ゲスト
(ka0000)
秘密基地を奪還せよ
マスター:明乃茂人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/24 19:00
- 完成日
- 2014/12/04 23:11
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ぴんち!
――殺される。死んでしまう。
そんなことばかりが、頭のなかで繰り返されていた。
山を駆け下りながらアルは、只々必死だった。
振り返らずともわかる。ここで止まれば自分は死ぬ、確実に。
目の前に張り出す枝をくぐり抜け、足元の岩を注意して飛び越える。
着地したとき膝が笑って、もつれそうになる足をなんとか前へ運んだ。
これ以上速く走るのなんて、到底できるはずもなかった。
山で遊ぶことも日常だった、その経験からはっきりわかる。
もう限界だ、と。
くそぅ――と内心で毒づいた瞬間、
踏み込んだ先に、小さな蛙がいたことに気がついた。
慌てて踏みとどまろうとしたがもうどうしようもなく手遅れで、
ならば、と足を少しでも先に送ろうとしたらそれもできず、
仕方なく横へずれようとしたら、踏み込んだ先は蜘蛛の巣で――
咄嗟にとった行動のその尽くが、どうしようもなく裏目に出た。
もろもろの努力の結果、アルは盛大に体勢を崩し、
全力疾走の勢いを余すところなく活かして地面に突っ込んだ。
思い切り、顔面から。
●秘密基地への道行
徐々に寒さが深まる季節。山へ踏み入りつつも、アルはごきげんだった。
それは、新しい上着が想像以上に温かったからでもあったし、
街へ嫁いでいった姉ちゃんが、村へ里帰りにくるからでもあった。
山を越えるのは大変なので、中々会えずにいたのだ。
特に近頃、なにかと物騒でもあったことだし。
アルの耳には歪虚たちの情報も、時々しか入ってこなかったけれど。
そうしたあれそれが村の大人たちの顔を暗くし、
ばあちゃんにだって悲しい顔をさせていたことは、よく知っていた。
だからこそ、明るい報せは効果てきめんだった。
――姉ちゃんが、一度顔を見せにやってくる。
そう聞いたばあちゃんの顔を、自分は今でも忘れられない。
もちろん、自分だって嬉しい。
両親が死んでばあちゃんに引き取られるまで、
姉弟だけで暮らしていたこともあったのだ。
自分にとって姉ちゃんは、親の代わりみたいなもんでもある。
そんな姉ちゃんが、もうすぐ帰ってくる。
にひ、と笑いが漏れた。
あんな顔を、姉ちゃんと――あまり気に食わないが、あのにーちゃんにもさせてやろう。そう思った。
姉ちゃんを連れていったことはいまだに気に喰わないけれど、
あいつが悲しいと姉ちゃんも悲しむのだ。
それくらいは、分かっている。アルにだって考える頭くらいはある。
だからこそ前々から用意しておいた、
山のあちこちで見つかるきれいな石を集めて作ったプレゼントを、
今、こうして『秘密基地』まで取りに向かっているのだ。
●秘密基地?
秘密基地は、アルの自慢の場所だった。
木々が半ば侵食した古代の建物――遺跡、というのが一番適切だろうか。
恐らく、かつては住居だったであろう石積みの建物は、
アルの冒険ゴコロを存分に満たしてくれた。
ところどころに転がっていた武具も朽ちかけてはいたものの、
戯れに振れる程度の強度はあり、遊び道具も万全だった。
遺跡中央の広場で火をおこし、焼き芋をしてみたことだってある。
裏に開いた通路の上で、土を落とすトラップをこさえてみたりもした。
これは大成功だった。準備期間一ヶ月。ついこの間作り終えたばかりで、
恐らく実際に動かせば裏口を一発で塞げるだろう。
これで秘密基地の防衛は完璧。作り終えて、そう確信していた。
その、はずだった。
それが、どうしてこうなったのか。アルにはまるでわからなかった。
遺跡近くに踏み荒らされた草木を見つけたから、
ちょっと警戒くらいはしていた。けれど、こんなのは予想もできなかった。
なぜ、自分の秘密基地にコボルドがいるのか。
自分より小さな背丈で、軽々と肩に槍を担いでいる。
棍棒を片手に、げらげらと口から牙を覗かせて笑っている奴もいた。
中には、戯れに自分の作った机を叩き壊しているやつだっていた。
許せなかった。自分が大事にしていた場所を、どうしてあんな風にするのか。
思わず飛び出そうとして、あることに気がついた。
このままだと、プレゼントを取りにいけない。
姉ちゃんのために川で拾い集めた、とっておきの水晶も。
いけすかない兄ちゃんのために森で探しておいた、
なんだかよくわからない干し花も。
全部が全部、取りにいけない。めったに会えない二人に、
喜んでもらおうと思っていたのに。
もう一度だけコボルドたちの様子を見た。
どうやら拾った武具に気を取られているみたいで、そちらの方へ目が向いている。
迷ったのは一瞬だった。こっそりと裏口の方へ足を向ける。
そう、プレゼントを隠しているのは中央の広間。
裏から入って、こっそり抜け出ればいいのだ。
危ないが、やるしかない。そう決心して、アルは中へと踏み入ってゆく。
通路は暗かった。いつもなら灯りを持って入るけれど、今はそうもゆかない。
慎重に、慎重に進んでゆく。
見つかったら終わりだ。相手は数えられただけでも十を超える。たった一人の自分が抗えるはずが――
ぱき、と音がした。通路がようやく終わり、一つ目の広間へ入ったあたりで。
一瞬なんの音かわからず、思わず足元を確認して、
そうしてようやく、踏んだのが何か動物の骨だということがわかった。
ふぅ、と嘆息。ちょっと安心した。
――?
そこで何か、視線を感じた。ゆっくりと、灯りを横へ向ける。
――あ、
コボルドと目が合った。そりゃもうばっちりと。
一瞬の、間。
そうしてアルは駈け出した。
裏口から飛び出して、そのまま山道を最速で走り抜ける。
なにせ――命がかかっているのだから。
●ぴんち――?
なんだか顔が痛いなぁ、と最初に思った。何やら息苦しくてちょっとぼんやりする。
そこで、唸り声が聞こえた。
なんだろう――と考えて、思い出す。自分がなぜここにいるのか。
自分は、なぜ逃げていたのか。
現状を理解して、とっさに跳ね起きた時だった。
がさり、と目の前に犬面が突き出されたのは。
アルはそのまま固まって、目の合ったままコボルドが笑う。
にたぁ、と牙をむき出しにした笑いは、紛れもなくこう言っていた。
『ようやくつかまえた』、と。
死んだ、と思った。
姉ちゃんとばあちゃんと、何故かあのにーちゃんの顔が浮かんで、
最後に、もう一度だけ会いたかった。死にたくなかった。
――と、ふいに風を感じる。
何が、とかんがえる暇もなかった。本当に一瞬だったのだ。
コボルドがゆっくりと倒れて、背後から幾人もの人影が現れたのは――
●邂逅
依頼帰りの君たちはコボルドの絶命を確認し、少年に声をかけようとした。
が、動き出すのはあちらの方が早かった。
「あっ、あの! ぼくの秘密基地を、どうか取り返してください……!」
必死の形相で、少年は君たちに『依頼』をしてきたのだ。
――殺される。死んでしまう。
そんなことばかりが、頭のなかで繰り返されていた。
山を駆け下りながらアルは、只々必死だった。
振り返らずともわかる。ここで止まれば自分は死ぬ、確実に。
目の前に張り出す枝をくぐり抜け、足元の岩を注意して飛び越える。
着地したとき膝が笑って、もつれそうになる足をなんとか前へ運んだ。
これ以上速く走るのなんて、到底できるはずもなかった。
山で遊ぶことも日常だった、その経験からはっきりわかる。
もう限界だ、と。
くそぅ――と内心で毒づいた瞬間、
踏み込んだ先に、小さな蛙がいたことに気がついた。
慌てて踏みとどまろうとしたがもうどうしようもなく手遅れで、
ならば、と足を少しでも先に送ろうとしたらそれもできず、
仕方なく横へずれようとしたら、踏み込んだ先は蜘蛛の巣で――
咄嗟にとった行動のその尽くが、どうしようもなく裏目に出た。
もろもろの努力の結果、アルは盛大に体勢を崩し、
全力疾走の勢いを余すところなく活かして地面に突っ込んだ。
思い切り、顔面から。
●秘密基地への道行
徐々に寒さが深まる季節。山へ踏み入りつつも、アルはごきげんだった。
それは、新しい上着が想像以上に温かったからでもあったし、
街へ嫁いでいった姉ちゃんが、村へ里帰りにくるからでもあった。
山を越えるのは大変なので、中々会えずにいたのだ。
特に近頃、なにかと物騒でもあったことだし。
アルの耳には歪虚たちの情報も、時々しか入ってこなかったけれど。
そうしたあれそれが村の大人たちの顔を暗くし、
ばあちゃんにだって悲しい顔をさせていたことは、よく知っていた。
だからこそ、明るい報せは効果てきめんだった。
――姉ちゃんが、一度顔を見せにやってくる。
そう聞いたばあちゃんの顔を、自分は今でも忘れられない。
もちろん、自分だって嬉しい。
両親が死んでばあちゃんに引き取られるまで、
姉弟だけで暮らしていたこともあったのだ。
自分にとって姉ちゃんは、親の代わりみたいなもんでもある。
そんな姉ちゃんが、もうすぐ帰ってくる。
にひ、と笑いが漏れた。
あんな顔を、姉ちゃんと――あまり気に食わないが、あのにーちゃんにもさせてやろう。そう思った。
姉ちゃんを連れていったことはいまだに気に喰わないけれど、
あいつが悲しいと姉ちゃんも悲しむのだ。
それくらいは、分かっている。アルにだって考える頭くらいはある。
だからこそ前々から用意しておいた、
山のあちこちで見つかるきれいな石を集めて作ったプレゼントを、
今、こうして『秘密基地』まで取りに向かっているのだ。
●秘密基地?
秘密基地は、アルの自慢の場所だった。
木々が半ば侵食した古代の建物――遺跡、というのが一番適切だろうか。
恐らく、かつては住居だったであろう石積みの建物は、
アルの冒険ゴコロを存分に満たしてくれた。
ところどころに転がっていた武具も朽ちかけてはいたものの、
戯れに振れる程度の強度はあり、遊び道具も万全だった。
遺跡中央の広場で火をおこし、焼き芋をしてみたことだってある。
裏に開いた通路の上で、土を落とすトラップをこさえてみたりもした。
これは大成功だった。準備期間一ヶ月。ついこの間作り終えたばかりで、
恐らく実際に動かせば裏口を一発で塞げるだろう。
これで秘密基地の防衛は完璧。作り終えて、そう確信していた。
その、はずだった。
それが、どうしてこうなったのか。アルにはまるでわからなかった。
遺跡近くに踏み荒らされた草木を見つけたから、
ちょっと警戒くらいはしていた。けれど、こんなのは予想もできなかった。
なぜ、自分の秘密基地にコボルドがいるのか。
自分より小さな背丈で、軽々と肩に槍を担いでいる。
棍棒を片手に、げらげらと口から牙を覗かせて笑っている奴もいた。
中には、戯れに自分の作った机を叩き壊しているやつだっていた。
許せなかった。自分が大事にしていた場所を、どうしてあんな風にするのか。
思わず飛び出そうとして、あることに気がついた。
このままだと、プレゼントを取りにいけない。
姉ちゃんのために川で拾い集めた、とっておきの水晶も。
いけすかない兄ちゃんのために森で探しておいた、
なんだかよくわからない干し花も。
全部が全部、取りにいけない。めったに会えない二人に、
喜んでもらおうと思っていたのに。
もう一度だけコボルドたちの様子を見た。
どうやら拾った武具に気を取られているみたいで、そちらの方へ目が向いている。
迷ったのは一瞬だった。こっそりと裏口の方へ足を向ける。
そう、プレゼントを隠しているのは中央の広間。
裏から入って、こっそり抜け出ればいいのだ。
危ないが、やるしかない。そう決心して、アルは中へと踏み入ってゆく。
通路は暗かった。いつもなら灯りを持って入るけれど、今はそうもゆかない。
慎重に、慎重に進んでゆく。
見つかったら終わりだ。相手は数えられただけでも十を超える。たった一人の自分が抗えるはずが――
ぱき、と音がした。通路がようやく終わり、一つ目の広間へ入ったあたりで。
一瞬なんの音かわからず、思わず足元を確認して、
そうしてようやく、踏んだのが何か動物の骨だということがわかった。
ふぅ、と嘆息。ちょっと安心した。
――?
そこで何か、視線を感じた。ゆっくりと、灯りを横へ向ける。
――あ、
コボルドと目が合った。そりゃもうばっちりと。
一瞬の、間。
そうしてアルは駈け出した。
裏口から飛び出して、そのまま山道を最速で走り抜ける。
なにせ――命がかかっているのだから。
●ぴんち――?
なんだか顔が痛いなぁ、と最初に思った。何やら息苦しくてちょっとぼんやりする。
そこで、唸り声が聞こえた。
なんだろう――と考えて、思い出す。自分がなぜここにいるのか。
自分は、なぜ逃げていたのか。
現状を理解して、とっさに跳ね起きた時だった。
がさり、と目の前に犬面が突き出されたのは。
アルはそのまま固まって、目の合ったままコボルドが笑う。
にたぁ、と牙をむき出しにした笑いは、紛れもなくこう言っていた。
『ようやくつかまえた』、と。
死んだ、と思った。
姉ちゃんとばあちゃんと、何故かあのにーちゃんの顔が浮かんで、
最後に、もう一度だけ会いたかった。死にたくなかった。
――と、ふいに風を感じる。
何が、とかんがえる暇もなかった。本当に一瞬だったのだ。
コボルドがゆっくりと倒れて、背後から幾人もの人影が現れたのは――
●邂逅
依頼帰りの君たちはコボルドの絶命を確認し、少年に声をかけようとした。
が、動き出すのはあちらの方が早かった。
「あっ、あの! ぼくの秘密基地を、どうか取り返してください……!」
必死の形相で、少年は君たちに『依頼』をしてきたのだ。
リプレイ本文
●
「――どうか取り返してください……!」
「秘密基地、とな?」
と、怪訝な顔で言うのは銀髪のドワーフ、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)。
依頼後の帰り道で出会ったこの少年。何やら額に怪我もしているし、コボルドに殺されかけているしで、どう見ても厄介事に巻きこまれているようだった。
これは事情を聞くしかあるまいと、仲間たちと共に話を聞いてみる。
少年――アル、というらしい――曰く、この先の遺跡にコボルドがいる。そこは自分の秘密基地で、大事なプレゼントも中に置いてきたままで、どうにかそれを取り戻したい、と。
少年が説明を終えると一同は、無言でお互いの顔を見回した。
聞いたからには、助けてやりたいのが人情だ。だが、自分たちは別の任務を終えた帰り道。万全の状態とは言い辛い。もし失敗すれば――と、プロであるからこそ一行は考えた。
しかし、そこで明るくテトラ・ティーニストラ(ka3565)は言ったのだ。
「やはー! あったしたちに任せといて!」
弾けるような笑顔で、レーヴェや一行へも笑いかけながら、
「この美少女エルフ、テトラちゃんと仲間たちが何とかしてあげるのだ!」
テンション高く言い切ってのけたテトラを見て、ふっと白金 綾瀬(ka0774)の表情が緩んだ。
きょとん、としたアルへ向けて、綾瀬はゆっくりと口を開いた。
「……まったく、そんな必死な顔で頼まれたら、見過ごせないじゃない」
そう言って、てきぱきと聞くべきことを聞き出してゆく。
「見取り図、プレゼントの場所、罠……聞くことは、粗方聞けたでしょうか」
テトラのメモを覗きこみつつ、Luegner(ka1934)が呟くと、
「そうですか、ならば……」
藤田 武(ka3286)がアルへ近づき、そっと額へ手をかざした。
柔らかい光が掌に集まり、傷を癒していく。
「これでひとまず大丈夫でしょう。アル様は、どうか先に村へ戻っていてください」
『ヒール』を終えると、最後に武はこう結んだ。
「貴方に、神の祝福を」
●
アルを見送ってから一行は、大まかな役割分担だけ決めるとすぐに出発した。
なにせ、アルが逃げてきてからさほど時間も経っていないのだ。
もしかすると追手のコボルドが近くにいるかもしれない。依然、油断は許されない状況だった。
その中で、Luegner、武、レーヴェの三人は、大きな物音を立てながら遺跡へと近づいていった。
「……どうやら、他に追手はいなかったようですね……」
木々の合間から遺跡が見える距離になってluegnerがそう呟くと、
「そのようじゃ。わざわざ囮役を買って出たというに、拍子抜けじゃのう」
周囲へ隈なく目をやっていたレーヴェは、ふぅ、と一息ついて目頭を揉んだ。
「ですが、これで一安心です。この様子なら、アル様も無事に村へ辿りつけたでしょうから」
最後尾の武も、少しだけ表情を緩ませる。が、三人はすぐに気を引き締めた。
一行の視線の先は、遺跡の広場をうろつくコボルドたちだ。
数は二体、まだこちらには気づいていないようだった。
「では……手筈通りに」
そう言って、luegnerは広場の方へ駈け出した。
森の暗がりから飛び出すと、日向の眩しさから一瞬目を閉じてしまい――
轟音、
再び目を開いたluegnerの視界に移ったのは、脚から血を吹き出して倒れるコボルドの姿だった。更に光弾が背後から飛び出して、もう一方のコボルドの手元に着弾。迎え撃つべく構えた槍を、その手から叩き落とした。
打ち合わせ通り、レーヴェは後衛でコボルドの足止め、武は中距離から連絡・回復・光弾での攻撃など、サポートを主に動いてくれている。
luegnerが走る間にも更に支援は続く。
倒れたコボルドへは武の『ホーリーライト』、着実にとどめが刺され、
武器を拾おうとした一体はその伸ばした腕を吹き飛ばされた。
レーヴェの『エイミング』、マテリアルの恩恵を受けた射撃は、的確に相手の戦闘能力を削いでいった。
その隙に広場へたどり着いたluegnerは、鞭と盾を構えて中央で身構えた。
暗がりから飛び出してくる陰に向かい、手に持った鞭が音高く振るわれ、弾丸が唸り光弾が飛んでゆく。
●
「どうやら始まったみたい」
微かに、銃声と雄叫びが聞こえてきていた。その中で、綾瀬はじっと裏口の様子を窺っていた。
「だねぇ。コボルドたちも、みんなあっちに行ってくれてるのかな?」
隣に座るテトラも、靴の調子を確認しながらも裏口から目を離さない。
ここに来るまでに、役割分担はきっちり話してあった。
綾瀬が前衛で囮、テトラが潜入役だ。
やることが明確なだけに、両者の顔に迷いはない。
「……来たわ」
トランシーバーに着信。二人はそっと目配せをしあうと、裏口へ静かに向かっていった。
中へは綾瀬が先に入る。LEDライトで前方の警戒をするのだ。
「便利だよね、そのランプ。武器にも付けられるんだ」
テトラが呟くも、声以外の音は一切聞こえなかった。恐らく靴のお陰なのだろう。
「――止まって」
前、曲がり角の先から足音。数は三。音から窺う限り、長物を三本携えているようだ。
「……居る?」
背後からの抑えた声。綾瀬はそっと振り向いて、
「三体。武装してるわ」
手元の見取り図を確認する。
この角を曲がれば、プレゼントまではもうすぐだった。
しかしこの先は通路の幅が広くなるくらいで、迂回路はない。
戦闘は回避してこれていた。囮班のお陰で、コボルドの姿を見ることもなかったのだ。
ここまでは。
「……どうしよう、外まで引きつけて戦う?」
テトラの提案にも一理ある、だが――
仲間たちは今、かなりの激戦を強いられている。元々数的に不利なのだ。もし囲まれ、前衛であるluegnerの処理能力を越えてしまっていたら、どうなるか。
冷静に考え、綾瀬は低い声で聞く。
「私が隙を作るわ。その隙に突破、行けそう?」
「もっちろん。走るのは得意なんだから……!」
「分かったわ。なら、3カウントで行くわよ」
言って、綾瀬は指をゆっくりと立てる。そしてLEDライトを一旦消した。少々の間、深呼吸。
暗がりに慣れたテトラの目前で、指が一本ずつ倒れていき――
「――今ッ」
言うと同時、綾瀬は角から身を乗り出すと、先頭の一体へ向けて引き金を引いた。
弾丸は松明へ命中、火が灯っていた先端を粉微塵に打ち砕いた。
コボルド達はうろたえ、咄嗟にこちらへ目をやった。そこへ、綾瀬が更に畳み掛ける。
視線がこちらへ集まった瞬間に、LEDライトを点灯させたのだ。
松明とは比べ物にならない光が闇を切り裂き、薄闇に慣れた目を眩ませた。
そこへ素早くテトラが飛び出し、縦に並んだコボルド達の脇をすり抜けていく。合わせて綾瀬の弾丸がコボルド達のすぐ側に着弾し、自由な行動を許さない。
テトラは前方の広間へ飛び込むと、すぐさまプレゼントの隠し場所へ向かった。幸いにも近くには、すれ違った三体以外はいなかったようだ。中にコボルドの姿は無い。
ほっと息をついて、プレゼントを背中の綿入り袋へしまい込む。
これで半分は依頼達成。残るはコボルド掃討だ。
改めて気合を入れ直し、テトラは今きた道へ取って返した。
綾瀬の方はと言えば、見事にコボルドを引きつけることには成功していた。
アサルトライフルと刃物。射程の差が如実に出た、と言えなくもないかもしれない。テトラの気配も、『威嚇射撃』で喧騒の中に紛れこませていた。
が、しかし。数の差は当然の如くある。
今のままなら決め手が足りない。引きつけられてはいても、トドメには至らない。
故に、ここで手を打つ必要が有った。
柱の陰や壁のくぼみに隠れたコボルド達。奴らは三体。どれが何処に隠れたのか、今ならきっちりと把握できている。
――これならば、やれる。
咄嗟に決断、狙いは一番近い一体。隠れた柱の一点へ向けて、三点バーストを叩き込む。
「ガッ!?」
壁で弾丸が爆ぜる火花と、断末魔。どうやら狙いは成ったようだ。
そう、『跳弾』を駆使した攻撃は見事にコボルドを一体倒していた
材質を見て成功しそうだと踏んだが、どうやら正解だったようだ。
と、そこで弾倉の弾が尽き、咄嗟に『エイミング』。
一瞬だけ弾幕が止み、残る二体のコボルドが間を詰めてきて、
「……ッ!」
その時、マテリアルで強化された瞳はもう一人の姿を捉えた。
「閃いて……碧色の風!」
コボルドの間をすり抜けて、碧い風が疾る。
すれ違いざまに一体の首を両断、どこか間の抜けた表情でコボルドの首が飛ぶ。
「おまたせしましたっ!」
綾瀬の隣に滑りこむのはやはりテトラで、背中の袋をばっちり指さしている。
「……先に行って!」
言うが早いが綾瀬とテトラは外へ向かって駈け出した。
順番はテトラが先。銃を持っている綾瀬が殿を守る形だ。
瞬く間に通路を駆け抜け、二人は裏口から外へ飛び出した。
「ぷはーっ! やーっと抜けたぁ!」
「下がって! 仕掛け、撃ち抜くわ!」
綾瀬はそう言うと、裏口の上に刺さった木の板を狙い撃った。
支えが砕けて、積んであった土と岩が裏口へと降り注いだ。
土埃が晴れると、先程まで開いていたはずの通路は、すっかり土に埋まってしまっていた。
「……これ、子供のイタズラにしては凄いよね!? 完っ全に埋まっちゃってるよ!」
驚きの声を上げるテトラをよそに、綾瀬は裏口跡へ近づいて完全にふさがっているかを確かめた。調査を終えるとトランシーバーを取り出して、
「こちら綾瀬。裏口の封鎖、確かに完了したわ」
●
「裏口の封鎖、完了したそうです!」
武が大声で告げると、まず近くに居たレーヴェが先に反応した。
「ふむ。それはよいのぅ。……だが、一先ずはあちらに集中じゃ……!」
喋りながらも手を休めてはいない。レーヴェは2つある入口のうち片方を、広場から離れた森からの射撃で、完全に封じ込めていた。
光が届く範囲だけでも、手足を撃たれて動きを封じられたコボルドが何体も倒れている。
しかし、封じ込めてはいるが、それも全てではない。
もう片方から出てきたコボルドは、luegnerが懸命に食い止めていた。
思った以上に囮の効果はあったようで、かなりの数のコボルドが表口から出てきていたのだ。
「……くっ……中々……!」
『踏み込み』からの『強打』。体重の乗った一撃はマテリアルにより強化され、更にその威力を増している。
周囲をなぎ払うような一閃。打ち据えられたコボルドたちが吹き飛び、luegnerの周りに空間が生じた。そのまま後ろに跳躍、入り口から少し距離を取る。
消極的に時間を稼ぐよりも、むしろ攻撃的な動きに徹した方が得策だと思っていた。結果、残るコボルドの数はかなり少ない。が、代償も大きかった。
コボルドから距離を取ったluegnerの身体が、薄く発光する。
『マテリアルヒーリング』、身体に流れるマテリアルを活性化させ、傷の修復を計ったのだ。
みるみるうちに傷は癒えていき、多少はマシになった――が、これで打ち止めだ。もう、回復させることはできそうにない。
しかし、まだ敵は残っている。
回復の隙にコボルドが、すぐ近くまで迫っていた。手に持った棍棒を振りかぶり、下卑た笑いを浮かべている。
一撃を受け流そうと盾を構えた瞬間、脚が縺れた。
「――ッ!」
倒れこんで、棍棒を盾で受ける。思いの外疲れていて、盾を持った腕が痺れた。次の一撃は堪えきれない。そう、思ったところで、
「luegner様!」
瞬間、目の前のコボルドが吹き飛んだ。棍棒を持った腕を撃ち抜かれて、入り口近くまで転がっていく。
合わせて、身体が温かい光に包まれる。痛みが和らいで、腕の傷が癒やされていくのが見えた。
思わず振り返れば、合掌し、祈りを捧げた姿勢の武と、
銃口から硝煙を立ち上らせる、レーヴェの姿が見えた。
「残りはあと少し、もうひと踏ん張りじゃて」
にたり、と笑ってレーヴェはそう嘯いてみせる。
「えぇ。連絡も終えましたし、私ももう少し支援ができそうです。あと一息ですよ」
祈りの構えから杖を手に持ち直した武も、疲れはあれど力強く言い切ってみせた。
「そう、ですね……もう少し、です……」
実際は、暗い遺跡の中に踏み込んで安全確認をするなど、やるべきことはまだ残っている。
しかし、そういうことではないのだ。
「右一体、こちらで処理します! 左は――」
武が右側から回り込もうとしたコボルドへ光弾を撃ちこむと、
「――了解じゃ」
レーヴェが広場の左で這いずっていた一体へ狙撃、確実に動きを止める。
「ふむ、こいつもおまけしておこうか」
更には広場から開いた入り口、そこから出てこようとしたコボルドへの足止めも忘れない。と、
「えぇ、……そろそろ、中へ踏み入る準備をしておきましょうか」
頃合いを見てか、武が手に持ったロッドにそっと光を灯らせる。
『シャイン』、光の精霊の助けを借りて、暗闇を行動する助けとする魔法だ。
今、ここにはお互いがサポートしあう仲間が居て、共に戦っている。
「おーい! 向こう終わったから、手伝いに来たよー!」
「支援するわ……と、遺跡外のコボルドはもういないのかしら?」
そう言って、テトラと綾瀬も合流してきた。
ならば残りの作業も、なんということはない――
●
安全確認を終えた一行がアルの村へ立ち寄ったのは、日も暮れてから随分と経った頃だった。
村長へ事の経緯を説明しに行ったレーヴェは途中、ある老婆に話しかけられた。
「ふむ、どうしたのじゃ? ご老人」
と、初めは理由がわからなかったものの、アルの祖母だと告げられた。
話をしていると、危ないことをしたからアルがこっぴどく叱られた、ということを聞く。
「いやいや、お孫さんは褒められることをした、と思いますがのぅ……?」
にやり、と答える顔にはニヒルな笑みが浮かんでいる。
アル当人はと言えば、luegnerにかるーくではあるが説教をされていた。こんな具合に。
「プレゼントを渡すのは、もちろん大切ですが……
なにより、命あっての話です。健康でいて……
なにより笑顔でいることが……一番、大切ですよ……」
luegnerの説教は、プレゼントを渡しにきた武がくるまで続いた。
もっとも武の方は、
「プレゼントは無事回収しました。お姉様達が喜んでくださると良いですね。
どうかアル様や皆様方に、神の祝福がありますよう……」
と言って祈りを捧げるくらいの、あっさりした別れだったが。
ハンターたちが去って、数日後の朝である。
よく晴れた秋晴れの下、アルは村のはずれの道端に座っていた。
今日は、姉ちゃんたちが帰ってくる日なのだ。
だからアルは待っていた。
取り返してもらったプレゼントと、満面の笑みを用意して……
「――どうか取り返してください……!」
「秘密基地、とな?」
と、怪訝な顔で言うのは銀髪のドワーフ、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)。
依頼後の帰り道で出会ったこの少年。何やら額に怪我もしているし、コボルドに殺されかけているしで、どう見ても厄介事に巻きこまれているようだった。
これは事情を聞くしかあるまいと、仲間たちと共に話を聞いてみる。
少年――アル、というらしい――曰く、この先の遺跡にコボルドがいる。そこは自分の秘密基地で、大事なプレゼントも中に置いてきたままで、どうにかそれを取り戻したい、と。
少年が説明を終えると一同は、無言でお互いの顔を見回した。
聞いたからには、助けてやりたいのが人情だ。だが、自分たちは別の任務を終えた帰り道。万全の状態とは言い辛い。もし失敗すれば――と、プロであるからこそ一行は考えた。
しかし、そこで明るくテトラ・ティーニストラ(ka3565)は言ったのだ。
「やはー! あったしたちに任せといて!」
弾けるような笑顔で、レーヴェや一行へも笑いかけながら、
「この美少女エルフ、テトラちゃんと仲間たちが何とかしてあげるのだ!」
テンション高く言い切ってのけたテトラを見て、ふっと白金 綾瀬(ka0774)の表情が緩んだ。
きょとん、としたアルへ向けて、綾瀬はゆっくりと口を開いた。
「……まったく、そんな必死な顔で頼まれたら、見過ごせないじゃない」
そう言って、てきぱきと聞くべきことを聞き出してゆく。
「見取り図、プレゼントの場所、罠……聞くことは、粗方聞けたでしょうか」
テトラのメモを覗きこみつつ、Luegner(ka1934)が呟くと、
「そうですか、ならば……」
藤田 武(ka3286)がアルへ近づき、そっと額へ手をかざした。
柔らかい光が掌に集まり、傷を癒していく。
「これでひとまず大丈夫でしょう。アル様は、どうか先に村へ戻っていてください」
『ヒール』を終えると、最後に武はこう結んだ。
「貴方に、神の祝福を」
●
アルを見送ってから一行は、大まかな役割分担だけ決めるとすぐに出発した。
なにせ、アルが逃げてきてからさほど時間も経っていないのだ。
もしかすると追手のコボルドが近くにいるかもしれない。依然、油断は許されない状況だった。
その中で、Luegner、武、レーヴェの三人は、大きな物音を立てながら遺跡へと近づいていった。
「……どうやら、他に追手はいなかったようですね……」
木々の合間から遺跡が見える距離になってluegnerがそう呟くと、
「そのようじゃ。わざわざ囮役を買って出たというに、拍子抜けじゃのう」
周囲へ隈なく目をやっていたレーヴェは、ふぅ、と一息ついて目頭を揉んだ。
「ですが、これで一安心です。この様子なら、アル様も無事に村へ辿りつけたでしょうから」
最後尾の武も、少しだけ表情を緩ませる。が、三人はすぐに気を引き締めた。
一行の視線の先は、遺跡の広場をうろつくコボルドたちだ。
数は二体、まだこちらには気づいていないようだった。
「では……手筈通りに」
そう言って、luegnerは広場の方へ駈け出した。
森の暗がりから飛び出すと、日向の眩しさから一瞬目を閉じてしまい――
轟音、
再び目を開いたluegnerの視界に移ったのは、脚から血を吹き出して倒れるコボルドの姿だった。更に光弾が背後から飛び出して、もう一方のコボルドの手元に着弾。迎え撃つべく構えた槍を、その手から叩き落とした。
打ち合わせ通り、レーヴェは後衛でコボルドの足止め、武は中距離から連絡・回復・光弾での攻撃など、サポートを主に動いてくれている。
luegnerが走る間にも更に支援は続く。
倒れたコボルドへは武の『ホーリーライト』、着実にとどめが刺され、
武器を拾おうとした一体はその伸ばした腕を吹き飛ばされた。
レーヴェの『エイミング』、マテリアルの恩恵を受けた射撃は、的確に相手の戦闘能力を削いでいった。
その隙に広場へたどり着いたluegnerは、鞭と盾を構えて中央で身構えた。
暗がりから飛び出してくる陰に向かい、手に持った鞭が音高く振るわれ、弾丸が唸り光弾が飛んでゆく。
●
「どうやら始まったみたい」
微かに、銃声と雄叫びが聞こえてきていた。その中で、綾瀬はじっと裏口の様子を窺っていた。
「だねぇ。コボルドたちも、みんなあっちに行ってくれてるのかな?」
隣に座るテトラも、靴の調子を確認しながらも裏口から目を離さない。
ここに来るまでに、役割分担はきっちり話してあった。
綾瀬が前衛で囮、テトラが潜入役だ。
やることが明確なだけに、両者の顔に迷いはない。
「……来たわ」
トランシーバーに着信。二人はそっと目配せをしあうと、裏口へ静かに向かっていった。
中へは綾瀬が先に入る。LEDライトで前方の警戒をするのだ。
「便利だよね、そのランプ。武器にも付けられるんだ」
テトラが呟くも、声以外の音は一切聞こえなかった。恐らく靴のお陰なのだろう。
「――止まって」
前、曲がり角の先から足音。数は三。音から窺う限り、長物を三本携えているようだ。
「……居る?」
背後からの抑えた声。綾瀬はそっと振り向いて、
「三体。武装してるわ」
手元の見取り図を確認する。
この角を曲がれば、プレゼントまではもうすぐだった。
しかしこの先は通路の幅が広くなるくらいで、迂回路はない。
戦闘は回避してこれていた。囮班のお陰で、コボルドの姿を見ることもなかったのだ。
ここまでは。
「……どうしよう、外まで引きつけて戦う?」
テトラの提案にも一理ある、だが――
仲間たちは今、かなりの激戦を強いられている。元々数的に不利なのだ。もし囲まれ、前衛であるluegnerの処理能力を越えてしまっていたら、どうなるか。
冷静に考え、綾瀬は低い声で聞く。
「私が隙を作るわ。その隙に突破、行けそう?」
「もっちろん。走るのは得意なんだから……!」
「分かったわ。なら、3カウントで行くわよ」
言って、綾瀬は指をゆっくりと立てる。そしてLEDライトを一旦消した。少々の間、深呼吸。
暗がりに慣れたテトラの目前で、指が一本ずつ倒れていき――
「――今ッ」
言うと同時、綾瀬は角から身を乗り出すと、先頭の一体へ向けて引き金を引いた。
弾丸は松明へ命中、火が灯っていた先端を粉微塵に打ち砕いた。
コボルド達はうろたえ、咄嗟にこちらへ目をやった。そこへ、綾瀬が更に畳み掛ける。
視線がこちらへ集まった瞬間に、LEDライトを点灯させたのだ。
松明とは比べ物にならない光が闇を切り裂き、薄闇に慣れた目を眩ませた。
そこへ素早くテトラが飛び出し、縦に並んだコボルド達の脇をすり抜けていく。合わせて綾瀬の弾丸がコボルド達のすぐ側に着弾し、自由な行動を許さない。
テトラは前方の広間へ飛び込むと、すぐさまプレゼントの隠し場所へ向かった。幸いにも近くには、すれ違った三体以外はいなかったようだ。中にコボルドの姿は無い。
ほっと息をついて、プレゼントを背中の綿入り袋へしまい込む。
これで半分は依頼達成。残るはコボルド掃討だ。
改めて気合を入れ直し、テトラは今きた道へ取って返した。
綾瀬の方はと言えば、見事にコボルドを引きつけることには成功していた。
アサルトライフルと刃物。射程の差が如実に出た、と言えなくもないかもしれない。テトラの気配も、『威嚇射撃』で喧騒の中に紛れこませていた。
が、しかし。数の差は当然の如くある。
今のままなら決め手が足りない。引きつけられてはいても、トドメには至らない。
故に、ここで手を打つ必要が有った。
柱の陰や壁のくぼみに隠れたコボルド達。奴らは三体。どれが何処に隠れたのか、今ならきっちりと把握できている。
――これならば、やれる。
咄嗟に決断、狙いは一番近い一体。隠れた柱の一点へ向けて、三点バーストを叩き込む。
「ガッ!?」
壁で弾丸が爆ぜる火花と、断末魔。どうやら狙いは成ったようだ。
そう、『跳弾』を駆使した攻撃は見事にコボルドを一体倒していた
材質を見て成功しそうだと踏んだが、どうやら正解だったようだ。
と、そこで弾倉の弾が尽き、咄嗟に『エイミング』。
一瞬だけ弾幕が止み、残る二体のコボルドが間を詰めてきて、
「……ッ!」
その時、マテリアルで強化された瞳はもう一人の姿を捉えた。
「閃いて……碧色の風!」
コボルドの間をすり抜けて、碧い風が疾る。
すれ違いざまに一体の首を両断、どこか間の抜けた表情でコボルドの首が飛ぶ。
「おまたせしましたっ!」
綾瀬の隣に滑りこむのはやはりテトラで、背中の袋をばっちり指さしている。
「……先に行って!」
言うが早いが綾瀬とテトラは外へ向かって駈け出した。
順番はテトラが先。銃を持っている綾瀬が殿を守る形だ。
瞬く間に通路を駆け抜け、二人は裏口から外へ飛び出した。
「ぷはーっ! やーっと抜けたぁ!」
「下がって! 仕掛け、撃ち抜くわ!」
綾瀬はそう言うと、裏口の上に刺さった木の板を狙い撃った。
支えが砕けて、積んであった土と岩が裏口へと降り注いだ。
土埃が晴れると、先程まで開いていたはずの通路は、すっかり土に埋まってしまっていた。
「……これ、子供のイタズラにしては凄いよね!? 完っ全に埋まっちゃってるよ!」
驚きの声を上げるテトラをよそに、綾瀬は裏口跡へ近づいて完全にふさがっているかを確かめた。調査を終えるとトランシーバーを取り出して、
「こちら綾瀬。裏口の封鎖、確かに完了したわ」
●
「裏口の封鎖、完了したそうです!」
武が大声で告げると、まず近くに居たレーヴェが先に反応した。
「ふむ。それはよいのぅ。……だが、一先ずはあちらに集中じゃ……!」
喋りながらも手を休めてはいない。レーヴェは2つある入口のうち片方を、広場から離れた森からの射撃で、完全に封じ込めていた。
光が届く範囲だけでも、手足を撃たれて動きを封じられたコボルドが何体も倒れている。
しかし、封じ込めてはいるが、それも全てではない。
もう片方から出てきたコボルドは、luegnerが懸命に食い止めていた。
思った以上に囮の効果はあったようで、かなりの数のコボルドが表口から出てきていたのだ。
「……くっ……中々……!」
『踏み込み』からの『強打』。体重の乗った一撃はマテリアルにより強化され、更にその威力を増している。
周囲をなぎ払うような一閃。打ち据えられたコボルドたちが吹き飛び、luegnerの周りに空間が生じた。そのまま後ろに跳躍、入り口から少し距離を取る。
消極的に時間を稼ぐよりも、むしろ攻撃的な動きに徹した方が得策だと思っていた。結果、残るコボルドの数はかなり少ない。が、代償も大きかった。
コボルドから距離を取ったluegnerの身体が、薄く発光する。
『マテリアルヒーリング』、身体に流れるマテリアルを活性化させ、傷の修復を計ったのだ。
みるみるうちに傷は癒えていき、多少はマシになった――が、これで打ち止めだ。もう、回復させることはできそうにない。
しかし、まだ敵は残っている。
回復の隙にコボルドが、すぐ近くまで迫っていた。手に持った棍棒を振りかぶり、下卑た笑いを浮かべている。
一撃を受け流そうと盾を構えた瞬間、脚が縺れた。
「――ッ!」
倒れこんで、棍棒を盾で受ける。思いの外疲れていて、盾を持った腕が痺れた。次の一撃は堪えきれない。そう、思ったところで、
「luegner様!」
瞬間、目の前のコボルドが吹き飛んだ。棍棒を持った腕を撃ち抜かれて、入り口近くまで転がっていく。
合わせて、身体が温かい光に包まれる。痛みが和らいで、腕の傷が癒やされていくのが見えた。
思わず振り返れば、合掌し、祈りを捧げた姿勢の武と、
銃口から硝煙を立ち上らせる、レーヴェの姿が見えた。
「残りはあと少し、もうひと踏ん張りじゃて」
にたり、と笑ってレーヴェはそう嘯いてみせる。
「えぇ。連絡も終えましたし、私ももう少し支援ができそうです。あと一息ですよ」
祈りの構えから杖を手に持ち直した武も、疲れはあれど力強く言い切ってみせた。
「そう、ですね……もう少し、です……」
実際は、暗い遺跡の中に踏み込んで安全確認をするなど、やるべきことはまだ残っている。
しかし、そういうことではないのだ。
「右一体、こちらで処理します! 左は――」
武が右側から回り込もうとしたコボルドへ光弾を撃ちこむと、
「――了解じゃ」
レーヴェが広場の左で這いずっていた一体へ狙撃、確実に動きを止める。
「ふむ、こいつもおまけしておこうか」
更には広場から開いた入り口、そこから出てこようとしたコボルドへの足止めも忘れない。と、
「えぇ、……そろそろ、中へ踏み入る準備をしておきましょうか」
頃合いを見てか、武が手に持ったロッドにそっと光を灯らせる。
『シャイン』、光の精霊の助けを借りて、暗闇を行動する助けとする魔法だ。
今、ここにはお互いがサポートしあう仲間が居て、共に戦っている。
「おーい! 向こう終わったから、手伝いに来たよー!」
「支援するわ……と、遺跡外のコボルドはもういないのかしら?」
そう言って、テトラと綾瀬も合流してきた。
ならば残りの作業も、なんということはない――
●
安全確認を終えた一行がアルの村へ立ち寄ったのは、日も暮れてから随分と経った頃だった。
村長へ事の経緯を説明しに行ったレーヴェは途中、ある老婆に話しかけられた。
「ふむ、どうしたのじゃ? ご老人」
と、初めは理由がわからなかったものの、アルの祖母だと告げられた。
話をしていると、危ないことをしたからアルがこっぴどく叱られた、ということを聞く。
「いやいや、お孫さんは褒められることをした、と思いますがのぅ……?」
にやり、と答える顔にはニヒルな笑みが浮かんでいる。
アル当人はと言えば、luegnerにかるーくではあるが説教をされていた。こんな具合に。
「プレゼントを渡すのは、もちろん大切ですが……
なにより、命あっての話です。健康でいて……
なにより笑顔でいることが……一番、大切ですよ……」
luegnerの説教は、プレゼントを渡しにきた武がくるまで続いた。
もっとも武の方は、
「プレゼントは無事回収しました。お姉様達が喜んでくださると良いですね。
どうかアル様や皆様方に、神の祝福がありますよう……」
と言って祈りを捧げるくらいの、あっさりした別れだったが。
ハンターたちが去って、数日後の朝である。
よく晴れた秋晴れの下、アルは村のはずれの道端に座っていた。
今日は、姉ちゃんたちが帰ってくる日なのだ。
だからアルは待っていた。
取り返してもらったプレゼントと、満面の笑みを用意して……
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 4人 |
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相談卓 Luegner(ka1934) 人間(リアルブルー)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/11/24 16:05:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/19 23:53:13 |