ゲスト
(ka0000)
【天誓】運命と導きの精霊
マスター:紫月紫織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/24 19:00
- 完成日
- 2017/11/05 02:50
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
シルヴァお姉ちゃんと一緒に仕事をこなすことも増えた頃、私はあることに気づいたのです。
お姉ちゃんは、一度たりと攻撃系の符術を使うことも無ければ、命を絶つために剣を振るったこともない、ということに。
――ミモザの日記より抜粋
●そして森の奥へと
「これで七回目の遭遇、か……妙ね。たかがゾンビとはいえ、多すぎる」
遭遇したのはいずれも下級のゾンビで、ある程度経験を積んだハンターにとっては脅威と呼べるほどのものでもありませんでした。
少なくとも、私でも十分に相手にできる、その程度。
シルヴァお姉ちゃんが相手の攻撃をたやすくあしらって地面に転倒させる、その隙を私が捉えてとどめを刺す。
半ば体に染み付いた連携は、苦もなくゾンビ達を塵へと還します。
少し、話を戻しましょう。
私、ミモザがシルヴァお姉ちゃんと、ハンターさんたちと一緒に帝国領のとある森に足を踏み込んだのが今朝の話。
事の発端は、やたらと目撃される歪虚――先程まで遭遇していたゾンビ達です――の討伐と、原因の調査のための依頼でした。
森が広かったこと、遭遇する歪虚の脅威度が低かったこともあり、しばらく前から他のハンターさんたちと手分けして捜索にあたっていました。
でないと、終わりそうにないので。
そうして踏み込んだ森の奥で七度目の戦闘を終えて一息ついたところ、というわけです。
シルヴァお姉ちゃんは時折足を止めてタロットを引き抜いては、周りを見回し進路を変えて動いていますが、あれも占いの一種なのかな?
「うーん……そろそろ何かしら見つかってもいいかとおもうんだけどねぇ」
がさがさと藪をかき分けながら私達の目的である"なにか"を探すお姉ちゃん。
私も何か無いかと見回したとき、何か光るものが目に写りました。
どちらかと言えば好ましく感じたそれの輝きは、金属の光沢のよう。
「お姉ちゃん、あれ」
「ん、何か見つけた?」
戻ってきたお姉ちゃんをそこまで案内すると、そこにあったのは金属製の輪をいくつも重ねたような何かでした。
複雑で手の込んだ彫金細工のようにも見えますが、半分以上雨風にさらされて土に埋もれていたままでは確認のしようもありません。
とりあえず掘り出してみよう、そう思って触れようとしたそのとき――
「わしの依代に触れるでないわ!」
強く鋭い声と、マテリアルの収束する感覚。
何かがお姉ちゃんの符術と相殺される音が聞こえて振り返ると、そこには半透明の、真っ白な髪に白いローブを着た女性の姿があったのです。
●精霊エフェメリス
状況がよくわからないけれど、おそらく依代と言うのは私が触ろうとしていたこの金属製の何かなんだと思う。
何故かお姉ちゃんと一触即発の空気になっていたので、とりあえずそれから離れて両手を上げて見せると、その意味を汲み取ったのか僅かに空気が弛緩するのを感じました。
「……敵意がある、というわけではないようじゃな。先程の行動は早計じゃった、それは謝罪しよう」
状況のわかっていない私としては首を傾げるしか無いのだけれど、そんな私の様子を見て困ったようにお姉ちゃんはこめかみを揉む。
「本人が気にしてないようだし、とりあえず話を進めましょうか。……精霊とお見受けするわ。私はシルヴァ、この子は――」
「ミモザです」
ぺこりとお辞儀をすると、エフェメリスさんはなんというか……ばつの悪そうな表情をして視線をそらしてしまいました。
何かまずかったでしょうか?
「あー……わしはエフェメリスという。察しの通り精霊じゃ」
「なるほど、だんだん状況が見えてきたわね。エフェメリスさん、貴方もしかして歪虚に襲われたりしていないかしら?」
「ああ、わしが現界して少し経ってから、腐った死体どもがよくやってきおる。まぁ、今のところは打ち払っておるがの」
そう言えば、ハンターオフィスのほうから精霊の保護を旨とした依頼が出ていたことを思い出しました。
つまり、この森にやたらといるゾンビたちの狙いはこの精霊、エフェメリスさんということです。
何か、少し頭のなかで何かが引っかかったような気がしましたが、形にはなりませんでした。
それよりも、です。
「お姉ちゃん、エフェメリスさんを連れてこうよ」
「ぬ?」
「順を追って説明しますと……」
かくかくしかじか、と長い話が始まるのだった。
●虎穴に入らずんば
「話はわかった。そういうことであれば、相応のものを示してもらおう。わしは導きの精霊じゃ、故に汝らに運命とは――」
途中で言葉を区切ったエフェメリスさん、その隣で素早く動いたのはシルヴァお姉ちゃんでした。
飛び込んできた影との一瞬の交錯、派手に吹き飛んだのは飛び込んできた黒い影だったため、とっさに剣を持って切り込もうとし――
「ミモザ! 下がって!」
お姉ちゃんの静止の声でかろうじて踏みとどまる。
言われて、ようやく気づいたあたり、私はまだまだ未熟なんだなと感じざるを得ませんでした。
私よりもはっきり強いとわかる、濃密な負のマテリアルの気配。
それも一体ではなく、森の奥から更に三体……合計で四体、……吸血鬼型でしょうか。
「撤退してみんなと合流したほうが良さそうね。エフェメリス、貴方は依代が近くにあれば大丈夫なタイプ?」
「ああ、じゃが……あれは半分以上埋もれておってすぐには掘り出せん」
「……つまり貴方はこの場からすぐには動けないと?」
なんだか、状況がどんどん良くない方向に転げていっている気がする……。
「仕方ないか……ミモザ、みんなを呼んできて!」
「えっ、あっ……わかった! ふたりとも気をつけてね!」
なんとなく、私が呼びに行かせられた理由もわかります。
その場にいるとさすがに足手まといになるということなのでしょう。
少し離れた所で魔導スマートフォンで通信をかけます、みんなそう遠くに居ないことを願って。そしてもうひとつ、手にしてあった発煙手榴弾に火をつけて、あとは合図に銃撃が二度、三度。
これだけすれば、きっとわかっているハンターさんたちが集まってきてくれるはず。
お姉ちゃんは、一度たりと攻撃系の符術を使うことも無ければ、命を絶つために剣を振るったこともない、ということに。
――ミモザの日記より抜粋
●そして森の奥へと
「これで七回目の遭遇、か……妙ね。たかがゾンビとはいえ、多すぎる」
遭遇したのはいずれも下級のゾンビで、ある程度経験を積んだハンターにとっては脅威と呼べるほどのものでもありませんでした。
少なくとも、私でも十分に相手にできる、その程度。
シルヴァお姉ちゃんが相手の攻撃をたやすくあしらって地面に転倒させる、その隙を私が捉えてとどめを刺す。
半ば体に染み付いた連携は、苦もなくゾンビ達を塵へと還します。
少し、話を戻しましょう。
私、ミモザがシルヴァお姉ちゃんと、ハンターさんたちと一緒に帝国領のとある森に足を踏み込んだのが今朝の話。
事の発端は、やたらと目撃される歪虚――先程まで遭遇していたゾンビ達です――の討伐と、原因の調査のための依頼でした。
森が広かったこと、遭遇する歪虚の脅威度が低かったこともあり、しばらく前から他のハンターさんたちと手分けして捜索にあたっていました。
でないと、終わりそうにないので。
そうして踏み込んだ森の奥で七度目の戦闘を終えて一息ついたところ、というわけです。
シルヴァお姉ちゃんは時折足を止めてタロットを引き抜いては、周りを見回し進路を変えて動いていますが、あれも占いの一種なのかな?
「うーん……そろそろ何かしら見つかってもいいかとおもうんだけどねぇ」
がさがさと藪をかき分けながら私達の目的である"なにか"を探すお姉ちゃん。
私も何か無いかと見回したとき、何か光るものが目に写りました。
どちらかと言えば好ましく感じたそれの輝きは、金属の光沢のよう。
「お姉ちゃん、あれ」
「ん、何か見つけた?」
戻ってきたお姉ちゃんをそこまで案内すると、そこにあったのは金属製の輪をいくつも重ねたような何かでした。
複雑で手の込んだ彫金細工のようにも見えますが、半分以上雨風にさらされて土に埋もれていたままでは確認のしようもありません。
とりあえず掘り出してみよう、そう思って触れようとしたそのとき――
「わしの依代に触れるでないわ!」
強く鋭い声と、マテリアルの収束する感覚。
何かがお姉ちゃんの符術と相殺される音が聞こえて振り返ると、そこには半透明の、真っ白な髪に白いローブを着た女性の姿があったのです。
●精霊エフェメリス
状況がよくわからないけれど、おそらく依代と言うのは私が触ろうとしていたこの金属製の何かなんだと思う。
何故かお姉ちゃんと一触即発の空気になっていたので、とりあえずそれから離れて両手を上げて見せると、その意味を汲み取ったのか僅かに空気が弛緩するのを感じました。
「……敵意がある、というわけではないようじゃな。先程の行動は早計じゃった、それは謝罪しよう」
状況のわかっていない私としては首を傾げるしか無いのだけれど、そんな私の様子を見て困ったようにお姉ちゃんはこめかみを揉む。
「本人が気にしてないようだし、とりあえず話を進めましょうか。……精霊とお見受けするわ。私はシルヴァ、この子は――」
「ミモザです」
ぺこりとお辞儀をすると、エフェメリスさんはなんというか……ばつの悪そうな表情をして視線をそらしてしまいました。
何かまずかったでしょうか?
「あー……わしはエフェメリスという。察しの通り精霊じゃ」
「なるほど、だんだん状況が見えてきたわね。エフェメリスさん、貴方もしかして歪虚に襲われたりしていないかしら?」
「ああ、わしが現界して少し経ってから、腐った死体どもがよくやってきおる。まぁ、今のところは打ち払っておるがの」
そう言えば、ハンターオフィスのほうから精霊の保護を旨とした依頼が出ていたことを思い出しました。
つまり、この森にやたらといるゾンビたちの狙いはこの精霊、エフェメリスさんということです。
何か、少し頭のなかで何かが引っかかったような気がしましたが、形にはなりませんでした。
それよりも、です。
「お姉ちゃん、エフェメリスさんを連れてこうよ」
「ぬ?」
「順を追って説明しますと……」
かくかくしかじか、と長い話が始まるのだった。
●虎穴に入らずんば
「話はわかった。そういうことであれば、相応のものを示してもらおう。わしは導きの精霊じゃ、故に汝らに運命とは――」
途中で言葉を区切ったエフェメリスさん、その隣で素早く動いたのはシルヴァお姉ちゃんでした。
飛び込んできた影との一瞬の交錯、派手に吹き飛んだのは飛び込んできた黒い影だったため、とっさに剣を持って切り込もうとし――
「ミモザ! 下がって!」
お姉ちゃんの静止の声でかろうじて踏みとどまる。
言われて、ようやく気づいたあたり、私はまだまだ未熟なんだなと感じざるを得ませんでした。
私よりもはっきり強いとわかる、濃密な負のマテリアルの気配。
それも一体ではなく、森の奥から更に三体……合計で四体、……吸血鬼型でしょうか。
「撤退してみんなと合流したほうが良さそうね。エフェメリス、貴方は依代が近くにあれば大丈夫なタイプ?」
「ああ、じゃが……あれは半分以上埋もれておってすぐには掘り出せん」
「……つまり貴方はこの場からすぐには動けないと?」
なんだか、状況がどんどん良くない方向に転げていっている気がする……。
「仕方ないか……ミモザ、みんなを呼んできて!」
「えっ、あっ……わかった! ふたりとも気をつけてね!」
なんとなく、私が呼びに行かせられた理由もわかります。
その場にいるとさすがに足手まといになるということなのでしょう。
少し離れた所で魔導スマートフォンで通信をかけます、みんなそう遠くに居ないことを願って。そしてもうひとつ、手にしてあった発煙手榴弾に火をつけて、あとは合図に銃撃が二度、三度。
これだけすれば、きっとわかっているハンターさんたちが集まってきてくれるはず。
リプレイ本文
合流し事の顛末を聞き終えた所でそれぞれが走り出すのに時間はかからなかった。
護衛対象のエフェメリスに加えて、攻撃という行為そのものが苦手なシルヴァが引き付けているという。
それは、敵の手数が減らないということだ。
駆け出す皆の後を必死に追いかけながら、ミモザはハンターという存在の心強さを改めて感じていた。
寝物語にシルヴァに読んでもらう、冒険譚の主人公たちと共にいるような頼もしさだ。
剣戟の音と、歪虚の気配が如実に強くなる。
まさに今シルヴァに爪を振り下ろそうとしていた吸血鬼を眩い光弾が貫く。
突然の攻撃に距離を取る歪虚とシルヴァの間に日下 菜摘(ka0881)がメイスを片手に、氷雨 柊(ka6302)薙刀を片手に躍り出る。
「……ゾンビ相手と思い込ませておいて、本命は吸血鬼でしたか。どちらにしても亡者は地に還るが定め。疾くあるべき場所へ還して差し上げましょう」
「おまたせしましたぁ、これ以上好き勝手はさせませんよぉ。お二人は下がっていてください」
可愛らしい言動とは裏腹に、猫のような瞳が淡い光を纏って油断なく敵を捉えていた。
「火の精よ、魔を焼き払いし力をかの剣に宿し給え」
吸血鬼たちの動きが新たな乱入者を前に一瞬止まったその隙を狙って、太刀を奔らせる静刃=II(ka2921)、その刃にネフライト=フィリア(ka3255)の灯した炎が吹き荒れる。
赤い煌めきを伴った一閃は一体の腹部を中ほどまで捉えて切り裂く、傷と言うには深く、けれど致命傷には浅い。
「後はお任せを」
構え直した太刀がちゃき、と音を立てる。
そんな四人の上を、影が通り過ぎる。
重苦しい刃が風邪を切り裂く音、暫し。
駆け抜けたのは巨大な質量を持った斧と、それを操る小柄な影だった。
「これは危ないところでしたか……!? 間に合ってよかったです」
一瞬の空白を突いた観那(ka4583)の攻撃は強烈なマテリアルは、カイン・シュミート(ka6967)の援護によって更に膨れ上がり大気を震わせる。
それを危険と判断してか、吸血鬼たちは本能的に距離を取った。
「間一髪、ってところでいいんだよな?」
吸血鬼達にとって一方的だったかの状況は、ほんの少しの間にその状況を激変させた。
「味方のようじゃな?」
「ええ、とっても頼もしい味方よ」
エフェメリスの言葉に、僅かに緊張を弛緩させ返すシルヴァ、油断というよりは安堵という方が近いだろう、暗にそれだけの信頼を置ける者であるのだとエフェメリスも理解した。
シルヴァがぞろりと符を取り出す。
舞う符はそれぞれ歪虚と相対しているものへと吸い込まれるように溶けて消えた。
同時にマテリアルが活性化する。
「此れ以上自然を、精霊さんを傷付けさせませんわ」
ネフライトの詠唱に風が舞う、その風に乗せるように菜摘の歌声が重なった。
辺りに満ちる神聖な気配、風の魔法に合わせて静刃が影のように疾走る。
振り抜かれた一撃は鋭く速く、そして熱い。
生まれた致命的ともいえる隙をネフライトの燃え盛る矢が牽制する。
二対一という優位を的確に組み合わせ、刃は確実にその身を吸血鬼へと迫らせる。
程なくして歪虚の腕が宙を舞い塵となった。
身の丈よりも遥かに長い薙刀を自在に操りながら、めまぐるしい攻防は続く。
瞳を細め、一挙手一投足を把握する、祖霊達の力も借りたそれは受けに周り確実に足を止めさせるスタイルだ。
ぎりりっ、と矢を番える音がする。
木陰から位置取りを終えたクラン・クィールス(ka6605)の照準が終わったのだ。
「……経験は浅いからな。過度な期待はしてくれるなよ?」
引き絞り、狙い、そして貫く。
それぞれ一連の動作は決して滞ること無く行われ、互いのマテリアルを相殺しながらせめぎ合う。
その一矢は柊と相対していた吸血鬼の腕をちぎるだけの威力を秘めていた。
危険だと、そう判断した。
だが、それは失敗だっただろう。
動きを丹念に見据えていた柊にとって、その意識の変更は唯の隙でしかない。
薙刀は鋭く、決意と覚悟を持って振るわれる。
息の合った合いの手として降り注ぐ矢も含めれば躱すには難しい。
「……精霊さんも、ミモザさん達も、クィールスさんにも。傷はつけさせません」
続けざまの銃撃音、キャリコ・ビューイ(ka5044)による援護射撃は強力で、菜摘へと向けられた凶刃を幾度となく押しとどめている。
その間隙を突いて振るわれるメイスがすでに何度か吸血鬼を捉えている、マテリアルを強く纏ったその一撃は、着実に手数を稼ぐ。
「埒が明かないな……日下、次のタイミングで仕掛けるぞ!」
「わかりました、合わせます!」
身を隠していた木陰から体を晒す。
拡大する視覚、張り詰める神経、世界が緩やかだ。
ひときわ強い銃声に、吸血鬼の肩がはじけ飛ぶ、その一瞬を菜摘が見逃すはずもない。
「……不浄なる者、己が居るべき場所へ還るがよい!」
ひときわ強いマテリアルの込められた一撃に、手に伝わる骨の割れる感触。
捉えた、そう確信するのと同時、吸血鬼は派手に無様に吹き飛び大地を転がった。
断続的にカインの張る弾幕が距離を作る、その間に地面に突き立っていた巨大な斧が、観那の手によって再び持ち上げられた。
形勢の不利を理解したのか、相対する吸血鬼は時折エフェメリスへと視線を向ける、その濁った瞳は何を捉えているのだろうか。
「隙を見せる猶予など与えません。後ろへ向かいたくばこの私を倒してからになさい!」
互いの距離で続くにらみ合い。
仕掛けたのは観那からだった。
この状況、互いの持てる手札で取れる行動は限られる。
まして相手は同じギルドの仲間、背を預けるに躊躇はない。
ぐっ、と重心を落とし一息に肉薄、そのまま横薙ぎの大振りは否応なく歪虚の行動を制限する。
左右に逃げ場はない。
観那のその行動を確信していたかのように、カインのアサルトライフルの照準が正確に合わせられる。
ただ当てるだけでは決定打にはならない、放たれた弾丸は吸血鬼の足に吸い込まれるよう。
空中で体勢を崩したところへ、巨大な斧が頭上から振り下ろされる。
それは終局の鐘の音のように、森のなかに重い音を響かせた。
「数の優位もあったとはいえ、この短時間でとは……」
塵へと帰ってゆく歪虚の残骸、そして健在な皆をゆっくりと見回した彼女は感心した用に呟く。
かつて自身と共に戦ったものたちに、勝るとも劣らないその姿――
「実に見事な手並みであった」
「お褒めに預かり光栄です、エフェメリス様。お怪我はございませんか?」
そう、ネフライトに聞かれ、体の具合を確認してから頷いて返す。
「多少マテリアルを奪われた感じではあるが、問題ない」
あちらのほうが傷は多いじゃろ、とシルヴァの方を促してみれば、そちらではすでにエフェメリスの依代の掘り出しを始めていた様子だ。
「意外とタフだなシルヴァ……」
観那へとヒールによる手当を行っていたカインは余力で他の面々も治療を施していく、日下もまた同じように仲間をケアして回ったために、戦闘での傷が癒えるまでにそう時間はかからなかった。
「これで人心地、でしょうか?」
「そう見て良さそうじゃな」
日下の言葉に同意して返すエフェメリスは先程より少しばかりテンションが上っている。嬉しそうに、ハンター達へと視線を送っていた。
「エフェメリス様。貴方様の依代は元より此の森にあったのでしょうか? あの様子では大分長い事此方に放置されていた様ですし、御身や御力に支障は御座いませんか?」
「わしが死んで以来放置されたままだったんじゃろう。大丈夫じゃ、気を使わせてしまったようじゃな」
そう言ってネフライトへと笑顔を向けた。
「さて、二人がわしの依代を掘り起こすまでまだ暫し掛かりそうじゃし、その間にお主達に聞いてみたいことがあるのじゃが、よいかの?」
「なんです? 自己紹介もまだですし、ちょうどいいかとは思いますが」
少しぎこちなく答えるカインに小さく頷くエフェメリスは皆を見回して反論が特にないことを確認してそれを口にした。
「運命とは如何様なものか、という問いについて、どのように答える?」
彼女の言う問いは漠然としたものだろう。
だからこそ、答えに"人"が出る。
エフェメリスの表情は穏やかだが、その瞳に宿す光は真剣なものだった。
考え込む一同、静かな森のなかに土を掘り返す音が響く。
そんな中で、最初に手を上げたのがネフライトだった。
「私にとって運命とは、自然と寄り添う事、生きとし生けるものを尊び共に歩む事。……運命とは、愛するものの傍にあるものだと私は思いますわ」
問いの答えとして、彼女はそう告げる。
それにエフェメリスは口元をほころばせ目を閉じ頷いてみせる。
「温かい答えじゃ。何を大事に思っておるのか伝わるような気がするの、お主に愛されるものは、きっと幸せであろう」
真剣に向き合った言葉は力を持つものだ。
次の手が挙がる。
「生きていく中で、道は幾つにも分かたれる。場合によっては、時や場、状況などから『そちらへと導かれている』様に感じる事もあるかもしれない。……だが、導きというのはえてして外からのもの。導きに従うか、また導かれてもその後どうするかは、自らの意思で決める必要がある。その導きを運命とするなら、運命とは”道標の様なもの”だと考える。不必要なものではなく、しかし固執するものでもない。従うも抗うも、それぞれが選択すべきだと。逃げ続けても、流され続けても。きっと良い結果など生みはしないから」
クランの答えはゆっくりと紡がれる。
エフェメリスはそれを急かすこと無く最後まで聞き届ける。
「覚悟を感じる答えじゃ。お主は選択することの重要性を、知っておるのじゃろうな」
一体この青年はどんな人生を歩んできたのかと、それに思いを馳せるようにゆっくりと頷く。
「うーん…そうですねぇ」
ある程度考えがまとまったのか、クランの隣で柊が声を上げる。
「……偶然の積み重ね、その人の人生が変わる必然、でしょうかー。誰かと出会う、誰かを好きになる……誰かの死に際を看取る。全ては偶然で、偶然の上に偶然が積み重なって……それらが偶然と呼ぶには重なり過ぎた時に、人はそれを必然だとか、運命と呼ぶのかなぁと思いますー」
柊の答えに、思うところがあったのか彼女は頷いてみせる。
「感じ入る答えじゃな。確かに、世の中には時折そのようなことが在る……あるいは、全てがそうなのかもしれん」
何を思ったのか、暫しの間沈黙して彼女は目を伏せた。
エフェメリスもまた、そうした巡りを感じたことが在るのだろう。
次は観那から手が挙がる。
「受け入れるべきものであると同時に抗うものでもある、というところでしょうか。存外身勝手なもので、己にとっていい運命ならば受け入れたいと思いますし、そうでなければ抗いたいのです」
まだ言葉を探している様子に、次の句を待つ。
「ですが運命と呼ばれるものがどのような形であれ、覆すのは大変困難だという事も承知しています。だからこそ抗う時は己の全てを賭して闘い、勝ち取るものではないでしょうか。その結果途中で力尽きたとしても、私の屍が未来へ続く道の小石となり、後の者達へ託せるならば本望です」
ないまぜになった感情と覚悟、どんな気持ちでその言葉を口にしたのか、それを考えながらも、それを肯定する。
「力強い答えじゃな。勝ち取るもの、というのにはわしも同意じゃ」
その様子は満足そうで、どこか遠くを見るような瞳で観那を見つめていた。
「逆に精霊様にとっての運命とはどういうものなのか、よければお聞かせ願えればと」
「期待に沿える答えであるかはわからぬが……。運命とは、切り開くものと考える。自身の望むものをつかむためには、そうしなければ手に入らぬ。たとえそれが、親しきものであろうとも、な」
一瞬、細められた目に厳しい眼光を見た気がした。
「運命、ですか」
ぽつりと、静刃の言葉が漏れる。
「唐突に訪れる転換期、でしょうか。良きにせよ、悪しきにせよ」
その言葉は、過去に何かあったことを思わせる。
「避ける事はできない。けれど、自身に関わるもので悪しきものであるならば、抗わずにいられませんね、わたしは」
少なくともその言葉から、良い転換期ではなかったように思え、エフェメリスは少し表情を曇らせる。
「抗う者の答えじゃな。……その答えに至った理由、わしにはわからんが、大切にな」
まだ回答を残しているのは三人。
ちらりと後ろを見れば、もう少しだけ問答の時間はありそうだ。
「さて、お主らはどうじゃ?」
エフェメリスの言葉に、菜摘が一歩前に出る。
次なる答えはどのようなものか。
「運命というのは、他の誰でもない自分の意志でこれまで選び取ってきた行動より導き出された結果だと思っています。今この世界にいるのも、LH044へと赴任したことが切欠といえますし」
知らぬ単語に、わずかに彼女の首が傾く。
「だから、嘆くよりそれを受け入れて進もうと思います」
「俯かぬ者の答えじゃな。前へと進もうとする意思は尊いものじゃ」
菜摘を肯定するように頷いて笑ってみせる。
残るは二人、先に歩み出たのはキャリコだ。
「運命とは、その人の膨大に有る行動の選択によって形作られる歴史と考える。人によっては、神の導きやら何やら言う物も居るだろうが……俺は、そう思わない。俺は、神を信じない。もし神が本当に居て運命とやらを操作していても、俺は神にだろうと従わない。俺は、俺の信念によって行動する」
断言しながらも彼は思考を巡らせていた。
この質問の意図はなんだろうか、と。
これと言った解は浮かばず、あるいはこの精霊は本当にただ聞きたくて、知りたくてこのような問いを出したのかもしれない。
「信ずる者の答えじゃな。己を信じる、良き信念じゃ……さて」
エフェメリスは最後の一人へと視線を向ける。
威圧感もあるドラグーンの青年へ向き直り、泰然としてその答えを待つ。
「人の命を運ぶもの。未来へ歩いていく現在において、振り返った過去の軌跡の名。己が己として生きてきた証の名であり、未来へ向かう道なき道の名。自らの命をどのように運ぶかを己で考え、自らを導く星を掴むもの」
その言葉を、興味深く聞く。
「諦めるための理由としてあるのではなく、諦めない可能性として、運命という言葉は存在していてほしいと思っている。以上が俺の考えになる、答えとしてお受けいただけるか?」
暫しの沈黙の後、彼女はにんまりと喜ばしそうに笑い強く頷いた。
「希望のある答えじゃ。皆、良い答えを持っておる。お主達ならば信じるに十分じゃ」
今の若者達の輝きは彼女の目にどう映ったのか、その様子を見れば心配することなどどこにもなかった。
護衛対象のエフェメリスに加えて、攻撃という行為そのものが苦手なシルヴァが引き付けているという。
それは、敵の手数が減らないということだ。
駆け出す皆の後を必死に追いかけながら、ミモザはハンターという存在の心強さを改めて感じていた。
寝物語にシルヴァに読んでもらう、冒険譚の主人公たちと共にいるような頼もしさだ。
剣戟の音と、歪虚の気配が如実に強くなる。
まさに今シルヴァに爪を振り下ろそうとしていた吸血鬼を眩い光弾が貫く。
突然の攻撃に距離を取る歪虚とシルヴァの間に日下 菜摘(ka0881)がメイスを片手に、氷雨 柊(ka6302)薙刀を片手に躍り出る。
「……ゾンビ相手と思い込ませておいて、本命は吸血鬼でしたか。どちらにしても亡者は地に還るが定め。疾くあるべき場所へ還して差し上げましょう」
「おまたせしましたぁ、これ以上好き勝手はさせませんよぉ。お二人は下がっていてください」
可愛らしい言動とは裏腹に、猫のような瞳が淡い光を纏って油断なく敵を捉えていた。
「火の精よ、魔を焼き払いし力をかの剣に宿し給え」
吸血鬼たちの動きが新たな乱入者を前に一瞬止まったその隙を狙って、太刀を奔らせる静刃=II(ka2921)、その刃にネフライト=フィリア(ka3255)の灯した炎が吹き荒れる。
赤い煌めきを伴った一閃は一体の腹部を中ほどまで捉えて切り裂く、傷と言うには深く、けれど致命傷には浅い。
「後はお任せを」
構え直した太刀がちゃき、と音を立てる。
そんな四人の上を、影が通り過ぎる。
重苦しい刃が風邪を切り裂く音、暫し。
駆け抜けたのは巨大な質量を持った斧と、それを操る小柄な影だった。
「これは危ないところでしたか……!? 間に合ってよかったです」
一瞬の空白を突いた観那(ka4583)の攻撃は強烈なマテリアルは、カイン・シュミート(ka6967)の援護によって更に膨れ上がり大気を震わせる。
それを危険と判断してか、吸血鬼たちは本能的に距離を取った。
「間一髪、ってところでいいんだよな?」
吸血鬼達にとって一方的だったかの状況は、ほんの少しの間にその状況を激変させた。
「味方のようじゃな?」
「ええ、とっても頼もしい味方よ」
エフェメリスの言葉に、僅かに緊張を弛緩させ返すシルヴァ、油断というよりは安堵という方が近いだろう、暗にそれだけの信頼を置ける者であるのだとエフェメリスも理解した。
シルヴァがぞろりと符を取り出す。
舞う符はそれぞれ歪虚と相対しているものへと吸い込まれるように溶けて消えた。
同時にマテリアルが活性化する。
「此れ以上自然を、精霊さんを傷付けさせませんわ」
ネフライトの詠唱に風が舞う、その風に乗せるように菜摘の歌声が重なった。
辺りに満ちる神聖な気配、風の魔法に合わせて静刃が影のように疾走る。
振り抜かれた一撃は鋭く速く、そして熱い。
生まれた致命的ともいえる隙をネフライトの燃え盛る矢が牽制する。
二対一という優位を的確に組み合わせ、刃は確実にその身を吸血鬼へと迫らせる。
程なくして歪虚の腕が宙を舞い塵となった。
身の丈よりも遥かに長い薙刀を自在に操りながら、めまぐるしい攻防は続く。
瞳を細め、一挙手一投足を把握する、祖霊達の力も借りたそれは受けに周り確実に足を止めさせるスタイルだ。
ぎりりっ、と矢を番える音がする。
木陰から位置取りを終えたクラン・クィールス(ka6605)の照準が終わったのだ。
「……経験は浅いからな。過度な期待はしてくれるなよ?」
引き絞り、狙い、そして貫く。
それぞれ一連の動作は決して滞ること無く行われ、互いのマテリアルを相殺しながらせめぎ合う。
その一矢は柊と相対していた吸血鬼の腕をちぎるだけの威力を秘めていた。
危険だと、そう判断した。
だが、それは失敗だっただろう。
動きを丹念に見据えていた柊にとって、その意識の変更は唯の隙でしかない。
薙刀は鋭く、決意と覚悟を持って振るわれる。
息の合った合いの手として降り注ぐ矢も含めれば躱すには難しい。
「……精霊さんも、ミモザさん達も、クィールスさんにも。傷はつけさせません」
続けざまの銃撃音、キャリコ・ビューイ(ka5044)による援護射撃は強力で、菜摘へと向けられた凶刃を幾度となく押しとどめている。
その間隙を突いて振るわれるメイスがすでに何度か吸血鬼を捉えている、マテリアルを強く纏ったその一撃は、着実に手数を稼ぐ。
「埒が明かないな……日下、次のタイミングで仕掛けるぞ!」
「わかりました、合わせます!」
身を隠していた木陰から体を晒す。
拡大する視覚、張り詰める神経、世界が緩やかだ。
ひときわ強い銃声に、吸血鬼の肩がはじけ飛ぶ、その一瞬を菜摘が見逃すはずもない。
「……不浄なる者、己が居るべき場所へ還るがよい!」
ひときわ強いマテリアルの込められた一撃に、手に伝わる骨の割れる感触。
捉えた、そう確信するのと同時、吸血鬼は派手に無様に吹き飛び大地を転がった。
断続的にカインの張る弾幕が距離を作る、その間に地面に突き立っていた巨大な斧が、観那の手によって再び持ち上げられた。
形勢の不利を理解したのか、相対する吸血鬼は時折エフェメリスへと視線を向ける、その濁った瞳は何を捉えているのだろうか。
「隙を見せる猶予など与えません。後ろへ向かいたくばこの私を倒してからになさい!」
互いの距離で続くにらみ合い。
仕掛けたのは観那からだった。
この状況、互いの持てる手札で取れる行動は限られる。
まして相手は同じギルドの仲間、背を預けるに躊躇はない。
ぐっ、と重心を落とし一息に肉薄、そのまま横薙ぎの大振りは否応なく歪虚の行動を制限する。
左右に逃げ場はない。
観那のその行動を確信していたかのように、カインのアサルトライフルの照準が正確に合わせられる。
ただ当てるだけでは決定打にはならない、放たれた弾丸は吸血鬼の足に吸い込まれるよう。
空中で体勢を崩したところへ、巨大な斧が頭上から振り下ろされる。
それは終局の鐘の音のように、森のなかに重い音を響かせた。
「数の優位もあったとはいえ、この短時間でとは……」
塵へと帰ってゆく歪虚の残骸、そして健在な皆をゆっくりと見回した彼女は感心した用に呟く。
かつて自身と共に戦ったものたちに、勝るとも劣らないその姿――
「実に見事な手並みであった」
「お褒めに預かり光栄です、エフェメリス様。お怪我はございませんか?」
そう、ネフライトに聞かれ、体の具合を確認してから頷いて返す。
「多少マテリアルを奪われた感じではあるが、問題ない」
あちらのほうが傷は多いじゃろ、とシルヴァの方を促してみれば、そちらではすでにエフェメリスの依代の掘り出しを始めていた様子だ。
「意外とタフだなシルヴァ……」
観那へとヒールによる手当を行っていたカインは余力で他の面々も治療を施していく、日下もまた同じように仲間をケアして回ったために、戦闘での傷が癒えるまでにそう時間はかからなかった。
「これで人心地、でしょうか?」
「そう見て良さそうじゃな」
日下の言葉に同意して返すエフェメリスは先程より少しばかりテンションが上っている。嬉しそうに、ハンター達へと視線を送っていた。
「エフェメリス様。貴方様の依代は元より此の森にあったのでしょうか? あの様子では大分長い事此方に放置されていた様ですし、御身や御力に支障は御座いませんか?」
「わしが死んで以来放置されたままだったんじゃろう。大丈夫じゃ、気を使わせてしまったようじゃな」
そう言ってネフライトへと笑顔を向けた。
「さて、二人がわしの依代を掘り起こすまでまだ暫し掛かりそうじゃし、その間にお主達に聞いてみたいことがあるのじゃが、よいかの?」
「なんです? 自己紹介もまだですし、ちょうどいいかとは思いますが」
少しぎこちなく答えるカインに小さく頷くエフェメリスは皆を見回して反論が特にないことを確認してそれを口にした。
「運命とは如何様なものか、という問いについて、どのように答える?」
彼女の言う問いは漠然としたものだろう。
だからこそ、答えに"人"が出る。
エフェメリスの表情は穏やかだが、その瞳に宿す光は真剣なものだった。
考え込む一同、静かな森のなかに土を掘り返す音が響く。
そんな中で、最初に手を上げたのがネフライトだった。
「私にとって運命とは、自然と寄り添う事、生きとし生けるものを尊び共に歩む事。……運命とは、愛するものの傍にあるものだと私は思いますわ」
問いの答えとして、彼女はそう告げる。
それにエフェメリスは口元をほころばせ目を閉じ頷いてみせる。
「温かい答えじゃ。何を大事に思っておるのか伝わるような気がするの、お主に愛されるものは、きっと幸せであろう」
真剣に向き合った言葉は力を持つものだ。
次の手が挙がる。
「生きていく中で、道は幾つにも分かたれる。場合によっては、時や場、状況などから『そちらへと導かれている』様に感じる事もあるかもしれない。……だが、導きというのはえてして外からのもの。導きに従うか、また導かれてもその後どうするかは、自らの意思で決める必要がある。その導きを運命とするなら、運命とは”道標の様なもの”だと考える。不必要なものではなく、しかし固執するものでもない。従うも抗うも、それぞれが選択すべきだと。逃げ続けても、流され続けても。きっと良い結果など生みはしないから」
クランの答えはゆっくりと紡がれる。
エフェメリスはそれを急かすこと無く最後まで聞き届ける。
「覚悟を感じる答えじゃ。お主は選択することの重要性を、知っておるのじゃろうな」
一体この青年はどんな人生を歩んできたのかと、それに思いを馳せるようにゆっくりと頷く。
「うーん…そうですねぇ」
ある程度考えがまとまったのか、クランの隣で柊が声を上げる。
「……偶然の積み重ね、その人の人生が変わる必然、でしょうかー。誰かと出会う、誰かを好きになる……誰かの死に際を看取る。全ては偶然で、偶然の上に偶然が積み重なって……それらが偶然と呼ぶには重なり過ぎた時に、人はそれを必然だとか、運命と呼ぶのかなぁと思いますー」
柊の答えに、思うところがあったのか彼女は頷いてみせる。
「感じ入る答えじゃな。確かに、世の中には時折そのようなことが在る……あるいは、全てがそうなのかもしれん」
何を思ったのか、暫しの間沈黙して彼女は目を伏せた。
エフェメリスもまた、そうした巡りを感じたことが在るのだろう。
次は観那から手が挙がる。
「受け入れるべきものであると同時に抗うものでもある、というところでしょうか。存外身勝手なもので、己にとっていい運命ならば受け入れたいと思いますし、そうでなければ抗いたいのです」
まだ言葉を探している様子に、次の句を待つ。
「ですが運命と呼ばれるものがどのような形であれ、覆すのは大変困難だという事も承知しています。だからこそ抗う時は己の全てを賭して闘い、勝ち取るものではないでしょうか。その結果途中で力尽きたとしても、私の屍が未来へ続く道の小石となり、後の者達へ託せるならば本望です」
ないまぜになった感情と覚悟、どんな気持ちでその言葉を口にしたのか、それを考えながらも、それを肯定する。
「力強い答えじゃな。勝ち取るもの、というのにはわしも同意じゃ」
その様子は満足そうで、どこか遠くを見るような瞳で観那を見つめていた。
「逆に精霊様にとっての運命とはどういうものなのか、よければお聞かせ願えればと」
「期待に沿える答えであるかはわからぬが……。運命とは、切り開くものと考える。自身の望むものをつかむためには、そうしなければ手に入らぬ。たとえそれが、親しきものであろうとも、な」
一瞬、細められた目に厳しい眼光を見た気がした。
「運命、ですか」
ぽつりと、静刃の言葉が漏れる。
「唐突に訪れる転換期、でしょうか。良きにせよ、悪しきにせよ」
その言葉は、過去に何かあったことを思わせる。
「避ける事はできない。けれど、自身に関わるもので悪しきものであるならば、抗わずにいられませんね、わたしは」
少なくともその言葉から、良い転換期ではなかったように思え、エフェメリスは少し表情を曇らせる。
「抗う者の答えじゃな。……その答えに至った理由、わしにはわからんが、大切にな」
まだ回答を残しているのは三人。
ちらりと後ろを見れば、もう少しだけ問答の時間はありそうだ。
「さて、お主らはどうじゃ?」
エフェメリスの言葉に、菜摘が一歩前に出る。
次なる答えはどのようなものか。
「運命というのは、他の誰でもない自分の意志でこれまで選び取ってきた行動より導き出された結果だと思っています。今この世界にいるのも、LH044へと赴任したことが切欠といえますし」
知らぬ単語に、わずかに彼女の首が傾く。
「だから、嘆くよりそれを受け入れて進もうと思います」
「俯かぬ者の答えじゃな。前へと進もうとする意思は尊いものじゃ」
菜摘を肯定するように頷いて笑ってみせる。
残るは二人、先に歩み出たのはキャリコだ。
「運命とは、その人の膨大に有る行動の選択によって形作られる歴史と考える。人によっては、神の導きやら何やら言う物も居るだろうが……俺は、そう思わない。俺は、神を信じない。もし神が本当に居て運命とやらを操作していても、俺は神にだろうと従わない。俺は、俺の信念によって行動する」
断言しながらも彼は思考を巡らせていた。
この質問の意図はなんだろうか、と。
これと言った解は浮かばず、あるいはこの精霊は本当にただ聞きたくて、知りたくてこのような問いを出したのかもしれない。
「信ずる者の答えじゃな。己を信じる、良き信念じゃ……さて」
エフェメリスは最後の一人へと視線を向ける。
威圧感もあるドラグーンの青年へ向き直り、泰然としてその答えを待つ。
「人の命を運ぶもの。未来へ歩いていく現在において、振り返った過去の軌跡の名。己が己として生きてきた証の名であり、未来へ向かう道なき道の名。自らの命をどのように運ぶかを己で考え、自らを導く星を掴むもの」
その言葉を、興味深く聞く。
「諦めるための理由としてあるのではなく、諦めない可能性として、運命という言葉は存在していてほしいと思っている。以上が俺の考えになる、答えとしてお受けいただけるか?」
暫しの沈黙の後、彼女はにんまりと喜ばしそうに笑い強く頷いた。
「希望のある答えじゃ。皆、良い答えを持っておる。お主達ならば信じるに十分じゃ」
今の若者達の輝きは彼女の目にどう映ったのか、その様子を見れば心配することなどどこにもなかった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/22 19:34:36 |
|
![]() |
相談卓 日下 菜摘(ka0881) 人間(リアルブルー)|24才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/10/23 21:08:01 |