蒼き世界の思い出を

マスター:のどか

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/11/27 22:00
完成日
2014/12/06 14:08

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ――あ あ あ あ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ っ っ っ ! ?

 オフィスの壁がビリビリと震えるかのような大きな叫び声と共に、時は今日のお勤めの終了の刻を指していた。
 声の主、ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)は椅子から立ち上がった状態でしばらく静止して居たが、ひとしきりの注目を集めた後にヨヨヨと地面に崩れ落ちると、しくしくとベソをかきはじめた。
「ど……どうかしましたか?」
 同僚のイルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)は相変わらずの無表情ながら、しかし他人に気づかれない程度にどこかせかせかとした様子でルミの下へと駆け寄った。
「み、見てください……これ」
 そう言いながら震える手でイルムに差し出したのは小さな小物入れ。ルミがいつも腰にぶら下げている、謎の動物を模ったウエストポーチであった。
「これは――ネズミ?」
「ウサギです!」
 イルムのいたって真面目なコメントに間髪入れずに被せるルミ。確かに言われてみれば長そうな耳と赤い瞳がそんな雰囲気を醸し出していないこともない。
「すみません。で、そのウサギがどうかされたのですか?」
 そう問いかけると、ルミは震える指でそのポーチの底の部分をちょんちょんと指し示す。掲げるようにして指された部分をのぞき込むと、そこには指二本分ほどの穴から中の化粧品やらなんやらが覗いていた。
「今日もお勤めごくろうさまーって、帰ろうとした時ですよ……カランって、足元で小さなものが落ちる音がしたんです。あれ、何か落としたかなって拾い上げたら――それはリップクリーム、だったんですよ。リアルブルーから持ってきた大事な大事なリップクリームです。この冬の必需品です。そんな大事なものを、それも残量も残り少ないお気に入りのリップクリームをそんな雑に扱うなんてことあり得ません。使ったら必ずポーチに閉まっていたハズ……そう思った時、この灰色の脳細胞が閃いてしまったんです。恐ろしい事件の全貌に――」
 ルミはそう、わなわなと震えながら一気にまくしたてると不意にぴたりと息を止め、再びヨヨヨと泣き崩れた。
「穴が、開いていたんですよ~~~~~!!」
「な、なるほど……」
「このポーチもリアルブルーから持って来た大事なものだったんです。肌身離さず持っていたから、転移に巻き込まれて運よくこっちまで持ってくることができたのに……でもこんなことになっちゃうなんて~~!!」
 再びわんわんと叫ぶルミ。その勢いに若干気圧されるイルムは何と声を掛けたらよいのかも分からずしばらくおろおろと(無表情で)していたが、ぴんと思い立ったようにポンポンとルミの肩を叩いた。
「街の雑貨屋さんに頼んでみたらどうですか? もしかしたら直して貰えるかも……」
「それなら商会の雑貨店をご紹介できますが」
 どこから話を聞きつけたのか、いつの間にか二人の傍に腰を下ろしていたモア・プリマクラッセ(kz0066)が不意にそんな言葉を呟いた。
「モアさん、いつの間に」
「商品からサービスまで、バロテッリ商会を是非ご贔屓に」
「い、いえ、遠慮しておきます・・・・・・」
 そう事務口調で宣伝するモアに対し、ルミはそれまで泣いていたのがウソのようにピシッと真面目な顔になるとすっぱりと断った。
 ルミは忘れていない。かつて商会のレストランに誘われて、たらふく料理をご馳走になって(なったと思って)ご満悦になっていたら、次の給料から食べた分しっかり天引きされていた事を。
 ちなみにその月の大半は砂糖水と塩水で過ごす事になったらしい。おかげでダイエット出来たが苦行の日々であったと後に新米受付嬢は振り返る。
「そうですか、残念です」
 そう言いながらすすす、と幕引きのように去ってゆくモアを見送りながら残された二人は小さくため息を吐いた。
「あとは、フマーレとか行かれてみるとか。あそこなら工房が多く立ち並んでいますし、比較的安くバッグの修理を行ってくれる所もあるかもしれません」
「でも、そういう所って何かこう屈強な漢の職場って感じでどうも怖いですよぅ」
 ちなみにこの時ルミが想像したのはガチムチのオッサン・お兄さん達が身の丈もある金槌を片手にニッコリとサムズアップしている情景であった。
「だ、大丈夫だと思いますよ。何なら誰かに付き添って貰えば……」
「じゃあ、イルムさ――」
「――残念ですが、私は仕事が」
「うう……」
 なす術なしかと途方に暮れるルミであったが、不意にピンと豆電球を立てるように手を打った。
「そうだ、こういう時のハンターさん達ですヨ」
 屈強な男達にも勝るとも劣らない屈強なハンター達なら怖い所でも守ってくれるハズ……
「そうと決まれば早速依頼を出しちゃいます! こういう時こそ職権乱用ですね♪」
 どこか変な方向に話が進んでいるような気がしないでもないが、ひとまず元気を取り戻したらしいルミを前にイルムはほっと一息吐くのであった。

 ちなみに――依頼を出そうと思って居る自分自身もハンターだという事はこの際、触れてはいけない。

リプレイ本文

●ルミちゃんはお怒りです
 雑貨工房『俺の鞄』。フマーレの工場街の一角にあるその小さな工房は、すべて手づくりながらしっかりとした造りで頑丈な鞄や小物を制作する事で有名であった。一度買えば長持ちする事から、近頃ポルトワールやヴァリオスの中・低所得帯層に人気の工房である。
 そんな工房からやや不機嫌そうな少女を先頭に、数人のハンター達がぞろぞろと出て来るのであった。
「やっぱり、ただ頼んでも難しいみたいですね……」
 ヘザー・S・シトリン(ka0835)はややなだめるようなそぶりで、不機嫌そうな少女、ルミ・ヘヴンズドアに声を掛けた。
「鞄を直してくれるくらい良いじゃない。ちょっと人気なのか知らないけどさ……!」
 そう、体裁を取り繕うのも忘れてプリプリと肩を揺らすルミに久延毘 大二郎(ka1771)が溜息交じりに答える。
「まあ、ルミ君。彼らにとって現在この時、我々は招かれざる客である。対価を払うつもりであったとしても、礼を欠いているのは確かなのだろう」
「もう……久しぶりに会ったのに、理屈っぽい所は変わらないですね」
 その言葉に返事を返すでもなく、久延毘は後にした工房の方を顧みる。
「事実、この工房の腕は本物であるとボクも思うぞ。親方だけでなく、弟子達も良く腕を磨いている。それだけの魂やプライドのようなものを、製品から感じる事が出来たからな」
 ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は同じように工房を顧みながら久延毘の隣へとその小さな肩を並べると、満足げに頷いてみせた。
「ボクはもう少しあの工房の製品を見てみたい。交渉がてら、もう一度工房へ行ってこようと思うぞ!」
「それなら、俺も行ってみるとすっかね」
 ディアドラの言葉に対し、ジャック・エルギン(ka1522)がひらひらと手を上げて見せた。
「そのネズミだかウサギのポーチってのは、大事なモンなんだろう?」
 ルミの瞳を射抜くようにまっすぐと見据えるジャック。ルミはその視線に物おじすること無くまっすぐに見返すと、「うん」とただ一言力強く呟いた。
 
●職人は頑固
 工房へと戻って来たディアドラとジャック。そんな彼らを先ほど外に出ずに残っていたのだろう、2人のハンター達が出迎えた。
「ねぇ、お願いしますよ! 何でもしますから!」
 そう、親方に食って掛かるミネット・ベアール(ka3282)。親方は彼女の懇願に若干いらいらとし様子を見せながらも、比較的静かに、黙々と目の前の作業に没頭していた。作っているのは皮製の小物入れだろうか。その厳つい顔と手からは想像もつかない器用な指使いで皮の上に刺繍で模様を施してゆく。
「ふぅん、なかなかやるじゃねーの」
 横目でその様子を眺めていたlol U mad ?(ka3514)は職人の機嫌なんざお構いなしの口調でそう呟いた。もちろん狙っているのかどうかまでは本人しか知る由は無いが、当の親方にも聞こえるようなボリュームで。
「……ガキにそう言われたくは無いわ。こっちはコレで食ってんだよ」
 無視を決め込んでいた親方はそこではじめて口を開いたが、それ以上話が続くことは無かった。
「だが、良いものは良いと言うのにガキかどうかも関係ないぞ。大王たるボクが言うんだ、間違いない」
 この中では外見的に最年少の部類に入るディアドラであったが、物怖じせずにそう言うと完成品らしき棚の小物入れを手に取りその隅々を眺め回す。
「コレが巷で頑丈で長持ちすると噂の品……確かに良くできているな。派手ではなく素朴な外見ではあるが、機能性に優れている。取り出し口や内部の構造等、使う人の視点に立って作っているのが良く分かるぞ」
「そうでしょう! それ、私の作品なんですよ! どうやったら少しでもストレス無く使う事ができるのか。それを第一に作ったんです!」
 そう彼女が言うと、弟子のひとりが嬉しそうに声を上げた。が、すぐに親方に諌められバツが悪そうに作業へと戻る。
「弟子の育成も上手いってこった」
 ジャックも感心したようにディアドラの言葉に頷くが、どうやらおだてた程度ではその気を動かす事はできないようだ。
「ンなワリにゃ、ポーチの一つも修理出来ねぇんだな」
 不意に、流れた静寂の中でポツリとロルが呟いた。その言葉にピクリと親方の眉が動く。何も言葉を返すでも無いが作業をする手を止め、その背中が「もういっぺん言ってみろ」と語った。
「時間がねぇやりたくねぇ……ちげーだろ。出来ねぇなら出来ねぇってハッキリと言えよ、な」
 つっかかるようにそう言い切るロル。この肌寒い季節に、部屋の空気も凍りついた。親方のガマンもほぼ臨界の様子で一触即発の様子である。
「あ、そう言えばお腹空いてませんか?」
 そんな空気の中で、唐突にミネットが話をぶった切るように声を上げる。時刻は昼前。確かにちょっと小腹が空いてくる頃である。
「私、食材確保してきますよ!」
「お、おい、ミネットどこに行くんだ!?」
 何故『食料』で無く『食材』なのか。ジャックの虚しい静止の声を他所に、ミネットは何故か弓と矢を手にして鼻歌交じりに工房を後にした。
「オレちゃん、あっちの様子見てくるわ」
「お、おう、頼むわ。俺達はもう少しこの工房を見て行きてーから」
 そうしてジャックとディアドラを入れ替わりに置いて、ロルもまた工房を後にするのであった。
 
●蒼き世界の思い出を
 カフェの一角で3人は丸テーブルを囲みながらちょっと早い昼食に手を付けていた。おっとりとした人畜無害そうな少女に見るからに不機嫌そうな少女、そして蛇のような目をした白衣の男と周囲から見れば非常に色物な取り合わせであるが、それ以上に色物であるのはテーブルの上である。ハニートーストやパフェ、ホットサンドと言った品々が明らかに3人分以上に見えるくらいテーブルの上に犇いていた。
「や、やけ食いはあんまり身体に良くないですよ?」
 それらの品々をガツガツと胃袋に納めてゆくルミを前にヘザーは若干引き気味の様子で、しかし優しく彼女をなだめる。
「いや、見ているだけで胸やけになりそうだ。事実、暫く甘いものは見なくてもいい」
 その惨状(?)をやや伏し目がちに一瞥した久延毘は濃い目のコーヒーを啜りながら顔を上げ、静かに窓の外へと視線を向ける。クリムゾンウエストの冬もリアルブルーと変わらずからりと乾いた空気が肌寒い。向けた視線の先ではちらちらと雪がちらついているのがその厚いメガネ越しの瞳に映った。
「でも、それだけ怒られているんですから本当に大事なんですね、そのポーチ」
 そう、紙袋に入れられたポーチに目を向けながらヘザーは口を開いた。するとルミもまた所狭しと動き回っていた腕をピタリと止めると紙袋の中へと視線を移す。ウサギ(仮)のポーチと目が合うと、それまで不機嫌だったのが嘘であるかのように優しい目つきが垣間見えた。
「その、できればそこまでポーチに熱心になる理由、教えて頂けないでしょうか?」
 そんなルミの様子を前にして、ヘザーが静かに切り出す。それを聞いて久延毘もピクリと眉を動かすと、問いただすような口調で続けた。
「件の依頼の際、『友達に会いたい』と言っていたな……それに関係するのだろうか?」
 二人の視線を交互に受け、ルミは一瞬押し黙る。が、頬杖を突いて先ほど久延毘がそうしていたように窓の外を眺めると、何を見つめるでも無い遠い目で口を開いた。
「まあ、別に隠す必要のある事じゃ無いんだけどさ……」
 それは彼女の『素』なのだろうか、誰に宛てるでも無い文字通り独り言のような口ぶりで彼女は語るのである。
「リアルブルーにはね、とっても仲の良いメンバーが居たんだ。何て言うか、こう……仲良しグループって感じ? 何をするでも一緒で、大変な事も皆で協力して乗り切って、楽しい事も皆で心から共有して、そんな素敵な、大好きな友達。あのポーチはね、そんな皆から大事な日にプレゼントして貰ったものなんだ。こうして異世界に来ちゃった今では、転移に巻き込まれた物の中では、唯一の皆との繋がりだから」
 一気にそれだけ言うと、視線を落として肩を震わせる。感情に触れさせてしまったかと少し慌てるヘザーであったが、ガバリと上げたその表情は再び不機嫌そうなそれに戻っていた。
「あー! だからあのジジイムカつく! こんなに可愛いルミちゃんがお願いしてるんだもん、力を貸してくれたっていいじゃん!?」
 そうしてまたガツガツとちょっと溶け始めたパフェへとかぶりつく。
「なら、簡単な事じゃないか」
 そんな様子を逆に溜息交じりに見つながらも、久延毘がキッパリと言い切った。
「こんなトコで不満を垂れているヒマがあるなら一秒でも長く頭を下げるべきだ。その本気さを伝えるために。それに、ご機嫌取りくらいなら我々もできる限り協力する」
「そうですね。雑用のお仕事を手伝ったり……そうだ、差し入れなんか持って行ってもいいかも! 私に任せてください!」
 そうヘザーが腕まくりをしながら言うと、ガチャリと喫茶店の入口が開きガラの悪い男が顔を覗かせる。
「おー、居た居た。なんだ、旨そうなもん食ってんじゃん」
 合流したロルはズカズカと3人の下へやってくると皿の上のホットサンドを一つ手に取り、一口で放り込む。
「ほれで、作へんは決まったのか?」
 もぐもぐとサンドを頬張りながら3人へと問いかけた。ヘザーがにこやかに頷くとロルはそうかそうかと頷いて、片手を上げて主人を呼んだ。
「マスター、水くれや。あと勘定も」
 そうして残りのホットサンドも口へ詰め込むと、出された水と共に飲み込むのであった。そんな彼らの様子を丸い目で眺めながら、ルミは小さく笑みを浮かべる。
「……やっぱり、ハンターってすごいな」
 そうしてルミのなけなしのポケットマネーで勘定を済ませると、4人は再び工房『俺の鞄』を目指すのだった。

●俺の腕に狂いはねぇ
 それからハンター達は親方に頼み込み、一日雑用として働かせて貰う事になった。その事を申し出た時、親方は一瞬だけ目を閉じて押し黙ったが、すぐに「わかった」と返事をしてくれた。
「へぇ、なかなか器用ですね」
「こう見えて、鍛冶屋の倅なんだぜ?」
 弟子の一人が感心する前で、ジャックは細い金属の棒を工具を使って丸く整形してゆく。留め金に使うための金属の輪の量産を彼らは頼まれていた。
「必要なのはこれで良かったか? この大王直々に取って来てやったぞ!」
 一方でディアドラのように道具や素材を運んだり、そう言った雑務をこなす者も居る。
「しかし、よくもまぁこんなに溜め込んだものだな……この手の大雑把さも職人には必要なのだろうか」
 頭脳労働を買われた久延毘は溜まりに溜まった発注書の整理に追われていた。一度見た発注内容はすべて頭の中に覚えているのだそうだが、そのおかげで整えられることも無くざっぱに床の片隅に積み上げられた発注書の山である。
「は~い、皆さん。差し入れをお持ちしましたよ。宜しければ休憩にしませんか?」
 そんな、お手伝いのハンター達で賑やかな工房に華やかな女性の声が響く。お手製のサンドイッチを持ってやって来たヘザーに、若い弟子たちはこぞって手料理を食べようと集るのだ。
 ちなみにサンドイッチを作った工房の台所(殆ど使われていた様子が無い)では、帰って来たミネットが鼻歌交じりに揚げ物づくりに勤しんでいた。『食材』の調達から帰って来た彼女がうごめく布袋を持って来た時は何事かと思ったが、どうやら文字通り新鮮な食材を取って来たらしい……どこからか。
「ウサギ美味しいかのやま~♪ ルミさんがウサギが大好きだって聞いたので、ウサギのから揚げですよ!」
「ひえぇぇ、ウサギさんがぁぁぁぁぁ!?」
 そう口にすると、女性陣に交じって料理の様子を眺めていたルミは素っ頓狂な声を上げてその場を後ずさる。ただ、微塵も邪な気持ちを漂わせない彼女の姿に何も言い返すことはできない。
「んなトコで突っ立ってないで、ルミも手伝うんだぜ」
「で、でもウサギさんが……」
「接客……は特にないか。まあ、何でもいいからよ」
 そんなルミへとサンドイッチ片手に休憩にやってきたジャックが声を掛ける。彼の言葉にようやく我を取り戻すと、ルミはおずおずと親方の方へと向かって歩いてゆく。
「あの……お茶とか飲みます?」
「……おう」
 親方は一言だけ答えて頷くと、ルミはすぐに台所へと走ってお湯を沸かし始める。若干ぶつくさと不満を口にしているものの、どこか生き生きとした様子だ。

 そうしてハンター達が半ば無理やり始めたお手伝いを続け、工房のその日の分の作業がすべて終える事ができたのだった。
「さてと……そんなトコでよ、この嬢ちゃんからもう一度話があるんだ。聞いてくんねぇ?」
 そう言うロルに後押しをされて、ルミは穴の開いたポーチを親方の前へと差し出した。
「本当に……本当に大事なものなんです。直して貰えませんか?」
 そう言うと、親方はしばらく目を閉じてうんと唸る。これでダメならば諦めるしかない。が、親方は首を縦に振ってみせた。
「……良いだろう。仕事も終わった。ここからは俺の趣味の時間だ」
 その時のルミの笑顔は、いつもの営業スマイルではない、おそらく何も取り繕われていない彼女本来の笑顔であったのだろう。
「代金はいらねぇよ。仕事手伝って貰ったんだ……それに、これは俺の趣味だからな」
「言ってくれるじゃねーか、お頭」
 真面目な顔のまま、そう言った親方に対してジャックはその肩をポンと叩きながら言う。
「調子に乗るんじゃねぇ! さぁ、趣味の邪魔だ。話しかけてくれるなよ」
 言いながらポーチを受け取るとそのまま自分の仕事場にどっかり腰を掛けてルーペを取り出し、その造りを眺める。そんな彼へロルは何時になく真面目な表情で近づくと、静かに頭を下げた。
「あんなこと言ってすまねぇな。あんたの腕に狂いはねぇ。俺の早とちりだ」
「……話しかけるんじゃねぇ、って言っただろ」
 そう言うと、親方は修繕を行う手の動きをそのままに言葉を続けた。
「大方、俺をその気にさせるために言ったんだろう。ガキの考える事なんざお見通しだ。こちとら何年生きてると思ってんだ」
「だろうな。そうじゃなけりゃ、すぐにでもぶん殴って来てただろうぜ。その時は二度とこの店に頼む義理はねぇ」
「はっ、減らず口叩くんじゃねぇよ」
 そう言いながらも、未知の世界の品物を直すという大役にどこか興奮した様子で修繕作業は進んでいった。

 その後、無事に取り繕われたポーチは今でも変わらず彼女の腰に備え付けられている。心ばかりのお礼にとハンター達が用意したお酒やおつまみでちょっとした宴会を催し、今回の依頼は無事達成されたのであった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 縁結び料理人
    ヘザー・S・シトリンka0835
  • Two Hand
    lol U mad ?ka3514

重体一覧

参加者一覧

  • 大王の鉄槌
    ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271
    人間(紅)|12才|女性|闘狩人
  • 縁結び料理人
    ヘザー・S・シトリン(ka0835
    人間(蒼)|20才|女性|聖導士
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師
  • ♯冷静とは
    ミネット・ベアール(ka3282
    人間(紅)|15才|女性|猟撃士
  • Two Hand
    lol U mad ?(ka3514
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
久延毘 大二郎(ka1771
人間(リアルブルー)|22才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/11/27 14:52:57
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/11/22 23:12:26