ゲスト
(ka0000)
【幻視】絶対防衛~救急搬入口~【界冥】
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/21 12:00
- 完成日
- 2017/11/04 01:37
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※要注意※
同時攻略シナリオとなりますので、猫又ものとSSD【幻視】Black Storm【界冥】との同時参加はシステム上可能ではありますが、同時参加なさいませんようお願いします。
万が一同時参加となった場合は当シナリオが優先となり、イベシナには参加出来なかったという描写になります。
●
病院の内部地図は手に入れられなかったが、航空写真は手に入った。
見る限り、周囲は深い森に覆われており、県道から見て手前に前庭、病院、駐車場と分かれ、駐車場となっている裏手には救急搬入口があったらしい。
この救急搬入口と正面玄関以外の窓には防犯用に柵が嵌め殺してあり、二階以上の窓にも全て転落防止の柵が取り付けられていた。
まるで荒れ果てた大きな牢獄のような病院だが、これがかつてはサナトリウムとして近隣では有名な病院であったというのだから、時の流れとは無情である。
「初めまして、香藤 玲です。よろしくお願いします!」
香藤 玲(kz0220)が物怖じ無く一同へと挨拶していく。
「ドロシーよ。こちらこそよろしくね?」
年齢が近いこともあり、親近感を覚えながら差し出された玲の手を握り返すドロシー(kz0230)。
「レギです。今回は宜しくお願いします」
レギ(kz0229)もまた玲の手を握り返し、その後ろに控える大柄な男性へと身体を向けた。
「こちらは、オイマトの族長、バタルトゥ・オイマトさんです」
「……今回は宜しく頼む」
この中で最も怒りと不安、焦燥と冷静を内包しているにも関わらず、それを強靱な精神力でもって押し殺しているバタルトゥ・オイマト(kz0023)が3人へと頭を下げた。
「今回は来てくれて有り難う」
レギの視線を受けて、少し頬を染めながら首を振って笑い返すドロシー。
「レギ君のお友達なら、それってもう私のお友達も同然だわ! 絶対、イェルズ君を助け出しましょう!」
先端に魔法ステッキのようなピンク色の石が付いた身長ほどある棍と、いつも連れている猫ぬいぐるみ型巨大スマホカバーであるグリンダを手に、ドロシーはガッツポーズしてみせる。
そして、地図を前に攻略計画が練られることになったのだった。
●
一同は先頭を走るバタルトゥを追いかけるようにして走り続けていた。
ドロシーが所属する班は救急搬入口からの逃亡を阻止する見張りとして、玲やレギ達と分かれ、病院の前を通り過ぎ、裏側の駐車場を目指す。
見えてきた駐車場はただっ広い河原のようだった。
……何故河原を彷彿したかと言えば、長い間放置されたアスファルトはひび割れ、その間からはススキとセイタカアワダチソウが生え、熾烈な勢力抗争を繰り広げていたからだ。
ドロシーがトランシーバーで裏の駐車場入口に到着したことを告げる。
その時だった。
不協和音のようなサイレンが鳴り響いた。
「な、何……!?」
思わず耳を塞いだドロシーが、背後に何かが動く気配を感じ振り返る。
揺れる森の草木がガサガサと音を立て、枝が折れる音がして、何かが物凄い勢いで飛び出してきた。
「きゃぁっ!?」
急に飛び出してきた物体に思わず悲鳴を上げつつ棍で殴り付けるドロシー。
それは、悲痛な悲鳴をあげて昏倒すると、地面に転がった。
「……タヌキ……? あ、アライグマ???」
動物園で見るものと違い、野生化したアライグマは薄汚れている上に牙も爪も凶器のように鋭い。
「ドロシー!」
切羽詰まった声に反射的に顔を上げて前を見ると、周囲の森、その方々からアライグマ達が一直線に飛び出し、その全てが病院へ、その中へ入ろうと詰めかけてきていた。
さらに奥には明らかに狂気が寄生して肥大したイノシシと大きなツキノワグマの姿も見える。
そして、彼らもまた真っ直ぐに唯一の出入口である救急搬入口を目指して走り出していた。
「!? だ、ダメ!! 中に入れてはダメ!!」
ドロシーは駆け出しながらトランシーバーに口を寄せた。
「動物が、スゴイ勢いで集まってきてるの!!」
「こっちもだよ! ぼくたちで出入口を守らなきゃ!」
玲の言葉に「わかった」とドロシーは答え、トランシーバーを腰のフォルダーへと戻した。
道中で何か緊急事態が起こった時は、玲とドロシーの班で殿を務め、バタルトゥとレギの班を確実に敵地へと送る。――それは既に決めてあったことだ。一同に迷いは無い。
ドロシーは靴の踵を打ち鳴らす。
一足飛びで救急搬入口の前へと辿り着き、棍を構えると仁王立ちになった。
「元気いっぱい、愛さんさん☆彡 魔法少女ドロシー、ただいま登場! 悪い子にはお仕置きしちゃうゾ♪」
パチン、と音のしそうなウィンクと決めポーズに、見ていた一同はあっけに取られ……それどころでは無いと我を取り戻すと、各々武器を構え、交戦態勢に入ったのだった。
同時攻略シナリオとなりますので、猫又ものとSSD【幻視】Black Storm【界冥】との同時参加はシステム上可能ではありますが、同時参加なさいませんようお願いします。
万が一同時参加となった場合は当シナリオが優先となり、イベシナには参加出来なかったという描写になります。
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病院の内部地図は手に入れられなかったが、航空写真は手に入った。
見る限り、周囲は深い森に覆われており、県道から見て手前に前庭、病院、駐車場と分かれ、駐車場となっている裏手には救急搬入口があったらしい。
この救急搬入口と正面玄関以外の窓には防犯用に柵が嵌め殺してあり、二階以上の窓にも全て転落防止の柵が取り付けられていた。
まるで荒れ果てた大きな牢獄のような病院だが、これがかつてはサナトリウムとして近隣では有名な病院であったというのだから、時の流れとは無情である。
「初めまして、香藤 玲です。よろしくお願いします!」
香藤 玲(kz0220)が物怖じ無く一同へと挨拶していく。
「ドロシーよ。こちらこそよろしくね?」
年齢が近いこともあり、親近感を覚えながら差し出された玲の手を握り返すドロシー(kz0230)。
「レギです。今回は宜しくお願いします」
レギ(kz0229)もまた玲の手を握り返し、その後ろに控える大柄な男性へと身体を向けた。
「こちらは、オイマトの族長、バタルトゥ・オイマトさんです」
「……今回は宜しく頼む」
この中で最も怒りと不安、焦燥と冷静を内包しているにも関わらず、それを強靱な精神力でもって押し殺しているバタルトゥ・オイマト(kz0023)が3人へと頭を下げた。
「今回は来てくれて有り難う」
レギの視線を受けて、少し頬を染めながら首を振って笑い返すドロシー。
「レギ君のお友達なら、それってもう私のお友達も同然だわ! 絶対、イェルズ君を助け出しましょう!」
先端に魔法ステッキのようなピンク色の石が付いた身長ほどある棍と、いつも連れている猫ぬいぐるみ型巨大スマホカバーであるグリンダを手に、ドロシーはガッツポーズしてみせる。
そして、地図を前に攻略計画が練られることになったのだった。
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一同は先頭を走るバタルトゥを追いかけるようにして走り続けていた。
ドロシーが所属する班は救急搬入口からの逃亡を阻止する見張りとして、玲やレギ達と分かれ、病院の前を通り過ぎ、裏側の駐車場を目指す。
見えてきた駐車場はただっ広い河原のようだった。
……何故河原を彷彿したかと言えば、長い間放置されたアスファルトはひび割れ、その間からはススキとセイタカアワダチソウが生え、熾烈な勢力抗争を繰り広げていたからだ。
ドロシーがトランシーバーで裏の駐車場入口に到着したことを告げる。
その時だった。
不協和音のようなサイレンが鳴り響いた。
「な、何……!?」
思わず耳を塞いだドロシーが、背後に何かが動く気配を感じ振り返る。
揺れる森の草木がガサガサと音を立て、枝が折れる音がして、何かが物凄い勢いで飛び出してきた。
「きゃぁっ!?」
急に飛び出してきた物体に思わず悲鳴を上げつつ棍で殴り付けるドロシー。
それは、悲痛な悲鳴をあげて昏倒すると、地面に転がった。
「……タヌキ……? あ、アライグマ???」
動物園で見るものと違い、野生化したアライグマは薄汚れている上に牙も爪も凶器のように鋭い。
「ドロシー!」
切羽詰まった声に反射的に顔を上げて前を見ると、周囲の森、その方々からアライグマ達が一直線に飛び出し、その全てが病院へ、その中へ入ろうと詰めかけてきていた。
さらに奥には明らかに狂気が寄生して肥大したイノシシと大きなツキノワグマの姿も見える。
そして、彼らもまた真っ直ぐに唯一の出入口である救急搬入口を目指して走り出していた。
「!? だ、ダメ!! 中に入れてはダメ!!」
ドロシーは駆け出しながらトランシーバーに口を寄せた。
「動物が、スゴイ勢いで集まってきてるの!!」
「こっちもだよ! ぼくたちで出入口を守らなきゃ!」
玲の言葉に「わかった」とドロシーは答え、トランシーバーを腰のフォルダーへと戻した。
道中で何か緊急事態が起こった時は、玲とドロシーの班で殿を務め、バタルトゥとレギの班を確実に敵地へと送る。――それは既に決めてあったことだ。一同に迷いは無い。
ドロシーは靴の踵を打ち鳴らす。
一足飛びで救急搬入口の前へと辿り着き、棍を構えると仁王立ちになった。
「元気いっぱい、愛さんさん☆彡 魔法少女ドロシー、ただいま登場! 悪い子にはお仕置きしちゃうゾ♪」
パチン、と音のしそうなウィンクと決めポーズに、見ていた一同はあっけに取られ……それどころでは無いと我を取り戻すと、各々武器を構え、交戦態勢に入ったのだった。
リプレイ本文
●
決めポーズをとるドロシー(kz0230)を見て、アーサー・ホーガン(ka0471)は思わず笑い声を上げた。
「こんな状況でも口上を欠かさねぇか。伊達に魔法少女やってないってわけだ。大したプロ意識だな」
全速力でドロシーを追いかけ、次いで救急搬入口に辿り着いたアーサーはそのままドロシーの前を駆け抜け、反対方向から駆け寄ってきたアライグマへと斬り付ける。斧槍の刃よりも鮮やかな血飛沫が周囲に散った。
次いでグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)と央崎 枢(ka5153)が到着し、その後を息を切らせながらカール・フォルシアン(ka3702)と羊谷 めい(ka0669)が続く。
「気を付けて下さい、このアライグマ、毒を持っています!」
「可愛いだけじゃ無かったか!」
めいの叫び越えにグリムバルドが忌々しそうに顔を歪めながら飛び掛かって来たアライグマの爪をガントレットで弾き、殴り飛ばす。
枢がマシンガンを掃射し、周囲に近寄ってきていたアライグマ達を散らす。
追い打ちをかけるようにカールが扇状に炎を噴射する。
「狂気に感染しているだけなら本能で炎に怯えて退いてくれるといいのですが……」
残念ながら延焼効果のないスキルである為、周囲の雑草を燃やすことは出来ないが、マテリアルの炎を受けて燃え転がるアライグマと、短い手足からは想像も付かないほどの敏捷さで華麗に避けるアライグマで周囲は混乱状態となる。
その愛くるしい瞳は思わず目が合ってしまったカールの胸を容赦無く痛ませるが、すぐに頭を振って我を取り戻す。
「どんなに可愛らしくとも……行かせません!」
救急搬入口の前にめいを、中衛にカールとドロシーを。前衛にはアーサーとグリムバルドと枢が立ち、丁度三角形のように布陣した6人は、その背後、病院内からも銃声が聞こえ始めたことに気付く。
揺れる草の間から次々に飛びだしてくるアライグマを尽く返り討ちにしながら、6人は地響きのような音と振動が徐々に近付いて来ていることをハッキリと自覚する。
「……来る」
セイタカアワダチソウやススキの穂に阻まれた先。
それらを踏みつけ薙ぎ倒しながらこちらへ物凄いスピードで走り寄るのは体高が3mはあろうかという巨大な猪。それが3頭。その背や頭部にはまるでコブのようにべたりと狂気と分かる不気味な目が張り付いている。
そして180cmを越えるアーサーやさらには200cmを越えるグリムバルドにはその揺れる穂先の向こう、深く暗い森の木そのものが巨大なツキノワグマによって薙ぎ倒されたのが辛うじて見えたが熊がこちらへ接近してくる気配はみられない。
「前に出るぞ!」
「央崎さん、行ける!?」
「おう!」
「まずはイノシシ狩りだ!!」
アーサーの声を遮るように、地を這うような咆吼が6人の耳朶どころか全身を打った。
●
大地を揺さぶるような重低音が響き、黄色い花粉と白い綿穂が無残に散り、緑の壁の向こうに巨大な影が現れた。
「わぁお……」
思わず枢の口から引きつった驚嘆が漏れた。
明らかに、ススキの穂よりも高さがある。それが全速力でこちらへと周囲を薙ぎ倒しながら向かってくるとなれば、その迫力は凄まじい物がある。
「カールとドロシーとめいはそのままアライグマ対処と、熊がこっちに来ないか見張ってくれ!」
アーサーが端的に指示を出し走り出す。
その後を追ってグリムバルドと枢も走り出す。
グリムバルドが北側、アーサーが中央、そして枢が南側から全速力で走っても、荒れ放題伸び放題の草が3人の行く手を邪魔する一方で、まったく意に介さない猪たち。
「この勢いで病院に体当たりでもされでもしたら大変な事になるぞ! まずは脚を狙え!!」
アーサーの声に、「「了解!」」という声が威勢良く返る。
グリムバルドは猪を射程に捉えた瞬間、閃光を放つべきかこのまま接近するかで悩んだ。
悩んだ結果、接近を優先する。
巨体であるため2発は命中する計算だ。しかし運良く脚に当たればいいが、これは部位狙いが出来る訳では無い。
「……絶対に止める!!」
ギリギリまで接近して、デルタレイを放つ。
閃光は弾け飛び、それは目視出来るイノシシの胴に2発命中し、足元を駆け抜けようとしたアライグマも貫いた。
アーサーは自分へと猛進してくる敵を迎え撃つべく斧槍を構え、横薙ぎに振り払った。
それは猪と共にこちらへと向かってきていたアライグマ達も巻き込み絶命させる。
しかし、猪の走りを止める程の一撃を与えられない。
「くそっ!」
体当たりをすんでの所で交わすと、猪は急ブレーキを掛け地響きを立てて方向転換し、再びアーサーを見下すように睥睨する。
「……好敵手として認識してくれたか? 有り難くて涙が出るぜ」
だが、これで少なくとも救急搬入口前に3体が突っ込むという最悪の事態は間逃れた。
アーサーは大きく槍斧を振り上げると、再び突撃して来た猪に向かってその刃を叩き付けた。
枢は脚に神経を集中させ、一気に加速すると猪の前へと躍り出た。
猪が枢を視界に捕らえ、蹂躙せんと走り出す。踏みつけた――そう思った時には猪は自分の右前脚を失い無様に顔面から大地へと倒れていた。
枢は再び地を駆け起き上がろうともがく猪へと肉薄し、剣を構えたが、鼓膜をつんざくような咆吼に思わず耳を塞いだ。
しかし咆吼が止むと同時に剣を振り上げ、今度は右後ろ脚を切りつけた。
己の体重を支えられなくなった猪は地響きを立てて地面へと転がった。
「……近付いて来ました」
延々とアライグマを相手取っていたドロシーとカールへめいが静かに告げる。
前で巨大猪3頭が暴れているせいで地響きは続いていたが、それとはまた別に……姿を見せたまま森との境辺りを彷徨いていた熊がついにヒトの子が歩くようなゆっくりとした速度でこちらへと近付いて来るのが見えた。
「まだ遠い……アーサーさん達が帰ってくるのが早いか、あの熊が僕達の射程に入るのが先か……」
再び量が増えてきたアライグマ達を一掃するべくカールが炎をばらまく。
その時、めいがトランシーバーへと叫んだ。
「……!! みなさん、気を付けて! 熊が走り出しました!!」
めいの叫びに、アーサーとグリムバルドは同時に奥の森を振り返る。
●
猪が大暴れしてくれたお陰で周囲の草は見事に薙ぎ倒され視界はだいぶ開けてきた。
そのお陰もあって、熊の凶悪さもはっきりと視認出来た。後頚部に背部、そして腹部に狂気の目玉を宿した醜悪な、その姿。
「お前も狂気に乗っ取られてるのかよ」
アーサーが忌々しげに吐き捨てるように告げながら、猪の首元を貫いた槍斧を引き抜く。
ほぼ歪虚と化していた猪は絶命し、末端から徐々に塵へと還っていく。
「行けるか?!」
「とりあえず脚は潰した!」
アーサーの叫ぶような問いかけに、同じく叫ぶように返事をしてグリムバルドは鼻息荒く自分を睨み付けてくる猪に憐れみの視線を向け、すぐに走り出した。
一方トランシーバーを持ってきていない枢は、早期に猪を転がしてしまった結果、周囲の草を倒すことが出来ず、2人の声は聞こえたが2人がどこへ向かっているのか周囲の視界が悪く見えない。
先ほど見えていた熊が近付いて来ているのかも知れないとは察したが、ここにいても3m近い草の壁に遮られて詳細が分からない。
ともかく猪にトドメを刺して、念のため腹部に取り憑いていた狂気にも刃を沈めた。
塵に変わりつつある事を認めて、枢は一度救急搬入口前に戻ろうと踵を返し、その視界、やや草の勢いがまばらとなった隙間から右端の木が傾ぐのが見えた。
「まさか……!?」
そこから顔を出した新しい猪が搬入口を目指し駆け出すのを見て、枢もまた走り出した。
ドロシーが棍を構え、カールは銃で近付いて来る猪を撃ち抜いていく。
その銃弾は確かに猪の体部や脚部に吸い込まれているハズなのに、走りが鈍る事は無い。
ドロシーの棍の先から光線が三本現れ、うち2本が猪の頭部と体部を貫くが、これもまた歩みを止めるに至らない。
「きゃぁっ!!」
「ドロシーさん!!」
バチンという電気が弾ける音がして、猪は弾き飛ばされるように3歩後ろに下がった。
一方で猪の体当たりを喰らったドロシーは撥ね飛ばされて地面上に仰向けに転がった。
「今回復を!」
めいの祈りの力が直ぐ様ドロシーを包み傷を癒やす。
頭を振るような様子を見せた猪が再び前脚で地面を掻き、その重心を低くした瞬間、追いついた枢が体当たりするような勢いで刃を胴へと突き入れた。
凄まじい咆吼。だが、誰ひとりとして竦み上がりはしなかった。
「これで!」
蒼機杖の先端から花が咲き乱れるようにカールのマテリアルが集束、そして閃光となって拡散した。
3本の閃光は右前脚と左後ろ脚を貫き、その奥にいたアライグマも貫いた。
「大人しく、転がってろ!!」
枢が渾身の力を込めて左後ろ脚を狙うが、その後ろ脚で刃を受け止められたばかりかその勢いのまま枢は蹴り倒された。そして、猪は再び走り出した。めいのいる、搬入口に向かって。
「ったく、キリがねぇな。この辺の生態系はどうなってんだ?」
「全くだ。この国アライグマ多くないか? ちゃんと管理しないと畑がヤバいぞ。俺の実家みたいにな!」
アーサーが薙ぎ払いで周囲を一掃し、バックステップで距離を取った瞬間を狙ってグリムバルドが熊を中心に周囲のアライグマごと炎で焼いていく。
だが、敵がまだ猛獣や害獣で良かったとグリムバルドは心から思う。
……万が一、犬や兎だったりしたら魅了にかかるまでもなくグリムバルドの心が耐えられないところだった。
なるべくすぐに搬入口前に戻れる位置で戦う、それを心掛けていた2人だが、足元を邪魔するアライグマが集中力を乱し、油断すればひと薙ぎで頭部を持って行かれそうな熊の腕力が熊以外へ注意を向ける隙を与えない。
背後の戦闘音、トランシーバーから漏れ聞こえる音を聞く限り、搬入口前にも猪が出ているらしいことは分かっている。ゆえにフォローを呼ぶことは出来ない。そして同時にこちらが助けに行くことも出来ない。
アーサーが先ほど抉られた傷はグリムバルドのエナジーショットのお陰で既に塞がっている。
「俺達だけでやるぞ」
「望むところだ」
互いのこぶしを軽くぶつけ合うと、再び2人は熊を挟むように散り、得物を振るった。
●
「めいさん!!」
カールが叫んだ瞬間、光の障壁がめいを中心に搬入口ごとすっぽりと覆った。
その障壁に遮られて、猪はそれ以上前に進めない。
「……絶対に、通しちゃだめです」
めいの確固たる意思がこれ以上の猪の侵入を防ぐ。
「カール君!!」
ホッと胸を撫で下ろしたカールがドロシーの声に前を見ると、そこには砕かれた両の前脚を狂気の触手で無理矢理補強し繋げたような猪が立っている。
どうやら元のように俊敏な動きは出来ないようだが、その不気味さにカールは眉を顰める。
「生物だから脚を潰せば……って思ってたんだが、そうか。狂気だもんな……歪虚になっちゃってるんだもんな……」
枢が痛ましいモノを見るように声のトーンを落とす。
「……ってことは、もしかして、熊も?」
枢が気付き声を上げ、それをカールがトランシーバーで伝える。
「……なんてこったい」
「厄介な……」
報告を受けたアーサーとグリムバルドは、丁度連携攻撃が実って右腕を切り落としたところだった。
血飛沫が飛ぶ代わりにうぞうぞと蠢く触手を見た瞬間、グリムバルドの瞳から光が消える。
グリムバルドの様子の変化に気付いたアーサーが思わず目の前で手を振ってみせる。
「……大丈夫か?」
「……あぁ、なんか、うん、吹っ切れたかな?」
決して、今まで手を抜いていたわけでも無いし、突入部隊の命がかかっている訳だから一切容赦する気も無かったが。
「よし、やろう」
グリムバルドの今日1番の高火力が熊の胸部と腹部に命中し、肉を抉る。
それを見たアーサーは思わず両肩を竦めた後、衝撃波を持って奥にいたアライグマ達も一掃したのだった。
「っ!」
光のヴェールに凄い勢いで猪が突っ込んでくる。
だが、『絶対に突破させない』というめいの思いは強い。
「もう少しだけ凌いで下さい!!」
カールとドロシー、そして枢が三位一体となって、両前脚が不自由な猪へと今トドメを刺そうとしていた。
「行かせません!」
カールが身を挺して光の障壁で猪の進行を食い止める。
たたらを踏むように3歩下がった猪は、それでもなお前を目指す。
「しつこい!!」
高く飛び上がった枢の狙い澄ませた一撃が狂気の目玉ごとその背を貫いた。
断末魔の悲鳴を上げて猪がついに地面へと倒れる。事切れてその末端が塵へと変わるのを見て、すぐに3人は搬入口へと向き直る。
カールの最後の炎がアライグマ達を退け道を築くと、ドロシーが一足飛びに猪の背に飛び乗って、その棍の先で狂気の瞳を直接打った。
大きく身を捩った猪に振り払われるようにしてドロシーは地面へと投げ出されるが、すぐに態勢を立て直す。
「そこが、弱点か!」
枢が刃を閃かせて狙うものの、僅か届かず猪の尾を切り飛ばす。
両腕を無くした熊は、それでもその傷口から触手を生やし、アーサーとグリムバルドの猛攻にすら膝を付かず牙を剥き続けていた。
「タフ過ぎるだろ……!」
流れる汗を乱暴に拭い、アーサーはもう何度目かも忘れた薙ぎ払いで周囲の草ごと熊を斬り付ける。
もうデルタレイは打ち果たし、炎でもって周囲を掃討しながらグリムバルドもまた額を汗が流れていくのを感じていた。
その時だった。
背後からの轟音。その一瞬、熊から殺意が消えたような気がした。
「っらあああ!!」
アーサーの渾身の一撃が熊の首を切り飛ばした。
上階からストロボのような光が漏れ、轟音が響いた瞬間、めいは光のヴェールが消えると同時に光の衝撃破で猪を撃った。
猪は前脚を浮かせ、尻餅を着くように倒れ込むと、そのまま塵へと還っていく。
カールのブーツの爪先を囓っていたアライグマがぴたりと動きを止めると、カールを見て悲鳴を上げて逃げていく。
「……終わった、の……?」
逃げ出していくアライグマの背を見送った後、めいが上階を仰ぎ見上げる。
「……だと、いいな」
はぁ、と一息吐いた枢が、釣られるようにしてカールとドロシーも上階を見上げる。
どうなったのか、正しいところは仲間からの連絡を受けなければ分からないため、まだ警戒は解けない。
「皆、無事だといいが」
グリムバルドとアーサーが搬入口前に帰って来たのを見て、めいは微笑みながら癒しの言葉を紡ぐ。
吹き抜ける秋風にはもう、負のマテリアルは含まれていない。
きっと、良いように終わったのだと、確信めいた思いを抱きながら6人は中からの連絡を待ったのだった。
決めポーズをとるドロシー(kz0230)を見て、アーサー・ホーガン(ka0471)は思わず笑い声を上げた。
「こんな状況でも口上を欠かさねぇか。伊達に魔法少女やってないってわけだ。大したプロ意識だな」
全速力でドロシーを追いかけ、次いで救急搬入口に辿り着いたアーサーはそのままドロシーの前を駆け抜け、反対方向から駆け寄ってきたアライグマへと斬り付ける。斧槍の刃よりも鮮やかな血飛沫が周囲に散った。
次いでグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)と央崎 枢(ka5153)が到着し、その後を息を切らせながらカール・フォルシアン(ka3702)と羊谷 めい(ka0669)が続く。
「気を付けて下さい、このアライグマ、毒を持っています!」
「可愛いだけじゃ無かったか!」
めいの叫び越えにグリムバルドが忌々しそうに顔を歪めながら飛び掛かって来たアライグマの爪をガントレットで弾き、殴り飛ばす。
枢がマシンガンを掃射し、周囲に近寄ってきていたアライグマ達を散らす。
追い打ちをかけるようにカールが扇状に炎を噴射する。
「狂気に感染しているだけなら本能で炎に怯えて退いてくれるといいのですが……」
残念ながら延焼効果のないスキルである為、周囲の雑草を燃やすことは出来ないが、マテリアルの炎を受けて燃え転がるアライグマと、短い手足からは想像も付かないほどの敏捷さで華麗に避けるアライグマで周囲は混乱状態となる。
その愛くるしい瞳は思わず目が合ってしまったカールの胸を容赦無く痛ませるが、すぐに頭を振って我を取り戻す。
「どんなに可愛らしくとも……行かせません!」
救急搬入口の前にめいを、中衛にカールとドロシーを。前衛にはアーサーとグリムバルドと枢が立ち、丁度三角形のように布陣した6人は、その背後、病院内からも銃声が聞こえ始めたことに気付く。
揺れる草の間から次々に飛びだしてくるアライグマを尽く返り討ちにしながら、6人は地響きのような音と振動が徐々に近付いて来ていることをハッキリと自覚する。
「……来る」
セイタカアワダチソウやススキの穂に阻まれた先。
それらを踏みつけ薙ぎ倒しながらこちらへ物凄いスピードで走り寄るのは体高が3mはあろうかという巨大な猪。それが3頭。その背や頭部にはまるでコブのようにべたりと狂気と分かる不気味な目が張り付いている。
そして180cmを越えるアーサーやさらには200cmを越えるグリムバルドにはその揺れる穂先の向こう、深く暗い森の木そのものが巨大なツキノワグマによって薙ぎ倒されたのが辛うじて見えたが熊がこちらへ接近してくる気配はみられない。
「前に出るぞ!」
「央崎さん、行ける!?」
「おう!」
「まずはイノシシ狩りだ!!」
アーサーの声を遮るように、地を這うような咆吼が6人の耳朶どころか全身を打った。
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大地を揺さぶるような重低音が響き、黄色い花粉と白い綿穂が無残に散り、緑の壁の向こうに巨大な影が現れた。
「わぁお……」
思わず枢の口から引きつった驚嘆が漏れた。
明らかに、ススキの穂よりも高さがある。それが全速力でこちらへと周囲を薙ぎ倒しながら向かってくるとなれば、その迫力は凄まじい物がある。
「カールとドロシーとめいはそのままアライグマ対処と、熊がこっちに来ないか見張ってくれ!」
アーサーが端的に指示を出し走り出す。
その後を追ってグリムバルドと枢も走り出す。
グリムバルドが北側、アーサーが中央、そして枢が南側から全速力で走っても、荒れ放題伸び放題の草が3人の行く手を邪魔する一方で、まったく意に介さない猪たち。
「この勢いで病院に体当たりでもされでもしたら大変な事になるぞ! まずは脚を狙え!!」
アーサーの声に、「「了解!」」という声が威勢良く返る。
グリムバルドは猪を射程に捉えた瞬間、閃光を放つべきかこのまま接近するかで悩んだ。
悩んだ結果、接近を優先する。
巨体であるため2発は命中する計算だ。しかし運良く脚に当たればいいが、これは部位狙いが出来る訳では無い。
「……絶対に止める!!」
ギリギリまで接近して、デルタレイを放つ。
閃光は弾け飛び、それは目視出来るイノシシの胴に2発命中し、足元を駆け抜けようとしたアライグマも貫いた。
アーサーは自分へと猛進してくる敵を迎え撃つべく斧槍を構え、横薙ぎに振り払った。
それは猪と共にこちらへと向かってきていたアライグマ達も巻き込み絶命させる。
しかし、猪の走りを止める程の一撃を与えられない。
「くそっ!」
体当たりをすんでの所で交わすと、猪は急ブレーキを掛け地響きを立てて方向転換し、再びアーサーを見下すように睥睨する。
「……好敵手として認識してくれたか? 有り難くて涙が出るぜ」
だが、これで少なくとも救急搬入口前に3体が突っ込むという最悪の事態は間逃れた。
アーサーは大きく槍斧を振り上げると、再び突撃して来た猪に向かってその刃を叩き付けた。
枢は脚に神経を集中させ、一気に加速すると猪の前へと躍り出た。
猪が枢を視界に捕らえ、蹂躙せんと走り出す。踏みつけた――そう思った時には猪は自分の右前脚を失い無様に顔面から大地へと倒れていた。
枢は再び地を駆け起き上がろうともがく猪へと肉薄し、剣を構えたが、鼓膜をつんざくような咆吼に思わず耳を塞いだ。
しかし咆吼が止むと同時に剣を振り上げ、今度は右後ろ脚を切りつけた。
己の体重を支えられなくなった猪は地響きを立てて地面へと転がった。
「……近付いて来ました」
延々とアライグマを相手取っていたドロシーとカールへめいが静かに告げる。
前で巨大猪3頭が暴れているせいで地響きは続いていたが、それとはまた別に……姿を見せたまま森との境辺りを彷徨いていた熊がついにヒトの子が歩くようなゆっくりとした速度でこちらへと近付いて来るのが見えた。
「まだ遠い……アーサーさん達が帰ってくるのが早いか、あの熊が僕達の射程に入るのが先か……」
再び量が増えてきたアライグマ達を一掃するべくカールが炎をばらまく。
その時、めいがトランシーバーへと叫んだ。
「……!! みなさん、気を付けて! 熊が走り出しました!!」
めいの叫びに、アーサーとグリムバルドは同時に奥の森を振り返る。
●
猪が大暴れしてくれたお陰で周囲の草は見事に薙ぎ倒され視界はだいぶ開けてきた。
そのお陰もあって、熊の凶悪さもはっきりと視認出来た。後頚部に背部、そして腹部に狂気の目玉を宿した醜悪な、その姿。
「お前も狂気に乗っ取られてるのかよ」
アーサーが忌々しげに吐き捨てるように告げながら、猪の首元を貫いた槍斧を引き抜く。
ほぼ歪虚と化していた猪は絶命し、末端から徐々に塵へと還っていく。
「行けるか?!」
「とりあえず脚は潰した!」
アーサーの叫ぶような問いかけに、同じく叫ぶように返事をしてグリムバルドは鼻息荒く自分を睨み付けてくる猪に憐れみの視線を向け、すぐに走り出した。
一方トランシーバーを持ってきていない枢は、早期に猪を転がしてしまった結果、周囲の草を倒すことが出来ず、2人の声は聞こえたが2人がどこへ向かっているのか周囲の視界が悪く見えない。
先ほど見えていた熊が近付いて来ているのかも知れないとは察したが、ここにいても3m近い草の壁に遮られて詳細が分からない。
ともかく猪にトドメを刺して、念のため腹部に取り憑いていた狂気にも刃を沈めた。
塵に変わりつつある事を認めて、枢は一度救急搬入口前に戻ろうと踵を返し、その視界、やや草の勢いがまばらとなった隙間から右端の木が傾ぐのが見えた。
「まさか……!?」
そこから顔を出した新しい猪が搬入口を目指し駆け出すのを見て、枢もまた走り出した。
ドロシーが棍を構え、カールは銃で近付いて来る猪を撃ち抜いていく。
その銃弾は確かに猪の体部や脚部に吸い込まれているハズなのに、走りが鈍る事は無い。
ドロシーの棍の先から光線が三本現れ、うち2本が猪の頭部と体部を貫くが、これもまた歩みを止めるに至らない。
「きゃぁっ!!」
「ドロシーさん!!」
バチンという電気が弾ける音がして、猪は弾き飛ばされるように3歩後ろに下がった。
一方で猪の体当たりを喰らったドロシーは撥ね飛ばされて地面上に仰向けに転がった。
「今回復を!」
めいの祈りの力が直ぐ様ドロシーを包み傷を癒やす。
頭を振るような様子を見せた猪が再び前脚で地面を掻き、その重心を低くした瞬間、追いついた枢が体当たりするような勢いで刃を胴へと突き入れた。
凄まじい咆吼。だが、誰ひとりとして竦み上がりはしなかった。
「これで!」
蒼機杖の先端から花が咲き乱れるようにカールのマテリアルが集束、そして閃光となって拡散した。
3本の閃光は右前脚と左後ろ脚を貫き、その奥にいたアライグマも貫いた。
「大人しく、転がってろ!!」
枢が渾身の力を込めて左後ろ脚を狙うが、その後ろ脚で刃を受け止められたばかりかその勢いのまま枢は蹴り倒された。そして、猪は再び走り出した。めいのいる、搬入口に向かって。
「ったく、キリがねぇな。この辺の生態系はどうなってんだ?」
「全くだ。この国アライグマ多くないか? ちゃんと管理しないと畑がヤバいぞ。俺の実家みたいにな!」
アーサーが薙ぎ払いで周囲を一掃し、バックステップで距離を取った瞬間を狙ってグリムバルドが熊を中心に周囲のアライグマごと炎で焼いていく。
だが、敵がまだ猛獣や害獣で良かったとグリムバルドは心から思う。
……万が一、犬や兎だったりしたら魅了にかかるまでもなくグリムバルドの心が耐えられないところだった。
なるべくすぐに搬入口前に戻れる位置で戦う、それを心掛けていた2人だが、足元を邪魔するアライグマが集中力を乱し、油断すればひと薙ぎで頭部を持って行かれそうな熊の腕力が熊以外へ注意を向ける隙を与えない。
背後の戦闘音、トランシーバーから漏れ聞こえる音を聞く限り、搬入口前にも猪が出ているらしいことは分かっている。ゆえにフォローを呼ぶことは出来ない。そして同時にこちらが助けに行くことも出来ない。
アーサーが先ほど抉られた傷はグリムバルドのエナジーショットのお陰で既に塞がっている。
「俺達だけでやるぞ」
「望むところだ」
互いのこぶしを軽くぶつけ合うと、再び2人は熊を挟むように散り、得物を振るった。
●
「めいさん!!」
カールが叫んだ瞬間、光の障壁がめいを中心に搬入口ごとすっぽりと覆った。
その障壁に遮られて、猪はそれ以上前に進めない。
「……絶対に、通しちゃだめです」
めいの確固たる意思がこれ以上の猪の侵入を防ぐ。
「カール君!!」
ホッと胸を撫で下ろしたカールがドロシーの声に前を見ると、そこには砕かれた両の前脚を狂気の触手で無理矢理補強し繋げたような猪が立っている。
どうやら元のように俊敏な動きは出来ないようだが、その不気味さにカールは眉を顰める。
「生物だから脚を潰せば……って思ってたんだが、そうか。狂気だもんな……歪虚になっちゃってるんだもんな……」
枢が痛ましいモノを見るように声のトーンを落とす。
「……ってことは、もしかして、熊も?」
枢が気付き声を上げ、それをカールがトランシーバーで伝える。
「……なんてこったい」
「厄介な……」
報告を受けたアーサーとグリムバルドは、丁度連携攻撃が実って右腕を切り落としたところだった。
血飛沫が飛ぶ代わりにうぞうぞと蠢く触手を見た瞬間、グリムバルドの瞳から光が消える。
グリムバルドの様子の変化に気付いたアーサーが思わず目の前で手を振ってみせる。
「……大丈夫か?」
「……あぁ、なんか、うん、吹っ切れたかな?」
決して、今まで手を抜いていたわけでも無いし、突入部隊の命がかかっている訳だから一切容赦する気も無かったが。
「よし、やろう」
グリムバルドの今日1番の高火力が熊の胸部と腹部に命中し、肉を抉る。
それを見たアーサーは思わず両肩を竦めた後、衝撃波を持って奥にいたアライグマ達も一掃したのだった。
「っ!」
光のヴェールに凄い勢いで猪が突っ込んでくる。
だが、『絶対に突破させない』というめいの思いは強い。
「もう少しだけ凌いで下さい!!」
カールとドロシー、そして枢が三位一体となって、両前脚が不自由な猪へと今トドメを刺そうとしていた。
「行かせません!」
カールが身を挺して光の障壁で猪の進行を食い止める。
たたらを踏むように3歩下がった猪は、それでもなお前を目指す。
「しつこい!!」
高く飛び上がった枢の狙い澄ませた一撃が狂気の目玉ごとその背を貫いた。
断末魔の悲鳴を上げて猪がついに地面へと倒れる。事切れてその末端が塵へと変わるのを見て、すぐに3人は搬入口へと向き直る。
カールの最後の炎がアライグマ達を退け道を築くと、ドロシーが一足飛びに猪の背に飛び乗って、その棍の先で狂気の瞳を直接打った。
大きく身を捩った猪に振り払われるようにしてドロシーは地面へと投げ出されるが、すぐに態勢を立て直す。
「そこが、弱点か!」
枢が刃を閃かせて狙うものの、僅か届かず猪の尾を切り飛ばす。
両腕を無くした熊は、それでもその傷口から触手を生やし、アーサーとグリムバルドの猛攻にすら膝を付かず牙を剥き続けていた。
「タフ過ぎるだろ……!」
流れる汗を乱暴に拭い、アーサーはもう何度目かも忘れた薙ぎ払いで周囲の草ごと熊を斬り付ける。
もうデルタレイは打ち果たし、炎でもって周囲を掃討しながらグリムバルドもまた額を汗が流れていくのを感じていた。
その時だった。
背後からの轟音。その一瞬、熊から殺意が消えたような気がした。
「っらあああ!!」
アーサーの渾身の一撃が熊の首を切り飛ばした。
上階からストロボのような光が漏れ、轟音が響いた瞬間、めいは光のヴェールが消えると同時に光の衝撃破で猪を撃った。
猪は前脚を浮かせ、尻餅を着くように倒れ込むと、そのまま塵へと還っていく。
カールのブーツの爪先を囓っていたアライグマがぴたりと動きを止めると、カールを見て悲鳴を上げて逃げていく。
「……終わった、の……?」
逃げ出していくアライグマの背を見送った後、めいが上階を仰ぎ見上げる。
「……だと、いいな」
はぁ、と一息吐いた枢が、釣られるようにしてカールとドロシーも上階を見上げる。
どうなったのか、正しいところは仲間からの連絡を受けなければ分からないため、まだ警戒は解けない。
「皆、無事だといいが」
グリムバルドとアーサーが搬入口前に帰って来たのを見て、めいは微笑みながら癒しの言葉を紡ぐ。
吹き抜ける秋風にはもう、負のマテリアルは含まれていない。
きっと、良いように終わったのだと、確信めいた思いを抱きながら6人は中からの連絡を待ったのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/16 20:49:25 |
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絶対防衛作戦相談 央崎 枢(ka5153) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/10/21 00:49:16 |