ゲスト
(ka0000)
南海の島を探せ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/11/27 19:00
- 完成日
- 2017/12/03 01:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●商人魂、燃える
ポルトワール。
海運会社グリーク商会次期会長ニケ・グリークはクリムゾン全体の地図と、南海の海図を見比べていた。
前者は歪虚占領地域の解放に伴う新情報が含まれた最新版。後者はグリーク商会自らが独自に調査し作成したもの。
海賊の手記に従ってたどり着いた難所【鮫の顎】はすでに元あった姿を失い、行路の障壁たり得なくなっていた――マゴイという名の精霊によって。
その精霊、こちらが当初の目標としていた宝島を占拠し、そこにあった海賊の宝物を取得している。
複数の情報筋によれば、精霊はもともとエバーグリーンの人間だったとのこと。つまりは英霊だ。
コボルドの群れを指導し、島の開発を行っている。水を引いたり建物を建てたり、植物や動物の移植をしたり……最終的な目的は、エバーグリーンから送られてきた『市民生産機関』なる機械を動かすためだとか。
それらのことを頭の中で整理しニケは、海図に赤鉛筆で丸を書き込んだ。手記から推察した宝島の位置だ。
確認済みの航路――ポルトワールから鮫の顎まで――を指で辿る。そこから更に赤丸までの航路を辿る。
「……後全体の3分の1の距離を進めばいいってことね」
銀縁眼鏡の奥にある灰色の瞳がきらめく。
島の近海に住む人魚たちとの間に友好関係は築けた。可能なら島の主であるマゴイとも友好関係を築きたい。
資料を見る限り彼女は経済活動というものを理解している。政治的信条がどうであれ――交渉が成り立つ余地はあるはずだ。
●作戦会議
グリーク商会の一室。
「姉さんさあ、先越されたんだからもう宝島に行く必要ないじゃない。止めたらこのプロジェクト。島についたって、宝は手に入りゃしないんだから」
顔だけで生きている不肖の弟の意見などニケは一顧だにしない。どの道こいつは何かと理由をつけて働きたくないだけなのだ。
「そんなものはどうでもいいのよ。それよりもっと大きいものを得ようとしているのよ、私は」
「へーえ。大きいものねえ……何、寄港地の独占契約でも狙ってんの?」
「勘がいいのねナルシス。それだけ勘がいいならもう何も説明しなくてもよさそうね。今回も操舵手頼むわ。やるのよね、もちろん?」
これ以上ごちゃごちゃぬかしてみろはっ倒すぞ。そんな感情がこもった視線を姉から向けられたナルシスは、聞こえよがしな捨て台詞を残して席を立った。
「あー、いやだいやだ、金の亡者ってさあー」
とにもかくにもこれで操舵手が決まった。船員と、その護衛をするハンターも選抜済み。船には行き帰りに十分な食料と水を積み込んでいる。船長は自分が務める。
しかし、これでよし――というわけにはいかない。今回の航海にはイレギュラーが1人交じっているのだ。
「えーと、で、あなたは……本当に船に乗るんですか?」
「もちろんです」
イレギュラーの名は、マリー・スラーイン。目下ナルシスを養っているエルフの女性。職業はハンターオフィス・ジェオルジ支局職員。いわゆる事務職。
「オフィスの方はいいんですか?」
「大丈夫です、代理に任せてきましたから」
マリーはハンターオフィスの関係者ではあるが、ハンターというわけではない。あくまでも一般人だ。
船に乗せるべきなのかどうか、ニケも相当迷った。しかし最終的に乗せることにした。ナルシスに対するある種の押さえになるから、と。
肉親だから知っている。ナルシスは怠け者だが見え坊だ。彼女の前であからさまな職務怠慢はやれない。
●留守の守りは
「わふ」
コボちゃんが受付デスクに座っている。
マリーが急な休暇を取ったため代理を務めているのだ。代理といっても簡単なお客の応対以外は出来ないから、実質的な事務作業はジュアン1人にかかっている。
そのジュアンはぼちぼちな客入りのオフィスにて、嘆息していた。脳裏を過るのは手を合わせ頼み込んでくる同僚マリーの姿。
『お願いっ、後で埋め合わせはするから! 私、どうしてもナルシスくんが心配で……また南海に行くっていうし……』
(ああまで頼まれちゃねえ……)
彼女が恋人を心配する気持ちは分かる。自分にも恋人がいるから。
今回の船旅無事に終わるといいがと思いながら、2人分の書類を片付けて行く。
●風なしの海
パタリと風が止んだ。帆はだらりと垂れ下がったきり。
しかしそれでも船は進んでいる。細々とした海流を捕まえて。蝸牛のような速度で。
空を覆う暗い雲は流れることもないまま、自身の重みに耐えかねるかのように海面に向け徐々に低下し、スコールとなって落ちてくる。
空気があまりにも動かないので、海のただ中というよりは、閉ざされた空間にいるような気がしてくる。
見える景色の変わらなさと暑さとは、頭をぼんやりさせる。
「だるいな……」
「全くなあ……もうちょっとぐらい風が吹けばいいんだが……おーいおいおい、こいつはちょっとまずいぞ」
船が止まった。半透明のブヨブヨしたものに行く手を阻まれたのだ。
それはクラゲの歪虚だった。傘の真ん中についた目をキョロキョロ動かし、ゆらゆら透き通った腕を持ち上げている。
それ以上の動きは特に見せないが――まあ、はっきりと邪魔である。こんなところで立ち往生するわけにはいかない。
●人魚たち
人魚のリンは貝の櫛で髪をすいていた。ハミングを口ずさみながら。
彼女が腰掛けているのは、海中からぬっと突き出た巨大な柱の台座。同じ柱は一帯に、たくさん立っている。
これは精霊様が岩礁で作ったものだ。何のためかは知らないが、地上での休み所が増えたので、人魚たちにとっては結構なことである。
そこに、双子のランがやってきた。
「リン、この間の船がまた来てるみたいよ」
「え、本当? どこにいるの?」
「風なしの海のところだって。そっちから来たイルカが、今教えてくれたの」
ポルトワール。
海運会社グリーク商会次期会長ニケ・グリークはクリムゾン全体の地図と、南海の海図を見比べていた。
前者は歪虚占領地域の解放に伴う新情報が含まれた最新版。後者はグリーク商会自らが独自に調査し作成したもの。
海賊の手記に従ってたどり着いた難所【鮫の顎】はすでに元あった姿を失い、行路の障壁たり得なくなっていた――マゴイという名の精霊によって。
その精霊、こちらが当初の目標としていた宝島を占拠し、そこにあった海賊の宝物を取得している。
複数の情報筋によれば、精霊はもともとエバーグリーンの人間だったとのこと。つまりは英霊だ。
コボルドの群れを指導し、島の開発を行っている。水を引いたり建物を建てたり、植物や動物の移植をしたり……最終的な目的は、エバーグリーンから送られてきた『市民生産機関』なる機械を動かすためだとか。
それらのことを頭の中で整理しニケは、海図に赤鉛筆で丸を書き込んだ。手記から推察した宝島の位置だ。
確認済みの航路――ポルトワールから鮫の顎まで――を指で辿る。そこから更に赤丸までの航路を辿る。
「……後全体の3分の1の距離を進めばいいってことね」
銀縁眼鏡の奥にある灰色の瞳がきらめく。
島の近海に住む人魚たちとの間に友好関係は築けた。可能なら島の主であるマゴイとも友好関係を築きたい。
資料を見る限り彼女は経済活動というものを理解している。政治的信条がどうであれ――交渉が成り立つ余地はあるはずだ。
●作戦会議
グリーク商会の一室。
「姉さんさあ、先越されたんだからもう宝島に行く必要ないじゃない。止めたらこのプロジェクト。島についたって、宝は手に入りゃしないんだから」
顔だけで生きている不肖の弟の意見などニケは一顧だにしない。どの道こいつは何かと理由をつけて働きたくないだけなのだ。
「そんなものはどうでもいいのよ。それよりもっと大きいものを得ようとしているのよ、私は」
「へーえ。大きいものねえ……何、寄港地の独占契約でも狙ってんの?」
「勘がいいのねナルシス。それだけ勘がいいならもう何も説明しなくてもよさそうね。今回も操舵手頼むわ。やるのよね、もちろん?」
これ以上ごちゃごちゃぬかしてみろはっ倒すぞ。そんな感情がこもった視線を姉から向けられたナルシスは、聞こえよがしな捨て台詞を残して席を立った。
「あー、いやだいやだ、金の亡者ってさあー」
とにもかくにもこれで操舵手が決まった。船員と、その護衛をするハンターも選抜済み。船には行き帰りに十分な食料と水を積み込んでいる。船長は自分が務める。
しかし、これでよし――というわけにはいかない。今回の航海にはイレギュラーが1人交じっているのだ。
「えーと、で、あなたは……本当に船に乗るんですか?」
「もちろんです」
イレギュラーの名は、マリー・スラーイン。目下ナルシスを養っているエルフの女性。職業はハンターオフィス・ジェオルジ支局職員。いわゆる事務職。
「オフィスの方はいいんですか?」
「大丈夫です、代理に任せてきましたから」
マリーはハンターオフィスの関係者ではあるが、ハンターというわけではない。あくまでも一般人だ。
船に乗せるべきなのかどうか、ニケも相当迷った。しかし最終的に乗せることにした。ナルシスに対するある種の押さえになるから、と。
肉親だから知っている。ナルシスは怠け者だが見え坊だ。彼女の前であからさまな職務怠慢はやれない。
●留守の守りは
「わふ」
コボちゃんが受付デスクに座っている。
マリーが急な休暇を取ったため代理を務めているのだ。代理といっても簡単なお客の応対以外は出来ないから、実質的な事務作業はジュアン1人にかかっている。
そのジュアンはぼちぼちな客入りのオフィスにて、嘆息していた。脳裏を過るのは手を合わせ頼み込んでくる同僚マリーの姿。
『お願いっ、後で埋め合わせはするから! 私、どうしてもナルシスくんが心配で……また南海に行くっていうし……』
(ああまで頼まれちゃねえ……)
彼女が恋人を心配する気持ちは分かる。自分にも恋人がいるから。
今回の船旅無事に終わるといいがと思いながら、2人分の書類を片付けて行く。
●風なしの海
パタリと風が止んだ。帆はだらりと垂れ下がったきり。
しかしそれでも船は進んでいる。細々とした海流を捕まえて。蝸牛のような速度で。
空を覆う暗い雲は流れることもないまま、自身の重みに耐えかねるかのように海面に向け徐々に低下し、スコールとなって落ちてくる。
空気があまりにも動かないので、海のただ中というよりは、閉ざされた空間にいるような気がしてくる。
見える景色の変わらなさと暑さとは、頭をぼんやりさせる。
「だるいな……」
「全くなあ……もうちょっとぐらい風が吹けばいいんだが……おーいおいおい、こいつはちょっとまずいぞ」
船が止まった。半透明のブヨブヨしたものに行く手を阻まれたのだ。
それはクラゲの歪虚だった。傘の真ん中についた目をキョロキョロ動かし、ゆらゆら透き通った腕を持ち上げている。
それ以上の動きは特に見せないが――まあ、はっきりと邪魔である。こんなところで立ち往生するわけにはいかない。
●人魚たち
人魚のリンは貝の櫛で髪をすいていた。ハミングを口ずさみながら。
彼女が腰掛けているのは、海中からぬっと突き出た巨大な柱の台座。同じ柱は一帯に、たくさん立っている。
これは精霊様が岩礁で作ったものだ。何のためかは知らないが、地上での休み所が増えたので、人魚たちにとっては結構なことである。
そこに、双子のランがやってきた。
「リン、この間の船がまた来てるみたいよ」
「え、本当? どこにいるの?」
「風なしの海のところだって。そっちから来たイルカが、今教えてくれたの」
リプレイ本文
●クラゲ、進路を妨害す
「だから嫌だったんだよこんなところ来るの」
「大丈夫よナルシスくん。いざとなったら私が守るからっ」
ナルシスとマリーのやり取りを耳にしたジルボ(ka1732)は羨望の念を抱いた。あれも一種の完成された理想的生活であると思いつつ、ニケをちらりと見やる。弟があまりに美少年なのでかすみ気味だが、次期会長たる彼女の容姿もけして悪くない。
(次期商会会長かー……養ってもらえないかな~)
そんな彼の根も葉も無い夢想は、ニケがナルシスに向けた冷たい一言によって吹き払われた。
「黙ってなさいヒモ、社会の不良債権」
船の周囲に群がっていたクラゲたちの内の一部が、船体から離れ始めた――マルカが投げた肉の切れ端に群がっているのだ。
これにより、餌で釣る作戦は有効だと判明した。しかしボートを降ろすためには、もっと多くのクラゲを散らさなければならない。
ファリス(ka2853)は甲板に立ち、魔杖ケイオスノーシスをかざす。
「このままだと航海の邪魔になるから、早めに片付けておく方が正しいの。ファリスも頑張って、邪魔なクラゲをお掃除するの」
攻撃の対象は、船の直近にいるクラゲ。
「……爆炎よ。弾け、敵を焼き焦がせ!」
白熱の火球が水面に向かい、炸裂した。衝撃に巻き込まれたクラゲが弾け散った。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は双眼鏡をしまい込み、ボートに向かう。
「ルンルン忍法とカードの力で、歪虚クラゲをやっつけちゃいます!」
ソラス(ka6581)は非戦闘員へ避難を呼びかける。
「船長や船員さんたちは船室で待機していてください。マリーさんもナルシスさんと中でお待ちくださいね。落水もですが、触手に触れたら危険ですので」
天竜寺 舞(ka0377)は船室に行こうとするナルシスを引き留め耳打ちした。かなり低めの声で。相手の人間性に対し、今一つ信頼が持てなかったので。
「あんた、間違ってもいざって時マリーさんに盾になってもらおうなんて思うなよ」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)はライフルの照準を海面に合わせる。ボートが降りるスペースをより大きくするために。
「水上戦ならこの私が相手だ。この海を戴くに相応しいのはどちらか、雌雄を決してやる……!」
引き金を引く。目玉を狙って。
「凝り固まって行動するとは素人か? いかに数を揃えようと、そんな布陣では兵力の無駄遣いだな」
弾が当たるや、クラゲがでろでろと溶け始めた。1分もしないうち、きれいに消えてなくなる。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)が、船の舷に飛び乗った。
「何をする気だ?」
訝しむコーネリアに彼は、白い歯を見せる。
「どうやらあの目玉が弱点らしい。ならば、直に突いてやれば良いのではないか? クラゲの上を跳ねて走る、想像するだに面白そうだ」
「沈むのではないか?」
「着水して風邪を引くのも冒険のうちだ、もっとも俺は風邪を引く気などさらさらないがな、はっはっは」
言うや否や勢いよく飛び降り、クラゲの傘に着地。
どむん、とした感触が足の裏に来た。なかなかの弾力だ。思った次の瞬間強烈な痙攣が脚に走った。触手が一斉に絡んできたのである。
「……リアルブルーでは大鰐渡りがあるらしいが、ここでは歪虚渡りだからな、クラゲとはいえ負けてはおるまい、はっはっは」
ルベーノは痛みを気合で払いのけ、ガンソードで触手を切り裂く。目玉に剣先を突き付けぶっ放す。足場が溶けてなくなる前に、次の足場へと跳躍する。
その間にマルカ・アニチキン(ka2542)は肉を先にくくりつけたロープを持って、舞と一緒のボートへ乗り込む。
エサをぶら下げ走りだすボートにクラゲたちが腕を伸ばし、続々と寄っていく。
それを追う形でソラスとルンルンが乗るボート、ジルボが乗るボートが発進する。
各自連携しクラゲを追い込み、纏めて叩く作戦だ。
●クラゲ強制排除
ソラスと同じボートに乗ったルンルンは、それが無事水面に到達するやウォーターウォークを発動する。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法水蜘蛛の術! ニンジャにとっては、水の上も地面みたいなものなんだからっ」
マルカたちのボートへ殺到して行ったクラゲたちを囲い込むべく海を駆け、地縛符を仕掛けに回った。
その最中、よりにもよって頭部にクラゲの触手が触れてきた。脈打つズキズキした刺激に思わず頭を抱え動けなくなるルンルン。
別のボートにいたジルボが異変に気づき、彼女の直近にいたクラゲを撃った。
「おーい、大丈夫かー!」
あまり大丈夫でもないがそこはハンターとしての意地。引きつり笑いで親指を立てる。
「じょーぶっ、でっ……す!」
先行している舞はボートの操縦をマルカに託し、群がってくるクラゲの触手をワイヤーウィップの乱打で迎える。
「女王様とお呼び! って気分になるね」
目玉に向けての一撃が入った。
本船甲板に陣取るファリスは遠方の敵目がけ、メテオスウォームを発動する。
「……紅き流星よ。降り注ぎて、敵を滅ぼせ!」
燃え盛る火球が3つ生まれ、隕石のように海上へ降り注ぎ、広範囲の対象へダメージを与える。そして、波を起こす。
コーネリアは本船後方の甲板に回った。
彼女にとって、警戒すべきは船の機動性を奪われることであると思われた。上がってこられない奴らは推進力である帆には何も出来ないだろう。しかし、水中にある舵には触れることが出来る。
「食料にすらならぬ雑種共め、海の藻屑と化すがいい!」
船の後方にいたクラゲは弾丸の雨を浴びせかけられ、溶解して行く。
ルベーノは新しい足場へ着地し損ね、海上に不時着した。しかしウォーターウォークを発動し沈没を免れる。
「流石に意識をなくして沈めば助かるまい、つまり沈まず意識もなくさなければいいだけの話だろう?」
彼の前には複数のクラゲ。触手が網のように広がり襲いかかってくる。
「お前たちには残念なことだったな!」
青龍翔咬波が炸裂した。2匹のクラゲが同時に弾け散った。
マルカは舞の攻撃が届かない距離の相手へ向け、ファイアーボールを放つ。
雷の属性が上乗せされたそれは、先に行われたファリスの広範囲攻撃でダメージを受けたクラゲたちを、一気に消滅させた。
ソラスは本船と海上で戦う仲間が射程に入らないよう注意しつつ、エクステンドキャストを掛け合わせたグラビティフォールを放つ。
強烈なGが範囲内にいたクラゲたちに襲いかかる。
弾性のゆえかクラゲたちはその攻撃に耐えた。
しかしダメージを受けはした。傘の形がぺしゃんこに潰れてしまう。
「おや、的が大きくなったな」
うそぶきながらコーネリアは、せんべい状態になった個体から始末して行く。
ファリスも彼女と同様、痛んだものを優先して攻撃した。頭数を減らすことが大事だと考えて。
「……火箭よ。敵を焼き貫け!」
舞の足に電流のような激痛が走った。クラゲの足が絡んだのだ。いや絡んだとも言えないほどの柔らかい触れ方だが、刺激はそれに全く釣り合わないほど強い。舞も思わず顔をしかめる。
「つっ!」
しかしウィップを奮う手は止めず、クラゲの目玉に叩きつけ止めをさす。
戦闘によって海の表面が波だっている。ボートもクラゲも大揺れに揺れる。それかあらぬかジルボは、弾を外した。舌打ちし、照準を合わせ直す。
クラゲの数は2桁に満たなくなってきた。
ソラスは群れからはぐれたクラゲをウィンドスラッシュで狙い撃ちし、消して行く。
ルンルンは口に咥えていた呪画を手に取り、群れに向かって広げた。刺された恨みを晴らすべく。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法五星花&三雷神の術! ピカーっと一撃、光になれ!!」
五色の光が閃き稲妻が閃く。それらが消えた後場にいたクラゲは影も形もなくなっていた。
もうこれでおしまいか。
いや、まだいる。離れた場所に3匹漂っている。
ルベーノは海面を蹴り走る。
まず1匹の目玉にガンソードを突き立てた。
溶解を始めた足場を蹴りもう1匹へ向かう。触手がうねり頭部に触れてきたが、被っている兜がダメージを防いでくれた。
目玉に銃弾が撃ち込まれる。半透明の体がたちまち張りを無くし、でろんと溶け始めた。
その間に残り最後の1匹は――逃げて行く。マルカはブリザードを使い足止めしようとした。しかしほんの少し距離が足りず届かなかった。
ジルボのボートは彼女が乗っているものより、クラゲの近くにあった。銃弾は違わず目玉を貫く。
戦闘は終了した。
舞は、急いで船に戻っていく。マリーが無事かどうか確認を取るために。ニケや船員達は仕事で慣れてるだろうから問題ないだろうが、彼女は一般人だ。
ナルシスもそうだろうが、あっちは心底どうでもいい。
「終わったよ、みんな無事?」
マリーはむろん無事であった。マルカから渡されていたエーギルのバイザーを上げ、一息ついている。
ナルシスはげんなりした口調で言った。同じくマルカから渡されたエーギルを脱ぎ、眼鏡をかけ直している姉に。
「……で、まだ行くの?」
「当たり前でしょ」
そこにルベーノが上がってくる。
「すまんが真水をくれないか。体を拭っておきたくてな」
双子の人魚が泳いできたのは、ちょうどそのときであった。
●ユニオン島はここですよ
舞は初めて見る人魚に、すっかり感動してしまった。船の舳先から身を乗り出すようにして、手を振る。
「わあ、本物は初めて見たよ。初めまして。あたし舞って言うんだ。よろしくね」
「こちらこそよろしく。私はリンと言います」
「私はランと言います。どうぞよろしく」
すでに彼女らと面識があるジルボは、相好を崩し呼びかける。
「やー、久しぶり。随分風が大人しくて困ってるんだけどさー、このへんってどこもこんな感じ?」
「大体はそうですね。でも、風が動いている場所も幾つかありますよ」
「案内してあげましょう」
親切な申し出に礼を述べるソラス。
「ありがとうございます。この間も大変お世話になりまして……マゴイさんの住んでいる島はこの近くですか?」
「ええ。そうです」
「近いですよ」
なら、とジルボは頼み込む。
「俺たちが来たこと伝えてくれないかな? 船長さんが話をしたいそうなんだ。島に船が立ち寄れるようにしてもらいたいって――」
「それは出来ません」
ファリスは小首を傾げる。
「え、どうしてなの?」
「今日は島が消えていますので、精霊様に会えません」
亜空間とやらに戻っているんだろうか。それともどこかへ出張しているんだろうか。あれこれ考えながらソラスが聞く。
「最近島は現れるのと消えるのと、どちらが多いですか?」
「現れる方が多いですね」
「あの方もすっかりここに居着いてくださったようで」
話し好きな人魚たちの先導に従い、商船が進んでいく。急に船足が早くなった。風が戻ってきたのだ。
ルンルンが歓声を上げる。
「船長、謎の柱です!」
確かに大きな柱が建っている。高さはざっと60メートルといったところか。1つだけではない。横一直線に間隔を置いて、無数に並んでいる。
台座部分には人魚たちが群れていた。どうやら彼女たちの休み場所として使われているらしい。
そのうちでとりわけ大きな人魚にランとリンが手を振る。
「長ー、この間の人間たちが来ましたよー」
「精霊様に会いたいんだそうですー」
長は波をかきわけ船に近づき、言ってきた。
「あらまあ、それは残念ですねえ。精霊様は昨日から、隠れてしまっておられましてね」
舞は複雑な気持ちがした。妹から聞かされてはいたが、人魚たちは本当にマゴイのことを慕っているらしい。
(あたし、正直あいつにあまりいい印象無いんだよね-。ウォッチャーのこともあるし、基本共同体万歳思考だし……)
ルベーノは軽く手を挙げ、あいさつする。
「息災でなによりだ。ところであの柱は何だ? 大かたマゴイの手によるものだろうが」
「さあ――聞いたことがありませんので。あなたが言うように精霊様が置いていったものであることは確かですが」
ほかの人魚たちも多数泳いでくる。訪問者が珍しいのだろう、皆興味津々な様子だ。
「これがリンたちの言っていた船」
「あら、きれいな子がいるわ」
「本当だ。きれいな子ね。お名前は?」
海から手を振る人魚たち。愛想よく応えるナルシス。
「僕? ナルシスだよ、人魚のおねえさん」
彼の傍らにいるマリーはいささか落ち着かない様子だった。心情を察したマルカは助言をする。
「この機会ですから、人魚さんたちと会話してみませんか? いい人たちですよ」
そうやって彼女の気をそらしておいてから、ナルシスに小声で話しかける。
「ナルシスさん、こういう場に彼女がもう同行しないように説得してくれませんか。危険ですから」
「……あのさ、それ僕だけにじゃなくて姉さんにも言ってくれないかな。同行を決めたのは姉さんなんだから」
そこに当の姉が来て、エーギルを彼の頭に被せた。
「それしてたらよそ見しないですむでしょ? 操舵に戻って」
船は柱に近づきその横を擦り抜けた。
コーネリアは眉を潜める。妙な違和感が体の中を擦り抜けて行ったからだ。
気づけば柱は、相変わらず船の前にある。
操舵室で姉弟の悶着が起きた。
「ナルシス、なんで進ませないのよ」
「知らないよ、僕は真っすぐ進ませたよ」
ソラスはそこに割って入る。経験上彼はこの現象の正体に思い当たっていた。
「まあまあ、落ち着いてください。これ、結界の作用ですよ」
ルンルンは魔導カメラで柱の写真を撮りつつ、声を張り上げた。
「マゴイさーん、遊びに来ました入れてくださーい!!」
予想されたことだが反応はない。気持ちを切り替え、くるりとニケに顔を向ける。
「このまま結界の拡がる範囲を調べたら、その中心が目的地に違いないのです。調べましょう船長」
「仕方ないわね。じゃあ……ちょっと待って。あの柱、何か書いてない?」
「え? あー、本当ですね」
一体なんなのか。ハンターたちはもう一度ボートを降ろし接近してみる。
記されているのはクリムゾンウェストで使用されている共通文字と見慣れない文字。
読める方を読んでみる。
『この先ユニオンの領海。オートマトンの持ち込みは禁止されています。』
目指す島がこの先にあることは確実だ。
ジルボはぐるりを見回した。遮るもののない青。一体どこまで続いているのだろうか。船があれば、どこまでも行けるだろうか。
「相変わらず広いな」
呟きにパルムが頷いた。そこに人魚が寄ってくる。
「ねえねえ、陸のこと聞かせて」
「――ああ、いいぜ。後で人魚ちゃんたちの話も聞かせてくれよな?」
この後しばしの一時、ハンターたちは人魚たちとの交流を楽しんだ。
それからグリーク商会とともに周辺海域の調査をした後、ニケの手紙を彼女らに託し、無事港へ帰還した。
「だから嫌だったんだよこんなところ来るの」
「大丈夫よナルシスくん。いざとなったら私が守るからっ」
ナルシスとマリーのやり取りを耳にしたジルボ(ka1732)は羨望の念を抱いた。あれも一種の完成された理想的生活であると思いつつ、ニケをちらりと見やる。弟があまりに美少年なのでかすみ気味だが、次期会長たる彼女の容姿もけして悪くない。
(次期商会会長かー……養ってもらえないかな~)
そんな彼の根も葉も無い夢想は、ニケがナルシスに向けた冷たい一言によって吹き払われた。
「黙ってなさいヒモ、社会の不良債権」
船の周囲に群がっていたクラゲたちの内の一部が、船体から離れ始めた――マルカが投げた肉の切れ端に群がっているのだ。
これにより、餌で釣る作戦は有効だと判明した。しかしボートを降ろすためには、もっと多くのクラゲを散らさなければならない。
ファリス(ka2853)は甲板に立ち、魔杖ケイオスノーシスをかざす。
「このままだと航海の邪魔になるから、早めに片付けておく方が正しいの。ファリスも頑張って、邪魔なクラゲをお掃除するの」
攻撃の対象は、船の直近にいるクラゲ。
「……爆炎よ。弾け、敵を焼き焦がせ!」
白熱の火球が水面に向かい、炸裂した。衝撃に巻き込まれたクラゲが弾け散った。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は双眼鏡をしまい込み、ボートに向かう。
「ルンルン忍法とカードの力で、歪虚クラゲをやっつけちゃいます!」
ソラス(ka6581)は非戦闘員へ避難を呼びかける。
「船長や船員さんたちは船室で待機していてください。マリーさんもナルシスさんと中でお待ちくださいね。落水もですが、触手に触れたら危険ですので」
天竜寺 舞(ka0377)は船室に行こうとするナルシスを引き留め耳打ちした。かなり低めの声で。相手の人間性に対し、今一つ信頼が持てなかったので。
「あんた、間違ってもいざって時マリーさんに盾になってもらおうなんて思うなよ」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)はライフルの照準を海面に合わせる。ボートが降りるスペースをより大きくするために。
「水上戦ならこの私が相手だ。この海を戴くに相応しいのはどちらか、雌雄を決してやる……!」
引き金を引く。目玉を狙って。
「凝り固まって行動するとは素人か? いかに数を揃えようと、そんな布陣では兵力の無駄遣いだな」
弾が当たるや、クラゲがでろでろと溶け始めた。1分もしないうち、きれいに消えてなくなる。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)が、船の舷に飛び乗った。
「何をする気だ?」
訝しむコーネリアに彼は、白い歯を見せる。
「どうやらあの目玉が弱点らしい。ならば、直に突いてやれば良いのではないか? クラゲの上を跳ねて走る、想像するだに面白そうだ」
「沈むのではないか?」
「着水して風邪を引くのも冒険のうちだ、もっとも俺は風邪を引く気などさらさらないがな、はっはっは」
言うや否や勢いよく飛び降り、クラゲの傘に着地。
どむん、とした感触が足の裏に来た。なかなかの弾力だ。思った次の瞬間強烈な痙攣が脚に走った。触手が一斉に絡んできたのである。
「……リアルブルーでは大鰐渡りがあるらしいが、ここでは歪虚渡りだからな、クラゲとはいえ負けてはおるまい、はっはっは」
ルベーノは痛みを気合で払いのけ、ガンソードで触手を切り裂く。目玉に剣先を突き付けぶっ放す。足場が溶けてなくなる前に、次の足場へと跳躍する。
その間にマルカ・アニチキン(ka2542)は肉を先にくくりつけたロープを持って、舞と一緒のボートへ乗り込む。
エサをぶら下げ走りだすボートにクラゲたちが腕を伸ばし、続々と寄っていく。
それを追う形でソラスとルンルンが乗るボート、ジルボが乗るボートが発進する。
各自連携しクラゲを追い込み、纏めて叩く作戦だ。
●クラゲ強制排除
ソラスと同じボートに乗ったルンルンは、それが無事水面に到達するやウォーターウォークを発動する。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法水蜘蛛の術! ニンジャにとっては、水の上も地面みたいなものなんだからっ」
マルカたちのボートへ殺到して行ったクラゲたちを囲い込むべく海を駆け、地縛符を仕掛けに回った。
その最中、よりにもよって頭部にクラゲの触手が触れてきた。脈打つズキズキした刺激に思わず頭を抱え動けなくなるルンルン。
別のボートにいたジルボが異変に気づき、彼女の直近にいたクラゲを撃った。
「おーい、大丈夫かー!」
あまり大丈夫でもないがそこはハンターとしての意地。引きつり笑いで親指を立てる。
「じょーぶっ、でっ……す!」
先行している舞はボートの操縦をマルカに託し、群がってくるクラゲの触手をワイヤーウィップの乱打で迎える。
「女王様とお呼び! って気分になるね」
目玉に向けての一撃が入った。
本船甲板に陣取るファリスは遠方の敵目がけ、メテオスウォームを発動する。
「……紅き流星よ。降り注ぎて、敵を滅ぼせ!」
燃え盛る火球が3つ生まれ、隕石のように海上へ降り注ぎ、広範囲の対象へダメージを与える。そして、波を起こす。
コーネリアは本船後方の甲板に回った。
彼女にとって、警戒すべきは船の機動性を奪われることであると思われた。上がってこられない奴らは推進力である帆には何も出来ないだろう。しかし、水中にある舵には触れることが出来る。
「食料にすらならぬ雑種共め、海の藻屑と化すがいい!」
船の後方にいたクラゲは弾丸の雨を浴びせかけられ、溶解して行く。
ルベーノは新しい足場へ着地し損ね、海上に不時着した。しかしウォーターウォークを発動し沈没を免れる。
「流石に意識をなくして沈めば助かるまい、つまり沈まず意識もなくさなければいいだけの話だろう?」
彼の前には複数のクラゲ。触手が網のように広がり襲いかかってくる。
「お前たちには残念なことだったな!」
青龍翔咬波が炸裂した。2匹のクラゲが同時に弾け散った。
マルカは舞の攻撃が届かない距離の相手へ向け、ファイアーボールを放つ。
雷の属性が上乗せされたそれは、先に行われたファリスの広範囲攻撃でダメージを受けたクラゲたちを、一気に消滅させた。
ソラスは本船と海上で戦う仲間が射程に入らないよう注意しつつ、エクステンドキャストを掛け合わせたグラビティフォールを放つ。
強烈なGが範囲内にいたクラゲたちに襲いかかる。
弾性のゆえかクラゲたちはその攻撃に耐えた。
しかしダメージを受けはした。傘の形がぺしゃんこに潰れてしまう。
「おや、的が大きくなったな」
うそぶきながらコーネリアは、せんべい状態になった個体から始末して行く。
ファリスも彼女と同様、痛んだものを優先して攻撃した。頭数を減らすことが大事だと考えて。
「……火箭よ。敵を焼き貫け!」
舞の足に電流のような激痛が走った。クラゲの足が絡んだのだ。いや絡んだとも言えないほどの柔らかい触れ方だが、刺激はそれに全く釣り合わないほど強い。舞も思わず顔をしかめる。
「つっ!」
しかしウィップを奮う手は止めず、クラゲの目玉に叩きつけ止めをさす。
戦闘によって海の表面が波だっている。ボートもクラゲも大揺れに揺れる。それかあらぬかジルボは、弾を外した。舌打ちし、照準を合わせ直す。
クラゲの数は2桁に満たなくなってきた。
ソラスは群れからはぐれたクラゲをウィンドスラッシュで狙い撃ちし、消して行く。
ルンルンは口に咥えていた呪画を手に取り、群れに向かって広げた。刺された恨みを晴らすべく。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法五星花&三雷神の術! ピカーっと一撃、光になれ!!」
五色の光が閃き稲妻が閃く。それらが消えた後場にいたクラゲは影も形もなくなっていた。
もうこれでおしまいか。
いや、まだいる。離れた場所に3匹漂っている。
ルベーノは海面を蹴り走る。
まず1匹の目玉にガンソードを突き立てた。
溶解を始めた足場を蹴りもう1匹へ向かう。触手がうねり頭部に触れてきたが、被っている兜がダメージを防いでくれた。
目玉に銃弾が撃ち込まれる。半透明の体がたちまち張りを無くし、でろんと溶け始めた。
その間に残り最後の1匹は――逃げて行く。マルカはブリザードを使い足止めしようとした。しかしほんの少し距離が足りず届かなかった。
ジルボのボートは彼女が乗っているものより、クラゲの近くにあった。銃弾は違わず目玉を貫く。
戦闘は終了した。
舞は、急いで船に戻っていく。マリーが無事かどうか確認を取るために。ニケや船員達は仕事で慣れてるだろうから問題ないだろうが、彼女は一般人だ。
ナルシスもそうだろうが、あっちは心底どうでもいい。
「終わったよ、みんな無事?」
マリーはむろん無事であった。マルカから渡されていたエーギルのバイザーを上げ、一息ついている。
ナルシスはげんなりした口調で言った。同じくマルカから渡されたエーギルを脱ぎ、眼鏡をかけ直している姉に。
「……で、まだ行くの?」
「当たり前でしょ」
そこにルベーノが上がってくる。
「すまんが真水をくれないか。体を拭っておきたくてな」
双子の人魚が泳いできたのは、ちょうどそのときであった。
●ユニオン島はここですよ
舞は初めて見る人魚に、すっかり感動してしまった。船の舳先から身を乗り出すようにして、手を振る。
「わあ、本物は初めて見たよ。初めまして。あたし舞って言うんだ。よろしくね」
「こちらこそよろしく。私はリンと言います」
「私はランと言います。どうぞよろしく」
すでに彼女らと面識があるジルボは、相好を崩し呼びかける。
「やー、久しぶり。随分風が大人しくて困ってるんだけどさー、このへんってどこもこんな感じ?」
「大体はそうですね。でも、風が動いている場所も幾つかありますよ」
「案内してあげましょう」
親切な申し出に礼を述べるソラス。
「ありがとうございます。この間も大変お世話になりまして……マゴイさんの住んでいる島はこの近くですか?」
「ええ。そうです」
「近いですよ」
なら、とジルボは頼み込む。
「俺たちが来たこと伝えてくれないかな? 船長さんが話をしたいそうなんだ。島に船が立ち寄れるようにしてもらいたいって――」
「それは出来ません」
ファリスは小首を傾げる。
「え、どうしてなの?」
「今日は島が消えていますので、精霊様に会えません」
亜空間とやらに戻っているんだろうか。それともどこかへ出張しているんだろうか。あれこれ考えながらソラスが聞く。
「最近島は現れるのと消えるのと、どちらが多いですか?」
「現れる方が多いですね」
「あの方もすっかりここに居着いてくださったようで」
話し好きな人魚たちの先導に従い、商船が進んでいく。急に船足が早くなった。風が戻ってきたのだ。
ルンルンが歓声を上げる。
「船長、謎の柱です!」
確かに大きな柱が建っている。高さはざっと60メートルといったところか。1つだけではない。横一直線に間隔を置いて、無数に並んでいる。
台座部分には人魚たちが群れていた。どうやら彼女たちの休み場所として使われているらしい。
そのうちでとりわけ大きな人魚にランとリンが手を振る。
「長ー、この間の人間たちが来ましたよー」
「精霊様に会いたいんだそうですー」
長は波をかきわけ船に近づき、言ってきた。
「あらまあ、それは残念ですねえ。精霊様は昨日から、隠れてしまっておられましてね」
舞は複雑な気持ちがした。妹から聞かされてはいたが、人魚たちは本当にマゴイのことを慕っているらしい。
(あたし、正直あいつにあまりいい印象無いんだよね-。ウォッチャーのこともあるし、基本共同体万歳思考だし……)
ルベーノは軽く手を挙げ、あいさつする。
「息災でなによりだ。ところであの柱は何だ? 大かたマゴイの手によるものだろうが」
「さあ――聞いたことがありませんので。あなたが言うように精霊様が置いていったものであることは確かですが」
ほかの人魚たちも多数泳いでくる。訪問者が珍しいのだろう、皆興味津々な様子だ。
「これがリンたちの言っていた船」
「あら、きれいな子がいるわ」
「本当だ。きれいな子ね。お名前は?」
海から手を振る人魚たち。愛想よく応えるナルシス。
「僕? ナルシスだよ、人魚のおねえさん」
彼の傍らにいるマリーはいささか落ち着かない様子だった。心情を察したマルカは助言をする。
「この機会ですから、人魚さんたちと会話してみませんか? いい人たちですよ」
そうやって彼女の気をそらしておいてから、ナルシスに小声で話しかける。
「ナルシスさん、こういう場に彼女がもう同行しないように説得してくれませんか。危険ですから」
「……あのさ、それ僕だけにじゃなくて姉さんにも言ってくれないかな。同行を決めたのは姉さんなんだから」
そこに当の姉が来て、エーギルを彼の頭に被せた。
「それしてたらよそ見しないですむでしょ? 操舵に戻って」
船は柱に近づきその横を擦り抜けた。
コーネリアは眉を潜める。妙な違和感が体の中を擦り抜けて行ったからだ。
気づけば柱は、相変わらず船の前にある。
操舵室で姉弟の悶着が起きた。
「ナルシス、なんで進ませないのよ」
「知らないよ、僕は真っすぐ進ませたよ」
ソラスはそこに割って入る。経験上彼はこの現象の正体に思い当たっていた。
「まあまあ、落ち着いてください。これ、結界の作用ですよ」
ルンルンは魔導カメラで柱の写真を撮りつつ、声を張り上げた。
「マゴイさーん、遊びに来ました入れてくださーい!!」
予想されたことだが反応はない。気持ちを切り替え、くるりとニケに顔を向ける。
「このまま結界の拡がる範囲を調べたら、その中心が目的地に違いないのです。調べましょう船長」
「仕方ないわね。じゃあ……ちょっと待って。あの柱、何か書いてない?」
「え? あー、本当ですね」
一体なんなのか。ハンターたちはもう一度ボートを降ろし接近してみる。
記されているのはクリムゾンウェストで使用されている共通文字と見慣れない文字。
読める方を読んでみる。
『この先ユニオンの領海。オートマトンの持ち込みは禁止されています。』
目指す島がこの先にあることは確実だ。
ジルボはぐるりを見回した。遮るもののない青。一体どこまで続いているのだろうか。船があれば、どこまでも行けるだろうか。
「相変わらず広いな」
呟きにパルムが頷いた。そこに人魚が寄ってくる。
「ねえねえ、陸のこと聞かせて」
「――ああ、いいぜ。後で人魚ちゃんたちの話も聞かせてくれよな?」
この後しばしの一時、ハンターたちは人魚たちとの交流を楽しんだ。
それからグリーク商会とともに周辺海域の調査をした後、ニケの手紙を彼女らに託し、無事港へ帰還した。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/25 17:05:01 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/11/26 21:11:07 |