ゲスト
(ka0000)
梟盧一擲 ~対梟停戦交渉~
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/11/29 07:30
- 完成日
- 2017/12/01 06:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
シンタチャシに住むモフロウ博士は、数日前の出来事を思い返していた。
あのうるさいシマエナガはともかく、餌をくれたハンター達は仲間達から信頼を得ようとしていた。
おそらく南の精霊から言われてやってきたのだろうが、彼らはそれでも仲間を考えて双方にとって良い状況を一緒に考えようとしていた。
仲間達もこの森の主に逆らってまでシンタチャシに居続ける事が無理なのも分かっている。
ならば、移転先での待遇改善を交渉して少しでも好待遇を用意させるべきだ。
――せっかく、シンタチャシで会話する力を手に入れたのだから。
「よーし、これで良い巣を勝ち取るホー」
モフロウ博士は胸の体毛を風になびかせながら、交渉の勝利を見据えていた。
●
「我輩、関係ないでありますっ!」
「うるっせぇ! 誰のせいでこうなったと思ってんだ!」
シンタチャシのイクタサの小屋の前で、大幻獣テルル(kz0218)はチューダ(kz0173)と大騒ぎしている。
元々幻獣の森で過ごしていたモフロウに対して視察と称して朝から巣を覗きまくっていたチューダ。この幻獣王の暴挙に対して嫌気が刺したモフロウ達は、幻獣の森からシンタチャシが移り住んだ。
シンタチャシは精霊イクタサが一夜で現出させた特殊な森だ。その影響からモフロウ達のマテリアルが一気に増大。大型化した上、中には大幻獣となってしまった個体も現れた。
テルルは、原因を作ったチューダを連れてシンタチャシまでやってきたのだ。
「我輩は、民の安寧を確かめる為に視察してただけであります。王の義務であります」
「なんで夜行性のモフロウの巣を朝に覗くんだよ! 寝ているに決まっているじゃねぇか! 昼間でも活動可能なマテリアルの供給がありゃ別だけどよ、そりゃモフロウ達も怒るに決まってるわ!」
「何でもいいけど、人の小屋の前で騒ぎのは止めてくれない?」
小屋からイクタサ(kz0246)が顔を出す。
大騒ぎする二人を前に迷惑だという感情が顔に表れている。
しかし、残念ながらチューダにはそうした空気を読み取る能力は欠落している。
「イクタサぁ! テルルが酷いでありますぅ! 我輩、悪くないであります!」
チューダはイクタサの足下へ駆け寄ると、イクタサの足に抱きついた。
涙と鼻水がしっかりとイクタサの衣服に付着する。
時折チラチラとイクタサの顔を見上げている辺り、分かりやすい演技だ。
「ふぅ。夜もうるさいというのに、昼までキミ達がうるさくするの? まったくもう」
「こっちもこっちで手を焼いてやるんだよ。あのクソモフロウ、今度あったら俺っちの新兵器で叩きのめしてやる」
テルルは悪態をついた。
前回、ハンターと共にモフロウと遭遇したまでは良かったが、最終的にテルルはモフロウに掴まれ、シンタチャシ外の川へ上空から投げ捨てられた。
受けた恥をそのままにはしておけないと、最初から気合いが入っている。
「あ、そう。気合いを入れてくれるのはいいんだけど、彼らはキミ達が思うよりも馬鹿じゃ無いみたいだよ」
「あん?」
イクタサの言葉に首を傾げるテルル。
そんなテルルに対して、イクタサは一枚の手紙をテルルへ差し出した。
「彼らからだよ。朝、小屋に届いていた。
こんなものまで書けるようになっている所を見ると、空を飛んで知識を蓄える事を覚えているようだね」
感心するイクタサ。
それを一瞥するとテルルは手紙に視線を落とす。
お世辞でも綺麗な字ではないが、これを喋れるようになった大幻獣が書いたとなれば驚異的な学習能力だ。
『しんあいなるとも へ
小生わ、ともの顔にめんじて交渉におうじる。
こちらの要求は、これ。
・ていきてきな餌をていきょう
・まいあさのけなみのていれ
・あんみんをほしょうすること
・よるのがっしょうをきょかすること
・げんじゅう王がしゃざいすること
これ、まもれたら幻獣のもりへかえる。
うるさいシマエナガがあばれたら、交渉はけつれつ。
小生らはてっていこうせんするよ』
「あいつめ、調子に乗ってやがるな。やっぱり俺っちのカマキリでビビらせてやるしか……」
「駄目だよ。森を傷つけないでくれる? それに手紙には暴れたら徹底抗戦ってあるじゃない。シンタチャシでモフロウ達と大規模戦闘なんて勘弁して欲しいんだけど」
「ちっ」
思わず舌打ちするテルル。
そんなテルルを諫めるイクタサの横で、チューダは一人で勝手にむくれている。
「我輩、悪くないであります! 絶対謝らないであります!」
名指しでモフロウ博士から謝罪要求されている時点で、チューダはかなりマークされているようだ。交渉するという事はある程度譲歩するつもりもあるようだが、少なくともチューダからの謝罪がなければ幻獣の森へ戻る事はしないだろう。
「……面倒くせぇな。手紙からすりゃハンターに仲介を頼むべきだろうな」
「そうだね。彼らはモフロウ達から信頼されたみたいだから、うまく関係を築ければ力を貸してくれるかもしれないね」
そう、イクタサが言ったようにシンタチャシで大型化したモフロウ達は、普通のモフロウでは行えない事が行えるようだ。ファミリアズアイやテルルを掴んで飛ぶ事もできた事から、ハンターと協力できれば新しい戦い方ができるかもしれない。
「よし、ハンターに仲介して交渉をスムーズに行えるよう助けて貰うか」
「それよりも、我輩の身の潔白を証明するでありますよ! 風評被害であります! 濡れ衣であります! 我輩が可哀想とは思わないでありますか!」
好き勝手に叫ぶチューダを無視して、テルルは早くもハンターへ募集の文面を思案していた。
あのうるさいシマエナガはともかく、餌をくれたハンター達は仲間達から信頼を得ようとしていた。
おそらく南の精霊から言われてやってきたのだろうが、彼らはそれでも仲間を考えて双方にとって良い状況を一緒に考えようとしていた。
仲間達もこの森の主に逆らってまでシンタチャシに居続ける事が無理なのも分かっている。
ならば、移転先での待遇改善を交渉して少しでも好待遇を用意させるべきだ。
――せっかく、シンタチャシで会話する力を手に入れたのだから。
「よーし、これで良い巣を勝ち取るホー」
モフロウ博士は胸の体毛を風になびかせながら、交渉の勝利を見据えていた。
●
「我輩、関係ないでありますっ!」
「うるっせぇ! 誰のせいでこうなったと思ってんだ!」
シンタチャシのイクタサの小屋の前で、大幻獣テルル(kz0218)はチューダ(kz0173)と大騒ぎしている。
元々幻獣の森で過ごしていたモフロウに対して視察と称して朝から巣を覗きまくっていたチューダ。この幻獣王の暴挙に対して嫌気が刺したモフロウ達は、幻獣の森からシンタチャシが移り住んだ。
シンタチャシは精霊イクタサが一夜で現出させた特殊な森だ。その影響からモフロウ達のマテリアルが一気に増大。大型化した上、中には大幻獣となってしまった個体も現れた。
テルルは、原因を作ったチューダを連れてシンタチャシまでやってきたのだ。
「我輩は、民の安寧を確かめる為に視察してただけであります。王の義務であります」
「なんで夜行性のモフロウの巣を朝に覗くんだよ! 寝ているに決まっているじゃねぇか! 昼間でも活動可能なマテリアルの供給がありゃ別だけどよ、そりゃモフロウ達も怒るに決まってるわ!」
「何でもいいけど、人の小屋の前で騒ぎのは止めてくれない?」
小屋からイクタサ(kz0246)が顔を出す。
大騒ぎする二人を前に迷惑だという感情が顔に表れている。
しかし、残念ながらチューダにはそうした空気を読み取る能力は欠落している。
「イクタサぁ! テルルが酷いでありますぅ! 我輩、悪くないであります!」
チューダはイクタサの足下へ駆け寄ると、イクタサの足に抱きついた。
涙と鼻水がしっかりとイクタサの衣服に付着する。
時折チラチラとイクタサの顔を見上げている辺り、分かりやすい演技だ。
「ふぅ。夜もうるさいというのに、昼までキミ達がうるさくするの? まったくもう」
「こっちもこっちで手を焼いてやるんだよ。あのクソモフロウ、今度あったら俺っちの新兵器で叩きのめしてやる」
テルルは悪態をついた。
前回、ハンターと共にモフロウと遭遇したまでは良かったが、最終的にテルルはモフロウに掴まれ、シンタチャシ外の川へ上空から投げ捨てられた。
受けた恥をそのままにはしておけないと、最初から気合いが入っている。
「あ、そう。気合いを入れてくれるのはいいんだけど、彼らはキミ達が思うよりも馬鹿じゃ無いみたいだよ」
「あん?」
イクタサの言葉に首を傾げるテルル。
そんなテルルに対して、イクタサは一枚の手紙をテルルへ差し出した。
「彼らからだよ。朝、小屋に届いていた。
こんなものまで書けるようになっている所を見ると、空を飛んで知識を蓄える事を覚えているようだね」
感心するイクタサ。
それを一瞥するとテルルは手紙に視線を落とす。
お世辞でも綺麗な字ではないが、これを喋れるようになった大幻獣が書いたとなれば驚異的な学習能力だ。
『しんあいなるとも へ
小生わ、ともの顔にめんじて交渉におうじる。
こちらの要求は、これ。
・ていきてきな餌をていきょう
・まいあさのけなみのていれ
・あんみんをほしょうすること
・よるのがっしょうをきょかすること
・げんじゅう王がしゃざいすること
これ、まもれたら幻獣のもりへかえる。
うるさいシマエナガがあばれたら、交渉はけつれつ。
小生らはてっていこうせんするよ』
「あいつめ、調子に乗ってやがるな。やっぱり俺っちのカマキリでビビらせてやるしか……」
「駄目だよ。森を傷つけないでくれる? それに手紙には暴れたら徹底抗戦ってあるじゃない。シンタチャシでモフロウ達と大規模戦闘なんて勘弁して欲しいんだけど」
「ちっ」
思わず舌打ちするテルル。
そんなテルルを諫めるイクタサの横で、チューダは一人で勝手にむくれている。
「我輩、悪くないであります! 絶対謝らないであります!」
名指しでモフロウ博士から謝罪要求されている時点で、チューダはかなりマークされているようだ。交渉するという事はある程度譲歩するつもりもあるようだが、少なくともチューダからの謝罪がなければ幻獣の森へ戻る事はしないだろう。
「……面倒くせぇな。手紙からすりゃハンターに仲介を頼むべきだろうな」
「そうだね。彼らはモフロウ達から信頼されたみたいだから、うまく関係を築ければ力を貸してくれるかもしれないね」
そう、イクタサが言ったようにシンタチャシで大型化したモフロウ達は、普通のモフロウでは行えない事が行えるようだ。ファミリアズアイやテルルを掴んで飛ぶ事もできた事から、ハンターと協力できれば新しい戦い方ができるかもしれない。
「よし、ハンターに仲介して交渉をスムーズに行えるよう助けて貰うか」
「それよりも、我輩の身の潔白を証明するでありますよ! 風評被害であります! 濡れ衣であります! 我輩が可哀想とは思わないでありますか!」
好き勝手に叫ぶチューダを無視して、テルルは早くもハンターへ募集の文面を思案していた。
リプレイ本文
「悪いけど、早く終わらせてくれるかい? ボクはこれでも忙しいんだ」
四大精霊の一人であるイクタサ(kz0246)は、面倒そうな顔でハンター達を見る。
シンタチャシで発生したモフロウの大型化問題。深夜までの大合唱はイクタサにとって騒音に匹敵するものであった。
依頼を受けて調査に乗り出したハンターであったが、思わぬ形に話が発展し始める。
「こちらもそのつもりですわ、イクタサ様。早々に始めましょう」
テーブルにつくエルティア・ホープナー(ka0727)は、改めて 同じテーブルを囲む面々を視認した。
大型化したモフロウを目撃したハンター達。
その依頼に同行していたテルル(kz0218)も同席している。
そして――。
「始める前に挨拶するホー。
小生はモフロウを代表して交渉するモフロウ博士だホー。本当の名前はポアルだけど、気安く博士と呼んで欲しいホー」
モフロウ博士と名乗る大幻獣化したモフロウは、椅子の背もたれを爪で掴んで翼を広げる。
大幻獣になったばかりではあるが、猛烈な勢いで知識を蓄えている。今回の交渉も博士が言い出した事だ。
(マテリアルの影響でこんなにも幻獣に影響が出るのね。
いえ、それ以上に特筆すべきは大幻獣となった博士の知識ね。この短期間で交渉する事を覚えたのだから……)
エルティアは博士とモフロウ達を冷静に分析していた。
マテリアル濃度の影響なのか。
それともシンタチャシという特殊な環境が生み出したのか。
突然変異と表現して差し支えない博士を前に興味は尽きない。
「シルヴェイラだ。よろしく」
エルティアの隣に座るシルヴェイラ(ka0726) は、博士へ挨拶を返す。
事の発端はモフロウ達がある理由で幻獣の森を出た事だ。シンタチャシへ流れつき、生態系に馴染んだ結果の大型化であるが、シンタチャシで夜中に合唱するなどの問題を引き起こした。
ハンターの介入もあってモフロウ達は幻獣の森へ戻る事を決意。だが、戻る際に幾つかの条件を付けてきた。
定期的な食料提供。
毎朝自慢の毛並みを巫女に手入れしてもらう権利。
安眠を保証する事。
毎晩の合唱を許可する事。
幻獣の森に棲む幻獣から見れば明らかな特別待遇。
だが、博士はさらにもう一つ付け加えていた。
「交渉を始める前に、やっておくべき事があるホー」
博士は大きな目を見開く。
視線の先にいるのは、自称「幻獣王」チューダ(kz0173)である。
「何でありますか? 我輩、お菓子を食べにきたでありますよ」
「チュ、チューダさん……ダメ、ですよ」
桜憐りるか(ka3748)の膝の上で、チューダは用意されたクッキーを暢気に頬張っている。
悪びれないチューダを前に、必死で止めるりるか。
無理もない。この無駄飯喰らいの幻獣王こそが今回の事件の元凶なのだ。
夜行性のモフロウの都合を無視して昼間から巣を巡回。本人は民の安寧をチェックしていたというが、寝起きを起こされるモフロウ達にとっては堪らない。
博士は幻獣の森へ帰る絶対条件にチューダの謝罪を入れていた。
「ふっざけんなっ!
みんなてめぇのせいで集まってんだよ! 穀潰しのくせに余計な事しやがって!」
「テルル様、ダメですよ。暴れては」
膝の上で大声を出して騒ぐテルルを、リアリュール(ka2003)は抱くように引き留める。
腕と体で目一杯にもふもふを堪能できるのは役得だが、抱えていないと今にもテルルがチューダへ飛び掛からん勢いだ。
「わ、我輩は悪くないであります。あれは……我輩の王たる職務であります! 民を見守るのは幻獣王としてすべき役目なのであります」
「小生達はそんなの頼んでないホー。毎朝毎朝やってきて、安眠妨害。小生達はとっても迷惑したホー。
そこのキューソが謝らないと、小生達は徹底抗戦だホー」
何処かで聞きかじった言葉を並べるチューダに対して博士は仲間と共に戦う意思を見せる。
チューダ相手に強気に出ているが、モフロウは元々好戦的な幻獣だ。戦いとなれば、ハンター相手でも戦いを挑んでくるだろう。
「どうでもいいけど、チューダを謝らせないと先に行かないんじゃない?」
「まずは、それね。それが一番厄介かもしれないのだけれど……」
イクタサの言葉に続けて、エルティアは同意した。
同意したものの、実は一番厄介なのはチューダを説得する事だ。
何せ大幻獣と言ってもチューダはかなり我が侭で馬鹿な部類だ。納得させるにも比較的骨が折れる。
面倒な行為だが、チューダに謝罪させなければ先には進まない。
「ねぇ、チューダ様。博士が『毎日を覗きに来て寝られない』って仰ったわ。本当?」
まずチューダへ事実確認をしたのはリアリュール。
確認をする事でチューダに行動を意識させようという意図がある。
しかし、当のチューダはリアリュールの意図を一ミリも理解する様子はない。りるかが用意したマシュマロを食べる為に大きな口を開けている。
「んっ、このマシュマロはふわっふわであります。我輩のお腹みたいでありますな。
あ、我輩は毎日欠かさず巣をチェックしてでありますよ。我輩、偉いであります」
「呆れたって顔だな、エア」
「まあね。罪の意識が欠片もない事が分かったからね」
シルヴェイラの慰めを前に、エルティアはため息が出そうになる。
こういう手合いを説得するのが、一番労力が必要となると理解しているからだ。
漏れ出そうなため息を自分の中に押し込みながら、エルティアはゆっくりと言葉を吐き出した。
「ねえ、チューダ?」
「なんでありますか?」
「貴方がお気に入りのベッドで大好きなお菓子の夢を見て気持ち良く眠っているとするわね」
「我輩、そういう夢を見るであります。大きなナッツを独り占めであります」
「そう。でも、その夢を見ている最中にお越しに来る人がいたらどうする? しかも、その人はお越しに来るのが義務だって言っているの」
「酷いであります! 我輩のナッツを横取りなんで、激おこぷんぷん丸でありますよ!」 チューダはエルティアの喩えに対して、素直に反応している。
チューダも起こされるのは酷いと感じているようだ。
「そうでしょう。起こされると嫌でしょう。博士に対してチューダがしている事が……」
「でも、夢ではお腹いっぱいにならないであります」
エルティアの言葉を遮るように答えたチューダ。
普通の幻獣であればエルティアの言葉に納得しただろう。だが、相手は幻獣界トップクラスの馬鹿であるチューダ。妄想を膨らませた結果、夢で腹が膨れない事に気付いたようだ。
喩えを喩えと理解できない辺りが、馬鹿の面目躍如である。
「チューダ様。私、民に愛されて尊敬される優しい王様であって欲しいと願ってます」
リアリュールは手にしていたナッツをチューダにそっと差し出した。
本当は、事前にチューダと軽く話してはおきたかった。だが、イクタサから『きっと忘れるから交渉中にすれば?』と言われた事から、考えていた言葉をこの場で話し始める。
「うむ、我輩は優しい王様であります」
差し出されたナッツを早々に頬袋へしまい込むチューダ。
ナッツに夢中だが、耳はしっかりリアリュールの方を向いている。
「でも、今のチューダ様は義務を優先して民の声は聞いてます?」
「うっ」
「もし、チューダ様が民に謝れる優しい王様ならプリンを献上するのですが……」
そう言いながらリアリュールは、隠していたマロンプリンをチラつかせる。
柔らかさを体で表現するプリン。
それも馬乳と栗など食材を厳選された人気の高級プリン。
それがチューダの前に現れたのだ。
「おおっ! 美味しそうなプリンであります!」
プリンに惹かれるチューダ。
しかし、まだ幻獣王としてのプライドがあるのだろう。
もう少しの所で思い止まる。
「だ、騙されないであります! 我輩は食べ物で釣られないで……」
「民の声を聞いていない事は理解したのだろう?
悪い事をしたなら、それを認める事も王の度量ではないかな。幻獣王」
残された小さなプライドに対して揺さぶりをかけたのはシルヴェイラだった。
馬鹿であるチューダを操る方法は食べ物だけではない。
煽てる事も重要な要素だ。煽てれば何処までも高い所へ登りかねないチューダだ。謝る事も『王の度量』というキャッチーな言葉へ繋げる事で馬鹿のチューダも理解したようだ。
「おおっ! そうでありますな!
民の声を聞き、王の度量を見せるのもカッコイイであります!
……博士、我輩が悪かったであります。もう眠りの邪魔をしないであります」
早々に博士へ謝罪するチューダ。
変わり身の早さにイクタサも呆れ気味だ。
「ある意味、さすがだね」
「チューダ様。謝っていただけたので献上品です」
「わーい、プリンであります!」
リアリュールはチューダの前にマロンプリンを差し出した。
ちょっと焦らされただけあって、チューダはプリンの前に満面の笑みだ。
「まあ、ちょっと気になるが、これで謝罪を受け入れるホー。
小生達もこれでゆっくり眠れる……」
「あ、あの……少し、いいですか?」
博士の言葉を遮ったのは、りるかだ。
「なんだホー?」
「確かに、チューダさんは博士さんの睡眠を……邪魔しました。
でも、博士さんもイクタサさんの、安眠を妨害してます。夜中に合唱、されてましたよね?」
りるかは博士へ突き付けた。
チューダが朝方巣を覗いて安眠を妨害したように、博士も仲間と夜中に大合唱する事でイクタサの安眠を妨害していた。
状況は異なれど、やっていた事は同じである。
「むむっ、それはだホー……」
「博士さんの学習能力は本当に凄い、です。だから、『人の安眠を邪魔してはいけない』と学習できれば、分かっていただけると……信じてます」
返答に困る博士を前に、りるかは念を押した。
少し意地悪な気もするが、博士達を特別扱いしては今後も幻獣の森で問題を起こす。考えてみれば博士は他の大幻獣のように永い年月を経て大幻獣になったのではない。シンタチャシで突然変異の結果、大幻獣となったのだ。
その為、大幻獣として知識だけでなく経験も圧倒的に不足している。
博士達に他の幻獣との付き合い方を教えるつもりで臨まなければならない。
「でも、合唱は小生達に必要だホー。どうすればいいホー」
「声を小さくしたり、同時に無く数を減らしたり、感覚を開けたりするのは、どうでしょう?
声の代わりにポーズを、決めると格好いい、です。
それでも駄目なら……テルルさん」
「あん? 俺っちか?」
「博士さん達の為に、テルルさんの力で何とかなりませんか?」
博士へいくつかの案を提示した後、りるかはテルルへ協力を打診した。
テルルの持つ魔導の力で合唱をしやすくする環境を作れないかと考えたのだ。
「うーん。音っつーのは波だから、そいつをどう低減させるかって話だよな。……もしかしたら、何とかなるかもしれねぇ」
「本当だホー?」
「やってみねぇと分からねぇが、面白ぇもんができるかもしれねぇ」
思案するテルルを前に、博士は大きく翼を広げた。
「やったホー。これで仲間も大喜びだホー」
「技術で困るようなら、ヴェルナーさんに相談してみるのは、どうですか? 帝国の錬魔院へ紹介する話も、ありましたよね?」
テルルへそう話し掛けたりるか。
その脳裏には、この場にはいないヴェルナーの顔が思い浮かんでいた。
●
ハンターの精力的な説得で交渉は比較的スムーズに進んでいく。
「私達が前回持ち込んだ食料は敵意がない事を示すものよ。食料の確保は生物の基本。
狩りは貴方達にとってのソレでしょう?」
毎日の食料提供という博士の提案を前に、エルティアは明確に否定した。
狩りを怠る事は会話できるまでになった進化を否定する事だ。
多少の食料提供は可能かもしれないが、モフロウ達を特別扱いする事は狩りの技術低下に繋がると懸念を示したのだ。
「確かに、狩りを忘れて子供達に教えられないのは困るホー」
「そうでしょう? 今、貴方達が学ぶべきでは他者との交流。そして種族として守るべきものを見定める事よ。幻獣の森や他の人達に対する貢献度。その対価としてなら、食料も提供できるのではないかしら?」
エルティアの説得に、博士も納得している様子だ。
その甲斐もあって食料の提供は、森や周囲の人への貢献度に応じる形で落ち着いた。
「毛並みの手入れにしても同じです。
辺境の巫女は幻獣の森にいる幻獣達をお世話しています。そこへみんなが毎日毛並みを手入れするなんて大変でしょう? エルティアさんが提案した貢献度に応じて、巫女に毛並みを手入れしてもらうのはどうです?」
リアリュールの答えもエルティアの意見と同様だ。
働かざる者、食うべからず。
それは厳しくも見えるが、種族繁栄の為に必要なものだ。
「どうやら、博士も納得したようだ。これで交渉は締結で良いかな?」
「構わないホー。近いうちに幻獣の森へ引っ越しするホー」
シルヴェイラの言葉に対して博士は大きく頷いた。
この時点で、モフロウ達は幻獣の森へ帰還。イクタサの安眠も確保された事になる。
「では、親交を深める意味で軽く食事といこう。幸い、持ち込んでくれた菓子も多くある」
りるかが用意してくれた紅茶が注がれたカップを、シルヴェイラはそっと持ち上げた。
●
「世話になったホー」
食事の後、博士はハンター達へ礼を述べた。
リアリュールの用意したうなぎキャンディーや干し肉、りるかが用意したマカロンやチョコレートも博士は珍しそうに見ていた。大半がチューダが食べてしまったのだが……。
「おかげで分かったホー。小生達は知識を経験と積まないといけないホー」
「それが分かってくれただけでも、交渉した甲斐があったわ。貴方達はもっと多くの事を知るべきよ」
エルティアは、喜ぶ博士を見て安堵する。
が、それと同時に忠告を口にさせた。
突然変異の幻獣達が、種族として将来を守る為には相応の配慮と努力が必要だ。
言ってみれば、彼らは子供と変わらない。ならば、誰かが彼らを教え、導かなければならない。
「もっといろいろ知りたいホー。
だから、小生達に教えて欲しいホー。何処かへ行く時は小生達も連れて行って欲しいホー。貢献度を上げないといけないからよろしくお願いホー」
ハンターからの言葉を受けて博士は、ハンターを信用してくれたようだ。
いろいろ知りたい――それは、智の欲求。
知る事への熱望が、新たに生まれた絆を強くする。
一緒に歪虚と戦う日が、そう遠くないうちに来るのかもしれない。
四大精霊の一人であるイクタサ(kz0246)は、面倒そうな顔でハンター達を見る。
シンタチャシで発生したモフロウの大型化問題。深夜までの大合唱はイクタサにとって騒音に匹敵するものであった。
依頼を受けて調査に乗り出したハンターであったが、思わぬ形に話が発展し始める。
「こちらもそのつもりですわ、イクタサ様。早々に始めましょう」
テーブルにつくエルティア・ホープナー(ka0727)は、改めて 同じテーブルを囲む面々を視認した。
大型化したモフロウを目撃したハンター達。
その依頼に同行していたテルル(kz0218)も同席している。
そして――。
「始める前に挨拶するホー。
小生はモフロウを代表して交渉するモフロウ博士だホー。本当の名前はポアルだけど、気安く博士と呼んで欲しいホー」
モフロウ博士と名乗る大幻獣化したモフロウは、椅子の背もたれを爪で掴んで翼を広げる。
大幻獣になったばかりではあるが、猛烈な勢いで知識を蓄えている。今回の交渉も博士が言い出した事だ。
(マテリアルの影響でこんなにも幻獣に影響が出るのね。
いえ、それ以上に特筆すべきは大幻獣となった博士の知識ね。この短期間で交渉する事を覚えたのだから……)
エルティアは博士とモフロウ達を冷静に分析していた。
マテリアル濃度の影響なのか。
それともシンタチャシという特殊な環境が生み出したのか。
突然変異と表現して差し支えない博士を前に興味は尽きない。
「シルヴェイラだ。よろしく」
エルティアの隣に座るシルヴェイラ(ka0726) は、博士へ挨拶を返す。
事の発端はモフロウ達がある理由で幻獣の森を出た事だ。シンタチャシへ流れつき、生態系に馴染んだ結果の大型化であるが、シンタチャシで夜中に合唱するなどの問題を引き起こした。
ハンターの介入もあってモフロウ達は幻獣の森へ戻る事を決意。だが、戻る際に幾つかの条件を付けてきた。
定期的な食料提供。
毎朝自慢の毛並みを巫女に手入れしてもらう権利。
安眠を保証する事。
毎晩の合唱を許可する事。
幻獣の森に棲む幻獣から見れば明らかな特別待遇。
だが、博士はさらにもう一つ付け加えていた。
「交渉を始める前に、やっておくべき事があるホー」
博士は大きな目を見開く。
視線の先にいるのは、自称「幻獣王」チューダ(kz0173)である。
「何でありますか? 我輩、お菓子を食べにきたでありますよ」
「チュ、チューダさん……ダメ、ですよ」
桜憐りるか(ka3748)の膝の上で、チューダは用意されたクッキーを暢気に頬張っている。
悪びれないチューダを前に、必死で止めるりるか。
無理もない。この無駄飯喰らいの幻獣王こそが今回の事件の元凶なのだ。
夜行性のモフロウの都合を無視して昼間から巣を巡回。本人は民の安寧をチェックしていたというが、寝起きを起こされるモフロウ達にとっては堪らない。
博士は幻獣の森へ帰る絶対条件にチューダの謝罪を入れていた。
「ふっざけんなっ!
みんなてめぇのせいで集まってんだよ! 穀潰しのくせに余計な事しやがって!」
「テルル様、ダメですよ。暴れては」
膝の上で大声を出して騒ぐテルルを、リアリュール(ka2003)は抱くように引き留める。
腕と体で目一杯にもふもふを堪能できるのは役得だが、抱えていないと今にもテルルがチューダへ飛び掛からん勢いだ。
「わ、我輩は悪くないであります。あれは……我輩の王たる職務であります! 民を見守るのは幻獣王としてすべき役目なのであります」
「小生達はそんなの頼んでないホー。毎朝毎朝やってきて、安眠妨害。小生達はとっても迷惑したホー。
そこのキューソが謝らないと、小生達は徹底抗戦だホー」
何処かで聞きかじった言葉を並べるチューダに対して博士は仲間と共に戦う意思を見せる。
チューダ相手に強気に出ているが、モフロウは元々好戦的な幻獣だ。戦いとなれば、ハンター相手でも戦いを挑んでくるだろう。
「どうでもいいけど、チューダを謝らせないと先に行かないんじゃない?」
「まずは、それね。それが一番厄介かもしれないのだけれど……」
イクタサの言葉に続けて、エルティアは同意した。
同意したものの、実は一番厄介なのはチューダを説得する事だ。
何せ大幻獣と言ってもチューダはかなり我が侭で馬鹿な部類だ。納得させるにも比較的骨が折れる。
面倒な行為だが、チューダに謝罪させなければ先には進まない。
「ねぇ、チューダ様。博士が『毎日を覗きに来て寝られない』って仰ったわ。本当?」
まずチューダへ事実確認をしたのはリアリュール。
確認をする事でチューダに行動を意識させようという意図がある。
しかし、当のチューダはリアリュールの意図を一ミリも理解する様子はない。りるかが用意したマシュマロを食べる為に大きな口を開けている。
「んっ、このマシュマロはふわっふわであります。我輩のお腹みたいでありますな。
あ、我輩は毎日欠かさず巣をチェックしてでありますよ。我輩、偉いであります」
「呆れたって顔だな、エア」
「まあね。罪の意識が欠片もない事が分かったからね」
シルヴェイラの慰めを前に、エルティアはため息が出そうになる。
こういう手合いを説得するのが、一番労力が必要となると理解しているからだ。
漏れ出そうなため息を自分の中に押し込みながら、エルティアはゆっくりと言葉を吐き出した。
「ねえ、チューダ?」
「なんでありますか?」
「貴方がお気に入りのベッドで大好きなお菓子の夢を見て気持ち良く眠っているとするわね」
「我輩、そういう夢を見るであります。大きなナッツを独り占めであります」
「そう。でも、その夢を見ている最中にお越しに来る人がいたらどうする? しかも、その人はお越しに来るのが義務だって言っているの」
「酷いであります! 我輩のナッツを横取りなんで、激おこぷんぷん丸でありますよ!」 チューダはエルティアの喩えに対して、素直に反応している。
チューダも起こされるのは酷いと感じているようだ。
「そうでしょう。起こされると嫌でしょう。博士に対してチューダがしている事が……」
「でも、夢ではお腹いっぱいにならないであります」
エルティアの言葉を遮るように答えたチューダ。
普通の幻獣であればエルティアの言葉に納得しただろう。だが、相手は幻獣界トップクラスの馬鹿であるチューダ。妄想を膨らませた結果、夢で腹が膨れない事に気付いたようだ。
喩えを喩えと理解できない辺りが、馬鹿の面目躍如である。
「チューダ様。私、民に愛されて尊敬される優しい王様であって欲しいと願ってます」
リアリュールは手にしていたナッツをチューダにそっと差し出した。
本当は、事前にチューダと軽く話してはおきたかった。だが、イクタサから『きっと忘れるから交渉中にすれば?』と言われた事から、考えていた言葉をこの場で話し始める。
「うむ、我輩は優しい王様であります」
差し出されたナッツを早々に頬袋へしまい込むチューダ。
ナッツに夢中だが、耳はしっかりリアリュールの方を向いている。
「でも、今のチューダ様は義務を優先して民の声は聞いてます?」
「うっ」
「もし、チューダ様が民に謝れる優しい王様ならプリンを献上するのですが……」
そう言いながらリアリュールは、隠していたマロンプリンをチラつかせる。
柔らかさを体で表現するプリン。
それも馬乳と栗など食材を厳選された人気の高級プリン。
それがチューダの前に現れたのだ。
「おおっ! 美味しそうなプリンであります!」
プリンに惹かれるチューダ。
しかし、まだ幻獣王としてのプライドがあるのだろう。
もう少しの所で思い止まる。
「だ、騙されないであります! 我輩は食べ物で釣られないで……」
「民の声を聞いていない事は理解したのだろう?
悪い事をしたなら、それを認める事も王の度量ではないかな。幻獣王」
残された小さなプライドに対して揺さぶりをかけたのはシルヴェイラだった。
馬鹿であるチューダを操る方法は食べ物だけではない。
煽てる事も重要な要素だ。煽てれば何処までも高い所へ登りかねないチューダだ。謝る事も『王の度量』というキャッチーな言葉へ繋げる事で馬鹿のチューダも理解したようだ。
「おおっ! そうでありますな!
民の声を聞き、王の度量を見せるのもカッコイイであります!
……博士、我輩が悪かったであります。もう眠りの邪魔をしないであります」
早々に博士へ謝罪するチューダ。
変わり身の早さにイクタサも呆れ気味だ。
「ある意味、さすがだね」
「チューダ様。謝っていただけたので献上品です」
「わーい、プリンであります!」
リアリュールはチューダの前にマロンプリンを差し出した。
ちょっと焦らされただけあって、チューダはプリンの前に満面の笑みだ。
「まあ、ちょっと気になるが、これで謝罪を受け入れるホー。
小生達もこれでゆっくり眠れる……」
「あ、あの……少し、いいですか?」
博士の言葉を遮ったのは、りるかだ。
「なんだホー?」
「確かに、チューダさんは博士さんの睡眠を……邪魔しました。
でも、博士さんもイクタサさんの、安眠を妨害してます。夜中に合唱、されてましたよね?」
りるかは博士へ突き付けた。
チューダが朝方巣を覗いて安眠を妨害したように、博士も仲間と夜中に大合唱する事でイクタサの安眠を妨害していた。
状況は異なれど、やっていた事は同じである。
「むむっ、それはだホー……」
「博士さんの学習能力は本当に凄い、です。だから、『人の安眠を邪魔してはいけない』と学習できれば、分かっていただけると……信じてます」
返答に困る博士を前に、りるかは念を押した。
少し意地悪な気もするが、博士達を特別扱いしては今後も幻獣の森で問題を起こす。考えてみれば博士は他の大幻獣のように永い年月を経て大幻獣になったのではない。シンタチャシで突然変異の結果、大幻獣となったのだ。
その為、大幻獣として知識だけでなく経験も圧倒的に不足している。
博士達に他の幻獣との付き合い方を教えるつもりで臨まなければならない。
「でも、合唱は小生達に必要だホー。どうすればいいホー」
「声を小さくしたり、同時に無く数を減らしたり、感覚を開けたりするのは、どうでしょう?
声の代わりにポーズを、決めると格好いい、です。
それでも駄目なら……テルルさん」
「あん? 俺っちか?」
「博士さん達の為に、テルルさんの力で何とかなりませんか?」
博士へいくつかの案を提示した後、りるかはテルルへ協力を打診した。
テルルの持つ魔導の力で合唱をしやすくする環境を作れないかと考えたのだ。
「うーん。音っつーのは波だから、そいつをどう低減させるかって話だよな。……もしかしたら、何とかなるかもしれねぇ」
「本当だホー?」
「やってみねぇと分からねぇが、面白ぇもんができるかもしれねぇ」
思案するテルルを前に、博士は大きく翼を広げた。
「やったホー。これで仲間も大喜びだホー」
「技術で困るようなら、ヴェルナーさんに相談してみるのは、どうですか? 帝国の錬魔院へ紹介する話も、ありましたよね?」
テルルへそう話し掛けたりるか。
その脳裏には、この場にはいないヴェルナーの顔が思い浮かんでいた。
●
ハンターの精力的な説得で交渉は比較的スムーズに進んでいく。
「私達が前回持ち込んだ食料は敵意がない事を示すものよ。食料の確保は生物の基本。
狩りは貴方達にとってのソレでしょう?」
毎日の食料提供という博士の提案を前に、エルティアは明確に否定した。
狩りを怠る事は会話できるまでになった進化を否定する事だ。
多少の食料提供は可能かもしれないが、モフロウ達を特別扱いする事は狩りの技術低下に繋がると懸念を示したのだ。
「確かに、狩りを忘れて子供達に教えられないのは困るホー」
「そうでしょう? 今、貴方達が学ぶべきでは他者との交流。そして種族として守るべきものを見定める事よ。幻獣の森や他の人達に対する貢献度。その対価としてなら、食料も提供できるのではないかしら?」
エルティアの説得に、博士も納得している様子だ。
その甲斐もあって食料の提供は、森や周囲の人への貢献度に応じる形で落ち着いた。
「毛並みの手入れにしても同じです。
辺境の巫女は幻獣の森にいる幻獣達をお世話しています。そこへみんなが毎日毛並みを手入れするなんて大変でしょう? エルティアさんが提案した貢献度に応じて、巫女に毛並みを手入れしてもらうのはどうです?」
リアリュールの答えもエルティアの意見と同様だ。
働かざる者、食うべからず。
それは厳しくも見えるが、種族繁栄の為に必要なものだ。
「どうやら、博士も納得したようだ。これで交渉は締結で良いかな?」
「構わないホー。近いうちに幻獣の森へ引っ越しするホー」
シルヴェイラの言葉に対して博士は大きく頷いた。
この時点で、モフロウ達は幻獣の森へ帰還。イクタサの安眠も確保された事になる。
「では、親交を深める意味で軽く食事といこう。幸い、持ち込んでくれた菓子も多くある」
りるかが用意してくれた紅茶が注がれたカップを、シルヴェイラはそっと持ち上げた。
●
「世話になったホー」
食事の後、博士はハンター達へ礼を述べた。
リアリュールの用意したうなぎキャンディーや干し肉、りるかが用意したマカロンやチョコレートも博士は珍しそうに見ていた。大半がチューダが食べてしまったのだが……。
「おかげで分かったホー。小生達は知識を経験と積まないといけないホー」
「それが分かってくれただけでも、交渉した甲斐があったわ。貴方達はもっと多くの事を知るべきよ」
エルティアは、喜ぶ博士を見て安堵する。
が、それと同時に忠告を口にさせた。
突然変異の幻獣達が、種族として将来を守る為には相応の配慮と努力が必要だ。
言ってみれば、彼らは子供と変わらない。ならば、誰かが彼らを教え、導かなければならない。
「もっといろいろ知りたいホー。
だから、小生達に教えて欲しいホー。何処かへ行く時は小生達も連れて行って欲しいホー。貢献度を上げないといけないからよろしくお願いホー」
ハンターからの言葉を受けて博士は、ハンターを信用してくれたようだ。
いろいろ知りたい――それは、智の欲求。
知る事への熱望が、新たに生まれた絆を強くする。
一緒に歪虚と戦う日が、そう遠くないうちに来るのかもしれない。
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【相談卓】和平交渉 エルティア・ホープナー(ka0727) エルフ|21才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/11/29 07:33:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/11/27 07:20:21 |