秘密基地を奪還せよ

マスター:明乃茂人

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/11/24 19:00
完成日
2014/12/04 23:11

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ぴんち!
 ――殺される。死んでしまう。
 そんなことばかりが、頭のなかで繰り返されていた。
 山を駆け下りながらアルは、只々必死だった。
 振り返らずともわかる。ここで止まれば自分は死ぬ、確実に。
 目の前に張り出す枝をくぐり抜け、足元の岩を注意して飛び越える。
 着地したとき膝が笑って、もつれそうになる足をなんとか前へ運んだ。
 これ以上速く走るのなんて、到底できるはずもなかった。
 山で遊ぶことも日常だった、その経験からはっきりわかる。
 もう限界だ、と。
 くそぅ――と内心で毒づいた瞬間、
 踏み込んだ先に、小さな蛙がいたことに気がついた。
 慌てて踏みとどまろうとしたがもうどうしようもなく手遅れで、
 ならば、と足を少しでも先に送ろうとしたらそれもできず、
 仕方なく横へずれようとしたら、踏み込んだ先は蜘蛛の巣で――
 咄嗟にとった行動のその尽くが、どうしようもなく裏目に出た。
 もろもろの努力の結果、アルは盛大に体勢を崩し、
 全力疾走の勢いを余すところなく活かして地面に突っ込んだ。
 思い切り、顔面から。

●秘密基地への道行
 徐々に寒さが深まる季節。山へ踏み入りつつも、アルはごきげんだった。
 それは、新しい上着が想像以上に温かったからでもあったし、
 街へ嫁いでいった姉ちゃんが、村へ里帰りにくるからでもあった。
 山を越えるのは大変なので、中々会えずにいたのだ。
 特に近頃、なにかと物騒でもあったことだし。
 アルの耳には歪虚たちの情報も、時々しか入ってこなかったけれど。
 そうしたあれそれが村の大人たちの顔を暗くし、
 ばあちゃんにだって悲しい顔をさせていたことは、よく知っていた。
 だからこそ、明るい報せは効果てきめんだった。
 ――姉ちゃんが、一度顔を見せにやってくる。
 そう聞いたばあちゃんの顔を、自分は今でも忘れられない。
 もちろん、自分だって嬉しい。
 両親が死んでばあちゃんに引き取られるまで、
 姉弟だけで暮らしていたこともあったのだ。
 自分にとって姉ちゃんは、親の代わりみたいなもんでもある。
 そんな姉ちゃんが、もうすぐ帰ってくる。
 にひ、と笑いが漏れた。
 あんな顔を、姉ちゃんと――あまり気に食わないが、あのにーちゃんにもさせてやろう。そう思った。
 姉ちゃんを連れていったことはいまだに気に喰わないけれど、
 あいつが悲しいと姉ちゃんも悲しむのだ。
 それくらいは、分かっている。アルにだって考える頭くらいはある。
 だからこそ前々から用意しておいた、
 山のあちこちで見つかるきれいな石を集めて作ったプレゼントを、
 今、こうして『秘密基地』まで取りに向かっているのだ。

●秘密基地?
 秘密基地は、アルの自慢の場所だった。
 木々が半ば侵食した古代の建物――遺跡、というのが一番適切だろうか。
 恐らく、かつては住居だったであろう石積みの建物は、
 アルの冒険ゴコロを存分に満たしてくれた。
 ところどころに転がっていた武具も朽ちかけてはいたものの、
 戯れに振れる程度の強度はあり、遊び道具も万全だった。
 遺跡中央の広場で火をおこし、焼き芋をしてみたことだってある。
 裏に開いた通路の上で、土を落とすトラップをこさえてみたりもした。
 これは大成功だった。準備期間一ヶ月。ついこの間作り終えたばかりで、
 恐らく実際に動かせば裏口を一発で塞げるだろう。
 これで秘密基地の防衛は完璧。作り終えて、そう確信していた。
 その、はずだった。

 それが、どうしてこうなったのか。アルにはまるでわからなかった。
 遺跡近くに踏み荒らされた草木を見つけたから、
 ちょっと警戒くらいはしていた。けれど、こんなのは予想もできなかった。

 なぜ、自分の秘密基地にコボルドがいるのか。
 自分より小さな背丈で、軽々と肩に槍を担いでいる。
 棍棒を片手に、げらげらと口から牙を覗かせて笑っている奴もいた。
 中には、戯れに自分の作った机を叩き壊しているやつだっていた。
 許せなかった。自分が大事にしていた場所を、どうしてあんな風にするのか。
 思わず飛び出そうとして、あることに気がついた。
 このままだと、プレゼントを取りにいけない。
 姉ちゃんのために川で拾い集めた、とっておきの水晶も。
 いけすかない兄ちゃんのために森で探しておいた、
 なんだかよくわからない干し花も。
 全部が全部、取りにいけない。めったに会えない二人に、
 喜んでもらおうと思っていたのに。
 もう一度だけコボルドたちの様子を見た。
 どうやら拾った武具に気を取られているみたいで、そちらの方へ目が向いている。
 迷ったのは一瞬だった。こっそりと裏口の方へ足を向ける。
 そう、プレゼントを隠しているのは中央の広間。
 裏から入って、こっそり抜け出ればいいのだ。
 危ないが、やるしかない。そう決心して、アルは中へと踏み入ってゆく。
 通路は暗かった。いつもなら灯りを持って入るけれど、今はそうもゆかない。
 慎重に、慎重に進んでゆく。
 見つかったら終わりだ。相手は数えられただけでも十を超える。たった一人の自分が抗えるはずが――
 ぱき、と音がした。通路がようやく終わり、一つ目の広間へ入ったあたりで。
 一瞬なんの音かわからず、思わず足元を確認して、
 そうしてようやく、踏んだのが何か動物の骨だということがわかった。
 ふぅ、と嘆息。ちょっと安心した。
 ――?
 そこで何か、視線を感じた。ゆっくりと、灯りを横へ向ける。
 ――あ、
 コボルドと目が合った。そりゃもうばっちりと。
 一瞬の、間。
 そうしてアルは駈け出した。
 裏口から飛び出して、そのまま山道を最速で走り抜ける。
 なにせ――命がかかっているのだから。

●ぴんち――?
 なんだか顔が痛いなぁ、と最初に思った。何やら息苦しくてちょっとぼんやりする。
 そこで、唸り声が聞こえた。
 なんだろう――と考えて、思い出す。自分がなぜここにいるのか。
 自分は、なぜ逃げていたのか。
 現状を理解して、とっさに跳ね起きた時だった。
 がさり、と目の前に犬面が突き出されたのは。
 アルはそのまま固まって、目の合ったままコボルドが笑う。
 にたぁ、と牙をむき出しにした笑いは、紛れもなくこう言っていた。
 『ようやくつかまえた』、と。

 死んだ、と思った。
 姉ちゃんとばあちゃんと、何故かあのにーちゃんの顔が浮かんで、
 最後に、もう一度だけ会いたかった。死にたくなかった。
 ――と、ふいに風を感じる。
 何が、とかんがえる暇もなかった。本当に一瞬だったのだ。
 コボルドがゆっくりと倒れて、背後から幾人もの人影が現れたのは――

●邂逅
 依頼帰りの君たちはコボルドの絶命を確認し、少年に声をかけようとした。
 が、動き出すのはあちらの方が早かった。
「あっ、あの! ぼくの秘密基地を、どうか取り返してください……!」
 必死の形相で、少年は君たちに『依頼』をしてきたのだ。

リプレイ本文


「――どうか取り返してください……!」
「秘密基地、とな?」
 と、怪訝な顔で言うのは銀髪のドワーフ、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)。
 依頼後の帰り道で出会ったこの少年。何やら額に怪我もしているし、コボルドに殺されかけているしで、どう見ても厄介事に巻きこまれているようだった。
 これは事情を聞くしかあるまいと、仲間たちと共に話を聞いてみる。
 少年――アル、というらしい――曰く、この先の遺跡にコボルドがいる。そこは自分の秘密基地で、大事なプレゼントも中に置いてきたままで、どうにかそれを取り戻したい、と。
 少年が説明を終えると一同は、無言でお互いの顔を見回した。
 聞いたからには、助けてやりたいのが人情だ。だが、自分たちは別の任務を終えた帰り道。万全の状態とは言い辛い。もし失敗すれば――と、プロであるからこそ一行は考えた。
 しかし、そこで明るくテトラ・ティーニストラ(ka3565)は言ったのだ。
「やはー! あったしたちに任せといて!」
 弾けるような笑顔で、レーヴェや一行へも笑いかけながら、
「この美少女エルフ、テトラちゃんと仲間たちが何とかしてあげるのだ!」
 テンション高く言い切ってのけたテトラを見て、ふっと白金 綾瀬(ka0774)の表情が緩んだ。
 きょとん、としたアルへ向けて、綾瀬はゆっくりと口を開いた。
「……まったく、そんな必死な顔で頼まれたら、見過ごせないじゃない」
 そう言って、てきぱきと聞くべきことを聞き出してゆく。
「見取り図、プレゼントの場所、罠……聞くことは、粗方聞けたでしょうか」
 テトラのメモを覗きこみつつ、Luegner(ka1934)が呟くと、
「そうですか、ならば……」
 藤田 武(ka3286)がアルへ近づき、そっと額へ手をかざした。
 柔らかい光が掌に集まり、傷を癒していく。
「これでひとまず大丈夫でしょう。アル様は、どうか先に村へ戻っていてください」
 『ヒール』を終えると、最後に武はこう結んだ。
「貴方に、神の祝福を」


 アルを見送ってから一行は、大まかな役割分担だけ決めるとすぐに出発した。
 なにせ、アルが逃げてきてからさほど時間も経っていないのだ。
 もしかすると追手のコボルドが近くにいるかもしれない。依然、油断は許されない状況だった。
 その中で、Luegner、武、レーヴェの三人は、大きな物音を立てながら遺跡へと近づいていった。
「……どうやら、他に追手はいなかったようですね……」
 木々の合間から遺跡が見える距離になってluegnerがそう呟くと、
「そのようじゃ。わざわざ囮役を買って出たというに、拍子抜けじゃのう」
 周囲へ隈なく目をやっていたレーヴェは、ふぅ、と一息ついて目頭を揉んだ。
「ですが、これで一安心です。この様子なら、アル様も無事に村へ辿りつけたでしょうから」
 最後尾の武も、少しだけ表情を緩ませる。が、三人はすぐに気を引き締めた。
 一行の視線の先は、遺跡の広場をうろつくコボルドたちだ。
 数は二体、まだこちらには気づいていないようだった。
「では……手筈通りに」
 そう言って、luegnerは広場の方へ駈け出した。
 森の暗がりから飛び出すと、日向の眩しさから一瞬目を閉じてしまい――
 轟音、
 再び目を開いたluegnerの視界に移ったのは、脚から血を吹き出して倒れるコボルドの姿だった。更に光弾が背後から飛び出して、もう一方のコボルドの手元に着弾。迎え撃つべく構えた槍を、その手から叩き落とした。
 打ち合わせ通り、レーヴェは後衛でコボルドの足止め、武は中距離から連絡・回復・光弾での攻撃など、サポートを主に動いてくれている。
 luegnerが走る間にも更に支援は続く。
 倒れたコボルドへは武の『ホーリーライト』、着実にとどめが刺され、
 武器を拾おうとした一体はその伸ばした腕を吹き飛ばされた。
 レーヴェの『エイミング』、マテリアルの恩恵を受けた射撃は、的確に相手の戦闘能力を削いでいった。
 その隙に広場へたどり着いたluegnerは、鞭と盾を構えて中央で身構えた。
 暗がりから飛び出してくる陰に向かい、手に持った鞭が音高く振るわれ、弾丸が唸り光弾が飛んでゆく。


「どうやら始まったみたい」
 微かに、銃声と雄叫びが聞こえてきていた。その中で、綾瀬はじっと裏口の様子を窺っていた。
「だねぇ。コボルドたちも、みんなあっちに行ってくれてるのかな?」
 隣に座るテトラも、靴の調子を確認しながらも裏口から目を離さない。
 ここに来るまでに、役割分担はきっちり話してあった。
 綾瀬が前衛で囮、テトラが潜入役だ。
 やることが明確なだけに、両者の顔に迷いはない。
「……来たわ」
 トランシーバーに着信。二人はそっと目配せをしあうと、裏口へ静かに向かっていった。
 中へは綾瀬が先に入る。LEDライトで前方の警戒をするのだ。
「便利だよね、そのランプ。武器にも付けられるんだ」
 テトラが呟くも、声以外の音は一切聞こえなかった。恐らく靴のお陰なのだろう。
「――止まって」
 前、曲がり角の先から足音。数は三。音から窺う限り、長物を三本携えているようだ。
「……居る?」
 背後からの抑えた声。綾瀬はそっと振り向いて、
「三体。武装してるわ」
 手元の見取り図を確認する。
 この角を曲がれば、プレゼントまではもうすぐだった。
 しかしこの先は通路の幅が広くなるくらいで、迂回路はない。
 戦闘は回避してこれていた。囮班のお陰で、コボルドの姿を見ることもなかったのだ。
 ここまでは。
「……どうしよう、外まで引きつけて戦う?」
 テトラの提案にも一理ある、だが――
 仲間たちは今、かなりの激戦を強いられている。元々数的に不利なのだ。もし囲まれ、前衛であるluegnerの処理能力を越えてしまっていたら、どうなるか。
 冷静に考え、綾瀬は低い声で聞く。
「私が隙を作るわ。その隙に突破、行けそう?」
「もっちろん。走るのは得意なんだから……!」
「分かったわ。なら、3カウントで行くわよ」
 言って、綾瀬は指をゆっくりと立てる。そしてLEDライトを一旦消した。少々の間、深呼吸。
 暗がりに慣れたテトラの目前で、指が一本ずつ倒れていき――
「――今ッ」
 言うと同時、綾瀬は角から身を乗り出すと、先頭の一体へ向けて引き金を引いた。
 弾丸は松明へ命中、火が灯っていた先端を粉微塵に打ち砕いた。
 コボルド達はうろたえ、咄嗟にこちらへ目をやった。そこへ、綾瀬が更に畳み掛ける。
 視線がこちらへ集まった瞬間に、LEDライトを点灯させたのだ。
 松明とは比べ物にならない光が闇を切り裂き、薄闇に慣れた目を眩ませた。
 そこへ素早くテトラが飛び出し、縦に並んだコボルド達の脇をすり抜けていく。合わせて綾瀬の弾丸がコボルド達のすぐ側に着弾し、自由な行動を許さない。

 テトラは前方の広間へ飛び込むと、すぐさまプレゼントの隠し場所へ向かった。幸いにも近くには、すれ違った三体以外はいなかったようだ。中にコボルドの姿は無い。
 ほっと息をついて、プレゼントを背中の綿入り袋へしまい込む。
 これで半分は依頼達成。残るはコボルド掃討だ。
 改めて気合を入れ直し、テトラは今きた道へ取って返した。

 綾瀬の方はと言えば、見事にコボルドを引きつけることには成功していた。
 アサルトライフルと刃物。射程の差が如実に出た、と言えなくもないかもしれない。テトラの気配も、『威嚇射撃』で喧騒の中に紛れこませていた。
 が、しかし。数の差は当然の如くある。
 今のままなら決め手が足りない。引きつけられてはいても、トドメには至らない。
 故に、ここで手を打つ必要が有った。
 柱の陰や壁のくぼみに隠れたコボルド達。奴らは三体。どれが何処に隠れたのか、今ならきっちりと把握できている。
 ――これならば、やれる。
 咄嗟に決断、狙いは一番近い一体。隠れた柱の一点へ向けて、三点バーストを叩き込む。
「ガッ!?」
 壁で弾丸が爆ぜる火花と、断末魔。どうやら狙いは成ったようだ。
 そう、『跳弾』を駆使した攻撃は見事にコボルドを一体倒していた
 材質を見て成功しそうだと踏んだが、どうやら正解だったようだ。
 と、そこで弾倉の弾が尽き、咄嗟に『エイミング』。
 一瞬だけ弾幕が止み、残る二体のコボルドが間を詰めてきて、
「……ッ!」
 その時、マテリアルで強化された瞳はもう一人の姿を捉えた。
「閃いて……碧色の風!」
 コボルドの間をすり抜けて、碧い風が疾る。
 すれ違いざまに一体の首を両断、どこか間の抜けた表情でコボルドの首が飛ぶ。
「おまたせしましたっ!」
 綾瀬の隣に滑りこむのはやはりテトラで、背中の袋をばっちり指さしている。
「……先に行って!」
 言うが早いが綾瀬とテトラは外へ向かって駈け出した。
 順番はテトラが先。銃を持っている綾瀬が殿を守る形だ。
 瞬く間に通路を駆け抜け、二人は裏口から外へ飛び出した。
「ぷはーっ! やーっと抜けたぁ!」
「下がって! 仕掛け、撃ち抜くわ!」
 綾瀬はそう言うと、裏口の上に刺さった木の板を狙い撃った。
 支えが砕けて、積んであった土と岩が裏口へと降り注いだ。
 土埃が晴れると、先程まで開いていたはずの通路は、すっかり土に埋まってしまっていた。
「……これ、子供のイタズラにしては凄いよね!? 完っ全に埋まっちゃってるよ!」
 驚きの声を上げるテトラをよそに、綾瀬は裏口跡へ近づいて完全にふさがっているかを確かめた。調査を終えるとトランシーバーを取り出して、
「こちら綾瀬。裏口の封鎖、確かに完了したわ」


「裏口の封鎖、完了したそうです!」
 武が大声で告げると、まず近くに居たレーヴェが先に反応した。
「ふむ。それはよいのぅ。……だが、一先ずはあちらに集中じゃ……!」
 喋りながらも手を休めてはいない。レーヴェは2つある入口のうち片方を、広場から離れた森からの射撃で、完全に封じ込めていた。
 光が届く範囲だけでも、手足を撃たれて動きを封じられたコボルドが何体も倒れている。
 しかし、封じ込めてはいるが、それも全てではない。
 もう片方から出てきたコボルドは、luegnerが懸命に食い止めていた。
 思った以上に囮の効果はあったようで、かなりの数のコボルドが表口から出てきていたのだ。
「……くっ……中々……!」
 『踏み込み』からの『強打』。体重の乗った一撃はマテリアルにより強化され、更にその威力を増している。
 周囲をなぎ払うような一閃。打ち据えられたコボルドたちが吹き飛び、luegnerの周りに空間が生じた。そのまま後ろに跳躍、入り口から少し距離を取る。
 消極的に時間を稼ぐよりも、むしろ攻撃的な動きに徹した方が得策だと思っていた。結果、残るコボルドの数はかなり少ない。が、代償も大きかった。
 コボルドから距離を取ったluegnerの身体が、薄く発光する。
 『マテリアルヒーリング』、身体に流れるマテリアルを活性化させ、傷の修復を計ったのだ。
 みるみるうちに傷は癒えていき、多少はマシになった――が、これで打ち止めだ。もう、回復させることはできそうにない。
 しかし、まだ敵は残っている。
 回復の隙にコボルドが、すぐ近くまで迫っていた。手に持った棍棒を振りかぶり、下卑た笑いを浮かべている。
 一撃を受け流そうと盾を構えた瞬間、脚が縺れた。
「――ッ!」
 倒れこんで、棍棒を盾で受ける。思いの外疲れていて、盾を持った腕が痺れた。次の一撃は堪えきれない。そう、思ったところで、
「luegner様!」
 瞬間、目の前のコボルドが吹き飛んだ。棍棒を持った腕を撃ち抜かれて、入り口近くまで転がっていく。
 合わせて、身体が温かい光に包まれる。痛みが和らいで、腕の傷が癒やされていくのが見えた。
 思わず振り返れば、合掌し、祈りを捧げた姿勢の武と、
 銃口から硝煙を立ち上らせる、レーヴェの姿が見えた。
「残りはあと少し、もうひと踏ん張りじゃて」
 にたり、と笑ってレーヴェはそう嘯いてみせる。
「えぇ。連絡も終えましたし、私ももう少し支援ができそうです。あと一息ですよ」
 祈りの構えから杖を手に持ち直した武も、疲れはあれど力強く言い切ってみせた。
「そう、ですね……もう少し、です……」
 実際は、暗い遺跡の中に踏み込んで安全確認をするなど、やるべきことはまだ残っている。
 しかし、そういうことではないのだ。
「右一体、こちらで処理します! 左は――」
 武が右側から回り込もうとしたコボルドへ光弾を撃ちこむと、
「――了解じゃ」
 レーヴェが広場の左で這いずっていた一体へ狙撃、確実に動きを止める。
「ふむ、こいつもおまけしておこうか」
 更には広場から開いた入り口、そこから出てこようとしたコボルドへの足止めも忘れない。と、
「えぇ、……そろそろ、中へ踏み入る準備をしておきましょうか」
 頃合いを見てか、武が手に持ったロッドにそっと光を灯らせる。
 『シャイン』、光の精霊の助けを借りて、暗闇を行動する助けとする魔法だ。
 今、ここにはお互いがサポートしあう仲間が居て、共に戦っている。
「おーい! 向こう終わったから、手伝いに来たよー!」
「支援するわ……と、遺跡外のコボルドはもういないのかしら?」
 そう言って、テトラと綾瀬も合流してきた。
 ならば残りの作業も、なんということはない――


 安全確認を終えた一行がアルの村へ立ち寄ったのは、日も暮れてから随分と経った頃だった。
 村長へ事の経緯を説明しに行ったレーヴェは途中、ある老婆に話しかけられた。
「ふむ、どうしたのじゃ? ご老人」
 と、初めは理由がわからなかったものの、アルの祖母だと告げられた。
 話をしていると、危ないことをしたからアルがこっぴどく叱られた、ということを聞く。
「いやいや、お孫さんは褒められることをした、と思いますがのぅ……?」
 にやり、と答える顔にはニヒルな笑みが浮かんでいる。

 アル当人はと言えば、luegnerにかるーくではあるが説教をされていた。こんな具合に。
「プレゼントを渡すのは、もちろん大切ですが……
 なにより、命あっての話です。健康でいて……
 なにより笑顔でいることが……一番、大切ですよ……」
 luegnerの説教は、プレゼントを渡しにきた武がくるまで続いた。
 もっとも武の方は、
「プレゼントは無事回収しました。お姉様達が喜んでくださると良いですね。
 どうかアル様や皆様方に、神の祝福がありますよう……」
 と言って祈りを捧げるくらいの、あっさりした別れだったが。


 ハンターたちが去って、数日後の朝である。
 よく晴れた秋晴れの下、アルは村のはずれの道端に座っていた。
 今日は、姉ちゃんたちが帰ってくる日なのだ。
 だからアルは待っていた。
 取り返してもらったプレゼントと、満面の笑みを用意して……

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重体一覧

参加者一覧

  • 豪傑!ちみドワーフ姐さん
    レーヴェ・W・マルバス(ka0276
    ドワーフ|13才|女性|猟撃士
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 私の話を聞きなさい
    Luegner(ka1934
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • お茶会の魔法使い
    藤田 武(ka3286
    人間(蒼)|18才|男性|聖導士

  • ココット・ベラドンナ(ka3452
    人間(紅)|14才|女性|聖導士
  • 飴玉お姉さん
    テトラ・ティーニストラ(ka3565
    エルフ|14才|女性|疾影士

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
Luegner(ka1934
人間(リアルブルー)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/11/24 16:05:24
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/11/19 23:53:13