ゲスト
(ka0000)
旧領主屋敷の亡霊
マスター:小林 左右也

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/06 09:00
- 完成日
- 2017/11/14 22:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●領主サリーナ・エンガーデの亡霊
グラズヘイム王国にあるとある村には、廃墟と化した屋敷がある。
この屋敷には領主一家が住んでいた。良き領主であり、いつも明るい笑い声が絶えない幸せな一家だったという。
しかし、その幸せは永遠には続かない。
最初の妻を病で亡くし、二番目の妻を娶ったのが、一家の不幸の始まりだったという。
二番目の妻、サリーナが嫁いできた翌年、領主と前妻との間に生まれた3人の子たちは、次々と流行病で亡くなった。
領主の座を獲得したサリーナは、領民に重い税を課し、その血税はサリーナの享楽のために湯水のように使われていった。
領民たちの暮らしは年々苦しくなる一途をたどり、とうとう領民の怒りが頂点を越えてしまう。
そして、サリーナは暴徒と化した領民たちの手によって殺害された。
「領主サリーナ・エンガーデは、亡霊となっても斬られた首を抱えて屋敷の中をさ迷っているのです」
「へえ……」
ここです、と村の老人は鬱蒼とした森と化した屋敷の前で足を止めた。葉の隙間から差し込む日没前の朱色の陽射しに目を細める。
大きな門であった。門と閉ざす鉄格子は優美な曲線を描く。そうまるで薔薇の蔦をイメージしたような美しくもあるが、敵の侵入を許さない強固なものだったに違いない。
しかし風化した今となっては赤錆が浮き、所々錆びては崩れていた。鍵もすっかり崩れ落ち、押せば簡単に門は開いてしまう。
「ハンターさんは、サリーナの話はご存知で?」
「いや、知らないな。有名なのか?」
「ええ、この土地の人間なら知らない者はいませんよ。子供の頃の脅し文句でしたからね。『言うことを聞かないと、サリーナがさらいにくるぞ』ってね」
「それはおっかないな」
そんな脅し文句まで存在するほどだ。屋敷には近づいてはならないと、幼い頃から警戒心を植え付ける必要があるということだろう。
屋敷はかつての庭園が森と化している。その中にある屋敷を確認しようとするものは、村には存在しない。しかし、噂を聞きつけた余所者が興味本位で忍び込むことはあるという。
先週訪れた余所者の青年が、例の噂を聞きつけて屋敷内に入ってしまったが、いまだ戻ってこないという。
青年の家族から捜索依頼が出され、村人は慌てた。ちょうどコボルド駆除で応援に駆り出されたハンターに相談を持ち掛けた、というのが現在である。
「ハンターさん、本当に亡霊なんているんですかねぇ……」
「さあ、どうだろうね」
歪虚の仕業か、はたまた人間の仕業なのかは確かではない。
言葉を濁しつつ、ハンターの青年はもう一度屋敷を見上げた。
●ハンターオフィスにて
ハンターだと名乗る青年が、ふらりとハンターオフィスを訪ねてきた。開口一番に元領主屋敷の噂を問われたものの、コウ・リィはただ小首を傾げるばかりである。
「サリーナはずいぶん前の、実在の人物ですよね。一応噂は知ってはいますが、これまで特に被害がなかったので調べていませんでした」
「今後はちゃんと仕事はして欲しいものだな」
「……大変失礼致しました」
無論、彼女のこめかみには青筋が浮かんでいる。
「では、これまで被害報告は一度も出ていない、というわけか」
領主サリーナの亡霊の話は、村の老人が子供の頃から知っているものだ。サリーナの亡霊が歪虚であれば、もうとっくに被害が報告されているはずであろう。
「村人で屋敷に近づく者はほぼいないようだ。ただ余所者が実際に、どれだけ忍び込んで今いるのかが不明だ。今回のように捜索依頼が出ていないからな」
「わからないことばかりですね」
「ああ」
ハンターの青年はため息を吐く。どうやらその手のマニアには、いわくつきの廃墟としてそこそこ人気があるという。中には悲劇の女領主に心酔する輩もいるとかいないとか。
「行方不明者だが屋敷は老朽化が進んでいるから、床板が抜けて動けなくなった可能性もある。庭園なのか屋敷内なのか」
「行方不明者の捜索が優先ですね」
「まだ生きているかどうだか」
「……まだ生存の可能性はあります」
不確かな情報しかない今、行方不明者の無事を祈るしかなかった。
グラズヘイム王国にあるとある村には、廃墟と化した屋敷がある。
この屋敷には領主一家が住んでいた。良き領主であり、いつも明るい笑い声が絶えない幸せな一家だったという。
しかし、その幸せは永遠には続かない。
最初の妻を病で亡くし、二番目の妻を娶ったのが、一家の不幸の始まりだったという。
二番目の妻、サリーナが嫁いできた翌年、領主と前妻との間に生まれた3人の子たちは、次々と流行病で亡くなった。
領主の座を獲得したサリーナは、領民に重い税を課し、その血税はサリーナの享楽のために湯水のように使われていった。
領民たちの暮らしは年々苦しくなる一途をたどり、とうとう領民の怒りが頂点を越えてしまう。
そして、サリーナは暴徒と化した領民たちの手によって殺害された。
「領主サリーナ・エンガーデは、亡霊となっても斬られた首を抱えて屋敷の中をさ迷っているのです」
「へえ……」
ここです、と村の老人は鬱蒼とした森と化した屋敷の前で足を止めた。葉の隙間から差し込む日没前の朱色の陽射しに目を細める。
大きな門であった。門と閉ざす鉄格子は優美な曲線を描く。そうまるで薔薇の蔦をイメージしたような美しくもあるが、敵の侵入を許さない強固なものだったに違いない。
しかし風化した今となっては赤錆が浮き、所々錆びては崩れていた。鍵もすっかり崩れ落ち、押せば簡単に門は開いてしまう。
「ハンターさんは、サリーナの話はご存知で?」
「いや、知らないな。有名なのか?」
「ええ、この土地の人間なら知らない者はいませんよ。子供の頃の脅し文句でしたからね。『言うことを聞かないと、サリーナがさらいにくるぞ』ってね」
「それはおっかないな」
そんな脅し文句まで存在するほどだ。屋敷には近づいてはならないと、幼い頃から警戒心を植え付ける必要があるということだろう。
屋敷はかつての庭園が森と化している。その中にある屋敷を確認しようとするものは、村には存在しない。しかし、噂を聞きつけた余所者が興味本位で忍び込むことはあるという。
先週訪れた余所者の青年が、例の噂を聞きつけて屋敷内に入ってしまったが、いまだ戻ってこないという。
青年の家族から捜索依頼が出され、村人は慌てた。ちょうどコボルド駆除で応援に駆り出されたハンターに相談を持ち掛けた、というのが現在である。
「ハンターさん、本当に亡霊なんているんですかねぇ……」
「さあ、どうだろうね」
歪虚の仕業か、はたまた人間の仕業なのかは確かではない。
言葉を濁しつつ、ハンターの青年はもう一度屋敷を見上げた。
●ハンターオフィスにて
ハンターだと名乗る青年が、ふらりとハンターオフィスを訪ねてきた。開口一番に元領主屋敷の噂を問われたものの、コウ・リィはただ小首を傾げるばかりである。
「サリーナはずいぶん前の、実在の人物ですよね。一応噂は知ってはいますが、これまで特に被害がなかったので調べていませんでした」
「今後はちゃんと仕事はして欲しいものだな」
「……大変失礼致しました」
無論、彼女のこめかみには青筋が浮かんでいる。
「では、これまで被害報告は一度も出ていない、というわけか」
領主サリーナの亡霊の話は、村の老人が子供の頃から知っているものだ。サリーナの亡霊が歪虚であれば、もうとっくに被害が報告されているはずであろう。
「村人で屋敷に近づく者はほぼいないようだ。ただ余所者が実際に、どれだけ忍び込んで今いるのかが不明だ。今回のように捜索依頼が出ていないからな」
「わからないことばかりですね」
「ああ」
ハンターの青年はため息を吐く。どうやらその手のマニアには、いわくつきの廃墟としてそこそこ人気があるという。中には悲劇の女領主に心酔する輩もいるとかいないとか。
「行方不明者だが屋敷は老朽化が進んでいるから、床板が抜けて動けなくなった可能性もある。庭園なのか屋敷内なのか」
「行方不明者の捜索が優先ですね」
「まだ生きているかどうだか」
「……まだ生存の可能性はあります」
不確かな情報しかない今、行方不明者の無事を祈るしかなかった。
リプレイ本文
●森
壊れた鉄門の向こうには、鬱蒼とした雑草や延び放題の枝葉が視界を阻んでいた。
かろうじて木々の間から見える屋敷は、百年近い年月が経っているようには見えない。
壊れた鉄門を押し開くと、壊れそうな軋んだ音を立てる。規則正しく並んだ石畳が森の中へと伸びている。
長年の風化と雑草の浸食が進み、門付近より先は半分以上、土塊と化していた。
レオナ(ka6158)は門の前で立ち止まると、並んだ三人のハンターたちに告げる。
「急ぎたいですが闇雲に入っても効率が悪いので、式符で門内を確認させてください」
皆の同意を得ると、レオナは式神を放つ。
「ジャックさんは、この石畳を辿って行ったようです」
ジャックもこの石畳が真っ直ぐに屋敷まで続いていることを知っていたようだ。土に埋もれた部分を払い除けながら進んでいった形跡が残っていた。
「なんだっていいけど、早く探してやんねーと可哀想だぜ」
上空からも、また違った情報が入手できるであろうと、岩井崎 旭(ka0234)はイヌワシのジェロ―を飛ばす。
ファミリアアイズで見た景色は、緑に埋もれた領主屋敷の成れの果てであった。
門から真っ直ぐ伸びる石畳の上は植物の浸食が少ない。石畳が雑草の成長をある程度妨げていたようだ。門と屋敷の中間地点に噴水らしきものがあり、その両脇には樹齢を重ねた落葉樹が一本ずつ伸びていた。
ほどよい幹や枝の太さ、枝の伸ばし具合といい嫌な予感がする。
「うわ……見つけちゃったよ」
予感が当たり、旭は苦い顔になる。
左右両方の木に一体ずつ。幹に寄り添うようにぶら下がった侵入者らしき成人男性を見つける。無論すでに命はない。
「ジャックさんでは、ないはずです」
レオナの占術によれば、生存者はあの屋敷内にいる。それがジャックであると祈るばかりだ。
「占術によると歪虚の存在は……曖昧です」
サリーナが歪虚ではなく幽霊ならば、その理由は大いに気になるところだ。
「ま、なんにせよ面白い事がありそうだぜ」
シェイス(ka5065)は好奇心に満ちた目で、鬱蒼と生い茂る木々の間から垣間見える領主屋敷を眺めた。
式神とファミリアアイズで敷地内を確認した結果、ジャックが残した形跡を辿って行くのが賢明のようだ。つまり、伸びる石畳に沿って歩く。枝葉や蔦を払い除けながら進んだ痕を見つけたが、この程度ではきっと傷だらけになったに違いない。
また、過去の侵入者については複数が見つかった。
樹木の枝で首を括った遺体は三体。まず噴水の両脇にそびえる大樹に二体、絡み合うように伸びた樹木の間に一体。
そしてその先にある右手に広がるバラの密集地帯。そのバラの根元にうずくまる姿勢の白骨が一体。
そこに行きつくまでに眼鏡や靴、といった遺留品がぽつぽつと見つかる。その半分以上は、土に還ろうとする品だ。ジャックのように単純に廃墟に興味があるのではなく、自らの命を絶つためにここを訪れるものも多いのだろう。
この鬱蒼とした森は、視覚だけに頼るのは難しいことも多い。トリプルJ(ka6653)の連れであるダックスフンドたちの、嗅覚からのアプローチも十分頼りになるはずだ。
「頑張ろうぜ相棒。頑張ってジャックの匂いを見つけてくれよ」
ジャックの幼馴染を名乗る女性が貸してくれたのは、彼が愛用していた帽子だった。かなりくたびれた帽子を差し出すと、犬たちはふんふんと丹念に帽子の匂いを嗅ぐ。
犬たちは主人が差し出す帽子の匂いを丹念に嗅ぎ取ると、任せてくれと元気な声を上げるのだった。
常人では苦労するであろう繁みも、旭の怪力無双が大いなる力を発揮した。長い年月を掛けて密集した枝葉や蔓は、カライドアックスを一振りするごとに、見る見る視界が開けていく。旭を先頭に雑草を踏み分けながらハンターたちは森を進む。
二匹の犬たちは時折地面に鼻を擦りつけては慎重に進んでいた。トリプルJも超嗅覚で自らジャックの匂いを辿っていたが、不意に足を止めて空を仰ぐ。
シェイスも時折地図に目を落としながら歩を進めていたが、旭とトリプルJが足を止めたのに気付いた。レオナもまた、式神が見つけた遺留品を丁寧に回収しつつ、足を止めた彼らの様子でことを察する。
ジャックは彼らを見つけたのだろうか……。
ジェロ―の目を通して見つけた、樹木の枝にぶら下がる彼らを見上げながら旭は思う。
遺体を木の上から下ろす。次いで噴水側の樹木で見つけた遺体も下ろし、合わせて三体。
旭は深淵の声で彼らの素性を探る。出身地も年齢のいずれも違う男性だった。失望、絶望、恨みといったさまざまな負の感情が伝わってくる。そしてサリーナに対する感情も。
どうやらサリーナは民衆を苦しめる暴君の他に、運命を翻弄された悲劇の女性という見方もされていたらしい。彼女への同情心、自らの不幸を彼女のものと重ねる複雑かつ不可解な思いを感じる。しかしサリーナの亡霊の真相について知るものはいなかった。
また、バラの根元で回収した遺体は、ジャックと目的を同じくする侵入者であった。
彼女から聴こえる声は、サリーナに対する恐怖と絶望。怪我を負い、それが元で亡くなったらしい。
「サリーナは歪虚ってことか?」
「可能性はありますが、そうとは言い切れません」
旭の質問に、レオナは占術では読み取れなかったと告げる。
しかし、このままではいつ歪虚に飲まれてもおかしくない。人知れず命を絶った人々を、ハンターたちは静かに見下ろした。
●屋敷へ
屋敷は深緑の蔦に覆われつつあった。まだ上部までは届いていないが、円形にせり出た入口部分はすっかり蔦に覆われていり。屋敷最初の扉は半開きの状態で放置され、すでに扉の機能は果たしていない。申し訳程度に立て掛けてあるだけのようだ。目に付く窓のガラスはすべて割られ、窓枠にも蔦が絡まっている。
回収した遺体を入口付近に安置すると、扉なき入口をくぐり、玄関ホールに足を踏み入れた。
中は意外にも明るい。外壁を伝う蔦は内部の壁をも浸食していた。ガラスが割れた窓枠を縁取るように絡みつき、思いがけなくその緑は美しく目に映る。
天井は吹き抜けになっていたようだが、すでに崩れ落ち、穴からは空が見える。
肖像画でも飾っていないかとシェイスはホールを見渡すものの、残念ながら目ぼしいものは見当たらなかった。
さらに進むと中央には大広間へ続く扉がある。鍵は掛かっていない。壊れていた。
大広間の扉から右手には厨房や使用人用の階段へ続く入口、左手には応接室へ続いている。この二つには、元々扉は存在しないようだ。
「内部へ侵入する前に、式で危険個所を確認します」
レオナは屋敷の見取り図を拡げると、再び式神を放ち、屋敷内へと侵入する。
式神の目を通してレオナが屋敷内の様子を淡々と告げる。
大広間に窓はあるが、その広さのせいもあり中心部はほとんど闇に閉ざされている。
案の定、動物が内部に住み着いているようだ。
広間の床は石材で出来ているようで、腐って抜け落ちることはないはずだ。
「大広間の奥に二階へ続く階段を見つけましたが、老朽化がひどいですね」
残念なことに、入口付近にある使用人用の階段も、相当老朽化が進んでいるという。
「……見たところ、大広間にジャックさんもですが、サリーナの亡霊もいないようです」
式神を納めると「入りましょう」とレオナは重たい扉を押し開けた。
●潜入
最初に感じたのは、カビの匂いと据えた匂い。レオナが確認したとおり、わずかながらも窓からの陽射しで真っ暗闇ではないが、行動するには妨げが多い。トリプルJがハンディLEDライトで周囲を照らす。
すると天井の闇が動いた。一瞬その闇が膨れたか思ったが、次の瞬間ばらばらと崩れてハンターたちに襲い掛かる。
「きゃあっ」
「うわ」
「なんなんだ?!」
「これは……コウモリか?!」
掠める羽音とか細くも甲高い鳴き声。大量の黒い飛行の正体はコウモリだった。この屋敷の天井に巣を作っているようだ。恐らくハンディLEDライトの光に驚いたのだろう。
咄嗟に腕や手で防御するが、誰も怪我はない。人の血を吸う習性がないコウモリだったから幸いだった。
コウモリが過ぎ去った後、吹き抜けの天井を改めて仰ぎ見ると、そこには一面に絵が描かれていた。
ハンターたちは、思わず感嘆の声を上げる。ただ残念なことに長い年月と劣悪な環境のため、保存状態はよろしくない。天井から下がった今は埃をかぶったガラス製のシャンデリアは、の天井画をよりいっそう美しく映し出していたに違いない。
「面白いなあ……」
興味を掻き立てられたシェイスは、感心するように天井を仰ぐ。探せば他にも過去の記録やら情報が残っているかもしれないという期待が胸を躍る。
不意に犬たちが吠え始めた。しかしそれはジャックの行方を知らせるためではないようだ。
「どうした?」
トリプルJは膝を折ると、犬たちの視線に合わせてその方向を凝視する。
大広間から上階へと伸びる階段の、二階部分の踊り場に向かって威嚇するように吠え続ける。そこは大広間を見渡せる小さな舞台のようになっていた。
踊り場に、誰かがいる。だがいつから? ハンターたちの間に緊張が走る。
「私の眠りを妨げるのは、誰……?」
思いがけず低い声だった。黒いドレス、顔を覆う黒いショール。まるで喪に服すかのような姿をした女性が姿を現した。
「私はサリーナ。サリーナ・エンガーデ」
●領主サリーナ
一瞬身構えるが、ハンターたちは気付く。彼女は……歪虚ではない。血の通う人間に間違いはないはずだ。しかし彼女からは狂気じみた何かを感じ取れる。
「そう、お前たちも私の財宝を、そう、そうですか……」
芝居がかった調子で語る声は、低く皺がれた老婆のものだった。
「わかりました。そう、領主たるもの、領地も領民も私の大切な財産。慈悲深い私が施しを致しましょう」
彼女は何者だろう。本気で自分をサリーナだと思っているのだろうか? そもそも財宝なんて話は聞いていない。疑問を抱えつつ、ハンターたちは彼女の芝居に付き合うことにする。
「さあ。寄りなさい……こちらへ」
大広間の中央へとハンターたちを導こうとする。中央部分の床にはコウモリたちの糞と埃が積もっている。しかも頭上には巨大なシャンデリア。気が進まないが、警戒しつつ指示に従うことにする。
念のため、シェイスは隠の徒と壁歩きを駆使して、彼女に気付かれぬよう二階へ移動することにする。怪しい動きをしないか彼女を見張るためだ。万が一拘束するにしても、歪虚でないのなら問題はないだろう。
示す場所へハンターたちが辿り着いた途端、彼女は突然鋭い悲鳴を上げる。その悲鳴に驚くハンターたちの頭上に、何かが迫ってくる気配がした。
「このババァ、何をしやがった!」
シェイスの怒声が響く。
「きゃああっ!」
同時にレオナが悲鳴を上げる。それは天井から吊り下げた巨大なシャンデリア。眼前まで迫ってくるのは、あっという間だった。
しかし、旭は自らの剛腕で、トリプルJは幻影の腕でシャンデリアをどうにか受け止める。間一髪で直撃を免れ、一同安堵の息を吐いた。
「可哀想に……私の領民たち! その死はけっして無駄にしませんわ……」
サリーナの嗤い声が聞こえる。彼らがシャンデリアの下敷きになったと、自分の罠に掛かったと思ったのだろう。
シェイスに拘束されながらも、彼女は領民の死を悼むと言いながら嗤い続けていた。
●探索
ジャック探索にはトリプルJとレオナが。シェイスは二階の調査に。サリーナを名乗る老婆の見張りは旭が務めることになった。
どうやらサリーナを語る老婆は、ずいぶん前からこの屋敷に住み着いていたらしい。そしてジャックのような侵入者を、自分を廃そうとする敵とみなして殺めていたという。遺体は敷地の至る所に埋められ、植物育成に貢献していたというわけだ。
色んな要素がありすぎて、何がそもそもの原因でこのような状況になったのか不明のままだ。
負のマテリアルで満ちたこの屋敷に近づいてはいけないという警告が、サリーナの亡霊という形で言い伝えられたのだろう。
怪しい場所ばかりで、一体どこを祓えばいいのやら。旭は重たい息を吐いた。
犬たちが示すのは玄関ホールから右手の入口。使用人用の階段と厨房といった作業場へ続く入口だった。
こちらは大広間と違って空気の行き来がないせいもあり、老朽化が激しい。階段は足場が腐って抜けている箇所、上階から落ちてきた落下物で辺りは散乱していた。
「ジャックさーん」
慎重に犬たちの後を追いながら、レオナは小さな声で呼び掛ける。もし聴こえていれば、きっとジャックは応えてくれるはずだ。
先に厨房へ向かった犬たちの声が聴こえる。レオナとトリプルJも後を追って厨房へと足を踏み入れた。
割れた食器や錆びた調理器具が散乱する中を越え、たどり着いたのは収納庫らしき棚が並んだ一角だった。壁際の床に木製の蓋があったが、腐って崩れ落ちていた。犬たちはこの穴に向かって吠えていたようだ。
「ジャックさん!」
再びレオナが呼び掛けると、弱々しいうめき声が聴こえる。穴は結構深い。トリプルJは持参したシーツを裂いてロープを作ると、穴からジャックを引きずり出した。
もとより体力が無さそうな線の細い青年だった。腕を骨折しているようだ。顔色も白を通り越して青い。怪我を負い、飲まず食わずの状態だったのだから無理もない。
「もう大丈夫ですよ」
レオナが差し出したヒーリングポーションを、ジャックはやっとのことで飲み干した。
「僕はもうダメで……あれ痛くない?」
さっそくヒーリングポーションの効果があったようだ。さっきまでの様子とは打って変わり、ジャックは自分の体を伸ばしたり回したりと確認を始める。
「ありがとうございます、これでまた探検を続行することができます!」
レオナと強引に握手をすると、ジャックは颯爽とこの場を去ろうとする。しかし、そうはさせない。トリプルJに首根っこを掴んで引き留められたジャックは、不思議そうな顔をする。
「好きなことを止めろたぁ言わねぇが。依頼を出してくれた相手に感謝して、次は遭難しないようにしてくれよ?」
「は、はあ……」
要領を得ないジャックの様子に、二人は頭痛を覚えるのだった。
ここで最後とシェイスが足を運んだのはサリーナの書斎だった。この部屋だけは鍵が掛かっていて、当時の面影がそのまま残っていた。
書棚には家族の肖像画があった。サリーナらしき女性は夫に寄り添うようにして微笑んでいる。
「……いい領主になろうとしていたんじゃねーか」
彼女が綴った日記を、シェイスはそっと閉じた。
壊れた鉄門の向こうには、鬱蒼とした雑草や延び放題の枝葉が視界を阻んでいた。
かろうじて木々の間から見える屋敷は、百年近い年月が経っているようには見えない。
壊れた鉄門を押し開くと、壊れそうな軋んだ音を立てる。規則正しく並んだ石畳が森の中へと伸びている。
長年の風化と雑草の浸食が進み、門付近より先は半分以上、土塊と化していた。
レオナ(ka6158)は門の前で立ち止まると、並んだ三人のハンターたちに告げる。
「急ぎたいですが闇雲に入っても効率が悪いので、式符で門内を確認させてください」
皆の同意を得ると、レオナは式神を放つ。
「ジャックさんは、この石畳を辿って行ったようです」
ジャックもこの石畳が真っ直ぐに屋敷まで続いていることを知っていたようだ。土に埋もれた部分を払い除けながら進んでいった形跡が残っていた。
「なんだっていいけど、早く探してやんねーと可哀想だぜ」
上空からも、また違った情報が入手できるであろうと、岩井崎 旭(ka0234)はイヌワシのジェロ―を飛ばす。
ファミリアアイズで見た景色は、緑に埋もれた領主屋敷の成れの果てであった。
門から真っ直ぐ伸びる石畳の上は植物の浸食が少ない。石畳が雑草の成長をある程度妨げていたようだ。門と屋敷の中間地点に噴水らしきものがあり、その両脇には樹齢を重ねた落葉樹が一本ずつ伸びていた。
ほどよい幹や枝の太さ、枝の伸ばし具合といい嫌な予感がする。
「うわ……見つけちゃったよ」
予感が当たり、旭は苦い顔になる。
左右両方の木に一体ずつ。幹に寄り添うようにぶら下がった侵入者らしき成人男性を見つける。無論すでに命はない。
「ジャックさんでは、ないはずです」
レオナの占術によれば、生存者はあの屋敷内にいる。それがジャックであると祈るばかりだ。
「占術によると歪虚の存在は……曖昧です」
サリーナが歪虚ではなく幽霊ならば、その理由は大いに気になるところだ。
「ま、なんにせよ面白い事がありそうだぜ」
シェイス(ka5065)は好奇心に満ちた目で、鬱蒼と生い茂る木々の間から垣間見える領主屋敷を眺めた。
式神とファミリアアイズで敷地内を確認した結果、ジャックが残した形跡を辿って行くのが賢明のようだ。つまり、伸びる石畳に沿って歩く。枝葉や蔦を払い除けながら進んだ痕を見つけたが、この程度ではきっと傷だらけになったに違いない。
また、過去の侵入者については複数が見つかった。
樹木の枝で首を括った遺体は三体。まず噴水の両脇にそびえる大樹に二体、絡み合うように伸びた樹木の間に一体。
そしてその先にある右手に広がるバラの密集地帯。そのバラの根元にうずくまる姿勢の白骨が一体。
そこに行きつくまでに眼鏡や靴、といった遺留品がぽつぽつと見つかる。その半分以上は、土に還ろうとする品だ。ジャックのように単純に廃墟に興味があるのではなく、自らの命を絶つためにここを訪れるものも多いのだろう。
この鬱蒼とした森は、視覚だけに頼るのは難しいことも多い。トリプルJ(ka6653)の連れであるダックスフンドたちの、嗅覚からのアプローチも十分頼りになるはずだ。
「頑張ろうぜ相棒。頑張ってジャックの匂いを見つけてくれよ」
ジャックの幼馴染を名乗る女性が貸してくれたのは、彼が愛用していた帽子だった。かなりくたびれた帽子を差し出すと、犬たちはふんふんと丹念に帽子の匂いを嗅ぐ。
犬たちは主人が差し出す帽子の匂いを丹念に嗅ぎ取ると、任せてくれと元気な声を上げるのだった。
常人では苦労するであろう繁みも、旭の怪力無双が大いなる力を発揮した。長い年月を掛けて密集した枝葉や蔓は、カライドアックスを一振りするごとに、見る見る視界が開けていく。旭を先頭に雑草を踏み分けながらハンターたちは森を進む。
二匹の犬たちは時折地面に鼻を擦りつけては慎重に進んでいた。トリプルJも超嗅覚で自らジャックの匂いを辿っていたが、不意に足を止めて空を仰ぐ。
シェイスも時折地図に目を落としながら歩を進めていたが、旭とトリプルJが足を止めたのに気付いた。レオナもまた、式神が見つけた遺留品を丁寧に回収しつつ、足を止めた彼らの様子でことを察する。
ジャックは彼らを見つけたのだろうか……。
ジェロ―の目を通して見つけた、樹木の枝にぶら下がる彼らを見上げながら旭は思う。
遺体を木の上から下ろす。次いで噴水側の樹木で見つけた遺体も下ろし、合わせて三体。
旭は深淵の声で彼らの素性を探る。出身地も年齢のいずれも違う男性だった。失望、絶望、恨みといったさまざまな負の感情が伝わってくる。そしてサリーナに対する感情も。
どうやらサリーナは民衆を苦しめる暴君の他に、運命を翻弄された悲劇の女性という見方もされていたらしい。彼女への同情心、自らの不幸を彼女のものと重ねる複雑かつ不可解な思いを感じる。しかしサリーナの亡霊の真相について知るものはいなかった。
また、バラの根元で回収した遺体は、ジャックと目的を同じくする侵入者であった。
彼女から聴こえる声は、サリーナに対する恐怖と絶望。怪我を負い、それが元で亡くなったらしい。
「サリーナは歪虚ってことか?」
「可能性はありますが、そうとは言い切れません」
旭の質問に、レオナは占術では読み取れなかったと告げる。
しかし、このままではいつ歪虚に飲まれてもおかしくない。人知れず命を絶った人々を、ハンターたちは静かに見下ろした。
●屋敷へ
屋敷は深緑の蔦に覆われつつあった。まだ上部までは届いていないが、円形にせり出た入口部分はすっかり蔦に覆われていり。屋敷最初の扉は半開きの状態で放置され、すでに扉の機能は果たしていない。申し訳程度に立て掛けてあるだけのようだ。目に付く窓のガラスはすべて割られ、窓枠にも蔦が絡まっている。
回収した遺体を入口付近に安置すると、扉なき入口をくぐり、玄関ホールに足を踏み入れた。
中は意外にも明るい。外壁を伝う蔦は内部の壁をも浸食していた。ガラスが割れた窓枠を縁取るように絡みつき、思いがけなくその緑は美しく目に映る。
天井は吹き抜けになっていたようだが、すでに崩れ落ち、穴からは空が見える。
肖像画でも飾っていないかとシェイスはホールを見渡すものの、残念ながら目ぼしいものは見当たらなかった。
さらに進むと中央には大広間へ続く扉がある。鍵は掛かっていない。壊れていた。
大広間の扉から右手には厨房や使用人用の階段へ続く入口、左手には応接室へ続いている。この二つには、元々扉は存在しないようだ。
「内部へ侵入する前に、式で危険個所を確認します」
レオナは屋敷の見取り図を拡げると、再び式神を放ち、屋敷内へと侵入する。
式神の目を通してレオナが屋敷内の様子を淡々と告げる。
大広間に窓はあるが、その広さのせいもあり中心部はほとんど闇に閉ざされている。
案の定、動物が内部に住み着いているようだ。
広間の床は石材で出来ているようで、腐って抜け落ちることはないはずだ。
「大広間の奥に二階へ続く階段を見つけましたが、老朽化がひどいですね」
残念なことに、入口付近にある使用人用の階段も、相当老朽化が進んでいるという。
「……見たところ、大広間にジャックさんもですが、サリーナの亡霊もいないようです」
式神を納めると「入りましょう」とレオナは重たい扉を押し開けた。
●潜入
最初に感じたのは、カビの匂いと据えた匂い。レオナが確認したとおり、わずかながらも窓からの陽射しで真っ暗闇ではないが、行動するには妨げが多い。トリプルJがハンディLEDライトで周囲を照らす。
すると天井の闇が動いた。一瞬その闇が膨れたか思ったが、次の瞬間ばらばらと崩れてハンターたちに襲い掛かる。
「きゃあっ」
「うわ」
「なんなんだ?!」
「これは……コウモリか?!」
掠める羽音とか細くも甲高い鳴き声。大量の黒い飛行の正体はコウモリだった。この屋敷の天井に巣を作っているようだ。恐らくハンディLEDライトの光に驚いたのだろう。
咄嗟に腕や手で防御するが、誰も怪我はない。人の血を吸う習性がないコウモリだったから幸いだった。
コウモリが過ぎ去った後、吹き抜けの天井を改めて仰ぎ見ると、そこには一面に絵が描かれていた。
ハンターたちは、思わず感嘆の声を上げる。ただ残念なことに長い年月と劣悪な環境のため、保存状態はよろしくない。天井から下がった今は埃をかぶったガラス製のシャンデリアは、の天井画をよりいっそう美しく映し出していたに違いない。
「面白いなあ……」
興味を掻き立てられたシェイスは、感心するように天井を仰ぐ。探せば他にも過去の記録やら情報が残っているかもしれないという期待が胸を躍る。
不意に犬たちが吠え始めた。しかしそれはジャックの行方を知らせるためではないようだ。
「どうした?」
トリプルJは膝を折ると、犬たちの視線に合わせてその方向を凝視する。
大広間から上階へと伸びる階段の、二階部分の踊り場に向かって威嚇するように吠え続ける。そこは大広間を見渡せる小さな舞台のようになっていた。
踊り場に、誰かがいる。だがいつから? ハンターたちの間に緊張が走る。
「私の眠りを妨げるのは、誰……?」
思いがけず低い声だった。黒いドレス、顔を覆う黒いショール。まるで喪に服すかのような姿をした女性が姿を現した。
「私はサリーナ。サリーナ・エンガーデ」
●領主サリーナ
一瞬身構えるが、ハンターたちは気付く。彼女は……歪虚ではない。血の通う人間に間違いはないはずだ。しかし彼女からは狂気じみた何かを感じ取れる。
「そう、お前たちも私の財宝を、そう、そうですか……」
芝居がかった調子で語る声は、低く皺がれた老婆のものだった。
「わかりました。そう、領主たるもの、領地も領民も私の大切な財産。慈悲深い私が施しを致しましょう」
彼女は何者だろう。本気で自分をサリーナだと思っているのだろうか? そもそも財宝なんて話は聞いていない。疑問を抱えつつ、ハンターたちは彼女の芝居に付き合うことにする。
「さあ。寄りなさい……こちらへ」
大広間の中央へとハンターたちを導こうとする。中央部分の床にはコウモリたちの糞と埃が積もっている。しかも頭上には巨大なシャンデリア。気が進まないが、警戒しつつ指示に従うことにする。
念のため、シェイスは隠の徒と壁歩きを駆使して、彼女に気付かれぬよう二階へ移動することにする。怪しい動きをしないか彼女を見張るためだ。万が一拘束するにしても、歪虚でないのなら問題はないだろう。
示す場所へハンターたちが辿り着いた途端、彼女は突然鋭い悲鳴を上げる。その悲鳴に驚くハンターたちの頭上に、何かが迫ってくる気配がした。
「このババァ、何をしやがった!」
シェイスの怒声が響く。
「きゃああっ!」
同時にレオナが悲鳴を上げる。それは天井から吊り下げた巨大なシャンデリア。眼前まで迫ってくるのは、あっという間だった。
しかし、旭は自らの剛腕で、トリプルJは幻影の腕でシャンデリアをどうにか受け止める。間一髪で直撃を免れ、一同安堵の息を吐いた。
「可哀想に……私の領民たち! その死はけっして無駄にしませんわ……」
サリーナの嗤い声が聞こえる。彼らがシャンデリアの下敷きになったと、自分の罠に掛かったと思ったのだろう。
シェイスに拘束されながらも、彼女は領民の死を悼むと言いながら嗤い続けていた。
●探索
ジャック探索にはトリプルJとレオナが。シェイスは二階の調査に。サリーナを名乗る老婆の見張りは旭が務めることになった。
どうやらサリーナを語る老婆は、ずいぶん前からこの屋敷に住み着いていたらしい。そしてジャックのような侵入者を、自分を廃そうとする敵とみなして殺めていたという。遺体は敷地の至る所に埋められ、植物育成に貢献していたというわけだ。
色んな要素がありすぎて、何がそもそもの原因でこのような状況になったのか不明のままだ。
負のマテリアルで満ちたこの屋敷に近づいてはいけないという警告が、サリーナの亡霊という形で言い伝えられたのだろう。
怪しい場所ばかりで、一体どこを祓えばいいのやら。旭は重たい息を吐いた。
犬たちが示すのは玄関ホールから右手の入口。使用人用の階段と厨房といった作業場へ続く入口だった。
こちらは大広間と違って空気の行き来がないせいもあり、老朽化が激しい。階段は足場が腐って抜けている箇所、上階から落ちてきた落下物で辺りは散乱していた。
「ジャックさーん」
慎重に犬たちの後を追いながら、レオナは小さな声で呼び掛ける。もし聴こえていれば、きっとジャックは応えてくれるはずだ。
先に厨房へ向かった犬たちの声が聴こえる。レオナとトリプルJも後を追って厨房へと足を踏み入れた。
割れた食器や錆びた調理器具が散乱する中を越え、たどり着いたのは収納庫らしき棚が並んだ一角だった。壁際の床に木製の蓋があったが、腐って崩れ落ちていた。犬たちはこの穴に向かって吠えていたようだ。
「ジャックさん!」
再びレオナが呼び掛けると、弱々しいうめき声が聴こえる。穴は結構深い。トリプルJは持参したシーツを裂いてロープを作ると、穴からジャックを引きずり出した。
もとより体力が無さそうな線の細い青年だった。腕を骨折しているようだ。顔色も白を通り越して青い。怪我を負い、飲まず食わずの状態だったのだから無理もない。
「もう大丈夫ですよ」
レオナが差し出したヒーリングポーションを、ジャックはやっとのことで飲み干した。
「僕はもうダメで……あれ痛くない?」
さっそくヒーリングポーションの効果があったようだ。さっきまでの様子とは打って変わり、ジャックは自分の体を伸ばしたり回したりと確認を始める。
「ありがとうございます、これでまた探検を続行することができます!」
レオナと強引に握手をすると、ジャックは颯爽とこの場を去ろうとする。しかし、そうはさせない。トリプルJに首根っこを掴んで引き留められたジャックは、不思議そうな顔をする。
「好きなことを止めろたぁ言わねぇが。依頼を出してくれた相手に感謝して、次は遭難しないようにしてくれよ?」
「は、はあ……」
要領を得ないジャックの様子に、二人は頭痛を覚えるのだった。
ここで最後とシェイスが足を運んだのはサリーナの書斎だった。この部屋だけは鍵が掛かっていて、当時の面影がそのまま残っていた。
書棚には家族の肖像画があった。サリーナらしき女性は夫に寄り添うようにして微笑んでいる。
「……いい領主になろうとしていたんじゃねーか」
彼女が綴った日記を、シェイスはそっと閉じた。
依頼結果
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MVP一覧
- 戦地を駆ける鳥人間
岩井崎 旭(ka0234)
重体一覧
参加者一覧
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/04 01:37:32 |
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【相談卓】 レオナ(ka6158) エルフ|20才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/11/05 23:34:28 |