ゲスト
(ka0000)
【王国始動】歓迎される人々、されない魚人
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/20 07:30
- 完成日
- 2014/06/26 19:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●歓迎の挨拶
謁見の間には、数十名の騎士が微動だにすることなく立ち並んでいた。
ピンと張り詰めた空気が、足を踏み入れた者を押し潰そうとでもしているかのようだ。
「これが歴史の重みってやつかね」
軽く茶化して薄笑いを浮かべる男――ハンターだが、その口調は精彩を欠いている。
頭上には高い天井にシャンデリア。左右の壁には瀟洒な紋様。足元には多少古ぼけたように見える赤絨毯が敷かれており、その古臭さが逆に荘厳さを醸し出している。そして前方には直立する二人の男と――空席の椅子が二つ。
どちらかが玉座なのだろう。
グラズヘイム王国、王都イルダーナはその王城。千年王国の中心が、あれだ。
椅子の左右に立つ男のうち、年を食った聖職者のような男が淡々と言った。
「王女殿下の御出座である。ハンター諸君、頭を垂れる必要はないが節度を忘れぬように」
いくらか軽くなった空気の中、前方右手の扉から甲冑に身を包んだ女性が姿を現した。そしてその後に続く、小柄な少女。
純白のドレスで着飾った、というよりドレスに着られている少女はゆっくりと登壇して向かって右の椅子の前に立つと、こちらに向き直って一礼した。
「皆さま、我がグラズヘイム王国へようこそ」
落ち着いた、けれど幼さの残る声が耳をくすぐる。椅子に腰を下ろした少女、もとい王女は胸に手を当て、
「はじめまして、私はシスティーナ・グラハムと申します。よろしくお願いしますね。さて、今回皆さまをお呼び立てしたのは他でもありません……」
やや目を伏せた王女が、次の瞬間、意を決したように言い放った。
「皆さまに、王国を楽しんでいただきたかったからですっ」
…………。王女なりに精一杯らしい大音声が、虚しく絨毯に吸い込まれた。
「あれ? 言葉が通じなかったのかな……えっと、オリエンテーションですっ」
唖然としてハンターたちが見上げるその先で、王女はふにゃっと破顔して続ける。
「皆さまの中にはリアルブルーから転移してこられた方もいるでしょう。クリムゾンウェストの人でもハンターになったばかりの方が多いと思います。そんな皆さまに王国をもっと知ってほしい。そう思ったのです」
だんだん熱を帯びてくる王女の言葉。
マイペースというか視野狭窄というか、この周りがついてきてない空気で平然とできるのはある意味まさしく貴族だった。
「見知らぬ地へやって来て不安な方もいると思います。歪虚と戦う、いえ目にするのも初めての方もいると思います。そんな皆さまの支えに私はなりたい! もしかしたら王国には皆さま――特にリアルブルーの方々に疑いの目を向ける人がいるかもしれない、けれどっ」
王女が息つく間すら惜しむように、言った。
「私は、あなたを歓迎します」
大国だからこその保守気質。それはそれで何かと面倒があるのだろう、と軽口を叩いた男はぼんやり考えた。
「改めて」
グラズヘイム王国へようこそ。
王女のか細く透き通った声が、ハンターたちの耳朶を打った。
●港街での活気
ここ王国南部に位置する港街「ガンナ・エントラータ」では、近年まれに見る大漁にいつも以上の活気が生み出されていた。潮風香るこの街では、祭が行われているかのような雰囲気さえ作られていた。
商売に賢いものは、新たな商品を作り出したり、あの手この手で魚の価値を上げていた。
騒ぐのが好きなものは、とにかく酒を飲み、陽気な音楽に心躍らす。
乗り切れぬものは、そんな様子を斜に構えて見守っていた。
ガンナ・エントラータの湾口近くに、一つの酒場があった。周囲がいち早く、お祭り騒ぎに興じる中、この酒場はやや乗り遅れていた。
「今から、巻き返すには……」
乗り遅れたからといって、マスターに商売っ気がないわけではない。むしろ、乗り遅れてしまったことに焦りと、後悔の念さえ感じているのだった。
「酒はどこも横ばいだろうし、今から雇える楽師はたかがしれているだろうしなぁ」
朝早く、魚市場を歩くマスターは腕を組みながら、呻っていた。
色とりどりの魚たちを見てあるけど、妙案が思い浮かぶわけでもなく、いつも通りの仕入れに落ち着いてしまう。
男達の声が響く市場では、考えも思うようにまとまらない。
「よぅ、マスター。浮かない顔だな、こんなときにさ」
親しい漁師が、見るに見かねて声をかけてくる。
「すっかり、この雰囲気に乗り遅れてしまってなぁ。どうしたものかね」
マスターは、嘆息し空を仰ぐような仕草を見せた。
漁師は、笑い声を上げながら、マスターの背中を叩く。
「マスター、そうがっかりしなさんな。今からでも、特別メニュー作ったらどうだい?」
お前さんの料理はここいらじゃ一番だからな、と世事にもとれる褒め言葉でマスターを元気づける。
「特別メニュー、か」
「お、何か思いついたのか」
「今日は、大浅魚はないのかい?」
大浅魚とは浅瀬でとれる大魚の一種で、高級魚とまではいかなくとも、庶民のごちそうにはもってこいの魚である。そういえば、これだけ大漁と騒ぎになっているにも関わらず、大浅魚を見た覚えがない。
だが、漁師はその名前を聞いた途端に、表情を曇らせた。
「あ……あぁ、その大浅魚なんだが」
●踊れるタコも久しからず
大浅魚が捕れるという小さな島。
鬱蒼とした森を中央に蓄えた島は、大浅魚のよい漁場になっている。
地図にも載らない島ではあるが、漁師の間ではよく知られていた。持ち回りで、大浅魚を捕りにくるためだ。だが、ここ数日、この島に近寄る漁船は一隻もなかった。
原因は、砂浜にどーんと鎮座する物体にあった。
厳密には物ではない。ある意味、魚影といってもよいのかもしれない。
大ダコが一匹、そこに居座っていたのだ。別の岸から上がることはできるのだが、大ダコのいるあたりこそ、大浅魚が最もよく捕れる場所なのだ。そして、別の岸も大ダコが近づいて来ては危ないことこの上ない。
「というわけなのさ」
「危険というわけかい。だが、ずっとそのままにしておくわけにもいかないだろ?」
「なんだけどなぁ。ここ最近は、お祭り騒ぎで俺らも積極的に厄介事に関わろうとはしないのさ」
そういう漁師の横顔を眺めながら、マスターはとある人々のことを思い出して呟くのだった。
「……ハンター、か」
謁見の間には、数十名の騎士が微動だにすることなく立ち並んでいた。
ピンと張り詰めた空気が、足を踏み入れた者を押し潰そうとでもしているかのようだ。
「これが歴史の重みってやつかね」
軽く茶化して薄笑いを浮かべる男――ハンターだが、その口調は精彩を欠いている。
頭上には高い天井にシャンデリア。左右の壁には瀟洒な紋様。足元には多少古ぼけたように見える赤絨毯が敷かれており、その古臭さが逆に荘厳さを醸し出している。そして前方には直立する二人の男と――空席の椅子が二つ。
どちらかが玉座なのだろう。
グラズヘイム王国、王都イルダーナはその王城。千年王国の中心が、あれだ。
椅子の左右に立つ男のうち、年を食った聖職者のような男が淡々と言った。
「王女殿下の御出座である。ハンター諸君、頭を垂れる必要はないが節度を忘れぬように」
いくらか軽くなった空気の中、前方右手の扉から甲冑に身を包んだ女性が姿を現した。そしてその後に続く、小柄な少女。
純白のドレスで着飾った、というよりドレスに着られている少女はゆっくりと登壇して向かって右の椅子の前に立つと、こちらに向き直って一礼した。
「皆さま、我がグラズヘイム王国へようこそ」
落ち着いた、けれど幼さの残る声が耳をくすぐる。椅子に腰を下ろした少女、もとい王女は胸に手を当て、
「はじめまして、私はシスティーナ・グラハムと申します。よろしくお願いしますね。さて、今回皆さまをお呼び立てしたのは他でもありません……」
やや目を伏せた王女が、次の瞬間、意を決したように言い放った。
「皆さまに、王国を楽しんでいただきたかったからですっ」
…………。王女なりに精一杯らしい大音声が、虚しく絨毯に吸い込まれた。
「あれ? 言葉が通じなかったのかな……えっと、オリエンテーションですっ」
唖然としてハンターたちが見上げるその先で、王女はふにゃっと破顔して続ける。
「皆さまの中にはリアルブルーから転移してこられた方もいるでしょう。クリムゾンウェストの人でもハンターになったばかりの方が多いと思います。そんな皆さまに王国をもっと知ってほしい。そう思ったのです」
だんだん熱を帯びてくる王女の言葉。
マイペースというか視野狭窄というか、この周りがついてきてない空気で平然とできるのはある意味まさしく貴族だった。
「見知らぬ地へやって来て不安な方もいると思います。歪虚と戦う、いえ目にするのも初めての方もいると思います。そんな皆さまの支えに私はなりたい! もしかしたら王国には皆さま――特にリアルブルーの方々に疑いの目を向ける人がいるかもしれない、けれどっ」
王女が息つく間すら惜しむように、言った。
「私は、あなたを歓迎します」
大国だからこその保守気質。それはそれで何かと面倒があるのだろう、と軽口を叩いた男はぼんやり考えた。
「改めて」
グラズヘイム王国へようこそ。
王女のか細く透き通った声が、ハンターたちの耳朶を打った。
●港街での活気
ここ王国南部に位置する港街「ガンナ・エントラータ」では、近年まれに見る大漁にいつも以上の活気が生み出されていた。潮風香るこの街では、祭が行われているかのような雰囲気さえ作られていた。
商売に賢いものは、新たな商品を作り出したり、あの手この手で魚の価値を上げていた。
騒ぐのが好きなものは、とにかく酒を飲み、陽気な音楽に心躍らす。
乗り切れぬものは、そんな様子を斜に構えて見守っていた。
ガンナ・エントラータの湾口近くに、一つの酒場があった。周囲がいち早く、お祭り騒ぎに興じる中、この酒場はやや乗り遅れていた。
「今から、巻き返すには……」
乗り遅れたからといって、マスターに商売っ気がないわけではない。むしろ、乗り遅れてしまったことに焦りと、後悔の念さえ感じているのだった。
「酒はどこも横ばいだろうし、今から雇える楽師はたかがしれているだろうしなぁ」
朝早く、魚市場を歩くマスターは腕を組みながら、呻っていた。
色とりどりの魚たちを見てあるけど、妙案が思い浮かぶわけでもなく、いつも通りの仕入れに落ち着いてしまう。
男達の声が響く市場では、考えも思うようにまとまらない。
「よぅ、マスター。浮かない顔だな、こんなときにさ」
親しい漁師が、見るに見かねて声をかけてくる。
「すっかり、この雰囲気に乗り遅れてしまってなぁ。どうしたものかね」
マスターは、嘆息し空を仰ぐような仕草を見せた。
漁師は、笑い声を上げながら、マスターの背中を叩く。
「マスター、そうがっかりしなさんな。今からでも、特別メニュー作ったらどうだい?」
お前さんの料理はここいらじゃ一番だからな、と世事にもとれる褒め言葉でマスターを元気づける。
「特別メニュー、か」
「お、何か思いついたのか」
「今日は、大浅魚はないのかい?」
大浅魚とは浅瀬でとれる大魚の一種で、高級魚とまではいかなくとも、庶民のごちそうにはもってこいの魚である。そういえば、これだけ大漁と騒ぎになっているにも関わらず、大浅魚を見た覚えがない。
だが、漁師はその名前を聞いた途端に、表情を曇らせた。
「あ……あぁ、その大浅魚なんだが」
●踊れるタコも久しからず
大浅魚が捕れるという小さな島。
鬱蒼とした森を中央に蓄えた島は、大浅魚のよい漁場になっている。
地図にも載らない島ではあるが、漁師の間ではよく知られていた。持ち回りで、大浅魚を捕りにくるためだ。だが、ここ数日、この島に近寄る漁船は一隻もなかった。
原因は、砂浜にどーんと鎮座する物体にあった。
厳密には物ではない。ある意味、魚影といってもよいのかもしれない。
大ダコが一匹、そこに居座っていたのだ。別の岸から上がることはできるのだが、大ダコのいるあたりこそ、大浅魚が最もよく捕れる場所なのだ。そして、別の岸も大ダコが近づいて来ては危ないことこの上ない。
「というわけなのさ」
「危険というわけかい。だが、ずっとそのままにしておくわけにもいかないだろ?」
「なんだけどなぁ。ここ最近は、お祭り騒ぎで俺らも積極的に厄介事に関わろうとはしないのさ」
そういう漁師の横顔を眺めながら、マスターはとある人々のことを思い出して呟くのだった。
「……ハンター、か」
リプレイ本文
●
本日は快晴なり。
ガンナ・エントラータから漁船にゆられること、数十分。ハンター達の目の前には、緑亀を思わせるような小島が見えてきた。
その砂浜には、わかりやすいくらいに堂々と大きなタコが居座っていた。ハンター達の数倍あるそいつを見ながら、ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は声を漏らす。
「大切な漁場を脅かす大タコ……放ってはおけないわね……」
「お金ももらえて腹も満たせる。一石二鳥やんな!」
その隣では、テェンイー(ka0637)が着物の裾を腰辺りまでまくりあげ、意気揚々という。
「……うわあ」
と大タコを見て、ジョージ・ユニクス(ka0442)が顔をしかめた……ように思えたがその表情は窺えない。
鉄仮面のような兜で、ジョージはその表情を隠していた。
「う……、きもちわるい。けど……がんばろう」
エルレーン(ka1020)は、げんなりした表情をあらわに大タコを見据えていた。手には、水を入れておいた水筒を抱えている。
対照的に、楽しげな表情を浮かべているのが切金・菖蒲(ka2137)だ。
「大タコか。大タコと言えば、ホクサイだな」
どこで聞いたのか、どこで見たのか、そんなことを口走る。
そして、女性のメンバーが多いのを眺めながら、
「触手プレイきたこれ」
とキリッとした武人の表情で口走っていた。
そんな女性メンバーの中には、
「巨大タコどれくらい食えるんだろう……」
とつぶやくリリー・アン(ka2117)もいた。
リリーの隣で、姫凪 紫苑(ka0797)も、
「……早く終わらせてタコ料理……」
とタコをある意味真剣な目つきで眺めていた。
リリーや紫苑の言葉に反応したのは、テェンイーだ。
「そやそや、こんなにうまそうなヤツ、見逃すなんてありえへんで!」
「終わったら魚もたくさん食べられそうだなあ……。おなかがすいてきたぞ!!」
食い気の強いリリーは、テェンイーの言葉を聞いて、よだれを垂らしかける。
「心躍る戦ではないが、これも生きる糧をえるためだ。いうなれば、狩り。次の戦いのための糧を得る狩りだ」
バルバロス(ka2119)は荒々しく拳を振り上げ、士気を高める。
漁船は大タコからやや離れて、接岸する。気付かれる前に離れなければならないため、ハンターたちはすぐさま島へ上陸を果たした。
「サクッと倒して、大浅魚とやらのお料理を味わいましょ。出来れば序でにその大蛸も、ね」
食に目覚めたリリーや紫苑に苦笑しながら、ケイが告げる。
狩りの時間が始まろうとしていた。
●
ハンターが降り立つと同時に、漁船は小島を離れていく。
次に漁船が戻ってくるのは、倒すか危なくなって合図を出したときだ。
「ほな、囮として行ってくるで」
テェンイーは動物霊の力を借り、身のこなしを軽くする。それから、バルバロスとともに大タコを引き寄せるべく、前へ出た。
バルバロスは、テェンイーの動きが軽やかになったのを見て、思い出す。自身も同じ技があるのにも、関わらず装備していなかったのだ。だが、後悔先に立たず、気持ちを切り替えていく。
「うぉおおおおおっ!」
祈るように雄叫びを上げることで、マテリアルを高め、戦意をも高揚させていく。
声を荒げることで、大タコの注意をより引きつける。
大タコのぎょろっとした双眸が、二人をとらえる。それを察し、ケイはぐるりと大回りに大タコの側面に回り込んでいった。
まだ、囮が大タコの注意を引ききっていないとケイは考え、位置取りに専念する。
ジョージをはじめ、近接を狙う者たちは大タコが飛び出してくるのをじっと待っていた。
じっとテェンイーとバルバロスを見ていた大タコは、弾けるように動き出した。触手が蠢き、グロテスクにすら見える。がばっと振り上げられ、鞭を振るうかのごとく、大ダコは触手を操る。
だが、地上での動きはやはり制限されるのか、ややもつれていた。
「うねうねしとる……ひえー、気持ち悪ぅ」
するりと精霊の力を借りるテェンイーは触手の森から抜け出す。
一方のバルバロスは、避けたと思った瞬間、多方向から迫ってきた触手に胸と足を打たれた。
「ぐるる」
唸りを上げ、バルバロスは大タコをにらみ返す。にらみ返したところで、タコはタコ。素知らぬ顔で、うねっていた。
大タコが囮役二人を狙い始めたことで、本当の戦いが始まった。
●
「さて、邪魔させてもらうわよ」
ケイは大タコの周囲を動きながら、リボルバーの撃鉄を起こす。マテリアルを籠めた一撃は、通常の射程外からの攻撃を可能にする。弾丸は回転しながら、振り上げられた大タコの触手を撃ち抜く。
撃ち抜かれた触手は気勢を削がれ、テェンイーやバルバロスに攻撃を届かすことが出来ない。
威嚇するような声をあげつつ、バルバロスはじりじりと後退する。バルバロスはマテリアルを活性化させ、思わず受けた手痛い一撃から、身体を回復させていた。
立ち替わり、触手へ襲いかかったのはジョージや紫苑、菖蒲といった近接組だ。
「守護する精霊よ、敵を滅ぼす我が加護を……征くぞ!」
剣をしかと両手で構え、ジョージは覚醒しながら自身を鼓舞する。大タコに近づきながら、その隙をうかがう。
別方向からは、模造刀を構えた菖蒲が走りながら近づいていく。
「ううっ、ぐねぐね」
近くで見れば、そのグロテスクさが前面に出てくる。
エルレーンはぐっと気持ち悪さに耐えながら、タイミングを待つ。
そんなエルレーンと対照的なのが、リリーだ。
「こんなにも大きくスクスクと育ってくれてありがとう! ああ生臭い生臭い! なんてうまそうなんだ! 愛してる!」
恍惚とした表情で、リリーは大タコを眺めていた。よだれが垂れているのは幻覚だろうか。
一方で、紫苑は落ち着いた表情で淡々と大タコとの距離を詰めていた。
「ウチを放っておくなんてつまらんことしなや!」
大タコが他の者に気を取られそうになったのを、テェンイーが一喝する。手裏剣を同時に放ったが、こちらは宙をきった。だが、牽制としては十分で、大タコの触手が真っ直ぐにテェンイーに伸びていく。
それをかわし、ときには受け流し、自らのマテリアルを活性化させ耐えていた。
こうして大タコは前線へ、完全に引っ張り出されたのだ。
●
機先を制すべく、ケイがリボルバーで圧迫を仕掛ける。遠くからの攻撃は、テェンイーとバルバロスへ向かう大タコにブレーキをかける。注意がケイと囮役に裂かれて、隙を生じさせるのだ。
「軟体だろうが、斬れない事はない!」
好機とみて、まず飛び出したのはジョージだ。砂浜にしっかりと足を踏み入れ、長剣を振り上げる。
「で、りゃああ!」
気合いとともに、振り下ろされた剣は大タコの足一本を見事に切り落とした。
ぐわんと吹っ飛んだ触手は、地面に叩きつけられてもしばらくうねっている。
「切っても、ぐねぐねしてる……。きもちわるいけど。し、しんぢゃえッ!」
囮役とケイの方向とは、まったく違うところからエルレーンが飛び出した。マテリアルを体中に巡らせ、この一瞬、動きをより洗練させる。しっかりと入れられた刃は、タコ足を切り落とすのに十分だった。
続けざまに、紫苑がなめらかな動きで短剣を振るうが、こちらは足を捉えきれなかった。
同様に、急接近したリリーも
「運命の出会いだと思って私に喰われやがれぇぇぇ!!」
と叫びを上げながら斬りかかる。
が、ダメ! 無表情な紫苑はともかく、叫びを上げながら目をキラキラさせる食欲全快のリリーだ。大タコの表情が怯えたように見えたのは間違いではないだろう。
食欲高めと言えば、別の欲も混じっていそうな菖蒲もいた。
「おさしみにしてやろう」
無駄に洗練された無駄のない無駄に素早い動きで、タコ足の間をすり抜けた菖蒲は、これまた無駄のない動きでタコ足を切り落としていた。
●
残り五本となってしまった触手が、無慈悲にもハンターを襲う。
一番の目標となったのは、やはりテェンイーだ。
「これくらい」
何ともないといおうとしたところで、隙を生じぬ二段構えの触手が振り下ろされる。テェンイーは、ガツンと頭に受け、一瞬くらっとしてしまった。巻き付こうとした触手は、バルバロスが大声を上げながら、振り払う。
一方、残りの触手は攻撃役へ向かっていた。
「やめて! ボクに乱暴するつもりでしょう!? エロドージンみたいに! エロドージンみたいに!」
どこで覚えたのか、そんな台詞を吐きながら菖蒲は触手をするりとかわす。
かわしながら、エルレーンに向かう触手を見て、
「うーむ、眼福眼福。新作の薄い本がはかどるな」
菖蒲はそんなことをいうのだった。
当のエルレーンはたまったものではない。
「うえーん、きもちわるいようー」
迫り来る触手に、大泣きしながら、辛くも逃れる。
五本目の触手が向かう先は、ジョージだ。
「やられるわけには、いかない!」
重たそうな外見ながら、スッと薙ぎ払われた触手をかわす。そこへ、真っ黒い何かが飛来する。
そう、墨だ。
幸いなことに、墨はがっちりと固めた胴部に当たる。そのあたりが黒く染まるが、視界が遮られたわけではない。
「その隙、貰う!!」
墨を被りながらも、果敢に斬りかかる。狙うは本体、墨を吐く頭の部分だ。
「この、匂いの元を断つ!」
再びグッと踏み込んで、一閃……しかし、その刃は大タコの頭には届かなかった。
代わりに、タコ足一本を確実に切り落とすのだった。
●
大タコは半数近くの足を失いながらも、ぐにょりぐにょりとハンターを追いやろうとする。
気持ち悪くのたうち回る大タコに、紫苑が表情を変えずに告げる。
「……あまり調子に乗らないで……」
言葉とともに投げられたナイフは、大タコの足に弾かれた。
だが、それこそが狙い。弾いた足へリリーが飛びこむ。
「ほらほら、調子に乗るくらいならお皿にのせてあげる」
煩悩垂れ流しながら、今度は確実にリリーの刃が大タコの足を切り伏せる。
「まだ、動けるの……」
丸裸になりつつある大タコを見据え、エルレーンは若干げんなりしていた。
活きが良いのは結構だけれど、気持ち悪いものは悪いのだ。回り込んで放った一撃は、かかりが浅かったのか、切り落とすところまではいかなかった。
ならばとここに来て、バルバロスがエルレーンの逃したタコ足をとらえに行く。途中まで切り込みの入ったそれを、ずんむと掴み……。
「ワシに任せぃいい!!」
と慟哭。ぶちぃっと引きちぎって見せた。
豪快にぶっちぎったタコ足は、この野生児ならぬ野生爺に抵抗するように蠢いていた。
「筋肉爺と触手……アリだな」
よからぬ呟きをしていたのは、菖蒲である。
残り本数がいよいよ少なくなったのを見て、ケイが大タコに急接近した。
「目と目の間、それがタコの弱点らしいけど」
狙いをつけ、ほぼ0距離のところからマテリアルの強くこもった弾丸を撃ち出す。
弾丸は大タコの頭部を貫き、青空へと突き抜けていく。まるで押し出されるようにタコの口が収縮した。
ケイは気づき、素早く横へ避けようとするが、間に合わない。半身に墨を引っ被ってしまう。
「……タコは?」
片側で大タコをケイは見ようとする。最後の抵抗とでもいうように、残った2本のタコ足を振り上げる。
だが、それらが振り下ろされることはなかった。
1本は、テェンイーの手裏剣が縫い止めていた。
残る1本は、
「……卑猥な生物はお断り……」
間に割り込んで、紫苑が切り落としていた。大タコが完全に沈黙したのを確認し、
「……無事?」
そう紫苑は聞くのだった。
●
「うおおお勝った! 焼きタコじゃああああああ!!」
開口一番、リリーが叫びを上げた。同時に、合図として狼煙を上げる。
「これっておさかな? なのかなあ……どうやって泳ぐんだろう」
漁船が来るまでの間、倒れた大タコを眺めながら、エルレーンは興味津々に呟く。
水筒の水は、ケイが墨を洗い流すのに使っていた。
漁船が来訪し、大タコと大浅魚を港まで運んでくれる。その間、リリーや紫苑はじっと大タコを熱心に見つめていた。
「それでは、宴会の準備をしましょうか」
酒場のマスターは、手に入れた大浅魚の調理に取りかかった。
その脇では大鍋が用意され、ぐらぐらとタコが沸かされている。
「大蛸を調理するなら任せて! こう見えて、腕に覚えはあるのよ?」
着替えを済ませ、ケイは意気揚々と大タコの準備を進める。生臭さを取るために、生姜で煮るつもりだ。
「サバイバル生活はそれなりに経験してるからな」
そういいながら菖蒲は、ケイの隣で下ごしらえを手伝う。
「たっこたっこたこさーん♪あなたはどんなお味がするのー?」
一方では輪切りになったタコ足を、リリーが丁寧に焼いていく。
余りに多いタコの身は、一部をテェンイーがもらっていた。
「酢漬けにして持って帰るねん」
そういいながら、さっさと酢漬けにしていく。
そんな面々を遠巻きに、紫苑とエルレーンが眺めていた。時折、タコ足にそのままバルバロスがかぶりつこうとしては、ケイたちに怒られていた。
鎧を洗い流してきたジョージが、再び鎧を纏って戻ってきた。
「素顔を隠しているわけではないですが……」
といいつつ、誰にも見られませんようにと行くときに呟いていたのは内緒だ。
丁度、ジョージの目の前には色とりどりの料理が並べれていた。
「すみません……僕らは倒してきただけなのにこんなご馳走を……」
そして、大タコも料理されているのを見て、
「あ、出来れば大タコの食べられる部位を持ち帰りたいのですが……」
テェンイーに渡した分だけでは余ったので、ジョージも分けてもらう。
それでも余る大タコは、マスターが新たなメニューの材料にするという。
「さぁ、食べよう」
大浅魚の包み焼きやトマト煮に、ケイの大タコの生姜煮など、数多くの料理がそこにはあった。
さっそく、リリーが我先にと飛びつき、食べ始めた。バルバロスが負けじと飛びつく。
対照的に、紫苑はモクモクと、目の前の料理を平らげていた。
エルレーンや菖蒲も宴会のムードに飲まれつつ、美味しそうに頬張る。
「マスターの料理も学ばないとね」
勉強するような心持ちで、ケイは大浅魚の料理を味わう。
未成年者以外にはお酒も振る舞われる。
「酒……酒もでるんか?」
いち早くテェンイーが反応したが、子供にはダメだとマスターに言われて怒り声を上げる。
「ウチは子供じゃないで! むきーっ!」
ケイが料理を賞賛する歌を歌い始めたり、リリーが次々と皿を空けていったりと騒がしい中で宴会は進んでいく。
美味しい料理に、楽しい宴。
それこそが、何よりの歓迎なのかもしれない。
本日は快晴なり。
ガンナ・エントラータから漁船にゆられること、数十分。ハンター達の目の前には、緑亀を思わせるような小島が見えてきた。
その砂浜には、わかりやすいくらいに堂々と大きなタコが居座っていた。ハンター達の数倍あるそいつを見ながら、ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は声を漏らす。
「大切な漁場を脅かす大タコ……放ってはおけないわね……」
「お金ももらえて腹も満たせる。一石二鳥やんな!」
その隣では、テェンイー(ka0637)が着物の裾を腰辺りまでまくりあげ、意気揚々という。
「……うわあ」
と大タコを見て、ジョージ・ユニクス(ka0442)が顔をしかめた……ように思えたがその表情は窺えない。
鉄仮面のような兜で、ジョージはその表情を隠していた。
「う……、きもちわるい。けど……がんばろう」
エルレーン(ka1020)は、げんなりした表情をあらわに大タコを見据えていた。手には、水を入れておいた水筒を抱えている。
対照的に、楽しげな表情を浮かべているのが切金・菖蒲(ka2137)だ。
「大タコか。大タコと言えば、ホクサイだな」
どこで聞いたのか、どこで見たのか、そんなことを口走る。
そして、女性のメンバーが多いのを眺めながら、
「触手プレイきたこれ」
とキリッとした武人の表情で口走っていた。
そんな女性メンバーの中には、
「巨大タコどれくらい食えるんだろう……」
とつぶやくリリー・アン(ka2117)もいた。
リリーの隣で、姫凪 紫苑(ka0797)も、
「……早く終わらせてタコ料理……」
とタコをある意味真剣な目つきで眺めていた。
リリーや紫苑の言葉に反応したのは、テェンイーだ。
「そやそや、こんなにうまそうなヤツ、見逃すなんてありえへんで!」
「終わったら魚もたくさん食べられそうだなあ……。おなかがすいてきたぞ!!」
食い気の強いリリーは、テェンイーの言葉を聞いて、よだれを垂らしかける。
「心躍る戦ではないが、これも生きる糧をえるためだ。いうなれば、狩り。次の戦いのための糧を得る狩りだ」
バルバロス(ka2119)は荒々しく拳を振り上げ、士気を高める。
漁船は大タコからやや離れて、接岸する。気付かれる前に離れなければならないため、ハンターたちはすぐさま島へ上陸を果たした。
「サクッと倒して、大浅魚とやらのお料理を味わいましょ。出来れば序でにその大蛸も、ね」
食に目覚めたリリーや紫苑に苦笑しながら、ケイが告げる。
狩りの時間が始まろうとしていた。
●
ハンターが降り立つと同時に、漁船は小島を離れていく。
次に漁船が戻ってくるのは、倒すか危なくなって合図を出したときだ。
「ほな、囮として行ってくるで」
テェンイーは動物霊の力を借り、身のこなしを軽くする。それから、バルバロスとともに大タコを引き寄せるべく、前へ出た。
バルバロスは、テェンイーの動きが軽やかになったのを見て、思い出す。自身も同じ技があるのにも、関わらず装備していなかったのだ。だが、後悔先に立たず、気持ちを切り替えていく。
「うぉおおおおおっ!」
祈るように雄叫びを上げることで、マテリアルを高め、戦意をも高揚させていく。
声を荒げることで、大タコの注意をより引きつける。
大タコのぎょろっとした双眸が、二人をとらえる。それを察し、ケイはぐるりと大回りに大タコの側面に回り込んでいった。
まだ、囮が大タコの注意を引ききっていないとケイは考え、位置取りに専念する。
ジョージをはじめ、近接を狙う者たちは大タコが飛び出してくるのをじっと待っていた。
じっとテェンイーとバルバロスを見ていた大タコは、弾けるように動き出した。触手が蠢き、グロテスクにすら見える。がばっと振り上げられ、鞭を振るうかのごとく、大ダコは触手を操る。
だが、地上での動きはやはり制限されるのか、ややもつれていた。
「うねうねしとる……ひえー、気持ち悪ぅ」
するりと精霊の力を借りるテェンイーは触手の森から抜け出す。
一方のバルバロスは、避けたと思った瞬間、多方向から迫ってきた触手に胸と足を打たれた。
「ぐるる」
唸りを上げ、バルバロスは大タコをにらみ返す。にらみ返したところで、タコはタコ。素知らぬ顔で、うねっていた。
大タコが囮役二人を狙い始めたことで、本当の戦いが始まった。
●
「さて、邪魔させてもらうわよ」
ケイは大タコの周囲を動きながら、リボルバーの撃鉄を起こす。マテリアルを籠めた一撃は、通常の射程外からの攻撃を可能にする。弾丸は回転しながら、振り上げられた大タコの触手を撃ち抜く。
撃ち抜かれた触手は気勢を削がれ、テェンイーやバルバロスに攻撃を届かすことが出来ない。
威嚇するような声をあげつつ、バルバロスはじりじりと後退する。バルバロスはマテリアルを活性化させ、思わず受けた手痛い一撃から、身体を回復させていた。
立ち替わり、触手へ襲いかかったのはジョージや紫苑、菖蒲といった近接組だ。
「守護する精霊よ、敵を滅ぼす我が加護を……征くぞ!」
剣をしかと両手で構え、ジョージは覚醒しながら自身を鼓舞する。大タコに近づきながら、その隙をうかがう。
別方向からは、模造刀を構えた菖蒲が走りながら近づいていく。
「ううっ、ぐねぐね」
近くで見れば、そのグロテスクさが前面に出てくる。
エルレーンはぐっと気持ち悪さに耐えながら、タイミングを待つ。
そんなエルレーンと対照的なのが、リリーだ。
「こんなにも大きくスクスクと育ってくれてありがとう! ああ生臭い生臭い! なんてうまそうなんだ! 愛してる!」
恍惚とした表情で、リリーは大タコを眺めていた。よだれが垂れているのは幻覚だろうか。
一方で、紫苑は落ち着いた表情で淡々と大タコとの距離を詰めていた。
「ウチを放っておくなんてつまらんことしなや!」
大タコが他の者に気を取られそうになったのを、テェンイーが一喝する。手裏剣を同時に放ったが、こちらは宙をきった。だが、牽制としては十分で、大タコの触手が真っ直ぐにテェンイーに伸びていく。
それをかわし、ときには受け流し、自らのマテリアルを活性化させ耐えていた。
こうして大タコは前線へ、完全に引っ張り出されたのだ。
●
機先を制すべく、ケイがリボルバーで圧迫を仕掛ける。遠くからの攻撃は、テェンイーとバルバロスへ向かう大タコにブレーキをかける。注意がケイと囮役に裂かれて、隙を生じさせるのだ。
「軟体だろうが、斬れない事はない!」
好機とみて、まず飛び出したのはジョージだ。砂浜にしっかりと足を踏み入れ、長剣を振り上げる。
「で、りゃああ!」
気合いとともに、振り下ろされた剣は大タコの足一本を見事に切り落とした。
ぐわんと吹っ飛んだ触手は、地面に叩きつけられてもしばらくうねっている。
「切っても、ぐねぐねしてる……。きもちわるいけど。し、しんぢゃえッ!」
囮役とケイの方向とは、まったく違うところからエルレーンが飛び出した。マテリアルを体中に巡らせ、この一瞬、動きをより洗練させる。しっかりと入れられた刃は、タコ足を切り落とすのに十分だった。
続けざまに、紫苑がなめらかな動きで短剣を振るうが、こちらは足を捉えきれなかった。
同様に、急接近したリリーも
「運命の出会いだと思って私に喰われやがれぇぇぇ!!」
と叫びを上げながら斬りかかる。
が、ダメ! 無表情な紫苑はともかく、叫びを上げながら目をキラキラさせる食欲全快のリリーだ。大タコの表情が怯えたように見えたのは間違いではないだろう。
食欲高めと言えば、別の欲も混じっていそうな菖蒲もいた。
「おさしみにしてやろう」
無駄に洗練された無駄のない無駄に素早い動きで、タコ足の間をすり抜けた菖蒲は、これまた無駄のない動きでタコ足を切り落としていた。
●
残り五本となってしまった触手が、無慈悲にもハンターを襲う。
一番の目標となったのは、やはりテェンイーだ。
「これくらい」
何ともないといおうとしたところで、隙を生じぬ二段構えの触手が振り下ろされる。テェンイーは、ガツンと頭に受け、一瞬くらっとしてしまった。巻き付こうとした触手は、バルバロスが大声を上げながら、振り払う。
一方、残りの触手は攻撃役へ向かっていた。
「やめて! ボクに乱暴するつもりでしょう!? エロドージンみたいに! エロドージンみたいに!」
どこで覚えたのか、そんな台詞を吐きながら菖蒲は触手をするりとかわす。
かわしながら、エルレーンに向かう触手を見て、
「うーむ、眼福眼福。新作の薄い本がはかどるな」
菖蒲はそんなことをいうのだった。
当のエルレーンはたまったものではない。
「うえーん、きもちわるいようー」
迫り来る触手に、大泣きしながら、辛くも逃れる。
五本目の触手が向かう先は、ジョージだ。
「やられるわけには、いかない!」
重たそうな外見ながら、スッと薙ぎ払われた触手をかわす。そこへ、真っ黒い何かが飛来する。
そう、墨だ。
幸いなことに、墨はがっちりと固めた胴部に当たる。そのあたりが黒く染まるが、視界が遮られたわけではない。
「その隙、貰う!!」
墨を被りながらも、果敢に斬りかかる。狙うは本体、墨を吐く頭の部分だ。
「この、匂いの元を断つ!」
再びグッと踏み込んで、一閃……しかし、その刃は大タコの頭には届かなかった。
代わりに、タコ足一本を確実に切り落とすのだった。
●
大タコは半数近くの足を失いながらも、ぐにょりぐにょりとハンターを追いやろうとする。
気持ち悪くのたうち回る大タコに、紫苑が表情を変えずに告げる。
「……あまり調子に乗らないで……」
言葉とともに投げられたナイフは、大タコの足に弾かれた。
だが、それこそが狙い。弾いた足へリリーが飛びこむ。
「ほらほら、調子に乗るくらいならお皿にのせてあげる」
煩悩垂れ流しながら、今度は確実にリリーの刃が大タコの足を切り伏せる。
「まだ、動けるの……」
丸裸になりつつある大タコを見据え、エルレーンは若干げんなりしていた。
活きが良いのは結構だけれど、気持ち悪いものは悪いのだ。回り込んで放った一撃は、かかりが浅かったのか、切り落とすところまではいかなかった。
ならばとここに来て、バルバロスがエルレーンの逃したタコ足をとらえに行く。途中まで切り込みの入ったそれを、ずんむと掴み……。
「ワシに任せぃいい!!」
と慟哭。ぶちぃっと引きちぎって見せた。
豪快にぶっちぎったタコ足は、この野生児ならぬ野生爺に抵抗するように蠢いていた。
「筋肉爺と触手……アリだな」
よからぬ呟きをしていたのは、菖蒲である。
残り本数がいよいよ少なくなったのを見て、ケイが大タコに急接近した。
「目と目の間、それがタコの弱点らしいけど」
狙いをつけ、ほぼ0距離のところからマテリアルの強くこもった弾丸を撃ち出す。
弾丸は大タコの頭部を貫き、青空へと突き抜けていく。まるで押し出されるようにタコの口が収縮した。
ケイは気づき、素早く横へ避けようとするが、間に合わない。半身に墨を引っ被ってしまう。
「……タコは?」
片側で大タコをケイは見ようとする。最後の抵抗とでもいうように、残った2本のタコ足を振り上げる。
だが、それらが振り下ろされることはなかった。
1本は、テェンイーの手裏剣が縫い止めていた。
残る1本は、
「……卑猥な生物はお断り……」
間に割り込んで、紫苑が切り落としていた。大タコが完全に沈黙したのを確認し、
「……無事?」
そう紫苑は聞くのだった。
●
「うおおお勝った! 焼きタコじゃああああああ!!」
開口一番、リリーが叫びを上げた。同時に、合図として狼煙を上げる。
「これっておさかな? なのかなあ……どうやって泳ぐんだろう」
漁船が来るまでの間、倒れた大タコを眺めながら、エルレーンは興味津々に呟く。
水筒の水は、ケイが墨を洗い流すのに使っていた。
漁船が来訪し、大タコと大浅魚を港まで運んでくれる。その間、リリーや紫苑はじっと大タコを熱心に見つめていた。
「それでは、宴会の準備をしましょうか」
酒場のマスターは、手に入れた大浅魚の調理に取りかかった。
その脇では大鍋が用意され、ぐらぐらとタコが沸かされている。
「大蛸を調理するなら任せて! こう見えて、腕に覚えはあるのよ?」
着替えを済ませ、ケイは意気揚々と大タコの準備を進める。生臭さを取るために、生姜で煮るつもりだ。
「サバイバル生活はそれなりに経験してるからな」
そういいながら菖蒲は、ケイの隣で下ごしらえを手伝う。
「たっこたっこたこさーん♪あなたはどんなお味がするのー?」
一方では輪切りになったタコ足を、リリーが丁寧に焼いていく。
余りに多いタコの身は、一部をテェンイーがもらっていた。
「酢漬けにして持って帰るねん」
そういいながら、さっさと酢漬けにしていく。
そんな面々を遠巻きに、紫苑とエルレーンが眺めていた。時折、タコ足にそのままバルバロスがかぶりつこうとしては、ケイたちに怒られていた。
鎧を洗い流してきたジョージが、再び鎧を纏って戻ってきた。
「素顔を隠しているわけではないですが……」
といいつつ、誰にも見られませんようにと行くときに呟いていたのは内緒だ。
丁度、ジョージの目の前には色とりどりの料理が並べれていた。
「すみません……僕らは倒してきただけなのにこんなご馳走を……」
そして、大タコも料理されているのを見て、
「あ、出来れば大タコの食べられる部位を持ち帰りたいのですが……」
テェンイーに渡した分だけでは余ったので、ジョージも分けてもらう。
それでも余る大タコは、マスターが新たなメニューの材料にするという。
「さぁ、食べよう」
大浅魚の包み焼きやトマト煮に、ケイの大タコの生姜煮など、数多くの料理がそこにはあった。
さっそく、リリーが我先にと飛びつき、食べ始めた。バルバロスが負けじと飛びつく。
対照的に、紫苑はモクモクと、目の前の料理を平らげていた。
エルレーンや菖蒲も宴会のムードに飲まれつつ、美味しそうに頬張る。
「マスターの料理も学ばないとね」
勉強するような心持ちで、ケイは大浅魚の料理を味わう。
未成年者以外にはお酒も振る舞われる。
「酒……酒もでるんか?」
いち早くテェンイーが反応したが、子供にはダメだとマスターに言われて怒り声を上げる。
「ウチは子供じゃないで! むきーっ!」
ケイが料理を賞賛する歌を歌い始めたり、リリーが次々と皿を空けていったりと騒がしい中で宴会は進んでいく。
美味しい料理に、楽しい宴。
それこそが、何よりの歓迎なのかもしれない。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談用 バルバロス(ka2119) ドワーフ|75才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/06/19 02:12:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/16 23:13:28 |