• 界冥

【界冥】Ash Guard:3

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/11/09 22:00
完成日
2017/12/05 06:10

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 古の軍師曰く、戦には五つの要点があると。まずは迎え撃って戦う、戦えなくなれば守り、守れなくなれば逃げる。逃げることも出来なければ降伏し、降伏も出来ないのであれば死ぬだけ。理路整然と思考する歪虚であればこの手の傾向に漏れない。事実としてあれほど勢力拡大に勤しんだ鉄拐山クラスタは外部への攻勢を完全に休止していた。外に出る余裕もないのか、あるいは力を溜めているだけなのか。クラスタを封鎖する戦力はこの状況を見逃さず、絨毯爆撃の密度を上げてクラスタの復旧を阻止し続けた。戦力は火星クラスタの攻略などで余力は無かったものの、ここまでの戦闘で封じ込め自体は完全な布陣に変わりつつあった。
 ここ数か月の変化として陣地防衛に並ぶCAMは様変わりしていた。突入の為の装備としてR7エクスシアが配備され、古参のパイロット達の機体が更新されている。隊長級と選抜されたベテランもエクスシアに乗り換え、クラスタ突入の準備は十二分に整った。そのエクスシアの1機のコクピットで、松前晶子一尉はあくびでもしそうな顔で丁寧な爆撃の様子を眺めていた。
「拍子抜けね」
「その方が良いだろう」
 ぼやいた言葉を聞きとがめたのは僚機の白川健作一尉。有線のみの通信で部隊の外には聞こえないはずだが、彼が律儀なのは変わらなかった。
「良いか悪いかでなくて、拍子抜けでしょ? あんだけ死人出してたのに今じゃこれよ」
 良い事だと理解している。金は湯水のように使われて非難もあったが、あれ以来ほとんど死人が出ていない。非難は住人に安寧が行き渡った証拠だ。
 それでも、過去に血を流して得た物が今こうして安易に手に入るようになると、言いようの無い無力感に募っていく。流した血が無意味だったような感覚に陥っていく。状況を変えたのが自分達でなかったことも、松前の心に暗い影を落としていた。
「バカだな、松前は」
 白川の声は呆れたような驚いたような、不思議な口調であった。
「お前に必要なのは休暇でなくて葬式だな」
「はぁ?」
「お前の地元、この辺だよな?」
 松前の返事は無い。それが何より雄弁な答えとなる。これまでの斜に構えたような対応は、彼女らしい遠まわしな気遣いの形であった。


 クラスタ内部では歪虚による汚染の影響で耐性の無い人間は突入出来ない。それを解決するための外装としてR7エクスシア含むCAMは価値があり、スノードニアでのVOID討伐においてもクリムゾンウェストの覚醒者抜きでクラスタ攻略を成し遂げている。鉄拐山のクラスタも同様の攻略法が有効だが、アワフォード社のような潤沢な資金と戦力を持つ支援者が居るわけではない。
 この点で自衛隊中部方面軍のクラスタ包囲部隊は潤沢な装備を持つ部隊ではなかった。CAM以外の通常戦力の投入を封じられたクラスタ突入戦では、予備戦力を用意する余裕も無い。これまでのハンターの投入により突入戦力にすら不足するという以前の状況からは多少なりとも改善したが、猶覆せない攻城戦の不利が残されている。この状況に対して山そのものを破壊する案もあったが、逃走の可能性を考慮の上で見送られた。地中を掘って・空を飛んで・海に潜って、全ての平面に対して戦力を十全に配備することは出来ない。だからこそ確実に人の手で破壊したという確証が必要だった。
 そしてこの前提が通じるのはクラスタが未完成で汚染が軽度の場合に限られる。クラスタが完成に近づくほどにVOIDの汚染は悪化し、非覚醒者ではCAMという外装込みでも耐えられなくなる。状況は優位に進んでいるが、刻限は迫りつつあった。
 斯様な状況の元、満を持して自衛隊より選抜されたパイロットの乗るCAM4機とハンター一行はクラスタ内部に侵入した。名古屋クラスタの資料映像を見た者、あるいは実地で攻略戦に参加した者はその差異に違和感を持っただろう。歪に横に広がるクラスタ内部は閑散としていて、まともな迎撃はほとんどない。出会い頭の弾幕で事足りるような戦力しか出てこなかった。内部は歪虚の生物じみた肉か土か金属か不明瞭な壁が続くが、時折土砂に埋もれた区画が唐突に姿を現すことがあった。爆撃の余波を修復しきれていないことが素人目にもわかった。
 一行はほどなくして広い空間に出る。速度と移動方向から、そこが鉄拐山の内陸部付近とあたりは付いた。内部はドーム状の空間となっており、中央の巨大な支柱が1本、それを囲むように円形に支柱が8本均等に配され、柱からはそれぞれ枝のようなものが四方に伸ばされていた。中央の柱には緑の巨大な球体が肉に埋もれるように配され、弱く明滅を繰り返していた。資料の通りならあれこそがクラスタの核であると推測された。
 クラスタを要する柱の周囲には機影が複数。CAMと同等のサイズが3、小さい物が数十。これが最後の防衛機構と目された。
「なるほど、これはわかりやすい。高機動型のCAMを真似たか。それに……魔導アーマーとかいう異世界の機体も参考にしたらしいな。節操がない」
 白川の評価した通り、護衛の3機はこれまで自衛隊やハンターの配置したCAMの特化した機体に外観が酷似していた。前回の戦闘ヘリの性能を見るのならば、一部機能では本物を凌駕する性能だろう。対峙した同型機を一方的に撃破するだけの性能を有する可能性もある。
 クラスタ側も侵入者を感知したのか、柱が鳴動しながらその巨体を開いていく。巨大な柱の上部はまるで翼か手のような外観の腕となって、侵入者を威嚇した。
「そんなに怖いのか。そんなに死にたくないのか」
 松前の声に怒りが滲み出した。逃げるのか、ただその1点が彼女には許せなかった。
 最初の2ヵ月、CAM隊は廃墟の街を踏み荒らした。戦車が道を開くのでも攻撃機が爆撃するのでもなく、踏みつけにしたのだ。まだ生存者が残っているかもしれない家屋を、思い出の詰まった街並みを。そして、戦場で死んだ仲間達を。守るべきものを踏みつけて、それでもCAM隊は走り続けた。
 続いて松前の怒声が響くかと思われたが、続く声は白川の物であった。
「各機、兵器使用自由。俺達の事は気にするな」
 白川の声は落ち着いている。松前も冷静さを取り戻したのか言葉を発しない。
「俺達は軍人だ。役割を果たす」
 冷静な声には悲しみの気配があった。最初にハンターがこの地に呼ばれた時と同じように、彼らは自分の想いを深く沈みこませていく。失った者を弔うのは、全てを終えた後にするしかない。悲しみを共にするには、軍人という生き方は不器用にすぎるのだ。
「攻撃開始!」
 白川の号令でもって、全ての機体が行動を開始した。同時に歪虚も動き出す。鉄拐山最後の戦いが幕開けた。

リプレイ本文


薄暗いドームの中でVOIDと人類軍は対峙した。横に広い魚鱗の陣形のVOID3機に対して人類側は広く囲むような鶴翼の陣。睨みあったのは一瞬、防衛部隊である3機の大型VOIDと数十機の小型機が人類軍へと前進を開始した。各VOIDの放つ大小合わせ数十のレーザーが乱舞する。敵を捉えていた人類側各機は命令を待たずに散開して回避した。人類側は選りすぐって投入された精鋭ばかりであり、ここで脱落するような者は一人もいなかった。攻撃に対して散開しながらも2人1組も崩していない。人類軍は敵のレーザーをかわしながらも、VOIDの編成を見て取るとすぐさま作戦を固めた。アニス・テスタロッサ(ka0141)はオファニム『レラージュ・ベナンディ』のプラズマライフルで牽制を行いつつ、ハンターと自衛隊の全機宛に通信を開く。
「正面のでかい1機を集中攻撃! 残り2機は俺と八劔、沙織とルベーノで止める。残りはコアを頼む!」
 防御能力が高く且つこちらの攻撃から仲間を守る先頭の1機を最初の狙いに定める。足止めを主任務とするであろうこの機体を潰すのが先決と判断したが、これは人類軍も異論はなかった。
「了解!」
 アニスの提案に答えて松前一尉含む自衛隊機が一斉に照準を中央の機体に向けた。残ったハンターもこれに同期し、それぞれの目標に向かいながらも一斉に攻撃を開始する。射程の長い武器を持たないルベーノ・バルバライン(ka6752)以外の全機による集中砲火が先頭の槍と盾を持つVOIDに集中した。実弾とプラズマ、ミサイルとそれぞれの主力火器を容赦なく叩き込む。着弾による爆風で地面が巻き上がり、敵の姿を覆い隠す程となった。平均的なCAMならこれでひとたまりもない。しかし敵の最終防衛機構となればその程度では止まらなかった。舞い上がる粉塵の中から集中攻撃を受けたはずのVOIDが更に加速して飛び出した。無傷とは行かないが効いている様子がない。驚きながらも各自第2撃を再び中央のVOIDに集中する。VOIDは人類側の攻撃をそれぞれ着弾点をずらしながら回避し、あるいは装甲や盾で受けて耐え凌いだ。
「こいつは驚いた。一筋縄ではいかなかったな!」
 遠巻きに状況を眺めていたルベーノが呵々大笑する。組となる 沙織(ka5977)のR7エクスシア『エーデルワイス弐型』をレーザーから守りながらなので、彼自身もそれほど余裕があってのことではないが笑い飛ばすぐらいの覇気は必要だ。
 各機は画像よりVOIDの装甲強度を再計算。VOIDがこれまでどおり人類側の兵器を仮想敵として作成しただけあり、その機能は対CAM戦での必要十分な能力を備えている。この機体の場合は装甲と機動力がそれにあたり、正面からまともなダメージを与えることができたのはエーデルワイス弐型のミサイル、レラージュ・ベナンディが使うプラズマライフルのみだ。
 攻撃が有効打にならないままでは前に進めないというのに、敵のダメージは徐々に再生している。千日手になれば圧倒的に人類側が不利だ。条件は満たしていないが強引に作戦を進める必要があった。この状況を変えるためにとユウ(ka6891)はエクスシアを1歩前に進めた。
「私が距離を詰めて足止めします!」
「お姉ちゃんが行くなら私も」
 T-Sein(ka6936)に続いて敵前衛の足止めに自衛隊機からも2名が志願する。コア攻撃を任せる予定のうち4機が減っては作戦自体が立ち行かないが、乱戦に持ち込まれた場合は更に状況が悪化する。アニスの逡巡は一瞬、すぐに思考を切り替えーー
「任せたわ」
 仲間を信じて先を進む。敵の陣形上、槍を持つ機体に防御能力を集中させているなら、他の機体は個別になんとかする余地がある。でなければ、陣形など維持せず個別に戦うはずだ。
「行こう、ザイン」
「了解」
 確認と同時にユウのエクスシアとヴァルキューレ、T-Seinのオファニム『ヴァルキューレ』、自衛隊の2機が突出した。他の機体は左右に回り込みながら射撃を継続し、それ以外の敵の注意を引き付ける。残った自衛隊の2機はコアの小機による攻撃を抑えるために敵の前衛と射線をずらしつつ、遠距離火器による牽制に入った。作戦は3点からの包囲攻撃となったが、要旨自体は変わっていない。戦術的優位を確立するために、最初の一人を切り崩すのがどちらになるか。勝負はその1点となるだろう。



 側面に展開したもう1機のデュミナス型は人類軍の接近を感知するとすぐさま近接戦闘に移行した。肩より放たれるレーザーは小口径で大した出力ではなく、この個体が前進する事は容易に推測できた。
 対するのはエーデルワイス弐型とプラヴァーを駆るルベーノ。ルベーノ機を前衛として接近しつつエーデルワイス弐型が牽制として攻撃を開始する。デルタレイは単機への攻撃には向かないため、魔銃の使用に切り替えた。銃弾は正面から迫るVOIDを捉えはするが、装甲で的確に防御され致命傷には至らない。
「頑丈だな。ならこいつを試すか!」
 ルベーノ機はVOIDに接近するとイカロスブレイカーを起動して突貫する。あわよくばこの一撃で敵の機体を弾き飛ばそうという算段だった。しかし弾き飛ばされたのは逆にルベーノ機となった。CAMと同等の体格を持つVOIDの重量はCAMと比べても遜色がない。重量が違いすぎるために子供が大人、それもプロレスラーのような相手にぶつかるに等しい。
 ルベーノ機は弾かれながらも器用に体を横方向に回転させ、足裏のローラーでVOIDの斧の間合いより離脱する。今の交差で格闘戦に必要な距離を保てることはわかったが、足止めをするためのいくつかの案は廃案となった。重量差と体格差はそれだけ深刻であった。
 VOIDは前衛のルベーノ機に視線をちらりと向けると、突如として加速して後衛のエーデルワイス弐型へと迫っていく。ルベーノ機に側面、ともすれば背面を晒した状態でだ。
「! 行ったぞ!」
 警告を発しながらもルベーノはVOIDに追いすがる。エーデルワイス弐型も棒立ちというわけもなく、アクティブスラスターを起動して突進をかわそうとする。この機動にVOIDは同じ速度で追随した。
「思ったよりも早い!」
 アクティブスラスターというCAMの共通機能をVOIDは学習している。アクティブスラスターの瞬間加速を計算に入れてこの個体は動作する。瞬く間に距離を詰められた沙織を更なる想定外が襲った。
 斧を振りかぶって切りかかるVOIDだが、この速度であればアクティブスラスターの瞬間加速で十分に回避可能と計算していた。VOIDの予想はその想定を上回り、更に加速して2連撃をエーデルワイス弐型に打ち付ける。2回の攻撃をまともに受けて防御に使った左腕に致命的な損傷を受けた。この時、VOIDの斧はエーデルワイス弐型の動きを予測したかのような軌道で振るわれていた。ハンター達にはこれらは見覚えがある。CAMの高速演算機能、そして霊闘士のワイルドラッシュだ。
 動きの鈍ったエーデルワイス弐型に追撃を掛けようとするVOIDを、ルベーノ機が青龍翔咬波で横入することで遮った。
「すみません。助かりました」
「2機1組なら当然のことだ。下がれ」
 斧を構えて距離を保つVOIDだが、生々しくも巨大な目はぎょろりと動いてエーデルワイスを追っている。ルベーノは視線の意味を悟って舌打ちした。
「侮ってくれたな。歪虚風情が」
 そう言いながらも、幾つかの計算違いもルベーノは自覚していた。生き物にありがちな感情をこの敵からはまるで感じない。焦りや怒り、理性と真逆の属性が無いのだ。獣のような手合いを想定しては読み間違えるだろう。
 この機体が見ているものもうすうすと察しがついていた。エーデルワイス弐型そのものではなく、この機体に積まれた大火力のマテリアルライフルとミサイルランチャーだ。この個体はコアの防衛部隊の前衛として、守るべきコアにこの距離から甚大な被害を及ぼしうる装備を持つエーデルワイス弐型こそ優先すべき目標と判断しているのだ。少々の妨害程度は回復機能を盾に無視してもおかしくない。
「なかなかに腹の立つ状況だな、これは」
 まずいことにこの編成は手詰まりだった。このペアはルベーノが前衛で時間を稼ぎながら沙織がコアを狙うという戦い方には向いているが、純粋な格闘戦の機体と向き合うには決め手に欠けている。決め手に欠けた状態では敵の回復機能で千日手に持ち込まれてしまうだろう。ジリ貧、どころではない。下手をすれば一方的に2機とも撃破されかねない。
「それならそれで、こいつを抑え込むことに専念すればいい」
「仲間を信じて、ですね」
「そういうことだ!」
 再び突撃してくるVOIDを相手に、2機は距離を離す事を優先しての立ち回りで対処した。



 小規模のCAM対大型VOIDの戦闘では、射撃の火力を機体の装甲が時に上回る。敵のVOIDはその典型ではあったが、彼らには誤算があった。人類側の投入する新装備が彼の装甲を上回ったのである。一部の機体のみとは言え、それを軸に作戦を立てられては劣勢になることは必至である。その為に前衛のVOIDは前衛としてのもう一つの役割を優先する事を選択した。即ち、敵の射撃を司る部隊に突入しての乱戦、射撃攻撃の阻止である。この方針は数的優位をとれなかった人類軍のそれぞれの個体の隔離を旨とした次善の戦術に合致した。
 最初に接触したのユウ機。速度を乗せた突撃槍「ヘビーイグニッション」で正面から突きかかる。VOIDは攻撃を盾で受け止めながら鈍重ながらも的確に槍で的確にユウ機の胴体を狙う。ユウ機はドッジダッシュで足の裏を滑らせるような動きで軽やかに距離をとる。直後にヴァルキューレがダロウキヤで槍を持つ右側面を狙い、合わせて自衛隊機が左側面からマテリアルライフルを放つ。火力に優れるオファニムにエクスシアだが、VOIDは身を竦めるようにして全ての攻撃を防御。ほとんど無傷でこの一斉攻撃をしのぎ切った。
「硬すぎる。なにこいつ」
「ザイン、普通に戦ってても埒が明かないわ。装甲の隙間を抜くかーー」
「背中を狙うか、だね?」
 攻防を入れ替えつつも敵のVOIDは背中は晒さないようにくるりくるりと体の向きを入れ替えている。プラズマライフルに持ち替えて火力を上げたザインを注視しているため隙は少ないが、それでも強引に背中を狙うだけの足がユウの機体にはある。
「私がやるわ。お兄さん達もそれでいいですか?」
「俺達よりそちらの機体のほうが動きが軽い。こちらが合わせるから存分に動いてくれ」
 白川は喋りながらも同時に機体を踏み込ませて機剣で敵の前方より切りかかる。槍の間合いの分だけ不利な戦いだが、後方を回り込むユウには一般人の操るCAMの限界も見えた。その足に合わせて動けという意思表示なのだろう。
「ザイン、牽制を!」
「了解」
 白川機が意を察して銃で牽制しつつ後退。正面の盾を敢えて狙い相手の動きを釘付けにする。1拍遅れて側面からヴァルキューレがプラズマライフルによる全力射撃。VOIDはダメージを受けることも構わず盾を構え直しザインのヴァルキューレを正面に捉える。プラズマライフルを受けて装甲は焼け焦げ、受け損なったマテリアルの弾丸はわき腹を抉った。回避は間に合わなかったが行動に支障の出るダメージとはいかなかった。これにより背面がユウ機の正面に晒される。ユウ機はランアウトで加速し、VOIDの背面をとった。
「これで!」
 マテリアルブレードを起動。瞬時に2mを超える刃が形成され、VOIDの背中を逆袈裟で切り払った。衝撃でたたらを踏むVOID。一撃は直撃したが致命傷には至らず、体を捻って槍の突きがユウ機を襲う。ユウ機は衝撃波を伴う一撃を回避しきれず突撃槍で受ける。衝撃で機体が傾いだが、絶好の機会をVOIDは後退に使用した。追撃を掛けようとした人類側だが、コアの小機がレーザーによって牽制に徹した為に十分なダメージを与えることはできなかった。、
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「平気。まだ動けるわ」
 ユウは機体の動作を確認する。幾つかの警告ランプが灯っていたが、足回りには異常は見受けられない。槍を受けた側の上腕の反応はやや鈍くなったが、まだ何回かは使えるだろう。最悪、腕そのものを盾にすればいい。
「ねえ、ザイン。もう一度同じ手が通じると思う?」
「わからない。でも警戒はされているはず」
 会話の合間にもVOIDを包囲して攻撃を続けているが、先程までよりも防御に徹するタイミングが増えたように見える。神経質なまでに牽制を行い、背面を晒さないように陣形を警戒する。逃げに徹していると言ってもいい。
「もう一回、いくよ」
「わかった」
 瞬間的な機動性ならば勝っている。先程与えた傷が回復しきってしまう前に、攻勢をかけてこの個体を潰す。4機は歩調を合わせ、再度の攻撃を敢行した。



 アニスと八劒 颯(ka1804)は前衛を迂回してアラクネのような造形のVOIDを狙った。アラクネ型は4本の足を器用に動かしては前後左右に機体を動かし、射撃を繰り返しながらもアニスと八劔の銃撃をこともなげにかわしていく。機動性と火力の両立によって単機戦闘をこなす機体だ。この機体の回避機動は、八劔にとってその動きは見覚えがあるものだった。
「あの姿、あれが作られたのははやてのせい・・・というのは考えすぎですか、さすがに」
「考えすぎじゃねえな」
「やっぱりです?」
 希望的観測は僚機のアニスによってあっさりと砕かれる。真似たのか対抗したのか、2度の戦闘でデータを取っていたのは間違いない。
 敵の性能は未知数だがこれまでの傾向で類推できることが一つある。このクラスタのVOIDは近視眼的ながら目の前の敵には常に優位をとるように戦力を配置する。以前の戦闘ヘリをまねたVOIDのようにだ。機動力を武器とする八劔の魔導アーマー『Gustav』に対してアラクネ型は完全な上位互換、あるいは一方的に戦える武器の装備。あるいはその両方の特性を持つだろう。20秒ほどの撃ちあいの中ですらその推測を裏付ける情報は顕著に表れている。最高速度では追いつくこともできず、近接戦闘可能な範囲に追い込もうにも速度差によって常に不利なポジションを強いられ十分な牽制を行えない。
「どうする? 手詰まりなら変わってやってもいいぜ」
 挑発的なアニスの声。不意の遭遇戦なら八劔もその選択をしたかもしれない。だが敵は鉄拐山クラスタ。彼らの傾向は既に承知の上であり、この前提に立って機体を調整してきた。八劔は不敵に笑って言い放つ。
「はやてにおまかせですの!」
「そうかい。なら、こっちも本気を出すぜ」
 アニスはMODE:Dainsleifを起動。レラージュが機体の各部よりマテリアル光を放出しながら加速する。アクティブスラスターを使うことで一時的ながらもこれで速度で追いついた。プラズマライフルでレイターコールドショットを放ち、アラクネ型を徐々に追い込んでいく。移動速度は速いが胴体や足は細く、装甲も厚くはない。被弾を警戒していることが窺える。
 徐々に逃げ場を失ったアラクネ型は後方の安全地帯を失うと一転して前進へと機動を転じる。向かい会う先にはGustavの姿があった。
「しびれを切らしましたわね」
 ドリルを構えるGustav。これに対してアラクネ型はGustavに向けた銃の砲身を変形させた。口径を広く、砲身を短く。銃は直後に発砲。レーザーを散弾上に撃ち出した。引き撃ち一辺倒と見せかけつつも最低限の備えは敵も残していたのだ。直撃と思われた一撃だったが、Gustavは直前で腕を前に出して機体と搭乗者を守った。
「何かすることぐらい、予測済みなのです」
 八劔はさらにアラクネ型に接近、右に左にランダム機動で敵の攻撃をかわしつつ、遂に射程まで近づいた。ドリルを起動し、攻撃態勢に移る。――と、見せかけるのが狙いの一つだ。レーザーの散弾をかわすため、Gustavは跳躍してフライトシステムを起動させた。右か左に避けてきた今までとは全く別の回避パターン。アラクネ型はこの段階で戸惑い、前進していた機体を強引に後退へと切り替えた。そこに、わずかな空白の時間があった。八劔は足で操縦用のレバーを抑えつけつつ体を乗り出し、デリンジャーをアラクネ型に向けた。
「ドリルではなく、アイシクル・コフィンですわ!」
 搭乗者からの直接攻撃。銃という外見にも惑わされ、アラクネ型はその攻撃への対処が更に一瞬遅れた。この速度で一瞬となれば致命的な時間であった。アイシクルコフィンは直撃、その足をからめとる。威力や強度は機体の攻撃と比べるべくもないが、足が鈍ったという一点が致命的な隙を生んでいた。機会を待ってプラズマライフルを構えていたレラージュは、この瞬間を見逃さない。
「ちょこまかとうざいんだよ。寝てな」
 発砲。アラクネ型の胴体にレラージュの放ったプラズマ弾が直撃。側面からの衝撃で足をもつれさせ横倒しになり、アラクネ型は動作を停止した。アニスは更にダメ押しとばかりに、レラージュを接近させつつアラクネ型の頭や足に撃ちぬいていく。横転の段階では再生の気配のあったアラクネ型だったが、ダメージが許容値を超えたのか動かなくなると同時に黒い灰となって崩れていった。
「4脚アーマーにはこういう戦い方もあるのです」
 勝ち誇る八劔。その横でレラージュは体から放っていた光を収めていく。負担の大きい機能をここで停止させたのだ。
「クソ…頭痛ぇ…頭痛と鼻血で済んでるだけマシなんだろうけどよ…」
 悪態をつきながらアニスは備え付けの救急キットから包帯を取り出し、雑な手つきで鼻血まみれになって口元と鼻をぬぐった。宇宙でヘルメットをかぶったままならこういうことも出来ない。アニスは機体機能に鍵をかけ、そのまま戦線へと復帰した。



 2割の戦力が失われた段階で勝敗は決する。アラクネ型が比較的軽微な損害でもって早期に撃破されたことにより、戦場の趨勢は決定的となった。均衡していた防御型の個体との戦闘は余剰戦力となったアニスと八劔の介入により一方的に撃破され、残った個体も救援が間に合いこれも撃破された。コアの子機を抑えていた松前含む自衛隊機2機もこの段階で戦闘を継続可能な状態にあり、10機総出によるコア攻撃が始まった。
 優勢のまま護衛部隊を撃破したハンター達にとって、コアの撃破は容易いものであった。コア自体は多くの子機を有するがそれ自体の戦力は大したことはない。子機による反撃が可能とはいえ本来的には生産施設を統括する頭脳部でしかない。護衛を失ってしまえばただでかいだけの的。一方的に砲撃を浴びたコアは再生が間に合わないまま機能を停止した。コア破壊と同時にクラスタの崩壊も始まったが、元から地中の浅い位置に建設されたクラスタであったために、脱出までの移動も容易であった。結果として損害は数機が中破したのみにとどまり、驚くほどに少ない被害でクラスタ内部は制圧された。
 撤収後、機体の整備の合間にハンター達は鉄拐山を眺めていた。もしもの時に備えていただけだが、何も起こらない現状では崩れ行く鉄拐山を眺めるだけで終わっていた。何もない時間が3時間も続けば、空気は程よく弛緩する。張りつめていた心は緩み、自身の体の不具合のほうが気になってくる。ユウは度重なる衝撃でコクピット内に体をぶつけたらしく、体の至るところに記憶にない痣ができていた。
「ザインは大丈夫? ケガはなかった?」
「大丈夫。この子が守ってくれたから」
 ザインは後列ではあったが加速による衝撃がなかったわけでもない。それでも親しい相手を気遣う感情のほうが先に立っていた。
 この手の話で一番酷かったのはアニスだろうか。システムの都合上とは言え顔が血まみれである。胸元も汚れたままで、だんだん痛みよりも気持ち悪さが先にたってきていた。アニスは面白くなさそうに鼻に詰めていたティッシュを投げ捨てる。ふと、視線を上げると松前が変わらず鉄拐山を眺めていた。その横顔には、うっすらと光る何かがーー。
「泣いてんの?」
 アニスの無遠慮な問いかけに、松前は慌てて顔を隠して目元をぬぐう。近くにいた同僚のポケットから勝手にハンカチを抜き出すと、ズビーっと耳障りな音を立てて鼻をかんだ。ハンカチを取られて不満顔の隊員を見て、アニスは思わず頬を緩めた。
「……悪い?」
「悪かねえよ。故郷なんだろ?」
 特に語ったような記憶はなかったが、なんとなくそんな気がした。
「何もかんも、貴方達のおかげよ。ありがと」
 松前だけではない。それはこの地を守っていた彼ら全ての思いだ。いつ終わるかもしれない泥沼の戦いに光を与えてくれた。こうして終わりの光景を見せてくれた。まだ戦いは続くにせよ、区切りを打てるのはハンターの存在が大きく影響していた。
 鉄拐山は静かに沈んでいく。山だった地形がなだらかな丘に変わり、VOIDの出現の可能性が完全になくなった頃合いで、ハンター達の転移が始まっていた。

依頼結果

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MVP一覧

  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサka0141
  • びりびり電撃どりる!
    八劒 颯ka1804

重体一覧

参加者一覧

  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    レラージュ・アキュレイト(ka0141unit003
    ユニット|CAM
  • びりびり電撃どりる!
    八劒 颯(ka1804
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    グスタフ
    Gustav(ka1804unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • 戦場に咲く白い花
    沙織(ka5977
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    エーデルワイスツー
    エーデルワイス弐型(ka5977unit003
    ユニット|CAM
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • ユニットアイコン
    マドウアーマー「プラヴァー」
    魔導アーマー「プラヴァー」(ka6752unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • 無垢なる守護者
    ユウ(ka6891
    ドラグーン|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka6891unit003
    ユニット|CAM
  • 狂える牙
    冷泉 緋百合(ka6936
    オートマトン|13才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    ヴァルキューレ
    ヴァルキューレ(ka6936unit003
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アニス・テスタロッサ(ka0141
人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/11/09 19:40:33
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/05 13:31:38