• 幻視

【幻視】動き出す黒い影

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/11/20 19:00
完成日
2017/12/02 11:47

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ――その山のように大きなクマのぬいぐるみは、己の根城で深いため息をついた。
「どうした。浮かない顔だな、ビックマー」
「おう。青木か。そりゃあ大事な切り札を2つも失えばため息の一つも出るってもんよ」
「……コーリアスとアレクサンドルか」
 青木 燕太郎(kz0166)の言葉に頷くビックマー・ザ・ヘカトンケイル。
 辺境の地を恐怖と混乱に陥れた存在……コーリアス(kz0245)とアレクサンドル・バーンズ(kz0112)。
 力のある歪虚を2つ同時に喪ったのは、怠惰王としても痛い事実であった。
「オレの配下も大分減った。少し増員を考えないとならねえか……」
「……契約者を増やすのは構わんが使える奴にしてくれ。あの女歪虚みたいなのは二度と御免被る」
「いやぁ、アレはアレで使い道があるんだよ。……と。そういや青木よ、例の大精霊の遺跡はどうなった?」
「ああ。コーリアスやアレクサンドルがハンター達の気を引いてくれたお陰で大分調べがついた」
「ヒュー! そいつはいい。使えそうか?」
「それは試してみないと分からんな」
「そうか……まあ、いい。それなら遺跡を確保しなきゃならねえな」
 どちらにせよ、あの力をハンター達に渡すようなことになれば配下はおろか自分の身すら危うい。
 あの遺跡を奪取できれば御の字。最悪は破壊してでも、ハンター達の手に渡るのを阻止しなければならない……。
「……ビックマー。怖い顔してる。どうしたの?」
「いや、何も。オーロラが心配するようなことは何もねえ。お前が寝てる間に全部片づけておくぜぇ」
 見上げてくる少女にニヤリと笑みを返すビックマー。
 オーロラと呼ばれた少女はこくんと頷くと、クマのぬいぐるみの膝の上で寝息を立て始める。
 それをじっと見つめていた怠惰の王は、重々しく口を開いた。
「……青木よ。もう1つ頼まれてくれるか」
「……事と次第によるが。話は聞こう」

●動き出す黒い影
「……確かに、手駒が減るというのは存外不便なものだな」
 コツコツと響く靴音。
 青木は、長い地下洞窟を歩いて四大精霊の一人であるイクタサの神殿、『チュプ大神殿』を目指していた。
 彼がここにやって来るのは2度目。
 1度目はラロッカの監視と遺跡に眠る力の調査。
 そして今回は……ビックマーに野暮用を頼まれた、というところか。
 本来であれば青木が直接出向くようなことはないのだが、コーリアスやアレクサンドルを失った影響は、こういったところにも出るのだ。
 ――ビックマーに使われるのは癪だが、まあ、地下神殿の力は手にしておいて損はあるまい。
 ただ、地下神殿の力の特性上、邪魔が入った場合は即座に作戦を切り替えなければならないが……。
 まあ、蓬生に貸している分の取り立てに行く前に、寄り道も悪くないだろう。


「今日のところはこんなもんかね……」
「特に変わった様子もないみたいですしね」
「一応、レポートしてまとめておきましょうか」
 チュプ大神殿の内部を確認するハンター達。彼らはノアーラ・クンタウの管理者であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0232)の依頼を受けて、神殿の見回りをしていた。
 先日辺境部族の戦士たちが警備に当たっていたにも関わらず、コーリアスの侵入を許し、古代の兵器である『ニュークロウス』を奪われる結果となった。
 ニュークロウスは、イクタサの言葉を借りるのであれば『風の鎧』だ。
 その古代兵器はマテリアルを糧に周辺の岩や木材を風で操り、術者の周辺で展開する。
 問題は、このマテリアルで……ニュークロウスは負のマテリアルでも反応する。
 実際、この兵器を使ったコーリアスとの戦いは熾烈を極めた。
 ニュークロウスは何個もないよ、とイクタサが言っていたが……彼の言うことだ。どこまで本当だか分からない。
 そして神殿にはまだ解明されていない様々なものが眠っている。
 このような技術が再び歪虚の手に渡るようなことがあれば、拙いことになる――。
 そう判断したヴェルナーと、部族会議大首長のバタルトゥ・オイマト(kz0023)が、チュプ神殿の保護に打って出たのだ。
 依頼がヴェルナー名義になっているのは、チュプ大神殿に至る洞窟が、謎の女歪虚トーチカ・J・ラロッカが率いる巨大グランドワーム・ロックワン……否、あれは率いるというよりは勝手に動き回っていたという方が正しいか。
 ともあれ、ロックワンによって大神殿が彼の管理する長城の地下に繋がってしまった為、そういうことになっている。
 ヴェルナーに言わせれば『よりにもよって私の管理する場所に繋がってくれなくていいのに』と言いそうではあるが。
 そんな理由があって、ハンター達が交代で神殿の警備に当たるようになっていた。

 その異変に気付いたのは、1人のハンターだった。
「どうかしました?」
「いや、今足音が聞こえたような気がしてな」
 振り返るハンターの目線の先。陰から滲み出るように現れたその姿に、ハンター達は息を飲む。
「……青木!? 何でこんなところにいる!?」
「やれやれ。こんなところでハンターに出くわすとはな。俺もつくづく運が悪い」
 ハンターの問いかけに、肩を竦める青木。
 どこか余裕のある様子に、ハンター達は黒い歪虚を睨みつける。
「この神殿に何の用なの?」
「ちょっとした野暮用でな。ビックマーに頼まれて……というやつだ」
「今回は随分と素直に喋るんじゃな。何を企んでおる」
「神殿にある古代の技術を手に入れに来た。……まあ、色々とあって難しそうなんだがな」
「古代の技術? ニュークロウスのことですか?」
 ハンターの問いかけに無言を返し、槍を構える青木。
 ハンター達は距離を取りながら、その殺気を感じ取って……。
 1人のハンターが通信機を手にする。
「ヴェルナー、聞こえるか? こちらチュプ神殿警備隊。今神殿内部で歪虚……青木 燕太郎に遭遇した。支援を頼む」
『こちらヴェルナーです。聞こえていますよ。……全く、バタルトゥさんが動けない時を狙ってくるあたりが嫌らしいですね。了解しました。急ぎ応援部隊を派遣します。それまで持ち堪えて下さい』
「了解した」
 通信を終えたハンターはゆっくりと振り返って青木を見据える。
「まもなく応援部隊が到達する。流石のお前も部族会議の一個小隊を1人で相手するのは分が悪いんじゃないのか?」
「……そうだな。だが、到達するまでに出来ることはある」
 言うなり、槍を神殿の壁に突き立てた青木。壁がガラガラと大きな音を立てて崩れる。
「……!? 何するんですか! 神殿を壊したら……!」
「……お前達は何も知らんと見えるな。まあ、いい。もののついでに教えてやる。俺が受けたビックマーからの指令はもう1つあってな。神殿が手に入らなければ破壊しろ、というものだ」
「……!」
「さて。お前達に俺を食い止められるか?」
 底冷えするような黒い瞳。
 闇黒の魔人を前に、ハンター達は武器を構えた。

リプレイ本文

 ――分が悪い。

 青木 燕太郎(kz0166)と対峙したアルバ・ソル(ka4189)の頭に過ったのはそんな感想だった。

 一度槍を振えば広範囲に破壊活動が行える程の力と、ハンターを出し抜く程の知恵を備えている敵。
 そして自分達の後方に控えるのはあまりにも大きすぎる『的』とも言える。
 それをこの人数で押し留めるには――力押しという手段だけでは足りなかった、ということか。
 ……気づくのが少し、遅かったけれど。

 目の前に立つ黒い男の姿に、アルスレーテ・フュラー(ka6148)は既視感を覚えていた。
 この男に逢うのも久しぶり……いや、違うわね。初対面か。
 ――私があの時会ったのは、セトの友人の『エンタロウ』。歪虚の青木 燕太郎じゃなかったわね。
 そんなことを考えていた彼女の耳に、ネフィリア・レインフォード(ka0444)と紫月・海斗(ka0788)の叫び声が聞こえて来た。
「うわあー!? 一回りして問題ないから安心してたら、最後で大物が来たのだ!?」
「ちょ!? なんでこんな時に来やがったチクショウめ! 気楽にお仕事して帰るとこだったんだぞ!? 帰れー! おとなしく帰れー!」
「……今日のハンターは随分と煩いな」
 2人にうんざりとした目を向ける青木。リューリ・ハルマ(ka0502)はまじまじと彼を見て首を傾げる。
「久しぶりだね、燕太郎さん。……あれ。何かちょっと雰囲気変わった?」
「誰かと思えばリューリか。またここで会うとはお前も余程地下が好きと見える」
「……ここはお友達の墓標だから。何度でも見回りに来るよ」
 リューリの問いを受け流した青木に鋭い目線を向けるイスフェリア(ka2088)。
 ――彼女自身、青木を何度か見たことがあるが、リューリの言う通り少し変わったような気がする。
 雰囲気……というよりは、近づくだけで寒くなるような……負のマテリアルを纏う量が増えている、ということなのだろうか。
 ――青木さん、どこかでまた力を得たのかな。
 彼女が思案を巡らせている間も、リューリは青木に話しかけ続けていた。
「……という訳なの。だから、神殿壊すのは諦めてくれると嬉しいんだけど……ダメ?」
「逆に聞こう。それで俺に何のメリットがある? お前達の事情を考慮する理由などない」
「まあ、そりゃそうよねえ……」
 ため息をつくアルスレーテ。
 青木は目標達成に手段を択ばないのと同時に、決して無理はしない歪虚だ。
 彼に何らかのメリットがあれば、交渉のテーブルに乗る可能性はあったかもしれないが。
 歪虚にホイホイ餌をくれてやる気もないし、やることは一つだ。
「……ここは通さない。諦めて帰って貰うぞ」
 壁になるようにシールドを構えるアルバ。
 ぶつかり合う視線。それが、行動開始の合図となった。


「わああ! ダメ! そっちには行かせないのだ!」
 その行動に咄嗟に反応したのはネフィリアだった。
 青木はハンターが動き出したと同時に全力で移動を開始。
 進行方向にいたハンター達をすり抜けて進もうとする彼の前に彼女が割り込む。
「ちょっと! こんな美人を無視するってどういうつもりよ!」
「お前達と遊んでやるほど俺も暇じゃないんでね」
 アルスレーテの抗議に肩を竦める青木。
 そう。元々彼の目的は神殿の破壊。
 ハンターは障害物でしかない。
 わざわざ応戦する理由もない、ということだ。
 その移動の早さを見て、海斗があんぐりと口を開ける。
「ちょっ。何!? あいつすっげえ足速いんだけど!?」
「そういえば燕太郎さん、前バイクと追いかけっこしてたよ」
「ハァ!!? オイオイそれ早く言って!?」
「あ。でも移動に全力を傾けないと速度維持できないみたいだったけど」
「いやそれ十分! ヤバいから!」
 以前の大規模作戦を思い出して言うリューリに目を剥く海斗。
 そんな速さで移動された日にはまず追い付けない。
 何としてでもここで食い止めないと……!
 ネフィリアとアルスレーテが作った壁。その隙間を縫うように飛来する氷の矢が青木に突き刺さる。
 舌打ちする青木。氷の矢を飛ばした主……アルバを睨む。
「ここは通さないと言っただろう?」
「……成程。ならばお前達ごと破壊するまでだ」
「アルスレーテさん! 避けて!」
 振りかぶった青木。イスフェリアの叫び。その声に答えるようにアルスレーテがすんでのところで黒い槍を避ける。
「ちょっと! 危ないじゃないの!!」
「ほう? 避けたか。なかなかやるな」
「伊達に鍛えてる訳じゃないのよ」
「貰ったのだあああ!!」
 そこに襲いかかるネフィリアの幻影の腕。
 それは青木に真っ直ぐに伸びて……掴んだ途端消える。
「うみゃあ!? ファントムハンド効いてないのだ……?!」
「あーやだやだ。何なのこの目つき悪ィ兄ちゃん!」
「大丈夫! 続けよう!」
 青木の懐に飛び込む海斗とリューリ。叩き込まれる拳と銃撃。
 感じる確かな手応え。だが、青木に動じた様子はなく……。
「衝撃波来るぞ!」
 アルバの鋭い声。それに反応して飛びずさるハンター達。
 次の瞬間。巻き起こる暴風。震える空気。
 全方位を襲う衝撃波に、遺跡の床がオモチャのように音を立てて崩れる。
「滅茶苦茶な破壊力だなオイ……」
 ギリギリで避けられたものの、食らっていたらタダでは済まなかっただろう。
 呻く海斗の横で、ネフィリアが目を丸くする。
「あいつファントムハンド効かないのだ……?」
「うーん。たまたまなのかな……。とにかく続けてアルスレーテさんに繋げよう」
「あいよー。オッサンちょっと隙作れるよう頑張るわ」
「ええ。きっちり仕事はこなすわ」
「了解。支援する」
「皆、気を付けてね!」
 リューリと海斗に頷くアルスレーテ。アルバとイスフェリアの声にもう一度頷くと、ハンター達は再び散開する。
 一旦距離を取った海斗。
 マテリアルを足から噴射し、風のような速さで黒い歪虚に接近する。
 こいつの攻撃に割り込んで、俺が受けてる間に嬢ちゃん達が殴れれば……!
「海斗さん! ダメ……!」
 聞こえたイスフェリアの息を飲む音。
 目が合った青木の黒い瞳が金へと変わっていて――。
 ……そういえばこいつ、槍投げられるんだったなァ。
 肉が割ける音。続いた衝撃。
 海斗の腹から血が溢れて、真紅の花が咲き乱れる。
 そのまま崩れ落ちる彼。青木はニヤリと笑うと、その髪を掴んで引きずり上げた。
「さて。お決まりの台詞でそろそろ飽きて来たが……そのまま動かないで貰おうか。動くとこいつの命の保証は出来んぞ」
「……あなた、その手段好きね」
「お前達が面白いくらい無効化出来るんでな。仲間意識というのは尊いが、こういう時は足を引っ張るものだな」
 アルスレーテの人が殺せそうな目線を受け止めて口の端を上げて笑う青木。
 ……そうだ。この男の常套手段は知っている筈だった。
 それについて対策を取っていなかったのは痛手だったとしか言いようがない。
「海斗さんを返すのだ! ファントムハンドで捕まえればお前なんてボッコボコなのだ!」
「ほう? 俺に小手先が通用すると思うのか?」
「……っ」
 涼しい顔の青木に歯軋りをするネフィリア。
 勿論、これはただのハッタリで、スキルが効く可能性もある。
 だが、海斗を人質に取られている状態で試すにはあまりにも無謀だった。
「おっと、銀髪の女。動くなよ。お前からは厄介な匂いがする」
「あら。察しがいいのね。こんな状況じゃなければ必殺技お見舞いしてあげるところなのに」
「口の減らない女だな」
「私にはアルスレーテって名前があるの。覚えておきなさい」
 隙を伺うアルスレーテと睨み合う青木。リューリはふう、とため息をつくと顔を上げる。
「……分かった。言う通りにする。その代わり少し質問していい?」
「……!?」
 リューリの言葉に驚いて彼女を見たアルバ。
 彼女は大丈夫だよ……と小さな声で囁きつつ、目線を上に送る。
 ――会話で時間を引き延ばして応援部隊の到着を待つつもりか。
 リューリの意図を察した彼。頷いて、諦めたフリをして後方に下がる。
「燕太郎さんって、その槍ってずっと使ってるの? 歪虚になる前から?」
「……何故そんなことを聞きたがる」
「歪虚になる前の事って覚えてないのかなって思って。親友の為にあんなに怒ってたのに……」
 以前、神霊樹が見せた記憶。それはこの男が歪虚になる前のものだった。
 吹雪く雪山に転移したリアルブルーの小隊。櫛の歯が欠けていくように消えていく隊員の命。
 極限の状態の中で追い詰められて、とうとう上官は正気を失って……。
 そんな中でも『エンタロウ』という人は仲間を救おうと必死だったのに――。
 歪虚となった時に、ヒトとしての心をどこかに落としてしまったのかもしれないけれど。
 ――出来たら、思い出して欲しい。あの人から預かった伝言を伝えなくちゃいけないから。
「覚えていないし、思い出す必要もない。……大事なこと以外はな」
「……大事なこと? 良かった。燕太郎さんにも大事なことってあるんだ! ねえねえ、大事なことってなに?」
「調子に乗るなよ、リューリ。それについて教えてやる理由はない」
 目を輝かせたリューリを跳ね除けた青木。
 イスフェリアは視線にスキルの力を乗せて、じっと彼を見つめる。
 これで魅了されてくれれば海斗を奪い返す隙が生じるが……残念ながら、効いた様子が見られない。
 彼女は動揺を覚られぬようにしながら言葉を紡ぐ。
「私からも質問ね。青木さんはハイルタイとか災狐とか、力を得ることに貪欲なように見えるけれど……。『ビックマーからの指令』と言っていたけど、本当は自分の力にしようとしているんじゃないの?」
「……面白いことを言うな。半分正解だが半分ハズレだ。俺はこの遺跡の能力には興味はない」
「遺跡の能力……? 青木さん、あなたは一体何を知っているの?」
「あの大精霊にでも聞いてみるんだな。もっとも答えてくれる保証もないが」
「イクタサさんしか知らないものを、歪虚のあなたがどうやって調べたの?」
「……何故エンドレスやコーリアス、アレクサンドルが青の世界に渡ったと思っている。自力で渡ったと思っているのか?」
「まさか……!」
 その言葉にハッとしたアルバ。
 紅の世界にいるはずの歪虚が次々と蒼の世界に現れた。
 その原因は――。
「そうだ。こちらにも協力者がいる、ということだ。……さて、ちょっとお喋りが過ぎたか」
「……テメェ、いい加減にしろよ……!」
 死力を振り絞って抵抗する海斗。青木はそれを易々と封じると、海斗の腹を殴りつける。
「……まだ喋る元気があったか。もうちょっと付き合って貰うぞ。さて、ハンター。妙なことをすればどうなるか分かっているな?」
 その間も必死で頭を巡らせるアルスレーテ。
 接近して九想乱麻からのすごいパンチを狙ってみる……?
 いや、海斗を盾にされたら間違いなく殺してしまう。
 だってすごいパンチだもん。当たれば多分青木も泣くくらいには。オーバーキル間違いなし!
 では、動ける全員で総攻撃……?
 ダメだ。どう考えても海斗を巻き込んでしまう……!
「……地獄に落ちなさい。青木 燕太郎」
「負け惜しみか。なかなか面白いな」
 剣呑な目線を向けるアルスレーテにくつりと笑った青木は海斗を引きずったまま歩き出す。
 その行く手を阻むように立ち塞がるハンター達。
 ――そこからは、本当に一方的な暴力だった。

 幾度となく繰り返される青木の衝撃波。
 文字通り、遺跡の盾となり続けたリューリとネフィリア、アルスレーテ。
 アルバも幾度となく土の壁を作り、衝撃波を受け止めて、イスフェリアもただひたすら治癒を繰り返して……。
 一体どれくらいそうしていたのか。
 ……気が付けば、遺跡の入口付近は瓦礫の山と化していた。
「……さて、今回は俺の勝ちか。なかなか愉しませて貰ったぞ、ハンター」
「……アリス!? しっかりしてなのだ……!」
「ネフィリアさん、じっとしてて。動いたら傷が開いちゃう……!」
 瓦礫の上に落ちた羽妖精に手を伸ばすネフィリアをイスフェリアが必死で宥める。
「……覚えていらっしゃい。次は必ずこの温めていた技をお見舞いするんだから……!」
「それは御免被りたいな」
 地に伏したアルスレーテに歪んだ嘲笑を浮かべる青木。
 彼が放り出した海斗を慌てて抱きとめるアルバ。
 青木は振り返りもせずに去っていく。
 ――親友を大事に思っていたあの人。その背中は似ているけれど、あまりにも違っていて……。
 ……ごめんね、セトさん。約束を果たすのはもう少し先になっちゃうかも。
「いたた……」
 遠ざかる青木の背中を見つめながら、リューリは痛みに顔を歪めた。


「ごめん……ごめんなのだ……」
 自身もボロボロになりながらも、力尽きた妖精を抱き抱えて涙を零すネフィリア。
 怖かっただろうに、最期のその時まで、逃げることなくずっと傍で力を与えてくれていた。
 本当にいい子だったのに……。
「これは……」
 応援部隊を伴って駆け付けたヴェルナー・ブロスフェルト(kz0232)は、目の前に広がる光景に言葉を失った。
 神殿の入口だったところは完全に崩壊し、ノアーラ・クンタウと遺跡を繋いでいる地下道にもその瓦礫が押し寄せていた。
「ごめんなさい。ヴェルナーさん。こんなことになってしまって……」
「確かに残念ではありますが……皆さんの命があっただけでも良かったと思いましょう」
 頭を下げるイスフェリアに、物憂げな目線を送るヴェルナー。
 酷い有様ではあったが、ハンター達が文字通り壁となっていた為、青木は『その場』を手当たり次第に破壊し尽くした。
 この破壊が遺跡全体にどう影響するかは分からないですが……とヴェルナーは言葉を続ける。
「破壊されたのが入口付近だけであれば、奥の祭壇は無事である可能性があります。とはいえ、それを確認するのも時間がかかりますがね……。ともあれ、今は戻って皆さんの手当てをしましょう」
「……本当にすまない。手伝おう」
 ヴェルナーに頷くアルバ。土埃が舞い上がる遺跡を振り返り、その光景を目に焼き付ける。
 ――この光景を忘れるな。
 この屈辱は必ず晴らす……!
 そう心に誓った。

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  • 爆炎を超えし者
    ネフィリア・レインフォードka0444
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマka0502
  • 自爆王
    紫月・海斗ka0788
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラーka6148

参加者一覧

  • 爆炎を超えし者
    ネフィリア・レインフォード(ka0444
    エルフ|14才|女性|霊闘士
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 自爆王
    紫月・海斗(ka0788
    人間(蒼)|30才|男性|機導師
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 正義なる楯
    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/18 02:45:06
アイコン 黒いのに青木(相談卓)
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/11/19 23:24:52