• 初心

【初心】Encounter~海上戦~

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
LV1~LV20
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/11/23 15:00
完成日
2017/12/06 21:53

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●はじめてののおつとめ

 ゾンネンシュトラール帝国の帝都近郊の街に所在するハンターオフィス。
 ツルッツルの頭以外は極めて平凡なハンター只埜 良人(kz0235)がいつも通り出勤すると中年の男性職員に呼び出された。
「何かありましたか」
「お前さん、ここの仕事に大分慣れてきたようだからちょいと遠方に届け物を頼むわ」
 職員が腕に一抱え分ある紙箱を指差す。箱の上部には『ハンターズソサエティ本部御中』と大きく書かれていた。
「ソサエティ本部へこの箱を届けよと?」
「ああ。このオフィスに常駐してるモンの中で転移門を使えるのはお前だけだ。これからあっちに行ってもらう機会が多くなるだろうから、あちらさんに挨拶しとくといい」
 転移門は覚醒者のみが利用できる特殊な移動装置である。どれほど離れた距離であろうとも門さえ存在する場所ならば一瞬にして転移できるため、世界をかけめぐるハンターたちにとっては重要なオブジェクトだ。
 ――働き者の良人はいつものように微笑むと箱を抱えた。
「了解しました。ただ初めての場所ですから挨拶に時間がかかるかもしれません。戻るのが少し遅くなっても問題はありませんか?」
「ああ、構わん。せっかくだからあっちの街を見てくるといい。賑やかな良い街だ」
「それは楽しみです。……では、行って参ります」
 良人は職員に軽く敬礼すると転移門の向こうに姿を消した。

●出会い

 転移門を通り抜けた良人が見たものは、大勢の人が行き交うホールだった。
(さすがは本部というだけのことはあるな。さて、どこへ行ったらいいものか)
 傍の案内板を見るが、自分が通う小規模なオフィスと異なり行き先が無数に示されている。足を止め、周囲を見回した。――その時。
「わ……」
 背後からあどけなさの残る声が聞こえた。慌てて振り向くと、そこには小柄な少年がいた。いとけなさの残る顔だちが愛らしいが、目線がぎこちなく横へと泳いでいる。
(む、邪魔になったか)
 慌てて片足を横へずらす。すると少年が「こんにちは」と早口で言った。良人が挨拶を返す。――少年は少し驚いたような顔をして、ふいと良人を追い抜いた。
(やはり邪魔だったんだな。悪い事をした。……ん、あの子は転移門から出てきたな。ということは同業者か)
 少年の背を目で追うと、その上には「総合案内」の案内板が吊り下げられている。僥倖とばかりに良人は少年についていくことにした。
(あの子、足が速いな)
 少年を見失わないように良人が足を早める。すると彼はこちらへ振り返るたびに泣き出しそうな顔になり、最後は小走りになった。
(ああ、やはり俺のせいで! きっと急ぎの用事があったんだな。あんなところで足を止めるべきではなかった!)
 後で謝ろう、そう思った。だがそこで目的地に到達したことに気づく。
 少年がカウンターで受付嬢へ書類を突き出した。良人もそれに倣い、隣のカウンターへ紙箱を置いた。そして挨拶する――と隣と声が重なった。
「帝国のハンターオフィスから荷物を届けに参りました」
「辺境のハンターオフィスから書類を届けにきましたっ」
 涙目の少年がきょとんとした顔でこちらを見る。良人は思わず「おや」と気の抜けた声を出した。

●視線の先にあるもの

「へぇ、良人おにいさんはおまわりさんだったんだねー」
「おにいさんと呼ばれる歳では……いえ、好きに呼んで下さい。香藤さんの方が転移者としても、ハンターとしても先輩ですから」
「『先輩』だなんてそんな、照れちゃうなぁ~。あ、玲でいいよ?」
「いえ、そういう訳には」
「僕が緊張しちゃうからっ。ね?」
「そうですか? では、玲さんで」
「『さん』も要らないんだけどなぁ」
 休憩スペースで少年こと、香藤 玲(kz0220)は良人が先ほどの詫びのしるしに購入したココアを啜ると屈託なく微笑んだ。
 彼はリアルブルーからの転移者であり、普段は辺境のオフィスで「お手伝い」をしているという。しかもクラスが良人と同じ聖導士となれば不思議な縁を感じざるを得ない。
 互いに自己紹介を終えると、玲は朗らかに他愛のないお喋りを始める。その様子に良人は思わず胸が切なくなった。
 玲が今まで乗り越えてきた苦労を想い、そして自身がリアルブルーに残してきた家族のことを想えば胸が痛くなって俯いてしまう。しかし玲の声はその痛みを拭うほど明るくて――。
「ねえ、良人おにいさん。僕の話きいてるー?」
「はい、辺境のおいしいものの話ですよね? いつか食べに」
 咄嗟に笑みを作って玲の方を向く。だがその時、玲の目は良人の顔ではなく額から上を見ていて――そして初めて会った時のように気まずそうに横へ泳いだ。

●海での騒動

 2人の会話に一段落がつき、再会を約束して立ち上がった時のこと。
「た、大変だ! すぐに港へハンターを寄越してくれ!」
 漁師の男が真っ青な顔でオフィスへ駆け込んできた。
 良人が彼に声をかけると男は深呼吸してから吐き出すようにして言う。
「さっき漁をしていたら見たんだよ、海の方からバケモンどもが港へ向かって来ンのを! ありゃセイレーンっつーのか……恐ろし気な女とその取り巻き、空には不気味な黒い海鳥が飛んでてよ。最初は獲物になりそうな船が通りかかるのを待ってる風だったが、船が来ねぇから気が変わったのか、港の方へゆっくり進み出してよぉ」
 良人はその集団の行く先を想像し、爪が食い込むほど拳を固く握った。リゼリオほどの街ならば港にはまだたくさんの人がいるだろう。それに敵の侵入を許せば大切な舟や網を破壊されてしまう。
「そいつらを港に入れてしまったら大変な事になります。玲さん、行きましょう」
 義憤にかられた良人はきっと先輩の玲も同じ想いだろうと信じ、後ろにいる彼に振り返った。しかし彼は何故か先ほどより数歩下がった位置に移動している。しかも「はひ!?」と悲鳴のような返事がかえってきた。
(玲さんは多感な年齢だ。きっと漁師達の苦難に胸を痛めたのだろう。ここは俺がしっかりせねば!)
 良人は気合を入れると、漁師の報告から思いつくことを口にする。
「船は借りれば良いとして、厄介なのは鳥ですね……生憎俺は飛行ユニットを持ち合わせていません。玲さんは?」
「はひ……こないだ龍騎士隊長さんのおすすめでワイバーンを、」
「それは結構。では俺は船から海中の敵を、玲さんは空中の敵をお願いします」
「はひ!? で、でもまだ実戦に出したことなくて、」
 声を上ずらせる玲を見て、良人は思った。
(初めての空戦となれば武者震いのひとつでもするだろう。サポートへの責任意識は地上戦より強いはずだから……玲さんに心配させないよう、俺も力を尽くすしかない)
 ますます気合が入り、良人はオフィスのホールへ向かうと高らかに声を上げた。
「緊急の依頼です、どなたか手を貸していただけませんか!?」
 休憩スペースで頭を抱え込む玲をそっとしておいたままで。

リプレイ本文

●海原へ

 リゼリオの港に設置されている桟橋。そこに重厚な造りの船が接岸がすると、桟橋で待つハンター達に向かって船乗りが甲板から身を乗り出して叫んだ。
「あんた達が歪虚退治に来てくれたハンターさんかい?」
「はい。とても立派なお船……こちらのお船に乗せていただけるのですか?」
 ミーア・インフェル(ka7052)が桃色の瞳を驚いたように瞬かせる。
「ああ、リゼリオの危機ってんだから、とびきり頑丈なやつを持ってきた。さあ、早く乗ってくれ。歪虚のいる沖へエスコートするからな」
 船乗りは気前よく笑うと乗り込み用のタラップを下ろした。

 木綿花(ka6927)は甲板に上ると港に佇む2人のハンターを視界に収め、心配そうに息を吐いた。
 その2人のうち、片方は今回の依頼において人集めを行った只埜 良人(kz0235)。もう1人は過去の依頼で顔見知りとなった香藤 玲(kz0220)だ。
 玲は上空から港に向かう歪虚の群れに立ち向かうべく、今回初めてワイバーンに乗り戦場へ向かうという。彼の表情には当然のように硬さが残っていたが――彼は良人と何度か言葉を交わすと仲間たちの待つ岸壁に向かい歩いていく。
(玲ちゃん、良かったのかな……)
 木綿花は玲の小さな背を見守り、彼の無事の帰還を願った。
 マルセル=ヴァラン(ka6931)は皆より遅れて船に乗り込んできた良人に穏やかな視線を向ける。
「先ほど上空に向かう方とお話しされていたようでしたが……」
「ん、あちらと連絡手段の確認をな」
 良人が上着の裾をたくし上げ、腰に括りつけたトランシーバーを見せた。
「なるほど。緊急時の備えですね」
「ああ。だができるなら空海とも早く解決して、互いに気持ちよく戦勝報告といきたいものだな」
「それはもっともです」
 マルセルが笑う。彼の大人びた顔立ちの中に不思議なあどけなさが漂った。

●船上にて

 船が沖に出たのを確認すると、ファリン(ka6844)は同行者のモフロウを腕に乗せた。
「モフロウさん、力を貸してくださいね」
 彼女の緑の瞳が覚醒により鮮烈な琥珀色に変わる。そして彼女の視界がモフロウの瞳とリンクした。すぐさまバサバサと羽音を立てて飛んでいくモフロウ。――空中からの索敵開始だ。
 木綿花は同行のハンターに挨拶を済ませるとこの船の船長に歩み寄った。
「雑魔の群れに近づきましたら、なるべく周囲を敵に囲まれないよう、群れの来る方向に対して船首が横を向くように移動できませんか」
「ああ。少々荒っぽい動きになるが、それでも良ければ」
「ありがとうございます。船員の皆様もこの船も、私たちがお護りしますのでご安心ください」
 胸に手を当て、淑やかに一礼する木綿花。その可憐さに船員たちの胸が高鳴ったのはいうまでもない。

 カリン・フェシリア(ka6997)は良人の頭をちらりと見ては、ふいと目を逸らした。
(あの人、頭つるつるだ。若そうに見えるのに……)
 冬の海風が容赦なく船上に吹きつける。カリンは視界の隅に映るむき出しの頭皮がひどく気の毒に思えてきた。
(さむそ……はっ、もちろん声には出さないよ! 言っちゃいけないこともあるって私知ってるっ)
 思わず身震いする妹に姉のカレン・フェシリア(ka6998)が心配そうに視線を投げかける。
「カリンちゃん、震えてどうしたの? 寒いならお姉ちゃんの手で温めてあげましょうか~」
「だ、大丈夫だよ、お姉ちゃんっ」
「あら、カリンちゃんは奥ゆかしい子ねえ」
 クスクスと笑みを漏らすカレン。だがその声に重なるようにファリンの鋭い声が響いた。

●遭遇

「南南西の方向に歪虚の群れを発見しました! 思ったより動きが速い……間もなく接触します!」
 ファリンの声に続いて索敵に出ていたモフロウが慌しく帰還する。短時間での帰還が叶う距離とくれば、もはや猶予はない。
 カレンが即座に手持ちの札から2枚の札を引いた。
「私の占いでは~……嫌だわ~、左右に綺麗に分かれてるのねえ」
 占いの結果に唇を噛んだ木綿花が船首に身を寄せ、南南西の海を鋭敏な目で見つめる。すると前方の水面下に潜む影を発見し、彼女は声を高く上げた。
「船長さん、お願いします!!」
「おう!」
 豪快な操舵で速度を上げながら旋回する船。その衝撃に耐えながら、ハンター達は前方の影を見確認する。数は、3つ。
「占いによるとこの他にも敵がいて挟み撃ちを狙っているのですよね。……どうか青龍様のご加護がありますように……」
 マルセルが前衛を務めるミーアの抵抗力が高まるよう、レジストの魔法を唱えた。
 ファリンが槍を構えて警戒を続ける中、カリンは体内を巡るマテリアルを守りの力に変える。ミーアも守りの力を体に漲らせ、船倉や船長室に駆け込む船員達に声を張った。
「船員さま方はしっかりと安全なところにいてくださいね! 戦うことはミーアの役目ですから!」
 その声と同時に。魚群が船首と船尾の方向からまるで大きな牙がかみ合わされるがごとく、甲板を狙い水面から魚群が飛び出した!
「ただのお魚であればよかったのですけれど……歪虚ともなれば話は別です!」
 グローブで覆われた華奢な腕が大きく振りぬかれる。船首側の魚群はそれを避けるほどの知能を持ち合わせていないのだろう。彼女の拳に次々と潰される。しかし船尾側の魚群もまた、ミーアを目掛けて飛び掛る。
 その時、カレンが1枚の符を宙に放った。符は鳥に変じ、ミーアを守る盾となった。また、魚群は粘着性のある体液を撒き散らしたが、先ほどのマルセルのレジストにより事なきを得た。
「ありがとうございます、カレンさん、マルセルさん!」
「私に支援はお任せよ~♪ カリンちゃんとのお仕事だもの、かっこ悪い所は見せられないし頑張るわぁ~」
 カリンが天真爛漫な姉の言葉に頬を紅く染めた。
 しかし敵の襲撃は収まらない。続いて魚群の第二波が前方から左右に分かれてやってくるのを木綿花は見逃さなかった。彼女は仲間たちを攻撃に巻き込まないよう金属鞭を強く握ると前に踏み出した。
「1匹たりとも港には、いれません。行きなさい、轟炎よ!」
 鞭を経由して高められた魔力の炎がいとも簡単に2つの魚群を灰に変えていく! しかし炎の中からしぶとく生き残った魚が他の群れに合流しようと再び大きく跳ねた。――これを好機とばかりにファリンが迎え撃つ。
「お仲間のところには行かせません!」
 自分の身長をゆうに超える大槍で射程内の敵を鮮やかに薙ぐ。その動きはまるで舞のように軽やかだが威力は十分。木綿花とファリンのコンビネーションによりほんの数秒で魚群は半壊の憂き目に遭うのだった。
 マルセルはカレンの前で盾を構えながら、今度はカリンへとレジストを付与した。
(今のところ戦況に問題はなし……しかし3つの影はどこに行ったのか)
 いつの間にか見えなくなった水面下の影に彼は不安を抱いていた。そこで仲間たちに船の内側で戦うよう警告しようとしたところ――硬質な何かが木を突くような音が突然下方から聞こえてきた。
 良人が音の聞こえた方に向かい、船縁から海を覗き込む。そこでは2体の半魚人が銛を使い、器用に甲板へ登ろうとしている。そして彼らの後方では奇怪な姿の美女が胸から上を水面から露わにし、不気味な歌を紡いでいた。
 良人は仲間たちに新たな敵の出現を告げると、ファリンに守護の祈りの言葉を唱えた。長槍を自在に操るファリンなら半魚人と互角以上の戦いができると見込んだのだ。
 下品な声を上げながら甲板に上り詰める半魚人たち。ファリンは息を整えると再び槍を構え、駆け出した。
「ええ、白兵戦ならお任せください。私の槍舞、披露いたします!」
 彼女が半魚人に向かって素早く2度、槍を突く。本来なら半魚人程度の敵ならば易々と横腹を裂くほどの威力を誇る業――しかし、その威力がなぜか発揮されず、鱗とその皮膚を軽く抉る程度に留まった。
「!? 手ごたえはあった、のに」
 驚愕で琥珀の瞳を瞬かせるファリン。
「セイレーンの歌って不思議な力があるんでしょ? なら、あっちを攻めればいいんじゃない!?」
 カリンは持ち前の前向きさから機転を利かせ、セイレーンに気功波を放った。歌が一瞬だが、止まる。半魚人たちがたちまち剣呑な目でカリンを睨みつけた。
「セイレーンは群れの主なのでしょうね。ならばセイレーンを攻撃することで彼らの行動をコントロールできるかも!」
 普段は礼儀正しく表情豊かなミーアだが、ふとした瞬間に合理的な面が顔を出す。彼女はカリンと同じくセイレーンに向かい、気功波を放つべく構えた。――すると半魚人がその前に両手を広げて立ち塞がる。すると真っ向から気功波を受けた半魚人の胸が弾け、鱗が甲板に硬質な音をたてて飛び散った。
 続いてこの展開に色めきだつ者がいた。先ほどまで支援に徹していたカレンである。
「遠距離攻撃が役立つのなら、私も頑張るわ~!」
 カレンが金属札を翳すとたちまちそれが蝶の形となり、セイレーンの肩に直撃した。半魚人の顔からみるみる余裕の色が消えていく。
 一方、木綿花は海面に視線を戻した。
(セイレーンが群れの主ならばこの窮地に魚達が何もしないはずはありません。恐らくは……!)
 仲間達が前方に集中している最中、彼女は後方に向かった。そして海面が盛り上がるのを認めると、再び鞭に魔力を込める。
「誰も傷つけさせなんてしない、燃え尽きなさい!」
 轟音とともに2つの群れが灰燼と化す。生き残りは――いない。
(あなた達が生きていたのなら誰にも縛られることなく、海を自由に旅していたでしょうに)
 木綿花は一瞬長い睫毛を伏せると、次に討つべき敵へと意識を向けた。

●転機

 ――交戦を開始してからどれほどの時間が経過したのだろう。
 守りに重きをおいた連携はハンター達の肉体的な被害を最小限に抑えることに成功していた。
 しかしそれはセイレーンの歌によって守られる半魚人達にとっても同様のこと。互いに疲労が深刻になっていく。
 カレンに吹きつけられる半魚人の猛烈な水流を盾でいなしながらマルセルが周囲を見回す。――たしかに船そのものは頑強だ。しかし甲板が半魚人の銛や水の噴射により表面を傷つけられ、痛々しい姿となっている。
 セイレーンも度重なるハンター達の攻撃に怒ったのか、歌の合間に水の刃を放ち、船の装甲に浅からぬ傷をつけていった。そのくせ船から距離を保ち、攻撃されそうになればすうっと後退して身を守るのだから性質が悪い。
(僕達を信じてくれた船員さんのためにも、早く歪虚を倒さなければ!)
 彼は半魚人の蛮行を食い止めているファリンに向かい、ロザリオを強く握って祈りの言葉を紡いだ。しかしファリンも半魚人の攻撃を捌き続けることに根深い疲労を感じ始めている。
 その時――良人のトランシーバーから明るい声が聞こえてきた。
『やったよ、良人おにいさんっ! 上空の歪虚はこっちで全部倒したからね、そっちに増援が行くことはないよ。安心して!』
「玲さん……! 皆、聞いたか。空から敵が来ることはないそうだ。こちらも残り少し、頑張ろう!」
 良人がトランシーバーの音量を最大にすると、上空で戦っていたハンター達の声が次々と聞こえてくる。こちらを心配する声や励ます声。そのひとつひとつが海上のハンター達の心に火を点していく。
 よくよく見れば、半魚人もセイレーンも根気強いハンター達の攻撃で既に満身創痍。回復や支援能力に長じた自分達が負ける要素など、どこにもない!
「先輩たち、敵をやっつけてくれたんだ。もう空を気にしなくていいんだね!」
 元気を取り戻したカリンがセイレーンに気功波を放つ。半魚人は当然のごとくそのカットに入ったが、今までのダメージが蓄積していたのだろう。足をもつれさせ、船縁に身を預けた。そこにミーアが肉薄し、零距離で強烈な掌打を半魚人の顎に打ち込む!
「ゲアッ!?」
 半魚人の得物が地面に転がる。そして彼はずるりと船縁に乗り上げたかと思うと、体をぼろぼろと灰に変えながら海に落下した。
「よーし残り2体! お姉ちゃんもガンガン行くわよ~♪」
 カレンは先ほど装填したばかりの札を指に挟むと再び高くそれを天に翳した。美しき死の蝶がセイレーンの腕を貫き、海面に毒々しい色の液体が広がっていく。
 木綿花はセイレーンが怯んだ今しかない、と目の前の空間に意識を集中した。彼女の願いに応え、空間に浮かんだものは三角形を成す裁きの光。その聖なる光がセイレーンの胸を真っ直ぐに貫いた。――戦場に響く、悲壮な叫び声。セイレーンは首を力なく揺らすと、船に背を向ける。まさか、逃げ出そうというのか?
「あなたを逃がせばまた多くの生き物が苦しむことになる……それだけは許すわけにはいかないのです」
 マルセルの静かな声。彼の大きな手が海へ伸ばされたかと思うと、空中から光の杭が現れ、セイレーンの尾を穿ち海面に固定した。もはや彼女は動くどころか歌う余裕さえ、ない。
 ファリンは甲板に取り残され、主の背を見て戸惑う半魚人に槍を向けた。
「あなたはご主人様にここまで尽くした忠義の士。でもその役目から開放される時が来たのですよ」
 長槍を2度振るう。今度は歌がないのだ。半魚人の首が容易く海に落ち、甲板の上で残った体がぐしゃりと潰れた。
 ――もうセイレーンには味方も逃げ場もない。悪しき人魚姫はマテリアルの奔流と光弾、そして聖なる光の洗礼を受けて泡となり、呆気なく弾けた。

●帰還

 ハンター達の眼前にリゼリオの港が大きく広がる。
 岸壁にはワイバーンやグリフォンが誇らしげに座り、その下では先に帰還していた先輩ハンター達がこちらに手を振っている。出発前は緊張していた玲の顔も晴れやかで――木綿花は胸を撫で下ろした。

 マルセルは仲間たちの傷の治療にあたった。女性に傷跡が残ることなどあってはならない、早めの治療こそ大事なのだ、と彼に聖導士の心得を説いた司祭の言葉を思い返しながら丁寧に癒す。
「ありがとう、マルセル!」
 カリンとカレンがにこりと笑った。マルセルもまた、聖導士としての役目を果せたことに深い安堵を感じ、目を細めた。

 避難していた船員達は甲板に戻ると傷ついた船体に僅かに苦笑いを浮かべた。しかしミーアが「ごめんなさい、せっかくの綺麗なお船を……ミーアにお手伝いできることがあれば仰ってくださいませ!」と申し出ると、彼らは粋な船乗りらしく明るく笑った。
「いや、あんた達とこの船の踏ん張り、あと上空の兄ちゃんたちの頑張りでリゼリオが守れたんだ。これぐらいの傷、どうってことないさ」
「それよりも次はもっとすげえ戦いにも耐えられるように改修しとくからよ、もし次もリゼリオがヤバくなった時にはまた力を貸してくれよな」
 豪放磊落な海の男達。ミーアはその大らかな心を知りたいと思い、笑顔で「はい!」と返した。

依頼結果

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MVP一覧

  • 虹彩の奏者
    木綿花ka6927
  • 駆け出し龍神神官
    マルセル=ヴァランka6931

重体一覧

参加者一覧

  • 淡雪の舞姫
    ファリン(ka6844
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師
  • 駆け出し龍神神官
    マルセル=ヴァラン(ka6931
    ドラグーン|19才|男性|聖導士

  • カリン・フェシリア(ka6997
    人間(紅)|15才|女性|格闘士

  • カレン・フェシリア(ka6998
    人間(紅)|17才|女性|符術師
  • 無垢の白雪
    ミーア・インフェル(ka7052
    オートマトン|16才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
木綿花(ka6927
ドラグーン|21才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/11/23 15:00:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/21 05:17:18
アイコン 相談卓
ミーア・インフェル(ka7052
オートマトン|16才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/11/23 14:19:16