ゲスト
(ka0000)
【転臨】魔術師の弟子、ユグディラと共に
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/24 09:00
- 完成日
- 2017/11/01 09:56
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●坊ちゃん、見回り
屋敷を出た、領主の跡取り息子リシャール・べリンガーは同道するハンターにくっついていく。舞刀士としての実力は少しずつ身に着け、少しずつ戦うことへの道も考えられるようになった。
とはいえ、今回は見回り。
イスルダ島での戦いの状況や各地で起こる変事に関しては耳にしている。しかし、実際は見ないと分からない上、どこまで力を入れるべきかわからないでいるというのが実情だ。
最低限の行動をとることにリシャールの父親は選んだ。
そして、城壁のある小さな町に領主の息子の役割として激励も含め出かけたのだった。
ここまでは緊張感もありながらも、遠乗りの域を出なかった。
しかし、小さな町フォークベリーに近づくと、閉じられることがない門が閉ざされ、異様な様子だった。
●変事
リシャールが道を走っているころまで時間は戻る。
小さな町に住む魔術師の弟子ルゥルは城壁をくぐって薬草園に向かおうとした。手伝う約束をしていたので、朝の勉強を終え、弁当を持って向かう。
道をまっすぐ行き橋を渡り、林の中のY字の道を右に進めばたどり着く。歩いて十分から十五分だろう。
が、ルゥルは橋の前で足を止めた。
ユグディラのキソシロが「シャッ!」と威嚇した。肩の上でフェレットのフレオが震え、頭の上ではパルムのポルムが何か訴えている。
ルゥルだって、気づいている。
林の手前に黒いシミがあることに。
正しくは人の形をした何かである。何かとは――。
「みぎゃあああ」
フレオが震えて落ちてきたのを慌ててつかむ。持っていた籠にポルムも一緒に入れた。逃げるときに落としたことがあるからだ。
ルゥルは一瞬、城壁の外にある薬草園に行かねばと思った。そこにいる人たちは覚醒者でも何でもない人間だ。だが、教えに行くにはそれとすれ違わねばならない。
そもそも、それがなぜこのようなところにいるのかがわからない。目的が分からない。
(たくさん人がいる所を守らないとならないのです。薬草園は人が少ないですし……歪虚はきっとこっちに来るです)
ルゥルは唇を噛む。
「キソシロ、逃げるですよ」
「ニャ」
そこにいるのはどうあがいてもルゥル一人でどうしようもない相手だ。
「みぎゃああああああ」
ルゥルは走り出した。
そのシミも動き始めた。
ルゥルは門をくぐったところで叫んだ。
「門番さん、閉じるですううう。あと、戦闘準備です。薬草園にジャイルズさんたちいるんですうう。マークさん、マークさんを呼ばないと、あと、ハンターさんとソサエティですうう、領主さんですうう」
ルゥルが半ばパニックで並べ立てる。
門番は困惑したが、外を見て悲鳴を上げた。
そして、城壁に鐘が鳴り、一気に警戒態勢に入った。
●緊急
光を刈り取る蜘蛛メフィストがここに来た理由は、現時点で定かではない。
「小さいのが走っていきましたね」
一歩一歩もったいぶるように近づく。
ついてくるキメラ型の歪虚の一部は別の方を見ている。
「あちらにも何かいるんですね……まあ、気になるならば行ってかまいませんよ」
町自体は小さい上、大した防備もない。供が寄り道をしたところで問題が生じるなどありえない。
返答を聞き、キメラの一頭は嬉しそうに一鳴きした。
「さて、扉が閉まったとしてもすぐに開くでしょう。いえ、正しくは、壁がなくなり扉も役割を失うのです」
漆黒の炎と見まがうような負のマテリアルが放たれる。
城壁は大きく揺れた。
城壁に囲まれた町をリシャールは愛馬ポチで走っていると大きな音と振動があった。
「道を開けてくださいっ! 私たちを通してください。シャールズ・べリンガーが息子リシャール・べリンガーです。ハンターも一緒です! まず、建物に避難を」
「リシャール君」
教会からマーク司祭が現れる。手には法具を持ち、馬を引いている。
「ルゥルがいません」
「……!」
「薬草園に行くと出かけて行ったのは見たのです」
「つまり、あの人たちも外にいるということですか?」
すでに何者かの攻撃が行われている現在、時間に猶予はない。情報もないため、一行は城門の方に急ぐしかなかった。
屋敷を出た、領主の跡取り息子リシャール・べリンガーは同道するハンターにくっついていく。舞刀士としての実力は少しずつ身に着け、少しずつ戦うことへの道も考えられるようになった。
とはいえ、今回は見回り。
イスルダ島での戦いの状況や各地で起こる変事に関しては耳にしている。しかし、実際は見ないと分からない上、どこまで力を入れるべきかわからないでいるというのが実情だ。
最低限の行動をとることにリシャールの父親は選んだ。
そして、城壁のある小さな町に領主の息子の役割として激励も含め出かけたのだった。
ここまでは緊張感もありながらも、遠乗りの域を出なかった。
しかし、小さな町フォークベリーに近づくと、閉じられることがない門が閉ざされ、異様な様子だった。
●変事
リシャールが道を走っているころまで時間は戻る。
小さな町に住む魔術師の弟子ルゥルは城壁をくぐって薬草園に向かおうとした。手伝う約束をしていたので、朝の勉強を終え、弁当を持って向かう。
道をまっすぐ行き橋を渡り、林の中のY字の道を右に進めばたどり着く。歩いて十分から十五分だろう。
が、ルゥルは橋の前で足を止めた。
ユグディラのキソシロが「シャッ!」と威嚇した。肩の上でフェレットのフレオが震え、頭の上ではパルムのポルムが何か訴えている。
ルゥルだって、気づいている。
林の手前に黒いシミがあることに。
正しくは人の形をした何かである。何かとは――。
「みぎゃあああ」
フレオが震えて落ちてきたのを慌ててつかむ。持っていた籠にポルムも一緒に入れた。逃げるときに落としたことがあるからだ。
ルゥルは一瞬、城壁の外にある薬草園に行かねばと思った。そこにいる人たちは覚醒者でも何でもない人間だ。だが、教えに行くにはそれとすれ違わねばならない。
そもそも、それがなぜこのようなところにいるのかがわからない。目的が分からない。
(たくさん人がいる所を守らないとならないのです。薬草園は人が少ないですし……歪虚はきっとこっちに来るです)
ルゥルは唇を噛む。
「キソシロ、逃げるですよ」
「ニャ」
そこにいるのはどうあがいてもルゥル一人でどうしようもない相手だ。
「みぎゃああああああ」
ルゥルは走り出した。
そのシミも動き始めた。
ルゥルは門をくぐったところで叫んだ。
「門番さん、閉じるですううう。あと、戦闘準備です。薬草園にジャイルズさんたちいるんですうう。マークさん、マークさんを呼ばないと、あと、ハンターさんとソサエティですうう、領主さんですうう」
ルゥルが半ばパニックで並べ立てる。
門番は困惑したが、外を見て悲鳴を上げた。
そして、城壁に鐘が鳴り、一気に警戒態勢に入った。
●緊急
光を刈り取る蜘蛛メフィストがここに来た理由は、現時点で定かではない。
「小さいのが走っていきましたね」
一歩一歩もったいぶるように近づく。
ついてくるキメラ型の歪虚の一部は別の方を見ている。
「あちらにも何かいるんですね……まあ、気になるならば行ってかまいませんよ」
町自体は小さい上、大した防備もない。供が寄り道をしたところで問題が生じるなどありえない。
返答を聞き、キメラの一頭は嬉しそうに一鳴きした。
「さて、扉が閉まったとしてもすぐに開くでしょう。いえ、正しくは、壁がなくなり扉も役割を失うのです」
漆黒の炎と見まがうような負のマテリアルが放たれる。
城壁は大きく揺れた。
城壁に囲まれた町をリシャールは愛馬ポチで走っていると大きな音と振動があった。
「道を開けてくださいっ! 私たちを通してください。シャールズ・べリンガーが息子リシャール・べリンガーです。ハンターも一緒です! まず、建物に避難を」
「リシャール君」
教会からマーク司祭が現れる。手には法具を持ち、馬を引いている。
「ルゥルがいません」
「……!」
「薬草園に行くと出かけて行ったのは見たのです」
「つまり、あの人たちも外にいるということですか?」
すでに何者かの攻撃が行われている現在、時間に猶予はない。情報もないため、一行は城門の方に急ぐしかなかった。
リプレイ本文
●ルゥル解説する
リシャール・べリンガーとハンターたちがもう一方の城門の入り口に到着した。
ルゥル(kz0210)が「みぎゃあ」と泣きながら、マーク司祭に飛びつく。
「薬草園に行ったんじゃなかったのですか?」
「途中で引き返したです」
マーク司祭の問いかけにルゥルは何があったか説明をしようとした。しかし、城壁を狙った攻撃で、激しい音が響き、黙った。
マリィア・バルデス(ka5848)はルゥルの無事を見て胸をなでおろす。
「ルゥル……無事でよかった……でも……まずは何がいて、何が起こっているのか確認をしないと。十中八九、敵なのは間違いないわね」
大型の銃器を取り出す。
各地に光を刈り取る蜘蛛メフィストが出現しているという話からの見回りだ。ハンターに抜かりはなく、その対策はしてある。ハンターたちは移動しつつ、状況説明を受ける。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)はイェジドのヴァーミリオン――通称ヴァン――から下り、城壁の中は歩く。
「で、状況はどうなんだ? おまえが詳しそうだな」
「えとー、前にハンターソサエティで見たメフィストとかっこいい動物……キメラな歪虚がいるのです」
ルゥルはボルディアに問われて説明した。
かっこいい動物と聞いてリシャールが眉をしかめる。以前、この近辺にでたキメラを思い出したからだ。ルゥルにもリシャールにも苦い思い出である。
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)はルゥルが見たモノを聞き、怜悧な顔を一瞬ゆがめた。
「奴らは確実に仕留めなければな……歪虚は、な……」
扉のところにたどり着く。
「あと、薬草園にジャイルズさんたちがいるです。人間いると歪虚って襲う可能性あるですよね」
ルゥルが心配そうにしている。
「見張りが、一体そっちに向かったと言っています」
兵士がリシャールに告げた。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は目を見開く。そして、連れているリーリーの手綱をグイッと引っ張る。
「私は薬草園に行くの」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)もリーリーのアザリア――愛称はアザリーの手綱を引く。そして、リシャールを見た。
「オレも薬草園を助けることを優先するぜ」
「ステラちゃんと一緒なら、かなり早くキメラを落して戻ってこられると思うの」
ディーナが笑顔を見せた。
「……最短距離で行きたい、道がわかる奴がいる方がいい。リシャール、行くつもりなら、ポチはおいて、アザリーの後ろに乗れ、その方が速い」
リシャールは自分が出ていいのか一瞬悩んだ。
アシェ-ル(ka2983)はまなじりを吊り上げた。抱き抱えられているユグディラのカジディラも「にゃ」と鳴く。
「悩んでいる時間はありません。薬草園のことを考えるならば、行ってください」
ルカ(ka0962)はうなずきながら、出撃のためにバイクにまたがった。ユグディラの璃梨がその背に張り付く。
「どれがいいか悩んでいる場合ではありません。死ぬ気はさらさらありませんし、人的被害の軽減に努めるつもりです」
きっぱりとルカは告げる。情報から、城壁の外には誰もいない状況になっているという。
小宮・千秋(ka6272)はユグディラのセバスニャンを撫でる。
「ほいほーい! セバスニャンさん、出撃でーす! 城壁に自爆特攻なんてされたらたまりません!」
それを聞き、リシャールはきゅっと唇を結ぶ。
「分かりました。ステラさん、よろしくお願いします。これより、皆さん、反撃です!」
●反撃へ
扉を開けるとリーリーたちが飛び出す。
「あいつらは無視な。アザリー、川の方から行くぞ」
アザリーはステラの指示により、弾丸のように飛び出す。すさまじい脚力を以て、飛ぶように進む。川の途中で着地したときにしぶきが上がる。
「ついて行くのー、リーリー」
ディーナがそれに続いていく。リーリーは同じく【リーリージャンプ】を用いて飛ぶように走る。
ステラの後ろに引っ付くリシャールは、橋の手前にいるメフィストの姿を胸に刻み込んだ。
コーネリアは射撃武器を持つ兵士に声をかけた。
「奴が死ぬか引き下がるまで一秒たりとも攻撃を絶やすな。城壁を突破されたくなかったらな」
高位の歪虚の出現に怯え気味だった兵士に活が入る。
マリィアはリーリーが出た直後、バイクで出撃するルカと並走して出た。ルカはユグディラの璃梨も載せているため、若干慎重になる。
「先に行くわよ!」
マリィアは城壁寄りではあるが、歪虚を攻撃できる位置で止まると素早く攻撃をした。天に放たれた銃弾がキメラに降り注ぐ。
「回復を優先して、あとは隠れてください」
ルカは弾丸が降り注いだ直後通り過ぎる。その間に、璃梨に簡単な指示を出しておく。細かいことはその時々に出す。
ヴァーミリオンの背に乗り、駆け抜けるボルディア。
「いいか、ヴァン。指示は二つだ。一つ、仲間の言うことは素直に聞け。二つ、テメェの強さをあの木偶の坊どもに見せてやれ!」
メフィストの前で別れる。ボルディアは不敵な笑みとともに、対峙した。ヴァーミリオンは引き返し、キメラに躍りかかる。
アシェ-ルは城壁の兵士たちに注意をする。
「【強制】といって、命令を付与する能力があるそうです、非覚醒者は危険ですのでできれば下がってください。【懲罰】というのは攻撃を反射してくるような能力です。無理はしないで下がってください」
そして、魔法が届く位置まで急いだ。
千秋は一体だけ離れているキメラの歪虚に向かう。射撃を得意とする者の援護はあるだろう。
「責任重大ですー。調教師としても頑張りますよー」
千秋は構えた。
門を閉めるわけにもいかず、ルゥルがその前に【アースウォール】を作った。これで直接の攻撃や侵入は防げるはずだ。そのそばにマークがいる。もしもの場合、彼の力が生かされる。
メフィストは次には接敵し攻撃するだろう者たちを巻き込む魔法を放った。彼を中心に漆黒の闇が発され、ハンターを圧倒したのだった。
●薬草園
リーリーの足は速いが到着する時間は歯がゆい。近づくにつれてバイオリンの音が届くようになる。
「アザリー、柵を飛び越えろ!」
「くええええ」
アザリーは地を力強く踏み切り、羽を羽ばたかせ舞った。
「リーリーもいくのー」
ディーナのリーリーも了承した旨の鳴き声を発し、柵を飛び越す。
宙を舞い、ふわりとしたからだが浮く感覚の後、地面に到達した衝撃を受ける。リシャールはすぐに動けないが、ステラとディーナは素早く状況を確認した。
道側の柵が壊されいくつもの植物が荒らされている。動物のキメラのような歪虚がいる。
離れたところに建物は見える。その手前には猟銃を構えた中年男性ジャイルズ・バルネがいる。彼を守るように、黒い毛並みのユグディラのクロがバイオリンを前足に立っていた。
「リシャール、何か名案はあるか?」
「ありません……」
「分かった。途中までは運ぶ、ひきつけるのは頼んだ」
リシャールが震えるのがステラの背に伝わる。
「援護はするし、ディーナもいる。だから、奴の動きだけ見てろ。やばくなったら遠慮なく下がれ」
「は、はい」
「任せるのー。行くのー。こいつを早く倒して、あっちに合流するのー」
ディーナはメイスを握りしめた。
「あんたは下がれ!」
ステラはジャイルズに声をかけ、間に割って入る。途中でリシャールを下す。
このとき、ユグディラのクロはバイオリンで弾く曲を変えた。
『すまない。援護はする』
クロの言葉は通じないが、気持ちは通じた。彼が引き始めた曲から力を得たからだ。
「助かる」
ステラは礼を述べると同時にキメラに弾丸を叩き込んだ。
「リーリーはあっちにいってなの。こいつは自爆するかもしれないのー、だから、危ないなと思ったら下がるのー」
ディーナはマテリアルを込めてメイスをキメラに振り下ろしつつ、リーリーから降りる。後半はリシャールへの助言だ。
リシャールは助言を聞き「はい」と答え、刀を抜くと技を使い攻撃をした。それをキメラは避けた。
「攻撃することが重要なの」
ディーナは敵を見すえる。
「ステラちゃんを気にせず自分だけに集中していいの」
リシャールに助言をしていたディーナがキメラに噛みつかれる。鎧で止めきれなかった分が、前もってかけていた【アンチボディ】で軽減される。
「このくらい問題ないのー」
「頼りにしてる」
ステラからの高速で撃ち出される銃弾がキメラを穿つ。そこにディーナとリシャールの攻撃が叩き込まれる。
着実に敵にダメージは与えていた。何度目かのハンターたちの攻撃の後、キメラの動きが変わる。
「にゃあ」
「下がれっ!」
クロとステラの忠告が飛ぶ。
リシャールは反応が遅かったが、ディーナに突き飛ばされるように後方に移動する。
激しい爆風が前にいた二人を襲う。
「負けないのー」
ディーナは【ホーリーヴェール】を展開した。
薬草園の主ジャイルズは泰然自若としているように見える。小屋の中には助手のコリンのユグディラのチャや家畜たちがいた。
「何があったかと問う時間はあるか?」
ステラはジャイルズが緊迫している状況を理解していると感じた。
「時間は惜しい。リシャールがここに残って答えてくれ」
「……町の方をよろしくお願いします」
「ここを守るのも重要だぞ」
ステラが告げるとリシャールがハッとする。城壁も何もなく、戦えるのは自分だけなため、何かあったら席には重い。
リシャールの横にクロが立ち、ツンツンとズボンを引っ張り「にゃあ」と告げた。
「独りじゃないのー」
ディーナの言葉にクロがうなずいた。
「リシャール、あいつがさっき位置にいるとして、ここから向かうなら、川沿いからの方がいいか?」
ステラの問いかけにリシャールは首を横に振る。
「道なりに行ったほうが目立ちません」
ステラが礼をいい、アザリアに乗る。
「用心をしつつ朗報を待ってなのー」
ディーナはリーリーにまたがった。
●激戦
コーネリアは離れたところからキメラを狙う。仲間や敵の動きを見つつ、臨機応変に足止めや攻撃をすることになる。
「ここには近づかせない。確実に滅する。それと援護は確実にする」
技で足止めを行い、その上で攻撃を行っていく。イェジドに向かったキメラに向かってマテリアルを込めた弾丸を叩き込んだ。
ヴァーミリオンは一体のキメラに対し【フェンリルライズ】を使った上でキメラをかみ砕こうとした。一体ずつ各実に倒していくことが重要と指示を考え実行する。
キメラは反撃とばかりにヴァーミリオンに爪を突き立てた。
千秋は対峙するキメラを転ばせたり、相手の動きを利用し反撃したりしていた。セバスニャンに指示を出す。
「調教師らしく、セバスニャンさんとのコンビネーションも忘れませんよー。あちらの方を治してあげてください」
「にゃ」
セバスニャンが動いた。
マリィアはメフィスト込みで攻撃できる方向を模索するが、難しいようだと判断した。そして、ヴァーミリオンが足止めしている二体を狙って【ハウンドバレット】を放つ。臨機応変に技を変えていく。
「城壁より幻獣が気になるのか?」
キメラの歪虚が城壁に向かわないのは良い。そして、離れているときに倒してしまうことが重要だった。
メフィストの威嚇にも似た攻撃を受けたルカは後ろに隠れた璃梨の心配をする。
「無事ですか」
「にゃ」
盾を構え直したルカは【レジスト】をボルディアに掛ける。
ボルディアがメフィストに挑発のため前に出ていたのだった。
「コツコツとマメだなっ! 町でも城壁がある場所をつぶせば、テメェも通りやすくなるって戦略か? 変態仮面!」
倒すことよりも、足止めすることが目的だ。城壁から引き離し、薬草園の方に行かせないためだ。倒せればいいが、戦力が分散しているときは難しいと考えた。
アシェ-ルが【双術】の魔法を組み上げたところに【ホーリーライト】を載せた。
「【懲罰】だって、万能じゃないはず。同時攻撃で返せる威力が倍増になるとは思えません!」
つぶやくそばからダメージが返るのを感じた。後ろでカジディラが回復魔法を使ってくれたのを知る。
冷たい目がハンターに向けられる。
「これで、私を足止めしたと思っているのですか?」
メフィストの魔法とは先のと異なり、遠距離に飛ぶ。
アシェ-ルとルカが後方から攻撃に巻き込まれる。
失敗したルカを脳裏に一瞬、この世界に一緒に来た女性の顔がよぎり「死なれたら困る」という声がした気がした。
「この程度……」
唇を噛むと次はどうすべきか思考を切り替えた。
この直後、一匹のキメラはボルディアに向かって突進していった。
ボルディアに向かったキメラに、足止めのための銃弾がコーネリアから放たれる。
キメラは回避し、ボルディアに爪を立てる。
「想定済みだ」
盾で受け、反撃を試みた。
ルカはメフィストに集中する。それと、璃梨に離れるように指示した。
「まずは自分の回復をしてください」
城壁に近づきすぎず、自分たちより離れることが重要と考える。効率を考えればユグディラ離れているユグディラを狙うことは少ないだろう。
「カジディラも離れてください。こっちは攻撃を続けます」
カジディラはアシェ-ルに回復魔法を使った後、離れた。彼女を守るにしても自分がよれよれでは駄目だと分かっている。
メフィストの魔法の状況から、ルカとアシェ-ルはぎりぎり回避をした。
キメラへの攻撃は順調に進む。
自爆への用心もしていたが、よけるタイミングをヴァーミリオンが逸した。
「ヴァン! 少し下がれ」
ボルディアは前のキメラに集中する。これも、爆発する可能性は高い。どの程度でするのかと予測はできていなかった。
ルカはアシェ-ルに【フルリカバー】をかけた後、【レジスト】も掛けておく。先ほどから、メフィストが彼女を執拗に狙っている気がしたのだ。
「……アシェ-ルさんの攻撃にいらだっている? 【強制】を掛けるなら……」
アシェ-ルの攻撃は着実にメフィストに当たっている。
それでも、メフィストは余裕を持っていた。
「その魔法は必要ありません」
アシェ-ルは視線が合い、言葉を聞いた。しかし、「あなたに言われる筋合いはありません」と首を横に振る。
メフィストの表情が一瞬、ゆがんだため、彼の思い通りにならない何かがあったとは察せた。
千秋は一対一で何とか持ちこたえていた。
キメラが倒れ、爆発音も響く。
「これは気を引き締めないと駄目ですね。セバスニャンさん、璃梨さんやカジディラさんたちとヴァンさんをまず治してください」
千秋は指示を出した。
「こっちに手を貸す」
マリィアが弾丸を放つ。キメラに命中した。
「【マジックアロー】」
ルゥルの声と魔法も飛んできている。
千秋は独りではない安心感は得た。
キメラは千秋に攻撃をする。千秋は避け損ねてしまった。
「ぐっう、まだまだです」
千秋の小さな体が吹き飛ばされた。
「ってか、テメェはそこで高みの見物で、ペットは俺たちが丁重に葬ってやっているのに反応はないのかよ!」
ボルディアは挑発する。そして、目の前のキメラに全力で攻撃を叩き込む。
コーネリアの援護射撃で動きを止めていたそれはすべての攻撃を食らう。
「人間風情でよく頑張っていますねとでも褒めればよいでしょうか?」
人の気を逆なでする言葉が返ってくる。
「そうですよ! 人間ですから! あきらめない、折れないのです」
ルカは盾を構えて距離を測る。【レジスト】の掛け直しを行う。
「あきらめませんよ」
アシェ-ルは位置を変えた。これまでも散開しているつもりであったが、範囲魔法をうまい具合に使われている。
「さて、そろそろ終わりにしましょう」
メフィストを中心に激しい負のマテリアルが放たれる。最初に放った魔法だと、見当はつく。
ボルディアは飲み込まれた。目の前のキメラも巻き込まれている。
この瞬間、意図を読み取ったが、キメラの自爆は回避不能となり盾や鎧で受け止めるしかなかった。
激痛がボルディアを貫くが、温和な友人が依頼の前に見せた言葉がよぎった。歯を食いしばって耐える。
「あのちびっこも知ってるアイツが無事を待っているんだよ!」
ボルディアはメフィストに向いた。
後一体は千秋と後衛、それに傷を治したヴァーミリオンがどうにかするだろう。メフィストに彼女は向いた。
目の前のキメラの動きは精彩を欠き始めた。
「千秋、逃げろ!」
「あとは我々が受け持つ」
マリィアとコーネリアの声が千秋に届く。
「でも、そっちに行ったら、来てしまいます!」
千秋の一瞬のためらいがあった。その瞬間、キメラは爆発した。
「なっ……」
千秋はかろうじて立っている。
「だ、大丈夫です。びっくりしただけです。早く、あっちを」
千秋は座り込んだ。セバスニャンが飛んできた。そして、必死に回復魔法を使った。
●挟撃へ
キメラはいなくなった。
ハンターや幻獣たちは余力を持っているとはいえ、ひどく体力を消耗している面も否めない。
じりじりとメフィストが後退していることは誰もが気づいている。背中は見せないが、確実に城壁から離れる。
双方ダメージが大きい。回復役がいる分ハンターは有利だが、相手の手が見えていないため油断ならない。
「無理に攻撃するな」
コーネリアは城壁の兵士たち言った。無駄な矢を使うこともない。彼女自身は、慎重に間を詰める。
同じく後衛の位置にいるマリィアもつぶやいていた。
「逃げるか」
そして、銃を持ち替え、一気に間合いを詰めた。
動くタイミングを互いにつかめないまま、じりじりと距離だけはつめる。
ユグディラたちはハンターとヴァーミリオンなどの傷の手当てに奔走する。
緊張感が漂う静かな時間が過ぎる。
リーリーに乗った二人が現れた。
コーネリアが即攻撃を仕掛ける。
「犬死するのは貴様らだけで十分だ。さっさと灰になるがいい!」
マリィアも射程に入ったメフィストにもてる力を籠め、弾丸の数も数えて効果的に攻撃をする。
「これで終わりだ!」
ステラは橋にいるメフィストに問答無用で銃弾を叩き込む。
「逃がすわけねーだろ!」
ディーナはリーリーに乗ったままメフィストに接敵し、マテリアルを込めたメイスを叩き込む。
「さっさとエクラ様の御許に送ってあげるの!」
メフィストは眉をしかめ、何か言おうとしたが叶わなかった。
城壁側からの追撃がかかったからだ。
「ステラさん、ディーナさん、ありがとうございます! これで終わりです」
アシェ-ルは気力を振り絞り、【ホーリーライト】を二度放った。
「一斉に倒すほうがいいに決まっています」
ルカも【ジャッジメント】を放ち、かつ攻撃も仕掛ける。
「テメェが逃げそこなったのが運の尽きだな!」
ボルディアの【砕火】が叩き込まれる。
不敵な笑みを浮かべたまま、メフィストは塵となって消えた。
●お片付け
「みぎゃあああ」
「ルゥル!」
マリィアはすぐにルゥルに駆け寄った。泣いているのではなく、喜びの声だったようだ。
「ルゥル、頑張ったわね」
「違うです、私はここで壁を作って、ちょっとキメラに攻撃をしただけです。お姉さんたちのおかげなのです」
キソシロを抱きかかえ、ルゥルは頭を下げる。
「喜ぶのはいいが、けが人もあるし、城壁のこともあるだろう」
コーネリアは武器を片付けると「やるべきことは多くある」とルゥルに告げた。
ルゥルは周囲を見渡し、つらそうな千秋の方に駆け寄った。
「今、治すです」
「セバスニャンさんが治してくれますので、他の方を治してあげてください」
ふらつくが、千秋は自分の足で立つ。
ルゥルが「いい子です」とお姉さん風を吹かせて頭を撫でた。
「ヴァン、よくやったな」
ボルディアはヴァーミリオンの首を抱きしめた。回復魔法が追いつかず、互いに傷だらけだった。
「璃梨、無事ですね」
「にゃ」
「守ってあげれなくてごめんなさい」
ルカは表情を緩ませ、首を横に振る璃梨を抱き上げた。
アシェ-ルは途中で拾ったカジディラに念のためヒールを掛ける。
「最初に吹き飛ばされたときは肝が冷えました」
「にゃ」
「そのあとは回復役ご苦労様です」
カジディラはアシェ-ルの肩をぽんとたたいた。
薬草園にステラとディーナが戻ると、リシャールがほっと息を吐いた。
「兵士たちが心配するし、戻るぞ」
ステラは笑顔だ。
「あの後はこっちは大丈夫だったの?」
「はい、何もありませんでした」
ディーナに問われリシャールがうなずく。
「では、私は戻ります」
リシャールを見上げるクロは鳴き、心配そうに小屋の奥でチャが鳴いた。
人間たちは何の会話かわからない。ただ、クロは意志の強い目でリシャールを見ていた。
若君の帰還で、城壁内はより一層歓喜に包まれたのだった。
リシャール・べリンガーとハンターたちがもう一方の城門の入り口に到着した。
ルゥル(kz0210)が「みぎゃあ」と泣きながら、マーク司祭に飛びつく。
「薬草園に行ったんじゃなかったのですか?」
「途中で引き返したです」
マーク司祭の問いかけにルゥルは何があったか説明をしようとした。しかし、城壁を狙った攻撃で、激しい音が響き、黙った。
マリィア・バルデス(ka5848)はルゥルの無事を見て胸をなでおろす。
「ルゥル……無事でよかった……でも……まずは何がいて、何が起こっているのか確認をしないと。十中八九、敵なのは間違いないわね」
大型の銃器を取り出す。
各地に光を刈り取る蜘蛛メフィストが出現しているという話からの見回りだ。ハンターに抜かりはなく、その対策はしてある。ハンターたちは移動しつつ、状況説明を受ける。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)はイェジドのヴァーミリオン――通称ヴァン――から下り、城壁の中は歩く。
「で、状況はどうなんだ? おまえが詳しそうだな」
「えとー、前にハンターソサエティで見たメフィストとかっこいい動物……キメラな歪虚がいるのです」
ルゥルはボルディアに問われて説明した。
かっこいい動物と聞いてリシャールが眉をしかめる。以前、この近辺にでたキメラを思い出したからだ。ルゥルにもリシャールにも苦い思い出である。
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)はルゥルが見たモノを聞き、怜悧な顔を一瞬ゆがめた。
「奴らは確実に仕留めなければな……歪虚は、な……」
扉のところにたどり着く。
「あと、薬草園にジャイルズさんたちがいるです。人間いると歪虚って襲う可能性あるですよね」
ルゥルが心配そうにしている。
「見張りが、一体そっちに向かったと言っています」
兵士がリシャールに告げた。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は目を見開く。そして、連れているリーリーの手綱をグイッと引っ張る。
「私は薬草園に行くの」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)もリーリーのアザリア――愛称はアザリーの手綱を引く。そして、リシャールを見た。
「オレも薬草園を助けることを優先するぜ」
「ステラちゃんと一緒なら、かなり早くキメラを落して戻ってこられると思うの」
ディーナが笑顔を見せた。
「……最短距離で行きたい、道がわかる奴がいる方がいい。リシャール、行くつもりなら、ポチはおいて、アザリーの後ろに乗れ、その方が速い」
リシャールは自分が出ていいのか一瞬悩んだ。
アシェ-ル(ka2983)はまなじりを吊り上げた。抱き抱えられているユグディラのカジディラも「にゃ」と鳴く。
「悩んでいる時間はありません。薬草園のことを考えるならば、行ってください」
ルカ(ka0962)はうなずきながら、出撃のためにバイクにまたがった。ユグディラの璃梨がその背に張り付く。
「どれがいいか悩んでいる場合ではありません。死ぬ気はさらさらありませんし、人的被害の軽減に努めるつもりです」
きっぱりとルカは告げる。情報から、城壁の外には誰もいない状況になっているという。
小宮・千秋(ka6272)はユグディラのセバスニャンを撫でる。
「ほいほーい! セバスニャンさん、出撃でーす! 城壁に自爆特攻なんてされたらたまりません!」
それを聞き、リシャールはきゅっと唇を結ぶ。
「分かりました。ステラさん、よろしくお願いします。これより、皆さん、反撃です!」
●反撃へ
扉を開けるとリーリーたちが飛び出す。
「あいつらは無視な。アザリー、川の方から行くぞ」
アザリーはステラの指示により、弾丸のように飛び出す。すさまじい脚力を以て、飛ぶように進む。川の途中で着地したときにしぶきが上がる。
「ついて行くのー、リーリー」
ディーナがそれに続いていく。リーリーは同じく【リーリージャンプ】を用いて飛ぶように走る。
ステラの後ろに引っ付くリシャールは、橋の手前にいるメフィストの姿を胸に刻み込んだ。
コーネリアは射撃武器を持つ兵士に声をかけた。
「奴が死ぬか引き下がるまで一秒たりとも攻撃を絶やすな。城壁を突破されたくなかったらな」
高位の歪虚の出現に怯え気味だった兵士に活が入る。
マリィアはリーリーが出た直後、バイクで出撃するルカと並走して出た。ルカはユグディラの璃梨も載せているため、若干慎重になる。
「先に行くわよ!」
マリィアは城壁寄りではあるが、歪虚を攻撃できる位置で止まると素早く攻撃をした。天に放たれた銃弾がキメラに降り注ぐ。
「回復を優先して、あとは隠れてください」
ルカは弾丸が降り注いだ直後通り過ぎる。その間に、璃梨に簡単な指示を出しておく。細かいことはその時々に出す。
ヴァーミリオンの背に乗り、駆け抜けるボルディア。
「いいか、ヴァン。指示は二つだ。一つ、仲間の言うことは素直に聞け。二つ、テメェの強さをあの木偶の坊どもに見せてやれ!」
メフィストの前で別れる。ボルディアは不敵な笑みとともに、対峙した。ヴァーミリオンは引き返し、キメラに躍りかかる。
アシェ-ルは城壁の兵士たちに注意をする。
「【強制】といって、命令を付与する能力があるそうです、非覚醒者は危険ですのでできれば下がってください。【懲罰】というのは攻撃を反射してくるような能力です。無理はしないで下がってください」
そして、魔法が届く位置まで急いだ。
千秋は一体だけ離れているキメラの歪虚に向かう。射撃を得意とする者の援護はあるだろう。
「責任重大ですー。調教師としても頑張りますよー」
千秋は構えた。
門を閉めるわけにもいかず、ルゥルがその前に【アースウォール】を作った。これで直接の攻撃や侵入は防げるはずだ。そのそばにマークがいる。もしもの場合、彼の力が生かされる。
メフィストは次には接敵し攻撃するだろう者たちを巻き込む魔法を放った。彼を中心に漆黒の闇が発され、ハンターを圧倒したのだった。
●薬草園
リーリーの足は速いが到着する時間は歯がゆい。近づくにつれてバイオリンの音が届くようになる。
「アザリー、柵を飛び越えろ!」
「くええええ」
アザリーは地を力強く踏み切り、羽を羽ばたかせ舞った。
「リーリーもいくのー」
ディーナのリーリーも了承した旨の鳴き声を発し、柵を飛び越す。
宙を舞い、ふわりとしたからだが浮く感覚の後、地面に到達した衝撃を受ける。リシャールはすぐに動けないが、ステラとディーナは素早く状況を確認した。
道側の柵が壊されいくつもの植物が荒らされている。動物のキメラのような歪虚がいる。
離れたところに建物は見える。その手前には猟銃を構えた中年男性ジャイルズ・バルネがいる。彼を守るように、黒い毛並みのユグディラのクロがバイオリンを前足に立っていた。
「リシャール、何か名案はあるか?」
「ありません……」
「分かった。途中までは運ぶ、ひきつけるのは頼んだ」
リシャールが震えるのがステラの背に伝わる。
「援護はするし、ディーナもいる。だから、奴の動きだけ見てろ。やばくなったら遠慮なく下がれ」
「は、はい」
「任せるのー。行くのー。こいつを早く倒して、あっちに合流するのー」
ディーナはメイスを握りしめた。
「あんたは下がれ!」
ステラはジャイルズに声をかけ、間に割って入る。途中でリシャールを下す。
このとき、ユグディラのクロはバイオリンで弾く曲を変えた。
『すまない。援護はする』
クロの言葉は通じないが、気持ちは通じた。彼が引き始めた曲から力を得たからだ。
「助かる」
ステラは礼を述べると同時にキメラに弾丸を叩き込んだ。
「リーリーはあっちにいってなの。こいつは自爆するかもしれないのー、だから、危ないなと思ったら下がるのー」
ディーナはマテリアルを込めてメイスをキメラに振り下ろしつつ、リーリーから降りる。後半はリシャールへの助言だ。
リシャールは助言を聞き「はい」と答え、刀を抜くと技を使い攻撃をした。それをキメラは避けた。
「攻撃することが重要なの」
ディーナは敵を見すえる。
「ステラちゃんを気にせず自分だけに集中していいの」
リシャールに助言をしていたディーナがキメラに噛みつかれる。鎧で止めきれなかった分が、前もってかけていた【アンチボディ】で軽減される。
「このくらい問題ないのー」
「頼りにしてる」
ステラからの高速で撃ち出される銃弾がキメラを穿つ。そこにディーナとリシャールの攻撃が叩き込まれる。
着実に敵にダメージは与えていた。何度目かのハンターたちの攻撃の後、キメラの動きが変わる。
「にゃあ」
「下がれっ!」
クロとステラの忠告が飛ぶ。
リシャールは反応が遅かったが、ディーナに突き飛ばされるように後方に移動する。
激しい爆風が前にいた二人を襲う。
「負けないのー」
ディーナは【ホーリーヴェール】を展開した。
薬草園の主ジャイルズは泰然自若としているように見える。小屋の中には助手のコリンのユグディラのチャや家畜たちがいた。
「何があったかと問う時間はあるか?」
ステラはジャイルズが緊迫している状況を理解していると感じた。
「時間は惜しい。リシャールがここに残って答えてくれ」
「……町の方をよろしくお願いします」
「ここを守るのも重要だぞ」
ステラが告げるとリシャールがハッとする。城壁も何もなく、戦えるのは自分だけなため、何かあったら席には重い。
リシャールの横にクロが立ち、ツンツンとズボンを引っ張り「にゃあ」と告げた。
「独りじゃないのー」
ディーナの言葉にクロがうなずいた。
「リシャール、あいつがさっき位置にいるとして、ここから向かうなら、川沿いからの方がいいか?」
ステラの問いかけにリシャールは首を横に振る。
「道なりに行ったほうが目立ちません」
ステラが礼をいい、アザリアに乗る。
「用心をしつつ朗報を待ってなのー」
ディーナはリーリーにまたがった。
●激戦
コーネリアは離れたところからキメラを狙う。仲間や敵の動きを見つつ、臨機応変に足止めや攻撃をすることになる。
「ここには近づかせない。確実に滅する。それと援護は確実にする」
技で足止めを行い、その上で攻撃を行っていく。イェジドに向かったキメラに向かってマテリアルを込めた弾丸を叩き込んだ。
ヴァーミリオンは一体のキメラに対し【フェンリルライズ】を使った上でキメラをかみ砕こうとした。一体ずつ各実に倒していくことが重要と指示を考え実行する。
キメラは反撃とばかりにヴァーミリオンに爪を突き立てた。
千秋は対峙するキメラを転ばせたり、相手の動きを利用し反撃したりしていた。セバスニャンに指示を出す。
「調教師らしく、セバスニャンさんとのコンビネーションも忘れませんよー。あちらの方を治してあげてください」
「にゃ」
セバスニャンが動いた。
マリィアはメフィスト込みで攻撃できる方向を模索するが、難しいようだと判断した。そして、ヴァーミリオンが足止めしている二体を狙って【ハウンドバレット】を放つ。臨機応変に技を変えていく。
「城壁より幻獣が気になるのか?」
キメラの歪虚が城壁に向かわないのは良い。そして、離れているときに倒してしまうことが重要だった。
メフィストの威嚇にも似た攻撃を受けたルカは後ろに隠れた璃梨の心配をする。
「無事ですか」
「にゃ」
盾を構え直したルカは【レジスト】をボルディアに掛ける。
ボルディアがメフィストに挑発のため前に出ていたのだった。
「コツコツとマメだなっ! 町でも城壁がある場所をつぶせば、テメェも通りやすくなるって戦略か? 変態仮面!」
倒すことよりも、足止めすることが目的だ。城壁から引き離し、薬草園の方に行かせないためだ。倒せればいいが、戦力が分散しているときは難しいと考えた。
アシェ-ルが【双術】の魔法を組み上げたところに【ホーリーライト】を載せた。
「【懲罰】だって、万能じゃないはず。同時攻撃で返せる威力が倍増になるとは思えません!」
つぶやくそばからダメージが返るのを感じた。後ろでカジディラが回復魔法を使ってくれたのを知る。
冷たい目がハンターに向けられる。
「これで、私を足止めしたと思っているのですか?」
メフィストの魔法とは先のと異なり、遠距離に飛ぶ。
アシェ-ルとルカが後方から攻撃に巻き込まれる。
失敗したルカを脳裏に一瞬、この世界に一緒に来た女性の顔がよぎり「死なれたら困る」という声がした気がした。
「この程度……」
唇を噛むと次はどうすべきか思考を切り替えた。
この直後、一匹のキメラはボルディアに向かって突進していった。
ボルディアに向かったキメラに、足止めのための銃弾がコーネリアから放たれる。
キメラは回避し、ボルディアに爪を立てる。
「想定済みだ」
盾で受け、反撃を試みた。
ルカはメフィストに集中する。それと、璃梨に離れるように指示した。
「まずは自分の回復をしてください」
城壁に近づきすぎず、自分たちより離れることが重要と考える。効率を考えればユグディラ離れているユグディラを狙うことは少ないだろう。
「カジディラも離れてください。こっちは攻撃を続けます」
カジディラはアシェ-ルに回復魔法を使った後、離れた。彼女を守るにしても自分がよれよれでは駄目だと分かっている。
メフィストの魔法の状況から、ルカとアシェ-ルはぎりぎり回避をした。
キメラへの攻撃は順調に進む。
自爆への用心もしていたが、よけるタイミングをヴァーミリオンが逸した。
「ヴァン! 少し下がれ」
ボルディアは前のキメラに集中する。これも、爆発する可能性は高い。どの程度でするのかと予測はできていなかった。
ルカはアシェ-ルに【フルリカバー】をかけた後、【レジスト】も掛けておく。先ほどから、メフィストが彼女を執拗に狙っている気がしたのだ。
「……アシェ-ルさんの攻撃にいらだっている? 【強制】を掛けるなら……」
アシェ-ルの攻撃は着実にメフィストに当たっている。
それでも、メフィストは余裕を持っていた。
「その魔法は必要ありません」
アシェ-ルは視線が合い、言葉を聞いた。しかし、「あなたに言われる筋合いはありません」と首を横に振る。
メフィストの表情が一瞬、ゆがんだため、彼の思い通りにならない何かがあったとは察せた。
千秋は一対一で何とか持ちこたえていた。
キメラが倒れ、爆発音も響く。
「これは気を引き締めないと駄目ですね。セバスニャンさん、璃梨さんやカジディラさんたちとヴァンさんをまず治してください」
千秋は指示を出した。
「こっちに手を貸す」
マリィアが弾丸を放つ。キメラに命中した。
「【マジックアロー】」
ルゥルの声と魔法も飛んできている。
千秋は独りではない安心感は得た。
キメラは千秋に攻撃をする。千秋は避け損ねてしまった。
「ぐっう、まだまだです」
千秋の小さな体が吹き飛ばされた。
「ってか、テメェはそこで高みの見物で、ペットは俺たちが丁重に葬ってやっているのに反応はないのかよ!」
ボルディアは挑発する。そして、目の前のキメラに全力で攻撃を叩き込む。
コーネリアの援護射撃で動きを止めていたそれはすべての攻撃を食らう。
「人間風情でよく頑張っていますねとでも褒めればよいでしょうか?」
人の気を逆なでする言葉が返ってくる。
「そうですよ! 人間ですから! あきらめない、折れないのです」
ルカは盾を構えて距離を測る。【レジスト】の掛け直しを行う。
「あきらめませんよ」
アシェ-ルは位置を変えた。これまでも散開しているつもりであったが、範囲魔法をうまい具合に使われている。
「さて、そろそろ終わりにしましょう」
メフィストを中心に激しい負のマテリアルが放たれる。最初に放った魔法だと、見当はつく。
ボルディアは飲み込まれた。目の前のキメラも巻き込まれている。
この瞬間、意図を読み取ったが、キメラの自爆は回避不能となり盾や鎧で受け止めるしかなかった。
激痛がボルディアを貫くが、温和な友人が依頼の前に見せた言葉がよぎった。歯を食いしばって耐える。
「あのちびっこも知ってるアイツが無事を待っているんだよ!」
ボルディアはメフィストに向いた。
後一体は千秋と後衛、それに傷を治したヴァーミリオンがどうにかするだろう。メフィストに彼女は向いた。
目の前のキメラの動きは精彩を欠き始めた。
「千秋、逃げろ!」
「あとは我々が受け持つ」
マリィアとコーネリアの声が千秋に届く。
「でも、そっちに行ったら、来てしまいます!」
千秋の一瞬のためらいがあった。その瞬間、キメラは爆発した。
「なっ……」
千秋はかろうじて立っている。
「だ、大丈夫です。びっくりしただけです。早く、あっちを」
千秋は座り込んだ。セバスニャンが飛んできた。そして、必死に回復魔法を使った。
●挟撃へ
キメラはいなくなった。
ハンターや幻獣たちは余力を持っているとはいえ、ひどく体力を消耗している面も否めない。
じりじりとメフィストが後退していることは誰もが気づいている。背中は見せないが、確実に城壁から離れる。
双方ダメージが大きい。回復役がいる分ハンターは有利だが、相手の手が見えていないため油断ならない。
「無理に攻撃するな」
コーネリアは城壁の兵士たち言った。無駄な矢を使うこともない。彼女自身は、慎重に間を詰める。
同じく後衛の位置にいるマリィアもつぶやいていた。
「逃げるか」
そして、銃を持ち替え、一気に間合いを詰めた。
動くタイミングを互いにつかめないまま、じりじりと距離だけはつめる。
ユグディラたちはハンターとヴァーミリオンなどの傷の手当てに奔走する。
緊張感が漂う静かな時間が過ぎる。
リーリーに乗った二人が現れた。
コーネリアが即攻撃を仕掛ける。
「犬死するのは貴様らだけで十分だ。さっさと灰になるがいい!」
マリィアも射程に入ったメフィストにもてる力を籠め、弾丸の数も数えて効果的に攻撃をする。
「これで終わりだ!」
ステラは橋にいるメフィストに問答無用で銃弾を叩き込む。
「逃がすわけねーだろ!」
ディーナはリーリーに乗ったままメフィストに接敵し、マテリアルを込めたメイスを叩き込む。
「さっさとエクラ様の御許に送ってあげるの!」
メフィストは眉をしかめ、何か言おうとしたが叶わなかった。
城壁側からの追撃がかかったからだ。
「ステラさん、ディーナさん、ありがとうございます! これで終わりです」
アシェ-ルは気力を振り絞り、【ホーリーライト】を二度放った。
「一斉に倒すほうがいいに決まっています」
ルカも【ジャッジメント】を放ち、かつ攻撃も仕掛ける。
「テメェが逃げそこなったのが運の尽きだな!」
ボルディアの【砕火】が叩き込まれる。
不敵な笑みを浮かべたまま、メフィストは塵となって消えた。
●お片付け
「みぎゃあああ」
「ルゥル!」
マリィアはすぐにルゥルに駆け寄った。泣いているのではなく、喜びの声だったようだ。
「ルゥル、頑張ったわね」
「違うです、私はここで壁を作って、ちょっとキメラに攻撃をしただけです。お姉さんたちのおかげなのです」
キソシロを抱きかかえ、ルゥルは頭を下げる。
「喜ぶのはいいが、けが人もあるし、城壁のこともあるだろう」
コーネリアは武器を片付けると「やるべきことは多くある」とルゥルに告げた。
ルゥルは周囲を見渡し、つらそうな千秋の方に駆け寄った。
「今、治すです」
「セバスニャンさんが治してくれますので、他の方を治してあげてください」
ふらつくが、千秋は自分の足で立つ。
ルゥルが「いい子です」とお姉さん風を吹かせて頭を撫でた。
「ヴァン、よくやったな」
ボルディアはヴァーミリオンの首を抱きしめた。回復魔法が追いつかず、互いに傷だらけだった。
「璃梨、無事ですね」
「にゃ」
「守ってあげれなくてごめんなさい」
ルカは表情を緩ませ、首を横に振る璃梨を抱き上げた。
アシェ-ルは途中で拾ったカジディラに念のためヒールを掛ける。
「最初に吹き飛ばされたときは肝が冷えました」
「にゃ」
「そのあとは回復役ご苦労様です」
カジディラはアシェ-ルの肩をぽんとたたいた。
薬草園にステラとディーナが戻ると、リシャールがほっと息を吐いた。
「兵士たちが心配するし、戻るぞ」
ステラは笑顔だ。
「あの後はこっちは大丈夫だったの?」
「はい、何もありませんでした」
ディーナに問われリシャールがうなずく。
「では、私は戻ります」
リシャールを見上げるクロは鳴き、心配そうに小屋の奥でチャが鳴いた。
人間たちは何の会話かわからない。ただ、クロは意志の強い目でリシャールを見ていた。
若君の帰還で、城壁内はより一層歓喜に包まれたのだった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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【相談卓】 ステラ・レッドキャップ(ka5434) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/10/24 01:46:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/24 01:36:32 |