• 郷祭1017

【郷祭】甘いお菓子は甘くない!?

マスター:樹シロカ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~2人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/11/01 22:00
完成日
2017/11/10 01:01

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ジェオルジ家のお茶の間

 同盟領、農耕推進地域ジェオルジでは、年に二回『郷祭』と呼ばれる催しがある。
 本来は広大な地域に散らばる村々の間に生じた諍いや、ジェオルジ全体にかかわる問題を話し合う、『村長会議』が年に二回催されたことに始まるのだが。今ではその後のパーティーや交流会がメインのようになっており、昨今では他の街からの観光客や、ジェオルジの特産品目当ての商人も大勢押し寄せる。
 それでもジェオルジの住民にとって、村長会議がとても重要であることは今でも変わらない。

 今年は少し季節の進み方が早いようで、暖炉の火が心地よく感じられる。
 お茶の席についたジェオルジ家のメンバーのうち、現領主のセスト・ジェオルジ(kz0034)と、彼を補佐する母バルバラの表情には、村長会議の準備による疲労の陰が見えた。
「お母様、お茶のお代わりはいかが?」
 ふたりとは対照的に、にこにこと満面の笑みを浮かべ、特産の紅茶『ジェオルジの風』を淹れるのはセストの姉のルイーザ。
「ありがとうルイーザ、じゃあもう一杯いただくわ」
「私にももう一杯もらえるかな」
 バルバラの夫であり前領主のルーベンが自分のカップを差し出した。こちらもあまり疲れている様子は見えない。
 そもそもセストが若くして領主になったのは、このルーベンが農作物の研究に専念したいと領主の座を放り投げたためである。
 だがセストは父を恨むどころかその生き方を尊敬しているのが、バルバラの頭痛の種となっている。
 そんな妻の視線を意に介することなく、ルーベンはカップに口をつけた。
「それにしてもルイーザは、随分と紅茶を淹れるのが上手になったな」
「ありがとう、お父様!」
 ルイーザは嬉しそうに声を上げた。

 実はこのルイーザ、一族唯一のハンターであり、それが理由と言うわけでもないだろうが、活発で、全てにおいて大胆であり、心配した母のバルバラはせめて最低限の行儀作法をと、以前に郷祭でのお客様の接待を命じたのだ。
 ハンター達からしっかりお茶の作法を教わったルイーザは、今ではお茶を淹れることに関してはバルバラも認めるほどの技量となっている。
 ……が。
「お父様、ケーキももう一切れいかが?」
 その一言に、父は一瞬言葉を失う。
 一家の囲むテーブルの真ん中に、ソレは鎮座していた。
「あー……私はその、うむ……お昼のラザニアがまだ効いていてな、さすがに年かな、はっはっは」
「あらそう。セスト、どう? おばあさまのケーキ、懐かしいでしょう?」
「そうですね。懐かしくなりました」
 もそもそとケーキを口に運び、セストはいつも通りの無表情で言った。だが気のせいか、目から若干生気が失われているようだ。

 バルバラが諦めたように小さくため息をつき、損な役回りを買って出た。
「ねえルイーザ、やっぱり貴方、ケーキはやめておきなさい」
「え? でも折角のお茶会だもの。そりゃちょっと見た目は悪いけど……」
 ……ちょっと?
 家族三人が無言のうちに心の中で突っ込む。
「大丈夫よ! 当日までにはバッチリ完成させて見せるから、安心してお茶会を任せてちょうだい!」
 ルイーザは胸を張って豪語した。

●セストの密かな根回し

 依頼を受けて集まったハンターを前に、セストは軽く頭を下げる。
「この度は依頼を受けてくださってありがとうございます」
 依頼の内容は、村長会議の合間のお茶会で、ルイーザが『失敗』しないように誘導すること。
「姉は最近になって突然、僕達の祖母の作ってくれたお菓子を再現したいと思うようになったようです」

 ルイーザとセストの祖母はお菓子作りの名人だった。
 マメな性格だった彼女は、レシピも残しておいてくれたのだが、レシピを見て再現できるのはある程度の技量をもった者のみ。
 というわけでぺしゃんこで焦げたスポンジケーキや、なんとなくべったりしたチョコレートタルトや、日干しレンガのようなクッキーが、ジェオルジ家のティータイムに並んでいるのである。
「それでも毎日めげずにチャレンジする姉には感心するのですが。さすがにこのままでは材料ももったいないですし、何より当日、満足のいくお菓子を出せないとなると、姉もさすがに傷つくでしょう。なんとかご指導いただけませんか」
 セストにしては珍しく、困り果てた表情であった。

リプレイ本文


 セストが部屋を出て行き、ハンター達だけが応接室に残された。
 天王寺茜(ka4080)が心なしか声をひそめる。
「領主様はとても忙しいみたいね」
 茜はつい先日も郷祭にかかわる依頼を受け、その流れで今この場にいるのだが。
(思わず引き受けちゃったけど、役に立てるかな?)
 リアルブルーの家庭料理はひと通り作ることができる。だがお菓子作りの名人の味を再現となると……?
 とはいえ考え込むのは茜の性にあわない。
「私はルイーザさんと一緒に勉強するつもりでがんばるわ。よろしくねっ」
「依頼はもちろんしっかりこなすわ。ついでに名人のレシピを拝見したいけどね?」
 エーミ・エーテルクラフト(ka2225)が微笑を浮かべる。
 お料理やお菓子はみんなを幸せにする魔法。見たことがない魔術書が目の前にあると聞けば、手に取りたいに決まっている。
「問題はルイーザだな。婆さんの作ったケーキを再現しようっていう心意気はいい」
 一見、およそ菓子作りとは無縁に見える黒革の仮面の男、デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が重々しく頷く。
「で、本人はどうした」
「おっ、あれかな?」
 道元 ガンジ(ka6005)が指差す先、若い女が屋敷に向かって走ってくる。

「お待たせしてごめんなさい! ルイーザよ、よろしくね」
 応接室に飛び込んできたルイーザは、栗が山盛りの籠を抱えていた。
 ミア(ka7035)が興味津津という様子で籠を覗き込み、ルイーザの顔と見比べる。
「ルイーザちゃん、こんにちはニャス! ミアニャスよ、これはお菓子にする栗ニャスか?」
「そうよ! 折角だから季節の物を使いたいものね」
 ミアはルイーザの腕を引くと、隣に座らせる。
「なぁなぁ、お菓子作ってるんニャスってね? ミアも一緒に作っていいニャスか?」
「ええ! 色々教えてね」
「もちろんニャス! ミア達とおかしごころを楽しもうニャス!」
「じゃあ早速!」
 と立ち上がりかけたルイーザの肩を、そっとエーミが押さえて座らせる。
「ご無沙汰してます、ルイーザ様」
「エーミさんね、また来てくれて嬉しいわ」
 茜が膝を詰め、丁寧に会釈する。
「初めまして。よろしくお願いしますっ、ルイーザさん。相談の結果、ルイーザさんがお茶会用のお菓子を作れるようにみんなで応援しようと決めました!」
「え?」
「安心しろ、どんな状態でも俺が全部食ってやるからな!」
 ガンジが真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
「ブッハハハ! おっし、作る菓子一つで戦争を終結させた伝説のパティシェ、デスドクロ・ザ・ブラックホール様が協力してやろうじゃねぇか!」
「しっかり仕込むわ。ついてこられる?」
 トドメをさすようなエーミの視線。
 ルイーザが本気でおばあさまのお菓子を再現したいと思うなら、本気で手助けするつもりだ。


 ルイーザはお茶を注ぎつつ、ぼそぼそと語る。
「やっぱりこねすぎかなって……あと何度もオーブン開いちゃったのもあるかも……」
 テーブルには、ルイーザ謹製のお茶菓子の残り。
 つまり、固いクッキーと、焦げて凹んだスポンジケーキである。
「うーん……失敗の原因は割とはっきりしてるわけね」
 茜は慎重に言葉を選ぶ。
「でもじゃあ、あとはトライ&エラーじゃない? きっと何度も作ってるうちに上手になるわよ!」
 つまり、次々と新しいものに手を出すより先に、失敗を忘れないうちに同じものを作ること。
 ひとつ満足のいくものができれば、自信もつくはずだ。

 エーミはレシピを熱心に読みこんでいたが、ふと顔を上げてルイーザに尋ねる。
「ルイーザ様の動機は何かしら?」
「動機?」
「ええ。お菓子を頑張って作るのは何故かということよ」
 エーミは大事にしている魔法書を膝に置き、愛しそうに撫でた。
「私にとって料理はこれと同じ魔法よ。そしてここに書いてあるのは、辿り着くまでの苦労の痕跡ね」
 トライ&エラー。だがそれも失敗も成功も含め、記憶と記録を残さなければ、意味は薄い。
「おばあさまだって全てを完璧に覚えていたら、レシピは残さなかったんじゃないかしら?」
 ルイーザは考え込む。
「動機は、おばあさまのお菓子を再現したいから、だと思うんだけど……」
 デスドクロが大きな身体をずいと乗りだす。
「お前さんの気持ちは良く分かるが、ちいとばかり空回りしちまってるな」
 レシピを指差しながら、グイッとルイーザの目を覗き込む。
「仮にも名人と謳われた人間の技を、一朝一夕で身に着けようとすんのは難しいだろ。ハンターの力量がその域に達していねーのに、高レベルの技を使おうとしたって、そりゃー土台無理な話、ってなもんだ」
 ルイーザは唸り声を上げた。
「……そうね、そうかも」
「ま、それを理解した上で、だ」
 デスドクロの、マスクに覆われていない大きな口元が笑みを浮かべる。
「俺様達が最大限協力してやりゃ、まーなんとかなるだろ」
 立ちあがったデスドクロが皆を促した。


 ジェオルジ家の厨房を借りて、材料を広げる。
 茜はレシピを写しつつ、軽量単位がリアルブルーと異なることに気付いた。
「原因はこれかもね。料理に大事なのは愛情、そして時間と分量です!」
 まずは早く焼き上がるクッキーを試す。
「とりあえずいつも通りにやってみてください」
 茜に促されて、ルイーザが手をつける。思った通り、匙やカップの使い方が若干適当だった。
「おいおいルイーザ、そこは暗黒皇帝たる俺様でも変えられない部分だぜ。すり切りはキッチリすり切りでなきゃいけねえ」
 お菓子作りは例えて言うなら科学の実験だ。
 砂糖にも甘みだけではない役割があり、勝手に分量を変えるとうまくいかないものである。

 その一方で、エーミがチョコレートのタルトに取り掛かる。
「なるほどね。面白い配合だわ」
 それこそ魔法使いが新しい魔法を覚えたように、楽しそうに作業を進める。
「あ、ちょっとまって!」
 ときどき茜が作業を止めさせ、途中経過を写真に収める。
「こうしておけば、『良い状態』を確認しながら作業ができるでしょ?」
 リアルブルーの料理本には、途中経過の写真やイラストが載っている。文章だけよりもずっと伝わりやすいはずだ。

 こうしてクッキー生地がオーブンへ。暫く待つと、甘く香ばしいにおいが厨房に満ちた。
 ルイーザが恐る恐る取り出すと、残念ながら少々焦げていた。
「うーん、火が強すぎたみたいね……」
 がっくりと肩を落とすルイーザに、ガンジが休憩を呼び掛けた。
「ちょっと外の空気吸ってみようぜ」
 ガンジは焼けたばかりのクッキーをお皿に乗せ、ルイーザの背中を押して外へ連れ出す。

 日当たりのいいベンチに並んで座ると、ルイーザは大きなため息をついた。
「あたしったらほんと不器用で大雑把だわ」
「んー、でもルイーザは頑張ってるだろ」
 クッキーを齧ると、焦げてはいるが、前に作ったものに比べればさっくり軽く仕上がっている。
「うん、美味い! 絶対昨日のよりうまくなってるって!!」
 あっというまに平らげ、ガンジがニカッと笑った。
「ばーちゃんってさ、毎日こーゆーの作ってくれたのか?」
「そうね、時間がある時は色々作ってくれたわ。お茶の時間がとっても楽しみだった。少し前からいいにおいがしてきて、ワクワクしたものよ」
 上品で優しくて、でも駄目なことは駄目としっかり叱る祖母が、ルイーザは大好きだった。
「……今の郷祭みたいな規模になっても、おばあさまがいらっしゃったら、みんなちょっとは楽ができたんじゃないかな」
 ルイーザは彼女なりに、みんなを助けようとしていたのだ。
 そういう面では「不器用」なのかもしれない、とガンジは思う。
「そっかーお茶会って色んな人が集まってきて、大変なんだろ? 上品な見栄えと、上品な味って感じが好まれるのかなあ」
「どうかな。ヴァリオスの人達はそうかもね」
「ま、今回の茶会は『ルイーザのケーキ』でお客様をおもてなしするんだろ? ばーちゃんの味を大切にしつつ、ルイーザにしか作れない菓子ってのもいいんじゃね?」
 ガンジはルイーザの背中を少し強めに叩いた。
「遠慮すんな! 何度でも焼いて、失敗しても全部俺が食うからな!」
「あはは……ありがとう、頼りにしてるわ。でもそんなに失敗しないように頑張るわね」
 ルイーザは元気よく立ちあがる。


 トライ&エラー。
 その言葉の通り、気を取り直したルイーザは、再びクッキーに取り掛かる。
「さっきのは、味はそんなに悪くなかったのよね」
「ルイーザちゃん、さっきより手つきが慣れてきたニャスよ!」
 ミアは手伝いながら、ルイーザの様子を観察する。
 正確に材料を計り、手順を守り、頑張っているようだ。
(ふむふむ。慣れで適当にならないようにすれば、大丈夫みたいニャスね)
 後は焼き具合を含めた見た目だ。
「ルイーザちゃん、お菓子作りで大事なのは何だと思うニャスか?」
「ん? しっかり材料を計って、手順を守って、トライ&エラーよね!」
「それも美味しさにはかかせないニャスけど、ミアはもう一つ大切なものがあると思うニャス。食べてもらいたい人のことを想いながら作ると、あったかくて優しい味にならないニャスか?」
 それは心の調味料だ、とミアは思う。
 目に見えない何か、味や見栄えに負けないような何かが、手作りのお菓子には秘められているのだと。
「おばあちゃんのレシピで作ったお菓子、ルイーザちゃんは誰に食べてもらいたいニャス?」
「そうね。まずは家族、それからお客様かな。ふふっ……」
 ミアが首を傾げると、ルイーザが穏やかに微笑む。
「紅茶の時と同じね。丁寧に作業するって、心を込めるってことなのよね」
 勿論、今までだってルイーザは同じ気持ちで作って来たのだ。
 ただうまくいかないお菓子作りは、いつの間にか意地をかけた作業になっていなかったか。
 ルイーザはようやく肩の力を抜くことができたような気がした。

 その間にミアは別のお菓子を作り始めた。
「南瓜のスコーンを作るニャスよ!」
 ミアは茜のカメラに向かってピースしてから、材料を混ぜ始める。
「ジェオルジのカボチャはほくほくニャスかねー?」
 南瓜を練り込んだ生地を捏ねて一つ一つ小さく丸める。
 スケッパーで筋を入れて、南瓜をかたどり、ギザギザ口もしっかり刻んで。
「焼けたら顔をつけるニャスよ。……いいにおいがしてきたニャスね?」
「チョコレートタルトよ。おばあさまのレシピ通りに作ってみたわ」
 エーミは焼き具合を確かめ、金網にのせた。
「さ、どんどん焼いていきましょう。オーブンをうまく使ってね?」
「味見が楽しみニャスね」
 ミアが嬉しそうに口元をほころばせると、ガンジがシンクから声を上げる。
「ちゃんと腹減らして待ってるからな! ほら、そっちのボウルも洗っちまうぜ!」
 作成に関われない分、洗い物を担当しているのだ。
「お菓子はどうしても焦げや油汚れが残っちまうからな! しっかり落とすぜ!!」
「あら~使う前より綺麗になっちまったねえ」
 ジェオルジ家の使用人が、ピカピカになった鍋を感心して眺めていた。


 全てのお菓子が完成し、応接間にはジェオルジの前領主夫妻とセストが呼ばれる。
 並んだお菓子を前に、前領主のルーベンが目を丸くした。
「これは黒い。珍しいね」
「俺様特製のモンブラン。敢えて名づけるなら『モンブラン・トゥルーダークネス』だ」
 相手が誰であろうと態度は変わらないデスドクロ。
「これが世に放たれれば、菓子の常識が変わりかねんな!」
「ほうほう、では早速」
 見事に黒いモンブランだが、その正体は栗にブラックのチョコクリームや黒ゴマを合わせてペーストにしたもの。
 口に運ぶと絶妙なほろ苦さが漂う。
「人生もケーキもそうそう甘いことばかりじゃねぇ。だがそれすらも楽しめるんだってことを伝える一品だな」
 デスドクロはそう言って、ルイーザにもすすめた。
「甘くなくても楽しめる……そうかもね」

 ミアがセストの手を握り、ぶんぶんと振る。
「色々面白かったニャス! ……ところでお顔寒いニャスか?」
 まあ普段からクールな表情であることは間違いないが。
「ミアのスコーン食べて笑顔になるニャス! 南瓜ニャスよ!」
「可愛いですね。ではいただきます」
 ほっくりした甘みが味わい深いスコーンだった。
 ガンジもお茶で喉を湿しながら、スコーンを頬張る。
「美味いなこれ! ジェオルジって南瓜作ってんのか? だったらアピールもできるんじゃね?」
 これには何故かルーベンが胸を張る。どうやら南瓜を作ったのはこの男らしい。

 セストは続いて手元のチョコレートタルトを暫く見つめ、口に運ぶ。
「美味しいです。正直驚きました」
「あら、言い忘れていたわ。焼いたのは私なの」
 エーミが軽く肩をすくめた。
「どう? おばあさまの味を再現できているかしら?」
 エーミはじっとセストを見つめる。レシピの主は一家の好みを把握していたはずだ。
 魔法書に綴られた言葉も、当時の人間にとって「日常の言葉」であれば、当然それについて説明はない。
 もし味が違うなら、レシピの「言葉」を読み違えていた可能性がある。あるいは隠し味か?
 だがセストは首を振り、それから小さく笑いだす。
「ああ、すみません。このタルトのお陰で、勘違いに気付いたんです」
 セストは姉に語りかける。
「姉上が本当に目指していたのは、おばあさまのお菓子ではなくて。忙しくしている僕達の心を落ち着かせる、おばあさまの存在だったのではないですか?」
 ルーベンとバルバラが同時にルイーザを見た。
「え? えーと……あたしはそこまで考えてなかったけど。ひょっとしたらそうなのかな?」
 ルイーザが照れたように笑う。

 慌ただしい日々の中、安らぎをくれた時間。
 甘いお菓子の記憶はその優しさに繋がって、一層美味しく思えたのだろう。

「じゃあこれからは、ルイーザさんの役割ね」
 茜がファイルを手渡す。レシピに手順を書き加え、要所ごとの写真を添付したものだ。
「これを見ながらがんばってね!」
「それが貴女だけの魔法のレシピよ?」
「ありがとう。少しずつマスターできるように頑張るわね」
 ルイーザは大事そうにファイルを胸に抱く。クッキーは見事にマスターした。他も頑張ればうまくいくだろう。
「本当にありがとうございました。郷祭も楽しんでくださいましね」
 バルバラはハンター達にお礼と共に小さなお土産を手渡す。ジェオルジ産の紅茶という辺り、やはりしっかりしている。

「今回は私にもいい経験になったわ。おばあさまのレシピもいただいていいのかしら」
 満足そうに写しを眺めるエーミに、セストが頷く。
「勿論です。祖母も誰かの役に立てば喜ぶでしょう」
「じゃあお礼に今度作るわね。食べてもらえるかしら?」
  エーミが小指を差し出すと、セストは眉を寄せながらも小指を合わせるのだった。

<了>

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参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 解を導きし者
    エーミ・エーテルクラフト(ka2225
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 語り継ぐ約束
    天王寺茜(ka4080
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • 今日を笑顔で全力!
    道元 ガンジ(ka6005
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談するとこです。
天王寺茜(ka4080
人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/11/01 21:04:10
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/30 12:09:47