ゲスト
(ka0000)
職人の異常な萌え感情
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/28 09:00
- 完成日
- 2014/12/06 14:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「お邪魔します」
薄暗い部屋の中にモア・プリマクラッセが入っていく。
床には足の踏み場も無いくらいいろいろなものが散乱している。壁には絵の具が付着したのか、様々な色の染みが付いている。
「お邪魔します、サンドロさんはおられませんか?」
もう一度声を上げるモア。だが返事は無い。
仕方がない。中の様子を見るためモアは部屋の中を奥に進んでいった。
そこには机にうずくまる人影があった。
●
「サンドロさん、大丈夫ですか?」
「ああ……モアたん、キミか……」
サンドロと呼ばれた男が高い声を出し机から顔を上げる。痩せぎすの体、神経質そうな顔立ち。顔には土汚れや絵の具がついて随分酷いことになっている。
机の周りには小さな女性が沢山並んでいる。もちろん本物ではない。人形である。
彼、サンドロは評判高い人形職人である。
そしてモアは今回、サンドロに人形作りを依頼していた。
ヴァリオスに住むとある富豪からの依頼は少女型人形8体の作成。テーマはサンドロに任せるという内容。その進捗を確認するためモアはサンドロの工房を尋ねたのだった。
●
「見ての通りだ、まるで駄目だお……」
「困りましたね。締め切りはもうすぐですよ」
「もう僕には無理だお……」
「と言われましても、このような人形はサンドロさんにしか作れませんからね……」
モアはサンドロの作った人形を一つ手にとってそう呟く。モアが手にしたフィギュアはピンク色の髪をたたえ、大きな瞳はキラキラと輝いていた。
サンドロの人形が評判を呼んだのは元々の腕の良さもあるが、それだけではない。
ある日サンドロがリゼリオに出かけた際、とあるリアルブルー人と知り合った。
そして彼が見せてくれたリアルブルーで人気の高かったあるアニメの絵。それにサンドロは強い衝撃を受け、その絵柄を取り入れた人形を作り上げた。
そうやって彼が作り上げた人形は一部の好事家の間で評判に評判を呼び、今では高値で取引されているのだった。
「萌えが……萌えがわからないんだお……」
「“萌え”ですか?」
モアはサンドロがつぶやいたその言葉に小首を傾げる。“萌え”、初めて聞いた言葉だが、これがサンドロの芸術活動にパッションを与えているのは間違いない。ならばモアには解決方法がある。
「わかりました。それならハンター達に依頼してモデルを務めてもらいましょう」
「お邪魔します」
薄暗い部屋の中にモア・プリマクラッセが入っていく。
床には足の踏み場も無いくらいいろいろなものが散乱している。壁には絵の具が付着したのか、様々な色の染みが付いている。
「お邪魔します、サンドロさんはおられませんか?」
もう一度声を上げるモア。だが返事は無い。
仕方がない。中の様子を見るためモアは部屋の中を奥に進んでいった。
そこには机にうずくまる人影があった。
●
「サンドロさん、大丈夫ですか?」
「ああ……モアたん、キミか……」
サンドロと呼ばれた男が高い声を出し机から顔を上げる。痩せぎすの体、神経質そうな顔立ち。顔には土汚れや絵の具がついて随分酷いことになっている。
机の周りには小さな女性が沢山並んでいる。もちろん本物ではない。人形である。
彼、サンドロは評判高い人形職人である。
そしてモアは今回、サンドロに人形作りを依頼していた。
ヴァリオスに住むとある富豪からの依頼は少女型人形8体の作成。テーマはサンドロに任せるという内容。その進捗を確認するためモアはサンドロの工房を尋ねたのだった。
●
「見ての通りだ、まるで駄目だお……」
「困りましたね。締め切りはもうすぐですよ」
「もう僕には無理だお……」
「と言われましても、このような人形はサンドロさんにしか作れませんからね……」
モアはサンドロの作った人形を一つ手にとってそう呟く。モアが手にしたフィギュアはピンク色の髪をたたえ、大きな瞳はキラキラと輝いていた。
サンドロの人形が評判を呼んだのは元々の腕の良さもあるが、それだけではない。
ある日サンドロがリゼリオに出かけた際、とあるリアルブルー人と知り合った。
そして彼が見せてくれたリアルブルーで人気の高かったあるアニメの絵。それにサンドロは強い衝撃を受け、その絵柄を取り入れた人形を作り上げた。
そうやって彼が作り上げた人形は一部の好事家の間で評判に評判を呼び、今では高値で取引されているのだった。
「萌えが……萌えがわからないんだお……」
「“萌え”ですか?」
モアはサンドロがつぶやいたその言葉に小首を傾げる。“萌え”、初めて聞いた言葉だが、これがサンドロの芸術活動にパッションを与えているのは間違いない。ならばモアには解決方法がある。
「わかりました。それならハンター達に依頼してモデルを務めてもらいましょう」
リプレイ本文
●
「サンドロさん、モデルの方をお連れしました」
「実演しますので、とりあえず食べ物を沢山お願いします、勿論経費で」
モアの言葉と共に最初に入って来たのは最上 風(ka0891)。ローブにマントを羽織り、頭には目玉のついた帽子という、いかにもかわいらしい魔法使いといった雰囲気の女の子だ。
「ただの魔法使いなんじゃないかお……」
サンドロの反応はまだ薄い。
「さぁさぁ、迅速に早急に用意お願いしますよ? モタモタしていると帰りますよ?」
そんな中、風は食事を用意するよう要求しせっつく。ほどなく大量の料理が並べられる。
料理が並べられるやいなや、端から食べ始める風。
「やれやれ、この程度の料理で風が満足すると思っているのですか?」
風は文句を言いつつ全くペースを落とさず料理を食べていく。
「念のため最高の腕を持つ料理人に作らせたのですが」
と、モアはマジレス。
表情を変えずに行なわれる二人のやりとりをサンドロは穴が開くほど見ていた。風は料理を口に運ぶ事を止めずに、
「あまり凝視しないで下さい、セクハラですよ?」
と、サンドロに拒否反応。その言葉がサンドロの心に火を付けた。
「ふぉーっ! こ、これだお! もっと罵って欲しいお!」
「落ち着いてください」
盛り上がるサンドロを冷静にたしなめるモア。
そんな二人を汚いものを見る目で見ながら、風は食事を続けていた。
「ふぅー、……まぁ、野草よりは美味でしたよ、あくまで野草よりはですが」
口元を拭きつつ風は言葉を続ける。
「残った料理は差し上げますよ? 何でしたら、風が口にねじ込んであげましょうか?」
「ねじ込んでくれおー!」
「落ち着いてください」
騒がしい二人を見ながら、風は表情を変えずに言葉を続けた。
「どうでしたか? 風の『くーでれ』と『ギャップ萌え』は?」
「演技だったのかお……」
「はい、全て演技です、あくまで演技です、本来の風はとても心優しいのですよ?」
口調を変えずにそう言う風。どこまでが演技でどこまでが素かわからない。
「風の様な、小柄で薄幸な美少女が、ガツガツ食べ出したら、ギャップを感じるでしょう?」
「という演技なのだお! やっぱりその虫けらを見るような視線で見てほしいお!」
「落ち着いてください」
変なスイッチの入ったサンドロの反応に、望み通り風とモアは虫けらに対する視線で見るのであった。
●
「萌え……ですか……。聞いた事はあります。リアルブルー独特の文化で、それに熱意を燃やしている、でしたっけ……?」
次に現れたのはセレナ・デュヴァル(ka0206)。無表情なセレナと無表情なモア。無表情女子二人が無表情なまま居ると妙な空気になる。
そんなセレナだが、自分の知っている知識で萌えを伝えることにした。
「確か、こういう服……ゴシックドレス、とか、も、萌え……だった気がします」
というセレナの服はフリルの沢山付いた白いドレス。裾にはレースがあしらわれ、とてもかわいらしい雰囲気を醸し出している。
「これが萌えなのかお……」
ところが、サンドロは悩む。セレナの着ている服は普通の人形職人が自分の作った人形に着せるような服、つまりサンドロの見慣れた服なのだ。
「それでは……これが『鉄板』というヤツなのでしょうか」
そんな二人の反応を見てか、セレナは何やらごそごそと取り出し、それを頭に装着した。
その時、サンドロに電流が走った。
「これだお!」
大騒ぎを始めるサンドロ。セレナの頭の上についていたのは猫耳、正しくは猫耳のついたカチューシャ。
「日常を破壊する猫耳の異物感! もふもふした毛の醸し出すかわいらしさ! これを待っていたんだお!」
「倒れられては困ります、サンドロさん」
大興奮のサンドロを何とかして抑えるモアだった。
●
「燃え? むずかしい問題ね……」
一方その頃、摩耶(ka0362)は扉の外で悩んでいた。そもそも萌えと燃えを取り違えているようだが、今回は些細な問題だ。どういう服装にしようかは決めていた。しかし、衣装を前にするとやはり悩む。この衣装が萌えを表現できるかではない。
「でも、がっ、がんばるわ」
着るのが恥ずかしいのだ。顔を真っ赤にしている摩耶。そこに、衣装を変えるために外に出てきたセレナが現れた。
「あら、摩耶さんもそれを着るんですか」
「は、はい」
「それなら私に勉強させてください」
ややあって、部屋に入ってくるセレナと摩耶。
摩耶の服装はエプロンドレス姿。セレナも先ほどまで来ていた服にエプロンを組み合わせている。俗にメイド服と言われるそれだ。
しかもそれだけではない。摩耶はホワイトブリムに猫耳を組み合わせている。猫耳メイドと言うべき格好だ。セレナももちろん猫耳はつけたままだ。
「ふおお! 猫耳メイド! 猫耳メイド!」
「とりあえず落ち着いてください」
再び騒ぎ始める二人。そこに追い打ちを掛けるように「ご主人さま、お茶をどうぞ」と紅茶を出すのはセレナ。
それに対し「ご、ご主人さま、お茶を淹れたにゃん」と顔を真っ赤にして言う摩耶。
さらにセレナが「それでは……ご主人さま、お茶をどうぞにゃ」と表情を変えずに言うと、その間に挟まれたサンドロが遂に壊れた。
「ふおおお! にゃーって! にゃーって!」
興奮の余り仰向けに倒れるサンドロ。慌てて駆け寄るセレナと摩耶。
「はあ、これが萌えなのですか……」
眼前の大騒ぎを見て、「よく理解できない」と思うしか無いモアだった。
●
倒れたサンドロが復活したところで、アルファス(ka3312)が入ってきた。青と黒を基調としたローブを身に纏い、椅子にしずしずと腰掛ける。妖艶な微笑みでサンドロを見つめる。膝に黒猫が乗り、肩には妖精が留まる。それはまるで一枚の絵画のようだった。
「おお……これはこれでアリだお」
萌えとは微妙に違うかも、と思いながらも、その美しさはサンドロに天啓を与えるに充分だった。スケッチを始めるサンドロ。
そんなサンドロにアルファスが一声かける。
「これでも男性ですよ。ふふ、モデルになれるでしょうか」
サンドロの手が止まり、目を白黒させる。
「リアルブルーでは、一時期こういった萌えがありましたよ。男性だと分かっているのに、何かに惹かれてしまう。完全な女性ではないと感じられるのに、その曖昧な部分がギャップになって背徳的な魅力を感じさせる」
そう語り、再び妖艶な笑みを浮かべサンドロを見つめるアルファス。こう見ると、男性とは思えない。
「そこまで私が魅力を持っているかは別として……女性ではないからこその魅力がある。男性だと分かっているからこそ、背徳感が生まれる」
「背徳感……確かにそうだお……」
「サンドロさんは分かりますか……可愛いから萌えなのではありません。萌えは髪型、服装、性格、関係……そういったあらゆるものに存在し、自然と惹かれ、心が求めてしまう美しさや個性の結晶。心に響くか、理性ではなく本能が求めてしまう魅力であれば。それらは全て、萌えたりえる」
サンドロは一つうなづき、再び筆を走らせ始めた。
一方その頃、モアは「背徳感ですか……」と小さく呟くのであった。
●
「萌え? 萌えってなぁに?」
その頃、ユーリィ・リッチウェイ(ka3557)はそう尋ねていた。既にモデルを終えた者たちは、口々に自分の考えを語る。
「分かんないけど、とりあえずサンドロちゃんの気に入るような、『これだ!』って言う衣装とか仕草、ポーズ、シチュエーションなんかを考えれば良いのかな?」
参考用に渡されたサンドロの人形を見つつ、ユーリィはそう口にする。そうして衣装を身にまとい、ユーリィは扉の中へ入っていった。
「ふおおーっ!」
扉を開けて現れたユーリィを見て、サンドロは奇声を上げる。赤いケープを身にまとい表れたユーリィ。裾の丈は少し短く、その下からちらりと白いものが――ドロワーズが見えている。
手には苺の沢山入った籠、そしてケープのフードを下ろし、見える髪形はツーサイドアップ。それだけではない。ぴょこんと飛び出した白い耳。うさ耳が見える。お尻の部分にもウサギの尻尾が付いている。
そしてユーリィはサンドロの前に進み出た。ユーリィははにかんだ笑みを浮かべ、上目づかいでサンドロのことを見つめながら、籠から苺を取り出して一言。
「苺……一緒に食べませんか?」
それはとどめの一言だった。
「ふおおーっ! 食べるー!」
と叫びながらユーリィに飛びつくサンドロ。そして……
「ボク……この外見だけど、実は男の子なんだよね。それってポイント高い?」
「私より女の子らしいかもしれませんね」
と、ショートカットの髪を撫でながら、モアが一言呟くその横で真っ白になっていたサンドロが居た。
●
「あっ、今日は宜しくね」
入ってきた時音 ざくろ(ka1250)はにっこりとほほ笑みかける。ざくろの衣装は紅色をしたゴシック調のドレス。ただ、それをそのまま着ずにスカートの丈を短くしている。その下から見える白い生足がとてもセクシーだ。
「なるほど、これがアイドルですか……」
とは、モアの言葉。ざくろによるとリアルブルーではアニメやゲームの題材にもなるそうだ。それを思い出しサンドロに説明するモア。一方ざくろは、
「イメージ伝わりやすいようにざくろ、今から歌って踊っちゃうね」
と言ってウインクを一つ。アカペラで歌い踊り出す。ふわりと舞うスカート。
「アイドルは、歌や笑顔でみんなに元気をお届けするんだ、その魂を人形に宿らせて貰えたらって……えへっ☆」
歌い踊り終えたざくろはそう言って微笑みかける。それはまさにアイドルスマイル。視線はレーザービーム。
「宿らせてみせるお!」
と力強く答えるサンドロ。
その言葉を聞いたざくろは頬を染めた。
「一つ提案なんだけど……恥ずかしそうな表情とかも、萌えの一つだって想うんだ、だから仕草だけじゃなくて、別パーツで人形の表情換えられるように出来たら、もっと素敵にならないかなって」
「そんなことできるのですか?」
「やってみせるお! このサンドロ、一世一代の仕事だお!」
モアの疑問に間髪入れずに答えるサンドロ。手元の紙には既にスケッチを起こしていた。
「しかし二人続けて男性だったのでどうなることかと思いました」
「本当だお! ちゃんとした女の子が来てくれて良かったお!」
スケッチを描きつつ言葉を交わすモアとサンドロ。その言葉を聞いたざくろの顔は衣装と同じ色になり、
「ざっ、ざくろ、男、男だからっ……この普段着の方は、冒険家の正装だもん」
と返すが、二人は、
「ご冗談がお上手ですね」
「本当だお!」
と、完全かつ完璧にスルーした。
●
「う~ん、『萌え』は、なかなか難しい概念なんだよね」
エリオット・ウェスト(ka3219)はサンドロ達の前で説明を始める。サンドロやモアと向かい合うように立つエリオット。その姿はまるで学校の授業のようだ。
「愛しい、かわいいといった愛情と、まさかこんな格好でというアンバランスなデザインと、性的感情とを想像で融合させ、現実にはありえない部分を削り取って表現したもの、ってことでいいのかな?」
「なるほど! 男の子なのに女の子のように見えたり、その逆だったりする」
アルファスの言葉を思い出すサンドロ。我が意を得たりと頷いたエリオットは、説明を続ける。
「古来より、向こうの世界の日本って国が原産国だって説があるよ。神話の中にも、引きこもった偉い女神を引きずり出すために、扉の前で女神が全裸で踊ったって話があるよ。え~と、女子の優等生が、つい拾った、その、大人の雑誌を覗いてみちゃう、そんな感じって言うのかな?」
「これだお!」
その時、サンドロが素っ頓狂な声を上げた。
「どうされましたサンドロさん」
「つまりは、背徳感ということだお!」
「確かにそうアルファスさんは仰っていましたね」
してやったりと笑みを浮かべ、頷くエリオット。しかしエリオットが余裕の笑みを浮かべられるのはここまでだった。
「考えても見るんだお! 二人ほど女の子だと思ったら男の子だったお! つまりこの少年はきっと少女なんだお!」
「え?! ちょ、ちょっと!」
エリオットに飛びつくサンドロと押し倒されるエリオット。
「え? あ! や、やめてぇ!」
「もう性別なんてどうでもいいんだお! かわいければ正義なんだお!」
「えーっと……どうしましょう」
どたばたとしている二人を尻目に、モアは部屋を出るのであった。
●
最後はギルバート(ka2315)だ。モデルを務めるのはモアである。
「ワシは段階を踏んでいくぞ」
とギルバートが紹介すると黒い猫耳をつけたモアが現れる。
「まずはシンプルに猫耳のみ、どうじゃ」
「ほうほう」
と反応を返すサンドロ。
次に肉球グローブをつけて現れるモア。
「ここで一言にゃーと」
「にゃー……これでよろしいのでしょうか」
さらにギルバートはモアに尻尾をつける。
「眠そうに顔を洗って」
「こうすればいいのでしょうか」
とくしくしと顔を洗う動作をするモア。
「最後にゴスロリ衣装じゃ」
その言葉と共に、一度引っ込んだモアがゴスロリ衣装を着て現れる。
「四つん這いになってニャオーンと」
「……ニャオーン」
ややためらって、四つん這いになって鳴くモア。
「どうじゃ会心の出来じゃ」
「これだ! インスピレーションが来たお!」
ギルバートの言葉をそう叫んで遮ったサンドロ。もう1秒でも惜しい。指をせわしなく動かし、人形を作り始める。
「さて、今回ワシを抜かして皆猫娘が似合いそうじゃの。どうじゃ装着してみんか」
人形を作り始めたサンドロを横目で見ながら、ギルバートは手早く皆に猫耳を装着していく。
並んだ8人の猫娘を見て満足そうに頷くギルバート。そして顔を紅潮させ人形作りに没頭するサンドロ。その様子を見て、ギルバートはサンドロに声をかける。
「萌えは想像から無限に湧き出すもの。クールビューティーなモア殿は実は少女趣味で、下着に猫の顔がプリントされてるのを付けてるとか」
「ありません」
と冷静に返すモアにめげず、
「想像するだけでどんぶり飯3杯は行けるぞ。今回の依頼は天国じゃ」
そう語るギルバートであった。
●
しばらく後、ハンター達の元に人形完成の連絡が入った。富豪に納められる前に見ることを許されたハンター達。
そこには猫耳を付け、様々な衣装を着た人形が居た。風の魔法使いの衣装、セレナのゴシックドレス、摩耶のメイド服、アルファスの青と黒のローブ、ユーリィの赤ずきん、ざくろのアイドル衣装、モアの黒ゴスロリ、そしてエリオットの白衣。どれも男性とも女性とも取れる中性的な顔立ちに作られており、表情も差し替えられるようになっていた。
そのミステリアスな雰囲気はサンドロの名声をさらに高めるのだが、これはまた別の話である。
「サンドロさん、モデルの方をお連れしました」
「実演しますので、とりあえず食べ物を沢山お願いします、勿論経費で」
モアの言葉と共に最初に入って来たのは最上 風(ka0891)。ローブにマントを羽織り、頭には目玉のついた帽子という、いかにもかわいらしい魔法使いといった雰囲気の女の子だ。
「ただの魔法使いなんじゃないかお……」
サンドロの反応はまだ薄い。
「さぁさぁ、迅速に早急に用意お願いしますよ? モタモタしていると帰りますよ?」
そんな中、風は食事を用意するよう要求しせっつく。ほどなく大量の料理が並べられる。
料理が並べられるやいなや、端から食べ始める風。
「やれやれ、この程度の料理で風が満足すると思っているのですか?」
風は文句を言いつつ全くペースを落とさず料理を食べていく。
「念のため最高の腕を持つ料理人に作らせたのですが」
と、モアはマジレス。
表情を変えずに行なわれる二人のやりとりをサンドロは穴が開くほど見ていた。風は料理を口に運ぶ事を止めずに、
「あまり凝視しないで下さい、セクハラですよ?」
と、サンドロに拒否反応。その言葉がサンドロの心に火を付けた。
「ふぉーっ! こ、これだお! もっと罵って欲しいお!」
「落ち着いてください」
盛り上がるサンドロを冷静にたしなめるモア。
そんな二人を汚いものを見る目で見ながら、風は食事を続けていた。
「ふぅー、……まぁ、野草よりは美味でしたよ、あくまで野草よりはですが」
口元を拭きつつ風は言葉を続ける。
「残った料理は差し上げますよ? 何でしたら、風が口にねじ込んであげましょうか?」
「ねじ込んでくれおー!」
「落ち着いてください」
騒がしい二人を見ながら、風は表情を変えずに言葉を続けた。
「どうでしたか? 風の『くーでれ』と『ギャップ萌え』は?」
「演技だったのかお……」
「はい、全て演技です、あくまで演技です、本来の風はとても心優しいのですよ?」
口調を変えずにそう言う風。どこまでが演技でどこまでが素かわからない。
「風の様な、小柄で薄幸な美少女が、ガツガツ食べ出したら、ギャップを感じるでしょう?」
「という演技なのだお! やっぱりその虫けらを見るような視線で見てほしいお!」
「落ち着いてください」
変なスイッチの入ったサンドロの反応に、望み通り風とモアは虫けらに対する視線で見るのであった。
●
「萌え……ですか……。聞いた事はあります。リアルブルー独特の文化で、それに熱意を燃やしている、でしたっけ……?」
次に現れたのはセレナ・デュヴァル(ka0206)。無表情なセレナと無表情なモア。無表情女子二人が無表情なまま居ると妙な空気になる。
そんなセレナだが、自分の知っている知識で萌えを伝えることにした。
「確か、こういう服……ゴシックドレス、とか、も、萌え……だった気がします」
というセレナの服はフリルの沢山付いた白いドレス。裾にはレースがあしらわれ、とてもかわいらしい雰囲気を醸し出している。
「これが萌えなのかお……」
ところが、サンドロは悩む。セレナの着ている服は普通の人形職人が自分の作った人形に着せるような服、つまりサンドロの見慣れた服なのだ。
「それでは……これが『鉄板』というヤツなのでしょうか」
そんな二人の反応を見てか、セレナは何やらごそごそと取り出し、それを頭に装着した。
その時、サンドロに電流が走った。
「これだお!」
大騒ぎを始めるサンドロ。セレナの頭の上についていたのは猫耳、正しくは猫耳のついたカチューシャ。
「日常を破壊する猫耳の異物感! もふもふした毛の醸し出すかわいらしさ! これを待っていたんだお!」
「倒れられては困ります、サンドロさん」
大興奮のサンドロを何とかして抑えるモアだった。
●
「燃え? むずかしい問題ね……」
一方その頃、摩耶(ka0362)は扉の外で悩んでいた。そもそも萌えと燃えを取り違えているようだが、今回は些細な問題だ。どういう服装にしようかは決めていた。しかし、衣装を前にするとやはり悩む。この衣装が萌えを表現できるかではない。
「でも、がっ、がんばるわ」
着るのが恥ずかしいのだ。顔を真っ赤にしている摩耶。そこに、衣装を変えるために外に出てきたセレナが現れた。
「あら、摩耶さんもそれを着るんですか」
「は、はい」
「それなら私に勉強させてください」
ややあって、部屋に入ってくるセレナと摩耶。
摩耶の服装はエプロンドレス姿。セレナも先ほどまで来ていた服にエプロンを組み合わせている。俗にメイド服と言われるそれだ。
しかもそれだけではない。摩耶はホワイトブリムに猫耳を組み合わせている。猫耳メイドと言うべき格好だ。セレナももちろん猫耳はつけたままだ。
「ふおお! 猫耳メイド! 猫耳メイド!」
「とりあえず落ち着いてください」
再び騒ぎ始める二人。そこに追い打ちを掛けるように「ご主人さま、お茶をどうぞ」と紅茶を出すのはセレナ。
それに対し「ご、ご主人さま、お茶を淹れたにゃん」と顔を真っ赤にして言う摩耶。
さらにセレナが「それでは……ご主人さま、お茶をどうぞにゃ」と表情を変えずに言うと、その間に挟まれたサンドロが遂に壊れた。
「ふおおお! にゃーって! にゃーって!」
興奮の余り仰向けに倒れるサンドロ。慌てて駆け寄るセレナと摩耶。
「はあ、これが萌えなのですか……」
眼前の大騒ぎを見て、「よく理解できない」と思うしか無いモアだった。
●
倒れたサンドロが復活したところで、アルファス(ka3312)が入ってきた。青と黒を基調としたローブを身に纏い、椅子にしずしずと腰掛ける。妖艶な微笑みでサンドロを見つめる。膝に黒猫が乗り、肩には妖精が留まる。それはまるで一枚の絵画のようだった。
「おお……これはこれでアリだお」
萌えとは微妙に違うかも、と思いながらも、その美しさはサンドロに天啓を与えるに充分だった。スケッチを始めるサンドロ。
そんなサンドロにアルファスが一声かける。
「これでも男性ですよ。ふふ、モデルになれるでしょうか」
サンドロの手が止まり、目を白黒させる。
「リアルブルーでは、一時期こういった萌えがありましたよ。男性だと分かっているのに、何かに惹かれてしまう。完全な女性ではないと感じられるのに、その曖昧な部分がギャップになって背徳的な魅力を感じさせる」
そう語り、再び妖艶な笑みを浮かべサンドロを見つめるアルファス。こう見ると、男性とは思えない。
「そこまで私が魅力を持っているかは別として……女性ではないからこその魅力がある。男性だと分かっているからこそ、背徳感が生まれる」
「背徳感……確かにそうだお……」
「サンドロさんは分かりますか……可愛いから萌えなのではありません。萌えは髪型、服装、性格、関係……そういったあらゆるものに存在し、自然と惹かれ、心が求めてしまう美しさや個性の結晶。心に響くか、理性ではなく本能が求めてしまう魅力であれば。それらは全て、萌えたりえる」
サンドロは一つうなづき、再び筆を走らせ始めた。
一方その頃、モアは「背徳感ですか……」と小さく呟くのであった。
●
「萌え? 萌えってなぁに?」
その頃、ユーリィ・リッチウェイ(ka3557)はそう尋ねていた。既にモデルを終えた者たちは、口々に自分の考えを語る。
「分かんないけど、とりあえずサンドロちゃんの気に入るような、『これだ!』って言う衣装とか仕草、ポーズ、シチュエーションなんかを考えれば良いのかな?」
参考用に渡されたサンドロの人形を見つつ、ユーリィはそう口にする。そうして衣装を身にまとい、ユーリィは扉の中へ入っていった。
「ふおおーっ!」
扉を開けて現れたユーリィを見て、サンドロは奇声を上げる。赤いケープを身にまとい表れたユーリィ。裾の丈は少し短く、その下からちらりと白いものが――ドロワーズが見えている。
手には苺の沢山入った籠、そしてケープのフードを下ろし、見える髪形はツーサイドアップ。それだけではない。ぴょこんと飛び出した白い耳。うさ耳が見える。お尻の部分にもウサギの尻尾が付いている。
そしてユーリィはサンドロの前に進み出た。ユーリィははにかんだ笑みを浮かべ、上目づかいでサンドロのことを見つめながら、籠から苺を取り出して一言。
「苺……一緒に食べませんか?」
それはとどめの一言だった。
「ふおおーっ! 食べるー!」
と叫びながらユーリィに飛びつくサンドロ。そして……
「ボク……この外見だけど、実は男の子なんだよね。それってポイント高い?」
「私より女の子らしいかもしれませんね」
と、ショートカットの髪を撫でながら、モアが一言呟くその横で真っ白になっていたサンドロが居た。
●
「あっ、今日は宜しくね」
入ってきた時音 ざくろ(ka1250)はにっこりとほほ笑みかける。ざくろの衣装は紅色をしたゴシック調のドレス。ただ、それをそのまま着ずにスカートの丈を短くしている。その下から見える白い生足がとてもセクシーだ。
「なるほど、これがアイドルですか……」
とは、モアの言葉。ざくろによるとリアルブルーではアニメやゲームの題材にもなるそうだ。それを思い出しサンドロに説明するモア。一方ざくろは、
「イメージ伝わりやすいようにざくろ、今から歌って踊っちゃうね」
と言ってウインクを一つ。アカペラで歌い踊り出す。ふわりと舞うスカート。
「アイドルは、歌や笑顔でみんなに元気をお届けするんだ、その魂を人形に宿らせて貰えたらって……えへっ☆」
歌い踊り終えたざくろはそう言って微笑みかける。それはまさにアイドルスマイル。視線はレーザービーム。
「宿らせてみせるお!」
と力強く答えるサンドロ。
その言葉を聞いたざくろは頬を染めた。
「一つ提案なんだけど……恥ずかしそうな表情とかも、萌えの一つだって想うんだ、だから仕草だけじゃなくて、別パーツで人形の表情換えられるように出来たら、もっと素敵にならないかなって」
「そんなことできるのですか?」
「やってみせるお! このサンドロ、一世一代の仕事だお!」
モアの疑問に間髪入れずに答えるサンドロ。手元の紙には既にスケッチを起こしていた。
「しかし二人続けて男性だったのでどうなることかと思いました」
「本当だお! ちゃんとした女の子が来てくれて良かったお!」
スケッチを描きつつ言葉を交わすモアとサンドロ。その言葉を聞いたざくろの顔は衣装と同じ色になり、
「ざっ、ざくろ、男、男だからっ……この普段着の方は、冒険家の正装だもん」
と返すが、二人は、
「ご冗談がお上手ですね」
「本当だお!」
と、完全かつ完璧にスルーした。
●
「う~ん、『萌え』は、なかなか難しい概念なんだよね」
エリオット・ウェスト(ka3219)はサンドロ達の前で説明を始める。サンドロやモアと向かい合うように立つエリオット。その姿はまるで学校の授業のようだ。
「愛しい、かわいいといった愛情と、まさかこんな格好でというアンバランスなデザインと、性的感情とを想像で融合させ、現実にはありえない部分を削り取って表現したもの、ってことでいいのかな?」
「なるほど! 男の子なのに女の子のように見えたり、その逆だったりする」
アルファスの言葉を思い出すサンドロ。我が意を得たりと頷いたエリオットは、説明を続ける。
「古来より、向こうの世界の日本って国が原産国だって説があるよ。神話の中にも、引きこもった偉い女神を引きずり出すために、扉の前で女神が全裸で踊ったって話があるよ。え~と、女子の優等生が、つい拾った、その、大人の雑誌を覗いてみちゃう、そんな感じって言うのかな?」
「これだお!」
その時、サンドロが素っ頓狂な声を上げた。
「どうされましたサンドロさん」
「つまりは、背徳感ということだお!」
「確かにそうアルファスさんは仰っていましたね」
してやったりと笑みを浮かべ、頷くエリオット。しかしエリオットが余裕の笑みを浮かべられるのはここまでだった。
「考えても見るんだお! 二人ほど女の子だと思ったら男の子だったお! つまりこの少年はきっと少女なんだお!」
「え?! ちょ、ちょっと!」
エリオットに飛びつくサンドロと押し倒されるエリオット。
「え? あ! や、やめてぇ!」
「もう性別なんてどうでもいいんだお! かわいければ正義なんだお!」
「えーっと……どうしましょう」
どたばたとしている二人を尻目に、モアは部屋を出るのであった。
●
最後はギルバート(ka2315)だ。モデルを務めるのはモアである。
「ワシは段階を踏んでいくぞ」
とギルバートが紹介すると黒い猫耳をつけたモアが現れる。
「まずはシンプルに猫耳のみ、どうじゃ」
「ほうほう」
と反応を返すサンドロ。
次に肉球グローブをつけて現れるモア。
「ここで一言にゃーと」
「にゃー……これでよろしいのでしょうか」
さらにギルバートはモアに尻尾をつける。
「眠そうに顔を洗って」
「こうすればいいのでしょうか」
とくしくしと顔を洗う動作をするモア。
「最後にゴスロリ衣装じゃ」
その言葉と共に、一度引っ込んだモアがゴスロリ衣装を着て現れる。
「四つん這いになってニャオーンと」
「……ニャオーン」
ややためらって、四つん這いになって鳴くモア。
「どうじゃ会心の出来じゃ」
「これだ! インスピレーションが来たお!」
ギルバートの言葉をそう叫んで遮ったサンドロ。もう1秒でも惜しい。指をせわしなく動かし、人形を作り始める。
「さて、今回ワシを抜かして皆猫娘が似合いそうじゃの。どうじゃ装着してみんか」
人形を作り始めたサンドロを横目で見ながら、ギルバートは手早く皆に猫耳を装着していく。
並んだ8人の猫娘を見て満足そうに頷くギルバート。そして顔を紅潮させ人形作りに没頭するサンドロ。その様子を見て、ギルバートはサンドロに声をかける。
「萌えは想像から無限に湧き出すもの。クールビューティーなモア殿は実は少女趣味で、下着に猫の顔がプリントされてるのを付けてるとか」
「ありません」
と冷静に返すモアにめげず、
「想像するだけでどんぶり飯3杯は行けるぞ。今回の依頼は天国じゃ」
そう語るギルバートであった。
●
しばらく後、ハンター達の元に人形完成の連絡が入った。富豪に納められる前に見ることを許されたハンター達。
そこには猫耳を付け、様々な衣装を着た人形が居た。風の魔法使いの衣装、セレナのゴシックドレス、摩耶のメイド服、アルファスの青と黒のローブ、ユーリィの赤ずきん、ざくろのアイドル衣装、モアの黒ゴスロリ、そしてエリオットの白衣。どれも男性とも女性とも取れる中性的な顔立ちに作られており、表情も差し替えられるようになっていた。
そのミステリアスな雰囲気はサンドロの名声をさらに高めるのだが、これはまた別の話である。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 5人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/25 22:44:37 |
|
![]() |
相談卓 最上 風(ka0891) 人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/12/03 20:20:48 |