ゲスト
(ka0000)
【天誓】精霊と満ちるカガヤキ
マスター:紫月紫織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/13 19:00
- 完成日
- 2017/11/25 21:07
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
逸話として残る人物、エフェメリスさんも語られる物語を持ちます。
ある日、彼女は唐突に――それこそ、何かから遣わされたかのように現れて、その領地を収める主を、そして民衆を、そして時には騎士団を導き支えた、と。
その導きに間違いはなく、彼女に従えば荒れる河は収まり、戦に被害はなく、作物はよく実り、長雨は晴天に、干ばつには恵みの雨が降り注いだといいます。
領主様は彼女に恋をして、熱い告白の言葉にエフェメリスは拒絶をしなかった。
おとぎ話みたいだと私が言った時、シルヴァおねえちゃんは――
「伝えられた物語は、読者によって美化されるものなの。だからきっとこの人は間違いなく多くの人に親しまれて……だからこの物語に正確さは欠けているのよ」
と、少しだけ寂しそうにいいました。
その表情の奥にある感情は、私にはわかりませんでした。
エフェメリスさんに出会うよりも、ずっと前の話です。
――ミモザの日記、及び『帝国編纂物語集第七巻十二章 導きのエフェメリス』より抜粋
◆ ◆ ◆
「のう、シルヴァ」
「なーにー? お、ここの金具ももうだめね……代わりのパーツは、っと」
ルーペ片手にエフェメリスさんの依代である天球儀を修理していたシルヴァおねえちゃんは、器用に腐食して破損寸前のパーツを取り出して新しいものへと交換していきます。
なかなか複雑かつ精密な作りをしているらしく、作業は難航しているようですが。
そんなおねえちゃんは横目に次の言葉を促します。
「わし、美味いものが食いたい」
シルヴァおねえちゃんは、その言葉に作業の手を止めて首を傾げます。
天球儀を依代として顕現しているエフェメリスさんは実体を持たない、マテリアルの力場のような存在であるとおねえちゃんは言っていましたが。
お食事を取れるものなのでしょうか?
「……何を食べるの?」
「こう……あれじゃよ、マテリアル的なさむしんぐ?」
微妙に舌っ足らずかつ不安なイントネーションで答えながら首を傾げるエフェメリスさんは、なんというかお話で読んだ人物とは一致しないんですよね……。
お話の中ではもっと凛々しく、迷いを知らず、そして熱愛でした……領主さんと。
このエフェメリスさんはなんというか、もっととっつきやすくて庶民的でざっくりした感じです。
そして……シルヴァおねえちゃんがなんかすごい顔してます。
シャッターチャンスを感じます。
ぱしゃり
「……ミモザ、何をしているの?」
「魔導スマートフォンの撮影機能をためしに……」
小さな画面には今撮影した眉間にしわを寄せて「何言ってんだコイツ?」みたいな顔をしたお姉ちゃんが映っています、綺麗に映っていますね。
うん、魔導スマートフォン……便利です。
リアルブルーには更に高機能な代物があるとか聞きますが、気になります。
「まあ、食うというと正確ではないかの……いや、当時に比べれば今の食事は美味そうで興味を惹かれるんじゃが――」
食うと言われるとなんというか、すごく……歪虚的なさむしんぐです。
「シルヴァもミモザも、良いマテリアルをしておる。そばにいて心地よい……」
だがしかし!
とばかりに身振りをしてエフェメリスさんはなんか熱く語るようなポーズ。
この人は本当にあのお話のエフェメリスさんなんでしょうか……?
「たまにはこう……違うマテリアルを感じたいんじゃよ」
なーなー、なんとかしてくりゃれ? と作業中にじゃれつくさまは猫のようです。
あ、おねえちゃんがまたすごい顔に……。
「ミモザ、なんか案はない?」
「え、え~? そこで私に振るの?」
「ワタシハ、イソガシイ」
あ、だめだこれ……かなり煮詰まってる、なんとか引き離すしかないや。
「……なにか考えてみるね?」
「ヨロシク」
矛先が変わったのか、シルヴァから離れたエフェメリスは今度はミモザへとまとわりつくようにその位置を変える。
後日ミモザが考えついたのは、ハンター達を招待したお茶会の企画であった。
リプレイ本文
コートの襟を掴み、だいぶ寒くなってきたもんだと思いながら帝都の路地を抜ける。
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)はポケットから紙片を取り出し、ぐるりと路地を見渡して、左へと曲がった。
しばらくして見つけた目的の店、看板の前で二人の少女と鉢合わせた。
「おや、先客かい?」
グリムバルドの声に、二人が振り向く。
「ということは、貴方もお茶会の参加者ですか?」
「ああ、今日はよろしくな……入らないのか?」
リラ(ka5679)の言葉に頷いて返し、二人がドアの前で店に入る素振りも見せないことに首を傾げた。
「【closed】の札がかかってるのよね」
彼の疑問にトゥーナ・リアーヌ(ka6426)が言葉を返す。
誘われた以上気にすることでもないように思うが、そういう札がかかっていると心理的になんとなく入りづらくなるのも頷ける。
グリムバルドは率先してドアに手をかけた。
店内に漂う甘い香りに気を取られていたら、からんからん、とドアベルが音を立てた。
無意識に振り向いて、メアリ・ロイド(ka6633)は見覚えのある顔と鉢合わせた。
「あなたは――」
「おっ、メアリさんじゃないか、奇遇だな」
片手を上げてにっと笑いながら挨拶する彼と、その後ろに続くリラとトゥーナ。
どうやら揃ったようだと頷いて、メアリはカウンターのベルを鳴らした。
程なくして藍色の髪の女性――シルヴァが店の奥から顔を出す。
「揃ったのね、皆さんいらっしゃい。ミモザー、みんな来てるわよー」
店の奥、おそらく台所から元気な返事があった。
そしてその声の主よりも先に、薄らと透けた姿の、シルヴァとは対象的な銀髪の妙齢女性が姿を表した。
事前に調べた伝承と一致するその姿に、メアリはそれが誰なのか悟る。
「おお、依頼に応えてくれたハンターの皆じゃな? よう来てくれた」
嬉しそうに歓迎してくれる精霊エフェメリスを前に、一抹の不安が疼く。
私は――役に立つのだろうか。
促されるままに奥に進むと、テーブルの上にはまだ中央にお皿が載せられる程のスペースが空いていて、程なくして主催であろう少女が大きめのお皿に載せられたケーキを持ってやってきました。
ふわりと漂う焼き菓子の甘い香り、微かに交じる柑橘系の香りのシフォンケーキは、ふっくらと綺麗に膨らんでいた。
「はじめまして! リラと言います。本日はお招きありがとうございますね!」
「トゥーナといいます、今日はよろしくお願いします。あ、これよろしければ!」
「ご丁寧にありがとうございます、ミモザです」
挨拶を交わす三人、そんな中トゥーナが差し出したのは二種類の茶葉だった。
もてなす気満々でいたミモザは少し面食らった様子だったが、すぐにそれを一変させる。
特にトゥーナが差し出した茶葉の片方に特に目を輝かせた。
――ヒカヤ紅茶。
かの王国の王女も好んでいると噂の代物である。
ぱあああ、と花が開くように笑うその様子。
ああ、この少女はこんなふうに笑うのか。
「嬉しそうじゃな」
「うんっ! すっごく美味しいって評判なの!」
元気に答えるミモザに、エフェメリスは嬉しそうに頷いてみせる。
なんとなく、場が暖かくなった気がして――
(……もしかして、こういう事なのでしょうか)
リラはエフェメリスの好むものがなんなのか、その片鱗を見た気がした。
どうやら追い出されることはなさそうだ、と内心で胸をなでおろしつつ、そんなに気にすることでもなかったのかな、と雰囲気から感じました。
エフェメリスさんは純粋に会えたことを喜んでくれている様子だし、なんというか、とても穏やかです。
ミモザさんは早速とばかりにポットを用意しに行って、それを待ってからお茶会は始まりました。
半実態とも言える状態で席についたエフェメリスは、お茶にも茶菓子にも手を付けては居ないが、心地よさそうに微笑んでいる。
ふわりと漂う紅茶の匂いは、甘く香り高く部屋を満たす。
シンプルでいて奥深いそれは、自然と気持ちを和らげてくれて、まさに憩いの一杯にこそふさわしい。
そこで談笑する皆を見れば、持ってきてよかったと思える。
自然とトゥーナは笑みをこぼすのだった。
テーブルの上に用意された色とりどりの様々なお菓子は、全てミモザの手作りだという。
その用意にメアリは感心しながら見入っていた。
シフォンケーキを一切れ口に運べば、オレンジの香りと柔らかい感触がメアリを出迎える。
「……すごいですね」
「準備、大変だっただろ?」
「う~ん……楽しかった!」
「そっか」
にっと笑い、グリムバルドは色とりどりのマカロンを一つ口に放り込む。
さくりと砕け、舌の上でサラリと溶けるそこに紅茶を一口。
甘さのあとに程よい感じの香りと苦味が、互いを引き立て合う絶妙なハーモニーだった。
「今日は来れて良かった。菓子は美味しいし、ミモザやシルヴァさんにも久しぶりに会えたしな……元気そうで何よりだ」
「ハンターの仕事が増えて、ちょっと忙しくなっちゃったけどね」
苦笑しつつ答えるシルヴァ。
ミモザが受けた依頼次第で一緒に家を開けることが増えたそうだが、保護者だからね、と笑っていた。
そんな様子を、特にミモザの姿を見て、内心で、羨ましいと感じている自分がいることを、メアリは頭の何処かで自覚していた。
「? どうしたの、メアリおねーちゃん?」
見られていたことに気づいたミモザの問いに、なんでもないですよと、口元だけの微笑みで返す。
ミモザは少しの間、そんなメアリの様子に首を傾げていた。
積み重ねた経験が、それぞれに静かに、けれど確実に変化を与えていた。
程なくお茶会は始まって、あれやこれやと話題が飛び交う。
話はころころと入れ替わり、やがて依頼の内容へと至った。
「マテリアルを感じられたい、ですかぁ」
「ここちよいマテリアルとはどのような? 正のマテリアルなのは大前提でしょうが、マテリアルを発している人の感情や状態などにも関係はあるのでしょうか? 覚醒状態だとまた変わったりするのでしょうか」
「あんまり深く考えなくて大丈夫なんじゃがなー」
リラとメアリの問いに、エフェメリスは軽く返す。
その反応は、メアリが事前に調べた伝承のイメージからは少し乖離したものだった。
伝承では、もう少し凛とした印象をうけたが、こうして話す彼女は気さくな相談者と言った風情である。
じっと、エフェメリスを見つめていると、そんなに見つめてくれるな、と言わんばかりに彼女は苦笑したのだった。
「何かしたほうがいいんでしょうかー?」
「トゥーナみたいにこの場を楽しんでくれていれば、それで構わんのじゃが」
視線を向ければ彼女は、こっちのお菓子は初めて見る、これは美味しいなとお菓子を満喫している。
あまりにも幸せそうに食べているので見ている方が思わず口元が緩んでしまうような、そんな様子である。
「そもそも、そのマテリアルってどんなふうに感じるものなの?」
トゥーナの質問に合わせて、そう言えばと全員の視線がエフェメリスに集中する。
本人はと言うと、説明が難しいのぅ、といって腕を組んだ。
「わしがそう感じているだけということもあるから明確な説明は難しいが……」
強いて言うなら――
「お主は、風に揺られる花畑のような感じがするのう」
と、エフェメリスはトゥーナを見てそう口にした。
さて、どうだろうかと少しの沈黙の後、リラが口を開いた。
「あ、じゃあ歌を聴いていただけませんか?」
「歌か、久々じゃな」
ぱちぱちと拍手を始めるエフェメリス。
「エフェメリスさんはどんな歌が好きですか?」
「ん……そうさな、羊飼いの娘が歌っておったのが好きじゃったが、そう言えばついぞ曲名は教えてもらえんかったな」
生前好きだった歌の名を知らなかったことに気付かされて、少しだけ悲しそうな顔をした彼女に、それを教えてあげたいと思い、リラは幾つもの曲名を頭のなかから探し始める。
「羊飼い……古い歌ですよね」
なんだろう、なまじ多くの歌を知っているからか、あれこれと曲名を巡らせるリラに、メアリから声がかかった。
「もしかして、ですが……『草喰み野駆けよ黒羊』では?」
前もって調べておいた伝承に、そんな記述があった。
「あ、その歌しってる!」
ミモザからも元気よく手が挙がる、それならと、リラは一緒に歌うことを提案した。
お茶会はまだ始まったばかり、違ったらまた歌えばいいのだから。
そうして始まった二人のデュエットは、店の中を暖かく穏やかな空気へと変えていった。
歌の途中から、エフェメリスはどこか遠くを見るような目に変わり、やがて心地よさそうにまぶたを伏せる。
二人の歌声に、程なくして微かな鼻歌が重なった。
歌が終わった所で、グリムバルドの拍手が響く。
「二人ともいい歌声だったぜ」
「うむ。良い歌であった。『草喰み野駆けよ黒羊』……じゃったか?」
「そうですね、帝国の伝承の中に出てくる羊飼いの歌の一つです」
「そうか……ふふ」
笑い出すエフェメリスに、どうしたのかとリラは首を傾げる。
少しして落ち着いた頃、彼女は口を開いた。
「あの頃の歌の名を、今になって知ることになろうとは」
「な、なんか嬉しそう、ですね?」
少し驚きつつ聞くトゥーナに、頷いて返す。
「ああ、嬉しいのじゃよ。わしの生きた過去は、たしかな未来へとつながっていた。それも、こんな素敵な未来にじゃ。こうして見ることが出来るとは、思わんかった」
一度は死に、そして精霊として顕現した故のその感想。
そこに帝国の歴史の片鱗が、感じられるような気がした。
何度目かのリラの歌が終わった頃、エフェメリスはメアリの隣へと席を移した。
お茶会を楽しんではいるのだろうが、それとはまた異なる波長を、ずっと感じていた故だろう。
「何か、考え込んでおるじゃろう?」
話してみよ、とばかりに切り出すエフェメリスに、メアリは少しだけ逡巡した。
依頼を受けて来たにも関わらずこれでは、立場が逆という気がする。
「お主からは、他の皆とはまた違う感じがするのでな、気になっておるんじゃよ」
メアリが口を開いたのは、少し間を置いてから。
「私のマテリアルも、役にたてば良いですが。……感情が大分薄いので少々薄いのでは無いか等と」
「薄い……か、なるほど」
「最近少しずつ温かな気持ちも取り戻してきてはいるのでましかなとは。守りたい人も出来てきましたし」
言葉を選びながらなのか、ゆっくりと紡がれるその言葉に、エフェメリスはなるほどと頷き笑う。
「お主から感じる暖かさはそれか」
得心いった、とばかりに、エフェメリスは頷いた。
メアリの言葉、その答えはエフェメリスにとって喜ぶべきものだ。
人を思う気持ち、守りたいと願うもの。
ふわりと、室内だというのに風が舞う。
「今のお主は、たしかに色あせた絵かもしれんが、お主の色は確かに息づいておるよ。このわしが保証し、祝福しよう! その思いを!」
唐突に、氷細工を砕いたような、繊細で儚い音と共に、室内に星が舞う。
マテリアルによって生み出されたのであろう、浮き上がる小さな星天は、メアリを中心に広がり、きらきらと輝きを残して溶けるように消えていった。
「お主の星を、大切にするがよい」
「あ、ありがとう……ございます」
突然のことにあっけにとられていたメアリに、エフェメリスは心底嬉しそうな顔を向けていた。
話も一通り巡った頃合い、お茶会の隅っこでずっと作業を続けているシルヴァが気になってグリムバルドは席を外した。
床に広げられたシートの上に、幾つもの銀の輪と、それを繋いでいたのであろう腐食した金属片が並べられているのだが、見たところ修復は一向に進んでいない様子だった。
「なにか、手伝おうか?」
グリムバルドの声に反応した彼女は少しの間きょとんとした後、救いが舞い降りたとばかりに喜色を浮かべた。
相当煮詰まっていたのだろう、是非にと懇願するシルヴァに、グリムバルドはその場に腰を下ろす。
「それで、これは一体どういう代物なんだ?」
「天球儀、らしいんだけどね」
そう言ってシルヴァは銀の輪を手に取り、重ねて見せる。
輪が接触する部分には金具があったのだろう、腐食の残りが見て取れた。
「各パーツを繋いでいた部分の構造がわからなくて、手の施しようがないのよ」
「なるほどな……」
「機械、というほどではないかもだけど、その知識に加えて占術の知識も必要そうよね」
いつの間にかグリムバルドの後ろから覗き込んでいたトゥーナが、そんなことを口にする。
機導師としては興味がそそられるのだろう、メアリもほどなくして寄ってきた。
「でもこれって、彫金師とかの分野じゃないか? なんでシルヴァさんが直してるんだ?」
「わしが嫌がったからじゃな」
「あー……『わしが認めんやつには触らせん!』的な?」
「いや、修理の最中、間が持たん気がするから」
その言葉の意味する所をなんとなく理解し、シルヴァもとばっちりだな、とグリムバルドは苦笑する。
「一応、私は基礎的な彫金の技術はあるんだけど、こういう物の設計がわからなくてね」
「つまり、どういうパーツを作ればいいのかが分かれば、修理出来る目処がたつ、ということですか」
メアリの言葉にシルヴァは頷いてみせる。
「なるほどな。シルヴァさん、占い師だし星にも詳しいよな?」
「まぁ、必要なところは抑えてるつもりだけど」
「じゃあ、各部がどういう動き方をすればいいのか教えてくれ、そうしたら――」
「私達がそれに合わせてパーツを設計すればいい、ってことよね?」
グリムバルドの言葉にトゥーナとメアリが頷いて、そして手分けしての作業が始まった。
それほど難しいパーツでなかったことも幸いしてか、その作業は占術の基礎を持つグリムバルドの指揮下のもと一時間ほどで終わりを告げる。
パーツは結構な数になり、紙の束がいくつもできたが、どうやら修理の目処は付きそうだ。
「本当に、助かったわ。これぐらいならうちの作業場でもなんとかできそう」
最悪の場合設計書を元に発注をかけたってかまわない。
これはシルヴァにとって救いに等しい進展だった。
「お役に立ててよかったです」
「そうですね、古い技術にも触れられましたし」
ほっとその場で息をつく三人。
そんな中、グリムバルドは立ち上がるとすっとシルヴァに手を差し伸べる。
「目処がついたらシルヴァさんもお茶しようぜ。疲れたときは甘い物食べて気分転換だ」
誘われることはあると思っても、まさかこうして手を差し伸べられるとは思っていなかったシルヴァは、少しばかり迷った後その手を取った。
「それじゃあ、お茶のお供に何か面白い話をお願いするわ」
席が一つ増え、リアルブルーでのアライグマ軍団のお話を聞きながら、お茶会はまだ終わらない。
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)はポケットから紙片を取り出し、ぐるりと路地を見渡して、左へと曲がった。
しばらくして見つけた目的の店、看板の前で二人の少女と鉢合わせた。
「おや、先客かい?」
グリムバルドの声に、二人が振り向く。
「ということは、貴方もお茶会の参加者ですか?」
「ああ、今日はよろしくな……入らないのか?」
リラ(ka5679)の言葉に頷いて返し、二人がドアの前で店に入る素振りも見せないことに首を傾げた。
「【closed】の札がかかってるのよね」
彼の疑問にトゥーナ・リアーヌ(ka6426)が言葉を返す。
誘われた以上気にすることでもないように思うが、そういう札がかかっていると心理的になんとなく入りづらくなるのも頷ける。
グリムバルドは率先してドアに手をかけた。
店内に漂う甘い香りに気を取られていたら、からんからん、とドアベルが音を立てた。
無意識に振り向いて、メアリ・ロイド(ka6633)は見覚えのある顔と鉢合わせた。
「あなたは――」
「おっ、メアリさんじゃないか、奇遇だな」
片手を上げてにっと笑いながら挨拶する彼と、その後ろに続くリラとトゥーナ。
どうやら揃ったようだと頷いて、メアリはカウンターのベルを鳴らした。
程なくして藍色の髪の女性――シルヴァが店の奥から顔を出す。
「揃ったのね、皆さんいらっしゃい。ミモザー、みんな来てるわよー」
店の奥、おそらく台所から元気な返事があった。
そしてその声の主よりも先に、薄らと透けた姿の、シルヴァとは対象的な銀髪の妙齢女性が姿を表した。
事前に調べた伝承と一致するその姿に、メアリはそれが誰なのか悟る。
「おお、依頼に応えてくれたハンターの皆じゃな? よう来てくれた」
嬉しそうに歓迎してくれる精霊エフェメリスを前に、一抹の不安が疼く。
私は――役に立つのだろうか。
促されるままに奥に進むと、テーブルの上にはまだ中央にお皿が載せられる程のスペースが空いていて、程なくして主催であろう少女が大きめのお皿に載せられたケーキを持ってやってきました。
ふわりと漂う焼き菓子の甘い香り、微かに交じる柑橘系の香りのシフォンケーキは、ふっくらと綺麗に膨らんでいた。
「はじめまして! リラと言います。本日はお招きありがとうございますね!」
「トゥーナといいます、今日はよろしくお願いします。あ、これよろしければ!」
「ご丁寧にありがとうございます、ミモザです」
挨拶を交わす三人、そんな中トゥーナが差し出したのは二種類の茶葉だった。
もてなす気満々でいたミモザは少し面食らった様子だったが、すぐにそれを一変させる。
特にトゥーナが差し出した茶葉の片方に特に目を輝かせた。
――ヒカヤ紅茶。
かの王国の王女も好んでいると噂の代物である。
ぱあああ、と花が開くように笑うその様子。
ああ、この少女はこんなふうに笑うのか。
「嬉しそうじゃな」
「うんっ! すっごく美味しいって評判なの!」
元気に答えるミモザに、エフェメリスは嬉しそうに頷いてみせる。
なんとなく、場が暖かくなった気がして――
(……もしかして、こういう事なのでしょうか)
リラはエフェメリスの好むものがなんなのか、その片鱗を見た気がした。
どうやら追い出されることはなさそうだ、と内心で胸をなでおろしつつ、そんなに気にすることでもなかったのかな、と雰囲気から感じました。
エフェメリスさんは純粋に会えたことを喜んでくれている様子だし、なんというか、とても穏やかです。
ミモザさんは早速とばかりにポットを用意しに行って、それを待ってからお茶会は始まりました。
半実態とも言える状態で席についたエフェメリスは、お茶にも茶菓子にも手を付けては居ないが、心地よさそうに微笑んでいる。
ふわりと漂う紅茶の匂いは、甘く香り高く部屋を満たす。
シンプルでいて奥深いそれは、自然と気持ちを和らげてくれて、まさに憩いの一杯にこそふさわしい。
そこで談笑する皆を見れば、持ってきてよかったと思える。
自然とトゥーナは笑みをこぼすのだった。
テーブルの上に用意された色とりどりの様々なお菓子は、全てミモザの手作りだという。
その用意にメアリは感心しながら見入っていた。
シフォンケーキを一切れ口に運べば、オレンジの香りと柔らかい感触がメアリを出迎える。
「……すごいですね」
「準備、大変だっただろ?」
「う~ん……楽しかった!」
「そっか」
にっと笑い、グリムバルドは色とりどりのマカロンを一つ口に放り込む。
さくりと砕け、舌の上でサラリと溶けるそこに紅茶を一口。
甘さのあとに程よい感じの香りと苦味が、互いを引き立て合う絶妙なハーモニーだった。
「今日は来れて良かった。菓子は美味しいし、ミモザやシルヴァさんにも久しぶりに会えたしな……元気そうで何よりだ」
「ハンターの仕事が増えて、ちょっと忙しくなっちゃったけどね」
苦笑しつつ答えるシルヴァ。
ミモザが受けた依頼次第で一緒に家を開けることが増えたそうだが、保護者だからね、と笑っていた。
そんな様子を、特にミモザの姿を見て、内心で、羨ましいと感じている自分がいることを、メアリは頭の何処かで自覚していた。
「? どうしたの、メアリおねーちゃん?」
見られていたことに気づいたミモザの問いに、なんでもないですよと、口元だけの微笑みで返す。
ミモザは少しの間、そんなメアリの様子に首を傾げていた。
積み重ねた経験が、それぞれに静かに、けれど確実に変化を与えていた。
程なくお茶会は始まって、あれやこれやと話題が飛び交う。
話はころころと入れ替わり、やがて依頼の内容へと至った。
「マテリアルを感じられたい、ですかぁ」
「ここちよいマテリアルとはどのような? 正のマテリアルなのは大前提でしょうが、マテリアルを発している人の感情や状態などにも関係はあるのでしょうか? 覚醒状態だとまた変わったりするのでしょうか」
「あんまり深く考えなくて大丈夫なんじゃがなー」
リラとメアリの問いに、エフェメリスは軽く返す。
その反応は、メアリが事前に調べた伝承のイメージからは少し乖離したものだった。
伝承では、もう少し凛とした印象をうけたが、こうして話す彼女は気さくな相談者と言った風情である。
じっと、エフェメリスを見つめていると、そんなに見つめてくれるな、と言わんばかりに彼女は苦笑したのだった。
「何かしたほうがいいんでしょうかー?」
「トゥーナみたいにこの場を楽しんでくれていれば、それで構わんのじゃが」
視線を向ければ彼女は、こっちのお菓子は初めて見る、これは美味しいなとお菓子を満喫している。
あまりにも幸せそうに食べているので見ている方が思わず口元が緩んでしまうような、そんな様子である。
「そもそも、そのマテリアルってどんなふうに感じるものなの?」
トゥーナの質問に合わせて、そう言えばと全員の視線がエフェメリスに集中する。
本人はと言うと、説明が難しいのぅ、といって腕を組んだ。
「わしがそう感じているだけということもあるから明確な説明は難しいが……」
強いて言うなら――
「お主は、風に揺られる花畑のような感じがするのう」
と、エフェメリスはトゥーナを見てそう口にした。
さて、どうだろうかと少しの沈黙の後、リラが口を開いた。
「あ、じゃあ歌を聴いていただけませんか?」
「歌か、久々じゃな」
ぱちぱちと拍手を始めるエフェメリス。
「エフェメリスさんはどんな歌が好きですか?」
「ん……そうさな、羊飼いの娘が歌っておったのが好きじゃったが、そう言えばついぞ曲名は教えてもらえんかったな」
生前好きだった歌の名を知らなかったことに気付かされて、少しだけ悲しそうな顔をした彼女に、それを教えてあげたいと思い、リラは幾つもの曲名を頭のなかから探し始める。
「羊飼い……古い歌ですよね」
なんだろう、なまじ多くの歌を知っているからか、あれこれと曲名を巡らせるリラに、メアリから声がかかった。
「もしかして、ですが……『草喰み野駆けよ黒羊』では?」
前もって調べておいた伝承に、そんな記述があった。
「あ、その歌しってる!」
ミモザからも元気よく手が挙がる、それならと、リラは一緒に歌うことを提案した。
お茶会はまだ始まったばかり、違ったらまた歌えばいいのだから。
そうして始まった二人のデュエットは、店の中を暖かく穏やかな空気へと変えていった。
歌の途中から、エフェメリスはどこか遠くを見るような目に変わり、やがて心地よさそうにまぶたを伏せる。
二人の歌声に、程なくして微かな鼻歌が重なった。
歌が終わった所で、グリムバルドの拍手が響く。
「二人ともいい歌声だったぜ」
「うむ。良い歌であった。『草喰み野駆けよ黒羊』……じゃったか?」
「そうですね、帝国の伝承の中に出てくる羊飼いの歌の一つです」
「そうか……ふふ」
笑い出すエフェメリスに、どうしたのかとリラは首を傾げる。
少しして落ち着いた頃、彼女は口を開いた。
「あの頃の歌の名を、今になって知ることになろうとは」
「な、なんか嬉しそう、ですね?」
少し驚きつつ聞くトゥーナに、頷いて返す。
「ああ、嬉しいのじゃよ。わしの生きた過去は、たしかな未来へとつながっていた。それも、こんな素敵な未来にじゃ。こうして見ることが出来るとは、思わんかった」
一度は死に、そして精霊として顕現した故のその感想。
そこに帝国の歴史の片鱗が、感じられるような気がした。
何度目かのリラの歌が終わった頃、エフェメリスはメアリの隣へと席を移した。
お茶会を楽しんではいるのだろうが、それとはまた異なる波長を、ずっと感じていた故だろう。
「何か、考え込んでおるじゃろう?」
話してみよ、とばかりに切り出すエフェメリスに、メアリは少しだけ逡巡した。
依頼を受けて来たにも関わらずこれでは、立場が逆という気がする。
「お主からは、他の皆とはまた違う感じがするのでな、気になっておるんじゃよ」
メアリが口を開いたのは、少し間を置いてから。
「私のマテリアルも、役にたてば良いですが。……感情が大分薄いので少々薄いのでは無いか等と」
「薄い……か、なるほど」
「最近少しずつ温かな気持ちも取り戻してきてはいるのでましかなとは。守りたい人も出来てきましたし」
言葉を選びながらなのか、ゆっくりと紡がれるその言葉に、エフェメリスはなるほどと頷き笑う。
「お主から感じる暖かさはそれか」
得心いった、とばかりに、エフェメリスは頷いた。
メアリの言葉、その答えはエフェメリスにとって喜ぶべきものだ。
人を思う気持ち、守りたいと願うもの。
ふわりと、室内だというのに風が舞う。
「今のお主は、たしかに色あせた絵かもしれんが、お主の色は確かに息づいておるよ。このわしが保証し、祝福しよう! その思いを!」
唐突に、氷細工を砕いたような、繊細で儚い音と共に、室内に星が舞う。
マテリアルによって生み出されたのであろう、浮き上がる小さな星天は、メアリを中心に広がり、きらきらと輝きを残して溶けるように消えていった。
「お主の星を、大切にするがよい」
「あ、ありがとう……ございます」
突然のことにあっけにとられていたメアリに、エフェメリスは心底嬉しそうな顔を向けていた。
話も一通り巡った頃合い、お茶会の隅っこでずっと作業を続けているシルヴァが気になってグリムバルドは席を外した。
床に広げられたシートの上に、幾つもの銀の輪と、それを繋いでいたのであろう腐食した金属片が並べられているのだが、見たところ修復は一向に進んでいない様子だった。
「なにか、手伝おうか?」
グリムバルドの声に反応した彼女は少しの間きょとんとした後、救いが舞い降りたとばかりに喜色を浮かべた。
相当煮詰まっていたのだろう、是非にと懇願するシルヴァに、グリムバルドはその場に腰を下ろす。
「それで、これは一体どういう代物なんだ?」
「天球儀、らしいんだけどね」
そう言ってシルヴァは銀の輪を手に取り、重ねて見せる。
輪が接触する部分には金具があったのだろう、腐食の残りが見て取れた。
「各パーツを繋いでいた部分の構造がわからなくて、手の施しようがないのよ」
「なるほどな……」
「機械、というほどではないかもだけど、その知識に加えて占術の知識も必要そうよね」
いつの間にかグリムバルドの後ろから覗き込んでいたトゥーナが、そんなことを口にする。
機導師としては興味がそそられるのだろう、メアリもほどなくして寄ってきた。
「でもこれって、彫金師とかの分野じゃないか? なんでシルヴァさんが直してるんだ?」
「わしが嫌がったからじゃな」
「あー……『わしが認めんやつには触らせん!』的な?」
「いや、修理の最中、間が持たん気がするから」
その言葉の意味する所をなんとなく理解し、シルヴァもとばっちりだな、とグリムバルドは苦笑する。
「一応、私は基礎的な彫金の技術はあるんだけど、こういう物の設計がわからなくてね」
「つまり、どういうパーツを作ればいいのかが分かれば、修理出来る目処がたつ、ということですか」
メアリの言葉にシルヴァは頷いてみせる。
「なるほどな。シルヴァさん、占い師だし星にも詳しいよな?」
「まぁ、必要なところは抑えてるつもりだけど」
「じゃあ、各部がどういう動き方をすればいいのか教えてくれ、そうしたら――」
「私達がそれに合わせてパーツを設計すればいい、ってことよね?」
グリムバルドの言葉にトゥーナとメアリが頷いて、そして手分けしての作業が始まった。
それほど難しいパーツでなかったことも幸いしてか、その作業は占術の基礎を持つグリムバルドの指揮下のもと一時間ほどで終わりを告げる。
パーツは結構な数になり、紙の束がいくつもできたが、どうやら修理の目処は付きそうだ。
「本当に、助かったわ。これぐらいならうちの作業場でもなんとかできそう」
最悪の場合設計書を元に発注をかけたってかまわない。
これはシルヴァにとって救いに等しい進展だった。
「お役に立ててよかったです」
「そうですね、古い技術にも触れられましたし」
ほっとその場で息をつく三人。
そんな中、グリムバルドは立ち上がるとすっとシルヴァに手を差し伸べる。
「目処がついたらシルヴァさんもお茶しようぜ。疲れたときは甘い物食べて気分転換だ」
誘われることはあると思っても、まさかこうして手を差し伸べられるとは思っていなかったシルヴァは、少しばかり迷った後その手を取った。
「それじゃあ、お茶のお供に何か面白い話をお願いするわ」
席が一つ増え、リアルブルーでのアライグマ軍団のお話を聞きながら、お茶会はまだ終わらない。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/08 16:06:43 |