• 陶曲

【陶曲】そして、永遠は物語り(上巻)

マスター:のどか

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/11/06 07:30
完成日
2017/11/13 00:10

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ある都市淑女たちのお泊り会
 ――ねぇねぇ。
 最近流行ってる都市伝説、知ってる?

 え……知らないの!?
 同盟七不思議とか、十七不思議とか……えっと、三十九不思議なんていう噂もあったっけ……?

 ……うろ覚えだけど、とにかくここ最近、流行ってるんだって!
 巷のカフェじゃ、トレンドだよ~?
 
 ……ええ、ほんとに知らないの?
 まあ……そういう私も、詳しい内容は知らないんだけれど。
 なんでもさ、とある無名の作家が不幸にも船舶事故で命を落としたその間際に、世界中で見て来た、たっくさんのおかしな出来事を書きなぐった本があるんだって。
 その本が訪れた村や街ではね、人知れず書いてある出来事が現実になって、人々を恐怖のどん底におとしいれるっていう――
 
 ……え?
 事故で亡くなったのに、何でそんな話が伝わってるのかって?
 本だって海の底に沈んでいるハズ……?
 もう、それが都市伝説としての面白いところなんじゃない!
 
 実際にさ、その本にまつわる事件が同盟のいろんな街で起こってたって話だよ。
 ……ホントだって、嘘じゃないよ!
 ほら、この間の新興商店街の騒動――そうそう、あなたが気に入ってた仕立屋さんがペチャンコになっちゃったヤツ!
 あれも、その本の呪いだったって話……うー、こわっ!
 
 ……え?
 その本の名前は何かって?
 えっと、確か――

 ――「奇怪なる世界の人々」……だったかな?

 う~、ちょっと怖いけど、我々ミーハー女子としては心惹かれるわよね。
 ホントにあるなら見てみたいし、ちょっと読んでみたいかも。
 そこには、どんな世界の姿が描かれているのかしら?
 恐怖?
 それとも狂気?
 本当に怖いのは人間だった~、なんていう教義的なオチだとゲンメツものだけど……
 
 ……ねぇ、どうしたの?
 さっきから黙ったままで……ちょっと、眼の焦点が合ってない……
 え……なに……なになに……?
 ちょっと、やめてよ、ねぇ、どうしちゃったの……?
 え……誰かに見られてる……?
 そ、そんなわけないでしょ?
 だってこの部屋、私とあなたしかいないのよ?
 窓の外……?
 そこに何かいるの……?
 
 ………………何もいないわよ?
 ねぇ、ほんとに大丈夫?
 ごめんなさい、寝る前に変な話なんかしちゃって……そろそろお終いにしましょう?

 ……やだ、ちょっと……何してるの?
 そんなもの持って……危ないって……ちょっと、ねぇ、冗談でしょ?
 やめ……やめてってば、私が悪かったってばっ!
 だからお願い、それを机の上に戻してっ!
 誰もいないからっ!!
 誰もあなたの事を見ていないからっ!!
 だから――その“ペン先を覗き込む”のをやめてよぉぉぉぉおおお!!!!!!

●物語りは永遠の始まり
「――連続発狂事件?」
 ソサエティから届いた緊急の指令書に目を通しながら、ルミはいつものように首をかしげていた。
 オフィスには日夜、次から次へと不可解な依頼がひっきりなしに舞い込んでくる。
 だが、今回担当することになったこの緊急依頼は、とりわけ頭に「?」を浮かべたくなるほどに異色を放っていた。
「あー、それ。ついに依頼が――っていうか、思ったより早かったわね。最近の歪虚騒動のせいかしら?」
「あら、知ってるんです?」
 小首をかしげたままのルミに、資料を覗き込んでいた同僚の女性は、人差し指を振りながらウンチクを垂れるように口を尖らせる。
「なんでも最近流行りの都市伝説があるらしいのよ、その内容を知るとおかしくなっちゃうっていう、ありきたりのヤツ。ただし、一味違うのは――“ガチ”らしいってこと」
「“ガチ”……ですか?」
 もっともらしいトーンで強調されて、ルミは思わず眉を潜めて息を飲む。
 怖い話は苦手じゃないが、特段、得意なわけでもない。
 凄みを効かせて怪談語りばりに話されると、嫌でも意識はするものである。
「ただこれ、調査って言われても、あんまり手がかりがないんですよねぇ。文字通り雲を掴むようってゆーか」
 ぷっくりピンクの唇を人差し指でちょんと押し上げながら、ルミの頭の中をもやもやとした黒い霧が覆っていく。
 が、それを追い払うかのように、ピンとまぶしい電球が立ち上がると、引き出しの速達便箋を取り出した。
「そういえば、似たような事件を扱ってた友達がいたっけなぁっと――」
 口にしながら、さらさらと便箋に宛先を記していく。
 
 ――ヴァリオス同盟軍本部 陸軍駐屯地宛て アンナ=リーナ・エスト様
 
 その手紙はまさしく、永遠を望む物語の初めの1ページに相応しいものであろうか――

リプレイ本文


 同盟軍本部――極彩の都ヴァリオスに存在する、この地域の防衛の要たるこの建物の一室に、数名のハンターがお茶もないままに佇んでいた。
 書類が山積みの机が並ぶ部屋の中には、客人がくつろぐようなスペースは存在しない。
「待たせてすまない。これで、集められるものは全てだ。それと、頼まれていた地図――軍で使用しているものだから、比較的詳細に書かれているだろう」
 最奥窓際の机にドンと大量の書類を置いたアンナ=リーナ・エスト(kz0108)は、額にうっすらと浮かんだ汗を手の甲でさっとぬぐう。
「いや、ありがたいよ。アンナ君……と呼んでもいいかな? ボクらにはとにかく情報が必要でね」
「ああ。ソサエティから通されたものなら、協力を惜しむ理由はない。そもそも、私独りで抱えきれる情報でもないからな」
「この様子だと……ね」
 帽子を脱いで頭を下げた霧島 百舌鳥(ka6287)に、アンナは謙遜するように首を横に振る。
 どこか物憂げなその表情を横目に、クリス・クロフォード(ka3628)は、ただ1つを除いてうっすらと埃の積もった机たちを見渡していた。
「こいつは、借りてって構わないんだな? 後から軍規に触れたために確保、とかなしだぜ」
 冗談めかして口にした歩夢(ka5975)へ、アンナは同じように首を振る。
「それは、私の首にも言えることだな」
「まったくね。忙しいのに、手間取らせて悪かったわ。今度、お茶でも奢るわね」
「そうだな。いずれ、まとまった休みも取るつもりだ――」


 資料の束が入った箱を抱えて本部を後にした彼らだったが、歩夢はまだ寄るところがあると言って他の2人へ別れを告げる。
 彼が向かったのは、中心街に存在する魔術師協会の本部。
 ソサエティの相談を受けて、仲介する形で今回の依頼を掲示したのである。
 適当な職員を捕まえて話を通すと、すぐに古めかしい厳かな造りの応接室へと通された。
 部屋の中では、まさしくこの空間に存在していて違和感のない雰囲気の先客が、ニヒルな笑みを浮かべながら彼の到着を歓迎する。
「おや、遅かったじゃないか」
「なんだ、あんたも依頼人に用事か?」
 歩夢の言葉にフワ ハヤテ(ka0004)が帽子のつばを指先で摘み下げると、ガチャリと扉が開いて、ローブを着込んだいかにも魔術師風の男性が現れた。
「お待たせしました。どうぞ、お掛けください」
 促されて、歩夢はフワの隣に腰を下ろす。
 男性も向かい合うように腰を下ろすと、手身近に要件を口にした。
「事件に関しては、協会の方でも調査は進めております。しかし、ご相談いただきました内容に関しては、現段階ではなんとも……」
「心当たりも?」
「魔術の叡智が結集されたこの場所です。ない、とは言い切ることができないでしょう。しかし、やはり“本”というものの現物……ないしは、一部だけでもないことには、禁術や呪いと照合するにできないというのが今の状況なのです」
「なるほどね……なら、現物さえあれば進展は見込める、というわけかな?」
「え、ええ……」
 言葉の裏を掻い潜って言質を取ったフワは、多少なり来た価値はあっただろうと小さく頷き返す。
「現物か……被害者の周辺を当たれば、手に入れられんもんかな」
「どうだろう。仮に存在したとして、どうやって頒布しているのかも分からない状態だからね」
「とにかく、総当たりしかねえか」
 いまだ雲を巻くようだが、微かなものでも糸口はみえた。
 少なくとも、やらなければならないことはハッキリとしたはずなのだから。


 一方、シェリル・マイヤーズ(ka0509)とリリア・ノヴィドール(ka3056)は、棒のようになった足を摩りながら、酒場の一角でホットドリンクを片手に小休止を取っていた。
「これで手がかりつかめなかったら、正直お手上げなのよ~」
 2人はとにかく足を使った。
 様々な場所で聞きこんだが、得た情報はどうしても噂の域を出ない印象だった。
「今回の事件は……本当に、おじさんのせいなのかな」
「だけど、“本”の話は出ていたわけだし、間違いはないと思うのよ」
 噂話の中に絶えず出てくる本――『奇怪なる世界の人々』。
 それは間違いなく、彼女達が直前まで追っていた事件の重要な証拠品だった。
 回収することはおろか、触れることすらできなかったが……それほどまでに執着していた彼の存在も、また夢物語ではない。
「――はいはい、了解なのよ。じゃあ、こっちもこっちで方針を考えるの」
 魔導スマホを耳に当てて語り掛けたリリアは、それをポケットにしまって小さく息を吐く。
「フワさんたち、被害者周辺をあたって本を探すそうなの。こっちはどうする?」
「……私たちもそうしよう。だけど、その前に気になる事があって」
「気になる事?」
 キョトンとするリリアに、シェリルもまた煮え切らない表情でポツリと答える。
「狂気は伝染する……それなら――」
 彼女の中にあったのは漠然とした不安。
 いや、それとも……


 病院の一角で、百舌鳥はどこか情緒不安定な看護師へ頭を下げた。
 彼女と別れて病室の連なる廊下を歩みながら、外した帽子を深くかぶり直す。
「この惨状だ……無理はない、かな」
 壁一枚を隔てた病室からは、怒声とも奇声とも似つかない、およそ人のものとは思えない叫びが鼓膜を激しく打ち鳴らした。
「まるで動物園のようだ、というのは流石に不謹慎かな」
 こんな状況で毎日仕事をしていれば、嫌でも気が滅入るというもの。
 犠牲者に話を聞くことができればと思いやって来た病院だったが、これでは流石に難しい。
 これほどまでに人の心を狂わせるモノが世の中に存在するとは……百舌鳥の心中は、それだけでもこの世に生まれた事に感謝するほど高鳴るものだった。
 病室の入り口へと立ち止まりざっと中の様子を見渡すと、よほど同じ人間たちとは思えない、地獄のような光景が視界いっぱいに飛び込んでくる。
「……ざっと見た程度では何とも言えないけれど、マテリアルは感じられないねぇ。潜んでいるだけという可能性もあるけれど……ううん、もう少し自由に調査できる検体が欲しいものだよ。いや、いっそのこと自分が――」
 そこまで口にして、自嘲するように乾いた笑いを浮かべた。
 なに、いずれ真相の尻尾は掴んでみせる。
 探偵として――ハンターとして。


 シェリルとリリアが訪れたのは、ちょうどつい最近、ソサエティから発狂事件の事情聴取を受けた少女のもとだった。
 資産家の娘である彼女は、半ばひきこもるような生活を送っているという。
「あら、奇遇ね」
 両親に通されて向かった少女の部屋では、先に来ていたクリスがひらひらと手を振って2人のことを出迎えた。
「クリスも物語を追って……?」
「うんにゃ、素直に事件の関係者を追っていたのよ。ただ、これがなかなか――」
 含みのある表現に思わず首をかしげるシェリルだったが、ベッドの上で震える少女の姿が目に入って、クリスもまた一度会話を遮った。
「それで、あなたが都市伝説を聞いたのはどこ?」
「く、詳しくは覚えてないわ……だって、そこら中どこでだって話が聞けるんだもの」
 カチカチと歯を震わせながら、肩を抱く少女。
 その姿は狂気に犯されているというよりは、単純に怯えているものに近い。
「う~ん……結局、似たような話しか聞けないのよ」
 眉尻を下げながら小さくため息をついたリリアに、シェリルも釣られて視線を外す。
 が、クリスの困惑した叫びがすぐに2人の意識を揺り起こせた。
「ちょっと、どうしたの? 大丈夫……!?」
 そこには少女の肩を掴んで優しく揺するクリスの姿。
 そして少女自身は、どこか方針したように焦点の合わない瞳で、意識が途切れたかのように惚けていた。
「ど、どうしたのよ……?」
「分からない。話の途中で、急にこうなっちゃって……」
 心配そうにのぞき込んだリリアへ、クリスも流石に焦った様子で事を語る。
 だが、そうやって一瞬少女から意識がそれたその瞬間――彼女の手が、力強くクリスのそれを振り払った。
「あああああぁぁぁぁぁぁ!! 五月蠅い五月蠅い五月蠅いぃぃぃいい!! 喋らないでッ! 私の耳元で、騒がないでよぉぉぉぉおおおお!!!!」
 悲鳴をあげるかのように喚き散らしながら、枕に本、身の回りの物を手あたり次第に掴んでは、それをやたらめったらに投げつける。
「お、おちついて! 落ち着くのよ!?」
 咄嗟にリリアは錯乱する彼女の両の手首を掴んで、覆いかぶさるようにベッドへと押し倒した。
「医者を呼んで! 今すぐにっ!」
 騒ぎに気付いてやってきた両親にそう告げて、クリスは表情を隠すように額に手を当てながら少女の姿を見下ろす。
「さっき、言いかけたこと……」
「……え!?」
「話の出来る関係者がなかなか見つからない……って話をしようとしていたのよ」
 突然のクリスの言葉に、少女の足を抑えるのを手伝っていたシェリルが思わず振り向く。
 そこに立ってたクリスの苦い表情をみて、思わずドキリと胸を締め付けられた。
「彼女が最後だったのよ――今のところ報告のあった目撃者の中で、発狂していなかったのは」


「……あ?」
 ――夕刻。
 オフィスの小部屋を借りて情報のすり合わせを行っていたハンター達の輪の中で、歩夢がぽつりと声を漏らした。
「おや、何か思い至ったのかい?」
 百舌鳥が彼の見つめる手元を覗き込んで、それに釣られるようにして他のハンター達もそぞろに集まり始める。
 そこにあったのは百舌鳥自身が借用してきた街の地図だった。
「いや……オフィスで貰った事件の発生場所を地図で拾っていたんだが、ちょっとばかし妙でな」
 言いながら歩夢が示した地図の上には、小さな石がなんの規則性もなく、ぽつらぽつらと置かれていた。
 いや、規則性こそないが、それを見た瞬間の違和感は全員が感じ取っていた。
「ははっ、これはこれは。実に明快な手がかりじゃないか」
 思わず感嘆の息を漏らすフワ。
 地図が示していたのは、事件の集中している場所とそうではない場所の存在。
 いや、厳密には“街のある区画”を中心に所せましと集まった小石。
 そして、そこから放射状に少しずつ被害の件数はまばらになっていく。
 住宅街など多少密集したように見える場所はあるが、それすらも「まばら」と表現したくなるほど、地図に示された全容は異質であった。
「で……ここには何があるんだ?」
 答えを求めるように、周囲を見渡した歩夢。
 街に広がる怪異の渦の中心――同盟軍本部、その一角を指し示しながら。
 

 先導するアンナに続いて、ハンター達は同盟軍本部を歩み進んでいた。
 向かっているのは「証拠品保管庫」。
 薄暗さの中に埃とカビの匂いが混じり、独特の淀んだ雰囲気を醸し出す場所だった。
「それで、件の品はどこにあるのかな?」
 落ち着いた様子で尋ねた百舌鳥に、彼女は奥の棚から1つの鉄箱を抱え出して机の上へと置く。
 息の詰まる中で錠前が外されると、さび付いた鉄が軋む音をあげながら蓋が開かれる。
 そして、中に収められている“もの”の姿を目にして、みな一様に息を飲んだ。
「こいつは驚いた……“刀”って聞いていたハズなんだがな」
 嘲るように発せられた歩夢の言葉が、その光景の全てを物語っていた。
 そこにあると思われていたのは、1年ほど前に依頼の中で回収された“刃のない刀”。
 しかし、実際にそこにあったのは簡素な装飾の柄と鍔、そしてないはずの刃の先には――1冊の本が備えられていた。
「ど、どうしてこの本がここにあるのよ!?」
 まるで刀と一体化しているかのように、鯉口から伸びる無数の細い“根”に絡めとられるようにして鎮座する、分厚い表紙の書籍。
「いやはや、『失われたはずのものが“あり得ない場所”に存在する』――実に興味深いね! そして、流石に軍の手に余るものであると判断するが……どうお考えかな?」
「あ、ああ……それは、同意せざるを得ない」
 フワの言葉に、アンナは煮え切らない胸の内を抑え込みながらも首を縦に振る。
 そして、今はもう一度厳重に保管するべく蓋に手を掛けようとした時――不意に、本が緑色の輝きを発した。
「危ない……!」
 咄嗟に感づいたクリスが、アンナの身体を押し退くようにして、共に埃っぽい床へと倒れ込む。
 その勢いで机から投げだされて床へと転げ落ちた本は、勢いよく緑色の炎を噴き上げて、光量の少ない部屋の中を一気に照らし出した。
 よほど自然のものとは思えない彩色の火柱の中で、本はゆっくりと宙へと浮かび上がる。
 そして、絡みついた“根”が勢いを増して四方へと伸び出して、瞬く間に歪な人形を成していく。
「なるほど……この事件、必要なのは探偵ではなくハンターになるねぇ」
 八重歯を覗かせた百舌鳥の赤い瞳の中で、彼はゆっくりとその身体を起こす。
 火柱はいつしか消え去って、しかしながら同じ色の輝きは僅かにハンター達の表情を、翡翠色に染め上げていた。

 その真っ白な身体はまるでねじれ溶けた蝋燭。
 のっぺりとした無機質の肌に包まれた細身の人形のようにも見えるが、左の腕だけは肘から先が存在せず、代わりに緑光の源となってる炎が、まるで欠損の代わりを担うかのように拳の形に握り込まれていた。

「いったい何者なのよ……!?」
 怖気づかずに一声を挙げたリリアだったが、蝋人形のような“それ”は、意にも介さず自らの身体を目のない顔で見渡す。
 そしてつるりとした目元を形ある左手で覆うと、ひび割れのように開いた口で、かすれたような笑い声をあげた。
「――そうか。これが彼の“本質”か」
 その自虐するかのような言葉に、シェリルはふと虚を突かれたように目を見開いた。
「訳の分からねえことを言ってるんじゃねえ! 敵だってんなら、相手になるぜ」
「確かに、“それ”は返してもらわないと困るものだからね」
 啖呵を切った歩夢に倣って、フワの柔らかくも鋭い視線が怪物の胸元へと注がれる。
 そこにある、胸部に取り込まれるかのようにして一体化した本の表紙に手を当てて、歪虚はないはずの瞳でじっとりとハンター達を見渡した。
「なるほど……芽は既に、広く根を下ろしているということか」
 一瞥した歪虚は何かに納得したかのように頷くと、緑炎が彼の姿を包み込む。
 そしてドロリと蝋が溶けるかのように、その身体が融解する。
「待ちなさい、あんたは……!」
 アンナを支えて身を起こしたクリスが、溶けた先から床下に染み込んでいく歪虚へと声を荒げる。
 だが敵は一貫して彼らの言い分に耳など貸さずに、やがて炎共々、ずるりと床板の隙間へと抜け落ちてしまっていた。
 うすら焦げた部屋の中で、呆然と取り残されたハンター達。
 その静寂の帳を割いて、シェリルの震える唇が言葉を紡ぐ。
「まさか……いや、だけど――」

 ――それは、永遠を望む物語。

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参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • それでも尚、世界を紡ぐ者
    リリア・ノヴィドール(ka3056
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • 魂の灯火
    クリス・クロフォード(ka3628
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • 怪異の芯を掴みし者
    霧島 百舌鳥(ka6287
    鬼|23才|男性|霊闘士

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アイコン 相談卓
クリス・クロフォード(ka3628
人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/11/05 19:40:38
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/02 23:50:56