ゲスト
(ka0000)
オレより強いやつに愛を伝える
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/28 07:30
- 完成日
- 2014/12/06 03:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「好きだぁああああああ!」
練兵場に響く間違いな叫び。声の主は、身長2メートル近い大男、ガハムサである。
気合の叫びを繰り返しながら、ガハムサは大剣を振り回す。
対峙するのは、長い黒髪をうなじでまとめあげている女性だった。
「ふん」
一息で、ガハムサの大剣を捌いた女性は、そのままの勢いで懐に潜り込む。
密着するような距離から、真っ直ぐにレイピアを突き立てた。
「訓練用の模造刀でなければ、死んでいましたね」
鈴を転がしたような、愛らしい声で女性は告げる。
ガハムサの肩に頭頂部がくるぐらいの小柄な女性だ。
「これで、何度目でしたっけ」
「今月は12回目、通算99回だ」
ガハムサはゆっくりと後退し、レイピアの射程から外れながら答える。
クスクスと笑い声を上げながら、女性はレイピアを収めた。
「100回挑戦してもダメなら、本格的に私への愛が足りないのではないでしょうか」
「ぐ、ぐぬぬ。しかし、愛する相手に本気で刃を向けるというのは……」
臆面もなく言い放つガハムサの言葉に、女性は顔を背ける。
しまった、とガハムサが思った時には遅かった。
「私のほうが強い、と周りから思われたままでいいのですか?」
鈴なく声が冷ややかになる。
説教モードに切り替わったのだとガハムサは悟った。
条件反射的に、正座をして待つ。
「そもそも、あなたは私が出した条件を飲むといったのです。男に二言はない、約束を曲げるはずがないとあなたはおっしゃいましたよね」
こうなると、長くなる。
いつもながらの光景だなぁと傍から見ていた、同僚はしみじみと思った。
女性の名前は、シヨリュ。
この街の警備隊に所属する女性隊員だ。小柄で尻尾のような長い黒髪をパタパタさせているのが、トレードマーク。説教されたい隊員ナンバーワンという声もある。
が、レイピアをもたせれば別人のように鋭い目つきになる。
軽い身体から繰り出される連撃は、暴風雨のようだと揶揄されていた。
防戦に回れば、捌ききれなくなるときが必ず来る。かといって、攻撃を当てることもまた難しいほどに身軽なのだった。
それが、シヨリュという女性である。
そして、ガハムサが惚れ込んだ女性でもあった。
ガハムサもまた、この街の警備隊に籍を置く剣士であった。
高い身長から繰り出される、重たい一撃は相手の武器を破壊することもあるという。
シヨリュとは真逆のパワーファイターである。
反面、性格は純情で柔和。一度、彼と話をすればほんわかするといわれるほどに、やや天然が入ってたりする。
そんな彼が、シヨリュに告白したのは三ヶ月ほど前に遡る。
出された条件が、「一騎打ちの模擬戦で勝つこと」だった。
これでも警備隊の中では上位だという自負があった、ガハムサ。
快く引き受け、サッとシヨリュとのデートでも取り付けようと思っていたのだったが、結果は惨敗。
その時の様子を、同僚Aは「子供にあしらわれる大人の図」と語っていた。
●
「どうすれば……いいんだ」
「100敗は、さすがにマズイよね。シヨリュちゃんも、呆れるかも」
「あき……れる?」
「いや、もしかしたら、そんな軟弱モノは嫌いかもしれないなぁ」
「きら……われる?」
街にある酒場の一つで、同僚Aはガハムサをからかっていた。
シヨリュのことになると、頭が回らなくなるらしい。
「いやはや、困ったものだねぇ」
「どどど、どうしよう。嫌われたら、オレ、生きていけねぇよぉ」
半べそをかきながら、同僚に訴えかける大柄な男がそこにいた。
同僚は、やりすぎたかなと思う反面、あらゆる意味で100戦目は節目だとも思っていた。こういうとき、自分には何も出来はしない。
自分ができないのならば、他力本願だ。
「外野のアドバイザーを招いたらどうだ?」
「アドバイザー?」
「そう。シヨリュに勝つために、お前がどうしたらいいのか考えてくれる人だな」
「そんな人がいるのか!」
天啓を得たといわんばかりの驚きを顔ににじませ、ガハムサは同僚の肩を掴んだ。
「まぁ、どう転ぶかはわからないが任せておけ」
何を任せろというのかは、わからないが、なんとかなるだろうと同僚は構える。
頼んだと何度も頭を下げる、ガハムサを裏切れないなとぼんやり思うのだった。
●
「ねえ、ガハムサと付き合うのは別にいいんでしょ?」
「……うん」
「なんで、また、やっちゃったのよ……」
「……うん」
一方コチラは、警備隊女子寮。
シヨリュもまた、同僚に慰められていた。
ガハムサのことは嫌いじゃない、むしろ、好ましくすら思っている。
あれだけ自分のことを一途に思ってくれるのだから、これほど嬉しい事もない。
で、あるのにも関わらず今日も説教してしまった。
「あんたが勝負に負けたくないってのもわかるけど、そろそろ潮時かもね」
「ふぇ!?」
「だって、100戦目でしょ? これでだめなら、ガハムサも諦めるんじゃない?」
「それは、困ります! 彼に勝ってもらわないと!」
「だったら、手加減しなよ」
それはできないと強く頭を振る。
そりゃそうかと友人も諦めムードだ。それができていれば、とっくにがハムサと付き合っているはずなのだから。
「まぁ、とにかく、どう転んでもうまくいくように考えておきな」
「……うん」
その顔は悩める恋する乙女のソレであったという。
リア充爆発しろ!というには、まだ早い。
●
「と、いうわけでガハムサさんを勝たせよう!という依頼です」
スタッフは黒い笑顔で告げる。
「相思相愛なのに、すれ違ってんですね、畜生うらやましくねぇぞ、こんちくしょう」
本音が駄々漏れであった。
「一応、シヨリュさんからもどう転んでもいいようにアドバイス欲しいとのことでした。ハハッ、友人にも恵まれていて羨ましいデスね」
このままではスタッフの精神に重大な影響が与えられかねない。
黒い笑顔のままスタッフは手短に内容を確認する。
「ガハムサさんがシヨリュさんと一騎打ちしても勝てるように鍛えたり、アドバイスしたり、武器を整えたりですかね。武器は模造刀なので、あまり大きな改造はできませんが」
それから、と告げて飲み物を一口。
「シヨリュさんがどう転んでも彼と付き合えるように、恋する乙女にアドバイスってところでしょうか。こっちはおまけみたいなものですが」
アフターケアも大事なお仕事である。
できれば、このスタッフにもアフターケアを……と同僚は思うのだった。
「リア充暴発しろ」
小さなスタッフの呟きは聞こえないことにした。
「好きだぁああああああ!」
練兵場に響く間違いな叫び。声の主は、身長2メートル近い大男、ガハムサである。
気合の叫びを繰り返しながら、ガハムサは大剣を振り回す。
対峙するのは、長い黒髪をうなじでまとめあげている女性だった。
「ふん」
一息で、ガハムサの大剣を捌いた女性は、そのままの勢いで懐に潜り込む。
密着するような距離から、真っ直ぐにレイピアを突き立てた。
「訓練用の模造刀でなければ、死んでいましたね」
鈴を転がしたような、愛らしい声で女性は告げる。
ガハムサの肩に頭頂部がくるぐらいの小柄な女性だ。
「これで、何度目でしたっけ」
「今月は12回目、通算99回だ」
ガハムサはゆっくりと後退し、レイピアの射程から外れながら答える。
クスクスと笑い声を上げながら、女性はレイピアを収めた。
「100回挑戦してもダメなら、本格的に私への愛が足りないのではないでしょうか」
「ぐ、ぐぬぬ。しかし、愛する相手に本気で刃を向けるというのは……」
臆面もなく言い放つガハムサの言葉に、女性は顔を背ける。
しまった、とガハムサが思った時には遅かった。
「私のほうが強い、と周りから思われたままでいいのですか?」
鈴なく声が冷ややかになる。
説教モードに切り替わったのだとガハムサは悟った。
条件反射的に、正座をして待つ。
「そもそも、あなたは私が出した条件を飲むといったのです。男に二言はない、約束を曲げるはずがないとあなたはおっしゃいましたよね」
こうなると、長くなる。
いつもながらの光景だなぁと傍から見ていた、同僚はしみじみと思った。
女性の名前は、シヨリュ。
この街の警備隊に所属する女性隊員だ。小柄で尻尾のような長い黒髪をパタパタさせているのが、トレードマーク。説教されたい隊員ナンバーワンという声もある。
が、レイピアをもたせれば別人のように鋭い目つきになる。
軽い身体から繰り出される連撃は、暴風雨のようだと揶揄されていた。
防戦に回れば、捌ききれなくなるときが必ず来る。かといって、攻撃を当てることもまた難しいほどに身軽なのだった。
それが、シヨリュという女性である。
そして、ガハムサが惚れ込んだ女性でもあった。
ガハムサもまた、この街の警備隊に籍を置く剣士であった。
高い身長から繰り出される、重たい一撃は相手の武器を破壊することもあるという。
シヨリュとは真逆のパワーファイターである。
反面、性格は純情で柔和。一度、彼と話をすればほんわかするといわれるほどに、やや天然が入ってたりする。
そんな彼が、シヨリュに告白したのは三ヶ月ほど前に遡る。
出された条件が、「一騎打ちの模擬戦で勝つこと」だった。
これでも警備隊の中では上位だという自負があった、ガハムサ。
快く引き受け、サッとシヨリュとのデートでも取り付けようと思っていたのだったが、結果は惨敗。
その時の様子を、同僚Aは「子供にあしらわれる大人の図」と語っていた。
●
「どうすれば……いいんだ」
「100敗は、さすがにマズイよね。シヨリュちゃんも、呆れるかも」
「あき……れる?」
「いや、もしかしたら、そんな軟弱モノは嫌いかもしれないなぁ」
「きら……われる?」
街にある酒場の一つで、同僚Aはガハムサをからかっていた。
シヨリュのことになると、頭が回らなくなるらしい。
「いやはや、困ったものだねぇ」
「どどど、どうしよう。嫌われたら、オレ、生きていけねぇよぉ」
半べそをかきながら、同僚に訴えかける大柄な男がそこにいた。
同僚は、やりすぎたかなと思う反面、あらゆる意味で100戦目は節目だとも思っていた。こういうとき、自分には何も出来はしない。
自分ができないのならば、他力本願だ。
「外野のアドバイザーを招いたらどうだ?」
「アドバイザー?」
「そう。シヨリュに勝つために、お前がどうしたらいいのか考えてくれる人だな」
「そんな人がいるのか!」
天啓を得たといわんばかりの驚きを顔ににじませ、ガハムサは同僚の肩を掴んだ。
「まぁ、どう転ぶかはわからないが任せておけ」
何を任せろというのかは、わからないが、なんとかなるだろうと同僚は構える。
頼んだと何度も頭を下げる、ガハムサを裏切れないなとぼんやり思うのだった。
●
「ねえ、ガハムサと付き合うのは別にいいんでしょ?」
「……うん」
「なんで、また、やっちゃったのよ……」
「……うん」
一方コチラは、警備隊女子寮。
シヨリュもまた、同僚に慰められていた。
ガハムサのことは嫌いじゃない、むしろ、好ましくすら思っている。
あれだけ自分のことを一途に思ってくれるのだから、これほど嬉しい事もない。
で、あるのにも関わらず今日も説教してしまった。
「あんたが勝負に負けたくないってのもわかるけど、そろそろ潮時かもね」
「ふぇ!?」
「だって、100戦目でしょ? これでだめなら、ガハムサも諦めるんじゃない?」
「それは、困ります! 彼に勝ってもらわないと!」
「だったら、手加減しなよ」
それはできないと強く頭を振る。
そりゃそうかと友人も諦めムードだ。それができていれば、とっくにがハムサと付き合っているはずなのだから。
「まぁ、とにかく、どう転んでもうまくいくように考えておきな」
「……うん」
その顔は悩める恋する乙女のソレであったという。
リア充爆発しろ!というには、まだ早い。
●
「と、いうわけでガハムサさんを勝たせよう!という依頼です」
スタッフは黒い笑顔で告げる。
「相思相愛なのに、すれ違ってんですね、畜生うらやましくねぇぞ、こんちくしょう」
本音が駄々漏れであった。
「一応、シヨリュさんからもどう転んでもいいようにアドバイス欲しいとのことでした。ハハッ、友人にも恵まれていて羨ましいデスね」
このままではスタッフの精神に重大な影響が与えられかねない。
黒い笑顔のままスタッフは手短に内容を確認する。
「ガハムサさんがシヨリュさんと一騎打ちしても勝てるように鍛えたり、アドバイスしたり、武器を整えたりですかね。武器は模造刀なので、あまり大きな改造はできませんが」
それから、と告げて飲み物を一口。
「シヨリュさんがどう転んでも彼と付き合えるように、恋する乙女にアドバイスってところでしょうか。こっちはおまけみたいなものですが」
アフターケアも大事なお仕事である。
できれば、このスタッフにもアフターケアを……と同僚は思うのだった。
「リア充暴発しろ」
小さなスタッフの呟きは聞こえないことにした。
リプレイ本文
●
とある街の警備隊詰所、その一角にある会議室にシヨリュは呼び出されていた。
何があるのかと恐る恐るやってきた彼女の前に現れたのは、6人のハンターたちだった。
「あなたがシヨリュちゃんね。はじめまして、私はナナート=アドラー(ka1668)よ」
よろしくね、と伸ばされた手をおずおずとシヨリュは握り返す。
状況を飲み込みきれないまま、ひと通り自己紹介を済ましていく。
『それじゃあ、話をしましょ』と書かれたスケッチブックをエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が広げる。
「まずは、ボクらが来た理由だよね」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の言に、頷くシヨリュ。
依頼内容を聞いている間に、すっかり顔が赤くなっていた。
「これって新手の惚気よねぇ」と内心思いつつ、ナナートは、
「お二人さんのキューピッド役というわけね」と締めくくった。
「つまり、彼のことが好きってのはたしかなんだよな?」
ゆでダコになったシヨリュへ、あっけからんとティーア・ズィルバーン(ka0122)は確認を取る。
「99回も付き合ってあげてるってことは、そりゃあね」
アルトが重ねるようにいえば、シヨリュも認めるしかない。
声には出さず、小さく頷く。それだけでも、エヴァを始め、全員察することが出来た。
べた惚れである。
さすがに口には出さないが、ティーアやコーネリア・デュラン(ka0504)は複雑な状況に苦笑しそうになる。
「手加減して貰って、お付き合い……はガハムサさんも嬉しくはないんじゃないかな」
具体的な話をする段階になって、コーネリアがまず口に出した。
エヴァも意見を示す。
『プライドも傷つけそう』
「そもそも、手加減できないし」とシヨリュはしれっと言ってのける。
「手加減しているのは、向こうだもの」
語気を強めて、宣言するシヨリュにミィリア(ka2689)が同調する。
「なんだか気持ちはわかる気がするのでござるっ!」
好きな人だから、とかそんな理由で手加減されては怒りたくもなる。
「女としての前に、一人の武人としても認めて欲しい感じ?」
「そう、それ!」
ミィリアの言葉に、シヨリュが今度は同調した。
「手加減は出来ない。でも、彼とは付き合いたい、か」
なかなか難しいところよねぇ、とナナートは苦笑する。
手加減云々を決めるにも、シヨリュの腕前はそもそもいかほどか。
「それじゃ、君たち二人の未来の為にちょっと手合わせ願おうか?」
ティーアの願い出をシヨリュは快く引き受けた。
「なるほど、ね」
ティーアの後、アルトも非覚醒状態で試合を挑んでいた。
ある程度打ち合ったところで、剣を収めていた。
おそらく覚醒していない者の中では、上の方に位置すると思えた。
「ガハムサさんが本気にならないといけないのも、わかるよ」
手加減して捌ける類の剣技ではない。
癖を覚えるべく、ティーアたちは幾度か模擬戦を繰り返す。
ほどよく疲れたところで、再び話し合いに戻った。
ナナートは咳払いをすると、口火を切った。
「今回もガハムサがシヨリュちゃんに負けたら、どうするのかを考えておきましょう」
「諦めない彼の気持ちを認めて、理想の彼氏になるまで待ってるから頑張れ! ではダメでしょうか」
「その言い方だと、現状維持になってしまうだろうね」
『シヨリュから、告白』
「はっきり、そうした方がいいわよねぇ。『貴方が私より強かろうが弱かろうが関係ない。私もあなたが好き』って、素直に言っちゃえばぁ……?」
コーネリアの意見に端を発し、シヨリュが告白する流れでまとまってきた。
当の本人は、あうあうと口を金魚のようにパクつかせて固まっていた。
まるで、女子会のような会話にティーアは少し距離をとって待っていた。なお、ナナートはこの会話に順応していた。
『ヘタレたところも好きです。今度は私の隣で共に戦いませんか』
これは、エヴァの案。
「『百回も私に挑んだ貴方の想いは本物。それに免じて付き合ってあげる』……とかどうかしら」とナナートも追随。
しかしながら、これはあくまでシヨリュが勝った時の話。本来ならガハムサが勝てばいいのである。
素直になればいいのよというナナートの言葉に頷くが、不安な表情だ。
「でも、今回ばかりはガハムサも真剣に向かってきてくれると思うんだ」
ミィリアがぐっと拳を握って告げる。
「だから、シヨリュも今までどおり本気でレッツゴーでござる!」
根拠はなくとも勢いで、シヨリュは決意を固める。
そんな彼女に、ティーアが確認をする。
「そういや、たしかガハムサと君が付き合う条件って『模擬戦で勝つ』ってだけなんだよな?」
それは間違いないという回答を得て、ハンターたちはその場を後にするのだった。
●
エヴァたちが、訓練場にいるというガハムサに会いに来たとき、すでに彼は倒れていた。
両手両足を縮め、横たわる姿は某漫画のキャラを思わせる。
「貴方のしてることはただの侮辱よ、『巫山戯るなよクソガキ』とでも言ってあげるわ」
キッパリと冷静に、ガハムサを見下ろしてエリシャ・カンナヴィ(ka0140)が言い放つ。
その側では、エリシャと先に来ていたマッシュ・アクラシス(ka0771)が複雑な表情を浮かべていた。
ことは、シヨリュとエヴァたちが接触した頃まで遡る。
「さて、私も一度お手合わせしたいところです」
挨拶もそこそこに、マッシュが模擬剣を手に取った。
望むところと、ガハムサも模擬戦用の大剣を手に構える。エリシャは、まだ静観していた。
ガハムサの攻撃スタイルは、おおぶりの一撃狙い。マッシュは、間合いから微妙に外れる位置に立つ。
「はじめましょうか」
攻撃を誘うように、ゆらりと動き、ガハムサの動きを観察する。
「ぜぁああああ!」と相手を威嚇するように声を発し、大剣を振るう。空振ったところで、刃を返し二撃目を狙う。それを外せば、横薙ぎ、叩き込み、振り上げ等の多彩な動作で大剣を当てに行く。
集中していても、時折、一撃を食らいそうになる。
わざと、手にした模擬剣で受け止めてみたが、刃が折れそうなほどに力強い。
「弾き飛びそうですね」
非覚醒者であれば、十分な力技であろう。
ただし、無駄が多いようにも感じられた。
タイミングを合わせて踏み込めば、懐に潜り込める。剣を互いに向け合ったところで動きが止まった。
「こんなところでしょうか」
「ありがとうございました」
一礼したガハムサが顔を上げると、今度はエリシャが立っていた。
「今度は私よ」
エリシャが相手となった途端、ガハムサが一瞬こわばったのがわかる。
それでも、武器を構えてはいた。
「油断していると、怪我では済まないわよ?」
ガハムサの目には、エリシャが一瞬消えたようにも見えただろう。最高速度にまで加速した、エリシャは木刀を容赦なくガハムサへと叩きこむ。
マッシュから見ても無駄な動きの多いガハムサだ。エリシャの攻撃を防ぐのも手一杯、あるいは多分に漏れていた。
「ぐぅ、ぬぅ、おぅ!?」
「避けないと、本番前に戦えなくなるわよ?」
タフな分、攻撃を受けても倒れない。
防戦一方の最中、エリシャは攻撃ならぬ口撃も交える。
「好きな女だから攻撃できない?」
ビクッと身体を震わせた隙に、背中に二撃。
「貴方はその女の何処に惚れたのよ?」
しどろもどろになっている間に、脚部へ一撃。
「顔? 性格? それともただの女だから惚れたのかしらね?」
嘲るようにエリシャに鼻で笑われている間に、腕へもらって武器を取り落とす。
「ほら、拾うのよ。まずは私の攻撃を防ぐこと」
それができるまで、終わらせるつもりはなかった。
「落ち着いてください。今は攻撃を捨てたほうが得策です」
離れた位置から、マッシュがアドバイスを飛ばす。
そうこうしている間に、多少は無様ながらも防げるようになったのだが……。
「ぐ、ぐぅう」
胴部へトドメとばかりに喰らってしまった一撃に、ガハムサは倒れこむのだった。
ここでシヨリュに会いに行っていたハンターが合流し、「貴方のしてることはただの屈辱よ」とエリシャが吐く場面につながるのである。
●
模擬戦当日、シヨリュの前に姿を見せたガハムサは顔立ちからして違っていた。
最初に取り組んだ意識改革の成果が如実に現れていた。
『話を聞く限り、彼女もあなたにべた惚れなんだから』
スケッチブックを見せながら、エヴァはチョップを放つ。
この情報を全くもって予想していなかったガハムサは、驚いた顔で固まっていた。
『貴方が感じたのと同じ、「愛する人に剣を向ける躊躇や心苦しさ」を99回味あわせてるって考えなさい』
きっぱりと示して、ふんっと鼻を鳴らす。
「99回も付き合ってくれるとか普通ありえないから」
アルトも、同調して告げる。
「いつまで彼女を待たせるつもりなのかな?」
「勝ち取るんじゃなくて、頼るに値する人物だと思わせるのでござる!」
ミィリアも被せる。
武人同士として、全力でアピールしていくのだと告げるのだった。
今日の表情からは、彼女を本気で迎え入れる覚悟と気合が滲み出ていた。
そして、装備も少し異なっていた。普段は両手剣を用いるガハムサだが、長剣と盾というスタイルに変更していた。
「パワーVSテクニックなら、長引けば長引く程有利になるわよね」
「そうだね。彼女のスピードが翳ってきたら勝負をかけるといいんじゃないかな」
このあたりはナナートとアルトのアドバイスだ。
「速い攻撃に目と身体をならさないといけないわね」
エリシャが告げると何人かが、武器を取る。
シヨリュと模擬戦を行った、ティーアとアルト。それから、エリシャが買って出る。
癖や動き、速さを再現しつつ、刃を交える。
『盾で相手を押さえこむ、というのもあるけれど』
エヴァの提案もあり、盾を持つことになった。
「シヨリュのスタミナが切れた頃を見計らって反撃開始よ。動きの鈍った彼女に貴方が負けるとは思えないわよん」
ナナートはそういうが、まずは防げなければ意味は無い。
まだまだ、その点は鍛えなければならない。
「それじゃ、ちょっと頑張るかヘタレ」
ティーアから再び継続の合図が出されるのだった。
この時の訓練を経て、ガハムサはシヨリュの攻撃に対処できていた。
具体的には盾と長剣でひたすらに捌き続けているだけなのだが。
「……っ」
それから、今日は無駄に愛を叫ばない。
コーネリアから、試合中に「好き」とか叫ばず、試合に集中するように厳命されていた。
恋愛感情が、好きならぬ隙を作っている可能性はある。雑念なのだ。
「好意は勝った後で、思う存分、伝えればいいです」
そういったコーネリアの言葉を受け、意識は試合に向いていた。
ガハムサの戦い方に、シヨリュは戸惑いを見せていた。しかし、動きは健在。暴風雨のような剣戟は、幾重にも飛ぶ。
「……っ!?」
だが、驚きは隠せない。ガハムサは剣を振りきっていた。
愛するものを傷つけたくないという想いは、確かに残っているのだが、それでは勝てない。
「もう少し、彼女を信用してもいいのでは」
マッシュの指摘は、武人としてのガハムサに深く突き刺さった。
「そうでござる! きっと、シヨリュも一人の武人として認めて欲しいはず!」と力強くミィリアも続ける。
「拳は口よりも語る、これミィリアの座右の銘的なやつなんだけどねっ? 行動で示すっていうのはやっぱり一番わかりやすいと思うのでござる!」
そのためにも、武器を振り切り、礼を失することなく立ち向かう。
ガハムサの攻撃は、真っ直ぐにシヨリュを捉えていた。
脚元を狙うことで、機動力を削ぎつつスタミナを奪う。
「……む」
だが、それでもシヨリュの方が一枚上手か。
ガハムサの剣に合わせ、刃を滑らせる。捌くというよりは、受け流す形だ。
「まだ余力が残っているでござる」
感心するようにミィリアが口にする。
もちろん、この技もアルトやティーアは知っていた。再現が難しいため、ガハムサに対してはあまり見せられなかった部分でもある。
結果として、ガハムサは苦しめられていく。
「まだ、まだぁ!」
「くっ」
エヴァに言われたように盾で押しやろうとするが、シヨリュは闘牛士のようにすらりと交わしてレイピアを突き出す。盾を持っていなければ、恋愛が即死だった。
「そろそろ、かな」
静観していたマッシュがポツリと漏らす。
シヨリュは体力が削れながらも、最小限の動きに切り替えて対処していた。逆にガハムサの動きはやや粗くなる。
隙を作ればレイピアが突き出てくる。
『逆転の発想』
ガハムサの中に、エヴァの書いた文字がよぎった。
避けずにまっすぐ立ち向かい、ガハムサは長剣を投げ捨ててなんと、レイピアを掴んだ。
これが真剣であれば、間違いなく大怪我であるが、そのまま引き寄せると力任せにシヨリュを抱きとめたのである。
力強く抱きしめられた瞬間を見たエリシャは、はるか彼方におわしますスタッフの「リア充爆発しろ」という声が聞こえた気がした。
ともかく、この状態では武器を繰ることができない。さらには、とっさの事に武器を取り落としてしまった。
「オレの勝ちだ」と誇らしげにいうガハムサに、シヨリュは「う、うん」と戸惑いながら認めるしかなかったのである。
逆転の発想、これはティーアの提案だった。
対策も整え終わった時のことだ。
「んじゃ、俺からそれでもダメだったときの切り札を伝授しよう」
それこそ盾をも投げ捨てた単純な方法、レイピアを突き立てられそうになったら押し倒す、である。
本来であれば避けたりするところを、あえて踏み込んで押し倒す。
模擬戦で勝つことが条件であれば、どのような状況下でも勝てばよいのだという詭弁すれすれの方法。
「本当の戦いに則した模擬戦とでもいえばいい。急所に一撃喰らっても、勝てればいいのだから」
淡々といってのける。
ただ、それだけでは弱いということになり、今回の方法が取られたことになる。
結果として、シヨリュはこの方法を認めてくれた。
二人が正式に付き合うことになり、盛り上がる訓練場でエヴァたちも祝福を飛ばしていた。
エリシャのようにシヨリュに対して、祝辞を述べるものもいれば、マッシュのように静観のまま立ち去るものもいた。
そんな中、アルトは若い警備隊に声をかけていた。
「少しいいかい? とある場所で働くスタッフが、合コンしたいっていっていてね……」
荒ぶる受付スタッフのため、もう一働きしているのだ。
そのことが、新たな恋の事件を呼び起こすことになるかどうか。
今はまだ、誰も知らない。
とある街の警備隊詰所、その一角にある会議室にシヨリュは呼び出されていた。
何があるのかと恐る恐るやってきた彼女の前に現れたのは、6人のハンターたちだった。
「あなたがシヨリュちゃんね。はじめまして、私はナナート=アドラー(ka1668)よ」
よろしくね、と伸ばされた手をおずおずとシヨリュは握り返す。
状況を飲み込みきれないまま、ひと通り自己紹介を済ましていく。
『それじゃあ、話をしましょ』と書かれたスケッチブックをエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が広げる。
「まずは、ボクらが来た理由だよね」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の言に、頷くシヨリュ。
依頼内容を聞いている間に、すっかり顔が赤くなっていた。
「これって新手の惚気よねぇ」と内心思いつつ、ナナートは、
「お二人さんのキューピッド役というわけね」と締めくくった。
「つまり、彼のことが好きってのはたしかなんだよな?」
ゆでダコになったシヨリュへ、あっけからんとティーア・ズィルバーン(ka0122)は確認を取る。
「99回も付き合ってあげてるってことは、そりゃあね」
アルトが重ねるようにいえば、シヨリュも認めるしかない。
声には出さず、小さく頷く。それだけでも、エヴァを始め、全員察することが出来た。
べた惚れである。
さすがに口には出さないが、ティーアやコーネリア・デュラン(ka0504)は複雑な状況に苦笑しそうになる。
「手加減して貰って、お付き合い……はガハムサさんも嬉しくはないんじゃないかな」
具体的な話をする段階になって、コーネリアがまず口に出した。
エヴァも意見を示す。
『プライドも傷つけそう』
「そもそも、手加減できないし」とシヨリュはしれっと言ってのける。
「手加減しているのは、向こうだもの」
語気を強めて、宣言するシヨリュにミィリア(ka2689)が同調する。
「なんだか気持ちはわかる気がするのでござるっ!」
好きな人だから、とかそんな理由で手加減されては怒りたくもなる。
「女としての前に、一人の武人としても認めて欲しい感じ?」
「そう、それ!」
ミィリアの言葉に、シヨリュが今度は同調した。
「手加減は出来ない。でも、彼とは付き合いたい、か」
なかなか難しいところよねぇ、とナナートは苦笑する。
手加減云々を決めるにも、シヨリュの腕前はそもそもいかほどか。
「それじゃ、君たち二人の未来の為にちょっと手合わせ願おうか?」
ティーアの願い出をシヨリュは快く引き受けた。
「なるほど、ね」
ティーアの後、アルトも非覚醒状態で試合を挑んでいた。
ある程度打ち合ったところで、剣を収めていた。
おそらく覚醒していない者の中では、上の方に位置すると思えた。
「ガハムサさんが本気にならないといけないのも、わかるよ」
手加減して捌ける類の剣技ではない。
癖を覚えるべく、ティーアたちは幾度か模擬戦を繰り返す。
ほどよく疲れたところで、再び話し合いに戻った。
ナナートは咳払いをすると、口火を切った。
「今回もガハムサがシヨリュちゃんに負けたら、どうするのかを考えておきましょう」
「諦めない彼の気持ちを認めて、理想の彼氏になるまで待ってるから頑張れ! ではダメでしょうか」
「その言い方だと、現状維持になってしまうだろうね」
『シヨリュから、告白』
「はっきり、そうした方がいいわよねぇ。『貴方が私より強かろうが弱かろうが関係ない。私もあなたが好き』って、素直に言っちゃえばぁ……?」
コーネリアの意見に端を発し、シヨリュが告白する流れでまとまってきた。
当の本人は、あうあうと口を金魚のようにパクつかせて固まっていた。
まるで、女子会のような会話にティーアは少し距離をとって待っていた。なお、ナナートはこの会話に順応していた。
『ヘタレたところも好きです。今度は私の隣で共に戦いませんか』
これは、エヴァの案。
「『百回も私に挑んだ貴方の想いは本物。それに免じて付き合ってあげる』……とかどうかしら」とナナートも追随。
しかしながら、これはあくまでシヨリュが勝った時の話。本来ならガハムサが勝てばいいのである。
素直になればいいのよというナナートの言葉に頷くが、不安な表情だ。
「でも、今回ばかりはガハムサも真剣に向かってきてくれると思うんだ」
ミィリアがぐっと拳を握って告げる。
「だから、シヨリュも今までどおり本気でレッツゴーでござる!」
根拠はなくとも勢いで、シヨリュは決意を固める。
そんな彼女に、ティーアが確認をする。
「そういや、たしかガハムサと君が付き合う条件って『模擬戦で勝つ』ってだけなんだよな?」
それは間違いないという回答を得て、ハンターたちはその場を後にするのだった。
●
エヴァたちが、訓練場にいるというガハムサに会いに来たとき、すでに彼は倒れていた。
両手両足を縮め、横たわる姿は某漫画のキャラを思わせる。
「貴方のしてることはただの侮辱よ、『巫山戯るなよクソガキ』とでも言ってあげるわ」
キッパリと冷静に、ガハムサを見下ろしてエリシャ・カンナヴィ(ka0140)が言い放つ。
その側では、エリシャと先に来ていたマッシュ・アクラシス(ka0771)が複雑な表情を浮かべていた。
ことは、シヨリュとエヴァたちが接触した頃まで遡る。
「さて、私も一度お手合わせしたいところです」
挨拶もそこそこに、マッシュが模擬剣を手に取った。
望むところと、ガハムサも模擬戦用の大剣を手に構える。エリシャは、まだ静観していた。
ガハムサの攻撃スタイルは、おおぶりの一撃狙い。マッシュは、間合いから微妙に外れる位置に立つ。
「はじめましょうか」
攻撃を誘うように、ゆらりと動き、ガハムサの動きを観察する。
「ぜぁああああ!」と相手を威嚇するように声を発し、大剣を振るう。空振ったところで、刃を返し二撃目を狙う。それを外せば、横薙ぎ、叩き込み、振り上げ等の多彩な動作で大剣を当てに行く。
集中していても、時折、一撃を食らいそうになる。
わざと、手にした模擬剣で受け止めてみたが、刃が折れそうなほどに力強い。
「弾き飛びそうですね」
非覚醒者であれば、十分な力技であろう。
ただし、無駄が多いようにも感じられた。
タイミングを合わせて踏み込めば、懐に潜り込める。剣を互いに向け合ったところで動きが止まった。
「こんなところでしょうか」
「ありがとうございました」
一礼したガハムサが顔を上げると、今度はエリシャが立っていた。
「今度は私よ」
エリシャが相手となった途端、ガハムサが一瞬こわばったのがわかる。
それでも、武器を構えてはいた。
「油断していると、怪我では済まないわよ?」
ガハムサの目には、エリシャが一瞬消えたようにも見えただろう。最高速度にまで加速した、エリシャは木刀を容赦なくガハムサへと叩きこむ。
マッシュから見ても無駄な動きの多いガハムサだ。エリシャの攻撃を防ぐのも手一杯、あるいは多分に漏れていた。
「ぐぅ、ぬぅ、おぅ!?」
「避けないと、本番前に戦えなくなるわよ?」
タフな分、攻撃を受けても倒れない。
防戦一方の最中、エリシャは攻撃ならぬ口撃も交える。
「好きな女だから攻撃できない?」
ビクッと身体を震わせた隙に、背中に二撃。
「貴方はその女の何処に惚れたのよ?」
しどろもどろになっている間に、脚部へ一撃。
「顔? 性格? それともただの女だから惚れたのかしらね?」
嘲るようにエリシャに鼻で笑われている間に、腕へもらって武器を取り落とす。
「ほら、拾うのよ。まずは私の攻撃を防ぐこと」
それができるまで、終わらせるつもりはなかった。
「落ち着いてください。今は攻撃を捨てたほうが得策です」
離れた位置から、マッシュがアドバイスを飛ばす。
そうこうしている間に、多少は無様ながらも防げるようになったのだが……。
「ぐ、ぐぅう」
胴部へトドメとばかりに喰らってしまった一撃に、ガハムサは倒れこむのだった。
ここでシヨリュに会いに行っていたハンターが合流し、「貴方のしてることはただの屈辱よ」とエリシャが吐く場面につながるのである。
●
模擬戦当日、シヨリュの前に姿を見せたガハムサは顔立ちからして違っていた。
最初に取り組んだ意識改革の成果が如実に現れていた。
『話を聞く限り、彼女もあなたにべた惚れなんだから』
スケッチブックを見せながら、エヴァはチョップを放つ。
この情報を全くもって予想していなかったガハムサは、驚いた顔で固まっていた。
『貴方が感じたのと同じ、「愛する人に剣を向ける躊躇や心苦しさ」を99回味あわせてるって考えなさい』
きっぱりと示して、ふんっと鼻を鳴らす。
「99回も付き合ってくれるとか普通ありえないから」
アルトも、同調して告げる。
「いつまで彼女を待たせるつもりなのかな?」
「勝ち取るんじゃなくて、頼るに値する人物だと思わせるのでござる!」
ミィリアも被せる。
武人同士として、全力でアピールしていくのだと告げるのだった。
今日の表情からは、彼女を本気で迎え入れる覚悟と気合が滲み出ていた。
そして、装備も少し異なっていた。普段は両手剣を用いるガハムサだが、長剣と盾というスタイルに変更していた。
「パワーVSテクニックなら、長引けば長引く程有利になるわよね」
「そうだね。彼女のスピードが翳ってきたら勝負をかけるといいんじゃないかな」
このあたりはナナートとアルトのアドバイスだ。
「速い攻撃に目と身体をならさないといけないわね」
エリシャが告げると何人かが、武器を取る。
シヨリュと模擬戦を行った、ティーアとアルト。それから、エリシャが買って出る。
癖や動き、速さを再現しつつ、刃を交える。
『盾で相手を押さえこむ、というのもあるけれど』
エヴァの提案もあり、盾を持つことになった。
「シヨリュのスタミナが切れた頃を見計らって反撃開始よ。動きの鈍った彼女に貴方が負けるとは思えないわよん」
ナナートはそういうが、まずは防げなければ意味は無い。
まだまだ、その点は鍛えなければならない。
「それじゃ、ちょっと頑張るかヘタレ」
ティーアから再び継続の合図が出されるのだった。
この時の訓練を経て、ガハムサはシヨリュの攻撃に対処できていた。
具体的には盾と長剣でひたすらに捌き続けているだけなのだが。
「……っ」
それから、今日は無駄に愛を叫ばない。
コーネリアから、試合中に「好き」とか叫ばず、試合に集中するように厳命されていた。
恋愛感情が、好きならぬ隙を作っている可能性はある。雑念なのだ。
「好意は勝った後で、思う存分、伝えればいいです」
そういったコーネリアの言葉を受け、意識は試合に向いていた。
ガハムサの戦い方に、シヨリュは戸惑いを見せていた。しかし、動きは健在。暴風雨のような剣戟は、幾重にも飛ぶ。
「……っ!?」
だが、驚きは隠せない。ガハムサは剣を振りきっていた。
愛するものを傷つけたくないという想いは、確かに残っているのだが、それでは勝てない。
「もう少し、彼女を信用してもいいのでは」
マッシュの指摘は、武人としてのガハムサに深く突き刺さった。
「そうでござる! きっと、シヨリュも一人の武人として認めて欲しいはず!」と力強くミィリアも続ける。
「拳は口よりも語る、これミィリアの座右の銘的なやつなんだけどねっ? 行動で示すっていうのはやっぱり一番わかりやすいと思うのでござる!」
そのためにも、武器を振り切り、礼を失することなく立ち向かう。
ガハムサの攻撃は、真っ直ぐにシヨリュを捉えていた。
脚元を狙うことで、機動力を削ぎつつスタミナを奪う。
「……む」
だが、それでもシヨリュの方が一枚上手か。
ガハムサの剣に合わせ、刃を滑らせる。捌くというよりは、受け流す形だ。
「まだ余力が残っているでござる」
感心するようにミィリアが口にする。
もちろん、この技もアルトやティーアは知っていた。再現が難しいため、ガハムサに対してはあまり見せられなかった部分でもある。
結果として、ガハムサは苦しめられていく。
「まだ、まだぁ!」
「くっ」
エヴァに言われたように盾で押しやろうとするが、シヨリュは闘牛士のようにすらりと交わしてレイピアを突き出す。盾を持っていなければ、恋愛が即死だった。
「そろそろ、かな」
静観していたマッシュがポツリと漏らす。
シヨリュは体力が削れながらも、最小限の動きに切り替えて対処していた。逆にガハムサの動きはやや粗くなる。
隙を作ればレイピアが突き出てくる。
『逆転の発想』
ガハムサの中に、エヴァの書いた文字がよぎった。
避けずにまっすぐ立ち向かい、ガハムサは長剣を投げ捨ててなんと、レイピアを掴んだ。
これが真剣であれば、間違いなく大怪我であるが、そのまま引き寄せると力任せにシヨリュを抱きとめたのである。
力強く抱きしめられた瞬間を見たエリシャは、はるか彼方におわしますスタッフの「リア充爆発しろ」という声が聞こえた気がした。
ともかく、この状態では武器を繰ることができない。さらには、とっさの事に武器を取り落としてしまった。
「オレの勝ちだ」と誇らしげにいうガハムサに、シヨリュは「う、うん」と戸惑いながら認めるしかなかったのである。
逆転の発想、これはティーアの提案だった。
対策も整え終わった時のことだ。
「んじゃ、俺からそれでもダメだったときの切り札を伝授しよう」
それこそ盾をも投げ捨てた単純な方法、レイピアを突き立てられそうになったら押し倒す、である。
本来であれば避けたりするところを、あえて踏み込んで押し倒す。
模擬戦で勝つことが条件であれば、どのような状況下でも勝てばよいのだという詭弁すれすれの方法。
「本当の戦いに則した模擬戦とでもいえばいい。急所に一撃喰らっても、勝てればいいのだから」
淡々といってのける。
ただ、それだけでは弱いということになり、今回の方法が取られたことになる。
結果として、シヨリュはこの方法を認めてくれた。
二人が正式に付き合うことになり、盛り上がる訓練場でエヴァたちも祝福を飛ばしていた。
エリシャのようにシヨリュに対して、祝辞を述べるものもいれば、マッシュのように静観のまま立ち去るものもいた。
そんな中、アルトは若い警備隊に声をかけていた。
「少しいいかい? とある場所で働くスタッフが、合コンしたいっていっていてね……」
荒ぶる受付スタッフのため、もう一働きしているのだ。
そのことが、新たな恋の事件を呼び起こすことになるかどうか。
今はまだ、誰も知らない。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/27 10:35:58 |
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相談卓 エリシャ・カンナヴィ(ka0140) エルフ|13才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/11/27 14:07:31 |