ゲスト
(ka0000)
【界冥】welcome back ~昼~
マスター:鮎川 渓

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/31 19:00
- 完成日
- 2017/11/14 20:05
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
北方王国リグ・サンガマには、早くも冬が訪れていた。四方の大地は早くも雪と氷に閉ざされつつある。
そんな折。
本日はお日柄よろしく小春日和。
冷たく清んだ青空の下、龍園では神官や龍騎士達が整然と並び、主の帰還を待ちわびていた。
「いらしたぞ!」
神官の誰かが叫ぶ。
仰げば、空を泳ぐようにしてこちらへやって来る巨大な影がひとつ。
先の大規模作戦にて、サルヴァトーレ・ロッソのサブエンジン――憑龍機関に接続され、エバーグリーンへ赴いていた六大龍の一角・青龍が帰還したのだ。
「おかえりなさいませ、青龍様!」
「ご無事で何より!」
最敬礼で迎え入れる神官や龍騎士達に、拍手でもって迎え入れる民達。余程案じていたのか、目に涙を浮かべている者も少なくない。
青龍は鷹揚に頷き応えると、「少し休む」と言い残し結晶神殿の奥へ入って行った。
その背を見送ると、最前列に居た龍騎士隊隊長・シャンカラ(kz0226)と、龍園ハンターオフィス代表・サヴィトゥール(kz0228)が、それぞれに声をあげる。
「さあ、それでは支度を始めましょう」
「酒の準備はできているか? あいつら、相当飲むようだからな」
その言葉で、龍騎士達は神殿そばの広場へ、オフィス職員達は手配のためそれぞれ散っていく。
たまたま龍園オフィスを訪れていたハンターは、一体何が始まるのかと通りがかったシャンカラに尋ねてみた。
「ああ、青龍様のご帰還を祝って、これから宴をひらくんですよ。我々が賑やかに過ごす事は、精霊である青龍様のお力になりますからね。お時間が許すようなら是非参加して行ってください」
笑顔で答えると、シャンカラは龍騎士達を追い慌ただしく駆けていく。瞳と同じ紺碧の外套が鮮やかに翻った。
●
積もった雪を避けた広場では、龍騎士達が特設舞台の設営に追われていた。
「なんだって龍騎士隊までこんな雑事に駆り出されにゃならねェんだ」
梯子の上でトンカチ片手にぶつくさ零しているのは、年長の龍騎士・ダルマだ。その下で、彼に新たな板を手渡しながら、眼鏡っ子の少女龍騎士・リブが微笑む。
「いいじゃないですかぁ。お祭りですよ、お祭り。楽しみですね♪」
「そりゃァ俺も、賑やかなのは好きだがよ……痛ェ!」
考え事をしていたダルマ、トンカチで強か指を打ち悶絶する。それを見たリブや新米騎士達から笑い声があがった。ダルマが腹いせに怒鳴り散らすと、悪戯っ子のように歓声を上げ持ち場へ逃げかえって行く。見た目は青年だが、彼らの実年齢は所謂ローティーンなのだ。
そんな様子を見下ろしながら、ダルマは内心まだ物思いに耽っていた。
そこへ、遅れてシャンカラがやって来る。
「なかなか良い出来だね」
「おう、遅かったな」
最後の釘を打ち終え、ダルマは梯子を下りた。シャンカラと視線の高さを合わすよう少し屈み、耳打ちする。
「今日の宴よォ、ハンター達も招いてんだろ? ……大丈夫かね、アイツら」
ダルマが視線で指した先は、先程のリブや新米騎士達――先日の演習試合の際、少々ハンターとひと悶着あった面々だ。同席させれば彼らが怖がるのではないか。そんな懸念をダルマは抱いていたのだ。
けれどシャンカラは軽く首を横に振る。
「だからこそだよ。思い出してダルマさん、初めてハンターさん方と交流した宴の事を。最初はダルマさんだって、外の人達に警戒していただろう? だけど実際に会って、話して、一緒に食事をしたり踊ったりして、打ち解けることができたじゃないか」
「……まァな」
ダルマは居心地悪そうにぼりぼりと頬の鱗を掻く。あの宴で、ハンター達は随分気の良い人々だと知れた。今にして思えば、始めは随分警戒心顕わに接してしまったものだと反省もしている。
「彼らがハンターさん方に対して再び警戒心を抱いてしまったのなら、それを払拭できるのは僕達じゃない、ハンターさん方だけだよ。……と、僕は思っているんだけど。おかしいかな?」
「…………」
難しい顔をして考え込んでしまったダルマの背を、シャンカラは軽い調子で叩く。
「何はともあれ、ダルマさんの大好きな宴だよ。……昼間はお酒ないけど。そんな顔してないで、ほら。準備はまだ終わってないよ」
「……おう、」
シャンカラの屈託ない笑顔に誘われるように、ダルマもうっすら目を細め、卓の設置にかかるのだった。
北方王国リグ・サンガマには、早くも冬が訪れていた。四方の大地は早くも雪と氷に閉ざされつつある。
そんな折。
本日はお日柄よろしく小春日和。
冷たく清んだ青空の下、龍園では神官や龍騎士達が整然と並び、主の帰還を待ちわびていた。
「いらしたぞ!」
神官の誰かが叫ぶ。
仰げば、空を泳ぐようにしてこちらへやって来る巨大な影がひとつ。
先の大規模作戦にて、サルヴァトーレ・ロッソのサブエンジン――憑龍機関に接続され、エバーグリーンへ赴いていた六大龍の一角・青龍が帰還したのだ。
「おかえりなさいませ、青龍様!」
「ご無事で何より!」
最敬礼で迎え入れる神官や龍騎士達に、拍手でもって迎え入れる民達。余程案じていたのか、目に涙を浮かべている者も少なくない。
青龍は鷹揚に頷き応えると、「少し休む」と言い残し結晶神殿の奥へ入って行った。
その背を見送ると、最前列に居た龍騎士隊隊長・シャンカラ(kz0226)と、龍園ハンターオフィス代表・サヴィトゥール(kz0228)が、それぞれに声をあげる。
「さあ、それでは支度を始めましょう」
「酒の準備はできているか? あいつら、相当飲むようだからな」
その言葉で、龍騎士達は神殿そばの広場へ、オフィス職員達は手配のためそれぞれ散っていく。
たまたま龍園オフィスを訪れていたハンターは、一体何が始まるのかと通りがかったシャンカラに尋ねてみた。
「ああ、青龍様のご帰還を祝って、これから宴をひらくんですよ。我々が賑やかに過ごす事は、精霊である青龍様のお力になりますからね。お時間が許すようなら是非参加して行ってください」
笑顔で答えると、シャンカラは龍騎士達を追い慌ただしく駆けていく。瞳と同じ紺碧の外套が鮮やかに翻った。
●
積もった雪を避けた広場では、龍騎士達が特設舞台の設営に追われていた。
「なんだって龍騎士隊までこんな雑事に駆り出されにゃならねェんだ」
梯子の上でトンカチ片手にぶつくさ零しているのは、年長の龍騎士・ダルマだ。その下で、彼に新たな板を手渡しながら、眼鏡っ子の少女龍騎士・リブが微笑む。
「いいじゃないですかぁ。お祭りですよ、お祭り。楽しみですね♪」
「そりゃァ俺も、賑やかなのは好きだがよ……痛ェ!」
考え事をしていたダルマ、トンカチで強か指を打ち悶絶する。それを見たリブや新米騎士達から笑い声があがった。ダルマが腹いせに怒鳴り散らすと、悪戯っ子のように歓声を上げ持ち場へ逃げかえって行く。見た目は青年だが、彼らの実年齢は所謂ローティーンなのだ。
そんな様子を見下ろしながら、ダルマは内心まだ物思いに耽っていた。
そこへ、遅れてシャンカラがやって来る。
「なかなか良い出来だね」
「おう、遅かったな」
最後の釘を打ち終え、ダルマは梯子を下りた。シャンカラと視線の高さを合わすよう少し屈み、耳打ちする。
「今日の宴よォ、ハンター達も招いてんだろ? ……大丈夫かね、アイツら」
ダルマが視線で指した先は、先程のリブや新米騎士達――先日の演習試合の際、少々ハンターとひと悶着あった面々だ。同席させれば彼らが怖がるのではないか。そんな懸念をダルマは抱いていたのだ。
けれどシャンカラは軽く首を横に振る。
「だからこそだよ。思い出してダルマさん、初めてハンターさん方と交流した宴の事を。最初はダルマさんだって、外の人達に警戒していただろう? だけど実際に会って、話して、一緒に食事をしたり踊ったりして、打ち解けることができたじゃないか」
「……まァな」
ダルマは居心地悪そうにぼりぼりと頬の鱗を掻く。あの宴で、ハンター達は随分気の良い人々だと知れた。今にして思えば、始めは随分警戒心顕わに接してしまったものだと反省もしている。
「彼らがハンターさん方に対して再び警戒心を抱いてしまったのなら、それを払拭できるのは僕達じゃない、ハンターさん方だけだよ。……と、僕は思っているんだけど。おかしいかな?」
「…………」
難しい顔をして考え込んでしまったダルマの背を、シャンカラは軽い調子で叩く。
「何はともあれ、ダルマさんの大好きな宴だよ。……昼間はお酒ないけど。そんな顔してないで、ほら。準備はまだ終わってないよ」
「……おう、」
シャンカラの屈託ない笑顔に誘われるように、ダルマもうっすら目を細め、卓の設置にかかるのだった。
リプレイ本文
●
宴開始の刻限が近づき、シャンカラ(kz0226)は広場の入口を見やった。
最初に現れたのは小柄な少女のふたり連れ。舞台脇で演奏の準備をしている神官達を認めると軽やかに駆けて行き、
「私はブリジット。ブリジット・サヴィンです」
金の髪を編み上げたブリジット(ka4843)がお辞儀すると、
「リラといいます。よろしくお願いしますね!」
リラ(ka5679)も桃色の髪を揺らしてぺこり。それから手書きの楽譜を差し出した。
「宜しければご一緒に」
わざわざ譜面を起こしてくれたのかと、神官達は甚く感激していた。
その様子にホッと息ついたシャンカラは、気配を感じ振り返る。と、すぐ後ろにこちらをまじまじと見下ろしている長身の龍人が。赤黒い鱗を持つ彼は、シャンカラと同じ歳頃に見えた。
「……お前が今の……隊長? か。随分と若いな」
彼はずいっと顔を近寄せ目を眇める。あまり視力が良くないらしい。シャンカラは卓への案内を申し出た。彼――スファギ(ka6888)は左目を擦る。
「悪い……己は最近老眼の気があってな」
「老眼? 失礼ながらお歳は、」
返ってきた答えに、シャンカラは思わずテントにいるダルマと彼を交互に見た。スファギもダルマに気付くと、動揺の訳を見透かし曖昧に頷く。彼はダルマよりも大分年上でありながら随分と若々しい。
「失礼しました、どうぞ楽しんでくださいね」
「己はお前に会っただけでこの場は既に楽しんだ……が、コケモモや肉は好物だ。相伴に預かろう」
言葉少なな彼だが、年下の隊長を見る目は慈しみに満ちている。同族の絆を重んじる気質のようだ。シャンカラがその眼差しに笑顔を返していると、今度は見知った顔が立て続けにやって来た。
「シャンカラさん、この前はありがとうございましたー。今度は最後まで戦えるよう頑張りますねぇ」
ほわんと微笑む氷雨 柊(ka6302)の横で、柊と同じ銀の髪のクラン・クィールス(ka6605)が会釈する。その後ろで手を振るのは、こちらも銀髪のレナード=クーク(ka6613)。大小の太刀を佩いたアーク・フォーサイス(ka6568)もいる。白いドレスで現れたのはトリエステ・ウェスタ(ka6908)だ。
「何だか大変だったみたいね? 新米の子達にお土産持って来たわよ。隊ちょ……じゃない、シャンカラさんの分もあるから楽しみにしててね?」
意味深な彼女の笑みに首を捻っていると、和装を着こなした龍人の女性がやって来た。
「木綿花(ka6927)です、鎌倉ではお疲れ様でした」
元龍騎士の彼女は、龍騎士として過ごした日々の事や、招かれた礼などをしとやかに述べる。
「ハンターのお仕事はもう慣れましたか?」
「少しずつですけれど」
談笑していると、そっと入口に立つ3つの人影が。件の試合にいたユリウス・ベルク(ka6832)、紅榴石(ka6893)、レオライザー(ka6937)の3人だった。遠慮がちな彼らを笑顔で手招くと、ユリウスが進み出る。
「先日は申し訳ない事を、」
シャンカラは彼の言葉をやんわり制した。
「皆さんの装いを見れば、お気持ちは充分に」
ユリウスは瀟洒なスーツ姿、レオはいつものアクションスーツではなくサーコートという出で立ちで、紅榴石は武具の類を一切身に着けていない。それだけで3人がどんな気持ちで訪れたか十二分に察せられたのだ。
「参りましょう」
試合の件を密かに案じていた木綿花、レオと縁がある事もあり、3人を優しく中へ促した。
それから少し間を開けて、ゆったりとした足取りの黒髪の青年と、眩い金糸の髪の少女が。
「シャンカラだね? お兄ちゃんや伯父さんから話聞いてたんだぁ、会えて嬉しいな♪」
「お兄さん?」
「アオイドスのアルカ・ブラックウェル(ka0790)。どうぞよろしくね」
彼女の面差しに、先の宴で弾き語りを披露した吟遊詩人が重なった。
「ああ、彼の」
「うん、今日はシンと一緒に舞台に立つよっ」
鞍馬 真(ka5819)は穏やかな面に微笑を浮かべる。
「今日は新たな縁を作れればと思っているよ」
「宜しくお願いしますね」
そろそろ集まったかと、シャンカラは人数を数えた。
「あとお一人、」
「へぇ、いい仕事してんな」
突如足許から響いた声に飛び上がる。いつの間にか緑髪の青年が屈み込み、腰の大剣を眺めていた。彼は「いけね」と立ち上がり、
「珍しい剣だったもんで、つい。カイン・シュミート(ka6967)だ」
握手を交わすと石造りの街並みを見渡す。
「龍園について色々聞かせちゃ貰えねぇか? ここ来るの初めてなんで、失礼がねぇようにしたくて。俺はドラグーンだが、生まれも育ちも帝国だし」
カインが袖を捲って見せると、白銀の鱗が覗いた。
「僕達の方こそ西方の作法には疎いので、どうかお気になさらずに。まずは喉を湿して下さい」
こうして全員が揃うと、やや不安含みの宴が幕を開けた。
●
乾杯の後すぐに席を立ったのはレオだった。ユリウスも荷物を提げ立ち上がる。紅榴石は膝の上でぎゅっと拳を握った。
(あの時はお話する機会がありませんでしたが、今度は大丈夫でしょうか。それとも、あんな事がありましたから、会いたくないと言われるかも……)
紅榴石は杯を掴むと、自身の名と同じ紅色の雫を一息に飲み干す。
「いえ、弱気はいけません。いざ出撃です」
決心し、折よく通りがかったダルマを呼び止めた。
「ダルマ様、先日はどうも……あの……えーと、こう、私と熱く殴り合った(かたりあった)霊闘士的な騎士様とかですね。居所をご存知でしょうか」
「アイツらはあそこだ。だが、」
ダルマは歯切れ悪く調理テントを目で示す。けれど彼女はもう怯まない。礼を言い、まだ彼らを探していたレオとユリウスを掴まえ、揃ってテントへ向かった。
テントの下にいる面々は見覚えのある顔ばかり。けれど彼らは3人に気付きながらも目を合わせようとしない。
どうしたものか……3人が顔を見合わせた時だ。
華やかな音色が響き渡った。
舞台の上、リュートを抱えたブリジットに楽器を構えた神官達、そして中央に佇むリラがいた。
「人も龍の方もドラグーンの方も、手を取り合い仲良くなれます様に――歌は響く、思いは届く。まだ未熟ですが精一杯歌います!」
リラは歌姫と呼ばれた母の言葉を口にし微笑む。ブリジットは力強く弦を爪弾き始めた。『白の舞手』を名乗る彼女の華奢な指は、弦の上を自在に飛び回る胡蝶のようで。リュートの音に導かれ、神官達も奏でだす。王国所縁のリュートと北方の楽器が合わさり、不思議と心地よい音色が紡がれる。
リラはこの場で歌える感謝と喜びを込め、胸の前で手を合わせた。最初は柔らかく、次第に朗らかに声を張る。
「これは、」
新米龍騎士達も手を止め聞き入る。まずリラが謳い上げたのは、ブリジットが強く訴えたかった事。龍人達が仰ぐ青龍、そして龍人達を言祝ぐ詞だった。各々信ずる神や精霊があるだろうにと、信仰心の強い龍人達は心を強く揺さぶられた。そうしてサビではブリジットも声合わせ、美しいハーモニーを響かせる。
リラは誘うように両手を広げた。
「歌いましょう。みんなで歌えばきっと楽しいです♪」
新米龍騎士達は戸惑っていたが、隊長であるシャンカラが率先して口遊み始めたのを見、おずおずと混ざりだす。レナードと真も後押しするよう、携えた楽器で旋律をなぞった。
最後はブリジットがアレンジを入れ、リラが即興で感謝の詞でしめる。たちまち巻き起こる万雷の拍手。神官達はこぞってふたりに握手を求め、達成感に頬を染めたブリジットとリラはにっこりとそれを受けた。
その光景に、新米騎士達も思う所があったようで。顔を上げ、3人の視線を躊躇いがちに受け止めた。
離れた場所からテントを窺うダルマに、
「久しぶりだな」
落ち着いた声がかかる。クランだ。
「随分逞しくなったな!」
「俺だって、遊んでいる訳じゃないからな。あれからこっちはどうだ?」
「まァ、それなりだ」
含みを残す物言いのダルマをクランはじっと見上げる。
「らしくない顔をしているな? ……例の試合の件か?」
返事に詰まるダルマ。クランはゆるり首を振る。
「一度築かれた心の壁は、そう易々と崩せる物じゃあない。警戒心を解くのも、まぁ難しいだろうな……と、昔の俺なら言っていたんだろうが」
そこで言葉を切りテントへ目をやる。3人が新米騎士達と互いに頭を下げ合っていた。それを機に、彼らを気にかけていたハンター達も輪に加わりだす。その中に銀の髪を見つけ、クランは僅かに口の端を持ち上げた。
「どうにも今は、大丈夫じゃないかとやけに楽観的だよ」
「ほう、」
「居るからな。そういう事を平然とやってのけるやつが……」
そうしてふたり、成り行きを見守った。
「この前は、怖い思いをさせて本当にすまない……オレ自身、強い力を持っていたら、同じ間違いをしたかもしれない」
レオは一番怯えていたリブへ詫びる。同じ間違いという言葉にリブは強張ったが、
「足手纏いになりたくないと言う自分の事に手いっぱいで、配慮が足りなかった……申し訳ない」
「私もそうですが、まだ動き出したばかりでうまくいかないところがありますから……ごめんなさい」
当時の心境を語るユリウスと紅榴石の言葉で安堵した。鍋からの湯気で曇った眼鏡を外し、
「全力を尽くすのは当然ですよね……足手纏いになりたくないって気持ち、分かります。私、皆に迷惑かけてばかりだから」
リブはようやく笑顔を見せた。ホッとしたレオは、対戦した双子の龍騎士に向き直る。
「あの時は、止めたい、って気持ちで……やり返して良い状況じゃなかった、すまない。もしまだハンターを赦せないなら……オレの事をいくらでも殴って欲しい」
「!」
「それで赦して欲しいって訳じゃない。でも燻ってる気持ちがあるならオレが受け止める。だから……!」
いくら暴走する彼らを止めるためだったとしても、それを己の振舞いとして許容できない程、レオの魂は真っ直ぐだった。
「だから、他のハンター達の事は……信じてやってほしい」
切々と言い募るレオの肩に手が置かれた。あの日レオに槍を向けた兄が目を伏せる。
「おれらの方こそ悪かったなぁ」
「レオさんは悪くねぇよ」
弟も頭垂れた。が、
「殴るならおれを、いや兄貴を殴ってくれ」
「おれ?」
「いやオレを!」
「おれか?」
「オレを!」
誰がオレでレオなんだか分からなくなる程言い合った後、3人は思わず吹き出した。けれどレオはすぐ真面目な顔に戻る。
「何か手伝わせてくれないかい? オレの気が済まないんだ」
すると双子はにんまり笑い、大鍋一杯の料理を指した。
「ならコレ、残らないよう沢山食ってくれ」
「……え?」
「残ったら調理場に持って帰る時重いだろ?」
「もう交代だから、一緒に食わないかぃ?」
それを聞き、木綿花がぽんと手を叩く。
「私、桜餅を持って参りました。緑茶を淹れますから、皆さんで召し上がりません?」
「ならお湯が要るわね」
トリエステも声を上げ、元龍騎士同士、木綿花とてきぱき仕切りだす。お陰で新米騎士達は早めに卓につく事ができた。
「おいひぃ……」
桜餅を頬張った龍騎士達は、珍しい東方の甘味にうっとり。
「先日依頼で東方に行きまして、美味しかったのでお土産に」
後輩達にちょっぴり得意げに話す木綿花に、
「東方ってずっと遠くですよね!」
若い騎士達は大興奮。世界を飛び回る先輩の姿に感動していたり。
そこへユリウスが「良ければ」と一冊の本を差し出した。東方の事を綴った書だ。
「紙のご本っ!」
リブは思わず二度見する。
「こちらでは紙も希少品と言う話を聞いたので、本を見繕って来たんだ」
ユリウスはトリエステの情報に感謝しつつ、薬草百科から怪談本まで様々な本を並べた。
「あとこれも。読む時にきっと役に立つ」
最後は電子魔導書。見慣れない物体に、リブはおずおずと手を伸ばす。
「これ何でしょう、良く見えな……あれ、私眼鏡は!?」
「リブ様、テントで外されてましたね。一緒に探します」
リブが紅榴石に手を引かれ取りに行くと、別の少女がユリウスの横へ座った。
「使い方、教えて下さい」
にこっと笑うその顔に、ユリウスは一瞬言葉を失う。彼女は、彼が試合中に術を放った聖導士だった。彼は一層丁寧に、起動の仕方から説明していった。
一方、少年龍騎士達はユリウスの魔導バイクに釘付けだ。彼らには真とレナードがついていた。真は相槌を打ちながら話を引き出していく。
「バイクかぁ。つい移動力蔑ろにして、より強い武器をって思っちまって」
「気持ちはわかるよ。でも、仲間との足並みを揃えるのも大事だよ」
その上で、経験を活かしアドバイスをする。
「お話したら喉乾くやんねー」
レナードはあんまり夢中な彼らに飲み物を配った。リュートが聞きたいとねだられると、
「ええよ。楽しいお話を聞かせてくれて、おおきにやんね!」
細い目を更に細め、ぽろぽろと弦を爪弾いた。
「今ね」
トリエステは少女達に土産を渡した。それは5つの携帯ゲーム機。何故少女達に渡したかと言えば、あるタイトルが含まれているからだ。
『ときめきエリュシオン』――女性用学園恋愛シミュレーションゲーム。画面に現れたイケメンに蕩けそうな少女達へ、トリエステは持ち前の艶っぽさ5割増しで微笑む。
「教師とのいけないひとときが味わえるって評判よ」
初心な少女達はおめめぐるぐる。そこへ紅榴石とリブが戻ってきた。
「それ何ですー?」
説明しかけたトリエステだったが、いつの間にか背後に、イケナイ予感を察知したシャンカラがカインと共に立っていた。
「楽しそうですね?」
「少しでも気晴らしになればと思って」
彼女は動じず、別のゲームをスッと差し出す――恋愛ゲーム『どきわく☆錬魔院』を。
(……この人、恋愛面枯れてそうだし……)
笑顔のまま胸の内で呟くトリエステに、
(良からぬ事を思われている気がする……)
シャンカラも笑顔で受け取った。と、少女達が彼の手にあるお菓子に気付いた。
「隊長それは?」
「『すもあ』と言うそうです」
皆が去った後のテントで、カインに教わりながら一緒に拵えたのだ。
「マシュマロって、食ったことある?」
カインは余っていたマシュマロを配る。
「ふわふわ!」
「それ焼いたやつ。クッキーに挟んでアレンジしてんだ。結構簡単に出来るんで、一緒に作ってみたんだよ」
文化は最終的に自分で触れてこそ意味があんだろ、と語るカイン。けれど彼女達はもうスモアが気になって仕方がない様子。
「やってみる?」
「はい!」
「お手伝いしますよぅ」
柊も一緒にいそいそとテントへ。カインに教わりつつ女子同士マシュマロを焼いていると、
「柊さんの髪飾り可愛いー」
なんて自然とガールズトークが始まったり。
「簪ですよー。ところでリブさん、眼鏡って戦闘の途中で落っことしたりしませんかー?」
「しょっちゅうです!」
「はにゃ……」
すると給仕中の別の龍騎士達が、「急げっ」「追加だ!」と慌ててやってきた。
「はにゃ?」
彼らは料理を温め直しながらある卓を見ていた。そこには――
「ほう……そうか。お前達も色々と大変だな……達者で過ごせよ。若い者には優しくな」
リザードマンや飛龍に囲まれ、相槌を打つように頷くスファギが。卓の上には、空になった皿と杯が小山のように積まれていた。
●
打ち解けた彼らを見て、ほらなとばかりにダルマを仰ぐクラン。
「お前さん雰囲気柔らかくなったもんなァ。体験談だったか」
「さて、な。ご想像にお任せするよ」
そこへ、柊とレナードがやって来る。
「新米騎士さん、とーってもええ人達ばかりやったよ」
「本当にー。……ダルマさん、で合ってますかー? この前すれ違った時に、美女ばかりーって言ってたのが強く残って覚えてましたぁ。私もその中に入っているとは思いませんでしたがー」
柊が小首を傾げつつ言うと、すかさず物問いたげなクランの視線がダルマに刺さる。けれど柊は気付かない。
「お怪我はもう大丈夫ですかー? あまり無理したらだめですよぅ?」
頷くダルマに、レナードが何かを差し出した。
「あん時もそやったけど、頑張り屋さんな所あるから……いつか無茶するんやないかって心配なんよ。だから、」
それは、カカオの実を象った首飾り。
「不老長寿のお守りなんよ。きっと何処かで、助けになってくれる筈やんね」
ダルマは礼を言い、早速首にかけて見せる。
「悪ィな、恩に着るぜ」
「似合っとるよー」
そうして4人はのんびり会話に興じた。
●
宴もたけなわ。
4振りもの刀を携えたアークが、シャンカラに声をかけていた。
「以前、刀を珍しそうにしていた人がいたから、数本持ってきてみたよ」
一口に刀言えど、長さも装飾も様々だ。熱心に見入るシャンカラに、アークは軽めの小太刀を手渡す。
「良いんですか?」
「君なら……師匠に見られたら、自分の刀を他人に渡すなんてって叱られそうだけどね」
でも、できたら誘いたいし。アークの呟きは、舞台上のアルカの声にかき消された。
「龍園の皆、ボクらの奏でる音や踊りを存分に楽しんでねっ!」
溌溂と挨拶した後、アルカは真にこっそり耳打ち。
「ムリはダメだよっ?」
「大丈夫」
答えて真はフルートを構え、
「違う土地の文化を少しでも感じてくれれば嬉しい」
そう言って前奏を吹き始めた。アルカは身を揺らせ、
「四季の彩りを謳った曲はいかが? まずは春の太陽と萌芽の息吹の祝歌<キャロル>から」
春の歌で北の大地に彩を添える。そして夏の薫風を感じさせる円舞曲<ワルツ>、秋の実りを寿ぐ詠唱<アリア>、雪の中春を待つ家族の温もりを謳う牧歌<パストラル>。
情感込めた歌声と演奏で四季を一巡りした後、今度は皆の反応をつぶさに観察していた真が、
「今度は東方の曲と行こうか」
更なる異国情緒へ誘う。と、アークが舞台下からそっと声をかけた。
「一緒に剣舞を披露しても良いかな?」
「勿論」
了承を得ると、刀を持ったままのシャンカラを誘い出す。
「僕、剣舞の心得は、」
「実は俺もきちんとした作法は知らないんだけれど、こういうのは楽しめたらいいのかなって」
微笑むアークに、そういう事ならとシャンカラも応じた。
舞台の下、ふたりは抜き身の刀を手に向かい合う。アークは『鬼霧雨』、 シャンカラは『五月雨』と、雨の名を冠する刃を閃かせアルカイックな旋律に乗る。時に軽くかち合わせ、時に互いの身間際を刃で撫でる。戦場を共にし、互いの技量を信頼しているからこその業だ。真は抑揚をつけ、巧みに剣舞を盛り上げる。
曲の終わりに礼をしたアークとシャンカラは、息を弾ませたまま笑い合った。
そしていよいよ宴の終わりが近づくと、アルカは背筋を伸ばした。
「最後は龍園に住まう生命全ての幸いを願って、歌舞を献じさせて貰うよ」
厳かで力強い曲。精霊を讃える曲だ。
星は謳う 精霊の恵みの御手に溢るる光を
月は囁く 精霊の芽吹く微笑みに揺蕩う光を
アルカは生命を賛歌する詞で結ぶ。
生ける者達の感謝の祈りよ 天へ届け
生きよ 生きよ 生きよ いのちの花咲かせよ――
●
こうして宴は賑わいの内に締めくくられた。
「あの子は居ませんでしたね……また会いにきますね」
木綿花は名残惜し気に傍にいた飛龍を撫でる。ユリウスはバイクを指し、
「良ければこれも置いていくが」
「いえ、また来た時に見せて下さい!」
『また』。リブに言われ深く頷いた。
「会えてうれしかったです。コケモモジュース、作ってみますね」
紅榴石は教わったレシピのメモを大事にしまう。
最後に、龍騎士達は整列し深々と礼をした。
「龍騎士隊一同、皆さんと再びお会いできる日を楽しみにしております」
ハンター達は思い思いに手を振り、帰路につくのだった。
宴開始の刻限が近づき、シャンカラ(kz0226)は広場の入口を見やった。
最初に現れたのは小柄な少女のふたり連れ。舞台脇で演奏の準備をしている神官達を認めると軽やかに駆けて行き、
「私はブリジット。ブリジット・サヴィンです」
金の髪を編み上げたブリジット(ka4843)がお辞儀すると、
「リラといいます。よろしくお願いしますね!」
リラ(ka5679)も桃色の髪を揺らしてぺこり。それから手書きの楽譜を差し出した。
「宜しければご一緒に」
わざわざ譜面を起こしてくれたのかと、神官達は甚く感激していた。
その様子にホッと息ついたシャンカラは、気配を感じ振り返る。と、すぐ後ろにこちらをまじまじと見下ろしている長身の龍人が。赤黒い鱗を持つ彼は、シャンカラと同じ歳頃に見えた。
「……お前が今の……隊長? か。随分と若いな」
彼はずいっと顔を近寄せ目を眇める。あまり視力が良くないらしい。シャンカラは卓への案内を申し出た。彼――スファギ(ka6888)は左目を擦る。
「悪い……己は最近老眼の気があってな」
「老眼? 失礼ながらお歳は、」
返ってきた答えに、シャンカラは思わずテントにいるダルマと彼を交互に見た。スファギもダルマに気付くと、動揺の訳を見透かし曖昧に頷く。彼はダルマよりも大分年上でありながら随分と若々しい。
「失礼しました、どうぞ楽しんでくださいね」
「己はお前に会っただけでこの場は既に楽しんだ……が、コケモモや肉は好物だ。相伴に預かろう」
言葉少なな彼だが、年下の隊長を見る目は慈しみに満ちている。同族の絆を重んじる気質のようだ。シャンカラがその眼差しに笑顔を返していると、今度は見知った顔が立て続けにやって来た。
「シャンカラさん、この前はありがとうございましたー。今度は最後まで戦えるよう頑張りますねぇ」
ほわんと微笑む氷雨 柊(ka6302)の横で、柊と同じ銀の髪のクラン・クィールス(ka6605)が会釈する。その後ろで手を振るのは、こちらも銀髪のレナード=クーク(ka6613)。大小の太刀を佩いたアーク・フォーサイス(ka6568)もいる。白いドレスで現れたのはトリエステ・ウェスタ(ka6908)だ。
「何だか大変だったみたいね? 新米の子達にお土産持って来たわよ。隊ちょ……じゃない、シャンカラさんの分もあるから楽しみにしててね?」
意味深な彼女の笑みに首を捻っていると、和装を着こなした龍人の女性がやって来た。
「木綿花(ka6927)です、鎌倉ではお疲れ様でした」
元龍騎士の彼女は、龍騎士として過ごした日々の事や、招かれた礼などをしとやかに述べる。
「ハンターのお仕事はもう慣れましたか?」
「少しずつですけれど」
談笑していると、そっと入口に立つ3つの人影が。件の試合にいたユリウス・ベルク(ka6832)、紅榴石(ka6893)、レオライザー(ka6937)の3人だった。遠慮がちな彼らを笑顔で手招くと、ユリウスが進み出る。
「先日は申し訳ない事を、」
シャンカラは彼の言葉をやんわり制した。
「皆さんの装いを見れば、お気持ちは充分に」
ユリウスは瀟洒なスーツ姿、レオはいつものアクションスーツではなくサーコートという出で立ちで、紅榴石は武具の類を一切身に着けていない。それだけで3人がどんな気持ちで訪れたか十二分に察せられたのだ。
「参りましょう」
試合の件を密かに案じていた木綿花、レオと縁がある事もあり、3人を優しく中へ促した。
それから少し間を開けて、ゆったりとした足取りの黒髪の青年と、眩い金糸の髪の少女が。
「シャンカラだね? お兄ちゃんや伯父さんから話聞いてたんだぁ、会えて嬉しいな♪」
「お兄さん?」
「アオイドスのアルカ・ブラックウェル(ka0790)。どうぞよろしくね」
彼女の面差しに、先の宴で弾き語りを披露した吟遊詩人が重なった。
「ああ、彼の」
「うん、今日はシンと一緒に舞台に立つよっ」
鞍馬 真(ka5819)は穏やかな面に微笑を浮かべる。
「今日は新たな縁を作れればと思っているよ」
「宜しくお願いしますね」
そろそろ集まったかと、シャンカラは人数を数えた。
「あとお一人、」
「へぇ、いい仕事してんな」
突如足許から響いた声に飛び上がる。いつの間にか緑髪の青年が屈み込み、腰の大剣を眺めていた。彼は「いけね」と立ち上がり、
「珍しい剣だったもんで、つい。カイン・シュミート(ka6967)だ」
握手を交わすと石造りの街並みを見渡す。
「龍園について色々聞かせちゃ貰えねぇか? ここ来るの初めてなんで、失礼がねぇようにしたくて。俺はドラグーンだが、生まれも育ちも帝国だし」
カインが袖を捲って見せると、白銀の鱗が覗いた。
「僕達の方こそ西方の作法には疎いので、どうかお気になさらずに。まずは喉を湿して下さい」
こうして全員が揃うと、やや不安含みの宴が幕を開けた。
●
乾杯の後すぐに席を立ったのはレオだった。ユリウスも荷物を提げ立ち上がる。紅榴石は膝の上でぎゅっと拳を握った。
(あの時はお話する機会がありませんでしたが、今度は大丈夫でしょうか。それとも、あんな事がありましたから、会いたくないと言われるかも……)
紅榴石は杯を掴むと、自身の名と同じ紅色の雫を一息に飲み干す。
「いえ、弱気はいけません。いざ出撃です」
決心し、折よく通りがかったダルマを呼び止めた。
「ダルマ様、先日はどうも……あの……えーと、こう、私と熱く殴り合った(かたりあった)霊闘士的な騎士様とかですね。居所をご存知でしょうか」
「アイツらはあそこだ。だが、」
ダルマは歯切れ悪く調理テントを目で示す。けれど彼女はもう怯まない。礼を言い、まだ彼らを探していたレオとユリウスを掴まえ、揃ってテントへ向かった。
テントの下にいる面々は見覚えのある顔ばかり。けれど彼らは3人に気付きながらも目を合わせようとしない。
どうしたものか……3人が顔を見合わせた時だ。
華やかな音色が響き渡った。
舞台の上、リュートを抱えたブリジットに楽器を構えた神官達、そして中央に佇むリラがいた。
「人も龍の方もドラグーンの方も、手を取り合い仲良くなれます様に――歌は響く、思いは届く。まだ未熟ですが精一杯歌います!」
リラは歌姫と呼ばれた母の言葉を口にし微笑む。ブリジットは力強く弦を爪弾き始めた。『白の舞手』を名乗る彼女の華奢な指は、弦の上を自在に飛び回る胡蝶のようで。リュートの音に導かれ、神官達も奏でだす。王国所縁のリュートと北方の楽器が合わさり、不思議と心地よい音色が紡がれる。
リラはこの場で歌える感謝と喜びを込め、胸の前で手を合わせた。最初は柔らかく、次第に朗らかに声を張る。
「これは、」
新米龍騎士達も手を止め聞き入る。まずリラが謳い上げたのは、ブリジットが強く訴えたかった事。龍人達が仰ぐ青龍、そして龍人達を言祝ぐ詞だった。各々信ずる神や精霊があるだろうにと、信仰心の強い龍人達は心を強く揺さぶられた。そうしてサビではブリジットも声合わせ、美しいハーモニーを響かせる。
リラは誘うように両手を広げた。
「歌いましょう。みんなで歌えばきっと楽しいです♪」
新米龍騎士達は戸惑っていたが、隊長であるシャンカラが率先して口遊み始めたのを見、おずおずと混ざりだす。レナードと真も後押しするよう、携えた楽器で旋律をなぞった。
最後はブリジットがアレンジを入れ、リラが即興で感謝の詞でしめる。たちまち巻き起こる万雷の拍手。神官達はこぞってふたりに握手を求め、達成感に頬を染めたブリジットとリラはにっこりとそれを受けた。
その光景に、新米騎士達も思う所があったようで。顔を上げ、3人の視線を躊躇いがちに受け止めた。
離れた場所からテントを窺うダルマに、
「久しぶりだな」
落ち着いた声がかかる。クランだ。
「随分逞しくなったな!」
「俺だって、遊んでいる訳じゃないからな。あれからこっちはどうだ?」
「まァ、それなりだ」
含みを残す物言いのダルマをクランはじっと見上げる。
「らしくない顔をしているな? ……例の試合の件か?」
返事に詰まるダルマ。クランはゆるり首を振る。
「一度築かれた心の壁は、そう易々と崩せる物じゃあない。警戒心を解くのも、まぁ難しいだろうな……と、昔の俺なら言っていたんだろうが」
そこで言葉を切りテントへ目をやる。3人が新米騎士達と互いに頭を下げ合っていた。それを機に、彼らを気にかけていたハンター達も輪に加わりだす。その中に銀の髪を見つけ、クランは僅かに口の端を持ち上げた。
「どうにも今は、大丈夫じゃないかとやけに楽観的だよ」
「ほう、」
「居るからな。そういう事を平然とやってのけるやつが……」
そうしてふたり、成り行きを見守った。
「この前は、怖い思いをさせて本当にすまない……オレ自身、強い力を持っていたら、同じ間違いをしたかもしれない」
レオは一番怯えていたリブへ詫びる。同じ間違いという言葉にリブは強張ったが、
「足手纏いになりたくないと言う自分の事に手いっぱいで、配慮が足りなかった……申し訳ない」
「私もそうですが、まだ動き出したばかりでうまくいかないところがありますから……ごめんなさい」
当時の心境を語るユリウスと紅榴石の言葉で安堵した。鍋からの湯気で曇った眼鏡を外し、
「全力を尽くすのは当然ですよね……足手纏いになりたくないって気持ち、分かります。私、皆に迷惑かけてばかりだから」
リブはようやく笑顔を見せた。ホッとしたレオは、対戦した双子の龍騎士に向き直る。
「あの時は、止めたい、って気持ちで……やり返して良い状況じゃなかった、すまない。もしまだハンターを赦せないなら……オレの事をいくらでも殴って欲しい」
「!」
「それで赦して欲しいって訳じゃない。でも燻ってる気持ちがあるならオレが受け止める。だから……!」
いくら暴走する彼らを止めるためだったとしても、それを己の振舞いとして許容できない程、レオの魂は真っ直ぐだった。
「だから、他のハンター達の事は……信じてやってほしい」
切々と言い募るレオの肩に手が置かれた。あの日レオに槍を向けた兄が目を伏せる。
「おれらの方こそ悪かったなぁ」
「レオさんは悪くねぇよ」
弟も頭垂れた。が、
「殴るならおれを、いや兄貴を殴ってくれ」
「おれ?」
「いやオレを!」
「おれか?」
「オレを!」
誰がオレでレオなんだか分からなくなる程言い合った後、3人は思わず吹き出した。けれどレオはすぐ真面目な顔に戻る。
「何か手伝わせてくれないかい? オレの気が済まないんだ」
すると双子はにんまり笑い、大鍋一杯の料理を指した。
「ならコレ、残らないよう沢山食ってくれ」
「……え?」
「残ったら調理場に持って帰る時重いだろ?」
「もう交代だから、一緒に食わないかぃ?」
それを聞き、木綿花がぽんと手を叩く。
「私、桜餅を持って参りました。緑茶を淹れますから、皆さんで召し上がりません?」
「ならお湯が要るわね」
トリエステも声を上げ、元龍騎士同士、木綿花とてきぱき仕切りだす。お陰で新米騎士達は早めに卓につく事ができた。
「おいひぃ……」
桜餅を頬張った龍騎士達は、珍しい東方の甘味にうっとり。
「先日依頼で東方に行きまして、美味しかったのでお土産に」
後輩達にちょっぴり得意げに話す木綿花に、
「東方ってずっと遠くですよね!」
若い騎士達は大興奮。世界を飛び回る先輩の姿に感動していたり。
そこへユリウスが「良ければ」と一冊の本を差し出した。東方の事を綴った書だ。
「紙のご本っ!」
リブは思わず二度見する。
「こちらでは紙も希少品と言う話を聞いたので、本を見繕って来たんだ」
ユリウスはトリエステの情報に感謝しつつ、薬草百科から怪談本まで様々な本を並べた。
「あとこれも。読む時にきっと役に立つ」
最後は電子魔導書。見慣れない物体に、リブはおずおずと手を伸ばす。
「これ何でしょう、良く見えな……あれ、私眼鏡は!?」
「リブ様、テントで外されてましたね。一緒に探します」
リブが紅榴石に手を引かれ取りに行くと、別の少女がユリウスの横へ座った。
「使い方、教えて下さい」
にこっと笑うその顔に、ユリウスは一瞬言葉を失う。彼女は、彼が試合中に術を放った聖導士だった。彼は一層丁寧に、起動の仕方から説明していった。
一方、少年龍騎士達はユリウスの魔導バイクに釘付けだ。彼らには真とレナードがついていた。真は相槌を打ちながら話を引き出していく。
「バイクかぁ。つい移動力蔑ろにして、より強い武器をって思っちまって」
「気持ちはわかるよ。でも、仲間との足並みを揃えるのも大事だよ」
その上で、経験を活かしアドバイスをする。
「お話したら喉乾くやんねー」
レナードはあんまり夢中な彼らに飲み物を配った。リュートが聞きたいとねだられると、
「ええよ。楽しいお話を聞かせてくれて、おおきにやんね!」
細い目を更に細め、ぽろぽろと弦を爪弾いた。
「今ね」
トリエステは少女達に土産を渡した。それは5つの携帯ゲーム機。何故少女達に渡したかと言えば、あるタイトルが含まれているからだ。
『ときめきエリュシオン』――女性用学園恋愛シミュレーションゲーム。画面に現れたイケメンに蕩けそうな少女達へ、トリエステは持ち前の艶っぽさ5割増しで微笑む。
「教師とのいけないひとときが味わえるって評判よ」
初心な少女達はおめめぐるぐる。そこへ紅榴石とリブが戻ってきた。
「それ何ですー?」
説明しかけたトリエステだったが、いつの間にか背後に、イケナイ予感を察知したシャンカラがカインと共に立っていた。
「楽しそうですね?」
「少しでも気晴らしになればと思って」
彼女は動じず、別のゲームをスッと差し出す――恋愛ゲーム『どきわく☆錬魔院』を。
(……この人、恋愛面枯れてそうだし……)
笑顔のまま胸の内で呟くトリエステに、
(良からぬ事を思われている気がする……)
シャンカラも笑顔で受け取った。と、少女達が彼の手にあるお菓子に気付いた。
「隊長それは?」
「『すもあ』と言うそうです」
皆が去った後のテントで、カインに教わりながら一緒に拵えたのだ。
「マシュマロって、食ったことある?」
カインは余っていたマシュマロを配る。
「ふわふわ!」
「それ焼いたやつ。クッキーに挟んでアレンジしてんだ。結構簡単に出来るんで、一緒に作ってみたんだよ」
文化は最終的に自分で触れてこそ意味があんだろ、と語るカイン。けれど彼女達はもうスモアが気になって仕方がない様子。
「やってみる?」
「はい!」
「お手伝いしますよぅ」
柊も一緒にいそいそとテントへ。カインに教わりつつ女子同士マシュマロを焼いていると、
「柊さんの髪飾り可愛いー」
なんて自然とガールズトークが始まったり。
「簪ですよー。ところでリブさん、眼鏡って戦闘の途中で落っことしたりしませんかー?」
「しょっちゅうです!」
「はにゃ……」
すると給仕中の別の龍騎士達が、「急げっ」「追加だ!」と慌ててやってきた。
「はにゃ?」
彼らは料理を温め直しながらある卓を見ていた。そこには――
「ほう……そうか。お前達も色々と大変だな……達者で過ごせよ。若い者には優しくな」
リザードマンや飛龍に囲まれ、相槌を打つように頷くスファギが。卓の上には、空になった皿と杯が小山のように積まれていた。
●
打ち解けた彼らを見て、ほらなとばかりにダルマを仰ぐクラン。
「お前さん雰囲気柔らかくなったもんなァ。体験談だったか」
「さて、な。ご想像にお任せするよ」
そこへ、柊とレナードがやって来る。
「新米騎士さん、とーってもええ人達ばかりやったよ」
「本当にー。……ダルマさん、で合ってますかー? この前すれ違った時に、美女ばかりーって言ってたのが強く残って覚えてましたぁ。私もその中に入っているとは思いませんでしたがー」
柊が小首を傾げつつ言うと、すかさず物問いたげなクランの視線がダルマに刺さる。けれど柊は気付かない。
「お怪我はもう大丈夫ですかー? あまり無理したらだめですよぅ?」
頷くダルマに、レナードが何かを差し出した。
「あん時もそやったけど、頑張り屋さんな所あるから……いつか無茶するんやないかって心配なんよ。だから、」
それは、カカオの実を象った首飾り。
「不老長寿のお守りなんよ。きっと何処かで、助けになってくれる筈やんね」
ダルマは礼を言い、早速首にかけて見せる。
「悪ィな、恩に着るぜ」
「似合っとるよー」
そうして4人はのんびり会話に興じた。
●
宴もたけなわ。
4振りもの刀を携えたアークが、シャンカラに声をかけていた。
「以前、刀を珍しそうにしていた人がいたから、数本持ってきてみたよ」
一口に刀言えど、長さも装飾も様々だ。熱心に見入るシャンカラに、アークは軽めの小太刀を手渡す。
「良いんですか?」
「君なら……師匠に見られたら、自分の刀を他人に渡すなんてって叱られそうだけどね」
でも、できたら誘いたいし。アークの呟きは、舞台上のアルカの声にかき消された。
「龍園の皆、ボクらの奏でる音や踊りを存分に楽しんでねっ!」
溌溂と挨拶した後、アルカは真にこっそり耳打ち。
「ムリはダメだよっ?」
「大丈夫」
答えて真はフルートを構え、
「違う土地の文化を少しでも感じてくれれば嬉しい」
そう言って前奏を吹き始めた。アルカは身を揺らせ、
「四季の彩りを謳った曲はいかが? まずは春の太陽と萌芽の息吹の祝歌<キャロル>から」
春の歌で北の大地に彩を添える。そして夏の薫風を感じさせる円舞曲<ワルツ>、秋の実りを寿ぐ詠唱<アリア>、雪の中春を待つ家族の温もりを謳う牧歌<パストラル>。
情感込めた歌声と演奏で四季を一巡りした後、今度は皆の反応をつぶさに観察していた真が、
「今度は東方の曲と行こうか」
更なる異国情緒へ誘う。と、アークが舞台下からそっと声をかけた。
「一緒に剣舞を披露しても良いかな?」
「勿論」
了承を得ると、刀を持ったままのシャンカラを誘い出す。
「僕、剣舞の心得は、」
「実は俺もきちんとした作法は知らないんだけれど、こういうのは楽しめたらいいのかなって」
微笑むアークに、そういう事ならとシャンカラも応じた。
舞台の下、ふたりは抜き身の刀を手に向かい合う。アークは『鬼霧雨』、 シャンカラは『五月雨』と、雨の名を冠する刃を閃かせアルカイックな旋律に乗る。時に軽くかち合わせ、時に互いの身間際を刃で撫でる。戦場を共にし、互いの技量を信頼しているからこその業だ。真は抑揚をつけ、巧みに剣舞を盛り上げる。
曲の終わりに礼をしたアークとシャンカラは、息を弾ませたまま笑い合った。
そしていよいよ宴の終わりが近づくと、アルカは背筋を伸ばした。
「最後は龍園に住まう生命全ての幸いを願って、歌舞を献じさせて貰うよ」
厳かで力強い曲。精霊を讃える曲だ。
星は謳う 精霊の恵みの御手に溢るる光を
月は囁く 精霊の芽吹く微笑みに揺蕩う光を
アルカは生命を賛歌する詞で結ぶ。
生ける者達の感謝の祈りよ 天へ届け
生きよ 生きよ 生きよ いのちの花咲かせよ――
●
こうして宴は賑わいの内に締めくくられた。
「あの子は居ませんでしたね……また会いにきますね」
木綿花は名残惜し気に傍にいた飛龍を撫でる。ユリウスはバイクを指し、
「良ければこれも置いていくが」
「いえ、また来た時に見せて下さい!」
『また』。リブに言われ深く頷いた。
「会えてうれしかったです。コケモモジュース、作ってみますね」
紅榴石は教わったレシピのメモを大事にしまう。
最後に、龍騎士達は整列し深々と礼をした。
「龍騎士隊一同、皆さんと再びお会いできる日を楽しみにしております」
ハンター達は思い思いに手を振り、帰路につくのだった。
依頼結果
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お問合せ場所 *お知らせ有り シャンカラ(kz0226) ドラグーン|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/10/30 22:45:38 |
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相談というより雑談卓 トリエステ・ウェスタ(ka6908) ドラグーン|21才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/10/30 00:21:25 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/28 19:28:54 |