ゲスト
(ka0000)
【郷祭】はじめのサファイア
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/11 12:00
- 完成日
- 2017/11/16 20:25
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「ここ……どこ?」
「ここはジェオルジと言ってだなあ、まあなんて言えば良いのか……」
村長祭が始まり賑やかな雰囲気に包まれているジェオルジにて、二人の女性が連れ立って歩いていた。二人の身長差はかなりある。一人の方がことさら小柄なのではなく、もう一人の方が相当な長身だったのだ。
長身の方がイバラキ(kz0159)でもう一人がサファイア。二人はハンターであるが、今日は折角のオフということで二人して村長祭に遊びに来ていた。イバラキもあまり同盟地区やジェオルジに詳しいわけではないのだが、オートマトンであるサファイアは目覚めて日が浅く遥かに世間知らずであった。そこでイバラキの方が色々と紹介する。サファイアは余り感情が豊か……というか感情表現が分かりやすい方ではないが、それでも様々なものに興味を示していた。
●
「……あれも村長祭?」
「いやそんなわけが……って誰か行き倒れてんじゃねぇか!」
サファイアの指差した先に目をやったイバラキはあわててそこに近づく。そこで倒れていた男はイバラキの見知った顔だった。
「ってオッサン、何やってんだよ?!」
「おお……イバラキか……世界を獲れるヤツを探してたんだがよ……」
ハゲ頭に、片眼に眼帯を付けた小柄なこの中年男はリアルブルーに居たときはボクシングのトレーナーをしていた。イバラキはそんな彼にスカウトされる形でボクシングの試合に挑んだことがあった。
「……ってなことがあってな」
「拳闘って何?」
「ああ、嬢ちゃん……興味を示すのは嬉しいが、悪いことは言わねぇからやめときな……拳闘は男の世界……リングは女子供の上がっていい場所じゃねぇ……」
「……アタシはどうなるんだよ」
「……おめぇ、女だったのか」
次の瞬間、イバラキの怒りのパンチが炸裂していた。
●
そして数日後。
「……うん、分かった。闘うの、楽しみ」
ジェオルジの広場には突如リングが出現していた。そこに立つのはサファイア。タンクトップとトランクスを身に纏い両拳にはグローブ。可愛らしいながらも凛々しいボクサーがそこに居た。
「しかしよ、イバラキ……こんな才能に出会えるとは思わなかったぜ……コイツは俺の希望だ……」
「まあな、元々居た世界でも似たようなことやってたらしいしな。ま、アタシのことも忘れんなよ?」
そしてゴングが鳴った。かくして村長祭で突如としてボクシング大会が開かれることになったのである。
「ここ……どこ?」
「ここはジェオルジと言ってだなあ、まあなんて言えば良いのか……」
村長祭が始まり賑やかな雰囲気に包まれているジェオルジにて、二人の女性が連れ立って歩いていた。二人の身長差はかなりある。一人の方がことさら小柄なのではなく、もう一人の方が相当な長身だったのだ。
長身の方がイバラキ(kz0159)でもう一人がサファイア。二人はハンターであるが、今日は折角のオフということで二人して村長祭に遊びに来ていた。イバラキもあまり同盟地区やジェオルジに詳しいわけではないのだが、オートマトンであるサファイアは目覚めて日が浅く遥かに世間知らずであった。そこでイバラキの方が色々と紹介する。サファイアは余り感情が豊か……というか感情表現が分かりやすい方ではないが、それでも様々なものに興味を示していた。
●
「……あれも村長祭?」
「いやそんなわけが……って誰か行き倒れてんじゃねぇか!」
サファイアの指差した先に目をやったイバラキはあわててそこに近づく。そこで倒れていた男はイバラキの見知った顔だった。
「ってオッサン、何やってんだよ?!」
「おお……イバラキか……世界を獲れるヤツを探してたんだがよ……」
ハゲ頭に、片眼に眼帯を付けた小柄なこの中年男はリアルブルーに居たときはボクシングのトレーナーをしていた。イバラキはそんな彼にスカウトされる形でボクシングの試合に挑んだことがあった。
「……ってなことがあってな」
「拳闘って何?」
「ああ、嬢ちゃん……興味を示すのは嬉しいが、悪いことは言わねぇからやめときな……拳闘は男の世界……リングは女子供の上がっていい場所じゃねぇ……」
「……アタシはどうなるんだよ」
「……おめぇ、女だったのか」
次の瞬間、イバラキの怒りのパンチが炸裂していた。
●
そして数日後。
「……うん、分かった。闘うの、楽しみ」
ジェオルジの広場には突如リングが出現していた。そこに立つのはサファイア。タンクトップとトランクスを身に纏い両拳にはグローブ。可愛らしいながらも凛々しいボクサーがそこに居た。
「しかしよ、イバラキ……こんな才能に出会えるとは思わなかったぜ……コイツは俺の希望だ……」
「まあな、元々居た世界でも似たようなことやってたらしいしな。ま、アタシのことも忘れんなよ?」
そしてゴングが鳴った。かくして村長祭で突如としてボクシング大会が開かれることになったのである。
リプレイ本文
●
「郷祭って音楽とか食い物だけじゃなかったのか……」
内容は聞いていたものの、実際にリングを目の当たりにしてテオバルト・グリム(ka1824)は驚いていた。だが驚いたのは一瞬だけ。
「うむ、これはこれで楽しそうだな!」
と納得すると選手控え室へと急ぐ。
「へー、サファイアっていうのか。よろしくね」
「うん、今日は闘わないけど、よろしく」
「あんたも頑張ってね」
ドアを開けた彼が見たのは、準備を済ませた天竜寺 舞(ka0377)がバンテージの巻かれた拳を他の参加者に合わせる姿だった。そしてその相手は彼が見知った顔だった。
「こんにちは、イバラキさん、サファイア」
「お、テオか! 待ってたぜ」
「よろしく」
「特にサファイアは起きれるようになって何よりだぜ。というか凄く元気だな!」
「拳闘はとても楽しい。楽しみで仕方ない」
「元気なのは良い事だ。今日はどうぞよろしくな!」
とここでイバラキが一言。
「それはいいんだが……最初の試合はアンタが出場することになってるぜ?」
●
準備を終えたテオがリングに上がると、対戦相手の狭霧 雷(ka5296)が待ち構えていた。そして程なく試合開始を告げるゴングが鳴った。
と同時に狭霧はグローブを顔を隠すように上げ、脇を締めて構える。
「最近、いろいろと思うところがありまして……少々『生き汚く』なってみようかと」
その体を文字通りの「盾」と化す。だからと言って専守防衛というわけでも無い。間合いに入るや否や連打を浴びせる。
一方のテオはと言うと、連打を喰らわないようかなり間合いを離してサークリングしていた……というか逃げ回っていた。連打の打ち終わりに近づいてカウンターを差し込むとまた間合いを離す。
「わーぉ。めっちゃ怖ぇ!」
そう感想を漏らすのも無理はなかった。実際の所狭霧のパンチは手数とスピードを重視した分一発の破壊力は落ちているのだが、前足を少し浮かし蹴りもいつでも放てるぞ、と言わんばかりの構えで迫る姿こそが問題だった。警戒する要素が多く非常に高い集中を要求される。1ラウンドはわずか3分だが、その3分がとてつもなく長い時間の様に思える。
「ボックス!」
ラウンドが進み、レフェリーが打ち合うよう促す。それを受けてテオは前後に動き回りながらカウンターを入れるペースを上げていく。これで少しはダメージを蓄積させられただろう。証拠に狭霧のパンチスピードは落ち始めていた。だが。
もう一度近づいた瞬間、二の腕ごと抱き付く狭霧。
「長く戦場に立ち続けることこそ、私の役割と思っておりますので」
レフェリーがブレイクを告げるが、離れた狭霧はすっかり体力を回復していた。これではまたやり直しである。
クリンチも駆使し立ち回る狭霧、攻めあぐねるテオ。いいカウンターが入ったと思ってもすぐにクリンチに逃げられる。
「格上相手に行使することが多いですから。当面の課題は『如何に生き残るか。』なんですよね」
テオの頭に浮かんだ疑問が解決するのはブレイクした直後だった。狭霧が離れたはずなのに体が動かない。
不可視の手で抱えられ、足止めされたテオだったが、レフェリーがそれに気づくことは無かった。なぜならその前に狭霧の鋭い右ストレートが入っていたからである。
(何だこの威力?)
細身の体からは想像できない衝撃に面食らう彼はカウントが数えられることに気づいて慌てて立ち上がった。ダウンしたことも気付かない程の鋭さだった。
反撃に移りたかったテオだったが、その前に試合終了のゴングが鳴っていた。判定はダウンの分が利いて狭霧の勝利であった。
「もうちょっとやりたかったんだけどな」
「テオさんも中々の腕です」
握手をかわす二人だったが
「次は鈴の試合か、応援しなきゃな!」
テオは慌ててリングを降りるのだった。
●
次の試合、サファイアの対角線上に現れたのは特攻服を羽織った大伴 鈴太郎(ka6016)だった。
「くまごろー! 何があってもゼッテータオルは投げンじゃねぇぞ!」
彼女はリングインと同時に脱ぎ捨てるとそれだけ言い残し、サファイアと向かい合う。
「地球に帰れるなんて噂もあっからな。再戦の約束……果たしとかねぇと」
それと、と付け加えて。
「──やっぱ負けっぱは性に合わねぇからよ!」
その言葉にサファイアは微かに笑顔を見せる。
そして試合が始まる。
「来いよサファイア! コレが腕一本犠牲に救ったオンナだ! 大伴 鈴だ! って胸張れるケンカ見せたンぜ!!」
と同時に鈴太郎は強く踏み込み、右ストレートを放つ。
次の瞬間激しい音。観客が見たのは二人の右拳が交錯し互いの顔面に突き刺さっている姿だった。
いきなりの相打ち。ならばと鈴太郎はベタ足で構え前へ出ながら拳を振り回す。そのスタイルはまさに喧嘩ファイト。
しかし喧嘩を超える技術がサファイアには備わっていた。前に出た所に左ジャブが入る。威力はさほどでも無いが、まるで速射砲の様に連続して正確に放たれるそれに阻まれあと一歩が踏み込めない。あっという間にゴングが鳴る。
インターバル、コーナーに座った鈴太郎の顔をくまごろーが拭いてくれたが、そのタオルは赤く染まっていた。開始直後の右により止めどなく鼻血が溢れていた。
再開しても展開は同じ。前に出る鈴太郎。ジャブで止めるサファイア。特に正面向きに近い形で構える彼女はジャブをかわせず浴び続けていた。それでも前に出て大きく右を振り回す。ジャブの外からロングフックでの奇襲。
だが次の瞬間目の前で爆発したような衝撃。
ジャブを浴び続けた右瞼が腫れ上がり、結果生まれた死角から飛んで来た左フック。よろめく鈴太郎。試合は終わったかと思われた。しかし
「全部見せずに終われっかよ……」
彼女はサファイアに抱きつき、ダウンを回避し時間を稼ぐ。レフェリーのブレイクの声が掛かった所でゴングが鳴った。
わずかなインターバルが終わり試合が再開される。覚束ない足取りでなおも前に出る鈴太郎。サファイアが襲い来る。そして放たれる必殺の拳。
その時鈴太郎の姿が消え、次の瞬間左下から突き上げられた拳がサファイアの顎を跳ね上げていた。
サファイアの必殺の一撃を何度となく受け、体で覚えた拳。その名も蒼玉の拳。
しかも一発だけでは無かった。右下からもう一発が交差するように放たれていた。
二発目を打ち終わった鈴太郎をレフェリーが押し離す。彼女の視線の先でサファイアが横に倒れていた。
カウントが進む。しかし願いも虚しくカウント8で彼女は立ち上がった。
鈴太郎は覚悟を決めた。スタンスを広げ重心を下げ、足を止めて殴り合う。
強打を何十発と浴びながら彼女は最後の力を振り絞り、サファイアの顔に蒼玉の拳を叩き込んだ。
だがそのパンチは空を切っていた。バランスを崩した鈴太郎に左フックが食い込む。
「ダウン!」
カウントが進む。
「好き放題ボコりやがって……気合いと根性なら負けねンだよ!!」
立ち上がろうとした鈴太郎だったがそこが限界だった。意識が消え、彼女は再びリングに沈んでいった。
●
激闘の余韻が残る中、次の選手がロープをひらりと飛び越えリングインしてきた。
「ついにリベンジの時が来た! 今度は負けないからね」
それは舞だった。
「あの時はゴメンな……でもリングの上での勝負は別の話だぜ」
「もちろん!」
レフェリーが二人を分け、そして運命のゴングが鳴る。
と同時に唸りを上げて迫り来るイバラキのパンチ。舞はそれをかわしボディへパンチ。
「へへ、効かないぜ」
だがイバラキの筋肉の鎧はその威力を殺し、代わりに反撃のパンチを返していた。
それをとっさにステップを刻みかわす舞、かわしてボディ、イバラキが反撃、それをさらにかわす。試合展開は舞の方が優勢に見えたが、彼女自身はどう動くか悩んでいた。
今は貰ってないだけでパンチが直撃すればテンカウントを聞く事になるだろう。それは彼女自身が良く知っていた。パワーでは逆立ちしても勝てない。
だからと言ってこうやってボディを叩き続けてもダメージを与えられない。そうしているうちにいつか大きいのを貰う事になる。
勝つためには顔を狙うしかない。しかし二人の身長は頭一つ違う。普通にパンチを打ってもボディに行ってしまう。
第2ラウンドが始まってもイバラキのパンチは衰えることなく、むしろ聞こえる風を切る音はさらに大きくなっていた。それは彼女が舞のスピードを捉え始めた事を意味していた。
その時、舞の頭の中で小さい頃読んだマンガの場面が思い浮かんだ。
(やってみるか)
そして動いた。イバラキの打ち終わりに一気に踏み込み、わき腹目掛け左のボディフック。反撃が飛んでくるがそれをかわしてさらに左、もう一発左。
「効かないって言ってるだろ!」
そこにイバラキは振り下ろしの右を合わせてきた。
舞はそれを体を捻ってかわす。そこに追撃を出そうとした瞬間だった。
鞭の様にしなる舞の右拳が彼女の視界の外から顔にめり込む。
膝から崩れるイバラキの巨体。舞はこのとき勝利を確信したのだろうか、だが。
「……ナメんなぁっ!」
膝の力でそこから体を起こし、全身で放った右アッパーが舞の体を宙に躍らせていた。
スリー、フォー、大の字で倒れた舞はレフェリーのカウントを聞きながら満足していた。全力のパンチを放った。真っ白に燃え尽きた。悔いは無い。
「立てよ! まだできんだろ!」
しかしそこにイバラキの叫びが聞こえてきた。その声に力の入る感覚を覚える。もう少しなら戦える。
カウント9で立ち上がった舞に試合の再開が告げられた。
「……28対28、以上によりこの試合は引き分けとなります」
フルラウンド戦った二人に結果が告げられる。レフェリーが二人の手を上げる。だが、二人にはもう一つやるべきことがあった。
「いい勝負が出来て嬉しいぜ」
「今度は絶対勝つんだからね!」
互いの健闘を称え抱き合う二人を観客の拍手が包んでいた。
●
「いいねぇ、単なる殴り合い! お互い存分に楽しむとしようぜェ!」
「純粋な技量が試される戦いって中々ないからね。自分がどこまでやれるか確かめるには良い機会よ」
最後の試合に出場する選手がリングに上る。赤コーナーにボルディア・コンフラムス(ka0796)、青コーナーにアイビス・グラス(ka2477)。前の試合と同じ様にパワーとスピードの戦いという構図。だが試合が始まれば同じ展開にはならない。
(確かアイビスは素手格闘のプロフェッショナルだったな)
そう、ボルディアの思う通りアイビスは格闘技経験者である。リングの上を回るステップ一つ取っても技術を感じさせる。
(多分、つーかぜってーに、普通に殴り合ったんじゃ逆立ちしたって勝てねえだろう)
差し合いではスピードと正確性に優れたアイビスのパンチが何度もボルディアの顔を抉っていた。それならどうやってこっちの土俵に持ち込むか。彼女は顔を弾かれつつ、体を振りながらボディへ左右のフックを連打していった。
しかしアイビスは決して尻尾を掴ませない。反撃が来るや否や飛び退き間合いを外す。
(これで焦ってくれればいいんだけど……)
激しいパンチの応酬とは裏腹に、二人は冷静に攻め手を探っていた。
戦いは次のラウンドに入る。もう一度ボディへのフックを連打するボルディア、それをアウトレンジでかわすアイビス。
状況は停滞しているように見えた。再びボディフックを放っても後ろに退いてかわす。だが。
「えっ?」
アイビスの背中にロープが当たる。ボルディアが一つ上回る点、それは競技こそ違えどリングに立った経験がある事。そのサイズは体で知っていた。コーナーに追い詰めた所で容赦なくボディへ連打を浴びせる。一発、二発、回転が速くなる。最後の一発が鳩尾に入ったところで、相手はうめき声と共に崩れ落ちた。
苦悶の表情を浮かべるアイビス。だがカウントをきっちり9まで聞き呼吸を整えてから立ち上がる。
「ボックス!」
レフェリーの声と共にボルディアが迫り、コーナーに追い詰めた所に再びフックを浴びせる。
これをアイビスは見切ってパンチを返すが、ボルディアはスウェイバックでかわすと大砲のようなストレートを叩き込んだ。
間一髪のところでガードするが、その上から衝撃が来る。
「お前程じゃねぇが、俺もそこそこは動けンだろ?」
「そうね……」
そしてアイビスは動きを止めた。いぶかしんだボルディアだが、とどめとばかりに逃げ場の無い彼女にロングフックを放つ。その瞬間だった。
アイビスは思い切り前に踏み込み、フックが彼女の背後を通り抜けた瞬間顎先にアッパーカットをねじ込んだ。
強烈なカウンターが炸裂し、ボルディアは踏ん張ろうとするがこらえきれず尻餅をつく。
(喰らっちまったか……でも)
だが彼女はここを狙っていた。カウント8で立ち上がると同時にキャンバスを思い切り叩く。その衝撃にこの広場全体が揺れる。
そして立ち上がるや否や間合いを詰め全力のストレートを放った。ダウンを奪い油断したであろう時に動きを止めた。これは直撃するはずだ。
しかしその時彼女が獣の目で見たのは、宙に浮かぶアイビスの姿だった。
アイビスは油断などしていなかった。試合終了のその時まで彼女は備えていた。
そしてパンチを打ち終えたボルディアの、がら空きの顔目掛けジャンプの勢いを載せたストレートを突き刺した。手の打ちようが無かった。
ボルディアの口からマウスピースが飛び出す。それがキャンバスで跳ねるのと同時に彼女は仰向けに倒れていた。脳が揺れれば耐久力も関係ない。完全に失神したその姿を見てレフェリーはすぐさま試合を止めた。
アイビスは構えを解いたのは、乱打されるゴングと観客の歓声が聞こえてからだった。
●
「気がついたか」
鈴太郎が次に見たのは控室でイバラキが覗き込む姿だった。
「お疲れ様、いい試合だったぜ」
テオも激闘を讃えてくれる。
その言葉に顔を触る鈴太郎。腫れ上がっていたはずの顔は綺麗に戻っていた。
「一族の秘薬だ。痛みは無いだろ?」
イバラキの言う通りだったが心は違った。強いことは分かっていたが、それでもなお又負けたことは悔しい。唇を噛みしめる彼女にもう一人、客が来ていた。
「サファイア……」
彼女は鈴太郎の両拳を握る。
「良いパンチだった。完璧に貰ったら勝てなかった」
「でも完璧じゃ無かったよ……」
「力が入り過ぎてる。当たる瞬間まで抜いたほうが良い」
早速そのアドバイスを試す鈴太郎。ジェット機の噴射の様な轟音が響く。明らかに違う。
「少し練習すれば身につく」
その時鈴太郎は何かを掴んだ気がした。
「あと……こうすると良いって知った」
そしてそう思う彼女をサファイアが抱きしめ、耳元で一つ願いを囁いた。
「戦ってくれてありがとう。友達になって、リン」
「郷祭って音楽とか食い物だけじゃなかったのか……」
内容は聞いていたものの、実際にリングを目の当たりにしてテオバルト・グリム(ka1824)は驚いていた。だが驚いたのは一瞬だけ。
「うむ、これはこれで楽しそうだな!」
と納得すると選手控え室へと急ぐ。
「へー、サファイアっていうのか。よろしくね」
「うん、今日は闘わないけど、よろしく」
「あんたも頑張ってね」
ドアを開けた彼が見たのは、準備を済ませた天竜寺 舞(ka0377)がバンテージの巻かれた拳を他の参加者に合わせる姿だった。そしてその相手は彼が見知った顔だった。
「こんにちは、イバラキさん、サファイア」
「お、テオか! 待ってたぜ」
「よろしく」
「特にサファイアは起きれるようになって何よりだぜ。というか凄く元気だな!」
「拳闘はとても楽しい。楽しみで仕方ない」
「元気なのは良い事だ。今日はどうぞよろしくな!」
とここでイバラキが一言。
「それはいいんだが……最初の試合はアンタが出場することになってるぜ?」
●
準備を終えたテオがリングに上がると、対戦相手の狭霧 雷(ka5296)が待ち構えていた。そして程なく試合開始を告げるゴングが鳴った。
と同時に狭霧はグローブを顔を隠すように上げ、脇を締めて構える。
「最近、いろいろと思うところがありまして……少々『生き汚く』なってみようかと」
その体を文字通りの「盾」と化す。だからと言って専守防衛というわけでも無い。間合いに入るや否や連打を浴びせる。
一方のテオはと言うと、連打を喰らわないようかなり間合いを離してサークリングしていた……というか逃げ回っていた。連打の打ち終わりに近づいてカウンターを差し込むとまた間合いを離す。
「わーぉ。めっちゃ怖ぇ!」
そう感想を漏らすのも無理はなかった。実際の所狭霧のパンチは手数とスピードを重視した分一発の破壊力は落ちているのだが、前足を少し浮かし蹴りもいつでも放てるぞ、と言わんばかりの構えで迫る姿こそが問題だった。警戒する要素が多く非常に高い集中を要求される。1ラウンドはわずか3分だが、その3分がとてつもなく長い時間の様に思える。
「ボックス!」
ラウンドが進み、レフェリーが打ち合うよう促す。それを受けてテオは前後に動き回りながらカウンターを入れるペースを上げていく。これで少しはダメージを蓄積させられただろう。証拠に狭霧のパンチスピードは落ち始めていた。だが。
もう一度近づいた瞬間、二の腕ごと抱き付く狭霧。
「長く戦場に立ち続けることこそ、私の役割と思っておりますので」
レフェリーがブレイクを告げるが、離れた狭霧はすっかり体力を回復していた。これではまたやり直しである。
クリンチも駆使し立ち回る狭霧、攻めあぐねるテオ。いいカウンターが入ったと思ってもすぐにクリンチに逃げられる。
「格上相手に行使することが多いですから。当面の課題は『如何に生き残るか。』なんですよね」
テオの頭に浮かんだ疑問が解決するのはブレイクした直後だった。狭霧が離れたはずなのに体が動かない。
不可視の手で抱えられ、足止めされたテオだったが、レフェリーがそれに気づくことは無かった。なぜならその前に狭霧の鋭い右ストレートが入っていたからである。
(何だこの威力?)
細身の体からは想像できない衝撃に面食らう彼はカウントが数えられることに気づいて慌てて立ち上がった。ダウンしたことも気付かない程の鋭さだった。
反撃に移りたかったテオだったが、その前に試合終了のゴングが鳴っていた。判定はダウンの分が利いて狭霧の勝利であった。
「もうちょっとやりたかったんだけどな」
「テオさんも中々の腕です」
握手をかわす二人だったが
「次は鈴の試合か、応援しなきゃな!」
テオは慌ててリングを降りるのだった。
●
次の試合、サファイアの対角線上に現れたのは特攻服を羽織った大伴 鈴太郎(ka6016)だった。
「くまごろー! 何があってもゼッテータオルは投げンじゃねぇぞ!」
彼女はリングインと同時に脱ぎ捨てるとそれだけ言い残し、サファイアと向かい合う。
「地球に帰れるなんて噂もあっからな。再戦の約束……果たしとかねぇと」
それと、と付け加えて。
「──やっぱ負けっぱは性に合わねぇからよ!」
その言葉にサファイアは微かに笑顔を見せる。
そして試合が始まる。
「来いよサファイア! コレが腕一本犠牲に救ったオンナだ! 大伴 鈴だ! って胸張れるケンカ見せたンぜ!!」
と同時に鈴太郎は強く踏み込み、右ストレートを放つ。
次の瞬間激しい音。観客が見たのは二人の右拳が交錯し互いの顔面に突き刺さっている姿だった。
いきなりの相打ち。ならばと鈴太郎はベタ足で構え前へ出ながら拳を振り回す。そのスタイルはまさに喧嘩ファイト。
しかし喧嘩を超える技術がサファイアには備わっていた。前に出た所に左ジャブが入る。威力はさほどでも無いが、まるで速射砲の様に連続して正確に放たれるそれに阻まれあと一歩が踏み込めない。あっという間にゴングが鳴る。
インターバル、コーナーに座った鈴太郎の顔をくまごろーが拭いてくれたが、そのタオルは赤く染まっていた。開始直後の右により止めどなく鼻血が溢れていた。
再開しても展開は同じ。前に出る鈴太郎。ジャブで止めるサファイア。特に正面向きに近い形で構える彼女はジャブをかわせず浴び続けていた。それでも前に出て大きく右を振り回す。ジャブの外からロングフックでの奇襲。
だが次の瞬間目の前で爆発したような衝撃。
ジャブを浴び続けた右瞼が腫れ上がり、結果生まれた死角から飛んで来た左フック。よろめく鈴太郎。試合は終わったかと思われた。しかし
「全部見せずに終われっかよ……」
彼女はサファイアに抱きつき、ダウンを回避し時間を稼ぐ。レフェリーのブレイクの声が掛かった所でゴングが鳴った。
わずかなインターバルが終わり試合が再開される。覚束ない足取りでなおも前に出る鈴太郎。サファイアが襲い来る。そして放たれる必殺の拳。
その時鈴太郎の姿が消え、次の瞬間左下から突き上げられた拳がサファイアの顎を跳ね上げていた。
サファイアの必殺の一撃を何度となく受け、体で覚えた拳。その名も蒼玉の拳。
しかも一発だけでは無かった。右下からもう一発が交差するように放たれていた。
二発目を打ち終わった鈴太郎をレフェリーが押し離す。彼女の視線の先でサファイアが横に倒れていた。
カウントが進む。しかし願いも虚しくカウント8で彼女は立ち上がった。
鈴太郎は覚悟を決めた。スタンスを広げ重心を下げ、足を止めて殴り合う。
強打を何十発と浴びながら彼女は最後の力を振り絞り、サファイアの顔に蒼玉の拳を叩き込んだ。
だがそのパンチは空を切っていた。バランスを崩した鈴太郎に左フックが食い込む。
「ダウン!」
カウントが進む。
「好き放題ボコりやがって……気合いと根性なら負けねンだよ!!」
立ち上がろうとした鈴太郎だったがそこが限界だった。意識が消え、彼女は再びリングに沈んでいった。
●
激闘の余韻が残る中、次の選手がロープをひらりと飛び越えリングインしてきた。
「ついにリベンジの時が来た! 今度は負けないからね」
それは舞だった。
「あの時はゴメンな……でもリングの上での勝負は別の話だぜ」
「もちろん!」
レフェリーが二人を分け、そして運命のゴングが鳴る。
と同時に唸りを上げて迫り来るイバラキのパンチ。舞はそれをかわしボディへパンチ。
「へへ、効かないぜ」
だがイバラキの筋肉の鎧はその威力を殺し、代わりに反撃のパンチを返していた。
それをとっさにステップを刻みかわす舞、かわしてボディ、イバラキが反撃、それをさらにかわす。試合展開は舞の方が優勢に見えたが、彼女自身はどう動くか悩んでいた。
今は貰ってないだけでパンチが直撃すればテンカウントを聞く事になるだろう。それは彼女自身が良く知っていた。パワーでは逆立ちしても勝てない。
だからと言ってこうやってボディを叩き続けてもダメージを与えられない。そうしているうちにいつか大きいのを貰う事になる。
勝つためには顔を狙うしかない。しかし二人の身長は頭一つ違う。普通にパンチを打ってもボディに行ってしまう。
第2ラウンドが始まってもイバラキのパンチは衰えることなく、むしろ聞こえる風を切る音はさらに大きくなっていた。それは彼女が舞のスピードを捉え始めた事を意味していた。
その時、舞の頭の中で小さい頃読んだマンガの場面が思い浮かんだ。
(やってみるか)
そして動いた。イバラキの打ち終わりに一気に踏み込み、わき腹目掛け左のボディフック。反撃が飛んでくるがそれをかわしてさらに左、もう一発左。
「効かないって言ってるだろ!」
そこにイバラキは振り下ろしの右を合わせてきた。
舞はそれを体を捻ってかわす。そこに追撃を出そうとした瞬間だった。
鞭の様にしなる舞の右拳が彼女の視界の外から顔にめり込む。
膝から崩れるイバラキの巨体。舞はこのとき勝利を確信したのだろうか、だが。
「……ナメんなぁっ!」
膝の力でそこから体を起こし、全身で放った右アッパーが舞の体を宙に躍らせていた。
スリー、フォー、大の字で倒れた舞はレフェリーのカウントを聞きながら満足していた。全力のパンチを放った。真っ白に燃え尽きた。悔いは無い。
「立てよ! まだできんだろ!」
しかしそこにイバラキの叫びが聞こえてきた。その声に力の入る感覚を覚える。もう少しなら戦える。
カウント9で立ち上がった舞に試合の再開が告げられた。
「……28対28、以上によりこの試合は引き分けとなります」
フルラウンド戦った二人に結果が告げられる。レフェリーが二人の手を上げる。だが、二人にはもう一つやるべきことがあった。
「いい勝負が出来て嬉しいぜ」
「今度は絶対勝つんだからね!」
互いの健闘を称え抱き合う二人を観客の拍手が包んでいた。
●
「いいねぇ、単なる殴り合い! お互い存分に楽しむとしようぜェ!」
「純粋な技量が試される戦いって中々ないからね。自分がどこまでやれるか確かめるには良い機会よ」
最後の試合に出場する選手がリングに上る。赤コーナーにボルディア・コンフラムス(ka0796)、青コーナーにアイビス・グラス(ka2477)。前の試合と同じ様にパワーとスピードの戦いという構図。だが試合が始まれば同じ展開にはならない。
(確かアイビスは素手格闘のプロフェッショナルだったな)
そう、ボルディアの思う通りアイビスは格闘技経験者である。リングの上を回るステップ一つ取っても技術を感じさせる。
(多分、つーかぜってーに、普通に殴り合ったんじゃ逆立ちしたって勝てねえだろう)
差し合いではスピードと正確性に優れたアイビスのパンチが何度もボルディアの顔を抉っていた。それならどうやってこっちの土俵に持ち込むか。彼女は顔を弾かれつつ、体を振りながらボディへ左右のフックを連打していった。
しかしアイビスは決して尻尾を掴ませない。反撃が来るや否や飛び退き間合いを外す。
(これで焦ってくれればいいんだけど……)
激しいパンチの応酬とは裏腹に、二人は冷静に攻め手を探っていた。
戦いは次のラウンドに入る。もう一度ボディへのフックを連打するボルディア、それをアウトレンジでかわすアイビス。
状況は停滞しているように見えた。再びボディフックを放っても後ろに退いてかわす。だが。
「えっ?」
アイビスの背中にロープが当たる。ボルディアが一つ上回る点、それは競技こそ違えどリングに立った経験がある事。そのサイズは体で知っていた。コーナーに追い詰めた所で容赦なくボディへ連打を浴びせる。一発、二発、回転が速くなる。最後の一発が鳩尾に入ったところで、相手はうめき声と共に崩れ落ちた。
苦悶の表情を浮かべるアイビス。だがカウントをきっちり9まで聞き呼吸を整えてから立ち上がる。
「ボックス!」
レフェリーの声と共にボルディアが迫り、コーナーに追い詰めた所に再びフックを浴びせる。
これをアイビスは見切ってパンチを返すが、ボルディアはスウェイバックでかわすと大砲のようなストレートを叩き込んだ。
間一髪のところでガードするが、その上から衝撃が来る。
「お前程じゃねぇが、俺もそこそこは動けンだろ?」
「そうね……」
そしてアイビスは動きを止めた。いぶかしんだボルディアだが、とどめとばかりに逃げ場の無い彼女にロングフックを放つ。その瞬間だった。
アイビスは思い切り前に踏み込み、フックが彼女の背後を通り抜けた瞬間顎先にアッパーカットをねじ込んだ。
強烈なカウンターが炸裂し、ボルディアは踏ん張ろうとするがこらえきれず尻餅をつく。
(喰らっちまったか……でも)
だが彼女はここを狙っていた。カウント8で立ち上がると同時にキャンバスを思い切り叩く。その衝撃にこの広場全体が揺れる。
そして立ち上がるや否や間合いを詰め全力のストレートを放った。ダウンを奪い油断したであろう時に動きを止めた。これは直撃するはずだ。
しかしその時彼女が獣の目で見たのは、宙に浮かぶアイビスの姿だった。
アイビスは油断などしていなかった。試合終了のその時まで彼女は備えていた。
そしてパンチを打ち終えたボルディアの、がら空きの顔目掛けジャンプの勢いを載せたストレートを突き刺した。手の打ちようが無かった。
ボルディアの口からマウスピースが飛び出す。それがキャンバスで跳ねるのと同時に彼女は仰向けに倒れていた。脳が揺れれば耐久力も関係ない。完全に失神したその姿を見てレフェリーはすぐさま試合を止めた。
アイビスは構えを解いたのは、乱打されるゴングと観客の歓声が聞こえてからだった。
●
「気がついたか」
鈴太郎が次に見たのは控室でイバラキが覗き込む姿だった。
「お疲れ様、いい試合だったぜ」
テオも激闘を讃えてくれる。
その言葉に顔を触る鈴太郎。腫れ上がっていたはずの顔は綺麗に戻っていた。
「一族の秘薬だ。痛みは無いだろ?」
イバラキの言う通りだったが心は違った。強いことは分かっていたが、それでもなお又負けたことは悔しい。唇を噛みしめる彼女にもう一人、客が来ていた。
「サファイア……」
彼女は鈴太郎の両拳を握る。
「良いパンチだった。完璧に貰ったら勝てなかった」
「でも完璧じゃ無かったよ……」
「力が入り過ぎてる。当たる瞬間まで抜いたほうが良い」
早速そのアドバイスを試す鈴太郎。ジェット機の噴射の様な轟音が響く。明らかに違う。
「少し練習すれば身につく」
その時鈴太郎は何かを掴んだ気がした。
「あと……こうすると良いって知った」
そしてそう思う彼女をサファイアが抱きしめ、耳元で一つ願いを囁いた。
「戦ってくれてありがとう。友達になって、リン」
依頼結果
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イバラキに質問 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/11/10 23:44:00 |
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ボクシング出場者控室 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/11/11 00:17:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/08 01:42:29 |
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対戦決めのダイス判定 アイビス・グラス(ka2477) 人間(リアルブルー)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/11/08 02:18:45 |