ゲスト
(ka0000)
妖精の里の守護者のお願い
マスター:真太郎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/12 12:00
- 完成日
- 2017/12/19 14:25
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境のとある森の奥深くには妖精の里がある。
そしてその里は1人の年老いた人間の女性が守護していた。
その女性、ケイトはリアルブルーからの転移者だ。
しかし足が不自由であったため自分以外の人間がいる事すら知らず、40年間ずっとたった1人で妖精と暮らしていたのだった。
だがつい最近、この世界にも自分以外に人がいる事を知った。
ケイトは自分が事を記した手紙を妖精に託し、人が来てくれる事を願った。
そして妖精は長い旅路の経て、ケイトの願い通り人を連れて来てくれたのである。
40年ぶりの人との邂逅であった。
深い森の奥で暮らしていたケイトは不自由で原始的な生活を余儀なくされていたのだが、邂逅したハンター達のお陰で生活水準がかなり向上した。
今では人里と手紙を使ったやり取りもできるようになり、森では手に入らない物を代わりに買ってくれるとまで言ってくれている。
とはいえ、長く森暮らしをしていたケイトは金銭を全く持ち合わせていない。
そのため支払いは物々交換で行うしかなかった。
しかし足の悪いケイトが森で手に入れられる物で物々交換に適した品は非常に少ない。
「私が持っている物でお金になりそうな物……何があるかしら?」
ケイトは考えた末、妖精の取ってきてくれる『ハチミツ』を交換品にする事にした。
ハチミツが交換品として認められるか不安があったが、辺境は元々食料品の自給率が低く、ハチミツも上質なものであったためすぐに認められた。
ケイトがハミチミと引き換えに欲した物は、酒の『シードル「エルフハイム」』。
以前出会ったハンターの1人から貰った時、一緒に飲んだ妖精がとても気に入って、今も時折飲みたいとせがまれていたからだ。
自分も他に欲しい物はあったが、ハチミツは元々妖精が取ってきたものだから、妖精が欲しがる物のために使おうと思ったのである。
商人が算出してくれた交換レートは、ハチミツ1瓶につきシードル1瓶だった。
だがこれは商品同士だけの価値を見た交換レートである。
ケイトの住んでいる妖精の里までは野生動物や歪虚も出没する危険な森の中を進む必要がある。
そのため荷物の運搬にはどうしてもハンターに頼る必要があった。
しかしハンターの賃料は非常に高額である。
最低でも4人は雇う必要があり、最低賃金で雇ったとしても総額で25万Gは必要になると教えられた。
「えぇ! ハンターってそんなに高かったの?」
前回ほぼ無償でハンターに来てもらった上に様々な施しを受けた事をケイトは申し訳なく思った。
そして追加で25万G分ものハチミツを集めるなどケイトには不可能だった。
金銭を用意する事はできない。
そうなると金銭やハチミツ以外でハンターに支払える物を用意する必要がある。
「でも何を用意すればいいのかしら? ハンターって何が必要なの? そもそもそれを私が手に入れられる?」
悩み、考えたが、浮世離れしてた生活をずっと続けていたケイトはリアルブルーの世情に詳しくなく、ハンターが何を欲しがるかも分からない。
なので手紙で商人に相談したところ、最近のハンターは『イクシード・プライム』という物を欲していると分かった。
イクシード・プライムにはケイトは心当たりがあった。
以前、森の精霊がハンター達に渡しているのを見た事がある。
森の精霊ならまだ持っているかもしれない。
「でもくれるかしら? それにこんな事で精霊に頼ってもいいの?」
悩んでいたら数日経った。
今日は久しぶりに妖精の1人がシードルをせがんできた。
「まだないのよ、ごめんね。精霊がイクシード・プライムって物をくれたら手に入るかもしれないんだけど……」
妖精に言っても分からないだろうと思って気楽に話す。
それを聞いた妖精はふらっと何処かに飛んでいった。
そして戻ってきた時には手に煌めく鉱石を持っていた。
「えっ!?」
以前に見たものより小さいが、イクシード・プライムに見えた。
「それ、どうしたの?」
聞くと、どうやら精霊に欲しいと言ったら貰えたらしい。
「そんなに簡単に貰える物なのね……」
ケイトは使ってもよいかどうか迷ったが、精霊が妖精に与えた物である。妖精の欲しがっている物を買うのに使うのなら問題ないだろうと考えた。
「でも、本当にこんなので引き受けてくれるハンターがいるのかしら?」
ともかくイクシード・プライムは手に入ったので、それで依頼を引き受けてくれるハンターがいるかどうか手紙で尋ねてみた。
返事には一応それで依頼してみると書かれていた。
「上手く行けばいいけれど……」
しかしケイトにはまだ悩みがあった。
仮に今回の取引が上手くいっても、時期的にもうハチミツは採れないため、次の取引に使える交換品がもうない事だ。
おそらく妖精は今後もシードル欲しがるだろう。
妖精達のためにもできれば里との取引は続けたかった。
すぐに思いつく交換品は魚の干物ぐらいだが、これとシードルを交換するにはかなりの数を揃える必要がありそうだった。
そうすると自分の食べる分までなくなってしまう。
自分が飢えてしまう事は流石にできない。
「何かないかしら……」
焼いた干魚に塩をかけながら考える。
そこでふと思いついた事があった。
「これ……もっとないのかしら?」
『これ』とは今干魚かけた塩である。
塩分は人間が生きてゆく上で欠かせないものだ。
それはクリムゾンウェストでも変わらないはずだから、需要はあるだろう。
ケイトが森で40年間1人で生きてこられたのは、妖精が何処かから岩塩を持ってきてくれているからだ。
「きっと近くに岩塩の採れる所があるんだわ」
問題は岩塩がどのくらいの量あるか。
妖精を呼んで尋ねてみた。
身振り手振りから、大量にありそうなのは分かった。
「それならいっぱい取ってくる事はできない?」
そう尋ねるとブンブン首を振られた。
どうやら近くに大きな生き物の巣があって、巣から遠くにある小さい物しか取ってこれないらしい。
「困ったわね……」
ケイト自身が取りに行ければいいのだが、動けない身の上では不可能だ。
「ハンターにお願いして……。でもこれ以上甘えるのも……」
ケイトの悩みは尽きなかった。
そしてその里は1人の年老いた人間の女性が守護していた。
その女性、ケイトはリアルブルーからの転移者だ。
しかし足が不自由であったため自分以外の人間がいる事すら知らず、40年間ずっとたった1人で妖精と暮らしていたのだった。
だがつい最近、この世界にも自分以外に人がいる事を知った。
ケイトは自分が事を記した手紙を妖精に託し、人が来てくれる事を願った。
そして妖精は長い旅路の経て、ケイトの願い通り人を連れて来てくれたのである。
40年ぶりの人との邂逅であった。
深い森の奥で暮らしていたケイトは不自由で原始的な生活を余儀なくされていたのだが、邂逅したハンター達のお陰で生活水準がかなり向上した。
今では人里と手紙を使ったやり取りもできるようになり、森では手に入らない物を代わりに買ってくれるとまで言ってくれている。
とはいえ、長く森暮らしをしていたケイトは金銭を全く持ち合わせていない。
そのため支払いは物々交換で行うしかなかった。
しかし足の悪いケイトが森で手に入れられる物で物々交換に適した品は非常に少ない。
「私が持っている物でお金になりそうな物……何があるかしら?」
ケイトは考えた末、妖精の取ってきてくれる『ハチミツ』を交換品にする事にした。
ハチミツが交換品として認められるか不安があったが、辺境は元々食料品の自給率が低く、ハチミツも上質なものであったためすぐに認められた。
ケイトがハミチミと引き換えに欲した物は、酒の『シードル「エルフハイム」』。
以前出会ったハンターの1人から貰った時、一緒に飲んだ妖精がとても気に入って、今も時折飲みたいとせがまれていたからだ。
自分も他に欲しい物はあったが、ハチミツは元々妖精が取ってきたものだから、妖精が欲しがる物のために使おうと思ったのである。
商人が算出してくれた交換レートは、ハチミツ1瓶につきシードル1瓶だった。
だがこれは商品同士だけの価値を見た交換レートである。
ケイトの住んでいる妖精の里までは野生動物や歪虚も出没する危険な森の中を進む必要がある。
そのため荷物の運搬にはどうしてもハンターに頼る必要があった。
しかしハンターの賃料は非常に高額である。
最低でも4人は雇う必要があり、最低賃金で雇ったとしても総額で25万Gは必要になると教えられた。
「えぇ! ハンターってそんなに高かったの?」
前回ほぼ無償でハンターに来てもらった上に様々な施しを受けた事をケイトは申し訳なく思った。
そして追加で25万G分ものハチミツを集めるなどケイトには不可能だった。
金銭を用意する事はできない。
そうなると金銭やハチミツ以外でハンターに支払える物を用意する必要がある。
「でも何を用意すればいいのかしら? ハンターって何が必要なの? そもそもそれを私が手に入れられる?」
悩み、考えたが、浮世離れしてた生活をずっと続けていたケイトはリアルブルーの世情に詳しくなく、ハンターが何を欲しがるかも分からない。
なので手紙で商人に相談したところ、最近のハンターは『イクシード・プライム』という物を欲していると分かった。
イクシード・プライムにはケイトは心当たりがあった。
以前、森の精霊がハンター達に渡しているのを見た事がある。
森の精霊ならまだ持っているかもしれない。
「でもくれるかしら? それにこんな事で精霊に頼ってもいいの?」
悩んでいたら数日経った。
今日は久しぶりに妖精の1人がシードルをせがんできた。
「まだないのよ、ごめんね。精霊がイクシード・プライムって物をくれたら手に入るかもしれないんだけど……」
妖精に言っても分からないだろうと思って気楽に話す。
それを聞いた妖精はふらっと何処かに飛んでいった。
そして戻ってきた時には手に煌めく鉱石を持っていた。
「えっ!?」
以前に見たものより小さいが、イクシード・プライムに見えた。
「それ、どうしたの?」
聞くと、どうやら精霊に欲しいと言ったら貰えたらしい。
「そんなに簡単に貰える物なのね……」
ケイトは使ってもよいかどうか迷ったが、精霊が妖精に与えた物である。妖精の欲しがっている物を買うのに使うのなら問題ないだろうと考えた。
「でも、本当にこんなので引き受けてくれるハンターがいるのかしら?」
ともかくイクシード・プライムは手に入ったので、それで依頼を引き受けてくれるハンターがいるかどうか手紙で尋ねてみた。
返事には一応それで依頼してみると書かれていた。
「上手く行けばいいけれど……」
しかしケイトにはまだ悩みがあった。
仮に今回の取引が上手くいっても、時期的にもうハチミツは採れないため、次の取引に使える交換品がもうない事だ。
おそらく妖精は今後もシードル欲しがるだろう。
妖精達のためにもできれば里との取引は続けたかった。
すぐに思いつく交換品は魚の干物ぐらいだが、これとシードルを交換するにはかなりの数を揃える必要がありそうだった。
そうすると自分の食べる分までなくなってしまう。
自分が飢えてしまう事は流石にできない。
「何かないかしら……」
焼いた干魚に塩をかけながら考える。
そこでふと思いついた事があった。
「これ……もっとないのかしら?」
『これ』とは今干魚かけた塩である。
塩分は人間が生きてゆく上で欠かせないものだ。
それはクリムゾンウェストでも変わらないはずだから、需要はあるだろう。
ケイトが森で40年間1人で生きてこられたのは、妖精が何処かから岩塩を持ってきてくれているからだ。
「きっと近くに岩塩の採れる所があるんだわ」
問題は岩塩がどのくらいの量あるか。
妖精を呼んで尋ねてみた。
身振り手振りから、大量にありそうなのは分かった。
「それならいっぱい取ってくる事はできない?」
そう尋ねるとブンブン首を振られた。
どうやら近くに大きな生き物の巣があって、巣から遠くにある小さい物しか取ってこれないらしい。
「困ったわね……」
ケイト自身が取りに行ければいいのだが、動けない身の上では不可能だ。
「ハンターにお願いして……。でもこれ以上甘えるのも……」
ケイトの悩みは尽きなかった。
リプレイ本文
4人のハンターは依頼人のケイトのいる妖精の里に行くため、深い森の中を進んでいた。
「ケイトさんと会うのは久しぶりだな……」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)はケイトの居住環境を改善した者の1人で、彼女との再開を楽しみにしていた。
しかしケイトが故郷には帰れない知らせの書かれている手紙を託されて悩んでもいた。
この手紙を読めばケイトがショックを受けるだろうと容易に想像できる。
だから手紙を本当に渡してもよいのか迷っていた。
(手紙の事を聞かれたら渡すしかないが……。まぁ何とかなるさ……たぶんな)
そう自分に言い聞かせて足を進める。
(一体、何故なのか?)
保・はじめ(ka5800)は別の事で悩んでいた。
保もケイトの居住環境を改善した者の1人で、彼女からの依頼という事で今回も引き受けた。
だが依頼のためだけなら手土産などいらないのに『ブッシュ・ド・ノエル』をわざわざ持って来ている。
(我ながら、やけに感情移入していますね)
彼女の不遇な境遇を自分と重ね合わせしまったからなのか。
明確な理由は分からないが、ケイトのために何かしてあげたいと思うのだ。
「妖精と……暮らしてる……女の人……どんな人、かな?」
シェリル・マイヤーズ(ka0509)は自分の少し前を歩くヒース・R・ウォーカー(ka0145)に尋ねた。
「妖精を守護してて、森の精霊の加護を受けてるって話だし、悪い人間ではないだろうねぇ」
ヒースはシェリルが歩きやすいように草を掻き分けながら答える。
「……うん。仲良くなれたらいいね……」
シェリルが自分の連れている桜型妖精「アリス」のモイラに話しかけると、モイラも頷いた。
やがて森が少し開け、布製のテントが見えてきた。
「おーい! ケイトさーん」
グリムバルドが声をかけると、竈の前にいたケイトが顔を上げ、驚きで目を見張る。
「あら! あらあらまあまあまぁ。グリムバルドさん、それに保さんも」
嬉しそうに顔をほころばせたケイトの髪は以前のように伸ばしっぱなしではなく、綺麗に切り揃えられていた。
服も草で作った粗末なものでなく、以前に渡したセーターを着てくれている。
「お久しぶりです」
「お元気なようで本当に良かった。また会えて嬉しいよ」
保とグルムバルドが再会の挨拶を交わす。
「私もまた会えて嬉しいわ。でも今日はどうしたの?」
「コレ、お届け物、だよ……」
シェリルが『シードル「エルフハイム」』をケイトに手渡した。
「それを届けに来てくれたのね、ありがとう。じゃあハチミツを渡さないといけないわね」
ケイトがテントの中に入るために腕をついて這おうとする。
「ボクが取るから座ってていいよぉ。これかい?」
ヒースがテントの中からハチミツの入った瓶を取って見せた。
「えぇ、それよ。あなた達と会うのは初めてね。こんな遠い所まで来てくれてありがとう。辺鄙な所だから人と会えるのがとても嬉しいの。私はケイト。よろしくね」
「ボクはヒース」
「シェリルって……言うよ……。こっちは私の友達の……モイラ……。よろしく……」
シェリルに紹介された桜型妖精のモイラもペコリとお辞儀する。
「うふふ、よろしくモイラ」
ケイトがモイラにも挨拶すると、近くにいた妖精たちが近寄ってきた。
そして互いに挨拶らしい事を行い始める。
妖精同士なら言葉が通じるのか、モイラはすぐに打ち解けたようだ。
「2人は兄妹なのかしら?」
「えっと……」
ケイトの問いにシェリルが言い淀む。
ヒースを兄のように慕っていて、本当に兄であったらいいと思っているが、ヒースは少し記憶障害があるため本当に血縁関係があるか分からないからだ。
「ま、妹みたいなものだよぉ」
ヒースはそう答えてシェリルの頭にポンと手を置いた。
「……うん。兄妹みたいな、もの……」
妹と紹介されて嬉しくなったシェリルは自分も同意する。
「うふふっ、仲が良さそうね。私にも妹がいるのよ。もう長いこと会っていないけれど……」
ケイトの表情が少し陰る。
「届け物はそれだけじゃないんだ」
グリムバルドは暗くなりそうな空気を払拭するように明るい声を上げる。
そして荷物からデュニクスワイン「ロッソフラウ」、ヒカヤ紅茶、ミネアの万能調味料、 美味スコーン、銅製マグカップを取り出した。
「え? そんなのは頼んでいないけれど……」
「これは俺からのお土産だ。マグカップは冷えてきたから必要かなって持ってきた」
「そんな! 前回あれだけの事をしていただいたのに、またこんなにも……」
「いいんだ。依頼にかこつけて俺は友人に会いに来たんだ!」
遠慮がちなケイトにグリムバルドが笑いかける。
「こんなおばあちゃんを友人と呼んでくれるのね。嬉しいわ、ありがとう」
ケイトは目尻に浮かんだ嬉し涙をそっと拭った。
「そうね。友人からのお土産じゃ受け取らないわけにはいかないわね」
「ボクからはこんな物を用意してきました」
続いて保がブッシュ・ド・ノエルを手渡す。
「まぁ、ケーキ!」
「聖輝節……クリスマスには少々早いですが」
「えっ! この世界でもクリスマスの風習があるの?」
「あるよぉ。こっちの風習と向こうの風習がブレンドして、単なるお祭りになってるけどねぇ」
「そうなの。文化が融合するほど馴染んでいるのね」
ヒースの説明にケイトが感心する。
「折角だしみんなで食べましょう」
ケイトが切り分け始めると、妖精達が寄ってくる。
だが彼らはケーキよりもワインに興味津々だ。
「このワイン、妖精さんにあげてもいいかしら?」
「もちろん。それにしても妖精が酒好きになるとは予想外だったな」
グリムバルドの承諾を得て、ワインは妖精達に振る舞われた。
「お酒はないけど、紅茶、なら……」
シェリルが荷物からハーブティー「リスペルン」を取り出す。
「あら、いい香りの茶葉ね。うん、とても好みな香りよ、嬉しいわ。これは私達でいただきましょうか」
お茶とケーキの準備ができ、皆でティータイムとなった。
「ところでケイトさん。また何か困っている事はないかい?」
「……」
歓談の最中、グリムバルドが尋ねるとケイトが難しい顔をする。
「どうしたんですか? 何かあるなら力になりますよ」
「実は……」
保が更に聞くと、岩塩絡みの事情を話してくれた。
「岩塩? 色々あるなこの森……分かった、採ってくるよ」
グリムバルドだけでなく、他の3人も腰を上げる。
「でも、私何もお礼が……」
「友人の頼みですからね」
「お茶を……ご馳走になった」
「そういう事だよぉ」
「……はい、ありがとう。妖精さん、案内してあげて」
4人は妖精の案内で森の更に奥の岩場までやって来た。
そこには岩塩でできた岩壁があったが、近くには4体のグリフォンのいる巣もあった。
「グリフォンか……。歪虚じゃなく普通の森の生き物なら傷つけるわけにはいかないな。俺が囮役になって引きつけよう」
「1人で4体は辛いでしょう。僕も囮になります」
「じゃあボクらがこっそり近づいて採取するよぉ」
「うん……任せて……」
キースとシェリルは『隠の徒』を発動し、グリムバルトと保は巣に近づいてゆく。
するとグリフォンがジロリと2人を見た。
「俺達べつに巣を荒らしにきたんじゃないんだ。ちょっとそこの岩塩が欲しいだけなんだよ。採らせてくれないか?」
グリムバルドは話しかけながら接近したが、グリフォンは翼を大きく広げて立ち上がり、鋭い鳴き声を上げた。
「威嚇されてますね」
2人が更に接近すると4体のグリフォンは翼を羽ばたかせて強襲してきた。
「説得は無理だったか……」
グリムバルドは鉤爪が当たる寸前に飛び退って避けた。
保は素早く符を抜くと『瑞鳥符』を発動。
鳥に姿に変えた符がグリフォンにぶつかって突進する勢いを止める。
『!』
『?』
グリフォンは今の現象に驚いたのか、少し距離をとって滞空した。
「そうして驚いたままじっとしてて下さい」
保はグリフォンを見据えたままジリジリと後ろに退がる。
しかし保の願い虚しく、グリフォンは再び襲い掛かってきた。
「くっ!」
保は襲われる度に『瑞鳥符』で防ぎ、時間を稼ぎ続けた。
そうして2人がグリフォンを引きつけている間にキースとシェリルが岩場に接近する。
全力で走ると『隠の徒』が解けるので慎重に進まないといけないのがもどかしいが、岩塩の岩壁まで辿り着く。
「早く……回収しないと……」
シェリルは試作振動刀「オートMURAMASA」と『連撃』で岩壁から岩塩の塊を切り出した。
すると岩壁がガラガラと音を立てて崩れる。
その音に気づいてグリフォンが振り向いた。
シェリルの『隠の徒』は『連撃』を使ったため解けていて丸見えだ。
グリフォンの1体がこちらに向かってくる。
「シェリルは回収を続けろ!」
ヒースは『隠の徒』を解いてグリフォンの前に飛び出した。
グリフォンは不意に現れたかのようなヒースに驚き、鉤爪を振るう。
ヒースはヒラリと避け、そのまま気を引きながら避け続ける。
その間にシェリルはバックパックに岩塩を詰め込み、切り取った岩塩の塊を抱えて走り出した。
「もういいよヒース!」
シェリルの合図でヒースは『ナイトカーテン』を発動して姿を消す。
『!?』
ヒースを見失ったグリフォンが首を巡らせるが見つけられない。
その隙にヒースは森まで退避したのだった。
「騒がせて悪かったな。大人しく帰るから見逃してくれ」
防戦一方で耐えていたグリムバルドは一言謝ってから森に逃げ込んだ。
『瑞鳥符』で防ぎながら森の近くまで退がっていた保も身を翻して一気に森に駆け込む。
「やれやれ、どうにかお互い無傷で済みましたね」
4人がいなくなるとグリフォンは何事もなかったかのように巣へ戻っていった。
「みんなおかえりなさい! 大丈夫? 怪我してない?」
テントに戻るとケイトが心配顔で迎えてくれた。
「平気……。岩塩、採ってきた……。これで……足りる?」
シェリルが持ってきた岩塩の塊を渡し、リュック一杯の岩塩も見せる。
「まぁ! こんなに採ってきてくれたの? 十分よ、ありがとう!」
ケイトが精一杯伸びをしてシェリルの頭を撫でた。
「ところで誰か手紙を預かってないかしら?」
(っ!)
不意に尋ねられ、グリムバルドの顔が強張る。
「前にあなた達から、限定的だけど向こうに戻る手段もできたから帰れるって教えてもらったでしょ。だから手紙で本当に戻れるか尋ねたの」
「……」
保も表情を硬くした。
ケイトはもう高齢なため、心身の動揺による悪影響は大きくなりやすく、立て直しにくい。
故に、動揺を与えると分かっている事柄を伝えるのは避けるべきだと思っていたからだ。
「返事はここに」
しかしヒースは手紙を取り出して見せた。
優しかろうか残酷だろうが、真実は真実であり嘘は嘘。
相手に真実を知る覚悟があるのなら、選ぶべきはケイト自身だと思ったからである。
「だけど先に提示しておく。ここに記されている事が貴女の望み通りの事ではない可能性もある。最も残酷な答えが記されている可能性もある。それでも知りたいのなら、これを渡そう」
「……そんな事を言われたら悪い事が書かれているって言われたようなものじゃない」
ケイトの表情が不安で曇る。
「何が書かれているんです? まさか祖国が歪虚に滅ぼされたりしたんですか? 祖国は? 家族は無事なんですかっ!?」
それがケイトの想像した最も残酷な答えだった。
「いえ、そういった事は書かれていません。ケイトさんの故郷は無事です」
声を荒げたケイトを落ち着かせるため、保が少しだけ内容を明かす。
「……手紙を渡して下さい」
だが、愛する者の死を想像してしまったケイトは真実を知らないで済ます選択はできなかった。
ケイトはヒースから手紙を受け取ると仔細に読み始めた。
「……なんなの、これ? 月って……あの月? どういう事なの? 月に住む? 訳が分からないわ」
ケイトの表情が混乱と悲哀によって歪んでゆく。
「祖国に帰れるんじゃないの? 何故帰ってはいけないの? 私も家族と住んでいた所なのよ! 私の生まれ故郷なのよっ!」
「落ち着いてくれケイトさん!」
今度はグリムバルドがなだめる。
「あなた達……帰れるって、言ったじゃない……」
ケイトがボロボロと涙を零す。
「すまない……何て言えばいいのか分からないけど、傍にいるよ」
グリムバルドはケイトを優しく抱きしめた。
「あの世界に帰る場所がないのは、ボクも同じ。だけどボクはこの世界に居場所を見つけた。共に生きたいと願う大切な人たちもねぇ。貴女はどうだ? この場所と妖精たちは、貴女の居場所になりえるんじゃないかなぁ?」
そんなケイトにヒースが声を掛ける。
「私にとってこの場所も妖精さん達も大事な所よ。40年も暮らしてきたのだもの……」
ケイトが涙に濡れた顔を上げてヒースを見る。
「だからといって家族と会いたいという気持ちはなくならないわ。遠い故郷にいる愛する人達と会いたいと思うのは自然な事ではなくて? それがよく分からない理不尽な理由で阻まれているのよ……」
ケイトの瞳に再び悲しみの涙があふれる。
「月は遠い……地球も……。でも少し前まで……二つの世界は……もっと遠かった……」
シェリルがケイトに語って聞かせるように声を紡ぐ。
「まだ時間はかかるかもしれないけど……きっと、普通に行き来できるはず……」
「聞いて下さいケイトさん」
保も語りかける。
「最近になって転移者の受け入れ準備が始められているのは本当です。準備が整った段階で手紙のやり取りや短時間の帰還は承認されてゆくでしょう。更にクリムゾンウェストの大精霊の許可が下りれば完全な帰還も叶うはずです」
「それは、何時なの?」
「それは……」
保は言葉に詰まった。
だがケイトの年齢だと、何時になるか分からない、というのはそれだけで重いからだ。
代わりにシェリルがケイトの手を取った。
「私は……家族をLH044で……歪虚に殺されている。だから貴方会える家族がいるのなら……可能性があるのなら……いつか会わせてあげたい……」
その想いがケイトの手を取らせたのだ。
「40年もここで暮らした貴女は……強い……。その日が早く来るように……私も……頑張る、ね……」
ぎゅっと手を握る。
「……ありがとう、シェリルさん。そうね、40年も頑張ったんだものね。あと少し頑張るくらい、できるわよね」
ケイトは涙目ながらも笑みを浮かべ、シェリルの手を握り返した。
それからシェリルはケイトの住んでいた場所や家族の名前を聞いてメモした。
「また来る約束……ゆびきり、だよ」
「うん、約束」
そして指切りをすると、ケイトの首にマフラーを巻いてあげた。
「また会う時まで、元気で……」
「えぇ、あなた達も……」
4人はケイトからの願いを胸に、妖精の里を後にした。
「ケイトさんと会うのは久しぶりだな……」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)はケイトの居住環境を改善した者の1人で、彼女との再開を楽しみにしていた。
しかしケイトが故郷には帰れない知らせの書かれている手紙を託されて悩んでもいた。
この手紙を読めばケイトがショックを受けるだろうと容易に想像できる。
だから手紙を本当に渡してもよいのか迷っていた。
(手紙の事を聞かれたら渡すしかないが……。まぁ何とかなるさ……たぶんな)
そう自分に言い聞かせて足を進める。
(一体、何故なのか?)
保・はじめ(ka5800)は別の事で悩んでいた。
保もケイトの居住環境を改善した者の1人で、彼女からの依頼という事で今回も引き受けた。
だが依頼のためだけなら手土産などいらないのに『ブッシュ・ド・ノエル』をわざわざ持って来ている。
(我ながら、やけに感情移入していますね)
彼女の不遇な境遇を自分と重ね合わせしまったからなのか。
明確な理由は分からないが、ケイトのために何かしてあげたいと思うのだ。
「妖精と……暮らしてる……女の人……どんな人、かな?」
シェリル・マイヤーズ(ka0509)は自分の少し前を歩くヒース・R・ウォーカー(ka0145)に尋ねた。
「妖精を守護してて、森の精霊の加護を受けてるって話だし、悪い人間ではないだろうねぇ」
ヒースはシェリルが歩きやすいように草を掻き分けながら答える。
「……うん。仲良くなれたらいいね……」
シェリルが自分の連れている桜型妖精「アリス」のモイラに話しかけると、モイラも頷いた。
やがて森が少し開け、布製のテントが見えてきた。
「おーい! ケイトさーん」
グリムバルドが声をかけると、竈の前にいたケイトが顔を上げ、驚きで目を見張る。
「あら! あらあらまあまあまぁ。グリムバルドさん、それに保さんも」
嬉しそうに顔をほころばせたケイトの髪は以前のように伸ばしっぱなしではなく、綺麗に切り揃えられていた。
服も草で作った粗末なものでなく、以前に渡したセーターを着てくれている。
「お久しぶりです」
「お元気なようで本当に良かった。また会えて嬉しいよ」
保とグルムバルドが再会の挨拶を交わす。
「私もまた会えて嬉しいわ。でも今日はどうしたの?」
「コレ、お届け物、だよ……」
シェリルが『シードル「エルフハイム」』をケイトに手渡した。
「それを届けに来てくれたのね、ありがとう。じゃあハチミツを渡さないといけないわね」
ケイトがテントの中に入るために腕をついて這おうとする。
「ボクが取るから座ってていいよぉ。これかい?」
ヒースがテントの中からハチミツの入った瓶を取って見せた。
「えぇ、それよ。あなた達と会うのは初めてね。こんな遠い所まで来てくれてありがとう。辺鄙な所だから人と会えるのがとても嬉しいの。私はケイト。よろしくね」
「ボクはヒース」
「シェリルって……言うよ……。こっちは私の友達の……モイラ……。よろしく……」
シェリルに紹介された桜型妖精のモイラもペコリとお辞儀する。
「うふふ、よろしくモイラ」
ケイトがモイラにも挨拶すると、近くにいた妖精たちが近寄ってきた。
そして互いに挨拶らしい事を行い始める。
妖精同士なら言葉が通じるのか、モイラはすぐに打ち解けたようだ。
「2人は兄妹なのかしら?」
「えっと……」
ケイトの問いにシェリルが言い淀む。
ヒースを兄のように慕っていて、本当に兄であったらいいと思っているが、ヒースは少し記憶障害があるため本当に血縁関係があるか分からないからだ。
「ま、妹みたいなものだよぉ」
ヒースはそう答えてシェリルの頭にポンと手を置いた。
「……うん。兄妹みたいな、もの……」
妹と紹介されて嬉しくなったシェリルは自分も同意する。
「うふふっ、仲が良さそうね。私にも妹がいるのよ。もう長いこと会っていないけれど……」
ケイトの表情が少し陰る。
「届け物はそれだけじゃないんだ」
グリムバルドは暗くなりそうな空気を払拭するように明るい声を上げる。
そして荷物からデュニクスワイン「ロッソフラウ」、ヒカヤ紅茶、ミネアの万能調味料、 美味スコーン、銅製マグカップを取り出した。
「え? そんなのは頼んでいないけれど……」
「これは俺からのお土産だ。マグカップは冷えてきたから必要かなって持ってきた」
「そんな! 前回あれだけの事をしていただいたのに、またこんなにも……」
「いいんだ。依頼にかこつけて俺は友人に会いに来たんだ!」
遠慮がちなケイトにグリムバルドが笑いかける。
「こんなおばあちゃんを友人と呼んでくれるのね。嬉しいわ、ありがとう」
ケイトは目尻に浮かんだ嬉し涙をそっと拭った。
「そうね。友人からのお土産じゃ受け取らないわけにはいかないわね」
「ボクからはこんな物を用意してきました」
続いて保がブッシュ・ド・ノエルを手渡す。
「まぁ、ケーキ!」
「聖輝節……クリスマスには少々早いですが」
「えっ! この世界でもクリスマスの風習があるの?」
「あるよぉ。こっちの風習と向こうの風習がブレンドして、単なるお祭りになってるけどねぇ」
「そうなの。文化が融合するほど馴染んでいるのね」
ヒースの説明にケイトが感心する。
「折角だしみんなで食べましょう」
ケイトが切り分け始めると、妖精達が寄ってくる。
だが彼らはケーキよりもワインに興味津々だ。
「このワイン、妖精さんにあげてもいいかしら?」
「もちろん。それにしても妖精が酒好きになるとは予想外だったな」
グリムバルドの承諾を得て、ワインは妖精達に振る舞われた。
「お酒はないけど、紅茶、なら……」
シェリルが荷物からハーブティー「リスペルン」を取り出す。
「あら、いい香りの茶葉ね。うん、とても好みな香りよ、嬉しいわ。これは私達でいただきましょうか」
お茶とケーキの準備ができ、皆でティータイムとなった。
「ところでケイトさん。また何か困っている事はないかい?」
「……」
歓談の最中、グリムバルドが尋ねるとケイトが難しい顔をする。
「どうしたんですか? 何かあるなら力になりますよ」
「実は……」
保が更に聞くと、岩塩絡みの事情を話してくれた。
「岩塩? 色々あるなこの森……分かった、採ってくるよ」
グリムバルドだけでなく、他の3人も腰を上げる。
「でも、私何もお礼が……」
「友人の頼みですからね」
「お茶を……ご馳走になった」
「そういう事だよぉ」
「……はい、ありがとう。妖精さん、案内してあげて」
4人は妖精の案内で森の更に奥の岩場までやって来た。
そこには岩塩でできた岩壁があったが、近くには4体のグリフォンのいる巣もあった。
「グリフォンか……。歪虚じゃなく普通の森の生き物なら傷つけるわけにはいかないな。俺が囮役になって引きつけよう」
「1人で4体は辛いでしょう。僕も囮になります」
「じゃあボクらがこっそり近づいて採取するよぉ」
「うん……任せて……」
キースとシェリルは『隠の徒』を発動し、グリムバルトと保は巣に近づいてゆく。
するとグリフォンがジロリと2人を見た。
「俺達べつに巣を荒らしにきたんじゃないんだ。ちょっとそこの岩塩が欲しいだけなんだよ。採らせてくれないか?」
グリムバルドは話しかけながら接近したが、グリフォンは翼を大きく広げて立ち上がり、鋭い鳴き声を上げた。
「威嚇されてますね」
2人が更に接近すると4体のグリフォンは翼を羽ばたかせて強襲してきた。
「説得は無理だったか……」
グリムバルドは鉤爪が当たる寸前に飛び退って避けた。
保は素早く符を抜くと『瑞鳥符』を発動。
鳥に姿に変えた符がグリフォンにぶつかって突進する勢いを止める。
『!』
『?』
グリフォンは今の現象に驚いたのか、少し距離をとって滞空した。
「そうして驚いたままじっとしてて下さい」
保はグリフォンを見据えたままジリジリと後ろに退がる。
しかし保の願い虚しく、グリフォンは再び襲い掛かってきた。
「くっ!」
保は襲われる度に『瑞鳥符』で防ぎ、時間を稼ぎ続けた。
そうして2人がグリフォンを引きつけている間にキースとシェリルが岩場に接近する。
全力で走ると『隠の徒』が解けるので慎重に進まないといけないのがもどかしいが、岩塩の岩壁まで辿り着く。
「早く……回収しないと……」
シェリルは試作振動刀「オートMURAMASA」と『連撃』で岩壁から岩塩の塊を切り出した。
すると岩壁がガラガラと音を立てて崩れる。
その音に気づいてグリフォンが振り向いた。
シェリルの『隠の徒』は『連撃』を使ったため解けていて丸見えだ。
グリフォンの1体がこちらに向かってくる。
「シェリルは回収を続けろ!」
ヒースは『隠の徒』を解いてグリフォンの前に飛び出した。
グリフォンは不意に現れたかのようなヒースに驚き、鉤爪を振るう。
ヒースはヒラリと避け、そのまま気を引きながら避け続ける。
その間にシェリルはバックパックに岩塩を詰め込み、切り取った岩塩の塊を抱えて走り出した。
「もういいよヒース!」
シェリルの合図でヒースは『ナイトカーテン』を発動して姿を消す。
『!?』
ヒースを見失ったグリフォンが首を巡らせるが見つけられない。
その隙にヒースは森まで退避したのだった。
「騒がせて悪かったな。大人しく帰るから見逃してくれ」
防戦一方で耐えていたグリムバルドは一言謝ってから森に逃げ込んだ。
『瑞鳥符』で防ぎながら森の近くまで退がっていた保も身を翻して一気に森に駆け込む。
「やれやれ、どうにかお互い無傷で済みましたね」
4人がいなくなるとグリフォンは何事もなかったかのように巣へ戻っていった。
「みんなおかえりなさい! 大丈夫? 怪我してない?」
テントに戻るとケイトが心配顔で迎えてくれた。
「平気……。岩塩、採ってきた……。これで……足りる?」
シェリルが持ってきた岩塩の塊を渡し、リュック一杯の岩塩も見せる。
「まぁ! こんなに採ってきてくれたの? 十分よ、ありがとう!」
ケイトが精一杯伸びをしてシェリルの頭を撫でた。
「ところで誰か手紙を預かってないかしら?」
(っ!)
不意に尋ねられ、グリムバルドの顔が強張る。
「前にあなた達から、限定的だけど向こうに戻る手段もできたから帰れるって教えてもらったでしょ。だから手紙で本当に戻れるか尋ねたの」
「……」
保も表情を硬くした。
ケイトはもう高齢なため、心身の動揺による悪影響は大きくなりやすく、立て直しにくい。
故に、動揺を与えると分かっている事柄を伝えるのは避けるべきだと思っていたからだ。
「返事はここに」
しかしヒースは手紙を取り出して見せた。
優しかろうか残酷だろうが、真実は真実であり嘘は嘘。
相手に真実を知る覚悟があるのなら、選ぶべきはケイト自身だと思ったからである。
「だけど先に提示しておく。ここに記されている事が貴女の望み通りの事ではない可能性もある。最も残酷な答えが記されている可能性もある。それでも知りたいのなら、これを渡そう」
「……そんな事を言われたら悪い事が書かれているって言われたようなものじゃない」
ケイトの表情が不安で曇る。
「何が書かれているんです? まさか祖国が歪虚に滅ぼされたりしたんですか? 祖国は? 家族は無事なんですかっ!?」
それがケイトの想像した最も残酷な答えだった。
「いえ、そういった事は書かれていません。ケイトさんの故郷は無事です」
声を荒げたケイトを落ち着かせるため、保が少しだけ内容を明かす。
「……手紙を渡して下さい」
だが、愛する者の死を想像してしまったケイトは真実を知らないで済ます選択はできなかった。
ケイトはヒースから手紙を受け取ると仔細に読み始めた。
「……なんなの、これ? 月って……あの月? どういう事なの? 月に住む? 訳が分からないわ」
ケイトの表情が混乱と悲哀によって歪んでゆく。
「祖国に帰れるんじゃないの? 何故帰ってはいけないの? 私も家族と住んでいた所なのよ! 私の生まれ故郷なのよっ!」
「落ち着いてくれケイトさん!」
今度はグリムバルドがなだめる。
「あなた達……帰れるって、言ったじゃない……」
ケイトがボロボロと涙を零す。
「すまない……何て言えばいいのか分からないけど、傍にいるよ」
グリムバルドはケイトを優しく抱きしめた。
「あの世界に帰る場所がないのは、ボクも同じ。だけどボクはこの世界に居場所を見つけた。共に生きたいと願う大切な人たちもねぇ。貴女はどうだ? この場所と妖精たちは、貴女の居場所になりえるんじゃないかなぁ?」
そんなケイトにヒースが声を掛ける。
「私にとってこの場所も妖精さん達も大事な所よ。40年も暮らしてきたのだもの……」
ケイトが涙に濡れた顔を上げてヒースを見る。
「だからといって家族と会いたいという気持ちはなくならないわ。遠い故郷にいる愛する人達と会いたいと思うのは自然な事ではなくて? それがよく分からない理不尽な理由で阻まれているのよ……」
ケイトの瞳に再び悲しみの涙があふれる。
「月は遠い……地球も……。でも少し前まで……二つの世界は……もっと遠かった……」
シェリルがケイトに語って聞かせるように声を紡ぐ。
「まだ時間はかかるかもしれないけど……きっと、普通に行き来できるはず……」
「聞いて下さいケイトさん」
保も語りかける。
「最近になって転移者の受け入れ準備が始められているのは本当です。準備が整った段階で手紙のやり取りや短時間の帰還は承認されてゆくでしょう。更にクリムゾンウェストの大精霊の許可が下りれば完全な帰還も叶うはずです」
「それは、何時なの?」
「それは……」
保は言葉に詰まった。
だがケイトの年齢だと、何時になるか分からない、というのはそれだけで重いからだ。
代わりにシェリルがケイトの手を取った。
「私は……家族をLH044で……歪虚に殺されている。だから貴方会える家族がいるのなら……可能性があるのなら……いつか会わせてあげたい……」
その想いがケイトの手を取らせたのだ。
「40年もここで暮らした貴女は……強い……。その日が早く来るように……私も……頑張る、ね……」
ぎゅっと手を握る。
「……ありがとう、シェリルさん。そうね、40年も頑張ったんだものね。あと少し頑張るくらい、できるわよね」
ケイトは涙目ながらも笑みを浮かべ、シェリルの手を握り返した。
それからシェリルはケイトの住んでいた場所や家族の名前を聞いてメモした。
「また来る約束……ゆびきり、だよ」
「うん、約束」
そして指切りをすると、ケイトの首にマフラーを巻いてあげた。
「また会う時まで、元気で……」
「えぇ、あなた達も……」
4人はケイトからの願いを胸に、妖精の里を後にした。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/10 23:22:33 |
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相談卓 保・はじめ(ka5800) 鬼|23才|男性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/12/11 20:37:17 |