ゲスト
(ka0000)
巨大生物雑魔と彷徨う狂気
マスター:なちゅい

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/04 12:00
- 完成日
- 2017/12/09 21:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
港町「ガンナ・エントラータ」。
この地で何度か発生している巨大生物騒ぎ。どうやら、レリオという初老の男性研究者が作った薬品による投薬が一つの要因とされている。
ただ、その全てが巨大化していないこと、実際、回収した薬品を使用しても何も起こらなかったことから、マテリアル異常などの複数の要因が重なっていたとされ、レリオも完全な主犯とはされず、お詫び行脚を行う状況だ。
事件自体はほぼ収束している。原因を突き止めたことで、新たに投薬が行われることがなくなった為だ。
とはいえ、この状況が腑に落ちないハンターもいたようで。
――この薬に、何か怪しげな物を入れた存在がいるのではないか。
――影に歪虚の暗躍があるのではないか。
そう考えるハンター達の中には、独自調査を続ける者もいた。
すでに、レリオ老が原因となってしまっている原状では、新たな情報の収集が非常に難しかったのだが……。
実際いたのだ。別の要因となる存在が。
「な、なんだ、あれは……!」
海岸で釣りをしていた男性がそれを発見した。
大きさはさほど大きくない。直径1mを超える程度だ。
だが、それはあからさまに異形となった生物。エビに似た頭と甲虫の羽、に、タコを思わせる下半身を持った歪虚である。
何をするでもなく、砂浜へとふわりと飛んでやってくるそいつの背後に時折羽虫の雑魔が発生しているのがわかる。存在するだけで、害となる歪虚であるのは間違いない。
そいつだけでも面倒なのに、歪虚に付き従って動き回っているのは巨大ガニと巨大ムカデの雑魔。こちらは歪虚と違って明らかに獲物を狙ってきている。
「ひっ、ひいいいっ!!」
釣り竿を投げ捨てて、その場から命からがら逃げ出す男性。
カニとムカデは反応を見えるが、歪虚はまるで気に留めずに悠然と砂浜を浮遊する。
その為、巨大雑魔どもも歪虚についていくほうを優先し、のそりのそりと砂浜を歩いていくのだった。
ガンナ・エントラータのハンターズソサエティ。
そこでも、確認された歪虚の情報で持ちきりだ。
「歪虚が発見されたとのことでー、今大変な騒ぎになっていますねー」
カウンターの中から糸目の女性、シェリーがハンター達へと語る。
状況を知らぬ者もいた為、彼女が簡単に説明を行うと。
この港町周辺では、巨大化生物による被害が何件か起こっていた。
いずれも討伐依頼が出され、ハンターによって討伐されてはいる。それらは、1人の老人による投薬実験が要因の一つと断定された。
ただ、要因はもう一つあったのだ。
マテリアルの異常が原因ではあるのだが、それを作り出したのは歪虚であったらしい。
「……相手は狂気。その目的すら分からない相手ですね」
そこにやってきた聖堂戦士団のファリーナ・リッジウェイ(kz0182)が語る。彼女は部下である隊員を連れてきていた。
「私達は歪虚が生み出す羽虫の雑魔の掃討に向かいます。皆さんは歪虚を……狂気を倒して欲しいのです」
体長が1m程度とかなり小さな相手。それもあって、なかなか行方をつかませなかったこともあるのだろう。街の周囲をふらふらと飛び回り、マテリアル異常を発生させていたというわけだ。
そいつは甲殻類の頭、甲虫の羽、そして、何体生物の足を持つという。奇妙な姿の敵はどうやら1体はぐれるようにして存在しているらしい。他の同族らしい姿は確認されていない。
「それだけでも厄介ですがー……、相手は巨大化した生物を2体も連れていますー」
シェリーが言うには、以前、巨大イカが現れた砂浜にそいつらは姿を現している。だからこそ、ふらふらさまよう歪虚の姿が捉えられたとも言えるが……。
「現れるのは、全長3mのカニとムカデですねー。いずれも巨大化していますがー、雑魔にもなってしまっていますー」
巨大化生物はこれまで大きくなっているだけだったが、雑魔化しているということは歪虚の力を強く受けてしまったのだろう。
現状、これらの巨大雑魔は歪虚について回るだけだが、野放しにすると危険なのは言うまでもない。
例えば、歪虚がそのままガンナ・エントラータに突っ込んでくれば、それだけで街に壊滅的な被害が出るのは間違いない。
「その為、街からもー、ハンターズソサエティからもー、この歪虚達の討伐依頼が出されていますー」
いずれも危険な相手だ。油断ないよう注意して立ち回りたい。
確認されている攻撃方法など、資料を手渡すシェリー。ハンター達はそれを目に通しながら、改めて作戦を練る。
注意したいのは、足場だろうか。砂浜での戦いとなる為、足を取られる危険もある。思うように移動できないことがあるのが面倒だ。
もっとも、歪虚は宙を浮遊しているし、カニ雑魔は元々砂浜を歩き回っているし、ムカデも這いずって移動する為、さほど苦を覚えていないらしい。
ともあれ、準備も整い、メンバー達は現地へと急ぐことにする。
「それでは参りましょう。これで、巨大化生物事件は本当の意味で終結するはすです」
ファリーナの言葉に、ハンター達は頷く。
「よろしくお願いしますー。皆さんのお帰りを待ってますねー」
そうして出て行くメンバー達を、シェリーは手を振って見送るのである。
港町「ガンナ・エントラータ」。
この地で何度か発生している巨大生物騒ぎ。どうやら、レリオという初老の男性研究者が作った薬品による投薬が一つの要因とされている。
ただ、その全てが巨大化していないこと、実際、回収した薬品を使用しても何も起こらなかったことから、マテリアル異常などの複数の要因が重なっていたとされ、レリオも完全な主犯とはされず、お詫び行脚を行う状況だ。
事件自体はほぼ収束している。原因を突き止めたことで、新たに投薬が行われることがなくなった為だ。
とはいえ、この状況が腑に落ちないハンターもいたようで。
――この薬に、何か怪しげな物を入れた存在がいるのではないか。
――影に歪虚の暗躍があるのではないか。
そう考えるハンター達の中には、独自調査を続ける者もいた。
すでに、レリオ老が原因となってしまっている原状では、新たな情報の収集が非常に難しかったのだが……。
実際いたのだ。別の要因となる存在が。
「な、なんだ、あれは……!」
海岸で釣りをしていた男性がそれを発見した。
大きさはさほど大きくない。直径1mを超える程度だ。
だが、それはあからさまに異形となった生物。エビに似た頭と甲虫の羽、に、タコを思わせる下半身を持った歪虚である。
何をするでもなく、砂浜へとふわりと飛んでやってくるそいつの背後に時折羽虫の雑魔が発生しているのがわかる。存在するだけで、害となる歪虚であるのは間違いない。
そいつだけでも面倒なのに、歪虚に付き従って動き回っているのは巨大ガニと巨大ムカデの雑魔。こちらは歪虚と違って明らかに獲物を狙ってきている。
「ひっ、ひいいいっ!!」
釣り竿を投げ捨てて、その場から命からがら逃げ出す男性。
カニとムカデは反応を見えるが、歪虚はまるで気に留めずに悠然と砂浜を浮遊する。
その為、巨大雑魔どもも歪虚についていくほうを優先し、のそりのそりと砂浜を歩いていくのだった。
ガンナ・エントラータのハンターズソサエティ。
そこでも、確認された歪虚の情報で持ちきりだ。
「歪虚が発見されたとのことでー、今大変な騒ぎになっていますねー」
カウンターの中から糸目の女性、シェリーがハンター達へと語る。
状況を知らぬ者もいた為、彼女が簡単に説明を行うと。
この港町周辺では、巨大化生物による被害が何件か起こっていた。
いずれも討伐依頼が出され、ハンターによって討伐されてはいる。それらは、1人の老人による投薬実験が要因の一つと断定された。
ただ、要因はもう一つあったのだ。
マテリアルの異常が原因ではあるのだが、それを作り出したのは歪虚であったらしい。
「……相手は狂気。その目的すら分からない相手ですね」
そこにやってきた聖堂戦士団のファリーナ・リッジウェイ(kz0182)が語る。彼女は部下である隊員を連れてきていた。
「私達は歪虚が生み出す羽虫の雑魔の掃討に向かいます。皆さんは歪虚を……狂気を倒して欲しいのです」
体長が1m程度とかなり小さな相手。それもあって、なかなか行方をつかませなかったこともあるのだろう。街の周囲をふらふらと飛び回り、マテリアル異常を発生させていたというわけだ。
そいつは甲殻類の頭、甲虫の羽、そして、何体生物の足を持つという。奇妙な姿の敵はどうやら1体はぐれるようにして存在しているらしい。他の同族らしい姿は確認されていない。
「それだけでも厄介ですがー……、相手は巨大化した生物を2体も連れていますー」
シェリーが言うには、以前、巨大イカが現れた砂浜にそいつらは姿を現している。だからこそ、ふらふらさまよう歪虚の姿が捉えられたとも言えるが……。
「現れるのは、全長3mのカニとムカデですねー。いずれも巨大化していますがー、雑魔にもなってしまっていますー」
巨大化生物はこれまで大きくなっているだけだったが、雑魔化しているということは歪虚の力を強く受けてしまったのだろう。
現状、これらの巨大雑魔は歪虚について回るだけだが、野放しにすると危険なのは言うまでもない。
例えば、歪虚がそのままガンナ・エントラータに突っ込んでくれば、それだけで街に壊滅的な被害が出るのは間違いない。
「その為、街からもー、ハンターズソサエティからもー、この歪虚達の討伐依頼が出されていますー」
いずれも危険な相手だ。油断ないよう注意して立ち回りたい。
確認されている攻撃方法など、資料を手渡すシェリー。ハンター達はそれを目に通しながら、改めて作戦を練る。
注意したいのは、足場だろうか。砂浜での戦いとなる為、足を取られる危険もある。思うように移動できないことがあるのが面倒だ。
もっとも、歪虚は宙を浮遊しているし、カニ雑魔は元々砂浜を歩き回っているし、ムカデも這いずって移動する為、さほど苦を覚えていないらしい。
ともあれ、準備も整い、メンバー達は現地へと急ぐことにする。
「それでは参りましょう。これで、巨大化生物事件は本当の意味で終結するはすです」
ファリーナの言葉に、ハンター達は頷く。
「よろしくお願いしますー。皆さんのお帰りを待ってますねー」
そうして出て行くメンバー達を、シェリーは手を振って見送るのである。
リプレイ本文
●
港町ガンナ・エントラータから、程ない場所にある海岸。
歪虚の出現とあって、ハンター達は士気を高めてその討伐に当たる。
「巨大生物雑魔め、性懲りもなく現れやがって! 今度は歪虚も仕留めてやる!!」
気合十分の長身の舞刀士、南護 炎(ka6651)。
彼は改めて海岸付近で、聖堂戦士団団員、ファリーナ・リッジウェイ(kz0182)の姿を認め、挨拶を交わす。
「お久しぶりです。ファリーナさん。貴女も経験を積んで強くなられたようですね。けど、俺だってさらに強くなってますよ」
「はい、皆さんのご健闘を別の戦場からですが、お祈りしています」
ファリーナ以下8人の聖堂戦士団小隊は別働隊として、歪虚が生み出した羽虫雑魔の討伐に当たるとのこと。
程なく、メンバー達は聖導士達と別れ、砂浜へと向かうこととなる。
「巨大化、か。マテリアル異常というのは、何でもアリなんだな……」
リアルブルーから来た鞍馬 真(ka5819)は話を聞き、マテリアルの及ぼす影響に驚きを隠せない。
「……やはり、歪虚が絡んでいたのか」
ガンナ・エントラータ周辺で起きている巨大雑魔関連事件。それに長く関わってきているアバルト・ジンツァー(ka0895) が漏らす。
街で無作為に生物へと投薬を行っていたかの老人だけが原因ではないと思っていたが、案の定だったと。
「ならば、自分の手で騒動の決着を付けなくてはなるまい。今回で全てを終わらせることとしよう」
これが本当に最後とあって、アバルトはやる気に満ちている。
「このまま、この周辺をふらふらされては敵わないな」
ドワーフの聖導士、ロニ・カルディス(ka0551)はこの状況を警戒する。敵は無尽蔵に雑魔を増やす害となる存在でしかない。
「雑魔をこれ以上増やされる前に、この場で片付けてしまおう」
それに同意するハンター達。そのそばでは、ぶんぶんと剣を振るう玉兎 小夜(ka6009)の姿がある。
「新しい剣の試し切りだよ?」
他のメンバーと目的は違えど、彼女も歪虚討伐にやる気を見せていたようだった。
●
目的の砂浜に到着したハンター一行。
メンバー達は、冬の冷たい砂の上に足を踏み入れる。
「砂浜か……。地面が柔らかいのと、ダッシュ時に地面が崩れるといったのが面倒だな」
その感触を確かめた赤髪の女性、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はそれならばと、スキルを駆使してスムーズな移動を心がけていた。
そして、メンバー達はすぐ、それらを発見することとなる。
雑魔となった影響か、巨大化した2体の生物だ。
シャキン、シャキン。
片方はやや黒ずんだ色をした甲羅を持つ巨大カニ。
そいつは大きなハサミを動かし、獲物を求めているようにも見える。時折吹き付ける泡で相手を滑らせ、その隙にハサミで切断して喰らうのだろう。
シャアアアアァァァ……。
もう一体は強靭なアゴを持つ巨大ムカデだ。こちらはじりじりと這いずり、相手にのしかかって押さえつけ、アゴから毒を流し込んでじっくりと食べてしまうのだ。
それらの巨大生物は、一般人からすれば脅威でしかない。
だが、それ以上の脅威はそれらに挟まれた小さな物体だ。
直径1m程度と小さな相手だが、それはどの生物にも似つかぬ塊。
その頭はエビにも似て、胴体は甲虫、そして、足はタコのようにいくつもの触手が生えている。実に奇妙で、醜悪な見た目の相手だ。
「潮干狩りにしては季節外れな上に、物騒だね?」
小夜はすぐに、見つけたその物体……情報にあった狂気の歪虚を注視する。
そいつはふわふわと当てもなく飛び回っており、行動に一貫性がない。止まったかと思えば動き出し、前後左右をふらふら飛び回っていた。
その翅の根元が見えないかと彼女が目を凝らすと、直接本体の背から生えているようにも見えた。
「あれが今回の巨大化事件の原因になった要因の一つ」
「つくづくこの案件には縁があるのかな、私」
ドラグーンのユウ(ka6891)が敵を見据えると、同伴するT-Sein(ka6936)が親しげに話す。2人は姉妹の間柄なのだ。
「街の安全の為にも、事件の完全終結の為にも、何としてもここであれを討たないとだね」
ユウの言葉に頷くT-Sein。2人は仲間と共に、砂浜の上を散開していく。
「巨大化生物事件もこれで終わりにします」
銀の長髪を靡かせるエルバッハ・リオン(ka2434)も敵を視界に収め、小さく決意を口にして仲間を追う。
「行くぞ。みんな!!」
炎は一直線に歪虚の元に向かうが、その間を挟み込む巨大雑魔2体が邪魔してくる。
巨大ムカデの元にはアルトが向かう。ユウも足元を気にかけつつ、そちらへと駆け出す。
一方、T-Seinは逆側の雑魔を相手にすべく移動する。彼女は真と共に巨大カニを相手にと考えていた。真も砂に足を取られぬよう、足にマテリアルを集中させて砂浜を駆けていく。
それを追う柔らかな物腰の少年、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)も、仲間の作戦に従って行動を開始する。
重装甲装備で移動するエルバッハの手前で、アバルトが仲間とはぐれぬ位置を意識して後を追う。
雑魔を抑える仲間達を見て、小夜、ロニは炎を追随するように歪虚の元に向かう。敵も自身に害が及ぶと判断し、迎撃の構えを見せ始めていた。
――ここで、一連の事件を終結させる為に。
ハンター達は全力で巨大雑魔を、そして、狂気の歪虚を叩く。
●
事前にハンター達が立てていた作戦は、ロニが立案したものだ。
予め決めた個々の敵にそれぞれのメンバーが向かい、そいつを押さえつけて連携しないように、そして乱戦状態とならないように分断するというものである。
真っ先に、狂気の歪虚に向かっていった炎。
覚醒し、左右の瞳をそれぞれ紅と蒼に変化させた彼は、目つきを鋭くして呼吸を整える。
その上で、大きく息を吸い込み、炎は狂気の歪虚に対して名乗りを上げた。
「俺は南護炎、歪虚を断つ剣なり!」
炎の握るグレートソード「エアリアル」から繰り出される、渦巻くような光。それが少し距離の離れた歪虚の体を斬り裂かんとする。
「どうします?」
覚醒によって、胸元に薔薇の花を模した赤い紋様を浮かび上がらせたエルバッハ。
顔や四肢にも棘のような紋様を現していた彼女は、同じ後方のアバルトへどの敵から攻めるかと問う。
2人は、前線でそれぞれの敵を攻める仲間のバックアップとして動いていたのだ。
「まずは、威嚇だな」
顔の左半面を青銅のように変化させたアバルトは敵の頭上目掛けて、ロングボウ「レピスパオ」から矢を射放つ。矢はマテリアルを纏い、光の雨となって敵陣に降り注ぐ。
「…………」
しかしながら、狂気は素早い。あっさりとそいつは降り注ぐ光を避けて見せる。
ただ、巨大雑魔2体は多少動いたところで巨大な体躯が徒となり、そうも行かない。光に打ち貫かれた巨大カニと巨大ムカデは苦しみながらも、僅かに身を竦ませた。
さらに、エルバッハは炎を射程範囲から外すよう配慮しつつ、書物「金烏玉兎集」を媒体として魔法を発動させた。
敵全員にそれぞれ紫色の重力波が収束していき、身体を圧壊させようとする。
とはいえ、さすがに相手も雑魔と歪虚だ。
多少の攻撃ではビクともせぬのを確認し、エルバッハはさらに魔法の詠唱を始めていたようだ。
「殲滅開始です」
肌を褐色に変化させ、銀の気を纏うT-Seinは友人の真と一緒に巨大カニの対処に当たる。
先ほどの光の雨と重力波によって動きを止めているカニ雑魔。その隙に、T-Seinは敵の気を引こうと仕掛けて行く。
「私に立ち向かうなど……」
尊大な態度でT-Seinは雑魔に呼びかけ、機械手甲「フラルゴ」を振り上げつつ練り上げた全身のマテリアルを放出した。
「己の矮小さを思い知るがいい……!」
巻き起こる巨大な鉤爪が直線状に衝撃波を巻き起こす。
巨大カニの体に命中はしたが、雑魔となったことでその甲羅は非常に硬くなっている。その体内にまではダメージが及んでいない様子だ。
刹那瞳を金色に輝かせた真は素早く砂の上を駆け抜け、自身の生体マテリアルで魔導剣「カオスウィース」を強化し、カニの装甲を断ち切らんと刃を振るう。
動きを止めているのは一瞬のこと。真はその間にできるだけ相手の気を引こうとしていた。
逆サイドの巨大ムカデ。そいつは文字通り、百足を使い、カサカサと砂の上を這いずり回っていたのだが、こちらも動きをほぼ封じられて苦しんでいる。
そんな中、全身に燃え上がる炎のオーラを纏ったアルトと、純白の龍角を頭に生やしたユウが接していく。
覚醒の影響によって腰まで伸びた赤い髪を揺らすアルトは投擲した手裏剣「八握剣」をムカデに命中させ、紅い糸で引き合うようにして自身の体を加速させて移動する。
(やはり、見た目から嫌いな相手だな……)
炎と同じ色の瞳で敵を見つめる彼女だが、嫌悪感に眉を顰めてしまう。
(そういった意味では、今回の敵は全部苦手かもしれないな……)
さっさと消滅させようと、彼女は特殊強化鋼製ワイヤーウィップを打ち付け、ムカデの体を痛めつけて行く。
(足を取られる可能性は常に考えませんと)
迫力のある歌とステップを詠唱とするユウ。彼女は足場が悪い砂地を気にかけつつ、ダンスを舞い踊った。
その上で、ユウはさらにマテリアルを練り上げ、自身やアルト、近場の歪虚に対するメンバーの力を高めていく。
そして、正面の狂気はふわふわと、巨大雑魔のことすら気にかけずとふわふわと周囲を飛び回る。
そこに、小夜が側頭部の両側に垂らした白い耳を揺らして、敵に攻め入った。
「これは喰らいつく顎。龍からは命を。勇士へは首を」
精神を統一した彼女はゆらりと動いてくる敵を出迎え、聖罰刃「ターミナー・レイ」で敵の羽根の根元、甲殻との間を狙って刃を振り下ろす。
だが、まだ敵は万全ということもあってか、その狙いを避けて見せる。小夜の刃は命中こそしたが、足の触手に遮られた形だ。
ロニも歪虚を目下の敵と見据えて、鎮魂歌を歌い上げる。彼は周りの雑魔も巻き込むように相手へと歌い聞かせるが、狂気は全く効いている素振りを見せない。
「出来れば、敵の距離を離したいところだが……」
しかしながら、序盤から仲間達が相手を押さえつけるよう動いていた。
狂気も襲い来るハンターが煩わしく思ったのか、耳をつんざくような羽音の音でメンバー達の動きを止めてくる。
「前だったら、ここでアイサツなんだけどね……。今の私は容赦ないよ」
アイサツはダイジ。けど、あれは敵。
小夜は次に甲殻内側の足目掛け、再び新しい刃を一閃させて行く。
「…………」
切り裂かれて体液を流す狂気。だが、そいつはまるで言葉を発せず、不気味に羽ばたきながら足の触手を素早く伸ばしてきたのだった。
●
一方、砂浜から少し離れた平原では、聖堂戦士団団員達が交戦していた。
襲い来るは、耳障りな羽音を立てて襲い来る羽虫雑魔達。
狂気の歪虚が通り過ぎた後に生まれてしまったそれらを抑えるべく、彼女達は奮闘する。
「皆さん、頑張ってください!」
ファリーナは隊員を励ましながら、刃を振り下ろす。
気の合う副官や部下と共に、彼女はハンター達の勝利を信じ、羽虫を蹴散らすのである。
ハンター達はしばし、狙った歪虚、もしくは雑魔と交戦を続けることとなる。
その中で、比較的攻撃によって攻撃の手、ならぬハサミを止めていたのは巨大カニだ。
真が正面でうまく相手を翻弄しようと立ち回り、敵の攻撃を誘う。
カニは苛立ちげにハサミを叩きつけようとするが、真はマルチステップで鮮やかに躱し、魔導剣「カオスウィース」で渾身の一撃で甲羅を切り裂く。
かといって、T-Seinを狙えば、真はしっかりとパリィグローブ「ディスターブ」で相手のハサミを受け止め、彼女を庇って見せていた。
噴き出す泡は相手を滑らせる狙いもあるのだろうが、それが膨れ上がっているところを見ると、相手も追い込まれているのだろう。T-Seinはそれで足を取られぬよう注意しながら、機械手甲を叩き込んでいく。
雑魔と交戦する仲間の回復をと、ユキヤは聖剣「カリスデオス」を握りしめて精霊に祈りを捧げた。
引き出されたマテリアルの力で起こる優しい光によって、彼は仲間達が受けた傷を癒す。
アバルトは確実に、1体ずつ相手の動きを封じようとする。
素早く矢を番えつつ、彼は敵を交互に見ながら冷気を纏った一矢を素早く放つ。
それは、リアルブルーの北欧神話に登場する狼の名を冠した『フェンリルの矢』。ハンターから少し距離を取ろうとした巨大カニを、その矢が射抜く。
エルバッハもターゲットを合わせて、魔法を発動させる。その際に、使っていたのはダブルキャストだ。
攻撃の手数を増やそうと、同時に2種の魔法を詠唱するするエルバッハ。彼女は相手に相性の良い魔法を見極める為、火、水、風、地と装備したスキルを一通り試して相手を攻め立てていた。
「炎の効果が大きいようですね」
相手に通りが良い属性を見つければ、エルバッハはそれを中心にして魔法を行使していく。
炎のエネルギーを連続してぶつけられれば、巨大ガニはさらに泡を吹き出してジタバタと暴れ始める。
真、T-Seinの2人が好機と見て、同時に仕掛けた。
体内を循環させるように気を練っていき、T-Seinは自身の力を高めて行く。そして、彼女は強く砂を踏みしめて一気にカニの懐まで迫り、相手のハサミを大きく弾き飛ばす。
「今だ」
T-Seinの声に応じ、真が追撃を行う。
「出し惜しみはしない」
自身の生命力を削ってマテリアルに転化し、真はそれを魔導剣「カオスウィース」に纏わせた。
敵の腹下から、彼はその刃で敵の甲羅をやすやすと切断して行く。
もがき苦しんでいた巨大カニから、どす黒い液体が零れ落ちる。
どうという音を立て、砂埃を上げて倒れこんだそいつは次の瞬間、全身が爆ぜ飛ぶようにして姿を消してしまったのだった。
中央、狂気の歪虚もハンターに激しく猛攻を仕掛けてくるようになっていた。
「歪虚め、巨大雑魔を生み出すのも今日が最後だ!!」
前線の炎は集中してからの斬撃で、敵の身体に切りかかる。
相手は小さな体躯ではあるが、その動きがいまいち掴めぬ相手とあって、致命傷を与えているのかどうかも分かりづらい。
その上で、相手は足の触手を長く、そして広範囲に広げていく。
炎はそれを「ディスターブ」で防ごうとしたが、しつこく絡みつく触手は彼の腕を縛りつけてしまう。
小夜もまたそれを受けて脚を縛られてしまうが、彼女は触手を切り裂いていった。
「けど、これで全部は切れないだろうからなぁ……。めんどい!」
見れば、切っても切ってもその足を修復しているようにも見える。再生をしているようだが、さすがに体力まで回復してはいないと思いたい。
「タコ足はタコ足でも、こんだけ多いとおいしそうに見えないんだよ!!」
蠢くその足触手は、醜悪な印象しか抱かせない。小夜はなおも腕を捕まれながらも、それを聖罰刃で断ち切った。
「お前の足なぞ、タコ焼きにもできないな! けど、お前はエビ。海老の急所は胸!」
いくらタコ足を持っている相手だろうが、頭がエビならエビだと、小夜は敵の胸、甲虫部分を狙う。
「〆て、エビかタコか確かめてやる!」
小夜は一度刃を鞘に収める。その上で、彼女はマテリアルを急速に練り上げて行く。
「足も無視して貫いてやる!」
光り輝くマテリアルの光、それは彼女の抜刀と共に砂浜を駆け抜ける。
ぽたりぽたりと滴り落ちる体液。確かに、その一閃は狂気の胸を貫いた。
だが、敵は痛がる素振りすらも見せずに大きく羽ばたき、後方で回復に当たっていたユキヤ目掛けて飛び掛っていく。
ユキヤは巨大ムカデと対するメンバーの回復に全力を尽くしていて、歪虚の奇襲に気づくのが遅れてしまう。
敵の触手に腹を貫かれてしまった彼は血を吐いてしまい、砂の上に崩れ落ちてしまった。
黄金の胴に白銀で雪の結晶にも似た飾りの付いたロザリオを握り、駆け寄ったロニが祈りを捧げてマテリアルを引き出そうとしていたが、……治療は間に合わない。
なおも、相手はこちらに襲ってくる。ロニはマテリアルを光の防御壁として展開し、自らの防御を高めることにしていた。
「油断はできんな」
気を抜くと、あっさり体力を持っていかれる危険な相手だ。ロニはしっかりと仲間の支援に当たり、更なる犠牲者がでないようにと治癒の魔法を行使していく。
巨大ムカデを抑えていたユウ、アルト。
ユウは時にその巨体にのしかかられ、身動きが取りづらい状況となっていたが、影殺剣「カル・ゾ・リベリア」を敵の腹から突き刺し、脱出する。
こちらもどす黒い血を撒き散らし、暴れ狂うムカデ。今度はアルトへと素早く這いずって近寄り、アゴで食らい付こうとしてきた。
それを喰らうと、毒を注入されるばかりか、身体をへし折られかねない。
「巨体相手に押し合いは不毛だしな」
全身を炎のオーラで覆うアルトは敵の攻撃を避けるよう砂の上を跳び、再度、手裏剣「八握剣」を投げ飛ばして突き刺す。
そのまま引き合うように身体を加速させた彼女は、ワイヤーウィップを振るって敵の胴体を叩きつける。
やや苦戦する状況もあるが、ハンター達は少しずつ状況を改善していく。
カニ雑魔が倒れたことで、其方に当たっていたメンバーがムカデの討伐に集中していたのだ。
ユウはT-Seinがムカデを殴り付けて行くのに合わせ、グローブで強くその頭を殴り付けて行く。
かなり痛めつけられているはずの巨大ムカデ。動きは相当鈍っているが、なおもアゴを動かしてアルトに食らいついた。
シャアアアアアアァァァ……。
全身を包むオーラをそのままに、アルトは武器を剛刀「大輪一文字」に持ち変える。
攻め入る真が魔導剣で斬撃を浴びせかけた直後、アルトはその刃で大きく半円を描き、ムカデの体を半分以上断ち切った。
黒い液体を飛び散らせ、のたうち回る巨大ムカデ。その激しい動きに砂埃が舞い上がる。
(……確か人間の脳などと違い、神経節というんだったが、体の各所にあるとかないとか)
ムカデという生物はしぶといことで知られる。真っ二つに斬った程度では暴れ回るとアルトは認識していた。
ユウもまた、警戒を怠らない。消滅するまではどんな攻撃を行うかわからないのだ。
だが、それも杞憂に終わる。完全に力尽きた巨大ムカデはぐったりして胴体を砂の上に横たえた。
そして、すぐにその全身を霧散するようにして、消えてなくなっていったのである。
●
平原の羽虫雑魔掃討は順調に進む。
聖堂戦士団の聖導士達も奮戦し、確実に羽虫を叩き落とす。
ここからでも、砂浜は遠くに見えるが、ファリーナは巨大雑魔の姿がなくなっていたことに気づいて。
「皆さん、ご武運を……」
彼女は羽虫を一刀両断しながら、ハンターの為に小さく祈っていた。
残りは、狂気の歪虚のみ。
倒した巨大雑魔と比べれば、その身体は半分にも満たない小ささでしかない相手だが、力は雑魔とは比較にならない。
序盤からそいつを抑え続ける炎の傷は深くなって来ている。小夜も肩で息をしながら、刃を浴びせかけていた。
彼らが倒れぬようにと、ロニは光を煌かせて癒し続ける。彼の回復支援がなければ、炎も小夜もすでに倒れていたかもしれない。
途中、相手を脅威と見たアバルト、エルバッハが援護攻撃を始めていた。
冷気の矢を幾度か放っていたアバルトだったが、スキルが尽きたことで攻撃手段を変更する。
ロングボウから矢を飛ばす瞬間、マテリアルによって加速させ、相手の体を射抜く。思った以上に素早く動く相手だ。アバルトは速やかにリロードし、更なる射撃を仕掛けて行く。
相手の間合いを見計らっていたエルバッハも、スキルが続く限り魔法を撃ち放つ。
狂気はどうやら風に弱いらしい。書物を手に取った彼女は前方へと鋭い風を飛ばし、敵の羽根、足触手を切断した。
「このまま押し切れればいいのですが……」
エルバッハはすでに倒れたユキヤに視線を巡らせ、さらに、前線で息を荒くする炎と小夜を見やる。
どこまで持つか。最悪、撤退も視野に入れなければならないが……。
雑魔が倒れたことで、アルト、真も加勢する。
アルトは投擲した手裏剣からの連撃に戻して攻め立て、真も胴体や触手の切断を狙っていた。
そして、序盤から歪虚の対していたロニも、仲間の数が増えたことで、時に攻撃に乗り出す。
「このまま飛び回られても厄介だ。この場に縫い留めさせてもらう」
錬金杖「ヴァイザースタッフ」をロニが振るうと、彼のロザリオが光る。直後に虚空から影の刃が現れ、敵の体を切り裂いていく。
息つく炎もまた敵が怯んだのを見計らい、エアリアルを構え直す。
「死にフラグは折るためにある!」
大きく息を吸い込み、炎は敵の頭上部を切り裂き、さらに返す刃で足触手を根元から断ち切る。
ついに、狂気は地面へと落下した。再生の能力も落ちているのか、足触手がなかなか元に戻らず、羽音を鳴らして応戦してきた。
そこで、ユウが音に負けじと歌い始め、ステップを踏む。体勢を崩しかけようが、彼女はなんとか倒れるのを堪え、砂浜を舞い踊る。
同時に、T-Seinが羽根を狙って鉤爪状の衝撃波を繰り出す。切り裂かれた羽根はもはや音を立てるのも難しくなってきていた。
それを羽ばたかせようとする敵に、小夜が躍りかかる。
「……知らないのか。ヴォーパルバニーからは逃げられない!」
彼女はそのエビの頭を、「ターミナー・レイ」の刃で完全に両断してしまう。
これには狂気もなす術もなく、どろりと全身を崩し、蒸発するようにその存在を消滅させたのだった。
●
負傷者は出たものの、歪虚と巨大雑魔の消滅を確認したハンター達。
砂浜から敵影はなくなったが、エルバッハ、真は警戒を怠らない。
エルバッハは双眼鏡を手にし、周辺に怪しい影がないかと確認していた。
(心配のしすぎだと思うのですが……)
万が一、真の黒幕などという存在がいた場合を考え、彼女はそれが周辺にいないかと確認していたのだ。
(これで、一件落着ならば良いのだけど)
真もまた、巨大化した生物が他に残っていないかと、周囲に視線を巡らせる。
「……しかし、真冬の海は寒いなあ」
冬の海風は、戦い後のハンター達の体を急激に冷やす。
やがて、これ以上の敵影はないと判断したハンター達は深く息をついた。
「これでしばらくは、この近辺も安泰だろうか……」
「……長かった一連の騒動もこれで終幕か。二度とこのような事件が起きて欲しくないものだな」
肩の力を抜くロニ。アバルトもまたこれまでの騒動を思い返しながら、本音を漏らす。
「様々な要因が重なったとはいえ、巨大化できる薬というのは危険だな」
口元に手を当てて、アルトは考える。
細かい報告書を確認までは時間がなかったということだが、アルトが主張するには……。
格闘技が階級分けされているように、質量というのはそれだけで巨大なエネルギーであり、破壊力を生む。
つまり、知恵ある歪虚や、犯罪組織がその薬についての風評を利用する状況を懸念していたのだ。
「厳しいとは思うが、再調査の結果、やっぱり薬は関係なかったという風に噂を上書きできないだろうか?」
アルトが仲間達へと提案を持ちかけたところで、明るい声が砂浜に響く。
「お疲れ様です。無事、撃破できたのですね!」
そこへ、羽虫雑魔を殲滅した聖堂戦士団達がやってきた。喜ぶファリーナがアルトの意見を耳にし、それに理解を示す。
「はい……。すでに流布した噂を上書きするのは難しいものです」
とはいえ、できる限りやってみようと、彼女は聖堂教会やハンターズソサエティに掛け合ってみるとのことだった。
「やっぱり、食べられなかったか……」
小夜は消えてなくなった歪虚の遺体について、残念がる。
エビだの、タコだといった食材を嫁の土産にしたかったと彼女が呟くと、ファリーナが少し苦笑してしまう。
「ファリーナさん。これからもよろしくお願いします」
炎もファリーナに気づき声をかけてくる。彼女は「はい」と笑顔で答えていたようだった。
少し離れた場所で、T-Seinは1人、紫煙を燻ぶらせながら黄昏ている。
そんな彼女を、安全確認、ユキヤの治療を終えたユウが見つけて。
「ザイン、ミケや猫さん達の様子を見に、猫カフェにこれから一緒にどうかな?」
ユウが誘うは、ガンナ・エントラータの裏通りにある猫カフェ「ニャンドリーム」だ。
すると、T-Seinは食い気味に頷き、ユウの手を握って港町へと戻っていくのだった。
港町ガンナ・エントラータから、程ない場所にある海岸。
歪虚の出現とあって、ハンター達は士気を高めてその討伐に当たる。
「巨大生物雑魔め、性懲りもなく現れやがって! 今度は歪虚も仕留めてやる!!」
気合十分の長身の舞刀士、南護 炎(ka6651)。
彼は改めて海岸付近で、聖堂戦士団団員、ファリーナ・リッジウェイ(kz0182)の姿を認め、挨拶を交わす。
「お久しぶりです。ファリーナさん。貴女も経験を積んで強くなられたようですね。けど、俺だってさらに強くなってますよ」
「はい、皆さんのご健闘を別の戦場からですが、お祈りしています」
ファリーナ以下8人の聖堂戦士団小隊は別働隊として、歪虚が生み出した羽虫雑魔の討伐に当たるとのこと。
程なく、メンバー達は聖導士達と別れ、砂浜へと向かうこととなる。
「巨大化、か。マテリアル異常というのは、何でもアリなんだな……」
リアルブルーから来た鞍馬 真(ka5819)は話を聞き、マテリアルの及ぼす影響に驚きを隠せない。
「……やはり、歪虚が絡んでいたのか」
ガンナ・エントラータ周辺で起きている巨大雑魔関連事件。それに長く関わってきているアバルト・ジンツァー(ka0895) が漏らす。
街で無作為に生物へと投薬を行っていたかの老人だけが原因ではないと思っていたが、案の定だったと。
「ならば、自分の手で騒動の決着を付けなくてはなるまい。今回で全てを終わらせることとしよう」
これが本当に最後とあって、アバルトはやる気に満ちている。
「このまま、この周辺をふらふらされては敵わないな」
ドワーフの聖導士、ロニ・カルディス(ka0551)はこの状況を警戒する。敵は無尽蔵に雑魔を増やす害となる存在でしかない。
「雑魔をこれ以上増やされる前に、この場で片付けてしまおう」
それに同意するハンター達。そのそばでは、ぶんぶんと剣を振るう玉兎 小夜(ka6009)の姿がある。
「新しい剣の試し切りだよ?」
他のメンバーと目的は違えど、彼女も歪虚討伐にやる気を見せていたようだった。
●
目的の砂浜に到着したハンター一行。
メンバー達は、冬の冷たい砂の上に足を踏み入れる。
「砂浜か……。地面が柔らかいのと、ダッシュ時に地面が崩れるといったのが面倒だな」
その感触を確かめた赤髪の女性、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はそれならばと、スキルを駆使してスムーズな移動を心がけていた。
そして、メンバー達はすぐ、それらを発見することとなる。
雑魔となった影響か、巨大化した2体の生物だ。
シャキン、シャキン。
片方はやや黒ずんだ色をした甲羅を持つ巨大カニ。
そいつは大きなハサミを動かし、獲物を求めているようにも見える。時折吹き付ける泡で相手を滑らせ、その隙にハサミで切断して喰らうのだろう。
シャアアアアァァァ……。
もう一体は強靭なアゴを持つ巨大ムカデだ。こちらはじりじりと這いずり、相手にのしかかって押さえつけ、アゴから毒を流し込んでじっくりと食べてしまうのだ。
それらの巨大生物は、一般人からすれば脅威でしかない。
だが、それ以上の脅威はそれらに挟まれた小さな物体だ。
直径1m程度と小さな相手だが、それはどの生物にも似つかぬ塊。
その頭はエビにも似て、胴体は甲虫、そして、足はタコのようにいくつもの触手が生えている。実に奇妙で、醜悪な見た目の相手だ。
「潮干狩りにしては季節外れな上に、物騒だね?」
小夜はすぐに、見つけたその物体……情報にあった狂気の歪虚を注視する。
そいつはふわふわと当てもなく飛び回っており、行動に一貫性がない。止まったかと思えば動き出し、前後左右をふらふら飛び回っていた。
その翅の根元が見えないかと彼女が目を凝らすと、直接本体の背から生えているようにも見えた。
「あれが今回の巨大化事件の原因になった要因の一つ」
「つくづくこの案件には縁があるのかな、私」
ドラグーンのユウ(ka6891)が敵を見据えると、同伴するT-Sein(ka6936)が親しげに話す。2人は姉妹の間柄なのだ。
「街の安全の為にも、事件の完全終結の為にも、何としてもここであれを討たないとだね」
ユウの言葉に頷くT-Sein。2人は仲間と共に、砂浜の上を散開していく。
「巨大化生物事件もこれで終わりにします」
銀の長髪を靡かせるエルバッハ・リオン(ka2434)も敵を視界に収め、小さく決意を口にして仲間を追う。
「行くぞ。みんな!!」
炎は一直線に歪虚の元に向かうが、その間を挟み込む巨大雑魔2体が邪魔してくる。
巨大ムカデの元にはアルトが向かう。ユウも足元を気にかけつつ、そちらへと駆け出す。
一方、T-Seinは逆側の雑魔を相手にすべく移動する。彼女は真と共に巨大カニを相手にと考えていた。真も砂に足を取られぬよう、足にマテリアルを集中させて砂浜を駆けていく。
それを追う柔らかな物腰の少年、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)も、仲間の作戦に従って行動を開始する。
重装甲装備で移動するエルバッハの手前で、アバルトが仲間とはぐれぬ位置を意識して後を追う。
雑魔を抑える仲間達を見て、小夜、ロニは炎を追随するように歪虚の元に向かう。敵も自身に害が及ぶと判断し、迎撃の構えを見せ始めていた。
――ここで、一連の事件を終結させる為に。
ハンター達は全力で巨大雑魔を、そして、狂気の歪虚を叩く。
●
事前にハンター達が立てていた作戦は、ロニが立案したものだ。
予め決めた個々の敵にそれぞれのメンバーが向かい、そいつを押さえつけて連携しないように、そして乱戦状態とならないように分断するというものである。
真っ先に、狂気の歪虚に向かっていった炎。
覚醒し、左右の瞳をそれぞれ紅と蒼に変化させた彼は、目つきを鋭くして呼吸を整える。
その上で、大きく息を吸い込み、炎は狂気の歪虚に対して名乗りを上げた。
「俺は南護炎、歪虚を断つ剣なり!」
炎の握るグレートソード「エアリアル」から繰り出される、渦巻くような光。それが少し距離の離れた歪虚の体を斬り裂かんとする。
「どうします?」
覚醒によって、胸元に薔薇の花を模した赤い紋様を浮かび上がらせたエルバッハ。
顔や四肢にも棘のような紋様を現していた彼女は、同じ後方のアバルトへどの敵から攻めるかと問う。
2人は、前線でそれぞれの敵を攻める仲間のバックアップとして動いていたのだ。
「まずは、威嚇だな」
顔の左半面を青銅のように変化させたアバルトは敵の頭上目掛けて、ロングボウ「レピスパオ」から矢を射放つ。矢はマテリアルを纏い、光の雨となって敵陣に降り注ぐ。
「…………」
しかしながら、狂気は素早い。あっさりとそいつは降り注ぐ光を避けて見せる。
ただ、巨大雑魔2体は多少動いたところで巨大な体躯が徒となり、そうも行かない。光に打ち貫かれた巨大カニと巨大ムカデは苦しみながらも、僅かに身を竦ませた。
さらに、エルバッハは炎を射程範囲から外すよう配慮しつつ、書物「金烏玉兎集」を媒体として魔法を発動させた。
敵全員にそれぞれ紫色の重力波が収束していき、身体を圧壊させようとする。
とはいえ、さすがに相手も雑魔と歪虚だ。
多少の攻撃ではビクともせぬのを確認し、エルバッハはさらに魔法の詠唱を始めていたようだ。
「殲滅開始です」
肌を褐色に変化させ、銀の気を纏うT-Seinは友人の真と一緒に巨大カニの対処に当たる。
先ほどの光の雨と重力波によって動きを止めているカニ雑魔。その隙に、T-Seinは敵の気を引こうと仕掛けて行く。
「私に立ち向かうなど……」
尊大な態度でT-Seinは雑魔に呼びかけ、機械手甲「フラルゴ」を振り上げつつ練り上げた全身のマテリアルを放出した。
「己の矮小さを思い知るがいい……!」
巻き起こる巨大な鉤爪が直線状に衝撃波を巻き起こす。
巨大カニの体に命中はしたが、雑魔となったことでその甲羅は非常に硬くなっている。その体内にまではダメージが及んでいない様子だ。
刹那瞳を金色に輝かせた真は素早く砂の上を駆け抜け、自身の生体マテリアルで魔導剣「カオスウィース」を強化し、カニの装甲を断ち切らんと刃を振るう。
動きを止めているのは一瞬のこと。真はその間にできるだけ相手の気を引こうとしていた。
逆サイドの巨大ムカデ。そいつは文字通り、百足を使い、カサカサと砂の上を這いずり回っていたのだが、こちらも動きをほぼ封じられて苦しんでいる。
そんな中、全身に燃え上がる炎のオーラを纏ったアルトと、純白の龍角を頭に生やしたユウが接していく。
覚醒の影響によって腰まで伸びた赤い髪を揺らすアルトは投擲した手裏剣「八握剣」をムカデに命中させ、紅い糸で引き合うようにして自身の体を加速させて移動する。
(やはり、見た目から嫌いな相手だな……)
炎と同じ色の瞳で敵を見つめる彼女だが、嫌悪感に眉を顰めてしまう。
(そういった意味では、今回の敵は全部苦手かもしれないな……)
さっさと消滅させようと、彼女は特殊強化鋼製ワイヤーウィップを打ち付け、ムカデの体を痛めつけて行く。
(足を取られる可能性は常に考えませんと)
迫力のある歌とステップを詠唱とするユウ。彼女は足場が悪い砂地を気にかけつつ、ダンスを舞い踊った。
その上で、ユウはさらにマテリアルを練り上げ、自身やアルト、近場の歪虚に対するメンバーの力を高めていく。
そして、正面の狂気はふわふわと、巨大雑魔のことすら気にかけずとふわふわと周囲を飛び回る。
そこに、小夜が側頭部の両側に垂らした白い耳を揺らして、敵に攻め入った。
「これは喰らいつく顎。龍からは命を。勇士へは首を」
精神を統一した彼女はゆらりと動いてくる敵を出迎え、聖罰刃「ターミナー・レイ」で敵の羽根の根元、甲殻との間を狙って刃を振り下ろす。
だが、まだ敵は万全ということもあってか、その狙いを避けて見せる。小夜の刃は命中こそしたが、足の触手に遮られた形だ。
ロニも歪虚を目下の敵と見据えて、鎮魂歌を歌い上げる。彼は周りの雑魔も巻き込むように相手へと歌い聞かせるが、狂気は全く効いている素振りを見せない。
「出来れば、敵の距離を離したいところだが……」
しかしながら、序盤から仲間達が相手を押さえつけるよう動いていた。
狂気も襲い来るハンターが煩わしく思ったのか、耳をつんざくような羽音の音でメンバー達の動きを止めてくる。
「前だったら、ここでアイサツなんだけどね……。今の私は容赦ないよ」
アイサツはダイジ。けど、あれは敵。
小夜は次に甲殻内側の足目掛け、再び新しい刃を一閃させて行く。
「…………」
切り裂かれて体液を流す狂気。だが、そいつはまるで言葉を発せず、不気味に羽ばたきながら足の触手を素早く伸ばしてきたのだった。
●
一方、砂浜から少し離れた平原では、聖堂戦士団団員達が交戦していた。
襲い来るは、耳障りな羽音を立てて襲い来る羽虫雑魔達。
狂気の歪虚が通り過ぎた後に生まれてしまったそれらを抑えるべく、彼女達は奮闘する。
「皆さん、頑張ってください!」
ファリーナは隊員を励ましながら、刃を振り下ろす。
気の合う副官や部下と共に、彼女はハンター達の勝利を信じ、羽虫を蹴散らすのである。
ハンター達はしばし、狙った歪虚、もしくは雑魔と交戦を続けることとなる。
その中で、比較的攻撃によって攻撃の手、ならぬハサミを止めていたのは巨大カニだ。
真が正面でうまく相手を翻弄しようと立ち回り、敵の攻撃を誘う。
カニは苛立ちげにハサミを叩きつけようとするが、真はマルチステップで鮮やかに躱し、魔導剣「カオスウィース」で渾身の一撃で甲羅を切り裂く。
かといって、T-Seinを狙えば、真はしっかりとパリィグローブ「ディスターブ」で相手のハサミを受け止め、彼女を庇って見せていた。
噴き出す泡は相手を滑らせる狙いもあるのだろうが、それが膨れ上がっているところを見ると、相手も追い込まれているのだろう。T-Seinはそれで足を取られぬよう注意しながら、機械手甲を叩き込んでいく。
雑魔と交戦する仲間の回復をと、ユキヤは聖剣「カリスデオス」を握りしめて精霊に祈りを捧げた。
引き出されたマテリアルの力で起こる優しい光によって、彼は仲間達が受けた傷を癒す。
アバルトは確実に、1体ずつ相手の動きを封じようとする。
素早く矢を番えつつ、彼は敵を交互に見ながら冷気を纏った一矢を素早く放つ。
それは、リアルブルーの北欧神話に登場する狼の名を冠した『フェンリルの矢』。ハンターから少し距離を取ろうとした巨大カニを、その矢が射抜く。
エルバッハもターゲットを合わせて、魔法を発動させる。その際に、使っていたのはダブルキャストだ。
攻撃の手数を増やそうと、同時に2種の魔法を詠唱するするエルバッハ。彼女は相手に相性の良い魔法を見極める為、火、水、風、地と装備したスキルを一通り試して相手を攻め立てていた。
「炎の効果が大きいようですね」
相手に通りが良い属性を見つければ、エルバッハはそれを中心にして魔法を行使していく。
炎のエネルギーを連続してぶつけられれば、巨大ガニはさらに泡を吹き出してジタバタと暴れ始める。
真、T-Seinの2人が好機と見て、同時に仕掛けた。
体内を循環させるように気を練っていき、T-Seinは自身の力を高めて行く。そして、彼女は強く砂を踏みしめて一気にカニの懐まで迫り、相手のハサミを大きく弾き飛ばす。
「今だ」
T-Seinの声に応じ、真が追撃を行う。
「出し惜しみはしない」
自身の生命力を削ってマテリアルに転化し、真はそれを魔導剣「カオスウィース」に纏わせた。
敵の腹下から、彼はその刃で敵の甲羅をやすやすと切断して行く。
もがき苦しんでいた巨大カニから、どす黒い液体が零れ落ちる。
どうという音を立て、砂埃を上げて倒れこんだそいつは次の瞬間、全身が爆ぜ飛ぶようにして姿を消してしまったのだった。
中央、狂気の歪虚もハンターに激しく猛攻を仕掛けてくるようになっていた。
「歪虚め、巨大雑魔を生み出すのも今日が最後だ!!」
前線の炎は集中してからの斬撃で、敵の身体に切りかかる。
相手は小さな体躯ではあるが、その動きがいまいち掴めぬ相手とあって、致命傷を与えているのかどうかも分かりづらい。
その上で、相手は足の触手を長く、そして広範囲に広げていく。
炎はそれを「ディスターブ」で防ごうとしたが、しつこく絡みつく触手は彼の腕を縛りつけてしまう。
小夜もまたそれを受けて脚を縛られてしまうが、彼女は触手を切り裂いていった。
「けど、これで全部は切れないだろうからなぁ……。めんどい!」
見れば、切っても切ってもその足を修復しているようにも見える。再生をしているようだが、さすがに体力まで回復してはいないと思いたい。
「タコ足はタコ足でも、こんだけ多いとおいしそうに見えないんだよ!!」
蠢くその足触手は、醜悪な印象しか抱かせない。小夜はなおも腕を捕まれながらも、それを聖罰刃で断ち切った。
「お前の足なぞ、タコ焼きにもできないな! けど、お前はエビ。海老の急所は胸!」
いくらタコ足を持っている相手だろうが、頭がエビならエビだと、小夜は敵の胸、甲虫部分を狙う。
「〆て、エビかタコか確かめてやる!」
小夜は一度刃を鞘に収める。その上で、彼女はマテリアルを急速に練り上げて行く。
「足も無視して貫いてやる!」
光り輝くマテリアルの光、それは彼女の抜刀と共に砂浜を駆け抜ける。
ぽたりぽたりと滴り落ちる体液。確かに、その一閃は狂気の胸を貫いた。
だが、敵は痛がる素振りすらも見せずに大きく羽ばたき、後方で回復に当たっていたユキヤ目掛けて飛び掛っていく。
ユキヤは巨大ムカデと対するメンバーの回復に全力を尽くしていて、歪虚の奇襲に気づくのが遅れてしまう。
敵の触手に腹を貫かれてしまった彼は血を吐いてしまい、砂の上に崩れ落ちてしまった。
黄金の胴に白銀で雪の結晶にも似た飾りの付いたロザリオを握り、駆け寄ったロニが祈りを捧げてマテリアルを引き出そうとしていたが、……治療は間に合わない。
なおも、相手はこちらに襲ってくる。ロニはマテリアルを光の防御壁として展開し、自らの防御を高めることにしていた。
「油断はできんな」
気を抜くと、あっさり体力を持っていかれる危険な相手だ。ロニはしっかりと仲間の支援に当たり、更なる犠牲者がでないようにと治癒の魔法を行使していく。
巨大ムカデを抑えていたユウ、アルト。
ユウは時にその巨体にのしかかられ、身動きが取りづらい状況となっていたが、影殺剣「カル・ゾ・リベリア」を敵の腹から突き刺し、脱出する。
こちらもどす黒い血を撒き散らし、暴れ狂うムカデ。今度はアルトへと素早く這いずって近寄り、アゴで食らい付こうとしてきた。
それを喰らうと、毒を注入されるばかりか、身体をへし折られかねない。
「巨体相手に押し合いは不毛だしな」
全身を炎のオーラで覆うアルトは敵の攻撃を避けるよう砂の上を跳び、再度、手裏剣「八握剣」を投げ飛ばして突き刺す。
そのまま引き合うように身体を加速させた彼女は、ワイヤーウィップを振るって敵の胴体を叩きつける。
やや苦戦する状況もあるが、ハンター達は少しずつ状況を改善していく。
カニ雑魔が倒れたことで、其方に当たっていたメンバーがムカデの討伐に集中していたのだ。
ユウはT-Seinがムカデを殴り付けて行くのに合わせ、グローブで強くその頭を殴り付けて行く。
かなり痛めつけられているはずの巨大ムカデ。動きは相当鈍っているが、なおもアゴを動かしてアルトに食らいついた。
シャアアアアアアァァァ……。
全身を包むオーラをそのままに、アルトは武器を剛刀「大輪一文字」に持ち変える。
攻め入る真が魔導剣で斬撃を浴びせかけた直後、アルトはその刃で大きく半円を描き、ムカデの体を半分以上断ち切った。
黒い液体を飛び散らせ、のたうち回る巨大ムカデ。その激しい動きに砂埃が舞い上がる。
(……確か人間の脳などと違い、神経節というんだったが、体の各所にあるとかないとか)
ムカデという生物はしぶといことで知られる。真っ二つに斬った程度では暴れ回るとアルトは認識していた。
ユウもまた、警戒を怠らない。消滅するまではどんな攻撃を行うかわからないのだ。
だが、それも杞憂に終わる。完全に力尽きた巨大ムカデはぐったりして胴体を砂の上に横たえた。
そして、すぐにその全身を霧散するようにして、消えてなくなっていったのである。
●
平原の羽虫雑魔掃討は順調に進む。
聖堂戦士団の聖導士達も奮戦し、確実に羽虫を叩き落とす。
ここからでも、砂浜は遠くに見えるが、ファリーナは巨大雑魔の姿がなくなっていたことに気づいて。
「皆さん、ご武運を……」
彼女は羽虫を一刀両断しながら、ハンターの為に小さく祈っていた。
残りは、狂気の歪虚のみ。
倒した巨大雑魔と比べれば、その身体は半分にも満たない小ささでしかない相手だが、力は雑魔とは比較にならない。
序盤からそいつを抑え続ける炎の傷は深くなって来ている。小夜も肩で息をしながら、刃を浴びせかけていた。
彼らが倒れぬようにと、ロニは光を煌かせて癒し続ける。彼の回復支援がなければ、炎も小夜もすでに倒れていたかもしれない。
途中、相手を脅威と見たアバルト、エルバッハが援護攻撃を始めていた。
冷気の矢を幾度か放っていたアバルトだったが、スキルが尽きたことで攻撃手段を変更する。
ロングボウから矢を飛ばす瞬間、マテリアルによって加速させ、相手の体を射抜く。思った以上に素早く動く相手だ。アバルトは速やかにリロードし、更なる射撃を仕掛けて行く。
相手の間合いを見計らっていたエルバッハも、スキルが続く限り魔法を撃ち放つ。
狂気はどうやら風に弱いらしい。書物を手に取った彼女は前方へと鋭い風を飛ばし、敵の羽根、足触手を切断した。
「このまま押し切れればいいのですが……」
エルバッハはすでに倒れたユキヤに視線を巡らせ、さらに、前線で息を荒くする炎と小夜を見やる。
どこまで持つか。最悪、撤退も視野に入れなければならないが……。
雑魔が倒れたことで、アルト、真も加勢する。
アルトは投擲した手裏剣からの連撃に戻して攻め立て、真も胴体や触手の切断を狙っていた。
そして、序盤から歪虚の対していたロニも、仲間の数が増えたことで、時に攻撃に乗り出す。
「このまま飛び回られても厄介だ。この場に縫い留めさせてもらう」
錬金杖「ヴァイザースタッフ」をロニが振るうと、彼のロザリオが光る。直後に虚空から影の刃が現れ、敵の体を切り裂いていく。
息つく炎もまた敵が怯んだのを見計らい、エアリアルを構え直す。
「死にフラグは折るためにある!」
大きく息を吸い込み、炎は敵の頭上部を切り裂き、さらに返す刃で足触手を根元から断ち切る。
ついに、狂気は地面へと落下した。再生の能力も落ちているのか、足触手がなかなか元に戻らず、羽音を鳴らして応戦してきた。
そこで、ユウが音に負けじと歌い始め、ステップを踏む。体勢を崩しかけようが、彼女はなんとか倒れるのを堪え、砂浜を舞い踊る。
同時に、T-Seinが羽根を狙って鉤爪状の衝撃波を繰り出す。切り裂かれた羽根はもはや音を立てるのも難しくなってきていた。
それを羽ばたかせようとする敵に、小夜が躍りかかる。
「……知らないのか。ヴォーパルバニーからは逃げられない!」
彼女はそのエビの頭を、「ターミナー・レイ」の刃で完全に両断してしまう。
これには狂気もなす術もなく、どろりと全身を崩し、蒸発するようにその存在を消滅させたのだった。
●
負傷者は出たものの、歪虚と巨大雑魔の消滅を確認したハンター達。
砂浜から敵影はなくなったが、エルバッハ、真は警戒を怠らない。
エルバッハは双眼鏡を手にし、周辺に怪しい影がないかと確認していた。
(心配のしすぎだと思うのですが……)
万が一、真の黒幕などという存在がいた場合を考え、彼女はそれが周辺にいないかと確認していたのだ。
(これで、一件落着ならば良いのだけど)
真もまた、巨大化した生物が他に残っていないかと、周囲に視線を巡らせる。
「……しかし、真冬の海は寒いなあ」
冬の海風は、戦い後のハンター達の体を急激に冷やす。
やがて、これ以上の敵影はないと判断したハンター達は深く息をついた。
「これでしばらくは、この近辺も安泰だろうか……」
「……長かった一連の騒動もこれで終幕か。二度とこのような事件が起きて欲しくないものだな」
肩の力を抜くロニ。アバルトもまたこれまでの騒動を思い返しながら、本音を漏らす。
「様々な要因が重なったとはいえ、巨大化できる薬というのは危険だな」
口元に手を当てて、アルトは考える。
細かい報告書を確認までは時間がなかったということだが、アルトが主張するには……。
格闘技が階級分けされているように、質量というのはそれだけで巨大なエネルギーであり、破壊力を生む。
つまり、知恵ある歪虚や、犯罪組織がその薬についての風評を利用する状況を懸念していたのだ。
「厳しいとは思うが、再調査の結果、やっぱり薬は関係なかったという風に噂を上書きできないだろうか?」
アルトが仲間達へと提案を持ちかけたところで、明るい声が砂浜に響く。
「お疲れ様です。無事、撃破できたのですね!」
そこへ、羽虫雑魔を殲滅した聖堂戦士団達がやってきた。喜ぶファリーナがアルトの意見を耳にし、それに理解を示す。
「はい……。すでに流布した噂を上書きするのは難しいものです」
とはいえ、できる限りやってみようと、彼女は聖堂教会やハンターズソサエティに掛け合ってみるとのことだった。
「やっぱり、食べられなかったか……」
小夜は消えてなくなった歪虚の遺体について、残念がる。
エビだの、タコだといった食材を嫁の土産にしたかったと彼女が呟くと、ファリーナが少し苦笑してしまう。
「ファリーナさん。これからもよろしくお願いします」
炎もファリーナに気づき声をかけてくる。彼女は「はい」と笑顔で答えていたようだった。
少し離れた場所で、T-Seinは1人、紫煙を燻ぶらせながら黄昏ている。
そんな彼女を、安全確認、ユキヤの治療を終えたユウが見つけて。
「ザイン、ミケや猫さん達の様子を見に、猫カフェにこれから一緒にどうかな?」
ユウが誘うは、ガンナ・エントラータの裏通りにある猫カフェ「ニャンドリーム」だ。
すると、T-Seinは食い気味に頷き、ユウの手を握って港町へと戻っていくのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/02 23:58:31 |
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作戦会議室 南護 炎(ka6651) 人間(リアルブルー)|18才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/12/04 02:59:01 |