• 東幕

【東幕】百合か撫子、それとも薔薇か華神輿

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/11/17 15:00
完成日
2017/11/21 21:47

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オープニング

●酔いにまぎれ宵にまぎれ
 エトファリカ連邦国、天ノ都。その中心部にほど近い、とある料亭で、宴がにぎやかに開かれていた。大商家の隠居の誕生祝であるという。
「ねえねえ、ご隠居さま~。あたしのお酒もお飲みになって~」
 豊満な体つきの女が、朱色の上着を着た老人にすり寄って酌をする。
「おうおう、もちろんだとも」
 この老人こそが、この宴の主役である。隠居とはいえ、いまだに店の舵取りをしているのはこの男で、後ろ暗い取引も仕切っているらしい、とまことしやかに囁かれていた。
「やーん、さすが良い飲みっぷり! ……ねえ、ご隠居さま? ご隠居さまは、お武家さまともお付き合いがおありになると聞きましたわ? 本当ですの~?」
「ん? うん、まあ、な」
「すっごぉい! ねえねえ、どなたと仲がおよろしいの?」
「そうだねえ、最近会ったのは……」
 女はべったりと体をくっつけている。その柔らかな感触に鼻の下を伸ばした老人は、口元をゆるませた。と、そこへ。
「ご隠居さま、いけませんよ。そんなことを簡単に喋っては」
 涼やかな声が割って入ったかと思うと、そこには少女のように年若い女が立っていた。華奢でしなやかな体つきは老人に寄り添う女とは対称的だが、それだけに不思議な妖艶さが漂っていた。
「あ、ああ……、そうだね……。おい君、もういいから下がりなさい」
 老人がそう言って女を下がらせると、女は後からやってきた年若い女をひと睨みして去って行った。
「ご隠居さま、お気を付けにならないと」
 その女はほっそりした白い指で老人の肩を小突く。
「あの女、きっとどこかの間者ですわ。こっそり探っているに違いありません」
「そうか! 危ないところだった。六角家に闇ルートの詳細を教えたなんてわかったら、わしも無事ではおられんかもしれんわい。……いい子じゃのう、お前は」
 老人は女の細い首筋に手を這わせた。絹のような滑らかな肌に頬を緩ませる。
「お前、隣の部屋で待っておいで。いいね」
 老人の意味ありげな目配せに、女はうっすら微笑んで宴席を出た。出た、途端に。
 女はすらりと廊下の窓から外へ出て、ふわっと浮かび上がるように身軽に屋根の上へと上がった。来ていた鮮やかな着物を脱ぎ去り、カツラをむしり取る。
「誰が待つかっての、エロジジイ」
 お座敷女から黒づくめの忍装束に早変わりし、月白──ゲッパク、と読む──は顔をしかめた。
 月白は屋根づたいに素早く移動し、いくつか目ぼしい場所を偵察して回る。さっきのエロ隠居からはなかなか有力な証言を得られたとはいえ、それだけでお仕事完了、とはならないのだ。
「……あっちに隠れてるのは黒川の雇ったか。そっちのは見ない顔だが……、どこの手の者だ?」
「丹羽だよ」
 独り言に返答があり、月白は大きく跳び退った。肩幅のずいぶんと広い、黒装束の男が、いつの間にかそこにいた。
「お前、月白だろぉ? 依頼の成功率がべらぼうにいい、高給取りだよな? 近頃、忍のクセに忍のことを嗅ぎまわってるようだが、誰に雇われた?」
「……」
「なんだよ、だんまりかよぉ。期待はずれだなぁ。忍のクセに目立つ白い髪をしてる、って聞いたがそれも見えないしなぁ。おい、その頭巾、外してみろよ」
「……」
 月白は黙ったままだ。肩幅の広い男が、ちぇ、と舌打ちした。
「ま、いいけどな! 骸になってから、たっぷり拝めばいいんだからさぁ!」
 そう言って、男は苦無を振るって月白に襲い掛かった。月白は慌てることなく身を翻し、懐に隠していた三節棍で応戦する。数回の、打ち合いの後。
「ぐえっ!」
 月白の攻撃が男の腹をまともに捕らえた。月白はそこを逃さず更に腹を殴り、そして。傾いた肩に足をかけ……、男を屋根から蹴落とした。
 ばきゃ、と嫌な音がした。
「……忍のクセに、お喋りだな」
 月白は一言吐き捨てて、闇夜を駆け抜け、消えた。



●華神輿
「え? 中止?」
 史郎はその美しいかんばせを驚きの色に染めた。天ノ都に史郎が構える、小さな営業所での商談中であった。史郎の目の前に座る中年の呉服店主人は、弱り切った顔でため息をついた。
「ああ。本当に申し訳ないんだけどねえ。今回の華神輿行列は諦めるよ」
「でも、もう準備はほとんどできているじゃないですか。いったい、どういうわけで?」
 この呉服店は、このところの順調な商売運びを祝って、また、近隣住民への感謝をこめて花を盛った神輿を出し、美女と共に街道を練り歩く計画を立てていた。それに際して、神輿に盛る花や、配る菓子の手配を史郎に依頼していたのである。
「神輿と一緒に行進してくれるはずだった、女の子たちにねえ、全員断られてしまったんだよ。ほら、練り歩く予定の道に、この前、不審な死体が倒れていたろう。どうやら忍のものらしいって話だけど……。それで、怖がっちゃったらしくてねえ。代金は全部返ってきたから、それはいいんだけど……、美女が華神輿と共に行進、を売りにしていたからねえ。とても決行できなくてねえ」
「ふうむ……」
 史郎は唸った。決行の日まではあと三日。ここで中止にするのはもったいない。折角、こういう行列が出せるようになるまでに復興が進んでいるのだ。主人には、それを周囲にも知らしめて、さらに元気づけようという思いがあるのに違いなかった。
(まったく、商売の邪魔をしやがって)
 史郎は内心で毒づきつつ、どうにか他の手はないかと考えていた。そして。
「ご主人。戻ってきたその代金、私にお預け願えませんか。三日後には必ず、美女を揃えて見せますから」
 ピンチはチャンス、というのは商人の常識だ。史郎は自信ありげににっこりと、呉服屋の主人に微笑んで見せた。



「と、いうわけで、美女を集めるんだけどさ、スーさんも美女になってみるかい?」
 呉服屋の主人と入れ替わりに、営業所へ遊びにやってきた友人にむかって史郎は笑いかけた。自分のことを「スーさんと呼んでくれ」と言うこの青年とは、妙に気が合うのである。
「はあ?」
 何を言ってんだお前は、という顔で、スーさんはお茶をすする。茶うけの菓子は、スーさんが持参した、上生菓子だ。もみじをかたどった、練りきり。
(こういうものを手土産にしちゃうところがさあ、身分を隠しきれてないっていうか……)
 史郎は苦笑しつつ、自分も茶をひとくち飲んだ。
「素材を選ぶことも大事だけど、ときには、どんな素材も上手く調理する腕も大事だってことさ」
「え……、じゃ、史郎、まさかお前も女装するのか」
 スーさんが顔を引きつらせる。史郎はスッと目を細め、目尻と口の端をななめに持ち上げて、色っぽい視線を作って見せた。
「もちろん」
 不覚にもドキリとしてしまいつつ、こいつ女装ぜってー似合うわ、と思うスーさんなのであった。

リプレイ本文

 営業所に着替えのできるスペースを用意してハンターたちを待ち構えていた史郎 (kz0242)は、そのメンツに思わず笑ってしまった。
「え……、女の子のお祭りだと思ったのに……男の娘祭りだったの!? もしかして、それに乱入しちゃった私は痴女枠なの!?」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)が史郎の笑いを代弁するように悲鳴めいた叫びをあげる。美女のお祭りのはずがまさかの紅一点、という現実はなかなか理解の難易度が高い。
「男女問わず、とは言ったけど、こうも男性が揃うとは思わなかったな! 大歓迎ですよ、どうぞよろしくお願いしますね」
 史郎が笑いつつ丁寧にお辞儀をすると、史郎にも引けを取らない美少年ぶりのジュード・エアハート(ka0410)がひらひら手を振って応じる。
「同じ商人としてここは一肌脱ごうじゃない! 女装なら任せてよ」
 そして無い胸をどん、と叩く。女装なら任せて、のセリフの説得力がすごい。
「そうそう、着替える前に、ちょっと相談があるんだけどさ」
 そう切り出したのはユキトラ(ka5846)だ。華神輿行列の際に配る菓子に、おみくじを入れるのはどうか、という案であった。
「おみくじは、知り合いの神社にお願いしてご祈祷してもらったものが、用意できているんですけど……」
 弓月・小太(ka4679)もおずおずと言い添え、小さく折りたたんで結び目を作ってある紙片を差し出した。ジュードは破魔矢を配る、という案を持ってきており、おみくじは破魔矢にも結ぶことにした。
「お清めの塩を入れる、というのも考えたのですが」
 シグ(ka6949)も紙に包んだ塩を見せる。史郎はどれもに頷いて、それらを採用した。
「是非入れましょう。ありがとうございます」
 ゴール地点ではちょっとしたパフォーマンスをすることも話がまとまり、残すは行列を彩る「美女」たちの準備だけとなった。
「よし! じゃ、お着替えといきますか!」
 史郎がにっかり笑って腕まくりをした。



 営業所には、色鮮やかな着物がずらり。史郎が、呉服店の店主から借り受けてきたものらしい。華神輿に合わせて、花柄のものを多く揃えている。自前の衣装がない者はここから選んでもらうのだ。
「わたくしは日常的に簪を用い髪を結わえています。必要とあらば、お手伝い致しましょう」
 空蝉(ka6951)がそう申し出てくれたため、着替えの前にユキトラやシグの髪結いをしておいてもらうことにした。
「お久しぶりだんず、史郎さん。ねっちゃの化粧箱さあっだから、おら自分でやってきたんず。おら美人だんず? めんこいだんず?」
 そう言いながら史郎を見上げてくるのは杢(ka6890)だ。自信満々に輝かせるその顔は白粉で真っ白。塗り絵のように頬紅と口紅が塗りたくられ、その様は美女と言うよりはオバケだ。
「あっははは、こりゃあすげえや! でも、俺がもっとめんこい顔にしてやるからな」
 史郎は化粧を直す前にまずは服を脱がせ、杢が持参した「紅梅兎」の着物を着せてやった。ころん、とした子供体型に白くふっくらした見た目の肌に、紅の梅と兎が跳ねる様子をあしらった着物は良く似合った。着せている途中、いつの間にかジュードが傍に来ていて、杢の白い腹をふにふにと撫でる。
「くくく、くすぐったいだんず~」
「うりうり~」
「はいはい、兄さん遊んでないで」
 史郎が苦笑して着付けを続行し、化粧も上手く除去してやりなおすと、杢はどこから見ても可愛らしい女の子の姿になった。
「めんこいだんず~」
 杢は鏡の前で感動している。史郎は、一丁上がり、と満足げに頷いて、着物を選んでいる面々に声をかけた。
「どうです、着替えられる方、いますか」
 ジュード以外は皆、どんな着物を選んだらよいかイマイチわかりかねるらしく、はかばかしい返事が来なかった。
「身の周りに女の子なんてカーチャンくらいしかいなかったから、詳しくないんだよね化粧も、着物もさ……」
 そう言って眉を下げるのは水流崎トミヲ(ka4852)だ。史郎は頷いて、「兄さんはこの色がいいね、あなたはこの柄」と素早く的確に着物を見立てていった。トミヲには、持参していた桔梗の飾り櫛に合わせて桔梗柄。すらりとした姿の空蝉には縦ラインのすっきり通った百合柄。シグには市松模様に花弁の舞うモダン柄。
「じゃ、お着替えお着替えっと……」
 自分で桃の着物を選んだジュードが、すらりと白い背を見せる。肌の上を流れるように絹の生地が滑ってゆくのに目を細めつつ、史郎はひとりで着付けのできない面々へ向き直った。こちらでもすでに、素肌を見せている者がいる。トミヲだ。しかしこちらは様子がおかしい。
 カケラも躊躇いなく、ス、と潔い脱ぎっぷりを見せたトミヲの、その局部を隠していたのは。

「葉っぱ……」

 誰かの声が、ぽかん、と響いた。肉付きの良いトミヲの肌に、緑の葉っぱが生えている、もとい、映えている。葉っぱで隠す人、本当にいるんだ、とは誰も言わなかったが、どこからともなく聞こえた気がした。
「……や、女性用の下着とかも持ってなくって……その」
 皆の視線を一斉に浴び、トミヲが俯いた。史郎がからからと笑って長襦袢を着せにかかる。
「兄さんは恰幅がいいから豊満な美女になれますよ。よっと、ここちょっと締めるよ。苦しくないですか? うん、背筋伸ばしていれば呼吸苦しくないですから、絶対」
 史郎の手があっという間にトミヲを変身させてゆく。ときおりぎゅっと締め上げられたり、肩をそっと撫でられたりと、トミヲは不思議なドキドキを感じながら、着付けを完了した。
「よし、と。化粧は後でまとめて、な。お次だ」
 と、史郎の視界に、長襦袢姿で佇むディーナが。なんと、男ばかりの着替え場に乱入してきたのだ。
「みんな心は女の子、私は見ても見られても気にしないの、お構いなくなの」
 お構いなく、と言われても気になってしまうのが年頃のオトコノコである。数名の顔がわかりやすく強張った。トミヲは着替えが済んでいてよかった、と胸を撫で下ろす。
「大丈夫なの。葉っぱは見ていないの」
「ばっちり見てるじゃん!?」
 史郎は、まあ長襦袢は着てるんだしいいか、と早々に追い出すことを諦めて、まずはディーナを着付けることにし、着替えを済ませたジュードに声をかけた。
「こっち、お願いしていいですか」
「任せて!」
 ジュードはにっこり承諾した。男性陣の数名をジュードが受け持つことになる。ジュードはまず小太を手伝った。和服は着慣れているが当然と言うべきか女性の格好は不慣れだという。その後、シグの着付けだ。
「ああ、よくお似合いですよ。さすが女の子だ。この中で一番の美女ですね」
 そんなセリフをサラッと吐いて、史郎はディーナに微笑んだ。明るい黄色地に桃色の撫子が舞う柄の友禅は、本日の一級品だ。派手になり過ぎない帯を締め、帯飾りは若々しい大き目のものを選ぶ。
「さあ、終わりましたよ。お次は誰かな」
 次は空蝉だ。史郎には休む間がない。
「これはまた、麗人、と呼ぶにふさわしい方だな」
 史郎は空蝉をほれぼれと見上げ、先ほど選んだ百合柄の着物を着付けていった。
「そういえば、事件があったと聞きました。シノビとは密偵の事でしょうか」
 着付けられつつ、空蝉は微笑んだままそんなことを言った。
「そうそう。忍、ニンジャってやつですね」
「死体の間者は、何処の手合いか割れていますか? 抗争による殺害事件でしょうか」
「よく知らないけど、迷惑な話ですよ。商売の邪魔はしないでほしいね。よし、できた、っと」
 次はユキトラだ。
「よっしゃ、白鬼のユキトラ、華神輿の為に気合入れて別嬪になってやんよー!」
 すでに髪は整えられており、あとは着付けと化粧だ。着ていた衣類を脱ぐと、鍛えられた胸や背中があらわになった。所々に、古傷が見える。
「立派なもんだ。傷は男の勲章、ってね」
 史郎は戯れのようにその傷をいくつか、白い指でなぞり、快活に笑って枝垂桜の着物を着せた。ちょっとした仕草に不意に艶めいたものが混じる様子が、心臓に悪い。
「このまま化粧もしてしまいましょう。顔に触りますよ」
 あとは全員化粧だけ、となり、史郎とジュードが手分けして化粧を施していく。
 史郎はほそっりした白い指でユキトラの瞼にそっと触れた。史郎が触れたところから、顔が色づいてゆく。化粧をされている方ももちろんのこと、化粧を施している史郎の動きも、優美であった。ジュードはさりげなくその指先を見て、確かに綺麗な手だけれど、十五歳の少年にしては随分タコの多い指だ、と思った。
「あ、俺も着替えねえと」
 化粧がほぼ終わったところで史郎が立ち上がり、着替えを始める。薄くてなだらかな肩や、意外にも程よく筋肉のついた腕や腹、それに不思議と色を添える傷跡のなまめかしさに、ついつい目が行く。
「あれ? 兄さんたち結構好きモノかい?」
 史郎に悪戯っぽく微笑まれ、完全に遊ばれていると知るのであった。
 そして蝶の柄の着物に着替えた史郎が、仕上げに、全員の髪に生花を飾る。
「さあ。今日は、あなたたちも華だ」
「これが僕……ヤだかわいい……よく見ると肌もきれい……おっぱいもあるし……」
 トミヲが鏡を見て感動した。しかし、じと、と史郎に視線を移す。
「でもさ、なんでそんなに化粧上手なの? 君、男だろ?」
「商売のためならね、何でもするんですよ、兄さん」
 史郎はからりと笑って見せた。
「東方美人……東方美人……むふー。あ、みんなでも写真撮りましょうなの東方美人大集合なの、むふー」
 ディーナがご満悦で、魔導カメラで写真を撮ってもらっている。
「おーい、史郎、準備はどうだ……って」
 そこへ、行列の前に立ち寄ったらしいスーさんがやってきた。中の様子を見て絶句する。美女が揃っている。しかし、床に脱いである衣服は男性のものだ。
「あ、史郎くん、ハンドクリーム塗ってあげる」
「え? ありがとうございますジュード兄さん」
「ジュードでいいよー」
 きゃっきゃするふたりの美女は実は少年。
「……性別が倒錯しすぎててわけわかんねえ……」
 そう呟いたスーさんは、めでたく全員の記念撮影のためのシャッター係りになった。



 全員の、身支度が整った。九人の美女が大きな華神輿の周囲に並ぶと、それだけで目を引く。屈強な担ぎ手が華神輿を持ち上げると、中に仕込んであった鈴が、しゃんしゃん、と鳴った。
「出立いたしまするー!」
 史郎が完璧な声色で号令をかけ、鈴に合わせて、九人がしゃなりしゃなりと歩きはじめる。
「わああああ!」
「キレイねぇ!」
 あちこちから、そんな歓声が上がった。
「いいねえ、天ノ都は。こういう華やかなことができるようになって」
「恵土城の方はいけないらしいねえ」
 そんな声も、漏れ聞こえた。
「き、着物はいつもの衣装と違いますし少し慣れないですねぇ」
 小太が恥ずかしそうに俯いているが、その恥じらう様子がまた美女らしさを増幅させている。鮮やかな紅梅の着物は小柄な体に良く似合い、頬と口紅も着物の色を移したように紅く艶めく。
「とても綺麗です!!」
 憧れのまなざしを送ってくる沿道の少女におみくじ入りのお菓子を渡しながら、小太はか細い声で礼を言った。
「うぅ、女性に見られて喜んでいいのやら悲しんでいいのやら複雑な気分なのですぅ……」
 少女が立ち去ってから、そっとそんなことを呟く。
 行列の後方では、空蝉がしなやかに舞い、注目を集めていた。穏やかで優しい笑顔は天女のよう。扇をひらめかせると、ふわりと花の香りがただよい、人々はすっかり呆けて目を奪われていた。
「あなた方に、幸福を」
 そう言って微笑まれれると、もうそれだけで幸福になれた気がする。
「もらってけれー。せばいいことあるだんずよー」
 杢が元気よく菓子を配り、その近くでシグも柔らかに微笑みながら菓子や清めの塩を配っていた。ふと、目線を移すと、興味津々に近付いてくる人々もいる中で、遠慮がちに遠くから眺めている子どもたちの姿が見えた。自分のように家族のいない子かもしれない、と思うとたまらず、シグはその子らにそっと手招きをする。市松模様の袖が、しゃらりと揺れた。おずおずと近寄ってくる子どもたちに自分からも距離を詰めて、シグはゆったり屈みこむと、両手でひとつずつ、子どもたちに菓子と清め包みを渡した。
「はい、どうぞ。これから先の人生の、魔を祓いますように」
「ありがとう、おねえちゃん!」
 子どもたちは実に嬉しそうに菓子を受け取ってくれた。シグの胸が、ホッと温まったような気がした。
 着替えのときは元気の良かったユキトラは、行列ではおとなしく、しかしそれが美女然としていて憧れのまなざしをさらっていた。優雅にしずしずと歩く姿に見惚れる者が多い。ユキトラはしとやかさを演出しつつ、できるだけたくさんの人に微笑みかけた。沿道では貰った菓子の包みを開き、おみくじを読んで笑っている人たちもおり、自分の提案が上手く行ったことがとても喜ばしかった。すぐ隣にも、菓子を広げている様子が目に入り、礼を言おうかと目を上げると。
「ん?」
「あ。見つかっちゃったの」
 それは、我慢できずこっそり菓子をもぐもぐしている、ディーナであった……。



 行列が、ゴール地点に到着した。たくさんの人たちが行列を追いかけてきてくれ、それはもう大盛況であった。
「はい、お花配りますよぉ」
 行列の間中、愛嬌をふりまきまくって握手を求められ続けたトミヲが、すっかり板についた口調で呼びかける。美少女ゲームとネトゲで培ったネカマスキルが活かされた。
「はーい、どうぞー」
 行列中、破魔矢を配りつつ手を振ってアイドルさながらだったジュードが、神輿から花を降ろして配っていく。ジュードの前にも小太の前にもユキトラの前にも、次第に花をもらいたくて並ぶ列ができ、ここでもまた違う意味での行列となった。
 花を持って歩き配っていたのは空蝉だ。と、凛々しい青年の前に行き当たった。
「どうぞお幸せに」
「お、おう……」
 ゆったり微笑む空蝉から花を受け取り、どぎまぎしていたのは、スーさんであった。目ざとくその様子を見ていた史郎がすり寄る。
「わたくしのももらってくださいな、お兄さん」
「え、いや、あの……、っておい史郎」
「あははは」
 史郎はひとしきり笑ってからスッと流し目をつくると、わざとらしくスーさんの耳に口を近づけて囁いた。
「また、遊ぼうね、お兄さん」
「! お前!! 妙な言い方するんじゃ……!」
 スーさんが耳を押さえて叫ぶところからすらりと逃れ、史郎は花を配りに戻った。ひらりと、蝶のように。

 そこへ。
 上空から、華が舞ってきた。
 わあああああ、と歓声が上がる。杢が矢を射て放った仕掛けだ。降ってくる花に、老若男女見惚れ、喜び、笑顔が咲く。花のシャワーを浴びて、すべての人々が輝かしく美しかった。

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MVP一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハートka0410
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲka4852
  • 白狼鬼
    ユキトラka5846

重体一覧

参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 百年目の運命の人
    弓月・小太(ka4679
    人間(紅)|10才|男性|猟撃士
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 白狼鬼
    ユキトラ(ka5846
    鬼|14才|男性|霊闘士
  • いけ!ぷにっ子スナイパー
    杢(ka6890
    ドラグーン|6才|男性|猟撃士
  • まだ見ぬ家族を求めて
    シグ(ka6949
    オートマトン|15才|男性|疾影士
  • 潰えぬ微笑
    空蝉(ka6951
    オートマトン|20才|男性|舞刀士

サポート一覧

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アイコン こんなにかわいい子が女の子字数
水流崎トミヲ(ka4852
人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/11/17 01:31:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/14 22:15:01