ゲスト
(ka0000)
思い出の花、咲く前に
マスター:一要・香織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/18 19:00
- 完成日
- 2017/11/24 05:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
日差しが降り注ぐ賑やかな街から少し離れた薄暗い林の中に、少年は一人佇んでいた。
ゾワリと背筋を這う悪寒を感じながらも、少年は一本の若木に水を与えている。
その木は青々とした葉に、ピンクに色付く蕾をいくつも付けていた。
「イリーナちゃん、もうすぐだね」
少年は自分と同じ背丈ほどの若木の、今にも綻びそうな蕾に手を伸ばした。
「明日には咲くのかな?」
どこか憂に満ちた顔に無理やり笑みを浮かべると、少年は足元に転がるジョウロを拾い上げた。
重なり合う葉の隙間から射し込んだ光が地面に薄い少年の形の影を作る。
一歩踏み出しそれに合わせて揺れる影が、……一瞬のうちに姿を消した。
辺りの薄暗さは増し、大きな影にすっぽりと飲まれた少年は、ゆっくりと振り返り、目を見開いた。
目の前には見上げる程大きな植物雑魔が……。
鞭の様な蔓を唸らせ、少年を威嚇する様に地面を叩いた。そしてその蔓は少年の体に巻きつき、いとも容易く持ち上げ木の幹に縛り付ける。
「やめろーー! 放せ!」
体を必死によじってみるが少年の抵抗は虚しく、蔓は身体中にきつく巻きつく。
次第に少年の意識はなくなっていった……。
●ハンターオフィス
「よく来てくれたっす! 緊急の依頼が来てるっす!」
やけに威勢のいい受付の女性は、カウンターの上に依頼書を置いた。
「街道沿いにある街の側の林に植物の雑魔が出たっす。男の子がその雑魔に取り込まれてしまい、両親が助けを求めているっす」
「それは、大変だね」
「急いで、向かわないと」
ハンターたちは顔を見合わせ頷いた。
「時間が経てば、男の子は植物雑魔に絞め殺されてしまうっす。なんでも、男の子が大切に育てていた若木も取り込まれてるらしいっす。雑魔を倒して、男の子と若木を助けて欲しいっす」
受付の女性は眉を顰めたまま、頭を下げた。
ゾワリと背筋を這う悪寒を感じながらも、少年は一本の若木に水を与えている。
その木は青々とした葉に、ピンクに色付く蕾をいくつも付けていた。
「イリーナちゃん、もうすぐだね」
少年は自分と同じ背丈ほどの若木の、今にも綻びそうな蕾に手を伸ばした。
「明日には咲くのかな?」
どこか憂に満ちた顔に無理やり笑みを浮かべると、少年は足元に転がるジョウロを拾い上げた。
重なり合う葉の隙間から射し込んだ光が地面に薄い少年の形の影を作る。
一歩踏み出しそれに合わせて揺れる影が、……一瞬のうちに姿を消した。
辺りの薄暗さは増し、大きな影にすっぽりと飲まれた少年は、ゆっくりと振り返り、目を見開いた。
目の前には見上げる程大きな植物雑魔が……。
鞭の様な蔓を唸らせ、少年を威嚇する様に地面を叩いた。そしてその蔓は少年の体に巻きつき、いとも容易く持ち上げ木の幹に縛り付ける。
「やめろーー! 放せ!」
体を必死によじってみるが少年の抵抗は虚しく、蔓は身体中にきつく巻きつく。
次第に少年の意識はなくなっていった……。
●ハンターオフィス
「よく来てくれたっす! 緊急の依頼が来てるっす!」
やけに威勢のいい受付の女性は、カウンターの上に依頼書を置いた。
「街道沿いにある街の側の林に植物の雑魔が出たっす。男の子がその雑魔に取り込まれてしまい、両親が助けを求めているっす」
「それは、大変だね」
「急いで、向かわないと」
ハンターたちは顔を見合わせ頷いた。
「時間が経てば、男の子は植物雑魔に絞め殺されてしまうっす。なんでも、男の子が大切に育てていた若木も取り込まれてるらしいっす。雑魔を倒して、男の子と若木を助けて欲しいっす」
受付の女性は眉を顰めたまま、頭を下げた。
リプレイ本文
日差しが僅かな木々の隙間から射し込む林の中を、ハンター達は歩いていた。
微かに背筋を這うような負のマテリアルの存在を感じるも、なんの変哲のない林の様に見える。
「確かに、ガキの頃はこういう所でよく遊んだな」
幼い頃を懐かしむ様にエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が呟くと、
「ええ、私にも覚えがあります」
と佐間・破阿弩(ka7009)が強面を崩し微笑みながら相槌を打った。
しかしハンター達はいつ接敵してもいい様、感覚を研ぎ澄ませ、一歩一歩林の奥へと進んでいく。
そして、少し拓けた空間に……それは佇んでいた。
見上げるほどの大きな木は禍々しい空気を纏い、その木の幹に今にも蔓に埋もれてしまいそうな少年を抱いている。
「カイオ!」
「カイオさん!」
それを目にしたヴァイス(ka0364)とサフィ・ロジエラ・アパーシア(ka7063)が声を上げると、静かな林の中を緊張感が走り抜けた。
その声でハンターに気付いた雑魔は、威嚇する様に蔓を伸ばし始める。
「今、助けるぞ!」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)の鋭い声に、ハンター達は展開した。
オウカがマーキス・ソングを舞うと同時に、カイン・マッコール(ka5336)がソウルトーチを使い、雑魔の気を引きつける。
その隙をつき、白磐 猛仁(ka7066)と佐間が木の下へと走り込みカイオに近付いた。
「今引き剥がすからな!頑張れよ」
意識のないカイオに向かい猛仁が声を掛けると、佐間は顔の周りに蔓延る蔓を引きちぎった。
「カイオ君は私が庇います。皆さんは蔓をお願いします」
佐間が叫ぶと、ハンター達は雑魔に向かい武器を振り上げた。
ハンター達をも取り込もうと雑魔は蔓を幾つも伸ばし、鞭の様に唸らせる。
蔓を切り落とす仲間への攻撃が少しでも減るよう、ヴァイスは灼熱のオーラを纏い雑魔の気を自分へと向けさせた。
「攻撃は俺が引き受ける。皆は奴に効果的な部分や属性を見極めることに専念してくれ!」
「参りますわ」
tough loveを手にしたサフィが一度大きな音をさせて地面を叩くと、雑魔を目掛けてしならせた。蔓の間を縫う様にtough loveは伸び、太い蔓の根元を弾きダメージを与える。
一本一本が意思を持っているかのように、引きつけるオーラに抗い逸れる蔓もある。
その蔓の一本をエヴァンスがヒートダガーで焼き斬った。
切り口は黒く焼け焦げ痛みを振り払うかの様にウネウネと蔓が躍り、その切り口から新しい蔓が伸び始める。
しかしその成長は、他の物より僅かに遅い。
その様子を見つめるエヴァンスの横で、
「ご主人様、こっちは任せて下さい」
そう言って、小宮・千秋(ka6272)が金剛を纏い雑魔の攻撃を受けていく。
「ああ、頼む」
そう返したエヴァンスはカイオに視線を向けた。
カイオに目に見える変化はなさそうだ。
イケる、そう思った刹那、
「どうだ?」
オウカが蔓を切り落としながら近付いてきた。
「火属性はイケそうだ」
ニヤリと笑みを浮かべたエヴァンスにつられるようにオウカも笑みを浮かべた。
カイオを縛り付ける蔓を佐間は慎重に切り落としていた。
無理をしてカイオを傷つけてはならない。しかし、斬った側から、蔓は再生しだし次の目標を佐間に定める。
その佐間を狙う蔓を猛仁が切り落とし、振り返ってカイオを見上げた。
「うっ……」
途端カイオから小さな呻きが聞こえ、猛仁は仲間に向かい声を張り上げた。
「カイオの回復を頼む」
「わかりましたわ」
猛仁の声に応えたサフィがヒールを唱えると、すぐに暖かな光がカイオを包み、苦し気だったカイオの顔は和らいだ。
佐間と猛仁は目配せを一つすると再びカイオの身体に巻き付く蔓を、佐間を狙う蔓を切り落とし始めた。
カインは蔓の攻撃を引きつけ、そのダメージを最少に留めながら木の根元へと近付いた。
「忌々しい木だ」
そう呟きながら、ソーブレードを根へと何度も突き刺す。
ガサッと葉が揺れたかと思うと、いくつもの蔓がカインを目掛け伸びた。
直前で飛び退くと風を切って剣を振り抜く。
切り落とされた蔓が地面の上で蠢き一瞬にして塵に変わると、風に攫われて消えていった。
千秋は前線から僅かに引いたところで弓を番えて引き絞り、幹を狙って放とうとした。
それに気付いた雑魔が瞬時に幹を体の様に捻じる。
「あっ!!」
千秋の視点にカイオと佐間が映り、放つ直前でその手を止めた。
仲間に当てなくて済んだ事に胸を撫で下ろすと、
「私に攻撃が当たるのは気にしないで下さい」
佐間は何でもないと言う風に口を開いた。
「ならなら、これはどうですかー」
千秋が足元のマルチーズと見つめ合い魔力をシンクロさせると、マルチーズは雑魔目掛けて飛び掛かり、ダメージを与えた。
「よしよし、よくやりました」
マルチーズを褒める千秋に向かって伸びる蔓を、寸での所でオウカが切り落とした。
目を見開き僅かに驚いた千秋が、
「ありがとうございます」
そう告げると、
「礼には及ばない」
オウカは淡白にそう一言残し、再び伸び始めた蔓を切り落としに駆け出した。
徐々にダメージが蓄積してきているのか、カイオを縛り付ける蔓に僅かに隙間が生じた。
そのチャンスを見逃さず、佐間は怪力無双を使い筋力を爆発的に増加させると、カイオから蔓を引きはがし始めた。
「いけそうです。このまま一気に引きはがします」
その声を聞いたハンター達は佐間に雑魔の注意が向かない様立ち回り、一方でカイオの様子を注意深く窺っていたヴァイスはヒールを唱えた。
「必ず助ける。だから絶対にあきらめるな」
青白く、苦痛に歪んだカイオの顔がスーっと穏やかになるのを見届けると、佐間は再び力を込めた。
その背後を狙う蔓を見逃さず、猛仁がチェーンソーを振り下ろし切断していく。
「ブチブチブチブチ……」
豪快な音を立て、カイオに巻き付く蔓が切れた。
完全に離されたカイオを抱え、佐間は雑魔から距離を取った。
「やったな」
「やったぜ」
ヴァイスとエヴァンスが同時に声を上げると、
「伐採の時間だ」
カインは不敵に微笑みながら手の中の武器を握りなおし、再び雑魔へと近付いて行った。
雑魔は肩を震わせる様に枝を揺らし始めた。
ガサガサと葉が擦れる音をさせ、次の瞬間勢いよく伸びた蔓がハンター達を襲う。
鞭の様にしなり、雑魔の近くにいたカイン、そしてエヴァンスの肌を打った。
打ちつけられた肌からは所々血が滲み、赤く染まる。
しかし、カインは少しも気にした様子を見せず、その足を止めない。
「無駄だ。我慢比べなら慣れている」
そしてその手に持った剣を何度も太い幹に叩き込む。
斧で叩かれたように、幹には徐々に大きな裂け目が生じ始めた。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
千秋は駆け寄り、エヴァンスにヒールを掛けると雑魔に向き直った。
「当然だ」
エヴァンスは楽しげに声を張り上げ、幹から伸びる一際太い蔓を目掛けた。
蔓はエヴァンスを拘束しようと腕の様に蠢く。
その蔓が一瞬足元を這った時、エヴァンスはそれを踏みつけ跳躍し、蔓の根元を一刀両断した。
ドサッと大きな音をさせて落ちた蔓の上にエヴァンスが降り立つと、塵となった蔓はその風圧で散っていった。
ヴァイスは堅守を掛け注意を引きつけながら幹へと近付き、本体とも言える幹を攻撃した。
メキッと音をさせめり込んだ刃に蔓が巻き付こうとするが、素早く引き抜かれた槍に切り刻まれた。
それと同時にオウカはデルタレイを唱える。
何もない空間に光り輝く三角形が生まれ、それぞれの頂点から鋭い閃光が放たれた。
閃光は無数に伸びてくる蔓を貫き、そして光は弾けた。
ボトボトと地面に落ちた蛇の様な蔓はあっという間に塵となって四散する。
カイオを抱えて雑魔から離れた佐間は、心配そうに眉を寄せた。
「もう一度、回復を」
サフィがそう言ってヒールを唱えると、カイオからは落ち着いた呼吸の音が聞こえ始めた。
二人は顔を見合わせた後、カイオを守るように辺りを警戒し、仲間の状態を見つめる。
その様子を振り返って確認した猛仁は口元を緩めると、手に持つチェーンソーを唸らせた。
踏込んでその根元に近付くと、マテリアルを込めたチェーンソーを激しく叩き付ける。
甲高い機械音を轟かせながら、雑魔の一本の根っこを切り落とすと、それは地面を揺らすように蠢き瞬く間に塵と化した。
小さな体を更に屈め、伸びる蔓をかわしながら千秋は幹に近付いた。
鎧徹しの気功を纏った掌底を幹に叩き付けると、千秋のマテリアルが雑魔の体内に一気に流れ込み、鎧が剥がれるように雑魔の幹は強度を失う。
雑魔は怒り狂ったように幹を揺らし、ハンター達を振り払おうとする。
同時に新たな蔓が出現しオウカ、ヴァイス、カイン、猛仁に鞭のような一撃を叩き込み、四人は顔を顰めた。
蔓が足に巻き付いた千秋は易々と持ち上げられ、雑魔は千秋を地面に叩き付けようと更に高くへと引き上げる。
その瞬間、ゼファーに持ち替えた千秋が蔓を切断し、華麗に着地を決めた。
胸の前で手を組み、サフィは静かに目を閉じた。
「癒しの光りよ」
凛とした声が戦場を駆け抜けると、柔らかな光の雨がカインに振り注ぎその傷を癒していく。
「そろそろ、終わりにしようぜ!」
猛仁が張り上げた声に、ハンターの士気が更に高まった。
ヴァイスが再び灼熱を唱え燃え盛るオーラで雑魔を煽ると、オウカはアンコールを使ったファセット・ソングを詠唱しオウカの側に居る、エヴァンスとカインの能力を上昇させた。
その勢いのまま、カインは幹に渾身激を叩き込み、同時にエヴァンスも一刀両断を叩き込んだ。
千秋も鬼爪籠手で幹を引き裂き、猛仁のチェーンソーは幹に深く潜り込み内部を切り刻んでいく。
バサバサバサバサ――大きく枝を揺らしたかと思うと、雑魔の動きは止まりヒラヒラと落ちてくる葉は次々に塵に変わる。
そして風に攫われるように、枝も幹も……その姿を消していった。
雑魔の木がなくなったことで、その場所の上空はぽっかりと穴が開き、そこから太陽の光が燦々と降り注いだ。
キラキラと輝く光に、ハンター達は目を細める。
そして、拓けた空間にポツンと佇む一本の若木に視線を止めた。
「これが噂の若木ですね」
千秋が興味深そうに眺めると、
「本当に、今にも咲きそうですわ」
うっとりと愛らしい蕾を見つめるサフィの優しい声が応えた。
「無事に守れて良かったな」
「そうですね、カイオ君も若木も」
猛仁の呟きに佐間が頷く。
「俺達は他に雑魔が居ないか少し周りを捜索してくる」
そう言いながら、ヴァイス、カイン、オウカが林の奥へと向かっていった。
暫らくすると三人が戻り、間もなくカイオの目が覚めた。
「カイオさん、大丈夫ですか?」
サフィが顔を覗き込むと、カイオはビックリした様に目を見開き恐る恐る口を開いた。
「……ハンター?」
「ああ、そうだぜ」
猛仁の応えにぐるりと視線を動かし、ハンター達を見つめる。
そして思い出したように大きな声を上げる。
「あ! 花は?」
「大丈夫ですよー」
千秋が笑みを向けながら体を開くと、その陰から若木の姿が覗いた。
「っ………うぅ……」
その木を目した途端我慢していた何かが切れた様に、カイオは涙を流し歯を食い縛った。
そんなカイオにサフィは優しく手を伸ばし、流れる涙を拭ってあげる。
「辛い思いをさせてしまい、申し訳ありません。攻撃を受けたのですから苦しかったですよね」
その言葉にカイオは頭を振った。
「辛いよな、好きな子が居なくなっちまうなんて……。だけどよ、いつまでも暗い顔した姿より、笑顔で頑張ってるお前の方がイリーナだってきっと喜ぶぞ」
エヴァンスの言葉を引き継ぐ様にオウカも口を開いた。
「だからと言って、無理に忘れる必要も、引きずり続ける必要もない」
震える肩に手を添えて、再びエヴァンスが言葉を掛ける。
「しっかりあの子の事を覚えたまま頑張りゃいい。そんで時々思い出したら空を見上げて、僕はこんなに格好良くなったぞ! って言ってやれ」
ゆっくりと顔を上げたカイオは、ハンター達の瞳に宿る強さを垣間見た。
「………」
無言で小さく頷くと、乱暴に涙を拭う。
「さあ、戻ろうぜ!」
ヴァイスが努めて明るく言うと、カイオとハンター達は平穏を取り戻した林を抜けだした。
街に戻ると待ちわびた両親がカイオを抱きしめた。
残される辛さも、残すことの辛さも、この時、カイオは感じとった……。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
何度も頭を下げる両親を尻目にカインは、
「短時間だけど彼から話は聞いています。もし退治されていないならゴブリンの巣穴がある可能性もある。見つけ出して殲滅してくる……これは僕なりのアフターケアだ……」
静かにそう告げると、カインは踵を返し行ってしまった。
「お礼を言われて照れていらっしゃるのかしら?」
サフィが微笑むと、
「では、俺もこれで失礼する」
カインに続く様にオウカも踵を返した。
「元気でなカイオ」
ヴァイスが告げると
「うん、ありがとう。お兄ちゃん達」
少し笑みを取り戻したカイオが応えた。
「花が咲いたら、今度は家族や友達と一緒に見るといい」
猛仁も優しくカイオに声を掛けた。
「大きな木になるといいですねぇ。カイオ君も木に負けないよう大きくなるんですよ。今日の困難を乗り越えられたんです。きっとこれからも色んなことを乗り越えられますよ」
カイオは強面に優しい笑顔を湛えた佐間を見上げ、佐間は大きな掌でカイオの頭を撫でた。
「カイオくーん。バイバーイ」
エヴァンスと一緒に千秋が手を振りながら去っていく。
ハンター達の背中を見送ったカイオはグッと奥歯を噛みしめ大きく息を吸った。
そして、勢いよく両親を振り返りこう言ったのだ。
「僕、ハンターになる!」
オレンジ色に傾き始めた陽を僅かに受けながら、林の中に佇んだ若木は風もないのに揺れた。
葉に隠れるように咲いた一輪の花を主張するように――。
夕日にも負けないその鮮やかなピンクの花びらは、まるでイリーナの笑顔の様に眩しかった。
微かに背筋を這うような負のマテリアルの存在を感じるも、なんの変哲のない林の様に見える。
「確かに、ガキの頃はこういう所でよく遊んだな」
幼い頃を懐かしむ様にエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が呟くと、
「ええ、私にも覚えがあります」
と佐間・破阿弩(ka7009)が強面を崩し微笑みながら相槌を打った。
しかしハンター達はいつ接敵してもいい様、感覚を研ぎ澄ませ、一歩一歩林の奥へと進んでいく。
そして、少し拓けた空間に……それは佇んでいた。
見上げるほどの大きな木は禍々しい空気を纏い、その木の幹に今にも蔓に埋もれてしまいそうな少年を抱いている。
「カイオ!」
「カイオさん!」
それを目にしたヴァイス(ka0364)とサフィ・ロジエラ・アパーシア(ka7063)が声を上げると、静かな林の中を緊張感が走り抜けた。
その声でハンターに気付いた雑魔は、威嚇する様に蔓を伸ばし始める。
「今、助けるぞ!」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)の鋭い声に、ハンター達は展開した。
オウカがマーキス・ソングを舞うと同時に、カイン・マッコール(ka5336)がソウルトーチを使い、雑魔の気を引きつける。
その隙をつき、白磐 猛仁(ka7066)と佐間が木の下へと走り込みカイオに近付いた。
「今引き剥がすからな!頑張れよ」
意識のないカイオに向かい猛仁が声を掛けると、佐間は顔の周りに蔓延る蔓を引きちぎった。
「カイオ君は私が庇います。皆さんは蔓をお願いします」
佐間が叫ぶと、ハンター達は雑魔に向かい武器を振り上げた。
ハンター達をも取り込もうと雑魔は蔓を幾つも伸ばし、鞭の様に唸らせる。
蔓を切り落とす仲間への攻撃が少しでも減るよう、ヴァイスは灼熱のオーラを纏い雑魔の気を自分へと向けさせた。
「攻撃は俺が引き受ける。皆は奴に効果的な部分や属性を見極めることに専念してくれ!」
「参りますわ」
tough loveを手にしたサフィが一度大きな音をさせて地面を叩くと、雑魔を目掛けてしならせた。蔓の間を縫う様にtough loveは伸び、太い蔓の根元を弾きダメージを与える。
一本一本が意思を持っているかのように、引きつけるオーラに抗い逸れる蔓もある。
その蔓の一本をエヴァンスがヒートダガーで焼き斬った。
切り口は黒く焼け焦げ痛みを振り払うかの様にウネウネと蔓が躍り、その切り口から新しい蔓が伸び始める。
しかしその成長は、他の物より僅かに遅い。
その様子を見つめるエヴァンスの横で、
「ご主人様、こっちは任せて下さい」
そう言って、小宮・千秋(ka6272)が金剛を纏い雑魔の攻撃を受けていく。
「ああ、頼む」
そう返したエヴァンスはカイオに視線を向けた。
カイオに目に見える変化はなさそうだ。
イケる、そう思った刹那、
「どうだ?」
オウカが蔓を切り落としながら近付いてきた。
「火属性はイケそうだ」
ニヤリと笑みを浮かべたエヴァンスにつられるようにオウカも笑みを浮かべた。
カイオを縛り付ける蔓を佐間は慎重に切り落としていた。
無理をしてカイオを傷つけてはならない。しかし、斬った側から、蔓は再生しだし次の目標を佐間に定める。
その佐間を狙う蔓を猛仁が切り落とし、振り返ってカイオを見上げた。
「うっ……」
途端カイオから小さな呻きが聞こえ、猛仁は仲間に向かい声を張り上げた。
「カイオの回復を頼む」
「わかりましたわ」
猛仁の声に応えたサフィがヒールを唱えると、すぐに暖かな光がカイオを包み、苦し気だったカイオの顔は和らいだ。
佐間と猛仁は目配せを一つすると再びカイオの身体に巻き付く蔓を、佐間を狙う蔓を切り落とし始めた。
カインは蔓の攻撃を引きつけ、そのダメージを最少に留めながら木の根元へと近付いた。
「忌々しい木だ」
そう呟きながら、ソーブレードを根へと何度も突き刺す。
ガサッと葉が揺れたかと思うと、いくつもの蔓がカインを目掛け伸びた。
直前で飛び退くと風を切って剣を振り抜く。
切り落とされた蔓が地面の上で蠢き一瞬にして塵に変わると、風に攫われて消えていった。
千秋は前線から僅かに引いたところで弓を番えて引き絞り、幹を狙って放とうとした。
それに気付いた雑魔が瞬時に幹を体の様に捻じる。
「あっ!!」
千秋の視点にカイオと佐間が映り、放つ直前でその手を止めた。
仲間に当てなくて済んだ事に胸を撫で下ろすと、
「私に攻撃が当たるのは気にしないで下さい」
佐間は何でもないと言う風に口を開いた。
「ならなら、これはどうですかー」
千秋が足元のマルチーズと見つめ合い魔力をシンクロさせると、マルチーズは雑魔目掛けて飛び掛かり、ダメージを与えた。
「よしよし、よくやりました」
マルチーズを褒める千秋に向かって伸びる蔓を、寸での所でオウカが切り落とした。
目を見開き僅かに驚いた千秋が、
「ありがとうございます」
そう告げると、
「礼には及ばない」
オウカは淡白にそう一言残し、再び伸び始めた蔓を切り落としに駆け出した。
徐々にダメージが蓄積してきているのか、カイオを縛り付ける蔓に僅かに隙間が生じた。
そのチャンスを見逃さず、佐間は怪力無双を使い筋力を爆発的に増加させると、カイオから蔓を引きはがし始めた。
「いけそうです。このまま一気に引きはがします」
その声を聞いたハンター達は佐間に雑魔の注意が向かない様立ち回り、一方でカイオの様子を注意深く窺っていたヴァイスはヒールを唱えた。
「必ず助ける。だから絶対にあきらめるな」
青白く、苦痛に歪んだカイオの顔がスーっと穏やかになるのを見届けると、佐間は再び力を込めた。
その背後を狙う蔓を見逃さず、猛仁がチェーンソーを振り下ろし切断していく。
「ブチブチブチブチ……」
豪快な音を立て、カイオに巻き付く蔓が切れた。
完全に離されたカイオを抱え、佐間は雑魔から距離を取った。
「やったな」
「やったぜ」
ヴァイスとエヴァンスが同時に声を上げると、
「伐採の時間だ」
カインは不敵に微笑みながら手の中の武器を握りなおし、再び雑魔へと近付いて行った。
雑魔は肩を震わせる様に枝を揺らし始めた。
ガサガサと葉が擦れる音をさせ、次の瞬間勢いよく伸びた蔓がハンター達を襲う。
鞭の様にしなり、雑魔の近くにいたカイン、そしてエヴァンスの肌を打った。
打ちつけられた肌からは所々血が滲み、赤く染まる。
しかし、カインは少しも気にした様子を見せず、その足を止めない。
「無駄だ。我慢比べなら慣れている」
そしてその手に持った剣を何度も太い幹に叩き込む。
斧で叩かれたように、幹には徐々に大きな裂け目が生じ始めた。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
千秋は駆け寄り、エヴァンスにヒールを掛けると雑魔に向き直った。
「当然だ」
エヴァンスは楽しげに声を張り上げ、幹から伸びる一際太い蔓を目掛けた。
蔓はエヴァンスを拘束しようと腕の様に蠢く。
その蔓が一瞬足元を這った時、エヴァンスはそれを踏みつけ跳躍し、蔓の根元を一刀両断した。
ドサッと大きな音をさせて落ちた蔓の上にエヴァンスが降り立つと、塵となった蔓はその風圧で散っていった。
ヴァイスは堅守を掛け注意を引きつけながら幹へと近付き、本体とも言える幹を攻撃した。
メキッと音をさせめり込んだ刃に蔓が巻き付こうとするが、素早く引き抜かれた槍に切り刻まれた。
それと同時にオウカはデルタレイを唱える。
何もない空間に光り輝く三角形が生まれ、それぞれの頂点から鋭い閃光が放たれた。
閃光は無数に伸びてくる蔓を貫き、そして光は弾けた。
ボトボトと地面に落ちた蛇の様な蔓はあっという間に塵となって四散する。
カイオを抱えて雑魔から離れた佐間は、心配そうに眉を寄せた。
「もう一度、回復を」
サフィがそう言ってヒールを唱えると、カイオからは落ち着いた呼吸の音が聞こえ始めた。
二人は顔を見合わせた後、カイオを守るように辺りを警戒し、仲間の状態を見つめる。
その様子を振り返って確認した猛仁は口元を緩めると、手に持つチェーンソーを唸らせた。
踏込んでその根元に近付くと、マテリアルを込めたチェーンソーを激しく叩き付ける。
甲高い機械音を轟かせながら、雑魔の一本の根っこを切り落とすと、それは地面を揺らすように蠢き瞬く間に塵と化した。
小さな体を更に屈め、伸びる蔓をかわしながら千秋は幹に近付いた。
鎧徹しの気功を纏った掌底を幹に叩き付けると、千秋のマテリアルが雑魔の体内に一気に流れ込み、鎧が剥がれるように雑魔の幹は強度を失う。
雑魔は怒り狂ったように幹を揺らし、ハンター達を振り払おうとする。
同時に新たな蔓が出現しオウカ、ヴァイス、カイン、猛仁に鞭のような一撃を叩き込み、四人は顔を顰めた。
蔓が足に巻き付いた千秋は易々と持ち上げられ、雑魔は千秋を地面に叩き付けようと更に高くへと引き上げる。
その瞬間、ゼファーに持ち替えた千秋が蔓を切断し、華麗に着地を決めた。
胸の前で手を組み、サフィは静かに目を閉じた。
「癒しの光りよ」
凛とした声が戦場を駆け抜けると、柔らかな光の雨がカインに振り注ぎその傷を癒していく。
「そろそろ、終わりにしようぜ!」
猛仁が張り上げた声に、ハンターの士気が更に高まった。
ヴァイスが再び灼熱を唱え燃え盛るオーラで雑魔を煽ると、オウカはアンコールを使ったファセット・ソングを詠唱しオウカの側に居る、エヴァンスとカインの能力を上昇させた。
その勢いのまま、カインは幹に渾身激を叩き込み、同時にエヴァンスも一刀両断を叩き込んだ。
千秋も鬼爪籠手で幹を引き裂き、猛仁のチェーンソーは幹に深く潜り込み内部を切り刻んでいく。
バサバサバサバサ――大きく枝を揺らしたかと思うと、雑魔の動きは止まりヒラヒラと落ちてくる葉は次々に塵に変わる。
そして風に攫われるように、枝も幹も……その姿を消していった。
雑魔の木がなくなったことで、その場所の上空はぽっかりと穴が開き、そこから太陽の光が燦々と降り注いだ。
キラキラと輝く光に、ハンター達は目を細める。
そして、拓けた空間にポツンと佇む一本の若木に視線を止めた。
「これが噂の若木ですね」
千秋が興味深そうに眺めると、
「本当に、今にも咲きそうですわ」
うっとりと愛らしい蕾を見つめるサフィの優しい声が応えた。
「無事に守れて良かったな」
「そうですね、カイオ君も若木も」
猛仁の呟きに佐間が頷く。
「俺達は他に雑魔が居ないか少し周りを捜索してくる」
そう言いながら、ヴァイス、カイン、オウカが林の奥へと向かっていった。
暫らくすると三人が戻り、間もなくカイオの目が覚めた。
「カイオさん、大丈夫ですか?」
サフィが顔を覗き込むと、カイオはビックリした様に目を見開き恐る恐る口を開いた。
「……ハンター?」
「ああ、そうだぜ」
猛仁の応えにぐるりと視線を動かし、ハンター達を見つめる。
そして思い出したように大きな声を上げる。
「あ! 花は?」
「大丈夫ですよー」
千秋が笑みを向けながら体を開くと、その陰から若木の姿が覗いた。
「っ………うぅ……」
その木を目した途端我慢していた何かが切れた様に、カイオは涙を流し歯を食い縛った。
そんなカイオにサフィは優しく手を伸ばし、流れる涙を拭ってあげる。
「辛い思いをさせてしまい、申し訳ありません。攻撃を受けたのですから苦しかったですよね」
その言葉にカイオは頭を振った。
「辛いよな、好きな子が居なくなっちまうなんて……。だけどよ、いつまでも暗い顔した姿より、笑顔で頑張ってるお前の方がイリーナだってきっと喜ぶぞ」
エヴァンスの言葉を引き継ぐ様にオウカも口を開いた。
「だからと言って、無理に忘れる必要も、引きずり続ける必要もない」
震える肩に手を添えて、再びエヴァンスが言葉を掛ける。
「しっかりあの子の事を覚えたまま頑張りゃいい。そんで時々思い出したら空を見上げて、僕はこんなに格好良くなったぞ! って言ってやれ」
ゆっくりと顔を上げたカイオは、ハンター達の瞳に宿る強さを垣間見た。
「………」
無言で小さく頷くと、乱暴に涙を拭う。
「さあ、戻ろうぜ!」
ヴァイスが努めて明るく言うと、カイオとハンター達は平穏を取り戻した林を抜けだした。
街に戻ると待ちわびた両親がカイオを抱きしめた。
残される辛さも、残すことの辛さも、この時、カイオは感じとった……。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
何度も頭を下げる両親を尻目にカインは、
「短時間だけど彼から話は聞いています。もし退治されていないならゴブリンの巣穴がある可能性もある。見つけ出して殲滅してくる……これは僕なりのアフターケアだ……」
静かにそう告げると、カインは踵を返し行ってしまった。
「お礼を言われて照れていらっしゃるのかしら?」
サフィが微笑むと、
「では、俺もこれで失礼する」
カインに続く様にオウカも踵を返した。
「元気でなカイオ」
ヴァイスが告げると
「うん、ありがとう。お兄ちゃん達」
少し笑みを取り戻したカイオが応えた。
「花が咲いたら、今度は家族や友達と一緒に見るといい」
猛仁も優しくカイオに声を掛けた。
「大きな木になるといいですねぇ。カイオ君も木に負けないよう大きくなるんですよ。今日の困難を乗り越えられたんです。きっとこれからも色んなことを乗り越えられますよ」
カイオは強面に優しい笑顔を湛えた佐間を見上げ、佐間は大きな掌でカイオの頭を撫でた。
「カイオくーん。バイバーイ」
エヴァンスと一緒に千秋が手を振りながら去っていく。
ハンター達の背中を見送ったカイオはグッと奥歯を噛みしめ大きく息を吸った。
そして、勢いよく両親を振り返りこう言ったのだ。
「僕、ハンターになる!」
オレンジ色に傾き始めた陽を僅かに受けながら、林の中に佇んだ若木は風もないのに揺れた。
葉に隠れるように咲いた一輪の花を主張するように――。
夕日にも負けないその鮮やかなピンクの花びらは、まるでイリーナの笑顔の様に眩しかった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/18 17:53:40 |
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依頼相談 サフィ・ロジエラ・アパーシア(ka7063) 人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/11/18 10:11:21 |