ゲスト
(ka0000)
王都第七街区 暴走ゴーレム、鎮圧
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/09 22:00
- 完成日
- 2017/11/16 20:32
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
王都第六城壁の外に広がる難民街。通称『第七街区』── その中でも南門にほど近い『ドゥブレー地区』と呼ばれるエリアは空前の好景気に沸いていた。
第七城壁の建設と上水道の整備──二つの公共事業によって、難民街に金が回り始めたのだ。更に、これまで老舗の大商人たちによって煮え湯を飲まされ続けてきた第五、第六街区といった新興の商人たちが、まだ何らしがらみのないこの地に地盤を築こうと我先に参入し、採算を度外視した初期投資によりその流れを加速する。
第二・第三街区の大商人たちはその図体のでかさが災いして完全に出遅れた。だが、慌てはしなかった。彼らの商売の規模から言えばそれはまだ小さな市場であったし……それに、彼らには彼らなりの商売の仕方というものがある。
「この第七街区の土木現場にGnomeを導入するというのはどうだろう?」
地区の『自治』を王国より委任されている『地域の実力者』ドニ・ドゥブレーの元を久方ぶりに訪れた『復興担当官』ルパート・J・グローヴァーは、挨拶もそこそこにいきなりそんなことを切り出した。
「なに、初期費用については心配いらない。機体は買取ではなくお得なリース。しかも今なら国から補助金も出る」
鼻息荒いルパートに対して、ドニはのらりくらりと言質を与えぬまま会談をやり過ごした。そして、不満顔のルパートを宥め脅しつつ事務所から送り出す。
「……どうやらだいぶ鼻薬を嗅がされたようですね」
「担当官殿に指金を差した連中は、現場に派遣するGnomeを一括管理することで利益を得ようって腹か、或いはGnomeという未知の『商品』を扱うノウハウを得る事が目的か…… ともかく、それを成し得るだけの大手資本だ」
ドニの言葉に、ノーサム商会の『番頭』、ジャック・ウェラーは露骨に顔をしかめた。ノーサム商会のオーナーは第七街区に出店する王都の新興商人たちの連合体『商人連合』の筆頭理事を務めている。
「……都合の良い連中です。第七街区の市場をここまで育てたのは私たちなのに、今頃来てその上前を撥ねようとは」
ジャックの言葉にドニは内心、肩を竦めた。「皆と共に繁栄を」と連合の理念を謳いながら、商会がその実、裏では第七街区の商売を独占しようと、色々と汚い小細工を弄していることにドニはとっくに気づいている。
「……まぁ、あんなものが導入されて困るのは俺も同じだがな。城壁と水路の建設は『公共事業』──この貧しい第七街区の連中に金を回すのが目的だ。ただ作業を効率化すれば良いって話でもねぇ」
数日後──
ルパートに鼻薬を嗅がせた黒幕が次の手を打ってきた。
この時期に行われるエクラ教の祭典──その祭りの出し物の目玉として、ゴーレムを使ったパレードとパフォーマンスを行う旨、ルパートを通して申請してきたのだ。
(……お題目が何にせよ、それが出資者に対するデモンストレーションであることは明らかだ。「あんな凄いものを何故導入しないのか」──利に敏い出資者連中にそう言われたら断り切れねぇ。そうでなくとも、導入派と反対派、それぞれの利益に基づいて連合は真っ二つに割れる……)
それが分かっていても尚、直接の上役たる復興担当官に「祭りの余興」と言われてしまえばドニに断る術はない……
祭りの当日──
目抜き通りで最も賑わう広小路の『舞台』に、鼓笛隊に先導されながら、カボチャの頭を乗っけた2台のノームが、それぞれ子供たちを乗せた巨大リアカーを曳きながら、手を振り、通りを練り歩きながら到着した。
舞台の周りに仮設した階段状の観客席は既に人でいっぱいになっていて、座り切れなかった観客たちが辺りで立ち見を決め込んでいた。周囲の建物の二階や屋上にも人が鈴なりになっている。
「やぁ、やぁ、どうもどうも」
招待客として観覧席へ赴いたドニに、貴賓席に座ったルパートが片手を上げてそう得意満面に挨拶をした。内面で苦虫を噛み潰しながら、一切表には出さずにドニが会釈を返した。
「貴方がドニ・ドゥブレー? 一度お会いしたかった」
ルパートの隣に座った壮年の男が立ち上がり、ドニに声を掛けて来た。……この男が『差し金』だろうか? 痩身だがそれと感じさせない程、体格はいい。威圧的ではないくらいの威厳── 恐らくは実績から来ているのであろう自然な自信を身に着けている。
「お話は後程。今は出し物が始まってしまいますから」
歌劇の席が密儀の場、というのはよくある話だ。それと知りながら、ドニは席につくと『舞台』に向き直った。……ルパートの紹介となれば会談は避けられない。だが、何もかも向こうの思惑通りというのは、何と言うか、そう、気に喰わない。
ゴーレムを使った催し物は、どうやら役者たちとの共演による『演劇』のようだった。王国には猛獣を使った芝居仕立ての出し物があるが、それのゴーレム版といったところだろうか。
話のモチーフは、王国の民の多くが知るおとぎ話の建国神話。当時、まだ一都市国家に過ぎなかったイルダーナのグラハム家が、新興宗教として弾圧されていたエクラ教徒たちを匿ったことで敵国の大軍に城を包囲されながら、大精霊に遣わされた聖女の助けを受けながら、遂には敵軍を打ち破り、後の大グラズヘイム王国へと繋がっていく物語だ。
……劇が始まった。子供たちが退屈せぬよう、コミカルな歌劇とサーカス的演出とを織り交ぜながら劇は進み……やがて、物語はいよいよクライマックス──王と敵将との一騎打ちの場面へ続く。
事件が起こったのはその時だった。
王と敵将の役を担ったゴーレム2台──事前に入力してあった刻令術に従い、巨大な木剣を打ち合わせていた彼らの内の1台が、突如、眼前の1台に組み付くという、事前の指示にはない挙動を取ったのだ。
「おい、どうした、コマンドに従え!」
焦りつつも有線コントローラーに停止命令を入力する黒子の操縦者。だが、暴走する機体は、倒れながら既定の行動を繰り返すもう1台を馬乗りになって破壊して…… 劇の一部だと思って歓声を上げていた観客たちも、そのおかしな様子に気付いてザワつき始める。
「これはいったい……!?」
お前の仕業か、と目で訊ねて来るルパートにドニが急ぎ首を横に振った。だが、同時に、その脳裏にはノーサム商会番頭のしたり顔が浮かび上がっている。
「チッ、嫌な予感ばかりが当たっちまう……!」
ドニはそう舌を打つと、『あらかじめ手渡されていた』魔導電話を手に取った。そして、指示された操作に従い……こんなこともあろうかと彼が事前に雇っておいたハンターたちへ連絡を取る。
「……案の定だった。予定通り『乱入』してくれ」
了解、という短い返事の直後…… 周囲の観客席から舞台に飛び出すハンターたち。
新たな敵の出現を察知した暴走ゴーレムが、そちらに対して向き直った。
第七城壁の建設と上水道の整備──二つの公共事業によって、難民街に金が回り始めたのだ。更に、これまで老舗の大商人たちによって煮え湯を飲まされ続けてきた第五、第六街区といった新興の商人たちが、まだ何らしがらみのないこの地に地盤を築こうと我先に参入し、採算を度外視した初期投資によりその流れを加速する。
第二・第三街区の大商人たちはその図体のでかさが災いして完全に出遅れた。だが、慌てはしなかった。彼らの商売の規模から言えばそれはまだ小さな市場であったし……それに、彼らには彼らなりの商売の仕方というものがある。
「この第七街区の土木現場にGnomeを導入するというのはどうだろう?」
地区の『自治』を王国より委任されている『地域の実力者』ドニ・ドゥブレーの元を久方ぶりに訪れた『復興担当官』ルパート・J・グローヴァーは、挨拶もそこそこにいきなりそんなことを切り出した。
「なに、初期費用については心配いらない。機体は買取ではなくお得なリース。しかも今なら国から補助金も出る」
鼻息荒いルパートに対して、ドニはのらりくらりと言質を与えぬまま会談をやり過ごした。そして、不満顔のルパートを宥め脅しつつ事務所から送り出す。
「……どうやらだいぶ鼻薬を嗅がされたようですね」
「担当官殿に指金を差した連中は、現場に派遣するGnomeを一括管理することで利益を得ようって腹か、或いはGnomeという未知の『商品』を扱うノウハウを得る事が目的か…… ともかく、それを成し得るだけの大手資本だ」
ドニの言葉に、ノーサム商会の『番頭』、ジャック・ウェラーは露骨に顔をしかめた。ノーサム商会のオーナーは第七街区に出店する王都の新興商人たちの連合体『商人連合』の筆頭理事を務めている。
「……都合の良い連中です。第七街区の市場をここまで育てたのは私たちなのに、今頃来てその上前を撥ねようとは」
ジャックの言葉にドニは内心、肩を竦めた。「皆と共に繁栄を」と連合の理念を謳いながら、商会がその実、裏では第七街区の商売を独占しようと、色々と汚い小細工を弄していることにドニはとっくに気づいている。
「……まぁ、あんなものが導入されて困るのは俺も同じだがな。城壁と水路の建設は『公共事業』──この貧しい第七街区の連中に金を回すのが目的だ。ただ作業を効率化すれば良いって話でもねぇ」
数日後──
ルパートに鼻薬を嗅がせた黒幕が次の手を打ってきた。
この時期に行われるエクラ教の祭典──その祭りの出し物の目玉として、ゴーレムを使ったパレードとパフォーマンスを行う旨、ルパートを通して申請してきたのだ。
(……お題目が何にせよ、それが出資者に対するデモンストレーションであることは明らかだ。「あんな凄いものを何故導入しないのか」──利に敏い出資者連中にそう言われたら断り切れねぇ。そうでなくとも、導入派と反対派、それぞれの利益に基づいて連合は真っ二つに割れる……)
それが分かっていても尚、直接の上役たる復興担当官に「祭りの余興」と言われてしまえばドニに断る術はない……
祭りの当日──
目抜き通りで最も賑わう広小路の『舞台』に、鼓笛隊に先導されながら、カボチャの頭を乗っけた2台のノームが、それぞれ子供たちを乗せた巨大リアカーを曳きながら、手を振り、通りを練り歩きながら到着した。
舞台の周りに仮設した階段状の観客席は既に人でいっぱいになっていて、座り切れなかった観客たちが辺りで立ち見を決め込んでいた。周囲の建物の二階や屋上にも人が鈴なりになっている。
「やぁ、やぁ、どうもどうも」
招待客として観覧席へ赴いたドニに、貴賓席に座ったルパートが片手を上げてそう得意満面に挨拶をした。内面で苦虫を噛み潰しながら、一切表には出さずにドニが会釈を返した。
「貴方がドニ・ドゥブレー? 一度お会いしたかった」
ルパートの隣に座った壮年の男が立ち上がり、ドニに声を掛けて来た。……この男が『差し金』だろうか? 痩身だがそれと感じさせない程、体格はいい。威圧的ではないくらいの威厳── 恐らくは実績から来ているのであろう自然な自信を身に着けている。
「お話は後程。今は出し物が始まってしまいますから」
歌劇の席が密儀の場、というのはよくある話だ。それと知りながら、ドニは席につくと『舞台』に向き直った。……ルパートの紹介となれば会談は避けられない。だが、何もかも向こうの思惑通りというのは、何と言うか、そう、気に喰わない。
ゴーレムを使った催し物は、どうやら役者たちとの共演による『演劇』のようだった。王国には猛獣を使った芝居仕立ての出し物があるが、それのゴーレム版といったところだろうか。
話のモチーフは、王国の民の多くが知るおとぎ話の建国神話。当時、まだ一都市国家に過ぎなかったイルダーナのグラハム家が、新興宗教として弾圧されていたエクラ教徒たちを匿ったことで敵国の大軍に城を包囲されながら、大精霊に遣わされた聖女の助けを受けながら、遂には敵軍を打ち破り、後の大グラズヘイム王国へと繋がっていく物語だ。
……劇が始まった。子供たちが退屈せぬよう、コミカルな歌劇とサーカス的演出とを織り交ぜながら劇は進み……やがて、物語はいよいよクライマックス──王と敵将との一騎打ちの場面へ続く。
事件が起こったのはその時だった。
王と敵将の役を担ったゴーレム2台──事前に入力してあった刻令術に従い、巨大な木剣を打ち合わせていた彼らの内の1台が、突如、眼前の1台に組み付くという、事前の指示にはない挙動を取ったのだ。
「おい、どうした、コマンドに従え!」
焦りつつも有線コントローラーに停止命令を入力する黒子の操縦者。だが、暴走する機体は、倒れながら既定の行動を繰り返すもう1台を馬乗りになって破壊して…… 劇の一部だと思って歓声を上げていた観客たちも、そのおかしな様子に気付いてザワつき始める。
「これはいったい……!?」
お前の仕業か、と目で訊ねて来るルパートにドニが急ぎ首を横に振った。だが、同時に、その脳裏にはノーサム商会番頭のしたり顔が浮かび上がっている。
「チッ、嫌な予感ばかりが当たっちまう……!」
ドニはそう舌を打つと、『あらかじめ手渡されていた』魔導電話を手に取った。そして、指示された操作に従い……こんなこともあろうかと彼が事前に雇っておいたハンターたちへ連絡を取る。
「……案の定だった。予定通り『乱入』してくれ」
了解、という短い返事の直後…… 周囲の観客席から舞台に飛び出すハンターたち。
新たな敵の出現を察知した暴走ゴーレムが、そちらに対して向き直った。
リプレイ本文
ドニからのGoサインを受けたハンターたち──銃手のJ・D(ka3351)とクオン・サガラ(ka0018)を除く中~近距離組の6人は、潜んでいた舞台裏から一斉に『舞台』上へと飛び出した。
真っ先に走り出しながら魔導剣に光と闇の刃を形成する鞍馬 真(ka5819)。ルネ(ka4202)もまた内心ぶつくさ呟きながら、突撃銃を手に腰を低く、大道具の陰に隠れる様にゴーレムへ近づいていく。
「……私もみずきーに拾ってもらった身の上だからドニさんの立場も分かる。でも、大人同士の難しーお話は、せめて子供たちのいなーところでやっててほしい……」
あ、これは怒っているなー、と葛音 水月(ka1895)は苦笑いを浮かべた。パッと見、表情の乏しい少女であるが、義兄である彼には何となく分かる。
新たな『登場人物』の登壇にザワめきを強くする観客たち。気付いたウルミラ(ka6896)は一旦、足を止めると、クルリと回した大鎌の石突で石畳を突き、大音声で舞台俳優の様な啖呵を切った。
「我こそはイルダーナ四天王が一人、『竜騎士ルーミーラ』! 我が王に対する卑怯千万、許し難し! これより仕置つかまつる!」
え? と思わず足を止めるハンターたち。サクラ・エルフリード(ka2598)とエルバッハ・リオン(ka2434)はすぐにピンと察して、乗っかる。
「やあやあ、我こそはイルダーナ四天王が一角、『ドリルの騎士(何 サクーラー』! 義によってグラハム王に助太刀いたーす!」(←棒読み)
「同じく、四天王が一人、『茨の姫』。イルダーナ勝利の女神、華麗に参上」
そう名乗りを上げながらドリル槍を高々と掲げるサクラ。エルもまたドレス姿を活かして優雅に一回転──ふわりと持ち上がったスカートに、主に男性客から一際大きな歓声が湧く。
(そうか。劇の続きと思わせようというのか)
なるほど、と真は頷いた。確かに観客たちを他所に避難させるだけの時間的余裕はなかったし、何よりパニックが一番怖い。
(では、自分も舞台俳優の様にやや大げさに、格好良く動くとしようか。……流石に、台詞とかは思いつきはしないけど)
「包囲せよ!」
ウルミラがバッと手を振り、ゴーレムと観客席の間に立ち塞がっても不自然でないよう指示を飛ばす。そして、舞台の端で腰を抜かしている敵将役の俳優に、彼女らのアドリブに乗っかるよう目配せをした。
「おのれ、イルダーナ四天王! 大人しく我が軍門にひれ伏せい!」
ハンターたちに気付いて身を起こす暴走ゴーレムに合わせ、俳優が即興で声を当てる。
足元に倒れ伏した王役のゴーレムを踏みつけ、その腕をミチミチと引き千切る暴走機。ゴーレムの腕1本を得物とし、それを迫るハンターたちへと振り下ろし……タンッと地を蹴った真が伸身側方宙返り二回ひねりで悠々と回避する。
ををっ!? とどよめく観衆たち。その間に背後から接近していた水月もまた思わず楽しくなってニコニコしながら八方手裏剣を敵へと投擲。紐づけしていたマテリアルを手繰って瞬間的に距離を詰め、ゴーレム背中にダンッと着地する。
「おおっと、アレなるはイルダーナ四天王が一人、『閃光と漆黒のシン』と……ええっと、『空中綱渡りのミヅキ』!」
自らも突撃しながら、存外ノリノリで実況するサクラ。(本名じゃないか!)と心中でツッコむ真。水月も(四天王が5人いるんですけどー!)と噴き出しながら、右腕に保持した巨大な機構を敵の腰上に突きつけた。……狙うは有線コントローラーが差し込まれた接続部分──コマンドを入力するコントローラーの方に細工が施されたのであれば、これで暴走は止まるはず──!
パイルバンカー「フラクタリング」──ゴーレムが装備していてもおかしくない巨大な得物に水月がマテリアルを送り込んで『起爆』させ。瞬間、撃ち出されたパイルがプラグごと本体に孔を穿つ。
「どーだっ?!」
杭打機の大きな反動を利用して背から離れた水月が見上げた光景は、変わらず動き続ける敵の姿── あそこじゃない? となると何だろ…… まさかの雑魔化とかではないと思うしー……
「収納コンテナの中に誰かが潜んで操縦しているとか? ちょっと中を開けて確認したいですねー」
支援、お願いします、と周囲へ告げて、水月は敵の周りを回りながらその隙を伺い続ける……
「よお、ドニの旦那! 暫く見ねえ間に随分と賑わっているじゃねえか!」
その少し前。舞台南側中央、貴賓席──
舞台裏からこちらに回って来た銃手2人の内、J・Dが陽気に挨拶した。
ここは貴賓席だぞ、と息巻くルパートを軽くいなしながら、魔導カービン──騎兵銃を取り出すJ・D。実際、地面や開けた北側出入り口を背景に射撃ができるのは南の高所──つまり、この貴賓席の他に無い。
「相変わらず外に内にと『蟲』が多いようだな、旦那。身の内ぐれえは綺麗にしときゃァ良いだろうにとは思うが、そうするだけの利と理があるってんなら仕方ねえ。その上でこうして俺らに飯のタネをくれてやるしか対抗策が無えってんなら……せめてそのアガリで教会のガキンチョどもに菓子でも買って行ってやるかねえ」
サングラス越しにチラとジャックを見た後、貴賓席の最前列で銃を構えるJ・D。舞台では丁度ハンターたちが名乗りを上げていた。
「さあ、主演俳優たちの登場だ。裏方は目立たぬようやるとしますか」
銃を包んで隠していたスポーツウェアの上着を解き、J・Dの横に膝をついて突撃銃を構えるクオン・サガラ(ka0018)。舞台上で水月が「支援お願いしますー」と叫ぶのを聞いた彼は銃のセレクターをフルオートに合わせ……ゴーレムが右足を踏み出しかけたところへ『制圧射撃』を開始した。
敵右脚の着地点へ弾倉が空になるまで弾丸を送り込み。それを避けたゴーレムがグラリとそのバランスを崩す。
それを確認したウルミラはクルリと大鎌を回転させつつ、一気に肉薄。敵の左膝に向かって横一文字に得物を振り抜き、ゴーレムが纏った鎧(衣装)をスパッと切り裂いた。振るわれるゴーレムの反撃──体勢不十分のまま降り下ろされた一撃は、しかし、ウルミラの傍らの地面に落ちて派手な音だけで終わる。
「制圧射撃の効果を確認。続いて高加速射撃へ移行します」
クオンは高速化した無駄のない動きで手早く空になった弾倉を落として再装填すると、セレクターを単射に切り替え、関節部を照準する。
右足を踏ん張って体勢を整え直す暴走ゴーレム。一旦、距離を取ったウルミラを追わんと一歩足を踏み出したそれは、だが、側方、大道具の陰から飛び出して来たルネが放った光の杭によって魔法的に位置を固定された。
「『ジャッジメント』──確固たる信念の下、他者を断罪する光の杭。子供たち(本人含む)の楽しみを邪魔するぶすいーなごーれむは問答無用で即斬なの」
構えた突撃銃をトトトトトッ、と撃ち放ちつつ、南へ退きながら、ルネ。そちらへ向かおうとして動けずもがくゴーレムの正面へ、色んな所を躍動させつつ20mまで接近を果たしたエルが、胸元(『芝居』の為に仕込んでおいた)から中指と人差し指で引き出した陰陽符を振り構え。その符を眼前に瞑目しながら呪文の詠唱と共に体内のマテリアルを魔力に練り上げ、正面に生じた『アイスボルト』を前方へ向けて投射する。
次々と放たれた氷の氷柱は、ゴーレムの胴部と脚部とに立て続けに命中し、周辺部へ拡散した氷結が敵の動きを阻害した。
そこへ敵の懐へ飛び込んで来た真が前転しつつ得物を一閃。自身の魔力を乗せ、思い切り派手に光と闇の力を噴出させた刃で、敵右膝部分の『鎧』を大きくごっそり消し飛ばす。
その露出した膝関節部に向かって、騎兵よろしく槍を構えて突っ込んで来たサクラがその穂先を突き入れた。切っ先が突き立つと同時にマテリアルを注入してドリルを起動。魔導的モーター音を上げて徐々に岩肌を削り出す。
「普段の槍じゃなく、こっちを持ってきてよかったです。これならゴーレムの身体でも十分いけるはず……!」
更にドリルの回転を上げつつ、自らの質量ごと押し込む様に全身で得物を突き出すサクラ。ガリガリという音がゴキンッ、と変わった瞬間、サクラはハッと槍を引き抜き……直後、影が落ちる位まで迫っていた敵の得物に槍ごと弾き飛ばされる。
その空いた空間に、ルネは間髪入れず銃撃を浴びせ掛けた。そこへ貴賓席からクオンとJ・Dの狙撃が飛来し、十字砲火となって壊れかけていた膝部を破壊。自重を支えきれなくなった関節部が完全に崩壊し、暴走ゴーレムは右膝から崩れ落ちる。
意気上がるハンターたち。湧き起る歓声。だが、ゴーレムは倒れない。膝から下を失った右脚で器用にバランスを取りながら、崩れた自身の脚部の破片を左手で拾い上げる。
「ッ! 全員、投擲に注意ッ!」
警告の叫びを上げつつ、自らも回避運動に入るウルミラ。投擲された岩塊は砲弾よろしく回避したハンターたちの間を跳ね転がって飛び抜けた。
●
激戦は続く。
得物を大きく横へと振り構えたゴーレムが、右から前方に掛けて大きく扇状に振り抜く薙ぎ払い── 回避が間に合わぬと察した真は籠手に魔力障壁を展開しつつ、柳の様に受け逸らし。サクラもドリルを地面に突き、傾け、角度をつけて受け弾くことでその一撃をやり過ごす。
「ふはははは! その様な一撃、イルダーナ四天王には効きはせぬ!(どきどき」
バッとマントを翻し、サクラが真と共に反撃に転じる。
無論、やせ我慢である。受けに使ったサクラの右手と真の左腕には痛みと痺れが残っている。
「どうした、銃手? 撃たんのか?」
同刻、貴賓席── 銃を構えたまま射撃をせず、静止したままのJ・Dに気付いて、ルパートが怪訝な顔で訊ねた。
「……いや、観客席に美人がいたんで見惚れていた」
サングラス越しの視線を戻し、即座に発砲するJ・D。ゴーレムがハンターたちに放った礫の散弾──観客席に飛び込む流れ弾を、『妨害射撃』で狙い撃ちにしてそのコースを変えていく。
「これ以上は撃たせるわけには……!」
敵の左側へと回り込んだエルが三連で放った『アイスボルト』──脚、胴、腕と立て続けに命中した氷の矢の内、1本が礫を握りしめた左手ごと凍結させた。
だが、投射を封じられても、ゴーレムは動きを止めない。直接ハンターたちを殴るべく、片膝をつきながら南へ少しずつ移動していく……
(これ以上、移動を許したら、観客席が投擲の範囲に入ってしまう……)
其れまで後方からの支援射撃に徹してきたルネが、意を決して前へと駆け出した。気付いた水月が止めようとするのをルネが片手を上げて制する。
(『ディバインウィル』──侵入不可の結界をちょっと張って来るだけ……だいじょーぶ。敵の前にいるのは一瞬。劇を壊すこともない)
銃を撃たずに前へとダッシュし、絶対の意志をもって結界を張るルネ。正面の敵に気付いたゴーレムがその結界の外から僚機の腕を──『長柄』の得物を振り上げる。絶体絶命のピンチに思わず目を閉じたルネは……しかし、いつまでも降り来ぬ終わりにそっと目を開けた。
……その眼前にズズン、と落ちる敵の得物。クオンが高加速射撃で放った銃弾が偶然、そのタイミングでゴーレムの右親指に当たってそれを折り砕いたのだ(クリティカル)
間髪入れず放たれるJ・Dの凍結弾。マテリアルの冷気を纏い、ダメージを与えた相手の行動を阻害するその弾は冷却効果を高めた特注品── 着弾と同時に爆発的に冷気が広がり、標的を霜と靄とで包み込む。
攻勢へと転じるハンターたち。跳躍するように敵へと飛び込んだウルミラが縦一文字に左肘部を切り裂き、大鎌で引っ掛ける様にして鎧を剥ぐ。その間、エルは詠唱を止めずにそれを更に加速──複数同時詠唱という高度な魔術運用を観客たちに魅せると共に、生じた『風の刃』と『炎の矢』、二つを同時に放って本気の攻撃を敵へと叩きつけた。空中に燃える焔を風の力で圧縮し、左関節の傷へと撃ち込んで──直後、握った手を開いて圧縮を解放。爆発的に膨張した炎が左腕部を吹き飛ばし。そこへ雄叫びと共に突っ込んで来たサクラがドリルを『鈍器として振り殴り』、千切れかけていた敵左腕を思いっきり薙ぎ千切る……!
「……ッ!」
その瞬間、水月は『チェイシングスロー』で敵へと肉薄し、破損した鎧をはぎ取って、最後の収納スペースを引き開けた。
中に入っていたのは舞台用の赤い紙吹雪──最終的に敵将が撃ち取られる際に使う予定の『血飛沫』の演出用──だけだった。中に人も入っていない。
「……考えにくいことですが、このゴーレムは自律行動しています」
得物を拾うべく地に手をついた右腕を駆け上がり、その肩関節部に刃を突き立てた真に水月がそう告げた。小さく頷き、魔力を乗せた刃を大きく横へと引き薙ぐ真。ボッと大きく肩部を構成する岩を砕かれ、ガクリと力なく右腕を落とす敵。そこから真は予定を変えてその肩の上に留まると、己の生命力を魔力に変えて魔導剣へと注ぎ込みつつ、返す刀で敵の背部を切り裂いた。巨大な剣閃に断たれてゴーレムの岩肌に大きく裂け目が入り──再びそこに取り付いた水月が、破孔へ──露出したコアに向かってパイルバンカーを突き入れる。
一度、二度…… 高速射出された尖杭がゴーレムの動力源たるコアを打ち…… ひび割れ、砕けると同時に、動きを止めたゴーレムがゆっくりと地面へ倒れ込む。
開け放ちの収納スペースからザアッと零れる紙吹雪── ウルミラが大鎌を振るってそれを宙へと舞い上げる。
「敵将、討ち取ったり~!」(←少し棒読み)
槍にゴーレムの兜を引っかけ、サクラが高々と掲げ見せ……
暴走ゴーレムとの戦闘は『劇』として、ここに歓声と共に完結をみたのだった。
●
「自分で言っておいてなんですが…… 劇の延長で戦うの、なかなか難しいですね……」
観客たちが退席を始めた仮設劇場。その舞台上で溜息を吐くサクラに、いや、存外ノリノリでしたよねぇ、とツッコミを入れる仲間たち。
「……自爆装置の類は無し、か」
「これ以上は専門家に『中身』見てもらわないと分からないですね」
機体自体に見て分かる証拠は残されていなかった。刻令術まで含めた調査は後日に譲ることになるだろう。
「『放火魔は現場に戻る』と言うが、さて……」
ウルミラと水月が貴賓席に視線を向け。貴賓席に残っていたJ・Dが「俺じゃないぞ?」と軽口を叩く。
──戦闘中、彼らは観客たちを観察していた。『劇』を楽しむことも、不安に怯えることもなく、ずっと苦虫を噛み潰したような表情で『劇』を見続けた者がいた。それもJ・Dのすぐ傍に。
ノーサム商会『番頭』、ジャック・ウェラー── いや、分かり易すぎるだろ、とJ・Dは内心でツッコんだ。
真っ先に走り出しながら魔導剣に光と闇の刃を形成する鞍馬 真(ka5819)。ルネ(ka4202)もまた内心ぶつくさ呟きながら、突撃銃を手に腰を低く、大道具の陰に隠れる様にゴーレムへ近づいていく。
「……私もみずきーに拾ってもらった身の上だからドニさんの立場も分かる。でも、大人同士の難しーお話は、せめて子供たちのいなーところでやっててほしい……」
あ、これは怒っているなー、と葛音 水月(ka1895)は苦笑いを浮かべた。パッと見、表情の乏しい少女であるが、義兄である彼には何となく分かる。
新たな『登場人物』の登壇にザワめきを強くする観客たち。気付いたウルミラ(ka6896)は一旦、足を止めると、クルリと回した大鎌の石突で石畳を突き、大音声で舞台俳優の様な啖呵を切った。
「我こそはイルダーナ四天王が一人、『竜騎士ルーミーラ』! 我が王に対する卑怯千万、許し難し! これより仕置つかまつる!」
え? と思わず足を止めるハンターたち。サクラ・エルフリード(ka2598)とエルバッハ・リオン(ka2434)はすぐにピンと察して、乗っかる。
「やあやあ、我こそはイルダーナ四天王が一角、『ドリルの騎士(何 サクーラー』! 義によってグラハム王に助太刀いたーす!」(←棒読み)
「同じく、四天王が一人、『茨の姫』。イルダーナ勝利の女神、華麗に参上」
そう名乗りを上げながらドリル槍を高々と掲げるサクラ。エルもまたドレス姿を活かして優雅に一回転──ふわりと持ち上がったスカートに、主に男性客から一際大きな歓声が湧く。
(そうか。劇の続きと思わせようというのか)
なるほど、と真は頷いた。確かに観客たちを他所に避難させるだけの時間的余裕はなかったし、何よりパニックが一番怖い。
(では、自分も舞台俳優の様にやや大げさに、格好良く動くとしようか。……流石に、台詞とかは思いつきはしないけど)
「包囲せよ!」
ウルミラがバッと手を振り、ゴーレムと観客席の間に立ち塞がっても不自然でないよう指示を飛ばす。そして、舞台の端で腰を抜かしている敵将役の俳優に、彼女らのアドリブに乗っかるよう目配せをした。
「おのれ、イルダーナ四天王! 大人しく我が軍門にひれ伏せい!」
ハンターたちに気付いて身を起こす暴走ゴーレムに合わせ、俳優が即興で声を当てる。
足元に倒れ伏した王役のゴーレムを踏みつけ、その腕をミチミチと引き千切る暴走機。ゴーレムの腕1本を得物とし、それを迫るハンターたちへと振り下ろし……タンッと地を蹴った真が伸身側方宙返り二回ひねりで悠々と回避する。
ををっ!? とどよめく観衆たち。その間に背後から接近していた水月もまた思わず楽しくなってニコニコしながら八方手裏剣を敵へと投擲。紐づけしていたマテリアルを手繰って瞬間的に距離を詰め、ゴーレム背中にダンッと着地する。
「おおっと、アレなるはイルダーナ四天王が一人、『閃光と漆黒のシン』と……ええっと、『空中綱渡りのミヅキ』!」
自らも突撃しながら、存外ノリノリで実況するサクラ。(本名じゃないか!)と心中でツッコむ真。水月も(四天王が5人いるんですけどー!)と噴き出しながら、右腕に保持した巨大な機構を敵の腰上に突きつけた。……狙うは有線コントローラーが差し込まれた接続部分──コマンドを入力するコントローラーの方に細工が施されたのであれば、これで暴走は止まるはず──!
パイルバンカー「フラクタリング」──ゴーレムが装備していてもおかしくない巨大な得物に水月がマテリアルを送り込んで『起爆』させ。瞬間、撃ち出されたパイルがプラグごと本体に孔を穿つ。
「どーだっ?!」
杭打機の大きな反動を利用して背から離れた水月が見上げた光景は、変わらず動き続ける敵の姿── あそこじゃない? となると何だろ…… まさかの雑魔化とかではないと思うしー……
「収納コンテナの中に誰かが潜んで操縦しているとか? ちょっと中を開けて確認したいですねー」
支援、お願いします、と周囲へ告げて、水月は敵の周りを回りながらその隙を伺い続ける……
「よお、ドニの旦那! 暫く見ねえ間に随分と賑わっているじゃねえか!」
その少し前。舞台南側中央、貴賓席──
舞台裏からこちらに回って来た銃手2人の内、J・Dが陽気に挨拶した。
ここは貴賓席だぞ、と息巻くルパートを軽くいなしながら、魔導カービン──騎兵銃を取り出すJ・D。実際、地面や開けた北側出入り口を背景に射撃ができるのは南の高所──つまり、この貴賓席の他に無い。
「相変わらず外に内にと『蟲』が多いようだな、旦那。身の内ぐれえは綺麗にしときゃァ良いだろうにとは思うが、そうするだけの利と理があるってんなら仕方ねえ。その上でこうして俺らに飯のタネをくれてやるしか対抗策が無えってんなら……せめてそのアガリで教会のガキンチョどもに菓子でも買って行ってやるかねえ」
サングラス越しにチラとジャックを見た後、貴賓席の最前列で銃を構えるJ・D。舞台では丁度ハンターたちが名乗りを上げていた。
「さあ、主演俳優たちの登場だ。裏方は目立たぬようやるとしますか」
銃を包んで隠していたスポーツウェアの上着を解き、J・Dの横に膝をついて突撃銃を構えるクオン・サガラ(ka0018)。舞台上で水月が「支援お願いしますー」と叫ぶのを聞いた彼は銃のセレクターをフルオートに合わせ……ゴーレムが右足を踏み出しかけたところへ『制圧射撃』を開始した。
敵右脚の着地点へ弾倉が空になるまで弾丸を送り込み。それを避けたゴーレムがグラリとそのバランスを崩す。
それを確認したウルミラはクルリと大鎌を回転させつつ、一気に肉薄。敵の左膝に向かって横一文字に得物を振り抜き、ゴーレムが纏った鎧(衣装)をスパッと切り裂いた。振るわれるゴーレムの反撃──体勢不十分のまま降り下ろされた一撃は、しかし、ウルミラの傍らの地面に落ちて派手な音だけで終わる。
「制圧射撃の効果を確認。続いて高加速射撃へ移行します」
クオンは高速化した無駄のない動きで手早く空になった弾倉を落として再装填すると、セレクターを単射に切り替え、関節部を照準する。
右足を踏ん張って体勢を整え直す暴走ゴーレム。一旦、距離を取ったウルミラを追わんと一歩足を踏み出したそれは、だが、側方、大道具の陰から飛び出して来たルネが放った光の杭によって魔法的に位置を固定された。
「『ジャッジメント』──確固たる信念の下、他者を断罪する光の杭。子供たち(本人含む)の楽しみを邪魔するぶすいーなごーれむは問答無用で即斬なの」
構えた突撃銃をトトトトトッ、と撃ち放ちつつ、南へ退きながら、ルネ。そちらへ向かおうとして動けずもがくゴーレムの正面へ、色んな所を躍動させつつ20mまで接近を果たしたエルが、胸元(『芝居』の為に仕込んでおいた)から中指と人差し指で引き出した陰陽符を振り構え。その符を眼前に瞑目しながら呪文の詠唱と共に体内のマテリアルを魔力に練り上げ、正面に生じた『アイスボルト』を前方へ向けて投射する。
次々と放たれた氷の氷柱は、ゴーレムの胴部と脚部とに立て続けに命中し、周辺部へ拡散した氷結が敵の動きを阻害した。
そこへ敵の懐へ飛び込んで来た真が前転しつつ得物を一閃。自身の魔力を乗せ、思い切り派手に光と闇の力を噴出させた刃で、敵右膝部分の『鎧』を大きくごっそり消し飛ばす。
その露出した膝関節部に向かって、騎兵よろしく槍を構えて突っ込んで来たサクラがその穂先を突き入れた。切っ先が突き立つと同時にマテリアルを注入してドリルを起動。魔導的モーター音を上げて徐々に岩肌を削り出す。
「普段の槍じゃなく、こっちを持ってきてよかったです。これならゴーレムの身体でも十分いけるはず……!」
更にドリルの回転を上げつつ、自らの質量ごと押し込む様に全身で得物を突き出すサクラ。ガリガリという音がゴキンッ、と変わった瞬間、サクラはハッと槍を引き抜き……直後、影が落ちる位まで迫っていた敵の得物に槍ごと弾き飛ばされる。
その空いた空間に、ルネは間髪入れず銃撃を浴びせ掛けた。そこへ貴賓席からクオンとJ・Dの狙撃が飛来し、十字砲火となって壊れかけていた膝部を破壊。自重を支えきれなくなった関節部が完全に崩壊し、暴走ゴーレムは右膝から崩れ落ちる。
意気上がるハンターたち。湧き起る歓声。だが、ゴーレムは倒れない。膝から下を失った右脚で器用にバランスを取りながら、崩れた自身の脚部の破片を左手で拾い上げる。
「ッ! 全員、投擲に注意ッ!」
警告の叫びを上げつつ、自らも回避運動に入るウルミラ。投擲された岩塊は砲弾よろしく回避したハンターたちの間を跳ね転がって飛び抜けた。
●
激戦は続く。
得物を大きく横へと振り構えたゴーレムが、右から前方に掛けて大きく扇状に振り抜く薙ぎ払い── 回避が間に合わぬと察した真は籠手に魔力障壁を展開しつつ、柳の様に受け逸らし。サクラもドリルを地面に突き、傾け、角度をつけて受け弾くことでその一撃をやり過ごす。
「ふはははは! その様な一撃、イルダーナ四天王には効きはせぬ!(どきどき」
バッとマントを翻し、サクラが真と共に反撃に転じる。
無論、やせ我慢である。受けに使ったサクラの右手と真の左腕には痛みと痺れが残っている。
「どうした、銃手? 撃たんのか?」
同刻、貴賓席── 銃を構えたまま射撃をせず、静止したままのJ・Dに気付いて、ルパートが怪訝な顔で訊ねた。
「……いや、観客席に美人がいたんで見惚れていた」
サングラス越しの視線を戻し、即座に発砲するJ・D。ゴーレムがハンターたちに放った礫の散弾──観客席に飛び込む流れ弾を、『妨害射撃』で狙い撃ちにしてそのコースを変えていく。
「これ以上は撃たせるわけには……!」
敵の左側へと回り込んだエルが三連で放った『アイスボルト』──脚、胴、腕と立て続けに命中した氷の矢の内、1本が礫を握りしめた左手ごと凍結させた。
だが、投射を封じられても、ゴーレムは動きを止めない。直接ハンターたちを殴るべく、片膝をつきながら南へ少しずつ移動していく……
(これ以上、移動を許したら、観客席が投擲の範囲に入ってしまう……)
其れまで後方からの支援射撃に徹してきたルネが、意を決して前へと駆け出した。気付いた水月が止めようとするのをルネが片手を上げて制する。
(『ディバインウィル』──侵入不可の結界をちょっと張って来るだけ……だいじょーぶ。敵の前にいるのは一瞬。劇を壊すこともない)
銃を撃たずに前へとダッシュし、絶対の意志をもって結界を張るルネ。正面の敵に気付いたゴーレムがその結界の外から僚機の腕を──『長柄』の得物を振り上げる。絶体絶命のピンチに思わず目を閉じたルネは……しかし、いつまでも降り来ぬ終わりにそっと目を開けた。
……その眼前にズズン、と落ちる敵の得物。クオンが高加速射撃で放った銃弾が偶然、そのタイミングでゴーレムの右親指に当たってそれを折り砕いたのだ(クリティカル)
間髪入れず放たれるJ・Dの凍結弾。マテリアルの冷気を纏い、ダメージを与えた相手の行動を阻害するその弾は冷却効果を高めた特注品── 着弾と同時に爆発的に冷気が広がり、標的を霜と靄とで包み込む。
攻勢へと転じるハンターたち。跳躍するように敵へと飛び込んだウルミラが縦一文字に左肘部を切り裂き、大鎌で引っ掛ける様にして鎧を剥ぐ。その間、エルは詠唱を止めずにそれを更に加速──複数同時詠唱という高度な魔術運用を観客たちに魅せると共に、生じた『風の刃』と『炎の矢』、二つを同時に放って本気の攻撃を敵へと叩きつけた。空中に燃える焔を風の力で圧縮し、左関節の傷へと撃ち込んで──直後、握った手を開いて圧縮を解放。爆発的に膨張した炎が左腕部を吹き飛ばし。そこへ雄叫びと共に突っ込んで来たサクラがドリルを『鈍器として振り殴り』、千切れかけていた敵左腕を思いっきり薙ぎ千切る……!
「……ッ!」
その瞬間、水月は『チェイシングスロー』で敵へと肉薄し、破損した鎧をはぎ取って、最後の収納スペースを引き開けた。
中に入っていたのは舞台用の赤い紙吹雪──最終的に敵将が撃ち取られる際に使う予定の『血飛沫』の演出用──だけだった。中に人も入っていない。
「……考えにくいことですが、このゴーレムは自律行動しています」
得物を拾うべく地に手をついた右腕を駆け上がり、その肩関節部に刃を突き立てた真に水月がそう告げた。小さく頷き、魔力を乗せた刃を大きく横へと引き薙ぐ真。ボッと大きく肩部を構成する岩を砕かれ、ガクリと力なく右腕を落とす敵。そこから真は予定を変えてその肩の上に留まると、己の生命力を魔力に変えて魔導剣へと注ぎ込みつつ、返す刀で敵の背部を切り裂いた。巨大な剣閃に断たれてゴーレムの岩肌に大きく裂け目が入り──再びそこに取り付いた水月が、破孔へ──露出したコアに向かってパイルバンカーを突き入れる。
一度、二度…… 高速射出された尖杭がゴーレムの動力源たるコアを打ち…… ひび割れ、砕けると同時に、動きを止めたゴーレムがゆっくりと地面へ倒れ込む。
開け放ちの収納スペースからザアッと零れる紙吹雪── ウルミラが大鎌を振るってそれを宙へと舞い上げる。
「敵将、討ち取ったり~!」(←少し棒読み)
槍にゴーレムの兜を引っかけ、サクラが高々と掲げ見せ……
暴走ゴーレムとの戦闘は『劇』として、ここに歓声と共に完結をみたのだった。
●
「自分で言っておいてなんですが…… 劇の延長で戦うの、なかなか難しいですね……」
観客たちが退席を始めた仮設劇場。その舞台上で溜息を吐くサクラに、いや、存外ノリノリでしたよねぇ、とツッコミを入れる仲間たち。
「……自爆装置の類は無し、か」
「これ以上は専門家に『中身』見てもらわないと分からないですね」
機体自体に見て分かる証拠は残されていなかった。刻令術まで含めた調査は後日に譲ることになるだろう。
「『放火魔は現場に戻る』と言うが、さて……」
ウルミラと水月が貴賓席に視線を向け。貴賓席に残っていたJ・Dが「俺じゃないぞ?」と軽口を叩く。
──戦闘中、彼らは観客たちを観察していた。『劇』を楽しむことも、不安に怯えることもなく、ずっと苦虫を噛み潰したような表情で『劇』を見続けた者がいた。それもJ・Dのすぐ傍に。
ノーサム商会『番頭』、ジャック・ウェラー── いや、分かり易すぎるだろ、とJ・Dは内心でツッコんだ。
依頼結果
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相談卓 J・D(ka3351) エルフ|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/11/08 23:15:13 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/08 19:45:50 |