• 郷祭1017
  • 陶曲

【郷祭】【陶曲】サファイア・ララバイ

マスター:大林さゆる

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/11/07 07:30
完成日
2017/11/14 01:02

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 自由都市同盟。
 極彩色の街「ヴァリオス」近郊の村に、小さな装飾工房があった。
「今年の春郷祭では、倉庫に保管しておいた蒼いサファイアの装飾品が全て消えたという事件があったが、今回も慎重にな」
 工房の御頭は、万が一のことを考えて、魔術師協会広報室に相談していた。
 そして、広報室から派遣された魔術師のスコットは、オートマトンの少年…ディエスを連れて、装飾工房を訪れていた。
「スコットさん、蒼いサファイアというものは、ヒトにとって大切なものなんですか?」
 ディエスの問いに、スコットは思案した後、こう告げた。
「んー、大切なものというのは、ヒトそれぞれなんだけど、例えば、工房の御頭にとっては、自分で作った装飾品だから、自分の子供のように大切な思い入れがあるんだ」
「では、御頭さんのためにも、蒼いサファイアを守りましょう。ボクも手伝います」
 ディエスは初めての依頼で緊張していたが、とても張り切っていた。



 ヴァリオス近郊に、サファイアの原石が採掘できる鉱山があった。
 スコットとディエスが鉱山に辿り着いた頃には、マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)、ラキ(kz0002)とも合流することができた。
「あのね、作業員の人達に聞き込みしてみたんだけど、サファイアの精霊は見たことないんだって。てっきり精霊さんは、この鉱山に戻ってきているのかと思ってたけど」
 残念そうに言うラキ。
「春郷祭の時期、サファイアの精霊を助け出すことはできたが、その後、姿を消した。工房からの依頼もあり、もう一度、鉱山を調査することになった」
 マクシミリアンは、確かにサファイアの精霊が現れた瞬間にも立ち会っていた。
 鉱山の奥へと進むハンターたち。
 作業員たちが鉱山の中で、サファイアの原石を採っていたこともあり、坑道には点々と灯が燈っていた。
「お仕事中、すみません。何か変わったことはありませんか?」
 ディエスが作業員に声をかけた。
「おかげさんで、サファイアの原石は無事に採掘できとるよ」
「それでは、女性の姿をした精霊を鉱山の中で見たことは?」
 スコットの問いに、初老の作業員が手を休めて応えた。
「ここ最近は見ないね。わしが若い頃は、精霊らしき女性の姿を見たという噂はあったけどもな」
「それは本当ですか?」
 ラキが興味津々に尋ねる。
「ああ、わしも若い頃は女性の精霊を見たことがある。長い髪の美女でな。それはそれは美しかった。今でも、目に浮かぶのー」
 初老の男性は懐かしそうに答えた。
 その瞬間、パチリと指を鳴らす音がした。
 マクシミリアンは、とっさに攻撃体勢に入った。坑道の奥から、蒼い肌をした女性が現れたが、ハンターたちの存在に気が付くと、姿を消した。
「なんじゃ、今のは? わしが若い頃に見た精霊とは姿が違うぞ」
 怪訝そうに言う初老の男性。
 これは何かあると感じたハンターたちは、作業員たちに鉱山の仕事を休むようにと提案した。



 作業員たちが全員、鉱山の外へと出ると、本格的な調査が始まった。
 調査のため、坑道の灯は付いたままだった。
 ハンターたちが奥を目指して坑道を進むと、時折、蒼い肌をした女性が出現するが、すぐに隠れてしまうのだ。
 突き当りの空洞に辿り着くと、そこにはフードを被った女性が12人、円陣を組んで立っていた。
「何かの儀式か?」
 スコットは疑問に思いつつも、女性たちに声をかけてみた。
「失礼ですが、そこで何をしていらっしゃるのですか?」
 女性たちは、何も答えない。
 持っていた杖を掲げると、アイスボルトの魔法が放たれ、オートマトンの少年…ディエスに命中し、ダメージを受けて身動きが取れなくなった。
「おまえら、嫉妬の歪虚だな」
 マクシミリアンには、その正体に見覚えがあった。
 青い肌はサファイアの鉱石……人形に変貌して、ハンターたちに襲い掛かってきた。
「一旦、鉱山の外へ出よう。あたしたちだけじゃ、調査も続けられないよ」
 ラキがそう言うと、マクシミリアンは無言でディエスを背負い、その場から離れることにした。



「すみませんでした」
 鉱山の外へ出ると、ディエスは自分が足手纏いになってしまったと申し訳なさそうな顔付きで頭を下げた。
「今回の件は、本部にも依頼として連絡した。協力してくれるハンターたちもいるだろうから、心配するな」
 マクシミリアンはディエスを自分の背中から降ろすと、目を合わせずに言った。
 ディエスは、自分でも理解できなかったが、心が少し締め付けられるような気がした。
 何故、マクシミリアンは自分の目を見ないのだろう……ディエスは不安になったが、その想いさえ、何を意味するのか、分からなかったのだ。
 一方、マクシミリアンは不器用な男であった。ディエスが不安になっていることには気が付いていたが、自分が原因だとは理解していなかった。
「どうした、ディエス?」
 マクシミリアンが、ほとんど顔色を変えずに言うため、ディエスは戸惑っていた。
「いえ、なんでもありません。助けてくれて、ありがとう」
 こういう時は、お礼を言うのが礼儀だと思い、ディエスが作り笑いを浮かべた。
「気にするな。礼を言われるほどではない」
 マクシミリアンの何気ない一言に、ディエスは衝撃を受けた。
「え? お礼は必要ない……のですか?」
「ん? そうだな」
 マクシミリアンの呟きに、ディエスが狼狽える。
「そ……そうか。ボクは、必要ないんだね」
 そう言って、帰ろうとするディエス。
「ちょーっと待った! 待って、ディエス」
 ラキが強引にディエスの腕を引き寄せ、立ち止らせた。
「あのね、依頼の途中で帰っちゃダメなんだよ。それに、ディエスは何か勘違いしてるよ」
 ラキの言葉に、ディエスが首を傾げた。
「勘違い?」
「そうだよ。マクシミリアンが『礼を言われるほどではない』って言ったのは、当然のことだからだよ。仲間を助けるのは、当たり前のことでしょ? だけど、助けてもらったら、感謝するという気持ちは大切だよ」
 ラキが懸命に説明する。
「気持ち?」
 オートマトンのディエスは、目覚める前での世界エバーグリーンでは、指示通りに行動していた。
 自分の意思で行動することに、まだ慣れていなかったのだ。
「ハンターたちが集まったら、鉱山の中へ入る。準備をしておけ」
 マクシミリアンは、相変わらず、無表情だ。
 果たして、調査は無事に終わるのであろうか……?

リプレイ本文

 鉱山の安全を確認する調査を行うため、ハンターたちが入口に集まっていた。
 マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)とオートマトンの少年…ディエスは、互いに会話が成り立っていなかったが、ジュード・エアハート(ka0410)は、すぐに気が付いた。
「マクシミリアンさんの態度だけど、ディエス君には逆効果だよ」
 ジュードが明確に言ったこともあり、マクシミリアンは少し目を見開いていた。
「そうなのか?」
 どうやら、やはり……と、ジュードが優しく話しかけた。
「マクシミリアンさんは、ディエス君のこと、傷つけたり怖がらせたくないから、顔を逸らして距離をとろうとしてたんでしょ? だとしたら、それが原因だと思うよ。マクシミリアンさんがディエス君のことよく解らないって思ってるなら、ディエス君もそう思ってるんだよ」
 ジュードにそう言われて、マクシミリアンが困ったような顔つきをした。
「俺が原因か。悪いことをしたな」
 とは言え、マクシミリアンは思うように自分の気持ちを言うのが苦手であった。
 ジュードには、それさえも分かっていた。
「感情を出すのが苦手なら、せめて目を合わせて声をかけてあげてね」
「目を合わせるだけで良いのか?」
 マクシミリアンの素朴な疑問に、ジュードが頷いた。
「そうだよ。ディエス君は、例えるなら、生まれて間もない子供かな。そういう子は良くも悪くも敏感だし、鏡のような反応をすることもあるよ」
 その会話を聞いていたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、自分と似たような部類がいたとは…と思いつつも、マクシミリアンに告げた。
「行動で示したところで、それが相手に全部伝わると言うは幻想だ。熟練の夫婦ですら言葉にしなければすれ違う。コミュニケーションが苦手なら、苦手なりに、せめて、一言、どうしてそういう言葉になったのかの理由ぐらいはつけた方がいいと思うぞ」
「夫婦のことは全く分からんが、確かに、ディエスに対しては、言葉が足りなかったようだ。今後は気を付けよう」
 と言いながらも、マクシミリアンは顔色一つ変えずに応えた。
 アルトは思わず溜息を洩らした。これは予想以上の朴念仁だ。
 アーク・フォーサイス(ka6568)も、対話が苦手ではあったが、だからこそ分かることもあった。
「ディエスは経験が浅いと自分でも自覚してるから、不安なんだと思う。マクシミリアンが、ぶっきらぼう過ぎるから、不安にさせてるようにも見える。アルトの言う通り、言葉できちんと伝えていったほうが良いよ」
 アークの言葉を、マクシミリアンはじっくりと聞いたまま、黙ってしまった。
 その様子に気付いたディエスが、マクシミリアンの手をそっと握った。
「ボクは、まだ新米だから、いろんなこと、教えて欲しいんだ。ヒトの気持ちとかも、理解するのに時間はかかるけど、マクシミリアンさんとは仲良くなりたいんだ」
 無邪気に微笑むディエス。
 マクシミリアンは、試しとばかりに、ディエスと目を合わせて、話しかけた。
「分かった。俺で良ければ、サポートする。俺の言葉が足りなくて不安にさせたな。すまない」
「ボク、もう気にしてないよ。理由が分かったから」
 ディエスは安心したのか、うれしそうに笑っていた。
 目を合わせて話す……ジュードの指摘は、マクシミリアンにとっては今後も他人との交流において、役に立つ提案であった。アルトとアークが言っていたことも、実践していこうとマクシミリアンは考えるようになった。



「ディエス、回復役がいると心強いぜ」
 ジャック・エルギン(ka1522)の励ましに、ディエスは無垢な少年のごとく瞳を輝かせていた。
「そう言ってもらえると、ボクも心強いです。スキルのこと、教えてくれてありがとう」
 ディエスは、ジャックからクルセイダーが修得できるスキルを教えてもらい、今回の依頼ではヒール、シャイン、プロテクションを使うことにしたようだ。
 明るい笑みを浮かべるジャック。
「俺の方こそ、助かったぜ。白い仮面の男は、俺がケチョンケチョンにしてやるからな」
「ケチョンケチョンって、そういう言葉もあるんですね」
 感心したように言うディエス。
 ジャックはディエスから、白い仮面の男について、何か覚えていることはないかと尋ねてみたのだが、最近になって思い出したことを話してくれたのだ。
 ディエスの話では、エバーグリーンからオートマトンの仲間たちも連れ去られてきたのだが、白い仮面の男が、オートマトンの額に宝石を埋め込んでいたのを目撃……その後、ディエスも額に宝石を埋め込まれたのだが、記憶はそこまでだった。
 気が付けば、とある鉱山の奥に倒れていたところをハンターたちに救出されたのだ。
「今は、額に宝石はないわ。だから、カッツォの支配から逃れられたのだと思うわ」
 アリア・セリウス(ka6424)が澄んだ声で、ディエスを安心させるように目を合わせていた。
「カッツォ? どこかで聞いた覚えが……暗くて、闇の中にいるみたいで、恐かった」
 ディエスが震えていたこともあり、ジャックが気合とばかりに彼の背中を叩いた。
「大丈夫だ。俺たちがついてるからな」
「はい、もう、ボクは一人じゃない。皆さんがいるから」
 ディエスは我に返り、拳を握りしめた。
「そうよ。私たちは仲間……ディエスだからこそ、できることもあるわ」
 優しく微笑むアリア。そして、すぐに懐から鉱山の見取り図を取り出して、広げた。
 作業員から借りたものだ。
「坑道には灯が付いているようだけど、スコットが見たという『突き当り』には、灯は無いようだわ。その場所についたら、ディエスにはシャインを使って欲しいの。良いかしら?」
 アリアの問いに、ディエスは大きく頷いた。
「はい、ボク、やってみるよ」
「お願いね」
 どこまでも優しいアリアに、ディエスは何故か懐かしい気持ちが湧いてきた。
 ふと、誰かがディエスの肩を軽く叩いた。
 ユキウサギだ。
「モチヅキも仲間だ。何か困ったことがあったり、思うことがあれば伝えてほしい」
 アークはユキウサギのモチヅキを連れて、ディエスに声をかけた。
「ボクは主に回復役をするけど、モチヅキさんは、どんなことをするのかな?」
 なんとも、初々しい質問ではあったが、アークが応えた。
「モチヅキには、ディエスの護衛をお願いしたんだ。結界術が使えるから」
「ありがとう。助かるよ。よろしくね」
 ディエスがモチヅキに近付くと、互いに握手していた。
 ジュードは、ユグディラのクリムをディエスに紹介した。
「クリムは、回復の術が使えるから、ディエス君と一緒なら、回復できる範囲や人数も増えるよ」
「ボクが回復できるのは一人だけだから、クリムさんがいるなら、戦闘になってもお互いにカバーできるね。ありがとう」
 これまた、ディエスはクリムとも握手した。
 幻獣たちに囲まれて、ディエスは楽しそうに微笑んでいた。




 ハンターたちは、見取り図を頼りに、鉱山の奥へと突き進む。
 フォーコとイレーネ、コーディのイェジドたちは、主人たちを守るように駆けていった。
 アルトはマッピングセットに道順をチェックしながら、方位磁石で位置を確認していた。
「目的の突き当りは、ここから東北の方角になるな」
 瀬崎・統夜(ka5046)は仲間を援護するため、最後尾に付き、魔導銃「アクケルテ」を構えて、いつでも攻撃できるようにしていた。いかなる時でも、対応できるように気を配っていた。
 目的地の『突き当り』を目指して、坑道を進むが、やけに静かだった。
 だが、何かの気配を感じた統夜は、魔導銃「アクケルテ」で攻撃をしかけた。
「そこか!」
 統夜は『直感視』で視界に違和感を覚えた岩陰に狙いを定めて、『跳弾』を発動させ、銃弾がサファイア・レディ一体の胴部に命中して、宝石が飛び散ったが、敵はまだ立ち尽くしていた。
 ジュードはクリムと歩幅を合わせて移動していたが、『青霜』を駆使して龍弓「シ・ヴリス」から矢を放ち、胴部を射抜かれたサファイア・レディは冷気に包まれて身動きができなくなった。ダメージを受けた衝撃で全身の宝石が雪のように舞い、散ってゆく。
 地面を見れば、宝石の欠片が残っていた。
 まだ敵がいるかもしれないと判断したハンターたちは、しばらく、その場で攻撃体勢になり、様子を窺っていた。
「何かの気配が、奥へ進んでいったな。さっきの一体を倒した後、この周辺に気配はないな」
 統夜は銃を構えたまま、そう告げた。
「瀬崎さん、ありがとう」
 ディエスは何かある度に、礼を言っていた。
 そのことが気になっていたのか、統夜がこう告げた。
「礼を言うのは、依頼が終わってからでも十分だぜ。依頼を遂行するのに助け合うのは当たり前の事だ。何かしてもらう度に言ってたら、限が無いからな。柔軟に対応することも覚えた方が良いぜ」
「柔軟に……えと、お礼を言うのは、依頼が終わってからでも良いってこと?」
 ディエスの問いに、統夜が頷く。
「そうだな。礼を言うタイミングも、時には必要だから、少しずつ覚えていけばいいさ」
 ディエスは感心したように、「そうか」と呟いていた。
 その頃、ジュードは落ちていた宝石の欠片を拾い、回収することにした。
「これも、役に立つかもしれないね。集めたものは、スコットさんに渡そうかな」
「ああ、宝石の欠片は、精霊と関わりがある場合もあるからな。俺も見つけたら、回収するぜ」
 ジャックも、宝石の欠片を発見したら、回収するつもりでいた。



 さらに目的地を目指して、坑道を進むハンターたち。
 狭い場所に来たこともあり、ジャックはイェジドのフォーコから降りていた。
 突如、岩の隙間から、蒼い肌をした人形が現れた。先手を取ったサファイア・レディたちが、一斉にファイアーボールを放ってきた。範囲内にいたハンターと幻獣たちは、敵の攻撃に巻き込まれ、怪我を負ってしまったが、それで怯むハンターたちではない。
 アークは『心眼』によって、敵のアイスボルトを見切り、妖刀「村正」で的確に打ち払った。
「どうやら、一体だけ、アイスボルトを放ってきたな」
「坑道で、範囲魔法か。美女の熱い歓迎なら、こっちも遠慮はいらねーよな!」
 ジャックは、仲間と密集しないように分散して陣取ってはいたが、怪我は避けられなかった。
 後方にいるサファイア・レディたち目掛けて、ジャックは『攻めの構え』を取り、バスタードソード「アニマ・リベラ」による『衝撃波』を放った。直線上にいたサファイア・レディたちが衝撃で砕け散り、宝石が飛び散った。
「フォーコ、右を抑えろ!」
 イェジドのフォーコは、獲物に食らい付くように『ブロッキング』を駆使してサファイア・レディ一体の動きを止めた。
 ジャックは『ケイオスチューン』で『攻めの構え』を維持……守りを捨て、攻撃を重視した構えだ。
「油断はできないわね。罠があることも考慮するなら、これね」
 イェジドのコーディに騎乗したアリアは、『氷輪詩』を唄い上げ、機械剣「ストラール」を構えると『織花・祈奏』によって強化されたソウルエッジの刃が、『衝撃波』として繰り出された。
 隣接していたサファイア・レディが衝撃に巻き込まれ、直線上にいた敵が全て粉々になり、宝石の欠片が地面に転がり落ちていく。
「ここから先には、行かせないからね。ディエス君、クリム、回復は任せるよ」
 ジュードはリボルバー「ピースメイカー」による『制圧射撃』を放ち、残りのサファイア・レディたちの行動を阻害……すかさずリロードをして、銃弾を込めた。
 後方にいるディエスが『ヒール』を施すと、スコットの怪我が回復した。クリムは『森の午睡の前奏曲』を奏で、範囲内にいる仲間の怪我を癒していた。さらに演奏を続けるクリム。
 ユキウサギのモチヅキは『紅水晶』の結界を張り巡らせ、敵の通過や視線と射線を遮断させ、ディエスの護衛に専念していた。
「周囲への被害はできるだけ少なく……大事なものまで破壊したら、調査もできなくなるからね」
 アークは仲間の位置を確認しながら左横へと移動し、『疾風剣』を繰り出した。妖刀「村正」によって貫き斬ると、サファイア・レディ一体が砕け散った。
「ここは、なんとしてでも抑える。ディエスの初依頼でもあるからな」
 統夜は魔導銃「アクケルテ」で『制圧射撃』による弾幕を張り、サファイア・レディの動きを封じた。
 今だ。
 そう感じたイェジドのイレーネが、『ウォークライ』で威嚇。
 続け様、アルトは『踏鳴』で加速し、『散華』を発動させると、すれ違いながら、剛刀「大輪一文字」の一振りで、サファイア・レディたちを斬り裂いていった。
 人形たちは動かなくなったと思いきや、見る見るうちに崩れ去っていき、宝石の欠片がいくつか残っていた。



 ついに、目的の突き当りに辿り着いた。
 ディエスが『シャイン』で周囲を照らすと、ジュードとジャックは回収していた宝石の欠片をまとめて、スコットに手渡した。
「これはサファイアだ。前例では、欠片を集めたら精霊が出現したようだが、今回はまだ反応がないな」
 統夜は『直感視』で周囲を見渡し、壁を丹念に調べていた。窪みを発見して、魔導スマートフォンのカメラ機能を使用して、撮影していた。
「スコット、ここに窪みがある」
 慌てて、スコットが統夜のいる場所まで、駆けつけてきた。
 窪みの中ではサファイアの原石が剥き出しになっていたが、輝きが鈍いように見えた。
「この色合い、汚染される前兆に違いない」
 スコットがそう言うと、アルトは物的証拠を残すため、魔導カメラで写真を撮っていた。
 イェジドのイレーネは、狼嗅覚で周囲の臭いを嗅ぎ、追跡で辿り着いた先には、小さな窪みがあった。
 アルトは鋭敏視覚により、イレーネが発見した小さな窪みに気が付いた。
「直径、およそ1センチか」
 窪みを確認しながら、アルトは調査資料として魔導カメラで『窪み』の写真を撮ることにした。
 一方、ジャックはランタンを片手で持ち、さらに奥へと歩いていく。
「人形たちが円陣を組んでいたのは、ここか」
 アークは、青肌の女性達が円陣を組んでいた場所が気になり、ジャックに付いてきていた。
「特に足跡みたいなのは、残ってないな」
「魔法は詳しくねーけど、鉱山にマテリアルの川みたいな流れがあるんなら、どこに流れているのか追跡できる方法でもあるんかね?」
 ジャックの疑問に、考え込むジュード。
「んー、どうなんだろう? そういう方法があるとしても、大地の精霊さんならできるかもしれないね。まずは、俺のできる範囲で、試しにやってみるよ」
 ジュードは『直感視』を駆使しながら、鋭敏視覚で周囲を見渡した。
「あ、また窪みがあったよ」
 新たな窪みを発見したジュードは、ジャックとアークを連れて、気になる箇所を確認してみた。
「これは蒼い鉱石だね。サファイアかな。生き生きとした輝きで、綺麗だな」
 思わず、うっとりと見惚れるジュード。
 ジャックが窪みの中を覗き込んだ時、スコットが叫んだ。
「宝石の欠片が、全て消えたっ?! 何か起きるかもしれない。みんな、気を付けてくれ」
 ユグディラのクリムは、何故か落ち着いていた。弱者の本能でも、危機を察しなかったのだ。
 消えたと思っていた宝石の欠片は、ジュードが見つけた窪みの中に吸い込まれていき、さらに輝きを増していく。
 フォーコとコーディは、やや警戒していたが、光の気配に敵意がないと感じ取っていた。
 一瞬、ランタンの灯よりも眩しい光が周囲を包んだが、すぐに元の空間に戻り、気が付けば、女性の精霊が現れていた。
『……よく寝たわ。おはよう、皆さん』
「もしかして、サファイアの精霊さん?」
 ジュードの問いに、宙に浮かんでいる女性の精霊が微笑む。
『そうよ。ちょっと寝てたら、秋になってたわね』
「まさかとは思うけど、姿を消したのは、寝てたから?」
 アークが躊躇いがちに尋ねると、精霊は悪びれもなく答えた。
『春の頃、ハンターたちに助けてもらったんだけど、その後、急に眠くなっちゃって……気が付いたら、鉱山のマテリアルが、歪んでいたみたいだったから、今さっき、戻しておいたわ』
「封鎖された場所はなかったから、数日前まで作業員たちは、この鉱山で働いていたの。春の郷祭で、サファイアの装飾品が全て消えたことがあったから、今回も、念の為、調査に来たの」
 アリアが事情を話すと、精霊は思い出したように告げた。
『そういうこともあったわね。また人形が出たのかしら?』
「ああ、今回も出てきたが、全て片付けた。歪虚がやろうとしてたことが気になる」
 アルトがそう言うと、精霊は哀しげに目を伏せた。
『人形は、白い仮面の男…カッツォ・ヴォイが生み出したもの……私の身体の一部を『道具』として利用していたのね』
 その言葉を聞いて、アリアは可能性の一つとして、精霊に問う。
「カッツォは、精霊に対して疑似契約していたのかしら? 人形たちが、ハンターと似たようなスキルを使っていたの」
『疑似契約ではないわ。私の意思とは関係なく、鉱石を人形に変貌させていたから、おそらく、カッツォの特殊能力ね。覚醒者と似たようなスキルが使えるのは、皮肉にもカッツォの支配下になってしまったからでしょう』
「なんか、その辺、引っかかるな。カッツォの特殊能力で、今んところ分かってるのは、無機物を融合させること……」
 ジャックはそこまで言いかけると、ディエスから聞いた話を思い出した。
「そういや、ディエスの仲間であるオートマトンが、カッツォに宝石を埋め込まれたことがあったよな?」
「そうね。額に宝石を埋め込まれたオートマトンなら、私も見たことがあるわ」
 アリアは、とある仮説が閃いた。
「あまり考えたくないことだけど、オートマトンは自動人形。宝石は無機物。なら、融合することも可能? だとしたら、一大事よ。サファイア・レディは、元々はオートマトンだった可能性も否定できないわ」
 人形に変貌した宝石たちの全てがオートマトンの融合体であるとは限らないが、カッツォが実験体として生み出した人形たちの中には、元はオートマトンだったことも有り得た。
「カッツォが、オートマトンも利用しているなら……」
 ジュードは、小さく唇を噛みしめた。
『……カッツォは、私たちの仲間さえ巻き込んでいる。この世界だけでなく、異世界にも混乱を招いている……カッツォ・ヴォイの暴走を食い止めなければ……私は、この鉱山に残って、鉱脈に流れるマテリアルを監視します。異変が起こったら、覚醒者の皆さんに知らせるわ』
 サファイアの精霊が両手を広げると、鉱山に残っていた負のマテリアルが全て消え去った。
『私が、この鉱山を守護する限り、ここで採れるサファイアたちは安全よ。ヒトの子たちが安心して暮らせるように、祈っています』
 統夜は固唾を飲んで、精霊たちの話を聞いていた。
「思っていた以上に、大がかりな手かがりを見つけた気分だな」
「調査したことは、本部にも報告しておくか」
 アルトは、窪みがあった場所をマッピングセットに書き込み、精霊が出現した経緯もメモとして綴ることにした。


 こうして、調査は無事に終わり、サファイアの原石も市場に出回るようになった。
 鉱山の作業員や、工房の職人たちは、今日もコツコツと仕事を熟していた。
 郷祭は、順調に行われていたが、その裏で、カッツォが暗躍している事実を知っているのは、限られた者たちだけであった。


「アリアさん、ボク、どうしたらいいのか、分からない」
「あなたにとっては、辛いことだったわね。ごめんなさい」
 アリアの仮説を聞いて、ディエスは落ち込んでいた。
「けれど、一つだけ言わせて欲しいの。ディエス、貴方がいてくれて有難う。その理由は、また今度、話すから……今は、貴方の想いを聴きたい」
 真摯にディエスと向き合うアリア。
「……ボクは、どうして、この世界に来たんだろう?」
 そう言った後、ディエスはアリアの腕の中で蹲っていた。
 まるで、泣いている子供のようにも思えた。

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  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハートka0410
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギンka1522

重体一覧

参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    クリム
    クリム(ka0410unit002
    ユニット|幻獣
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    フォーコ
    フォーコ(ka1522unit001
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イレーネ(ka3109unit001
    ユニット|幻獣
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    コーディ
    コーディ(ka6424unit001
    ユニット|幻獣
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    モチヅキ
    モチヅキ(ka6568unit003
    ユニット|幻獣

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/11/06 23:03:11
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/02 18:15:15