ゲスト
(ka0000)
倉庫街にて
マスター:十野誠

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/28 15:00
- 完成日
- 2014/12/05 19:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●滴る音
ぴちょり
ぴちょり――
●
冒険都市リゼリオ。ハンターズオフィス本部を構えるこの都市は、流通が盛んな一面もある。各所に設けられた渡し船をはじめとする都市内の流通経路だけではなく、都市外部とも多くの取引が行われる。それを表す一面と言えるのが、街の一画に設けられた倉庫街だ。
倉庫街に置かれる荷物は様々だ。
次の運び人が来るまで置かれているもの。
夜中に運送をしない為に、一時的に夜の間保管しているもの。
中には、大量に仕入れたものの、売りさばくことが困難になり、放置されているものも存在する。
そして、更には――
「本日お集まりいただいたのは、そう。その為なのです」
その若い男は、舞台役者のように大きく身振りを付け、言葉を続けた。
何でも彼は、倉庫の辺りについての管理を任されているという。
「えぇ。あるのですよ。引き取り手不在の品々が。ウチの者には、幽霊が出したモノだ、なんていう輩もいますが」
そんなワケは無い、と。
宙で2,3回手を振り、彼はその場にいない誰かを向けての苦笑を浮かべる。
「そういう者は――私、見ちゃったんですよ――だなんて良く言います。ですが、今回は気にされなくても問題ありません。何せ、スライムが侵入してくるのを見たのは私ですから」
それは、昨日のことだという。都市に雨が降った為、万が一のことを考えて倉庫の様子を確認しに行ったところ、雨音の中に酸が何かを溶かす音を聞きつけたのだと。
「実際見に行ってみると、そこにいた、と言うわけです。まだ床を焼いているだけのようでしたが……そのままという訳にもいきません。」
雑魔である以上、見過ごすわけにもいかない相手。被害が出るのならなおさらだ。
「しかし……スライムはあれほど見えにくいものであったでしょうか……? 水があたっていなければ気がつくことは出来なかったかと」
当時を思い出しながら、彼は首をかしげる。
卵が先か、鶏が先か。どちらにせよ、彼が倉庫に足を踏み入れた時に雨が降っていたのは幸運だったのだろう。
「と、失礼いたしました。知識の無い私の考えです。お気になさらず――誰も持っていくことの無い荷物であっても、その保管については私の責務。中の品物が傷む前に、対処する必要があります。」
笑みを消して真顔になり、彼は一礼をする。
「数は確認出来ていません。その時は大量発生とはなっていませんでした。お手数をおかけしますが、何卒」
返事をしようと口を開くハンターたちに、若い管理人は顔を上げると、言葉を繋げた。
「あぁ、皆さまが荷物に破損を与える分には、気にされないで結構です。何もなければそれが一番ですが、雑魔討伐の犠牲となれば、理由もたちますからね」
ぴちょり
ぴちょり――
●
冒険都市リゼリオ。ハンターズオフィス本部を構えるこの都市は、流通が盛んな一面もある。各所に設けられた渡し船をはじめとする都市内の流通経路だけではなく、都市外部とも多くの取引が行われる。それを表す一面と言えるのが、街の一画に設けられた倉庫街だ。
倉庫街に置かれる荷物は様々だ。
次の運び人が来るまで置かれているもの。
夜中に運送をしない為に、一時的に夜の間保管しているもの。
中には、大量に仕入れたものの、売りさばくことが困難になり、放置されているものも存在する。
そして、更には――
「本日お集まりいただいたのは、そう。その為なのです」
その若い男は、舞台役者のように大きく身振りを付け、言葉を続けた。
何でも彼は、倉庫の辺りについての管理を任されているという。
「えぇ。あるのですよ。引き取り手不在の品々が。ウチの者には、幽霊が出したモノだ、なんていう輩もいますが」
そんなワケは無い、と。
宙で2,3回手を振り、彼はその場にいない誰かを向けての苦笑を浮かべる。
「そういう者は――私、見ちゃったんですよ――だなんて良く言います。ですが、今回は気にされなくても問題ありません。何せ、スライムが侵入してくるのを見たのは私ですから」
それは、昨日のことだという。都市に雨が降った為、万が一のことを考えて倉庫の様子を確認しに行ったところ、雨音の中に酸が何かを溶かす音を聞きつけたのだと。
「実際見に行ってみると、そこにいた、と言うわけです。まだ床を焼いているだけのようでしたが……そのままという訳にもいきません。」
雑魔である以上、見過ごすわけにもいかない相手。被害が出るのならなおさらだ。
「しかし……スライムはあれほど見えにくいものであったでしょうか……? 水があたっていなければ気がつくことは出来なかったかと」
当時を思い出しながら、彼は首をかしげる。
卵が先か、鶏が先か。どちらにせよ、彼が倉庫に足を踏み入れた時に雨が降っていたのは幸運だったのだろう。
「と、失礼いたしました。知識の無い私の考えです。お気になさらず――誰も持っていくことの無い荷物であっても、その保管については私の責務。中の品物が傷む前に、対処する必要があります。」
笑みを消して真顔になり、彼は一礼をする。
「数は確認出来ていません。その時は大量発生とはなっていませんでした。お手数をおかけしますが、何卒」
返事をしようと口を開くハンターたちに、若い管理人は顔を上げると、言葉を繋げた。
「あぁ、皆さまが荷物に破損を与える分には、気にされないで結構です。何もなければそれが一番ですが、雑魔討伐の犠牲となれば、理由もたちますからね」
リプレイ本文
●
「見えにくい相手、ですか……楽しそうですわぁ」
おっとりとした口調で石橋 パメラ(ka1296)は、倉庫を目の前にそんなことを呟く。
足元には、依頼人から貸し出された荷車が置かれている。大きな砂袋を持ち運ぶ為に、彼女が借り出したものだ。
「出来る限り早く来ましたし、スライムが増えたりしていないと良いのですが……」
ネージュ(ka0049)はそう言って不安そうにする。
スライムは時には分裂をする等とも言われる。また、どこから現れたのか分からない以上、数が増える恐れも十分に考えられる。
「早く来れたという点については、依頼人に感謝しても良いかもしれんな」
クローディア(ka3392)は、パメラ同様に依頼人より借りた砂をバケツに入れて持ってきている。パメラ同様に、見えにくいスライムに砂をかけ、見えやすくしようと言う狙いだ。
彼女の主な武器である魔導銃「サラマンダー」は両手持ちであるため、バケツを持ちながら構える事は出来ない。銃を背に背負いながらの参戦となる。
「スライムっておい……まるでゲームの世界だぜ……」
塗料のつまった革袋を手に、上霧 鋭(ka3535)はぼやくような声を上げる。
彼女が持つ塗料も同じく依頼人より渡されたものだ。中の色は手に入りやすい色でしかないが、相手は透明な雑魔。何かしら色さえつけば良いのだから、問題は無い。
「何が目的で此処に現れたのかしら――なんて、考えても分かる訳もないわよね」
魔導拳銃「エア・スティーラー」を片手に、ナル(ka3448)はさっぱりとした口調で自らの考えを述べる。
時には降って湧くように洗われることがあるという雑魔。ある程度位が高い歪虚であれば、なんらかの意図により現れることもあるだろうが、この場合は特に考える必要もない。
「出た痕跡が無いみたいなんで、中にいるっすね。じゃあ行きますか」
彼女らの元に、無限 馨(ka0544)がそう言いながら合流する。
彼は、他のメンバーが砂を借りている際、先行する形で倉庫に向かい、その外壁を一通り確認していた。
その結果は、穴の開いた場所は無し。少なくとも、倉庫から外にスライムが出ている様子は無い。
一同は頷きあうと、倉庫の中に足を踏み入れた。
●
重い音を立てて倉庫の戸が開く。
内部は開けており、倉庫と言うよりも、それは空の物置と言うべきか。荷物の類いは壁沿いに置かれた棚に整然と並べられ、中央には空いたスペースが広がっている。
その中央。本来であれば何も置かれていない場所に、一塊になって透明なソレ――スライムは蠢いていた。
開いた戸の音も気にせず、方々に動き出そうとするスライムを見ると、パメラとクローディアが動いた。
荷台の砂袋を掴むと、パメラは一気にスライムへと中の砂を撒く。砂は大きな音を立て、手前にいた2体のスライムに降りかかる。
「あら……まるできな粉をまぶしたわらびもちのようです。美味しそうですわぁ」
食べられるものではないが、透明なスライムの上に明るい茶色の砂がかぶった様は確かに、リアルブルーで食されるというわらびもちにも見える。
パメラと対照的に、クローディアは淡々と砂を撒く。それも、少量の砂で済むように輪郭が分かる程度に細かく。
本来、彼女は倉庫の床に直接撒く予定であったが、入ってすぐにスライムと遭遇したために効率を優先して直接まいていた。
軽い音を立てて降る砂は、スライム全体を覆うものでは無かったが、その下に何者かがいることははっきりと分かる程度に降り積もる。
その様子に、馨とネージュが瞬脚でスライムに回り込みを仕掛け、それぞれが目標としたスライムと壁の間に滑り込む。
「壁際に逃げられると厄介なんで、ここは通さねえっすよ!」
「こっちは通しませんよっ」
移動を遮る事でスライムを中央に押しとどめ、散らばらせないようにすることが狙いだ。
言葉の通じない相手であるものの、例え別の方向に進まれても横にいれば追いかける事は十分に可能だ。
一方で、正面にいるスライムにまっすぐ鋭が挑みかかる。
それまでの姿から、カミキリムシを模した姿へと変わり、持っていたダガー「ユウェル」をその腕に取り込んだ姿はまさしく異形。契約をしたカミキリムシの英霊の力をこめ、スライムに向かい大きく腕を振り抜く。
スライムはその衝撃に震えて体を揺らすものの、その体の大部分は残ったままだ。
「やわらかそうな格好しておいてタフなヤツだな、おい!」
「あらあら、これはすぐに倒すのはむずかしいかしら?」
空になった砂袋を荷台に置くと、パメラはオート「サイレント66」を抜き撃つ。
リアルブルー製の拳銃は、押さえられた咆哮を放ち、鈍色の弾丸を吐き出し、スライムの体を揺らし、確かなダメージを与える。
マークされていない残り1体に挑むのはナルだ。魔導拳銃「エア・スティーラー」の銃口を向け、引き金を絞る。
「自由にはさせないわよ」
銀色の銃身から放たれる風属性の弾丸は、確実にスライムを穿ち、小さくないダメージを与える。
体を大きく削られたことで、自らを邪魔するものが現れた事に気がついたのか、スライムが自らを泡立て、攻撃を行う素振りを見せる。
そこに、クローディアの持つ魔導銃「サラマンダー」から放たれる赤色の光を放つ弾丸が飛ぶ。
狙いを過つ事なく直撃する弾丸は、スライムの体の四半分を焼失させる。
「思ったよりもタフだな」
回避は鈍い。シールド等を持っている訳でもない。だが、その豊富な体力の前に、今回のメンバーの内、攻撃力の高い二人の攻撃をうけてもなお、スライムはその体の半ばまでようやく失った状態だ。
回避に長けた前衛が二人前に出て押さえる。
そして、後方より銃による射撃がスライムをそれぞれ削っていく。
ここに包囲は成る。
生き残ったスライム達が動き始める。
攻撃を受けたモノは、それを仕掛けたハンターがいる方へ。それ以外のスライムは、最も近くにいる自分達以外のものに向けて。
更には。
「なんだコイツら? 元にもどってねぇか?」
目の前でその様子を見てとった鋭が訝しげな声を上げる。
彼女の言葉に、近くにいたパメラが改めてスライムを見ると、先に負わせた傷口の幾分かが元に戻っている様子が見てとれた。
「あらあら、これは面倒ですわねぇ」
おっとりとした口調に、飽きれ混じりの音が混じる。
スライムの再生は全快と言うほどではない。だが、確実に傷を元に戻している。その回復力を前に、戦いは長期戦の様子を見せてきていた。
●
スライムの攻撃自体はそれほど恐れる必要もないものだ。
近くに立つ馨にスライムは攻撃するが、目がないためか、その攻撃は宙をきるか――
「これぐらいはなんて事無いっすね」
マルチステップによる軽快なステップのもとにスライムの攻撃を避け、メイルブレイカーを用いてスラッシュエッジを繰り出す。
三角錐状の刃から繰り出される確かな斬撃は、スライムの体を深くまで切り裂く。
例えしつこい相手であっても、その打撃は十分にかわせる範囲だ。着実に攻撃をし続けることで倒しきることは可能だろう。
もっとも、スライムの酸で溶けた床に気をとられたか、幾つかの攻撃は彼の防具に傷跡を残している。
馨と同じように戦い続けるのはネージュだ。
酸を纏ったスライムの体当たりを数回避けきれないでいるが、それは彼女の意を削ぐほどのものではない。
「狙い通りですけど、本当にしつこいですね!」
荷物との間に割り込むことで、倉庫に置かれた荷物を溶かされないようにすると言う目標は達している。スライムは目の前にいる邪魔者――自らの体を削るものに攻撃をし続け、荷物の方向に向かう素振りを見せない。
ネージュは飛燕を用いてショートソードを素早く切りつけ、着実にダメージを与え続ける。
その一方で、倉庫の入口側からは力強い声が上がる。
「こっちはもう少しだぜ。いい加減にくたばりやがれ!」
鋭は残り回数を気にする事なく祖霊の力を借り受けた腕をスライムに向けて振るい続けている。
彼女は他のスキルを使わず、この攻撃スキルのみを依頼に持ち込んでいたため、他のハンター達が回数切れに近づく中、常に使用し続ける事が出来ていた。
もっとも、馨やネージュより早く倒せそうと言うのは、その為だけではない。
「だいぶ弱って来ているのは確かですわよ」
つかずはなれず、スライムの位置にあわせて斬撃と銃撃を切り替えて戦うパメラが共に戦い。そして。
「なに、倒せ始めはしたのだ。後は早いだろう」
「撃った数からするともうすぐよ。そうしたら次にかかりましょう」
先に戦っていたスライムを倒した、魔導の銃を持つクローディアとナルが加わり、スライムに与えるダメージが増えた為だ。
「そっちが終わったらこっちもよろしく頼むっすよー」
その様子に少し気が緩んだのか、攻撃をかわしながら、馨は余裕を持った声を上げる。
少々長い戦いとはなったが、そんな中でも彼のひょうひょうとした口調は失われることはない。
「これで2体目、ですかね? 分裂する様子も見えませんし、このままいきましょうっ!」
ネージュの言葉に戦い続けるハンター達から応じる声が上がる。
倒しきるのは時間の問題。ハンター達のその思い通りに、程なくしてスライムの討伐は完了した。
●
「皆様、本当にお疲れ様でした…!」
倉庫から戻り、依頼人と会うと、彼は深々と頭を下げた。
「どこから入ったのかは分からなかったが、早急に対応した方がいいぞ。街中に雑魔が入り込むなど、かなりの問題だからな」
顔を上げる依頼人に、クローディアは念を推すように警告をする。
「お掃除しながら、他にいないか確認しましたけど、侵入口はありませんでした」
「私も特に見なかったですわぁ。荷物から沸いてきたようではないようでしたけれど……」
「あるのは砂ばかり、だったわね」
ネージュ、パメラ、ナルが口々に自らの確認した結果を告げる。
特に、ネージュは隙間をライトで照らし、その間にいないかを確認するという念の入れようだ。
床や壁に穴を開けて侵入したのであれば、彼女らが十分に発見出来ただろう。
「そうでしたか……分かりました。後はこちらで念を入れて調査をした上で――」
「あ、もしかして、なんすけど」
腕を組み、考え事をする依頼人に向け、馨が思い出したように口を開く。
「天井に穴が空いてたっすよ。もしかしたらそこじゃないっすかね?」
「天井ですか! それです! あの倉庫は雨の日まではそういったことはありませんでしたから!」
依頼人は驚きの声を上げると、馨の手を両手で掴み、感謝の言葉を告げる。
「ありがとうございます! それならば間に合わせる事ができます!」
なんでも、リアルブルーでのクリスマスに相当するイベントが開催される予定となっており、その際に使う倉庫を探していたのだと言う。
多くの荷物のやり取りが想定される中、スペースが残されている倉庫は少なく、場合によっては建て増しもしなくてはならない状態であったとか。
「いや。助かりました。天井の修繕だけであれば、時間もさほどかからずにできます」
「雑魔の侵入についてはどうするのだ?」
そのまま倉庫を使おうとでも言う意気込みの依頼人に、クローディアが釘をさす。
「あのような身体であれば、それこそ小さな隙間からでも入り得るだろう。今回の倉庫以外も同様だ。再発防止にくれぐれも注意をする事だな」
「おっしゃる通りです。雑魔が侵入する倉庫、いえ。雑魔が侵入した倉庫というだけでも、問題だと思う方もいると思います。普段であれば、再点検と見回りの強化といったところですが――」
壁などについても再考が必要かもしれませんね、と依頼人は考える素振りを見せた。
「ともあれ。皆様、重ねてとはなりますが、今回は誠にありがとうございました。なんでも、掃除までしていただいたとか。本当に感謝の念は絶えません。もし、皆様が倉庫などを必要とされた際は、ご相談にのらせていただきます。」
依頼人は心からの笑みを浮かべると、ハンター達にそう告げる。
「もっとも、御代はしっかりいただきますけどね。」
―倉庫街にて 了―
「見えにくい相手、ですか……楽しそうですわぁ」
おっとりとした口調で石橋 パメラ(ka1296)は、倉庫を目の前にそんなことを呟く。
足元には、依頼人から貸し出された荷車が置かれている。大きな砂袋を持ち運ぶ為に、彼女が借り出したものだ。
「出来る限り早く来ましたし、スライムが増えたりしていないと良いのですが……」
ネージュ(ka0049)はそう言って不安そうにする。
スライムは時には分裂をする等とも言われる。また、どこから現れたのか分からない以上、数が増える恐れも十分に考えられる。
「早く来れたという点については、依頼人に感謝しても良いかもしれんな」
クローディア(ka3392)は、パメラ同様に依頼人より借りた砂をバケツに入れて持ってきている。パメラ同様に、見えにくいスライムに砂をかけ、見えやすくしようと言う狙いだ。
彼女の主な武器である魔導銃「サラマンダー」は両手持ちであるため、バケツを持ちながら構える事は出来ない。銃を背に背負いながらの参戦となる。
「スライムっておい……まるでゲームの世界だぜ……」
塗料のつまった革袋を手に、上霧 鋭(ka3535)はぼやくような声を上げる。
彼女が持つ塗料も同じく依頼人より渡されたものだ。中の色は手に入りやすい色でしかないが、相手は透明な雑魔。何かしら色さえつけば良いのだから、問題は無い。
「何が目的で此処に現れたのかしら――なんて、考えても分かる訳もないわよね」
魔導拳銃「エア・スティーラー」を片手に、ナル(ka3448)はさっぱりとした口調で自らの考えを述べる。
時には降って湧くように洗われることがあるという雑魔。ある程度位が高い歪虚であれば、なんらかの意図により現れることもあるだろうが、この場合は特に考える必要もない。
「出た痕跡が無いみたいなんで、中にいるっすね。じゃあ行きますか」
彼女らの元に、無限 馨(ka0544)がそう言いながら合流する。
彼は、他のメンバーが砂を借りている際、先行する形で倉庫に向かい、その外壁を一通り確認していた。
その結果は、穴の開いた場所は無し。少なくとも、倉庫から外にスライムが出ている様子は無い。
一同は頷きあうと、倉庫の中に足を踏み入れた。
●
重い音を立てて倉庫の戸が開く。
内部は開けており、倉庫と言うよりも、それは空の物置と言うべきか。荷物の類いは壁沿いに置かれた棚に整然と並べられ、中央には空いたスペースが広がっている。
その中央。本来であれば何も置かれていない場所に、一塊になって透明なソレ――スライムは蠢いていた。
開いた戸の音も気にせず、方々に動き出そうとするスライムを見ると、パメラとクローディアが動いた。
荷台の砂袋を掴むと、パメラは一気にスライムへと中の砂を撒く。砂は大きな音を立て、手前にいた2体のスライムに降りかかる。
「あら……まるできな粉をまぶしたわらびもちのようです。美味しそうですわぁ」
食べられるものではないが、透明なスライムの上に明るい茶色の砂がかぶった様は確かに、リアルブルーで食されるというわらびもちにも見える。
パメラと対照的に、クローディアは淡々と砂を撒く。それも、少量の砂で済むように輪郭が分かる程度に細かく。
本来、彼女は倉庫の床に直接撒く予定であったが、入ってすぐにスライムと遭遇したために効率を優先して直接まいていた。
軽い音を立てて降る砂は、スライム全体を覆うものでは無かったが、その下に何者かがいることははっきりと分かる程度に降り積もる。
その様子に、馨とネージュが瞬脚でスライムに回り込みを仕掛け、それぞれが目標としたスライムと壁の間に滑り込む。
「壁際に逃げられると厄介なんで、ここは通さねえっすよ!」
「こっちは通しませんよっ」
移動を遮る事でスライムを中央に押しとどめ、散らばらせないようにすることが狙いだ。
言葉の通じない相手であるものの、例え別の方向に進まれても横にいれば追いかける事は十分に可能だ。
一方で、正面にいるスライムにまっすぐ鋭が挑みかかる。
それまでの姿から、カミキリムシを模した姿へと変わり、持っていたダガー「ユウェル」をその腕に取り込んだ姿はまさしく異形。契約をしたカミキリムシの英霊の力をこめ、スライムに向かい大きく腕を振り抜く。
スライムはその衝撃に震えて体を揺らすものの、その体の大部分は残ったままだ。
「やわらかそうな格好しておいてタフなヤツだな、おい!」
「あらあら、これはすぐに倒すのはむずかしいかしら?」
空になった砂袋を荷台に置くと、パメラはオート「サイレント66」を抜き撃つ。
リアルブルー製の拳銃は、押さえられた咆哮を放ち、鈍色の弾丸を吐き出し、スライムの体を揺らし、確かなダメージを与える。
マークされていない残り1体に挑むのはナルだ。魔導拳銃「エア・スティーラー」の銃口を向け、引き金を絞る。
「自由にはさせないわよ」
銀色の銃身から放たれる風属性の弾丸は、確実にスライムを穿ち、小さくないダメージを与える。
体を大きく削られたことで、自らを邪魔するものが現れた事に気がついたのか、スライムが自らを泡立て、攻撃を行う素振りを見せる。
そこに、クローディアの持つ魔導銃「サラマンダー」から放たれる赤色の光を放つ弾丸が飛ぶ。
狙いを過つ事なく直撃する弾丸は、スライムの体の四半分を焼失させる。
「思ったよりもタフだな」
回避は鈍い。シールド等を持っている訳でもない。だが、その豊富な体力の前に、今回のメンバーの内、攻撃力の高い二人の攻撃をうけてもなお、スライムはその体の半ばまでようやく失った状態だ。
回避に長けた前衛が二人前に出て押さえる。
そして、後方より銃による射撃がスライムをそれぞれ削っていく。
ここに包囲は成る。
生き残ったスライム達が動き始める。
攻撃を受けたモノは、それを仕掛けたハンターがいる方へ。それ以外のスライムは、最も近くにいる自分達以外のものに向けて。
更には。
「なんだコイツら? 元にもどってねぇか?」
目の前でその様子を見てとった鋭が訝しげな声を上げる。
彼女の言葉に、近くにいたパメラが改めてスライムを見ると、先に負わせた傷口の幾分かが元に戻っている様子が見てとれた。
「あらあら、これは面倒ですわねぇ」
おっとりとした口調に、飽きれ混じりの音が混じる。
スライムの再生は全快と言うほどではない。だが、確実に傷を元に戻している。その回復力を前に、戦いは長期戦の様子を見せてきていた。
●
スライムの攻撃自体はそれほど恐れる必要もないものだ。
近くに立つ馨にスライムは攻撃するが、目がないためか、その攻撃は宙をきるか――
「これぐらいはなんて事無いっすね」
マルチステップによる軽快なステップのもとにスライムの攻撃を避け、メイルブレイカーを用いてスラッシュエッジを繰り出す。
三角錐状の刃から繰り出される確かな斬撃は、スライムの体を深くまで切り裂く。
例えしつこい相手であっても、その打撃は十分にかわせる範囲だ。着実に攻撃をし続けることで倒しきることは可能だろう。
もっとも、スライムの酸で溶けた床に気をとられたか、幾つかの攻撃は彼の防具に傷跡を残している。
馨と同じように戦い続けるのはネージュだ。
酸を纏ったスライムの体当たりを数回避けきれないでいるが、それは彼女の意を削ぐほどのものではない。
「狙い通りですけど、本当にしつこいですね!」
荷物との間に割り込むことで、倉庫に置かれた荷物を溶かされないようにすると言う目標は達している。スライムは目の前にいる邪魔者――自らの体を削るものに攻撃をし続け、荷物の方向に向かう素振りを見せない。
ネージュは飛燕を用いてショートソードを素早く切りつけ、着実にダメージを与え続ける。
その一方で、倉庫の入口側からは力強い声が上がる。
「こっちはもう少しだぜ。いい加減にくたばりやがれ!」
鋭は残り回数を気にする事なく祖霊の力を借り受けた腕をスライムに向けて振るい続けている。
彼女は他のスキルを使わず、この攻撃スキルのみを依頼に持ち込んでいたため、他のハンター達が回数切れに近づく中、常に使用し続ける事が出来ていた。
もっとも、馨やネージュより早く倒せそうと言うのは、その為だけではない。
「だいぶ弱って来ているのは確かですわよ」
つかずはなれず、スライムの位置にあわせて斬撃と銃撃を切り替えて戦うパメラが共に戦い。そして。
「なに、倒せ始めはしたのだ。後は早いだろう」
「撃った数からするともうすぐよ。そうしたら次にかかりましょう」
先に戦っていたスライムを倒した、魔導の銃を持つクローディアとナルが加わり、スライムに与えるダメージが増えた為だ。
「そっちが終わったらこっちもよろしく頼むっすよー」
その様子に少し気が緩んだのか、攻撃をかわしながら、馨は余裕を持った声を上げる。
少々長い戦いとはなったが、そんな中でも彼のひょうひょうとした口調は失われることはない。
「これで2体目、ですかね? 分裂する様子も見えませんし、このままいきましょうっ!」
ネージュの言葉に戦い続けるハンター達から応じる声が上がる。
倒しきるのは時間の問題。ハンター達のその思い通りに、程なくしてスライムの討伐は完了した。
●
「皆様、本当にお疲れ様でした…!」
倉庫から戻り、依頼人と会うと、彼は深々と頭を下げた。
「どこから入ったのかは分からなかったが、早急に対応した方がいいぞ。街中に雑魔が入り込むなど、かなりの問題だからな」
顔を上げる依頼人に、クローディアは念を推すように警告をする。
「お掃除しながら、他にいないか確認しましたけど、侵入口はありませんでした」
「私も特に見なかったですわぁ。荷物から沸いてきたようではないようでしたけれど……」
「あるのは砂ばかり、だったわね」
ネージュ、パメラ、ナルが口々に自らの確認した結果を告げる。
特に、ネージュは隙間をライトで照らし、その間にいないかを確認するという念の入れようだ。
床や壁に穴を開けて侵入したのであれば、彼女らが十分に発見出来ただろう。
「そうでしたか……分かりました。後はこちらで念を入れて調査をした上で――」
「あ、もしかして、なんすけど」
腕を組み、考え事をする依頼人に向け、馨が思い出したように口を開く。
「天井に穴が空いてたっすよ。もしかしたらそこじゃないっすかね?」
「天井ですか! それです! あの倉庫は雨の日まではそういったことはありませんでしたから!」
依頼人は驚きの声を上げると、馨の手を両手で掴み、感謝の言葉を告げる。
「ありがとうございます! それならば間に合わせる事ができます!」
なんでも、リアルブルーでのクリスマスに相当するイベントが開催される予定となっており、その際に使う倉庫を探していたのだと言う。
多くの荷物のやり取りが想定される中、スペースが残されている倉庫は少なく、場合によっては建て増しもしなくてはならない状態であったとか。
「いや。助かりました。天井の修繕だけであれば、時間もさほどかからずにできます」
「雑魔の侵入についてはどうするのだ?」
そのまま倉庫を使おうとでも言う意気込みの依頼人に、クローディアが釘をさす。
「あのような身体であれば、それこそ小さな隙間からでも入り得るだろう。今回の倉庫以外も同様だ。再発防止にくれぐれも注意をする事だな」
「おっしゃる通りです。雑魔が侵入する倉庫、いえ。雑魔が侵入した倉庫というだけでも、問題だと思う方もいると思います。普段であれば、再点検と見回りの強化といったところですが――」
壁などについても再考が必要かもしれませんね、と依頼人は考える素振りを見せた。
「ともあれ。皆様、重ねてとはなりますが、今回は誠にありがとうございました。なんでも、掃除までしていただいたとか。本当に感謝の念は絶えません。もし、皆様が倉庫などを必要とされた際は、ご相談にのらせていただきます。」
依頼人は心からの笑みを浮かべると、ハンター達にそう告げる。
「もっとも、御代はしっかりいただきますけどね。」
―倉庫街にて 了―
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 4人 |
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MVP一覧
- スピードスター
無限 馨(ka0544)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/25 20:32:05 |
|
![]() |
相談卓 ナル(ka3448) エルフ|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/11/28 14:17:07 |