演想──好感と反感

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/12/02 09:00
完成日
2017/12/10 07:13

みんなの思い出

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オープニング

「すみません! すみません! 先ほど舞台に出ていたの貴方ですよね!?」
 伊佐美 透(kz0243)が、チャリティーの、あの舞台の後、適当に会場を歩いていた時だ。向けられた声に振り向くと、駆け寄ってくる男性がいた。四十代か五十代だろうか。体系も顔立ちも丸っこく、柔和な笑みを浮かべている。
「……すみません。実は私こういうものでして」
 男はすっと名刺を差し出してきた。
『イベント企画・運営 (株)ゼロエンゲージ 代表取締役 中橋源二』
「私、今日この場所へは、まさにハンターが来ると聞いてやってきたのです! ハンター、ひいては異世界からの来訪者! この存在が持つ魅力を、もっと効果的かつ恒常的にこの世界に発信できないかと!」
 男──中橋源二、なのだろう──は、ずずいっと詰め寄ってきて、両手を掲げながら高らかに言った。
「つまり、再演や別公演の心づもりはありませんかとお話ししたい訳ですよ!」
「……。いえその。正直、今日のような突発企画ではなく、計画立ててそれを実行するのは難しいかなと思ってるんですが。色々……」
「成程──しかし、二世界の間で協力し合う者が互いに居るのであれば、そこに工夫の余地はありませんかね?」
 考え込む源二を、ただ突っ立って見ているしかできなかった。
 ──正直、まさかいきなりこんな話が舞い込んでくるとまでは、予想していなかった。
 ただ、いつかきちんとこの世界に戻ってくることが叶った時に、再びこの世界に溶け込めるのが少しでも早くなるように、とか、まだその程度のつもりで。
 ああ、そうだ。それから。本格的にそういう事になるなら、何より先に筋を通さねばならない場所も、有るし。
「いや、まあ、そうですな。失礼。さすがに今私の話だけでこの場で私を信じてすぐ返事をしろと言うのも確かに無理難題ですな」
 無言のままの透に何を思ったのか、源二は落ち着きを取り戻してそう言った。実際、知らない会社をすぐに信用は出来ないというのも事実だ。
「その名刺はぜひお持ちください。もし興味がありましたら、秋葉原にお立ち寄りが可能な際にいつでも寄っていただければ」

 帰還した後日。クリムゾンウェストでの自室。名刺を弄びながら、ゆっくりとあの日のことを思い返す。舞台に立った、その想いと共に。
 ──久々に舞台に立ったその時、ずっと眠らせていた歯車がきちんと回っていくのを、確かに感じた。
 演技したい、という想い、形に、自分の声は、手足は思った以上にちゃんと応えてくれた。だが、歯車からは軋んだ音も聞こえた。このまま時間を置けばまた錆び付くだろうとも。
 ……また演じたい。その想いは偽れない。
 しかし。
「秋葉原にお立ち寄りが可能な際……な……」
 現状、その可能性として最も起こりうるのは。
 リアルブルーにVOIDが出現することである。
 分かってはいたが。そもそも、元の事務所に連絡を取ろうと思った時にも考えたことではあるが。
「まあやっぱり、故郷に戻るためには、故郷に異変が起きる必要があるってのは、しんどい話だよな」
 あまりにも痛ましい異変、それに深く傷ついた人を見てきただけに。こうして下手に強く意識してしまうと、リアルブルー出身のハンターの現状はやはり、やりきれないものがある。
「それでも……覚悟して踏み出した、一歩なんだ」
 別に望むわけじゃない。今それはまだ、ほっといても起こりうるものなのだ。そう言い聞かせて。透はハンターオフィスで連日それを、待った。



 千葉県幕張付近に出現した狂気の退治。他に周辺にVOID勢の活発な動きは認められず、おそらくはぐれ個体が海上から上陸したものと思われる。ただし海上に既に増援となりそうな狂気は発見されない。周辺住民の避難の完全に完了されたと確認次第、海浜幕張公園を拠点として散開する各個体を捜索し発見次第これを撃破のこと。二十代前半ほどと思われる軍服の青年──高瀬という名字と階級だけ名乗り、強化人間であると告げた──は、冷淡な態度を露わにハンターたちに告げた。
 作戦概要を読み上げた後、高瀬少尉は作戦に参加するハンターの資料を捲り始めた。もともと不機嫌そうな顔にさらに、片眉が吊り上がる。
「……小耳にはさんだのですが」
 そして、はっきりと自分に向けて話しかけられたことに透はぎょっとする。
「先日神奈川の方で舞台を演じたハンターと言うのは貴方ですか」
「はい……そうですが何か」
 似たようなやり取りしたばっかりの記憶があるなあと内心思った。あの時とは温度感が真逆だが。
「何か、と言われるならば。目障りです」
「……」
 流石に余りにもきっぱり言われすぎて絶句した。
「リアルブルーのことはリアルブルーの力で守ります。今後こちらでの戦局の中心は強化人間にシフトしていくべきだ。必要以上にハンターが悪目立ちするのは差し控えてもらいたい」
「……俺もリアルブルーの人間ですよ」
「でも力はクリムゾンウェストのものだ。仮に二つの世界が同時に危機に陥った時、貴方たちはこちらに来られるのか、と言う懸念は当然のことかと思いますが」
「……」
 返す言葉は出なくて、ただ、苦みに顔を顰めるしかない。もうお前はリアルブルーの存在じゃない、そう言われた気がして。来たくても来られるわけじゃない、その事実は、今まさにこの依頼を選んで参加したことで痛感している。
「分かったなら、ハンターが市民に露骨に人気取りに行くのは控えて欲しいですね」
「それは……! そんなつもりじゃない!」
「違うんですか? ──あなたがやっていることは結局、覚醒者であることを利用した売名行為ではないとでも?」
 目の前がちかちかと眩んだ。急激に頭に血が上ったせいだろう。激しい衝動はしかし、方向性が定まらなくて霧散した。ごちゃ混ぜになった感情の中に間違いなく怒りはあって、だが、その矛先は結局、大半が自分に突き立てられる。ああそうだ、最終的には結局、そういう事にもなるんだな、と。
 深呼吸する。言い聞かせる。むしろこうした反応の方が、覚悟していたことじゃないかと。存在をアピールすれば、返ってくるのは好意的な反応ばかりではない、と。覚悟していたからと言って傷つかずに済むかと言えば別問題なだけで。
「不本意に向こうに連れていかれ、望みもしないのに力を与えられたことに、同情はしますよ」
 優位を感じて余裕が出たのか、高瀬少尉はそう言ってくる。彼についてはもう、良かった。彼に対して、言い返せることも言いたいこともない。
 それでも。
 また、思った。『それでも』。
 想いに向けて踏み出した。容易なことではないとは分かっていた。だけど、この『それでも』があとどれほど積み重なっていくんだろう。
 ……そもそもこのまま歩み続けていいのかさえ、分からなくなる。
『住民避難、目視完了いたしました! 作戦行動を開始してください!』
 やがて、その連絡が入った。

リプレイ本文

 鞍馬 真(ka5819)には、クリムゾンウェストに降り立った時、記憶はすべてを失っていた。だが。
 ……悪目立ち? 人気取り? お前が勝手に受けた印象を、仕事の前にネチネチと吐かす神経は理解できない。
 感じる不快感は──リアルブルーのハンターとしての、怒りだ。他人の思いを踏み躙って良い気になる前に、まずは自分の仕事をしたらどうなんだ? と。
 ……怒鳴りつけたりはしない。だが、視線には殺気が籠る。その視線の先で。
「トールが売られた喧嘩だからって黙って聞いてりゃ好き放題謳いやがって! ザケンじゃねぇぞ!」
 沈黙を押し破ったのは、大伴 鈴太郎(ka6016)の叫びだった。
「オレ達は人気取りとか、ンなくだらねぇ理由で舞台やったンじゃねンだよ!!」
 胸倉につかみかかる勢いで猛然と食ってかかるが、逆に言えば勢いだけだ。元々彼女はごちゃごちゃ考えるのは苦手な性質で、弁が立つわけでもない。
「『仮に二つの世界が同時に』、だあ? そんときゃあっ……」
 だから、感情で押し出された言葉は、不意にそこで、やはり、感情によって押し留められる。
「……その時は?」
「その……時は……」
 ソサエティに殴りこんででもこちらの世界を救いに来てやる。そう言おうと思った直後、紅の世界で暮らす友人達が頭を過った。
「……どうやら物理的ではなく心理的にも抵抗があるようだ。僕の懸念の通りに。まあ、そりゃあ情も湧くでしょうが」
 一見、理解を示すような発言。
 真が鈴の向こうで、また顔を顰める。彼が何よりも気に入らないのはこの態度だ。見下され、勝手な同情を押し付けられる謂れはない──何様のつもりだ。
 だが鈴の剣幕にも真の視線にも、少尉の態度は変わらない。
 ……鈴はただ、悔しさに拳を震わせて、目に涙を滲ませることしか出来なかった。
 そこに、乾いた拍手が響く。
「いやぁ近年稀に見る弱者の遠吠えだったわ。面白かったぜ、少尉」
 トリプルJ(ka6653)のものだった。
「てめえの力不足棚に上げて守るべき一般市民を揶揄するたぁ、随分お偉くなったもんだな、統一連合宙軍は。
 ──俺は大学出の尉官始まりだからなぁ。転移前は統一連合宙軍中尉だぜ、少尉殿? 死んだことになってるから……どうなったんだっけ? まあ、いいや。」
 階級を告げて挑発するトリプルJに、少尉は姿勢を正して向き直ってきた。
「俺はこの世界に戻れたらまた軍に奉職するつもりであっちで頑張ってんだよ。その軍に今所属するお前が、一般人相手に情けねぇこと言ってんじゃねぇ!」
「軍として戦う気があるのでしたら、尚の事──」
「分かりやすく言ってやろうか。お前はの言ったことは、黒帯の空手家に「お前が強くて話題になると軍で頑張ってる僕の活躍が霞むから試合に出るな」っていうのと同レベルだ。軍人はなぁ、軍以外に所属する全ての人間を歪虚から守るのが仕事なんだよ! 相手が警官だろうが自分より強かろうが関係ねぇ! 俺達は歪虚から人類守るために戦ってるんだ! 市民がどんな話題であれ明るく前向けるなら万々歳だ!」
「帰った後の責任も取れないくせに安易に希望をばら撒く事がですか!? 僕は……」
「あのな。俺達は今、力があるってだけで軍人でもねえ一般人戦わせてるんだ。軍人ならそれを恥と思え。こんな所で恥の上塗りするから、そういう態度が表に出るから……人心が離れるんだよ」
「だから最終的には僕たちで守ると、初めから……──」
 やりとりを眺めながら、ルベーノ・バルバライン(ka6752)が零すように言う。
「なあ鈴太郎。俺は今までリアルブルーの人間はお前たちのようなハンターか恭子達のような剛毅な軍人しか知らなかったのだが。この色々と可哀想な男はこの世界の標準かこの国の標準か、それともこの男だけがとりわけ可哀想なのか一体どれが正解だ?」
「ンなワケねぇだろ!」
 鈴はかろうじて、反射的に否定した。
「ああすまん、あまりの可哀想ぶりにうっかり取り繕うのを忘れていた、許せ」
 ここで少尉の呆けた表情に気付いてルベーノが今更のように言う。
「何かを本気で変えたいなら、それ相応の手段が要る。この場で伊佐美に文句を言って何が得られる? お前は自分の力不足を知りつつ目を背け、堪え性もなく計画性もなく、人を貶めるのが好きで、民意と言う不確かな上位存在に阿って自分の存在意義を認めて貰いたいとわざわざこの場で公言したわけだが。客観的に見て、これを可哀想と言わずして何と言う」
 そうして、やれやれと首を振りながらそう解説した。
「知恵が可哀想なのか心が可哀想なのか判断力がないのか調整の不具合なのかは知らんが。語る言葉には気を付けた方が良いと思うぞ、少尉?」
「不都合な可能性から目を背けているのはどっちだと言ってる!」
 軍の偵察隊から作戦開始を告げられたのはこの時だった。
「まあまあ。一先ずは任務優先といたしませんか。……終わってからの方が、お互いゆっくりと話も出来るでしょう」
 初月 賢四郎(ka1046)が宥めるように割って入りつつ、さり気なく事後の対話に誘導してこの場を収めた。
 同時に、これまでの反応から少尉と言う男を考える。
 ……挑発にあっさり反応し怒りを隠せていないあたり、単純に青い。その上で少し面白いのが、階級を名乗ったトリプルJに対しきちんと接したことである。初めこそ皮肉返しの慇懃無礼だろうが、その後の発言は怒りで素に近い筈。にもかかわらず敬語が続いたのは、目上への礼儀が完全に染みついている。以上から類推するに。
(良くも悪くもお坊ちゃん。まあ、悪い側面の方が大きいだろうが)
 賢四郎はそう分析し、戦闘後の対話の対応を模索し始めた。
 一方、任務に向け一行が散開する間際。
「伊佐木、お前アクターの割に弱メンタルだな。アンチファンに何か言われたくらいでそんなに動揺してどうすんだ。俺達ぁ今から戦うんだぜ?」
 苦笑しながら、トリプルJは透の方もそう揶揄していた。
「……素の自分が嫌いな人間ほどのめり込む仕事でもあるんですよ」
 透は、ただそれだけを返した。そこには、怒りや動揺を見せることは無く。

 軍の索敵情報を元に、真は走る。地を、壁を蹴り加速しながら町を縦横無尽に走り、見つけた敵をおびき寄せては撃破を図る。
(……少尉サマが文句の付けようの無いくらい完璧に仕事をしたいところだ)
 気持ちを切り替えるべく、内心でつぶやいた。感情はさておき、仕事は手を抜かず丁寧にと行きたい。
 ソウルトーチに引き寄せられ、真を追う敵が三体、四体と増えていく……そこに。ルベーノが、躊躇いもなく割り込んできた。
 突然の乱入に混乱したのか、狂気たちが一斉に熱線を向け。
 次の瞬間、哄笑を上げながら放たれた、ルベーノの反撃の爪──金剛不壊が込められた一撃──が、狂気の一体を吹き飛ばした。
 その後もルベーノは、敵の攻撃を嬉々として受け止めては金剛不壊を連発する。思ったより呆気なく蹴散らせることに不満げですらあった。
(……私も、大概無茶する自覚はある、のだけど……)
 思わず、どうしたものかと考え込む真である。
 賢四郎はそんなルベーノの戦いも把握しつつ、まあ状況的に速攻もありだろうと判断。全体の状況を把握し支援する。大きく動きを乱している味方は居なかった。鈴も、荒っぽくはあるが周りはきちんと見えている。トリプルJも、スキルを惜しまず目の前の敵を確実に倒していく。
 状況終了が告げられるまで、特筆すべきことは起こらなかった。

「改めまして。自分は不本意ながら異界に流された元連合宙軍主計科中尉初月賢四郎であります」
 戦いを終えると、賢四郎は少尉の元へと近づいていった。
「確認させていただきたいのですが──
 一つ。リアルブルーの防衛方針、ハンターの介入の漸進的排除の告知。
 一つ。それに伴う依頼外のハンターの表現活動の自粛。
 以上は正式に軍の要請であると解釈して宜しいのか。であれば、少尉のお考えご尤もですが依頼外のもの故、上に伝え対応を仰ぎます故お待ち下さい。軍人が軍服を纏い発する言葉の意味は理解しておりますので」
「……本気でそのような大事になる前に、こうして忠告しているつもりでしたが?」
 辛うじてと言った様子で、少尉は言い返す。ふむ、と賢四郎は満足げに頷いて見せる。
「それはつまり、現時点では少尉の個人的な懸念表明であって、強制力は持たないという意味でいいですかね」
「そもそも! 先ほども森山艦長のお話が出ましたが! 周りと連携を取らず勝手に足並みを乱したというならそっちが先なんです! 宣伝部隊がよく分からない連中を引き入れて、かつ好き勝手出来るよう取り計らっているとあらば、私兵化を懸念するのも当然の向きでしょう!」
 ……成程。要するに、本来主戦力で無い筈のものが予定外の力を付けてきてることに、軍内のパワーバランスが危ういと考える勢力があるわけだ。駄々っ子相手は面倒だが、面白い話が聞けたと思えなくもない。
 正直もう現状は、賢四郎にとっては詰将棋である。こうやって正当化に来た時点で、こちらの脅迫は有効なのは明白だ。あとは発言の撤回を、どうやって相手の飲み込める形で言わせてやるかだ。
 ……。
 実際のところ。こんなの、利を考えるなら聞き流してやればそれだけでよかった。
 ただ、少なからず賢四郎は少尉の言葉で吹っ切れていた。利で理を枉げて堪るか! と。
 故に、手段を選ばぬ思考と行動を採る。
「貴方の意見も理解できますが友軍をが反目に回る可能性を出しては有害。故郷に帰りたい自分が感情に任せて筋目だけで対立を加速するのも有害。だからこそお互いの「理と利」を見直してよりよい先を見れませんかね?」
「……互いの、とは?」
「貴方の最終的な目的が、軍内のハンター利用の慎重派と推進派が適切なバランスを保つべき、という事であれば理解します。その場合、我々はむしろ互いの状況と要望を適切に意見交換すべきでしょう。当方も形振り構わぬ対応を謝罪します。但し……」
「……」
「逆に。いっそのことどちらが上かこの際はっきりさせようというおつもりで、この場で強硬に出るつもりなのであれば。当方も譲れぬ点があります……この場のハンター全員は受けて立つつもりのようですよ?」
 突き付けてやる。これ位は思い知れ。自分がその火種になるつもりはあったのかい、坊や。
「……僕は、この先大事にしたくないのだと、そう申し上げておりますっ……!」
「確認します。先ほどの発言は現時点で軍としての強制ではない。宜しいですね?」
「……意見交換、と貴方は言った。こちらの意見も受け止める気はあると?」
 ──それくらいの強がりは妥協の範囲でいいだろう。
 賢四郎は笑顔で頷いた。

 上手く話がまとまりそうなのを、鈴はどこか燻る気持ちで眺めていた。……何か、納得がいかない。
「……トールはこのまま黙ってるのかよ! お前の事だろ!」
 気がつけば、鈴はそう透に食ってかかっていた。
「悔しかねぇのか! オレ達の舞台が虚仮にされてンだぞ! 演技が──芝居が好きなンじゃねンかよ!?」
 何で──何で言い返してくれなかったのか。感情を乱れさせながら睨み付けてくる鈴の瞳を、透はじっと見つめ返した。
 ……その中に渦巻くものを。乱れ、纏まらないその光彩。
 嗚呼。今それを、自分にぶつけることはとても正しいと、透は思う。
「思う、事はある。が、それを、何に、どうぶつければいいのかが……今は俺も分からない」
 八つ当たりだと彼女は思っているだろうか。なら傷付かないでほしいと思った。その苦しさは正に、透が引き取るべきものだ。
 鈴は未だ納得いかないようだが……結局、それ以上何も言葉は出てこないのか、ふい、と身体ごと視線を背けて離れていった。
 そこで透は、ばし、と背中を叩かれる。
「しゃっきりしろ。手紙の時も思ったが、お前たちリアルブルー人は考えすぎる」
 ルベーノだった。
「悩んだ時の判断基準は2つでいい。好きか嫌いか、やるかやりたいかだ──人は悩んだ時にはもう何かを選んでいる。後はその好悪と柵でやるのか自発でやるのかさえ判じれば、答えは自ずと見える……善意も悪意も好悪も誹りも。人に向けた物は必ず自分に返る。そこさえ押さえておけば間違わん」
 それだけ言うとルベーノは去った。透はまだ釈然としない表情で立ちすくんでいる。
「きみのやっていることが正しいかなんて誰にもわからない」
 次に声をかけたのは真だ。
「でも、歩みを止めてしまうと、正しいかどうかすら判断できなくなってしまう」
「……考えもせず結果に委ねるのでいいのか? 俺はハンター全体に迷惑をかける気は……」
 答えかけて、透は首を振った。
「違うな。こうじゃない……これじゃあ、拗ねて言われたことに反射的に言い返してるだけだ」
 投げかけられた多くの言葉に、彼はまだ自縄自縛の状態にある。雲間を晴らすにはまず一筋でいい、光が必要だった。
「……あんな反感の声も、逆に好意的な声も。これから何度も受ける機会があると思う。きっと、この道を歩み続ける限りキリが無い。だから、きみには他人の意見に惑わされず自分の道を歩み続けて欲しい。強い思いを持って演じるという道を選んだきみのことを尊敬しているから」
 真の言葉に、それなりの時間、透は考え込んでいた。
「……やっぱり、『覚醒者であることを利用した』の部分かな。引っかかってるのは」
「うん?」
「俺がやろうとしている事に、今のハンターの名声を当て込んでないかと言うと、自信がなかった」
 まだ惑うような言葉に、その横顔を見て、真は何も言わない事にする。
「……仮に。俺がロッソ漂流に巻き込まれたただの一般人で。数年の行方不明を経てただ戻ってきただけなら、俺はまた、演じてたのかな。一からやり直す覚悟で」
 真の言葉を切欠に、透はきちんと、ピースを揃え直している。あとは並べ直すだけで、これ以上は必要ない。そう感じた。

 ──人は悩んだ時にはもう何かを選んでいる。

 ──演技が──芝居が好きなンじゃねンかよ!?

「……演じてたの、かな」
 もう一度彼が呟いたとき。彼はもう、前を向いていた。
「少なくとも、私は何があってもきみを応援し続けるからね」
 最後に一言。送り出すように、真は言った。

 やっぱりここで言うべきかと、透は少尉の元へと向かう。
「何か」
 少尉が言った。
「実の所、貴方には、何も」
 透が答える。気付いてしまえばやはり、初めから彼に言う事など何もなかったのだ。……ただ、案じてくれた友人に報いるためにはやはり、ここで宣言すべきなのだろうと。
「……伝えたいことが伝わってなくて。それを正すために俺がすべきことは、ここで言い返すことじゃない」

「だから、俺はまた演じます。そして、俺が受け止めるべきは観た人の言葉だけだ」

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  • 矛盾に向かう理知への敬意
    初月 賢四郎ka1046

  • 鞍馬 真ka5819

重体一覧

参加者一覧

  • 矛盾に向かう理知への敬意
    初月 賢四郎(ka1046
    人間(蒼)|29才|男性|機導師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/27 23:39:39
アイコン 相談卓
大伴 鈴太郎(ka6016
人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/11/29 17:39:52