海の帰路の怪物

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/10/29 19:00
完成日
2017/11/06 21:37

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 グラズヘイム王国が敢行したイスルダ島奪還作戦は、黒羊神殿の崩壊…… いや、消滅をもって『成功裏に』終了した。
 成功──そう、結果だけを見返してみれば、作戦は確かに成功したのだ。イスルダ島という、これまで度々王国を侵してきた歪虚・ベリアルの策源地を叩き潰し、王国は失われた国土を取り戻した。これからはリベルタースの地に上陸して来る歪虚どもも、その戦力の量・質、共に徐々に減じていくものと推察されていた。
 イスルダ島の奪還は成った。作戦の戦略目標は達成されたのだ。

 たとえ、それが歪虚メフィストが仕掛けた罠に乗った結末であったとしても。

 ……たとえ、その成就の為に、取り返しがつかぬ程の大きな犠牲を払ったとしても。


 グラズヘイム王国所属の軍船、大型ガレオン『トマス・グラハム』号は、その日、奪還作戦で生じた多くの負傷兵を乗せて、一路、港町ガンナ・エントラータ──王国本土への帰路の海路についていた。
 降り注ぐ陽光に、潮風に、波飛沫── 作戦を無事に終えての帰路だが、船を操る水兵たちの表情に緩みはなかった。むしろ、彼らにとってはこの海路こそが戦場──イスルダ島が陥ちたと言って、海に出没する歪虚が今すぐ消えてなくなるわけでもない。
 護衛として道行きを共にするのは、同級船『セプティミウス・グラハム』号。奪還作戦序盤の上陸作戦において、巨大ヤドカリ型歪虚による火炎弾の『砲撃』を被弾した同船は応急修理を終えただけの状態で港に係留されていたのだが、『トマス・グラハム』号の負傷者移送に合わせて王国への帰還が決定した。
 ……とは言え、中破したガレオン船である。島での戦闘で四肢に大きなダメージを受けたCAMやゴーレム、魔導アーマーといったユニットを乗せて戦闘力を確保したとは言ってるものの、その実態は大破機体の運搬船。むしろ、『トマス・グラハム』号にとっては足が遅くなるだけの、押し付けられた『足手纏い』でしかない。
(自分たちで何とかしないと……!)
 『トマス・グラハム』号の水兵たちは半ば本気でそう決意を固めていた。新造船で乗員の練度も低い『セプティミウス・グラハム』と違って、こちらはマーロウ大公の座乗船にも選ばれる精鋭なのだ。軍上層部からも『負傷兵の安全を優先』するよう、内々の指示を『トマス・グラハム』の船長は受けていた。それは即ち、いざとなったら『セプティミウス・グラハム』を見捨てて逃げても構わない、と言われているのに等しかった。
「……。このまま何事もなければ良いが……」
 もっとも、誰もその様な事態に陥ることを望んでいるわけもない。故に『トマス・グラハム』の船長は心の底からそう願った。『セプティミウス・グラハム』の船長もそう祈った。

 しかし、運命は彼らを見逃さなかった。
 最初に異変に気付いたのは『セプティミウス・グラハム』号の鐘楼の見張り員だった。
 朝靄に煙る薙いだ海面── その靄の向こうから、波の音に混じって人の呻き声の様な異音が聞こえて来たのが始まりだった。最初に思いついたのは幽霊船の船幽霊──難破し、無念の内に海の藻屑となった船乗りたちが、生者を仲間に引き込まんとする恨みの声──
 その『声』は徐々に大きくなっていき……鐘楼の上で震える見張り員の他に、甲板上に立つ船員たちの耳にもはっきり聞こえるようになった。
 報告を受けて叩き起こされた『セプティミウス・グラハム』の船長が船尾楼の上に立ち、望遠鏡で海面に目を凝らす。
 瞬間、風が強くなって、立ち込めた靄が薄くなり。靄の向こうに小山の様な影が浮かび上がった。
 呻き声の様な音と共に、薄くなっていく靄の帳を抜けて近づいて来るその怪物の姿が船員たちの目に露わになっていく。その姿はまるで巨大なイソギンチャク──それも見える部分だけの話で、水面の下の姿は見えない。だが、自然界の生き物でないことだけはその姿を見ただけで十分わかった。水中にいるが如くユラユラと揺れるその触手は、しかし、桃色をした『人間の上半身』── 呻き声の様な音は、真実、呻き声だった。少なくとも人の喉に類した器官が発する葬列曲──!
「総員起こし。『トマス・グラハム』に対して警報鳴らせ!」
 胃の中身全てをぶち撒けたくなるのをこらえるような表情で、『セプティミウス・グラハム』の船長が部下たちに声を張り上げる。その怒声に、恐慌を来たさんばかりに震えていた水兵たちが弾けるように、自分の任へと戻るべく甲板上を駆けだした。起床を報せる怒声と喇叭に交じってけたたましく打ち鳴らされる鐘の音。獲物の騒音に気付いた『イソギンチャクのようなもの』が怒りの雄叫びを上げ、ドラムの様に下半身の触腕で水面を叩いた後、その触腕8本を器用に使って水を掻き分け、獲物へ向かって推し進む。
「……速いぞ!」
 その動きを見てどよめく水兵たち。敵は帆船の我々よりもはるかにずっと優速だった。あの速さが巡航速度でないとしても、こちらを捉えて沈めるくらいはわけもないことだろう。
「……我々はついてない」
 船長は呟いた。被弾してマストを1本失った『セプティミウス・グラハム』は僚船より更に足が遅い。そして、僚船は負傷兵を満載しており……こちらには、壊れかけとは言えユニットを戦闘力として乗せている。
「僚船に信号。我、これより歪虚との戦闘に突入す、だ」
 船長の命令に水兵たちが姿勢を正した。たとえ内心で何を考えていようとも。
 船長は『セプティミウス・グラハム』を僚船の盾にするつもりであった。彼は軍上層部が『トマス・グラハム』の船長に下した言外の指示について承知してはいなかった。ただ、この様な状況下でその決断を下すのは船乗りには当然のことであり、ついでに言えば彼は己の義務に対して至極真面目な性質(タチ)だった。
 船長は上甲板に出て来たハンターたち──ユニットの使い手たちに声を掛けると、迫る大型歪虚に対する迎撃の『お願い』(ハンターたちはあくまで運ぶ『荷物』と『お客さん』であり、船長に彼らに対する指揮権はない)をした。そして、その後で付け加えた。曰く、もし、この船が沈んだら、何としても『トマス・グラハム』に辿り着いて僚船を守ってほしい、と──
「無論、本船も最初から負けてやるつもりなどないがね」
 船長が笑みと共に呟いた。
 確かに、運命というものがあるのなら、それからは逃れられないのかもしれない。だが、それに抗い、勝利し、生き延びる権利は戦って自身で勝ち取るものだ。
「……敵、大型歪虚、本船に接近!」
 鐘楼から警告の声が降る。
 こちらを獲物に定めた敵がその針路を変更し…… 背中から一斉に『飛翔カジキ』の群れを誘導弾の如く撃ち放った。

リプレイ本文

「島で被弾したと思えば帰りはこれか…… 船か、俺たちか、どうやら余程運が無いと見える」
 風が朝靄を噴き流し、巨大なイソギンチャクの様なその化け物の姿が明らかになった時── その正体を目の当たりにした近衛 惣助(ka0510)はうんざりしたように呟いた。
「……帰り道で敵に襲われるとは確かにツイてない。しかも、俺の機体は腕の関節がイカれてる。あのデカブツ相手にどこまでやれるか……」
 皮肉気に零すラスティ(ka1400)。この船にある機は全て機体のどこかに不具合を抱えていた。先の惣助の機体は脚部。ラスティの機体は腕関節。アルバ・ソル(ka4189)の機体、黄金の騎士の如きフォルムのR7『ローゼス改』などは、近接武装ごと左腕部を丸々失っており、そして、ウーナ(ka1439)の『Re:AZ-L』──彼女のR6M2b『アゼル・デュミナス』にR7のパーツを組み込んでM3a相当にバージョンアップした改修機──は新規パーツを組み込んだ初期不良によるものか、片足がまるで動かない。
「ちょっとまだメンテ終わんないの!? あー、もうこんな時にぃ!」
 機体に自己診断プログラムを走らせながら、ウーナが派手な身振りで頭を抱える。
「……島で少々暴れ過ぎたからな。俺の機体も装甲とかぼろぼろになっちまっている。この状態で戦闘とか、無茶言ってくれるぜ」
「相手からすれば、消耗しているこちらはよい獲物だろうな。もっとも、こちらもそう易々とやられてやるほど、甘くも優しくもないないだろう?」
 愚痴を零すAnbar(ka4037)に、傍らに立つロニ・カルディス(ka0551)が確信的にそう訊ねる。
「……まあ、生き残るために、全力は尽くすけどな」
 2人は不敵な笑みを浮かべ合うと、それぞれ背中を向けて船の上甲板を走り出した。Anbarは愛機、ライトブルー塗装のR7『アルタイル』の操縦席へ。ロニは仲間らと水兵たちが集まった右の舷側へ……
「水際で迎撃するぞ。なるべく船に取り付かれる前に排除する。クルーは引き続き全周の警戒を。何かあれば報告してくれ」
 頼むぞ、と若い水兵の肩をバンと叩き、白色塗装のR7『清廉号』へと乗り込むロニ。その傍らを駆け抜けて船尾楼に駆け上がったメイム(ka2290)が船長に意見を具申する。
「船長! トマス・グラハム号を先頭に単縦陣を形成するよう要請します。我々でしんがりを務めましょう」
 船長は二つ返事でそれに応じた。元より、僚船『トマス・グラハム』には応戦する術がない。
 メイムは即応した船長ににっかりと笑い掛けると、自らも戦闘準備の為に身を翻して走り出した。そして、服のポケットに避難させていた桜型妖精のあんずを呼び出すと、嫌な予感に顔を引きつらせる彼女に『お願い』をした。
「飛んで、あんず。敵位置を0時に見て10時方向に50m。あたしの弾着観測の目になって♪」
 そう言ってにっこりと微笑む主を泣きそうな目で見返して。けど、逃げる事も断ることもできずに、桜型妖精あんずちゃんが大海の空へと飛んでいく……
「……敵、大型歪虚、本船に向かって進路を変更。……こちらに喰いついた!」
 鐘楼の上から降り来る報告。水兵たちから半ばやけっぱちの歓声が上がる。
 アルバは愛機のシートにその身を滑り込ませると、機を起動しながら呟いた。
「いくぞ、ローゼス。この勇敢な艦を沈めさせる訳にはいかない……!」


「せっかくの新型なのに、すぐ壊されるんだもんなぁ…… 結局、埴輪は儚く割れてしまう運命(さだめ)にあるんだなぁ……」
 戦闘開始の鐘の音がけたたましく鳴る甲板上── 愛機『人型埴輪二号』(ドミニオンMk.V)の胴体、それもコクピット前面に空いた大穴を見上げながら、アルト・ハーニー(ka0113)は切なさに満ちた表情でアンニュイに呟いた。
 その動作は戦に臨む戦士にしては随分とのんびりしたものだった。……それは彼の愛機に残された兵装に理由があった。その最大射程はキヅカキャノンの28sq──敵がその射程に入るまではどうせ攻撃できない。
「ま、外は見やすくなったし、風通しもよくはなったな、と。……海の香りを感じながらやるとするかね。とりあえず、埴輪の加護を増やす為に、飾り、増やしておくか」
 眼前の破孔の淵に、紐を通した埴輪をありったけ結んでいくアルト。鳴り響く砲声に、噴き放たれるブースターの推進音── 奮戦する味方を後目に、彼は周囲の索敵に注力することを決める……

 ハンターたちが乗り込んだCAMたちの中で、まず最初に行動を開始したのはラスティの『ウィル・O・ウィスプ改』とウーナの『Re:AZ-L』だった。
「甲板上の戦いでは圧倒的に不利、となれば、飛んで前に出て迎撃するしかねェな! 何事も経験、だ」
「脚がやられてても…えーと…コレだ。『フライトシステム』起動! どう、行ける……? 行けるよね! アゼル…改めラジエル、出るよ!」
 陽炎と共に2機の腰から脚部に掛けて装着された大型ブースター、その噴射口から眩いばかりの炎が噴き出され、船の甲板を黒く焼きながら2機を舷側から空へと押し上げていく。
 意外と振動が大きいものだな、と高度計に目をやるラスティ。一方のウーナは「これこれ、この感覚……っ!」とその身を震わせながら、HMDのモニタ一杯に広がる蒼い空と、まるで自身が空に浮いているかのような浮遊感と解放感に、瞬間、戦いの事も忘れてその瞳をキラキラ輝かせる。

 海を掻き分けながらこちらへ迫り来る『イソギンチャク』の上面から、まるでVLS(垂直発射管)から放たれた誘導弾の如く何かが飛び出した。上空のラスティ、ウーナ機のレーダーモニターに映し出される無数の矢印。それが一定高度まで上昇した後、一斉にこちらへ指向する。
「敵飛翔体、数16。本船到達まで40秒!」
「あのデカブツはこちらで足を止める。その間に接近する歪虚どもを撃ち落とせ!」
 甲板上、拠点防衛用に重装甲化された魔導型ドミニオン『真改』の操縦席で、機の精密照準用のバイザーを下ろしながら惣助が仲間たちに叫ぶ。
 了解、と答え、迎撃の為に前進するウーナ機とラスティ機。右舷甲板上に砲列を並べたロニ、Anbar、アルバの3機のCAMがそれぞれ魔導系銃砲と機体本体のジェネレーターとをケーブルで接続し、膝射姿勢でその銃口に仰角をつけて空へと構える。
「超遠距離……高精度こそ、機甲砲術士の誉れ~♪」
 一方、メイムはそんな鼻歌を歌いながら、傍らに立つ砲戦ゴーレム『ホフマン』に対して煙幕弾による標定射撃を行うよう指示を出した。
 撃ち放たれる煙幕弾── 最大射程で放たれたそれは、迫り来るイソギンチャクの手前の海面に落下し、魔法の煙幕を噴き出した。その位置を、一生懸命羽ばたくあんずの視覚を通じて上空から確認し、砲角を調整して照準を確定する。
「ホフマン! 連続装填指示。弾種は炸裂弾×2。撃て──!」
 メイムの指示に、無駄のない滑らかな動きで砲撃を始めるVolcanius。放たれた砲弾はメイムの計算通りイソギンチャクの前頭部と上面に命中した。撒き散らされた破片が皮膚に食い込み、人型触手の何本かを斬り飛ばして宙へと舞わせる。
「まずは少しでも数を削る……!」
 長砲身の大型ライフルを構えた『アルタイル』の操縦席で、Anbarもまた迫る敵飛翔体に対する迎撃を開始した。
 甲板にテイルアンカーを打ち込み、機体を固定。カメラをズームさせて狙いを定め…… カジキの様なその飛翔体が距離90に達した瞬間、魔法弾を撃ち放つ。
 光の尾を曳き矢と化した非実体弾がカジキの1体を直撃し、バランスを崩したところを再度の狙撃によって撃ち貫く。直後、腐食したようにモコモコ膨れて毒煙と化して弾け飛ぶ飛翔カジキ。その飛び行く光弾を眼下に見下ろしながら、ラスティとウーナもまた機を加速しつつ、カジキの群れへと接敵する。
「まるで魚群だな…… プラズマの投網で一網打尽、纏めてBomb! だ」
 敵群へとツッコミながら、ラスティは機を操作してCAM用ハンドガン「トリニティ」を長銃身モードへ移行させた。機が持つCAM用拳銃の銃身が2つに分かれて伸長し…… その分かれた銃身の間に発生したプラズマエネルギーが砲弾と化して撃ち出される。
 敵の只中へと放たれた高エネルギーの塊は、敵群に飛び込んだ後、爆発して周囲をプラズマ炎に呑み込んだ。レーダーモニタに映し出される3つのX印。直後、敵は散開し始め、映し出された敵路予測の矢印もまた花開く様に周囲へばらけて展開していく。
「脚なんかなくたってェ……!」
 機の両手に銃を引き抜かせて敵へと突っ込んでいくウーナ。敵の機動に合わせてフットペダルと操縦桿を激しく操作し、圧し掛かって来る重力にその身を振り回されながら、目だけは敵を捉えて離さない。こちらを引っぺがしにくるカジキに喰らいつき、照準が敵を捉えた瞬間、引き金を引き絞って銃弾と銛を打ち込んで。穿たれ、貫かれた敵が紫の毒煙と化して砕けた時には、もう自機を次の個体へ向かって跳ねさせている……

 その間も船に迫り続ける敵大型イソギンチャク── 遂に射程に入ったそれに対して惣助が砲撃を開始した。
 動かない左脚部を前へと投げ出し、立てた右膝に右肘を乗せて固定した砲を敵へと照準し……FCSによる誤射修正──照準の色が変わるのを待って引き金を絞る。瞬間、轟音と共に撃ち出され、緩い弧を描いて飛翔し、敵前面を直撃して爆発するカノン砲弾。砲後部より廃夾された空薬莢が甲板上を跳ねる間に薬室に次弾が装填され。即座に放たれたそれが、再び敵の前面を捉えて爆発の華が咲く。
「ホフマン、弾種変更! 火炎弾を連続装填。撃て──!」
 それに呼応するように弾種変更の指示を出すメイム。惣助の狙いは『制圧射撃』──敵の足止めが目的だ。そして、地面に炎を振りまいて継続ダメージを与える火炎弾は、不動目標に対してすこぶる相性が良い。
 だが……
「……デカブツが。止まりゃしねえ」
 惣助の砲撃を受けながら、怯むことなく前進を続けるイソギンチャク。海面に燃え広がる魔法の炎を押しのけるように近づいて来る敵に対して舌を打ちつつ、少しでもその足を止める為に制圧射撃を継続する。
「敵大型歪虚、延焼中! ……あれだけデカいと体表の一部が地形扱いとなるのかしらね(注:柏木判定)」
 ──被弾したイソギンチャクの上面で命中した火炎弾が振りまいた炎が燃え続けていた。人型触手が上げ続けている嘆きの呻き声に、焼かれた苦痛の喚き声が混じって風に乗って流れて来る。
 
「敵飛翔歪虚、残数8! 本船との距離50……!」
「来るぞ! 敵が射程内に侵入次第、各機、対空射撃始め!」
 ロニの指示に応じて砲口を敵へと向ける右舷の3機。機体のジェネレーターからエネルギー供給を受けたロニ機の赤いライフル砲身に光のラインが浮かび上がり……Anbarもまた狙撃を一旦停止して、銃と動力炉を直結する。
 アルバは機の操縦席で己の体内に循環するマテリアルの流れに集中すると、自分の体内から機体へとその意識を拡大させた。その流れを知覚して……より効率よくエネルギーを己の、いや、己の機体が保持する兵装へと循環させる……
「距離40!」
「撃て!」
 瞬間、ロニとAnbar、アルバの3人は各個に対空射撃を開始した。右甲板上から空に向けて一斉に放たれる3条のマテリアルビーム──宙を切り裂いたその光条が迫る飛翔カジキの群れを切り裂き、空中にパパパッ! とカジキの毒の華が咲く。
「残敵3! 距離25!」
「チィッ……!」
 Anbarは長大な狙撃砲を甲板に投げ捨てると、背部から取り回しの良い30mm突撃砲を引き出して敵進路上に向かって撃ち捲った。温存してあったフライトパックに火を入れ、追加ブースターを噴射させて甲板上から宙へと飛び出すアルバ機。そうして迫る敵の眼前に立ちはだかる様にしながら、アルバは先の『集中』の感覚を再現しながら、詠唱と共に魔銃を魔術の発動体としてカジキに『ファイアーボール』を撃ち放つ。
「吹き飛べ、歪虚よ!」
 迫るカジキの眼前で炸裂する爆裂火球。回避し切れなかった先頭のカジキがその一撃で吹き飛んで。直後、その焔を抜けて突っ込んで来たカジキの槍を、アルバはスラスターを噴かせて飛び越える様に回避する。
 そのまま機をクルリと逆さまに回転させつつ、背後から送り狼に放つ『アイスボルト』。放たれた氷の矢が命中して瞬間的にカジキを白く凍結させて。件のカジキは甲板上を一回バウンドしてから左舷側へ抜けて、そのまま海へと落ち砕ける。
「残数1! 直撃コース!」
 針路をポップアップさせ、斜め上方から甲板に突き刺さらんと降り落ちて来る最後の1。寸前、ロニは短い祈りと共に機に光の杭を放たせた。その杭──『ジャッジメント』によって瞬間的に移動能力を封じられ、最後のカジキは突進の勢いそのままにその制御を失い、クルクルと回転しながら左舷の向こうへ『墜落』していく。
 左舷へ駆け寄ったAnbar機が、海上に浮かんだ敵に30mm砲弾を浴びせてトドメを刺した。難局を一つ乗り切った船員たちが拳を突き上げる。
「よし、これで後はあのデカブツだけだな。……あんなのに取り付かれたら、船自体が危ないからな。何としても接近を阻止しないと、な」
 Anbarは再び機を船の右舷へととって戻すと、ロングレンジライフルの残エネルギー量を確認しながら再び膝射姿勢を取り、今度は海面を押し迫るイソギンチャクへ向けて狙撃を開始した。
 その間も一貫して、大型歪虚に砲撃を続ける惣助とメイム。
 この時点で敵は既に距離60にまで迫っている。


 ソレらの接近に最初に気が付いたのは、これまでずっと見張りに集中していたアルトだった。
 彼はハンターや水兵たちが空や大物を見ている間も、海面を含めた全てを見ていた。
 それでも、カジキ討滅の瞬間はそちらに気を取られたのだが……視界の隅に揺れた埴輪に気付いて、ふとそちらに目をやった。
 その時、彼はそれを見たのだ。──海面を波を蹴立てて迫り来る、横一列に広がった背ビレの集団を。

「右舷、海面下より迫る鮫の様なもの、多数! こいつは海産物フィーバーだねぇ! そろそろ食傷気味なんだぞ、と!」
 機外スピーカーとあらゆる通信チャンネルで味方に向かって叫びつつ、アルトは機のキヅカキャノンを起動した。延伸し、直立する砲身が舷側から海面へと指向され、迫る敵を待ち構える。
 ロニは慌てて機体のカメラを海面に向けてズームさせた。
 ……いた。白波を蹴立てて迫る背びれの群れ。左右に大きく展開しながら水中を突進して来る。……恐らく、こちらが空中の敵に気を取られている間に、ひっそりと海中で発進させていたのだろう。或いはこれが敵の本命か。
「確認した。目に見える航跡の数は16。大まかに船の船首方向に6、中央方向に5、船尾方向に5だ。一旦、扇状に広がった後、船に収束するように突進している」
 上空から全貌を確認しつつ、報告を下ろすラスティ。敵の動きはまるで魚雷のよう。名付けるならさしずめ魚雷鮫とでも言ったところか。
「数が多い? 問題ないね! 舞え、ラジエル!」
 ウーナは真っ先に機を降下させると、最も数の多い船首側へと機を飛ばして全ての敵を視線で捉えた。そして眼下に銃口を向けると、まるで海上を舞う様に次々と銃口を振り向け、水面へ向けて両手の銃弾を送り込んだ。
 小さな弾着の水柱が幾つも海面に跳ね……直後、水の下で直撃を受けた鮫が3体、次々と誘爆して巨大な水柱を噴き上げる。慌てて回避行動に入る敵へウーナは機を急制動。輪舞を舞うように進路を変更して逃げる1体に喰らいつき、近場のもう1体と合わせて再び銃撃で撃破する。
 その間にプクンッ、と浮きが沈む様に海中へ身を潜める最後の1体。海上を跳ねる様に機を回転させたウーナ機が、左手に持つ水中銃──スピアガンを敵が消えた水面へ連射する。
「ラストォ!」
 カカカカカッ、と連射された銛状弾が水柱もなく海に吸い込まれ…… 直後、水面が白く盛り上がったかと思うと大きな水柱が上がった。
 それを見てやった~! と子供の様にはしゃぐウーナ。それを見たラスティが(あちらは随分と派手だな)と心の中で声を出す。
(ま、俺は地味にいくさ)
 ラスティは操縦桿を倒すと、中央にいる5体の鮫の左端上に機を占位させ、左から右へ斜めに横切る様に敵の上空をフライパスしながら、眼下にハンドグレネードをポイポイと投下していった。
 直後、ズシン、ズシン、と時間差を置いて立ち昇る巨大な水柱。それらが崩れ落ちた時、海面を走っていた航跡はプツリと途切れて消滅しており……唯一残った最後の一つにプラズマグレネードを撃ち込んで。「はい、おしまい、と」と息を吐く。
 残るは船尾側の鮫5匹── だが、そちらにもアルバの機体が向かっている。
 彼は己の機体に『ウォーターウォーク』を使用すると、直進する敵魚雷群の側前方の海面に己の機体を着水させた。
 海面を薙ぎ払う様に走る光条に、先頭を行く3体の鮫が水柱となって砕けた。回避行動を取る敵に対してアルバはスラスターを噴かして水上を滑るように射点を変え。2体が射線に乗った瞬間、2閃目の光の刃で纏めてそれを撃ち滅ぼす……

 こうして魚雷鮫は全滅し、残るは巨大イソギンチャクだけとなった。
 これまでに船の被弾は無し。船足に影響は微塵も無く、それは即ち追いつかれるまでの時間が──つまり、攻撃機会が増えたことを意味している。

「無賃乗車はお断りだ。大型歪虚は特にな!」
 迫るイソギンチャクにカノン砲を撃ち捲りながら、惣助は慌ただしく副兵装へ武装をスイッチした。
 パパパッ、とモニタに映し出されるロックオン表示。両肩側面につけたミサイルランチャーの前面保護パネルが弾け飛び、撃ち出された8発の誘導弾が白煙曳きつつイソギンチャクへと襲い掛かる。
 巻き起こる爆発の乱打。降り注ぐメイムの火炎弾とウーナ、ラスティのプラズマ空爆と、ロニ、Anbar、アルバらが放つ魔力砲弾とが戦場にモザイクを描く中、惣助は砲を発砲しつつ再装填したミサイルを再び乱射する。
(これだけやっても沈まないのか。タフ過ぎるだろう、デカブツめ……!)
「来る……来てるぞ、おい、ハンター! 大丈夫なんだろうな!?」
 恐らくはどこぞの貴族か大商人の子息なのだろう。水兵にしてはちょっと太目の士官が惣助機を見上げながら尋ねる。
「大丈夫か、と言われてもな…… 動けないCAMなど砲台と変わらん。このまま撃ち続ける他はないが……」
「そんな無責任な……!」
「なに、文字通りの乗り掛かった船だ。脚をやられてるから脱出も叶わんし、一蓮托生。最後までこの船に付き合うさ」
「~~~~~!」
 言いつつ、砲撃を中止してガトリング砲を機体前面へと回す惣助。既に敵はカノン砲の最小射程の内側まで入り込んでいる。
「あんず、戻って来て」
 メイムもまた砲撃を中止してゴーレムの左肩まで上がると、頭部左側に備え付けた軽機関銃のコッキングレバーを引いて構える。
「海面下に影! 水の中を奴の触腕が夜這いに来てるぞ、いやらしい!」
 継続して海面を見ていたアルトが警報を発しつつ、手早く照準したキヅカキャノンを発砲した。海面へ向け放たれる黄金色のマテリアル光。その下に潜む触腕が砲弾の直撃を受けて引っ込み、別の方角からまたスルスルと別の影が伸びて来る。
「ホフマン! 腰部と頭部を旋回、各右30度!」
 メイムもまた素早くゴーレムに指示を出すと、水面下の影に向けて軽機関銃を撃ち捲った。パパパッと上がる水柱。一定ダメージを受けた触手が再び下がり、また別の所から複数の触手が次々と伸ばされてくる。
「……なんかこういうゲームあったな。さしずめ『げそ足パニック』と言ったところかね」
 海面に弾を撃ち捲って触腕の接近を阻みながら、アルト。少し離れた甲板上で「ああっ!?」と悲鳴が上がる。
 見れば、遂に到達した触腕の一本が船に乗り上げていた。そのままマストに絡みつこうとするところを、斬竜斧を引き抜いたAnbar機が駆けつけ、一撃して追い返す。
「……おぞましいモノを伸ばして来るんじゃねえぞ、このゲテモノ野郎!」
「ち、船に絡みつくんじゃないさね。触手と船の辛味なんざ興味ないんだぞ、と」
 アルト機もまたキャノンを仕舞って、甲板上に伸ばされた第2、第3の触手に駆け寄って思いっきりハンマーを叩きつけ……その奮戦する『セプティミウス・グラハム』の甲板上の日が陰る。
 甲板上の船員たちが上げる絶望的な呻き声── 甲板に影を落としていたのは、イソギンチャクが振り上げた、今にも振り下ろされんとする巨大な触腕の一つだった。
 惣助は電磁装甲を起動すると、身が竦んで動けない先程の兵たちの前に、脚が壊れた自分の機体を思いっきり倒れ込ませた。直後に降り下ろされる巨大な触腕。轟音と共に直撃を受けた甲板がひしゃげて破れ……その下、倒れた惣助機によって作られた触腕と甲板の隙間から、先の兵たちが這い出してきて泣きながら礼を言う。
「敵、接弦!」
 刹那、ドォン……! という重苦しい音と共に、巨大なガレオン船が傾いで揺れた。体当たりを受けた船のあちこちで木造の船体がミシミシと音を立て……或いはどこかで浸水が始まったかもしれないが、そちらは船員たちを信じて任せるしかない。
 続けてバラバラと甲板に向け、敵大型歪虚の上部から振り落とされる人型触手。Anbarは触腕に斬りつけながら、落ちて来る人型の1体を甲板に落ちる前にぶん殴った。他の場所でべちゃりと落ちて来た人型触手たちは人外の動きでぬめりと起き上がり……『上陸』を果たした甲板上を、船幽霊の如く呻き声を上げながら手近な獲物を求めて歩き出す。
 そんな甲板上の委細構わず、船へグルリと巻きつこうとする触腕。アルトは意識的に船幽霊どもを蹴散らしながらその触腕へと走り込み、殴り千切らんばかりの勢いで「このっ、このっ!」とハンマーを何度も何度も叩きつける。
 そんな中、船と相棒を守る為、水晶戦槌を手にゴーレムから飛び降りて、メイムはやる気満々でブンブン腕を振り回しながら接弦ポイントに到着して、そこで「ん?」と首を傾げた。
 落ちて来た人型たちの中には、甲板に落ちたままピクリとも動かないものが何体も存在していた。見ればその多くが焼け焦げている。
「あ」
 メイムは気が付いた。自分や空爆班が放ち続けた火炎弾やプラズマ爆発により、船に接弦するまでの間に多くの人型触手が既に致命傷を受けていたのだ。
 ロニはすかさず機外スピーカーをONにした。そして、怯え、逃げ惑う水兵たちに呼びかけた。
「『上陸』した敵の内、まともに戦えるものは数が少ない! 武器を取れ。隊列を組め! この戦い、勝てるぞ!」
 続けて、ロニは機外スピーカーに乗せて、朗々たるバリトンボイスで鎮魂歌を謳い始めた。その力によって動きが鈍くなった人型たちを、どうにか態勢を立て直し始めた水兵たちが多対一で押し返し始める。
 そんなロニ機を疎ましく思ったのだろう。イソギンチャクが咆哮と共にロニ機目がけて触腕を振り下ろして来た。脚部を破損したロニ機にそれを避ける術はなく。咄嗟に引き抜いた練気剣にマテリアルの刃を生み出し、その切っ先を上に立てる。
 ズシン、と触腕が鞭の如く甲板を叩き。その一撃に圧し掛かられながら、ロニは伸び切った触腕の縦目に沿って、一直線に『マテリアルブレード』を発動させた。
 ズババババッ、と四カ所を同時に縦にズタズタに切り裂かれて、イソギンチャクは大きく悲鳴を上げてその触腕を引っ込めた。そして、接舷した状態から、進み続ける『セプティミウス・グラハム』に次第に落伍し始めた。
「……そうか。触腕は攻撃手段であると同時に推進手段であったから……!」
 既に触腕はロニの他に、アルトやAnbar、メイムの軽機によって4本が動けなくなる程のダメージを受けていた。
 襲撃を諦め、逃走に移るイソギンチャク。すかさず惣助とメイムが離れていく大型歪虚に向けて砲撃を再開し、ラスティとウーナがギリギリまで空から銃撃を繰り返す。アルバもまた海面に脚を下ろすと、マテリアルビームで敵を斬る。

 イソギンチャクは逃げきれず、断末魔の悲鳴と共に海面に没して消えていった。
 甲板上の全ての人型を討ち果たした水兵たちが、信じられないという風にその光景を見つめていた。
「諸君、我々の勝利だ。勝ち鬨をあげたらどうかね?」
 負傷者の治療の為に機体から降りて来たロニが告げる。
 数秒後──『セプティミウス・グラハム』の甲板は歓声に包まれた。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 5
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ヒトガタハニワニゴウ
    人形埴輪二号(ka0113unit003
    ユニット|CAM
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シンカイ
    真改(ka0510unit002
    ユニット|CAM
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    セイレンゴウ
    清廉号(ka0551unit003
    ユニット|CAM
  • all-rounder
    ラスティ(ka1400
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ウィリアム
    ウィル・O・ウィスプ改(ka1400unit001
    ユニット|CAM
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ラジエル
    Re:AZ-L(ka1439unit003
    ユニット|CAM
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ホフマン
    ホフマン(ka2290unit003
    ユニット|ゴーレム
  • 願いに応える一閃
    Anbar(ka4037
    人間(紅)|19才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    アルタイル
    アルタイル(ka4037unit001
    ユニット|CAM
  • 正義なる楯
    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ローゼス・カバリエ
    ローゼス改(ka4189unit002
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談卓
ラスティ(ka1400
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/10/29 17:50:48
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/28 08:42:21