ゲスト
(ka0000)
【東幕】人は旧を忘れざるが義の初め
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/07 22:00
- 完成日
- 2017/12/10 17:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
鳴り響く蛇皮線。
一切の調律をしていないため、耳障りな音が周囲に流れる。
それでも、男は手を止める事無く奏で続ける。
「何が真実で、何が虚偽か……」
男の口から漏れ出る言葉。
この世界には嘘が満ち溢れてる。
勝者が塗り固めた都合の良い嘘に真実は隠され、今も汚されている。
それで良いのか?
騙されたままで安穏と生を貪る日々を送っても。
それで良いのか?
嘘を嘘と見抜けぬまま、豚のように生きていても。
限られた命。
なら、最期の瞬間まで戦うのが武士のあるべき姿だ。
「この世界が嘘でできているなら……俺は世界を壊すだけだ」
男は、口から流れ出た血を手首で拭った。
●
幕府の勅命が詩天に下ったのは、十日ほど前の事だ。
詩天の南、長江近くに存在する廃城――須藤城。
情報によれば、この近くで多くの憤怒残党が目撃されているという。
今回、この真偽について調査を命じられていた。
「まったく。真美様はご自分のお立場を未だに理解されておられぬ。幕府からの命で自ら調査に赴くなど……何かあってからでは遅いのじゃ」
三条家軍師、水野 武徳(kz0196)は三条 真美(kz0198)の行動に手を焼いていた。
須藤城の調査を三条家に打診された事を受けた真美は、自らその調査に赴いている。ハンターが同行しているが、九代目詩天自が自ら現地で調査する事態は異常だ。
「ハンターの連中がついてますから何かあれば大丈夫だと思うんですがね」
武徳を励ますのは、風待の親分。
先日発生した詩天の危機において大輪寺の結界を破壊した侠客だ。
今日は何故か武徳に連れられて須藤城近くの道を歩いている。
「ふーむ。その通りじゃが、何とも不安でのう。
特に幕府の魂胆が見えぬのでな。
憤怒残党ならば、エトファリカ各地でも目撃されておる。それをわざわざ調べよと命じてきたという事は、何か意図があると見るべきじゃ」
武徳は勅命を不審がっていた。
憤怒残党ならば東方各地で目撃されている。珍しいものでもない。
わざわざ勅命をしたならば、裏の意図があるのではないか。
「考えすぎじゃないですかね、旦那。本当に憤怒残党がかなりの数いるかもしれねぇじゃねぇですか」
「それなら良いのじゃが」
「それより旦那。気になる事が二つあるんですがね?」
「なんじゃ?」
面倒くさそうに質問を許可する武徳。
親分からすれば見慣れた光景だ。
「なんであっしなんですかい? 他の武将を連れた方が良かったんじゃねぇですかい?」
「できるならそうしておる。じゃが、迂闊に動かせぬ事情があるのじゃ」
武徳は幕府の動きに注意を払っていた。
詩天へ理由を付けて幕府が軍を派遣を警戒したのだ。何らかの理由を付けて一方的に派兵。有事に独断で工作を行われてはたまらない。
そこで詩天の兵力を若峰でへ待機させる事にした。
有事の際には詩天の兵力は十分と見せかける。さらに幕府へ武徳が調査打診を受ける返事を書状で送る際、幕府の支援は不要と念を押した。保険をかけておけば、下手に幕府が動けば――こちらも政治工作をしやすくなる。
「……なるほど。それであっしのような筋者を連れて来たという訳ですかい。上の苦労って奴ですかねぇ」
「うむ。して、もう一つは?」
「真美様が心配なら、武徳様も行けば宜しいのではありませんかね?」
親分の指摘ももっともだ。
気になるならば真美と共に武徳自ら須藤城へ訪れれば良い。それで真偽について確かめるべきだ。
だが、武徳はそうしなかった。
須藤城近くの小高い山へ布陣して動こうとしないのだ。まるで遠くから須藤城を見守るように。
「あの真美様が意地になられておったからな。下手に近くにいれば何を言われるやら……だが、理由はまだある。備えじゃ」
「備え、ですかい」
「仮に須藤城に憤怒残党が集まっているとしよう。少しでも戦力を維持しようとするならばバラバラで移動するよりも群れとなって行動した方が良い。その方が須藤城へ到達する確率も高まるからな。こうしている間に……」
「武徳様っ!」
斥候の一人が本陣へ駆け込んできた。
武徳は予想通りとばかりに親分へと向き直る。
「ほれみろ」
「北西の大乃城から須藤城へ向けて歪虚無の一団が進軍中!」
「数は?」
「数百を超えております。大乃城周辺の歪虚が集結、群れで須藤城へ向かっていると思われます」
武徳の予想通り、歪虚は調査中の須藤城へ集団で接近していた。まだ調査は気付かれていないようだが、戦場となれば現場の混乱は必至。歪虚の目的も分からなくなる。
「よし。手筈通り準備に入れ」
「旦那、あっしは何をすれば? 何かさせるために呼んだのでしょう?」
「察しが良いな。おぬしはハンターと共に囮となって近くの木谷峡谷へ敵を誘き寄せるのじゃ。そこでわしが上から岩を落として退路を塞ぐ。そこを伏兵と共に叩け」
既に武徳は策を準備していた。
親分をハンターと共に囮役として活用。敵を木谷峡谷へ誘き寄せた後、武徳が上から岩を落として退路を塞ぐ。そして伏兵と共に親分とハンターが敵を殲滅する作戦だ。
「囮ねぇ。こいつぁ難儀な役目だ」
親分は編み笠の端をつまんで、顔を背けた。
何故か自然と口角が上がる。
●
「おい、待て。この先は歪虚の群れがいる。悪い事は言わないから、さっさと家へ帰るんだ」
憤怒残党の群れへ向かって移動する親分とハンターを呼び止める一人の男。
着流しを着て蛇皮線を手にしている。
見れば体を負傷しているのか、サラシを胴回りに巻いているのが着流しの裾から見える。
「いや、その歪虚に用事があるんだ」
「あん?」
ハンターの一人が答えた瞬間、男は聞き返す。
その顔には何故か笑みが浮かぶ。
面白そうな玩具を見つけたような胸躍らせる期待の笑みだ。
「あっしらは、ある方の指示であの歪虚を誘導しなきゃならねぇのさ」
「誘導……ああ、囮か。いいねぇ、囮なら派手にやらねぇとなぁ」
親分の説明にも興味深く聞き入る男。
着流しの男がこのような場所いるのもおかしい。
もしや、歪虚か?
だが、ハンター達には負のマテリアルを感じ取る事はできない。
ならば、一体――。
ハンター達の一部は警戒して剣の柄に手をかける。
だが、男の次の言葉はその場の者達にとって予想外であった。
「己が命を餌にして大義の為に戦う、か。よし、決めた。俺もその囮を手伝ってやろう。派手に暴れてやれば良いのだろう」
「変わった奴だな。あっしは風待一家を預かる風待亨二郎ってぇもんだ」
男の怪しさは拭えないが、歪虚では無い以上断る理由もない。
足手纏いになる可能性もあるが、親分の見立てでは相応の強さを持っていると感じ取ったようだ。
「なるほど。タダ者じゃないと見ていたが、あの若峰で有名な侠客か。
俺は……武人。松永武人。詩天界隈で彷徨いているただの浪人だ」
一切の調律をしていないため、耳障りな音が周囲に流れる。
それでも、男は手を止める事無く奏で続ける。
「何が真実で、何が虚偽か……」
男の口から漏れ出る言葉。
この世界には嘘が満ち溢れてる。
勝者が塗り固めた都合の良い嘘に真実は隠され、今も汚されている。
それで良いのか?
騙されたままで安穏と生を貪る日々を送っても。
それで良いのか?
嘘を嘘と見抜けぬまま、豚のように生きていても。
限られた命。
なら、最期の瞬間まで戦うのが武士のあるべき姿だ。
「この世界が嘘でできているなら……俺は世界を壊すだけだ」
男は、口から流れ出た血を手首で拭った。
●
幕府の勅命が詩天に下ったのは、十日ほど前の事だ。
詩天の南、長江近くに存在する廃城――須藤城。
情報によれば、この近くで多くの憤怒残党が目撃されているという。
今回、この真偽について調査を命じられていた。
「まったく。真美様はご自分のお立場を未だに理解されておられぬ。幕府からの命で自ら調査に赴くなど……何かあってからでは遅いのじゃ」
三条家軍師、水野 武徳(kz0196)は三条 真美(kz0198)の行動に手を焼いていた。
須藤城の調査を三条家に打診された事を受けた真美は、自らその調査に赴いている。ハンターが同行しているが、九代目詩天自が自ら現地で調査する事態は異常だ。
「ハンターの連中がついてますから何かあれば大丈夫だと思うんですがね」
武徳を励ますのは、風待の親分。
先日発生した詩天の危機において大輪寺の結界を破壊した侠客だ。
今日は何故か武徳に連れられて須藤城近くの道を歩いている。
「ふーむ。その通りじゃが、何とも不安でのう。
特に幕府の魂胆が見えぬのでな。
憤怒残党ならば、エトファリカ各地でも目撃されておる。それをわざわざ調べよと命じてきたという事は、何か意図があると見るべきじゃ」
武徳は勅命を不審がっていた。
憤怒残党ならば東方各地で目撃されている。珍しいものでもない。
わざわざ勅命をしたならば、裏の意図があるのではないか。
「考えすぎじゃないですかね、旦那。本当に憤怒残党がかなりの数いるかもしれねぇじゃねぇですか」
「それなら良いのじゃが」
「それより旦那。気になる事が二つあるんですがね?」
「なんじゃ?」
面倒くさそうに質問を許可する武徳。
親分からすれば見慣れた光景だ。
「なんであっしなんですかい? 他の武将を連れた方が良かったんじゃねぇですかい?」
「できるならそうしておる。じゃが、迂闊に動かせぬ事情があるのじゃ」
武徳は幕府の動きに注意を払っていた。
詩天へ理由を付けて幕府が軍を派遣を警戒したのだ。何らかの理由を付けて一方的に派兵。有事に独断で工作を行われてはたまらない。
そこで詩天の兵力を若峰でへ待機させる事にした。
有事の際には詩天の兵力は十分と見せかける。さらに幕府へ武徳が調査打診を受ける返事を書状で送る際、幕府の支援は不要と念を押した。保険をかけておけば、下手に幕府が動けば――こちらも政治工作をしやすくなる。
「……なるほど。それであっしのような筋者を連れて来たという訳ですかい。上の苦労って奴ですかねぇ」
「うむ。して、もう一つは?」
「真美様が心配なら、武徳様も行けば宜しいのではありませんかね?」
親分の指摘ももっともだ。
気になるならば真美と共に武徳自ら須藤城へ訪れれば良い。それで真偽について確かめるべきだ。
だが、武徳はそうしなかった。
須藤城近くの小高い山へ布陣して動こうとしないのだ。まるで遠くから須藤城を見守るように。
「あの真美様が意地になられておったからな。下手に近くにいれば何を言われるやら……だが、理由はまだある。備えじゃ」
「備え、ですかい」
「仮に須藤城に憤怒残党が集まっているとしよう。少しでも戦力を維持しようとするならばバラバラで移動するよりも群れとなって行動した方が良い。その方が須藤城へ到達する確率も高まるからな。こうしている間に……」
「武徳様っ!」
斥候の一人が本陣へ駆け込んできた。
武徳は予想通りとばかりに親分へと向き直る。
「ほれみろ」
「北西の大乃城から須藤城へ向けて歪虚無の一団が進軍中!」
「数は?」
「数百を超えております。大乃城周辺の歪虚が集結、群れで須藤城へ向かっていると思われます」
武徳の予想通り、歪虚は調査中の須藤城へ集団で接近していた。まだ調査は気付かれていないようだが、戦場となれば現場の混乱は必至。歪虚の目的も分からなくなる。
「よし。手筈通り準備に入れ」
「旦那、あっしは何をすれば? 何かさせるために呼んだのでしょう?」
「察しが良いな。おぬしはハンターと共に囮となって近くの木谷峡谷へ敵を誘き寄せるのじゃ。そこでわしが上から岩を落として退路を塞ぐ。そこを伏兵と共に叩け」
既に武徳は策を準備していた。
親分をハンターと共に囮役として活用。敵を木谷峡谷へ誘き寄せた後、武徳が上から岩を落として退路を塞ぐ。そして伏兵と共に親分とハンターが敵を殲滅する作戦だ。
「囮ねぇ。こいつぁ難儀な役目だ」
親分は編み笠の端をつまんで、顔を背けた。
何故か自然と口角が上がる。
●
「おい、待て。この先は歪虚の群れがいる。悪い事は言わないから、さっさと家へ帰るんだ」
憤怒残党の群れへ向かって移動する親分とハンターを呼び止める一人の男。
着流しを着て蛇皮線を手にしている。
見れば体を負傷しているのか、サラシを胴回りに巻いているのが着流しの裾から見える。
「いや、その歪虚に用事があるんだ」
「あん?」
ハンターの一人が答えた瞬間、男は聞き返す。
その顔には何故か笑みが浮かぶ。
面白そうな玩具を見つけたような胸躍らせる期待の笑みだ。
「あっしらは、ある方の指示であの歪虚を誘導しなきゃならねぇのさ」
「誘導……ああ、囮か。いいねぇ、囮なら派手にやらねぇとなぁ」
親分の説明にも興味深く聞き入る男。
着流しの男がこのような場所いるのもおかしい。
もしや、歪虚か?
だが、ハンター達には負のマテリアルを感じ取る事はできない。
ならば、一体――。
ハンター達の一部は警戒して剣の柄に手をかける。
だが、男の次の言葉はその場の者達にとって予想外であった。
「己が命を餌にして大義の為に戦う、か。よし、決めた。俺もその囮を手伝ってやろう。派手に暴れてやれば良いのだろう」
「変わった奴だな。あっしは風待一家を預かる風待亨二郎ってぇもんだ」
男の怪しさは拭えないが、歪虚では無い以上断る理由もない。
足手纏いになる可能性もあるが、親分の見立てでは相応の強さを持っていると感じ取ったようだ。
「なるほど。タダ者じゃないと見ていたが、あの若峰で有名な侠客か。
俺は……武人。松永武人。詩天界隈で彷徨いているただの浪人だ」
リプレイ本文
「はっは……相も変わらず、この地はノーマルモンスターで溢れかえっているな」
それが、黒耀 (ka5677)が抱いた率直な感想であった。
30メートル先からゆっくりと歩み寄ってくる憤怒の残党。
それを前にした黒耀 は、自分が高揚している事を認識していた。
「これだけの数が相手では、墓場に送るのも一苦労よ。全くもって血湧き肉躍るではないか!
……デュエル、スタンバイ」
憤怒残党に向かって構える呪画「山河社稷図」。
黒耀 は、歓喜の笑みを浮かべていた。
これから起こるであろう未来予想図が、黒耀 を高揚させる。
だが、その場にいたすべての者が黒耀 のような状況ではない。
「張り切るのは構わないが、すべてがうまくいった後の方が良いんじゃないかい?」
風待の親分が、愛用の匕首を構える。
距離を詰めてくる憤怒の残党は人の歩行スピード程度で移動してくる。あまり早いとは言えないが、だからこそ『罠を仕掛ける』には厄介な集団である。
「数は多いあれらを峡谷まで誘い出すのは大変そうですね。失敗したら、敵の群れに呑み込まれる事になるでしょうし」
エルバッハ・リオン(ka2434)は、冷静に状況を分析する。
憤怒の一団は、化け提灯や塗り壁、骸骨武者といった妖怪のような存在で構成されている。リオンの見立てでは一体一体はそれ程強くは無い。だが、集団化して囲まれてしまえば厄介な状況に陥るだろう。
何より、三条家軍師の水野 武徳(kz0196)が立てた策に支障が発生する。
「まあ、引き受けたからには成功させるつもりですけど」
それでもリオンは作戦が失敗する気配を微塵も感じなかった。
それは瀬崎 琴音(ka2560)にとっても同じようだ。
「時折、離れた所から敵の集団を観察してみるよ。戦況や伏兵に気を付けないといけないし」
琴音は、策の成功に気を傾けていた。
武徳の立てた策のキモは、歪虚の群れを木谷峡谷へ誘引する事だ。
三条 真美(kz0198)が探索を行っている須藤城へ向かおうとする憤怒残党を誘き寄せ、木谷峡谷へ入った段階で武徳が退路を断つ。そして伏兵と共に一気に歪虚を殲滅しようという作戦だ。
シンプルではあるが、注意しなければならないのは囮役に相応の負担がかかる事だ。
如何に敵を上手に峡谷へ誘引できるかが成功の鍵である。
「難しい事は分からんが、奴らの目をこちらに向ければ良いのだろう?
……ならば、やる事は決まっている」
恭牙(ka5762)は、前へ出る。
策の事を理解はしているが、最終的には歪虚の殲滅に帰結する。
歪虚を討ち滅ぼす――恭牙の目的は、この策以上にシンプルだ。
「これは……挨拶代わりだ」
恭牙は、練り上げたマテリアルを前方に向けて撃ち出した。
青龍翔咬波が憤怒の一団を貫いた。
一直線上にいた歪虚を強襲する。
一団であるが故に全体へ大きなダメージとはならなかったが、敵の目をハンター達へ向けるには申し分ない初手であった。
派手に炸裂した青龍翔咬波。
それを目にした一人の男が、満足そうな笑みを浮かべる。
「いいねぇ。祭りは派手じゃなきゃいけねぇ。
そして、その祭りに参加しなきゃ損だ。踊るなら、踊り狂わねぇとな」
男はそう言葉を口にした直後、単身で前へ出る。
ハンター達も、武徳と共にこの地へ来た風待の親分も彼の事は何も知らない。
憤怒の一団と対峙する為に移動中、協力を申し出た男という事以外は――。
「ちょっと、単身は危ないですよ」
琴音は男に呼び掛ける。
だが、答える素振りは無い。既に男の目には、眼前の歪虚が映るのみ。
琴音は機導砲で男の援護を開始する。そうしなければ男が囲まれると直感したからだ。
「突撃? 無茶にも程があるわ。仕方ありません、皆さん始めましょう」
リオンも男を援護する為に遠方からファイアーボールを浴びせかける。
男は蛇皮線に仕込んでいた刀が武器。塗り壁相手には不利な武器だと判断したリオンは、塗り壁を中心にファイアーボール叩き込む。
物理攻撃には強い塗り壁であるが、ファイヤーボールを前に為す術は無い様子だ。
だが、それ以上に心配なのは男の行動だ。
一人の行動が作戦全体を危機に陥れかねないからだ。
「こりゃ、とんでもねぇ爆弾だったかな?」
風待の親分は、編み笠を弾くと男を救うために前へ走り出した。
●
「マジックカード発動! 風雷陣!」
黒耀 が上空へ放り投げた護符が、雷となって化け提灯へと降り注ぐ。
群れの列からはみ出ようとする提灯を容赦なく攻撃する事で、他の歪虚を塊として峡谷へと導いていく。
だが、かの一団の歩みは遅く下がり続けながらの戦いを強いられている。
「恭牙殿、あからさまな撤退は敵に疑念を生む。もっと気を配った方がいい」
「分かった。だが、あまり前へ出すぎるのも危険だ。あの男のように」
鞍馬 真(ka5819)は、恭牙の言葉を受けてある男に視線を送る。
男は刀と焙烙玉を使って、敵を斬り伏せる。
単騎で戦いを挑み続ける男は、異様な雰囲気を放つ。
恭牙が修羅として拳を振るうならば、男は悪鬼羅刹を感じさせる。
「失礼」
男が呼吸を整える隙に、鞍馬は背中を合わせる。
背後から敵が襲われない為の配慮だが、同時に男の注意をこちらへ向けたかった。
「俺と踊りてぇのか? 物好きだねぇ」
「鞍馬真。鞍馬でいい。で、何と呼べばいい?」
「松永武人。呼び方は好きにしろ。それより、俺に付き合うとはタダの剣士じゃねぇな?」
「タダ者じゃないのは、あなたもだろう? ……どうして、手伝ってくれたんだ?」
呼吸を整えながら、鞍馬は魔導剣「カオスウィース」の切っ先で敵を威嚇する。
鞍馬と武人の気迫。
それが周囲の歪虚を警戒させている。
「祭りの予感がしたんだ。祭りなら参加しねぇのは損だろ」
「だが、命を賭した祭りだ。あまりにも危険過ぎる」
「何を言ってやがる。命を賭けなきゃ面白くねぇだろうが!」
武人は、その言葉と同時に周囲へ斬り掛かる。
それに合わせて鞍馬も骸骨武者へ刺突一閃。武人の背中を守りながら、周囲の敵へ斬りつけていく。
(この男、自暴自棄……いや、違う。命の扱いが軽すぎるのか)
鞍馬は武人を前に危険な香りを感じ取っていた。
●
歪虚の一団は適度に数を減らしながら木谷峡谷へと近づいていく。
鞍馬によるソウルトーチのおかげもあって、一団はバラバラになる事無く進んでいく。
「あの……浪人さんという事は、仕える方を探している度をしているという事ですか?」 半ば風待の親分に引っ張られる形で後退を続ける武人に対して、穂積 智里(ka6819)は思い切った言葉をぶつけた。
元々、想い人が東方の地に関わろうとする理由を知りたくて依頼に参加した智里。
そこで出会った武人に興味を持ったのは、想い人に似た何かを感じたからなのだろうか。
「人に仕えるなんて、柄じゃねぇが……国の為に働く気はあるぜ。男児たるもの、デカい事を成し遂げねぇとな」
「それでは、詩天のどなたかにお仕えするのでしょうか?」
「そりゃ、詩天様の為に力になるのは当然だ。この国の為になる事をするんだからな」
智里は武人の奇妙な言い回しが気になった。
詩天の為に働くのであれば、三条家や武徳へ仕官を申し出るなり、即疾隊に入るなりすれば良い。だが、武人からはそうした雰囲気が感じられない。
仕官する気は無い。
だが、国の為に働く。
それは一体、どういう事なのだろう。
「悪いがお嬢ちゃんとの会話はこれまでだ。祭りを前に体が疼いてしかたねぇや」
「あ、待って……せめて援護します」
武人へ襲い掛かる化け提灯へデルタレイを放つ智里。
直撃を受けて地面へと落下する化け提灯を前に、智里はある事に気付いた。
武人を襲う前に化け提灯が向いていた方向は、明らかに群れの外だ。
「もしかして、松永さんは敵の目を惹き続ける為に体を張って突撃してた……?」
●
「よしっ、岩を落とせっ!」
武徳の号令が下され、足軽達が一斉に峡谷へ岩を投げ落とした。
ハンター達の誘引が成功して歪虚達の退路が断たれた瞬間でもあった。
これに合わせて伏兵が歪虚の群れへ斬り掛かる。
「ここからが本番だね。一気に叩くよ」
足軽に呼応して琴音も動き出す。
機導砲で遠距離攻撃を仕掛けていたが、殲滅戦へ切り替わると同時に刀「和泉兼重」を握る。運動強化で身体能力を向上させ、歪虚の群れへと飛び込んでいく。
「それっ!」
峡谷の壁を蹴って飛び上がると、上空から骸骨武者に向かって和泉兼重を振り下ろす。兜割りによって頭蓋骨が割られる武者。
だが、琴音の攻撃はそれで留まらない。
着地と同時に和泉兼重を振り抜き、眼前にいた別の骸骨武者を斬り伏せる。
確かに、敵は数が多い。
しかし、逃げ場を失った上周囲から伏兵が出ている状況は、奇襲も同然だ。
「後退続きでしたが、ここからは遠慮は無用です。追い込んだ歪虚を確実に倒してしまいましょう」
ファイアーボールやブリザードで歪虚の群れを攻撃しながら、峡谷へ誘引を続けていたリオン。
だが、ここまで作戦が進めば敵を葬り去るだけ。
エクステンドレンジで射程を伸ばした後、ライトニングボルトを発動。一直線に伸びる雷は、塗り壁を貫いて体を穿つ。電撃を受けた塗り壁は物理攻撃のように吸収できずに地面へと倒れ込む。魔法による攻撃がヒットすれば苦も無く倒せる相手のようだ。
しかし、ここで手を緩める気はない。
今まで後退を続けて堪った鬱憤を、ここで一気に晴らさせて貰おう。
「深追いをする必要はありません。確実に敵を倒せば良いのですから」
リオンは、伏兵達にも声をかける。
彼らは覚醒者ではない。彼らが前に出すぎて深手を負っては意味が無い。
今はもう、死を感じさせる戦いは必要ないのだから。
「レアカード発動……五光っ!」
黒耀 は札を宙に投げた。
次の瞬間、結界内にマテリアルの洪水で瞬間的に敵を呑み込んでいく。
強烈な光が、化け提灯や塗り壁を包み込む。
「今が好機! 一気に敵を屠るのだ!」
黒耀 は前衛に立つハンター達にマジックカード「ぷろていん」を使った。
歪虚の群れに立ち向かう恭牙の攻撃力が上昇する。
「良いだろう。ここで修羅となる鬼の戦い振り、見せてやる」
恭牙は、ゆっくりと息を吐いた。
眼前に立つは、骸骨武者の群れ。
槍や刀を手に恭牙の周囲へ集まってくる。
それでも、恭牙は動かない。
マテリアルを練りながら、意識を前方へ集中する。
そして――。
「うぉぉぉ!」
戦籠手「尾裂狐」の刃が骸骨の顔面に炸裂。
しかし、その隙に他の他の骸骨武者が斬り掛かる。
恭牙は尾裂狐の刃で刀を受け止める。
同時にレガース「エダークス」で蹴り飛ばす。
吹き飛ばされる武者。だが、同時に恭牙は間合いを詰めて、振りかぶった尾裂狐の一撃。
追い打ちというには、あまりにも激しい戦い振りだ。
「……やっと、思う存分戦えるな」
鞍馬はソウルエッジでマテリアルを魔導剣「カオスウィース」へ伝達。
魔法の力を宿した刃を手に――鞍馬は、走る。
「やってみるか? このスピードに、追いつけるか」
鞍馬はスピードを乗せて連撃を繰り出す。
縦横無尽。
何度も振り下ろされる剣撃を前に、骸骨武者が次々と葬られていく。
地面に倒れていく歪虚に目も暮れず、鞍馬は剣を振るい続ける。
「これで、お願い……!」
智里は周囲に仲間がいない事を確認した上で、堕杖「エグリゴリ」にマテリアルを込める。
次の瞬間、無数の氷柱が出現。周囲の歪虚を次々と貫いていく。
こうして歪虚達はハンター達によって確実に仕留められていった。
●
「今回のご助力、ありがとうございます。私はエルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んで下さい」
戦いの後、リオンは改めて武人と挨拶を交わす。
ハンターの尽力もあり、歪虚の群れは全滅。気付けば詩天の兵士にも被害は軽微。
「なぁに、こっちが勝手に祭りに参加しただけだ。おかげで楽しませてもらったぜ」
リオンも何度か目撃していたが、武人は舞剣士としてかなり激しい戦い方をする。単身で斬り掛かったかと思えば、焙烙玉で敵を爆破。常に攻めの姿勢を捨てない戦法だ。
だが、それは端から見れば危うい戦い方でもある。
「いえ、感謝させて下さい。ところで、こんなところで何をされていたのですか?」
黒耀 は感謝の言葉を述べると同時に、気になっていた事を問いかけた。
歪虚と廃城しかなかったこのような地に、武人は一人で何をしていたのだろうか。
武人は一呼吸を置いた後、ゆっくりと話し始める。
「大した事じゃねぇ。詩天を見て回ってたのさ」
「詩天をですか?」
「ああ。これから、俺は国の未来を思って動くつもりだ。その決意と覚悟を見直したくってな」
「仕官をされる気はないのでしたね。でも、今回の戦いでご縁ができたのですから、考えてみてはどうでしょう? 水野さんなら仕官してくれると思います」
智里は、武人にそう提案した。
だが、武人はその言葉で態度を一変させる。
「おい……今、なんて言った?」
「松永様、如何されました? 水野様をご存じで?」
「ああ。知ってるさ」
黒耀 の呼び掛けに、武人は答える。
その言葉に怒気が孕んでいた事は、すぐに分かった。
そこへ間の悪い事に武徳がやってくる。
「おお、皆ご苦労であった。これならば真美様も……」
「水野ぉぉぉ!!」
武人は仕込み刀を抜くと武徳へ斬り掛かる。
だが、その切っ先は武徳へ届かない。
鞍馬の魔導剣「カオスウィース」が仕込み刀を受け止めたからだ。
「どけ、鞍馬! 俺はこいつを斬る。斬らなきゃならねぇ! この国の……詩天の為に!」
「どういう事だ? 分かるように説明しろ」
「詩天に最大の危機が来る。このままじゃ、この国は幕府に呑み込まれる」
武人はどうやら詩天が滅亡の危機にでもあると考えているようだ。
それも相手は幕府。
だが、武徳も幕府には強い警戒感を示している。
「それはわしも危惧しておる。だからこそ……」
「貴様のやり方では手ぬるい。
その結果が詩天様の見合いだろう! あれは幕府が詩天を取り込まんとする策だ!
貴様に任せていては、この国は滅ぶだけだ。だったら……俺は、一度この国を滅ぼす。
そして、幕府にも負けない国家を詩天様を中心に築き上げる」
「……正気か?」
本気度合いは刀から伝わる力で十分に理解している。
だが、 鞍馬は敢えて聞き返した。
「ああ、俺と鬼哭組が幕府や西方諸国の打ち払って攘夷を成し遂げる。
だが、今日はこの感じじゃ水野を斬るのは無理か」
そう言った瞬間、武人の足下から焙烙玉が複数転がる。
鞍馬は反射的に武人と距離を置いた。
「次に会うときは、もっとデカい祭りである事を祈ってるぜ」
焙烙玉から放たれる大量の煙。
その煙が晴れる頃には、武人の姿は消え去っていた。
それが、黒耀 (ka5677)が抱いた率直な感想であった。
30メートル先からゆっくりと歩み寄ってくる憤怒の残党。
それを前にした黒耀 は、自分が高揚している事を認識していた。
「これだけの数が相手では、墓場に送るのも一苦労よ。全くもって血湧き肉躍るではないか!
……デュエル、スタンバイ」
憤怒残党に向かって構える呪画「山河社稷図」。
黒耀 は、歓喜の笑みを浮かべていた。
これから起こるであろう未来予想図が、黒耀 を高揚させる。
だが、その場にいたすべての者が黒耀 のような状況ではない。
「張り切るのは構わないが、すべてがうまくいった後の方が良いんじゃないかい?」
風待の親分が、愛用の匕首を構える。
距離を詰めてくる憤怒の残党は人の歩行スピード程度で移動してくる。あまり早いとは言えないが、だからこそ『罠を仕掛ける』には厄介な集団である。
「数は多いあれらを峡谷まで誘い出すのは大変そうですね。失敗したら、敵の群れに呑み込まれる事になるでしょうし」
エルバッハ・リオン(ka2434)は、冷静に状況を分析する。
憤怒の一団は、化け提灯や塗り壁、骸骨武者といった妖怪のような存在で構成されている。リオンの見立てでは一体一体はそれ程強くは無い。だが、集団化して囲まれてしまえば厄介な状況に陥るだろう。
何より、三条家軍師の水野 武徳(kz0196)が立てた策に支障が発生する。
「まあ、引き受けたからには成功させるつもりですけど」
それでもリオンは作戦が失敗する気配を微塵も感じなかった。
それは瀬崎 琴音(ka2560)にとっても同じようだ。
「時折、離れた所から敵の集団を観察してみるよ。戦況や伏兵に気を付けないといけないし」
琴音は、策の成功に気を傾けていた。
武徳の立てた策のキモは、歪虚の群れを木谷峡谷へ誘引する事だ。
三条 真美(kz0198)が探索を行っている須藤城へ向かおうとする憤怒残党を誘き寄せ、木谷峡谷へ入った段階で武徳が退路を断つ。そして伏兵と共に一気に歪虚を殲滅しようという作戦だ。
シンプルではあるが、注意しなければならないのは囮役に相応の負担がかかる事だ。
如何に敵を上手に峡谷へ誘引できるかが成功の鍵である。
「難しい事は分からんが、奴らの目をこちらに向ければ良いのだろう?
……ならば、やる事は決まっている」
恭牙(ka5762)は、前へ出る。
策の事を理解はしているが、最終的には歪虚の殲滅に帰結する。
歪虚を討ち滅ぼす――恭牙の目的は、この策以上にシンプルだ。
「これは……挨拶代わりだ」
恭牙は、練り上げたマテリアルを前方に向けて撃ち出した。
青龍翔咬波が憤怒の一団を貫いた。
一直線上にいた歪虚を強襲する。
一団であるが故に全体へ大きなダメージとはならなかったが、敵の目をハンター達へ向けるには申し分ない初手であった。
派手に炸裂した青龍翔咬波。
それを目にした一人の男が、満足そうな笑みを浮かべる。
「いいねぇ。祭りは派手じゃなきゃいけねぇ。
そして、その祭りに参加しなきゃ損だ。踊るなら、踊り狂わねぇとな」
男はそう言葉を口にした直後、単身で前へ出る。
ハンター達も、武徳と共にこの地へ来た風待の親分も彼の事は何も知らない。
憤怒の一団と対峙する為に移動中、協力を申し出た男という事以外は――。
「ちょっと、単身は危ないですよ」
琴音は男に呼び掛ける。
だが、答える素振りは無い。既に男の目には、眼前の歪虚が映るのみ。
琴音は機導砲で男の援護を開始する。そうしなければ男が囲まれると直感したからだ。
「突撃? 無茶にも程があるわ。仕方ありません、皆さん始めましょう」
リオンも男を援護する為に遠方からファイアーボールを浴びせかける。
男は蛇皮線に仕込んでいた刀が武器。塗り壁相手には不利な武器だと判断したリオンは、塗り壁を中心にファイアーボール叩き込む。
物理攻撃には強い塗り壁であるが、ファイヤーボールを前に為す術は無い様子だ。
だが、それ以上に心配なのは男の行動だ。
一人の行動が作戦全体を危機に陥れかねないからだ。
「こりゃ、とんでもねぇ爆弾だったかな?」
風待の親分は、編み笠を弾くと男を救うために前へ走り出した。
●
「マジックカード発動! 風雷陣!」
黒耀 が上空へ放り投げた護符が、雷となって化け提灯へと降り注ぐ。
群れの列からはみ出ようとする提灯を容赦なく攻撃する事で、他の歪虚を塊として峡谷へと導いていく。
だが、かの一団の歩みは遅く下がり続けながらの戦いを強いられている。
「恭牙殿、あからさまな撤退は敵に疑念を生む。もっと気を配った方がいい」
「分かった。だが、あまり前へ出すぎるのも危険だ。あの男のように」
鞍馬 真(ka5819)は、恭牙の言葉を受けてある男に視線を送る。
男は刀と焙烙玉を使って、敵を斬り伏せる。
単騎で戦いを挑み続ける男は、異様な雰囲気を放つ。
恭牙が修羅として拳を振るうならば、男は悪鬼羅刹を感じさせる。
「失礼」
男が呼吸を整える隙に、鞍馬は背中を合わせる。
背後から敵が襲われない為の配慮だが、同時に男の注意をこちらへ向けたかった。
「俺と踊りてぇのか? 物好きだねぇ」
「鞍馬真。鞍馬でいい。で、何と呼べばいい?」
「松永武人。呼び方は好きにしろ。それより、俺に付き合うとはタダの剣士じゃねぇな?」
「タダ者じゃないのは、あなたもだろう? ……どうして、手伝ってくれたんだ?」
呼吸を整えながら、鞍馬は魔導剣「カオスウィース」の切っ先で敵を威嚇する。
鞍馬と武人の気迫。
それが周囲の歪虚を警戒させている。
「祭りの予感がしたんだ。祭りなら参加しねぇのは損だろ」
「だが、命を賭した祭りだ。あまりにも危険過ぎる」
「何を言ってやがる。命を賭けなきゃ面白くねぇだろうが!」
武人は、その言葉と同時に周囲へ斬り掛かる。
それに合わせて鞍馬も骸骨武者へ刺突一閃。武人の背中を守りながら、周囲の敵へ斬りつけていく。
(この男、自暴自棄……いや、違う。命の扱いが軽すぎるのか)
鞍馬は武人を前に危険な香りを感じ取っていた。
●
歪虚の一団は適度に数を減らしながら木谷峡谷へと近づいていく。
鞍馬によるソウルトーチのおかげもあって、一団はバラバラになる事無く進んでいく。
「あの……浪人さんという事は、仕える方を探している度をしているという事ですか?」 半ば風待の親分に引っ張られる形で後退を続ける武人に対して、穂積 智里(ka6819)は思い切った言葉をぶつけた。
元々、想い人が東方の地に関わろうとする理由を知りたくて依頼に参加した智里。
そこで出会った武人に興味を持ったのは、想い人に似た何かを感じたからなのだろうか。
「人に仕えるなんて、柄じゃねぇが……国の為に働く気はあるぜ。男児たるもの、デカい事を成し遂げねぇとな」
「それでは、詩天のどなたかにお仕えするのでしょうか?」
「そりゃ、詩天様の為に力になるのは当然だ。この国の為になる事をするんだからな」
智里は武人の奇妙な言い回しが気になった。
詩天の為に働くのであれば、三条家や武徳へ仕官を申し出るなり、即疾隊に入るなりすれば良い。だが、武人からはそうした雰囲気が感じられない。
仕官する気は無い。
だが、国の為に働く。
それは一体、どういう事なのだろう。
「悪いがお嬢ちゃんとの会話はこれまでだ。祭りを前に体が疼いてしかたねぇや」
「あ、待って……せめて援護します」
武人へ襲い掛かる化け提灯へデルタレイを放つ智里。
直撃を受けて地面へと落下する化け提灯を前に、智里はある事に気付いた。
武人を襲う前に化け提灯が向いていた方向は、明らかに群れの外だ。
「もしかして、松永さんは敵の目を惹き続ける為に体を張って突撃してた……?」
●
「よしっ、岩を落とせっ!」
武徳の号令が下され、足軽達が一斉に峡谷へ岩を投げ落とした。
ハンター達の誘引が成功して歪虚達の退路が断たれた瞬間でもあった。
これに合わせて伏兵が歪虚の群れへ斬り掛かる。
「ここからが本番だね。一気に叩くよ」
足軽に呼応して琴音も動き出す。
機導砲で遠距離攻撃を仕掛けていたが、殲滅戦へ切り替わると同時に刀「和泉兼重」を握る。運動強化で身体能力を向上させ、歪虚の群れへと飛び込んでいく。
「それっ!」
峡谷の壁を蹴って飛び上がると、上空から骸骨武者に向かって和泉兼重を振り下ろす。兜割りによって頭蓋骨が割られる武者。
だが、琴音の攻撃はそれで留まらない。
着地と同時に和泉兼重を振り抜き、眼前にいた別の骸骨武者を斬り伏せる。
確かに、敵は数が多い。
しかし、逃げ場を失った上周囲から伏兵が出ている状況は、奇襲も同然だ。
「後退続きでしたが、ここからは遠慮は無用です。追い込んだ歪虚を確実に倒してしまいましょう」
ファイアーボールやブリザードで歪虚の群れを攻撃しながら、峡谷へ誘引を続けていたリオン。
だが、ここまで作戦が進めば敵を葬り去るだけ。
エクステンドレンジで射程を伸ばした後、ライトニングボルトを発動。一直線に伸びる雷は、塗り壁を貫いて体を穿つ。電撃を受けた塗り壁は物理攻撃のように吸収できずに地面へと倒れ込む。魔法による攻撃がヒットすれば苦も無く倒せる相手のようだ。
しかし、ここで手を緩める気はない。
今まで後退を続けて堪った鬱憤を、ここで一気に晴らさせて貰おう。
「深追いをする必要はありません。確実に敵を倒せば良いのですから」
リオンは、伏兵達にも声をかける。
彼らは覚醒者ではない。彼らが前に出すぎて深手を負っては意味が無い。
今はもう、死を感じさせる戦いは必要ないのだから。
「レアカード発動……五光っ!」
黒耀 は札を宙に投げた。
次の瞬間、結界内にマテリアルの洪水で瞬間的に敵を呑み込んでいく。
強烈な光が、化け提灯や塗り壁を包み込む。
「今が好機! 一気に敵を屠るのだ!」
黒耀 は前衛に立つハンター達にマジックカード「ぷろていん」を使った。
歪虚の群れに立ち向かう恭牙の攻撃力が上昇する。
「良いだろう。ここで修羅となる鬼の戦い振り、見せてやる」
恭牙は、ゆっくりと息を吐いた。
眼前に立つは、骸骨武者の群れ。
槍や刀を手に恭牙の周囲へ集まってくる。
それでも、恭牙は動かない。
マテリアルを練りながら、意識を前方へ集中する。
そして――。
「うぉぉぉ!」
戦籠手「尾裂狐」の刃が骸骨の顔面に炸裂。
しかし、その隙に他の他の骸骨武者が斬り掛かる。
恭牙は尾裂狐の刃で刀を受け止める。
同時にレガース「エダークス」で蹴り飛ばす。
吹き飛ばされる武者。だが、同時に恭牙は間合いを詰めて、振りかぶった尾裂狐の一撃。
追い打ちというには、あまりにも激しい戦い振りだ。
「……やっと、思う存分戦えるな」
鞍馬はソウルエッジでマテリアルを魔導剣「カオスウィース」へ伝達。
魔法の力を宿した刃を手に――鞍馬は、走る。
「やってみるか? このスピードに、追いつけるか」
鞍馬はスピードを乗せて連撃を繰り出す。
縦横無尽。
何度も振り下ろされる剣撃を前に、骸骨武者が次々と葬られていく。
地面に倒れていく歪虚に目も暮れず、鞍馬は剣を振るい続ける。
「これで、お願い……!」
智里は周囲に仲間がいない事を確認した上で、堕杖「エグリゴリ」にマテリアルを込める。
次の瞬間、無数の氷柱が出現。周囲の歪虚を次々と貫いていく。
こうして歪虚達はハンター達によって確実に仕留められていった。
●
「今回のご助力、ありがとうございます。私はエルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んで下さい」
戦いの後、リオンは改めて武人と挨拶を交わす。
ハンターの尽力もあり、歪虚の群れは全滅。気付けば詩天の兵士にも被害は軽微。
「なぁに、こっちが勝手に祭りに参加しただけだ。おかげで楽しませてもらったぜ」
リオンも何度か目撃していたが、武人は舞剣士としてかなり激しい戦い方をする。単身で斬り掛かったかと思えば、焙烙玉で敵を爆破。常に攻めの姿勢を捨てない戦法だ。
だが、それは端から見れば危うい戦い方でもある。
「いえ、感謝させて下さい。ところで、こんなところで何をされていたのですか?」
黒耀 は感謝の言葉を述べると同時に、気になっていた事を問いかけた。
歪虚と廃城しかなかったこのような地に、武人は一人で何をしていたのだろうか。
武人は一呼吸を置いた後、ゆっくりと話し始める。
「大した事じゃねぇ。詩天を見て回ってたのさ」
「詩天をですか?」
「ああ。これから、俺は国の未来を思って動くつもりだ。その決意と覚悟を見直したくってな」
「仕官をされる気はないのでしたね。でも、今回の戦いでご縁ができたのですから、考えてみてはどうでしょう? 水野さんなら仕官してくれると思います」
智里は、武人にそう提案した。
だが、武人はその言葉で態度を一変させる。
「おい……今、なんて言った?」
「松永様、如何されました? 水野様をご存じで?」
「ああ。知ってるさ」
黒耀 の呼び掛けに、武人は答える。
その言葉に怒気が孕んでいた事は、すぐに分かった。
そこへ間の悪い事に武徳がやってくる。
「おお、皆ご苦労であった。これならば真美様も……」
「水野ぉぉぉ!!」
武人は仕込み刀を抜くと武徳へ斬り掛かる。
だが、その切っ先は武徳へ届かない。
鞍馬の魔導剣「カオスウィース」が仕込み刀を受け止めたからだ。
「どけ、鞍馬! 俺はこいつを斬る。斬らなきゃならねぇ! この国の……詩天の為に!」
「どういう事だ? 分かるように説明しろ」
「詩天に最大の危機が来る。このままじゃ、この国は幕府に呑み込まれる」
武人はどうやら詩天が滅亡の危機にでもあると考えているようだ。
それも相手は幕府。
だが、武徳も幕府には強い警戒感を示している。
「それはわしも危惧しておる。だからこそ……」
「貴様のやり方では手ぬるい。
その結果が詩天様の見合いだろう! あれは幕府が詩天を取り込まんとする策だ!
貴様に任せていては、この国は滅ぶだけだ。だったら……俺は、一度この国を滅ぼす。
そして、幕府にも負けない国家を詩天様を中心に築き上げる」
「……正気か?」
本気度合いは刀から伝わる力で十分に理解している。
だが、 鞍馬は敢えて聞き返した。
「ああ、俺と鬼哭組が幕府や西方諸国の打ち払って攘夷を成し遂げる。
だが、今日はこの感じじゃ水野を斬るのは無理か」
そう言った瞬間、武人の足下から焙烙玉が複数転がる。
鞍馬は反射的に武人と距離を置いた。
「次に会うときは、もっとデカい祭りである事を祈ってるぜ」
焙烙玉から放たれる大量の煙。
その煙が晴れる頃には、武人の姿は消え去っていた。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/12/05 22:46:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/05 19:30:31 |