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【CF】龍園 de クリスマス~準備編~

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/12/12 09:00
完成日
2017/12/28 16:52

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「……は? クリスマス?」
「そう、サヴィ君はクリスマスって知ってる?」
 龍園のハンターオフィス。
 ここ最近は強欲竜の残党もあまり見かけなくなり、出撃回数が減ったお陰で時間を持て余しているシャンカラ(kz0226)がオフィスのカウンターに上半身を預けるように突っ伏して(つまりとてもだらけた格好で)、顔だけサヴィトゥール(kz0228)に向けて問う。
「……確か、リアルブルーの行事だったように思うが……」
「スゴイ! やっぱり知ってるんだ、サヴィ君!!」
 ガバッと身を起こして拍手をする。
 ……実は名前ぐらいしか知らない、などとは言えない状況になり、サヴィトゥールはやや眉を顰めた。
「ね、僕達でやろうよ、龍園初のクリスマス!」
「……は?」
「僕がもみの木取りに行ってくるから、サヴィ君は飾りの準備とかお願いね!」
「あ、いや、待て」
「大丈夫、大丈夫! ちゃんと訓練も兼ねて龍騎士達も連れて行くし、ハンターさんのご助力ももらっちゃうつもりだから!!」
 現在龍園は、龍鉱石によってお金を得ている。
 しかしながら、龍園に住まう人々は今まで通りの質素で、必要な物があれば物々交換で済ませてしまうため、お金を使うという文化がほぼ途絶えている。
 そのため、ハンターオフィスを通じ、新しい龍園以外の文化や便利道具などを購入し、取り入れる事で金銭を使い、また生活に潤いを持たせようという動きが出ていた。
 その主な使い道の一つが、ハンターとの交流だった。
 彼らは新しい風。こちらの文化を理解しようと努め、彼らの文化を少しずつ取り入れて貰おうと歩み寄ってくれる。
 多少のいざこざはあったものの、ハンターオフィスが出来てからおおよそ半年。龍園とハンターとの交流は上手く行っているといっていいだろう。
「じゃー、ちょっと行ってくるねー!!」
 思い立ったが吉日と言わんばかりに、慌ただしくオフィスを出て行ってしまったシャンカラに、結局何も告げることが出来ないまま、呼び止めようとあげられた右腕だけが虚しく宙を掻いた。



「……というわけで、シャンカラ達龍騎士達が今、もみの木を取りに行っている。その間に我々は飾り作りや、保存の利くクリスマス用のパン? とかお菓子を準備出来たらと思っている」
 ハンター達へと説明を始めたサヴィトゥールは、ハンターを呼ぶ前までに調べた『クリスマス』に関する知識を総動員させながら解説を始める。
「基本的に龍園には道具が無い。紙は貴重だし、見ての通り外は雪と氷で覆われていて何もない。申し訳無いが、何か作るならその材料から持って来てもらおう必要がある」
 普通の家庭にならあるだろうという物が無かったりするのが龍園だ。
 逆に西方でもまだほとんど取り入れられていない床暖房などの防寒対策には秀でている。流石は極寒の地である。
「シャンカラは取ってきたもみの木は広場の中央に立てるつもりだと言っていた。誰でも見て、楽しめるようにと」
 だがしかし、どのくらいの大きさの物を取ってくるのかまでは聞いていない。本人達も現地で相談して決めるつもりなのだろう。
「今回、助っ人として龍園の民にも協力して貰おうと思う。彼女達にも飾りやお菓子の作り方を教えていただけるとありがたい」
 サヴィトゥールが声をかけると、入口から5人の見た目20代ほどの男女が現れた。
「本日はよろしくお願いします」
 代表の女性が挨拶をすると、残り4人もそれぞれに頭を下げた。
「部屋はこの【土産屋】と【飲食店】を自由に使ってくれて構わない」
 飲食店、という事だが、あまり外食を嗜まない龍園の人々の気質も手伝って、現在はほぼハンター達が自由に使える食堂のような形になっている。
 広く長いテーブルにいくつもの椅子が置いてある様は、リアルブルーで言う一昔前の学食や社食といった雰囲気に近い。
 外は寒いが、室内は本当に暖かい。オフィスとここが隣り合わせで良かったと誰もがホッと安堵の息を吐いた。
「今回は自分も一日中付き合うつもりだ。宜しく頼む」
 殊勝にも頭を下げるサヴィトゥールを見て、ハンター達も「こちらこそ」と笑顔を返した。



-※-※-※-

■解説
【登場人物】
・ディピカ
 見た目20歳ぐらいの女性の龍人。左手の甲に鱗が見える。
 代表で挨拶をしたりとハキハキとした委員長タイプ。
 料理に興味があるようだ。

・ネハ
 見た目20歳ぐらいの女性のエルフ。
 やや引っ込み思案で大人しい印象を受ける。
 手先が器用なので、飾りを作るのに参加したい様子。

・タラ
 見た目15歳ぐらいの女性の龍人。
 将来の夢は龍騎士になることと言うだけあってとても元気。
 何をやらせても割と全てが豪快な結果になる、残念属性の持ち主。

・アミール
 見た目15~18歳ぐらいの男性の龍人。パッと見たところに鱗は見えない。
 やや落ち着きに欠け、移り気な性格のようだ。
 何にでも興味を持つが、飽き性。

・カマル
 見た目10代後半ぐらいの人間の男性。
 やや卑屈気味で、ネガティブ思考の持ち主。
 アミールに無理矢理つれて来られたらしく、どれも積極的にやる気ではないようだ。

・サヴィトゥール
 仏頂面の男性の龍人。
 酷く目つきは悪いし口も悪いがこれでもオフィスの代表。
 手先は器用でも不器用でも無いが、一つのことをコツコツとやり続けることは得意。
 だがしかし、料理などしたことはない(食えれば良かろう精神)。

-※-※-※-

リプレイ本文


「今回は自分も一日中付き合うつもりだ。宜しく頼む」
「わたしにできることなら何でも!」
 頭を下げたサヴィトゥール(kz0228)に、羊谷 めい(ka0669)がにっこりと笑顔で告げ、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)がその笑顔に目元を和らげた。
「我等のソレと同じ様に、龍園の者達にとって楽しかったと言える催しになれば良いのう」
「クリスマス……聖輝節についてはまだ知らへん事もあるから、今回のお手伝いを通して、僕もお勉強出来たらええなぁ」
「母が転移者だったので、リアルブルー式の聖輝節……クリスマスは、私が子供の頃に我が家でも行っていましたので、多少はお手伝い出来るかと思います。今日はよろしくお願いします」
 頭を下げたレナード=クーク(ka6613)は、リステル=胤・エウゼン(ka3785)の言葉に顔を上げて瞳を輝かせた。
「ホンマに!? 凄いなぁ、よろしゅうたのんますわ」
「私は愛梨。よろしくね!」
 気さくな愛梨(ka5827)の挨拶に、各々思い出したように自己紹介を始める。
「龍園の初クリスマスか……俺はカイン。ハイブリッド・ウルフのカトライアともっちゃりかっぱのプア。それからユグディラのブルーメだ。よろしく……ってお前ら何で鼻息荒いんだよ……」
 最後にカイン・シュミート(ka6967)が挨拶をするが、何故かペットと幻獣が火花を散らしている。
「ふふ……楽しいお祭りって事を教えられる様に、頑張るで!」
 レナードが握りこぶしを作って見せると、一同は笑顔で頷き合った。



 リステルと蜜鈴、それからカインがおかしとパン作りに向かう。
 料理に興味があるディピカが率先して3人へ付いて行く。
「ほれ、アミールとカマルもどうじゃ?」
 男手はあった方がよいのだと蜜鈴が誘うと、2人は顔を見合わせた後キッチンへと連れ添って向かう。
「私と蜜鈴さんでジンジャークッキーとシュトレンを」
「俺はトゥロンとエッグノックだ」
 名前を言われても龍園の3人には想像がつかないらしく、キョトンとしている。
「生姜を使った焼き菓子と、洋酒に漬け込んだ果実や木の実を混ぜ込んで焼くパン……とのことじゃ。妾も初めて作るゆえ、手柔らかに頼むのう」
「トゥロンはナッツを使ったお菓子だ。クリスマス前に沢山作って少しずつ食う。エッグノックは飲み物だな。今日の試食するときに飲めるように準備するつもりだ」
 「へぇ~」という声が3人から上がる。
「どうだ? やってみるか? お前達は俺の助手なんだからフォロー頼むぜ?」
 カインの誘いにディピアがキラキラと瞳を輝かせて「はい」とカインの傍へと寄っていく。
 同時に“助手”と呼ばれたカトライアとプアとブルーメの瞳がギラリと火花を散らした。
「……なんかやる気に満ちてんな……」
 全く乙女心(?)が理解出来ていないカインと、始めて見る幻獣やペットを前に浮き足立っているディピアの凸凹コンビによるお料理コーナーがスタートした。
 一方でリステルと蜜鈴はアミールとカマルを前に説明を始めていた。
「シュトレンは蒼世界のとある国でクリスマス当日を待つ期間に食されるお菓子です。
 強力粉で作った生地をこね、フルーツやナッツを揉み込む様に生地に混ぜ、生地を伸ばし二つ折りに成形、発酵後オーブンで焼き、バターを塗ります」
「ジンジャークッキーは人形の形に焼いて、ジンジャーマンクッキーにしようかのう」
 「へー」「ふーん」という二人の反応を見ながら、まずは発酵時間が必要なシュトレンの作成から入ることにした。
「では、まずはアーモンドを砕いて粉状にします」
 リステルが有無を言わさずアミールに小型の手動ミルを手渡し、役割を与える。
「ではおんしは妾と一緒に中種作りじゃ、よぅく混ぜるのじゃぞ?」
 ボウルに粉を入れ、人肌程度に温めた牛乳と合わせると、ボウルごとカマルへと手渡した。
 二人は始めて会うハンターと始めて体験するパン作りに必死な形相で取りかかった。
 そんな二人の横では、ユキウサギの郁雨とユグディラの瑠優が次に必要な物をテーブルの上に並べるためにちょこまかと動き回っていた。



「じゃあ、わたしたちも始めましょうか」
 めいの言葉に「はい!」と元気の良い声が返る。
「良い返事だね! これはリアルブルーから来た友達から聞いたんだけど、折り紙って言うらしいわ。星だけじゃなくて、虫や動物の形にも出来るらしいの……私が出来るのは組み合わせて星型に折るくらいだけど、一緒にやってみる?」
 愛梨がタラに声を掛けると、「お願いします!」と愛梨の横にちょこんと座った。
「僕はまーるい飾りを作ろうと思うてん。絵の具と筆を使うんやよ」
 絵の具と筆、という言葉にネハが興味深そうにレナードを見た。
「ほな、やってみる?」
 レナードが誘うとネハは少し躊躇した後、真剣な眼差しでこくりと頷いた。
「……怪我をしているのか?」
「あ……やっぱりわかっちゃいますか?」
 湿布の臭い消しにと香水を軽く纏ってみたのだが、残念ながらサヴィトゥールには隠せなかったらしい。
「ちょっと怪我しちゃったのですが、お話しとかなら問題ないですし、飾り付け作りも重い物とかでなければ大丈夫! ……のはずです」
 「ショコラも手伝ってくれますし」と、ユグディラのショコラを撫でて、ぐっと、両手を握って元気ぶりをアピールするめいに、サヴィトゥールは眉間のしわを深くする。
「……途中で体調が悪くなったり痛みが強くなるようなことがあったら隠さず言え。出来る限りフォローはする」
 仏頂面のままそう告げられて、めいは大きな瞳を二度瞬かせてから「ありがとうございます」と微笑んだ。

「クリスマスは友だちや仲間、家族と一緒に過ごす日で、美味しいものを囲んだり、贈り物をしあったり、いろいろなことをして楽しむ日です。地域によって違ったりしますけど、わたしの故郷ではそんな感じなのです」
 めいの本場でのクリスマスの説明に、一同は「へー」と声を上げる。
「何でもサンタさん……?っていう人は、良い子の所へプレゼントを届けてくれるんやって。もしほんまの話なら、きっと龍園の人達の所にも来てくれる筈……やんね!」
「ホント!?」
 愛梨と共に折り紙に四苦八苦していたタラがレナードの話しに食いついたのを見て、めいは思わず頬を緩ませる。
「サンタさんは、クリスマスの精霊とかそういった説もありますね。プレゼントを入れるための靴下を置いておくと、夜の間にそこへ入れてくれるのです」
「精霊様なら、青龍様みたいにきっと立派な方なんでしょうね」
 夢見るようにうっとりとネハが空を見つめている。
 なお、今、彼女の中では“サンタさん”は神々しい龍の形を取っている。
「クリスマスにはツリーに飾りを付けるの。頂点に周囲すべてを照らすかの様な大きな星。それに夜空を彩る星を意識した様な赤、白、緑、金や銀といった色とりどりの飾りや人形……どこにいてもこれが見えて見る人の気持ちを温めてくれる様にね」
 由来を詳しく知ってる訳じゃないから、所見の印象を交えたモノだけど、と愛梨が語りながら青い足のある鶴を完成させた。
「わぁ、飛龍だ! ねぇ、サヴィ様! 見て見て!!」
 タラが愛梨の折った青い鶴を大事そうに抱えてサヴィトゥールの元へと走る。
「あぁ、本当だな」
「凄いよね! 格好いいよね! 愛梨さん、これいっぱい作りたい!!」
 それは鶴です、とは言えない雰囲気に愛梨は小さく笑って「じゃあ青いのはそれにしよっか」と折り紙を取り出す。
 ネハとレナードは掌に収まる程のウッドビーズに黙々と絵を入れて行く。
「できた……」
 ネハが塗ったのは下が青で上が赤。水と太陽らしい。
 レナードの掌には水色と白を使った雪花の絵。
「うん、えぇね。街で見た飾りは、凄くきらきらした物もあったんやけど……いろんな人の"色"を見られるから、僕はこっちが好きやなぁ……って」
 ネハの色づけを褒めるとネハはくすぐったそうに微笑んだ後、次の飾りへと手を伸ばしていく。



 シュトレン作りは中種を千切り入れ、生地が均一になるまで捏ねた後、再び寝かせる時間に入った。
 その間に、今度は寝かせていたジンジャークッキーの生地をめん棒を使って薄くのばしていく。
 飽き性のアミールも消極的なカマルも案外色々とやることが多いお菓子作りを楽しめているようで、蜜鈴は微笑みながら彼らを見守っていた。
 同じくトゥロン作りをしていたカインとディピカも生地を固める時間に入ったので、クッキー作りに参戦することになった。
 リステルが一つ一つ型抜きで取り出し、各自顔を書き込む作業に入る。
「うわぁ、失敗した……」
「ヤバイ、首切れた」
「何でだよ!?」
 細い竹串で目と口を書くだけなのに失敗していく男2人を見て、思わずカインが嘆く。
「力を入れすぎじゃよ」
 蜜鈴が手本を見せてやると、次からは2人とも首が切れたりはしなくなったが、まだ目の位置のバランスが悪いし、手が震えるのか口元が曲がっている。
「……中々表情豊かじゃのう」
 それを見てコロコロと蜜鈴が笑い、瑠優も楽しそうにステップを踏む。
 ブルーメがカインのワークスーツの腰辺りをツンツンと引いた。
「お? 片付け終わったのか? ありがとな」
 カインがブルーメの頭を撫でると、カトライアとプアもわっと寄ってきてキラキラとその瞳をカインに向ける。
「ん? あぁ、お前達もフォローサンキューな」
 ガシガシと撫で付けてやると、心無しかカトライアとプアが“ドヤァ”とブルーメに誇っているように見えて、ディピカは小さく笑った。
「ん? 何だ? どうした? ……あ、時間だ、取りに行くぞ」
 時計で時間を気にしていたカインがディピカを誘って外で冷やし固めていたトゥロンを取りに行く。
「あとは切れば完成だ」
「おや、そちらはもう完成かのう。こちらはさて、あとはフルーツ類とナッツを入れて練り込むだけじゃが……2つ用意しようと思うてな?」
 そう言って蜜鈴が取り出したのは1つはただのドライフルーツ、もう一つは洋酒に漬け込んだ果実だった。
「さぁ、生地は殿御2人がしっかり練ってくれたお陰でいい感じじゃ。これらを混ぜ合わせたらもう一度寝かせて、焼いたら完成じゃ」
 徐々に完成形が見えてきたことが嬉しいらしい2人が腕まくりをしてフルーツ類やナッツを練り込み始める。
「リステル、お願いがあるのじゃが」
「どうしました?」
「妾は少々席を外させて貰おうと思うてのう。暫く2人を頼めるかのう?」
「いいですよ」
 快く蜜鈴の願いを引き受けたリステルは、混ぜて形を整えていく2人を優しく見守っている。
 その間に蜜鈴は“とびきり美味なもの”を食わせてやろうと準備を始めたのだった。



 クッキーが焼けたところで丁度お昼をまわったので、昼食と休憩を挟む事にした。
 昼食は神官達が作ってくれた鯨肉のクリームスープだ。
 ゴロゴロとした肉がたっぷり入った素朴さと野性味溢れる一品を皆で分かち合う。
 そしてデザートとして出てきたのが、皆で作ったジンジャークッキーとシュミート家の定番であるトゥロンとエッグノック、そして蜜鈴のアイスクリームだ。
「外は天然の冷凍庫だが、暖かい室内で食す冷たいアイスクリームは格別に美味であるゆえな」
「クッキー美味しい!」
「アイスつけて食べるともっと美味いぜ」
「トゥロンも美味しい……硬いけど、噛む毎に甘みとナッツの味が口一杯に広がるの」
 デザートに大騒ぎする辺りはまだまだ子どもらしい。
「お前達、静かにしないか……まったく。煩くて済まない」
 サヴィトゥールが頭を下げるが、それもそのはずだ。
 1番年長に見えるディピカとアミールがまだ12歳。
 タラに至っては8歳だという。
「美味しいものをみんなで食べるともっと美味しいくなりますよね」
 まるで泣き顔のような顔になっているジンジャーマンクッキーを手にめいが笑うと、一同もまたその意見に賛同した。
「……龍人か……我等と変わらぬ見目じゃが、幼子達と変わらぬよな……」
 (急ぎ大人と成る事を臨んだ者達……この一時だけでも、年相応に無邪気に楽しんでほしいのじゃ)
 頭からさくりと歯を立てる。生姜の風味と蜂蜜の甘みがふわりと口の中に広がった。
「エッグノックは体が温まりますね……」
「だろ? エッグノックは風邪対策にもいいから覚えて損はないぜ」
 ディピカがニコニコと頷くのでカインも笑顔を返すと、2人の間にブルーメがちょこんと座った。
「ん? どうした?」
 するとカインの隣りにカトライアが、正面からはプアがぴったりとくっついた。
「どうしたんだよ、今、食事中!」
「凄い、カインさん磁石みたい」
 3人(匹)の女子(雌)に囲まれて、困惑するカインを見てディピカが声を上げて笑った。

「それで、クリスマスや聖輝節について、皆さんの理解は深まりましたでしょうか?」
 皆のお腹が落ち着いた頃、そうリステルが確認すると、龍園の6人は顔を見合わせて頷いた。
「サンタさんがプレゼントくれるの」
「木に飾りを付ける」
「みんなでご飯を食べる」
 各々とても漠然としか理解出来ていないことに、リステルは小さく笑った。
「では私が母から教わったクリスマスの由来をお話しましょう」
 リアルブルーのとある宗教の開祖の生誕祭である事。
 それに伴い家族が共に過ごす日である事などをリステルはわかりやすく伝えた。
「……この聖ニコラスが、のちのサンタクロースとなった……と言われています」
「サンタさんって覚醒者だったのか!」
 タラの言葉に「うーん、ちょっと違いますかねぇ」と困り顔になるリステル。
 だがしかし、覚醒者研究の成果として輝紅士(サプライヤー)何ていうのがリアルブルーで開発されてしまったので、完全否定するのも難しい。
「……龍じゃないの……」
 何故かガッカリしているネハに気付いたディピカは訳が分からないまま手を握って励ましている。
「そういえば飾りはどのくらい出来たんですか?」
 リステルが問えば、「じゃーん」と言いながらタラが龍のヒゲで編まれたかごを斜めにして見せた。
 結構な量が完成したようで、リステルは満足そうに頷いて、サヴィトゥールに問いかけた。
「実は飾りにも意味があります。中に綿を詰めた布製の色とりどりのオーナメントボールは知恵と豊かさの象徴、『林檎』を。色にも意味があって、赤は深い愛、緑は永遠、白は純潔、金は高貴などですね」
 そう言ってリステルは郁雨が持って来てくれたハリガネと金のリボンを使って、クルクルと器用に星を作って見せた。
「トップスターはイエスの生誕を導き知らせた「ベツレヘムの星」を表します」
「へー、知らなかったわ」
 愛梨が完成したばかりの金の星を受け取ってそっとかごへと移した。
「そういえば、モミの木はどの位の大きさが来るんですかね? 例えば180cmなら140個、意外と黄金律があるんです」
「……龍騎士隊を連れていったからな……恐らく5m以上10m以内のものが来ると思うが」
「なるほど」
 5から10か……とリステルが何気なく呟いて、その大きさに気付いた。
「大きくないですか?」
「広場に飾ると言っていたからな。恐らくそれでも小さいのではないか?」
 普段ならこの時期になると木材として数本、龍騎士隊が木こりをしに行くらしい。
 今年必要分はもう切ってきたが、シャンカラ(kz0226)の提案により追加でもう1本取りに行ったのだ。
「最も龍騎士隊は敵が出なければ、力を振るう場所もなく路頭に迷うようなバカばかりだ。だからだろうな、今回追加伐採するとなったら新人達の訓練も兼ねるとかなんとか言っていたな」
「……飾り、コレだけじゃたりませんね……」
 めいの指摘に愛梨も頷いて天井を仰ぐ。
「急ピッチで頑張らないとー」
「こっちはもう大体終わりましたら、後は皆で作りましょうか」
 リステルが提案すると、サヴィトゥールが頷いた。
「そうしてくれると助かる」
「それでは、シュトレンが焼けるまでもうひと踏ん張りしようかのう」
 蜜鈴の声に「だな」とカインが笑った。
 そしてごちそうさまを終えたハンター6人と龍園の人々6人は、幻獣達と一緒に飾り付けの飾り作りに入ったのだった。



 シュトレンから暖かく優しい、そして何とも食欲をそそる甘い香りが湯気と共に立ち上った。
「本来は一週間後ぐらいからが食べ頃なんじゃが……今日は特別に、のう」
 たっぷりとバターを染み込ませたシュトレンを薄く切り、皆に振る舞う。
「ふわぁ……美味しい……」
「何コレ、こんなの食べたことない」
「え、一週間したらもっと美味くなるの? これ?!」
「持たなく無い? 絶対明日で食べきるよ」
 口々に騒ぐ龍園メンバーに、サヴィトゥールの眉間のしわがぐぐっと深くなるのを見つけためいが「まあまあ」と宥める。
「毎日少しずつ食べると、味が変わっていくのが判って、もっと美味しくて楽しいですよ」
 リステルが秘密を打ち明けるようにアミールに告げると、彼は「マジで!?」と目をまんまるく見開いて残りの欠片を口に含んで味わい始める。
「じゃから、残りは一週間置いておいて、そこからゆっくり食べるのじゃぞ?」
 蜜鈴の言葉に5人の龍園メンバーは「はい」と口を揃えて、美味しくなってから食べることを約束したのだった。

 それから暫くして。
「帰ってきたようだな」
 外の騒がしさに松ぼっくりに色づけをしていたサヴィトゥールが顔を上げると、「少し様子を見てくる」と外へと出て行った。
 気になりつつも“お預け”を言い渡された形になったハンター達は顔を見合わせ、不要品などを片付けながらサヴィトゥールの帰りを待った。
 暫くして、玄関の扉が開くと、そこには頭を抱えたサヴィトゥールの姿。
「……まぁ、来てもらえばわかると思う」
 そう言われては見に行かない訳にもいかない。
 6人は幻獣達に留守番を頼みつつ、外へと出た。
 一気に骨にまで染み入るような寒さに襲われ、うっかり薄着のまま出てきてしまったレナードは大きく全身を震わせた。
「あかん……寒い……っ!!」
「油断しておったの……ん?!」
 先に出たレナードを追って蜜鈴も両腕をさすりながら前を見て……絶句した。
「……おっきい……」
 愛梨の呟きが粉雪と共に宙に消える。

 そこには全高10m、恐ろしく大きくて立派な枝葉を広げたもみの木が生えていた。

 ――正しくは、氷の地面に大きな穴を開けて、そこに木を立てたのだ。

「こ、これに飾り付けするんですか……!?」
 めいも思わずサヴィトゥールを見て、あまりの大きさに声が出無いリステルを見た。
「……これは、残業確定かな……?」
 カインが頭をガシガシと掻いて両肩を竦めて見せた。

 手の届くところから飾り付けを始めた。
 どうにも届かないところは飛龍達の翼を借りて後で龍園の人達が飾り付けをしてくれることになったので、下だけゴージャス、なんて事にならないよう配慮しつつ飾り付けを進める。
「……これを?」
「そう。ラッキースターって言うんやよ。このお星様には、幸せを運ぶ力があるって言われとるんよー」
「……そうか」
 レナードからラッキースターを飾って欲しいと受け取ったサヴィトゥールは、暫し考え込んだ後、幹へと近付いていくとハシゴを使って頭2つ分ほど上へ上がり、両手を伸ばしてラッキースターを飾り付けた。
「幹の下に来て見上げれば星が見える……というのはどうだろうか。あとで龍鉱石も一緒に置けばもっと輝いて見えるだろう」
「あぁ、えぇと思うよ」
 陽の沈みかけた龍園で、一番星のように輝くラッキースターをレナードは眩しげに見つめた。

 こうして、龍園の手探り手作り初めてのクリスマスの準備は整った。
 あとは、本番だ。
 誰もが心を弾ませ、浮き足立ちながら当日を迎えたのだった――

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MVP一覧

  • Fantastic
    リステル=胤・エウゼンka3785
  • 夜空に奏でる銀星となりて
    レナード=クークka6613

重体一覧

参加者一覧

  • Sanctuary
    羊谷 めい(ka0669
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ショコラ
    ショコラ(ka0669unit004
    ユニット|幻獣
  • Fantastic
    リステル=胤・エウゼン(ka3785
    エルフ|21才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    アヤサメ
    郁雨(ka3785unit001
    ユニット|幻獣
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ルウ
    瑠優(ka4009unit002
    ユニット|幻獣
  • アヴィドの友達
    愛梨(ka5827
    人間(紅)|18才|女性|符術師
  • 夜空に奏でる銀星となりて
    レナード=クーク(ka6613
    エルフ|17才|男性|魔術師
  • 離苦を越え、連なりし環
    カイン・シュミート(ka6967
    ドラグーン|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ブルーメ
    ブルーメ(ka6967unit001
    ユニット|幻獣

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/12/11 08:40:48
アイコン 相談卓
羊谷 めい(ka0669
人間(リアルブルー)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/12/11 08:44:03