ゲスト
(ka0000)
【郷祭】これが祭りというものさ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/11/17 19:00
- 完成日
- 2017/11/22 23:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●a past event
等間隔に並ぶ机と席。膝に手を置きお行儀よく座っているのは、小さなマゴイたち。同じ服を着た同じ年頃の、ほぼ見分けがつかないほど似通った容姿の子供たち。
「皆さん、想像してみてください。『親』を持つということがどんなものか、『家族』と暮らすというのがどういうものか」
マゴイたちは言われた通り想像しようとした。しかし、うまくいかなかった。誰もそんなものを見たことがなかったからだ。
ただそれに対する漠然とした忌避と嫌悪は、誰しも習得していた。出生時から始まる社会化教育によって。
「それは、社会を不幸にするものだったのです」
家庭。1人の男と、女と、あらゆる年齢層の子供。それが一つところに押し込められている。お互い同士に課せられる異常な独占関係。密集生活の摩擦により煮詰まった感情は発酵し、悪臭を放ち始める――私だけの母親、私だけの父親、私だけの赤ちゃん、私だけの――
●now 市民生産機関会議室
環境整備の仕事は一区切り。これから取り組むべきは。
1:新しいエネルギー炉の建造。
2:保養施設の建造。
3:ワーカーの教育。
である。
1、2は島の中にある資源だけでは出来ない。特に保養所となれば、どこかよそに敷地を確保する必要がある。
歪虚ブロック処理の外注請負についても、定期的に続ける必要があるだろう。少なくとも、エネルギー炉が完成して、生産機関の本格的な稼動が出来るようになるまでは。
そのためにはこの世界の社会事情や仕組みについてもうちょっとよく調べなくてはいけないだろう。
共同体社会への不適合化が著しく進んでいるβ、θについても同様である。彼らがどうしてああなっているのか、そこを分析すればこれからのワーカーの教育のため、役立つに違いない。
しかしあの2人、特にθの方だが、不安定化が本当にひどい。実はこれまで数度接触を行ってみたのだが、こちらの姿を見ただけで飛び逃げてしまい、まともな会話が出来なかった。
ではどうするか。
長々考えてマゴイは、以下の結論に達した。
『……ワーカーに……任せるしかなさそうね……』
●レター・フロム・ユニオン
郷祭がやってきた。
バシリア刑務所は春郷祭と同様、ペリニョン村と提携し、出店を出す。
内容は昨年と同様だ。刑務所のブースは犬猫譲渡会と作業作品の販売。ペリニョン村のブースは燻製品。
開催目前に迫ったイベントの準備に精を出していた最中スペットは、魔術師協会職員から呼び出しを受けた。
「おー、全快したんかタモンはん」
「ええ、おかげさまで……」
「今日は何の用や。受信機の改良出来たんか?」
「いえ、それはまだ、もう少し時間がかかりそうでして――それより、ちょっと確かめてもらいたいものがあるんですがね」
と言ってタモンは、箱を持ってきた。
縦20センチ横30センチ幅10センチ。
色は淡い赤。前後に方形を基礎にした幾何学模様が記されている。
上部には縦3センチ、横20センチの細長い穴。
「これ――なんだか分かりますか? 前回の通信の後、マゴイさんから送られてきたんですが……」
箱を見たスペットは、鼻回りに生えた髭をひくひく動かした。
「あー、これは書簡送信機やな」
彼がそう言ったとき、幾何学模様がほんのり光った。
トースターからトーストが飛び出すような具合で、穴から封筒がはね出てきた。
「!?」
タモンは恐る恐るそれを引き出し、開いてみる。
書類が出てきた。
読んでみる。
――――――――
ユニオン労働基準法第112条 【ユニオン外部者との間における契約についての適用】を根拠としてユニオンは、民営団体ハンターオフィスに、10名のワーカーにおける視察業務について、一時契約締結を希望者に求めるよう、通告を出す旨を要請する。
*当契約において依頼引き受け人はワーカーが視察業務を負えるまでの間、その身体生命財産の保護、安全の維持に当たることを求められる。
*当契約において依頼引受人は、ワーカーが視察業務を終えるまでの間、その行動を妨害しないことを求められる。
*当契約において依頼引き受け人は労働に対する対価を、貨幣によって全額支払われる。
*当契約において依頼引き受け人は下記労働条件で働くことを求められる。
1、労働時間:6時間
2、労働開始時刻並びに労働終了時刻:9:00~16:00
3、休憩時間:12:00~13:00
4、所定労働時間を超える労働の有無:無
――――――――
以下10ページに渡って目が滑るような契約文章が延々続くのだが、要約すれば、『ワーカーを郷祭に参加させようと思うのだが、自分は一緒に行けない。だから、その間彼らを引率してくれる人間を募集する。参加者はこの書類にサインして送り返してくるように。』とのこと。
内容はともかくとして、タモンは一番に以下のことが気になった。
「ユニオンにも、書類をやり取りする習慣があるんですか?」
「ああ、あんで」
「データを直にやり取りとかでなく?」
「それもするけど、同時に書面でもやり取りせなあかんねん」
「……二度手間では?」
「……まあ俺も時々そう思わんでもなかったけどな、そういう決まりやってんや」
「なるほど。ところでこの書類、どうやって送り返したらいいんですか?」
「その穴に入れ直したらええねん」
●郷祭
郷祭会場。
コボルドコボちゃんとハンターたちは、スペットの陣取る刑務所屋台の前で待っていた。マゴイとワーカーたちが現れるのを。
そろそろ時間だ。
「何でここが待ち合わせ場所になっとんねん」
ぶつくさスペットがぼやいた所で、展示品である箪笥の戸が開いた。
そこからコボルドたちが飛び出してくる。10匹全員おそろいの白ネクタイを身につけて。
「わん、わんわんわん」
「おう、わう」
コボちゃんは早速鼻をくっつけてのご挨拶。
「わっしー! わしわしわっしー!」
その後、もそもそマゴイが出てくる。
カチャは早速彼女に、今回の依頼についての仔細を確かめた。
「えーと、このコボルドたちを今日一日預かればいいんですね?」
『……そう……彼らに危険がないように保護して頂戴……』
そこに華やかな楽隊の音が聞こえてきた。目を向ければ、新郎新婦の行列が通りがかるところだった。
そういえば最近数箇所の村が合同で、婚活パーティーを開催したとか。そのとき成立したカップルの結婚式だろうか――と微笑ましく思うハンターたち。
カチャはふとマゴイに顔を向けた。
そして気づいた。マゴイがうとましげな目で行列を見ていることに。
等間隔に並ぶ机と席。膝に手を置きお行儀よく座っているのは、小さなマゴイたち。同じ服を着た同じ年頃の、ほぼ見分けがつかないほど似通った容姿の子供たち。
「皆さん、想像してみてください。『親』を持つということがどんなものか、『家族』と暮らすというのがどういうものか」
マゴイたちは言われた通り想像しようとした。しかし、うまくいかなかった。誰もそんなものを見たことがなかったからだ。
ただそれに対する漠然とした忌避と嫌悪は、誰しも習得していた。出生時から始まる社会化教育によって。
「それは、社会を不幸にするものだったのです」
家庭。1人の男と、女と、あらゆる年齢層の子供。それが一つところに押し込められている。お互い同士に課せられる異常な独占関係。密集生活の摩擦により煮詰まった感情は発酵し、悪臭を放ち始める――私だけの母親、私だけの父親、私だけの赤ちゃん、私だけの――
●now 市民生産機関会議室
環境整備の仕事は一区切り。これから取り組むべきは。
1:新しいエネルギー炉の建造。
2:保養施設の建造。
3:ワーカーの教育。
である。
1、2は島の中にある資源だけでは出来ない。特に保養所となれば、どこかよそに敷地を確保する必要がある。
歪虚ブロック処理の外注請負についても、定期的に続ける必要があるだろう。少なくとも、エネルギー炉が完成して、生産機関の本格的な稼動が出来るようになるまでは。
そのためにはこの世界の社会事情や仕組みについてもうちょっとよく調べなくてはいけないだろう。
共同体社会への不適合化が著しく進んでいるβ、θについても同様である。彼らがどうしてああなっているのか、そこを分析すればこれからのワーカーの教育のため、役立つに違いない。
しかしあの2人、特にθの方だが、不安定化が本当にひどい。実はこれまで数度接触を行ってみたのだが、こちらの姿を見ただけで飛び逃げてしまい、まともな会話が出来なかった。
ではどうするか。
長々考えてマゴイは、以下の結論に達した。
『……ワーカーに……任せるしかなさそうね……』
●レター・フロム・ユニオン
郷祭がやってきた。
バシリア刑務所は春郷祭と同様、ペリニョン村と提携し、出店を出す。
内容は昨年と同様だ。刑務所のブースは犬猫譲渡会と作業作品の販売。ペリニョン村のブースは燻製品。
開催目前に迫ったイベントの準備に精を出していた最中スペットは、魔術師協会職員から呼び出しを受けた。
「おー、全快したんかタモンはん」
「ええ、おかげさまで……」
「今日は何の用や。受信機の改良出来たんか?」
「いえ、それはまだ、もう少し時間がかかりそうでして――それより、ちょっと確かめてもらいたいものがあるんですがね」
と言ってタモンは、箱を持ってきた。
縦20センチ横30センチ幅10センチ。
色は淡い赤。前後に方形を基礎にした幾何学模様が記されている。
上部には縦3センチ、横20センチの細長い穴。
「これ――なんだか分かりますか? 前回の通信の後、マゴイさんから送られてきたんですが……」
箱を見たスペットは、鼻回りに生えた髭をひくひく動かした。
「あー、これは書簡送信機やな」
彼がそう言ったとき、幾何学模様がほんのり光った。
トースターからトーストが飛び出すような具合で、穴から封筒がはね出てきた。
「!?」
タモンは恐る恐るそれを引き出し、開いてみる。
書類が出てきた。
読んでみる。
――――――――
ユニオン労働基準法第112条 【ユニオン外部者との間における契約についての適用】を根拠としてユニオンは、民営団体ハンターオフィスに、10名のワーカーにおける視察業務について、一時契約締結を希望者に求めるよう、通告を出す旨を要請する。
*当契約において依頼引き受け人はワーカーが視察業務を負えるまでの間、その身体生命財産の保護、安全の維持に当たることを求められる。
*当契約において依頼引受人は、ワーカーが視察業務を終えるまでの間、その行動を妨害しないことを求められる。
*当契約において依頼引き受け人は労働に対する対価を、貨幣によって全額支払われる。
*当契約において依頼引き受け人は下記労働条件で働くことを求められる。
1、労働時間:6時間
2、労働開始時刻並びに労働終了時刻:9:00~16:00
3、休憩時間:12:00~13:00
4、所定労働時間を超える労働の有無:無
――――――――
以下10ページに渡って目が滑るような契約文章が延々続くのだが、要約すれば、『ワーカーを郷祭に参加させようと思うのだが、自分は一緒に行けない。だから、その間彼らを引率してくれる人間を募集する。参加者はこの書類にサインして送り返してくるように。』とのこと。
内容はともかくとして、タモンは一番に以下のことが気になった。
「ユニオンにも、書類をやり取りする習慣があるんですか?」
「ああ、あんで」
「データを直にやり取りとかでなく?」
「それもするけど、同時に書面でもやり取りせなあかんねん」
「……二度手間では?」
「……まあ俺も時々そう思わんでもなかったけどな、そういう決まりやってんや」
「なるほど。ところでこの書類、どうやって送り返したらいいんですか?」
「その穴に入れ直したらええねん」
●郷祭
郷祭会場。
コボルドコボちゃんとハンターたちは、スペットの陣取る刑務所屋台の前で待っていた。マゴイとワーカーたちが現れるのを。
そろそろ時間だ。
「何でここが待ち合わせ場所になっとんねん」
ぶつくさスペットがぼやいた所で、展示品である箪笥の戸が開いた。
そこからコボルドたちが飛び出してくる。10匹全員おそろいの白ネクタイを身につけて。
「わん、わんわんわん」
「おう、わう」
コボちゃんは早速鼻をくっつけてのご挨拶。
「わっしー! わしわしわっしー!」
その後、もそもそマゴイが出てくる。
カチャは早速彼女に、今回の依頼についての仔細を確かめた。
「えーと、このコボルドたちを今日一日預かればいいんですね?」
『……そう……彼らに危険がないように保護して頂戴……』
そこに華やかな楽隊の音が聞こえてきた。目を向ければ、新郎新婦の行列が通りがかるところだった。
そういえば最近数箇所の村が合同で、婚活パーティーを開催したとか。そのとき成立したカップルの結婚式だろうか――と微笑ましく思うハンターたち。
カチャはふとマゴイに顔を向けた。
そして気づいた。マゴイがうとましげな目で行列を見ていることに。
リプレイ本文
●朝。
リナリス・リーカノア(ka5126)はうきうきした調子でカチャに話しかける。
「花嫁さんきれいだね-、カチャ」
だがカチャは脇を向いて上の空。
「……カチャ、どうかした?」
「え、あ、いえ――今、マゴイさんがですね……」
カチャは小声でリナリスに、マゴイが結婚式の行列にどういう眼差しを向けていたかを教えた。
当のマゴイはもう行列など見ていない。コボルドたちに向かい静かな調子で唸っている――コボルド語を喋っているらしい。
『……うー……うる……る……』
熱心に頷いているコボルドたちに、ソラス(ka6581)が人語で話しかけた。
「ようこそ。お洒落なネクタイしてますね?」
何を言われたかは定かでないが、褒められているということは伝わったらしい。コボルドたちは尻尾を振って吠えた。天竜寺 詩(ka0396)はその姿に微笑ましさを覚える。
(コボちゃんの真似してお洒落してるのかな?)
しかしマゴイはコボルドに何を言い聞かせているのか。多少気掛かりに思えたので、聞き確かめた。
すると、こういう答え。
『……今回の仕事内容について……再確認しているの……昼の休憩を1時間……必ず取ることと……就業時間が来たら……ちゃんと仕事をやめること……』
ハンス・ラインフェルト(ka6750)にはワーカーに対するマゴイの態度が、幼児に対する母親のそれに見えてしょうがなかった。当人はそんなつもり欠片もないだろうけど。
「ところでマゴイさん、コボルド達に休憩の義務が発生するなら、無論あなたもそれに縛られると考えるのですが。それについてはどうお考えです?」
『もちろん……ワーカーのみならずマゴイにも……ソルジャーにも……ステーツマンにも休む義務がある……』
そこまで言ったところでマゴイの声のトーンが、やや落ちた。
『……のだけど……今の段階ではなかなかそうするのが難しい……まあ……とにかくワーカーの保護を頼むわね……』
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が自信ありげに胸を張る。
「引率はばっちり任せちゃってください! お祭りのあれやこれをしっかりお見せしちゃいます……あれ? でも、カメラとか記録取るもの持ってなくても大丈夫なんですか?」
マゴイはコボルドのネクタイピンを指さした。
『……これに音声も映像も記録されるから……問題ないわ……』
そうなのか。なら問題ない。
――いやある。もう1つだけ。
「あと、お祭りの飲食代は、必要経費って事でいいですよね」
『……もちろん……それは経費に含まれる……』
●午前の部。
初冬の明るい空の下。祭り会場を見下ろす丘の上。小止みなく祝福の鐘が鳴っている。
教会入り口から式を終えた花嫁と花婿が出てきた。正面で待ち構えていたぴょこが、花びらをばら蒔き振りかける。
『パーティー成婚カップル第一号、おめでとう、なのじゃー』
湧き起こる歓声。飛び交うライスシャワー。
リナリスは積極的に人の輪の中へ入って行く。
「こんにちは、楽しんでますか~」
祝いの席ということもあり、皆見知らぬ相手に対し愛想がいい。大概の人が答えてくれた。
「花嫁さん花婿さんとは、どういうご関係で?」
「ああ、花嫁が私の姪なんですよ。ちょっと前まであんなに小さかったのに……時の流れは本当に早いものです」
友人であろう人々に囃したてられた花嫁とは花婿は照れ臭そうに抱擁し、口づけを交わす。
湧き起こる口笛と拍手。
リナリスも拍手した。そして、通訳のコボちゃんとコボルドたちに拍手を促した。
「はい、みんなで祝福♪」
見よう見まねで両手を叩き合わせるコボルドたち。
そこへワインを手にした客たちが寄ってくる。
「おー。コボルドがネクタイなんてつけてるぞ、こっちのは服着てらあ」
「なんだなんだ、サーカスか」
ハンスはさりげなく彼らの前に移動する。
「祝いの席なので礼装しているだけですよ。どうぞおかまいなく」
物腰柔らかな威圧に負けた酔客らは、よそへ行った。
ブーケトスが始まる。
コボルドたちはコボちゃんに向かって口々に何か言った。コボちゃんはそれを訳して詩に伝えた。
「あーれ、なに?」
「花嫁さんが投げるブーケを受け取った人は次に結婚できるんだ。でも、結婚は人生の墓場っていう人もいるね」
コボちゃんから詩の言葉を訳してもらったコボルドたちは、不得要領に首をひねる。
ソラスは紙とペンを駆使し聞いてみた。今見ているものと同じような慣習はあなたたちの間に存在するか、と。
趣旨の細かいところまで伝わったかは定かでないが――コボルドたちは首を振った。つがいになることはあっても、その際周囲が特に何かするということはないようだ。ついでに誕生日についても聞いてみたが、そちらは前の質問以上に意味が分からない様子であった。そもそも彼ら自分の年について、曖昧にしか把握していないらしい。
白いブーケが宙に舞う。
『ゆにおん わーかーご一行様』の旗を持つルンルンは、頬に手を当て夢見る瞳。
「わぁ、幸せそうなのです……私もいつか素敵な王子様と……きゃっ」
ぴょこが天に向かい拳を突き上げる。
『門出を祝してぴょこたれぱーんち!』
七色に光り輝くマテリアルの祝砲が上がった。
わき起こった暴風でブーケが巻き上げられ四分五裂に空中分解、会場に降り注ぐ。ルンルンの頭上にも降り注ぐ。
「こっ、これは……いよいよ王子様との巡り会いが近いってことですねっ!」
「食べたいものを見つけたときは、まず私達に言うのです」
ルンルンの指示に従い幾つもの食べ物屋台を経由したコボルドたちは、古物屋の前で足を止めた。ガラスの器、瀬戸物、銅製品、燭台、オルゴール、絵画等、色んなものがごちゃごちゃしている様が目を引いたらしい。
「おい、売り物を壊さんでくれよ」
「大丈夫です、ちゃんと見てますから」
店主に詩が断りを入れる中、あちこちを嗅ぎ回る。1匹が中身の入っていない写真立てを不思議そうにいじる。
リナリスはコボちゃんを通し説明してやった。それが何に使うものなのか。
「それはね、好きな景色や大切な人の絵を、入れて飾って置くための道具」
不意に感情が高ぶってきて、別のコボルドの相手をしていたカチャに飛びつく。
「わっ!? なんですか、びっくりするでしょ」
「へへ、ごめん――ねえ、ワーカーさん達は大切な相手っている? マゴイの事はどう思ってる? あたしは、このカチャの事が何より大切♪ 世界の誰よりもね。カチャが全世界を敵に回したら、あたしはカチャを守って世界と戦う事を選ぶよ。心と心が結ばれてるからね♪」
ソラスは周囲に群がるコボルドたちに品物の名前や用途、使い方を説き聞かせていた。それらがレコーダーに記録されることを念頭に置いて。
「これは傘です。雨が降ってきたらこうやって広げて頭の上にかざして、濡れるのを防ぐんです。こちらの白いのは日傘ですね。雨ではなくて、太陽の光を防ぐために使う物なんです」
火が付いたような泣き声が聞こえてきた。
ハンスはそれが聞こえてくる方に顔を向ける。迷子コーナーで子供が泣いているのが見えた。
「ままー、ままー! ままー!」
「ほら、泣かなくてもいいのよ、ママはちゃんと迎えに来るから。お菓子食べる?」
「いやない! ままー、ままー!」
係員は見るからに持て余し気味だった。そこに母親とおぼしき女性が走ってくる。
「ピーター、ピーター! ここにいたの、ああ、よかった!」
「まま、ままー!」
再会した親子はお互いを強く、涙ながらに抱き締める。
よかったなと思いふと足元に視線を向けると、コボルドが同じものを見ていた。
「よかったですね」
「わん」
●昼。
ハンターたちはスペットの店に戻っていた。店番のため行動を共にすることは出来なかった彼だが、コボルドたちの動向は気掛かりだったらしい。開口一番こう言った。
「ワーカー、なんぞ面倒起こしとらんか」
ルンルンはコボルドたちにアナウンスする。
「右手をご覧ください、あちらはコボルドさんとは違って猫頭になります」
「待てや」
ペリニョン出店前にいたぴょこが跳ねて来た。
『おお、犬たち戻ってきたのかの。かの』
ちょうどそこで箪笥の戸が開き、マゴイが出てくる。ぴょこは、ぱっとスペットがいるカウンターの後ろに隠れた。
ハンスはマゴイに朝方の話の続きを持ち出す。彼女自身をなるべく長く場に留め、直に祭りを見てもらおうと。
「ワーカーには、ユニオンでの雇用条件を伝えているのですか?」
『……口頭で伝えているわ……時報に従って仕事を始めること……止めること……休みの日には働かないこと……何か迷うことがあったら、どうしたらいいのか私に聞くこと……私がいないときはウォッチャーに聞くこと……以上』
今回彼女が送り付けてきたくどいほど細かな書面の内容を思い起こせば、随分簡単である。簡単過ぎやしないかと思うほど簡単である。
「私たちにしたように、書面を提示しないのですか?」
訝しむハンスに対するマゴイの答えは、至極もっともなものだった。
『……彼らは字が読めない……あまり長い話をしても……覚えられない……これから教育していきはするけど……現在のところはまだそういう段階だから……それに合わせた教えかたをするしかないわね……』
それならば、とハンスは話を続ける。
「貴女自身がワーカーに休養方法を見せる方が彼等には分かりやすいと思いますが? そこのところはどう考えますか」
その点はマゴイ自身も気になっているところだったらしい。朝と同じく声のトーンが落ちた。
『……マゴイは今のところ私1人なので……交替シフトが組めない……でも新しいエネルギー炉が出来れば……機関の自動管理能力が大幅に向上する……そのとき積み増しの休暇をまとめて取れば問題ないわ……』
詩はふと思い立ち聞いてみた。
「ねえマゴイ、ユニオンではどんなお墓を作るの?」
『……そんなものはないわ』
「……じゃあ、誰かが死んだときどうするの?」
『……どうするって……さよならして最寄りの焼却場に搬送して漏れ無く燐を回収し土壌改良資源として利用する……』
ルンルンが吹いた。
「えぇ!? ひ、肥料になっちゃうんですか!?」
『……そうよ……焼くことで腐敗汚染が防げるし農業生産に貢献するし……いいこと尽くめ……』
詩はスペットに出会った当初のことを思い出した。
あの時は死体をいじくり回すなんて酷い奴だと思ったが、今マゴイの話を聞いて見方が変わった。ユニオンにおいて死体は資源の一部なのだ。だから彼は抵抗感なく物として扱えたのだ――今は考えを改めているかもしれないが。
リナリスとカチャが話し合う。
「究極の循環型社会だね♪」
「極めちゃいけないところまで行っちゃってる感じですけど……」
マゴイはそれを聞いたふうでもない。屋台通りを眺め憂わしげに漏らす。
『……人も物も……規格がばらばら……』
ソラスは言った。
「ユニオンはみんな一緒でも、ここは個性の光る町。違うということに知る喜びや、同じだった時の驚きといった感情が動く――それも幸せなことでは?」
『……果たしてそうかしらね……』
懐疑的な意見を述べマゴイは、戻って行った。
●午後の部。
「あのお墓。ボール型でしょ。きっとボール遊びが好きだった人なんだね」
花や剣、天使や胸像などを刻んだ石碑が並んでいる。前を歩いているのは詩。後ろについて来るのはコボルド数匹。ここは、墓地。
「――これも文化だねぇ」
詩は一つの墓に刻まれた碑文を読んだ。スケッチブックに寄り添う男女の姿を描いて見せながら。
「【私の幸運は彼女をひととき知り、愛することが出来たこと。限られた人生の中で、永遠の愛を】」
風が色あせた芝生の上をかけて行く。
「死が二人を分かつても、死して尚愛する人と在りたいという思い……私も何時か愛する人と出会えたらそう在りたいと思うんだ、ってちょっと難しかったかな?」
コボルドたちはきょとんとした顔で、目をぱちぱちさせていた。
ソラスはコボルドたちに、のど自慢や演奏、人形劇といった出し物を見せて回った。それから、農機具の展示会なども。この世界の文化・技術レベルを計るのにはちょうどいいだろうと思って。
「マゴイさんは、みんなにとってどんな人? お友だち? 先生?」
コボちゃんはソラスの質問をコボルドたちに訳して聞かせる。
コボルドからの答えをソラスに訳して聞かせる。
「ぼす」
「そうですか。それじゃあせっかくだから、マゴイさんにお土産を買って行くのはどうですか? 私がお金を出してもいいですよ」
「いいね。マゴイの事が好きなら、何か贈り物をしてみたらどうかな? 祭りに来てた人達みたいに♪」
リナリスからも促しを受けたコボルドたちは、走りだした。向かった先は午前に来た古物屋である。選んだのは白い日傘である。
カチャはコボちゃんを通じ聞いてみた。
「どうしてこれなんです?」
答えはこうだった。
「まごい、このいろ、すき、だから、これ、いい」
ルンルンとハンスはコボルドたちに投げ輪をさせている。
そこに、詩が戻ってきた。コボルドたちを連れて。
「ごめん、ちょっとこの子たちも見てて」
ルンルンは新しく入ってきたコボルドたちを列に並べる。
「いいですよー……詩さん、どこに行くんです?」
「うん、ちょっと調理場を借りにね。この子たちにお土産作ってあげようと思って」
●夕方。
マゴイは再度会場に戻ってきた。コボルドたちを島に連れ帰るために。
コボルドたちは喜び吠え、お土産を渡す。一つはリボンのついた骨型のクッキー。詩が彼らにあげたもの。
それからもう一つは、白い日傘。
マゴイはこの『お土産』について、品物の保全を託されたものと見なしたらしい。こう言った。
『……なら……預かるわね……』
今回のデータを見て彼女はどう思うのだろうと考えながら、ソラスが聞く。
「マゴイさん。今度、私たちがユニオンにお邪魔することは出来ませんか?」
『……市民になりたいの?……』
「いえ、そういうわけではないですけど」
『……では、どうして……』
ハンスが横から苦笑交じりに言った。
「貴女が知らないことが、貴方を変える一助になると思えるので。いろいろ考えてみてほしいのですよ」
そんなやり取りがなされている傍らでリナリスは、カチャに囁いた。いつになくしおらしげな表情で、頬を染めて。
「ねぇ、あたし達もさ……結婚式、する? カチャも成人して暫くたったし……い、いつがいいかなっ」
カチャはどぎまぎし、リナリスの手を握りしめる。
「ええっ、と、あの、か、家族に相談してみますっ」
●後日。
ソラスがコボルドのお土産に使った分のお金が、必要経費と見なされユニオンから、魔術師協会を通じて送金されてきた。
彼の報酬に生じたマイナス分は、それによって補填された。
リナリス・リーカノア(ka5126)はうきうきした調子でカチャに話しかける。
「花嫁さんきれいだね-、カチャ」
だがカチャは脇を向いて上の空。
「……カチャ、どうかした?」
「え、あ、いえ――今、マゴイさんがですね……」
カチャは小声でリナリスに、マゴイが結婚式の行列にどういう眼差しを向けていたかを教えた。
当のマゴイはもう行列など見ていない。コボルドたちに向かい静かな調子で唸っている――コボルド語を喋っているらしい。
『……うー……うる……る……』
熱心に頷いているコボルドたちに、ソラス(ka6581)が人語で話しかけた。
「ようこそ。お洒落なネクタイしてますね?」
何を言われたかは定かでないが、褒められているということは伝わったらしい。コボルドたちは尻尾を振って吠えた。天竜寺 詩(ka0396)はその姿に微笑ましさを覚える。
(コボちゃんの真似してお洒落してるのかな?)
しかしマゴイはコボルドに何を言い聞かせているのか。多少気掛かりに思えたので、聞き確かめた。
すると、こういう答え。
『……今回の仕事内容について……再確認しているの……昼の休憩を1時間……必ず取ることと……就業時間が来たら……ちゃんと仕事をやめること……』
ハンス・ラインフェルト(ka6750)にはワーカーに対するマゴイの態度が、幼児に対する母親のそれに見えてしょうがなかった。当人はそんなつもり欠片もないだろうけど。
「ところでマゴイさん、コボルド達に休憩の義務が発生するなら、無論あなたもそれに縛られると考えるのですが。それについてはどうお考えです?」
『もちろん……ワーカーのみならずマゴイにも……ソルジャーにも……ステーツマンにも休む義務がある……』
そこまで言ったところでマゴイの声のトーンが、やや落ちた。
『……のだけど……今の段階ではなかなかそうするのが難しい……まあ……とにかくワーカーの保護を頼むわね……』
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が自信ありげに胸を張る。
「引率はばっちり任せちゃってください! お祭りのあれやこれをしっかりお見せしちゃいます……あれ? でも、カメラとか記録取るもの持ってなくても大丈夫なんですか?」
マゴイはコボルドのネクタイピンを指さした。
『……これに音声も映像も記録されるから……問題ないわ……』
そうなのか。なら問題ない。
――いやある。もう1つだけ。
「あと、お祭りの飲食代は、必要経費って事でいいですよね」
『……もちろん……それは経費に含まれる……』
●午前の部。
初冬の明るい空の下。祭り会場を見下ろす丘の上。小止みなく祝福の鐘が鳴っている。
教会入り口から式を終えた花嫁と花婿が出てきた。正面で待ち構えていたぴょこが、花びらをばら蒔き振りかける。
『パーティー成婚カップル第一号、おめでとう、なのじゃー』
湧き起こる歓声。飛び交うライスシャワー。
リナリスは積極的に人の輪の中へ入って行く。
「こんにちは、楽しんでますか~」
祝いの席ということもあり、皆見知らぬ相手に対し愛想がいい。大概の人が答えてくれた。
「花嫁さん花婿さんとは、どういうご関係で?」
「ああ、花嫁が私の姪なんですよ。ちょっと前まであんなに小さかったのに……時の流れは本当に早いものです」
友人であろう人々に囃したてられた花嫁とは花婿は照れ臭そうに抱擁し、口づけを交わす。
湧き起こる口笛と拍手。
リナリスも拍手した。そして、通訳のコボちゃんとコボルドたちに拍手を促した。
「はい、みんなで祝福♪」
見よう見まねで両手を叩き合わせるコボルドたち。
そこへワインを手にした客たちが寄ってくる。
「おー。コボルドがネクタイなんてつけてるぞ、こっちのは服着てらあ」
「なんだなんだ、サーカスか」
ハンスはさりげなく彼らの前に移動する。
「祝いの席なので礼装しているだけですよ。どうぞおかまいなく」
物腰柔らかな威圧に負けた酔客らは、よそへ行った。
ブーケトスが始まる。
コボルドたちはコボちゃんに向かって口々に何か言った。コボちゃんはそれを訳して詩に伝えた。
「あーれ、なに?」
「花嫁さんが投げるブーケを受け取った人は次に結婚できるんだ。でも、結婚は人生の墓場っていう人もいるね」
コボちゃんから詩の言葉を訳してもらったコボルドたちは、不得要領に首をひねる。
ソラスは紙とペンを駆使し聞いてみた。今見ているものと同じような慣習はあなたたちの間に存在するか、と。
趣旨の細かいところまで伝わったかは定かでないが――コボルドたちは首を振った。つがいになることはあっても、その際周囲が特に何かするということはないようだ。ついでに誕生日についても聞いてみたが、そちらは前の質問以上に意味が分からない様子であった。そもそも彼ら自分の年について、曖昧にしか把握していないらしい。
白いブーケが宙に舞う。
『ゆにおん わーかーご一行様』の旗を持つルンルンは、頬に手を当て夢見る瞳。
「わぁ、幸せそうなのです……私もいつか素敵な王子様と……きゃっ」
ぴょこが天に向かい拳を突き上げる。
『門出を祝してぴょこたれぱーんち!』
七色に光り輝くマテリアルの祝砲が上がった。
わき起こった暴風でブーケが巻き上げられ四分五裂に空中分解、会場に降り注ぐ。ルンルンの頭上にも降り注ぐ。
「こっ、これは……いよいよ王子様との巡り会いが近いってことですねっ!」
「食べたいものを見つけたときは、まず私達に言うのです」
ルンルンの指示に従い幾つもの食べ物屋台を経由したコボルドたちは、古物屋の前で足を止めた。ガラスの器、瀬戸物、銅製品、燭台、オルゴール、絵画等、色んなものがごちゃごちゃしている様が目を引いたらしい。
「おい、売り物を壊さんでくれよ」
「大丈夫です、ちゃんと見てますから」
店主に詩が断りを入れる中、あちこちを嗅ぎ回る。1匹が中身の入っていない写真立てを不思議そうにいじる。
リナリスはコボちゃんを通し説明してやった。それが何に使うものなのか。
「それはね、好きな景色や大切な人の絵を、入れて飾って置くための道具」
不意に感情が高ぶってきて、別のコボルドの相手をしていたカチャに飛びつく。
「わっ!? なんですか、びっくりするでしょ」
「へへ、ごめん――ねえ、ワーカーさん達は大切な相手っている? マゴイの事はどう思ってる? あたしは、このカチャの事が何より大切♪ 世界の誰よりもね。カチャが全世界を敵に回したら、あたしはカチャを守って世界と戦う事を選ぶよ。心と心が結ばれてるからね♪」
ソラスは周囲に群がるコボルドたちに品物の名前や用途、使い方を説き聞かせていた。それらがレコーダーに記録されることを念頭に置いて。
「これは傘です。雨が降ってきたらこうやって広げて頭の上にかざして、濡れるのを防ぐんです。こちらの白いのは日傘ですね。雨ではなくて、太陽の光を防ぐために使う物なんです」
火が付いたような泣き声が聞こえてきた。
ハンスはそれが聞こえてくる方に顔を向ける。迷子コーナーで子供が泣いているのが見えた。
「ままー、ままー! ままー!」
「ほら、泣かなくてもいいのよ、ママはちゃんと迎えに来るから。お菓子食べる?」
「いやない! ままー、ままー!」
係員は見るからに持て余し気味だった。そこに母親とおぼしき女性が走ってくる。
「ピーター、ピーター! ここにいたの、ああ、よかった!」
「まま、ままー!」
再会した親子はお互いを強く、涙ながらに抱き締める。
よかったなと思いふと足元に視線を向けると、コボルドが同じものを見ていた。
「よかったですね」
「わん」
●昼。
ハンターたちはスペットの店に戻っていた。店番のため行動を共にすることは出来なかった彼だが、コボルドたちの動向は気掛かりだったらしい。開口一番こう言った。
「ワーカー、なんぞ面倒起こしとらんか」
ルンルンはコボルドたちにアナウンスする。
「右手をご覧ください、あちらはコボルドさんとは違って猫頭になります」
「待てや」
ペリニョン出店前にいたぴょこが跳ねて来た。
『おお、犬たち戻ってきたのかの。かの』
ちょうどそこで箪笥の戸が開き、マゴイが出てくる。ぴょこは、ぱっとスペットがいるカウンターの後ろに隠れた。
ハンスはマゴイに朝方の話の続きを持ち出す。彼女自身をなるべく長く場に留め、直に祭りを見てもらおうと。
「ワーカーには、ユニオンでの雇用条件を伝えているのですか?」
『……口頭で伝えているわ……時報に従って仕事を始めること……止めること……休みの日には働かないこと……何か迷うことがあったら、どうしたらいいのか私に聞くこと……私がいないときはウォッチャーに聞くこと……以上』
今回彼女が送り付けてきたくどいほど細かな書面の内容を思い起こせば、随分簡単である。簡単過ぎやしないかと思うほど簡単である。
「私たちにしたように、書面を提示しないのですか?」
訝しむハンスに対するマゴイの答えは、至極もっともなものだった。
『……彼らは字が読めない……あまり長い話をしても……覚えられない……これから教育していきはするけど……現在のところはまだそういう段階だから……それに合わせた教えかたをするしかないわね……』
それならば、とハンスは話を続ける。
「貴女自身がワーカーに休養方法を見せる方が彼等には分かりやすいと思いますが? そこのところはどう考えますか」
その点はマゴイ自身も気になっているところだったらしい。朝と同じく声のトーンが落ちた。
『……マゴイは今のところ私1人なので……交替シフトが組めない……でも新しいエネルギー炉が出来れば……機関の自動管理能力が大幅に向上する……そのとき積み増しの休暇をまとめて取れば問題ないわ……』
詩はふと思い立ち聞いてみた。
「ねえマゴイ、ユニオンではどんなお墓を作るの?」
『……そんなものはないわ』
「……じゃあ、誰かが死んだときどうするの?」
『……どうするって……さよならして最寄りの焼却場に搬送して漏れ無く燐を回収し土壌改良資源として利用する……』
ルンルンが吹いた。
「えぇ!? ひ、肥料になっちゃうんですか!?」
『……そうよ……焼くことで腐敗汚染が防げるし農業生産に貢献するし……いいこと尽くめ……』
詩はスペットに出会った当初のことを思い出した。
あの時は死体をいじくり回すなんて酷い奴だと思ったが、今マゴイの話を聞いて見方が変わった。ユニオンにおいて死体は資源の一部なのだ。だから彼は抵抗感なく物として扱えたのだ――今は考えを改めているかもしれないが。
リナリスとカチャが話し合う。
「究極の循環型社会だね♪」
「極めちゃいけないところまで行っちゃってる感じですけど……」
マゴイはそれを聞いたふうでもない。屋台通りを眺め憂わしげに漏らす。
『……人も物も……規格がばらばら……』
ソラスは言った。
「ユニオンはみんな一緒でも、ここは個性の光る町。違うということに知る喜びや、同じだった時の驚きといった感情が動く――それも幸せなことでは?」
『……果たしてそうかしらね……』
懐疑的な意見を述べマゴイは、戻って行った。
●午後の部。
「あのお墓。ボール型でしょ。きっとボール遊びが好きだった人なんだね」
花や剣、天使や胸像などを刻んだ石碑が並んでいる。前を歩いているのは詩。後ろについて来るのはコボルド数匹。ここは、墓地。
「――これも文化だねぇ」
詩は一つの墓に刻まれた碑文を読んだ。スケッチブックに寄り添う男女の姿を描いて見せながら。
「【私の幸運は彼女をひととき知り、愛することが出来たこと。限られた人生の中で、永遠の愛を】」
風が色あせた芝生の上をかけて行く。
「死が二人を分かつても、死して尚愛する人と在りたいという思い……私も何時か愛する人と出会えたらそう在りたいと思うんだ、ってちょっと難しかったかな?」
コボルドたちはきょとんとした顔で、目をぱちぱちさせていた。
ソラスはコボルドたちに、のど自慢や演奏、人形劇といった出し物を見せて回った。それから、農機具の展示会なども。この世界の文化・技術レベルを計るのにはちょうどいいだろうと思って。
「マゴイさんは、みんなにとってどんな人? お友だち? 先生?」
コボちゃんはソラスの質問をコボルドたちに訳して聞かせる。
コボルドからの答えをソラスに訳して聞かせる。
「ぼす」
「そうですか。それじゃあせっかくだから、マゴイさんにお土産を買って行くのはどうですか? 私がお金を出してもいいですよ」
「いいね。マゴイの事が好きなら、何か贈り物をしてみたらどうかな? 祭りに来てた人達みたいに♪」
リナリスからも促しを受けたコボルドたちは、走りだした。向かった先は午前に来た古物屋である。選んだのは白い日傘である。
カチャはコボちゃんを通じ聞いてみた。
「どうしてこれなんです?」
答えはこうだった。
「まごい、このいろ、すき、だから、これ、いい」
ルンルンとハンスはコボルドたちに投げ輪をさせている。
そこに、詩が戻ってきた。コボルドたちを連れて。
「ごめん、ちょっとこの子たちも見てて」
ルンルンは新しく入ってきたコボルドたちを列に並べる。
「いいですよー……詩さん、どこに行くんです?」
「うん、ちょっと調理場を借りにね。この子たちにお土産作ってあげようと思って」
●夕方。
マゴイは再度会場に戻ってきた。コボルドたちを島に連れ帰るために。
コボルドたちは喜び吠え、お土産を渡す。一つはリボンのついた骨型のクッキー。詩が彼らにあげたもの。
それからもう一つは、白い日傘。
マゴイはこの『お土産』について、品物の保全を託されたものと見なしたらしい。こう言った。
『……なら……預かるわね……』
今回のデータを見て彼女はどう思うのだろうと考えながら、ソラスが聞く。
「マゴイさん。今度、私たちがユニオンにお邪魔することは出来ませんか?」
『……市民になりたいの?……』
「いえ、そういうわけではないですけど」
『……では、どうして……』
ハンスが横から苦笑交じりに言った。
「貴女が知らないことが、貴方を変える一助になると思えるので。いろいろ考えてみてほしいのですよ」
そんなやり取りがなされている傍らでリナリスは、カチャに囁いた。いつになくしおらしげな表情で、頬を染めて。
「ねぇ、あたし達もさ……結婚式、する? カチャも成人して暫くたったし……い、いつがいいかなっ」
カチャはどぎまぎし、リナリスの手を握りしめる。
「ええっ、と、あの、か、家族に相談してみますっ」
●後日。
ソラスがコボルドのお土産に使った分のお金が、必要経費と見なされユニオンから、魔術師協会を通じて送金されてきた。
彼の報酬に生じたマイナス分は、それによって補填された。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/17 06:40:08 |
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質問卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/11/12 11:39:35 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/11/17 19:00:11 |