• 黒祀

【黒祀】深き絶望の環の中で

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/11/29 09:00
完成日
2014/12/03 10:10

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●王都のある避難民街にて

 少女は知っていた。
 世の中には死よりも、恐ろしい事がある……と。

「くそガキがぁ!」
 言葉と共に、容赦なく蹴られる。
 その衝撃で少女がボロ家の壁まで転がった。
「たらねぇのは、おめぇが悪いんだろうがぁ!」
 酒瓶が飛んできて、少女の頭に当たった。
 瓶が割れる事はなかったが、少女の額が割れて、真っ赤な血が流れる。
「ったく、話にならねぇ」
 少女を蹴って酒瓶を投げた男が唾を吐きながら、ボロ家から出て行く。
 なにか、外で喚いている声が聞こえてくるが、やがて、遠くに行った様だ。
 少女は深いため息と共に起き上がる。
 足らないのは食費や酒代。そのほとんどは、父親である、あの男が自分で消費していた。
 理不尽……その言葉の意味を少女は誰から教えてもらうまでもなく理解している。
「片付けしなきゃ……」
 ヨロヨロと散らかった皿を片づける。
 母親は、小さい頃に病気で死んだ。
 もっとも、残っている母親の記憶は、いつも怒った顔をして、物を投げつけてくる事位だが。
「お仕事も探さなきゃ……」
 豚小屋の掃除の仕事をもらっていたが、歪虚の襲来で豚小屋が火事になり、仕事もなくなった。
 いっその事、歪虚に殺された方が良かった。
 少女はそう思った。
 希望という言葉を捨てて幾年が過ぎた。
 残っているのは、この先も絶望だけの毎日が続く事。その絶望に少女は打ち負かされていた。

●転機
 ある日の事だった。
 報奨金欲しさに戦場へ向かった父親が戦死したという知らせが、見舞金と一緒に届いた。
「……」
 少女は考える。
 この見舞金を使い切ったら、食べ物を買えず、餓死するだけだ。
 どうせ、死ぬなら、最後、このお金で好きな事をしてみようと思いつく。

 お姫様の様な、綺麗なドレスみたいな服を着てみよう。
 お腹いっぱいお菓子を食べてみよう。
 沢山の本を好きなだけ買ってみよう。

 少女の心に湧いた、僅かな願望だった。


 世の中には死よりも、恐ろしい事がある……と少女は思いだした。
 街に出た少女は、裏路地でゴロツキ共に捕まった。
 お金を盗られる。
 いっぱい殴られる。いっぱい蹴られる。紐で縛られ、どこかに運ばれる。

(あぁ……そうだった。こんな世の中なんだ)

 ゴロツキ共の根城だろうか。王都の外、林の中に汚いテントが張ってある。
 適当な木の幹に身体を縛られる。

「こんな娘どうするんだ?」
「どっか欲しいのいるだろう。売りつければ金になる」
「小娘を味わってみようかな」
「相変わらず変態だな、お前」

 ゴロツキ共が、そんな会話をしている。

(もう……どうなってもいい……)

 虚ろな瞳で少女は思っていた。
「なんだてめぇ!」
 ゴロツキの叫び声に、少女は顔をあげた。
 林の中から、誰か出てきた。
「人の気配を感じて来てみれば、下郎か」
 フードを深く被っているからわからないが、声から男性ではないかと思う。
 着ているローブは薄汚れ、所々血痕が染み込んでいた。
「すましてるんじゃねぇ!」
 殴りかかったゴロツキ。
 だが、次の瞬間、そのゴロツキの首と胴は離ればなれになる。
 いつの間に、ローブの人物は黒い剣を持っていた。
「やりやがったなぁ!」
 残ったゴロツキ3人ばがりが一斉に刃物を持って飛びかかる。
 だが、ローブの人物は気にした様子なく、剣を振るっていった。
 あっという間にゴロツキ共は動かなくなって、枯葉の絨毯に血だまりを作る。
 その時、風が吹き抜け、枯葉と共に、フードが外れた。

 その人物は、幾何学模様が特徴の角が2本生えている美男子だった。
 片方の角の先端が折れているが、そんな事は気にならない。
(まるで、絵本の中の王子様みたい……)
 小さい頃によく読んでいたお気に入りの絵本を思いだした。
 虐げられていた町娘が、王子様に助けられるという話だったはず……。
 見惚れていると、その人物が剣先を向けてきた。
 きっと、自分もゴロツキの様にさっくりと殺されるのだろう。でも、少女は怖くなかった。むしろ、嬉しかった。これで、絶望が終わると。
 だから、この人物は、私にとっての王子様なんだと思う。
 だが、剣は振り下ろされず、突き刺されもしなかった。
 その時、王都の方から誰かが来る音が響く。
 一瞬、その方角に注意を向けた人物は、舌打ちすると、少女を見つめた。
「良い目だ。深い絶望と、狂気を感じる。もし、貴様が絶望の中で死にたいのなら、私の所へ来い」
 そう言い残し、林の中へ消えて行った。

●とあるハンターオフィスにて
「最近、ある避難民街の方で、強盗や誘拐事件が発生しています」
 受付嬢が依頼書の説明をする。
 事務的な様子が特徴的で、どこかしら冷たく感じるが、そういう人間なのだろう。
「街に入り込んだ歪虚の仕業だと当初は思われていたようです」
 資料には、ある避難民街が示されていた。
 ゴロツキの数は4人。小剣で武装している。根城は王都内ではない様子。
「歪虚への対応で、人手が足りません。そこで、解決の為に皆様に依頼が出たのです」
 淡々と状況を説明する受付嬢。
「依頼内容は、連続強盗犯のゴロツキ4人の根城の探索及び、捕縛です。なお、抵抗する場合は実力で排除しても良いです」
 既に殺人も犯しているのでと補足説明する。
 これ以上、被害の拡大、治安の悪化は防ぎたいという事だろう。
「これは未確認情報なのですが、少女が連れ去られるのを目撃したという話もあります。本当であれば、少女の救出もお願いします」

リプレイ本文

●闇市にて
 若い男女のペア。だが、今日はデートではない。
 瀬織 怜皇(ka0684)とUisca Amhran(ka0754)の2人は、闇市で強盗の聞き取りを行っていた。
「貧しい人から、さらに奪い取ろうとする卑劣な行為、絶対許せません」
 ぷくっと頬を膨らませ怒るUiscaに、瀬織が身体をぴったりと寄せ付ける。
 2人は強盗について聞き込みをしていたが、闇市の人達は首を横に振るだけだった。
 それでも、Uiscaは諦めなかった。金を手にした強盗が賭博場や娼館に金をつぎ込んでいると目星をつけていた。
 ある店の前に着く。日中に開いている如何わしい店は、この闇市ではここしかない。
「女性を舐めてもらっては困りますよ」
「必要なら、俺が口説こうか?」
 何気なく口にした言葉に、Uiscaの表情が険しくなる。
「と思ったけど、止めておくよ」
 言い直して正解だ。
 ニッコリと笑ったUiscaの顔がなにか怖い。
「お邪魔します」
 入った店は、女性が1人で店番をしていた。
「ここはあんたみたいな娘が来て良い所じゃないよ」
 言い方は乱暴だが、なにか愛情を感じさせる口調だった。
「俺達は強盗について調べている者だ」
 瀬織の言葉に、女性がため息をついた。
 片手で小さく手招きをする。
「なにか、知っているのですか?」
 カウンターに近づき、Uiscaが訊ねる。
「支払いも態度も悪いのがいてね。噂では、悪い事もしているっていう野郎共なら知っているさ」
「それは4人組ですか?」
 瀬織の質問に、女性は頷いた。
 偶然の一致という事もあるので、当たりというわけでもないだろうが、貴重な情報に辿り着いた感じがする。
「どこにいるか知らないけどね。けど、前にその内の1人が、『住処の杉』がなんたら言ってたよ」
「住処に……杉……ですか……」
 Uiscaが首を傾げる。
「ありがとうございます。な、なにかお礼を……」
「礼なんていいよ。まぁ、どうしてもって言うなら、そのお兄さん貸してくれれば」
 前屈みになって、笑顔で誘う女性。
「そ、それは、絶対にダメです!」
 大慌てで、持ち歩いていたネックレスをカウンターに置くと、瀬織の手を引っ張って店から出て行く。
「熱いわね~」
 残念そうな女性の声が響いた。

●通用門にて
 10歳位の浴衣姿のエルフの女の子。
 その真横で、タバコを吹かす男性。
 星輝 Amhran(ka0724)と伊勢 渚(ka2038)の2人だ。
 先程まで、別区画の通用門付近で、人買いの業者等を聞き取りをしていたが成果はなかった。
 星輝が奴隷少女役なのだが、急な余所者は、警戒されているのだろうか。
「手が回らないのをいい事に悪党がのさばりやがる世界だ、血反吐が出るというもんだな」
「幼子を拐うとはとんだロリコンじゃな♪ 弄り甲斐がありそうじゃ!」
 2人がそんな会話を交わす。
 今は外へ通じる通用門で休憩がてら、門の出入りを注視していた。
「いってくるのじゃ」
 フラフラと星輝が離れて行くと、適当な路地に入った。人攫いが出てくる事を期待しての事だ。だが……簡単に遭遇しないものだ。
「酒場を探すか」
 伊勢がやってきたその時だ、路地の先から数人の衛兵の姿が見えた。
「人身売買があるという通報があった! お前達! 詰め所まで来い!」
 思わず、星輝と伊勢は顔を見合す。
 今、詰め所に行っていたら貴重な時間を失う事になる。
 2人は申し合わせるよりも早く、脱兎の如く走り出した。
 追いかけてくる数人の衛兵。
「こっちだ」
 ある路地を曲がった直後、扉が開き、1人の男が呼びかけてきた。
 不安を感じつつも、2人は中に入る。扉が閉まった直後に衛兵達が駆け抜けていく。
「感謝する」
 伊勢が謎の男に感謝の言葉を告げた。
「気にする事はない。そんな上玉を連れているのだ。必死にもなろう」
 指差した先には、星輝。
「あ、あの……貴方様がわ、私のご主人様……に、なる……」
 好機とばかり、身体をびくびくと震わせて演技をする星輝。
 が、それは途中で止まった。
 走っていたのを、この謎の男は見えていたはずだ。売られる少女が衛兵から逃げる事はない。
 伊勢に目配せする。預けていた武器を私に戻して欲しいと。
「おっと、待った。慌てるなよ。俺はあんたらに有意義な話をするんだぜ」
 謎の男は、別の扉を指差した。出口は他にもあると伝えているのか。
「4人組の強盗の情報を闇市で聞きまわっているハンターがいるって聞いてね。君らはその仲間だろ」
「なにが言いたい」
「暗黙のルールってものがある。それを守れない馬鹿はいらないという事だよ」
 ニヤリと笑う謎の男。
「奴らは、王都の外の林の中を根城にしている。まぁ、林のどこかまではわからないがな」
 そう言って、スッと扉から出ていった。
 慌てて追いかけるが、外へ出ると、既に、その男の姿は消えていた。

●ある避難民街にて
 ヴァイス(ka0364)とNon=Bee(ka1604)が避難民街を歩く。
 武装している2人の姿を見て、怯える様な表情の人。対抗的な視線を飛ばす人など、様々だ。
 それでも、Nonは気にした様子もなく、笑顔を浮かべながら歩いている。
(ヴァイスちゃんとの聞き込み楽しいわね)
 そんな事を口にしたら、きっと、複雑な表情するかしら。
 ヴァイスは真剣な表情で避難民に聞き込みをしていた。
 2人は避難民街を広く当たっている。
 その中でも、長時間外にいそうな人を重点に聞き取ったが、情報が掴めない。
「強盗や誘拐事件流行ってるんですってね」
 Nonが事前に用意していた酒を振舞いつつ、訊ねる。
「……酒は嬉しいが、あまり、感心できねぇ話だな」
「なにか、知っているのか?」
 ヴァイスの言葉に酔っぱらいは頷き、杯を突き出してきた。
 丁寧にお酌するNon。
「ここらは、元締めがいるんだよ。だから、誰もなかなか、そういう話はしない」
 単に聞き込みをしても情報が出てこないわけだ。
「おじさんは大丈夫なの?」
 Nonの色仕掛けに、酔っぱらいは良い気分の様だ。
 真実を知ったら後悔するかもだが……。
「俺にも言えねぇ話はあるからな」
「それじゃ、最近いなくなった子とか、知らなぁい?」
 Nonの言葉に酔っぱらないが首をしばし傾げた。
「そんなのは知らないが、可哀想な女の子はいるわな」
 そう言って指差した方角には、一軒のボロい家がある。
「少し前まで、毎日、男の怒号がしてな。1人娘がいるんだが、虐げられてるって噂だ」
「酷い話だな」
 ヴァイスの感想に酔っぱらいが頷いた。
「まぁ、その男も、歪虚の襲来で死んだって話だし、女の子はどうしているかな」
 酔っぱらいはそう言って立ち去った。
 心配になったのか、Nonがそのボロ家の戸を叩くも誰もいないようだ。鍵も掛っている。
「そろそろ、合流の時間だな」
 窓から中を覗き込んだNonに対してヴァイスが告げた。

●深き絶望の環の中で
 合流したハンター達は集めた情報を共有し合う。
 根城は王城外の『林』。そして、目印となるかもしれない『杉』。
 その意味はすぐに理解できた。王城の外に出た彼らは、林の中に一際目立つ大きな杉を見つけたからだ。

 気配を消して近付く一行。
 いよいよ根城らしきものが見えたと思った時、ヴァイスが大剣を構えて飛びだした。
「無事……のようだな、良かった。……しかし、この状況は……」
 強盗と思われる男共4人が血を流して既に死んでいる。
 近くの木の幹にボロボロの姿で、少女が縛りあげられていた。
 すぐさま、Uiscaと瀬織が傍に寄り、縛り紐をはずす。
「あ、ありがとうございます……」
 少女が緑色の髪を揺らしながら頭を下げた。
 Uiscaが回復をかけると共に、瀬織が携帯食を手渡した。
「私達はハンターよ。あなたを助けに来たの」
 Nonの台詞に、少女はまるで他人事のように、返事をしただけだった。
「なにがあったのか、教えてくれる?」
 そして、少女は語り出した。自分の事と、林の中で起こった出来事について。


「ふむ、イケメン歪虚とは確か、友人が話しておった歪虚を思い出すの?」
 星輝の言葉にヴァイスも頷く。
「イケメンならぜひお近づきになりたいわねぇ。胸板の薄い男には興味ないけど」
 Nonは軽口に、伊勢が苦笑を浮かべた。
 そこに、少女とUiscaがテントから出てくる。
「とても、似合っていますよ」
 微笑を浮かべる瀬織。
 少女はボロボロの服の代わりに、瀬織が持っていたドレスへ着替えていた。
「なんで、女の子の服を持ち歩いていたのかな」
 着替えを手伝っていたUiscaが冷たい声で訊ねる。
 返答に困っている所にNonが、「色々あるのよ」と楽しげに言って、瀬織をフォローする。
「こ、こんな服を着るの初めて」
 少女の声は、はずんでいるようだ。
 そこに、Uiscaが少女の手を取り、指に宝石の指輪をはめる。
 キラキラと輝く宝石に少女が驚きの表情を見せた。
「最後に綺麗な物を身に着けたいなら、それをあげます。でもそんな刹那的な欲求を満たすだけでは貴方のお義父さんと同じですよ?」
 その言葉で、現実を思い出したようだ。
「お父さん……」
 俯いた少女に、瀬織が声をかける。
「……世の中には絶望する事も多くあります。でも、その中で大事なのは、自分自身です」
 彼の言葉は続く。
「どんなに辛くても死より絶望する何かがあっても、自分を見失わなければ必ず光は訪れます。諦めてはいけないんです」
「……私、なにをしてもいいのか……」
 常に絶望が覆っていた少女には、自分が何者かも、失っている様だった。
「ハンター適性でも調べてみるか?」
「やりたい事がないなら、巫女見習いとして働いてみませんか?」
 ヴァイスとUiscaがそれぞれ誘ってみる。
「……わからない」
 少女の絶望に、光は届かないのか。
 そんな事を思わせる様な暗い表情。
「人は必ず生まれ変われるわ。きっと大丈夫よ」
 優しい口調で話をしながらNonが、少女の緑の髪にリボンをつける。
「まずは自分で自分に名前を付けてあげる事。あたしもあたしの名前は自分で付けたのよ」
「私の名前……」
 しばし、少女は悩む。
 だが、そうそう簡単に思い浮かぶ事でもないみたいだ。
「思いつかないならそうね。思いつくまで、希……のぞみ……なんてどうかしら、リアルブルー風で素敵じゃない?」
「のぞみ……私の名前……。ありがとう、お姉さん!」
 元気そうな表情でNonにお礼を言う少女。
 『お姉さん』は正確には違うのだが、そこに指摘をする様な者はいない。
「誰だ!」
 伊勢が銃を林の奥の方へ向けながら、警戒の声をあげた。
 全員がハッとなってその方向を見ると、歪虚が不気味な笑みを浮かべていた。
 少女は、絵本の王子様のようだと言っていた。なるほど、確かにイケメンではある。
「俺達はお前の全てを救う王子様じゃない。けど、絶望に押しつぶされるな」
 少女の頭を優しく撫で、ヴァイスが進み出る。
「友人が角ある歪虚と戦こうたとか……名は確かネル・ベル。是非とも手合わせ願いたいのじゃ!」
「ほう……私も有名になったものだ……」
 星輝の言葉に不敵な笑みを浮かべるイケメン歪虚。
 だが、戦うつもりは無さそうにも見える。
 伊勢は銃を構えてそう思った。
「なぜ、あの娘を助けた?」
 ヴァイスが警戒をしながら訊ねる。
「フラベル様の手土産に面白い玩具だと思っただけだ」
 その台詞に少女を庇うようにNonが抱きしめ、その前をUiscaと瀬織が立ち塞がった。
 一方、ヴァイスと星輝がアイコンタクトを取る。
 フラベルがハンターに倒された事を、この歪虚は知らないかもしれない。
 もし、真相を知ったら、ヴァイスを真っ先に狙ってくる事だろう。
「フラベルは目の前で無様に逝きよったのぅ……? あの断末魔は、今でも鮮明に、爽快に耳に響きよるわ」
 挑発するかのような事を言う星輝。
「ば、馬鹿な事を。フラベル様が負けるはずがない」
 なにか、思い当たる節でもあるのだろうか。
「も、もはや、ここには用はない。さらばだ!」
 次の瞬間、上空からキーンと叫び声をあげて何かが急降下してくる。
「この叫び声は……雑魔だ!」
 伊勢の言葉と共に、なにかが急降下し、爆風が落葉と共に吹き抜ける。
 爆風がおさまった後に見えたのは、やや大きい飛行型雑魔の脚に掴まって、去っていく歪虚の後ろ姿。
 銃を構えていた伊勢が発砲する。しかし、銃弾は歪虚の頬を掠めただけだった。
 再度狙いを定める。
「ま、待って!」
 慌てた様な少女の言葉。
 伊勢は静かに銃を下ろした。少女の気持ちを汲んでの事だった。
 少女にとっては、強盗から助けてもらった『王子様』なのだ。
 『王子様』の代わりにはなれないが、この後、少女に望む事があれば付き合ってやるかと、飛び去って行く歪虚を眺めながら伊勢は思った。

●その後
 少女は、すぐに行き先が決まらず、一先ず、孤児院に預けられた。
 数日後、次の行き先が決まりそうな時になって、孤児院の院長がハンターオフィスにやってきた。
「本当に申し訳ないのですが、希という名の少女が失踪しまして……」
 受付嬢に申し訳なさそうに、その院長は言った。
 表情は疲れ切った顔をしている。歪虚の襲来で、どこの孤児院も大変な状況なのだろう。
「私達が、もっと関わってあげられれば、違ったかもしれません……きっと、孤独だったのでしょう」
 少女は二日三日の間は元気にしていたそうだ。
 だが、その後から寂しげな顔で遠くを見つめている事が多かったという。
「せっかく、少女の為に動いて下さったハンターの皆様には、本当に申し訳ないです」
「院長さんの責任ではありませんよ。きっと、ハンターもそう思ってくれます」
「少女の荷物の中に、ハンターの皆様に当てた手紙がありまして……」
 院長はその手紙を受付嬢に渡した。
 そこには、絶望から救ってくれた事、名前を付けてくれた事等、沢山の感謝の言葉が並んでいた。
 そして、最後には、新天地を目指しますと書かれていた。
「大丈夫ですよ、院長さん。きっと、少女は絶望から救われたはずです」
 声を出して泣き出した院長に、受付嬢は励みの言葉を伝えるのであった。


 おしまい。


●とある戦場跡にて
「フラベル様……やはり……」
 ネル・ベルが崩れ落ちた。
 フラベルとハンターの戦いを目撃したという歪虚から事実を聞いた。
 拳に自然と力が入る。フラベルに決定打を与えた人間の姿形が酷似している者と出逢っていたのだから。
「おのれ……」
 怨念の言葉が口から漏れた時だった。
 突如、この戦場跡のあちこちから負のオーラが立ち上る。
「これは……?」
 残滓ともいうべきなのか、それとも、戦場に残った怨念なのか。
 それは、突如、彼の身体に流れ込んできた。
 声にならない叫び声をあげる。
 やがて、一つの『影』となると、西の方角に向かって消え去っていった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 9
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • Beeの一族
    Non=Beeka1604

重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 聖なる焔預かりし者
    瀬織 怜皇(ka0684
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • Beeの一族
    Non=Bee(ka1604
    ドワーフ|25才|男性|機導師
  • 白煙の狙撃手
    伊勢 渚(ka2038
    人間(紅)|25才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】
Non=Bee(ka1604
ドワーフ|25才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/11/28 20:38:18
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/11/25 07:37:12