• 東幕

【東幕】苦労する身は厭わねど

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/12/07 19:00
完成日
2017/12/16 16:51

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 土壁を覆う苔。薄暗がりの中、漏れる淡い光。それは地面を焦がし……元の静けさが戻る。
「……失敗したみたいですね。まあ、いいでしょう。それも概ね予想通りですし」
 ため息をつく人影。集まって来た鎧を着た骸骨を一瞥する。
「あなた達いらしたんですね。丁度良かった。私は留守にしますから、引き続き皆を集めて下さいな」
 こくりと頷く骸骨。人影は優雅な動きで闇へと消えて行った。


「……それでは真美様。今一度確認致しますが……このお話は一旦保留ということで宜しゅう御座いますな?」
「はい。スメラギ様に協力したいとは思いますが……私の為に身を挺して下さっている人がいます。きちんとお話をしてから決めたいのです」
「畏まりました。それではそのように取り計らいましょう」
「お願いします」
 1通の書状を挟むようにして向かい合う三条家軍師、水野 武徳(kz0196)と九代目詩天、三条 真美(kz0198)。
 2人が話し合っているのは幕府上層部――それも、立花院 紫草(kz0126)を代表者とした届いた書状で……内容は、スメラギ(kz0158)との見合いを打診する内容である。
 あくまでも『打診』という形ではあるが、幕府からの正式な書状となれば事実上の『命令』に近い。
 余程の事情がない限り、断りを入れるのは角が立つ結果になる。
 真美は『見合いをしてから断れば良い』というが外交というものはそんなに甘いものではない。
 ――正直、武徳としては己の主とエトファリカの帝の見合いは喜ばしいとは言えないものだった。
 幕府や朝廷の繋がりが強くなれば、三条家の繁栄は盤石のものとなるだろう。
 だが逆に言えば幕府の直接の介入を許し、『詩天』そのものが吸収、統合と言った結果を生む可能性もあるのだ。
 そういう意味で、真美が『現時点において保留』という決断を下したことは、武徳にとっては渡りに船だった。
 時間を稼いでる間に、対策を考えることが出来る。
 ……これも真美様に関わるハンター殿のお陰か。感謝せねばなるまいな。
 ――これを機に、あのお方と繋ぎを取らねば……。
 それから真美と幾つか話し合いをし、席を辞した武徳。そのまま執務室に籠り、筆を執った。


 幕府の勅命が詩天に下ったのは、十日ほど前の事だ。
 詩天の南、長江近くに存在する廃城――須藤城。
 情報によれば、この近くで多くの憤怒残党が目撃されているという。
 今回、この真偽について調査を命じられていた。
「憤怒残党ならば、エトファリカ各地でも目撃されておる。それをわざわざ調べよと命じてきたという事は、何か意図があると見るべきか……」
 武徳は勅命を不審がっていた。
 憤怒残党ならば東方各地で目撃されている。珍しいものでもない。
 わざわざ勅命をしたならば、裏の意図があるのではないか。
 考え込む軍師を、真美は苦笑して見上げる。
「考えすぎですよ、武徳。天ノ都も復興している最中です。きっと人手が足りないのでしょう」
「……は。拙者は疑ってかかるのが仕事でございますゆえ、何卒ご容赦を」
「そうですね。武徳が詩天のことを考えてくれているのは理解しています。私が出来ないことを、武徳がしてくれていることも」
「……勿体ないお言葉に存じます。して、須藤城を調査せよとのことですが……ハンター殿を派遣されますか?」
「そうですね。依頼を出してください。私も同行します」
「真美様……? それはいけません。廃城の調査など危険極まりない!」
「幕府からの勅命ですよ。当主が出ずしてどうするのですか」
「当主だからこそ出てはならぬので御座います! こういう時はどっしりと構えているのが王というものです」
「王は民を守れるくらい強くあらねばなりません。私はまだ未熟です。こういう時に修行しておかないと!」
「ダメと言ったらダメです! 修行であれば他の方法が……」
「嫌です! ハンターさんと一緒に修行したいんです!!」
 譲る様子を見せない真美に、ため息を漏らす武徳。
 本当であれば若峰でおとなしくしていて欲しいところではあるが……そろそろ、帝との見合い話のも噂として各所に届き始めているかもしれない。
 武徳の不在をついて真美に何か良からぬことを企む輩が出て来ることも考えられる。
 そうなれば、確かに中立を保っているハンター達の近くにいて貰った方が安全なのかもしれない。
「……止めても無駄、ということでございますな?」
「そうです。止められても行きます」
「畏まりました。同行するハンター達から離れないよう注意なさってください。くれぐれも御身を優先し、無理はなさいませんように」
 武徳のいつもの言葉に、真美はこくんと頷いた。


「今回は随分少数精鋭なんだな」
「はい。潜入調査ですので、あまり人数が多いと目立ってしまいますから」
「えっと……潜入する場所は廃城って聞いたですけど、本丸しかないです……」
「はい。須藤城は元々立派なお城だったと聞いています」
 依頼を受けたハンター達は依頼主である真美と合流し、依頼の詳細の説明を受けていた。
 ――詩天の南に存在する須藤城。
 小高い丘の上に築城されており、周りを取り囲むように空堀が存在する。
 丘の上には土塁が高く盛られ、その上に本丸があり、そこに沿うようにして二の丸、三の丸が作られていた。
 遥か昔に歪虚に攻め落とされ、須藤城城主とその一族は滅亡。
 現在は二の丸、三の丸は風化してほぼ消え去り、崩れた本丸のみが残っている状況だった。
「二の丸、三の丸はもう殆どないってことは気にしないで大丈夫そうだね」
「土塁も高いみたいだし、外から見ても歪虚が集まってるかどうかわかりそうにないね」
「はい。ですので、潜入する形になります。ただ、須藤城が大分前に滅んでいますので、本丸に関する資料も残っていないんです」
「……ということは、道を探しながらの探索になりますかしら」
「そうなると、念のため灯りも用意した方がいいだろうか……。多くの憤怒歪虚が集まっている可能性があるんだったか?」
「はい。その真偽を確かめるのが目的です。もし集まっている場合は、憤怒の歪虚が何故集まっているのか、というのまで調査出来るといいんですが……」
「了解だよ。歪虚が沢山いるかもしれないから、真美さんは僕達から離れないでね」
「はい」
 どことなく心配そうなハンター達に、素直に頷く真美。

 ――色々な思惑と事情を乗せて、須藤城の潜入調査は開始となった。

リプレイ本文

「ふむ。堀と本丸以外は本当に何も残ってないんだな、と」
「そうね。このお城が滅びたのは大分前なのかもしれないね」
 足元を確認しながら言うアルト・ハーニー(ka0113)に頷くシェルミア・クリスティア(ka5955)。
 三条 真美(kz0198)の案内で今回の探索の目的地である須藤城へとやってきたハンター達は、早速調査を開始した。
 今歩いているのは恐らく二の丸があった辺り。
 三の丸もそうだったが、余程酷く歪虚に蹂躙されたのか、あったはずの堀は瓦礫で埋まり、城壁に使われていたと思われる大きな岩が無造作に転がるばかりで――かろうじて残る竪井戸の枠や朽ちた家の残骸で、ここには居住区もあったのだろうと推測することが出来た。
 ――人々が住んでいた場所がこうして壊され、朽ちて行く様は何度見ても悲しいものだと。
 そんなことを考えていたバジル・フィルビー(ka4977)は隣を歩く妹分達に目線を移す。
「エステル、真美。足元に気を付けるんだよ」
「はいです! 真美ちゃん、大きな石がいっぱいです。手を繋ぐです!」
「ありがとうございます。すみません、気を使って戴いて……」
「いやあ、君に何かあったら君のお姉さんが黙ってないからねえ」
「自分も黙っておりません」
 お友達の手を取るエステル・ソル(ka3983)に恐縮する真美。
 続いたバジルと七葵(ka4740)の言葉に、シェルミアが苦笑する。
 ――三条家の軍師である水野 武徳(kz0196)も大分過保護であるように思うけれど。
 ハンター達も負けていないかもしれない……。
 エトファリカの帝もだが、彼女も国や重責、立場といったものを色々と背負っている。
 まだ幼い身でありながら逃げずに一生懸命立ち向かって……そういう子だからこそ、守りたいし、手伝いたいと思う者が多いのかもしれない。
 ――わたし自身もそうだし。今回の調査も頑張らなきゃ。
 シェルミアが決意を固めている間も、エステルの声が聞こえて来る。
「……今回の調査を三条家に依頼した理由がある気がします。ここは何か特別な場所なのですか?」
「いいえ。そういった話は聞いておりません。須藤家も一般的な武家であったと資料にはありました」
「ふーん。この場所自体に因縁はないと思っていいのかね」
 真美の説明に腕を組むアルト。七葵がふむ、と考え込む。
「須藤城は比較的詩天から近い。天ノ都から人を派遣するより早いと立花院殿も判断されたのかもしれんが……。別に理由はありそうな気はする」
「別な理由です? 何ですか?」
 小首を傾げるエステルに、七葵は茜色の瞳を向ける。
「幕府より、真美様宛に正式に帝との見合いの打診があった……と言えば分かるだろうか」
「……あ、もしかして。真美ちゃんが帝の相手に相応しいと幕府や朝廷に広めようってこと? 今回の任務を成功させれば能力のアピールになるし、結果的にそうなるよね」
「そういうことだ。立花院殿ならそこまで考えられていても不思議はない」
「……武家だか公家だか知らないが随分面倒くさいな」
 ぽん、と手を打ったシェルミアに頷く七葵。輝羽・零次(ka5974)がハァ、とため息をつく。
「裏でこそこそしてるのは気に入らないが、依頼を成功させない理由にはならないからな。気合入れていくぞ」
 続いた零次の言葉に頷く仲間達。目の前に見えるは唯一残る本丸を囲うようにして存在する空堀。その向こうには高い土塁がある。
「この土塁の上に本丸があるですよね」
「そのはずだが……流石にここから土塁の上は見えないな、と」
 頷いて目を凝らすアルト。目は良い方だが、さすがに距離があって何があるのか分からない。
 エステルも遠見の眼鏡を使って覗き込むが、残念ながら身長が足りず、土塁が大きく見えただけだった。
「ん。ここはわたし達の出番だね。真美ちゃん、式符を使って貰える?」
「式符ですか?」
「そう。式符を使って飛ばせば空堀周辺も、土塁の上も偵察出来るでしょ。敵がいてもすぐわかるし」
「あっ……。なるほど。そう言われてみればそうですね」
「わたしも使うから、1人で全部見なくて大丈夫だよ。見えたものを教えてくれる?」
「分かりました!」
「集中してる間私達は動けないから、皆護衛お願いね!」
「承知した。お任せを」
「了解! ……2人共、宜しくね」
 てきぱきと指示をするシェルミアにこくりと頷く真美。
 七葵とバジルに笑みを返した2人は符を手にして――それは人の型に変化すると、地面を滑るようにするすると進み、二手に分かれる。
 ――空堀に歪虚らしき姿はない。目視で分かるような罠もない……かな。
 堀が結構深い。一度降りて登ろうと思うと大変そうだ……。
 するすると土塁を登る式符。見えたものに、シェルミアは短く声をあげた。
「どうした?」
「歪虚がいるよ。提灯と骸骨かな……」
「どれくらいいる?」
「んー。2……ううん、3体ってとこかな。建物の周囲をウロウロしてる」
 零次の確認するような声に集中したまま話すシェルミア。アルトがふーんと声をあげる。
「提灯と骸骨ねえ……。流石に埴輪はおらんだろうが、さて何が出てくるやら……と思ったが妖怪か?」
「どこまで知恵があるか分からんが、後のことを考えても倒しておいた方がいいだろうな」
「敵と戦わずに済ませられればと思ったんだけどね……」
「敵の能力の確認も大事です! 数体ならこの人数で対応できるです!」
「そうだな。……その前に堀と土塁乗り越えないとだけどな」
 七葵とバジルの呟きに必死で言い募るエステルに淡々と応えた零次。
 堀は深く、土塁は高く……戦闘の前に大仕事になりそうだった。


「おー。なかなかの眺めだぞ、と」
「堀を含めると5mは登ったか……」
 上り詰めた土塁の上から周囲を眺めるアルトと七葵。
 高いだけあって周囲を一望できて――こうしてみると、須藤城は中規模程度の城であったことが伺える。
「堀に水を引き込む細工をされてたら怖いと思ったけど、何もなくて良かったね……って、エステルもシェルミアも大丈夫?」
「だ、大丈夫です……! わたくし負けません……っ!」
「か弱い女の子にはちょっと厳しかったね……」
 堀と土塁を乗り越えて、肩で息をする女の子達を気遣うバジル。その横で真美がぺこぺこと零次に頭を下げていた。
「……すみません、零次さん。お手間を取らせてしまって。その……重かったのでは」
「あ? お前みたいな細いの重いうちに入らない。お子様が変な気回すな」
 頭をわしわしと撫でられて頬を染める真美。
 堀を降りて登り始めたはいいが、幼い頃から陰陽寮に預けられ、あまり外に出ることがなかった真美はあっと言う間に力尽きて……。
 零次がロープで彼女と己を括りつけて、壁歩きで堀と土塁を歩いて登って――今の状況がある。
「……真美様。お疲れのところ申し訳ありませんが、敵が迫っております。ご準備を」
「やれやれ。休憩する暇もないってか」
 こんな時でも主を気遣い、礼儀正しく頭を下げる七葵。
 土塁を登って来たことに気付いたのか、こちらへやって来る歪虚。
 仲間達を守るようにアルトが立ち塞がる。
「真美、僕の後ろまで下がって!」
「……っ!」
「真美ちゃん、慌てないでいいよ。わたし達は後方からでも攻撃できる。それが利点だからね!」
「そうです! 前衛の支援をするです!」
 真美に手を伸ばして移動を手伝うバジル。シェルミアとエステルの声に、少女がこくりと頷く。
 ふわふわと浮く提灯と、ボロボロの鎧を着た骸骨がゆっくりとした速度で迫って来る。
 ――骸骨の方は、この城に住んでいた者の成れの果てだろうか。
 そうじゃなかったとしても、死してまで負のマテリアルに支配されて動き回るのは辛いはずだ。
 ふとエステルの頭を過る、優しい目をした金髪の青年。
 依代として利用されていたあの人も、開放されることを望んでいた。
 だから……。
「符を構えて! 行くよ真美ちゃん!」
「はい! 雷撃招来……!」
「炎を纏いし矢よ、行ってくださいです!」
 化け提灯に真っ直ぐに吸い込まれる2本の雷撃。そして弧を描いて飛んだ炎の矢が骸骨武者を貫く。
「お見事です、真美様!」
「ちとお気に入りのハンマーが壊れたので今日は……切り裂かせて貰うんだぜ?」
「邪魔だ! 消えろ……!」
 後方からの攻撃に総崩れとなった歪虚。
 踏み込み、一気に間合いを詰めて提灯を水平に両断した七葵。
 アルトのチェーンソーが骸骨武者を叩き潰すようにして割き、零次の拳が残る1体を粉砕して……。
 あっと言う間に勝負がつき、周囲は静けさを取り戻す。
「思ったより早くカタがついたな。これなら他の敵にも気付かれる心配もなさそうだぞ、と」
「あっと言う間過ぎて敵の特性が良く分からなかったです……」
「あはは。あんまり強くない、って報告すればいいんじゃない?」
 獲物を収めながら言うアルトに困り顔のエステル。そして屈託なく笑うシェルミア。
 そんな仲間達を見つめていた真美は、ぺこりと頭を下げた。
「すみません。もたついてしまって。やっぱり足手纏いでしたね……」
「真美様。それは違います。自分は支援や射程に優れた技がなく、素早さに重点を置いている為前衛としては防御も心許ありません。だからこそ真美様のような術者がいると心強く、安心して刀を振るえるのです」
「気にすんなって言っただろうが。最初っから強いやつなんていない」
「そうだよ。僕だってまだまだだしね。それに……出会った頃に比べたら強くなっているよ、大丈夫」
 きっぱりと断じる七葵。続いた零次とバジルの言葉に真美はしきりに恐縮して……そんな少女にシェルミアはため息をつく。
 代々優れた軍人を排出してきた家を出自に持つ彼女も、以前はこうして焦っていたことがあった。
 昔の自分を見ているようで、何だかムズムズしてしまう。
「適材適所って言う言葉があるでしょ? わたしも符術師だし、分かることなら教えるよ」
「あーうー。言おうと思ってたこと言われちゃったです! えっとえっと、わたくし一生懸命な真美ちゃんが大好きです」
 ひしっとエステルに抱きつかれてようやく笑顔が戻る真美。
 それを見守っていたアルトはくい、と前方を指差す。
「さて、それじゃあ本題に入るかね、と。忍者とか侍でも出るかと思いきや……お化け屋敷か妖怪屋敷かそんな感じだねぇ」
 彼の手の示す方を見つめる仲間達。唯一残っている本丸も大分風化が進み、一部分が壊れているような状況だった。
 侵入経路には事欠かないが、風化が進んでいるところは崩れて来かねない。内部での戦闘は危険かもしれない……。
「……歪虚が集まってるにしてはやけに静かじゃないか?」
「そうだね。物音くらいしても良さそうだよね……」
「あ、ちょっと待ってくださいです」
 周囲を見渡すアルトに、敵に気付かれぬよう声を潜めるバジル。エステルが短刀に光の精霊を宿すと、良く見えなかった内部が良く見えるようになって……。
 偵察に式符をと思ったが、灯りがない状態では難しそうだと判断したシェルミアは、黙々と本丸のマッピングをしていく。
 息を潜めて、周囲を警戒しながら1つ1つの部屋を確認して歩くも――一向に敵の姿は見えない。
 本丸の残っている部分をぐるっと一周したが、結局歪虚1匹を見つけることは出来なかった。
「……おかしいな。敵が1匹もいないなんてこたぁないだろうと思ったんだが……」
「はい。すごく歪虚の気配はするです。でも見えないです……」
 アルトの呟きにしょんぼりとするエステル。シェルミアもうんうんと頷く。
「ここが拠点ならもっと哨戒する敵がいてもいいはずだしね」
「……もしかしたら出入口が別にあるのかもしれないな」
「お城って、王族の人が避難したりするための通路があったりするよね」
「地下道か……」
「……! もう一度良く探してみるです!」
 零次とバジルの呟きにハッとする七葵。エステルの声に、ハンター達はもう一度周囲をくまなく探索して――。
 それに気づいたのは零次だった。
「どうした零次殿」
「見ろ。複数ある足跡が全部ここで途切れてる」
「……下から風が来ているな」
 まじまじと足元を見る七葵。バジルもそれに続いて……2人はほぼ同時に足元の岩に妙な隙間があることに気が付いた。
「……この岩、動きそうだよ。七葵、ちょっとそっち持て」
「了解した」
「俺も手伝うぞ」
 バジルに協力して岩を持ち上げる七葵とアルト。岩だと思ったものは拍子抜けするくらい簡単に抜けて……そこから、階段が現れた。
 頷き合ってそろりそろりと階段を下りるハンター達。
 階段の下はちょっとした踊り場になっており、その横に小さな部屋があって――さらにその奥に通路があるのが見て取れた。
「――結構広い。壁が石造りということは急造したものではなく築城した時に既に作られていたと思って良さそうだな。避難経路兼、万が一の際に逃げ込めるように用意されたもの……と言ったところか。恐らく三の丸の城壁外あたりに出入り口がもう一つあると見ていいだろう」
 自国の城の知識を踏まえて推理する七葵。
 先頭を歩いていたアルトは通路に足を延ばしかけて慌てて仲間を制止した。
「……ちょっと待った。これ以上進むのはヤバそうだ。とんでもない数の歪虚がいやがるぞ、と」
 その声に目を凝らす零次。
 歪虚達の規模、集まって何かをしているのか……それらを極力探る。
「何かをしているようには見えないが、百単位でいそうだな……」
「……待って。何だろうこれ」
 バジルが示したのは踊り場横にある小さな部屋の隅。
 地面に円が描かれ……魔術の陣だろうか。中心の部分が焦げているのが見て取れた。
 エステルはそれを覗き込んで首を傾げる。
「……魔法陣でしょうか。見たことない感じです」
「わたしも見たことないな。真美ちゃんは?」
「私も……何らかの儀式をしようとした、というのだけは分かりますが」
「……そうだね。何の儀式かまでは分かんないけど、これも報告として持って帰ろう」
 真美の言葉に頷いたシェルミア。手元の地図に、しっかりと書き残した。


 こうして、ハンター達は須藤城の調査を終えて帰還した。
 2種類ではあったが敵の強さ、城の地下に歪虚が多数集まっていること、そして何かの儀式をしたような形跡を発見することができ、ほぼ完璧な形で依頼を達成することができた。
 これは同時に、幕府からの勅命を見事な形で達成したこととなり――詩天の三条家の評判が、少なからず上昇する結果を齎した。
 めでたいことではあるが、これもまた今後に何らかの影響が出ることになるであろうな……と。三条家軍師は複雑な表情を見せたのだった。

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MVP一覧

  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビーka4977
  • 拳で語る男
    輝羽・零次ka5974

重体一覧

参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 千寿の領主
    本多 七葵(ka4740
    人間(紅)|20才|男性|舞刀士
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師
  • 拳で語る男
    輝羽・零次(ka5974
    人間(蒼)|17才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【質問】真美ちゃんに聞きます
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/12/04 21:22:25
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/12/02 23:37:25
アイコン 相談卓
本多 七葵(ka4740
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/12/06 22:39:32