ゲスト
(ka0000)
海岸線上の砲台群
マスター:えーてる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/22 07:30
- 完成日
- 2014/11/29 22:25
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「なんじゃこりゃ……貝?」
林を抜けるなり、ハンターの女性はうめき声を上げた。
見るからに雑魔であることは疑いようがない。ないが、何だこの数は。
海岸線にヴォイドが沸いているという話を聞いて、偶然居合わせた彼女が見に来たのだが、中々見ない数の敵の量にしばし圧倒されていた。
岩礁にびっしりと生えた、大きさもまばらな貝の雑魔。小さなものでは子供の頭、大きなものだと大人の胴体ほどもあるそれらが、数十体は群れていた。
貝は接地面に対してやや斜めに生えており、貝殻は三角錐に似た形状で、槍か嘴のように穂先を伸ばしていた。
雑魔は妙に静かで、どうやらすぐに攻撃してくるタイプではないようだが。
「……うーん」
ひとまず足元の一体へと拳銃をぶっ放す。閉じた貝殻に直撃した銃弾は、そのまま弾かれて岩場に転がった。
「硬いわね」
続いて、ナイフを貝殻の隙間に突き立てる。これも無理。困った女性は根本にジャマダハルを突き立てる。
「お?」
そのままぺろりと持ち上げると、貝の雑魔は呆気無く地上に転がった。三角錐の細長い部分をぱくぱくと嘴のように開き出す。しばらくすると、そのまま死亡して蒸発しだした。
同じ要領でもう一つひっぺがし、ぱくぱく開く貝の内部に刃先を突き込むと、これまたあっさりと死亡した。
「硬くて面倒なだけか。数は多いけど、負のマテリアルもそこらの雑魔以下……ん?」
ふと女性が視線を巡らせる。先程と何か風景が違う気がする。
その違和感の答えはすぐに出た。
「な、なによこいつら。こっち向いて……」
ずるずると、不気味な動作でそれらは穂先の向きを変えていた。まるで砲台が照準を合わせるように。
咄嗟に女性は飛び退いて、動物霊を宿して俊敏性を増す。
半瞬遅れて、それらは一斉に殻を開いた。
「う、そ、うそうそちょっと待った――!」
そして、一斉に酸の弾丸を吐き出した。
咄嗟に回避した彼女に次々酸の弾が飛来し、たまらず女性はその場を飛び退き、遮蔽物を探す。
目についた木の影に飛び込んでひとまず息をつく。ジュッ、と嫌な音がして木が溶け始めるが、少しは持つだろう。
ちらりと状況を伺いながら、女性はため息を吐いた。
「めんどくさ……それに服が溶けるわ。私服でなくて良かったぁ」
などと呟きながら、口を開けて射撃しようとした貝目掛けて銃弾をねじ込んで一匹を撃破。ひとまず安全地帯からゆっくり射撃を繰り返して数を減らすことにした。
数発を打ち終えた女性はマガジンを交換しながら次の遮蔽物を探す。
その背後で、ざばり、と何かが水から上がった。
――背筋を悪寒が駆け抜ける。
直感に従い、一も二もなく木陰から飛び出した女性のすぐ後ろを、巨大な酸の塊が飲み込んだ。
「……いやいや、嘘でしょ」
根本から溶解して折れる樹木。どころか、後ろの岩場まで溶解して体積を半減させていた。
土煙の向こうで彼女が見たのは、その三角錐の砲身をこちらへ向ける、巨大なヴォイドであった。
●
「……という状況だったようです」
思わず立ち止まった女性は大量の酸を浴びて体を焼かれたが、どうにか撤退。回復スキルで傷こそ塞いだものの、単独での討伐を諦め撤退したらしい。
受付嬢イルムトラウトは眼鏡を押し上げた。
「とにかく数が問題です。単発の攻撃自体は然程の威力ではなく、盾などで容易に無効化しうる程度のものですが……大型ヴォイドの酸射撃は範囲も広く、直撃は危険です」
木の板程度でも遮蔽は可能だったらしい。ハンター用の盾であれば何発防いでも問題ない。弾速は遅く弾道も単調で、防御も回避も難しくはない。
だが、数がそれらを強引にカバーしている。
加えて大型の攻撃が遮蔽一箇所に留まることを許さない。弾幕をどう掻い潜るかが焦点になる。
「弱点は攻撃時に露出される貝の中身か、付け根です。開いてから射撃までに少し間を置くようなので、付け入る隙はそこでしょう。岩場から引き剥がすことで無力化出来る程に脆弱ですが、殻自体はかなり堅牢、砕くには相当の威力が必要だと思われます」
また、照準の移動速度は決して早くないらしい。容易に防げる点も含めて、防御と回避を疎かにしなければ、遮蔽を使えない前衛でも付け入る余地はある。
「一般人が訪れれば溜まったものではないでしょう。被害の出る前に、早急な対処をお願いします」
リプレイ本文
●
「おぉおぅ、雑魚がわらわらと……こりゃ狩りがいがありそうじゃねぇか」
ティーア・ズィルバーン(ka0122)は獰猛に笑いながら、愛用の斧を担いだ。
眼前の岩場に広がる奇妙な貝の群れ。ごつごつした縞模様の三角錐がてんでバラバラに乱立している様子は、いっそ幾何学的な印象さえ感じさせる。
そして、中央に鎮座する大型のヴォイド。他の貝に比べて二回りも三回りも大きいその姿は、どこか威圧感を漂わせていた。
その光景は確かに目を見張るものがあったし、これが雑魔でなければ、まるで珍百景とでも呼べただろうが。
シェリア・プラティーン(ka1801)もまた、ティーアと肩を並べて腕を組む。
「数だけは立派ですわね」
ユルゲンス・クリューガー(ka2335)は鎧をつるりと撫でた。
「これほど数が揃うと、さすがに壮観な眺めだな」
見る限りで三十前後。位置もサイズもまばらで、しかし中央のヴォイドから放射状に周囲へと広がっている。
「さてさてさって、チビを撃つだけの簡単なお仕事ぉ~……ってなってくれたら、おっさんとしちゃ最高なんだけどねぇ~?」
「そうはならないと、お前も分かっているんだろう?」
鵤(ka3319)のへらへらとした言葉に、ロニ・カルディス(ka0551)が答えた。
「願うだけならタダだよ」
鵤はけろりと言ってのけた。
「酸を吐く貝か……服とか武器を溶かされないように気をつけないとな」
「こんなのが居たら近くで漁をする人とかは困っちゃいますよね。が、頑張って退治しないと……」
柊 真司(ka0705)とリズ・ルーベルク(ka2102)は頷きあう。
「貝は貝でも、食べられない貝なんだよ。ちょっと残念なんだよ」
ソウジ(ka2928)は肩を落として呟いた。
●
「いつの間にか私達、良いコンビになってしまいましたわね」
プロテクションの術を互いに掛けながら、シェリアがぽつりと呟く。ティーアはからからと笑った。
「はっはっは。お嬢ちゃんが俺とタメ張るには、まだまだ経験が足りてないぜ」
「またそうやって……そう言っていられるのも今のうちですわ!」
二人は比較的長い付き合いだ。ティーアがクリムゾンウェストに転移してきた頃に出会ったのが、シェリアだという。
シェリアはぷいっと顔を背けた。付き合いは長いようだが、まだまだ素直になるには時間が必要らしい。
「ま、あんまり無理すんじゃねぇぞ」
ティーアは、彼女の背にそう声をかける。
少し離れた位置で、ロニとリズも準備を済ませていた。
「治癒に関しては問題なさそうだな」
「そうですね」
プロテクションを掛けながら、ロニが小声でそう口にして、リズが小さく肯定した。
「ちょっとやそっとの傷なら、すぐ塞げますね」
「それも込みでの、この編成だが」
ロニの視線をリズは首肯し、ティーアとシェリアも頷いた。
「――よし、行こうか」
ロニの合図と共に、四人が物陰から飛び出した。
向かう先は、雑魔の群生地。現れた動体へと、角錐のような穂先が旋回する。
ティーアとシェリアが右へ、ロニとリズが左へ分かれて、ぐるりと貝の群れの周囲を回り込む。
彼らは囮だ。今回は後衛職が少なく、前衛が切り込むために少し工夫が必要だ。
貝の雑魔たちがゆっくりと彼らに狙いを定めるが、移動する彼らを追いかける貝たちは照準が追いつかない。一方、回り込む先にいる貝が順番に酸を吐き出す。
ティーア目掛けて放たれた酸の弾に、先を走るシェリアが割り込んだ。
「ティーアさんの事は私がお守り致します。ですから、思う存分に暴れて下さいませ!」
かざされたホーリーシールドが酸を受け、シェリアは酸を振るい落とした。
「さぁ! 標的は此方ですわよっ!!」
大声での威圧。聴覚のないはずの貝に届いたのか、或いは彼女が目立っていたからなのかは分からないが、右半分の雑魔の多くはシェリアに狙いを定めた。
放たれる酸をシェリアは盾で弾き落とす。
「よくやった。んじゃ、銀獣の狩りを始めさせてもらうぜ」
その背を酸弾ごと飛び越える形で、ティーアが前へと踊り出た。大斧を薙ぎ払らい、雑魔の一匹が根本から弾き飛んで消滅する。彼は続く酸弾を飛び退いてかわして、脚部にマテリアルを通して回避力を高める。再び斧を振り抜き、盾が振りかかる火の粉を払う。豪快ながら息のあった連携だった。
飛び回り動き回る右翼の二人に比べて、左翼を抑えるロニとリズは、堅牢極まりない立ち回りであった。
「さて、陸に上がってきたのが運の尽きだ。纏めて駆除させてもらうぞ」
ロニは岩や木々、時には敵を遮蔽にしつつも、敵の方向転換に合わせて横へ移動し、照準に入らないよう動き回る。そして隙を見るなり影の弾丸を放って少しずつ数を減らしていく。
なるべく多くの敵を惹きつけるため、リズはゆっくりと前に出て行く。目星をつけていた遮蔽を経由しつつ、前へ。
「その程度で、怯みません」
左右に敵がいないことを確認し、身の丈ほどの大盾で酸を防ぎながら、少しずつ制圧圏を広げていく。その中でも、雑魔の中でも大きめな相手を狙って影の弾丸を撃ち出して倒した。
接近できるギリギリまで近づいた所で、リズは雨あられと撃ち出される酸に足を止めた。これ以上前に出ると、盾で防げる範囲を超える……。
「リズ」
影が矢のようにリズの左右に着弾し、口を開けた雑魔を葬り去った。
「進めるか」
「ありがとうございます、ロニさん」
ロニはリズの盾に身を隠して、酸の弾をやり過ごした。
「女性に守られるというのも、いささか恥ずかしい話だが」
「私もハンターです。任せて下さい!」
スクエアシールドの端がすっと持ち上がって、ロニを狙う弾を遮る。
「勿論だ。信頼の証と受け取ってくれ」
ロニはすっと腕を上げた。
●
「今が好機、一気に突き崩すぞ!」
ロニの合図を受け、ユルゲンスが高らかに叫ぶ。
貝たちは左右に穂先を向けていて、丁度中央付近はがら空きだ。
「よし、いくぞ!」
続けて真司が声を張り、後発の四人が突撃を開始した。
「味方を信じろ! 道は拓かれた! 突撃!」
鎧姿で馬を駆る姿は騎士そのもの。囮が作り出した隙間へ、ユルゲンスの号令に合わせて、本命――大型ヴォイド討伐のための四人が突貫する。
「んじゃー、おっさんもおっさんの仕事をしましょうかねっと」
鵤はへらへらとした笑みを崩さず、走る三人の少し後ろに陣取ると、進路上の邪魔な幾つかの敵へと機導砲を放って道を開ける。
「雑魚は適当に掃除しておくんだよ!」
ソウジも邪魔な雑魚が口を開けたところへ刀を突き刺す。
開かれた道を、騎兵となったユルゲンスが疾走する。真司は射程に捉えてすぐに、アサルトライフルの引き金を引いた。
が、弾丸はその堅固な装甲に阻まれて弾けて転がる。
「くそ、殻の上からじゃ傷もつかねぇか……」
真司は毒づいた。しかし引き金から指は離さず、殻の上からでも銃撃を続ける。ヴォイドから六メートル程の距離を保ち、真司も回りこむように移動して敵の射線から逃れる。
緩慢に方向転換をする巨大貝。異質な形状と合わせて、何か奇怪なモニュメントのようでもあった。
ヴォイドに隣接したユルゲンスは、そのまま口を開くまでヴォイドの周囲を旋回する。
ソウジも大型に取り付くと、周囲を駆けまわる。その背へと、雑魔の一匹が狙いを定めた。
「おおーっと、そういうのはお断りだよ」
が、鵤の放った銃弾が雑魔の口の中へと飛び込み、そのまま肉を吹き飛ばして消し去る。
「助かるんだよ!」
「なぁに、その分おっさんにラクさせてくれればいいよぉ」
ひょうひょうと笑いながら、鵤はさらに銃弾を放って、近接組の足場を確保していく。
と、ついにヴォイドがその大口を開きだした。
「攻撃チャンス! やらせてもらうんだよ!」
ソウジは側面から飛びかかると、マテリアルを日本刀にまとわせる。
「首領が言ってたんだよ! どんなに硬い鎧を着てても中身は柔らかいんだよ!」
弱点へと狙い済ました一太刀が、殻の裏、貝の肉へと深く傷を入れた。
「ぬぅん!」
飛び退くソウジと入れ替わりに、ユルゲンスが馬上で上段に剣を引き絞る。青く輝く刀身が弧を描き、全力で叩き込まれた。
重い一撃にヴォイドは揺れるが、まだまだ倒れる様子はない。
「見た目通りかなりタフな様だ」
ユルゲンスは馬を回し、場所を開ける。
真司もチャンスを逃さず口内へと銃弾をぶちまける。
「これでも喰らいやがれ!」
弾丸すら意にも介さず、ヴォイドはついに狙いを定める。射線の先にいるのは、囮組……シェリアだ。
「おーいお嬢ちゃん! デカいの行くぞぉ!」
「っ――」
鵤の鶴の一声でシェリアははっとそれに気付き、咄嗟に横へ飛んだ。
直後、酸の砲撃が放たれる。
酸の飛沫は大きく弾け飛ぶ。盾でかばいきれる量ではなく、このままでは大量の飛沫を身に浴び――。
「悪いが、そうは問屋が卸さねぇよ」
直前、真司の防御障壁が割り込んだ。
「シェリア!」
「大丈夫ですわ、この程度……それより」
霧散する光の壁を抜けた幾ばくかの酸を拭い去って、シェリアは素早くヒールを唱える。軽く被った程度だから火傷で済んだが……駆け寄るティーアの隣、陥没した大地に目を向ける。
着弾点、岩の足場は音を立てて溶解していた。
「アレの直撃を受ける訳には参りませんわ……」
まともに浴びれば、ちょっとやそっとの傷では済まないだろう。
貝の砲台がぱくんと閉じて、また堅牢な殻に守られる。
ひとまず相棒が無事であったことにティーアは息をつき、それから斧を担ぎ直した。
「覚悟はいいか、俺の獲物に手を出したんだ……貴様ら一匹残らず、塵芥も残さず狩り殺す」
前傾姿勢で飛び出した彼は、まさしく獣の如くに斧を叩きつけた。
●
「おーいソウジ君、三時方向の敵さん狙ってるぜぇ? 回避準備回避準備ぃ~」
「りょーかいなんだよ! ほいっと!」
鵤の合図に合わせてソウジが背面跳びで酸を飛び越え、着地ざまに日本刀を突き立てた。
雑魔の数もかなり減った。戦況は比較的順調と言えよう。
大型ヴォイドはあれから数度、対象を変えて砲撃を敢行したが、皆どうにか回避していた。とはいえ避けられたのは直撃のみで、着弾時の飛沫までは避けきれないものだが。
「かなり殴ったのに、随分固いんだよ! ……鵤、そっち行くっぽいんだよ!」
「ひぇー、怖い怖い」
ソウジの警告に鵤は慌てて遮蔽に飛び込む。そこに偶然いた一匹の雑魔に、鵤はナイフを振り上げた。
「おっと先客ぅ? 悪いけど、そこどいてくんない? おっさん溶けて死にたくはねぇんだよっと」
根本に突き立てたナイフをテコにして、雑魔を引っぺがして消滅させる。遅れて、酸の砲弾が岩に直撃。
「って、うっひゃあ!?」
身を隠せるほどの岩は瞬く間に溶け落ちて、飛散した酸が鵤の頭から降り注ぐ――が。
「まだまだ、通さねぇぞ!」
真司の防御障壁が阻み。
「大丈夫か!」
「今癒やします!」
リズとロニの回復が飛ぶと、鵤の傷はすぐにふさがった。
「ひー、白衣だからって酸ぶっかけていいとかそんなことないからねぇ」
鵤は半ば形をなくした岩から飛び起きると、雑魔に銃弾を浴びせた。
「やられっぱなしではありませんわ!」
シェリアはティーアの背を狙う雑魔に盾を構え、ホーリーライトを放つ。
「おぉ……らぁっ!」
荒々しく振りぬかれたティーアの斧が、最後の雑魔を根本から切り飛ばした。
「よし、あとは大型だけだ」
ロニは味方にプロテクションをかけ直しながら呟く。
「一気に片付けるんだよ! 逃がさないんだよ!」
「逃げはしまいが、次で終わらせるとしよう」
ソウジとユルゲンスは砲塔の旋回に合わせて動き回り、機を伺っている。
と、貝が開いた。狙いはリズだ。
「リズ、退避を!」
「引きつけます!」
リズは目星をつけていた岩を遮蔽物にし、さらに岩から距離を取って、盾を構えた。砲撃が放たれる。
岩が吹き飛び、飛び散る酸からも遠くに位置していたリズは、真司の防御障壁と己の盾で酸を防ぎ切った。
「皆さん、今です!」
「任せよッ!」
応えたユルゲンスの剣が強烈な一撃を見舞う。
貝が閉じるまでの間に、ハンターたちは総攻撃を敢行した。
「いい加減沈んどけ、ヴォイド風情が!」
ティーアの巨斧が鋭く貝の中身を殴打する。
ゆっくりと閉じ始める貝目掛けて、真司は引き金を引いた。
「一瞬でいい、押し留める!」
「まだまだ終わりではない、ここで終わらせるぞ!」
真司の銃弾とロニの影の弾が殺到して、閉じようとする貝をこじ開ける。
「お返しします!」
リズの影弾も、貝の内側で弾けた。
「これで――とうっ!」
そして貝が閉じる瞬間、ソウジがその内部へと飛び込んだ。
薄刃の刀がひらりと閃く。
内側から真っ二つに分かたれたヴォイド、その中心で。
「いっちょあがりなんだよ!」
ソウジはにこりと笑ってピースサインをしてみせる。
これが海岸線に現れた脅威の排除が成立した瞬間であった。
「おぉおぅ、雑魚がわらわらと……こりゃ狩りがいがありそうじゃねぇか」
ティーア・ズィルバーン(ka0122)は獰猛に笑いながら、愛用の斧を担いだ。
眼前の岩場に広がる奇妙な貝の群れ。ごつごつした縞模様の三角錐がてんでバラバラに乱立している様子は、いっそ幾何学的な印象さえ感じさせる。
そして、中央に鎮座する大型のヴォイド。他の貝に比べて二回りも三回りも大きいその姿は、どこか威圧感を漂わせていた。
その光景は確かに目を見張るものがあったし、これが雑魔でなければ、まるで珍百景とでも呼べただろうが。
シェリア・プラティーン(ka1801)もまた、ティーアと肩を並べて腕を組む。
「数だけは立派ですわね」
ユルゲンス・クリューガー(ka2335)は鎧をつるりと撫でた。
「これほど数が揃うと、さすがに壮観な眺めだな」
見る限りで三十前後。位置もサイズもまばらで、しかし中央のヴォイドから放射状に周囲へと広がっている。
「さてさてさって、チビを撃つだけの簡単なお仕事ぉ~……ってなってくれたら、おっさんとしちゃ最高なんだけどねぇ~?」
「そうはならないと、お前も分かっているんだろう?」
鵤(ka3319)のへらへらとした言葉に、ロニ・カルディス(ka0551)が答えた。
「願うだけならタダだよ」
鵤はけろりと言ってのけた。
「酸を吐く貝か……服とか武器を溶かされないように気をつけないとな」
「こんなのが居たら近くで漁をする人とかは困っちゃいますよね。が、頑張って退治しないと……」
柊 真司(ka0705)とリズ・ルーベルク(ka2102)は頷きあう。
「貝は貝でも、食べられない貝なんだよ。ちょっと残念なんだよ」
ソウジ(ka2928)は肩を落として呟いた。
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「いつの間にか私達、良いコンビになってしまいましたわね」
プロテクションの術を互いに掛けながら、シェリアがぽつりと呟く。ティーアはからからと笑った。
「はっはっは。お嬢ちゃんが俺とタメ張るには、まだまだ経験が足りてないぜ」
「またそうやって……そう言っていられるのも今のうちですわ!」
二人は比較的長い付き合いだ。ティーアがクリムゾンウェストに転移してきた頃に出会ったのが、シェリアだという。
シェリアはぷいっと顔を背けた。付き合いは長いようだが、まだまだ素直になるには時間が必要らしい。
「ま、あんまり無理すんじゃねぇぞ」
ティーアは、彼女の背にそう声をかける。
少し離れた位置で、ロニとリズも準備を済ませていた。
「治癒に関しては問題なさそうだな」
「そうですね」
プロテクションを掛けながら、ロニが小声でそう口にして、リズが小さく肯定した。
「ちょっとやそっとの傷なら、すぐ塞げますね」
「それも込みでの、この編成だが」
ロニの視線をリズは首肯し、ティーアとシェリアも頷いた。
「――よし、行こうか」
ロニの合図と共に、四人が物陰から飛び出した。
向かう先は、雑魔の群生地。現れた動体へと、角錐のような穂先が旋回する。
ティーアとシェリアが右へ、ロニとリズが左へ分かれて、ぐるりと貝の群れの周囲を回り込む。
彼らは囮だ。今回は後衛職が少なく、前衛が切り込むために少し工夫が必要だ。
貝の雑魔たちがゆっくりと彼らに狙いを定めるが、移動する彼らを追いかける貝たちは照準が追いつかない。一方、回り込む先にいる貝が順番に酸を吐き出す。
ティーア目掛けて放たれた酸の弾に、先を走るシェリアが割り込んだ。
「ティーアさんの事は私がお守り致します。ですから、思う存分に暴れて下さいませ!」
かざされたホーリーシールドが酸を受け、シェリアは酸を振るい落とした。
「さぁ! 標的は此方ですわよっ!!」
大声での威圧。聴覚のないはずの貝に届いたのか、或いは彼女が目立っていたからなのかは分からないが、右半分の雑魔の多くはシェリアに狙いを定めた。
放たれる酸をシェリアは盾で弾き落とす。
「よくやった。んじゃ、銀獣の狩りを始めさせてもらうぜ」
その背を酸弾ごと飛び越える形で、ティーアが前へと踊り出た。大斧を薙ぎ払らい、雑魔の一匹が根本から弾き飛んで消滅する。彼は続く酸弾を飛び退いてかわして、脚部にマテリアルを通して回避力を高める。再び斧を振り抜き、盾が振りかかる火の粉を払う。豪快ながら息のあった連携だった。
飛び回り動き回る右翼の二人に比べて、左翼を抑えるロニとリズは、堅牢極まりない立ち回りであった。
「さて、陸に上がってきたのが運の尽きだ。纏めて駆除させてもらうぞ」
ロニは岩や木々、時には敵を遮蔽にしつつも、敵の方向転換に合わせて横へ移動し、照準に入らないよう動き回る。そして隙を見るなり影の弾丸を放って少しずつ数を減らしていく。
なるべく多くの敵を惹きつけるため、リズはゆっくりと前に出て行く。目星をつけていた遮蔽を経由しつつ、前へ。
「その程度で、怯みません」
左右に敵がいないことを確認し、身の丈ほどの大盾で酸を防ぎながら、少しずつ制圧圏を広げていく。その中でも、雑魔の中でも大きめな相手を狙って影の弾丸を撃ち出して倒した。
接近できるギリギリまで近づいた所で、リズは雨あられと撃ち出される酸に足を止めた。これ以上前に出ると、盾で防げる範囲を超える……。
「リズ」
影が矢のようにリズの左右に着弾し、口を開けた雑魔を葬り去った。
「進めるか」
「ありがとうございます、ロニさん」
ロニはリズの盾に身を隠して、酸の弾をやり過ごした。
「女性に守られるというのも、いささか恥ずかしい話だが」
「私もハンターです。任せて下さい!」
スクエアシールドの端がすっと持ち上がって、ロニを狙う弾を遮る。
「勿論だ。信頼の証と受け取ってくれ」
ロニはすっと腕を上げた。
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「今が好機、一気に突き崩すぞ!」
ロニの合図を受け、ユルゲンスが高らかに叫ぶ。
貝たちは左右に穂先を向けていて、丁度中央付近はがら空きだ。
「よし、いくぞ!」
続けて真司が声を張り、後発の四人が突撃を開始した。
「味方を信じろ! 道は拓かれた! 突撃!」
鎧姿で馬を駆る姿は騎士そのもの。囮が作り出した隙間へ、ユルゲンスの号令に合わせて、本命――大型ヴォイド討伐のための四人が突貫する。
「んじゃー、おっさんもおっさんの仕事をしましょうかねっと」
鵤はへらへらとした笑みを崩さず、走る三人の少し後ろに陣取ると、進路上の邪魔な幾つかの敵へと機導砲を放って道を開ける。
「雑魚は適当に掃除しておくんだよ!」
ソウジも邪魔な雑魚が口を開けたところへ刀を突き刺す。
開かれた道を、騎兵となったユルゲンスが疾走する。真司は射程に捉えてすぐに、アサルトライフルの引き金を引いた。
が、弾丸はその堅固な装甲に阻まれて弾けて転がる。
「くそ、殻の上からじゃ傷もつかねぇか……」
真司は毒づいた。しかし引き金から指は離さず、殻の上からでも銃撃を続ける。ヴォイドから六メートル程の距離を保ち、真司も回りこむように移動して敵の射線から逃れる。
緩慢に方向転換をする巨大貝。異質な形状と合わせて、何か奇怪なモニュメントのようでもあった。
ヴォイドに隣接したユルゲンスは、そのまま口を開くまでヴォイドの周囲を旋回する。
ソウジも大型に取り付くと、周囲を駆けまわる。その背へと、雑魔の一匹が狙いを定めた。
「おおーっと、そういうのはお断りだよ」
が、鵤の放った銃弾が雑魔の口の中へと飛び込み、そのまま肉を吹き飛ばして消し去る。
「助かるんだよ!」
「なぁに、その分おっさんにラクさせてくれればいいよぉ」
ひょうひょうと笑いながら、鵤はさらに銃弾を放って、近接組の足場を確保していく。
と、ついにヴォイドがその大口を開きだした。
「攻撃チャンス! やらせてもらうんだよ!」
ソウジは側面から飛びかかると、マテリアルを日本刀にまとわせる。
「首領が言ってたんだよ! どんなに硬い鎧を着てても中身は柔らかいんだよ!」
弱点へと狙い済ました一太刀が、殻の裏、貝の肉へと深く傷を入れた。
「ぬぅん!」
飛び退くソウジと入れ替わりに、ユルゲンスが馬上で上段に剣を引き絞る。青く輝く刀身が弧を描き、全力で叩き込まれた。
重い一撃にヴォイドは揺れるが、まだまだ倒れる様子はない。
「見た目通りかなりタフな様だ」
ユルゲンスは馬を回し、場所を開ける。
真司もチャンスを逃さず口内へと銃弾をぶちまける。
「これでも喰らいやがれ!」
弾丸すら意にも介さず、ヴォイドはついに狙いを定める。射線の先にいるのは、囮組……シェリアだ。
「おーいお嬢ちゃん! デカいの行くぞぉ!」
「っ――」
鵤の鶴の一声でシェリアははっとそれに気付き、咄嗟に横へ飛んだ。
直後、酸の砲撃が放たれる。
酸の飛沫は大きく弾け飛ぶ。盾でかばいきれる量ではなく、このままでは大量の飛沫を身に浴び――。
「悪いが、そうは問屋が卸さねぇよ」
直前、真司の防御障壁が割り込んだ。
「シェリア!」
「大丈夫ですわ、この程度……それより」
霧散する光の壁を抜けた幾ばくかの酸を拭い去って、シェリアは素早くヒールを唱える。軽く被った程度だから火傷で済んだが……駆け寄るティーアの隣、陥没した大地に目を向ける。
着弾点、岩の足場は音を立てて溶解していた。
「アレの直撃を受ける訳には参りませんわ……」
まともに浴びれば、ちょっとやそっとの傷では済まないだろう。
貝の砲台がぱくんと閉じて、また堅牢な殻に守られる。
ひとまず相棒が無事であったことにティーアは息をつき、それから斧を担ぎ直した。
「覚悟はいいか、俺の獲物に手を出したんだ……貴様ら一匹残らず、塵芥も残さず狩り殺す」
前傾姿勢で飛び出した彼は、まさしく獣の如くに斧を叩きつけた。
●
「おーいソウジ君、三時方向の敵さん狙ってるぜぇ? 回避準備回避準備ぃ~」
「りょーかいなんだよ! ほいっと!」
鵤の合図に合わせてソウジが背面跳びで酸を飛び越え、着地ざまに日本刀を突き立てた。
雑魔の数もかなり減った。戦況は比較的順調と言えよう。
大型ヴォイドはあれから数度、対象を変えて砲撃を敢行したが、皆どうにか回避していた。とはいえ避けられたのは直撃のみで、着弾時の飛沫までは避けきれないものだが。
「かなり殴ったのに、随分固いんだよ! ……鵤、そっち行くっぽいんだよ!」
「ひぇー、怖い怖い」
ソウジの警告に鵤は慌てて遮蔽に飛び込む。そこに偶然いた一匹の雑魔に、鵤はナイフを振り上げた。
「おっと先客ぅ? 悪いけど、そこどいてくんない? おっさん溶けて死にたくはねぇんだよっと」
根本に突き立てたナイフをテコにして、雑魔を引っぺがして消滅させる。遅れて、酸の砲弾が岩に直撃。
「って、うっひゃあ!?」
身を隠せるほどの岩は瞬く間に溶け落ちて、飛散した酸が鵤の頭から降り注ぐ――が。
「まだまだ、通さねぇぞ!」
真司の防御障壁が阻み。
「大丈夫か!」
「今癒やします!」
リズとロニの回復が飛ぶと、鵤の傷はすぐにふさがった。
「ひー、白衣だからって酸ぶっかけていいとかそんなことないからねぇ」
鵤は半ば形をなくした岩から飛び起きると、雑魔に銃弾を浴びせた。
「やられっぱなしではありませんわ!」
シェリアはティーアの背を狙う雑魔に盾を構え、ホーリーライトを放つ。
「おぉ……らぁっ!」
荒々しく振りぬかれたティーアの斧が、最後の雑魔を根本から切り飛ばした。
「よし、あとは大型だけだ」
ロニは味方にプロテクションをかけ直しながら呟く。
「一気に片付けるんだよ! 逃がさないんだよ!」
「逃げはしまいが、次で終わらせるとしよう」
ソウジとユルゲンスは砲塔の旋回に合わせて動き回り、機を伺っている。
と、貝が開いた。狙いはリズだ。
「リズ、退避を!」
「引きつけます!」
リズは目星をつけていた岩を遮蔽物にし、さらに岩から距離を取って、盾を構えた。砲撃が放たれる。
岩が吹き飛び、飛び散る酸からも遠くに位置していたリズは、真司の防御障壁と己の盾で酸を防ぎ切った。
「皆さん、今です!」
「任せよッ!」
応えたユルゲンスの剣が強烈な一撃を見舞う。
貝が閉じるまでの間に、ハンターたちは総攻撃を敢行した。
「いい加減沈んどけ、ヴォイド風情が!」
ティーアの巨斧が鋭く貝の中身を殴打する。
ゆっくりと閉じ始める貝目掛けて、真司は引き金を引いた。
「一瞬でいい、押し留める!」
「まだまだ終わりではない、ここで終わらせるぞ!」
真司の銃弾とロニの影の弾が殺到して、閉じようとする貝をこじ開ける。
「お返しします!」
リズの影弾も、貝の内側で弾けた。
「これで――とうっ!」
そして貝が閉じる瞬間、ソウジがその内部へと飛び込んだ。
薄刃の刀がひらりと閃く。
内側から真っ二つに分かたれたヴォイド、その中心で。
「いっちょあがりなんだよ!」
ソウジはにこりと笑ってピースサインをしてみせる。
これが海岸線に現れた脅威の排除が成立した瞬間であった。
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作戦相談卓 ユルゲンス・クリューガー(ka2335) 人間(クリムゾンウェスト)|40才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/11/21 15:01:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/18 06:15:11 |