Howl

マスター:愁水

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2017/12/02 22:00
完成日
2017/12/09 02:23

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出? もっと見る

-

オープニング


 誰しも在るのだろうか。
 忘れられない過去と、癒えない傷痕が――。




 迷える人、苦しむ人の拠り所――ハンターオフィス。

 天鵞絨サーカス団の団長、白亜(kz0237)は、受付の職員から依頼を請け負っていた。
 緊急性、ともに、危険性の高い依頼であることは、職員の深刻な表情と声音で容易に見てとれる。

「犠牲者が6人か。……多いな」
「内、2人がハンターです。肝試しに向かった若者達が翌日になっても帰宅しない為、彼らの両親達が捜索を要請。肝試しの目的地となった現場へハンターを派遣しました」

 白亜は口頭の情報に耳を貸しつつ、視線は手にした書類へ向けられていた。瑠璃の瞳が、一定の速度で文面を追っていく。

「若者達は全員、遺体となって発見。遺体を回収していたハンターも雑魔の襲撃を受け、結果、二名が死亡しました」

 場所は郊外の森の中に位置する廃洋館。
 ここ暫くこの近辺での雑魔報告はなく、最近根城にしたと思われる。

「ハンターの中に一人、生存者がいたようだな」
「はい。傷は負っていましたが、命に別状はないそうです。その者の情報によりますと、雑魔は一体。しかし、殺傷能力に特化した上位種なのではないかと」
「……」
「白亜様?」
「この、記載は」
「はい?」
「館内に、師団の認識票が落ちていたと書かれているが」
「ああ、はい。生存したハンターが発見したようですが、雑魔と乱戦になり、回収には至らず――」
「名前は」
「は……?」
「認識票の姓名は目にしたのか」

 白亜の声音は何時も以上に物静かで、反面、秘めるような緊迫さを滲ませていた。

「い、いえ……遠目からだったようで、そこまでの確認は取れなかった、よう、です」

 何かを押し留める彼の雰囲気が、職員をまごつかせる。そんな職員に、白亜は躊躇なく問い質した。

「生存したハンターの状態は軽傷とあるが、具体的にはどのような状況下で攻撃を受けた?」
「それが、敵に攻撃を仕掛けられたわけではなく、味方を庇って負った傷のようでして。彼女が記憶している範囲では、敵の攻撃対象になったことは一度もなかったそうです。単なる偶然かもしれませんが……」
「“彼女”――」

 眉間に刻んだ皺を一層深くさせながら、白亜は耐え難く呟く。

「そうか、生存したハンターは唯一の女性――か……」

 職員の呼び掛けを背に、白亜はその場を後にした。

 思いあぐねる白亜がハンターオフィスを出ると、



「手頃な依頼あった?」



 壁に凭れていた黒亜(kz0238)が声をかけてきた。
 関心の狭い双眸で苺牛乳を飲みながら、白亜の返答を待っている。

「クロ」
「ん」
「帰っていいぞ」
「――は?」
「今回の依頼は俺一人で請け合う」

 淡と告げた兄の横顔を、黒亜は訝しげに見上げた。

「なに。どうしたの?」
「紅亜には上手く伝えておいてくれ」
「ちょっと待ってよ。依頼に就く場合は二人以上で、っていうのがウチらのルールじゃなかった?」
「……すまない。納得しろとは言わん。唯、今回は呑んで欲しい」
「ハク兄らしくないことしないでよ。せめて、説明くらいはさ――」
「クロ」

 弟の名を呼ぶ切れ長の目許に、何時もの柔和さはなかった。只只、瞳に籠められた瑠璃の深さは、



「俺の言うことが聞けないのか?」



 光を跳ね返す。

「……」
「クロ」

 憮然たる面持ちで、心なしか程度に顎を引く黒亜。

「良い子だ」

 白亜は涼やかな眦をふっと緩やかにほどくと、顔を伏せる黒亜の頭を優しく撫でた。

「心配するな。出来るだけ早く戻る」

 腕を引いた白亜は無言の黒亜を残し、人混みへと姿を消していった。





「……良い子なんかじゃないよ」

 兄の気配が薄らぐと、柘榴な視線は意志に上がる。

「そもそもオレ、“返事”なんてしてないし」

 口許に狡猾さを浮かべて、黒亜はハンターオフィスの扉に手をかけた。迷いなく歩みを進めた先は――

「あら、黒亜様? 先程、お兄様が依頼を受けにいらっしゃいましたよ」
「うん。その依頼のことなんだけど――」




 静まる、膨大な森。
 西に傾いた夕陽が、俄に濃く迫ってくる。



「雑魔ならば……“違う”、か。だが、手がかりを追っていれば何時か、君に会えるのだろうか……」



 空の手が、妙に冷たかった。




 spot――天鵞絨サーカス団の天幕。

「……あ、どうも。依頼の詳細は情報端末で話した通りだから。じゃあ早速向かうよ。

 は?
 何か注意を払うこと?

 ……。
 さあ? 敵はオレが殺すし、あんたらはハク兄のフォローでもしてれば?」



 暗い夜が、重い幕のように落ちてくる。


リプレイ本文


 月影に落ちる願い。



「(うちは……近づきたい、一歩……許されるのなら)」



 背月に結ぶ、祈りの糸――。




「月の綺麗な夜ニャスネ」

 吐息が、
 鼓動が、
 想いが、

「何かをするにも、何かを探すにも、いい夜ニャス」

 月夜の海原へ舞う。

 ミア(ka7035)は、気掛かりな心を傾けながら道程を一瞥した。
 彼女は――紅亜(kz0239)は、今も一人、留守番をしているのだろうか。街を出発する時に手渡した寄せ書きのメモは、紅亜の心を僅かでも留められたのか――。



『えぇ子でおうちってよ、終わったら皆でお茶会しよな♪』――白藤(ka3768)からは、艶やかなキスマークを残した一文を。
『ちゃーんと無事に帰ってくるから、お土産話……楽しみにしとってな!』――レナード=クーク(ka6613)からは、少しでも寂しい思いをしないように。
『今度芸を見せてほしいのじゃ!』――ネフィルト・ジェイダー(ka6838)が、未来を考えた楽しさを胸に。
『兄ちゃん2人は大丈夫だから、あんまり心配し過ぎるなよ。あ、戻ったら甘いもの食いたいなぁー』――浅生 陸(ka7041)が何時もの気楽さで。

 そして、

『お兄ちゃん達と一緒にすぐ帰ってくるニャス。いいこで待っててね、ニャス』――ミアが言葉を置いた。



「……ミアは、いいこじゃニャいニャスけど」



 ――心を、零した。

 ミアの爪と身体が空へ躍る。
 牙を剥き出しにして突進してきたブラックドッグは、土を蹴って旋回した。だが、爪先を地面につけたと同時に、体勢を低く構えたミアの反応の方が半瞬――早い。夜駆けの如く、一気に距離を詰めた。

 ひゅぅんッ!!

 力を上昇させておいたミアの爪が唸りを上げ、ブラックドッグの皮膚を鋭く切り裂く。
 浅くても確実に。
 一撃、血の筋を。一撃、爪痕を。

 獣の如き黒い妖犬は、獣を勝る“野性”に為す術もなく――



「仕舞いニャス」



 ミアの強烈な神拳に、ブラックドッグは身体と意識を吹き飛ばされた。“鬼”に捉えられた首をあらぬ方向へ曲げながら、土と血に塗れたブラックドッグが動くことは二度となかった。

 残りは、二。
 その内の一体がレナード、そして、もう一体が陸と交戦中だ。

 発動したのは、氷の音色――。





「大きいわんわんの他にも、違うわんわんがおったんやねぇ」

 穏和な声音に、魔法が奏でる振動が重なる。
 敵の初手で軽い一撃を喰らったが、月影の中で光る猛々しい赤眼など何のその――レナードは涼しい表情を崩すことなく、氷の矢を撃ち出した。強い冷気を纏ったその攻撃は、夜の空間に一筋の光を残していく。そして――

「さあ、これで動けへんよ」

 文字通り、ブラックドッグの“足”を奪った。
 四足歩行の足許に着弾した衝撃と冷気が、レナードの思惑に追撃の手を翳す。

「堪忍やで。これも大切なものを守る為の一歩……なんて」

 白樺色の杖の宝玉に、ぼぅ――竜の姿と、レナードの伏し目な灰が浮かび上がった。



「(“家族”の想いも、痛みも。……俺に理解出来る日は、いつか……来るのかな)」



 それは、迷いか。
 それとも、弱さか。

 時を止めた“秒針”に、奔る心の“音”に――レナードは苦々しく唇を噛み締めた。





 月明かりの下、陸の操るベディーネンが鎌首を擡げる蛇のように撓る。
 黒瑪瑙に映った赤い飛沫を、陸は淡とした面で見流した。

「(まあ……身内にだって”言えない事””見せたくない事”があるのは普通だけどさ)」

 陸が相手をする最後の一体は、既に、自在な手つきで繰り出した攻撃で深手を負わせていた。しかし、麻痺効果の魔力を帯びた雷撃は紙一重で躱されてしまい、次の手を放つ前に、陸は突進してきたブラックドッグに吹き飛ばされた。

「ぐッ!」

 敵は体勢を整える隙すらも与えてはくれない。陸は仰向けで転がったまま、ブラックドッグの爪をまともに喰らってしまう。

「――おいたはやめるニャス!」

 その時、ミアの爪がブラックドッグの横腹を薙いだ。
 彼女の加勢で敵が仰け反った瞬間、陸はブラックドッグの鼻面を力任せに殴る。

「犬の弱点は雑魔でも変わらんだろ」

 陸は悪戯好きの子供が浮かべるような意地の悪い微笑みを湛えながら、膝でブラックドッグの腹を蹴り上げた。身体の上にあった重さが消え、陸は瞬時に体勢を立て直す。そして、ワイヤーウィップの柄を固く握ると――

「全く、躾のなってないわんころだな!」

 放った“二度目の正直”、雷撃を打ち付けた。ブラックドッグの短い悲鳴と黒い身体の焼ける音が空気に弾ける。地面に倒れた黒犬の身体は足掻くように痙攣していたが、やがて、動かなくなった。

 陸は服に付いた土埃を払い、傷を癒してから、ふう、と、息をつく。

「取り敢えずこっちは方が付いたな。ミアは助太刀サンキュ。助かったぜ」
「どういたしましてニャス!」
「ミアさんもリクさんもお疲れさまやで。んんー、ガルムの方はどうなってるんやろか……様子を見に行った方がええやんね」
「ああ。ミアは――」
「うニャ、ミアも行ってくるニャス。あとは任せたニャス!」

 気強く応えたミアが猫の尻尾と共にピッと敬礼。踵を返し、軽快な身のこなしで森の中へと消えた。










 月の明かりを背負い、辿ってきた道を引き返す。

 ミアは心迷わず、駆けた。
 手繰り寄せるのは、独り残された意識の糸。

「(ミアはひとりっこだからよくわからニャいニャスけど……おにいちゃんの心の置き場がいつもと違うのは、紅亜ちゃんもきっと気づいてるはずニャス)」

 故に――

「(そのおにいちゃん達が戦ってるのに、気にニャらないほど……紅亜ちゃんは“いいこ”ニャのかニャぁ?)」

 ミアの心が功を奏する。



「「あ」」



 偶然は、裏を返せば必然。
 鬱蒼とした夜の森で、ミアと紅亜が対面していた。

「メモなんか……いらない……」

 紅亜が、ぽとり、と、雫のように呟く。

「気の利いた言葉なんか……いらない……」

 それは――

「心配なんか……してない……」

 ささやかな、不平。

「うニャ。置いてきぼりは誰だってイヤニャスよネ。だから、迎えに来たニャスよ。紅亜ちゃん」

 ミアに手を引かれ、走る。





 掬ってくれたその手は、あたたかかった。




 薄闇の中で、発砲音と獣が吠える。





「援護に入るで、白亜は前に出すぎんで。……出たらお仕置きやで」

 ――参戦の宣告。

 先に戦闘を交えていた白亜(kz0237)は、突入してきた白藤達を見て俄に瞼を膨らませた。兄弟は共に無言で一瞥をくれただけであったが、白亜の眉間には苦渋の皺が刻まれている。

「今は戦闘に集中してや、話は後や」

 白藤は先に伝えた通り、白亜には後衛に徹するよう念を押し、自身も援護を主体に戦闘を繰り広げ始めた。

「兄さん、うちの傍に……おってや」

 祈るような呟きで胸元に舞う蝶の入れ墨を指先で撫ぜると、薄闇に沈む白藤の影から、蝶を模した黒炎が吹き飛んだ花吹雪の如き海を舞う。

 ガゥン!!

 白藤のイフリータから放たれた赤い閃光が、揺蕩う闇を移動するガルムを牽制した。ガルムは唸りを上げながら、赤黒い体毛を靡かせて跳躍する。その僅かな隙に――

「あの脚力がちと面倒じゃのぅ。前衛でまずは足を狙ってみるのじゃよ」

 ネフィルトが攻撃部位を捉えた。

「ガルムは男性を狙うんだったかの? 仲間の中に回復手もおらぬし、白亜君と黒亜君に攻撃が集中しないよう我も頑張るのじゃ!」

 光で形成された刀身の柄を確と手に収め、ネフィルトはガルムが着地する寸前のところを狙い、右の前足首を斬りつけた。しかし、伝わってきた手応えは――

「(ぬぅ、口惜しいのぅ)」

 浅い。

 ネフィルトが《納刀の構え》の態勢に入ると同時、彼に油断を与えぬよう、黒亜(kz0238)の一刀がその一瞬を埋める。

「ぬるいんだよ」

 二の矢に、白藤の《威嚇射撃》が放たれた。刹那ではあるが、奪ったガルムの時間を無為にする機はない。

「ほれ、こちらにも狙う的はおるぞ」

 ネフィルトは行動通りの電光石火――踏み込んだ一撃で、ガルムの左の後ろ足首を断った。

 グアアァゥッ!!

 咆吼を上げたガルムが、辺りの物を破壊しながら無尽な勢いで前足を振り回す。
 一刀を与えた直後の体勢であったネフィルトは後退の反応が間に合わず、鎌鼬の如き衝撃でガルムの爪を喰らった。華奢な身体が小石のように吹き飛ばされる。

「ぬぅっ……!」

 反射的に上半身を捻り急所は免れたが、左腕の爪痕からはぼたぼたと血の河が流れ出ていた。
 ガルムは白藤と白亜の牽制に見向きもせず、殺意ある剥き出しの牙はネフィルトを狙う。壁に背を預けたネフィルトは咄嗟に、聖盾を構えた。しかし、足を一本失ったのにも関わらず、ガルムの脚力は鈍りを見せない。月明かりの届かない闇で姿をくらませた瞬間、背にしていた壁から地震のような衝撃が伝わる。

「なっ……壁を足場にしたん!?」

 驚愕する白藤の発した通りであった。ガルムは剛力な脚力で壁に食い込ませた爪を勢いよく解き放ち、ネフィルトの死角へ飛びかかる。



 ガキンッ!!



 しかし、その牙は、無機質な形と衝突した。
 ガルムの口枷にした銃身を両掌で押し返す。ガルムの首が僅かに傾斜したのを見計らい、彼――白亜が、ガルムの喉元を膝で潰した。牙が離れると同時に、白亜の回し蹴りがガルムの胴体を弾き飛ばす。だが、金眼の“獣”は臆さない。ガルムは己の血に溺れながら、白亜に襲いかかってきた。

 しかし、

「ほーらいわんこっちゃないー」

 ――それが最後であった。

 白亜とガルムの間に入り込み、躊躇なく身を挺したのは白藤だ。白藤はガルムの正面から足許を狙い、冷気を纏った弾丸を発射する。――着弾。

「良い腕だ」

 後ろから、普段の落ち着きを払った声音が独白するように囁いた。
 そして――



「眠るがよいのじゃ!」



 ガルムへ向かって跳躍したネフィルトが、とどめ。振り翳した宝剣は、ガルムの頭と胴体を永久に離して鎮座させた。





 討伐の依頼は成し遂げた。
 だが、無茶が生じたのか、蹌踉めいたネフィルトが膝をつく。白藤が救急セットで手当てを行っていると、視界の隅で、白と黒の兄弟が一言二言、言葉を交わしていた。

「白亜、黒亜を怒らんたってや? ……先に二人のルール破ったんは白亜なんやからな」

 白藤が黒亜への気遣いを挟むと、「そんなことはせんよ」と、白亜が僅かに苦い顔をして此方に視線をやってきた。

「――よう、団長。団長はここに何しに来た? 探し物かい?」

 其処へ、陸とレナードが館の扉を開け放ちながら入ってくる。

「……? 誰から聞い――、……クロ」
「オレは依頼の“情報”を受付から聞いて、それを浅生達に話しただけだよ」

 黒亜がしれっと言う。

「折角じゃ、我らにも何か手伝わせてくれたら嬉しいのぅ。その前に、白亜君。君には大切に思おてくれる家族がいるんじゃから、あまり心配をかけてはいかんぞ? 家族とて他人、言葉で言わねばわからんじゃろて」

 手当てを受け終えたネフィルトが柔和に諫言すると、「――ちょっと」と、横から鋭い声音が飛んでくる。

「心配してるとか誰が言ったの? ……それと、あんたの領域で“他人”だなんて勝手に決めつけないでよね」

 黒亜は外套を荒々しく翻すと、館から立ち去った。

「……すまない。何時まで経っても子供でな」

 弟の非礼と残された空気の気まずさに、白亜が詫びる。

 各々は一階の床に目を凝らしながら、注意深く歩みを進めた。
 やがて、レナードがリトルファイアの灯火の下で、鈍い光を放つ“それ”――ドッグタグを見つける。

「ハクアさん、探し物ってこれ……やろか?」

 レナードは拾い上げたそれを手渡した。掌に添えられたドッグタグに、白亜が短く息を詰める。

「……なぁ、ハクアさん。今回の件はきっと、ハクアさんにとって大事な理由かもしれへん……けど、……二人の気持ちにもちゃんと、目を向けてあげなあかんよ」

 ――それは、とても難しい。けれど、

「家族ってきっと、そういうものだと思うなぁ……なんて」

 “いつか”。





 窓から差し込む月の光を背に佇む白亜へ、陸が落ち着いた声音で話しかけてきた。

「……白亜。”ひとり”で動く理由なんて、誰にも話したくないのはわかる。俺はあんたの”理由”を知らないし、今は聞く気はないよ。けど、少し言わせてくれ。あんたは黒亜も紅亜も大事だろう。なら、秘密はほどほどにな。あんたが2人を護りたいのと同じ、2人もあんたを護りたいんだよ」

 黒亜が今もこの場にいたらどんな抗議をするのだろう、と、心の中で苦笑して。

「大事だから”何も言わない”のもいい。けれど、大事だから”痛みを分け合う”こともできる。それを教えてくれたのは俺の姉さんだった。俺はその考えが今でも好きだ。此処にいる奴らとは、そういう関係を築いていきたい。……いっとくが、あんたともだよ」

 ならば――と、白亜が呟く。

「君はそのままでいるといい。“分け合える”のなら、君は幸せだ――……





 ……紅亜?」

 白亜の視線を辿って陸が振り返ると――



「けんかしてるの……?」



 眠たそうに瞬く、月下の姫が立っていた。




「――なあなあ、クロちゃん」

 戻ってきたミアが、木の幹に凭れて苺牛乳を飲む黒亜の隣へぴょんと跳ねた。

「ニャはは、クロちゃんって呼んでもいいニャスか?」
「……勝手にすれば?」
「ありがとうニャス♪ ……クロちゃん、もしかして蚊帳の外が嫌だったニャス?」
「……うるさいよ」

 それは、否定ではなかった。

「誰も悪くニャいニャス。心配するのが普通ニャんニャス。心配かけるのが家族ニャんニャス。だから、家族以外の手が必要にニャったらいつでも呼んでニャス♪」
「……」
「ニャ?」
「三毛のくせに生意気だね」
「Σふニャ!? 三毛じゃニャいニャス、ミアニャス!」
「へー」

 二匹の猫が戯れるようにみゃあみゃあと鳴いた。





「……白亜のなん?」

 掌にある“形”に視線を落とす白亜へ、白藤が気遣わしげに声をかける。

「いや、違う。……違ったよ。俺の知っている名前ではなかった」

 しかし、白亜の顔に安堵はなかった。

 彼は、何を知っているのだろう。
 彼は、どんな過去を抱えているのだろう。

 無理に干渉して煙たがられたくはない。だが、伝えずにはいられなかった。

「他に手掛かりがあるかもしれへん、やから……うちらも探すん手伝ってもえぇ? ……足手まとい、やろか」
「必要ない」
「……」
「此処にはもう、何もないだろう」
「あ……ああ、そういう意味……な」
「白藤」
「ん……?」
「君は……――いや、忘れてくれ。加勢、助かったぞ。さあ、帰ろう」

 二人は館を出た。
 夜の海に揺蕩う月が白亜を照らす。その姿をぼんやりと眺めたのち、白藤は俯きながら力なく首を振った。

「(彼は、緑がかった黒髪……金の……目。白亜と……違うんや)」

 彼女は、誰を見たのか。















 月に吠えたのは、“誰”の声であったのか――。


依頼結果

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MVP一覧

  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミアka7035

重体一覧

参加者一覧

  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士
  • 夜空に奏でる銀星となりて
    レナード=クーク(ka6613
    エルフ|17才|男性|魔術師

  • ネフィルト・ジェイダー(ka6838
    鬼|17才|男性|舞刀士
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士
  • Schwarzwald
    浅生 陸(ka7041
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【質問卓】黒亜呼び出し卓
浅生 陸(ka7041
人間(リアルブルー)|26才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/11/27 22:26:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/26 20:27:24
アイコン 【相談卓】白い背中を追いかけて
ミア(ka7035
鬼|22才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/12/02 20:22:11