ゲスト
(ka0000)
演想─出会いの物語【界冥】
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/16 19:00
- 完成日
- 2017/11/18 18:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「──俺たちは、突然、見知らぬ世界に放り出されたんだ」
思い出すように。視線は、俯き加減。誰に向けるわけでもない独り言のように。
そんなモノローグから、舞台は幕を開けた。
懐かしいという感覚は、すぐに薄れていった。断たれたと思っていた糸が、すっと繋がっていく感覚。短くはない年月の遠くに消えたと思っていた己の影は、手を伸ばしてみれば思っていた以上に今の自分にピタリと寄り添った。
ああ、やっぱり。こうしているのが、俺だ、と。
それでも、かつてと比べれば足りないものだらけで。不安要素を数え上げればきりがないほどだけれども。
こうして、ここに立った以上、今この時は、それを、ここには持ち込まない。
「忘れようとしてもできない鮮烈な記憶だ。その日、その瞬間まではいつも通りだった。次の舞台の稽古の帰り、暗くなり始めた街角を歩いていたところで、絶っていられないほどの眩暈に襲われて、俺は膝をついた」
言葉とともに、身体が崩れ落ちる。倒れ込むようにひざと両手を地について、ゆっくりと顔を上げていくと同時に表情が驚愕へと変わっていく。
「……そうして顔を上げたら、街並みが消えて、草木がまばらに生えるだけの荒野がそこに広がっていた──」
立ち上がる。呆けた様子で、力なく、二、三歩前へと進む。
……と。そこで、不意に動きが機敏になった。くるりと身体を反転させながら立ち位置と向きを変える。しゃんと背筋を伸ばして立ち、表情も明るいものへと一瞬で変わった。その急激な変化が客へと印象付ける。『役が変わった』のだと。
「一つ目の出会いの物語だ! 『彼』こそが、『俺』がはじめてであったクリムゾンウェストの住民。彼は、彼の方からしたら変わった服装だろう、そして明らかに挙動不審な俺に、戸惑うでも無く話しかけてきた──そう、
『おひけえなすって! 手前どもはズヴォー族の戦士が一人、チィ=ズヴォーと申しやす。そちらのご様子、お前様は異界より来られし転移者殿とお見受けいたしやした! なれば手前ども、仁義と古き約束に従いお迎えにと馳せ参じたわけでさぁ!』」
高らかに。朗らかな声で、大きな身振りでそう言って、動きを止める。そのまま、十分に間を取って……また、位置を変える。彼が、『俺』として立っていた、元の位置へ。
そうして、困り切った表情で、客席の方を向いて。
「なんだこれ……」
笑いが起きた。
「『おっと、みなまで言わねえで下せえ分かってまさあ。お前様は今、突如見知らぬ場所に放り出された状態だ、さぞ戸惑っておられましょう!』
『まあなんか、そんな戸惑いもあったが、今はちょっと違うかな……』
『なんと! もう状況を受け入れつつある!? 流石転移者殿はご立派であられまさあ!』
『うん。何でか言葉は通じてるみたいだけど、話は通じるのかこれ!』」
くるくると、目まぐるしく声音と表情、立ち位置を変えながら一人会話劇が繰り広げられる。
そんな風に、モノローグと小芝居を交えながら、物語は演じられた。当てもないのでついていった先に居たのは、遊牧民の生活を送る部族。彼らは口調こそ奇妙に感じたが、基本的には素朴で善良な人たちであったこと。暫く世話になって……かつての生活に比べての不便さはあったがそれ以上に、やはりここにはなじめないと思ったこと。
「いつまでもこれを夢と思い込み続けることも出来なくて、俺は帰る方法を知りたいと申し出た。受け入れてくれた時と同様に、彼らは離れたいという願いもあっさりと聞き入れてくれた。……彼らは教えてくれた。リゼリオに行け、と。帰還方法は分からないが、同じ立場の者がそこにいると。それを聞いて、出立の準備を整えてもらった、矢先に……」
この世界の、敵と出会った。それは雑魔と呼ばれる存在ではあったが。
族長の号令。戦士の咆哮。緊迫した状況が演技で伝えられる。
「ここは異世界だった。俺がいたのとは違う世界。当たり前のように対応していく戦士たちを見て、俺はやっと理解した。……つもりだった」
振り返る。
「振り向くと、世話になった人たちがいた。怯える少女を覆い隠すように老婆が抱きしめていた。泣き叫ぶ赤子を、少年が、彼も恐怖に声を震わせながらあやしていた。当たり前のように恐怖して、当たり前のように支え合う姿がそこにあった。……俺たちが、苦難に対し、そうするように」
……モノローグが、ここで止まる。一度照明が落とされて、また、灯る。
照らされた役者は、舞台中央で、真っ直ぐ観客に向き合う位置に立っていた。
「色々な想いの末に、俺は、向こうの世界で、武器を手に取り、戦う生き方を選んだ。そんな俺は今、貴方たちにどう見えているんだろうか」
彼はすらりと刀を抜く。観客席のどこからか聞こえてくる。畏敬の溜息。身を竦める小さな音。喉の奥で潰された悲鳴。
「俺は気がついたら突然、違う場所にいた。でもそれなら。俺たちが今帰ってきたこの場所は、どうなんだろう。ここもまた、VOIDの恐怖に晒され、そして、──俺たちが、居る」
もと居た場所が、信じられる場所ではなくなっている。それは、突然見覚えのない場所にいる、などという事よりもよほど──。
「──俺たちは、突然、見知らぬ世界に放り出されたんだ」
暴投と同じセリフを、告げる。今度は、己の内面へ向けて言うように俯いてではなく、はっきりと観客席へと向けて。
「だから俺は、この物語を伝えようと思った。俺たちが飛ばされた世界で、俺たちが何と出会い、感じて、立ち向かっていったのかを。
そして、どうか。
──貴方たちに。出会ってほしい。覚醒者(俺たち)と」
思い出すように。視線は、俯き加減。誰に向けるわけでもない独り言のように。
そんなモノローグから、舞台は幕を開けた。
懐かしいという感覚は、すぐに薄れていった。断たれたと思っていた糸が、すっと繋がっていく感覚。短くはない年月の遠くに消えたと思っていた己の影は、手を伸ばしてみれば思っていた以上に今の自分にピタリと寄り添った。
ああ、やっぱり。こうしているのが、俺だ、と。
それでも、かつてと比べれば足りないものだらけで。不安要素を数え上げればきりがないほどだけれども。
こうして、ここに立った以上、今この時は、それを、ここには持ち込まない。
「忘れようとしてもできない鮮烈な記憶だ。その日、その瞬間まではいつも通りだった。次の舞台の稽古の帰り、暗くなり始めた街角を歩いていたところで、絶っていられないほどの眩暈に襲われて、俺は膝をついた」
言葉とともに、身体が崩れ落ちる。倒れ込むようにひざと両手を地について、ゆっくりと顔を上げていくと同時に表情が驚愕へと変わっていく。
「……そうして顔を上げたら、街並みが消えて、草木がまばらに生えるだけの荒野がそこに広がっていた──」
立ち上がる。呆けた様子で、力なく、二、三歩前へと進む。
……と。そこで、不意に動きが機敏になった。くるりと身体を反転させながら立ち位置と向きを変える。しゃんと背筋を伸ばして立ち、表情も明るいものへと一瞬で変わった。その急激な変化が客へと印象付ける。『役が変わった』のだと。
「一つ目の出会いの物語だ! 『彼』こそが、『俺』がはじめてであったクリムゾンウェストの住民。彼は、彼の方からしたら変わった服装だろう、そして明らかに挙動不審な俺に、戸惑うでも無く話しかけてきた──そう、
『おひけえなすって! 手前どもはズヴォー族の戦士が一人、チィ=ズヴォーと申しやす。そちらのご様子、お前様は異界より来られし転移者殿とお見受けいたしやした! なれば手前ども、仁義と古き約束に従いお迎えにと馳せ参じたわけでさぁ!』」
高らかに。朗らかな声で、大きな身振りでそう言って、動きを止める。そのまま、十分に間を取って……また、位置を変える。彼が、『俺』として立っていた、元の位置へ。
そうして、困り切った表情で、客席の方を向いて。
「なんだこれ……」
笑いが起きた。
「『おっと、みなまで言わねえで下せえ分かってまさあ。お前様は今、突如見知らぬ場所に放り出された状態だ、さぞ戸惑っておられましょう!』
『まあなんか、そんな戸惑いもあったが、今はちょっと違うかな……』
『なんと! もう状況を受け入れつつある!? 流石転移者殿はご立派であられまさあ!』
『うん。何でか言葉は通じてるみたいだけど、話は通じるのかこれ!』」
くるくると、目まぐるしく声音と表情、立ち位置を変えながら一人会話劇が繰り広げられる。
そんな風に、モノローグと小芝居を交えながら、物語は演じられた。当てもないのでついていった先に居たのは、遊牧民の生活を送る部族。彼らは口調こそ奇妙に感じたが、基本的には素朴で善良な人たちであったこと。暫く世話になって……かつての生活に比べての不便さはあったがそれ以上に、やはりここにはなじめないと思ったこと。
「いつまでもこれを夢と思い込み続けることも出来なくて、俺は帰る方法を知りたいと申し出た。受け入れてくれた時と同様に、彼らは離れたいという願いもあっさりと聞き入れてくれた。……彼らは教えてくれた。リゼリオに行け、と。帰還方法は分からないが、同じ立場の者がそこにいると。それを聞いて、出立の準備を整えてもらった、矢先に……」
この世界の、敵と出会った。それは雑魔と呼ばれる存在ではあったが。
族長の号令。戦士の咆哮。緊迫した状況が演技で伝えられる。
「ここは異世界だった。俺がいたのとは違う世界。当たり前のように対応していく戦士たちを見て、俺はやっと理解した。……つもりだった」
振り返る。
「振り向くと、世話になった人たちがいた。怯える少女を覆い隠すように老婆が抱きしめていた。泣き叫ぶ赤子を、少年が、彼も恐怖に声を震わせながらあやしていた。当たり前のように恐怖して、当たり前のように支え合う姿がそこにあった。……俺たちが、苦難に対し、そうするように」
……モノローグが、ここで止まる。一度照明が落とされて、また、灯る。
照らされた役者は、舞台中央で、真っ直ぐ観客に向き合う位置に立っていた。
「色々な想いの末に、俺は、向こうの世界で、武器を手に取り、戦う生き方を選んだ。そんな俺は今、貴方たちにどう見えているんだろうか」
彼はすらりと刀を抜く。観客席のどこからか聞こえてくる。畏敬の溜息。身を竦める小さな音。喉の奥で潰された悲鳴。
「俺は気がついたら突然、違う場所にいた。でもそれなら。俺たちが今帰ってきたこの場所は、どうなんだろう。ここもまた、VOIDの恐怖に晒され、そして、──俺たちが、居る」
もと居た場所が、信じられる場所ではなくなっている。それは、突然見覚えのない場所にいる、などという事よりもよほど──。
「──俺たちは、突然、見知らぬ世界に放り出されたんだ」
暴投と同じセリフを、告げる。今度は、己の内面へ向けて言うように俯いてではなく、はっきりと観客席へと向けて。
「だから俺は、この物語を伝えようと思った。俺たちが飛ばされた世界で、俺たちが何と出会い、感じて、立ち向かっていったのかを。
そして、どうか。
──貴方たちに。出会ってほしい。覚醒者(俺たち)と」
リプレイ本文
舞台のの照明が落ちる。次にスポットライトが照らすのは、中央やや左寄りに立つ鞍馬 真(ka5819)。
「私もいきなり知らない世界に放り出された」
静かな声で、彼は語り始める。
「他の転移者と少しだけ違ったことは、リアルブルーそのもののことは覚えていても、自分の過去のことはすっかり忘れていた、ということだ」
次なる出会いの物語は──
「彼の名は鞍馬 真。転移後、運よく近くの町で拾われ暮らしていた彼は、偶然にも通りすがりのハンターと共にソサエティを訪れる機会があり、そこで自分が覚醒者でありハンターになる資格があることを知った。──彼の物語は、『ハンター』、その生き方との、出会いだ」
真の後ろを通りながら、透が語る。
依頼で劇の真似事をしたこともあるという真の声は、はっきりして聞き取りやすいものだった。だが、本職を経験し、自分の演技という物を持っている透と比べれば淡々と聞こえる。……それは逆に、演技が滲み出ている透の挙動に比べ、真の言葉は素朴に響く、とも感じられた。故に、退屈気味のモノローグを透が、そして伝えるべき言葉は真が担当する。
「記憶を失って目的も無く生きていた私は、ハンターを生きるための目的にしようと思った。それ以降──」
回り込んだ透が真と向かい合うと、真が剣を抜き、透が刀を抜く。幾度か斬り合いの真似をする。殺陣と言うほど激しいものではなく、どちらかと言えば剣道の型に近い、鋭さはあっても速さは抑えたものだ。それでも、透が派手に斬られてみせることで、それなりの見栄えにはなる。
切り伏せ、透が倒れ、再び透が立ち上がり切り結び──そして今度は、真の首筋に刀がピタリと突き付けられる。
「──何度か死にかけつつ依頼をひたすらこなす日々だ。いつの間にか立派なワーカーホリックになってしまった……」
淡々と、真は語った。首元ギリギリまで刃を突き付けられたその状態で、淡々と、薄く笑みすら浮かべて。
突き付けられた刃先を、真が指先で軽く押し下げる。すっと透が刀を引くと、真は正面を向いて一歩前へと出た。
「皆さんの中には、私たちハンターを、地球を、世界を救う英雄のように思っている人もいるかもしれない。とんでもない。私は流されるままハンターになって、自分にできることを必死にやっているだけで、志も目標も持ち合わせていない」
一心に訴えながら、真は舞台の明かりでわずかに浮かび上がる観客席を見回していた。
「私は、偶然才能があったというだけの、ただのヒトだ。英雄扱いなんて落ち着かなくて、居心地が悪いな」
そこまで告げて、彼は一歩引いた。
「……これが、ハンターと。力と出会った、彼の物語」
締めの台詞を透が告げると、真が一礼し、舞台の照明がゆっくり落ちていく。舞台から客席上の顔も、良く見えなくなる。
……ここに立つことで。かつての自分を知っている人を見つけられるかもしれない。
自ら立つことを決めた真にはそんな想いがあった。まだ、会って話すだけの勇気は持てないかも知れないけど。
●
舞台上に再び明かりが灯った時、透は三人掛けのソファの、その左端に座っていた。そして。
「こんにちはぁ、私は星野 ハナ(ka5852)ですぅ」
ソファの裏側から、ハナがひょい、と顔を出し、明るい声で客席に呼びかける。そして、元気な動作でソファの右端に腰掛けた。
「やあ。よろしく星野さん。君はどういう経緯でかの世界に?」
「LH044からの避難民でぇ、サルバトーレ・ロッソと一緒にクリムゾンウェストに転移しちゃいましたぁ。大学卒業して普通に社会人始めたところだったんですけどぉ、転移したら何故かこんな力を身につけましてぇ、今では符術師で食べてますぅ」
そう言って彼女は符を取り出す。と、次の瞬間、パンッと鋭い音を立ててその符が爆ぜた。客席にどよめきが走る。
この後彼女は最初、LH044避難民で知り合いを探している者に呼びかけることを提案したが、臨時の企画であり、問い合わせが殺到した場合ボランティアスタッフや市職員では対応できないという理由によりそこは脚本から削除を要請された。
「力を得て、それでも、ハンターになることに迷いは無かった?」
「避難民として誰かの成果を待つだけなんて息が詰まるじゃないですかぁ。だから私はあの世界で冒険を始めましたぁ。命短し恋せよ乙女ですぅ。今の所振られ記録を更新中ですけどぉ」
テンポの良い会話が続く。そして、ハナはここで、ずい、とソファの中央に手をつく形で身を乗り出した。
「というわけでぇ、イケメンな伊佐美さん、私とお付き合いしませんかぁ」
「えっ俺?」
「……うわ。すっごい困った声出ましたね」
客席の何カ所から、抑えた笑い声が上がった。
実のところ、この舞台上告白については事前打ち合わせ済みである。ただし、
「伊佐美さん~、私は惚れっぽいのでぇ、ばっちり振ってもいいですよぅ? 勿論そのまま受けていただいても構いませんがぁ」
とだけ直前に言われ、返事について彼女は確認していない。
つまり──ここからはアドリブである。
「いや。いやいや。だって俺らこないだ初めて会ったばっかりだよな」
「だ・か・ら、命短し恋せよ乙女ですぅ。チャンスがあれば待ったなし! ですぅ」
「いや待とう。少しは待とう。そんなにすぐに返事できることじゃないだろう。もうちょっと考える時間とか」
「あーこの流れ知ってますぅ。保留とか言ってそのまま連絡無くなるやつですぅ。振られ記録舐めるなですぅ」
「いや、今俺やりたいことがあるし、そういう余裕があるかどうかも含めて」
「そうですよねぇ。皆さん見てくださいよぉ、イケメンってこうやって後腐れなく振ろうとするんですぅ」
ここで客席に向き直って訴えるハナ。
「待って! この流れ何!? 俺酷い男みたいになってないか!?」
慌てて透も客席に視線を向けた。
「じゃあ、今ちゃんとお返事くださいぃ」
「いや、だから! ……。……まあ、ごめんなさい」
「……。その、すっごくふっと我に返った感じ……中々突き刺さりますぅ……」
「……ごめんってば」
もう、このあたりで客席は大爆笑だった。
「たはー。お付き合いして下さるイケメンさん大募集ですぅ! この世界の普通人、星野ハナの報告でしたぁ」
最後に、普通人を強調して、ハナが敬礼して引っ込んでいく。
「私は天邪鬼なのでぇ、隣人じゃねぇよ当人だよっ! って思っちゃいましてぇ」
舞台に上がる前、彼女はこう意気込みを伝えた。そして実際、彼女が振ったネタと言うのは、多くの人──つまり、『普通の人たち』──が、食いつきやすい物ではある。即ち、恋愛沙汰と、笑える程度の不幸。ハンターへの理解はともかく、身近に感じさせるという点では最も効果的だった。
観客を長時間拘束することになる舞台において、こうした『緩み』は重要だという意味もある。彼女の捨て身の演出は、観客の目をより彼らへと近づけるのに大いに貢献した。
●
次に舞台上に照らし出されたのは大伴 鈴太郎(ka6016)。先ほどのソファの真ん中に一人、ぬいぐるみを抱えて座っていた。
「オレ、転移したての頃はあんま深刻に考えてなかったンだ」
ポツリと彼女は語り始める。
「刺激のない毎日に飽きてたつーか、旅行気分でそのうち帰れンだろってな。幸い住むトコもすぐ見っかったしよ」
そう言って彼女は、ぬいぐるみを置いて立ち上がる。
「彼女は、大伴 鈴。ハンターになったのは生活費を稼ぐためだった。初仕事は、亜人退治」
モノローグと共に、狼面を被った透が登場する。立ち上がった鈴に狼面が襲い掛かり、鈴がそれを迎撃する。何度か打ち込みあった後、鈴が狼面の腕を取り、ねじり上げる。狼面は後ろ手に腕をねじり上げられた状態で、客席に向いた状態で膝を着いた。
「初めのうちは、化けモンを軽くシメりゃ金が貰えるなんて楽な世界だと思った。でも……すぐ甘さを実感した」
パッと鈴が手を放す。再び組手が演じられた後、鈴の拳が狼面の腹へと打ち込まれ──そして、狼面は身体をくの字に折り曲げて痙攣すると、どさりと倒れる。
「……いつもみたく振るった拳が簡単に命を奪うコトになってさ……」
客席から、息を飲む気配がした。敵の命を奪ってきたという、これもまた、ハンターの真実の姿。
「手にした力や自分を取り巻く世界を初めておっかねぇて感じたンだ」
スポットライトが、再び彼女のみを照らす。俯いた様子で、彼女ソファの端には一人膝を抱えて座る。
「それからは彼女は『早く帰りたい、両親に会いたい』とばかり考えるようになった。曰く、ヤンキーなんてものは寂しがりな癖に見栄っ張りなもので──彼女は、誰にも弱音を吐けず、パンク寸前だった」
よろよろと、鈴はソファから立ち上がる。力なく、舞台上を数歩歩き。
「そんな時、彼女が出会ったのが」
パッと彼女の目の前が照らされる。粗末な台の上にいくつか置かれた品物。その中に、彼女が最初に抱いていたぬいぐるみがあった。彼女はそれを愛おしそうに抱き上げる。
「──この、くまごろーだったンだ」
「それは、他の転移者が持って行ったものだろう、こちらでは珍しくもない……彼女が子供の時に買ってもらったのと同じぬいぐるみ」
「笑われっかもだけど、自分の部屋でコイツに話しかけるひと時にオレは救われたンだ」
彼女は再びソファに、ぬいぐるみと向かい合って座る。
「あ! コラ、ジッとしてなきゃダメだって! あン時はまだ動けなかったろ!?」
そして、我慢しきれないようにもぞもぞと動き始めたぬいぐるみに、客席からどよめきが上がった。
「それからもコイツとは色々あったんだ。手違いで春郷祭の蚤市で売られちまったり、ソサエティからの褒美でこんな風に動けるようになったり」
そこまで話すと、鈴はくまごろーを抑えていた手を解放する。愛らしいぬいぐるみは、彼女に懐くようにちょこまかと彼女の身体を這い上る。
「──ダチや仲間ができた今でもコイツは大切な家族で心の支えの一人なンだ」
「舞台に復帰すンだなトール! 復興の役に立てンなら協力させてくれよ!」
この話を持ち掛けたとき、彼女はそう意気込んで協力を申し出てくれた。
……実際には、復帰とは言い難い。依頼が無ければこちらに来られない、来られても居られる期間が限られるという現状は、こちらでの本格的な活動を再開するには厳しすぎる。まず、まともに他者と稽古時間が取れない。それでも、戻ってこれたときのために復帰への足掛かりを模索し始めた、その第一歩に、彼女がそう言ってくれたことを、有難く思う。
彼女自身は不慣れな舞台、それを、拙いながらも彼女は彼女の大切な存在と共に、精いっぱい演じきったのだった。
●
「さて。では最後にもう一人。代役ですがご紹介させていただきましょう」
暗転した舞台に再び現れたのは透一人。だが、眼鏡を掛けて淡い外套を羽織った姿は、彼とは違う存在なのだと理解させる。
「彼の名は初月 賢四郎(ka1046)。軍に属しサルバトーレ・ロッソと共に転移した彼は、戻る方法を探すためにハンターとなり、伝手作りのために様々な依頼、作戦に参加した」
ゆっくりと語りながら舞台袖から中央へと歩き、そして機敏な動作で客席へ向き直る。
「『ゴブリンの襲撃から村を守る方法、ですか。戦闘は得手ではありませんが、補給や防衛に関しては一家言ありますよ。お任せ下さい』」
安心させるような、優しく、自信に満ちた声と笑顔。大らかに腕を開いたところで、暗転。
「『依頼内容は山賊の捕縛だ。こちらに必要な情報をいち早く提供してくれた一名に限り、有利な取り扱いを約束しよう。……。わかった、なら他の者に聞こう』」
冷酷な声。手にしていた拳銃が足元へと向けられる。銃声。暗転。
「『遅滞戦術ですか。塹壕でも掘るしかないですかね。……分からない? では勉強会をします。──半日。この期間で、貴方たちにリアルブルーの近代的塹壕とその重要性について説明します。ついてきてください』」
大勢を目の前にするかのようにゆっくりと視線を巡らせ、堂々と語る。暗転。
──
やや早回しで演じられる『自分』を、賢四郎本人は客席から眺めていた。語り聞かせた経歴を、彼の理解で演じて欲しいと注文したが、聞かせた以上に彼は掘り下げてきたらしい。それは驚くべきことでもないのかもしれない。役者が、演じる役について出来る限り調べ上げてくるというのは。だから注目すべきは。
(ハンターを、自分というものを見せるために、この場面と、台詞を選んできた……か)
実に興味深い。
他者に自分を演じさせたのは、彼にとって思考実験でもあった。自分が他人からどう見えるのか。
──
「彼は幾つもの依頼をこなし、人脈と信頼を築き上げてきた。戻るために出来る限りのことをしつつそれは、最悪、異世界に溶け込む方策の模索でもあった。──彼はこう語る」
ここまで堂々と立ち振る舞ってきた彼がここでふいに、崩れ落ちるように椅子に座り込み、俯いて軽く首を振る。
「『何だかんだやりましたが、結局は自分が戻りたかっただけ。だが戻れると解って逆にどうするか見えなくなる……そんな程度のモンですよ』」
俯いた顔を上げ、少し情けない笑みを観客に見せる。観客。舞台。透は、ここに居る自分の想いを賢四郎に重ねて、それを彼を演じる上での理解とした。……願いに向けて、手を打った。だが、本当にこれでいいのかという迷いは付きまとう。
「戻る方法を模索するほど、帰れない可能性も視野に入れざるを得なくなる。戻れる光明が見えては、故郷の動向に不安を感じる。移転の果てに彼が出会ったのは──矛盾の塊である己だった。それでも。それでも彼は今なお、この状況に対応すべく考え続けている」
立ち上がる。また最初の時のように堂々と。ふわり、外套が翻った。
「『自分は「終わるまでは終わらない」と信じて続けますよ。最終的に自分が間違いだったと認めても、それを残せば後に続く者がいつかは辿り着く』」
それは、こないだの食事会の時に言えなかった賢四郎の解だと彼は透に告げた。自分自身が噛み締めるように、透は大事に、この言葉を紡ぐ。
「『……これは自分の解です。だが、人は一人で生きられるものではありません。他者からの評価が自身に影響を与えていく……それを、覚えていて下さい』」
舞台の締めくくりとして、はっきりと観客に告げて語ると、静かに一礼。
これで、すべての演目が終了し、幕が降りた。
●
まっすぐに語られた、それぞれの想い。ハンターの極一部でしかない彼らの言葉が、どれほど影響するかは未知数だ。だが。
カーテンコール。改めて今日の舞台を飾った役者が舞台上に出そろい、観客に向かって一礼する。
彼らに捧げられた拍手は、決して小さなものではなく、温かさに満ちていた。
「私もいきなり知らない世界に放り出された」
静かな声で、彼は語り始める。
「他の転移者と少しだけ違ったことは、リアルブルーそのもののことは覚えていても、自分の過去のことはすっかり忘れていた、ということだ」
次なる出会いの物語は──
「彼の名は鞍馬 真。転移後、運よく近くの町で拾われ暮らしていた彼は、偶然にも通りすがりのハンターと共にソサエティを訪れる機会があり、そこで自分が覚醒者でありハンターになる資格があることを知った。──彼の物語は、『ハンター』、その生き方との、出会いだ」
真の後ろを通りながら、透が語る。
依頼で劇の真似事をしたこともあるという真の声は、はっきりして聞き取りやすいものだった。だが、本職を経験し、自分の演技という物を持っている透と比べれば淡々と聞こえる。……それは逆に、演技が滲み出ている透の挙動に比べ、真の言葉は素朴に響く、とも感じられた。故に、退屈気味のモノローグを透が、そして伝えるべき言葉は真が担当する。
「記憶を失って目的も無く生きていた私は、ハンターを生きるための目的にしようと思った。それ以降──」
回り込んだ透が真と向かい合うと、真が剣を抜き、透が刀を抜く。幾度か斬り合いの真似をする。殺陣と言うほど激しいものではなく、どちらかと言えば剣道の型に近い、鋭さはあっても速さは抑えたものだ。それでも、透が派手に斬られてみせることで、それなりの見栄えにはなる。
切り伏せ、透が倒れ、再び透が立ち上がり切り結び──そして今度は、真の首筋に刀がピタリと突き付けられる。
「──何度か死にかけつつ依頼をひたすらこなす日々だ。いつの間にか立派なワーカーホリックになってしまった……」
淡々と、真は語った。首元ギリギリまで刃を突き付けられたその状態で、淡々と、薄く笑みすら浮かべて。
突き付けられた刃先を、真が指先で軽く押し下げる。すっと透が刀を引くと、真は正面を向いて一歩前へと出た。
「皆さんの中には、私たちハンターを、地球を、世界を救う英雄のように思っている人もいるかもしれない。とんでもない。私は流されるままハンターになって、自分にできることを必死にやっているだけで、志も目標も持ち合わせていない」
一心に訴えながら、真は舞台の明かりでわずかに浮かび上がる観客席を見回していた。
「私は、偶然才能があったというだけの、ただのヒトだ。英雄扱いなんて落ち着かなくて、居心地が悪いな」
そこまで告げて、彼は一歩引いた。
「……これが、ハンターと。力と出会った、彼の物語」
締めの台詞を透が告げると、真が一礼し、舞台の照明がゆっくり落ちていく。舞台から客席上の顔も、良く見えなくなる。
……ここに立つことで。かつての自分を知っている人を見つけられるかもしれない。
自ら立つことを決めた真にはそんな想いがあった。まだ、会って話すだけの勇気は持てないかも知れないけど。
●
舞台上に再び明かりが灯った時、透は三人掛けのソファの、その左端に座っていた。そして。
「こんにちはぁ、私は星野 ハナ(ka5852)ですぅ」
ソファの裏側から、ハナがひょい、と顔を出し、明るい声で客席に呼びかける。そして、元気な動作でソファの右端に腰掛けた。
「やあ。よろしく星野さん。君はどういう経緯でかの世界に?」
「LH044からの避難民でぇ、サルバトーレ・ロッソと一緒にクリムゾンウェストに転移しちゃいましたぁ。大学卒業して普通に社会人始めたところだったんですけどぉ、転移したら何故かこんな力を身につけましてぇ、今では符術師で食べてますぅ」
そう言って彼女は符を取り出す。と、次の瞬間、パンッと鋭い音を立ててその符が爆ぜた。客席にどよめきが走る。
この後彼女は最初、LH044避難民で知り合いを探している者に呼びかけることを提案したが、臨時の企画であり、問い合わせが殺到した場合ボランティアスタッフや市職員では対応できないという理由によりそこは脚本から削除を要請された。
「力を得て、それでも、ハンターになることに迷いは無かった?」
「避難民として誰かの成果を待つだけなんて息が詰まるじゃないですかぁ。だから私はあの世界で冒険を始めましたぁ。命短し恋せよ乙女ですぅ。今の所振られ記録を更新中ですけどぉ」
テンポの良い会話が続く。そして、ハナはここで、ずい、とソファの中央に手をつく形で身を乗り出した。
「というわけでぇ、イケメンな伊佐美さん、私とお付き合いしませんかぁ」
「えっ俺?」
「……うわ。すっごい困った声出ましたね」
客席の何カ所から、抑えた笑い声が上がった。
実のところ、この舞台上告白については事前打ち合わせ済みである。ただし、
「伊佐美さん~、私は惚れっぽいのでぇ、ばっちり振ってもいいですよぅ? 勿論そのまま受けていただいても構いませんがぁ」
とだけ直前に言われ、返事について彼女は確認していない。
つまり──ここからはアドリブである。
「いや。いやいや。だって俺らこないだ初めて会ったばっかりだよな」
「だ・か・ら、命短し恋せよ乙女ですぅ。チャンスがあれば待ったなし! ですぅ」
「いや待とう。少しは待とう。そんなにすぐに返事できることじゃないだろう。もうちょっと考える時間とか」
「あーこの流れ知ってますぅ。保留とか言ってそのまま連絡無くなるやつですぅ。振られ記録舐めるなですぅ」
「いや、今俺やりたいことがあるし、そういう余裕があるかどうかも含めて」
「そうですよねぇ。皆さん見てくださいよぉ、イケメンってこうやって後腐れなく振ろうとするんですぅ」
ここで客席に向き直って訴えるハナ。
「待って! この流れ何!? 俺酷い男みたいになってないか!?」
慌てて透も客席に視線を向けた。
「じゃあ、今ちゃんとお返事くださいぃ」
「いや、だから! ……。……まあ、ごめんなさい」
「……。その、すっごくふっと我に返った感じ……中々突き刺さりますぅ……」
「……ごめんってば」
もう、このあたりで客席は大爆笑だった。
「たはー。お付き合いして下さるイケメンさん大募集ですぅ! この世界の普通人、星野ハナの報告でしたぁ」
最後に、普通人を強調して、ハナが敬礼して引っ込んでいく。
「私は天邪鬼なのでぇ、隣人じゃねぇよ当人だよっ! って思っちゃいましてぇ」
舞台に上がる前、彼女はこう意気込みを伝えた。そして実際、彼女が振ったネタと言うのは、多くの人──つまり、『普通の人たち』──が、食いつきやすい物ではある。即ち、恋愛沙汰と、笑える程度の不幸。ハンターへの理解はともかく、身近に感じさせるという点では最も効果的だった。
観客を長時間拘束することになる舞台において、こうした『緩み』は重要だという意味もある。彼女の捨て身の演出は、観客の目をより彼らへと近づけるのに大いに貢献した。
●
次に舞台上に照らし出されたのは大伴 鈴太郎(ka6016)。先ほどのソファの真ん中に一人、ぬいぐるみを抱えて座っていた。
「オレ、転移したての頃はあんま深刻に考えてなかったンだ」
ポツリと彼女は語り始める。
「刺激のない毎日に飽きてたつーか、旅行気分でそのうち帰れンだろってな。幸い住むトコもすぐ見っかったしよ」
そう言って彼女は、ぬいぐるみを置いて立ち上がる。
「彼女は、大伴 鈴。ハンターになったのは生活費を稼ぐためだった。初仕事は、亜人退治」
モノローグと共に、狼面を被った透が登場する。立ち上がった鈴に狼面が襲い掛かり、鈴がそれを迎撃する。何度か打ち込みあった後、鈴が狼面の腕を取り、ねじり上げる。狼面は後ろ手に腕をねじり上げられた状態で、客席に向いた状態で膝を着いた。
「初めのうちは、化けモンを軽くシメりゃ金が貰えるなんて楽な世界だと思った。でも……すぐ甘さを実感した」
パッと鈴が手を放す。再び組手が演じられた後、鈴の拳が狼面の腹へと打ち込まれ──そして、狼面は身体をくの字に折り曲げて痙攣すると、どさりと倒れる。
「……いつもみたく振るった拳が簡単に命を奪うコトになってさ……」
客席から、息を飲む気配がした。敵の命を奪ってきたという、これもまた、ハンターの真実の姿。
「手にした力や自分を取り巻く世界を初めておっかねぇて感じたンだ」
スポットライトが、再び彼女のみを照らす。俯いた様子で、彼女ソファの端には一人膝を抱えて座る。
「それからは彼女は『早く帰りたい、両親に会いたい』とばかり考えるようになった。曰く、ヤンキーなんてものは寂しがりな癖に見栄っ張りなもので──彼女は、誰にも弱音を吐けず、パンク寸前だった」
よろよろと、鈴はソファから立ち上がる。力なく、舞台上を数歩歩き。
「そんな時、彼女が出会ったのが」
パッと彼女の目の前が照らされる。粗末な台の上にいくつか置かれた品物。その中に、彼女が最初に抱いていたぬいぐるみがあった。彼女はそれを愛おしそうに抱き上げる。
「──この、くまごろーだったンだ」
「それは、他の転移者が持って行ったものだろう、こちらでは珍しくもない……彼女が子供の時に買ってもらったのと同じぬいぐるみ」
「笑われっかもだけど、自分の部屋でコイツに話しかけるひと時にオレは救われたンだ」
彼女は再びソファに、ぬいぐるみと向かい合って座る。
「あ! コラ、ジッとしてなきゃダメだって! あン時はまだ動けなかったろ!?」
そして、我慢しきれないようにもぞもぞと動き始めたぬいぐるみに、客席からどよめきが上がった。
「それからもコイツとは色々あったんだ。手違いで春郷祭の蚤市で売られちまったり、ソサエティからの褒美でこんな風に動けるようになったり」
そこまで話すと、鈴はくまごろーを抑えていた手を解放する。愛らしいぬいぐるみは、彼女に懐くようにちょこまかと彼女の身体を這い上る。
「──ダチや仲間ができた今でもコイツは大切な家族で心の支えの一人なンだ」
「舞台に復帰すンだなトール! 復興の役に立てンなら協力させてくれよ!」
この話を持ち掛けたとき、彼女はそう意気込んで協力を申し出てくれた。
……実際には、復帰とは言い難い。依頼が無ければこちらに来られない、来られても居られる期間が限られるという現状は、こちらでの本格的な活動を再開するには厳しすぎる。まず、まともに他者と稽古時間が取れない。それでも、戻ってこれたときのために復帰への足掛かりを模索し始めた、その第一歩に、彼女がそう言ってくれたことを、有難く思う。
彼女自身は不慣れな舞台、それを、拙いながらも彼女は彼女の大切な存在と共に、精いっぱい演じきったのだった。
●
「さて。では最後にもう一人。代役ですがご紹介させていただきましょう」
暗転した舞台に再び現れたのは透一人。だが、眼鏡を掛けて淡い外套を羽織った姿は、彼とは違う存在なのだと理解させる。
「彼の名は初月 賢四郎(ka1046)。軍に属しサルバトーレ・ロッソと共に転移した彼は、戻る方法を探すためにハンターとなり、伝手作りのために様々な依頼、作戦に参加した」
ゆっくりと語りながら舞台袖から中央へと歩き、そして機敏な動作で客席へ向き直る。
「『ゴブリンの襲撃から村を守る方法、ですか。戦闘は得手ではありませんが、補給や防衛に関しては一家言ありますよ。お任せ下さい』」
安心させるような、優しく、自信に満ちた声と笑顔。大らかに腕を開いたところで、暗転。
「『依頼内容は山賊の捕縛だ。こちらに必要な情報をいち早く提供してくれた一名に限り、有利な取り扱いを約束しよう。……。わかった、なら他の者に聞こう』」
冷酷な声。手にしていた拳銃が足元へと向けられる。銃声。暗転。
「『遅滞戦術ですか。塹壕でも掘るしかないですかね。……分からない? では勉強会をします。──半日。この期間で、貴方たちにリアルブルーの近代的塹壕とその重要性について説明します。ついてきてください』」
大勢を目の前にするかのようにゆっくりと視線を巡らせ、堂々と語る。暗転。
──
やや早回しで演じられる『自分』を、賢四郎本人は客席から眺めていた。語り聞かせた経歴を、彼の理解で演じて欲しいと注文したが、聞かせた以上に彼は掘り下げてきたらしい。それは驚くべきことでもないのかもしれない。役者が、演じる役について出来る限り調べ上げてくるというのは。だから注目すべきは。
(ハンターを、自分というものを見せるために、この場面と、台詞を選んできた……か)
実に興味深い。
他者に自分を演じさせたのは、彼にとって思考実験でもあった。自分が他人からどう見えるのか。
──
「彼は幾つもの依頼をこなし、人脈と信頼を築き上げてきた。戻るために出来る限りのことをしつつそれは、最悪、異世界に溶け込む方策の模索でもあった。──彼はこう語る」
ここまで堂々と立ち振る舞ってきた彼がここでふいに、崩れ落ちるように椅子に座り込み、俯いて軽く首を振る。
「『何だかんだやりましたが、結局は自分が戻りたかっただけ。だが戻れると解って逆にどうするか見えなくなる……そんな程度のモンですよ』」
俯いた顔を上げ、少し情けない笑みを観客に見せる。観客。舞台。透は、ここに居る自分の想いを賢四郎に重ねて、それを彼を演じる上での理解とした。……願いに向けて、手を打った。だが、本当にこれでいいのかという迷いは付きまとう。
「戻る方法を模索するほど、帰れない可能性も視野に入れざるを得なくなる。戻れる光明が見えては、故郷の動向に不安を感じる。移転の果てに彼が出会ったのは──矛盾の塊である己だった。それでも。それでも彼は今なお、この状況に対応すべく考え続けている」
立ち上がる。また最初の時のように堂々と。ふわり、外套が翻った。
「『自分は「終わるまでは終わらない」と信じて続けますよ。最終的に自分が間違いだったと認めても、それを残せば後に続く者がいつかは辿り着く』」
それは、こないだの食事会の時に言えなかった賢四郎の解だと彼は透に告げた。自分自身が噛み締めるように、透は大事に、この言葉を紡ぐ。
「『……これは自分の解です。だが、人は一人で生きられるものではありません。他者からの評価が自身に影響を与えていく……それを、覚えていて下さい』」
舞台の締めくくりとして、はっきりと観客に告げて語ると、静かに一礼。
これで、すべての演目が終了し、幕が降りた。
●
まっすぐに語られた、それぞれの想い。ハンターの極一部でしかない彼らの言葉が、どれほど影響するかは未知数だ。だが。
カーテンコール。改めて今日の舞台を飾った役者が舞台上に出そろい、観客に向かって一礼する。
彼らに捧げられた拍手は、決して小さなものではなく、温かさに満ちていた。
依頼結果
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MVP一覧
- 命無き者塵に還るべし
星野 ハナ(ka5852)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/12 15:43:14 |
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相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/11/15 21:17:53 |