ゲスト
(ka0000)
【星籤】イカロスに挑め!
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/08 22:00
- 完成日
- 2017/12/19 01:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
鳥のように空を飛びたい。
はるか遠い昔から、そう望む者は多かった。
人間は飛行機を作り、ロケットを作り、今や宇宙空間にまで飛び立つことができるようになった。
だが、鳥のように飛びたい――その想いはいまだ遠い。
●
リアルブルー、統一地球連合軍月面崑崙基地。
クリムゾンウェストとの交流拠点の一つとなっているこの場所に、ハンターの一団が到着した。
「ようこそ、崑崙基地へ!」
軍用コートを身につけた赤毛の男が愛想良く出迎える。強化人間のアスタリスク(kz0234)だ。
ハンター達や、共に同行した同盟軍のメリンダ・ドナーティ(kz0041)と礼儀正しく握手を交わす。
「ドナーティ中尉もご一緒でしたか」
「ええ、相変わらずのメッセンジャーですわ」
メリンダは完璧な営業スマイルで応じた。
「わが軍としても今回のお話は興味深いものです。できる限りご協力したい、と考えております」
――まあ実際のところ、野次馬根性と思われても仕方がないわね。
内心では眉間にしわを寄せるメリンダである。
だがアスタリスクも相変わらず感じのよい笑顔を浮かべている。
「なるほど、それは頼もしい限りです。正直なところ、我々だけではこれ以上の……ああ、詳しい話は実物をご覧いただいてからにしましょう。早速ですが、こちらへどうぞ」
アスタリスクは軍人らしいきびきびした動きで、一同を移動用の車輛へと促した。
到着した先は、以前『超人運動会』なるものが開催されたドームだった。
今は祭の片づけも済んでいて、がらんとしたフィールドは随分と広く見える。
月面重力の設定になっているようで、少し歩きにくい。
アスタリスクがIDカードをスリットに通すと、壁からコンテナがせり出した。そこにずらりと並んだ器械をひとつ取り出し、一同に示す。
「これが『小型飛行翼アーマー「プロト・イカロス」』です」
そう言うと、アスタリスクは背中をあてて屈みこみ、何箇所かのベルトを締めた。機械鎧を纏ったような状態だ。
それから足に力を込めて、立ちあがろうとして……ずるりと足を滑らせる。
「す、すみません。動くのに若干のコツがありまして……」
困ったような微笑を浮かべ、再チャレンジ。今度はちゃんと立った。
「あまり格好良くはないと思いますが、ご覧ください」
一同がいる場所のそばには踏切台らしきものがあり、そこからは砂地の地面までおよそ10mほどの落差がある。
アスタリスクがボタンを操作すると、「プロト・イカロス」の両脇に伸びたアームに、ゆらりと淡い光が灯る。まるで透ける鳥の翼のようだ。
そのままアスタリスクが軽く地面を蹴る。
特に力を入れたようには見えず、普通であればそのまま落下するはずだったが……彼の身体は光の尾を引いて宙を滑るように移動したのだ。
「既にここまで完成しているのですか!」
メリンダが驚きの声を上げると、アスタリスクは軽く手を振って見せた。
「はい。ですが、色々と問題、がっ……!!」
そのままアスタリスクの姿が皆の視界から消え、段差の下から何か重い物が地面に落ちる音が聞こえた。
●
「というわけで、形は一応整ったのですが。月面の重力下でこの状態ですから、1Gではまともに使うことは難しいでしょうね」
額に大きな絆創膏を張り付け、アスタリスクはやっぱり愛想良く笑っていた。
「まだまだ改良点が多い。そこで皆様のご協力が必要なのです」
改めて「プロト・イカロス」が持ちだされる。
基本構造はCAM用のフライトパックと大差ない。
化石燃料を燃焼させる方式で推進力を得て、短時間ながら空中戦が可能になる装備品だ。
ただ、追加パーツとして取り付け可能なCAMと違い、生身の体は色々と勝手が違う。
人間の身体は飛ぶようにできていないし、CAMのように姿勢制御できるわけではないからだ。
そして何より、人間を飛ばせるだけの出力を持つエンジンは、背負うには余りにも大きく重かった。
無重力下から始まり、月面基地での実験を経て、どうにか強化人間なら背負える程度まで仕上がったのが現状だという。
「技術者は、CAM用フライトパックのように覚醒者の生体マテリアルを利用する形なら、もう少しコンパクトになるのではないか、と言っています。ですが……」
ほんの一瞬、アスタリスクの滑らかな微笑に、陰りがよぎったのは気のせいか。
「我々使う側の技量が不足している可能性も否めません」
――あるいは、クリムゾンウェストのハンターなら現状でももう少しうまく扱えるのではないか?
仮にそうでなくても、もし改良のヒントを得られれば、完成品を供給してもよい。
それが統一地球連合軍からの打診だった。
「如何でしょう。ご協力いただけますか」
集まったハンター達に否はなかった。
はるか遠い昔から、そう望む者は多かった。
人間は飛行機を作り、ロケットを作り、今や宇宙空間にまで飛び立つことができるようになった。
だが、鳥のように飛びたい――その想いはいまだ遠い。
●
リアルブルー、統一地球連合軍月面崑崙基地。
クリムゾンウェストとの交流拠点の一つとなっているこの場所に、ハンターの一団が到着した。
「ようこそ、崑崙基地へ!」
軍用コートを身につけた赤毛の男が愛想良く出迎える。強化人間のアスタリスク(kz0234)だ。
ハンター達や、共に同行した同盟軍のメリンダ・ドナーティ(kz0041)と礼儀正しく握手を交わす。
「ドナーティ中尉もご一緒でしたか」
「ええ、相変わらずのメッセンジャーですわ」
メリンダは完璧な営業スマイルで応じた。
「わが軍としても今回のお話は興味深いものです。できる限りご協力したい、と考えております」
――まあ実際のところ、野次馬根性と思われても仕方がないわね。
内心では眉間にしわを寄せるメリンダである。
だがアスタリスクも相変わらず感じのよい笑顔を浮かべている。
「なるほど、それは頼もしい限りです。正直なところ、我々だけではこれ以上の……ああ、詳しい話は実物をご覧いただいてからにしましょう。早速ですが、こちらへどうぞ」
アスタリスクは軍人らしいきびきびした動きで、一同を移動用の車輛へと促した。
到着した先は、以前『超人運動会』なるものが開催されたドームだった。
今は祭の片づけも済んでいて、がらんとしたフィールドは随分と広く見える。
月面重力の設定になっているようで、少し歩きにくい。
アスタリスクがIDカードをスリットに通すと、壁からコンテナがせり出した。そこにずらりと並んだ器械をひとつ取り出し、一同に示す。
「これが『小型飛行翼アーマー「プロト・イカロス」』です」
そう言うと、アスタリスクは背中をあてて屈みこみ、何箇所かのベルトを締めた。機械鎧を纏ったような状態だ。
それから足に力を込めて、立ちあがろうとして……ずるりと足を滑らせる。
「す、すみません。動くのに若干のコツがありまして……」
困ったような微笑を浮かべ、再チャレンジ。今度はちゃんと立った。
「あまり格好良くはないと思いますが、ご覧ください」
一同がいる場所のそばには踏切台らしきものがあり、そこからは砂地の地面までおよそ10mほどの落差がある。
アスタリスクがボタンを操作すると、「プロト・イカロス」の両脇に伸びたアームに、ゆらりと淡い光が灯る。まるで透ける鳥の翼のようだ。
そのままアスタリスクが軽く地面を蹴る。
特に力を入れたようには見えず、普通であればそのまま落下するはずだったが……彼の身体は光の尾を引いて宙を滑るように移動したのだ。
「既にここまで完成しているのですか!」
メリンダが驚きの声を上げると、アスタリスクは軽く手を振って見せた。
「はい。ですが、色々と問題、がっ……!!」
そのままアスタリスクの姿が皆の視界から消え、段差の下から何か重い物が地面に落ちる音が聞こえた。
●
「というわけで、形は一応整ったのですが。月面の重力下でこの状態ですから、1Gではまともに使うことは難しいでしょうね」
額に大きな絆創膏を張り付け、アスタリスクはやっぱり愛想良く笑っていた。
「まだまだ改良点が多い。そこで皆様のご協力が必要なのです」
改めて「プロト・イカロス」が持ちだされる。
基本構造はCAM用のフライトパックと大差ない。
化石燃料を燃焼させる方式で推進力を得て、短時間ながら空中戦が可能になる装備品だ。
ただ、追加パーツとして取り付け可能なCAMと違い、生身の体は色々と勝手が違う。
人間の身体は飛ぶようにできていないし、CAMのように姿勢制御できるわけではないからだ。
そして何より、人間を飛ばせるだけの出力を持つエンジンは、背負うには余りにも大きく重かった。
無重力下から始まり、月面基地での実験を経て、どうにか強化人間なら背負える程度まで仕上がったのが現状だという。
「技術者は、CAM用フライトパックのように覚醒者の生体マテリアルを利用する形なら、もう少しコンパクトになるのではないか、と言っています。ですが……」
ほんの一瞬、アスタリスクの滑らかな微笑に、陰りがよぎったのは気のせいか。
「我々使う側の技量が不足している可能性も否めません」
――あるいは、クリムゾンウェストのハンターなら現状でももう少しうまく扱えるのではないか?
仮にそうでなくても、もし改良のヒントを得られれば、完成品を供給してもよい。
それが統一地球連合軍からの打診だった。
「如何でしょう。ご協力いただけますか」
集まったハンター達に否はなかった。
リプレイ本文
●
瀬崎・統夜(ka5046)がアスタリスクに右手を差し出した。
「瀬崎・統夜だ。よろしくな」
「よろしくお願いします。瀬崎さんはこちらのご出身ですね?」
「まあそんなところだ。……イカロス、か。なかなかアグレッシブな命名じゃないか」
統夜が軽く肩をすくめた。
「イカロスって……あれよね?」
天王寺茜(ka4080)は小首を傾げる。
(最後は墜落しちゃう話だったような……空を飛ぶ機械の名前に良いのかなあ?)
統夜は茜の考えを察して頷いた。
「挑戦者にあやかっての命名だろう。嫌いではないけれどな」
「そうですね。……注意事項を守ってねってことかも?」
茜もせいぜい好意的に解釈することにした。
ミグ・ロマイヤー(ka0665)もまた空への挑戦者だった。
「ふははは、空を飛ぶための実験ならこの『空を征した』ミグにすべて任せるがいいのじゃ」
独自に空を飛ぶ研究を進めてきたミグにとって、この依頼はまさに自分のために用意されたようなもの。この日をどれだけ待ったことか!
……いや正確には既にCAMで飛んだり跳ねたり踊ったり怒られたりとひと通り経験済みだが、生身で飛ぶのはまた違ったロマンがある。
「早速見せてもらっても構わぬかえ?」
マシーンガントレットの指をわきわきさせて、キラキラ輝く目でアスタリスクを見つめた。
「どうぞ。こちらです」
アスタリスクは自分の背負っていた「プロト・イカロス」を作業台の上に下ろす。
待ち切れずに大きく身を乗り出したのは、ウーナ(ka1439)だ。
「おーっ、かっこいい! こういうの欲しかったんだよね!」
本来はCAM乗りだが、やはり自力で飛べるなら試してみたい。まずは持ち上げてみた。
「む、やっぱり結構重いかな」
ミグはウーナが持ちあげた状態をぐるりと見渡す。
「設計図なども見たいな。それと中を見たいのぅ」
出力の調整に問題があると踏んでいるミグだが、内部を見られるなら確認しておきたい。
アスタリスクは頷き、作業台のコントロールパネルを操作する。
「正に命を預けていただく訳ですしね」
モニターに設計図が表示された。
「なるほど。CAM用のフライトパックをそのまま小型にしたという具合じゃな」
ミグの見る限り、それほど特殊な構造ではなかった。
ウーナが持参したCAMのオファニムタイプ『Re:AZ-L』を示す。
「じゃあ姿勢制御については参考になるんじゃないかな?」
フライトユニットを背中と下半身に装備している。
「CAMでもこうだもの。人間はより軽いから、背中に偏るとバランスが崩れちゃうんじゃないかなぁ。できれば推力を分散させた方が動きやすいと思うよ」
そして魔導スマートホンでお気に入りの画像を見せる。
「ほら、こんな感じで!」
アニメの美少女が、かっこいいパワードスーツを装着していた。
アスタリスクは頷き、その案があったことを話す。
「残念ながら個人の体格に合わせた専用品となりますので、コスト面で却下となりました」
「えーそうなの? 残念!!」
メリンダは少し離れてその様子を見ていた。
(随分と簡単に見せてくれるのね)
そこでふと、子犬のように覗き込んでくるノワ(ka3572)の瞳に気付いた。
「お久しぶりです、メリンダさん♪」
メリンダはすぐに表情を緩める。
「こんにちは。ノワさんは近くで見なくていいんですか?」
「私は技術面では専門外なので、あまりお力になれないと思います」
ノワは人懐こい笑みで僅かに首を傾げる。
「なので今回は、医療班として尽力させていただきます。それでも空を飛ぶお手伝いだなんて、とっても素敵ですね!」
できれば怪我人が出ないのが一番だが、万一の事態にはノワの本来の仕事が役に立つ。
「ええ、そうですね。私も……」
言いかけたメリンダの両手を、ぐっとノワが握りしめた。
「『メリンダさん改造計画』がここまで進んでいたなんて凄いです! これが成功したら次は腕からミサイルですか!?」
「どこからそういう話になったんですか?」
メリンダの笑顔が若干強張っている。
「違うんですか? メリンダさんがびゅんびゅん飛びながら大活躍、すごく楽しみです!」
「……それでメリンダさんが昇進できるなら……」
シバ・ミラージュ(ka2094)が意味ありげにメリンダを見据えていた。
「まって。リアルブルーでもそんなの無理だって言ってましたよね!?」
メリンダは、このふたりがどこまで本気なのか冗談なのかいつも迷う。おそらくは「いつでも本気」なのだった。
●
チェックを終えると、早速飛んでみようということになる。
茜とノワは救護班だ。
「えーと、怪我の治療は任せてください! でも出来れば皆さん安全に……」
「きみ達の仕事を増やさないよう、なるべく気をつけるとするよ」
シェラリンデ(ka3332)は茜に微笑みかけた。
「とはいえ空を飛べるなら、高い位置からいろいろな景色を見てみたくなるね?」
重い装備を担ぎ、深呼吸する。
ドームの天井はかなり高い。よほど無茶をしない限り、ぶつけて壊すことはなさそうだ。
「一応確認だけど。天井にぶつかっても空気は大丈夫なのかな?」
アスタリスクがモニターに建物断面図を映す。
「外縁部はこれだけの層になっていますから、まず問題ありません」
「ではリアルにお空の星になることはなさそうですね」
シバが大真面目に呟く。
「比喩的にお空の星になることはあるかもしれませんが」
「ははは。天井にぶつかったら、記念にお名前を刻んだプレートで補強しましょう」
「天井の星ですね。アスタリスクさんの名前はどの辺りに?」
「すみません、自分は思い切りが足りなくて、まだ天井まで到達したことがないんです」
……こいつらはどこまで本気で会話してるのか。
メリンダはひっそりとこめかみを押さえた。
シバはその間に涼しい顔で機体を背負い、足元には拾ってきたひと抱え程の石を置いている。
「シバさんは失礼ですが、華奢なのに力持ちですね」
アスタリスクが感嘆の声を上げた。
「ありがとうございます。ありのままのイカくんを使いこなしてあげたいのです。扱いにくいということは、敵に奪われても直ちには脅威になり辛いということですよね」
ポジティブシンキングにも程がある。
だがその考えに、ルベーノ・バルバライン(ka6752)も賛同する。
「その通りだ!」
筋骨隆々の身体には、「プロト・イカロス」も全く重そうに見えない。
「何故これの軽量化を目指す、何故こんなもので安全に飛ぼうなどと考える? 剥き身に近い状態で安全性など謳うなら、俺は鼻で嗤うぞ?」
ルベーノはベルトを締め直しながら、一同を見回した。
「これはな、兵士を決戦兵器にするものだ。突入後、落下後に再利用できる作りになっていないだろう? 一回切りの装備なら、それ相応の使い方というものがある……特攻だ」
これは核心をついている。
勿論、飛行中に無防備な状態ではまずいのだが、基本的には移動のための装備品だ。
「初動後如何に早くトップスピードを持っていけるか、中の人間がギリギリ生き延びられる程度に爆散するかで、これは戦地へ強者を送り届ける最速最凶の兵器となりうる……」
「いや、安全に着地し、万全の態勢で戦闘が開始できないと困るが?」
統夜が冷静に指摘した。
「そもそも爆散では、目立ち過ぎて潜入工作にならないだろう」
ルベーノもその点については同意した。
「まあ、その点は認めよう。だがどの道、この兵器の能力を十全に引き出せるのは、格闘士と霊闘士だけだろうな、はっはっは!」
高らかに笑うと、ルベーノは早速踏切台へ。
「お前たち……衝撃を舐めているだろう?」
振りむいて、憐れむように微笑むルベーノ。顔に『そんなスキルで大丈夫か?』と書いてある。
「行くぞ!!」
機体から伸びたアームに、ゆらりと淡い光が灯る。
と思う間に、躊躇うことなくルベーノは出力全開で飛び出した。
これにはさすがのアスタリスクも青ざめる。
「無茶だ!!」
ルベーノの身体は速度を増しながら、真っ直ぐ天井へと突き進む。
「無茶ではない! 強化人間というからには、お前たちも何事かを強化したのだろう?」
ルベーノが高らかに吠える。
「常人が覚醒者を目指し強化の方向を進めるなら、使用兵器をこういう方向に進化させてもいいということだ。結局何が言いたいのかというならな……兵器の使い方を唯一に定めるのも、強化を同じ方向にしか行わんのも、つまらんという……」
声は天井から響く衝撃音にかき消された。
「うそ……本当にぶつかったの?」
茜が呆然と見上げる。
「天井の強度は問題ないみたいだね」
シェラリンデが頷く。が、問題はそこだけじゃない。アスタリスクが飛びだした。
「なんということだ!!」
本番に強いタイプなのか、最初よりもスムーズに飛んで行った。
目指す先は、ルベーノの落下地点だ。
「くっ、協力者に負傷させる訳には……!」
アスタリスクが落下予測地点に自らの身体を滑り込ませる。
が、ルベーノは、それより早く地面に到達。
どーん!!
衝撃音にアスタリスクが思わず息をのむ。
地面に突き立ったルベーノの姿はまさに人間砲弾という体であるが、身体を折り曲げると地面から頭を抜き出し、血まみれで豪快に笑った。
「これが『金剛不壊』の力! そしてこれが『自己治癒』の力だ!!」
光がルベーノの全身を包み込み、瀕死状態を自己回復。
「なるほど……参考に……なりません」
がくり。
アスタリスクが地面に伏せた。
救急セットを持ったノワが駆け付ける。
「すごいです! ルベーノさんを量産すれば完璧ですね! アスタリスクさんはどこか痛いですか? さっきのおでこも治療しましょうか?」
アスタリスクは片手を上げて、大丈夫だと無言で応える。
(ハンターとやらは予想以上かもしれない……)
能力と脳筋力の両方の意味においてである。
●
ふたりが無事であることを確認し、参加者はテストを再開する。
ミグが機導師の技を使い、難なく装備を身につける。
「ふむ。今回は誰でも使える方法を編み出すのが本筋というものであろうのぅ」
踏み切り台を蹴り、最大出力で飛び出すと、姿勢制御用のノズルを調整し姿勢を保つ。
「よしよし、よい子じゃ。さて、着地はどのようなものか」
ウーナも飛び出した。
「CAMとの違いは飛べばわかると思うんだよね!」
そして違いは、一瞬で判明した。
「あー、ユニット用スキルが役に立たないんだ!!」
生身の身体で風を切る心地よさは格別だったが、ウーナの身体は落下寸前というスピードで下降する。
「ていうか! これ、固定方式がベルトっていうのもきついって!!」
身体を支えるベルトが食い込み、ベルトが当たるのを避けた胸や尻がいやがうえにも強調されてしまう。
「ここは改良必要でしょ、絶対に!」
着地位置のマットの上に転がったウーナの訴えは切実だった。
シェラリンデは出発地点で装備を身につけ、抑えた出力で試してみる。
「この状態でも前に進む感じはありますね」
地面に足をつけた状態で感覚を掴む。身体が傾くと、とたんにバランスが崩れそうだ。空中では姿勢を保つのは難しいだろう。
「このアームから出てる光ってマテリアルですか?」
シェラリンデの後方で茜が尋ねる。アスタリスクは設計図の装着時に背中に接する部分を示した。
「いえ、ジェットエンジンのアフターバーナーと同じです。化石燃料であることが、重量がかさむ原因のひとつですね。エンジンが高温になりますので、排熱機構が必要になるのです」
「そこが変えられないのかな……とにかく今はこっちを試してみますね」
茜はジェットブーツを着用し、更に「プロト・イカロス」を背負う。
「うっ……重い」
そのままよろよろと進み出ると、コントローラーを操作し飛び出した。
「わととっ。あ、飛んでる!! 飛んでー……ひゃあ!」
中空で大きくバランスを崩し、着地目標に激突するかと思った瞬間、ジェットブーツの推進力でどうにか足を振り上げてお尻から着地することに成功した。
「いった……! ジェットブーツの加減は、感覚任せになるかなあ……」
シェラリンデは茜の着陸を見届けて飛んだ。
と見えて、ほぼ地面すれすれまで降りて行き、出力を絞りながら僅かに浮いた状態を保つ。
それから「壁歩き」でそろそろと動いてみた。
「……壁があるなら、合わせ技で使えるかもしれないけど」
素早い動きは難しそうだ。
シバは足元に漬物石をくくりつけている。統夜がまじまじと見つめた。
「それで飛ぶのか?」
「重心を低くすれば姿勢も安定すると思うんです。イカくん、頑張れ!!」
漬物石をぶら下げたままシバが踏み切る。
「落ちても危険のない高さなら……」
低空でバランスを確認した後、高度を上げるつもりだ。
だが一瞬の推進力を得て滑空するタイプの装備品である。シバと漬物石を持ちあげるようにはできていない。
「と、と、と」
漬物石を地面に引き摺りながら、シバの身体は微妙に浮いていた。
が、すぐに時間切れとなる。
シバはストーンアーマーで身を守りながら地面に激突した。漬物石に激突しなかったのは不幸中の幸いだ。
「ひゃー、大丈夫ですか!?」
駆けつけたノワに、正座の姿勢で頭を下げるシバ。
「お手数をおかけします」
足に石がついているので、なんだか昔の囚人のようである。
「無茶をする奴だな」
呆れつつも、発想自体は悪くないと思う統夜。
「実際は素手という訳にもいかないだろう。となると、一層重心がずれるはずだからな」
統夜は「プロト・イカロス」を装着した後に銃を構え、そのまま飛び出す。
着地地点の近くの崖をめがけて狙いを定めるが、ベルトで動きを制限される上に姿勢が安定せず、狙いが定まらない。
「思った以上に、バランスが悪い! こいつは狙われたときに避けるのも大変だな」
目標に近づきつつ、統夜は身体を水平に保つ。着地しやすくするためだ。
滑り込むように目的地に到達し、すぐに立ち上がった。が、背中の重さに思わず膝をつく。
「くっ……月面でこれか。さすがにきついな」
ひと通りの実験を終えて、出発地点に全員が集まった。
「如何ですか」
アスタリスクが促すと、シェラリンデが口を開く。
「使用者が下手に動かない方がよさそうだね。いや、いっそのことアームを増やして可動翼をつけるとか。それなら方向転換も可能だね。あるいは重さを犠牲にして姿勢制御用のスラスターを追加するか……」
「着地時に自動制御のジェット噴射を使う形式だな」
統夜もシェラリンデの考えに賛同する。
どうせ重くて動きにくいなら、動くことを考えず、「飛ぶ」ことに特化する案だ。
「どっちみち今のままでは実戦で使えんからな」
「すると今度は飛行時間と距離が問題になりますね」
アスタリスクがタブレットに指を滑らせる。
「少なくとも急襲時はその点に目をつぶるしかないかな」
シェラリンデは脳内でCAMが飛ぶ姿を思い浮かべた。そう、CAMのフライトパックも万能ではない。
「あるいは逆に、今のままでパラシュートとセットにするとかね」
「あんまり欲張ると、それこそイカロスになっちゃいますしね」
茜はジェットブーツでの結果について報告する。
「急襲目的なら使用回数を1回と考えれば、燃料スペースも削減できるかも?」
「その上で訓練を積むことじゃのぅ。ミグのデータはここに保管してある、参考にするとよいぞえ」
余裕の表情でメモリーを渡すミグだが、実はこっそりお尻が痛い。さすがのミグも着地には苦労したようだ。
「皆様有難うございます。完成後はクリムゾンウェストにも供給できるようになるでしょう」
アスタリスクは報告に満足そうだ。
「とはいえ、1G下では更に問題が多そうですが」
「俺は今のままで問題ないぞ!」
ルベーノが誇らしげに笑った。まあそれはそうなのだが。
「……化石燃料以外の可能性があるとしたら?」
メリンダの言葉に、一同の視線が集まる。
「私に少し心当たりがあります」
メリンダは試作品を1台、同盟軍に持ちかえらせてくれるよう頼むのだった。
<続>
瀬崎・統夜(ka5046)がアスタリスクに右手を差し出した。
「瀬崎・統夜だ。よろしくな」
「よろしくお願いします。瀬崎さんはこちらのご出身ですね?」
「まあそんなところだ。……イカロス、か。なかなかアグレッシブな命名じゃないか」
統夜が軽く肩をすくめた。
「イカロスって……あれよね?」
天王寺茜(ka4080)は小首を傾げる。
(最後は墜落しちゃう話だったような……空を飛ぶ機械の名前に良いのかなあ?)
統夜は茜の考えを察して頷いた。
「挑戦者にあやかっての命名だろう。嫌いではないけれどな」
「そうですね。……注意事項を守ってねってことかも?」
茜もせいぜい好意的に解釈することにした。
ミグ・ロマイヤー(ka0665)もまた空への挑戦者だった。
「ふははは、空を飛ぶための実験ならこの『空を征した』ミグにすべて任せるがいいのじゃ」
独自に空を飛ぶ研究を進めてきたミグにとって、この依頼はまさに自分のために用意されたようなもの。この日をどれだけ待ったことか!
……いや正確には既にCAMで飛んだり跳ねたり踊ったり怒られたりとひと通り経験済みだが、生身で飛ぶのはまた違ったロマンがある。
「早速見せてもらっても構わぬかえ?」
マシーンガントレットの指をわきわきさせて、キラキラ輝く目でアスタリスクを見つめた。
「どうぞ。こちらです」
アスタリスクは自分の背負っていた「プロト・イカロス」を作業台の上に下ろす。
待ち切れずに大きく身を乗り出したのは、ウーナ(ka1439)だ。
「おーっ、かっこいい! こういうの欲しかったんだよね!」
本来はCAM乗りだが、やはり自力で飛べるなら試してみたい。まずは持ち上げてみた。
「む、やっぱり結構重いかな」
ミグはウーナが持ちあげた状態をぐるりと見渡す。
「設計図なども見たいな。それと中を見たいのぅ」
出力の調整に問題があると踏んでいるミグだが、内部を見られるなら確認しておきたい。
アスタリスクは頷き、作業台のコントロールパネルを操作する。
「正に命を預けていただく訳ですしね」
モニターに設計図が表示された。
「なるほど。CAM用のフライトパックをそのまま小型にしたという具合じゃな」
ミグの見る限り、それほど特殊な構造ではなかった。
ウーナが持参したCAMのオファニムタイプ『Re:AZ-L』を示す。
「じゃあ姿勢制御については参考になるんじゃないかな?」
フライトユニットを背中と下半身に装備している。
「CAMでもこうだもの。人間はより軽いから、背中に偏るとバランスが崩れちゃうんじゃないかなぁ。できれば推力を分散させた方が動きやすいと思うよ」
そして魔導スマートホンでお気に入りの画像を見せる。
「ほら、こんな感じで!」
アニメの美少女が、かっこいいパワードスーツを装着していた。
アスタリスクは頷き、その案があったことを話す。
「残念ながら個人の体格に合わせた専用品となりますので、コスト面で却下となりました」
「えーそうなの? 残念!!」
メリンダは少し離れてその様子を見ていた。
(随分と簡単に見せてくれるのね)
そこでふと、子犬のように覗き込んでくるノワ(ka3572)の瞳に気付いた。
「お久しぶりです、メリンダさん♪」
メリンダはすぐに表情を緩める。
「こんにちは。ノワさんは近くで見なくていいんですか?」
「私は技術面では専門外なので、あまりお力になれないと思います」
ノワは人懐こい笑みで僅かに首を傾げる。
「なので今回は、医療班として尽力させていただきます。それでも空を飛ぶお手伝いだなんて、とっても素敵ですね!」
できれば怪我人が出ないのが一番だが、万一の事態にはノワの本来の仕事が役に立つ。
「ええ、そうですね。私も……」
言いかけたメリンダの両手を、ぐっとノワが握りしめた。
「『メリンダさん改造計画』がここまで進んでいたなんて凄いです! これが成功したら次は腕からミサイルですか!?」
「どこからそういう話になったんですか?」
メリンダの笑顔が若干強張っている。
「違うんですか? メリンダさんがびゅんびゅん飛びながら大活躍、すごく楽しみです!」
「……それでメリンダさんが昇進できるなら……」
シバ・ミラージュ(ka2094)が意味ありげにメリンダを見据えていた。
「まって。リアルブルーでもそんなの無理だって言ってましたよね!?」
メリンダは、このふたりがどこまで本気なのか冗談なのかいつも迷う。おそらくは「いつでも本気」なのだった。
●
チェックを終えると、早速飛んでみようということになる。
茜とノワは救護班だ。
「えーと、怪我の治療は任せてください! でも出来れば皆さん安全に……」
「きみ達の仕事を増やさないよう、なるべく気をつけるとするよ」
シェラリンデ(ka3332)は茜に微笑みかけた。
「とはいえ空を飛べるなら、高い位置からいろいろな景色を見てみたくなるね?」
重い装備を担ぎ、深呼吸する。
ドームの天井はかなり高い。よほど無茶をしない限り、ぶつけて壊すことはなさそうだ。
「一応確認だけど。天井にぶつかっても空気は大丈夫なのかな?」
アスタリスクがモニターに建物断面図を映す。
「外縁部はこれだけの層になっていますから、まず問題ありません」
「ではリアルにお空の星になることはなさそうですね」
シバが大真面目に呟く。
「比喩的にお空の星になることはあるかもしれませんが」
「ははは。天井にぶつかったら、記念にお名前を刻んだプレートで補強しましょう」
「天井の星ですね。アスタリスクさんの名前はどの辺りに?」
「すみません、自分は思い切りが足りなくて、まだ天井まで到達したことがないんです」
……こいつらはどこまで本気で会話してるのか。
メリンダはひっそりとこめかみを押さえた。
シバはその間に涼しい顔で機体を背負い、足元には拾ってきたひと抱え程の石を置いている。
「シバさんは失礼ですが、華奢なのに力持ちですね」
アスタリスクが感嘆の声を上げた。
「ありがとうございます。ありのままのイカくんを使いこなしてあげたいのです。扱いにくいということは、敵に奪われても直ちには脅威になり辛いということですよね」
ポジティブシンキングにも程がある。
だがその考えに、ルベーノ・バルバライン(ka6752)も賛同する。
「その通りだ!」
筋骨隆々の身体には、「プロト・イカロス」も全く重そうに見えない。
「何故これの軽量化を目指す、何故こんなもので安全に飛ぼうなどと考える? 剥き身に近い状態で安全性など謳うなら、俺は鼻で嗤うぞ?」
ルベーノはベルトを締め直しながら、一同を見回した。
「これはな、兵士を決戦兵器にするものだ。突入後、落下後に再利用できる作りになっていないだろう? 一回切りの装備なら、それ相応の使い方というものがある……特攻だ」
これは核心をついている。
勿論、飛行中に無防備な状態ではまずいのだが、基本的には移動のための装備品だ。
「初動後如何に早くトップスピードを持っていけるか、中の人間がギリギリ生き延びられる程度に爆散するかで、これは戦地へ強者を送り届ける最速最凶の兵器となりうる……」
「いや、安全に着地し、万全の態勢で戦闘が開始できないと困るが?」
統夜が冷静に指摘した。
「そもそも爆散では、目立ち過ぎて潜入工作にならないだろう」
ルベーノもその点については同意した。
「まあ、その点は認めよう。だがどの道、この兵器の能力を十全に引き出せるのは、格闘士と霊闘士だけだろうな、はっはっは!」
高らかに笑うと、ルベーノは早速踏切台へ。
「お前たち……衝撃を舐めているだろう?」
振りむいて、憐れむように微笑むルベーノ。顔に『そんなスキルで大丈夫か?』と書いてある。
「行くぞ!!」
機体から伸びたアームに、ゆらりと淡い光が灯る。
と思う間に、躊躇うことなくルベーノは出力全開で飛び出した。
これにはさすがのアスタリスクも青ざめる。
「無茶だ!!」
ルベーノの身体は速度を増しながら、真っ直ぐ天井へと突き進む。
「無茶ではない! 強化人間というからには、お前たちも何事かを強化したのだろう?」
ルベーノが高らかに吠える。
「常人が覚醒者を目指し強化の方向を進めるなら、使用兵器をこういう方向に進化させてもいいということだ。結局何が言いたいのかというならな……兵器の使い方を唯一に定めるのも、強化を同じ方向にしか行わんのも、つまらんという……」
声は天井から響く衝撃音にかき消された。
「うそ……本当にぶつかったの?」
茜が呆然と見上げる。
「天井の強度は問題ないみたいだね」
シェラリンデが頷く。が、問題はそこだけじゃない。アスタリスクが飛びだした。
「なんということだ!!」
本番に強いタイプなのか、最初よりもスムーズに飛んで行った。
目指す先は、ルベーノの落下地点だ。
「くっ、協力者に負傷させる訳には……!」
アスタリスクが落下予測地点に自らの身体を滑り込ませる。
が、ルベーノは、それより早く地面に到達。
どーん!!
衝撃音にアスタリスクが思わず息をのむ。
地面に突き立ったルベーノの姿はまさに人間砲弾という体であるが、身体を折り曲げると地面から頭を抜き出し、血まみれで豪快に笑った。
「これが『金剛不壊』の力! そしてこれが『自己治癒』の力だ!!」
光がルベーノの全身を包み込み、瀕死状態を自己回復。
「なるほど……参考に……なりません」
がくり。
アスタリスクが地面に伏せた。
救急セットを持ったノワが駆け付ける。
「すごいです! ルベーノさんを量産すれば完璧ですね! アスタリスクさんはどこか痛いですか? さっきのおでこも治療しましょうか?」
アスタリスクは片手を上げて、大丈夫だと無言で応える。
(ハンターとやらは予想以上かもしれない……)
能力と脳筋力の両方の意味においてである。
●
ふたりが無事であることを確認し、参加者はテストを再開する。
ミグが機導師の技を使い、難なく装備を身につける。
「ふむ。今回は誰でも使える方法を編み出すのが本筋というものであろうのぅ」
踏み切り台を蹴り、最大出力で飛び出すと、姿勢制御用のノズルを調整し姿勢を保つ。
「よしよし、よい子じゃ。さて、着地はどのようなものか」
ウーナも飛び出した。
「CAMとの違いは飛べばわかると思うんだよね!」
そして違いは、一瞬で判明した。
「あー、ユニット用スキルが役に立たないんだ!!」
生身の身体で風を切る心地よさは格別だったが、ウーナの身体は落下寸前というスピードで下降する。
「ていうか! これ、固定方式がベルトっていうのもきついって!!」
身体を支えるベルトが食い込み、ベルトが当たるのを避けた胸や尻がいやがうえにも強調されてしまう。
「ここは改良必要でしょ、絶対に!」
着地位置のマットの上に転がったウーナの訴えは切実だった。
シェラリンデは出発地点で装備を身につけ、抑えた出力で試してみる。
「この状態でも前に進む感じはありますね」
地面に足をつけた状態で感覚を掴む。身体が傾くと、とたんにバランスが崩れそうだ。空中では姿勢を保つのは難しいだろう。
「このアームから出てる光ってマテリアルですか?」
シェラリンデの後方で茜が尋ねる。アスタリスクは設計図の装着時に背中に接する部分を示した。
「いえ、ジェットエンジンのアフターバーナーと同じです。化石燃料であることが、重量がかさむ原因のひとつですね。エンジンが高温になりますので、排熱機構が必要になるのです」
「そこが変えられないのかな……とにかく今はこっちを試してみますね」
茜はジェットブーツを着用し、更に「プロト・イカロス」を背負う。
「うっ……重い」
そのままよろよろと進み出ると、コントローラーを操作し飛び出した。
「わととっ。あ、飛んでる!! 飛んでー……ひゃあ!」
中空で大きくバランスを崩し、着地目標に激突するかと思った瞬間、ジェットブーツの推進力でどうにか足を振り上げてお尻から着地することに成功した。
「いった……! ジェットブーツの加減は、感覚任せになるかなあ……」
シェラリンデは茜の着陸を見届けて飛んだ。
と見えて、ほぼ地面すれすれまで降りて行き、出力を絞りながら僅かに浮いた状態を保つ。
それから「壁歩き」でそろそろと動いてみた。
「……壁があるなら、合わせ技で使えるかもしれないけど」
素早い動きは難しそうだ。
シバは足元に漬物石をくくりつけている。統夜がまじまじと見つめた。
「それで飛ぶのか?」
「重心を低くすれば姿勢も安定すると思うんです。イカくん、頑張れ!!」
漬物石をぶら下げたままシバが踏み切る。
「落ちても危険のない高さなら……」
低空でバランスを確認した後、高度を上げるつもりだ。
だが一瞬の推進力を得て滑空するタイプの装備品である。シバと漬物石を持ちあげるようにはできていない。
「と、と、と」
漬物石を地面に引き摺りながら、シバの身体は微妙に浮いていた。
が、すぐに時間切れとなる。
シバはストーンアーマーで身を守りながら地面に激突した。漬物石に激突しなかったのは不幸中の幸いだ。
「ひゃー、大丈夫ですか!?」
駆けつけたノワに、正座の姿勢で頭を下げるシバ。
「お手数をおかけします」
足に石がついているので、なんだか昔の囚人のようである。
「無茶をする奴だな」
呆れつつも、発想自体は悪くないと思う統夜。
「実際は素手という訳にもいかないだろう。となると、一層重心がずれるはずだからな」
統夜は「プロト・イカロス」を装着した後に銃を構え、そのまま飛び出す。
着地地点の近くの崖をめがけて狙いを定めるが、ベルトで動きを制限される上に姿勢が安定せず、狙いが定まらない。
「思った以上に、バランスが悪い! こいつは狙われたときに避けるのも大変だな」
目標に近づきつつ、統夜は身体を水平に保つ。着地しやすくするためだ。
滑り込むように目的地に到達し、すぐに立ち上がった。が、背中の重さに思わず膝をつく。
「くっ……月面でこれか。さすがにきついな」
ひと通りの実験を終えて、出発地点に全員が集まった。
「如何ですか」
アスタリスクが促すと、シェラリンデが口を開く。
「使用者が下手に動かない方がよさそうだね。いや、いっそのことアームを増やして可動翼をつけるとか。それなら方向転換も可能だね。あるいは重さを犠牲にして姿勢制御用のスラスターを追加するか……」
「着地時に自動制御のジェット噴射を使う形式だな」
統夜もシェラリンデの考えに賛同する。
どうせ重くて動きにくいなら、動くことを考えず、「飛ぶ」ことに特化する案だ。
「どっちみち今のままでは実戦で使えんからな」
「すると今度は飛行時間と距離が問題になりますね」
アスタリスクがタブレットに指を滑らせる。
「少なくとも急襲時はその点に目をつぶるしかないかな」
シェラリンデは脳内でCAMが飛ぶ姿を思い浮かべた。そう、CAMのフライトパックも万能ではない。
「あるいは逆に、今のままでパラシュートとセットにするとかね」
「あんまり欲張ると、それこそイカロスになっちゃいますしね」
茜はジェットブーツでの結果について報告する。
「急襲目的なら使用回数を1回と考えれば、燃料スペースも削減できるかも?」
「その上で訓練を積むことじゃのぅ。ミグのデータはここに保管してある、参考にするとよいぞえ」
余裕の表情でメモリーを渡すミグだが、実はこっそりお尻が痛い。さすがのミグも着地には苦労したようだ。
「皆様有難うございます。完成後はクリムゾンウェストにも供給できるようになるでしょう」
アスタリスクは報告に満足そうだ。
「とはいえ、1G下では更に問題が多そうですが」
「俺は今のままで問題ないぞ!」
ルベーノが誇らしげに笑った。まあそれはそうなのだが。
「……化石燃料以外の可能性があるとしたら?」
メリンダの言葉に、一同の視線が集まる。
「私に少し心当たりがあります」
メリンダは試作品を1台、同盟軍に持ちかえらせてくれるよう頼むのだった。
<続>
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/04 20:22:45 |
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相談卓 シェラリンデ(ka3332) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/12/07 22:41:21 |