ゲスト
(ka0000)
【CF】聖なるツリーを作ろう 【陶曲】
マスター:のどか

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/10 07:30
- 完成日
- 2017/12/21 01:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
リゼリオの広場に、2台のゴツい魔導トラックが乗り入れる。
何事かと足を止める通行人や近くの家々の人々が視線を向けると、真っ先に目に飛び込んでくるのは、それぞれのトラックが牽引する大きな台車に横たわり防雨塵用のシートを掛けられた2体の魔導型CAM。
シートの真ん中にはでかでかと同盟陸軍のエンブレムがペイントされ、12月の寒空の下に意気揚々とした輝きを放つ。
そんなトラックの常用シートから降りてくるでこぼことした身長差の3人を、広場の中央で羊皮紙片手に駆け回っていたルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が、清々しい笑顔で出迎える。
「や、どうも。陸軍から来ました、“特殊機体操縦部隊”隊長のダニエル・コレッティです」
「隊員のジーナ・サルトリオです!」
「同じく、ヴィットリオ・フェリーニです」
そんな彼女へ1人は気だるげに、1人はキビキビ元気いっぱいに、1人は精練された様式美を携えて、ピシリと手を額に掲げた。
「特機隊の皆さん、お待ちしてました! 今日はよろしくお願いしますね♪」
ウインク交じりに可愛らしく敬礼を真似て返したルミに、ダニエルはまったりとした笑みを浮かべて礼を解いた。
「うわ~、すごい! もうこんなに準備が進んでる!」
同じく礼を解くや否や、いつもとは違う賑わいを見せるリゼリオ広場の姿に、ジーナは目を輝かせてその視線を巡らせた。
リゼリオは現在、来る聖輝節の準備の真っ最中だ。
パーティ会場となるこの広場では、街路樹に魔導イルミネーションの設置や、通りの至る所にキャンドル台の設置などが業者の手によって忙しなく行われているところで、さながら祭りの前の活気ある喧騒に包まれていた。
「えっと、ルミちゃんで良いかな」
「はいっ。呼びやすいようにどうぞ☆」
「じゃあ、ルミちゃん。俺もさ、今回の任務は上に言われるがままの事しか知らなくってさ。始まる前に少し詳しいところ、教えてもらっていいかな?」
「はい、もちろんですっ」
小芝居打つように肩を竦めて見せたダニエルに、ルミは広場の片隅の方を指差し答えた。
「あそこに見えるひときわ大きな街路樹に、聖輝節へ向けた飾りつけのお手伝いをしていただきたいんです。あの辺りに、雑多に準備されたテーブルが見えますよね?」
指差された方向には簡素な長テーブルとそれを取り囲むように椅子がいくつも立ち並び、その上に次々と大小さまざまな木箱が運ばれているのが見える。
「あそこで、本日これからツリーを飾るためのオーナメントを作成するワークショップを開催します。あの、いろいろ道具を運んでくださっているのは協賛のフマーレ手工業ギルドの皆さんです」
「うん、そのようだ」
知り合いでも居たのか、フラフラと手を振りながら答えるダニエル。
「そこで作ったオーナメントと天辺に飾る用の『星』を、午後から特機隊の皆さんに協力していただきながら、皆で飾り付けようというのが大まかな流れです」
「ふむ。その時に、アレを使いたいってわけね」
彼が後ろ手に指差すのは、後方の台車の上に控えるCAMたち。
ルミがにこやかに首を縦に振ると、ダニエルもまたひとしきり納得したように首を振った。
「しかし、まさか特機隊の方々にご協力いただけるとは思ってませんでしたよ。今って、歪虚事件で軍の方も忙しいんじゃないんですか?」
「ん~、まぁほら、ウチの専門ってアレでしょ? 使う必要がある事件ってのが起こらなきゃ、お鉢は回ってこない。だからと言って、高い経費掛かってるんだから腐らせとくわけにもいかない。ちょっとでもアピールできる場があるんなら、良い顔を見せておきたいわけよ。こっちとしてもさ。次の予算案とかに響くし。ま、要するにさ。あっちはあっちの仕事、こっちは俺らの仕事――ってワケ」
「は、はぁ……」
眉を潜めながら、遠く空の彼方を見つめて語る彼にルミは何とも曖昧な表情を浮かべて口ごもる。
「どうせなら、ディアナさんも来られれば良かったのになぁ」
「2台ほど、というのはオフィスのオーダーだ。溜息ついても仕方がないだろう」
「だって、軍のCAM3台並ぶ機会なんてめったにないんですよ! 普段は倒壊した建物の撤去とか、崩れた土砂とか大木の撤去とか、流れ着いた難破船の撤去とか――」
「任務は任務だ」
「もー、問題はそういうことじゃなくってですね!」
ほっとくと熱く語り始めるジーナに、ヴィットリオは眉間を抑えながら深いため息をつく。
そんな光景にルミもまた困ったような笑みを浮かべると、宥めるように彼女の肩に手を置いた。
「あの、よかったら特機隊の皆さんもオーナメント作成に参加されてくださいね。1個でも多くの飾りがあったほうが、賑やかで楽しいですから」
「えっ、良いんですか!? やったー!」
一転、コロリと目を輝かせたジーナの姿に足元が滑り掛けた他3人は、一様に取り繕うように頭を掻きながら、小さく咳払いをしてみせたのだった。
やがて時間がやってきてワークショップの参加者が広場へと集まって来る。
ほんのり不安も募る中だったが、どうにも異色のイベントが始まろうとしていた。
何事かと足を止める通行人や近くの家々の人々が視線を向けると、真っ先に目に飛び込んでくるのは、それぞれのトラックが牽引する大きな台車に横たわり防雨塵用のシートを掛けられた2体の魔導型CAM。
シートの真ん中にはでかでかと同盟陸軍のエンブレムがペイントされ、12月の寒空の下に意気揚々とした輝きを放つ。
そんなトラックの常用シートから降りてくるでこぼことした身長差の3人を、広場の中央で羊皮紙片手に駆け回っていたルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が、清々しい笑顔で出迎える。
「や、どうも。陸軍から来ました、“特殊機体操縦部隊”隊長のダニエル・コレッティです」
「隊員のジーナ・サルトリオです!」
「同じく、ヴィットリオ・フェリーニです」
そんな彼女へ1人は気だるげに、1人はキビキビ元気いっぱいに、1人は精練された様式美を携えて、ピシリと手を額に掲げた。
「特機隊の皆さん、お待ちしてました! 今日はよろしくお願いしますね♪」
ウインク交じりに可愛らしく敬礼を真似て返したルミに、ダニエルはまったりとした笑みを浮かべて礼を解いた。
「うわ~、すごい! もうこんなに準備が進んでる!」
同じく礼を解くや否や、いつもとは違う賑わいを見せるリゼリオ広場の姿に、ジーナは目を輝かせてその視線を巡らせた。
リゼリオは現在、来る聖輝節の準備の真っ最中だ。
パーティ会場となるこの広場では、街路樹に魔導イルミネーションの設置や、通りの至る所にキャンドル台の設置などが業者の手によって忙しなく行われているところで、さながら祭りの前の活気ある喧騒に包まれていた。
「えっと、ルミちゃんで良いかな」
「はいっ。呼びやすいようにどうぞ☆」
「じゃあ、ルミちゃん。俺もさ、今回の任務は上に言われるがままの事しか知らなくってさ。始まる前に少し詳しいところ、教えてもらっていいかな?」
「はい、もちろんですっ」
小芝居打つように肩を竦めて見せたダニエルに、ルミは広場の片隅の方を指差し答えた。
「あそこに見えるひときわ大きな街路樹に、聖輝節へ向けた飾りつけのお手伝いをしていただきたいんです。あの辺りに、雑多に準備されたテーブルが見えますよね?」
指差された方向には簡素な長テーブルとそれを取り囲むように椅子がいくつも立ち並び、その上に次々と大小さまざまな木箱が運ばれているのが見える。
「あそこで、本日これからツリーを飾るためのオーナメントを作成するワークショップを開催します。あの、いろいろ道具を運んでくださっているのは協賛のフマーレ手工業ギルドの皆さんです」
「うん、そのようだ」
知り合いでも居たのか、フラフラと手を振りながら答えるダニエル。
「そこで作ったオーナメントと天辺に飾る用の『星』を、午後から特機隊の皆さんに協力していただきながら、皆で飾り付けようというのが大まかな流れです」
「ふむ。その時に、アレを使いたいってわけね」
彼が後ろ手に指差すのは、後方の台車の上に控えるCAMたち。
ルミがにこやかに首を縦に振ると、ダニエルもまたひとしきり納得したように首を振った。
「しかし、まさか特機隊の方々にご協力いただけるとは思ってませんでしたよ。今って、歪虚事件で軍の方も忙しいんじゃないんですか?」
「ん~、まぁほら、ウチの専門ってアレでしょ? 使う必要がある事件ってのが起こらなきゃ、お鉢は回ってこない。だからと言って、高い経費掛かってるんだから腐らせとくわけにもいかない。ちょっとでもアピールできる場があるんなら、良い顔を見せておきたいわけよ。こっちとしてもさ。次の予算案とかに響くし。ま、要するにさ。あっちはあっちの仕事、こっちは俺らの仕事――ってワケ」
「は、はぁ……」
眉を潜めながら、遠く空の彼方を見つめて語る彼にルミは何とも曖昧な表情を浮かべて口ごもる。
「どうせなら、ディアナさんも来られれば良かったのになぁ」
「2台ほど、というのはオフィスのオーダーだ。溜息ついても仕方がないだろう」
「だって、軍のCAM3台並ぶ機会なんてめったにないんですよ! 普段は倒壊した建物の撤去とか、崩れた土砂とか大木の撤去とか、流れ着いた難破船の撤去とか――」
「任務は任務だ」
「もー、問題はそういうことじゃなくってですね!」
ほっとくと熱く語り始めるジーナに、ヴィットリオは眉間を抑えながら深いため息をつく。
そんな光景にルミもまた困ったような笑みを浮かべると、宥めるように彼女の肩に手を置いた。
「あの、よかったら特機隊の皆さんもオーナメント作成に参加されてくださいね。1個でも多くの飾りがあったほうが、賑やかで楽しいですから」
「えっ、良いんですか!? やったー!」
一転、コロリと目を輝かせたジーナの姿に足元が滑り掛けた他3人は、一様に取り繕うように頭を掻きながら、小さく咳払いをしてみせたのだった。
やがて時間がやってきてワークショップの参加者が広場へと集まって来る。
ほんのり不安も募る中だったが、どうにも異色のイベントが始まろうとしていた。
リプレイ本文
●
「ひゃー、大きい! 流石CAMを使うだけのことはありますね!」
クレール・ディンセルフ(ka0586)が額に手をかざしながら見上げるのは、今日の主役でありこれから立派な聖輝節のツリーに生まれ変わる広場の大木だ。
普段は大勢のハンター達の日常を静かに見守るこの木も、聖なる夜だけは逆に見守られる存在となる。
「これを、飾るのですか」
「そういうことみたいじゃの。ところで、何故飾るんじゃろ……儀式か?」
ぼんやりと真下から大木を見つめるフィロ(ka6966)の隣で、ASU-R-0028(ka6956)は大きな身体を揺らしながら「はて」と首をかしげる。
そんな未知の文化との遭遇に眉を潜める彼の問いに答えたのは、根国・H・夜見(ka7051)だった。
「理由なんかなんだって良いじゃないっスか。こんなに大きいのが綺麗に飾り付けられると思ったら、それだけで楽しみにならないっスか?」
それはちゃんとした答えにはなってはいなかったが、面と向かって言われるとそれ以上の意味なんてないような気もしてくる。
だからフィロも、木の先端を見上げたまま静かに頷いた。
「……確かに、見てみたい気がします」
飾り付けられる前で味気ない今の木に、彼女はどんな完成後の姿を思い浮かべているのだろう。
「でも、大きいのはそれはそれで心配もありますよね……」
なにやら別の心配で小さく喉を鳴らすクレールだったが、一人何か納得したようにポンと手を打つと、手工業ギルドのスタッフの方へと駆けて行った。
「ジーナのおねえはん、それに大尉はんも……お久しぶりです」
同じようにツリーを見上げながら談笑していた特機隊ジーナ・サルトリオ(kz0103)と同僚であるヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)のもとへ、浅黄 小夜(ka3062)はトコトコと駆け寄りながらニッコリと笑みを浮かべていた。
「うわ~、小夜ちゃん久しぶり! 元気してた!?」
「この通り……おねえはんこそ、心配やったよ」
上目遣いで眉尻を下げる彼女に、ジーナはバツが悪そうにして頭を掻いく。
「フマーレの瓦礫の片付けとか。最近軍も忙しそうだもんなぁ」
「人の手なら数日掛かることを1日でやってのける。そういう面でも、アレの有用性には日々驚かされている」
ため息交じりに昨今の同盟事情を懸念するジャック・エルギン(ka1522)へ、ヴィットリオはツリーの近くに待機モードで膝を折るCAMに視線を向けていた。
「あら、中佐殿は? 見かけたからご挨拶しておこうと思ったのだけれど」
きょろきょろと辺りを見渡す沢城 葵(ka3114)だったが、その問いにヴィットリオが答える前に捉えどころのない能天気な声が響いていた。
「お~い、ヴィオ。すまんが、ちょっと来てくれ」
遠くで手を振る探し人ダニエル・コレッティ(kz0102)。
その傍にはギルドの職員と先ほど駆けて行ったクレールの姿が見える。
ヴィットリオは軽い敬礼でそれに応えると、「すまんな」と周りのハンター達に声を掛けてからその場を離れて行った。
●
「じゃあ、ひとまず天辺の『星』をどうするか、案を練らないといけませんね~」
ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)がツリー真下のテーブルでひとつ声を張り上げると、手にしたまっさらな羊皮紙に『ツリーの星どうするか評議会』と丸っこい字で書き連ねた。
「ふんわりとしたイメージはあるのだけれど、良いですか?」
エステル・クレティエ(ka3783)の発言に、ルミは「もちろん」と先を促す。
「2つあって、1つは星型の土台に沢山のモチーフで飾るリースみたいなイメージ。もう1つは色ガラスでステンドグラスみたいなのを作れたら綺麗かなと思いまして」
「私はそれを木製で考えていました。紅と蒼と緑、3つの着色した木を組み合わせた星型の飾りで3つの世界を表現する――という感じなんですが」
「3つの色を使うっていうのは俺も賛成だな。3つの異世界の架け橋みたいなのを表現できたらいいなと思ってたんだ」
続いた央崎 遥華(ka5644)の案に、ジャックが相槌をうった。
やはりこの時期に『友好』というテーマを聞くと、思い浮かべるのは本格的な交流が始まったリアルブルー、そしてエバーグリーンのことなのだろう。
「3つの惑星がくるくる回る感じとか、どうかなぁて」
「私は5連星を考えていました。色とりどりの星たちで、3つだけでない、他にもあるだろう沢山の世界の繋がりを表現できないかと思ったんです」
「それもええなぁ。3つも世界があるんなら、他にももっとあるような気もします」
フィロの案に、小夜が楽し気にニコリとほほ笑む。
「でも、3つの世界ばかりじゃないわよ。クリムゾンウェストの中でだって、まだまだ力を合わせないといけない問題は山積み。だから、いろんな地域の人とか、幻獣とか、そういった部分でも『友好』って意識は大切なことだと思うわ」
葵は流石のお兄さん気質で、話題が一辺倒になってしまわないようフォローを入れつつしっかりと自分の意見も織り交ぜていく。
一口に『友好』と言っても、やはり表現したい内容はそれぞれだ。
誰かと誰かがいるから、友好という言葉は発生する。
その誰と誰を何に置き換えるか……それがこのテーマの、一番難しいところなのだろう。
やがて意見もひと段落したころ、優しい表情で話し合いを聞いていたアリア・セリウス(ka6424)がそっと言い添えた。
「せっかく『見上げる』のだもの……夢や理想、憧れのようなものが現れているというのは素敵だと思うの」
それはきっと案を出す時に心の底にあった真なる想いを代弁したかのようで、みんな一様にしみじみとそれを実感する。
「なるほど、だったら――」
意見を逐一書きとめていたルミが、さらさらと羊皮紙の中にペンを走らせる。
それはみんなの意見を元に描いた宝の地図のように、楽し気な『星』の完成予想図となって浮かび上がっていた。
意見交換から始まった星の制作とはうってかわって、オーナメントづくりの方はそれぞれの参加者で思い思いに進んでいた。
「もう聖輝節の季節だもんな……今年もあっという間だったな」
しみじみとこの1年を思い返すグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)の手の中には、器用なナイフ使いで木から削り出されている人形の姿。
ちょっと尖った耳はエルフだろうか。
目の前の作業台には、既に完成したのであろうドワーフや鬼、幻獣といった、様々なモチーフの木彫り人形が並んでいた。
その中の1つを誰かが手に取って、彼はふと視線を上げる。
「きみ、いい仕事するねぇ」
筋骨隆々なドワーフをいろんな角度で眺めながら、フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)が赤い三白眼をニンマリと細めた。
「そういうおたくだって、ずいぶん手慣れたもんじゃないか」
フェイルが先ほどまで作業をしていたスペースを見ると、同じように人型の――ただしこちらは聖輝節らしく天使やプレゼントボックスを模したものが並んでいる。
「昔やってた仕事の杵柄ってやつでね。こういう飾りを作る機会があってさ」
「仕事? 職人でもやっていたのか?」
「そうじゃないけど――でも、あれが一番楽しかったかな。聖輝節を祝ったのも、あの時が初めてだった」
しんみりと思い出に浸るフェイルに、グリムバルドはどこかデリケートな気配を感じて「なるほどな」と頷いた。
「この季節を楽しみたい気持ちはどの世界もいっしょなんだな」
「そういうところは人間変わらないものだねぇ」
そう言って再び目を細めたフェイルは、どこか楽し気にくるりと指の間でナイフを回して見せた。
その向かいのテーブルにどっちゃりと手に抱えた葉っぱや木の実を下ろしたリンカ・エルネージュ(ka1840)は、寒い季節ながらにうっすらと浮かんだ額の汗をぬぐってふぅと小さく一息つく。
「おー、リンカ。材料は集まったんだな?」
「遅いよジャック! それで、星の方は大丈夫そうなの?」
笑いながら冗談めいて窘めるリンカに、ジャックも笑顔交じりながら申し訳なさそうに頭を掻いた。
「あっちはルミが上手くまとめてくれたぜ。あとはコッチに集中できそうだ」
言いながら、自分も小脇に抱えた木の蔓をテーブルの上へと下す。
「それじゃ始めるか。いっちょデカいの作ってやろうぜ」
「おっけー。力仕事は任せたよ!」
ウインク交じりのアイコンタクトで、リンカは自分が集めて来た材料を綺麗に布きんで磨き始める。
その間にジャックは、針金と蔓でなにやら整形を始めていた。
ちょっと離れた位置で月や花といった、自然のモチーフを寄せ木で作っていた夜桜 奏音(ka5754)は、途中何度が手の感覚を確かめるように握ったり開いたりして眉を潜める。
「動けない程ではないんですが……やっぱり、時折響きますね」
先の激戦で傷を負った彼女だったが、こんな自分でも聖夜の楽しみのためできる事があるのならと怪我を押しての参加だった。
「すごーい! ねぇねぇ、これってどうやって作ってるの?」
「えっ……ああ、ええと――」
そんな彼女の傍にパタパタと駆け寄ってきたアリア(ka2394)は、テーブルにかぶりつくように手と顎を乗せながら、キラキラとした瞳で奏音の作り掛けの星のオーナメントを眺めていた。
その声に釣られて、リディア・ノート(ka4027)も傍へと歩み寄る。
「今日はちょっと刃物とかを握るのは大変なので、木を組み合わせて作っていたんです」
「へぇ~、それならあたしにもできるかな?」
「はい、簡単ですし。ほんとはちょっと、仕上げに削って形を整えたりしたいんですけどね」
そう言って苦笑する彼女だったが、だったら、とリディアがどんと自分の胸を叩く。
「せっかくだし、あたしにも教えてくれないかな。お祭りムードに誘われたのはいいものの……って、困ってたんだよね。代わりに、仕上げ手伝うわよ」
「本当ですか!」
その言葉に奏音は顔を綻ばせて手を合わせるも、どこかに響いたのかすぐにビクリ肩を震わせてリディアが慌ててそれを介抱する。
「いたた……ありがとうございます」
「いいのいいの、無理しないで。それで、とりあえず何をすればいいの?」
「あたしはシエロを作りた~い!」
思い思いに積み木のような木片を集め始める2人に、奏音は生き生きと手順を説明をするのだった。
そんな中で不意に魔導エンジンの駆動音が鳴り響き、参加者のみならず通行人達の視線が一斉にツリーの方へと集まった。
バイザーアイに命が吹き込まれ腰を上げたCAMが、水平に空へ向けた手のひらに人影を乗せてゆっくりと動きだす。
「すみません、ヴィットリオさん」
「ヴィオで構わないぞ。同僚はみなそう呼ぶ」
「じゃあ、ヴィオさん。とても助かります!」
コックピットの方へ向かってお辞儀したクレールは、同じく手のひらの上に積まれた荒縄のネットを広げて、周囲の街路樹や家の何層かに分けて張り巡らせていく。
高所作業があるならば、という彼女なりの安全面の配慮だった。
ハンターなら仮に落下してもかすり傷程度で済む場合もあるだろう。
だが、あるのと無いのとではやはり作業への心構えが変わって来るものだ。
そんな様子を遠巻きに見かけて、ハンス・ラインフェルト(ka6750)はほんのりと表情を和らげてみせた。
隣の穂積 智里(ka6819)が「どうしかましたか?」と尋ねると、彼は「突然すみません」と断りながらどこか懐かしむような瞳で辺りの様子を見渡していた。
「私の故郷でもこの時期になると、こうして街の広場にツリーを飾って沢山の屋台が並ぶんです。道端で買ったグリューワインで身体を温めながら、買い物をして回るんですよ」
「おばあちゃんに聞いた事があります。『とても賑やかで楽しいけど、クリスマス当日は静かに過ごさなきゃいけないのよ』って」
「ええ、聖夜は家族と過ごす日ですから……大切な人と過ごすのは、マルクトの時期なのです」
そう言って、智里の手をそっと取る。
智里もまた彼の手を優しく握り返すと、彼を見上げてほほ笑んだ。
「だったら今からでも楽しんだらどうでしょう。貴方の故郷の、ヴァイナハツ・マルクトを――」
「え――?」
虚を突かれたように目を丸くしたハンスの手を引いて、その姿は一時、街の方へと消えていく。
ワークショップの方では、夜見が鼻歌交じりに紫色のモールを折り曲げて可愛いブドウのオーナメントを作っていた。
辺りには布で作ったバナナや、銅板を折り曲げたくし形切りのスイカに、木を削って着色したメロン。
さながら。ちょっとした果物屋さんの装いである。
「さて、次は……って、あれぇ。柿なんて作ったっスかね?」
不意にコロコロと1個の柿が目の前に転がって来て思わずそれを手に取ると、彼女はそのあまりの精巧さに思わず目を見開いた。
皮の艶、ちょっとしたくすみ、そのみずみずしさまで。
何の素材を使ったら、こんなに精巧な柿が作れるのだろうか――
「ごめんなさい。私の柿、転がって来ませんでしたか?」
不意に困り顔のミオレスカ(ka3496)が歩み寄って来て、夜見は自分が手にしていたそれを掲げて、手渡した。
「こんなに精巧なの、どうやって作ったんスか? ぜひコツを聞きたいっス!」
その問いにミオレスカは、「そこの青果屋さんです」と広場の先に見えるお店を指差した。
「青果って――えっ、本物っスか、これ!?」
2重の意味で驚いた夜見の前で、彼女は手にしていた麻紐を見せる。
そこには綺麗に剥かれた柿の実が等間隔にいくつか並んでいた。
「風通しが良さそうなので、聖輝節までに美味しい干し柿ができそうです。他にも準備してますよ」
ほんわかした表情で嬉しそうに語るその姿に、夜見は感心したような驚いたような、そんな表情で頷くことしかできなかった。
「それは……同盟のコイン、ですか?」
「はい――と言っても、柄は聖輝節仕様ですけどね」
手元を覗き込んで尋ねた天央 観智(ka0896)に、遥華は完成したばかりのケーキ柄の木製コインを笑顔で見せる。
「そちらは何を作ってるんですか? 旗……?」
観智の手元には、沢山の布に描かれたいろんな国のエンブレムが覗いていた。
それらは1本の紐で繋がれて、そのまま木の周囲に掛けられそうな輪になっている。
「リアルブルーでは……こういう風にたくさんの国旗を繋いだ飾りがあるそうです。それを模してみようと思いまして」
それから、はじめは3つの世界をイメージしようと思ったけれど一般の人に伝わるのか心配で――と、苦笑しながら付け加える。
確かに、リアルブルーはまだしもエバーグリーンは一般人にとってまだまだ馴染みの浅い世界かもしれない。
「でも、直接意味が伝わらなくっても、それを見て『何か』を思ってくれる――それが大事なんじゃないかなって、私は思いますよ」
「確かに……そうかもしれませんね。青や緑の旗も、作ってみたいと思います」
馴染みが浅いからこそ、これを機に――そういう願いも、このツリーに宿るハズだから。
そうこうしている間に、『星』の方もだいぶ形が見えて来た。
すこし広めに準備した作業スペースでは、ジーナとフィロが一生懸命に色ガラスを磨いている。
「ジーナのおねえはん、それにフィロさんも上手やね……」
「機体磨きは日課だからね。慣れたものだよ~!」
「私も、元はそういうためにプログラムされていますので」
2人とも、ある種「磨きのプロ」である。
小夜は納得したように頷きながら、お手製の猫のモール人形をちょこんとテーブルに置く。
他にもトナカイやサンタといった聖輝節らしい人形が、まるでパーティのように彼女の周りを囲んでいた。
「――そんなパンツで大丈夫でちゅか?」
不意に地面方向から聞こえた声に、ジーナは思わず目を白黒させて飛び上がる。
慌てて視線を向けると、しゃがみ込んでこちらを見上げる北谷王子 朝騎(ka5818)の姿がそこにはあった。
「えっ、見えてる!? うそっ!?」
「だ、大丈夫……おねえはん、ズボンやよ」
小夜の言葉に、お尻を抑えてしゃがみ込んでいたジーナは弾かれたように立ち上がる。
「そうだった! もう~、からかわないでよっ!」
両手振り上げて頬を膨らませたジーナだったが、気づくと朝騎はぴゅ~っとどこかへ走り去ってしまっていた。
「え~っと……こうでいいのかな?」
「そうそう。で、リボンで結んで――」
「――できたっ!」
星づくりの片手間にエステルに教わってオーナメント作りに挑戦していたルナ・レンフィールド(ka1565)は、完成した音符の飾りをエステルの星の飾りと並べて掲げて、嬉しそうに見つめていた。
「ルナも随分て慣れて来たね。ボクも、もう1個完成~っと!」
アルカ・ブラックウェル(ka0790)は、布で作った5つ目のリンゴを先の4つの隣に並べると、腕を広げてうんと背を伸ばす。
今、手工業ギルドの人々が図面をもとに星の大枠部分を作ってくれていた。その間、参加者たちは細かいパーツを作ったり、それぞれの飾りづくりを楽しんでいた。
「うわぁ、かわいい!」
ちくちくと裁縫にいそしむ高瀬 未悠(ka3199)。彼女が作った布製マカロンをちょこんと指で突くルナを前に、一息つきながら糸をプチンと断つ。
そして完成したばかりのハート型クッキーを眺めながら、どこかうっとりとした様子で目を細める。
「ふぅ……我ながら美味しそうに出来たわ。うん……本当に美味しそう――」
「た、食べちゃだめよ。未悠さん」
エステルに窘められて、未悠ははっとして垂れかけた涎をじゅるりとすする。
「でも、確かに食べちゃいたいくらいおいしそう! ねぇ、ネーナもよかったら一緒に作らない?」
言いながら向けたアルカの視線の先には、素材の木箱に腰かけてワークショップの様子を眺めるネーナ・ドラッケン(ka4376)の姿があった。
彼女はどこか妖艶な笑みをうかべながら、静かに首を横に振る。
「ボクはお手伝いをさせてもらえるだけで十分だよ。それに、そろそろ星の枠組みが出来上がるころだろうしね」
そうこうしている間にルミがギルドの職員たちを連れてワークスペースへと戻って来るのが見えた。
「できたのね……それじゃあ、もうひと仕事」
そう口にしたアリアの言葉に、ハンター達は小さく頷いて到着を出迎えた。
いよいよ、仕上げの作業が始まる。
●
「オーライ、オーライ、おっけーよ!」
地上から離れて行くCAMの手は、その上に乗る葵の声に合わせてピタリと静止した。
「この機体はジーナかしら。よろしくねぇ」
ひらひらと手を振る彼に、カメラアイの光がチカチカと点滅し答える。
「さぁて、それじゃあ始めようかしら」
パンと手を打って気合いを入れると、一緒に積まれて来たオーナメントを手に装飾作業が始まった。
大木の両サイドには起動したCAMがそれぞれ立ち膝の状態で、手のひらをゴンドラ代わりに上下させ高所作業の足場となる。
比較的低い部分は高い梯子で地上からも作業を行い、日が暮れるまでに一気に飾りつけを終わらせる工程だ。
すでに梯子の方は、大勢のハンター達が協力しながら飾りつけ作業を始めている。
「これでオーナメントは全部? 凄い数の星ね、誰が作ったのかしら?」
下に飾る用の品が詰まった箱を運びながら、その中に大量に含まれる雪型の星を見て、リディアは思わず目を見張った。
「はっはっはっ、ワシじゃ!」
豪快に名乗りを上げたASU-R-0028に、彼女は驚いて思わず箱を取り落としそうになる。
「余っても他の何かに飾れるじゃろうと思っての!」
「まあ、数あるにこしたことはないわね。奏音さん、これどの辺に飾るー!?」
「とりあえず地上の人たちから綺麗に見えるように、下側に沢山つけて大丈夫だと思います!」
離れた位置の奏音へ手を振ると、彼女は遠巻きに作業状況を鑑みながら木の下の方を指し示す。
「よ~し、私に任せて!」
「ちょっ!?」
開口一番、アリアがオーナメントの詰まった袋を咥えてぴょんと太い幹に飛びつくと、そのままするするとわずかなコブ伝いに登っていく。
「は~、すっごいわね。私は……流石に梯子がないとムリか」
自分の背丈と、木の高さとを見比べて小さくため息をつくリディア。
「だったら、ワシの肩を踏み台にするか? 動ける分、梯子よりも便利だと思うぞ! なぁに、上は見んから安心しろ!」
「当然よ!? でも、助かるわ」
お礼を言って、手を踏み台にさせてもらいながら、広い肩の上に跨り立ち上がるリディア。
その細い足首をASU-R-0028の手が掴んで支えると、思いのほか安定した作業台となった。
「これは良いわね。バンバン飾るから、指示よろしくね~!」
再び手を振って合図をすると、奏音が遠くから手を振り返してくれた。
木の上に登ったアリアは、頑丈な枝伝いに飾りを括りつける先の方へと歩みを進めると、茂る葉を掻きわけてがさりと木の外側へ顔を出す。
「うわっ!?」
その瞬間に目と目が合って、飾りを枝に括りつけようと手を伸ばしていたグリムバルドは叫びながら大きくのけ反った。
「どうかしたかい?」
声に驚いて――いる様子は無いが、裏の手の甲側からひょこりと上を覗き込んだフェイルが2人の姿を確認して合点がいったように首を縦に振った。
「きみ、すごいね。ここまで何にもなしに登って来たのかい?」
「そうだよ♪ シエロをできるだけ高い場所で飛ばせてあげようと思って」
「シエロっていうのは、そのオーナメント?」
話すために手に持った袋を指差すフェイルに、アリアは一度大きく頷きながらも、ちょっと迷ったように明後日の方向を見上げた。
「シエロは私の友達で、これはそれを真似たオーナメント、が正しいかな?」
「ああ、なるほどな……だがビビらせるのは止めてくれ。あー、心臓が止まるかと思った」
胸に手を当てて大きく深呼吸をするグリムバルドの姿に、フェイルは笑いながら上の方を指差す。
「ここはまだ中腹あたりだから、もう少し上があるよ。落ちないように気を付けて」
「分かった、ありがとう~♪」
再び昇っていくアリアを手を振って見送って、残された2人は顔を見合わせて苦笑して作業へと戻っていった。
「お~い、こっちはヴィットリオの機体か~?」
その時、CAMの足元の方からコックピットへ向かって諸手を振るジャックの声が響き渡った。
「ちょっと上にあげて欲しいモンがあるから、手ぇ下げて貰えるか?」
その声に反応して、グリムバルド達が足場にしているのと別の方の手がゆっくりと地上へと降りていく。
そして人が乗れる高さまで下りると、ジャックとリンカ、そして他にも何人かの手を借りて、ツリーの大きさに見合う巨大なリースが運ばれてきた。
「オーケー、乗ったぜ!」
手は巨大リースと数名の作業者を乗せたまま、ゆっくりとツリーの中腹真正面へと伸びていく。
それから多少位置を調整しながらて、バッチリ決まる場所へと括りつけた。
「これも……この辺りにお願いできますか?」
リース運びを手伝った観智は、自分の旗のオーナメントもそっと差し出す。
「もちろんっ。これでリース囲ったらとっても賑やかじゃない?」
リンカが笑顔で承諾すると、リースの辺りを囲うように旗が据えられる。
さながら、リースを惑星に見立てて沢山の国が集っているような、そんな光景だった。
「これでよし……っと」
未悠が仕上げにカラーストーン付きのリボンを飾り、ついに完成した『星』が目の前で煌びやかな姿を見せていた。
「わぁ、すごい! 完成したんですね!」
その姿を見たクレールは、待ってましたとばかりに作業台へとやって来くる。
一緒にガラガラと持って来た台車の上には、なにやら装置が載せられていた。
「クレール、それどうするの?」
尋ねたアルカに彼女は「まぁまぁ」と前置いて、そのリアルブルーでいうプラネタリウム装置みたいなイガグリ電飾を星の内部へと仕込む。
「面白いものを作ったわね。なら、私も最後にひと手間良いかしら?」
言いながら、アリアも最後の調子を整えるかのように星の端へ色糸を張り巡らせていく。
「よし、これで本当に完成ですね」
その出来栄えを確認して、エステルが満足げに頷いていた。
●
「オーライ、オーライ!」
ルミの掛け声に合わせて、2台のCAMが『星』の両サイドを抱えてゆっくりと木の上へと持っていった。
そして先に待っていた作業員たちが太いロープで頑丈に縛り付けると、大きく手で丸を作って作業の終了を合図する。
「戦う為に作られた物だけど、こうして皆の笑顔の為に活かせるのって素敵よね」
作業に協力するCAMを見上げながら、未悠はほっこりと口元を緩めた。
作業員を回収すると、いよいよ地上の人々はどきどきと胸が高鳴るのを感じていた。
ツリーの陰に見える夕日が完全に落ちきったら、テストの点灯が行われるのである。
「グリューワインです……よかったらどうぞ。ノンアルコールのものもありますよ」
そんな広場の片隅で、作業を終えたハンター達にハンスはお手製のグリューワインを配っていた。
傍らでは智里が、これまたお手製のレーブクーヘンを手渡しする。
シナモンの香り漂う暖かいワインと可愛いクッキーは、一日中外の作業で冷えた身体を中からじんわりと温める。
「確かに……自分から行動すれば、この世界でもヴァイナハツ・マルクトを楽しむことができますね」
「でしょう? でも……いつか本物も見に行きたいですね」
すこし赤くなった頬を摩りながら、智里はハンスの目を真っすぐ見つめてほほ笑む。
「いつか必ず、連れて行きますよ」
ハンスはそっと自分の手を彼女のそれに重ねながら、同じように微笑み返した。
「それじゃあ、テスト点灯はじめますよ~。3秒前から行きます!」
ルミが注意を引くと、みんな一斉にツリーの方へ視線を向ける。
やがて空の底に残っていた朱が消えて、カウントダウンが始まった。
――3。
――2。
――1。
ぱっと広場の灯りが消えて、代わりにパパッとツリーのマテリアル電飾が光を放っていく。
地面に近い方から順に色づいていくそれは、オーナメントの星や果物、人形や旗などを煌びやかに彩っていく。
やがて天辺まで到達すると、ひときわ大きな光がそこにある『星』を照らし出した。
そこに現れたのは、大きな星の形の立体ステンドグラス。
その左右に2つの小さい木製の星がくっついて、ゆっくりくるくると回転していた。
星はそれぞれ青、赤、緑を組み合わせて作ったパッチワークの様で、中央のステンドグラスはよく見ると人や幻獣、さまざまな生き物たちが描かれていた。
それを中から赤青2色の光が照らし出し、さながら瞬く星のように、夜空の中にその姿を浮かび上がらせる。
そして最後にアリアが付けた色糸が、光を受けて輝く2色の月のように、両端でぼんやりと輝いていた。
「お~、すごいっスねぇ!」
真っ先に歓声を上げた夜見に続いて、あちこちから驚きの声や、うっとりとしたため息が響く。
「CAMのおかげて風通しの良い所に吊るせました。本当に、協力様様です」
満足げな表情のミオレスカに夜見は苦笑で答えると、自分が飾ったオーナメントの辺りを眺めながら表情を緩める。
「自分の果物も、まるで宝石みたいっスよ」
「そうですね。これを見て、少しでも多くの人が感動してもらえたら良いなぁ」
遥華が漏らした言葉に、夜見は「心配ないっスよ」と自信満々に答えた。
少しでも見た人が幸せを感じられるように、そんな思いを込めて作ったのだから、それはどんな形であれきっと届くのだと。
グリューワインのカップで手の暖を取りながら、リンカははしゃいだ様子でしきりにジャックの肩を叩いては、ツリーのいろんなオーナメントを指差している。
もちろん彼女たちが作ったリースも、ツリーの中央で綺麗に瞬いていた。
「Xmas、楽しみだなぁ……」
「そうだな。今年も楽しく過ごしたいもんだぜ」
ジャックが星を見上げながら答えると、リンカは大きく首を縦に振ってみせた。
ハンター達に混ざってツリーを見上げるダニエルの隣で、葵は意味深な笑みを浮かべていた。
「……それで、中佐殿は何をお企みなのかしらぁ?」
「やだなぁ、何も考えちゃいないよ。ただ、来年の予算がもっと出ればなぁと……ほら、星に願いをってね」
「ふぅん」
甘いワインを傾けながら飾り気なく答えた彼に、葵は「まあ、そういう事にしておきましょ」とウインクをしてもう一度、頭上一杯冬の空に輝くツリーの姿を瞳に写した。
「なんだか、歌でも歌いたい気分ですね」
「だったら1つ、いい曲があるよ」
ぽつりと漏らしたルナに、ネーナが意味深な笑みを浮かべて竪琴を取り出す。
「私の知っている曲ですか?」
「いや、ついさっき思いついたものだからね……でも、きみなら楽譜なんかなくてもついて来れるんじゃないかな?」
そう言って弦をはじき始めた彼女に、ルナは静かに音を合わせてメロディを重ねていく。
ただ、なんだか試されているような気分になったので、だったらと即興で歌を付けて口ずさんだ。
「ルナさん、素敵な歌! この世界の曲?」
「ううん。今、ネーナさんと即興で作ったんだけど……簡単な歌詞だから、よかったらルミちゃんも一緒にどうかな? エステルちゃんたちも!」
音楽をききつけて駆け寄って来たルミの姿を見てルナが笑顔でそう提案すると「もちろん!」と二つ返事の答え。
やがて奏でられた即興ながらも綺麗な6つの旋律が広場に響く。
それはさながら、聖輝節の到来を告げる星たちの歌声のようだった。
「ひゃー、大きい! 流石CAMを使うだけのことはありますね!」
クレール・ディンセルフ(ka0586)が額に手をかざしながら見上げるのは、今日の主役でありこれから立派な聖輝節のツリーに生まれ変わる広場の大木だ。
普段は大勢のハンター達の日常を静かに見守るこの木も、聖なる夜だけは逆に見守られる存在となる。
「これを、飾るのですか」
「そういうことみたいじゃの。ところで、何故飾るんじゃろ……儀式か?」
ぼんやりと真下から大木を見つめるフィロ(ka6966)の隣で、ASU-R-0028(ka6956)は大きな身体を揺らしながら「はて」と首をかしげる。
そんな未知の文化との遭遇に眉を潜める彼の問いに答えたのは、根国・H・夜見(ka7051)だった。
「理由なんかなんだって良いじゃないっスか。こんなに大きいのが綺麗に飾り付けられると思ったら、それだけで楽しみにならないっスか?」
それはちゃんとした答えにはなってはいなかったが、面と向かって言われるとそれ以上の意味なんてないような気もしてくる。
だからフィロも、木の先端を見上げたまま静かに頷いた。
「……確かに、見てみたい気がします」
飾り付けられる前で味気ない今の木に、彼女はどんな完成後の姿を思い浮かべているのだろう。
「でも、大きいのはそれはそれで心配もありますよね……」
なにやら別の心配で小さく喉を鳴らすクレールだったが、一人何か納得したようにポンと手を打つと、手工業ギルドのスタッフの方へと駆けて行った。
「ジーナのおねえはん、それに大尉はんも……お久しぶりです」
同じようにツリーを見上げながら談笑していた特機隊ジーナ・サルトリオ(kz0103)と同僚であるヴィットリオ・フェリーニ(kz0099)のもとへ、浅黄 小夜(ka3062)はトコトコと駆け寄りながらニッコリと笑みを浮かべていた。
「うわ~、小夜ちゃん久しぶり! 元気してた!?」
「この通り……おねえはんこそ、心配やったよ」
上目遣いで眉尻を下げる彼女に、ジーナはバツが悪そうにして頭を掻いく。
「フマーレの瓦礫の片付けとか。最近軍も忙しそうだもんなぁ」
「人の手なら数日掛かることを1日でやってのける。そういう面でも、アレの有用性には日々驚かされている」
ため息交じりに昨今の同盟事情を懸念するジャック・エルギン(ka1522)へ、ヴィットリオはツリーの近くに待機モードで膝を折るCAMに視線を向けていた。
「あら、中佐殿は? 見かけたからご挨拶しておこうと思ったのだけれど」
きょろきょろと辺りを見渡す沢城 葵(ka3114)だったが、その問いにヴィットリオが答える前に捉えどころのない能天気な声が響いていた。
「お~い、ヴィオ。すまんが、ちょっと来てくれ」
遠くで手を振る探し人ダニエル・コレッティ(kz0102)。
その傍にはギルドの職員と先ほど駆けて行ったクレールの姿が見える。
ヴィットリオは軽い敬礼でそれに応えると、「すまんな」と周りのハンター達に声を掛けてからその場を離れて行った。
●
「じゃあ、ひとまず天辺の『星』をどうするか、案を練らないといけませんね~」
ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)がツリー真下のテーブルでひとつ声を張り上げると、手にしたまっさらな羊皮紙に『ツリーの星どうするか評議会』と丸っこい字で書き連ねた。
「ふんわりとしたイメージはあるのだけれど、良いですか?」
エステル・クレティエ(ka3783)の発言に、ルミは「もちろん」と先を促す。
「2つあって、1つは星型の土台に沢山のモチーフで飾るリースみたいなイメージ。もう1つは色ガラスでステンドグラスみたいなのを作れたら綺麗かなと思いまして」
「私はそれを木製で考えていました。紅と蒼と緑、3つの着色した木を組み合わせた星型の飾りで3つの世界を表現する――という感じなんですが」
「3つの色を使うっていうのは俺も賛成だな。3つの異世界の架け橋みたいなのを表現できたらいいなと思ってたんだ」
続いた央崎 遥華(ka5644)の案に、ジャックが相槌をうった。
やはりこの時期に『友好』というテーマを聞くと、思い浮かべるのは本格的な交流が始まったリアルブルー、そしてエバーグリーンのことなのだろう。
「3つの惑星がくるくる回る感じとか、どうかなぁて」
「私は5連星を考えていました。色とりどりの星たちで、3つだけでない、他にもあるだろう沢山の世界の繋がりを表現できないかと思ったんです」
「それもええなぁ。3つも世界があるんなら、他にももっとあるような気もします」
フィロの案に、小夜が楽し気にニコリとほほ笑む。
「でも、3つの世界ばかりじゃないわよ。クリムゾンウェストの中でだって、まだまだ力を合わせないといけない問題は山積み。だから、いろんな地域の人とか、幻獣とか、そういった部分でも『友好』って意識は大切なことだと思うわ」
葵は流石のお兄さん気質で、話題が一辺倒になってしまわないようフォローを入れつつしっかりと自分の意見も織り交ぜていく。
一口に『友好』と言っても、やはり表現したい内容はそれぞれだ。
誰かと誰かがいるから、友好という言葉は発生する。
その誰と誰を何に置き換えるか……それがこのテーマの、一番難しいところなのだろう。
やがて意見もひと段落したころ、優しい表情で話し合いを聞いていたアリア・セリウス(ka6424)がそっと言い添えた。
「せっかく『見上げる』のだもの……夢や理想、憧れのようなものが現れているというのは素敵だと思うの」
それはきっと案を出す時に心の底にあった真なる想いを代弁したかのようで、みんな一様にしみじみとそれを実感する。
「なるほど、だったら――」
意見を逐一書きとめていたルミが、さらさらと羊皮紙の中にペンを走らせる。
それはみんなの意見を元に描いた宝の地図のように、楽し気な『星』の完成予想図となって浮かび上がっていた。
意見交換から始まった星の制作とはうってかわって、オーナメントづくりの方はそれぞれの参加者で思い思いに進んでいた。
「もう聖輝節の季節だもんな……今年もあっという間だったな」
しみじみとこの1年を思い返すグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)の手の中には、器用なナイフ使いで木から削り出されている人形の姿。
ちょっと尖った耳はエルフだろうか。
目の前の作業台には、既に完成したのであろうドワーフや鬼、幻獣といった、様々なモチーフの木彫り人形が並んでいた。
その中の1つを誰かが手に取って、彼はふと視線を上げる。
「きみ、いい仕事するねぇ」
筋骨隆々なドワーフをいろんな角度で眺めながら、フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)が赤い三白眼をニンマリと細めた。
「そういうおたくだって、ずいぶん手慣れたもんじゃないか」
フェイルが先ほどまで作業をしていたスペースを見ると、同じように人型の――ただしこちらは聖輝節らしく天使やプレゼントボックスを模したものが並んでいる。
「昔やってた仕事の杵柄ってやつでね。こういう飾りを作る機会があってさ」
「仕事? 職人でもやっていたのか?」
「そうじゃないけど――でも、あれが一番楽しかったかな。聖輝節を祝ったのも、あの時が初めてだった」
しんみりと思い出に浸るフェイルに、グリムバルドはどこかデリケートな気配を感じて「なるほどな」と頷いた。
「この季節を楽しみたい気持ちはどの世界もいっしょなんだな」
「そういうところは人間変わらないものだねぇ」
そう言って再び目を細めたフェイルは、どこか楽し気にくるりと指の間でナイフを回して見せた。
その向かいのテーブルにどっちゃりと手に抱えた葉っぱや木の実を下ろしたリンカ・エルネージュ(ka1840)は、寒い季節ながらにうっすらと浮かんだ額の汗をぬぐってふぅと小さく一息つく。
「おー、リンカ。材料は集まったんだな?」
「遅いよジャック! それで、星の方は大丈夫そうなの?」
笑いながら冗談めいて窘めるリンカに、ジャックも笑顔交じりながら申し訳なさそうに頭を掻いた。
「あっちはルミが上手くまとめてくれたぜ。あとはコッチに集中できそうだ」
言いながら、自分も小脇に抱えた木の蔓をテーブルの上へと下す。
「それじゃ始めるか。いっちょデカいの作ってやろうぜ」
「おっけー。力仕事は任せたよ!」
ウインク交じりのアイコンタクトで、リンカは自分が集めて来た材料を綺麗に布きんで磨き始める。
その間にジャックは、針金と蔓でなにやら整形を始めていた。
ちょっと離れた位置で月や花といった、自然のモチーフを寄せ木で作っていた夜桜 奏音(ka5754)は、途中何度が手の感覚を確かめるように握ったり開いたりして眉を潜める。
「動けない程ではないんですが……やっぱり、時折響きますね」
先の激戦で傷を負った彼女だったが、こんな自分でも聖夜の楽しみのためできる事があるのならと怪我を押しての参加だった。
「すごーい! ねぇねぇ、これってどうやって作ってるの?」
「えっ……ああ、ええと――」
そんな彼女の傍にパタパタと駆け寄ってきたアリア(ka2394)は、テーブルにかぶりつくように手と顎を乗せながら、キラキラとした瞳で奏音の作り掛けの星のオーナメントを眺めていた。
その声に釣られて、リディア・ノート(ka4027)も傍へと歩み寄る。
「今日はちょっと刃物とかを握るのは大変なので、木を組み合わせて作っていたんです」
「へぇ~、それならあたしにもできるかな?」
「はい、簡単ですし。ほんとはちょっと、仕上げに削って形を整えたりしたいんですけどね」
そう言って苦笑する彼女だったが、だったら、とリディアがどんと自分の胸を叩く。
「せっかくだし、あたしにも教えてくれないかな。お祭りムードに誘われたのはいいものの……って、困ってたんだよね。代わりに、仕上げ手伝うわよ」
「本当ですか!」
その言葉に奏音は顔を綻ばせて手を合わせるも、どこかに響いたのかすぐにビクリ肩を震わせてリディアが慌ててそれを介抱する。
「いたた……ありがとうございます」
「いいのいいの、無理しないで。それで、とりあえず何をすればいいの?」
「あたしはシエロを作りた~い!」
思い思いに積み木のような木片を集め始める2人に、奏音は生き生きと手順を説明をするのだった。
そんな中で不意に魔導エンジンの駆動音が鳴り響き、参加者のみならず通行人達の視線が一斉にツリーの方へと集まった。
バイザーアイに命が吹き込まれ腰を上げたCAMが、水平に空へ向けた手のひらに人影を乗せてゆっくりと動きだす。
「すみません、ヴィットリオさん」
「ヴィオで構わないぞ。同僚はみなそう呼ぶ」
「じゃあ、ヴィオさん。とても助かります!」
コックピットの方へ向かってお辞儀したクレールは、同じく手のひらの上に積まれた荒縄のネットを広げて、周囲の街路樹や家の何層かに分けて張り巡らせていく。
高所作業があるならば、という彼女なりの安全面の配慮だった。
ハンターなら仮に落下してもかすり傷程度で済む場合もあるだろう。
だが、あるのと無いのとではやはり作業への心構えが変わって来るものだ。
そんな様子を遠巻きに見かけて、ハンス・ラインフェルト(ka6750)はほんのりと表情を和らげてみせた。
隣の穂積 智里(ka6819)が「どうしかましたか?」と尋ねると、彼は「突然すみません」と断りながらどこか懐かしむような瞳で辺りの様子を見渡していた。
「私の故郷でもこの時期になると、こうして街の広場にツリーを飾って沢山の屋台が並ぶんです。道端で買ったグリューワインで身体を温めながら、買い物をして回るんですよ」
「おばあちゃんに聞いた事があります。『とても賑やかで楽しいけど、クリスマス当日は静かに過ごさなきゃいけないのよ』って」
「ええ、聖夜は家族と過ごす日ですから……大切な人と過ごすのは、マルクトの時期なのです」
そう言って、智里の手をそっと取る。
智里もまた彼の手を優しく握り返すと、彼を見上げてほほ笑んだ。
「だったら今からでも楽しんだらどうでしょう。貴方の故郷の、ヴァイナハツ・マルクトを――」
「え――?」
虚を突かれたように目を丸くしたハンスの手を引いて、その姿は一時、街の方へと消えていく。
ワークショップの方では、夜見が鼻歌交じりに紫色のモールを折り曲げて可愛いブドウのオーナメントを作っていた。
辺りには布で作ったバナナや、銅板を折り曲げたくし形切りのスイカに、木を削って着色したメロン。
さながら。ちょっとした果物屋さんの装いである。
「さて、次は……って、あれぇ。柿なんて作ったっスかね?」
不意にコロコロと1個の柿が目の前に転がって来て思わずそれを手に取ると、彼女はそのあまりの精巧さに思わず目を見開いた。
皮の艶、ちょっとしたくすみ、そのみずみずしさまで。
何の素材を使ったら、こんなに精巧な柿が作れるのだろうか――
「ごめんなさい。私の柿、転がって来ませんでしたか?」
不意に困り顔のミオレスカ(ka3496)が歩み寄って来て、夜見は自分が手にしていたそれを掲げて、手渡した。
「こんなに精巧なの、どうやって作ったんスか? ぜひコツを聞きたいっス!」
その問いにミオレスカは、「そこの青果屋さんです」と広場の先に見えるお店を指差した。
「青果って――えっ、本物っスか、これ!?」
2重の意味で驚いた夜見の前で、彼女は手にしていた麻紐を見せる。
そこには綺麗に剥かれた柿の実が等間隔にいくつか並んでいた。
「風通しが良さそうなので、聖輝節までに美味しい干し柿ができそうです。他にも準備してますよ」
ほんわかした表情で嬉しそうに語るその姿に、夜見は感心したような驚いたような、そんな表情で頷くことしかできなかった。
「それは……同盟のコイン、ですか?」
「はい――と言っても、柄は聖輝節仕様ですけどね」
手元を覗き込んで尋ねた天央 観智(ka0896)に、遥華は完成したばかりのケーキ柄の木製コインを笑顔で見せる。
「そちらは何を作ってるんですか? 旗……?」
観智の手元には、沢山の布に描かれたいろんな国のエンブレムが覗いていた。
それらは1本の紐で繋がれて、そのまま木の周囲に掛けられそうな輪になっている。
「リアルブルーでは……こういう風にたくさんの国旗を繋いだ飾りがあるそうです。それを模してみようと思いまして」
それから、はじめは3つの世界をイメージしようと思ったけれど一般の人に伝わるのか心配で――と、苦笑しながら付け加える。
確かに、リアルブルーはまだしもエバーグリーンは一般人にとってまだまだ馴染みの浅い世界かもしれない。
「でも、直接意味が伝わらなくっても、それを見て『何か』を思ってくれる――それが大事なんじゃないかなって、私は思いますよ」
「確かに……そうかもしれませんね。青や緑の旗も、作ってみたいと思います」
馴染みが浅いからこそ、これを機に――そういう願いも、このツリーに宿るハズだから。
そうこうしている間に、『星』の方もだいぶ形が見えて来た。
すこし広めに準備した作業スペースでは、ジーナとフィロが一生懸命に色ガラスを磨いている。
「ジーナのおねえはん、それにフィロさんも上手やね……」
「機体磨きは日課だからね。慣れたものだよ~!」
「私も、元はそういうためにプログラムされていますので」
2人とも、ある種「磨きのプロ」である。
小夜は納得したように頷きながら、お手製の猫のモール人形をちょこんとテーブルに置く。
他にもトナカイやサンタといった聖輝節らしい人形が、まるでパーティのように彼女の周りを囲んでいた。
「――そんなパンツで大丈夫でちゅか?」
不意に地面方向から聞こえた声に、ジーナは思わず目を白黒させて飛び上がる。
慌てて視線を向けると、しゃがみ込んでこちらを見上げる北谷王子 朝騎(ka5818)の姿がそこにはあった。
「えっ、見えてる!? うそっ!?」
「だ、大丈夫……おねえはん、ズボンやよ」
小夜の言葉に、お尻を抑えてしゃがみ込んでいたジーナは弾かれたように立ち上がる。
「そうだった! もう~、からかわないでよっ!」
両手振り上げて頬を膨らませたジーナだったが、気づくと朝騎はぴゅ~っとどこかへ走り去ってしまっていた。
「え~っと……こうでいいのかな?」
「そうそう。で、リボンで結んで――」
「――できたっ!」
星づくりの片手間にエステルに教わってオーナメント作りに挑戦していたルナ・レンフィールド(ka1565)は、完成した音符の飾りをエステルの星の飾りと並べて掲げて、嬉しそうに見つめていた。
「ルナも随分て慣れて来たね。ボクも、もう1個完成~っと!」
アルカ・ブラックウェル(ka0790)は、布で作った5つ目のリンゴを先の4つの隣に並べると、腕を広げてうんと背を伸ばす。
今、手工業ギルドの人々が図面をもとに星の大枠部分を作ってくれていた。その間、参加者たちは細かいパーツを作ったり、それぞれの飾りづくりを楽しんでいた。
「うわぁ、かわいい!」
ちくちくと裁縫にいそしむ高瀬 未悠(ka3199)。彼女が作った布製マカロンをちょこんと指で突くルナを前に、一息つきながら糸をプチンと断つ。
そして完成したばかりのハート型クッキーを眺めながら、どこかうっとりとした様子で目を細める。
「ふぅ……我ながら美味しそうに出来たわ。うん……本当に美味しそう――」
「た、食べちゃだめよ。未悠さん」
エステルに窘められて、未悠ははっとして垂れかけた涎をじゅるりとすする。
「でも、確かに食べちゃいたいくらいおいしそう! ねぇ、ネーナもよかったら一緒に作らない?」
言いながら向けたアルカの視線の先には、素材の木箱に腰かけてワークショップの様子を眺めるネーナ・ドラッケン(ka4376)の姿があった。
彼女はどこか妖艶な笑みをうかべながら、静かに首を横に振る。
「ボクはお手伝いをさせてもらえるだけで十分だよ。それに、そろそろ星の枠組みが出来上がるころだろうしね」
そうこうしている間にルミがギルドの職員たちを連れてワークスペースへと戻って来るのが見えた。
「できたのね……それじゃあ、もうひと仕事」
そう口にしたアリアの言葉に、ハンター達は小さく頷いて到着を出迎えた。
いよいよ、仕上げの作業が始まる。
●
「オーライ、オーライ、おっけーよ!」
地上から離れて行くCAMの手は、その上に乗る葵の声に合わせてピタリと静止した。
「この機体はジーナかしら。よろしくねぇ」
ひらひらと手を振る彼に、カメラアイの光がチカチカと点滅し答える。
「さぁて、それじゃあ始めようかしら」
パンと手を打って気合いを入れると、一緒に積まれて来たオーナメントを手に装飾作業が始まった。
大木の両サイドには起動したCAMがそれぞれ立ち膝の状態で、手のひらをゴンドラ代わりに上下させ高所作業の足場となる。
比較的低い部分は高い梯子で地上からも作業を行い、日が暮れるまでに一気に飾りつけを終わらせる工程だ。
すでに梯子の方は、大勢のハンター達が協力しながら飾りつけ作業を始めている。
「これでオーナメントは全部? 凄い数の星ね、誰が作ったのかしら?」
下に飾る用の品が詰まった箱を運びながら、その中に大量に含まれる雪型の星を見て、リディアは思わず目を見張った。
「はっはっはっ、ワシじゃ!」
豪快に名乗りを上げたASU-R-0028に、彼女は驚いて思わず箱を取り落としそうになる。
「余っても他の何かに飾れるじゃろうと思っての!」
「まあ、数あるにこしたことはないわね。奏音さん、これどの辺に飾るー!?」
「とりあえず地上の人たちから綺麗に見えるように、下側に沢山つけて大丈夫だと思います!」
離れた位置の奏音へ手を振ると、彼女は遠巻きに作業状況を鑑みながら木の下の方を指し示す。
「よ~し、私に任せて!」
「ちょっ!?」
開口一番、アリアがオーナメントの詰まった袋を咥えてぴょんと太い幹に飛びつくと、そのままするするとわずかなコブ伝いに登っていく。
「は~、すっごいわね。私は……流石に梯子がないとムリか」
自分の背丈と、木の高さとを見比べて小さくため息をつくリディア。
「だったら、ワシの肩を踏み台にするか? 動ける分、梯子よりも便利だと思うぞ! なぁに、上は見んから安心しろ!」
「当然よ!? でも、助かるわ」
お礼を言って、手を踏み台にさせてもらいながら、広い肩の上に跨り立ち上がるリディア。
その細い足首をASU-R-0028の手が掴んで支えると、思いのほか安定した作業台となった。
「これは良いわね。バンバン飾るから、指示よろしくね~!」
再び手を振って合図をすると、奏音が遠くから手を振り返してくれた。
木の上に登ったアリアは、頑丈な枝伝いに飾りを括りつける先の方へと歩みを進めると、茂る葉を掻きわけてがさりと木の外側へ顔を出す。
「うわっ!?」
その瞬間に目と目が合って、飾りを枝に括りつけようと手を伸ばしていたグリムバルドは叫びながら大きくのけ反った。
「どうかしたかい?」
声に驚いて――いる様子は無いが、裏の手の甲側からひょこりと上を覗き込んだフェイルが2人の姿を確認して合点がいったように首を縦に振った。
「きみ、すごいね。ここまで何にもなしに登って来たのかい?」
「そうだよ♪ シエロをできるだけ高い場所で飛ばせてあげようと思って」
「シエロっていうのは、そのオーナメント?」
話すために手に持った袋を指差すフェイルに、アリアは一度大きく頷きながらも、ちょっと迷ったように明後日の方向を見上げた。
「シエロは私の友達で、これはそれを真似たオーナメント、が正しいかな?」
「ああ、なるほどな……だがビビらせるのは止めてくれ。あー、心臓が止まるかと思った」
胸に手を当てて大きく深呼吸をするグリムバルドの姿に、フェイルは笑いながら上の方を指差す。
「ここはまだ中腹あたりだから、もう少し上があるよ。落ちないように気を付けて」
「分かった、ありがとう~♪」
再び昇っていくアリアを手を振って見送って、残された2人は顔を見合わせて苦笑して作業へと戻っていった。
「お~い、こっちはヴィットリオの機体か~?」
その時、CAMの足元の方からコックピットへ向かって諸手を振るジャックの声が響き渡った。
「ちょっと上にあげて欲しいモンがあるから、手ぇ下げて貰えるか?」
その声に反応して、グリムバルド達が足場にしているのと別の方の手がゆっくりと地上へと降りていく。
そして人が乗れる高さまで下りると、ジャックとリンカ、そして他にも何人かの手を借りて、ツリーの大きさに見合う巨大なリースが運ばれてきた。
「オーケー、乗ったぜ!」
手は巨大リースと数名の作業者を乗せたまま、ゆっくりとツリーの中腹真正面へと伸びていく。
それから多少位置を調整しながらて、バッチリ決まる場所へと括りつけた。
「これも……この辺りにお願いできますか?」
リース運びを手伝った観智は、自分の旗のオーナメントもそっと差し出す。
「もちろんっ。これでリース囲ったらとっても賑やかじゃない?」
リンカが笑顔で承諾すると、リースの辺りを囲うように旗が据えられる。
さながら、リースを惑星に見立てて沢山の国が集っているような、そんな光景だった。
「これでよし……っと」
未悠が仕上げにカラーストーン付きのリボンを飾り、ついに完成した『星』が目の前で煌びやかな姿を見せていた。
「わぁ、すごい! 完成したんですね!」
その姿を見たクレールは、待ってましたとばかりに作業台へとやって来くる。
一緒にガラガラと持って来た台車の上には、なにやら装置が載せられていた。
「クレール、それどうするの?」
尋ねたアルカに彼女は「まぁまぁ」と前置いて、そのリアルブルーでいうプラネタリウム装置みたいなイガグリ電飾を星の内部へと仕込む。
「面白いものを作ったわね。なら、私も最後にひと手間良いかしら?」
言いながら、アリアも最後の調子を整えるかのように星の端へ色糸を張り巡らせていく。
「よし、これで本当に完成ですね」
その出来栄えを確認して、エステルが満足げに頷いていた。
●
「オーライ、オーライ!」
ルミの掛け声に合わせて、2台のCAMが『星』の両サイドを抱えてゆっくりと木の上へと持っていった。
そして先に待っていた作業員たちが太いロープで頑丈に縛り付けると、大きく手で丸を作って作業の終了を合図する。
「戦う為に作られた物だけど、こうして皆の笑顔の為に活かせるのって素敵よね」
作業に協力するCAMを見上げながら、未悠はほっこりと口元を緩めた。
作業員を回収すると、いよいよ地上の人々はどきどきと胸が高鳴るのを感じていた。
ツリーの陰に見える夕日が完全に落ちきったら、テストの点灯が行われるのである。
「グリューワインです……よかったらどうぞ。ノンアルコールのものもありますよ」
そんな広場の片隅で、作業を終えたハンター達にハンスはお手製のグリューワインを配っていた。
傍らでは智里が、これまたお手製のレーブクーヘンを手渡しする。
シナモンの香り漂う暖かいワインと可愛いクッキーは、一日中外の作業で冷えた身体を中からじんわりと温める。
「確かに……自分から行動すれば、この世界でもヴァイナハツ・マルクトを楽しむことができますね」
「でしょう? でも……いつか本物も見に行きたいですね」
すこし赤くなった頬を摩りながら、智里はハンスの目を真っすぐ見つめてほほ笑む。
「いつか必ず、連れて行きますよ」
ハンスはそっと自分の手を彼女のそれに重ねながら、同じように微笑み返した。
「それじゃあ、テスト点灯はじめますよ~。3秒前から行きます!」
ルミが注意を引くと、みんな一斉にツリーの方へ視線を向ける。
やがて空の底に残っていた朱が消えて、カウントダウンが始まった。
――3。
――2。
――1。
ぱっと広場の灯りが消えて、代わりにパパッとツリーのマテリアル電飾が光を放っていく。
地面に近い方から順に色づいていくそれは、オーナメントの星や果物、人形や旗などを煌びやかに彩っていく。
やがて天辺まで到達すると、ひときわ大きな光がそこにある『星』を照らし出した。
そこに現れたのは、大きな星の形の立体ステンドグラス。
その左右に2つの小さい木製の星がくっついて、ゆっくりくるくると回転していた。
星はそれぞれ青、赤、緑を組み合わせて作ったパッチワークの様で、中央のステンドグラスはよく見ると人や幻獣、さまざまな生き物たちが描かれていた。
それを中から赤青2色の光が照らし出し、さながら瞬く星のように、夜空の中にその姿を浮かび上がらせる。
そして最後にアリアが付けた色糸が、光を受けて輝く2色の月のように、両端でぼんやりと輝いていた。
「お~、すごいっスねぇ!」
真っ先に歓声を上げた夜見に続いて、あちこちから驚きの声や、うっとりとしたため息が響く。
「CAMのおかげて風通しの良い所に吊るせました。本当に、協力様様です」
満足げな表情のミオレスカに夜見は苦笑で答えると、自分が飾ったオーナメントの辺りを眺めながら表情を緩める。
「自分の果物も、まるで宝石みたいっスよ」
「そうですね。これを見て、少しでも多くの人が感動してもらえたら良いなぁ」
遥華が漏らした言葉に、夜見は「心配ないっスよ」と自信満々に答えた。
少しでも見た人が幸せを感じられるように、そんな思いを込めて作ったのだから、それはどんな形であれきっと届くのだと。
グリューワインのカップで手の暖を取りながら、リンカははしゃいだ様子でしきりにジャックの肩を叩いては、ツリーのいろんなオーナメントを指差している。
もちろん彼女たちが作ったリースも、ツリーの中央で綺麗に瞬いていた。
「Xmas、楽しみだなぁ……」
「そうだな。今年も楽しく過ごしたいもんだぜ」
ジャックが星を見上げながら答えると、リンカは大きく首を縦に振ってみせた。
ハンター達に混ざってツリーを見上げるダニエルの隣で、葵は意味深な笑みを浮かべていた。
「……それで、中佐殿は何をお企みなのかしらぁ?」
「やだなぁ、何も考えちゃいないよ。ただ、来年の予算がもっと出ればなぁと……ほら、星に願いをってね」
「ふぅん」
甘いワインを傾けながら飾り気なく答えた彼に、葵は「まあ、そういう事にしておきましょ」とウインクをしてもう一度、頭上一杯冬の空に輝くツリーの姿を瞳に写した。
「なんだか、歌でも歌いたい気分ですね」
「だったら1つ、いい曲があるよ」
ぽつりと漏らしたルナに、ネーナが意味深な笑みを浮かべて竪琴を取り出す。
「私の知っている曲ですか?」
「いや、ついさっき思いついたものだからね……でも、きみなら楽譜なんかなくてもついて来れるんじゃないかな?」
そう言って弦をはじき始めた彼女に、ルナは静かに音を合わせてメロディを重ねていく。
ただ、なんだか試されているような気分になったので、だったらと即興で歌を付けて口ずさんだ。
「ルナさん、素敵な歌! この世界の曲?」
「ううん。今、ネーナさんと即興で作ったんだけど……簡単な歌詞だから、よかったらルミちゃんも一緒にどうかな? エステルちゃんたちも!」
音楽をききつけて駆け寄って来たルミの姿を見てルナが笑顔でそう提案すると「もちろん!」と二つ返事の答え。
やがて奏でられた即興ながらも綺麗な6つの旋律が広場に響く。
それはさながら、聖輝節の到来を告げる星たちの歌声のようだった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 12人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
雑談と相談 エステル・クレティエ(ka3783) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/12/09 23:23:57 |
|
![]() |
ワークショップの質問 朱鷺戸るみ(kz0060) 人間(リアルブルー)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/12/08 18:04:39 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/09 13:44:01 |