ゲスト
(ka0000)
オモチャは箱を飛び出して
マスター:一要・香織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/12 22:00
- 完成日
- 2017/12/19 21:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
街の通りにはキラキラと光る飾りに、色とりどりのリース。
クリスマスツリーにはプレゼントにトナカイ、靴下に蝋燭の形のたくさんのオーナメントが飾られ、雪に見立てた綿がふんわりと枝に積もっている。見上げた先端には眩しいくらいの星の飾りが存在を主張するように輝いていた。
煌びやかな赤と緑の飾りが賑やかな街の通りを更に明るく彩っている。
間もなく、クリスマスがやってくる!
子供も大人も浮き足立つイベントだ。
クリムゾンウエストではエクラ教を信仰する者が殆どだが、この異郷のお祭りはこの辺りではすっかり定着しているようだ。
子供たちはオモチャ屋の窓に張り付き、店内を見回しては、あれが欲しい、これが欲しいと顔を見合わせその顔に笑顔を浮かべている。
しかし、そのオモチャ屋の主人は少し浮かない顔をしていた。
なんでも、今年はオモチャの仕入れが思う様に出来ていないらしいのだ。
子供たちの笑顔を楽しみに、主人は楽しいオモチャ、可愛いオモチャ、かっこいいオモチャを大きな街の外れにある工場から仕入れていた。
しかし毎年オモチャを買っていたその工場が……突然閉鎖してしまった。
倒産したのではなく、閉鎖だ。
●少し時を遡ったオモチャ工場では
従業員が居なくなった深夜の工場は静寂に包まれていた。
見回りをしていた男はライトを手に工場内を歩いている。
昼間のざわめきが嘘のように、今はコツンコツンという足音だけが広い廊下に響く。
「カタカタカタ……」
自分の足音以外聞こえるはずのない工場内で、確かに今、何かが聞こえた。
「ネズミか?」
男は疑問に思いながらも再び足を動かした。
しかしまた、
「カタカタカタ……」「カシャカシャカシャ……」
今度は音が重なって、先ほどより大きく聞こえる。
耳を澄ませば、それはいくつもいくつも重なり合いざわめきとなって男の元に届いた。
不気味さに男は眉を寄せ、恐る恐るその音の出所を探し始める。
そして、その音が完成したオモチャを置く倉庫から聞こえていることを突き止めた。
「ギィーー」
重い扉をゆっくりと開きライトを向け―――目にした光景に男の足は震えた。
そこには、自らの意思を持ったように動き回る、オモチャがあった。
カタカタと音をさせ走り回る車のオモチャ。
ヒラヒラと軽やかになびくスカートを履き、クルクルと踊る人形。
ジジジジジ……ゼンマイを唸らせて動く船のオモチャ。
それらがいくつも動き回り、刹那、男のライトに反応した様にピタリと動きを止め、一斉に男に向かって飛び掛かった。
男は間一髪で扉を閉めが、
「ガンガン、ドンドン」
「バン、ガン!」
と、扉を乱暴に叩く音が続く。
あのまま扉を閉めなければどうなっていただろう。
男は恐怖に息を飲んだ。
翌日、男から話を聞いた工場長は彼を笑ったが、その次の日も、その次の日も、夜の見回りをした者が一様に怯えた顔で同じ事を話す。
しかし、ただひとつ違うのは、そのオモチャの大きさだ……。
それは重なりくっつき合い、大きなオモチャの塊となっているらしい。
そしてその夜見回りをした工場長自らが、オモチャ達が重なり合い動き回っているのを目撃した。
ぼんやりと不気味に光るオモチャを守る様にその周りにいくつものオモチャが張り付き、巨大な造形のロボットの様にそこに佇んでいる。
「なんだ、これは……」
呟きは静かな室内に思いがけぬ程の大きな音となって響いた。
それに気付いたオモチャは獲物を見つけた獣の様に工場長を睨み付け、ぼんやりと光っていたオモチャはギラリと鋭く光を放つ。
目を見開いた工場長を目掛け、大きなオモチャの塊はオモチャの剣を振り下ろした。
「ぎゃぁーー」
肩に走る激痛に、工場長は悲鳴を上げた。
何だと言うのだ。オモチャの剣が当たっただけだというのに……。
ゆっくりと肩に視線を向けると、薄明りでも見えるほどに、そこは赤く染まっていた。
再び剣が振り上げられそうになり、工場長は慌てて重い鉄の扉を閉める。
「ガン、ドン、バン」
乱暴に扉を叩く音が響き渡る―――。
その恐怖に痛みさえ忘れ工場長は逃げ出した。
こうして、工場は閉鎖となった。
クリスマスツリーにはプレゼントにトナカイ、靴下に蝋燭の形のたくさんのオーナメントが飾られ、雪に見立てた綿がふんわりと枝に積もっている。見上げた先端には眩しいくらいの星の飾りが存在を主張するように輝いていた。
煌びやかな赤と緑の飾りが賑やかな街の通りを更に明るく彩っている。
間もなく、クリスマスがやってくる!
子供も大人も浮き足立つイベントだ。
クリムゾンウエストではエクラ教を信仰する者が殆どだが、この異郷のお祭りはこの辺りではすっかり定着しているようだ。
子供たちはオモチャ屋の窓に張り付き、店内を見回しては、あれが欲しい、これが欲しいと顔を見合わせその顔に笑顔を浮かべている。
しかし、そのオモチャ屋の主人は少し浮かない顔をしていた。
なんでも、今年はオモチャの仕入れが思う様に出来ていないらしいのだ。
子供たちの笑顔を楽しみに、主人は楽しいオモチャ、可愛いオモチャ、かっこいいオモチャを大きな街の外れにある工場から仕入れていた。
しかし毎年オモチャを買っていたその工場が……突然閉鎖してしまった。
倒産したのではなく、閉鎖だ。
●少し時を遡ったオモチャ工場では
従業員が居なくなった深夜の工場は静寂に包まれていた。
見回りをしていた男はライトを手に工場内を歩いている。
昼間のざわめきが嘘のように、今はコツンコツンという足音だけが広い廊下に響く。
「カタカタカタ……」
自分の足音以外聞こえるはずのない工場内で、確かに今、何かが聞こえた。
「ネズミか?」
男は疑問に思いながらも再び足を動かした。
しかしまた、
「カタカタカタ……」「カシャカシャカシャ……」
今度は音が重なって、先ほどより大きく聞こえる。
耳を澄ませば、それはいくつもいくつも重なり合いざわめきとなって男の元に届いた。
不気味さに男は眉を寄せ、恐る恐るその音の出所を探し始める。
そして、その音が完成したオモチャを置く倉庫から聞こえていることを突き止めた。
「ギィーー」
重い扉をゆっくりと開きライトを向け―――目にした光景に男の足は震えた。
そこには、自らの意思を持ったように動き回る、オモチャがあった。
カタカタと音をさせ走り回る車のオモチャ。
ヒラヒラと軽やかになびくスカートを履き、クルクルと踊る人形。
ジジジジジ……ゼンマイを唸らせて動く船のオモチャ。
それらがいくつも動き回り、刹那、男のライトに反応した様にピタリと動きを止め、一斉に男に向かって飛び掛かった。
男は間一髪で扉を閉めが、
「ガンガン、ドンドン」
「バン、ガン!」
と、扉を乱暴に叩く音が続く。
あのまま扉を閉めなければどうなっていただろう。
男は恐怖に息を飲んだ。
翌日、男から話を聞いた工場長は彼を笑ったが、その次の日も、その次の日も、夜の見回りをした者が一様に怯えた顔で同じ事を話す。
しかし、ただひとつ違うのは、そのオモチャの大きさだ……。
それは重なりくっつき合い、大きなオモチャの塊となっているらしい。
そしてその夜見回りをした工場長自らが、オモチャ達が重なり合い動き回っているのを目撃した。
ぼんやりと不気味に光るオモチャを守る様にその周りにいくつものオモチャが張り付き、巨大な造形のロボットの様にそこに佇んでいる。
「なんだ、これは……」
呟きは静かな室内に思いがけぬ程の大きな音となって響いた。
それに気付いたオモチャは獲物を見つけた獣の様に工場長を睨み付け、ぼんやりと光っていたオモチャはギラリと鋭く光を放つ。
目を見開いた工場長を目掛け、大きなオモチャの塊はオモチャの剣を振り下ろした。
「ぎゃぁーー」
肩に走る激痛に、工場長は悲鳴を上げた。
何だと言うのだ。オモチャの剣が当たっただけだというのに……。
ゆっくりと肩に視線を向けると、薄明りでも見えるほどに、そこは赤く染まっていた。
再び剣が振り上げられそうになり、工場長は慌てて重い鉄の扉を閉める。
「ガン、ドン、バン」
乱暴に扉を叩く音が響き渡る―――。
その恐怖に痛みさえ忘れ工場長は逃げ出した。
こうして、工場は閉鎖となった。
リプレイ本文
夜空に浮かぶ月は、澄んだ空気にその光を惜しげもなく放ち、地上は意外な程に明るかった。
その光を背中に受け、ハンター達は工場の前に佇んでいる。
「クリスマス……。リアルブルーでは聖人の誕生を祝うこの日を、全ての人々が楽しみにしていると聞きました。こちらでも随分と馴染みのイベントになりましたね」
何処か他人事のようにトラウィス(ka7073)は淡々と話す。
「そうだな……。せっかく子供たちが楽しみにしているクリスマスにオモチャがないと言うのは寂しい限りだからな。一刻も早くこの件を片付けて工場を再開させようぜ」
榊 兵庫(ka0010)はトラウィスの言葉を受け力強く頷いた。
「プレゼントって、どれにしようかなぁって選びきれずに迷ってる時間も楽しいニャスよネ」
ミア(ka7035)はまるで自分がプレゼントを貰う子供の様に楽しげに呟いた。
「わかります!!」
「そうですよね!」
穂積 智里(ka6819) とフィリテ・ノート(ka0810) は同時に相槌を打ち、互いに顔を見合わせて微笑んだ。
そう、そんな楽しいイベントに歪虚は不要だ。
ハンター達はそれぞれ気合を入れ直し、工場の入り口を潜った。
窓のない工場の廊下は、光のない闇だ。
「真っ暗ね。眼鏡があっても何も見えないわ」
フォッグクロークを頭から被ったフィリテが、眼鏡をクイッと上げ直し目を細める。
「人が居ない工場ってこんなに不気味なんですね」
智里も眉を顰めて廊下の先を見据え、灯火の水晶球を手に取った。
それはふわりと浮かび上がると智里の周りをゆらゆらと舞う。
それぞれが光源を手にすると、
「敵の数及び潜伏位置が不明であり、暗さ故奇襲が容易であるとみられます。単独行動は危険と思われるので2班に分かれるのはどうでしょう?」
トラウィスが事務的に言葉を紡ぎ提案すると、ハンター達は静かに頷いた。
コツン、コツン――、足音は異様なほど静かな工場内に響き渡る。
兵庫と智里は互いの死角をカバーするように、意識を張り巡らせて組み立て作業をする部屋に向かった。
「工場長の話だと、倉庫で目撃されてたよな?」
兵庫が智里に確認するように尋ねると、
「そうみたいですね。従業員の目撃も倉庫が一番多かったはずです」
智里は依頼書の内容を思い出すようにゆっくりと話す。
「じゃあ、向こうが当たりか?」
少し残念そうに呟き、兵庫は足を進めた。
重い鉄の扉の前に立った二人は、それぞれの武器を握り締め、その頼もしい存在感を確認する。
ぎぃぃぃぃぃ―――、扉は鈍い音をさせゆっくりと開いた。
智里の灯火の水晶球が扉の先、組み立ての作業場をぼんやりと映し出す……。
動く物の気配、動く物の音はしない。
二人は目配せをすると、音を立てずに部屋へと踏み込んだ。
辺りには、切り出した木の車、タイヤに成るべく輪っかの形のパーツ、縫いかけの人形など、子供たちに遊んでもらうことを夢見るオモチャ達が、未完成のまま置かれていた。
「……歪虚、居ませんね?」
智里がグルリと辺りを見回した時だった。
部屋の奥の方で、ガシャンッという何かが落ちたような……何かがぶつかったような音がしたかと思うと、音は何度も響き次第に近付いてきた。
「お出ましだな!」
兵庫が不敵な笑みを浮かべ、十文字槍を構える。
それを合図にした様に、勢いよくロボットの様な造形の大きな塊となったオモチャの歪虚が姿を現した。
「オモチャを守ってクリスマスプレゼントの死守……うぅ、責任重大です……」
智里は不安そうにそう言いながらエグリゴリを掲げた。
同時に兵庫は少し広い空間を目指し走りながらソウルトーチを唱える。
炎のオーラを纏った兵庫が意識を引き寄せると、歪虚は兵庫を目掛け剣を振り下ろした。
カウンターアタックで剣戟を受け流し、空っぽの胴体に一撃を叩き込む。
僅かにふらついた歪虚はガシャン、と音をさせいくつかのオモチャを落とした。すると剥がれ落ちたその部分からぼんやりと光るオモチャが顔を覗かせた。
「核か!」
兵庫の顔に喜色の笑みが浮かぶ。
「核が見えればこっちのもんですね!」
智里が機導砲を放つと一条の鋭い光が歪虚の核となるオモチャを貫いた。
間髪入れず、兵庫の追撃の一打が叩き込まれ核のオモチャはボロボロと壊れすぐに塵に変わった。
刹那――、ロボットを造形していたオモチャ達が重力に従いガチャンガチャンと崩れ始めた。
二人の周りにはオモチャの山が出来上がる。
ふぅ、智里が安堵の息を吐いた瞬間、
「智里、後ろだ!」
兵庫の鋭い声が飛ぶ。
積み上げられた部品の箱の上から飛び降りる様に、新たなオモチャの歪虚が現れた。
智里を目掛けて剣が振り下ろされる前に兵庫は間合いに飛び込み、ソウルエッジで強化した渾身撃を歪虚へと叩き込む。
抉るように落とされたオモチャの間からぼんやりと光るオモチャがチラリと見えると、智里はデルタレイを唱えた。暗闇の空間に鋭く光る三角形が浮かび上がると、その頂点から閃光が放たれる。それは寸分のズレもなく核の歪虚を貫いた。
パキッとヒビが入るような音がしたかと思うと、サラサラと砂の様に流れだし……消えた。
先程同様、オモチャの塊はガチャガチャと崩れ、作業部屋の中にはオモチャの山が二つ出来上がった。
二人は息を潜め神経を研ぎ澄ませた。
自らの心臓の音意外、何も聞こえない。
悪寒を感じさせない作業部屋には、もう歪虚は居ないようだ。
「向こうはどうなっているでしょうか?」
智里がもう一方の班を心配する様に呟いた。
オープンになっているトランシーバーからは緊迫した雰囲気と共に、覇気を纏った声が聞こえてくる。
兵庫は口元に弧を描き応えた。
「もう開戦してるみたいだな。加勢に行くぞ!」
十文字槍を握り直し、兵庫は駆け出した。それに続く様に智里も走り出す。
「思っていたよりも広い工場ですね」
僅かに気配を消したフィリテが周りを見回しながら呟くと、トラウィスは、はい。と短く応え奇襲に対応できるよう周囲を警戒しながら歩く。
足音を消して近付いた倉庫からは、カタカタという音が聞こえてくる。
フィリテ、トラウィス、ミアは目配せすると、扉の正面に立たないようにしてゆっくりと扉を開けた。
途端、カタカタという音はしなくなり同時にミアとトラウィスが中に踏み込む。
僅かな明かりにロボットの様なオモチャの塊が浮かび上がり、それは二人を目掛けて腕を振り上げた。
飛び退くと、ガシャンッ、ブリキが潰れる様な音をさせ床に叩き付けられた腕は今度はミアを目掛けて横薙ぎに払われた。
ミアの身体に衝撃が走り痛みに顔を顰めると、タイミングをズラして踏み込んでいたフィリテの、凛とした声が響く。
「凍てつく氷よ、矢となりてその者を貫け……アイスボルト!!」
キラリと輝く氷の矢は歪虚を貫きその足を凍りつかせた。
床に張り付いた様に動きを止めた歪虚の間合いにトラウィスが飛び込み、魔導ガントレットを叩き込む。
幾つかのオモチャが剥がれ落ちると、続け様ミアが疾風打をお見舞いする。
衝撃に一歩足を引いた歪虚の右肩の部分に、ぼんやりと光るオモチャがチラリと見えた。
それを目にして猫の様な八重歯を見せニヤリと笑ったミアが、飛翔撃を放つ。
その衝撃は歪虚の右肩部分に命中し核ごと吹き飛ばした。
オモチャの塊から切り離され、歪虚がその姿を露わにした刹那、先程よりも高いフィリテの声が響く。
「石のつぶてよ、襲い掛かれ! ……アースバレット!」
空中に無数のつぶてが生み出され、空気を斬って歪虚に飛んでいく。
連続した衝撃に、歪虚はボロボロと崩れて消えだした。
ホッとしたのもつかの間、ガシャッと大きな音が響きミアとフィリテが振り向くと、トラウィスがいつの間にか現れたもう一体の歪虚の攻撃をムーバブルシールドで防いでいる所だった。
「まだいたニャスね」
ミアはチラッと後ろを振り返えると、沢山のオモチャから距離を取り、目の前の歪虚に向き直る。
オープンになったトランシーバーからは、兵庫と智里の張りつめた声が聞こえてくる。
「どうやら向こうも戦闘中のようですね」
少しも表情を崩さずそう言うと、トラウィスは歪虚を睨みつけた。
「子供たちに大事にされるはずだったのに……ごめんねっ!」
フィリテが再びアイスボルトを唱えると、歪虚は腕を振り回して払い、片手に持ったオモチャの剣を薙いだ。
三人は難なくかわしそれぞれの武器を今一度強く握り締める。
歪虚の意識が正面に立ったミアに向けられた瞬間、トラウィスはエレクトリックショックを放った。
ガントレットに纏った雷撃が歪虚の動きを麻痺させ、その体の様な塊からはプスプスと小さな黒い煙が昇る。
焼け落ちたのか、剥がれた場所には光るオモチャが見え隠れし、それを確認したミアは白虎神拳の強烈な一打を核となるオモチャに放った。
ガチャ、ガチャン……大きな音をさせ崩れるオモチャ。その間を塵となった歪虚がすり抜けていった。
「ふう」
三人は息を吐いた。
その時、
「なんだ。終わっちまったか」
拍子抜けするほどお気楽な声を出し、兵庫が扉から入ってくる。それに続いて智里も姿を現した。
「そっちは終わったニャスか?」
皆の顔にはそれぞれの無事を確認した安堵の笑みが浮かんだ。
「皆さん無事で良かったです」
トラウィスの言葉に、智里が眼鏡の下の瞳を弓なりに細めた―――その時、
ガターーンッ!!
今までで一番大きな音が響きプレゼントの山が崩れた。
視線は一斉にそちらに向けられ、目にしたものに皆眉を顰める。
一際大きなオモチャの塊となった歪虚がガチャガチャと音をさせこちらに近付いて来ている。
足元に散らばるオモチャ達はカタカタと小さく震え、今にも歪虚に引き寄せられそうだ。
「まさか、まだ取り込もうとしているニャスか?」
ミアが目を見開きそして口を尖らせと、
「その前に片付けてみせます」
僅かに怒気を含んだような口調でトラウィスが頷き、魔導砲を放つ。
同時に智里も魔導砲を放ち、二条の閃光が歪虚を貫き交差した。
「子供たちの笑顔の為に、大人しく倒されろ」
跳躍した兵庫は武器を上段から振り下ろし渾身の一撃を叩き込む。
衝撃にふらつく歪虚――、その手に持った剣が反動で振られ、間近にいた兵庫を斬りつけた。
攻撃を受けたオモチャの塊は、頭部、そしてお腹の中心辺りに鋭く光るオモチャの核を二つ抱いているのを明らかにした。
「見えましたね」
フィリテがアイスボルトを唱え歪虚の動きを鈍らせると、智里が唱えたデルタレイが腹部の歪虚を貫き一瞬にして塵に変える。
同時にミアは猫の如く飛び掛かり必殺の打撃を放って頭部を歪虚諸共吹き飛ばした。
「さよなら―――ニャス!」
朝日が小さな窓から射し込み始め、ほんのりと明るくなった工場内は夜の雰囲気とは打って変わり、たくさんの色が溢れかえり賑やかだ。
ハンター達は広い工場の隅々まで歩き回り、新たな歪虚が居ないか探索した。
その傍ら、興味深気にオモチャを眺める。
「リアルブルーでは見たことのないオモチャも、結構あるもんだな」
兵庫は楽しげに作りかけのオモチャを手に取った。
「おもちゃ。玩具。成人するまでの人間、つまり子供が遊ぶものであり、年齢によってその玩具は形を変えるといいますが、これほど多種多様であるとは知りませんでした」
ほとんど表情のかわらないトラウィスの瞳が、心なしか輝いて見える。
綺麗なレースに、カラフルな柄のドレスを着た人形。
ブリキの車は塗料の乾燥待ちなのか、塗りかけの状態でズラリと駐車してある。
パズルにダーツ、ラケットやバットも子供たちに出会えるのを今か今かと待ち侘びているようだ。
「ちびっ子達の笑顔、守れたかニャ?」
ミアが不安げに眉を寄せると、
「もちろんですよ。オモチャの被害も最小限に留められましたし」
フィリテが大きな笑みを浮かべてミアに頷いて見せる。
綺麗なリボンで包まれたオモチャを見ていると、プレゼントを貰った子供の笑顔が目に浮かぶようで、ハンター達は口元に大きな弧を描いて笑いあった。
「念のため、白虹で浄化しておきましょう」
そう言って智里が機導浄化術を使うと、聖夜に降る雪の様に澄んだ空気がキラキラと辺りに広がった。
「さて、依頼は完了だな」
「打ち上げでもするニャスか?」
兵庫の呟きにミアが問うと、
「いいですね!」
「一足早いクリスマスパーティをしましょう」
智里とフィリテが嬉しそうに飛び上がる。
「では、報告書をまとめたら行きましょう」
トラウィスの口角も僅かに上がり、その珍しい表情に皆は顔を見合わせた。
誰が先に歌い始めたのだろう。
帰っていくハンター達はクリスマスソングを口ずさんでいた。
その光を背中に受け、ハンター達は工場の前に佇んでいる。
「クリスマス……。リアルブルーでは聖人の誕生を祝うこの日を、全ての人々が楽しみにしていると聞きました。こちらでも随分と馴染みのイベントになりましたね」
何処か他人事のようにトラウィス(ka7073)は淡々と話す。
「そうだな……。せっかく子供たちが楽しみにしているクリスマスにオモチャがないと言うのは寂しい限りだからな。一刻も早くこの件を片付けて工場を再開させようぜ」
榊 兵庫(ka0010)はトラウィスの言葉を受け力強く頷いた。
「プレゼントって、どれにしようかなぁって選びきれずに迷ってる時間も楽しいニャスよネ」
ミア(ka7035)はまるで自分がプレゼントを貰う子供の様に楽しげに呟いた。
「わかります!!」
「そうですよね!」
穂積 智里(ka6819) とフィリテ・ノート(ka0810) は同時に相槌を打ち、互いに顔を見合わせて微笑んだ。
そう、そんな楽しいイベントに歪虚は不要だ。
ハンター達はそれぞれ気合を入れ直し、工場の入り口を潜った。
窓のない工場の廊下は、光のない闇だ。
「真っ暗ね。眼鏡があっても何も見えないわ」
フォッグクロークを頭から被ったフィリテが、眼鏡をクイッと上げ直し目を細める。
「人が居ない工場ってこんなに不気味なんですね」
智里も眉を顰めて廊下の先を見据え、灯火の水晶球を手に取った。
それはふわりと浮かび上がると智里の周りをゆらゆらと舞う。
それぞれが光源を手にすると、
「敵の数及び潜伏位置が不明であり、暗さ故奇襲が容易であるとみられます。単独行動は危険と思われるので2班に分かれるのはどうでしょう?」
トラウィスが事務的に言葉を紡ぎ提案すると、ハンター達は静かに頷いた。
コツン、コツン――、足音は異様なほど静かな工場内に響き渡る。
兵庫と智里は互いの死角をカバーするように、意識を張り巡らせて組み立て作業をする部屋に向かった。
「工場長の話だと、倉庫で目撃されてたよな?」
兵庫が智里に確認するように尋ねると、
「そうみたいですね。従業員の目撃も倉庫が一番多かったはずです」
智里は依頼書の内容を思い出すようにゆっくりと話す。
「じゃあ、向こうが当たりか?」
少し残念そうに呟き、兵庫は足を進めた。
重い鉄の扉の前に立った二人は、それぞれの武器を握り締め、その頼もしい存在感を確認する。
ぎぃぃぃぃぃ―――、扉は鈍い音をさせゆっくりと開いた。
智里の灯火の水晶球が扉の先、組み立ての作業場をぼんやりと映し出す……。
動く物の気配、動く物の音はしない。
二人は目配せをすると、音を立てずに部屋へと踏み込んだ。
辺りには、切り出した木の車、タイヤに成るべく輪っかの形のパーツ、縫いかけの人形など、子供たちに遊んでもらうことを夢見るオモチャ達が、未完成のまま置かれていた。
「……歪虚、居ませんね?」
智里がグルリと辺りを見回した時だった。
部屋の奥の方で、ガシャンッという何かが落ちたような……何かがぶつかったような音がしたかと思うと、音は何度も響き次第に近付いてきた。
「お出ましだな!」
兵庫が不敵な笑みを浮かべ、十文字槍を構える。
それを合図にした様に、勢いよくロボットの様な造形の大きな塊となったオモチャの歪虚が姿を現した。
「オモチャを守ってクリスマスプレゼントの死守……うぅ、責任重大です……」
智里は不安そうにそう言いながらエグリゴリを掲げた。
同時に兵庫は少し広い空間を目指し走りながらソウルトーチを唱える。
炎のオーラを纏った兵庫が意識を引き寄せると、歪虚は兵庫を目掛け剣を振り下ろした。
カウンターアタックで剣戟を受け流し、空っぽの胴体に一撃を叩き込む。
僅かにふらついた歪虚はガシャン、と音をさせいくつかのオモチャを落とした。すると剥がれ落ちたその部分からぼんやりと光るオモチャが顔を覗かせた。
「核か!」
兵庫の顔に喜色の笑みが浮かぶ。
「核が見えればこっちのもんですね!」
智里が機導砲を放つと一条の鋭い光が歪虚の核となるオモチャを貫いた。
間髪入れず、兵庫の追撃の一打が叩き込まれ核のオモチャはボロボロと壊れすぐに塵に変わった。
刹那――、ロボットを造形していたオモチャ達が重力に従いガチャンガチャンと崩れ始めた。
二人の周りにはオモチャの山が出来上がる。
ふぅ、智里が安堵の息を吐いた瞬間、
「智里、後ろだ!」
兵庫の鋭い声が飛ぶ。
積み上げられた部品の箱の上から飛び降りる様に、新たなオモチャの歪虚が現れた。
智里を目掛けて剣が振り下ろされる前に兵庫は間合いに飛び込み、ソウルエッジで強化した渾身撃を歪虚へと叩き込む。
抉るように落とされたオモチャの間からぼんやりと光るオモチャがチラリと見えると、智里はデルタレイを唱えた。暗闇の空間に鋭く光る三角形が浮かび上がると、その頂点から閃光が放たれる。それは寸分のズレもなく核の歪虚を貫いた。
パキッとヒビが入るような音がしたかと思うと、サラサラと砂の様に流れだし……消えた。
先程同様、オモチャの塊はガチャガチャと崩れ、作業部屋の中にはオモチャの山が二つ出来上がった。
二人は息を潜め神経を研ぎ澄ませた。
自らの心臓の音意外、何も聞こえない。
悪寒を感じさせない作業部屋には、もう歪虚は居ないようだ。
「向こうはどうなっているでしょうか?」
智里がもう一方の班を心配する様に呟いた。
オープンになっているトランシーバーからは緊迫した雰囲気と共に、覇気を纏った声が聞こえてくる。
兵庫は口元に弧を描き応えた。
「もう開戦してるみたいだな。加勢に行くぞ!」
十文字槍を握り直し、兵庫は駆け出した。それに続く様に智里も走り出す。
「思っていたよりも広い工場ですね」
僅かに気配を消したフィリテが周りを見回しながら呟くと、トラウィスは、はい。と短く応え奇襲に対応できるよう周囲を警戒しながら歩く。
足音を消して近付いた倉庫からは、カタカタという音が聞こえてくる。
フィリテ、トラウィス、ミアは目配せすると、扉の正面に立たないようにしてゆっくりと扉を開けた。
途端、カタカタという音はしなくなり同時にミアとトラウィスが中に踏み込む。
僅かな明かりにロボットの様なオモチャの塊が浮かび上がり、それは二人を目掛けて腕を振り上げた。
飛び退くと、ガシャンッ、ブリキが潰れる様な音をさせ床に叩き付けられた腕は今度はミアを目掛けて横薙ぎに払われた。
ミアの身体に衝撃が走り痛みに顔を顰めると、タイミングをズラして踏み込んでいたフィリテの、凛とした声が響く。
「凍てつく氷よ、矢となりてその者を貫け……アイスボルト!!」
キラリと輝く氷の矢は歪虚を貫きその足を凍りつかせた。
床に張り付いた様に動きを止めた歪虚の間合いにトラウィスが飛び込み、魔導ガントレットを叩き込む。
幾つかのオモチャが剥がれ落ちると、続け様ミアが疾風打をお見舞いする。
衝撃に一歩足を引いた歪虚の右肩の部分に、ぼんやりと光るオモチャがチラリと見えた。
それを目にして猫の様な八重歯を見せニヤリと笑ったミアが、飛翔撃を放つ。
その衝撃は歪虚の右肩部分に命中し核ごと吹き飛ばした。
オモチャの塊から切り離され、歪虚がその姿を露わにした刹那、先程よりも高いフィリテの声が響く。
「石のつぶてよ、襲い掛かれ! ……アースバレット!」
空中に無数のつぶてが生み出され、空気を斬って歪虚に飛んでいく。
連続した衝撃に、歪虚はボロボロと崩れて消えだした。
ホッとしたのもつかの間、ガシャッと大きな音が響きミアとフィリテが振り向くと、トラウィスがいつの間にか現れたもう一体の歪虚の攻撃をムーバブルシールドで防いでいる所だった。
「まだいたニャスね」
ミアはチラッと後ろを振り返えると、沢山のオモチャから距離を取り、目の前の歪虚に向き直る。
オープンになったトランシーバーからは、兵庫と智里の張りつめた声が聞こえてくる。
「どうやら向こうも戦闘中のようですね」
少しも表情を崩さずそう言うと、トラウィスは歪虚を睨みつけた。
「子供たちに大事にされるはずだったのに……ごめんねっ!」
フィリテが再びアイスボルトを唱えると、歪虚は腕を振り回して払い、片手に持ったオモチャの剣を薙いだ。
三人は難なくかわしそれぞれの武器を今一度強く握り締める。
歪虚の意識が正面に立ったミアに向けられた瞬間、トラウィスはエレクトリックショックを放った。
ガントレットに纏った雷撃が歪虚の動きを麻痺させ、その体の様な塊からはプスプスと小さな黒い煙が昇る。
焼け落ちたのか、剥がれた場所には光るオモチャが見え隠れし、それを確認したミアは白虎神拳の強烈な一打を核となるオモチャに放った。
ガチャ、ガチャン……大きな音をさせ崩れるオモチャ。その間を塵となった歪虚がすり抜けていった。
「ふう」
三人は息を吐いた。
その時、
「なんだ。終わっちまったか」
拍子抜けするほどお気楽な声を出し、兵庫が扉から入ってくる。それに続いて智里も姿を現した。
「そっちは終わったニャスか?」
皆の顔にはそれぞれの無事を確認した安堵の笑みが浮かんだ。
「皆さん無事で良かったです」
トラウィスの言葉に、智里が眼鏡の下の瞳を弓なりに細めた―――その時、
ガターーンッ!!
今までで一番大きな音が響きプレゼントの山が崩れた。
視線は一斉にそちらに向けられ、目にしたものに皆眉を顰める。
一際大きなオモチャの塊となった歪虚がガチャガチャと音をさせこちらに近付いて来ている。
足元に散らばるオモチャ達はカタカタと小さく震え、今にも歪虚に引き寄せられそうだ。
「まさか、まだ取り込もうとしているニャスか?」
ミアが目を見開きそして口を尖らせと、
「その前に片付けてみせます」
僅かに怒気を含んだような口調でトラウィスが頷き、魔導砲を放つ。
同時に智里も魔導砲を放ち、二条の閃光が歪虚を貫き交差した。
「子供たちの笑顔の為に、大人しく倒されろ」
跳躍した兵庫は武器を上段から振り下ろし渾身の一撃を叩き込む。
衝撃にふらつく歪虚――、その手に持った剣が反動で振られ、間近にいた兵庫を斬りつけた。
攻撃を受けたオモチャの塊は、頭部、そしてお腹の中心辺りに鋭く光るオモチャの核を二つ抱いているのを明らかにした。
「見えましたね」
フィリテがアイスボルトを唱え歪虚の動きを鈍らせると、智里が唱えたデルタレイが腹部の歪虚を貫き一瞬にして塵に変える。
同時にミアは猫の如く飛び掛かり必殺の打撃を放って頭部を歪虚諸共吹き飛ばした。
「さよなら―――ニャス!」
朝日が小さな窓から射し込み始め、ほんのりと明るくなった工場内は夜の雰囲気とは打って変わり、たくさんの色が溢れかえり賑やかだ。
ハンター達は広い工場の隅々まで歩き回り、新たな歪虚が居ないか探索した。
その傍ら、興味深気にオモチャを眺める。
「リアルブルーでは見たことのないオモチャも、結構あるもんだな」
兵庫は楽しげに作りかけのオモチャを手に取った。
「おもちゃ。玩具。成人するまでの人間、つまり子供が遊ぶものであり、年齢によってその玩具は形を変えるといいますが、これほど多種多様であるとは知りませんでした」
ほとんど表情のかわらないトラウィスの瞳が、心なしか輝いて見える。
綺麗なレースに、カラフルな柄のドレスを着た人形。
ブリキの車は塗料の乾燥待ちなのか、塗りかけの状態でズラリと駐車してある。
パズルにダーツ、ラケットやバットも子供たちに出会えるのを今か今かと待ち侘びているようだ。
「ちびっ子達の笑顔、守れたかニャ?」
ミアが不安げに眉を寄せると、
「もちろんですよ。オモチャの被害も最小限に留められましたし」
フィリテが大きな笑みを浮かべてミアに頷いて見せる。
綺麗なリボンで包まれたオモチャを見ていると、プレゼントを貰った子供の笑顔が目に浮かぶようで、ハンター達は口元に大きな弧を描いて笑いあった。
「念のため、白虹で浄化しておきましょう」
そう言って智里が機導浄化術を使うと、聖夜に降る雪の様に澄んだ空気がキラキラと辺りに広がった。
「さて、依頼は完了だな」
「打ち上げでもするニャスか?」
兵庫の呟きにミアが問うと、
「いいですね!」
「一足早いクリスマスパーティをしましょう」
智里とフィリテが嬉しそうに飛び上がる。
「では、報告書をまとめたら行きましょう」
トラウィスの口角も僅かに上がり、その珍しい表情に皆は顔を見合わせた。
誰が先に歌い始めたのだろう。
帰っていくハンター達はクリスマスソングを口ずさんでいた。
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玩具箱の探索 穂積 智里(ka6819) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/12/12 18:54:26 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
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