ゲスト
(ka0000)
【幻視】戦勝パーティ・蒼【界冥】
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/13 19:00
- 完成日
- 2017/11/16 10:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「会場に到着ザマスよ」
メタ・シャングリラ艦長からラズモネ・シャングリラ艦長となった森山恭子 (kz0216)は、赤いヒールを響かせて車から降りた。
地球統一連合軍の軍服に羽根飾りはいつも通りだが、ヒールに合わせて赤色に統一。
一見、ぶっとんだ格好だ。
だが、今日はいつも以上に目立っている。
それは恭子がいる場所に関係していた。
「……おい。なんだここは。それにこの格好はどういう事だ」
恭子の後に続いて車から降りたのは、山岳猟団団長八重樫 敦(kz0056)。
ハンターとしての鎧を抜いてタキシードに身を包んでいる。
八重樫の鍛え上げられた筋肉でタキシードは限界まで張り詰めている。このままでは決壊寸前だ。
「ここは品川の『プリンセスホテル』。日本のホテル業界ではトップクラスのホテルザマス。
ここに来るのはいつ振りザマショ。昔はよくここで財界の方々と交流を深めたものザマス」
そっと上を見上げる恭子。
実はこの日、ハンターを招いて盛大なパーティが開催される。
函館に続いて鎌倉クラスタの殲滅。
クリムゾンウェストから鎌倉を襲撃した『錬金の到達者』コーリアスの撃破。
イェルズ・オイマト(kz0143)を連れ去った『天命輪転』アレクサンドル・バーンズ(kz0112)の掃滅。
そして、メタ・シャングリラの相打ちとなりはしたが、長い間追い続けてきたエンドレスを討ち滅ぼす事ができた。
今日は、函館からこれまで築き上げたメタ・シャングリラとハンターの面々を呼んで盛大な打ち上げを開催するする事になったのだ。
「この間の居酒屋でいいんじゃねぇのか?」
「駄目ザマス! ここまで来た皆さんにちゃんとした形で感謝しないとザマス」
函館クラスタを撃破した時、八重樫に会場を任せたところ秋葉原の居酒屋を予約していた。
ハンター達はそれなりに楽しんだようだが、恭子としては正式なパーティを盛大に行いたいという想いがあったのだ。この為、恭子は今回のパーティを自ら手配。宣伝部隊『メタ・シャングリラ』艦長として財界のとパイプをフル活用。
その結果、プリンセスホテルでの開催に漕ぎ着けたという訳だ。
八重樫がタキシードに身を包むのも、正装を恭子に命じられたからだ。
「……くっ。こういう場は苦手だ」
「今日の主役はハンターの皆さんザマス! 我慢するザマスよ!」
俺もハンターなんだが……。
八重樫はそう言い掛けたのだが、その言葉を続ける事はできなかった。
恭子と八重樫に続いて別の者が姿を見せたからだ。
「おっ? ここか? へぇ、大したもんだなぁ」
後続のタクシーから降りてきたのはジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉。
いつも通り軍服を緩い着こなしだが、既に酒を飲んでいるらしく周囲にアルコールの匂いを振りまいている。
「ちょ! もう飲んでるザマスか!? ハンターさんを歓迎しなければいけないのに、手駒は堅物と酔っ払いだけとは……」
「そりゃ、飲むだろ。宴会なんだから……あ、そういえばこのパーティに参加するって奴と合ったので連れてきたぞ。なんでもこっちの世界の奴じゃ無いんだってな」
千鳥足のまま一歩下がるドリスキル。
そこにはクリムゾンウェスト――ゾンネンシュトラール帝国の軍服を着た男が現れる。
「初めまして。私、部族会議首長補佐役のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)と申します。
お招きありがとうございます。この度、負傷して治療中の首長に代わって参上致しました。あなたが森山艦長ですか。イェルズさんから話は伺っております。
……ふふ、美しいご婦人にお会いできた今日に感謝ですね」
ヴェルナーは恭子の前で片膝を折ると、恭子の手を握って口元へ寄せた。
まるで高貴な姫に対する敬愛を込めた挨拶のように――。
「ふふ、ドリスキルさんにリアルブルーでの最上の挨拶と伺っていたのですが……どうされました?」
異変に気付くヴェルナー。
元々、会話の内容から恭子が今日のパーティの主催だと分かっていた。
それならばとドリスキルから聞いた挨拶の方法をヴェルナーは実践した。それはヴェルナーにとって礼儀上の行為だったのかもしれない。
しかし――恭子にとってはそうではなかった。
「い、い、異世界のイケメンきたーーー!! しかもドS系紳士の香り! ちょっと、武器破壊技まで炸裂させて一体何連コンボザマスか!?」
メタ・シャングリラ艦長からラズモネ・シャングリラ艦長となった森山恭子 (kz0216)は、赤いヒールを響かせて車から降りた。
地球統一連合軍の軍服に羽根飾りはいつも通りだが、ヒールに合わせて赤色に統一。
一見、ぶっとんだ格好だ。
だが、今日はいつも以上に目立っている。
それは恭子がいる場所に関係していた。
「……おい。なんだここは。それにこの格好はどういう事だ」
恭子の後に続いて車から降りたのは、山岳猟団団長八重樫 敦(kz0056)。
ハンターとしての鎧を抜いてタキシードに身を包んでいる。
八重樫の鍛え上げられた筋肉でタキシードは限界まで張り詰めている。このままでは決壊寸前だ。
「ここは品川の『プリンセスホテル』。日本のホテル業界ではトップクラスのホテルザマス。
ここに来るのはいつ振りザマショ。昔はよくここで財界の方々と交流を深めたものザマス」
そっと上を見上げる恭子。
実はこの日、ハンターを招いて盛大なパーティが開催される。
函館に続いて鎌倉クラスタの殲滅。
クリムゾンウェストから鎌倉を襲撃した『錬金の到達者』コーリアスの撃破。
イェルズ・オイマト(kz0143)を連れ去った『天命輪転』アレクサンドル・バーンズ(kz0112)の掃滅。
そして、メタ・シャングリラの相打ちとなりはしたが、長い間追い続けてきたエンドレスを討ち滅ぼす事ができた。
今日は、函館からこれまで築き上げたメタ・シャングリラとハンターの面々を呼んで盛大な打ち上げを開催するする事になったのだ。
「この間の居酒屋でいいんじゃねぇのか?」
「駄目ザマス! ここまで来た皆さんにちゃんとした形で感謝しないとザマス」
函館クラスタを撃破した時、八重樫に会場を任せたところ秋葉原の居酒屋を予約していた。
ハンター達はそれなりに楽しんだようだが、恭子としては正式なパーティを盛大に行いたいという想いがあったのだ。この為、恭子は今回のパーティを自ら手配。宣伝部隊『メタ・シャングリラ』艦長として財界のとパイプをフル活用。
その結果、プリンセスホテルでの開催に漕ぎ着けたという訳だ。
八重樫がタキシードに身を包むのも、正装を恭子に命じられたからだ。
「……くっ。こういう場は苦手だ」
「今日の主役はハンターの皆さんザマス! 我慢するザマスよ!」
俺もハンターなんだが……。
八重樫はそう言い掛けたのだが、その言葉を続ける事はできなかった。
恭子と八重樫に続いて別の者が姿を見せたからだ。
「おっ? ここか? へぇ、大したもんだなぁ」
後続のタクシーから降りてきたのはジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉。
いつも通り軍服を緩い着こなしだが、既に酒を飲んでいるらしく周囲にアルコールの匂いを振りまいている。
「ちょ! もう飲んでるザマスか!? ハンターさんを歓迎しなければいけないのに、手駒は堅物と酔っ払いだけとは……」
「そりゃ、飲むだろ。宴会なんだから……あ、そういえばこのパーティに参加するって奴と合ったので連れてきたぞ。なんでもこっちの世界の奴じゃ無いんだってな」
千鳥足のまま一歩下がるドリスキル。
そこにはクリムゾンウェスト――ゾンネンシュトラール帝国の軍服を着た男が現れる。
「初めまして。私、部族会議首長補佐役のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)と申します。
お招きありがとうございます。この度、負傷して治療中の首長に代わって参上致しました。あなたが森山艦長ですか。イェルズさんから話は伺っております。
……ふふ、美しいご婦人にお会いできた今日に感謝ですね」
ヴェルナーは恭子の前で片膝を折ると、恭子の手を握って口元へ寄せた。
まるで高貴な姫に対する敬愛を込めた挨拶のように――。
「ふふ、ドリスキルさんにリアルブルーでの最上の挨拶と伺っていたのですが……どうされました?」
異変に気付くヴェルナー。
元々、会話の内容から恭子が今日のパーティの主催だと分かっていた。
それならばとドリスキルから聞いた挨拶の方法をヴェルナーは実践した。それはヴェルナーにとって礼儀上の行為だったのかもしれない。
しかし――恭子にとってはそうではなかった。
「い、い、異世界のイケメンきたーーー!! しかもドS系紳士の香り! ちょっと、武器破壊技まで炸裂させて一体何連コンボザマスか!?」
リプレイ本文
メタ・シャングリラは――。
そして、ハンターは本当によく戦った。
函館クラスタ攻略から始まった戦いは、鎌倉を経て異世界へと辿り着いた。
クリムゾンウェストにて目撃された歪虚『エンドレス』の撃破に成功した彼ら。
だが、同時に失った物も少なくはない。
メタ・シャングリラは撃墜。
地球統一連合軍の兵士も多くが、その命を散らした。
それでも、彼らは勝利をもぎ取った。
苦難を乗り越えた先で手にした勝利。
今日ばかりは、この勝利を思う存分――祝いたい。
「う~ん。私、リアルブルーの高級ホテルでお食事なんて初めて!」
夢路 まよい(ka1328)は、品川プリンセスホテルの入り口に立っていた。
顔を見上げれば、白い大きな建物がそびえ立っている。
リアルブルーの日本でも有数な高級ホテル。
最上のサービスと料理。まさに、顧客に最高の時間を提供してくれる。
そんな高級ホテルに訪れたまよい。
場違いな気もするが、今日ばかりは正式な客として訪れたのだ。
気後れする必要は無い。
「本当、凄いところだね」
アーク・フォーサイス(ka6568)もまよいの隣で圧倒されていた。
リアルブルーへ訪れた事もあるが、都内の高級ホテルへ訪れる事はほとんど無い。
この為、アークは高級ホテルの食事がどのような物なのかもまったく分からない。
「あれ? 確か、きみってリアルブルー出身じゃなかった?」
思い出したようにまよいへ問いかけるアーク。
しかし、まよいは頭を横へ振った。
「ううん。私、物心ついた頃から窓のないお部屋でずっと過ごしてたから……お外の事は知らなかったんだよね」
「そうか」
聞いてはいけない話をしてしまったように感じたアーク。
微妙な空気が流れそうになるも、まよいは直ぐに話題を切り替える。
このような空気には慣れている。相手も知らなかったのだから仕方ない。
せっかくのお祝いだ。空気を悪くする事は無い。
「それより、衣装は大丈夫かな?」
「あ、ああ。それはそうだよね」
まよいとアークが気にしている衣装。
実はこれが一部のハンター達を困らせた。
先程も話題に出ていたが、品川プリンセスホテルは高級ホテルだ。
当然のようにドレスコードも存在する。この為、ハンター達はこの日の為に正装する事になるのだが、慣れない衣装に頭を悩ませる者が多かった。
「私、良く分からないから……知ってそうな人にドレスをチョイスしてもらちゃった」
「俺も。リアルブルーの正装なんて分からないよ」
まよいとアークは知り合いから正装を紹介してもらったようだ。
これで問題ないのか、不安を抱きながらも品川プリンセスホテルへやってきたのだ。
だが、その心配も無用だったようだ。
「ハンターの皆さん、ようこそザマス」
まよいとアークの前に姿を見せたのは赤いヒールと羽根飾りで着飾った森山恭子 (kz0216)だった。
高級ホテルの入り口でド派手な姿で現れた恭子。普段ならば気圧されそうだが、今日に限っては頼もしく見える。
どうやら、ハンター達を出迎える為に玄関で待っていたようだ。
「あの、衣装なんですが……」
「うん。大丈夫ザマス。今日は招待されたザマスから、堂々とするザマスよ。心配なら、あとであたくしが助けてあげるザマス」
心配そうなまよいを前に、恭子は優しく声をかける。
そう――今日、ハンター達は恭子が主催する戦勝記念パーティへ招待されたのだ。
遠慮する事無く、堂々としていればいいのだ。
「ありがとう、恭子」
「遠慮は無用ザマスよ」
「森山艦長、今日はお招きありがとう。正式な挨拶は、乾杯の後で」
アークは恭子を前に頭を下げた。
本当はここで正式な挨拶をしても良いのだが、招待客である以上は玄関での挨拶は簡単にしておきたい。サプライズは後に残しておきたいところだ。
――が、相手はあの恭子だ。こちらの想定を簡単に飛び越えてくる。
「ちょ! ヴェルナーさんとは別の異世界人のイケメン。しかも若いっ! くぅ~、眼福ザマス!」
アークを前にちょっと興奮する恭子。
パーティの開始時間は、間もなくである。
●
ハンター達の多くは、苦慮しながらも正装で品川プリンセスホテルを訪れた。
事前に正装を伝えていただけあってハンターも準備をしてくれたようだ。
だが、中には無茶を押し通そうとする『強者』も存在した。
「お客様。少々よろしいでしょうか」
屈強なドアボーイ二人が、ルベーノ・バルバライン(ka6752)の行く手を阻む。
何故、彼らは行く手を阻むのか。
当のルベーノには理解できない。
「俺に用か。なんだ?」
「お客様、そちらの格好は当ホテルにはそぐわないのですが……」
ドアボーイが問題視したのは、ルベーノの正装であった。
肩からマントを垂らし、兜に片角の生えた全身フルプレートのような姿。
兜の隙間からは紅く目が光っている。
高級ホテルにこの格好で入っていけば、警戒アラームが鳴り響いて警備員が飛んできても仕方ない。
「フッ、漢の盛装と言えばフルプレートに決まっておろう」
「あの、意味が分からないのですが?」
無駄に胸を張るルベーノだったが、ベルボーイの二人にはさっぱり通じない。
いや、通じると思っている方が無茶だ。ルベーノの常識はリアルブルー人ではコスプレ並の扱いでしたなかった。
「むっ。まさか、リアルブルーではフルプレートは盛装ではないのか?」
「よく分かりませんが、当ホテルでは正装をお願いします」
「どうしたザマス?」
そこへちょうど恭子がやってきた。
ルベーノの姿を見た恭子は、一瞬にして事態を察知する。
「ここはあたくしに任せて欲しいザマス。この方に正装の着用をお願いするザマス」
「分かりました。お願い致します」
恭子の一言でベルボーイは下がっていく。
同時に恭子はルベーノをフロアの隅まで連れて行った。
「何となく事情は分かるザマスが、ここはスーツをレンタルして欲しいザマス」
「本来の盛装はこちらだと思うのだが……郷に入りては、という事か」
ルベーノは恭子に懇願される形でディレクターズスーツをレンタル。
少々筋肉のおかげでサイズが小さく気もするが、おかげでドアボーイ達から目を付けられる事はなかった。
●
「さぁ、皆さん。今日は皆さんが存分に楽しめるよう準備を進めてきたザマス。
……では、かんぱーいザマスっ!」
恭子の号令で、ハンター達はグラスを掲げる。
品川プリンセスホテル『飛翔の間』に通されたハンター達は、大量に並べられた料理を前に期待を膨らませる。
あの苦しかった戦いも、このパーティで憂さ晴らし。
乾杯の合図と同時に料理へ駆け寄ったハンター達もいる。
「エビフライだんず……これ壊れねだんず? 食べてええだんず?」
何故かテーブルの上にあるエビフライを凝視する杢(ka6890)。
破壊を気にしているが、今日のパーティの料理が破壊される事はない。
皿の上にエビフライを載せて、恐る恐る口の中へ運ぶ。
「たげうめーじゃー……やっぱりエビフライば、食べるのが一番だんずね」
口の中に広がるエビの香り。
サクサクとした衣が口の中に幸せをもたらす。
やはりエビフライは食べるに限ると杢は再確認していた。
一方、その傍らではスーツに身を包んだ鞍馬 真(ka5819)の姿があった。
「……やっと、終わったんだな」
パーティの始まりと同時にホール内に溢れる騒音。
エンドレスを巡る戦いが終結した事を鞍馬は実感していた。
多くの者が傷付き、倒れていった戦い。
あの戦いの果てに待っていた勝利を、鞍馬はパーティの席上で認識したのだ。
「て、天井高えー。なんだよ、ここ……」
鞍馬の背後で、大伴 鈴太郎(ka6016)は上を見上げていた。
豪華な食事に釣られてやってきた鈴太郎であったが、不慣れな正装と場所に緊張を隠せない。高級ホテルへ来る事などなかなか無いのだから無理もない。
そんな鈴太郎の緊張を察した鞍馬は、そっと鈴太郎の横に立つ。
「折角のおめかしをしているんだし、もう少し堂々として良いと思うよ」
鈴太郎から見た鞍馬。
倫とした態度でこの会場に立っているようにも見えた。
そう、鈴太郎も鞍馬もハンターとして成すべき事を行ったからこそ、このパーティへ招待されたのだ。自分には縁遠い場所へやってきたと思えても、それは自分で勝ち取った結果なのだ。
「あ。りんたろー」
葡萄ジュースを片手に鈴太郎を発見した道元 ガンジ(ka6005)がやってきた。
鈴太郎も知っている人間が姿を見せた事で、少しだけ緊張が解れる。
「ガンジ! 来たのか」
「ああ。ネクタイがきついが珍しい物が並んでいるなら食べないと……」
そこでガンジの言葉は途切れる。
首を傾げ不思議に感じる鈴太郎。
「ガンジ、どうした?」
「……え、あ。いや、何でもない」
鈴太郎からそっと視線を離すガンジ。
言える訳がない。
今日のパーティが正装という事で鈴太郎も女性らしい衣装に身を包んでいるのだが、予想外に『カワイイ』のだ。
普段ハンターとして戦う姿とのギャップが、可愛らしさを引き立てたとも言えるだろう。
「なんだ。変な奴だな。それにしてもこの衣装は慣れないな」
「……」
鈴太郎を意識した為に前を向きにくいガンジ。
その様子を察したのか、鞍馬は二人の間に立った。
「パーティは始まったばかりだ。早速、料理を食べようか」
鞍馬は鈴太郎とガンジの背中を押した。
●
「何をしているの? もしかして中尉……もう出来上がってるじゃない」
アオザイに身を包んだマリィア・バルデス(ka5848)は、パーティ会場にてジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉を発見した。
一人、椅子に座ってロックグラスに入ったウイスキーを口にしている。
「……あ? ああ、お前か。変わった格好をしているな」
「正装でもあまりみんなと同じ格好をするのが嫌なのよ」
「へぇ、反抗期か? 乙女だな」
「茶化さないの。それよりなんでここで一人で飲んでいるの?」
マリィアが気になったのも無理はない。
戦勝記念パーティと銘打たれているが、ドリスキルは会場の隅で孤独に酒を飲んでいたのだ。
料理も多少は手をつけているが、ほとんど酒浸りと言っても差し支えない。
「男はちょっとぐらい孤独の方が……カッコイイだろ?」
「それで煙に巻いたつもり?
中尉、貴方は軍功を立てる前にアル中で病院に収監されるんじゃないかしら」
そう言いながらマリィアはコップを手に取って水を注ぐ。
後で知った事だが、ドリスキルは会場到着前から酒を飲んでいたらしい。地球統一連合宙軍の制服で現れてはいるが、正装を意識したのではなく面倒だからこの衣装で現れたのは明白だ。
「だったら病院からヨルズで出撃してやるよ」
「ふぅ、強がりは止した方がいいわ」
マリィアはため息をついた。
ドリスキルがCAMパイロットに対抗心を燃やしている事は知っている。
CAMパイロットの上回る戦功を立てて見返したいのだ。それが戦車兵だったドリスキルが奪われた誇りを取り戻す唯一の方法だと信じているのだ。
だが、当のドリスキルは戦闘中でも酒を飲み出す始末。今回の戦いでも相応の活躍はしているのだが、規律違反を幾つ犯しているのか恭子に聞くのも怖くなってくる。
「貴方の思いきった行動は嫌いじゃ無いけど。アルコールの力を借りなければ起こせないというなら、正直不安を感じるわね」
「俺ぁアルコールの力だろうが何だろうが、CAMパイロットに勝てればそれでいい。CAMパイロットに勝てば可愛いギャルがほっぺにキスしてくれるんだ」
「…………」
「そう睨むな。だが同時に、アルコールの力を借りて部下の生きる可能性を引き上げてる。そうとも言えないか?
どうせ、俺達は戦場じゃあ使い捨ての歯車だ。だったら、アルコールでも何でも使って生きて帰る方法を選ぶしかねぇだろ」
いつのまにかドリスキルは真面目な顔つきになっている。
確かに酒浸りの日々を送っていたようだが、戦場で酒を飲む行為はドリスキルなりに生存率を上げる方法だったようだ。
本人曰く、酒を飲んだ方が砲弾の命中率が上がるらしいのだが、マリィアにそんな言い分が通用するはずもない
「あのね。私は貴方の体を案じているの」
「ご忠告痛み入るぜ、CAMパイロット殿。
それよりなんだ? その手に持っている奴は」
「話を逸らすつもり? まったく。
ダークチェリーパイよ。昔、部隊の打ち上げではLH044で行方不明になった伍長が毎回作っていたの。まあ、験担ぎって奴?」
ドリスキルは目敏くマリィアの持っていたパイに着目していたようだ。
マリィアの思い出の品とも言うべきパイ。
その話を聞いた瞬間、ドリスキルはパイの手を伸ばした。
「あ、ちょっと」
「いただくぜ。その伍長とやらもこいつを食べる為に生きて帰っていたんだろ? だったら食うしかねぇだろ。またこの味を思い出して帰って来られるように。……俺も、お前もな」
●
「シンー! ちょっとコレ食ってみ! 何かワカンねぇえど、すっげー美味え!」
鈴太郎は四色の層に彩られた四角い料理を食べて興奮していた。
見た事もない料理ばかりが並べられている為か、先程の緊張も解れていつもの調子が戻ってきたようだ。
「これは……野菜のテリーヌかな」
「野菜!? 野菜なのか、これ」
「一番上のオレンジはスモークサーモン。次の緑はブロッコリー、かな。ハーブの香りも効かせて前菜としては最適だと思うよ」
鞍馬は鈴太郎に料理の説明を簡単に行った。
高級ホテルだけあって食材も最上。コックの腕もかなりな物と見ていた。
「へぇ、野菜なのか……あ、八重樫」
鈴太郎の傍らに現れたのは、山岳猟団団長の八重樫 敦(kz0056)。
無理矢理スーツを着せられた為か、手足の長さが微妙に合わない。それ以上に筋肉でスーツがはち切れる寸前だ。
「ん? お前達か」
「なぁなぁ。鎌倉はどうなっているんだ? 大丈夫なのか?」
鈴太郎は心配事の一つを八重樫に聞いてみた。
故郷の鎌倉が戦場となった為、鈴太郎は故郷の将来を心配していたのだ。
鎌倉クラスタを殲滅したとはいえ、今から復興となれば途方も無い時間と労力が必要となる。人が戻ってくるまでにどれだけの時間がかかるのか――。
「日本政府が復興に着手したと聞いた。復興には地球統一連合宙軍も協力するらしい。いくつかの有名企業も出資するらしいから、想定よりも早く人が住み始めるだろうな」
八重樫によれば鎌倉の復興は着手して間もないようだ。
無理もない。鎌倉クラスタだけではなく、サトゥルヌスやコーリアスまで暴れたのだ。瓦礫の片付けだけでも膨大な時間を要するだろう。
それでも日本政府だけではなく、地球統一連合宙軍も支援してくれる。
鈴太郎が思い浮かべた故郷の姿が戻ってくるのも、そう遠くはないかもしれない。
「そっか。全部元に戻ったら、シンと一緒に鎌倉の海で遊ぶんだ」
「元に戻る、か。そうなればいいな」
八重樫の姿を見かけたジーナ(ka1643)が歩み寄ってきた。
正装という事でゴシックスーツ「オトラント」に身を包んでいる。
「……戻らない物もある。そう言いたいのか?」
「ああ」
ジーナの言葉の裏を読んだ八重樫。
確かに各地のクラスタ殲滅、エンドレスやヴァルキリーシリーズの撃破は目覚ましい。
それは、間違いなく喜ばしい事だ。
だが、失われた物も数多くある。
「あの艦にまた乗れないのが残念だ」
あの艦――メタ・シャングリラはエバーグリーンの地で役目を終えた。
函館からの付き合いとなるが、思い入れば無いと言えば嘘になる。
援護する事もあれば、世話になる事もあった。
多くの戦場でメタ・シャングリラと共に歩んできた。
その思い出が、ジーナの酒を進ませる。
「感傷か? あまり無理して飲むな」
「そうじゃない。新たな船出に対する祝杯だ。ラズモネ・シャングリラへの、な」
ジーナはワインの入った杯を少しだけ掲げた。
メタ・シャングリラは確かに沈んだ。
だが、新たな艦が軍から回ってきた。
ラズモネ・シャングリラ。
メタ・シャングリラの魂を受け継いだ新たな艦。恭子達はおそらくこの艦で新たな戦場へ向かうのだろう。
「そういえば、艦長や八重樫はこれからどうするんだ?」
「エンドレスは倒れたが、まだすべてが終わった訳じゃ無い……」
「あ! エンドレスの最期ってどうだったの?」
エンドレスの話題になった瞬間、まよいが問いかけてきた。
エンドレスとの激戦の最中、まよいは別の依頼に参加していた。その為、エンドレスの最期を見る事はできなかった。報告書でメタ・シャングリラと相打ちになったとは聞いていたが、実際に現場へ赴いた者からも聞いてみたくなったようだ。
「……エンドレスはコアを破壊されて活動を停止した。シバの魂を受け継いだ者達が、エンドレス内部へ共に行ってくれた。これで俺が抱えていた悪夢に一端の区切りが付いた」
「一端? エンドレスを追っていたんじゃないの?」
「追っていたさ。だが、今回の戦いでエンドレスを背後で操っていた奴がいたと気付いた」
エンドレスは倒れる前に、すべての転送データをある者へ送信していた。
黙示騎士――シュレディンガー。
情報では鎌倉へサトゥルヌスを放ち、コーリアスを召喚したのもシュレディンガーとみられている。
そして、そのシュレディンガーがハンターとの戦闘データを手に入れた。
何かを企んでいると考えるのが自然だ。
その言葉にジーナは自ら問いかけた質問の答えに気付いた。
「そうか。山岳猟団の次の目標は……シュレディンガーね」
「ああ。エンドレスの集めたデータを悪用させる訳にはいかない。森山の婆さんと一緒に奴をこれからも追い詰める」
八重樫は、気持ちを新たに切り替える。
エンドレスが倒れても、未だ戦いは終わらない。
●
「これ……どうぞ」
桜憐りるか(ka3748)は、事前にホテルへ要望していた料理をヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)へ差し出した。
皿の上には小さく丸い寿司が幾つか載せられている。その傍らには鱚の天ぷらが、胡麻の良い香りを放っている。クリムゾンウェストでも東方へ赴いた経験の少ないヴェルナーの為に、りるかが頼んだのだ。
もし、東方へ赴く事があればこれらの料理を食す機会があるかもしれないと考えたのだ。
「ふふ、私の為に取り分けて下さったのですね。ありがとうございます」
ヴェルナーは差し出された皿を受け取る。
その瞬間、りるかの指がヴェルナーへ触れる。
伝わる体温。りるかは反射的に指を引っ込めてしまう。
大きく揺れる皿。
「大丈夫、料理は落ちていません」
「ごめん、なさい」
「今日はどうされました? 何か様子がおかしい気がするのですが」
ヴェルナーの言葉にりるかは体を震わせた。
図星を付かれたからだ。
その理由も自分で分かっている。
ヴェルナーが恭子への挨拶をしているシーンを見かけてしまったからだ。
あれはドリスキルに騙されての行動であり、そもそもリアルブルーでもフランス式の挨拶に過ぎない。ヴェルナーにとってもそれ以上の意味は持っていない。
そんな事は、りるかも分かっている。
ただ、恭子にあのような挨拶をしていると知っただけでりるかの心が強くざわめいたのだ。
「なんでも、ないです」
自らの心を落ち着けさせようと、背を向けるりるか。
その様は明らかに何かを隠しているようにしか見えない。
だが、ヴェルナーはそこで野暮な真似はしなかった。
「そうですか。レディに無理矢理声をかけるのは失礼に当たります。ここはお話いただけるまでお待ち致します」
一歩下がるヴェルナー。
それは瞬間的にりるかが望んだ行動だ。
だが、ヴェルナーとの距離が空いた瞬間に心にずっしりと重りがのし掛かる。
まるでそこに果てしなく遠い崖ができたかのような錯覚。
ほんの一歩だけなのに、それがとても遠く感じてしまう。
「おや?」
ヴェルナーがそう答えた時には、りるかは無意識に一歩進んでいた。
その行動にりるか自身も驚かされる。
(……ヴェルナーさんと離れると、思ったら……。
あぁ……あたしは、ヴェルナーさんの傍に居たいんだ)
それがりるかの心に浮かんだ答え。
恭子への行動で心がざわめいたのも、それが理由だ。
ならば、どうするべきか。
その答えは――決まっている。
「えと……お傍にいても良い、でしょうか?」
勇気を振り絞った一言。
その言葉にヴェルナーはいつもの笑顔で返した。
「構いませんよ、レディ。あなたの思うままに」
●
「どうしました、私のマウジー。ここの料理を全然食べていないようですが」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は、傍らの穂積 智里(ka6819)の身を案じた。
金髪に紋付き袴というリアルブルーでも観光地しか見られないハンスの姿に気圧されている訳ではない。
そのヒントとなるのは、智里の顔を赤らめている事だ。
「ふ、振袖の時はあんまり食べられないんです! だから……だから、お気遣いなくっ」
必死に抵抗してみせる智里。
二人の関係はお互いを結ぶ手を見れば分かる。
離れないように、ガッチリと握られた手。その握り方は二人が親密な関係である事を感じさせる。
「ここの料理、とても美味しいですよ?
食べられないようなら、私が食べさせてあげましょうか?」
「!!」
ハンスは時折、恥ずかしげも無い言葉を口にする。
その度に智里は顔を赤らめるのである。
「あれ? 智里だ」
そこへガンジが通りかかる。
智里は慌ててハンスと繋いでいた手を離した。
「ガ、ガンジさん達もいらしていたんですね。次もまた宜しくお願いします」
「……ん? なんで慌てているんだ?」
「な、なんでもないです」
首を傾げるガンジ。
状況を掴めていない様子だが、智里は気付かれないようにハンスと共に足早にその場を立ち去る。
ハンスも智里が恥ずかしがる理由を理解できている。
今の所完全に智里を独占する立場ではないし、他者を排除するつもりもない。
だが、それはそれでハンスにとって『面白くない』。
少々イタズラ心を芽生えさせたハンスは、智里の耳元にそっと小声で話す。
「染みついた欲求は、意外と抗いがたいものです。いつ貴女がシャッツと呼んでくれるようになるか……楽しみにしておきます」
「……!!!!」
ハンスの言葉に、今日で一番顔を紅潮させる智里であった。
●
一方、ハンスや智里と異なる立場でパーティに参加する者もいた。
「自作のお菓子を持ち込みたいですぅ! でもでも、プリンセスホテルの料理に喧嘩を売るのはぁ……こういう時に良い男の胃袋を掴みたいのにぃ~」
星野 ハナ(ka5852)は、血の涙を流すかのように興奮している。
20代だからまだまだ行ける! と自身を鼓舞するハナ。
悲しいかな、浮いた話はここ最近で全くない。
だからこそ、このパーティに『賭けていた』。
クランベリーピンクのフリルとリボンたっぷりの膝丈ドレス。
ベージュピンクのボレロに合わせた真珠のネックレス。
さらにゴールドとピンクのハイヒールを履き、髪は編み込むアップスタイルで花をあしらった。
これこそ、ハナにとって戦闘衣装――目をギラギラさせた肉食系婚活ハンターとして高級ホテルへ参戦していた。
――だが。
「……くっ、良い男が寄ってこないなんてっ!」
ハナの計算は大きく狂っていた。
それもそのはず、それだけ気合いの入った姿だ。本人の気合いも十分。
しかし、その様子は傍目から見れば暴走。良い男が居れば、連れ去ってしまい兼ねない。
その状態で良い所が寄ってくるはずもなかった。
「寂しいだんず~」
ふと杢の一言が耳に飛び込んでくる。
反射的にハナは返答してしまう。
「寂しくなんかないわよっ! ちょっと、ちょっとだけ独り身の期間が長いだけよっ!」
「な、なんの話だんず? おら、エビフライの追加さ無ぐで、皿ば寂しいと言っただけだんず」
突然の反論に杢は怯んだ。
最早、独り身を刺激すればハナが何でも反応しかねない状況だ。
「あ、八重樫さぁん!」
ハナの目には飛び込んできたのは、八重樫。
四角い下駄のような輪郭だが、ハナにとって良い男なのだろうか。
「火力ならそこそこ自信があるのでぇ、良い男性を紹介して下さいぃ」
懇願。
まさに泣き付きと称しても差し支えない。
だが、当の八重樫は戦闘バカ。浮いた話なんかある訳ない。
苦し紛れに出た言葉は、あまりにも悲しいものであった。
「すまない。俺にも分からん。ヴェルナーにでも聞いてくれ」
●
「メタ・シャングリラを守り切れなくてごめん。そして、ラズモネ・シャングリラの艦長就任おめでとう。これは……お祝い」
アークが差し出したのはブーケ【永遠の赤】。
ホテルの入り口で正式な挨拶ができなかった事もあり、恭子を相手に正式な挨拶をするつもりのようだ。
「まあっ! お花をもらう事はあるザマスが、やっぱりお花は素敵ザマス」
「白のブーケと迷ったけど、やっぱり……艦長には、赤が似合うと思ったから」
「き、キターー! イケメンからの殺し文句ザマス! これはいいセリフザマス!」
アークの言葉に超反応する恭子。
どうやらセリフが恭子に深く突き刺さったようだ。あり得ない程の鼻息の荒さだ。
このまま薄い本を製作しかねない勢いだ。
「喜んでいただて良かった。あ、正式な挨拶はこうだったよね?」
そう言ってアークは恭子の手を取って、そっと口づけ。
パーティの前にヴェルナーが行ったのと同じ挨拶だ。
イケメンからの攻勢に恭子はダウン寸前だ。
「主催者を楽しませるという手で、既に一歩遅れを取った。だが、貴女のおかげで良い戦場を得た。これからも末が無くお願いしたい」
ルベーノからも花束と手の甲にキスの挨拶。
ルベーノもアークとは別のイケメン系。まさに恭子はこのパーティを開いただけでも意味があったと言えるだろう。
「きょ、今日は最高の日ザマス。イケメンパラダイスザマス……」
「倒れる前に一つ聞かせてくれ。退役しちまったから軍服諦めて面倒な正装までしてパーティに参加したんだ」
高級ホテルのタダ飯と聞いて、料理を端から食べ続けていたトリプルJ(ka6653)。
モーニングをレンタルしてパーティに参加したのは、高級ホテルの料理が目当てだ。だが、トリプルJには恭子から聞いておかなければならない情報があった。
「次の戦場はどこの予定だ? エバーグリーンまで行って大立ち回りしたんだ。次も派手なところなんだろうな?」
トリプルJは覚えていた。
函館クラスタ攻略時に秋葉原で行った戦勝記念パーティで、次の攻略目標が鎌倉クラスタと発表された事を。もし、今回のパーティでも次の攻略目標が発表されるならば早々に準備に入らなければならない。
だが、恭子の顔色はあまり優れない。
「残念ザマスが、まだ決まっていないザマス」
「あぁん? 戦ってクラスタを減らせば、それだけ俺らも帰れる日が近づく気がするんだがなぁ」
「そうザマスが、少々厄介な事情があるザマス」
「地球統一連合宙軍内の調整、と申し上げた方がよろしいでしょうか?」
そこへ現れたのはヴェルナーだ。
まさかの登場とその言葉に恭子は驚嘆する。
「ヴェルナーさん、何故それを?」
「ドリスキルさんと八重樫さんから事情は伺いました。森山さんは……」
「恭子! 恭子と呼んで欲しいザマス!」
「ふふ、構いませんよ。恭子さんは軍部内でも浮いた立場と伺いました。その為に多くの苦労をハンターの皆さんと乗り越えられた。
では、何故ここでラズモネ・シャングリラが与えられたのか? 軍部内で浮いた存在が、最新鋭の戦艦を与えられるでしょうか?」
ヴェルナーの指摘ももっともだ。
恭子は官僚的な思考である上官とソリが合わなかったはずだ。
仮にメタ・シャングリラの代替艦が配備されたとしても、最新鋭の戦艦が与えられるとは思えない。
では、何故――その答えにアークは気付く。
「軍の中に艦長の協力者が現れた?」
「その通り。皆さんの活躍は、孤立していた恭子さんを支持する者が現れた。そう考えるのが自然です。そして、彼らは対異世界支援部隊『スワローテイル』を設立してラズモネ・シャングリラを配備するだけの権力を保持いる可能性もあります。証拠はありませんが……」
「なんだよ、まどろっこしいな。それがどうだっていうんだ?」
答えが見えないトリプルJ。
その様子にヴェルナーは小さく頷いた。
「軍内部で政治的な駆け引きが行われている、そう見るべきでしょう。死を前提とした戦力投入ではなく、対歪虚戦略を念頭においた作戦展開。その為には時間が必要です。今は次なる作戦指示を待つべきです」
「要するに次の作戦まで待ってろって事か」
トリプルJは椅子に体を放り投げた。
軍部内の面倒な政治が次の作戦を遅らせている。
だが、時間があれば、次の戦いへ備える事もできる。
「次の敵は誰だ? いや、誰でもいい。相手にとって不足は無い」
指を鳴らして気合いを入れるルベーノ。
さらにヴェルナーは言葉を続ける。
「そうですね。黙示騎士は今や連合軍としても無視できない存在です。その上、コーリアスやアレクサンドルをリアルブルーへ召喚しています。今後のどのような事を仕掛けてくるのか……今は少しでも情報が必要ですね」
推測交じりではあるが、ヴェルナーの状況分析を聞いてハンター達は気持ちを新たにする。
次なる戦い――ラズモネ・シャングリラの初陣に備えて。
そして、ハンターは本当によく戦った。
函館クラスタ攻略から始まった戦いは、鎌倉を経て異世界へと辿り着いた。
クリムゾンウェストにて目撃された歪虚『エンドレス』の撃破に成功した彼ら。
だが、同時に失った物も少なくはない。
メタ・シャングリラは撃墜。
地球統一連合軍の兵士も多くが、その命を散らした。
それでも、彼らは勝利をもぎ取った。
苦難を乗り越えた先で手にした勝利。
今日ばかりは、この勝利を思う存分――祝いたい。
「う~ん。私、リアルブルーの高級ホテルでお食事なんて初めて!」
夢路 まよい(ka1328)は、品川プリンセスホテルの入り口に立っていた。
顔を見上げれば、白い大きな建物がそびえ立っている。
リアルブルーの日本でも有数な高級ホテル。
最上のサービスと料理。まさに、顧客に最高の時間を提供してくれる。
そんな高級ホテルに訪れたまよい。
場違いな気もするが、今日ばかりは正式な客として訪れたのだ。
気後れする必要は無い。
「本当、凄いところだね」
アーク・フォーサイス(ka6568)もまよいの隣で圧倒されていた。
リアルブルーへ訪れた事もあるが、都内の高級ホテルへ訪れる事はほとんど無い。
この為、アークは高級ホテルの食事がどのような物なのかもまったく分からない。
「あれ? 確か、きみってリアルブルー出身じゃなかった?」
思い出したようにまよいへ問いかけるアーク。
しかし、まよいは頭を横へ振った。
「ううん。私、物心ついた頃から窓のないお部屋でずっと過ごしてたから……お外の事は知らなかったんだよね」
「そうか」
聞いてはいけない話をしてしまったように感じたアーク。
微妙な空気が流れそうになるも、まよいは直ぐに話題を切り替える。
このような空気には慣れている。相手も知らなかったのだから仕方ない。
せっかくのお祝いだ。空気を悪くする事は無い。
「それより、衣装は大丈夫かな?」
「あ、ああ。それはそうだよね」
まよいとアークが気にしている衣装。
実はこれが一部のハンター達を困らせた。
先程も話題に出ていたが、品川プリンセスホテルは高級ホテルだ。
当然のようにドレスコードも存在する。この為、ハンター達はこの日の為に正装する事になるのだが、慣れない衣装に頭を悩ませる者が多かった。
「私、良く分からないから……知ってそうな人にドレスをチョイスしてもらちゃった」
「俺も。リアルブルーの正装なんて分からないよ」
まよいとアークは知り合いから正装を紹介してもらったようだ。
これで問題ないのか、不安を抱きながらも品川プリンセスホテルへやってきたのだ。
だが、その心配も無用だったようだ。
「ハンターの皆さん、ようこそザマス」
まよいとアークの前に姿を見せたのは赤いヒールと羽根飾りで着飾った森山恭子 (kz0216)だった。
高級ホテルの入り口でド派手な姿で現れた恭子。普段ならば気圧されそうだが、今日に限っては頼もしく見える。
どうやら、ハンター達を出迎える為に玄関で待っていたようだ。
「あの、衣装なんですが……」
「うん。大丈夫ザマス。今日は招待されたザマスから、堂々とするザマスよ。心配なら、あとであたくしが助けてあげるザマス」
心配そうなまよいを前に、恭子は優しく声をかける。
そう――今日、ハンター達は恭子が主催する戦勝記念パーティへ招待されたのだ。
遠慮する事無く、堂々としていればいいのだ。
「ありがとう、恭子」
「遠慮は無用ザマスよ」
「森山艦長、今日はお招きありがとう。正式な挨拶は、乾杯の後で」
アークは恭子を前に頭を下げた。
本当はここで正式な挨拶をしても良いのだが、招待客である以上は玄関での挨拶は簡単にしておきたい。サプライズは後に残しておきたいところだ。
――が、相手はあの恭子だ。こちらの想定を簡単に飛び越えてくる。
「ちょ! ヴェルナーさんとは別の異世界人のイケメン。しかも若いっ! くぅ~、眼福ザマス!」
アークを前にちょっと興奮する恭子。
パーティの開始時間は、間もなくである。
●
ハンター達の多くは、苦慮しながらも正装で品川プリンセスホテルを訪れた。
事前に正装を伝えていただけあってハンターも準備をしてくれたようだ。
だが、中には無茶を押し通そうとする『強者』も存在した。
「お客様。少々よろしいでしょうか」
屈強なドアボーイ二人が、ルベーノ・バルバライン(ka6752)の行く手を阻む。
何故、彼らは行く手を阻むのか。
当のルベーノには理解できない。
「俺に用か。なんだ?」
「お客様、そちらの格好は当ホテルにはそぐわないのですが……」
ドアボーイが問題視したのは、ルベーノの正装であった。
肩からマントを垂らし、兜に片角の生えた全身フルプレートのような姿。
兜の隙間からは紅く目が光っている。
高級ホテルにこの格好で入っていけば、警戒アラームが鳴り響いて警備員が飛んできても仕方ない。
「フッ、漢の盛装と言えばフルプレートに決まっておろう」
「あの、意味が分からないのですが?」
無駄に胸を張るルベーノだったが、ベルボーイの二人にはさっぱり通じない。
いや、通じると思っている方が無茶だ。ルベーノの常識はリアルブルー人ではコスプレ並の扱いでしたなかった。
「むっ。まさか、リアルブルーではフルプレートは盛装ではないのか?」
「よく分かりませんが、当ホテルでは正装をお願いします」
「どうしたザマス?」
そこへちょうど恭子がやってきた。
ルベーノの姿を見た恭子は、一瞬にして事態を察知する。
「ここはあたくしに任せて欲しいザマス。この方に正装の着用をお願いするザマス」
「分かりました。お願い致します」
恭子の一言でベルボーイは下がっていく。
同時に恭子はルベーノをフロアの隅まで連れて行った。
「何となく事情は分かるザマスが、ここはスーツをレンタルして欲しいザマス」
「本来の盛装はこちらだと思うのだが……郷に入りては、という事か」
ルベーノは恭子に懇願される形でディレクターズスーツをレンタル。
少々筋肉のおかげでサイズが小さく気もするが、おかげでドアボーイ達から目を付けられる事はなかった。
●
「さぁ、皆さん。今日は皆さんが存分に楽しめるよう準備を進めてきたザマス。
……では、かんぱーいザマスっ!」
恭子の号令で、ハンター達はグラスを掲げる。
品川プリンセスホテル『飛翔の間』に通されたハンター達は、大量に並べられた料理を前に期待を膨らませる。
あの苦しかった戦いも、このパーティで憂さ晴らし。
乾杯の合図と同時に料理へ駆け寄ったハンター達もいる。
「エビフライだんず……これ壊れねだんず? 食べてええだんず?」
何故かテーブルの上にあるエビフライを凝視する杢(ka6890)。
破壊を気にしているが、今日のパーティの料理が破壊される事はない。
皿の上にエビフライを載せて、恐る恐る口の中へ運ぶ。
「たげうめーじゃー……やっぱりエビフライば、食べるのが一番だんずね」
口の中に広がるエビの香り。
サクサクとした衣が口の中に幸せをもたらす。
やはりエビフライは食べるに限ると杢は再確認していた。
一方、その傍らではスーツに身を包んだ鞍馬 真(ka5819)の姿があった。
「……やっと、終わったんだな」
パーティの始まりと同時にホール内に溢れる騒音。
エンドレスを巡る戦いが終結した事を鞍馬は実感していた。
多くの者が傷付き、倒れていった戦い。
あの戦いの果てに待っていた勝利を、鞍馬はパーティの席上で認識したのだ。
「て、天井高えー。なんだよ、ここ……」
鞍馬の背後で、大伴 鈴太郎(ka6016)は上を見上げていた。
豪華な食事に釣られてやってきた鈴太郎であったが、不慣れな正装と場所に緊張を隠せない。高級ホテルへ来る事などなかなか無いのだから無理もない。
そんな鈴太郎の緊張を察した鞍馬は、そっと鈴太郎の横に立つ。
「折角のおめかしをしているんだし、もう少し堂々として良いと思うよ」
鈴太郎から見た鞍馬。
倫とした態度でこの会場に立っているようにも見えた。
そう、鈴太郎も鞍馬もハンターとして成すべき事を行ったからこそ、このパーティへ招待されたのだ。自分には縁遠い場所へやってきたと思えても、それは自分で勝ち取った結果なのだ。
「あ。りんたろー」
葡萄ジュースを片手に鈴太郎を発見した道元 ガンジ(ka6005)がやってきた。
鈴太郎も知っている人間が姿を見せた事で、少しだけ緊張が解れる。
「ガンジ! 来たのか」
「ああ。ネクタイがきついが珍しい物が並んでいるなら食べないと……」
そこでガンジの言葉は途切れる。
首を傾げ不思議に感じる鈴太郎。
「ガンジ、どうした?」
「……え、あ。いや、何でもない」
鈴太郎からそっと視線を離すガンジ。
言える訳がない。
今日のパーティが正装という事で鈴太郎も女性らしい衣装に身を包んでいるのだが、予想外に『カワイイ』のだ。
普段ハンターとして戦う姿とのギャップが、可愛らしさを引き立てたとも言えるだろう。
「なんだ。変な奴だな。それにしてもこの衣装は慣れないな」
「……」
鈴太郎を意識した為に前を向きにくいガンジ。
その様子を察したのか、鞍馬は二人の間に立った。
「パーティは始まったばかりだ。早速、料理を食べようか」
鞍馬は鈴太郎とガンジの背中を押した。
●
「何をしているの? もしかして中尉……もう出来上がってるじゃない」
アオザイに身を包んだマリィア・バルデス(ka5848)は、パーティ会場にてジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉を発見した。
一人、椅子に座ってロックグラスに入ったウイスキーを口にしている。
「……あ? ああ、お前か。変わった格好をしているな」
「正装でもあまりみんなと同じ格好をするのが嫌なのよ」
「へぇ、反抗期か? 乙女だな」
「茶化さないの。それよりなんでここで一人で飲んでいるの?」
マリィアが気になったのも無理はない。
戦勝記念パーティと銘打たれているが、ドリスキルは会場の隅で孤独に酒を飲んでいたのだ。
料理も多少は手をつけているが、ほとんど酒浸りと言っても差し支えない。
「男はちょっとぐらい孤独の方が……カッコイイだろ?」
「それで煙に巻いたつもり?
中尉、貴方は軍功を立てる前にアル中で病院に収監されるんじゃないかしら」
そう言いながらマリィアはコップを手に取って水を注ぐ。
後で知った事だが、ドリスキルは会場到着前から酒を飲んでいたらしい。地球統一連合宙軍の制服で現れてはいるが、正装を意識したのではなく面倒だからこの衣装で現れたのは明白だ。
「だったら病院からヨルズで出撃してやるよ」
「ふぅ、強がりは止した方がいいわ」
マリィアはため息をついた。
ドリスキルがCAMパイロットに対抗心を燃やしている事は知っている。
CAMパイロットの上回る戦功を立てて見返したいのだ。それが戦車兵だったドリスキルが奪われた誇りを取り戻す唯一の方法だと信じているのだ。
だが、当のドリスキルは戦闘中でも酒を飲み出す始末。今回の戦いでも相応の活躍はしているのだが、規律違反を幾つ犯しているのか恭子に聞くのも怖くなってくる。
「貴方の思いきった行動は嫌いじゃ無いけど。アルコールの力を借りなければ起こせないというなら、正直不安を感じるわね」
「俺ぁアルコールの力だろうが何だろうが、CAMパイロットに勝てればそれでいい。CAMパイロットに勝てば可愛いギャルがほっぺにキスしてくれるんだ」
「…………」
「そう睨むな。だが同時に、アルコールの力を借りて部下の生きる可能性を引き上げてる。そうとも言えないか?
どうせ、俺達は戦場じゃあ使い捨ての歯車だ。だったら、アルコールでも何でも使って生きて帰る方法を選ぶしかねぇだろ」
いつのまにかドリスキルは真面目な顔つきになっている。
確かに酒浸りの日々を送っていたようだが、戦場で酒を飲む行為はドリスキルなりに生存率を上げる方法だったようだ。
本人曰く、酒を飲んだ方が砲弾の命中率が上がるらしいのだが、マリィアにそんな言い分が通用するはずもない
「あのね。私は貴方の体を案じているの」
「ご忠告痛み入るぜ、CAMパイロット殿。
それよりなんだ? その手に持っている奴は」
「話を逸らすつもり? まったく。
ダークチェリーパイよ。昔、部隊の打ち上げではLH044で行方不明になった伍長が毎回作っていたの。まあ、験担ぎって奴?」
ドリスキルは目敏くマリィアの持っていたパイに着目していたようだ。
マリィアの思い出の品とも言うべきパイ。
その話を聞いた瞬間、ドリスキルはパイの手を伸ばした。
「あ、ちょっと」
「いただくぜ。その伍長とやらもこいつを食べる為に生きて帰っていたんだろ? だったら食うしかねぇだろ。またこの味を思い出して帰って来られるように。……俺も、お前もな」
●
「シンー! ちょっとコレ食ってみ! 何かワカンねぇえど、すっげー美味え!」
鈴太郎は四色の層に彩られた四角い料理を食べて興奮していた。
見た事もない料理ばかりが並べられている為か、先程の緊張も解れていつもの調子が戻ってきたようだ。
「これは……野菜のテリーヌかな」
「野菜!? 野菜なのか、これ」
「一番上のオレンジはスモークサーモン。次の緑はブロッコリー、かな。ハーブの香りも効かせて前菜としては最適だと思うよ」
鞍馬は鈴太郎に料理の説明を簡単に行った。
高級ホテルだけあって食材も最上。コックの腕もかなりな物と見ていた。
「へぇ、野菜なのか……あ、八重樫」
鈴太郎の傍らに現れたのは、山岳猟団団長の八重樫 敦(kz0056)。
無理矢理スーツを着せられた為か、手足の長さが微妙に合わない。それ以上に筋肉でスーツがはち切れる寸前だ。
「ん? お前達か」
「なぁなぁ。鎌倉はどうなっているんだ? 大丈夫なのか?」
鈴太郎は心配事の一つを八重樫に聞いてみた。
故郷の鎌倉が戦場となった為、鈴太郎は故郷の将来を心配していたのだ。
鎌倉クラスタを殲滅したとはいえ、今から復興となれば途方も無い時間と労力が必要となる。人が戻ってくるまでにどれだけの時間がかかるのか――。
「日本政府が復興に着手したと聞いた。復興には地球統一連合宙軍も協力するらしい。いくつかの有名企業も出資するらしいから、想定よりも早く人が住み始めるだろうな」
八重樫によれば鎌倉の復興は着手して間もないようだ。
無理もない。鎌倉クラスタだけではなく、サトゥルヌスやコーリアスまで暴れたのだ。瓦礫の片付けだけでも膨大な時間を要するだろう。
それでも日本政府だけではなく、地球統一連合宙軍も支援してくれる。
鈴太郎が思い浮かべた故郷の姿が戻ってくるのも、そう遠くはないかもしれない。
「そっか。全部元に戻ったら、シンと一緒に鎌倉の海で遊ぶんだ」
「元に戻る、か。そうなればいいな」
八重樫の姿を見かけたジーナ(ka1643)が歩み寄ってきた。
正装という事でゴシックスーツ「オトラント」に身を包んでいる。
「……戻らない物もある。そう言いたいのか?」
「ああ」
ジーナの言葉の裏を読んだ八重樫。
確かに各地のクラスタ殲滅、エンドレスやヴァルキリーシリーズの撃破は目覚ましい。
それは、間違いなく喜ばしい事だ。
だが、失われた物も数多くある。
「あの艦にまた乗れないのが残念だ」
あの艦――メタ・シャングリラはエバーグリーンの地で役目を終えた。
函館からの付き合いとなるが、思い入れば無いと言えば嘘になる。
援護する事もあれば、世話になる事もあった。
多くの戦場でメタ・シャングリラと共に歩んできた。
その思い出が、ジーナの酒を進ませる。
「感傷か? あまり無理して飲むな」
「そうじゃない。新たな船出に対する祝杯だ。ラズモネ・シャングリラへの、な」
ジーナはワインの入った杯を少しだけ掲げた。
メタ・シャングリラは確かに沈んだ。
だが、新たな艦が軍から回ってきた。
ラズモネ・シャングリラ。
メタ・シャングリラの魂を受け継いだ新たな艦。恭子達はおそらくこの艦で新たな戦場へ向かうのだろう。
「そういえば、艦長や八重樫はこれからどうするんだ?」
「エンドレスは倒れたが、まだすべてが終わった訳じゃ無い……」
「あ! エンドレスの最期ってどうだったの?」
エンドレスの話題になった瞬間、まよいが問いかけてきた。
エンドレスとの激戦の最中、まよいは別の依頼に参加していた。その為、エンドレスの最期を見る事はできなかった。報告書でメタ・シャングリラと相打ちになったとは聞いていたが、実際に現場へ赴いた者からも聞いてみたくなったようだ。
「……エンドレスはコアを破壊されて活動を停止した。シバの魂を受け継いだ者達が、エンドレス内部へ共に行ってくれた。これで俺が抱えていた悪夢に一端の区切りが付いた」
「一端? エンドレスを追っていたんじゃないの?」
「追っていたさ。だが、今回の戦いでエンドレスを背後で操っていた奴がいたと気付いた」
エンドレスは倒れる前に、すべての転送データをある者へ送信していた。
黙示騎士――シュレディンガー。
情報では鎌倉へサトゥルヌスを放ち、コーリアスを召喚したのもシュレディンガーとみられている。
そして、そのシュレディンガーがハンターとの戦闘データを手に入れた。
何かを企んでいると考えるのが自然だ。
その言葉にジーナは自ら問いかけた質問の答えに気付いた。
「そうか。山岳猟団の次の目標は……シュレディンガーね」
「ああ。エンドレスの集めたデータを悪用させる訳にはいかない。森山の婆さんと一緒に奴をこれからも追い詰める」
八重樫は、気持ちを新たに切り替える。
エンドレスが倒れても、未だ戦いは終わらない。
●
「これ……どうぞ」
桜憐りるか(ka3748)は、事前にホテルへ要望していた料理をヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)へ差し出した。
皿の上には小さく丸い寿司が幾つか載せられている。その傍らには鱚の天ぷらが、胡麻の良い香りを放っている。クリムゾンウェストでも東方へ赴いた経験の少ないヴェルナーの為に、りるかが頼んだのだ。
もし、東方へ赴く事があればこれらの料理を食す機会があるかもしれないと考えたのだ。
「ふふ、私の為に取り分けて下さったのですね。ありがとうございます」
ヴェルナーは差し出された皿を受け取る。
その瞬間、りるかの指がヴェルナーへ触れる。
伝わる体温。りるかは反射的に指を引っ込めてしまう。
大きく揺れる皿。
「大丈夫、料理は落ちていません」
「ごめん、なさい」
「今日はどうされました? 何か様子がおかしい気がするのですが」
ヴェルナーの言葉にりるかは体を震わせた。
図星を付かれたからだ。
その理由も自分で分かっている。
ヴェルナーが恭子への挨拶をしているシーンを見かけてしまったからだ。
あれはドリスキルに騙されての行動であり、そもそもリアルブルーでもフランス式の挨拶に過ぎない。ヴェルナーにとってもそれ以上の意味は持っていない。
そんな事は、りるかも分かっている。
ただ、恭子にあのような挨拶をしていると知っただけでりるかの心が強くざわめいたのだ。
「なんでも、ないです」
自らの心を落ち着けさせようと、背を向けるりるか。
その様は明らかに何かを隠しているようにしか見えない。
だが、ヴェルナーはそこで野暮な真似はしなかった。
「そうですか。レディに無理矢理声をかけるのは失礼に当たります。ここはお話いただけるまでお待ち致します」
一歩下がるヴェルナー。
それは瞬間的にりるかが望んだ行動だ。
だが、ヴェルナーとの距離が空いた瞬間に心にずっしりと重りがのし掛かる。
まるでそこに果てしなく遠い崖ができたかのような錯覚。
ほんの一歩だけなのに、それがとても遠く感じてしまう。
「おや?」
ヴェルナーがそう答えた時には、りるかは無意識に一歩進んでいた。
その行動にりるか自身も驚かされる。
(……ヴェルナーさんと離れると、思ったら……。
あぁ……あたしは、ヴェルナーさんの傍に居たいんだ)
それがりるかの心に浮かんだ答え。
恭子への行動で心がざわめいたのも、それが理由だ。
ならば、どうするべきか。
その答えは――決まっている。
「えと……お傍にいても良い、でしょうか?」
勇気を振り絞った一言。
その言葉にヴェルナーはいつもの笑顔で返した。
「構いませんよ、レディ。あなたの思うままに」
●
「どうしました、私のマウジー。ここの料理を全然食べていないようですが」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は、傍らの穂積 智里(ka6819)の身を案じた。
金髪に紋付き袴というリアルブルーでも観光地しか見られないハンスの姿に気圧されている訳ではない。
そのヒントとなるのは、智里の顔を赤らめている事だ。
「ふ、振袖の時はあんまり食べられないんです! だから……だから、お気遣いなくっ」
必死に抵抗してみせる智里。
二人の関係はお互いを結ぶ手を見れば分かる。
離れないように、ガッチリと握られた手。その握り方は二人が親密な関係である事を感じさせる。
「ここの料理、とても美味しいですよ?
食べられないようなら、私が食べさせてあげましょうか?」
「!!」
ハンスは時折、恥ずかしげも無い言葉を口にする。
その度に智里は顔を赤らめるのである。
「あれ? 智里だ」
そこへガンジが通りかかる。
智里は慌ててハンスと繋いでいた手を離した。
「ガ、ガンジさん達もいらしていたんですね。次もまた宜しくお願いします」
「……ん? なんで慌てているんだ?」
「な、なんでもないです」
首を傾げるガンジ。
状況を掴めていない様子だが、智里は気付かれないようにハンスと共に足早にその場を立ち去る。
ハンスも智里が恥ずかしがる理由を理解できている。
今の所完全に智里を独占する立場ではないし、他者を排除するつもりもない。
だが、それはそれでハンスにとって『面白くない』。
少々イタズラ心を芽生えさせたハンスは、智里の耳元にそっと小声で話す。
「染みついた欲求は、意外と抗いがたいものです。いつ貴女がシャッツと呼んでくれるようになるか……楽しみにしておきます」
「……!!!!」
ハンスの言葉に、今日で一番顔を紅潮させる智里であった。
●
一方、ハンスや智里と異なる立場でパーティに参加する者もいた。
「自作のお菓子を持ち込みたいですぅ! でもでも、プリンセスホテルの料理に喧嘩を売るのはぁ……こういう時に良い男の胃袋を掴みたいのにぃ~」
星野 ハナ(ka5852)は、血の涙を流すかのように興奮している。
20代だからまだまだ行ける! と自身を鼓舞するハナ。
悲しいかな、浮いた話はここ最近で全くない。
だからこそ、このパーティに『賭けていた』。
クランベリーピンクのフリルとリボンたっぷりの膝丈ドレス。
ベージュピンクのボレロに合わせた真珠のネックレス。
さらにゴールドとピンクのハイヒールを履き、髪は編み込むアップスタイルで花をあしらった。
これこそ、ハナにとって戦闘衣装――目をギラギラさせた肉食系婚活ハンターとして高級ホテルへ参戦していた。
――だが。
「……くっ、良い男が寄ってこないなんてっ!」
ハナの計算は大きく狂っていた。
それもそのはず、それだけ気合いの入った姿だ。本人の気合いも十分。
しかし、その様子は傍目から見れば暴走。良い男が居れば、連れ去ってしまい兼ねない。
その状態で良い所が寄ってくるはずもなかった。
「寂しいだんず~」
ふと杢の一言が耳に飛び込んでくる。
反射的にハナは返答してしまう。
「寂しくなんかないわよっ! ちょっと、ちょっとだけ独り身の期間が長いだけよっ!」
「な、なんの話だんず? おら、エビフライの追加さ無ぐで、皿ば寂しいと言っただけだんず」
突然の反論に杢は怯んだ。
最早、独り身を刺激すればハナが何でも反応しかねない状況だ。
「あ、八重樫さぁん!」
ハナの目には飛び込んできたのは、八重樫。
四角い下駄のような輪郭だが、ハナにとって良い男なのだろうか。
「火力ならそこそこ自信があるのでぇ、良い男性を紹介して下さいぃ」
懇願。
まさに泣き付きと称しても差し支えない。
だが、当の八重樫は戦闘バカ。浮いた話なんかある訳ない。
苦し紛れに出た言葉は、あまりにも悲しいものであった。
「すまない。俺にも分からん。ヴェルナーにでも聞いてくれ」
●
「メタ・シャングリラを守り切れなくてごめん。そして、ラズモネ・シャングリラの艦長就任おめでとう。これは……お祝い」
アークが差し出したのはブーケ【永遠の赤】。
ホテルの入り口で正式な挨拶ができなかった事もあり、恭子を相手に正式な挨拶をするつもりのようだ。
「まあっ! お花をもらう事はあるザマスが、やっぱりお花は素敵ザマス」
「白のブーケと迷ったけど、やっぱり……艦長には、赤が似合うと思ったから」
「き、キターー! イケメンからの殺し文句ザマス! これはいいセリフザマス!」
アークの言葉に超反応する恭子。
どうやらセリフが恭子に深く突き刺さったようだ。あり得ない程の鼻息の荒さだ。
このまま薄い本を製作しかねない勢いだ。
「喜んでいただて良かった。あ、正式な挨拶はこうだったよね?」
そう言ってアークは恭子の手を取って、そっと口づけ。
パーティの前にヴェルナーが行ったのと同じ挨拶だ。
イケメンからの攻勢に恭子はダウン寸前だ。
「主催者を楽しませるという手で、既に一歩遅れを取った。だが、貴女のおかげで良い戦場を得た。これからも末が無くお願いしたい」
ルベーノからも花束と手の甲にキスの挨拶。
ルベーノもアークとは別のイケメン系。まさに恭子はこのパーティを開いただけでも意味があったと言えるだろう。
「きょ、今日は最高の日ザマス。イケメンパラダイスザマス……」
「倒れる前に一つ聞かせてくれ。退役しちまったから軍服諦めて面倒な正装までしてパーティに参加したんだ」
高級ホテルのタダ飯と聞いて、料理を端から食べ続けていたトリプルJ(ka6653)。
モーニングをレンタルしてパーティに参加したのは、高級ホテルの料理が目当てだ。だが、トリプルJには恭子から聞いておかなければならない情報があった。
「次の戦場はどこの予定だ? エバーグリーンまで行って大立ち回りしたんだ。次も派手なところなんだろうな?」
トリプルJは覚えていた。
函館クラスタ攻略時に秋葉原で行った戦勝記念パーティで、次の攻略目標が鎌倉クラスタと発表された事を。もし、今回のパーティでも次の攻略目標が発表されるならば早々に準備に入らなければならない。
だが、恭子の顔色はあまり優れない。
「残念ザマスが、まだ決まっていないザマス」
「あぁん? 戦ってクラスタを減らせば、それだけ俺らも帰れる日が近づく気がするんだがなぁ」
「そうザマスが、少々厄介な事情があるザマス」
「地球統一連合宙軍内の調整、と申し上げた方がよろしいでしょうか?」
そこへ現れたのはヴェルナーだ。
まさかの登場とその言葉に恭子は驚嘆する。
「ヴェルナーさん、何故それを?」
「ドリスキルさんと八重樫さんから事情は伺いました。森山さんは……」
「恭子! 恭子と呼んで欲しいザマス!」
「ふふ、構いませんよ。恭子さんは軍部内でも浮いた立場と伺いました。その為に多くの苦労をハンターの皆さんと乗り越えられた。
では、何故ここでラズモネ・シャングリラが与えられたのか? 軍部内で浮いた存在が、最新鋭の戦艦を与えられるでしょうか?」
ヴェルナーの指摘ももっともだ。
恭子は官僚的な思考である上官とソリが合わなかったはずだ。
仮にメタ・シャングリラの代替艦が配備されたとしても、最新鋭の戦艦が与えられるとは思えない。
では、何故――その答えにアークは気付く。
「軍の中に艦長の協力者が現れた?」
「その通り。皆さんの活躍は、孤立していた恭子さんを支持する者が現れた。そう考えるのが自然です。そして、彼らは対異世界支援部隊『スワローテイル』を設立してラズモネ・シャングリラを配備するだけの権力を保持いる可能性もあります。証拠はありませんが……」
「なんだよ、まどろっこしいな。それがどうだっていうんだ?」
答えが見えないトリプルJ。
その様子にヴェルナーは小さく頷いた。
「軍内部で政治的な駆け引きが行われている、そう見るべきでしょう。死を前提とした戦力投入ではなく、対歪虚戦略を念頭においた作戦展開。その為には時間が必要です。今は次なる作戦指示を待つべきです」
「要するに次の作戦まで待ってろって事か」
トリプルJは椅子に体を放り投げた。
軍部内の面倒な政治が次の作戦を遅らせている。
だが、時間があれば、次の戦いへ備える事もできる。
「次の敵は誰だ? いや、誰でもいい。相手にとって不足は無い」
指を鳴らして気合いを入れるルベーノ。
さらにヴェルナーは言葉を続ける。
「そうですね。黙示騎士は今や連合軍としても無視できない存在です。その上、コーリアスやアレクサンドルをリアルブルーへ召喚しています。今後のどのような事を仕掛けてくるのか……今は少しでも情報が必要ですね」
推測交じりではあるが、ヴェルナーの状況分析を聞いてハンター達は気持ちを新たにする。
次なる戦い――ラズモネ・シャングリラの初陣に備えて。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/12 20:46:12 |