ゲスト
(ka0000)
【郷祭】山野に美味あり
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/22 19:00
- 完成日
- 2017/12/03 23:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ジェオルジの森
懐かしい、森の匂い。
メリンダ・ドナーティ(kz0041)は久しぶりの故郷の空気を胸一杯に吸い込む。
(この空気、何年ぶりかしら……)
同盟軍の報道官……のはずだが、もうほとんど何でも屋という状態であちこち飛び回り、異世界の宇宙の基地にまで行った。
そんなメリンダを森は変わらず迎えてくれる。
だが吐き出す息はどこか不穏だった。
(ああ……これが休暇だったらもっと良かったのに。いやせめて、どっちか一人なら……!!!)
小さくこぶしを握るメリンダに、まるで腹話術師のように唇を動かさないまま、隣にいる男が尋ねた。
「どうかしましたか?」
「いいえ。それよりもフィンツィ『さん』は、狩りに同行されますか?」
メリンダはいつもの営業スマイルを向ける。
相手はマヌエル・フィンツィ少佐。ヴァリオスのレオーニ商会の会頭秘書ということになっているが、同盟軍情報部の将校である。
「ええ、多少はたしなみますので。久々ですので腕がなまっていなければいいのですがね」
服装こそ裕福な商人風だが、こちらの頭の中を透視するような独特の視線は相変わらずだった。
おそらくその気になれば商人らしくふるまうこともできるのだろうが、隠すつもりはないらしい。
フィンツィはもう一人の男に声をかけた。
「如何ですか、アスタリスクさん。クリムゾンウェストの猟銃は?」
アスタリスク(kz0234)は手にしていた猟銃から目を離し、顔を上げた。
「実に興味深いですね。構造はシンプルですが、理にかなっている」
緑の瞳に、子供のような好奇心がきらめいていた。
アスタリスクは、リアルブルーの強化人間である。
数ヶ月前、崑崙基地へ同盟商人の一行が商談に向かった。
その際にメリンダとフィンツィ、そしてハンター達も同行したのだが、その際にVOIDが襲来、ハンターとアスタリスクが撃退したという経緯がある。
そして今回、同盟側からお礼と交流を兼ねて、郷祭の時期にアスタリスクが招かれたのだった。
郷祭の見学のついでに、狩りを持ちかけたのはフィンツィだ。
名目は、ヴァリオスのとあるレストランがジェオルジの産品を扱いたいので、試しに何か買いつけてきてほしいと頼んできたから。
そこで野生動物の肉を入手すべく、ジェオルジ出身のメリンダが場所の選定を任され、アスタリスクにハンティングを経験してもらうことになったのだ。
●メリンダの思案
(交流、ね……)
メリンダは笑顔の裏で溜息をつく。
狐と狸の化かし合いだ。
交流はお互いにメリットがあるからこそ成立する。
同盟軍は――少なくともフィンツィ少佐は、『強化人間』という存在に興味を示しているのは間違いない。
(要するに専用の装備品ではなく普通の猟銃がどれだけ使えるかで、強化人間の能力を探ろうという訳ね)
アスタリスクも同盟の、あるいは同盟軍の意図はわかっているだろう。そしてフィンツィ少佐の正体も予想しているはずだ。
では、強化人間の意図は?
――それを考えるのはフィンツィ少佐の仕事だわ。
メリンダは敢えてそう思うことにした。
●狩りへ
このハンティングに、メリンダはハンター達の同行を依頼した。
表向きは素人集団の狩りなので、万が一歪虚に遭遇した場合の保険、という理由だった。
実際、フィンツィ少佐やアスタリスクはこの付近の山に慣れていない。何かあったときにメリンダと案内人だけでは心もとないのは確かだ。
「アスタリスク中尉はこれをお持ちください。何かあったらこれで私と連絡が取れますから」
メリンダは自分の周波数と合わせたトランシーバーを渡す。
「有難うございます。お借りしますね」
アスタリスクはこれも面白そうに眺める。
「では皆さん、行きましょうか。戻ったら美味しい料理も待っていますから!」
メリンダは営業スマイルではなく、本当の笑顔を浮かべた。
懐かしい、森の匂い。
メリンダ・ドナーティ(kz0041)は久しぶりの故郷の空気を胸一杯に吸い込む。
(この空気、何年ぶりかしら……)
同盟軍の報道官……のはずだが、もうほとんど何でも屋という状態であちこち飛び回り、異世界の宇宙の基地にまで行った。
そんなメリンダを森は変わらず迎えてくれる。
だが吐き出す息はどこか不穏だった。
(ああ……これが休暇だったらもっと良かったのに。いやせめて、どっちか一人なら……!!!)
小さくこぶしを握るメリンダに、まるで腹話術師のように唇を動かさないまま、隣にいる男が尋ねた。
「どうかしましたか?」
「いいえ。それよりもフィンツィ『さん』は、狩りに同行されますか?」
メリンダはいつもの営業スマイルを向ける。
相手はマヌエル・フィンツィ少佐。ヴァリオスのレオーニ商会の会頭秘書ということになっているが、同盟軍情報部の将校である。
「ええ、多少はたしなみますので。久々ですので腕がなまっていなければいいのですがね」
服装こそ裕福な商人風だが、こちらの頭の中を透視するような独特の視線は相変わらずだった。
おそらくその気になれば商人らしくふるまうこともできるのだろうが、隠すつもりはないらしい。
フィンツィはもう一人の男に声をかけた。
「如何ですか、アスタリスクさん。クリムゾンウェストの猟銃は?」
アスタリスク(kz0234)は手にしていた猟銃から目を離し、顔を上げた。
「実に興味深いですね。構造はシンプルですが、理にかなっている」
緑の瞳に、子供のような好奇心がきらめいていた。
アスタリスクは、リアルブルーの強化人間である。
数ヶ月前、崑崙基地へ同盟商人の一行が商談に向かった。
その際にメリンダとフィンツィ、そしてハンター達も同行したのだが、その際にVOIDが襲来、ハンターとアスタリスクが撃退したという経緯がある。
そして今回、同盟側からお礼と交流を兼ねて、郷祭の時期にアスタリスクが招かれたのだった。
郷祭の見学のついでに、狩りを持ちかけたのはフィンツィだ。
名目は、ヴァリオスのとあるレストランがジェオルジの産品を扱いたいので、試しに何か買いつけてきてほしいと頼んできたから。
そこで野生動物の肉を入手すべく、ジェオルジ出身のメリンダが場所の選定を任され、アスタリスクにハンティングを経験してもらうことになったのだ。
●メリンダの思案
(交流、ね……)
メリンダは笑顔の裏で溜息をつく。
狐と狸の化かし合いだ。
交流はお互いにメリットがあるからこそ成立する。
同盟軍は――少なくともフィンツィ少佐は、『強化人間』という存在に興味を示しているのは間違いない。
(要するに専用の装備品ではなく普通の猟銃がどれだけ使えるかで、強化人間の能力を探ろうという訳ね)
アスタリスクも同盟の、あるいは同盟軍の意図はわかっているだろう。そしてフィンツィ少佐の正体も予想しているはずだ。
では、強化人間の意図は?
――それを考えるのはフィンツィ少佐の仕事だわ。
メリンダは敢えてそう思うことにした。
●狩りへ
このハンティングに、メリンダはハンター達の同行を依頼した。
表向きは素人集団の狩りなので、万が一歪虚に遭遇した場合の保険、という理由だった。
実際、フィンツィ少佐やアスタリスクはこの付近の山に慣れていない。何かあったときにメリンダと案内人だけでは心もとないのは確かだ。
「アスタリスク中尉はこれをお持ちください。何かあったらこれで私と連絡が取れますから」
メリンダは自分の周波数と合わせたトランシーバーを渡す。
「有難うございます。お借りしますね」
アスタリスクはこれも面白そうに眺める。
「では皆さん、行きましょうか。戻ったら美味しい料理も待っていますから!」
メリンダは営業スマイルではなく、本当の笑顔を浮かべた。
リプレイ本文
●
ハンター達はそれぞれ挨拶を交わし、準備を整える。
玉兎・恵(ka3940)は玉兎 小夜(ka6009)の腕につかまりながら、嬉しそうに笑う。
「玉兎・恵でっす。こちらは旦那様の兎さん。宜しくお願いしますね」
「……よろしくー」
小夜は恵にあわせる程度に軽く会釈した。
「狩りは久々ですねー。あ、弓と旦那様は銃と弓とどちらにしますか?」
元・リアルブルーの女子高生は、転移した頃、道に迷ってサバイバルで生き抜いた経験があるのだ。
「弓かぁ……銃よりはましかなぁ……どっちもろくに使ったことはないなぁー。刀封印はめんどくさいなぁ……」
「じゃあ一緒に弓ですね!」
ふたりはそれぞれの体格や腕力にあった弓を選ぶ。
「メリンダさんお久しぶりですぅ」
星野 ハナ(ka5852)が可愛らしく小首を傾げた。
「お久しぶりですね。お元気でした?」
苦しい時に力を貸してくれたハナとの再会は、メリンダにとって嬉しい出来事だった。
「はい、おかげさまでぇ。ところで良い男どこかに落ちてないですぅ?」
「……落ちてたら私にも教えてくださいね。ハナさんの残りでいいですから」
あながち冗談とも思えない口調である。
「ちょっといいか」
カイン・シュミート(ka6967)がメリンダに声をかける。
「はい、なんでしょう?」
そこでメリンダの笑顔が若干強張った。
(???)
カインの両脇に控えるプードルとグレイハウンドから、得も言われぬ圧を感じたのだ。
「他のメンバーとも連絡手段を確保しておきたいんだが」
「ああ、そうですね。トランシーバーの周波数を合わせておきましょう」
この言葉に、そっとミア(ka7035)がメリンダの傍につく。
「ドナーティちゃん、ミアが迷子になったらよろしくニャス……」
「貴方もハンティングは初めてですか?」
ちょっと安心したように、アスタリスクがミアに声をかけた。
「アスタリスクちゃんも初めてニャんニャスねー、ミアと同じニャス!」
ミアはアスタリスクの両手を握り、ぶんぶんと振り回す。
「わくわくというよりも、ちょっとドキドキニャスなぁ……動物さん見つけちゃったら、いいこいいこしちゃいそうニャス」
「そうね。歪虚を狩るのとは全く違うはずだもの」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)が大人びた微笑みを浮かべた。
メリンダはエーミの装いに目を見張る。
「あら素敵なお召しですね! でも汚れたらもったいないわ……」
エーミはしっとりと美しい、散紅葉柄の和装に襷掛けといういで立ちだった。
「ふふ、慣れているから大丈夫よ。それにこの柄は山の中では迷彩にもなるわ」
シバ・ミラージュ(ka2094)が具合を確かめるように、トランシーバーを口に当てた。
「あーあー。もし分散して狩るなら、各グループにひとりはトランシーバーの所持者がいるほうがいいでしょうね」
「それもそうだな。何があるかもわからねぇご時勢だし」
カインは自分の犬達の頭をなでる。自分には頼りになる相棒がいるが、皆がそういう訳でもない。
それと、とシバは腰に下げた尺八を示した。
「はぐれた場合は各自、スタート地点に戻るのが良いかもしれません。それでも迷った場合や緊急連絡には、僕はこれを使いますね」
音を出す、煙を出す、そういう方法も打ち合わせる。
「じゃあ、いきましょうか♪」
恵が小夜の顔を嬉しそうに見上げた。
一団は案内人を先頭に、山へ分け入った。
●
ベースを定め、それぞれが行動開始。
ミアは早速、木の上に山の幸を発見した。
「あっ、柿ニャス! ……渋いやつじゃニャいニャスよネ?」
一口かじると充分に熟した柿は、お菓子のように甘い。
「うまーニャス! アスタリスクちゃんも食べるニャス!」
木を降りてきたミアは、アスタリスクの口に柿を押し込む。
「甘い!」
リアルブルーにも果物はあるのだろうが、流石に崑崙基地で木からもいで果物を食べることはめったにないだろう。
その間にミアはもう、栗を見つけている。
恵は木に登ろうとするアスタリスクをそっと窺った。
(強化人間といっても見た目は普通なのね)
どの程度動けるものなのか。皆が多少は気にしていることだろう。
とはいえ、みんなで彼を囲んで見張っているわけにもいかない。
恵はひとまず狩りに集中することにした。というよりも、小夜との楽しいひとときを。
「兎さん、調子はどうですか?」
「はう……歪虚、来ないかなぁ……」
借りた弓をくるくる回す小夜。
「弓は恵の方が全然得意だろうしね。役に立たない兎は、迷子にならないようにするだけかなぁ」
「じゃあ、あっち行ってみましょう!」
恵は嬉しそうに先に立って歩き出す。小夜は辺りを確認しながら後をついて行った。
(しっかり見張ってあげないと、うちの嫁は迷子属性があるんだよね)
狩りというよりちょっとサバイバルなデートを楽しむふたりだった。
ハナは『茸図鑑』を開きながら、メリンダと並んで歩く。
「春から夏の山野草はこれでも結構詳しいんですよぅ。でも初秋以降って山野草はほぼ駄目じゃないですかぁ。秋の実とか樹液とか茸とか、今まで手を出していなかったのでぇ」
「樹液は……カエデ以外はあまりお勧めできないかも?」
「えー、そうなんですかぁ。あっ、茸がありますよぅ」
ハナが採って見せる茸を、メリンダは眉間にしわを寄せて睨む。
「どうでしょう……これは大丈夫かしら」
図鑑と見比べると大丈夫な気もするが、ジェオルジには笑いすぎて大変なことになる茸もある。
「後で茸名人に鑑定してもらいましょう」
「いくらなんでもここでかじったりしないですぅ」
アスタリスクは、シバ、エーミと、エーミの連れてきたイヌイット・ハスキーが一緒だった。
「アスタリスクさん、弓矢を試してみますか?」
シバが提案した。
「当たるかどうかは分かりませんが。折角の機会ですしね」
皆の思惑に気付いていないのか、アスタリスクは弓に矢を番えた。エーミが囁く。
「少し待って。あの辺りがウサギの通り道みたいよ」
「そういうこともわかるのですか」
「ええ。ほらあの藪、巣穴がありそうだわ」
エーミが犬を放す。
犬の吠える声、草が踏まれて軋む音。
それと共に、枯れ草色の小さな生き物がすごい速さで駆け出してきた。
「……とても無理でした」
苦笑して肩をすくめるアスタリスク。
「慣れていないと、どう動くかもわからないですしね」
シバは弓を片づけ、仕留めたウサギを回収に行く。
「大きい方が狙いやすいわね。この辺りは日当たりがよくて下草が多いわ、シカの餌場みたいよ」
ちょうど案内人の猟犬の吠え声が四方から迫ってきた。
ハナが囁く。
「シカですよぅ!」
一同がそちらを見ると、人間の姿に気付いたシカはぱっと身を翻した。
「逃がさないですぅ! さっさとお肉になるですぅ!」
ハナはメリンダとのガールズトーク(?)から一転、シカを追う。
案内人が慌てて声をかけた。
「嬢ちゃん危ない! 熊が出るかもしれんぞ!!」
「熊が怖くて歪虚が殺(や)れるかですぅ!」
ハナはシカに迫ると足元を狙って地縛符を使った。
「スキルは罠に使うんですぅ。便利なものを全く使用しないのは思考の硬直だと思いますぅ」
単に術が使いたかっただけかとも思うが、シカは泥状になった足場に速度を落とす。
別方向から回り込んだミアが、狙いを定めた。
「……ごめんね、ニャス」
矢を受けたシカは、大きく跳ねた。
カインは少し開けた場所で、双眼鏡を覗き込む。
「あの小川になら何かいそうだな」
プードルのマグノーリエを先に行かせると、器用に泳ぎ、すぐにカモを追いたててきた。
見事仕留め、カインはマグノーリエを労う。
「よしよし、水も滴るいいおん……ウィスティリア何すんだ」
グレイハウンドの強い脚が、カインの尻を蹴飛ばしていた。
「全く……おっ、あの繁み、今動かなかったか」
その言葉よりも早く、ウィスティリアが駆けだした。
カインはタイミングを見計らって矢を放ち、倒れたウサギをウィスティリアが咥えて戻ってくる。
得意げに尻尾を振り、長い脚で地を蹴る様子に、カインは少し笑う。
「ったく、美人があんなに喜ん……今度はマグノーリエか! 美人が台無しだから、仲良くな?」
カインは彼女達の乙女心に全く気付いていないようだ。
●
その頃、恵と小夜はイノシシと遭遇していた。
「……要は、肉を切らなければいいんでしょう!」
恵を背後にかばい、小夜は腰を低くして身構える。
「兎さん、気をつけてください!」
「兎が猪程度に負けるはずがないのだ!」
猛然と突っ込む小夜。歪虚ならいざ知らず、相手は獣だ。素手で首の一つぐらい折ってやるという気概だ。
イノシシを真正面から受け止め、放り投げる。
「私の嫁に牙をむいたことを冥土で悔やむんだな!」
吹き飛ばしたイノシシに、勝利を宣言する小夜。
「大丈夫ですか!」
大丈夫と信じているが、やはり気になる恵である。
「大丈夫、大丈夫。でもあとは恵にまかせるよー」
「うふふ♪ わかってますよぅ、兎さん。家事とか料理はメイドの私の領分ですからね!」
小夜の信頼は、恵にとって何よりうれしい。
捕えた獲物はすぐに処理しなければならない。
エーミは横たわるシカの傍に屈みこむ。
「ご覧になる?」
遠巻きに覗き込むアスタリスクに、見えやすい場所を示す。
そして慣れた手つきで、まだ暖かいシカの身体にダガー「ヒュドール」の冷たい刃を滑らせた。
血を抜き、皮をはぎ、肉を切り分け……エーミはアスタリスクに尋ねた。
「軍人さんには今更かしら。奪う為に力を行使することに、躊躇いはない?」
アスタリスクは微笑を崩さないまま答えた。
「それが必要であれば。迷いは自分だけでなく、仲間も危険に晒します」
「そう。……私は魔術の師に、無理だと答えたの」
その答えを聞いた彼女の師は、狩りを教えた。
どんなに綺麗な言葉で飾ろうとも、命を奪うことなく人は生きられない。それを理解させるために。
「だから私は預かった命に、新たな息吹を吹き込むの。それがエーテルクラフトの魔法よ」
エーミが料理に心血を注ぐのは、奪った命への敬意を表す為でもあった。
●
持ち帰った獲物に、村では大喜びだった。
「一部は干し肉と塩漬けに。冬の貴重な食料になります」
メリンダが案内人と一緒に狩った分は、全てそちらへ回すという。
「メリンダさんって……血とか、結構大丈夫だったんですね」
「ええ、私はもともとここの人間ですし。料理も多少はできますよ? ……田舎料理なので、軍に入ってからは全然ですけどね」
メリンダはちょっと寂しそうに肩をすくめる。
「そうですか、じゃあいつかいただきたいです」
「いつかじゃなくて今日食べましょ!」
シバの言葉に驚くほど鈍感なメリンダ。まあいつものことだ。
「メリンダさんも、少しは仕事を忘れて楽しめましたか?」
「ええ。シバさんのお陰でね。今日はシバさんもお疲れでしょう?」
シバが狩りよりも皆の行動に気を配っていたことには、気付いていたらしい。
やがてあちらこちらに作られた竈から、いいにおいが立ち上ってくる。
カインは持ち帰った肉を自ら調理していた。
「こっちはグラーシュ……死んだばあちゃんがこれ好きで農作業中の昼飯だったらしい」
ウサギ肉のシチューのような料理だ。カモはシンプルにチーズと一緒に焼いてみた。
「それと、これ。あったまるからな」
持参した牛乳を使ったミルクティーを皆に配る。茶葉はこの地方の特産品を提供してもらった。
ミルクティーを受け取り、ハナがにっこり笑う。
「ありがとうございますぅ。お礼といってはなんですけどぉ、後でスフレ提供しますねぇ」
今はレバーの処理に忙しいハナである。臭みを取って焼けば、きっと美味しいだろう。
「おう、有難う……ッ!?」
「どうかしましたかぁ?」
「いや何でもないんだ、何でも」
カインの背中から腰にかけて、大小の犬の足跡がくっきりとついていたのは言うまでもない。
恵は大きな鍋に、香草とワインをたっぷり、それにイノシシの肉を入れて煮込んでいた。
「折角の良い脂を生かしたいですからね」
「きっとやればできるような不思議な感覚がするのだけれど、やる気が出ないということはできないのだろう」
小夜は何やら難しいことを言いながら、隣に並んで恵の手元を見つめる。
「ふふっ、偶には手伝って貰って一緒にーっていうのは歓迎ですけどね。いつか兎さんの気が向いたら」
少し濃いめの味付けの肉を少しとりわけ、恵の前にスプーンで差し出す。
「はい、あーん♪ 熱いですから気をつけてくださいね」
「ありがとー、恵ぃ」
パクリと頬張ると、荒々しい風味の中にも何とも言えない滋味が広がる。
「さすがは恵、美味しいよ」
言葉と一緒に腕を差し伸べ、恵の肩を抱く。
頭をなでると、恵は幸せいっぱいという笑顔になった。
出来上がった料理が大きなテーブルに並んだ。
エーミは恵の猪の煮込みを、興味深そうに覗き込む。
「猪を食べると、鹿は食べられなくなるというけれど」
鹿鍋と、塩焼きの茸あん添え、そして山で採ってきた山菜の天ぷらを並べた。
皆でテーブルにつく。
「いただきます」
エーミは涙ながらに『命』を食したあの日から、欠かすことのない感謝の言葉と研鑽の証の言葉を呟いて手を合わせる。
アスタリスクは神妙な顔でその様子を見ていた。
「猪さん美味しいニャス……!」
ミアは念願の猪にありつき、ほう、とため息をつく。そしてアスタリスクの顔を覗き込んだ。
「ちゃんと食べてるニャスか?」
「ええ、いただいていますよ」
スプーンを口に運ぶ。
命を奪って生きること。その理屈を知らなかったわけではない。
だが同じ空気を吸い、同じ森を走る生き物を食べる、それを今日ほど実感したことはなかった。
――はたしてこの惑星の精霊は、私がこの命を取りこむことを許すのだろうか……?
何故かそんな疑問がよぎるが、噛みしめた肉は身体にしみとおるようだった。
「こっちも美味いぜ」
カインが鴨肉をアスタリスクにすすめる。
「で、なんか獲れたか?」
「ははは、難しいですよ。皆さんにはかなわない」
「まあ慣れってぇのもあるしな。シカは難しいだろ」
そんな風に話を振ると、アスタリスクは熱心に乗ってくる。カインにはその様子が少し意外だった。
(ハンターになって日が浅い俺でも、何の思惑もねぇ訳がねぇだろって思うが……)
お互いに、単純な探りあいで相手のことがわかるなら苦労はない。
(ま、今日は普通に楽しめばいいさ)
会話しつつ、ゆっくりと食べるアスタリスクに、ミアが鹿肉を取りわけてやった。
「ご飯は美味しく、楽しく、大切に食べるニャス。アスタリスクちゃんの心、ぽっぽしてきたニャスか?」
山から見える空。
森の香り、土の感触。
今日、身体で感じた全てが、料理のアクセントとなっているだろう。
<了>
ハンター達はそれぞれ挨拶を交わし、準備を整える。
玉兎・恵(ka3940)は玉兎 小夜(ka6009)の腕につかまりながら、嬉しそうに笑う。
「玉兎・恵でっす。こちらは旦那様の兎さん。宜しくお願いしますね」
「……よろしくー」
小夜は恵にあわせる程度に軽く会釈した。
「狩りは久々ですねー。あ、弓と旦那様は銃と弓とどちらにしますか?」
元・リアルブルーの女子高生は、転移した頃、道に迷ってサバイバルで生き抜いた経験があるのだ。
「弓かぁ……銃よりはましかなぁ……どっちもろくに使ったことはないなぁー。刀封印はめんどくさいなぁ……」
「じゃあ一緒に弓ですね!」
ふたりはそれぞれの体格や腕力にあった弓を選ぶ。
「メリンダさんお久しぶりですぅ」
星野 ハナ(ka5852)が可愛らしく小首を傾げた。
「お久しぶりですね。お元気でした?」
苦しい時に力を貸してくれたハナとの再会は、メリンダにとって嬉しい出来事だった。
「はい、おかげさまでぇ。ところで良い男どこかに落ちてないですぅ?」
「……落ちてたら私にも教えてくださいね。ハナさんの残りでいいですから」
あながち冗談とも思えない口調である。
「ちょっといいか」
カイン・シュミート(ka6967)がメリンダに声をかける。
「はい、なんでしょう?」
そこでメリンダの笑顔が若干強張った。
(???)
カインの両脇に控えるプードルとグレイハウンドから、得も言われぬ圧を感じたのだ。
「他のメンバーとも連絡手段を確保しておきたいんだが」
「ああ、そうですね。トランシーバーの周波数を合わせておきましょう」
この言葉に、そっとミア(ka7035)がメリンダの傍につく。
「ドナーティちゃん、ミアが迷子になったらよろしくニャス……」
「貴方もハンティングは初めてですか?」
ちょっと安心したように、アスタリスクがミアに声をかけた。
「アスタリスクちゃんも初めてニャんニャスねー、ミアと同じニャス!」
ミアはアスタリスクの両手を握り、ぶんぶんと振り回す。
「わくわくというよりも、ちょっとドキドキニャスなぁ……動物さん見つけちゃったら、いいこいいこしちゃいそうニャス」
「そうね。歪虚を狩るのとは全く違うはずだもの」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)が大人びた微笑みを浮かべた。
メリンダはエーミの装いに目を見張る。
「あら素敵なお召しですね! でも汚れたらもったいないわ……」
エーミはしっとりと美しい、散紅葉柄の和装に襷掛けといういで立ちだった。
「ふふ、慣れているから大丈夫よ。それにこの柄は山の中では迷彩にもなるわ」
シバ・ミラージュ(ka2094)が具合を確かめるように、トランシーバーを口に当てた。
「あーあー。もし分散して狩るなら、各グループにひとりはトランシーバーの所持者がいるほうがいいでしょうね」
「それもそうだな。何があるかもわからねぇご時勢だし」
カインは自分の犬達の頭をなでる。自分には頼りになる相棒がいるが、皆がそういう訳でもない。
それと、とシバは腰に下げた尺八を示した。
「はぐれた場合は各自、スタート地点に戻るのが良いかもしれません。それでも迷った場合や緊急連絡には、僕はこれを使いますね」
音を出す、煙を出す、そういう方法も打ち合わせる。
「じゃあ、いきましょうか♪」
恵が小夜の顔を嬉しそうに見上げた。
一団は案内人を先頭に、山へ分け入った。
●
ベースを定め、それぞれが行動開始。
ミアは早速、木の上に山の幸を発見した。
「あっ、柿ニャス! ……渋いやつじゃニャいニャスよネ?」
一口かじると充分に熟した柿は、お菓子のように甘い。
「うまーニャス! アスタリスクちゃんも食べるニャス!」
木を降りてきたミアは、アスタリスクの口に柿を押し込む。
「甘い!」
リアルブルーにも果物はあるのだろうが、流石に崑崙基地で木からもいで果物を食べることはめったにないだろう。
その間にミアはもう、栗を見つけている。
恵は木に登ろうとするアスタリスクをそっと窺った。
(強化人間といっても見た目は普通なのね)
どの程度動けるものなのか。皆が多少は気にしていることだろう。
とはいえ、みんなで彼を囲んで見張っているわけにもいかない。
恵はひとまず狩りに集中することにした。というよりも、小夜との楽しいひとときを。
「兎さん、調子はどうですか?」
「はう……歪虚、来ないかなぁ……」
借りた弓をくるくる回す小夜。
「弓は恵の方が全然得意だろうしね。役に立たない兎は、迷子にならないようにするだけかなぁ」
「じゃあ、あっち行ってみましょう!」
恵は嬉しそうに先に立って歩き出す。小夜は辺りを確認しながら後をついて行った。
(しっかり見張ってあげないと、うちの嫁は迷子属性があるんだよね)
狩りというよりちょっとサバイバルなデートを楽しむふたりだった。
ハナは『茸図鑑』を開きながら、メリンダと並んで歩く。
「春から夏の山野草はこれでも結構詳しいんですよぅ。でも初秋以降って山野草はほぼ駄目じゃないですかぁ。秋の実とか樹液とか茸とか、今まで手を出していなかったのでぇ」
「樹液は……カエデ以外はあまりお勧めできないかも?」
「えー、そうなんですかぁ。あっ、茸がありますよぅ」
ハナが採って見せる茸を、メリンダは眉間にしわを寄せて睨む。
「どうでしょう……これは大丈夫かしら」
図鑑と見比べると大丈夫な気もするが、ジェオルジには笑いすぎて大変なことになる茸もある。
「後で茸名人に鑑定してもらいましょう」
「いくらなんでもここでかじったりしないですぅ」
アスタリスクは、シバ、エーミと、エーミの連れてきたイヌイット・ハスキーが一緒だった。
「アスタリスクさん、弓矢を試してみますか?」
シバが提案した。
「当たるかどうかは分かりませんが。折角の機会ですしね」
皆の思惑に気付いていないのか、アスタリスクは弓に矢を番えた。エーミが囁く。
「少し待って。あの辺りがウサギの通り道みたいよ」
「そういうこともわかるのですか」
「ええ。ほらあの藪、巣穴がありそうだわ」
エーミが犬を放す。
犬の吠える声、草が踏まれて軋む音。
それと共に、枯れ草色の小さな生き物がすごい速さで駆け出してきた。
「……とても無理でした」
苦笑して肩をすくめるアスタリスク。
「慣れていないと、どう動くかもわからないですしね」
シバは弓を片づけ、仕留めたウサギを回収に行く。
「大きい方が狙いやすいわね。この辺りは日当たりがよくて下草が多いわ、シカの餌場みたいよ」
ちょうど案内人の猟犬の吠え声が四方から迫ってきた。
ハナが囁く。
「シカですよぅ!」
一同がそちらを見ると、人間の姿に気付いたシカはぱっと身を翻した。
「逃がさないですぅ! さっさとお肉になるですぅ!」
ハナはメリンダとのガールズトーク(?)から一転、シカを追う。
案内人が慌てて声をかけた。
「嬢ちゃん危ない! 熊が出るかもしれんぞ!!」
「熊が怖くて歪虚が殺(や)れるかですぅ!」
ハナはシカに迫ると足元を狙って地縛符を使った。
「スキルは罠に使うんですぅ。便利なものを全く使用しないのは思考の硬直だと思いますぅ」
単に術が使いたかっただけかとも思うが、シカは泥状になった足場に速度を落とす。
別方向から回り込んだミアが、狙いを定めた。
「……ごめんね、ニャス」
矢を受けたシカは、大きく跳ねた。
カインは少し開けた場所で、双眼鏡を覗き込む。
「あの小川になら何かいそうだな」
プードルのマグノーリエを先に行かせると、器用に泳ぎ、すぐにカモを追いたててきた。
見事仕留め、カインはマグノーリエを労う。
「よしよし、水も滴るいいおん……ウィスティリア何すんだ」
グレイハウンドの強い脚が、カインの尻を蹴飛ばしていた。
「全く……おっ、あの繁み、今動かなかったか」
その言葉よりも早く、ウィスティリアが駆けだした。
カインはタイミングを見計らって矢を放ち、倒れたウサギをウィスティリアが咥えて戻ってくる。
得意げに尻尾を振り、長い脚で地を蹴る様子に、カインは少し笑う。
「ったく、美人があんなに喜ん……今度はマグノーリエか! 美人が台無しだから、仲良くな?」
カインは彼女達の乙女心に全く気付いていないようだ。
●
その頃、恵と小夜はイノシシと遭遇していた。
「……要は、肉を切らなければいいんでしょう!」
恵を背後にかばい、小夜は腰を低くして身構える。
「兎さん、気をつけてください!」
「兎が猪程度に負けるはずがないのだ!」
猛然と突っ込む小夜。歪虚ならいざ知らず、相手は獣だ。素手で首の一つぐらい折ってやるという気概だ。
イノシシを真正面から受け止め、放り投げる。
「私の嫁に牙をむいたことを冥土で悔やむんだな!」
吹き飛ばしたイノシシに、勝利を宣言する小夜。
「大丈夫ですか!」
大丈夫と信じているが、やはり気になる恵である。
「大丈夫、大丈夫。でもあとは恵にまかせるよー」
「うふふ♪ わかってますよぅ、兎さん。家事とか料理はメイドの私の領分ですからね!」
小夜の信頼は、恵にとって何よりうれしい。
捕えた獲物はすぐに処理しなければならない。
エーミは横たわるシカの傍に屈みこむ。
「ご覧になる?」
遠巻きに覗き込むアスタリスクに、見えやすい場所を示す。
そして慣れた手つきで、まだ暖かいシカの身体にダガー「ヒュドール」の冷たい刃を滑らせた。
血を抜き、皮をはぎ、肉を切り分け……エーミはアスタリスクに尋ねた。
「軍人さんには今更かしら。奪う為に力を行使することに、躊躇いはない?」
アスタリスクは微笑を崩さないまま答えた。
「それが必要であれば。迷いは自分だけでなく、仲間も危険に晒します」
「そう。……私は魔術の師に、無理だと答えたの」
その答えを聞いた彼女の師は、狩りを教えた。
どんなに綺麗な言葉で飾ろうとも、命を奪うことなく人は生きられない。それを理解させるために。
「だから私は預かった命に、新たな息吹を吹き込むの。それがエーテルクラフトの魔法よ」
エーミが料理に心血を注ぐのは、奪った命への敬意を表す為でもあった。
●
持ち帰った獲物に、村では大喜びだった。
「一部は干し肉と塩漬けに。冬の貴重な食料になります」
メリンダが案内人と一緒に狩った分は、全てそちらへ回すという。
「メリンダさんって……血とか、結構大丈夫だったんですね」
「ええ、私はもともとここの人間ですし。料理も多少はできますよ? ……田舎料理なので、軍に入ってからは全然ですけどね」
メリンダはちょっと寂しそうに肩をすくめる。
「そうですか、じゃあいつかいただきたいです」
「いつかじゃなくて今日食べましょ!」
シバの言葉に驚くほど鈍感なメリンダ。まあいつものことだ。
「メリンダさんも、少しは仕事を忘れて楽しめましたか?」
「ええ。シバさんのお陰でね。今日はシバさんもお疲れでしょう?」
シバが狩りよりも皆の行動に気を配っていたことには、気付いていたらしい。
やがてあちらこちらに作られた竈から、いいにおいが立ち上ってくる。
カインは持ち帰った肉を自ら調理していた。
「こっちはグラーシュ……死んだばあちゃんがこれ好きで農作業中の昼飯だったらしい」
ウサギ肉のシチューのような料理だ。カモはシンプルにチーズと一緒に焼いてみた。
「それと、これ。あったまるからな」
持参した牛乳を使ったミルクティーを皆に配る。茶葉はこの地方の特産品を提供してもらった。
ミルクティーを受け取り、ハナがにっこり笑う。
「ありがとうございますぅ。お礼といってはなんですけどぉ、後でスフレ提供しますねぇ」
今はレバーの処理に忙しいハナである。臭みを取って焼けば、きっと美味しいだろう。
「おう、有難う……ッ!?」
「どうかしましたかぁ?」
「いや何でもないんだ、何でも」
カインの背中から腰にかけて、大小の犬の足跡がくっきりとついていたのは言うまでもない。
恵は大きな鍋に、香草とワインをたっぷり、それにイノシシの肉を入れて煮込んでいた。
「折角の良い脂を生かしたいですからね」
「きっとやればできるような不思議な感覚がするのだけれど、やる気が出ないということはできないのだろう」
小夜は何やら難しいことを言いながら、隣に並んで恵の手元を見つめる。
「ふふっ、偶には手伝って貰って一緒にーっていうのは歓迎ですけどね。いつか兎さんの気が向いたら」
少し濃いめの味付けの肉を少しとりわけ、恵の前にスプーンで差し出す。
「はい、あーん♪ 熱いですから気をつけてくださいね」
「ありがとー、恵ぃ」
パクリと頬張ると、荒々しい風味の中にも何とも言えない滋味が広がる。
「さすがは恵、美味しいよ」
言葉と一緒に腕を差し伸べ、恵の肩を抱く。
頭をなでると、恵は幸せいっぱいという笑顔になった。
出来上がった料理が大きなテーブルに並んだ。
エーミは恵の猪の煮込みを、興味深そうに覗き込む。
「猪を食べると、鹿は食べられなくなるというけれど」
鹿鍋と、塩焼きの茸あん添え、そして山で採ってきた山菜の天ぷらを並べた。
皆でテーブルにつく。
「いただきます」
エーミは涙ながらに『命』を食したあの日から、欠かすことのない感謝の言葉と研鑽の証の言葉を呟いて手を合わせる。
アスタリスクは神妙な顔でその様子を見ていた。
「猪さん美味しいニャス……!」
ミアは念願の猪にありつき、ほう、とため息をつく。そしてアスタリスクの顔を覗き込んだ。
「ちゃんと食べてるニャスか?」
「ええ、いただいていますよ」
スプーンを口に運ぶ。
命を奪って生きること。その理屈を知らなかったわけではない。
だが同じ空気を吸い、同じ森を走る生き物を食べる、それを今日ほど実感したことはなかった。
――はたしてこの惑星の精霊は、私がこの命を取りこむことを許すのだろうか……?
何故かそんな疑問がよぎるが、噛みしめた肉は身体にしみとおるようだった。
「こっちも美味いぜ」
カインが鴨肉をアスタリスクにすすめる。
「で、なんか獲れたか?」
「ははは、難しいですよ。皆さんにはかなわない」
「まあ慣れってぇのもあるしな。シカは難しいだろ」
そんな風に話を振ると、アスタリスクは熱心に乗ってくる。カインにはその様子が少し意外だった。
(ハンターになって日が浅い俺でも、何の思惑もねぇ訳がねぇだろって思うが……)
お互いに、単純な探りあいで相手のことがわかるなら苦労はない。
(ま、今日は普通に楽しめばいいさ)
会話しつつ、ゆっくりと食べるアスタリスクに、ミアが鹿肉を取りわけてやった。
「ご飯は美味しく、楽しく、大切に食べるニャス。アスタリスクちゃんの心、ぽっぽしてきたニャスか?」
山から見える空。
森の香り、土の感触。
今日、身体で感じた全てが、料理のアクセントとなっているだろう。
<了>
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 エーミ・エーテルクラフト(ka2225) 人間(リアルブルー)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/11/22 15:11:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/22 09:07:13 |