ゲスト
(ka0000)
火の付いた酒樽亭の火を守れ
マスター:文ノ字律丸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/10 12:00
- 完成日
- 2017/11/15 02:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●火の付いた酒樽亭
巡礼道の中。
黄金に色づいている麦畑の中に、その店は建っていた。
木製ロッジという外観は、どこか安上がりで、すきま風がひゅうひゅうと入り込む。
それだけに、こんな店ならばふっかけられる心配もないだろうと、旅人は休憩によるのだった。
中に入れば、出迎えてくれるのは、
「いらっしゃい! お兄さん、疲れただろ。父ちゃん! お一人様だよ!」
十代くらいの、若くて快活な笑顔を浮かべる、ドワーフの少女だった。
ドワーフ。イメージから浮かぶのは、ひげ面の小柄で頑強な益荒男という風情だ。
けれど彼女にはそんな男臭さがなかった。
むしろ、小柄ではあるが、内側から溢れてくる元気と、ハリのある褐色の肌は女性の健康的な色気を匂い立たせている。
看板娘なのだろう――。
奥の席に着き、彼女が走り回る様子を見ながら、『お兄さん』と呼ばれた旅人は酒の入った木製ジョッキを傾ける。
酒の中に入った香辛料が、ふわりと香った。水で嵩ましした気配がない。いい酒だ。
そのドワーフの少女の名前は、リンダ、というらしい。
「ん? この店の名前かい? ふふ。火の付いた酒樽亭。変な名前だと思っただろ? うちの父ちゃんが酔っ払って付けた名前なんだよ。家計は、火の付いた酒樽どころの話じゃないっていうのにな!」
旅人は、リンダの開かれた胸元を見ながら、その話を聞いた。
リンダは視線に気づいて、にやりとした。
「お兄さん。お酒。もうなくなってるぞ。あ、それから、さっき鳥を焼いたんだ。食べていくだろ?」
こちらが断れないと知るや、リンダは勝手に注文をした。
なかなかに商売上手な子のようだ。
旅人のテーブルには、いつのまにか豪勢な食事が並ぶ。
鳥の丸焼きに、野ウサギのスープ、ふかした芋とディップソース――
さすがに一人では食べきれない。
「あはは。悪かったね」
悪いと思うなら、一緒に食べてくれ。
そう言うと、リンダは前掛けをしたまま目の前のイスに、どかりと座った。
「ちょうど腹が減っていたんだ。ありがと」
リンダとは食事を取りながら、様々な話をした。
この『火の付いた酒樽亭』はドワーフの戦士だった店主が、年齢を理由にこの土地に腰を落ち着けた後、開いた店なのだということ。リンダは親父さんが戦士引退後に生まれた子供らしいということ。厨房で働いている母親もドワーフで、両親は時折、故郷を懐かしんでいるのだということ。
彼女の話は多岐にわたった。
そして、テーブルに並んだ食事のほとんどは、リンダの胃袋に消えていった。
酒もひとしきり飲んだ後、リンダは耳打ちしてくる。
「あたし、ハンターになりたいんだ」
どうして?
と、旅人は聞いた。
リンダは表情を曇らせる。
「コボルドが先日も近くに現れた、って話を聞いた。それで、ハンターになればコボルドなんて目じゃないでしょ」
コボルドか。
(そういえば、ここに来るまでに何軒もの家屋や、村々が襲撃されて、凄惨なことになっていた。きっとこの周辺にコボルドの群れが巣くっているのだろう……)
旅人は、ここまでの通り道で、コボルドの被害を見てきたと話した。
「この店もコボルドに襲われちゃうのかな。一体や二体なら父ちゃんが撃退するけど。集団で襲われたら歯が立たないな」
そう言って、リンダは寂しそうに笑う。
「そうなる前に、この場所を引き払わなくちゃ」
そんなリンダの弱気な言葉を聞いて、旅人は立ち上がった。
「君、どうしたの? そんな顔をして?」
旅人は、ハンターオフィスに依頼を届けてくる、とリンダに提案した。
こんな気のいい店を無くすのは惜しい。またここを通った時に、君の笑顔がないと悲しい。
自分は少し酔っているのかもしれない、と自分の口から出たその言葉を聞いて、思う。
赤面しながら、彼女の答えを待つ。
リンダは、ははは、とはにかみながら、
「じゃあ、お願いしようかな」
●ハンター事務所
受付では、ちょっと不機嫌そうに受付役の女性が、今回の依頼の説明をしている。
「ついさっきのことです。なんだか妙にハイテンションな旅人がこちらに依頼を出してきました。そのテンションの高さっぷりに、思わず張り手でもかましてしまいそうになりましたよ」
いつもなら冷静沈着な彼女だ。
どうしたのか、と誰もが首をかしげた。
旅人が勢い込んで依頼を出してきたその一部始終を見ていたハンターが、おもしろそうに説明した。
なんでも、その旅人は依頼を出すついでに、酒場の看板娘の魅力を蕩々と語っていったのだという。
恋する男の毒気にあてられて、受付の女性はヘソを曲げてしまったらしい。
「まあ、とにかく、ここ数日、集団コボルドの被害報告は耳に入っております。彼らは餌を探しながら、西へと移動しています。今度襲われるとしたら、その酒場――『火の付いた酒樽亭』でしょう」
ここで食い止めなければ、いずれ大きな町まで行き着いて甚大な被害を出さないとも限らない。
その前に、討伐しなければならない。
ハンター達は、口をすぼめる受付嬢を気の毒に思いながらも、そう決意した。
巡礼道の中。
黄金に色づいている麦畑の中に、その店は建っていた。
木製ロッジという外観は、どこか安上がりで、すきま風がひゅうひゅうと入り込む。
それだけに、こんな店ならばふっかけられる心配もないだろうと、旅人は休憩によるのだった。
中に入れば、出迎えてくれるのは、
「いらっしゃい! お兄さん、疲れただろ。父ちゃん! お一人様だよ!」
十代くらいの、若くて快活な笑顔を浮かべる、ドワーフの少女だった。
ドワーフ。イメージから浮かぶのは、ひげ面の小柄で頑強な益荒男という風情だ。
けれど彼女にはそんな男臭さがなかった。
むしろ、小柄ではあるが、内側から溢れてくる元気と、ハリのある褐色の肌は女性の健康的な色気を匂い立たせている。
看板娘なのだろう――。
奥の席に着き、彼女が走り回る様子を見ながら、『お兄さん』と呼ばれた旅人は酒の入った木製ジョッキを傾ける。
酒の中に入った香辛料が、ふわりと香った。水で嵩ましした気配がない。いい酒だ。
そのドワーフの少女の名前は、リンダ、というらしい。
「ん? この店の名前かい? ふふ。火の付いた酒樽亭。変な名前だと思っただろ? うちの父ちゃんが酔っ払って付けた名前なんだよ。家計は、火の付いた酒樽どころの話じゃないっていうのにな!」
旅人は、リンダの開かれた胸元を見ながら、その話を聞いた。
リンダは視線に気づいて、にやりとした。
「お兄さん。お酒。もうなくなってるぞ。あ、それから、さっき鳥を焼いたんだ。食べていくだろ?」
こちらが断れないと知るや、リンダは勝手に注文をした。
なかなかに商売上手な子のようだ。
旅人のテーブルには、いつのまにか豪勢な食事が並ぶ。
鳥の丸焼きに、野ウサギのスープ、ふかした芋とディップソース――
さすがに一人では食べきれない。
「あはは。悪かったね」
悪いと思うなら、一緒に食べてくれ。
そう言うと、リンダは前掛けをしたまま目の前のイスに、どかりと座った。
「ちょうど腹が減っていたんだ。ありがと」
リンダとは食事を取りながら、様々な話をした。
この『火の付いた酒樽亭』はドワーフの戦士だった店主が、年齢を理由にこの土地に腰を落ち着けた後、開いた店なのだということ。リンダは親父さんが戦士引退後に生まれた子供らしいということ。厨房で働いている母親もドワーフで、両親は時折、故郷を懐かしんでいるのだということ。
彼女の話は多岐にわたった。
そして、テーブルに並んだ食事のほとんどは、リンダの胃袋に消えていった。
酒もひとしきり飲んだ後、リンダは耳打ちしてくる。
「あたし、ハンターになりたいんだ」
どうして?
と、旅人は聞いた。
リンダは表情を曇らせる。
「コボルドが先日も近くに現れた、って話を聞いた。それで、ハンターになればコボルドなんて目じゃないでしょ」
コボルドか。
(そういえば、ここに来るまでに何軒もの家屋や、村々が襲撃されて、凄惨なことになっていた。きっとこの周辺にコボルドの群れが巣くっているのだろう……)
旅人は、ここまでの通り道で、コボルドの被害を見てきたと話した。
「この店もコボルドに襲われちゃうのかな。一体や二体なら父ちゃんが撃退するけど。集団で襲われたら歯が立たないな」
そう言って、リンダは寂しそうに笑う。
「そうなる前に、この場所を引き払わなくちゃ」
そんなリンダの弱気な言葉を聞いて、旅人は立ち上がった。
「君、どうしたの? そんな顔をして?」
旅人は、ハンターオフィスに依頼を届けてくる、とリンダに提案した。
こんな気のいい店を無くすのは惜しい。またここを通った時に、君の笑顔がないと悲しい。
自分は少し酔っているのかもしれない、と自分の口から出たその言葉を聞いて、思う。
赤面しながら、彼女の答えを待つ。
リンダは、ははは、とはにかみながら、
「じゃあ、お願いしようかな」
●ハンター事務所
受付では、ちょっと不機嫌そうに受付役の女性が、今回の依頼の説明をしている。
「ついさっきのことです。なんだか妙にハイテンションな旅人がこちらに依頼を出してきました。そのテンションの高さっぷりに、思わず張り手でもかましてしまいそうになりましたよ」
いつもなら冷静沈着な彼女だ。
どうしたのか、と誰もが首をかしげた。
旅人が勢い込んで依頼を出してきたその一部始終を見ていたハンターが、おもしろそうに説明した。
なんでも、その旅人は依頼を出すついでに、酒場の看板娘の魅力を蕩々と語っていったのだという。
恋する男の毒気にあてられて、受付の女性はヘソを曲げてしまったらしい。
「まあ、とにかく、ここ数日、集団コボルドの被害報告は耳に入っております。彼らは餌を探しながら、西へと移動しています。今度襲われるとしたら、その酒場――『火の付いた酒樽亭』でしょう」
ここで食い止めなければ、いずれ大きな町まで行き着いて甚大な被害を出さないとも限らない。
その前に、討伐しなければならない。
ハンター達は、口をすぼめる受付嬢を気の毒に思いながらも、そう決意した。
リプレイ本文
●
抜けるような青空に、小麦畑。
牧歌的な景色の中でミュオ(ka1308)は額に汗を浮かべながら、小麦を刈っていた。
ミュオは『火の付いた酒樽亭』にやってこようとする馬車を見つけて慌てる。
「だめですよ。ここから通行止め、です。戦闘がありますので」
それならばしかたがないと引き返していく行商人を見送った。
ミュオが酒樽亭周りを整備していた頃、アルマ・A・エインズワース(ka4901)は、店の前でリンダを見つける。
「わふっ、かわいいドワーフさんですー。僕、アルマっていいますっ。よろしくですー!」
「うん。よろしくね」
アルマは店の屋根を指さす。
「僕、お店が丈夫なら、僕が屋根の上に乗っても大丈夫です?」
「屋根の上には何人乗っても大丈夫だよ。それで、君は屋根の上でなにをするの?」
「上から狙撃します。僕の機導術で!」
と笑顔だ。
「わふー。僕、こう見えてもちょっとだけ強いんですよ?」
そして、ちょっぴり誇らしげ。
「そうだ。リンダさん、何なら一緒に上から見るですー?」
リンダは、んー、とちょっと考えてから首を振る。
「あたしは遠慮しておくよ」
残念です、としょげるアルマを、よしよしとなだめたリンダ。
「へへっ、嬢ちゃん、わんころ共の片付けが終わったら酒と飯の一つでも馳走してくれよ?」
柊羽(ka6811)は不慣れな手つきで、リンダの頭をわしゃわしゃと撫でた後、街道の方に向かった。
その後で、リンダの袂に寄ってきたのは、一匹の狼だった。
「ハチはリンダの側についてて。何かあったら報せたり、護衛を頼むよ」
狼に言い聞かせたのは、久瑠我・慈衛(ka6741)だ。
「あたしを守ってくれるんだね。ありがとう」
慈衛は少し照れながら、
「俺は高い所からコボルドを探してみるよ。……あいつらが犬や狼みたいな狩りをすると仮定するなら……風下を注意した方がいいかな?」
と言って、屋根の上に上がった。
そこには、店の中での打ち合わせで後方射撃になった、アバルト・ジンツァー(ka0895)がいた。
慈衛が会釈をすると、アバルトも微笑を返す。
「……旨い酒と飯を出してくれる酒場を貴重だからな。コボルドなんぞに壊されたら、それこそ大損失というモノだ。旨い酒と肴を愛する者の一人として、自分も尽力させて貰おう」
そう言って、仲間意識を高めた。
リンダが小麦畑を流れる風を見つめていたところ、「何なら、ハンターオフィスに紹介してやろうか?」という声がかかった。
声をかけたのは、南護 炎(ka6651)だ。
「でも、お前さんには少し知ってもらわなくちゃいけないことがある」
「知らなきゃいけないこと?」
「ああ。ハンターになる前にな。――少し稽古をつけてやるよ。さ、打ってきな」
「知らなきゃいけないことっていうのはわからないけど、稽古ってことなら遠慮なく!」
リンダは父譲りのハンマーを手にして、炎に向かっていった。
その稽古の様子を見ながら、間黒 クロ(ka7061)は、来るべき戦闘に意識を高めていた。
「リンダちゃんはハンターの後輩になる子かもしれんからのう、コボルド共にやらせる訳にはいかんのじゃ」
自身にとっても初の依頼だ。
「初依頼じゃが……頼りになる先人も多い、依頼の空気を味わうには丁度いいじゃろう」
深呼吸して、そのときを待つ。
●
森の中。
仄暗い中を、気配を絶って、シェイス(ka5065)が歩いていた。
目的は戦況の把握。敵の目を欺いて、敵の位置をしっかりと把握するために、先陣を切って森の中に突入していたのだ。
「森の中に潜んでいる敵影は四。半数だ。他はすでに小麦畑の中に潜伏しているはずだ」
情報を共有した後、シェイスは手頃な敵を目標に定める。
「さて……状況を開始する」
短刀の柄を握り、飛び出した――。
不意打ちに対応できず、森の中に身を潜ませていたコボルドは棒立ちになった。
だが、そこは歴戦のコボルド。即座に反応してカウンターを仕掛ける。
「良い手だ。が、そうはいかねぇな?」
だが、隠密行動や奇襲作戦に優れたシェイスの方が一枚上手だった。
コボルドの足を短刀が、斜めに切り裂いた。
「ガルゥアアッ」
コボルドの悲鳴がこだまする。
足を負傷したコボルドは、自慢の切り裂きも空を切るばかりだ。
シェイスは一度、コボルドから距離を取る。
「おいおい、せっかくうまい酒が飲める場所を襲うなんざ無粋だぜ。酒を飲んだら辛さも苦しさも飲み込める、どうだお前らも……ってわけにはいきそうにねぇなぁ」
シェイスは皮肉に笑い、
「旅のコボルド、不運だと思って諦めてもらおうか」
身を翻して、背後に現れたもう一体のコボルドの頭部を狙う。
見事に命中し、コボルドはそのまま地面に転がった。
「グガアアアアアアア」
自分を助けに来たコボルドの絶命を目にして憤ったのか、足に怪我を負ったコボルドが突進してくる。
「悪いな。けどな、お前達が殺した人間にも大切な仲間がいたんだ」
コボルドの突進をかわして、頭部を穿つ。
二体のコボルドは地面に伏した。
●
獣の遠吠えのような声が響いた。
街道を偵察していた柊羽は上空を見上げる。
さきほど放ったモフロウが、なにやら異変を感じて旋回していた。どうやら戦闘が始まったらしい。
情報では『森に敵影が四つ』だったはずだ。
他は、すでに小麦畑の中。あちらには屋根からの目がある。それは頼りにしていい。
ここで敵を待ち構えるべきだ。
そう考えた柊羽は、試作超硬刀を構えて、神経を研ぎ澄ます。
何かが――……聞こえた。
森を突っ切ってきたコボルドが二体。その一体が爪を立てて襲いかかってきた。柊羽はそれを難なく受け流す。
すると、コボルド二体は街道の西と東の両方に位置取った。挟撃の構えだ。
「オラオラどうした? わんころ共よォ? 威勢良く来た割にゃァ腰が引けてんぜ?」
ニィっと挑発するような笑みを浮かべると、それに火を付けられたのか、二体同時に向かってくる。
足の向きと、脚の力の入れ具合、運び方――それを瞬時に見極め、柊羽は前方の敵に居合の一閃を放った。
そして、背後の敵の攻撃は反転する体で受け流し、鞘走り、電光石火の一撃をお見舞いする。
「ここはアイツ等の想い出の詰まった場所だ、テメェ等が手ェ出して良い所じゃねェんだよ」
鉄がこすれる音がカチンと鳴る。
「人間に生まれ変わってから来な。そん時ァ飯でも酒でも俺が奢ってやんよ」
納刀された音の余韻が終わり、二体のコボルドは崩れ落ちたのだった。
●
トランシーバーに連絡が入ったのを契機に、ジェットブーツで飛び跳ねたアルマは目をこらして小麦の揺らめきを見つけた。
「わうっ、西東の方向にいますよ!」
アルマは大声で報告する。
なに、と反応したアバルトはすぐさま双眼鏡で見、視覚を研ぎ澄まさせ、そこにある違和感を看破した。
――たしかにいる。
数にして、二つ。
「寄らせないですよー? ドワーフさんのお店を狙うからいけないですー」
無垢に微笑んだアルマの眼前に出現した三角形から流星が降り注ぐ。それは、小麦畑をジグザグに蠢きながら近づく二体のコボルドに命中する。一体はそこで絶命した。
まだ息のあるコボルドにはアバルトが番え放った氷の矢Fenrir Stoszahnが突き刺さる。それは断末魔の叫びを上げることもなく動かなくなった。
あと、二つ――。
他のコボルドの存在を慈衛は待った。
「さあ、潜り抜けてこい。近づいテ来タラ……狩ル」
炎は迫り来るコボルドを受け止める形で、ディスターブを構える。
先ほどまで稽古を付けていたリンダをかばいながら、コボルドの牙を受けたのだ。
「炎さん!」
「ぐっ……」
突進が加味された攻撃をしのぎきり、コボルドをはじき飛ばす。
「俺は南護炎、歪虚を断つ剣なり!」
気炎を上げる炎に、コボルドは臆して一度、小麦畑に身を隠す。
そこに投げ込まれたのが干し肉だった。投擲したのはミュオだ。干し肉に釣られたコボルドが、ソウルトーチを纏ったミュオに目標を違えた。
ミュオは瞬時に祝装・星幽花を実行。大鎌でコボルドに反撃をした。
「長い旅路、お疲れさまでした。お気の毒ですけど、旅はここでおしまいです」
コボルドが逃げようとするが、大鎌が構えられていて直線に進めない。
行く手が塞がれ、身動きが取れなくなったコボルドは、炎の連撃を食らう。
それは、呼吸法によって高められた会心の一撃だった。
「死にフラグは折るためにある!」
そして、コボルドは、ゆらりと倒れた。
小麦畑を突破してきた一体のコボルド。
そこに、マグロ型の気功波がぶち当たる。たまらず転げるコボルド。
その眼前には、クロが佇んでいた。周囲に練気を纏い、武芸者が到達する極みのような格好だ。
「まぁ、これぐらいはやれんとハンターは名乗れぬからのう」
さらに、アバルトの矢が敵に突き刺さる。
「……後方からの支援攻撃は任せて貰おう。前だけを見て存分に戦ってくれ」
「かたじけない」
クロはさらにマグロ型の気功波を飛ばした。
コボルドは満身創痍になりながらも、気功波を辛くも避けて、その勢いで火の付いた酒樽亭に突撃を敢行した。
しかし、気配もなく、そこに狩人が舞い降りる――。
コボルドはきっと自分の身になにが起こったのかわからなかっただろう。
「終わりダ」
慈衛がコボルドの急所に短刀を突き立てていた。
●
戦闘が終結し、微睡みの空気を取り戻した小麦畑。
相棒のハチを連れた慈衛が、コボルドの残党がいないかと捜索していた。
ハチの優れた嗅覚であっても、何も感じ取れなかった様子だ。
「……残党はいないか? なら仕事終了だ」
ハチを労って、その頭を撫でる。火の付いた酒樽亭に引き返した。
道すがら、放心している様子のリンダを見かけた。
少し心配になって、問いかける。
「リンダ、なにもなかった?」
「え、うん。ただ、ハンターの仕事を間近で見て……すごいなって」
「そっか」
リンダはにこりと笑って、大声でみんなに呼びかける。
「さ、みんな、宴を用意するよ! これはお店のおごりだからね! 遠慮しないで、おいで!」
リンダの素晴らしい提案に、歓声が上がった。
柊羽は、小麦畑と街道の狭間で膝を突き、静かに手を合わせていた。彼の前にはこんもりと盛り上がった土と、大きめの石がある。土の下に埋められていたのは、彼らと死闘を繰り広げていたコボルド達だった。
彼はコボルドを弔っていたのだ。
不意に、墓石に酒が垂らされた。シェイスだった。
「あの世に向けて持ってきな。旨い酒に満足して成仏してくれよ」
ジョッキに注がれた酒を一滴残らず捧げる。
「あいつらも良い酒だって言ってるぜ」
と、柊羽。
「酒ならまだあるってよ、あの嬢ちゃんが」
「なら、ご相伴に預かろうかねェ」
二人は揃って、その墓石を後にした。
火の付いた酒樽亭では、肉の焼ける良い匂いと、胃の奥が焦げるようなアルコールの匂いが香っていた。
「さあさ! 飲んでくれよ! 今日は宴なんだから!」
リンダの威勢の良い声で、宴が盛り上がっていく。
そんな看板娘に飛びついていったのは、アルマだ。
「リンダさーん! わふっ、全部やっつけたです! ご安心ですっ」
「アルマ君。今日はありがとうね」
「わぅ、もふもふしていいですー?」
「んー。厨房に行ってごらん。うちのお父さんとお母さん、もふもふし放題!」
やったです、とアルマは厨房に向かう。
そこで料理を準備しているドワーフの夫妻に飛びつき、甘えるようにじゃれついた。
「ドワーフさんって、皆さんとってももふもふでかわいいですっ。すきですー!」
店内に響いたのは、アルマの嬉々とした声だ。
それから、リンダは、カウンターでちびちびと酒を嗜んでいるアバルトに近づいていった。
「どうだい、うちのお酒は?」
「……依頼を持ち込んだ旅人が誉めていたからな。期待させて貰うよ」
「じゃあ、うちで一番高いの用意させてもらおうかな」
「おいおい、そんなに吹っかけるな」
「あはは。じゃあ、今までの依頼のこととか聞かせてよ」
「いいだろう」
アバルトは、リンダにこれまで経験してきた話をおもしろおかしく聞かせた。
「面白かった。ありがとうね」
「うまい酒の礼だ」
アバルトと別れたリンダは、炎のところに向かう。
「傷は大丈夫?」
「ん、ああ。ただのかすり傷だ。心配するな」
「そっか。よかった」
炎は酒を置いて、先ほどの傷を見せつける。
コボルドに引き裂かれた痕が、生々しく残っていた。
「リンダ。これが、ハンターの現実だ。決して華やかじゃない。辛い道のりだ。それでもハンターを目指すか? もし本気で目指すならハンターオフィスに紹介してやるよ」
一瞬、酒場が静まりかえった。
誰もがリンダの答えに耳を傾ける。
リンダは一度、大きく息を吸って、
「――やるよ。あたし、ハンターになる!」
酒場が一気に盛り上がった。新たなハンターを祝福する指笛や、おめでとうの声が飛び交う。
そんな中、ミュオはジョッキに注いだ牛乳を飲み干していた。
ぷはーっ、と雰囲気で酔う。
出された鶏肉の唐揚げを頬張りながら、みんなの輪の中にいるリンダを見て、昔の自分と重ね合わせていた。
(それにしても――このお店の人を見ていると、ちょっとだけ里に帰りたくなっちゃいます。ちょっとだけ、ですよ?)
ふふっと口元を緩ませた。そして、ジョッキを翳す。
「おじさーん。牛乳、もう一杯追加でお願いしまーす」
ガタンと盛大にドアが開いて、柊羽が店の中に入ってきた。
「オッシャァ! 終わったァ!! オイ、リンダの嬢ちゃんよ、酒と飯だ!! 喰って飲んで騒ぐぜィ! やっぱ人生ってなァ、やりてェ事してる時が一番面白ェな!」
なんとも豪奢な登場だった。
柊羽の後から店に入ったシェイスは、リンダを中心にした空気で何があったのか察し、微笑を浮かべながらカウンター席に座り、蒸留酒を頼んだ。
また宴が盛り上がりを見せてきたところで、その輪から抜け出してきたリンダに「リンダちゃん」と呼びかけたのはクロ。
「僕も最近ハンターになったばかりでのう」
「じゃあ、クロさんは、あたしの一歩先の先輩だね」
「そうじゃな。ハンターになったら、よろしく頼むのじゃ。その時はいつか一緒に依頼に行けたらいいのう」
クロが差し出した手を、リンダは固く握った。
「うん。必ず!」
「良きハンターになる。約束じゃ」
「良きハンターに!」
二人はそう約束して笑顔を見合わせた。
こうして、火の付いた酒樽亭に訪れた剣呑な騒動に、幕が下りた。
ハンター達は、新しい仲間の旅立ちと、牧歌的な小麦の揺れ動く音、美味しい酒と賑やかな酒場をいつまでも忘れないだろう。
抜けるような青空に、小麦畑。
牧歌的な景色の中でミュオ(ka1308)は額に汗を浮かべながら、小麦を刈っていた。
ミュオは『火の付いた酒樽亭』にやってこようとする馬車を見つけて慌てる。
「だめですよ。ここから通行止め、です。戦闘がありますので」
それならばしかたがないと引き返していく行商人を見送った。
ミュオが酒樽亭周りを整備していた頃、アルマ・A・エインズワース(ka4901)は、店の前でリンダを見つける。
「わふっ、かわいいドワーフさんですー。僕、アルマっていいますっ。よろしくですー!」
「うん。よろしくね」
アルマは店の屋根を指さす。
「僕、お店が丈夫なら、僕が屋根の上に乗っても大丈夫です?」
「屋根の上には何人乗っても大丈夫だよ。それで、君は屋根の上でなにをするの?」
「上から狙撃します。僕の機導術で!」
と笑顔だ。
「わふー。僕、こう見えてもちょっとだけ強いんですよ?」
そして、ちょっぴり誇らしげ。
「そうだ。リンダさん、何なら一緒に上から見るですー?」
リンダは、んー、とちょっと考えてから首を振る。
「あたしは遠慮しておくよ」
残念です、としょげるアルマを、よしよしとなだめたリンダ。
「へへっ、嬢ちゃん、わんころ共の片付けが終わったら酒と飯の一つでも馳走してくれよ?」
柊羽(ka6811)は不慣れな手つきで、リンダの頭をわしゃわしゃと撫でた後、街道の方に向かった。
その後で、リンダの袂に寄ってきたのは、一匹の狼だった。
「ハチはリンダの側についてて。何かあったら報せたり、護衛を頼むよ」
狼に言い聞かせたのは、久瑠我・慈衛(ka6741)だ。
「あたしを守ってくれるんだね。ありがとう」
慈衛は少し照れながら、
「俺は高い所からコボルドを探してみるよ。……あいつらが犬や狼みたいな狩りをすると仮定するなら……風下を注意した方がいいかな?」
と言って、屋根の上に上がった。
そこには、店の中での打ち合わせで後方射撃になった、アバルト・ジンツァー(ka0895)がいた。
慈衛が会釈をすると、アバルトも微笑を返す。
「……旨い酒と飯を出してくれる酒場を貴重だからな。コボルドなんぞに壊されたら、それこそ大損失というモノだ。旨い酒と肴を愛する者の一人として、自分も尽力させて貰おう」
そう言って、仲間意識を高めた。
リンダが小麦畑を流れる風を見つめていたところ、「何なら、ハンターオフィスに紹介してやろうか?」という声がかかった。
声をかけたのは、南護 炎(ka6651)だ。
「でも、お前さんには少し知ってもらわなくちゃいけないことがある」
「知らなきゃいけないこと?」
「ああ。ハンターになる前にな。――少し稽古をつけてやるよ。さ、打ってきな」
「知らなきゃいけないことっていうのはわからないけど、稽古ってことなら遠慮なく!」
リンダは父譲りのハンマーを手にして、炎に向かっていった。
その稽古の様子を見ながら、間黒 クロ(ka7061)は、来るべき戦闘に意識を高めていた。
「リンダちゃんはハンターの後輩になる子かもしれんからのう、コボルド共にやらせる訳にはいかんのじゃ」
自身にとっても初の依頼だ。
「初依頼じゃが……頼りになる先人も多い、依頼の空気を味わうには丁度いいじゃろう」
深呼吸して、そのときを待つ。
●
森の中。
仄暗い中を、気配を絶って、シェイス(ka5065)が歩いていた。
目的は戦況の把握。敵の目を欺いて、敵の位置をしっかりと把握するために、先陣を切って森の中に突入していたのだ。
「森の中に潜んでいる敵影は四。半数だ。他はすでに小麦畑の中に潜伏しているはずだ」
情報を共有した後、シェイスは手頃な敵を目標に定める。
「さて……状況を開始する」
短刀の柄を握り、飛び出した――。
不意打ちに対応できず、森の中に身を潜ませていたコボルドは棒立ちになった。
だが、そこは歴戦のコボルド。即座に反応してカウンターを仕掛ける。
「良い手だ。が、そうはいかねぇな?」
だが、隠密行動や奇襲作戦に優れたシェイスの方が一枚上手だった。
コボルドの足を短刀が、斜めに切り裂いた。
「ガルゥアアッ」
コボルドの悲鳴がこだまする。
足を負傷したコボルドは、自慢の切り裂きも空を切るばかりだ。
シェイスは一度、コボルドから距離を取る。
「おいおい、せっかくうまい酒が飲める場所を襲うなんざ無粋だぜ。酒を飲んだら辛さも苦しさも飲み込める、どうだお前らも……ってわけにはいきそうにねぇなぁ」
シェイスは皮肉に笑い、
「旅のコボルド、不運だと思って諦めてもらおうか」
身を翻して、背後に現れたもう一体のコボルドの頭部を狙う。
見事に命中し、コボルドはそのまま地面に転がった。
「グガアアアアアアア」
自分を助けに来たコボルドの絶命を目にして憤ったのか、足に怪我を負ったコボルドが突進してくる。
「悪いな。けどな、お前達が殺した人間にも大切な仲間がいたんだ」
コボルドの突進をかわして、頭部を穿つ。
二体のコボルドは地面に伏した。
●
獣の遠吠えのような声が響いた。
街道を偵察していた柊羽は上空を見上げる。
さきほど放ったモフロウが、なにやら異変を感じて旋回していた。どうやら戦闘が始まったらしい。
情報では『森に敵影が四つ』だったはずだ。
他は、すでに小麦畑の中。あちらには屋根からの目がある。それは頼りにしていい。
ここで敵を待ち構えるべきだ。
そう考えた柊羽は、試作超硬刀を構えて、神経を研ぎ澄ます。
何かが――……聞こえた。
森を突っ切ってきたコボルドが二体。その一体が爪を立てて襲いかかってきた。柊羽はそれを難なく受け流す。
すると、コボルド二体は街道の西と東の両方に位置取った。挟撃の構えだ。
「オラオラどうした? わんころ共よォ? 威勢良く来た割にゃァ腰が引けてんぜ?」
ニィっと挑発するような笑みを浮かべると、それに火を付けられたのか、二体同時に向かってくる。
足の向きと、脚の力の入れ具合、運び方――それを瞬時に見極め、柊羽は前方の敵に居合の一閃を放った。
そして、背後の敵の攻撃は反転する体で受け流し、鞘走り、電光石火の一撃をお見舞いする。
「ここはアイツ等の想い出の詰まった場所だ、テメェ等が手ェ出して良い所じゃねェんだよ」
鉄がこすれる音がカチンと鳴る。
「人間に生まれ変わってから来な。そん時ァ飯でも酒でも俺が奢ってやんよ」
納刀された音の余韻が終わり、二体のコボルドは崩れ落ちたのだった。
●
トランシーバーに連絡が入ったのを契機に、ジェットブーツで飛び跳ねたアルマは目をこらして小麦の揺らめきを見つけた。
「わうっ、西東の方向にいますよ!」
アルマは大声で報告する。
なに、と反応したアバルトはすぐさま双眼鏡で見、視覚を研ぎ澄まさせ、そこにある違和感を看破した。
――たしかにいる。
数にして、二つ。
「寄らせないですよー? ドワーフさんのお店を狙うからいけないですー」
無垢に微笑んだアルマの眼前に出現した三角形から流星が降り注ぐ。それは、小麦畑をジグザグに蠢きながら近づく二体のコボルドに命中する。一体はそこで絶命した。
まだ息のあるコボルドにはアバルトが番え放った氷の矢Fenrir Stoszahnが突き刺さる。それは断末魔の叫びを上げることもなく動かなくなった。
あと、二つ――。
他のコボルドの存在を慈衛は待った。
「さあ、潜り抜けてこい。近づいテ来タラ……狩ル」
炎は迫り来るコボルドを受け止める形で、ディスターブを構える。
先ほどまで稽古を付けていたリンダをかばいながら、コボルドの牙を受けたのだ。
「炎さん!」
「ぐっ……」
突進が加味された攻撃をしのぎきり、コボルドをはじき飛ばす。
「俺は南護炎、歪虚を断つ剣なり!」
気炎を上げる炎に、コボルドは臆して一度、小麦畑に身を隠す。
そこに投げ込まれたのが干し肉だった。投擲したのはミュオだ。干し肉に釣られたコボルドが、ソウルトーチを纏ったミュオに目標を違えた。
ミュオは瞬時に祝装・星幽花を実行。大鎌でコボルドに反撃をした。
「長い旅路、お疲れさまでした。お気の毒ですけど、旅はここでおしまいです」
コボルドが逃げようとするが、大鎌が構えられていて直線に進めない。
行く手が塞がれ、身動きが取れなくなったコボルドは、炎の連撃を食らう。
それは、呼吸法によって高められた会心の一撃だった。
「死にフラグは折るためにある!」
そして、コボルドは、ゆらりと倒れた。
小麦畑を突破してきた一体のコボルド。
そこに、マグロ型の気功波がぶち当たる。たまらず転げるコボルド。
その眼前には、クロが佇んでいた。周囲に練気を纏い、武芸者が到達する極みのような格好だ。
「まぁ、これぐらいはやれんとハンターは名乗れぬからのう」
さらに、アバルトの矢が敵に突き刺さる。
「……後方からの支援攻撃は任せて貰おう。前だけを見て存分に戦ってくれ」
「かたじけない」
クロはさらにマグロ型の気功波を飛ばした。
コボルドは満身創痍になりながらも、気功波を辛くも避けて、その勢いで火の付いた酒樽亭に突撃を敢行した。
しかし、気配もなく、そこに狩人が舞い降りる――。
コボルドはきっと自分の身になにが起こったのかわからなかっただろう。
「終わりダ」
慈衛がコボルドの急所に短刀を突き立てていた。
●
戦闘が終結し、微睡みの空気を取り戻した小麦畑。
相棒のハチを連れた慈衛が、コボルドの残党がいないかと捜索していた。
ハチの優れた嗅覚であっても、何も感じ取れなかった様子だ。
「……残党はいないか? なら仕事終了だ」
ハチを労って、その頭を撫でる。火の付いた酒樽亭に引き返した。
道すがら、放心している様子のリンダを見かけた。
少し心配になって、問いかける。
「リンダ、なにもなかった?」
「え、うん。ただ、ハンターの仕事を間近で見て……すごいなって」
「そっか」
リンダはにこりと笑って、大声でみんなに呼びかける。
「さ、みんな、宴を用意するよ! これはお店のおごりだからね! 遠慮しないで、おいで!」
リンダの素晴らしい提案に、歓声が上がった。
柊羽は、小麦畑と街道の狭間で膝を突き、静かに手を合わせていた。彼の前にはこんもりと盛り上がった土と、大きめの石がある。土の下に埋められていたのは、彼らと死闘を繰り広げていたコボルド達だった。
彼はコボルドを弔っていたのだ。
不意に、墓石に酒が垂らされた。シェイスだった。
「あの世に向けて持ってきな。旨い酒に満足して成仏してくれよ」
ジョッキに注がれた酒を一滴残らず捧げる。
「あいつらも良い酒だって言ってるぜ」
と、柊羽。
「酒ならまだあるってよ、あの嬢ちゃんが」
「なら、ご相伴に預かろうかねェ」
二人は揃って、その墓石を後にした。
火の付いた酒樽亭では、肉の焼ける良い匂いと、胃の奥が焦げるようなアルコールの匂いが香っていた。
「さあさ! 飲んでくれよ! 今日は宴なんだから!」
リンダの威勢の良い声で、宴が盛り上がっていく。
そんな看板娘に飛びついていったのは、アルマだ。
「リンダさーん! わふっ、全部やっつけたです! ご安心ですっ」
「アルマ君。今日はありがとうね」
「わぅ、もふもふしていいですー?」
「んー。厨房に行ってごらん。うちのお父さんとお母さん、もふもふし放題!」
やったです、とアルマは厨房に向かう。
そこで料理を準備しているドワーフの夫妻に飛びつき、甘えるようにじゃれついた。
「ドワーフさんって、皆さんとってももふもふでかわいいですっ。すきですー!」
店内に響いたのは、アルマの嬉々とした声だ。
それから、リンダは、カウンターでちびちびと酒を嗜んでいるアバルトに近づいていった。
「どうだい、うちのお酒は?」
「……依頼を持ち込んだ旅人が誉めていたからな。期待させて貰うよ」
「じゃあ、うちで一番高いの用意させてもらおうかな」
「おいおい、そんなに吹っかけるな」
「あはは。じゃあ、今までの依頼のこととか聞かせてよ」
「いいだろう」
アバルトは、リンダにこれまで経験してきた話をおもしろおかしく聞かせた。
「面白かった。ありがとうね」
「うまい酒の礼だ」
アバルトと別れたリンダは、炎のところに向かう。
「傷は大丈夫?」
「ん、ああ。ただのかすり傷だ。心配するな」
「そっか。よかった」
炎は酒を置いて、先ほどの傷を見せつける。
コボルドに引き裂かれた痕が、生々しく残っていた。
「リンダ。これが、ハンターの現実だ。決して華やかじゃない。辛い道のりだ。それでもハンターを目指すか? もし本気で目指すならハンターオフィスに紹介してやるよ」
一瞬、酒場が静まりかえった。
誰もがリンダの答えに耳を傾ける。
リンダは一度、大きく息を吸って、
「――やるよ。あたし、ハンターになる!」
酒場が一気に盛り上がった。新たなハンターを祝福する指笛や、おめでとうの声が飛び交う。
そんな中、ミュオはジョッキに注いだ牛乳を飲み干していた。
ぷはーっ、と雰囲気で酔う。
出された鶏肉の唐揚げを頬張りながら、みんなの輪の中にいるリンダを見て、昔の自分と重ね合わせていた。
(それにしても――このお店の人を見ていると、ちょっとだけ里に帰りたくなっちゃいます。ちょっとだけ、ですよ?)
ふふっと口元を緩ませた。そして、ジョッキを翳す。
「おじさーん。牛乳、もう一杯追加でお願いしまーす」
ガタンと盛大にドアが開いて、柊羽が店の中に入ってきた。
「オッシャァ! 終わったァ!! オイ、リンダの嬢ちゃんよ、酒と飯だ!! 喰って飲んで騒ぐぜィ! やっぱ人生ってなァ、やりてェ事してる時が一番面白ェな!」
なんとも豪奢な登場だった。
柊羽の後から店に入ったシェイスは、リンダを中心にした空気で何があったのか察し、微笑を浮かべながらカウンター席に座り、蒸留酒を頼んだ。
また宴が盛り上がりを見せてきたところで、その輪から抜け出してきたリンダに「リンダちゃん」と呼びかけたのはクロ。
「僕も最近ハンターになったばかりでのう」
「じゃあ、クロさんは、あたしの一歩先の先輩だね」
「そうじゃな。ハンターになったら、よろしく頼むのじゃ。その時はいつか一緒に依頼に行けたらいいのう」
クロが差し出した手を、リンダは固く握った。
「うん。必ず!」
「良きハンターになる。約束じゃ」
「良きハンターに!」
二人はそう約束して笑顔を見合わせた。
こうして、火の付いた酒樽亭に訪れた剣呑な騒動に、幕が下りた。
ハンター達は、新しい仲間の旅立ちと、牧歌的な小麦の揺れ動く音、美味しい酒と賑やかな酒場をいつまでも忘れないだろう。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/07 22:47:01 |
|
![]() |
相談卓 柊羽(ka6811) 鬼|30才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/11/09 18:02:50 |