってきた。
白のスーツ、革靴、純白の外套、腰にレイピア――よく見たら男装したリナリスだった。
「皆さん初めまして。僕はリナリス・リーカノア。グラズヘイム王国に仕える、騎士です。今は父に命じられ、各地を武者遍歴している最中、偶然この集いに参加することに――」
自己紹介嘘八百である。
どこの令嬢かといったなりの少女も目に入った。緋色のドレスにハイヒール、降ろしたゆる巻の髪――よく見たらカチャだった。
リナリスはわざとらしいほどの驚愕を示しつつカチャの行く手を塞ぎ、一礼をした。
「これは失礼を。貴女が余りにも可愛らしいので。人々に祝福を与えにきた愛の精霊かと思ってしまいました。僕はリナリス。お名前を伺っても宜しいですか? 麗しき姫君♪」
カチャもまた、さも初対面のような小芝居で応じる。
「――私? カチャ・タホと申します。リナリスさん、お口がお上手ですね」
万歳丸とパティも参加者として異性陣に自己紹介している。彼らはリナリスたちとは違い、来歴等特にあれこれ創作しようとは思っていなかった。両者とも、素のままの発言を行う。
「おう、俺か。俺はな、格闘士やってんだ! 未来の夢は大英雄になることだぜ!」
「パティはリアルブルーから来たのヨ。アナタはどこカラ?」
ハンスもまた、自己紹介に参加している。サクラの人員としてこの場にいるのだから、当然のことだろう。
「いいえ、私は東方の出身ではありません。こう見えてもリアルブルーから渡ってきた者でして……」
温和な紳士といった雰囲気でそつなく会話をこなしている彼が先程までぴょこに口酸っぱく、パーティーの意義とこの世界における婚姻制度と併せ説明していたのをリオンは知っている。ぴょこが返した次の言葉に絶句していたのも。
『あい分かった。つまり秋の羊のよーに、皆まぐわう相手を探しているということなのじゃな』
思えばジェオルジは牧畜の盛んな地域。家畜の世話をする関係上、そういった理屈については子供といえどある程度知っているということなのかも知れない。現実問題としてぴょこは子供ではないが。
「ええ、その、私の趣味は読書でして……」
智里も自己紹介をしているが――やや気後れしているのか、他の人より受け答えがぎこちない。
ところで動き回っている小さな男児は何であろうか。誰かについて来たのだろうか。
リオンがそう思ったところで、ぴょこがその子に話しかけた。
『これ、そこのちっこいの。おぬしは何者じゃ』
「あ、これは英霊様、初めましてだんず。おらだば恋のキューピッドになりにきた、杢ちゅうもんだず。『運命の人はすぐそばにいる』って本にもあったんず。みんな気づかないだけって、せばおらが気づかせるだんず」
『おう。なんかよく分からぬが、矢を持っているということはつまり狩りじゃな狩るのじゃな。手伝ってやろうぞ』
●バーベキュータイム
舞は炭の世話をしつ、参加者の世話もする。なるべく誰もが1人にならないように。
「あの人、この野菜が好きみたい。持って行ってあげたらどうかな?」
監視役のリオンを引き連れて会場を巡るぴょこの頭上には、杢。射るに手頃な対象を探している。
カチャとリナリスについては、遠目にも既に出来上がった状態なので問題外。キューピッドの矢はこれからの人のためにあるのだ。他を当たるべし。
参加者への遠慮ないくっつけ作業を終えた万歳丸とパトリシアは、本題のバーベキューに入る。肉をもりもり。
「ココで出会っテ、家族になるヒトが居るのネ?」
そう考えるとパトリシアは、とても不思議な気持ちがしてきた。隣でスペアリブを食いちぎっている万歳丸に話しかける。
「パティとマルにも、いつかそんなヒトができるのカシラ?」
肉の塊を飲み込んだ万歳丸は、形見の首飾りを弄った。そして、こんなことを言った。
「パティもガキこさえるのに興味あンのか?」
聞きようによらなくても相当きわどい発言だが、彼本人にその意識はなかった。受ける方のパティもまた、同様であった。両者まだ色気より食い気が勝っているのだろうか。
「そうネー。いつかはいっぱい子供持てるといいなと思うのネ。だって、子供って可愛いノネ」
「呵呵、そりゃイイ。たしかにガキは可愛らしィもンな……作ろうぜ。そういう未来を、よ」
「うん、作ロ作ロ♪」
と言いながら、拳を合わせる。
そこにへろへろダンボールの矢が飛んできて、落ちた。何だろうと振り向いて見れば、ぴょこ、杢、リオン。
「まいねぇ。もうちっとこっちさ寄ってくれれば、当たただどもなあ」
『致し方ない。次の的を探すのじゃ』
智里は喧騒の中、気づけばサクラ仲間であるハンスの姿を見失っていた。
「こんな真ん中でうろうろすると悪目立ちしちゃうかもしれません……」
隅に寄ろうとしたところ目に飛び込んできたのは、ぽつんと一人でいる中年男性……あぶれちゃったらしい。
カップルが成立しないとしても、せめて楽しい思い出を持って帰ってもらおう。そう思って何の気なく近づいて行き声をかけ――すぐに後悔した。
「あっあのね、僕はね、小さいけど会社やってるの会社。智里ちゃん、今度よかったらぜひぜひ遊びに来てよ。これね、僕の名刺名刺。キミの住所教えてくれないかなー」
手を握ってくるわ鼻息は荒いわ、逃がすまいという熱気がむんむんだ。
(失敗、しちゃいました~……)
そうだこれは合コンだったと改めて思い知る。曖昧な引きつり笑顔で、この場をどうにか穏便に離れる手段はないものかと考える。
そのとき急に後ろから、ハンスにふわりと抱き締められた。
「すみません、これは私のですから他を当たって下さい」
彼がどういう表情をしているのか分からないが、中年男性にとっていいものでなかったのに違いない。何も言わずそそくさ離れていったからには。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、ございます……ちょっと緊張しちゃいました……」
智里はそのまま背後に全体重を預けた。体全体がほぐれていくような心地。
(あったかい……こうしてるの、ちっとも嫌じゃない……ううん、もっとずっとこうしていたいのかも……?)
そこにへろへろダンボールの矢が飛んできて、ハンスの後頭部に当たった。
矢が飛んできた方を見れば、リオン、ぴょこ、杢。
『大当たりーい』
「だんずー」
●告白ターイム
舞が進行、リオンが止め役を請け負う中、始まるフリータイムイベント『英霊に投げられよう』。
『それではいくのじゃー!』
「おおおお!? 待って待ってクッションまでの距離ありすぎじゃないですか!?」
「だいじょーぶ! 一緒に飛ぶなら怖くない!」
手初めにリナリスとカチャが、2人仲良くワラ山に投げ飛ばされる。
続いて万歳丸。
「勝負だこらァ!!」
「マルー! 頑張るノヨー!」
「おう! うぉおおおりゃああ」
『どっせーい!』
パトリシアの応援を受けがっぷり4つに組み、上手投げを食らう。
その後次々に一般人が挑戦し始める。
ハンスと智里はそれらの光景を一緒に眺めていた。手を繋いで。
投げ飛ばされた女性を受け止めたはいいものの、踏ん張り切れず尻餅をつく、あるいは倒れる男性続出。どっと歓声が上がる。
智里は思う。彼なら私を受け止められるだろうかと。
ハンスも思う。彼女を受け止めるのは楽なことだろうと。
しかしどちらも思っていることを口に出せないままイベント終了。告白タイムに突入する。
「さあ、それではいよいよ、運命の告白タイムです!」
「けっぱれだんず」
エンジェル杢は、引き続きぴょこの頭の上。
『いよいよなのじゃな』
「そうだよ。さ、生暖かく見守るよ」
とうさぎの尻尾を掴んで抑えつつ、エルと目配せする舞。ここがイベントのハイライトである以上、絶対にチャチャを入れさせるわけにはいかない。表彰まで押さえておくべし。
一番手は――リナリス。
「カチャさん……百万言を費やしても君の愛らしさ、素晴らしさを語り尽す事は出来ない……ただ伝えよう、君を愛している!」
片膝をついたリナリスが差し伸べた手を取るカチャ。
「私もです、愛してますリナリスさん!」
返その事を得るや否やリナリスはカチャに口づけをした。そして歓声の元彼女をお姫様抱っこし――疾風のごとく会場から脱走。
続いてはパティ、万歳丸。
(うう、お芝居でもドキドキするんダヨー)
照れ臭く感じつつ、びしと手を挙げるパティ。
「マル?……万歳丸っ。パティのダーリンになってくれませんか?」
万歳丸はその手にハイタッチ。
「おゥ、イイぜ!! そンじゃ……ナニしたらいいンだ??」
『それはまぐwa』
ぴょこの口を両手で塞ぎNG発言を制したリオン。
つぶらな瞳で杢が聞く。
「ま……なんだんず?」
「それはですね、家に帰ってからお父さんとお母さんに聞いてください」
リオンはごまかした。舞はさくさく進行する。他人事だから面白いわ~と不謹慎な事を思ったりしつつ。
「では次のカップルの方、壇上にどうぞ!」
サクラを頼んだのは自分。だから自分から告白しなければ。
顔を真っ赤にしつつ智里は両腕を胸の前に縮め、ハンスに言う。
「あの、ハンスさん……これからも末永くよろしくお願いします」
ハンスは、普段と変わらない柔和な顔で告白を受け取った。
「こちらこそ、よろしく」
続いてカップルとなった男女が次々壇上にあがる。
それが終わると表彰式だ。
最終的に生じたカップルは全部で30組。予想を越える好成績だ、と主催者は喜んだ。パーティーは大成功のうちに幕を閉じた。
ところでリナリスとカチャは一体どこまで行ったものやら、とうとう表彰式にも戻ってこなかった。
●帰路
パトリシア、万歳丸、ハンスと智里は帰り道が一緒。
「今日は面白かったネ、マル」
「呵呵、わるくねェ。こーいうトコに、鬼が何気なく混じれるようになりゃァ……いう事ねェな」
屈託なく会話を弾ませるパトリシアたちとは対象的に、その後ろを歩くハンスと智里は言葉少な。
「あの……またお誘いしても良いですか?」
小さな声で問いかける智里。
ハンスは彼女を抱き寄せた。軽く耳を噛んだ。
「私も健全な成人男性ですので……冗談はほどほどにお願いしますよ」
それからすっと体を離し、咳払いをする。
智里の顔は夕映え以上に赤くなった。
パトリシアたちは前を向いていたので、そういったことが背後で繰り広げられているとは、気づかないままであった。
「じゃ、あたしたちこっちだから。気をつけて帰るんだよ」
「もう日も落ちますので、寄り道はしませんように」
「あいわかったべさ。ねっちゃたちも気いつけてなあ」
舞、リオンと手を振って別れ、1人ぽてぽて行く杢。
と、行く手の水車小屋から人が出てきた。リナリスとカチャだ。どっちも服がぐちゃぐちゃ。
「もーっ! これ貸衣装なんですよ!」
「ごめんごめん、つい燃えちゃってー♪ あ、杢ちゃん。パーティー終わったの?」
「そうだんず。ねっちゃたち何してだんず?」
「それは」
リナリスは答えようとしたが、カチャはそれを遮った。
「それはですね、えーと、家に帰ってからお父さんとお母さんに聞いてください」
「おらのねっちゃが『独居老人』さならねよに、おらちゃーんとけっぱるだんず」
杢(ka6890)はぽてぽてした足取りで田舎道を急ぐ。天使の装備を自作するのに手間取り、現地へ出発するのが遅れてしまったのだ。
「開会式、間に合うとええだんずけど」
「じゃあぴょこ様のこと頼みますね」
と言ってカチャはぴょこをエルバッハ・リオン(ka2434)、ハンス・ラインフェルト(ka6750)、天竜寺 舞(ka0377)に預け、慌ただしく場を辞した。リナリス・リーカノア(ka5126)と一緒に。
ぴょこは短い手をぱたぱたさせ、抗議。
『何事じゃ。わしまだ引っ込むターンではないぞよ。ないぞよ』
それをリオンがなだめる。
「ぴょこさん。お願いですから、今日のところは私の指示に従ってください」
『やじゃーい』
「……聞いてくれないならば、ウインドスラッシュで八つ裂きにしてから、ファイアーボールで燃やし尽くしますよ。布の一片も綿の一欠けも残らない方向で」
『それは困るのうー。わしこの体気にいっとるで』
ハンスも説得にかかる。
「ぴょこさま、いくらあなたが英霊でも、真面目につがおうとする男女の仲を邪魔しようと言うなら……叩き斬りますよ?」
『むー? わし、邪魔なぞしとらんぞ。見合うばかりでは試合になるまいて』
舞も重ねて言い聞かせる。
「相撲大会じゃないって。妹に聞いたけどあんたスペットが好きなんでしょ? これはそんな風に自分が好きになれる人を探すイベント。だから生暖かく見守ってあげなきゃ駄目だよ」
サクラカップルとして依頼に参加したパトリシア=K=ポラリス(ka5996)は万歳丸(ka5665)に肩車されつつ、整然と並んだ会場席を見回した。参加者の人数と構成を見極めるためだ。総勢人数はざっと100。男女の比率はおおむね半々――なかなかの盛況ぶり。
「おおっ♪ 今日ハ、オヒガラモヨクーだネっ♪♪ マルの背中ハ、見通しがいーんダヨー♪」
「すげェな。こンだけ、相棒を求めてるやつらがいるってェのは……うっし! いっちょ良縁を見極めてやろうじゃァねェか……この、未来の大英雄さまがよォ!」
穂積 智里(ka6819)は片隅の席に座り、この依頼への参加をハンスに申し込んだことについて、1人物思いにふける。
(……私、ハンスさんについて本当にどう思っているんでしょう……)
そんな彼女の隣にちょこちょこと入ってきて腰を下ろす杢。
「やれやれ、何とか間に合ったず」
臨時にしつらえられた壇へ、進行役の舞が戻ってくる。
「申し訳ありません、英霊様はフリータイムの際に行うイベントを今やるものと勘違いされてしまったようで――さて、本日はお集りいただきありがとうございます。司会進行を務めさせていただきます天竜寺舞です。おっとあたしはスタッフだからあたしには惚れるなよ♪ なんてねー。と、滑ったかな? それじゃ主催者の挨拶いってみよー」
各村代表者の話が始まった。大した内容ではないので全面的に省く。
●自己紹介いってみよう
「あ、あの、ぼ、僕はその、あの、と、特に何も……」
自己紹介の時間は短い。人柄がいくらよくても、スピーチが下手では伝わらない。なので舞は出来る限り、そういった参加者のフォローをするようにした。
「履歴書によりますとあなたの趣味は、絵を描くことだそうで。賞を取ったこともあるとか――」
「あ、はい。県展で金を……」
「それは凄いですね」
ぴょこはゲスト席でうずうずそわそわしっぱなし。
『わしの出番まだかの、まだかの』
「まだです。落ち着いてください」
今にも動き出しそうな相手を言葉と手で押さえるリオンの視界に、どこの王子様かといった少年が入ってきた。
白のスーツ、革靴、純白の外套、腰にレイピア――よく見たら男装したリナリスだった。
「皆さん初めまして。僕はリナリス・リーカノア。グラズヘイム王国に仕える、騎士です。今は父に命じられ、各地を武者遍歴している最中、偶然この集いに参加することに――」
自己紹介嘘八百である。
どこの令嬢かといったなりの少女も目に入った。緋色のドレスにハイヒール、降ろしたゆる巻の髪――よく見たらカチャだった。
リナリスはわざとらしいほどの驚愕を示しつつカチャの行く手を塞ぎ、一礼をした。
「これは失礼を。貴女が余りにも可愛らしいので。人々に祝福を与えにきた愛の精霊かと思ってしまいました。僕はリナリス。お名前を伺っても宜しいですか? 麗しき姫君♪」
カチャもまた、さも初対面のような小芝居で応じる。
「――私? カチャ・タホと申します。リナリスさん、お口がお上手ですね」
万歳丸とパティも参加者として異性陣に自己紹介している。彼らはリナリスたちとは違い、来歴等特にあれこれ創作しようとは思っていなかった。両者とも、素のままの発言を行う。
「おう、俺か。俺はな、格闘士やってんだ! 未来の夢は大英雄になることだぜ!」
「パティはリアルブルーから来たのヨ。アナタはどこカラ?」
ハンスもまた、自己紹介に参加している。サクラの人員としてこの場にいるのだから、当然のことだろう。
「いいえ、私は東方の出身ではありません。こう見えてもリアルブルーから渡ってきた者でして……」
温和な紳士といった雰囲気でそつなく会話をこなしている彼が先程までぴょこに口酸っぱく、パーティーの意義とこの世界における婚姻制度と併せ説明していたのをリオンは知っている。ぴょこが返した次の言葉に絶句していたのも。
『あい分かった。つまり秋の羊のよーに、皆まぐわう相手を探しているということなのじゃな』
思えばジェオルジは牧畜の盛んな地域。家畜の世話をする関係上、そういった理屈については子供といえどある程度知っているということなのかも知れない。現実問題としてぴょこは子供ではないが。
「ええ、その、私の趣味は読書でして……」
智里も自己紹介をしているが――やや気後れしているのか、他の人より受け答えがぎこちない。
ところで動き回っている小さな男児は何であろうか。誰かについて来たのだろうか。
リオンがそう思ったところで、ぴょこがその子に話しかけた。
『これ、そこのちっこいの。おぬしは何者じゃ』
「あ、これは英霊様、初めましてだんず。おらだば恋のキューピッドになりにきた、杢ちゅうもんだず。『運命の人はすぐそばにいる』って本にもあったんず。みんな気づかないだけって、せばおらが気づかせるだんず」
『おう。なんかよく分からぬが、矢を持っているということはつまり狩りじゃな狩るのじゃな。手伝ってやろうぞ』
●バーベキュータイム
舞は炭の世話をしつ、参加者の世話もする。なるべく誰もが1人にならないように。
「あの人、この野菜が好きみたい。持って行ってあげたらどうかな?」
監視役のリオンを引き連れて会場を巡るぴょこの頭上には、杢。射るに手頃な対象を探している。
カチャとリナリスについては、遠目にも既に出来上がった状態なので問題外。キューピッドの矢はこれからの人のためにあるのだ。他を当たるべし。
参加者への遠慮ないくっつけ作業を終えた万歳丸とパトリシアは、本題のバーベキューに入る。肉をもりもり。
「ココで出会っテ、家族になるヒトが居るのネ?」
そう考えるとパトリシアは、とても不思議な気持ちがしてきた。隣でスペアリブを食いちぎっている万歳丸に話しかける。
「パティとマルにも、いつかそんなヒトができるのカシラ?」
肉の塊を飲み込んだ万歳丸は、形見の首飾りを弄った。そして、こんなことを言った。
「パティもガキこさえるのに興味あンのか?」
聞きようによらなくても相当きわどい発言だが、彼本人にその意識はなかった。受ける方のパティもまた、同様であった。両者まだ色気より食い気が勝っているのだろうか。
「そうネー。いつかはいっぱい子供持てるといいなと思うのネ。だって、子供って可愛いノネ」
「呵呵、そりゃイイ。たしかにガキは可愛らしィもンな……作ろうぜ。そういう未来を、よ」
「うん、作ロ作ロ♪」
と言いながら、拳を合わせる。
そこにへろへろダンボールの矢が飛んできて、落ちた。何だろうと振り向いて見れば、ぴょこ、杢、リオン。
「まいねぇ。もうちっとこっちさ寄ってくれれば、当たただどもなあ」
『致し方ない。次の的を探すのじゃ』
智里は喧騒の中、気づけばサクラ仲間であるハンスの姿を見失っていた。
「こんな真ん中でうろうろすると悪目立ちしちゃうかもしれません……」
隅に寄ろうとしたところ目に飛び込んできたのは、ぽつんと一人でいる中年男性……あぶれちゃったらしい。
カップルが成立しないとしても、せめて楽しい思い出を持って帰ってもらおう。そう思って何の気なく近づいて行き声をかけ――すぐに後悔した。
「あっあのね、僕はね、小さいけど会社やってるの会社。智里ちゃん、今度よかったらぜひぜひ遊びに来てよ。これね、僕の名刺名刺。キミの住所教えてくれないかなー」
手を握ってくるわ鼻息は荒いわ、逃がすまいという熱気がむんむんだ。
(失敗、しちゃいました~……)
そうだこれは合コンだったと改めて思い知る。曖昧な引きつり笑顔で、この場をどうにか穏便に離れる手段はないものかと考える。
そのとき急に後ろから、ハンスにふわりと抱き締められた。
「すみません、これは私のですから他を当たって下さい」
彼がどういう表情をしているのか分からないが、中年男性にとっていいものでなかったのに違いない。何も言わずそそくさ離れていったからには。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、ございます……ちょっと緊張しちゃいました……」
智里はそのまま背後に全体重を預けた。体全体がほぐれていくような心地。
(あったかい……こうしてるの、ちっとも嫌じゃない……ううん、もっとずっとこうしていたいのかも……?)
そこにへろへろダンボールの矢が飛んできて、ハンスの後頭部に当たった。
矢が飛んできた方を見れば、リオン、ぴょこ、杢。
『大当たりーい』
「だんずー」
●告白ターイム
舞が進行、リオンが止め役を請け負う中、始まるフリータイムイベント『英霊に投げられよう』。
『それではいくのじゃー!』
「おおおお!? 待って待ってクッションまでの距離ありすぎじゃないですか!?」
「だいじょーぶ! 一緒に飛ぶなら怖くない!」
手初めにリナリスとカチャが、2人仲良くワラ山に投げ飛ばされる。
続いて万歳丸。
「勝負だこらァ!!」
「マルー! 頑張るノヨー!」
「おう! うぉおおおりゃああ」
『どっせーい!』
パトリシアの応援を受けがっぷり4つに組み、上手投げを食らう。
その後次々に一般人が挑戦し始める。
ハンスと智里はそれらの光景を一緒に眺めていた。手を繋いで。
投げ飛ばされた女性を受け止めたはいいものの、踏ん張り切れず尻餅をつく、あるいは倒れる男性続出。どっと歓声が上がる。
智里は思う。彼なら私を受け止められるだろうかと。
ハンスも思う。彼女を受け止めるのは楽なことだろうと。
しかしどちらも思っていることを口に出せないままイベント終了。告白タイムに突入する。
「さあ、それではいよいよ、運命の告白タイムです!」
「けっぱれだんず」
エンジェル杢は、引き続きぴょこの頭の上。
『いよいよなのじゃな』
「そうだよ。さ、生暖かく見守るよ」
とうさぎの尻尾を掴んで抑えつつ、エルと目配せする舞。ここがイベントのハイライトである以上、絶対にチャチャを入れさせるわけにはいかない。表彰まで押さえておくべし。
一番手は――リナリス。
「カチャさん……百万言を費やしても君の愛らしさ、素晴らしさを語り尽す事は出来ない……ただ伝えよう、君を愛している!」
片膝をついたリナリスが差し伸べた手を取るカチャ。
「私もです、愛してますリナリスさん!」
返その事を得るや否やリナリスはカチャに口づけをした。そして歓声の元彼女をお姫様抱っこし――疾風のごとく会場から脱走。
続いてはパティ、万歳丸。
(うう、お芝居でもドキドキするんダヨー)
照れ臭く感じつつ、びしと手を挙げるパティ。
「マル?……万歳丸っ。パティのダーリンになってくれませんか?」
万歳丸はその手にハイタッチ。
「おゥ、イイぜ!! そンじゃ……ナニしたらいいンだ??」
『それはまぐwa』
ぴょこの口を両手で塞ぎNG発言を制したリオン。
つぶらな瞳で杢が聞く。
「ま……なんだんず?」
「それはですね、家に帰ってからお父さんとお母さんに聞いてください」
リオンはごまかした。舞はさくさく進行する。他人事だから面白いわ~と不謹慎な事を思ったりしつつ。
「では次のカップルの方、壇上にどうぞ!」
サクラを頼んだのは自分。だから自分から告白しなければ。
顔を真っ赤にしつつ智里は両腕を胸の前に縮め、ハンスに言う。
「あの、ハンスさん……これからも末永くよろしくお願いします」
ハンスは、普段と変わらない柔和な顔で告白を受け取った。
「こちらこそ、よろしく」
続いてカップルとなった男女が次々壇上にあがる。
それが終わると表彰式だ。
最終的に生じたカップルは全部で30組。予想を越える好成績だ、と主催者は喜んだ。パーティーは大成功のうちに幕を閉じた。
ところでリナリスとカチャは一体どこまで行ったものやら、とうとう表彰式にも戻ってこなかった。
●帰路
パトリシア、万歳丸、ハンスと智里は帰り道が一緒。
「今日は面白かったネ、マル」
「呵呵、わるくねェ。こーいうトコに、鬼が何気なく混じれるようになりゃァ……いう事ねェな」
屈託なく会話を弾ませるパトリシアたちとは対象的に、その後ろを歩くハンスと智里は言葉少な。
「あの……またお誘いしても良いですか?」
小さな声で問いかける智里。
ハンスは彼女を抱き寄せた。軽く耳を噛んだ。
「私も健全な成人男性ですので……冗談はほどほどにお願いしますよ」
それからすっと体を離し、咳払いをする。
智里の顔は夕映え以上に赤くなった。
パトリシアたちは前を向いていたので、そういったことが背後で繰り広げられているとは、気づかないままであった。
「じゃ、あたしたちこっちだから。気をつけて帰るんだよ」
「もう日も落ちますので、寄り道はしませんように」
「あいわかったべさ。ねっちゃたちも気いつけてなあ」
舞、リオンと手を振って別れ、1人ぽてぽて行く杢。
と、行く手の水車小屋から人が出てきた。リナリスとカチャだ。どっちも服がぐちゃぐちゃ。
「もーっ! これ貸衣装なんですよ!」
「ごめんごめん、つい燃えちゃってー♪ あ、杢ちゃん。パーティー終わったの?」
「そうだんず。ねっちゃたち何してだんず?」
「それは」
リナリスは答えようとしたが、カチャはそれを遮った。
「それはですね、えーと、家に帰ってからお父さんとお母さんに聞いてください」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/25 21:22:46 |
|
![]() |
相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/10/25 20:57:18 |