ゲスト
(ka0000)
【虚動】ワカメとオカマとポンコツロボット
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/28 19:00
- 完成日
- 2014/12/05 05:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
帝都バルトアンデルス内に聳え立つ塔、ワルプルギス錬魔院。
その日、錬魔院を訪れるヴィルヘルミナ・ウランゲルと第一師団兵達の姿があった。
錬魔院は国軍直下の研究機関。故に皇帝や師団兵が出入りする事もままあるのだが、今回は規模が違った。
複数の兵士と研究者がやりとりをしながら運び出しているのは大きなコンテナで、それらを次から次へと魔動トラックへ積み込んでいる。
「それで、実機への取り付けにはどの程度の手間がかかる?」
「私が現地に同行してちゃちゃっとやりますが、どちらにせよ早めに搬入した方が良いでしょうね。実機は同盟海軍が海輸するそうですから、先に現地入りして待つ形になるかと」
錬魔院の長であるナサニエルは皇帝の質問に白衣に手を突っ込んだまま答えた。
周囲には規制線が張られているが、何事かと見物に現れた都民の視線も多い。皇帝は腕を組み、ふむと息をつき。
「何事もなく輸送出来ると良いのだがな。なにせ肝心のこれがないと話にならん」
「陛下もご同行なさるのでしょう? 帝国最強の“騎士皇”が同行している時点で問題ないかと」
「その皇帝が間違って暗殺されたりしたらどうするのだ。私はほら、なんだ、色々恨みも買っているからな」
「それは身から出た錆じゃないんですかぁ? 陛下が他人から恨まれていようが私には関係ありませんよぉ」
肩を竦めけらけらと笑うナサニエル。次の瞬間民衆の間にどよめきが走った。
見れば錬魔院の側からこれまで隠れていたらしい一台のトラックが規制線をぶっちぎって迫りつつあった。トラックの背後には何やら大きな荷物を連結させており、積載重量的に不安定なのかトラックはふらふらしながら二人の側に停止した。
「陛下!」
駆け寄る兵士を片手で制する皇帝。闖入者はトラックから飛び降りるとナサニエルを睨み、積み荷へと走って行く。
しかし一人では積み荷を覆うカバーがはがせない。もたついていると皇帝が駆け寄り、一緒になって積み荷を露出させていく。
「す、すみません陛下」
「気にするな。困った時はお互い様だ」
サムズアップする皇帝をナサニエルは白い目で見ている。
ようやく剥がされた白いカバーの下から現れたのは手足の生えたトラックであった。他に表現のしようがない。
その異様なシルエットの機体はコックピット分にも装甲がなく、言わばオープンカーのような状態だ。そこにずっと押し込められていたらしい青年が息苦しそうに顔を出し、機械のエンジンを回す。
唸りを上げて起動したソレは立ち上がろうとするが、座った状態から自力で立ち上がれない。またトラックの運転手がロープで引いて立ち上がるのをアシストするが人手が足りず、結局皇帝が片腕でひっぱり起こした。
「度々すみません陛下」
「任せておけ」
もう大丈夫と見て何事もなかったかのように戻ってきた皇帝はナサニエルの隣に並ぶ。
ぶしゅーっと全身から白い蒸気を吐き出し、ソレは唸りをあげ大地に一歩を踏み出した。手足の生えたトラックの上部に乗り込んだ二人の青年は必死にいびつな機械を操り前に出る。
「……何か言ってるようですが、駆動音がうるさすぎてよく聞こえませんねぇ」
「拡声器ないのか、拡声器」
皇帝は部下から拡声器を借りて持っていく。ペコペコ頭を下げる青年に爽やかに笑みを返し、また何事もなかったかのようにナサニエルの隣に並んだ。
『……錬魔院院長、ナサニエル・カロッサ! 我々は錬魔院機動兵器開発室、魔動アーマー開発班の有志である!』
「はあ」
『先日貴様が行った我らへの侮辱、忘れたとは言わせんぞ! 我々は奪われたモノを取り戻しにやってきた!』
「知っているのか?」
「いいえぇ?」
『コラァ! すっとぼけんじゃねぇワカメ! 知っているのだぞ、その積み荷の中身! あのCAMとかいう異世界の兵器に搭載する為に貴様が我らから奪った機導エンジンが入っているのだろう!?』
ナサニエルは本当に思い出せないのかこめかみに手を当てている。だがその指摘は正しい。
CAMを動かす為に協力を行う事になった錬魔院において、ナサニエルが都合した大型の機導エンジン。それは元々魔導アーマー用に開発されていた物を改造したものだった。
「陛下、いいんですか?」
「ん?」
「この積み荷が機導エンジンだと言うのは秘密の筈です」
「で、あるな。まあ良いのではないか」
「良くないと思いますが……」
『我々は魔導アーマーの有用性を証明し、CAM等という得体の知れない異世界の技術ではなく、魔導アーマーこそ次期帝国軍主力兵器として相応しいと陛下に訴えかける為にここに参じた次第である!!』
『CAM起動実験、はんたーい!』
両腕を振ってアピールする魔導アーマー。どうしたものかと首を傾げる皇帝、そこへ錬魔院から一人の男が走ってくる。
ピンクのソフトモヒカンに青い紅をさした色黒の大男は二人の側に駆け寄ると、胸に手を当て一礼する。
「ご機嫌麗しゅう、陛下」
「錬魔院機導兵器開発室第一室長、ヤン・ビットマンか。久しいな」
「あたしの部下がご無礼を働き大変申し訳ございません。直ぐに退去させますので」
「ヤン、彼らの主張は事実なのか? ナサニエルが機導エンジンを奪ったと言っているが」
「ええ。と言っても彼らが作っていた物をベースとしているだけで、ほとんど全くの別物になっているでしょうけれど」
ウンウンと頷くナサニエル。それから頬を掻き。
「何分急な事でしたし、数を揃える必要もありましたからねぇ。既存品を魔改造するのが一番手っ取り早かったんですよぉ。ただもう、あんなポンコツのエンジンとは比べるべくもありませんけどねぇ」
『ワカメコラァ! アイドリング音がうるさくてよく聞こえんが今悪口言っただろぉ!?』
拡声器の声に両耳を抑えるナサニエル。ヤンは溜息混じりにナサニエルを睨む。
「諸君らの進言、確かに聞き届けた。では機導兵器開発室に命ずる。この場で我らに魔導アーマーの有用性を証明せよ」
「陛下……」
「輸送スケジュールには余裕があるのだろう? ハンターを呼べ、ハンターを。面白いデモンストレーションだ」
恨めしげなナサニエルを無視し楽しそうに笑う皇帝。ヤンは金縁の眼鏡のブリッジを押し上げ、駆動音でよく話が聞こえていないであろう部下へ状況を伝える為、ゆっくりと歩き始めた。
その日、錬魔院を訪れるヴィルヘルミナ・ウランゲルと第一師団兵達の姿があった。
錬魔院は国軍直下の研究機関。故に皇帝や師団兵が出入りする事もままあるのだが、今回は規模が違った。
複数の兵士と研究者がやりとりをしながら運び出しているのは大きなコンテナで、それらを次から次へと魔動トラックへ積み込んでいる。
「それで、実機への取り付けにはどの程度の手間がかかる?」
「私が現地に同行してちゃちゃっとやりますが、どちらにせよ早めに搬入した方が良いでしょうね。実機は同盟海軍が海輸するそうですから、先に現地入りして待つ形になるかと」
錬魔院の長であるナサニエルは皇帝の質問に白衣に手を突っ込んだまま答えた。
周囲には規制線が張られているが、何事かと見物に現れた都民の視線も多い。皇帝は腕を組み、ふむと息をつき。
「何事もなく輸送出来ると良いのだがな。なにせ肝心のこれがないと話にならん」
「陛下もご同行なさるのでしょう? 帝国最強の“騎士皇”が同行している時点で問題ないかと」
「その皇帝が間違って暗殺されたりしたらどうするのだ。私はほら、なんだ、色々恨みも買っているからな」
「それは身から出た錆じゃないんですかぁ? 陛下が他人から恨まれていようが私には関係ありませんよぉ」
肩を竦めけらけらと笑うナサニエル。次の瞬間民衆の間にどよめきが走った。
見れば錬魔院の側からこれまで隠れていたらしい一台のトラックが規制線をぶっちぎって迫りつつあった。トラックの背後には何やら大きな荷物を連結させており、積載重量的に不安定なのかトラックはふらふらしながら二人の側に停止した。
「陛下!」
駆け寄る兵士を片手で制する皇帝。闖入者はトラックから飛び降りるとナサニエルを睨み、積み荷へと走って行く。
しかし一人では積み荷を覆うカバーがはがせない。もたついていると皇帝が駆け寄り、一緒になって積み荷を露出させていく。
「す、すみません陛下」
「気にするな。困った時はお互い様だ」
サムズアップする皇帝をナサニエルは白い目で見ている。
ようやく剥がされた白いカバーの下から現れたのは手足の生えたトラックであった。他に表現のしようがない。
その異様なシルエットの機体はコックピット分にも装甲がなく、言わばオープンカーのような状態だ。そこにずっと押し込められていたらしい青年が息苦しそうに顔を出し、機械のエンジンを回す。
唸りを上げて起動したソレは立ち上がろうとするが、座った状態から自力で立ち上がれない。またトラックの運転手がロープで引いて立ち上がるのをアシストするが人手が足りず、結局皇帝が片腕でひっぱり起こした。
「度々すみません陛下」
「任せておけ」
もう大丈夫と見て何事もなかったかのように戻ってきた皇帝はナサニエルの隣に並ぶ。
ぶしゅーっと全身から白い蒸気を吐き出し、ソレは唸りをあげ大地に一歩を踏み出した。手足の生えたトラックの上部に乗り込んだ二人の青年は必死にいびつな機械を操り前に出る。
「……何か言ってるようですが、駆動音がうるさすぎてよく聞こえませんねぇ」
「拡声器ないのか、拡声器」
皇帝は部下から拡声器を借りて持っていく。ペコペコ頭を下げる青年に爽やかに笑みを返し、また何事もなかったかのようにナサニエルの隣に並んだ。
『……錬魔院院長、ナサニエル・カロッサ! 我々は錬魔院機動兵器開発室、魔動アーマー開発班の有志である!』
「はあ」
『先日貴様が行った我らへの侮辱、忘れたとは言わせんぞ! 我々は奪われたモノを取り戻しにやってきた!』
「知っているのか?」
「いいえぇ?」
『コラァ! すっとぼけんじゃねぇワカメ! 知っているのだぞ、その積み荷の中身! あのCAMとかいう異世界の兵器に搭載する為に貴様が我らから奪った機導エンジンが入っているのだろう!?』
ナサニエルは本当に思い出せないのかこめかみに手を当てている。だがその指摘は正しい。
CAMを動かす為に協力を行う事になった錬魔院において、ナサニエルが都合した大型の機導エンジン。それは元々魔導アーマー用に開発されていた物を改造したものだった。
「陛下、いいんですか?」
「ん?」
「この積み荷が機導エンジンだと言うのは秘密の筈です」
「で、あるな。まあ良いのではないか」
「良くないと思いますが……」
『我々は魔導アーマーの有用性を証明し、CAM等という得体の知れない異世界の技術ではなく、魔導アーマーこそ次期帝国軍主力兵器として相応しいと陛下に訴えかける為にここに参じた次第である!!』
『CAM起動実験、はんたーい!』
両腕を振ってアピールする魔導アーマー。どうしたものかと首を傾げる皇帝、そこへ錬魔院から一人の男が走ってくる。
ピンクのソフトモヒカンに青い紅をさした色黒の大男は二人の側に駆け寄ると、胸に手を当て一礼する。
「ご機嫌麗しゅう、陛下」
「錬魔院機導兵器開発室第一室長、ヤン・ビットマンか。久しいな」
「あたしの部下がご無礼を働き大変申し訳ございません。直ぐに退去させますので」
「ヤン、彼らの主張は事実なのか? ナサニエルが機導エンジンを奪ったと言っているが」
「ええ。と言っても彼らが作っていた物をベースとしているだけで、ほとんど全くの別物になっているでしょうけれど」
ウンウンと頷くナサニエル。それから頬を掻き。
「何分急な事でしたし、数を揃える必要もありましたからねぇ。既存品を魔改造するのが一番手っ取り早かったんですよぉ。ただもう、あんなポンコツのエンジンとは比べるべくもありませんけどねぇ」
『ワカメコラァ! アイドリング音がうるさくてよく聞こえんが今悪口言っただろぉ!?』
拡声器の声に両耳を抑えるナサニエル。ヤンは溜息混じりにナサニエルを睨む。
「諸君らの進言、確かに聞き届けた。では機導兵器開発室に命ずる。この場で我らに魔導アーマーの有用性を証明せよ」
「陛下……」
「輸送スケジュールには余裕があるのだろう? ハンターを呼べ、ハンターを。面白いデモンストレーションだ」
恨めしげなナサニエルを無視し楽しそうに笑う皇帝。ヤンは金縁の眼鏡のブリッジを押し上げ、駆動音でよく話が聞こえていないであろう部下へ状況を伝える為、ゆっくりと歩き始めた。
リプレイ本文
「……なんだこれ?」
近衛 惣助(ka0510)の第一印象は、開発者からの話を聞いても全く変わらなかった。
とりあえず試験の為に北への道中にある平野を使う事になったので、歩きがてら色々と聞いてみたのだが、答えがわりと絶望的です。
「うむ……まあ、なんだ。どうやら課題は山積みのようだな」
「まいった。言いたい事が多すぎて何から指摘するべきか悩む」
アルルベル・ベルベット(ka2730)と共に微妙な表情の柊 恭也(ka0711)。クラーク・バレンスタイン(ka0111)は眉を潜め。
「操縦席が剥き出しというのは何とも野心的ですね。視界の確保という意味では成立していますが……“動く棺桶”なんて二つ名がつく最悪の未来が既に予見出来ます」
「動く棺桶たぁ中々に気の利いた名前じゃねぇか。このデスドクロ様の“暗黒皇帝”程じゃないが、及第点をやってもいいな」
ニヤリと笑うデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。両腕を肩上にぐわしと広げ。
「この俺様に任せておけば心配無用! 安心と信頼のプロデュース実績! アイドルからポンコツまでなんでも御座れだ!」
「意気込みは頼もしいんだけどねえ……なんだろー、嫌な予感がするなあ。無理させて壊れちゃったら本末転倒だし」
佐々良 縁(ka1269)のボヤきも全く意に介さないデスドクロ。クラークは腕を組み。
「さて。どうしますか、近衛さん?」
「このタイミングで話を振るのは不憫だと思うぞ」
冷や汗を流し悩む惣助。アルルベルは片目を瞑り、くすりと微笑んだ。
こうして評価試験は開始された。一応留めているのは重役で、彼女らは辺境へ向かう予定がある。
時間にも限りがあるので、まずは試験。それから重役は送り出し問題点を議論し、まとめようという話になった。
「……まあ、自分で言っておいてなんだが……なんだこれ?」
まずは走行試験という事で、手の行き届いていない所謂荒れ地を走る事になったのだが、そんなアーマーの横には惣助が並んでいる。
「アーマーちゃんも近衛さんもがんばれー!」
遠巻きに手を振る緑。惣助は上着を脱いで準備運動を始めている。横でアーマーもなんか運動? している。
「すげー構図だな」
「流石惣助さん。率先してその身で貢献しようという意気、自分も見習わなければ」
呆れた様子の恭也。クラークは腕を組みしきりに頷いている。
「ここまでの移動で理解したが、アレは二足歩行でそれなりに動けている。そして非覚醒者でも操縦が可能だ。その二点の長所を証明するには、非覚醒状態の人間と競わせるのが最も効率的だと言える。考えているよ、彼は」
アルルベルは口元に手をやり笑いを堪えながら呟く。緑はヴィルヘルミナに手渡された拡声器を握り締め。
『それでは僭越ながら音頭を取らせて頂きます。これより魔導アーマーちゃん対近衛惣助選手の仁義なき陸上競技会を開始いたしまーす!』
「ひょっとしてきみ達楽しんでないか?」
焦る惣助に揃って首を横に振る恭也、クラーク、アルルベル。緑が振り上げた手を下ろし、「開始!」の合図を出すと両者は一斉に走り出した。
元軍人、現役ハンターの惣助は見事なクラウチングスタート。それにやや遅れノシノシとアーマーが走りだす。
「やっぱ走り出し不安定だな。急ぎすぎるとバランス崩すからトロいんだろ」
恭也の指摘は正しい。アーマーの最大速度の遅さは、バランス部分の問題と……。
「それにあの異常な駆動音。恐らく関節部の耐久性に問題があるのでしょう。最大速度を維持する事が出来ない」
「あれで戦闘機動はまず無理だな」
クラークも冷静に分析を続ける。だが腐っても騎乗兵器。しばらくすると惣助をあっけなく追い抜いた。
アーマーの最大速度は遅いが、多少の荒れ地くらいは気にせず走れる。これは確かに長所と言えた。
『アーマー選手の勝利です! どうやら人間より移動速度は早いようですね!』
「近衛、ナイスファイト」
「……遅めの自動車くらいの速度に人間が追いつけるわけないよな」
アルルベルのねぎらいも間もなく第二試験が始まる。今度はスコップを持った惣助とアーマーが並ぶ。
『それでは第二種目、塹壕堀り……はじめー!』
スコップを荒れ地に突き刺す惣助。順調に穴を掘るが……。
『あーっと、魔導アーマー選手、地面を掘る事ができません!』
魔導アーマーの手はトングのようになっている。今回はっていうかそもそも現段階で穴掘り用の道具は生産されてないの。
なので錬魔院から持ってきた鉄板みたいなものを使ってみたのだが、全然二対のトングでは操れません。
「こ、これは……」
「幾らなんでも不器用すぎないか?」
冷や汗を流すクラーク。恭也は目を丸くしている。
「せめて物は持てないとダメだろ、物は」
「マニピュレーターが不器用ならば生身で扱えない大型兵器を搭載する方向で進めるのも良いと思いますが」
「大砲撃ったら転倒するんだよ。聞いたろ?」
眉間を揉むクラーク。魔導アーマーはヤケになったのか地面をトングで殴りつけるが、土が少し飛ぶだけで効率は非常に悪い。
『塹壕堀り対決は近衛選手の勝利! 続きまして最終種目、障害物除去を開始します!』
「こんなものでよいか?」
『ありがとうございます陛下! だけどその岩どこから持ってきたんでしょうか!』
「その辺から担いできた」
3メートルはあろうかという岩がズシンと大地に置かれる。ヴィルヘルミナはその岩の中心に蹴りを入れ手頃に粉砕した。
「……あいつ量産した方が絶対強いよな」
ぽつりと呟く恭也。ともあれ最終試験が開始される。惣助は他に道具もないのでとりあえずスコップだけ握り締め、アーマーは道具なし。
惣助はいくら鍛えていると言っても覚醒しなければただの人。自分の体重の倍もあるような岩は動かせない。
『魔導アーマー選手、ただ岩を退けるだけなら意外とてきぱきしています! 近衛選手歯がたたないー!』
「当然と言えば当然なのだがな」
肩を竦めるアルルベル。トングで岩をしっかり掴めなくても普通に押し出す事は出来る。岩を転がすような要領でアーマーは道を作っていく。非常に順調に見えたが、その時。
「俺の気のせいであってほしいんだけど、なんか煙出てない?」
『魔導アーマー選手、健康に悪そうな煙が立ち上っています! ……じゃなくて、ストップストップー!』
拡声器を投げ出し駆け出す緑。恭也は見間違いではなかったシグナルに溜息を零し後に続いた。
「魔導アーマーの現状については凡そ把握した。諸君、ありがとう」
皇帝の言葉に微妙な表情を浮かべるハンター達。出来る事はやったし、ポンコツの現状を鑑みればむしろ長所を示せた方だろう。
「だが、今のアーマーはCAMに劣っていると言わざるを得ない。これは満場一致であろう?」
はい、反論の余地はありません。しかし……。
「私は別に、魔導アーマープロジェクトを取り潰すつもりはないのだ。先に成果を挙げたのがCAMだった、ただそれだけの事だ」
「ならよかった。CAMとアーマーは現段階にしてもその用途と長短が異なっているんだからな。どっちか一方を切り捨てるような段階じゃないよ」
恭也の言う通り、二つの技術は似通ってはいるが別々の指向性を持っている。
「プロジェクトが停止するわけではないのなら、自分達に出来る事はまだあります。今後の開発に活かせるよう、プランを纏めておきましょう」
「ああ。奴の興味を惹きつけるくらいで頼む。でなければ意味がない」
ワカメは相変わらず退屈そうで、今はルービックキューブをいじりながらあくびをしている。
「ところで先ほどからそのアーマーと、自称暗黒皇帝が見当たらないのだが」
アルルベルの一言で全員が周囲を見渡す。そういえばなんかあの人ずっと居なかった気がする。
「うわー、なんだかいやーな予感……って、あれはアーマーちゃん……うん!?」
驚きのあまり眼鏡がずり落ちる。緑の視線の先、遠くから魔導アーマーが走ってくる。その上にはデスドクロが搭乗している。
「ふははは! 動く棺桶たぁ良く言ったモンだぜ! こいつはなぁ……こうやって使うんだよ!」
その手には“ばくだん”とひらがなで書かれた黒い物体が抱えられている。それがなんというか、こう、徹夜で酒を入れたダンスホールみたいな動きで迫ってくる。
「動きがきもちわるい!」
「おいおい、あんな動きして大丈夫か?」
「意外と柔軟性が……ではなく、止めなければ!」
感心していた恭也とクラークだが、そういうわけにもいかない。突っ込んでくるアーマーの前に惣助が一番に飛び出していく。
「まさか暴走しているのか!? 確か慣れない人間では運転出来ないという話だったような……! 今止め……ぐあああっ!?」
「……轢かれたな」
「近衛さーん!?」
冷静に頷くアルルベル。緑はわたわたしながら倒れた惣助に駆け寄る。
いよいよアーマーが迫ってきた時だ。クラークと恭也が覚醒し得物に手を伸ばそうとするも、いつの間にかアーマーに飛び乗っていたナサニエルが機導の剣を展開し運転席に差し込んでいた。
禍々しい紫の魔導ガントレットは何も貫いてはいないが、デスドクロに隠れて運転していた開発者の首筋にピタリと寄り添っている。
「不本意ながら、陛下の護衛も兼ねてるんですよねぇ。こういうのは見過ごせませんよ……まあ、挑戦的な姿勢は嫌いじゃありませんけど♪」
色の揃ったルービックキューブをデスドクロの頭の上に乗せ、空中をくるりと回転し皇帝の側に降り立つナサニエル。ぞくりとするような不気味な笑みと共に騒動は収拾した。
「ふむ。何か言い残す事はあるかな?」
「待て待て。まさかこの俺様が考えなしに暴走したとでも? フッ、そいつは早とちりだぜ。俺様は魔導アーマーの恐怖をしょうブッホ!?」
アルルベルの拳がデスドクロの顔面にめり込む。そのまま倒れた男を恭也、緑、アルルベルの三人が袋叩きにする。
「悪ふざけがすぎるぜおっさん。いい年こいて何やってんだコラ」
「魔導アーマーちゃんが壊れちゃったらどうするつもりだったのさー!」
「あまりこうした物理的制裁は趣味ではないのだが、論が通じぬ輩には致し方あるまい」
「アッ――!? 落ち着け、本当にちゃんと考えがあって俺様なりに……痛い痛い! 反省してます!」
涙目で縮こまるデスドクロ。惣助は見かねて声をかける。
「きみ達、それくらいで……アーマーに被害はなかったんだし……」
「近衛さんの優しさは美徳ですが、為にならない事もあります」
自業自得と頷くクラーク。ともあれ皇帝達輸送団はこの場を任せ辺境へと出発した後だ。
「あなた達もあなた達です。彼の甘言に唆されるとは」
クラークの前に正座する二人の開発者。結局ワカメをギャフンと言わせる事もCAMより上だと証明する事もできなかった彼らなりの博打だったのか。
「そう気を落とす事はありません。皇帝は魔導アーマーを見限ったわけではないのですから。今後どうするのか、前向きに議論しましょう」
「だな。おっさんノシてても時間の無駄だぜ」
手を叩き戻ってくる恭也。デスドクロはよろよろ立ち上がり。
「ク、クク……全く、皇帝は孤独だぜ。凡人共には理解出来ないからこそ暗黒。デスドクロ様負けてない。俺様挫けない」
「ちゃんと反省しないと混ぜてやらんぞ?」
ニコリと拳を握るアルルベル。デスドクロはデカい身体を縮こまらせ会議に参加する。
課題は山積みだ。特に耐久性、出力、バランス辺は致命的。ここを抜本的に改善しなければ実戦投入は夢のまた夢である。
「現状でアーマー投入されても、現場の兵士に恨まれるだけですよ? 兵器が求めるのは“使えるか、使えないか”……ただそれだけです」
「とは言え時間はまだある。CAMは精密機械の塊だ。クリムゾンウェストの技術力では、維持管理は絶対に無理だろう」
「ええ。CAMが各国に配備される事はまだないでしょうね」
「ほ、本当か!?」
クラークと恭也の言葉に飛び上がる開発者。二人は頷き。
「その点、魔導アーマーは純クリムゾンウェスト製。これなら主力兵器として安定した維持が可能だ。この二つの問題を考えれば、魔導アーマーはCAMより扱い易い兵器という感じだろう」
「まずは実用段階を目指しましょう。焦る事はありませんよ」
「そうか……なんだか安心したよ。色々とありがとう」
「確かに課題は多くある、が……しかし、そういったものほど伸び代がある。何もCAMと同じ土俵、戦闘用にする必要もない。魔導アーマーの未来は、多方に伸びているよ」
「ああ。それは俺も思った。土木作業なんかには現状でも十分効果的だと思うよ」
アルルベルと惣助の言葉に頷く研究員。こうして何となく打ち解けた彼らは、これからのアーマーの未来について語り合う。
「大型のショベルとか、ドリルをつければどうかな。ドリルは男の浪漫だよ」
「つーかさ、最初から四肢を脱着出来るようにしたらどうだ? 用途によって装備を変えるんだよ。手の不器用さも解決しないとだけどな。ワイヤー制御って知ってる?」
「足も変えるならキャタピラがいいな。土木作業には向いてるぞ」
惣助と恭也の話をメモする開発者。クラークはごそごそと荷物を漁り。
「個人的には大型兵器を搭載したいところですが……そうそう、これ、何かの参考になれば」
「これは?」
「リアルブルーのゲーム機です」
このクラークが見せたロボットゲームが後に色々な騒動を巻き起こす事になるのだが……それはまだ未来の話。
「ブッハハハ! そんな細かい事よりもまずは外見だ! 塗装は黒、そしてもっとトゲトゲとかつけてギャンギャンうるさくすれば最高だな!」
「これ以上うるさくしてどうするんですか」
「見た目ってのは大事だぜ。特にコイツはまだ誰も“得体を知らない”兵器だ。わけがわからないってだけで人間は竦んじまう。暴動鎮圧とかには向いてるぜ……ま、歪虚にどうかは知らんがな」
デスドクロの言に感心すべきか呆れるべきか悩む緑。それからはたと思い出し。
「折角なのでもうちょっとよく見せてもらってもいいですか? スケッチも描きたいんですけど」
「あのワカメみたいに悪用するのでなければ構わないよ。巻き込んでしまったお詫びも兼ねてね」
「わーい、ありがとうございます!」
「いい心がけだ。まあそんなワケでコンサルティング料金としてこれ一台もらっていくけどいいかな?」
「「「 いいわけねぇだろ! 」」」
ウィンクしたデスドクロに総ツッコミが、そしてそれでもなおかつ乗り込もうとするので銃弾やら機導砲やらが飛び交い、男は全力で逃げ出した。
こうして魔導アーマーとハンター達の邂逅は果たされた。これが良い出来事なのかそうでなかったのか。それはきっと未来にわかる事だ――。
近衛 惣助(ka0510)の第一印象は、開発者からの話を聞いても全く変わらなかった。
とりあえず試験の為に北への道中にある平野を使う事になったので、歩きがてら色々と聞いてみたのだが、答えがわりと絶望的です。
「うむ……まあ、なんだ。どうやら課題は山積みのようだな」
「まいった。言いたい事が多すぎて何から指摘するべきか悩む」
アルルベル・ベルベット(ka2730)と共に微妙な表情の柊 恭也(ka0711)。クラーク・バレンスタイン(ka0111)は眉を潜め。
「操縦席が剥き出しというのは何とも野心的ですね。視界の確保という意味では成立していますが……“動く棺桶”なんて二つ名がつく最悪の未来が既に予見出来ます」
「動く棺桶たぁ中々に気の利いた名前じゃねぇか。このデスドクロ様の“暗黒皇帝”程じゃないが、及第点をやってもいいな」
ニヤリと笑うデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。両腕を肩上にぐわしと広げ。
「この俺様に任せておけば心配無用! 安心と信頼のプロデュース実績! アイドルからポンコツまでなんでも御座れだ!」
「意気込みは頼もしいんだけどねえ……なんだろー、嫌な予感がするなあ。無理させて壊れちゃったら本末転倒だし」
佐々良 縁(ka1269)のボヤきも全く意に介さないデスドクロ。クラークは腕を組み。
「さて。どうしますか、近衛さん?」
「このタイミングで話を振るのは不憫だと思うぞ」
冷や汗を流し悩む惣助。アルルベルは片目を瞑り、くすりと微笑んだ。
こうして評価試験は開始された。一応留めているのは重役で、彼女らは辺境へ向かう予定がある。
時間にも限りがあるので、まずは試験。それから重役は送り出し問題点を議論し、まとめようという話になった。
「……まあ、自分で言っておいてなんだが……なんだこれ?」
まずは走行試験という事で、手の行き届いていない所謂荒れ地を走る事になったのだが、そんなアーマーの横には惣助が並んでいる。
「アーマーちゃんも近衛さんもがんばれー!」
遠巻きに手を振る緑。惣助は上着を脱いで準備運動を始めている。横でアーマーもなんか運動? している。
「すげー構図だな」
「流石惣助さん。率先してその身で貢献しようという意気、自分も見習わなければ」
呆れた様子の恭也。クラークは腕を組みしきりに頷いている。
「ここまでの移動で理解したが、アレは二足歩行でそれなりに動けている。そして非覚醒者でも操縦が可能だ。その二点の長所を証明するには、非覚醒状態の人間と競わせるのが最も効率的だと言える。考えているよ、彼は」
アルルベルは口元に手をやり笑いを堪えながら呟く。緑はヴィルヘルミナに手渡された拡声器を握り締め。
『それでは僭越ながら音頭を取らせて頂きます。これより魔導アーマーちゃん対近衛惣助選手の仁義なき陸上競技会を開始いたしまーす!』
「ひょっとしてきみ達楽しんでないか?」
焦る惣助に揃って首を横に振る恭也、クラーク、アルルベル。緑が振り上げた手を下ろし、「開始!」の合図を出すと両者は一斉に走り出した。
元軍人、現役ハンターの惣助は見事なクラウチングスタート。それにやや遅れノシノシとアーマーが走りだす。
「やっぱ走り出し不安定だな。急ぎすぎるとバランス崩すからトロいんだろ」
恭也の指摘は正しい。アーマーの最大速度の遅さは、バランス部分の問題と……。
「それにあの異常な駆動音。恐らく関節部の耐久性に問題があるのでしょう。最大速度を維持する事が出来ない」
「あれで戦闘機動はまず無理だな」
クラークも冷静に分析を続ける。だが腐っても騎乗兵器。しばらくすると惣助をあっけなく追い抜いた。
アーマーの最大速度は遅いが、多少の荒れ地くらいは気にせず走れる。これは確かに長所と言えた。
『アーマー選手の勝利です! どうやら人間より移動速度は早いようですね!』
「近衛、ナイスファイト」
「……遅めの自動車くらいの速度に人間が追いつけるわけないよな」
アルルベルのねぎらいも間もなく第二試験が始まる。今度はスコップを持った惣助とアーマーが並ぶ。
『それでは第二種目、塹壕堀り……はじめー!』
スコップを荒れ地に突き刺す惣助。順調に穴を掘るが……。
『あーっと、魔導アーマー選手、地面を掘る事ができません!』
魔導アーマーの手はトングのようになっている。今回はっていうかそもそも現段階で穴掘り用の道具は生産されてないの。
なので錬魔院から持ってきた鉄板みたいなものを使ってみたのだが、全然二対のトングでは操れません。
「こ、これは……」
「幾らなんでも不器用すぎないか?」
冷や汗を流すクラーク。恭也は目を丸くしている。
「せめて物は持てないとダメだろ、物は」
「マニピュレーターが不器用ならば生身で扱えない大型兵器を搭載する方向で進めるのも良いと思いますが」
「大砲撃ったら転倒するんだよ。聞いたろ?」
眉間を揉むクラーク。魔導アーマーはヤケになったのか地面をトングで殴りつけるが、土が少し飛ぶだけで効率は非常に悪い。
『塹壕堀り対決は近衛選手の勝利! 続きまして最終種目、障害物除去を開始します!』
「こんなものでよいか?」
『ありがとうございます陛下! だけどその岩どこから持ってきたんでしょうか!』
「その辺から担いできた」
3メートルはあろうかという岩がズシンと大地に置かれる。ヴィルヘルミナはその岩の中心に蹴りを入れ手頃に粉砕した。
「……あいつ量産した方が絶対強いよな」
ぽつりと呟く恭也。ともあれ最終試験が開始される。惣助は他に道具もないのでとりあえずスコップだけ握り締め、アーマーは道具なし。
惣助はいくら鍛えていると言っても覚醒しなければただの人。自分の体重の倍もあるような岩は動かせない。
『魔導アーマー選手、ただ岩を退けるだけなら意外とてきぱきしています! 近衛選手歯がたたないー!』
「当然と言えば当然なのだがな」
肩を竦めるアルルベル。トングで岩をしっかり掴めなくても普通に押し出す事は出来る。岩を転がすような要領でアーマーは道を作っていく。非常に順調に見えたが、その時。
「俺の気のせいであってほしいんだけど、なんか煙出てない?」
『魔導アーマー選手、健康に悪そうな煙が立ち上っています! ……じゃなくて、ストップストップー!』
拡声器を投げ出し駆け出す緑。恭也は見間違いではなかったシグナルに溜息を零し後に続いた。
「魔導アーマーの現状については凡そ把握した。諸君、ありがとう」
皇帝の言葉に微妙な表情を浮かべるハンター達。出来る事はやったし、ポンコツの現状を鑑みればむしろ長所を示せた方だろう。
「だが、今のアーマーはCAMに劣っていると言わざるを得ない。これは満場一致であろう?」
はい、反論の余地はありません。しかし……。
「私は別に、魔導アーマープロジェクトを取り潰すつもりはないのだ。先に成果を挙げたのがCAMだった、ただそれだけの事だ」
「ならよかった。CAMとアーマーは現段階にしてもその用途と長短が異なっているんだからな。どっちか一方を切り捨てるような段階じゃないよ」
恭也の言う通り、二つの技術は似通ってはいるが別々の指向性を持っている。
「プロジェクトが停止するわけではないのなら、自分達に出来る事はまだあります。今後の開発に活かせるよう、プランを纏めておきましょう」
「ああ。奴の興味を惹きつけるくらいで頼む。でなければ意味がない」
ワカメは相変わらず退屈そうで、今はルービックキューブをいじりながらあくびをしている。
「ところで先ほどからそのアーマーと、自称暗黒皇帝が見当たらないのだが」
アルルベルの一言で全員が周囲を見渡す。そういえばなんかあの人ずっと居なかった気がする。
「うわー、なんだかいやーな予感……って、あれはアーマーちゃん……うん!?」
驚きのあまり眼鏡がずり落ちる。緑の視線の先、遠くから魔導アーマーが走ってくる。その上にはデスドクロが搭乗している。
「ふははは! 動く棺桶たぁ良く言ったモンだぜ! こいつはなぁ……こうやって使うんだよ!」
その手には“ばくだん”とひらがなで書かれた黒い物体が抱えられている。それがなんというか、こう、徹夜で酒を入れたダンスホールみたいな動きで迫ってくる。
「動きがきもちわるい!」
「おいおい、あんな動きして大丈夫か?」
「意外と柔軟性が……ではなく、止めなければ!」
感心していた恭也とクラークだが、そういうわけにもいかない。突っ込んでくるアーマーの前に惣助が一番に飛び出していく。
「まさか暴走しているのか!? 確か慣れない人間では運転出来ないという話だったような……! 今止め……ぐあああっ!?」
「……轢かれたな」
「近衛さーん!?」
冷静に頷くアルルベル。緑はわたわたしながら倒れた惣助に駆け寄る。
いよいよアーマーが迫ってきた時だ。クラークと恭也が覚醒し得物に手を伸ばそうとするも、いつの間にかアーマーに飛び乗っていたナサニエルが機導の剣を展開し運転席に差し込んでいた。
禍々しい紫の魔導ガントレットは何も貫いてはいないが、デスドクロに隠れて運転していた開発者の首筋にピタリと寄り添っている。
「不本意ながら、陛下の護衛も兼ねてるんですよねぇ。こういうのは見過ごせませんよ……まあ、挑戦的な姿勢は嫌いじゃありませんけど♪」
色の揃ったルービックキューブをデスドクロの頭の上に乗せ、空中をくるりと回転し皇帝の側に降り立つナサニエル。ぞくりとするような不気味な笑みと共に騒動は収拾した。
「ふむ。何か言い残す事はあるかな?」
「待て待て。まさかこの俺様が考えなしに暴走したとでも? フッ、そいつは早とちりだぜ。俺様は魔導アーマーの恐怖をしょうブッホ!?」
アルルベルの拳がデスドクロの顔面にめり込む。そのまま倒れた男を恭也、緑、アルルベルの三人が袋叩きにする。
「悪ふざけがすぎるぜおっさん。いい年こいて何やってんだコラ」
「魔導アーマーちゃんが壊れちゃったらどうするつもりだったのさー!」
「あまりこうした物理的制裁は趣味ではないのだが、論が通じぬ輩には致し方あるまい」
「アッ――!? 落ち着け、本当にちゃんと考えがあって俺様なりに……痛い痛い! 反省してます!」
涙目で縮こまるデスドクロ。惣助は見かねて声をかける。
「きみ達、それくらいで……アーマーに被害はなかったんだし……」
「近衛さんの優しさは美徳ですが、為にならない事もあります」
自業自得と頷くクラーク。ともあれ皇帝達輸送団はこの場を任せ辺境へと出発した後だ。
「あなた達もあなた達です。彼の甘言に唆されるとは」
クラークの前に正座する二人の開発者。結局ワカメをギャフンと言わせる事もCAMより上だと証明する事もできなかった彼らなりの博打だったのか。
「そう気を落とす事はありません。皇帝は魔導アーマーを見限ったわけではないのですから。今後どうするのか、前向きに議論しましょう」
「だな。おっさんノシてても時間の無駄だぜ」
手を叩き戻ってくる恭也。デスドクロはよろよろ立ち上がり。
「ク、クク……全く、皇帝は孤独だぜ。凡人共には理解出来ないからこそ暗黒。デスドクロ様負けてない。俺様挫けない」
「ちゃんと反省しないと混ぜてやらんぞ?」
ニコリと拳を握るアルルベル。デスドクロはデカい身体を縮こまらせ会議に参加する。
課題は山積みだ。特に耐久性、出力、バランス辺は致命的。ここを抜本的に改善しなければ実戦投入は夢のまた夢である。
「現状でアーマー投入されても、現場の兵士に恨まれるだけですよ? 兵器が求めるのは“使えるか、使えないか”……ただそれだけです」
「とは言え時間はまだある。CAMは精密機械の塊だ。クリムゾンウェストの技術力では、維持管理は絶対に無理だろう」
「ええ。CAMが各国に配備される事はまだないでしょうね」
「ほ、本当か!?」
クラークと恭也の言葉に飛び上がる開発者。二人は頷き。
「その点、魔導アーマーは純クリムゾンウェスト製。これなら主力兵器として安定した維持が可能だ。この二つの問題を考えれば、魔導アーマーはCAMより扱い易い兵器という感じだろう」
「まずは実用段階を目指しましょう。焦る事はありませんよ」
「そうか……なんだか安心したよ。色々とありがとう」
「確かに課題は多くある、が……しかし、そういったものほど伸び代がある。何もCAMと同じ土俵、戦闘用にする必要もない。魔導アーマーの未来は、多方に伸びているよ」
「ああ。それは俺も思った。土木作業なんかには現状でも十分効果的だと思うよ」
アルルベルと惣助の言葉に頷く研究員。こうして何となく打ち解けた彼らは、これからのアーマーの未来について語り合う。
「大型のショベルとか、ドリルをつければどうかな。ドリルは男の浪漫だよ」
「つーかさ、最初から四肢を脱着出来るようにしたらどうだ? 用途によって装備を変えるんだよ。手の不器用さも解決しないとだけどな。ワイヤー制御って知ってる?」
「足も変えるならキャタピラがいいな。土木作業には向いてるぞ」
惣助と恭也の話をメモする開発者。クラークはごそごそと荷物を漁り。
「個人的には大型兵器を搭載したいところですが……そうそう、これ、何かの参考になれば」
「これは?」
「リアルブルーのゲーム機です」
このクラークが見せたロボットゲームが後に色々な騒動を巻き起こす事になるのだが……それはまだ未来の話。
「ブッハハハ! そんな細かい事よりもまずは外見だ! 塗装は黒、そしてもっとトゲトゲとかつけてギャンギャンうるさくすれば最高だな!」
「これ以上うるさくしてどうするんですか」
「見た目ってのは大事だぜ。特にコイツはまだ誰も“得体を知らない”兵器だ。わけがわからないってだけで人間は竦んじまう。暴動鎮圧とかには向いてるぜ……ま、歪虚にどうかは知らんがな」
デスドクロの言に感心すべきか呆れるべきか悩む緑。それからはたと思い出し。
「折角なのでもうちょっとよく見せてもらってもいいですか? スケッチも描きたいんですけど」
「あのワカメみたいに悪用するのでなければ構わないよ。巻き込んでしまったお詫びも兼ねてね」
「わーい、ありがとうございます!」
「いい心がけだ。まあそんなワケでコンサルティング料金としてこれ一台もらっていくけどいいかな?」
「「「 いいわけねぇだろ! 」」」
ウィンクしたデスドクロに総ツッコミが、そしてそれでもなおかつ乗り込もうとするので銃弾やら機導砲やらが飛び交い、男は全力で逃げ出した。
こうして魔導アーマーとハンター達の邂逅は果たされた。これが良い出来事なのかそうでなかったのか。それはきっと未来にわかる事だ――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 柊 恭也(ka0711) 人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/11/28 18:03:23 |
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質問卓 クラーク・バレンスタイン(ka0111) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/11/28 00:14:27 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/23 21:14:19 |