ゲスト
(ka0000)
【天誓】天翔雷破
マスター:植田誠

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/05 19:00
- 完成日
- 2017/12/24 21:32
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※注意
本依頼は『空戦』となる。
地上戦は一切行われないため飛行ユニット(ワイバーン、グリフォン)の使用が前提となる。
飛行ユニットを使用しない場合著しく描写が減る場合があるため注意すること。
●
作戦は完璧なはずだった。
帝都における大規模な戦闘。そうなればその防空はヒンメルリッターが担うはずだ。
そのため、ハヴァマール、ナイトハルトを援護するために空戦部隊を動かす。ただし、本命はその途上にある。
本拠地から帝都に至る途上のこの空域には、いまだ歪虚にも人類にも与していない英霊が存在している。
その名は、天雷のヒンメル。
本来はナイトハルトの力とすべき英霊なのだが、ナイトハルトが死ねばこの英霊はそのまま自分のものとしてしまえばいい。ナイトハルトが勝つにしても、決着がつく前に戦闘参加し、その報酬としてこれを得ればいいだろう。
かつて空戦において勇名をはせたとされるこの英霊の力を手に入れることができれば、帝国の制空権を手にすることも不可能ではない。
何より、始まりのグリフォンライダーと称されるものが歪虚の手に落ちたとなれば、ヒンメルリッターにどれほどの苦痛を与えられるか。考えただけでも笑いが止まらない。なのに……
「なぜ……なぜ貴様らがここにいる!!!!」
フリッツ・バウアーは絶叫した。
目前に広がる帝国軍第5師団……ヒンメルリッターのほぼ全軍を目にして。
●
「それでは、再度確認させてもらおう」
第5師団兵長、ウェルナー・ブラウヒッチがハンターを前にして作戦の確認を行っていた。
「すでに我が第5師団は進軍を開始。目的は帝都上空を脅かそうとする歪虚軍の撃退になる。ただし……」
そういってウェルナーは地図上を指す。先日天雷のヒンメルとハンター達が接触した地域だ。ハンターからの指摘で再度資料の調査などを行った結果、かつてこの辺りはグリフォンライダーの訓練地だったらしい。尤も、今はその面影もないが。
「戦場となるのはこの空域になると団長は予測している。現状大規模な空戦部隊を動かせる歪虚はフリッツ・バウアーしかおらず、その性格を鑑みた結果だそうだ」
そういって、ウェルナーは顔を上げる。
「私も、団長の意見に賛成だ。他の兵長も、今回は同じく賛成を示しているため、第5師団としてはこの地で決戦に臨む……が、君たちの役割はその援護ではない」
ウェルナーは次の資料を提示する。それは、ハンター達との協力でより精度を増したヒンメルに関する調査報告書だった。
「帝都から送られてきたものなので信頼には値する……まぁ情報提供者は匿名希望らしいから誰によるものかはこちらも知らないのだがね」
そこに書かれていたのは、ヒンメルのおびき出し方……周辺域での戦闘行動の継続……というものが書かれている。
「これはフリッツも知らないはずだ。この情報面のアドバンテージを活かし……君たちにヒンメルを討伐してもらいたい、というのが依頼の内容だ」
討伐というと物騒だが、ようはヒンメルを力によって屈服させこちらに従わせるということだ。
また、ヒンメルの能力に関しても先の遭遇戦において見当がついている。
武器はハルバードに小盾。簡単な魔法を扱うが、補助系の魔法は用いない。
そのため、基本的には距離を取らない限り直接的な攻撃に限られるようだが、その攻撃に微弱な電気が流れており、受けた相手を麻痺させる。
移動速度も高い。ただ、近接戦を始めた際には用いていないことを見るに、距離の指定はできない。一定の距離を瞬時に動けるという能力にすぎないようだ。
「最後に注意点だがね……今回は恐らく一騎打ちになる」
ヒンメルの能力として特異なものは、群体であるということだ。1体を倒しても、全体のほんの一部に過ぎない。ヒンメルリッターと歪虚の戦闘中ヒンメルは現れるだろうが、それがどれだけの数になるかは見当がついていない。
「ヒンメルリッターの団長や兵長クラスなら問題なく叩けるだろうが……こっちも歪虚にかかりきりになる。後詰として私もいるんだが……君たちの力が頼りになる」
ただし、相手は『始まりのグリフォンライダー』だ。地上戦ではハンターが圧倒出来ていたとしても、空戦においてはその能力差を技術と経験によって容易に埋められてしまうだろう。
「……最後に、団長からの伝言があるので伝えておくよ」
資料をまとめながら、ウェルナーは言った。
「『君たちならやれる』とのことだ。ぜひとも団長や……我々の期待に応えてもらえると嬉しい」
●
「お、始まったな?」
空域のはるか下方。地上には情報を流した張本人、エルウィンが立っていた。
この地には……あくまで地上にはだが、歪虚はいない。そういう意味では安全な場所である。
「……いたな」
いや、一体だけ……全身を包帯で包んだミイラの如き歪虚が木陰に潜んでいる。
レオン・シュナイダー……かつて帝国軍第5師団において神眼の二つ名を持っていた副師団長。
レオンの射撃能力は非常に高く、地上からグリフォンライダーを狙撃することができる。もっとも、射程に入ってきた目標に限定されるが、戦闘が激しくなれば高度も激しく移り変わる。狙撃の機会も得られるだろう。そういう予測でフリッツが配置しているのだろう。
そのレオンは、エルウィンの接近に気づき、銃口を向ける。
「おいおい、一緒に後輩たちの戦いぶりを観戦しようと思ってたんだが、そういう気はねぇのかい?」
エルウィンの声にもレオンは無反応で、トリガーを引く。
「俺の声もわかんねぇか……悲しいねぇ……」
銃撃を躱したエルウィンはそう呟くと、機導剣を展開した。
本依頼は『空戦』となる。
地上戦は一切行われないため飛行ユニット(ワイバーン、グリフォン)の使用が前提となる。
飛行ユニットを使用しない場合著しく描写が減る場合があるため注意すること。
●
作戦は完璧なはずだった。
帝都における大規模な戦闘。そうなればその防空はヒンメルリッターが担うはずだ。
そのため、ハヴァマール、ナイトハルトを援護するために空戦部隊を動かす。ただし、本命はその途上にある。
本拠地から帝都に至る途上のこの空域には、いまだ歪虚にも人類にも与していない英霊が存在している。
その名は、天雷のヒンメル。
本来はナイトハルトの力とすべき英霊なのだが、ナイトハルトが死ねばこの英霊はそのまま自分のものとしてしまえばいい。ナイトハルトが勝つにしても、決着がつく前に戦闘参加し、その報酬としてこれを得ればいいだろう。
かつて空戦において勇名をはせたとされるこの英霊の力を手に入れることができれば、帝国の制空権を手にすることも不可能ではない。
何より、始まりのグリフォンライダーと称されるものが歪虚の手に落ちたとなれば、ヒンメルリッターにどれほどの苦痛を与えられるか。考えただけでも笑いが止まらない。なのに……
「なぜ……なぜ貴様らがここにいる!!!!」
フリッツ・バウアーは絶叫した。
目前に広がる帝国軍第5師団……ヒンメルリッターのほぼ全軍を目にして。
●
「それでは、再度確認させてもらおう」
第5師団兵長、ウェルナー・ブラウヒッチがハンターを前にして作戦の確認を行っていた。
「すでに我が第5師団は進軍を開始。目的は帝都上空を脅かそうとする歪虚軍の撃退になる。ただし……」
そういってウェルナーは地図上を指す。先日天雷のヒンメルとハンター達が接触した地域だ。ハンターからの指摘で再度資料の調査などを行った結果、かつてこの辺りはグリフォンライダーの訓練地だったらしい。尤も、今はその面影もないが。
「戦場となるのはこの空域になると団長は予測している。現状大規模な空戦部隊を動かせる歪虚はフリッツ・バウアーしかおらず、その性格を鑑みた結果だそうだ」
そういって、ウェルナーは顔を上げる。
「私も、団長の意見に賛成だ。他の兵長も、今回は同じく賛成を示しているため、第5師団としてはこの地で決戦に臨む……が、君たちの役割はその援護ではない」
ウェルナーは次の資料を提示する。それは、ハンター達との協力でより精度を増したヒンメルに関する調査報告書だった。
「帝都から送られてきたものなので信頼には値する……まぁ情報提供者は匿名希望らしいから誰によるものかはこちらも知らないのだがね」
そこに書かれていたのは、ヒンメルのおびき出し方……周辺域での戦闘行動の継続……というものが書かれている。
「これはフリッツも知らないはずだ。この情報面のアドバンテージを活かし……君たちにヒンメルを討伐してもらいたい、というのが依頼の内容だ」
討伐というと物騒だが、ようはヒンメルを力によって屈服させこちらに従わせるということだ。
また、ヒンメルの能力に関しても先の遭遇戦において見当がついている。
武器はハルバードに小盾。簡単な魔法を扱うが、補助系の魔法は用いない。
そのため、基本的には距離を取らない限り直接的な攻撃に限られるようだが、その攻撃に微弱な電気が流れており、受けた相手を麻痺させる。
移動速度も高い。ただ、近接戦を始めた際には用いていないことを見るに、距離の指定はできない。一定の距離を瞬時に動けるという能力にすぎないようだ。
「最後に注意点だがね……今回は恐らく一騎打ちになる」
ヒンメルの能力として特異なものは、群体であるということだ。1体を倒しても、全体のほんの一部に過ぎない。ヒンメルリッターと歪虚の戦闘中ヒンメルは現れるだろうが、それがどれだけの数になるかは見当がついていない。
「ヒンメルリッターの団長や兵長クラスなら問題なく叩けるだろうが……こっちも歪虚にかかりきりになる。後詰として私もいるんだが……君たちの力が頼りになる」
ただし、相手は『始まりのグリフォンライダー』だ。地上戦ではハンターが圧倒出来ていたとしても、空戦においてはその能力差を技術と経験によって容易に埋められてしまうだろう。
「……最後に、団長からの伝言があるので伝えておくよ」
資料をまとめながら、ウェルナーは言った。
「『君たちならやれる』とのことだ。ぜひとも団長や……我々の期待に応えてもらえると嬉しい」
●
「お、始まったな?」
空域のはるか下方。地上には情報を流した張本人、エルウィンが立っていた。
この地には……あくまで地上にはだが、歪虚はいない。そういう意味では安全な場所である。
「……いたな」
いや、一体だけ……全身を包帯で包んだミイラの如き歪虚が木陰に潜んでいる。
レオン・シュナイダー……かつて帝国軍第5師団において神眼の二つ名を持っていた副師団長。
レオンの射撃能力は非常に高く、地上からグリフォンライダーを狙撃することができる。もっとも、射程に入ってきた目標に限定されるが、戦闘が激しくなれば高度も激しく移り変わる。狙撃の機会も得られるだろう。そういう予測でフリッツが配置しているのだろう。
そのレオンは、エルウィンの接近に気づき、銃口を向ける。
「おいおい、一緒に後輩たちの戦いぶりを観戦しようと思ってたんだが、そういう気はねぇのかい?」
エルウィンの声にもレオンは無反応で、トリガーを引く。
「俺の声もわかんねぇか……悲しいねぇ……」
銃撃を躱したエルウィンはそう呟くと、機導剣を展開した。
リプレイ本文
●
「ヒンメルの出現を確認。ここから断続的に現れてくるだろう」
双眼鏡を覗くウェルナー。その声を聞き、まずは榊 兵庫(ka0010)が飛び出した。
「一番槍はいただくとしよう。行くぞ月影!」
「それじゃ次は俺だ! 行こうロジャック! 空で英霊が待ってる!」
兵庫に続き、飛び出していったのは岩井崎 旭(ka0234)だ。
(経歴を知るに、彼らはただ正々堂々と空で戦いたかっただけなのかもね)
懐中時計を見ながらカーミン・S・フィールズ(ka1559)は短く言った。
「次、出るわ」
「伝説の『始まりのグリフォンライダー』……」
実物が目の前に迫っている。そんな実感を得ながら、Uisca Amhran(ka0754)は呟く。
「私も、今出せる最大の力で……お相手させてもらいます。いくよ、ウイヴル!」
「……さ、参りましょうか。戦場へ」
Uiscaに続くのは静刃=II(ka2921)。周囲を警戒しつつ飛んでいく。
「……手をこまねいてても仕方ねぇ。出るぜ!」
「ざくろも行くよ!」
レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)、時音 ざくろ(ka1250)と続々戦場に散っていく。
「いこう、レガリア! あたし達の力見せてやろうよ!」
「最後は私ね……さぁ、行くわよバルト!」
ラミア・マクトゥーム(ka1720)、エリ・ヲーヴェン(ka6159)もヒンメルを迎撃するため飛び出していく。
これで空にいる9人全員が戦域に散った。いないのは地上に待機しているマリィア・バルデス(ka5848)だけとなった。
「さて……」
ウェルナーは双眼鏡を覗きながら動向を見守る。万が一が発生したときどうにかするのが後詰としてこの場に残るウェルナーの役目だった。
●
兵庫はフライングファイトを使用しつつ突撃。ヒンメルも同様、こちらに気づき接近してくる。
まず仕掛ける兵庫。それに対し防御するヒンメル。
寄って、離れて、また寄って……一撃離脱の応酬が続く。
はたからみれば、互角の戦いに見えただろう。だが、当の兵庫は……
(グリフォンの扱いでは相手に一日の長があるか……)
ヒンメルはグリフォンを巧みに操り、こちらが防御しづらい位置から攻撃してくる。また、受けの際もこちらがグリフォンの方を狙っているのを察してか、微妙な上下動でその狙いをすかし、攻撃をさばいている。
(一撃離脱……空戦における常道ではあるが、その点ではやはり向こうが上か)
そう、思考を巡らせる間もなくヒンメルが攻撃。
「くっ……」
受ける兵庫。手に痺れが走る。衝撃によるものではない。ヒンメルの持つ特性によるものであるのはとうに気が付いている。今のところ、戦闘に支障があるレベルではないが、これが蓄積されてくると、あるいは致命的なダメージになるかもしれない。
「……仕掛け時、か。臆するなよ月影……!」
呟くとともに、兵庫は攻めの構えをとる。
無論、ヒンメルは止まらない。兵庫がどんな構えを取ろうと向かってくる。
そして、ヒンメルの持つハルバードの穂先が兵庫の心臓を捉え……
「見えたぞ!」
その穂先を、槍で逸らす兵庫。攻撃は急所を外し、兵庫の肩に刺さる。だが、攻撃をそらしながらも、兵庫は頭上で槍を回し、一気に振り下ろす。カウンター気味に入った一撃は袈裟懸けにヒンメルを斬り伏せる。
「手応えあり……ここで落とすぞ月影!」
急速離脱しようとするヒンメル。だが、それを逃がす兵庫ではない。フライングファイトにより速度を増した月影はヒンメルに追いすがる。
「もらった!!」
チャージングにより威力を増した刺突は盾で防ぐ間も与えず、正確にヒンメルの胴体を刺し貫いた。
バチバチと放電音が鳴るとともに、パッと光が弾けた。気付くと、槍先にヒンメルの姿はなくなっていた。
「逃げた……わけではないな。倒したということでよさそうだ」
傷口を抑えながら、兵庫は呟いた。だが、勝利の余韻に浸る時間はない。倒したのであれば、味方の援護を行わなければならない。
「まだ飛べるな、月影……よし、では次の戦場へ向かうとしようか」
●
「俺は岩井埼 旭! リアルブルーから来たイクシード、覚醒者だ!」
旭はそう言ってヒンメルの前に立ちはだかる。
「この後ろは、あんたを狙ってヴォイド相手に、あんたの後輩たちが大決戦中だ」
そう口上を述べつつ、ゆっくりと近づく旭。無論、邪魔する相手にヒンメルが容赦するはずもない。
「邪魔しに行くってんなら……」
加速するヒンメルが全力の突きを放つ。
「勝負だ、天雷!!」
その声を、ヒンメルは後方から聞いただろう。旭はロジャックにバレルロールを使用させ、その攻撃を躱していた。
「まずはあいさつ代わりだ、ロジャック!」
ロジャックがファイアブレスを使用。火炎弾がヒンメルに直撃する。
だが、盾を構えたヒンメルは炎に巻かれながらも突っ込んでくる。そのまま勢いよく放たれた突き。ハルバードで旭は防ぐが、高い威力に押される。
「っ……やっぱつえぇな!」
すぐさま移動、ロジャックはワイバーンだ。足を止めていては飛行の安定が保てない。無論ヒンメルも追従してくる。
だが、ここでも旭はロジャックにバレルロールを指示。回転によりついた加速で高速旋回し、ヒンメルの後ろを取る。
……が、その移動先にハルバードの穂先が向けられている。そこから放たれる電撃が、ロジャックに直撃する。
「大丈夫か!? ……英霊になるくらいの英雄だ、そう来ねーと!」
遠距離戦では互角といったところだろうか。一時距離がとる二者は、再度加速し、接近していく。
互いのハルバードが空中で交錯する。これも互角か。
「だが、これはどうだ!」
いや、互角ではない。下方から振り上げられる剣がグリフォンごとヒンメルを斬る。
オルトロス……乗り手とユニットによる同時攻撃だ。
下方からのロジャックによる攻撃によりヒンメルは態勢を崩し……旭のハルバードが競り合いを制する。
「これで終わり……にはならないよな……!」
騎乗しての戦闘技術は高くとも、互いの連携という点では旭が勝った。傷ついたヒンメル。だが、戦闘の意思は挫けていないようだ。
「なら最後まで……ケリをつける!!」
旭は精霊纏化を使用。古びた銀の鎧を纏い、そこから踊り狂う乱気流を放つ。
回避は能わず。巨大化により烈しくも猛々しいその二連撃がヒンメルを打倒する。
(俺らは別に……英霊と殺し合いしたいってわけじゃねーんだけどな……)
消えゆくヒンメルを見て、旭は心中で呟いた。
「……よし、まだこれで終わりじゃないぞ、ロジャック!」
ひとしきり感傷に浸る旭だったが、それも終わり次の戦場へと飛び出した。
●
「さぁあなたの力を見せてちょうだい。フライングファイトよ」
ヒンメルを発見すると、カーミンはすぐにスペルボウを構え、菖蒲を放つ。これは当たらないが、それでいい。
(気付いたわね……さぁ、貴方の敵はここにいるわ)
思惑通り、ヒンメルはこちらへ向かってくる。
「さぁ、ここからね……」
ヒンメルリッターで弓を使うものはいない。その理由は単純に手綱を離すことによる危険性を排除するためであるが、カーミンは別の考察を持っていた。
(空戦だと、命中の確保と射程の優位がすぐになくなること。これが不利な点よね)
味方の援護があれば話は別なのだが、この状況……1対1となるとやはり不利な部分が目立つ。だが、カーミンはその武器に弓を選んだ。その不利を無くす手段を持っていたからだ。
ヒンメルは接近しつつ魔法による雷撃を放つ。これはグリフォンが盾を使用して防いだ。その間に、カーミンは千日紅を使用。通常は近接戦闘に使われるイメージが強いスキルだが、カーミンはこれを再装填の隙を補うために使った。
「距離を取りつつ、当てていくわ。援護はお願いよ?」
そういって、カーミンは先と同じように菖蒲を使用。今度は3発中1発が命中。
フライングファイトを指示しつつ、手早くリロード。距離を取らせるのも忘れない。
ヒンメルの方も魔法を使って応じようとしたが、すぐに諦める。射撃戦での不利を悟ったのだ。
再三の菖蒲。今度は3発中2発が命中。この命中精度の向上は、同時に距離が詰まってきていることを表してもいた。
「近接戦になりそう……あなたも覚悟、出来てるわよね?」
下方を見ずに呟くカーミン。次いでの菖蒲の直後、弓から剣に持ち替える。その間にヒンメルは間合いに入り込むが、グリフォンの方が易々とカーミンを攻撃させない。爪による攻撃で牽制する。ヒンメルはハルバードで切り払い、そのまま返す刃で斬りつける。
今度はグリフォンが盾で防御。
「もう逃げられないわよ!」
グリフォンとヒンメルの攻防の隙をつき、クレマチスを使用。とっさにヒンメルは盾で防ぐが、盾のある手が絡めとられる。その手を、カーミンが引く。防御が崩れた。
その隙を逃さず、グリフォンが再度爪の一撃を、今度はまともに食らわせる。だが、ヒンメルはまだ健在だ。盾で防がれたハルバードを、逆方向から振り回すようにカーミンへと打ち付ける。ダメージは重い……が、それは向こうも同じ。
「っ……お、お願い!」
カーミンの言葉と共に、グリフォンが爪でヒンメルを蹴り飛ばす。その間にカーミンは再度弓を手にした。
「藤袴!」
ヒンメルが盾を構える隙も与えない一射が、その胴体を打ち抜いた。
●
こちらを発見し向かってくるヒンメルに対し、サイドワインダーを使用してUiscaは接近していく。その行く手を阻むように、ヒンメルが穂先を向け雷撃を放つ。駆けるウイヴル。その攻撃を強固なドラゴンスケイルで受け止める。
その間に懐に飛び込んだヒンメル。ハルバードによる攻撃をUiscaは盾を構え受け止める。重い一撃だ。だが、ウイヴルが態勢を整えたお陰で落とされるようなことは無い。
「騎乗戦闘では乗り手と竜のシンクロが大事……ありがとう」
うまく支えてくれたウイヴルに礼を言うUisca。そのまま、サイドワインダーを指示。速度を活かした戦いに持ち込む算段だ。
ヒンメルはこちらの行動に対し冷静な判断を見せる。軌道の延長を読んだ偏差的な魔法攻撃や懐に飛び込んで攻撃してから急速一撃離脱を繰り返すことで削りに来る。
対してUiscaは龍獄による攻撃を企図していた。
(群体であるヒンメルさん……此方はただの強さではなく「一騎当千」……いえ「万夫不当」といえる強さを見せなければならないのかもしれません)
そのために、範囲攻撃を中心として攻撃する。そう決断して、Uiscaは杖を向ける。
この行動に脅威を感じ取ったヒンメルは、急速接近。強力な一撃をUisca自身に与える。
盾で防ごうとするも、ヒンメルのハルバードによる鋭い一撃は防ぎきれない。弾かれ、態勢を崩す。だが、落ちはしない。
「私も伊達に白龍の巫女と呼ばれていませんよっ」
この時、ウイヴルは姿勢の維持に専念していた。もう勝負がついたことが分かっていたから。
ヒンメルが気づいた時にはもう遅かった。周囲に現れた無数の牙や爪。それらが正確にヒンメルとそのグリフォンを貫いていく。
白龍の巫女が使うにはどこか似つかわしくない闇の力が周囲に充満し、ヒンメルは縫い付けられたかのように動けなくなっている。
「空での戦いに満足できましたか?」
その場を離れるUisca。見るとその傷が瞬く間に治癒していく。そして、再び杖を向ける。Uiscaの魔力に抗うかのように、ヒンメルもハルバードを向けるが……もう遅い。再度振るわれる龍獄が、ヒンメルに止めを刺した。
●
「この風を切る感覚……空を飛ぶ醍醐味ですね」
目をつむり、風を感じながら静刃は呟く。
(この子に乗ってる時にはいつも感じずにはおれません)
やはり、空というのは地上とは違う何かを感じるものなのだろう。
だが、その感覚に浸っている訳にも行かない状況だ。
加速していく雅。ヒンメルを視界に入れると、すぐに間合いを詰めていく。
(ただ、この刀にて意思を交わすのみです)
そう心中で呟いた静刃。その立ち回りは居合いによる攻撃を主体としたものだ。
雷撃で牽制しつつ接近してくるヒンメル。すぐさま間合いに入るとハルバードによる一撃。躱せず、これを静刃はもろに喰らう。
「……っ!」
受けると同時に、雅にすぐ距離を取らせる。
(痺れるような感覚は確かにありますが……)
攻撃に帯びた電撃。その効果のほどを肌で確かめてみようというつもりだったのだが、それ以前に、そう何度も受けていい攻撃ではないようだ。
「では、次はこちらの攻撃を受けてもらいましょう」
接近してきたヒンメル。それに対し居合を用いた攻撃。高速で抜き放たれた太刀はヒンメルの腹部を切り裂く。間違いなく通用する。が……
「くっ……」
反撃。鎧受けを使用しても大きなダメージを受ける。躱すことも出来ない以上このままではまずい。
(さすがは始まりのグリフォンライダー……まったく……)
そんな状況で、静刃は……笑った。
(ふふ、斬りがいのある相手ですね)
再び居合の構えを取る静刃。同時に、雅に言う。
「突っ込みなさい」
その言葉に従い、雅は突撃。ヒンメルも当然回避しようとする。
だが……動けない。静刃の心の刃によるものだ。威圧されたヒンメル、そのグリフォンは動くことも出来ず、突撃をもろに喰らう。
このタイミング、居合の有無に限らずヒンメルは避けられないだろう。だが、静刃もダメージが大きいようで、血を吐き、動けない。
そこを、ヒンメルが狙う。武器を振り上げ、止めの一撃でもくれてやろうと。
……これが、罠とも知らずに。
「お終い……です」
刃がヒンメルの胴を一閃。カウンターアタックが完璧に決まった形だ。
だが、ハルバードの方もすでに振り下ろされ、肩から大きく切り裂かれた。
落ちていくのは……ヒンメルの方。
(あと一歩浅ければ、結果は逆になっていましたね)
肩で息をしながら静刃は刀をしまう。そして……そのまま、雅の背で倒れこむように気を失った。
●
空中で激戦が繰り広げられている間、マリィアは一人地上にあった。
R7エクスシア、mercenario。高い戦闘力を持ち、特に射撃戦に強い。ここから、敵が近づいてくるか、近くに出現するまでは対空射撃を行うつもりだったようだ。
だが、今マリィアは焦っていた。
(敵が……いない?)
当然、といえば当然のことだ。敵も味方も、地上から攻撃されるような高度で戦ってはいない。マリィアは戦闘高度を見誤っていた。
このままでは、自身が戦うこともなく、戦闘が終わる可能性があった。
結局……マリィアは飛ぶことを決意した。この時、戦闘高度は600m前後。通常の空戦と比べるとやや低い高度ではあったが、それでもCAMにとっては厳しい高度だ。
飛行を開始し、最初にヒンメルを射程に入れた時には、折り返さなければいけない高度まで上がってきていた。
(やっと、見えたわね……ヒンメルッ!)
マリィアは、最大射程からフォールシュートを使用。
……着弾せず。フーファイターを使用しての射撃ではあるが、遠すぎる。
「……当たるまで何度だって……!」
すぐさまクイックリロードを使用。さらにアクティブスラスターを起動。射撃攻撃を行おうとする。
が、この時マリィアが驚愕する事態が起こった。
「……目標……至近!?」
声を上げると同時に、機体を衝撃が襲う。
高速移動能力。今戦闘において、マリィアはその能力を唯一体感することになった。
「くっ……」
ほんの少しの動揺をすぐに押しとどめ、武器をハンドガンに切り替える。
発射されるグレネード弾。それをヒンメルは回避。だが、爆発はその背で起きる。
爆風でそのまま落下するヒンメル。それを追うマリィア。
(降下しつつ戦えれば一石二鳥ってところね……)
もちろんヒンメルの方はこちらの思惑通りには動かない。すぐに態勢を立て直して反撃してくる。
この攻撃は銃剣で防御。そのまま弾くとともに銃撃。ヒンメルはこれを素早く防御するが、防ぎきれない。やはり戦闘力そのものはCAMの方が上か。
再度のプラズマグレネード。先と同じようにヒンメルは回避する。
が、同時に盾がグレネードの方に向くように防御態勢を取る。
グレネードは爆発するが、最初の一発よりも大幅にダメージは減じられただろう。
クイックリロードを利用してさらに攻撃をかけようとしたマリィアだったが……時間が来た。
機体の制御が効かなくなり、降下していく。
結局飛ぶ選択をした時点で敗北は決していたのかもしれない。だが、それでもただ漫然と……仲間たちが傷ついているのを眺めているだけ。それよりはずっとましだっただろう。
●
「さぁて……いくぜ、相棒!」
性質上一騎打ちは避けられない。
(こっちは、どこまで食らいつけるかは分からないが……)
「オレはオレなりに、拳で語らせてもらうぜ、ヒンメル卿!」
射程内に入ったヒンメルに対し、レオーネはそう声を上げた。
「よし、ネーベル……撃て!」
こちらを認識し迫るヒンメルに、獣機銃を打ち対応する。
「そのまま距離を取るぜ。つかず離れず、な……」
高速移動能力もあるヒンメル。半ば接近戦を強制してくる能力だ。それに付き合ってはいられない。
だからこそ、射撃戦に持ち込もうというのだ。
(オレの方がネーベルの足を引っ張っちまってるのが心苦しいけど、やるしかねぇ)
「お気に召さねーかもだけど、これがオレたちの戦い方でな!」
ヒンメルの方は……穂先をこちらに向けてきた。雷撃による遠距離戦で攻めるようだ。
(同じ戦い方で稽古をつけてくれる……って感じじゃないか)
ここから、しばらくの間は単調な打ち合いが続く。ネーベルが撃つ。それをヒンメルは躱し、反撃の雷撃。
「右だ、躱せ!」
レオーネが攻撃の軌道を予測しつつ指示を出す。完全には躱しきれず、かする。
再度ネーベルが撃つ。それをヒンメルは躱し、雷撃。今度は命中。態勢がぐらつくも、まだ問題ない。
「くっ……足を止めたらやられるぞ、距離を取りつつ高度をブラして的を絞らせるな!」
その後も射撃戦は続いた。それはざくろ達との戦闘に近いものだったが、違うのは戦況。威力はヒンメルよりもネーベルが撃つ獣機銃の方に分があったが、距離を取っての戦いになると当たらない。
「くそ……負けるなネーベル!」
レオーネも必死に指示を出す。少しでも耐えようと。だが、ネーベルの限界は刻一刻と近づいてきていた。
(距離を詰めたら向こうも接近戦を仕掛けてくるかもしれない、そうなったら……しかし……)
悩んだ末、レオーネは最後の勝負に出る。
「ネーベル! ツイスターを使うぞ!!」
その声に、ネーベルは力を振り絞り接近。射程に入ると同時にツイスターを使用する。風の魔法が竜巻を発生させヒンメルにダメージを与える。
だが、そこまでだった。竜巻を抜けて接近してきたヒンメルのハルバードに、ネーベルの翼が斬られる。
敗因を上げるなら、それはレオーネがネーベルに頼りすぎた点かもしれない。常のレオーネなら、機導術を用いてネーベルを援護することも出来たはずだが、それが出来なかった。
態勢が崩れ、高度を下げていくネーベルとレオーネ。
「ネーベルは、ただでは……やられねぇぞ!」
レオーネの声と同時に、ヒンメルの肩に苦無が突き刺さる。奥の手は、確かにヒンメルに届いた。届いたが……それでもヒンメルを倒すには至らなかった。
●
「なぜ戦いに介入し、その場を混乱させようとするんだ!」
こちらではすでに戦いが始まっている。デルタレイをざくろが打ち込むと、ヒンメルは盾で防御しつつ雷撃を放つ。
「くっ……やらせはしないよ。お前の相手はざくろとJ9だ!」
ざくろの方も雷撃を盾で防御。マテリアルアーマーのお陰で大したダメージは受けない。
「このままいくぞJ9! 着装マテリアルアーマー! 魔力フル収束!!」
ざくろはそのままJ9に距離を維持させる。スキルを中心とした遠距離戦をしかけるつもりのようだ。
それに応じるかのようにヒンメルも距離を取る。そこから雷撃を放つ。
ざくろのデルタレイと、ヒンメルによる雷撃の打ち合いは数度続く。が、形勢はすぐにざくろの方に傾いていく。雷撃は速く避けがたいが、それはデルタレイの方も同じだ。だが、ざくろの方はマテリアルアーマーによる防御もある。
このままでは持久戦でざくろが勝つのは目に見えていた。だからこそ、ヒンメルが雷撃を放つとともに突っ込んできたのは当然の選択といえる。
「そうだ……思いっきりやりあおうヒンメル。ここはお前の空であり、ざくろたちの空だ!」
一気に接近するとともに、ヒンメルはハルバードを振り抜く。その一連の動きは無駄もなく、ざくろは接近を咎めることもできない。天雷の名に恥じない動きだった。
「でも、お前が英霊の雷なら、ざくろは機導の雷だ」
ざくろは盾で防御。ハルバードがその盾に触れた。
「超機導パワーオン! 弾け飛べ!」
攻性防壁が発動した。ヒンメルの態勢も大きく崩される。
もちろん、防御していたとはいえざくろのダメージは0ではない。だが、問題はない。なぜなら、ここから止めを刺すのはざくろではないからだ。
「今だJ9!」
そもそも、機導術での戦闘を主体にしていたのは、J9からヒンメルの目をそらす意味もあったのだ。それも、すべてはこのタイミングのためだ。
「野生解放……アグレッシブビーストモード!」
フライングファイトを使用したJ9に、ざくろも解放錬成を使用して援護。攻性防壁の影響で動きの鈍ったヒンメルに渾身のクイックノックを叩き込む。
「いけぇぇぇぇ!!」
爪はヒンメルに深く食い込み、切り裂く。
この一撃が止めとなったのだろう。ヒンメルは消え去った。
「これが、ざくろ達の力だ!」
それを見届けたざくろは、J9とともに勝鬨を上げた。
●
「メネル傭兵団、マクトゥームの娘、ラミア! いっくよー!」
そう声を上げながらヒンメルに突っ込んでいくラミア。
「レガリア、移動と飛行はあんたに任せるよ?」
そういってラミアは棍を構える。ヒンメルの方も接近、互いに近接戦の間合いだ。
「攻撃はあたしの領分さ!」
ラミアはワイルドラッシュを使用。素早い連撃でヒンメルを攻撃する。ヒンメルは一発を盾で受けるも、もう一発をまともに喰らう。喰らいながらも、ハルバードの一撃をラミアに返す。
「っ……さすが、結構やるじゃない」
しかし、すぐさまその傷は塞がる。リジェネレーションだ。
再度ラミアはワイルドラッシュを仕掛けようとするが、ヒンメルの方は距離を取る。
「ん? 逃げよう……ってわけじゃないよね」
距離を取りながら、ヒンメルは雷撃を使用。レガリアの方にダメージが行く。
どうやら近接戦を不利と見て射撃戦に切り替えようというつもりらしい。
(高速移動でも使われて距離を取られるとまずいね)
ラミアはレガリアに指示を出し、全力でヒンメルに追いすがる。ヒンメルの方はあくまで戦闘可能な距離を維持しようとしている。この状態ならレガリアの速度でも十分、射程内に収められる。
射程内に入った瞬間、ラミアはファントムハンドを使用。幻影がヒンメルの姿を捉え、引き寄せる。
「逃がさないよ!」
接近とともに、再度ラミアはワイルドラッシュを使用。着実にダメージを与えていく。
だが、動けない状態になったヒンメルも近接戦を仕掛けてくる。互いに乗るのはグリフォンだ。ホバリングにより滞空が可能。空中にも関わらず、足を止めての戦闘となる。
ラミアが連撃で押していくが、ヒンメルの方も盾での的確な防御と強力なハルバードによる一撃を食らわせる。一撃の重さ自体はヒンメルの方が勝っているようで、ラミアの態勢が崩れる。そこに、さらにヒンメルが一撃。ここは鎧受けを使用して防御。
ここで、ファントムハンドの効果が切れ、ヒンメルが再度距離を取る。対しラミアはリジェネレーションを使用。これが無ければラミアはすでにヒンメルに返り討ちにあっていたかもしれない。それに鎧受け。防御と回復の2手があってこそ、ラミアの近接戦能力が生きるというものだ。
「レガリア、もう一度追いかけっこしないとね」
見るとレガリアの方もかなりの傷を受けている。ハルバードの加害範囲は広い。その影響をもろに受けているのだろうか。だが、その点で言えば条件は同じだ。
「さぁ、これで終わりにしよう!」
再度距離を詰めるラミア。ファントムハンドで動きを止めての近接戦。それも次の一合で終わりとなるであろうことは予想できた。
●
「待ってたわよヒンメル! さぁ! 戦いましょう!!!」
小手調べとばかりに接近、攻撃するエリ。盾でその攻撃は防がれる。ヒンメルも反撃しようとするが、エリはすぐに背を見せて逃げ出した。
「まずは高速移動を誘うわよ! バルト、前を見て警戒しなさい!」
バルトにそう指示を出し、自身は後方の警戒を行う。
ヒンメルの方は徐々に接近してきている。
(例の高速移動とやらは使わないみたいね……)
接近しつつ雷撃を放つヒンメル。バルトに向かって一直線に伸びる雷撃を、バレルロールを使用して瞬時に回避。そのままロールしつつ旋回していき、背後を取る。
「ここよ! 全力で行くわ!!」
回避しようとするヒンメルに、エリは心の刃を使用し動きを抑える。そのまま最大速度からの刺突一閃。
「今出せる最高の一撃! しっかりとその身に覚えさせてあげるわ!!」
ヒンメルとグリフォンをまとめて穿つつもりで放った一撃だ。かろうじて盾で防御したヒンメルの腕ごと吹き飛ばした。
「どう! この前の電撃の借り……しっかりと返させてもらったわ!」
そう声を上げるエリ。対しヒンメルは声を上げるでもなく、ただゆっくりとハルバードの穂先を向けた。そこから、雷撃を放つ。
「ちっ……その程度!」
きっちり防ぐエリ。ヒンメルの方は、徐々に距離を取る。
「逃がさない! いくのよバルト!」
だが、ヒンメルの方が速い。距離を開けられ、射程ギリギリのところで雷撃。それにより少しずつダメージがかさんでいく。
(なんとか距離を詰めないと……)
「バルト!」
エリの声に従い、バルトは雷撃をよけつつバレルロールを使用。そこから先の心の刃から刺突一閃の流れに繋げたいところだったが……間合いがやや遠い。
エリにとって不幸だったのは、最初の一連の動きが見事に決まりすぎたことにあっただろう。それゆえにヒンメルは防御の手を無くし、それゆえにヒンメルは近接戦を徹底して避けざるを得なくなったのだ。
あるいは、ラミアのように距離の離れた敵の動きを止める術か、遠距離への攻撃手段があれば状況は違っただろうが……
結局、エリは雷撃を受けるか躱すかし続けるしかなくなってしまった。そして……
「っ……!」
体を痺れが襲う。雷撃魔法からの麻痺を受けてしまう。それを見た瞬間、ヒンメルは攻勢に転じた。
急接近したヒンメルにバルトは対応できず、翼を切り裂かれた。これ以上の飛行ができなくなり、バルトは墜落していった。
●
「……お、気が付いたか。頑丈な愛機に感謝しろよ?」
目を覚ましたマリィアは、その声を聞き、そこにいるのがエルウィンだと分かった。
「私は……っ」
手当はしてあるようだが、体中が痛み動けなかった。
「助けられたわね。ありがとう……」
「その代りコクピットの辺り叩き切っちまったからなぁ。それで相殺ってことで頼む。さて……」
エルウィンは立ち上がり空を指さした。
「そろそろ誰か降りてくるだろう。そしたら拾ってもらえ……俺はレオンの野郎に仮面吹っ飛ばされちまったんでな。消えるぞ」
そういって、エルウィンは手を振った。マリィアはそこでまた気を失った。
●
「大丈夫か?」
落ちていくエリは、誰かに腕を掴まれた。なんとか目線を上げると、そこには兵庫の姿があった。
「とりあえず降下しましょう」
見ると、カーミンの姿もある。乗っていたグリフォンが、月影と協力してバルトを爪でつかんでいた。
「……私が戦っていたヒンメルは?」
「旭が当たっている。かなりのダメージだったようだからな、そう倒すのに時間はかからないだろう」
一方、墜落するレオーネを救ったのは後詰として残っていたウェルナーだった。
「くそ……すまねぇ」
「まぁ次の糧にすることだ。君はセンスは悪くないのだしね」
「おーい、大丈夫ー?」
そこに、ラミアも現れた。救援に向かおうとしていたところらしい。
「お、丁度いいところに。すまないがこのグリフォンを運ぶのを手伝ってくれ」
一番危険な状態だった静刃のところには、運よくUiscaが向かっていた。
「……これで問題は無いはずですが……とにかく降りてきちんとした治療をした方がよさそうですね」
そういうと、Uiscaは静刃を乗せた雅とともに降下していく。
ざくろは、エリが戦っていたヒンメルを倒した旭と合流。そのままヒンメルリッターと歪虚の戦闘を援護しようとしていた。だが、敵のトップであるフリッツはすでに撤退していて、あとは有象無象を残すのみとなっていた。
「やぁ。皆うまくやってくれたみたいだね」
「師団長……そこにいるのは……」
「ヒンメル……?」
「あぁ。尤も、2人いたうちの1人。片方は僕が倒したよ。で、彼のほうはもう戦闘の意思はないみたいなんだ」
ヒンメルはそのハルバードを帝都の方に向けた。そして、バチバチと音を鳴らしながら掻き消えた。
こうして、ヒンメルリッターと歪虚の決戦。それに伴い行われたハンター達と英霊ヒンメルとの戦いは終わった。帝都方面を指し消え去ったヒンメルは、ハンター達の力を認めその力を今後貸してくれることだろう。
「ヒンメルの出現を確認。ここから断続的に現れてくるだろう」
双眼鏡を覗くウェルナー。その声を聞き、まずは榊 兵庫(ka0010)が飛び出した。
「一番槍はいただくとしよう。行くぞ月影!」
「それじゃ次は俺だ! 行こうロジャック! 空で英霊が待ってる!」
兵庫に続き、飛び出していったのは岩井崎 旭(ka0234)だ。
(経歴を知るに、彼らはただ正々堂々と空で戦いたかっただけなのかもね)
懐中時計を見ながらカーミン・S・フィールズ(ka1559)は短く言った。
「次、出るわ」
「伝説の『始まりのグリフォンライダー』……」
実物が目の前に迫っている。そんな実感を得ながら、Uisca Amhran(ka0754)は呟く。
「私も、今出せる最大の力で……お相手させてもらいます。いくよ、ウイヴル!」
「……さ、参りましょうか。戦場へ」
Uiscaに続くのは静刃=II(ka2921)。周囲を警戒しつつ飛んでいく。
「……手をこまねいてても仕方ねぇ。出るぜ!」
「ざくろも行くよ!」
レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)、時音 ざくろ(ka1250)と続々戦場に散っていく。
「いこう、レガリア! あたし達の力見せてやろうよ!」
「最後は私ね……さぁ、行くわよバルト!」
ラミア・マクトゥーム(ka1720)、エリ・ヲーヴェン(ka6159)もヒンメルを迎撃するため飛び出していく。
これで空にいる9人全員が戦域に散った。いないのは地上に待機しているマリィア・バルデス(ka5848)だけとなった。
「さて……」
ウェルナーは双眼鏡を覗きながら動向を見守る。万が一が発生したときどうにかするのが後詰としてこの場に残るウェルナーの役目だった。
●
兵庫はフライングファイトを使用しつつ突撃。ヒンメルも同様、こちらに気づき接近してくる。
まず仕掛ける兵庫。それに対し防御するヒンメル。
寄って、離れて、また寄って……一撃離脱の応酬が続く。
はたからみれば、互角の戦いに見えただろう。だが、当の兵庫は……
(グリフォンの扱いでは相手に一日の長があるか……)
ヒンメルはグリフォンを巧みに操り、こちらが防御しづらい位置から攻撃してくる。また、受けの際もこちらがグリフォンの方を狙っているのを察してか、微妙な上下動でその狙いをすかし、攻撃をさばいている。
(一撃離脱……空戦における常道ではあるが、その点ではやはり向こうが上か)
そう、思考を巡らせる間もなくヒンメルが攻撃。
「くっ……」
受ける兵庫。手に痺れが走る。衝撃によるものではない。ヒンメルの持つ特性によるものであるのはとうに気が付いている。今のところ、戦闘に支障があるレベルではないが、これが蓄積されてくると、あるいは致命的なダメージになるかもしれない。
「……仕掛け時、か。臆するなよ月影……!」
呟くとともに、兵庫は攻めの構えをとる。
無論、ヒンメルは止まらない。兵庫がどんな構えを取ろうと向かってくる。
そして、ヒンメルの持つハルバードの穂先が兵庫の心臓を捉え……
「見えたぞ!」
その穂先を、槍で逸らす兵庫。攻撃は急所を外し、兵庫の肩に刺さる。だが、攻撃をそらしながらも、兵庫は頭上で槍を回し、一気に振り下ろす。カウンター気味に入った一撃は袈裟懸けにヒンメルを斬り伏せる。
「手応えあり……ここで落とすぞ月影!」
急速離脱しようとするヒンメル。だが、それを逃がす兵庫ではない。フライングファイトにより速度を増した月影はヒンメルに追いすがる。
「もらった!!」
チャージングにより威力を増した刺突は盾で防ぐ間も与えず、正確にヒンメルの胴体を刺し貫いた。
バチバチと放電音が鳴るとともに、パッと光が弾けた。気付くと、槍先にヒンメルの姿はなくなっていた。
「逃げた……わけではないな。倒したということでよさそうだ」
傷口を抑えながら、兵庫は呟いた。だが、勝利の余韻に浸る時間はない。倒したのであれば、味方の援護を行わなければならない。
「まだ飛べるな、月影……よし、では次の戦場へ向かうとしようか」
●
「俺は岩井埼 旭! リアルブルーから来たイクシード、覚醒者だ!」
旭はそう言ってヒンメルの前に立ちはだかる。
「この後ろは、あんたを狙ってヴォイド相手に、あんたの後輩たちが大決戦中だ」
そう口上を述べつつ、ゆっくりと近づく旭。無論、邪魔する相手にヒンメルが容赦するはずもない。
「邪魔しに行くってんなら……」
加速するヒンメルが全力の突きを放つ。
「勝負だ、天雷!!」
その声を、ヒンメルは後方から聞いただろう。旭はロジャックにバレルロールを使用させ、その攻撃を躱していた。
「まずはあいさつ代わりだ、ロジャック!」
ロジャックがファイアブレスを使用。火炎弾がヒンメルに直撃する。
だが、盾を構えたヒンメルは炎に巻かれながらも突っ込んでくる。そのまま勢いよく放たれた突き。ハルバードで旭は防ぐが、高い威力に押される。
「っ……やっぱつえぇな!」
すぐさま移動、ロジャックはワイバーンだ。足を止めていては飛行の安定が保てない。無論ヒンメルも追従してくる。
だが、ここでも旭はロジャックにバレルロールを指示。回転によりついた加速で高速旋回し、ヒンメルの後ろを取る。
……が、その移動先にハルバードの穂先が向けられている。そこから放たれる電撃が、ロジャックに直撃する。
「大丈夫か!? ……英霊になるくらいの英雄だ、そう来ねーと!」
遠距離戦では互角といったところだろうか。一時距離がとる二者は、再度加速し、接近していく。
互いのハルバードが空中で交錯する。これも互角か。
「だが、これはどうだ!」
いや、互角ではない。下方から振り上げられる剣がグリフォンごとヒンメルを斬る。
オルトロス……乗り手とユニットによる同時攻撃だ。
下方からのロジャックによる攻撃によりヒンメルは態勢を崩し……旭のハルバードが競り合いを制する。
「これで終わり……にはならないよな……!」
騎乗しての戦闘技術は高くとも、互いの連携という点では旭が勝った。傷ついたヒンメル。だが、戦闘の意思は挫けていないようだ。
「なら最後まで……ケリをつける!!」
旭は精霊纏化を使用。古びた銀の鎧を纏い、そこから踊り狂う乱気流を放つ。
回避は能わず。巨大化により烈しくも猛々しいその二連撃がヒンメルを打倒する。
(俺らは別に……英霊と殺し合いしたいってわけじゃねーんだけどな……)
消えゆくヒンメルを見て、旭は心中で呟いた。
「……よし、まだこれで終わりじゃないぞ、ロジャック!」
ひとしきり感傷に浸る旭だったが、それも終わり次の戦場へと飛び出した。
●
「さぁあなたの力を見せてちょうだい。フライングファイトよ」
ヒンメルを発見すると、カーミンはすぐにスペルボウを構え、菖蒲を放つ。これは当たらないが、それでいい。
(気付いたわね……さぁ、貴方の敵はここにいるわ)
思惑通り、ヒンメルはこちらへ向かってくる。
「さぁ、ここからね……」
ヒンメルリッターで弓を使うものはいない。その理由は単純に手綱を離すことによる危険性を排除するためであるが、カーミンは別の考察を持っていた。
(空戦だと、命中の確保と射程の優位がすぐになくなること。これが不利な点よね)
味方の援護があれば話は別なのだが、この状況……1対1となるとやはり不利な部分が目立つ。だが、カーミンはその武器に弓を選んだ。その不利を無くす手段を持っていたからだ。
ヒンメルは接近しつつ魔法による雷撃を放つ。これはグリフォンが盾を使用して防いだ。その間に、カーミンは千日紅を使用。通常は近接戦闘に使われるイメージが強いスキルだが、カーミンはこれを再装填の隙を補うために使った。
「距離を取りつつ、当てていくわ。援護はお願いよ?」
そういって、カーミンは先と同じように菖蒲を使用。今度は3発中1発が命中。
フライングファイトを指示しつつ、手早くリロード。距離を取らせるのも忘れない。
ヒンメルの方も魔法を使って応じようとしたが、すぐに諦める。射撃戦での不利を悟ったのだ。
再三の菖蒲。今度は3発中2発が命中。この命中精度の向上は、同時に距離が詰まってきていることを表してもいた。
「近接戦になりそう……あなたも覚悟、出来てるわよね?」
下方を見ずに呟くカーミン。次いでの菖蒲の直後、弓から剣に持ち替える。その間にヒンメルは間合いに入り込むが、グリフォンの方が易々とカーミンを攻撃させない。爪による攻撃で牽制する。ヒンメルはハルバードで切り払い、そのまま返す刃で斬りつける。
今度はグリフォンが盾で防御。
「もう逃げられないわよ!」
グリフォンとヒンメルの攻防の隙をつき、クレマチスを使用。とっさにヒンメルは盾で防ぐが、盾のある手が絡めとられる。その手を、カーミンが引く。防御が崩れた。
その隙を逃さず、グリフォンが再度爪の一撃を、今度はまともに食らわせる。だが、ヒンメルはまだ健在だ。盾で防がれたハルバードを、逆方向から振り回すようにカーミンへと打ち付ける。ダメージは重い……が、それは向こうも同じ。
「っ……お、お願い!」
カーミンの言葉と共に、グリフォンが爪でヒンメルを蹴り飛ばす。その間にカーミンは再度弓を手にした。
「藤袴!」
ヒンメルが盾を構える隙も与えない一射が、その胴体を打ち抜いた。
●
こちらを発見し向かってくるヒンメルに対し、サイドワインダーを使用してUiscaは接近していく。その行く手を阻むように、ヒンメルが穂先を向け雷撃を放つ。駆けるウイヴル。その攻撃を強固なドラゴンスケイルで受け止める。
その間に懐に飛び込んだヒンメル。ハルバードによる攻撃をUiscaは盾を構え受け止める。重い一撃だ。だが、ウイヴルが態勢を整えたお陰で落とされるようなことは無い。
「騎乗戦闘では乗り手と竜のシンクロが大事……ありがとう」
うまく支えてくれたウイヴルに礼を言うUisca。そのまま、サイドワインダーを指示。速度を活かした戦いに持ち込む算段だ。
ヒンメルはこちらの行動に対し冷静な判断を見せる。軌道の延長を読んだ偏差的な魔法攻撃や懐に飛び込んで攻撃してから急速一撃離脱を繰り返すことで削りに来る。
対してUiscaは龍獄による攻撃を企図していた。
(群体であるヒンメルさん……此方はただの強さではなく「一騎当千」……いえ「万夫不当」といえる強さを見せなければならないのかもしれません)
そのために、範囲攻撃を中心として攻撃する。そう決断して、Uiscaは杖を向ける。
この行動に脅威を感じ取ったヒンメルは、急速接近。強力な一撃をUisca自身に与える。
盾で防ごうとするも、ヒンメルのハルバードによる鋭い一撃は防ぎきれない。弾かれ、態勢を崩す。だが、落ちはしない。
「私も伊達に白龍の巫女と呼ばれていませんよっ」
この時、ウイヴルは姿勢の維持に専念していた。もう勝負がついたことが分かっていたから。
ヒンメルが気づいた時にはもう遅かった。周囲に現れた無数の牙や爪。それらが正確にヒンメルとそのグリフォンを貫いていく。
白龍の巫女が使うにはどこか似つかわしくない闇の力が周囲に充満し、ヒンメルは縫い付けられたかのように動けなくなっている。
「空での戦いに満足できましたか?」
その場を離れるUisca。見るとその傷が瞬く間に治癒していく。そして、再び杖を向ける。Uiscaの魔力に抗うかのように、ヒンメルもハルバードを向けるが……もう遅い。再度振るわれる龍獄が、ヒンメルに止めを刺した。
●
「この風を切る感覚……空を飛ぶ醍醐味ですね」
目をつむり、風を感じながら静刃は呟く。
(この子に乗ってる時にはいつも感じずにはおれません)
やはり、空というのは地上とは違う何かを感じるものなのだろう。
だが、その感覚に浸っている訳にも行かない状況だ。
加速していく雅。ヒンメルを視界に入れると、すぐに間合いを詰めていく。
(ただ、この刀にて意思を交わすのみです)
そう心中で呟いた静刃。その立ち回りは居合いによる攻撃を主体としたものだ。
雷撃で牽制しつつ接近してくるヒンメル。すぐさま間合いに入るとハルバードによる一撃。躱せず、これを静刃はもろに喰らう。
「……っ!」
受けると同時に、雅にすぐ距離を取らせる。
(痺れるような感覚は確かにありますが……)
攻撃に帯びた電撃。その効果のほどを肌で確かめてみようというつもりだったのだが、それ以前に、そう何度も受けていい攻撃ではないようだ。
「では、次はこちらの攻撃を受けてもらいましょう」
接近してきたヒンメル。それに対し居合を用いた攻撃。高速で抜き放たれた太刀はヒンメルの腹部を切り裂く。間違いなく通用する。が……
「くっ……」
反撃。鎧受けを使用しても大きなダメージを受ける。躱すことも出来ない以上このままではまずい。
(さすがは始まりのグリフォンライダー……まったく……)
そんな状況で、静刃は……笑った。
(ふふ、斬りがいのある相手ですね)
再び居合の構えを取る静刃。同時に、雅に言う。
「突っ込みなさい」
その言葉に従い、雅は突撃。ヒンメルも当然回避しようとする。
だが……動けない。静刃の心の刃によるものだ。威圧されたヒンメル、そのグリフォンは動くことも出来ず、突撃をもろに喰らう。
このタイミング、居合の有無に限らずヒンメルは避けられないだろう。だが、静刃もダメージが大きいようで、血を吐き、動けない。
そこを、ヒンメルが狙う。武器を振り上げ、止めの一撃でもくれてやろうと。
……これが、罠とも知らずに。
「お終い……です」
刃がヒンメルの胴を一閃。カウンターアタックが完璧に決まった形だ。
だが、ハルバードの方もすでに振り下ろされ、肩から大きく切り裂かれた。
落ちていくのは……ヒンメルの方。
(あと一歩浅ければ、結果は逆になっていましたね)
肩で息をしながら静刃は刀をしまう。そして……そのまま、雅の背で倒れこむように気を失った。
●
空中で激戦が繰り広げられている間、マリィアは一人地上にあった。
R7エクスシア、mercenario。高い戦闘力を持ち、特に射撃戦に強い。ここから、敵が近づいてくるか、近くに出現するまでは対空射撃を行うつもりだったようだ。
だが、今マリィアは焦っていた。
(敵が……いない?)
当然、といえば当然のことだ。敵も味方も、地上から攻撃されるような高度で戦ってはいない。マリィアは戦闘高度を見誤っていた。
このままでは、自身が戦うこともなく、戦闘が終わる可能性があった。
結局……マリィアは飛ぶことを決意した。この時、戦闘高度は600m前後。通常の空戦と比べるとやや低い高度ではあったが、それでもCAMにとっては厳しい高度だ。
飛行を開始し、最初にヒンメルを射程に入れた時には、折り返さなければいけない高度まで上がってきていた。
(やっと、見えたわね……ヒンメルッ!)
マリィアは、最大射程からフォールシュートを使用。
……着弾せず。フーファイターを使用しての射撃ではあるが、遠すぎる。
「……当たるまで何度だって……!」
すぐさまクイックリロードを使用。さらにアクティブスラスターを起動。射撃攻撃を行おうとする。
が、この時マリィアが驚愕する事態が起こった。
「……目標……至近!?」
声を上げると同時に、機体を衝撃が襲う。
高速移動能力。今戦闘において、マリィアはその能力を唯一体感することになった。
「くっ……」
ほんの少しの動揺をすぐに押しとどめ、武器をハンドガンに切り替える。
発射されるグレネード弾。それをヒンメルは回避。だが、爆発はその背で起きる。
爆風でそのまま落下するヒンメル。それを追うマリィア。
(降下しつつ戦えれば一石二鳥ってところね……)
もちろんヒンメルの方はこちらの思惑通りには動かない。すぐに態勢を立て直して反撃してくる。
この攻撃は銃剣で防御。そのまま弾くとともに銃撃。ヒンメルはこれを素早く防御するが、防ぎきれない。やはり戦闘力そのものはCAMの方が上か。
再度のプラズマグレネード。先と同じようにヒンメルは回避する。
が、同時に盾がグレネードの方に向くように防御態勢を取る。
グレネードは爆発するが、最初の一発よりも大幅にダメージは減じられただろう。
クイックリロードを利用してさらに攻撃をかけようとしたマリィアだったが……時間が来た。
機体の制御が効かなくなり、降下していく。
結局飛ぶ選択をした時点で敗北は決していたのかもしれない。だが、それでもただ漫然と……仲間たちが傷ついているのを眺めているだけ。それよりはずっとましだっただろう。
●
「さぁて……いくぜ、相棒!」
性質上一騎打ちは避けられない。
(こっちは、どこまで食らいつけるかは分からないが……)
「オレはオレなりに、拳で語らせてもらうぜ、ヒンメル卿!」
射程内に入ったヒンメルに対し、レオーネはそう声を上げた。
「よし、ネーベル……撃て!」
こちらを認識し迫るヒンメルに、獣機銃を打ち対応する。
「そのまま距離を取るぜ。つかず離れず、な……」
高速移動能力もあるヒンメル。半ば接近戦を強制してくる能力だ。それに付き合ってはいられない。
だからこそ、射撃戦に持ち込もうというのだ。
(オレの方がネーベルの足を引っ張っちまってるのが心苦しいけど、やるしかねぇ)
「お気に召さねーかもだけど、これがオレたちの戦い方でな!」
ヒンメルの方は……穂先をこちらに向けてきた。雷撃による遠距離戦で攻めるようだ。
(同じ戦い方で稽古をつけてくれる……って感じじゃないか)
ここから、しばらくの間は単調な打ち合いが続く。ネーベルが撃つ。それをヒンメルは躱し、反撃の雷撃。
「右だ、躱せ!」
レオーネが攻撃の軌道を予測しつつ指示を出す。完全には躱しきれず、かする。
再度ネーベルが撃つ。それをヒンメルは躱し、雷撃。今度は命中。態勢がぐらつくも、まだ問題ない。
「くっ……足を止めたらやられるぞ、距離を取りつつ高度をブラして的を絞らせるな!」
その後も射撃戦は続いた。それはざくろ達との戦闘に近いものだったが、違うのは戦況。威力はヒンメルよりもネーベルが撃つ獣機銃の方に分があったが、距離を取っての戦いになると当たらない。
「くそ……負けるなネーベル!」
レオーネも必死に指示を出す。少しでも耐えようと。だが、ネーベルの限界は刻一刻と近づいてきていた。
(距離を詰めたら向こうも接近戦を仕掛けてくるかもしれない、そうなったら……しかし……)
悩んだ末、レオーネは最後の勝負に出る。
「ネーベル! ツイスターを使うぞ!!」
その声に、ネーベルは力を振り絞り接近。射程に入ると同時にツイスターを使用する。風の魔法が竜巻を発生させヒンメルにダメージを与える。
だが、そこまでだった。竜巻を抜けて接近してきたヒンメルのハルバードに、ネーベルの翼が斬られる。
敗因を上げるなら、それはレオーネがネーベルに頼りすぎた点かもしれない。常のレオーネなら、機導術を用いてネーベルを援護することも出来たはずだが、それが出来なかった。
態勢が崩れ、高度を下げていくネーベルとレオーネ。
「ネーベルは、ただでは……やられねぇぞ!」
レオーネの声と同時に、ヒンメルの肩に苦無が突き刺さる。奥の手は、確かにヒンメルに届いた。届いたが……それでもヒンメルを倒すには至らなかった。
●
「なぜ戦いに介入し、その場を混乱させようとするんだ!」
こちらではすでに戦いが始まっている。デルタレイをざくろが打ち込むと、ヒンメルは盾で防御しつつ雷撃を放つ。
「くっ……やらせはしないよ。お前の相手はざくろとJ9だ!」
ざくろの方も雷撃を盾で防御。マテリアルアーマーのお陰で大したダメージは受けない。
「このままいくぞJ9! 着装マテリアルアーマー! 魔力フル収束!!」
ざくろはそのままJ9に距離を維持させる。スキルを中心とした遠距離戦をしかけるつもりのようだ。
それに応じるかのようにヒンメルも距離を取る。そこから雷撃を放つ。
ざくろのデルタレイと、ヒンメルによる雷撃の打ち合いは数度続く。が、形勢はすぐにざくろの方に傾いていく。雷撃は速く避けがたいが、それはデルタレイの方も同じだ。だが、ざくろの方はマテリアルアーマーによる防御もある。
このままでは持久戦でざくろが勝つのは目に見えていた。だからこそ、ヒンメルが雷撃を放つとともに突っ込んできたのは当然の選択といえる。
「そうだ……思いっきりやりあおうヒンメル。ここはお前の空であり、ざくろたちの空だ!」
一気に接近するとともに、ヒンメルはハルバードを振り抜く。その一連の動きは無駄もなく、ざくろは接近を咎めることもできない。天雷の名に恥じない動きだった。
「でも、お前が英霊の雷なら、ざくろは機導の雷だ」
ざくろは盾で防御。ハルバードがその盾に触れた。
「超機導パワーオン! 弾け飛べ!」
攻性防壁が発動した。ヒンメルの態勢も大きく崩される。
もちろん、防御していたとはいえざくろのダメージは0ではない。だが、問題はない。なぜなら、ここから止めを刺すのはざくろではないからだ。
「今だJ9!」
そもそも、機導術での戦闘を主体にしていたのは、J9からヒンメルの目をそらす意味もあったのだ。それも、すべてはこのタイミングのためだ。
「野生解放……アグレッシブビーストモード!」
フライングファイトを使用したJ9に、ざくろも解放錬成を使用して援護。攻性防壁の影響で動きの鈍ったヒンメルに渾身のクイックノックを叩き込む。
「いけぇぇぇぇ!!」
爪はヒンメルに深く食い込み、切り裂く。
この一撃が止めとなったのだろう。ヒンメルは消え去った。
「これが、ざくろ達の力だ!」
それを見届けたざくろは、J9とともに勝鬨を上げた。
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「メネル傭兵団、マクトゥームの娘、ラミア! いっくよー!」
そう声を上げながらヒンメルに突っ込んでいくラミア。
「レガリア、移動と飛行はあんたに任せるよ?」
そういってラミアは棍を構える。ヒンメルの方も接近、互いに近接戦の間合いだ。
「攻撃はあたしの領分さ!」
ラミアはワイルドラッシュを使用。素早い連撃でヒンメルを攻撃する。ヒンメルは一発を盾で受けるも、もう一発をまともに喰らう。喰らいながらも、ハルバードの一撃をラミアに返す。
「っ……さすが、結構やるじゃない」
しかし、すぐさまその傷は塞がる。リジェネレーションだ。
再度ラミアはワイルドラッシュを仕掛けようとするが、ヒンメルの方は距離を取る。
「ん? 逃げよう……ってわけじゃないよね」
距離を取りながら、ヒンメルは雷撃を使用。レガリアの方にダメージが行く。
どうやら近接戦を不利と見て射撃戦に切り替えようというつもりらしい。
(高速移動でも使われて距離を取られるとまずいね)
ラミアはレガリアに指示を出し、全力でヒンメルに追いすがる。ヒンメルの方はあくまで戦闘可能な距離を維持しようとしている。この状態ならレガリアの速度でも十分、射程内に収められる。
射程内に入った瞬間、ラミアはファントムハンドを使用。幻影がヒンメルの姿を捉え、引き寄せる。
「逃がさないよ!」
接近とともに、再度ラミアはワイルドラッシュを使用。着実にダメージを与えていく。
だが、動けない状態になったヒンメルも近接戦を仕掛けてくる。互いに乗るのはグリフォンだ。ホバリングにより滞空が可能。空中にも関わらず、足を止めての戦闘となる。
ラミアが連撃で押していくが、ヒンメルの方も盾での的確な防御と強力なハルバードによる一撃を食らわせる。一撃の重さ自体はヒンメルの方が勝っているようで、ラミアの態勢が崩れる。そこに、さらにヒンメルが一撃。ここは鎧受けを使用して防御。
ここで、ファントムハンドの効果が切れ、ヒンメルが再度距離を取る。対しラミアはリジェネレーションを使用。これが無ければラミアはすでにヒンメルに返り討ちにあっていたかもしれない。それに鎧受け。防御と回復の2手があってこそ、ラミアの近接戦能力が生きるというものだ。
「レガリア、もう一度追いかけっこしないとね」
見るとレガリアの方もかなりの傷を受けている。ハルバードの加害範囲は広い。その影響をもろに受けているのだろうか。だが、その点で言えば条件は同じだ。
「さぁ、これで終わりにしよう!」
再度距離を詰めるラミア。ファントムハンドで動きを止めての近接戦。それも次の一合で終わりとなるであろうことは予想できた。
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「待ってたわよヒンメル! さぁ! 戦いましょう!!!」
小手調べとばかりに接近、攻撃するエリ。盾でその攻撃は防がれる。ヒンメルも反撃しようとするが、エリはすぐに背を見せて逃げ出した。
「まずは高速移動を誘うわよ! バルト、前を見て警戒しなさい!」
バルトにそう指示を出し、自身は後方の警戒を行う。
ヒンメルの方は徐々に接近してきている。
(例の高速移動とやらは使わないみたいね……)
接近しつつ雷撃を放つヒンメル。バルトに向かって一直線に伸びる雷撃を、バレルロールを使用して瞬時に回避。そのままロールしつつ旋回していき、背後を取る。
「ここよ! 全力で行くわ!!」
回避しようとするヒンメルに、エリは心の刃を使用し動きを抑える。そのまま最大速度からの刺突一閃。
「今出せる最高の一撃! しっかりとその身に覚えさせてあげるわ!!」
ヒンメルとグリフォンをまとめて穿つつもりで放った一撃だ。かろうじて盾で防御したヒンメルの腕ごと吹き飛ばした。
「どう! この前の電撃の借り……しっかりと返させてもらったわ!」
そう声を上げるエリ。対しヒンメルは声を上げるでもなく、ただゆっくりとハルバードの穂先を向けた。そこから、雷撃を放つ。
「ちっ……その程度!」
きっちり防ぐエリ。ヒンメルの方は、徐々に距離を取る。
「逃がさない! いくのよバルト!」
だが、ヒンメルの方が速い。距離を開けられ、射程ギリギリのところで雷撃。それにより少しずつダメージがかさんでいく。
(なんとか距離を詰めないと……)
「バルト!」
エリの声に従い、バルトは雷撃をよけつつバレルロールを使用。そこから先の心の刃から刺突一閃の流れに繋げたいところだったが……間合いがやや遠い。
エリにとって不幸だったのは、最初の一連の動きが見事に決まりすぎたことにあっただろう。それゆえにヒンメルは防御の手を無くし、それゆえにヒンメルは近接戦を徹底して避けざるを得なくなったのだ。
あるいは、ラミアのように距離の離れた敵の動きを止める術か、遠距離への攻撃手段があれば状況は違っただろうが……
結局、エリは雷撃を受けるか躱すかし続けるしかなくなってしまった。そして……
「っ……!」
体を痺れが襲う。雷撃魔法からの麻痺を受けてしまう。それを見た瞬間、ヒンメルは攻勢に転じた。
急接近したヒンメルにバルトは対応できず、翼を切り裂かれた。これ以上の飛行ができなくなり、バルトは墜落していった。
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「……お、気が付いたか。頑丈な愛機に感謝しろよ?」
目を覚ましたマリィアは、その声を聞き、そこにいるのがエルウィンだと分かった。
「私は……っ」
手当はしてあるようだが、体中が痛み動けなかった。
「助けられたわね。ありがとう……」
「その代りコクピットの辺り叩き切っちまったからなぁ。それで相殺ってことで頼む。さて……」
エルウィンは立ち上がり空を指さした。
「そろそろ誰か降りてくるだろう。そしたら拾ってもらえ……俺はレオンの野郎に仮面吹っ飛ばされちまったんでな。消えるぞ」
そういって、エルウィンは手を振った。マリィアはそこでまた気を失った。
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「大丈夫か?」
落ちていくエリは、誰かに腕を掴まれた。なんとか目線を上げると、そこには兵庫の姿があった。
「とりあえず降下しましょう」
見ると、カーミンの姿もある。乗っていたグリフォンが、月影と協力してバルトを爪でつかんでいた。
「……私が戦っていたヒンメルは?」
「旭が当たっている。かなりのダメージだったようだからな、そう倒すのに時間はかからないだろう」
一方、墜落するレオーネを救ったのは後詰として残っていたウェルナーだった。
「くそ……すまねぇ」
「まぁ次の糧にすることだ。君はセンスは悪くないのだしね」
「おーい、大丈夫ー?」
そこに、ラミアも現れた。救援に向かおうとしていたところらしい。
「お、丁度いいところに。すまないがこのグリフォンを運ぶのを手伝ってくれ」
一番危険な状態だった静刃のところには、運よくUiscaが向かっていた。
「……これで問題は無いはずですが……とにかく降りてきちんとした治療をした方がよさそうですね」
そういうと、Uiscaは静刃を乗せた雅とともに降下していく。
ざくろは、エリが戦っていたヒンメルを倒した旭と合流。そのままヒンメルリッターと歪虚の戦闘を援護しようとしていた。だが、敵のトップであるフリッツはすでに撤退していて、あとは有象無象を残すのみとなっていた。
「やぁ。皆うまくやってくれたみたいだね」
「師団長……そこにいるのは……」
「ヒンメル……?」
「あぁ。尤も、2人いたうちの1人。片方は僕が倒したよ。で、彼のほうはもう戦闘の意思はないみたいなんだ」
ヒンメルはそのハルバードを帝都の方に向けた。そして、バチバチと音を鳴らしながら掻き消えた。
こうして、ヒンメルリッターと歪虚の決戦。それに伴い行われたハンター達と英霊ヒンメルとの戦いは終わった。帝都方面を指し消え去ったヒンメルは、ハンター達の力を認めその力を今後貸してくれることだろう。
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相談卓 榊 兵庫(ka0010) 人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/12/05 10:45:49 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/03 00:07:50 |