ゲスト
(ka0000)
旅するは無名なる蒼の歌い手
マスター:春野紅葉

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~12人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/13 07:30
- 完成日
- 2017/12/26 22:06
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「おや――まぁ、生き残りがおりましたか」
暗い、闇のような黒が、人で言うなら口の辺りに赤い弧を作る。
周囲に充満するのは鉄のような臭いと地獄の底と錯覚するほどの悲痛なうめき声。
「ひっ――!」
「ふふ、ふふふ、ふふふふ……えぇ、えぇ。善き善き。うふふふふ」
嗤う。嗤う。何かを思いついたかのように。楽しげに弧を深めて。
「えぇ、えぇ。貴方はそのままにしておきましょう。前回のはいつの間にか終わっておりました。貴方はどんな風に私を楽しませてくれるのでしょう。えぇ、愉快です。踊ってくださいね。うふふふ」
黒が、赤が、視界一杯を覆いつくした。
●
「ぁ――ぁぁぁああぁぁぁ!!!!」
その叫び声で少女は跳び起きた。激しい動悸で胸は苦しく、暴風のごとき音がうるさく耳を打つ。全身の血という血が沸騰し、今にも破裂しそうだった。
「ヴィオラさん!! 大丈夫ですか!?」
「はぁ、はぁ、はぁ……だ、大丈夫。いつものあれだよ……」
少女――ヴィオラは深呼吸を繰り返しながら意識して笑う。入ってきた男は一旦、ホッとした様子を見せた後、こちらへ歩み寄ってきた。
「……日程を変えますか?」
「そんな。仕事を選んでなんていられないでしょ?」
心配そうにこちらを見る男に対して、緊張の解けてきたままに笑う。
「それは……確かにそうですが……それでも君はまだ無名ですが、身体は資本ですよ?」
「……うん。それでも、だよ。それに次のところにいる人はもしかしたら……なんでしょ?」
「詳しいところは分かりません。ですが、以前に受けた話を総合するに、その可能性は高いでしょう」
一年近く、巡業しながら探し続けてきた、ある村の生き残り。その生き残りが、ある町にてハンターの助力を受けて大狼を討伐したという話を聞いて、遠路はるばるここまで来た。もう少し、もう少しでその町へ着く。
あれの戯れに侵された悲劇の一端が、すぐ近くにいるかもしれない。その誰かに会うためになら、どこへだって向かう。自分を除いて、村の人達を全て生きた屍に変えたアイツが何をしたかったのか、そうとは違う道を辿ってみせるために、何でもすると決めたからこそ。
笑みを残して、壁に掛けられている自分の衣装を見る。
蒼を基調とした静かな印象を与えつつも、フリルがかわいらしい。
歌う時に自然と身体が動いてしまう事を考慮されて、スカートは短くなっているのが着ているとき少しだけ恥ずかしいが、着ているときの見知らぬ人たちの声援は、心地よくて、歌っているときだけはアイツのことさえ忘れられた。
「あっ、そういえば。あの町へ行くまでの護衛の人達は来たの?」
「……そろそろだとは思います」
「良かった……じゃあ、そろそろ出発かな?」
ベッドからもぞもぞと降り、立ち上がろうとしてすとんとベッドへと落ちた。
「あらら……?」
「もう少しお休みになった方がいいでしょう。まだ出発までは早いですよ」
「う、うん……そうする……ああ、でも、明日って向かう先はずっと草原なんだよね?」
「ええ、そのはずですが」
「じゃあ、じゃあ! 青空コンサートとかできないかな!?」
「……その体調でなら駄目ですよ?」
「うん! よくするから! いいよね!?」
「……体調によっては許可します」
「やったー! 楽しみだなぁ……えへへっ」
ヴィオラは笑って、ベッドに寝転んだ。
「おや――まぁ、生き残りがおりましたか」
暗い、闇のような黒が、人で言うなら口の辺りに赤い弧を作る。
周囲に充満するのは鉄のような臭いと地獄の底と錯覚するほどの悲痛なうめき声。
「ひっ――!」
「ふふ、ふふふ、ふふふふ……えぇ、えぇ。善き善き。うふふふふ」
嗤う。嗤う。何かを思いついたかのように。楽しげに弧を深めて。
「えぇ、えぇ。貴方はそのままにしておきましょう。前回のはいつの間にか終わっておりました。貴方はどんな風に私を楽しませてくれるのでしょう。えぇ、愉快です。踊ってくださいね。うふふふ」
黒が、赤が、視界一杯を覆いつくした。
●
「ぁ――ぁぁぁああぁぁぁ!!!!」
その叫び声で少女は跳び起きた。激しい動悸で胸は苦しく、暴風のごとき音がうるさく耳を打つ。全身の血という血が沸騰し、今にも破裂しそうだった。
「ヴィオラさん!! 大丈夫ですか!?」
「はぁ、はぁ、はぁ……だ、大丈夫。いつものあれだよ……」
少女――ヴィオラは深呼吸を繰り返しながら意識して笑う。入ってきた男は一旦、ホッとした様子を見せた後、こちらへ歩み寄ってきた。
「……日程を変えますか?」
「そんな。仕事を選んでなんていられないでしょ?」
心配そうにこちらを見る男に対して、緊張の解けてきたままに笑う。
「それは……確かにそうですが……それでも君はまだ無名ですが、身体は資本ですよ?」
「……うん。それでも、だよ。それに次のところにいる人はもしかしたら……なんでしょ?」
「詳しいところは分かりません。ですが、以前に受けた話を総合するに、その可能性は高いでしょう」
一年近く、巡業しながら探し続けてきた、ある村の生き残り。その生き残りが、ある町にてハンターの助力を受けて大狼を討伐したという話を聞いて、遠路はるばるここまで来た。もう少し、もう少しでその町へ着く。
あれの戯れに侵された悲劇の一端が、すぐ近くにいるかもしれない。その誰かに会うためになら、どこへだって向かう。自分を除いて、村の人達を全て生きた屍に変えたアイツが何をしたかったのか、そうとは違う道を辿ってみせるために、何でもすると決めたからこそ。
笑みを残して、壁に掛けられている自分の衣装を見る。
蒼を基調とした静かな印象を与えつつも、フリルがかわいらしい。
歌う時に自然と身体が動いてしまう事を考慮されて、スカートは短くなっているのが着ているとき少しだけ恥ずかしいが、着ているときの見知らぬ人たちの声援は、心地よくて、歌っているときだけはアイツのことさえ忘れられた。
「あっ、そういえば。あの町へ行くまでの護衛の人達は来たの?」
「……そろそろだとは思います」
「良かった……じゃあ、そろそろ出発かな?」
ベッドからもぞもぞと降り、立ち上がろうとしてすとんとベッドへと落ちた。
「あらら……?」
「もう少しお休みになった方がいいでしょう。まだ出発までは早いですよ」
「う、うん……そうする……ああ、でも、明日って向かう先はずっと草原なんだよね?」
「ええ、そのはずですが」
「じゃあ、じゃあ! 青空コンサートとかできないかな!?」
「……その体調でなら駄目ですよ?」
「うん! よくするから! いいよね!?」
「……体調によっては許可します」
「やったー! 楽しみだなぁ……えへへっ」
ヴィオラは笑って、ベッドに寝転んだ。
リプレイ本文
●
やや肌寒い季節、冬空に穏やかな日差しが輝いている。
「あなたが依頼主ですか、はじめまして、普段は魔導機械の整備士をしてる機導師の仙堂 紫苑です。依頼中の短い間ですが、よろしくお願いします」
仙堂 紫苑(ka5953)は普段より二割増しで丁寧に言って、男性を見た。
「はい、皆さま宜しくお願い致します。お金は払いますので、どうか私――というより、ヴィオラを次の町へと連れて行ってください」
「わふーっ。あなたがヴィオラさんですー? 僕、アルマって言いますっ。よろしくですー!」
紫苑の横にいたアルマ・A・エインズワース(ka4901)は、男性の横で挨拶を交わしている少女に声を掛けた。歌手、他社の前に出て歌う職業ゆえか、やや化粧をしているように見える。
「は、はい。よろしくお願いします!」
アルマの勢いにやや圧されるようになりながらも、ヴィオラは穏やかに笑って返す。穏やかなアルマと視線を交えた。
「こちらは僕の参謀のシオンですっ。とってもすごんですよ!」
尻尾が生えていたら自慢げにぶんぶんと振れていそうなアルマを見て、おおきなわんこみたいだな、などと考えながら、隣にいる紫苑にも挨拶する。
「アルマはこんなんですけど、仕事に支障はないのでお気になさらず……」
「んきゅ? ……あっ、あっ、おみみひっぱったらだめですー!? いたいですー!?」
勢いよく語り掛けているアルマの耳を引っ張りながら、紫苑がいう。制止を掛けながらも紫苑の言葉には信頼がにじんでいる。
「ヴィオラさん、宜しくお願いします!」
リラ(ka5679)は笑顔を浮かべてヴィオラに声を掛けた。それに続くようにクウ(ka3730)とカイ(ka3770)が声をかける。
「ちょっと元気がなさそうな感じ……?」
「そうだな……見たとこ、あんまり寝てないんじゃないか?」
クウに続いて、カイが目の下辺りを指し示す。
「……えっ、と。すいません……分かっちゃいますか? お化粧で隠したつもりなんですけど……」
難しいですね、とヴィオラは小さく笑って、そっと目元を抑えた。
「なあ、休憩あるんだろう?」
ヴィオラが化粧を直しに消えた後、男へと問いかけたのは浅生 陸(ka7041)だ。
「ええ、もちろんです」
「なら、歌姫に歌ってくれって声かけていいかい?」
「……体調はとりあえず、今は良いですが、休憩の時の体調によります」
「あぁ、それはもちろん……にしても、天気がいいなー」
「ええ、この天気が長く続いてくれるといいのですが」
陸が空を見上げるのに続くようにして、男が返答した。
やがて、ヴィオラが帰ってくる。化粧が施されて、目元の隈は完全に失せている。
「歌姫なんだって聞いてるよ 折角の縁だ、是非歌声聞かせてくれ」
「はい! もちろんです!」
ヴィオラの姿を認めた陸が言うと、彼女は嬉しそうに顔をほころばせる。
「彼女もぜひきみの歌声聞きたいって言ってるし、彼女も歌うのが好きらしいんだ」
そう言って隣にいるルリ(ka7068)のことを見る。
「そうなんですか! 一緒ですね……! 是非とも一緒に歌いましょう?」
難しいかもしれない。けれど、守られてばかりだったから、守ることをしてみたい。そう思って参加した。
●
「問題なしだ。進んでくれていい」
斥候としてやや先行していた紫苑が告げると、それを受け取ったアルマが振り返る。
「わぅー? ……わふっ。これどうぞですー」
ハンター達へと紫苑からの通信を伝えながらも、ヴィオラを見て、アンチボディをかける。体調が悪いのと移動中であることもあってか、やや顔色が悪いように見えたのだ。
「ありがとう……ございます。少し、眠れてないだけなので。大丈夫です」
そう言って、アルマの頭をよしよしとなでる。身長差からアルマが顔を覗くようにやや屈む形でも背伸びをしなくてはならないことになっているが。よしよしされたアルマが喜ぶのを見て、ヴィオラはやんわりと笑った。
ハンター達はカティス・フィルム(ka2486)の提案もあってヴィオラの周囲を固めるようにして護衛を開始していた。
道なりはずっと平原が続く。冬も深くなり、枯れ草と雪が混じりあって、足音が独特の音を立てている。
カティスは後方を視認で警戒しながら、その一方でやや先を行くフィーナ・マギ・フィルム(ka6617)を見ていた。元々、大切な人は、まだ戦傷が癒えていない。
「ヴィオラさん……だったかしら?」
「はい!」
その視線を背後に感じながら、フィーナはヴィオラに声を掛けた。
護衛としてはあまり役立てそうにないこともあって、話し相手になろうと思っていた。
ヴィオラの声は一見すると溌溂としているようで、どこか押し出すような印象を受けていた。この子が歌手なのであれば、いつか唄にまで影響しかねない気がしてならない。
「どうして歌を歌うのでしょうか?」
「どうして……ですか?」
不思議そうに返すヴィオラにフィーナは静かに返す。
「まだまだ無名であれば遠征なんて、採算も合わないはず……」
「町おこしだったかなんだったかそんな感じのあれだったと思います」
「……それは、ヴィオラさんの目的じゃない……ですよね?」
フィーナと反対にいたルリの問いに、ヴィオラは不思議そうにきょとんとする。
「分かっちゃいますか? でも、ごめんなさい。まだ言えません。ああ、でも、今回はその町に住んでるある人に会ってみたいんです。何かあったらいいなって。思います」
穏やかそうに見える笑みを浮かべる。けれど、まだまだ駆け出しの者が上部で笑っているだけにしか見えない。
「でも、今年最後にして来年初めてのライブになるんです。絶対成功させますよ」
「年越しライブということでしょうか……?」
ヴィオラの前を歩いていたリラが振り返り問いかけると、ヴィオラは小さくうなずく。
「ヴィオラさんも歌を歌うんですね! 私も歌い手を目指しているんです!」
同志を見つけたことに、リラは嬉しそうに声を弾ませていた。ヴィオラもそれを聞いて、少し驚いた様子を見せて。
「同じ夢を持ってる人に会えるとは思いませんでした! お互い頑張りましょう! それにしても、今回は目的地の人から万が一と言われましたけど、何も出てきませんね」
どこか肩透かしを食らったような声でヴィオラは言った。事実、ここまでの道程では雑魔や盗賊はおろか、肉食動物さえ見当たらない。危険があるとは言えない。
「ええ……けれど油断は禁物よ……」
フィーナの返答にヴィオラはうぐっと息をのんだ。
「えと。巡業先で緊張することもあると思うのですが、どんな方法でリラックスしているのです?」
フィーナの横まで来たカティスが問いかけると、ヴィオラは先程までよりもはるかに悩みながらうなり始める。
「……特に何も思い浮かばないですけど……しいて言うなら、そうですね……衣装を着ることとか?」
本当にきにしてないのか、ヴィオラはそう言って再びうなり始めた。
●
その後ものんびりと道を進んでいった一同は、やがてひらけた場所で昼休憩をとっていた。
クウとリラが作ってきたお弁当に、カティスが淹れた紅茶「ジェオルジの風」が並ぶ。
「リラのつくったおべんともおいしそうね! カイの食べてるものもわたしの肉だんごとトレード、で!」
「俺の肉取るな……おっ、これはいけるな」
カイが小皿に入れた肉と自分の肉団子を取り換えようとしたクウは、しかしそれを阻止されていた。
なんだかんだと言いながらも、姉弟はだからこその穏やかな日常を過ごしている。
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫! 回復魔法も道すがら時々かけてもらったし! それに歌わないでいたら喉が塞がっちゃう!」
「そうは言っても……」
「じゃあ一曲だけ! それを聞いて決めて!」
ルリはふとそんな声を聴いた。荷馬車に座って休んでいたヴィオラとマネージャーが何やら争っていたらしい。
「わかりました……一曲だけ聞いてから考えます。ですが、声をつぶすようなことだけは駄目ですよ?」
「わかってるって! あっ、えっと……ルリさん、ですよね?」
こちらを見たヴィオラに対して、ルリは心配そうに目を向けた。
「これから一曲、歌ってみようかなって。ほかの皆さんも参加していただければ」
「おや、歌うのかい? 邪魔にならない程度に、良かったら伴奏もするぜ」
後ろから声がして振り返ると、いつの間にかいた陸が荷馬車からアコースティックギターを取り出した。
「ありがとうございます。でも、一曲目は私の曲ですけど……大丈夫ですかね? 楽譜なら多分ありますけど」
「それなら大丈夫だよ」
「それなら良かったです! マネージャーさん」
「……はぁ、分かりました。それでは……すいません」
呆れたようにいうと、少しごそごそと探ったあと、幾つかの楽譜が陸へと手渡された。
それから数分して、ヴィオラは衣装に着替えて現れた。
「皆さん。本日は私の護衛をしてくださり、誠にありがとうございます。お昼休憩の最中ではありますが、一つ、私の歌を聴いてください――」
そこまで言って、ヴィオラは一つ、深呼吸をする。リラはその様子を見て、少し姿勢を正す。同じ夢を持つ少女がどんな歌を歌うのか、自然と気になってしまう。
「――――」
マイクを使わず、生の声で、ヴィオラが歌い始める。
静かな、しっとりとした歌だ。懐かしい故郷を思いながら、もう戻らないことを心に決めて前に進もうとする、寂しい歌。
それはリラの目指す歌とは別の方向を行くものだった。けれど、その歌には強い思いが込められているようで、普段からよく歌っている、十八番ともいえる物なのだろう。どこまでも自然に紡がれていく。
「もし……」
「はい?」
フィーナはヴィオラが歌い始めると、付き人なのかマネージャーなのかわからない男へと声をかけていた。
「あなたはなぜ彼女に付き添っているのでしょう……」
「初めて帝都で出会ったとき、彼女の表情に惹かれたのです。整っているのに死にかけているそんなあの子の当時に。けれど――ええ、今はあの子の生きている顔が好きで付き合っていますね」
「……彼女の成り行きをすべて知っているのですか……?」
「いえ、すべては知りません。恐らく、過去に何かを抱えているであろうことはたしかでしょうけど。あの子が言ってくれるまでは待つつもりです」
「……芸術家はいろんな物を見て、触って、経験して、その感情の幅を広げていくもの。適度な休息、自由な時間、そして経験いろいろなものに触れさせて、幅を広げることは歌手をやっていくうえで重要なことです」
「えぇ……まさにその通りかと。なので出来れば……あの子には色々なものを見て、知ってほしいのです。なので、割と痛いですが遠征もさせているわけですし」
男はそう言ってからりと笑い、すぐに視線を真剣なものに変えて歌う彼女の方に向ける。その目は確かにヴィオラを大切にしているように思えた。
「ありがとうございました! それとごめんなさい! 最初から悲しい感じのものを歌ってしまって。でも次からは元気が出るのを歌いたいって思います!」
そう言いながら、ヴィオラがこちらを――正確にはフィーナの隣にいる男を見る。男は少し悩まし気な表情を浮かべた後、首肯した。
「それなら私も良いですか?」
リラが元気よく立ち上がる。そのままクウ、カイの三人を引っ張っていく。そんな姿を見ていたカティスは、直ぐに自分も呼ばれて驚きに目を開いた。
「はわぅ!? 歌、ですか? ……はい。ぜひ……」
緊張気味に言いながらも立ち上がり、三人の方へと歩み寄っていく。
自信はないけれど、一人で歌うわけじゃない。ならきっと大丈夫。そう言い聞かせる。
「っ! そういえば、もしかしなくても、幼馴染さん達やフィーの前で歌うのははぢめてなので、は?」
ちらりと、フィーナの方を向く。彼女は何やら先ほどまで話していた男性から離れてこちら歌を聴く準備を始めるように静かに座っている。
途端に、心臓の高鳴りが増していく。目を閉じて、落ち着こうと深呼吸を始めた。
伴奏を行っていた陸はリラやルリ、カイ、クウ、カティスを加えたボーカルの面々がどんな曲にしようかと話し合っている横で、ふと大事な家族のことを思い浮かべていた。
いつか彼女もあの子たちのように歌える日が来るかなと。
「陸さんにお願い……私が歌うとき……いっぱい、伴奏してください……明るい音が聞こえれば、き、緊張も少しは解れるかなって……」
「勿論演奏するよ。安心して歌いな、ルリらしくね」
真っ青な顔をして近づいてきたルリにやさしく声をかける。
「うん……みんなで一緒に歌ってもらえれば、いつの間にか緊張もなくなって
笑って歌える気がします……」
ゆっくりとルリは笑みを浮かべた。
「僕、一応エルフですっ。お歌はすきですー!」
そう言って、持ち物のリュートやフルートを取り出して、アルマも参戦し、新しい曲が始まった。穏やかで楽しく。誰もが自然と笑みを浮かべながら、陸とアルマ、それにクウのギターの音に乗せて、多数の歌い手達の手によって紡がれた歌の音が、草原の寒さを吹き飛ばして風に乗っていった。
●
それから数曲の合唱が行われて、日も暮れてしまうからと紫苑の案でハンターたちは再び出発した。
そこからも何かが出るということもなく進み、問題なく町へと到着していた。
「ありがとうございました。皆さんと一緒に歌えたの楽しかったです。もしよかったら今度やるコンサートも来てもらえると嬉しいです」
「やっぱり楽しいな……音楽って…… 」
ルリはそうぽつりとつぶやく。
「ええ、歌は皆で楽しく歌うのが一番ですから」
それに応じるように、ぐっと元気よく告げるリラ。
「ヴィオラ、流石はプロだね。歌に心を預ける、のめり込むっていう感じで……凄いと思う」
「ああ、よかったと思う」
陸とカイはそう褒めの言葉を残す。
それから少しして、大方の人々が立ち去っていく中、カティスとフィーナが現れる。
「お二人とも、どうかされましたか?」
「いえ、少し……アドバイス……いいかしら」
「はいもちろん!」
「……この旅路を経て、貴方は一体何をしたいのか。見つめなおして。きっと、それを成さない限り…貴方は無名のままなのだと思う。それが解決されない限り、きっと貴方は余計な感情を持ってしまうだろうから」
「……は、はい」
不思議そうにしながらも、心当たりありそうに、ヴィオラはうなずいた。
やや肌寒い季節、冬空に穏やかな日差しが輝いている。
「あなたが依頼主ですか、はじめまして、普段は魔導機械の整備士をしてる機導師の仙堂 紫苑です。依頼中の短い間ですが、よろしくお願いします」
仙堂 紫苑(ka5953)は普段より二割増しで丁寧に言って、男性を見た。
「はい、皆さま宜しくお願い致します。お金は払いますので、どうか私――というより、ヴィオラを次の町へと連れて行ってください」
「わふーっ。あなたがヴィオラさんですー? 僕、アルマって言いますっ。よろしくですー!」
紫苑の横にいたアルマ・A・エインズワース(ka4901)は、男性の横で挨拶を交わしている少女に声を掛けた。歌手、他社の前に出て歌う職業ゆえか、やや化粧をしているように見える。
「は、はい。よろしくお願いします!」
アルマの勢いにやや圧されるようになりながらも、ヴィオラは穏やかに笑って返す。穏やかなアルマと視線を交えた。
「こちらは僕の参謀のシオンですっ。とってもすごんですよ!」
尻尾が生えていたら自慢げにぶんぶんと振れていそうなアルマを見て、おおきなわんこみたいだな、などと考えながら、隣にいる紫苑にも挨拶する。
「アルマはこんなんですけど、仕事に支障はないのでお気になさらず……」
「んきゅ? ……あっ、あっ、おみみひっぱったらだめですー!? いたいですー!?」
勢いよく語り掛けているアルマの耳を引っ張りながら、紫苑がいう。制止を掛けながらも紫苑の言葉には信頼がにじんでいる。
「ヴィオラさん、宜しくお願いします!」
リラ(ka5679)は笑顔を浮かべてヴィオラに声を掛けた。それに続くようにクウ(ka3730)とカイ(ka3770)が声をかける。
「ちょっと元気がなさそうな感じ……?」
「そうだな……見たとこ、あんまり寝てないんじゃないか?」
クウに続いて、カイが目の下辺りを指し示す。
「……えっ、と。すいません……分かっちゃいますか? お化粧で隠したつもりなんですけど……」
難しいですね、とヴィオラは小さく笑って、そっと目元を抑えた。
「なあ、休憩あるんだろう?」
ヴィオラが化粧を直しに消えた後、男へと問いかけたのは浅生 陸(ka7041)だ。
「ええ、もちろんです」
「なら、歌姫に歌ってくれって声かけていいかい?」
「……体調はとりあえず、今は良いですが、休憩の時の体調によります」
「あぁ、それはもちろん……にしても、天気がいいなー」
「ええ、この天気が長く続いてくれるといいのですが」
陸が空を見上げるのに続くようにして、男が返答した。
やがて、ヴィオラが帰ってくる。化粧が施されて、目元の隈は完全に失せている。
「歌姫なんだって聞いてるよ 折角の縁だ、是非歌声聞かせてくれ」
「はい! もちろんです!」
ヴィオラの姿を認めた陸が言うと、彼女は嬉しそうに顔をほころばせる。
「彼女もぜひきみの歌声聞きたいって言ってるし、彼女も歌うのが好きらしいんだ」
そう言って隣にいるルリ(ka7068)のことを見る。
「そうなんですか! 一緒ですね……! 是非とも一緒に歌いましょう?」
難しいかもしれない。けれど、守られてばかりだったから、守ることをしてみたい。そう思って参加した。
●
「問題なしだ。進んでくれていい」
斥候としてやや先行していた紫苑が告げると、それを受け取ったアルマが振り返る。
「わぅー? ……わふっ。これどうぞですー」
ハンター達へと紫苑からの通信を伝えながらも、ヴィオラを見て、アンチボディをかける。体調が悪いのと移動中であることもあってか、やや顔色が悪いように見えたのだ。
「ありがとう……ございます。少し、眠れてないだけなので。大丈夫です」
そう言って、アルマの頭をよしよしとなでる。身長差からアルマが顔を覗くようにやや屈む形でも背伸びをしなくてはならないことになっているが。よしよしされたアルマが喜ぶのを見て、ヴィオラはやんわりと笑った。
ハンター達はカティス・フィルム(ka2486)の提案もあってヴィオラの周囲を固めるようにして護衛を開始していた。
道なりはずっと平原が続く。冬も深くなり、枯れ草と雪が混じりあって、足音が独特の音を立てている。
カティスは後方を視認で警戒しながら、その一方でやや先を行くフィーナ・マギ・フィルム(ka6617)を見ていた。元々、大切な人は、まだ戦傷が癒えていない。
「ヴィオラさん……だったかしら?」
「はい!」
その視線を背後に感じながら、フィーナはヴィオラに声を掛けた。
護衛としてはあまり役立てそうにないこともあって、話し相手になろうと思っていた。
ヴィオラの声は一見すると溌溂としているようで、どこか押し出すような印象を受けていた。この子が歌手なのであれば、いつか唄にまで影響しかねない気がしてならない。
「どうして歌を歌うのでしょうか?」
「どうして……ですか?」
不思議そうに返すヴィオラにフィーナは静かに返す。
「まだまだ無名であれば遠征なんて、採算も合わないはず……」
「町おこしだったかなんだったかそんな感じのあれだったと思います」
「……それは、ヴィオラさんの目的じゃない……ですよね?」
フィーナと反対にいたルリの問いに、ヴィオラは不思議そうにきょとんとする。
「分かっちゃいますか? でも、ごめんなさい。まだ言えません。ああ、でも、今回はその町に住んでるある人に会ってみたいんです。何かあったらいいなって。思います」
穏やかそうに見える笑みを浮かべる。けれど、まだまだ駆け出しの者が上部で笑っているだけにしか見えない。
「でも、今年最後にして来年初めてのライブになるんです。絶対成功させますよ」
「年越しライブということでしょうか……?」
ヴィオラの前を歩いていたリラが振り返り問いかけると、ヴィオラは小さくうなずく。
「ヴィオラさんも歌を歌うんですね! 私も歌い手を目指しているんです!」
同志を見つけたことに、リラは嬉しそうに声を弾ませていた。ヴィオラもそれを聞いて、少し驚いた様子を見せて。
「同じ夢を持ってる人に会えるとは思いませんでした! お互い頑張りましょう! それにしても、今回は目的地の人から万が一と言われましたけど、何も出てきませんね」
どこか肩透かしを食らったような声でヴィオラは言った。事実、ここまでの道程では雑魔や盗賊はおろか、肉食動物さえ見当たらない。危険があるとは言えない。
「ええ……けれど油断は禁物よ……」
フィーナの返答にヴィオラはうぐっと息をのんだ。
「えと。巡業先で緊張することもあると思うのですが、どんな方法でリラックスしているのです?」
フィーナの横まで来たカティスが問いかけると、ヴィオラは先程までよりもはるかに悩みながらうなり始める。
「……特に何も思い浮かばないですけど……しいて言うなら、そうですね……衣装を着ることとか?」
本当にきにしてないのか、ヴィオラはそう言って再びうなり始めた。
●
その後ものんびりと道を進んでいった一同は、やがてひらけた場所で昼休憩をとっていた。
クウとリラが作ってきたお弁当に、カティスが淹れた紅茶「ジェオルジの風」が並ぶ。
「リラのつくったおべんともおいしそうね! カイの食べてるものもわたしの肉だんごとトレード、で!」
「俺の肉取るな……おっ、これはいけるな」
カイが小皿に入れた肉と自分の肉団子を取り換えようとしたクウは、しかしそれを阻止されていた。
なんだかんだと言いながらも、姉弟はだからこその穏やかな日常を過ごしている。
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫! 回復魔法も道すがら時々かけてもらったし! それに歌わないでいたら喉が塞がっちゃう!」
「そうは言っても……」
「じゃあ一曲だけ! それを聞いて決めて!」
ルリはふとそんな声を聴いた。荷馬車に座って休んでいたヴィオラとマネージャーが何やら争っていたらしい。
「わかりました……一曲だけ聞いてから考えます。ですが、声をつぶすようなことだけは駄目ですよ?」
「わかってるって! あっ、えっと……ルリさん、ですよね?」
こちらを見たヴィオラに対して、ルリは心配そうに目を向けた。
「これから一曲、歌ってみようかなって。ほかの皆さんも参加していただければ」
「おや、歌うのかい? 邪魔にならない程度に、良かったら伴奏もするぜ」
後ろから声がして振り返ると、いつの間にかいた陸が荷馬車からアコースティックギターを取り出した。
「ありがとうございます。でも、一曲目は私の曲ですけど……大丈夫ですかね? 楽譜なら多分ありますけど」
「それなら大丈夫だよ」
「それなら良かったです! マネージャーさん」
「……はぁ、分かりました。それでは……すいません」
呆れたようにいうと、少しごそごそと探ったあと、幾つかの楽譜が陸へと手渡された。
それから数分して、ヴィオラは衣装に着替えて現れた。
「皆さん。本日は私の護衛をしてくださり、誠にありがとうございます。お昼休憩の最中ではありますが、一つ、私の歌を聴いてください――」
そこまで言って、ヴィオラは一つ、深呼吸をする。リラはその様子を見て、少し姿勢を正す。同じ夢を持つ少女がどんな歌を歌うのか、自然と気になってしまう。
「――――」
マイクを使わず、生の声で、ヴィオラが歌い始める。
静かな、しっとりとした歌だ。懐かしい故郷を思いながら、もう戻らないことを心に決めて前に進もうとする、寂しい歌。
それはリラの目指す歌とは別の方向を行くものだった。けれど、その歌には強い思いが込められているようで、普段からよく歌っている、十八番ともいえる物なのだろう。どこまでも自然に紡がれていく。
「もし……」
「はい?」
フィーナはヴィオラが歌い始めると、付き人なのかマネージャーなのかわからない男へと声をかけていた。
「あなたはなぜ彼女に付き添っているのでしょう……」
「初めて帝都で出会ったとき、彼女の表情に惹かれたのです。整っているのに死にかけているそんなあの子の当時に。けれど――ええ、今はあの子の生きている顔が好きで付き合っていますね」
「……彼女の成り行きをすべて知っているのですか……?」
「いえ、すべては知りません。恐らく、過去に何かを抱えているであろうことはたしかでしょうけど。あの子が言ってくれるまでは待つつもりです」
「……芸術家はいろんな物を見て、触って、経験して、その感情の幅を広げていくもの。適度な休息、自由な時間、そして経験いろいろなものに触れさせて、幅を広げることは歌手をやっていくうえで重要なことです」
「えぇ……まさにその通りかと。なので出来れば……あの子には色々なものを見て、知ってほしいのです。なので、割と痛いですが遠征もさせているわけですし」
男はそう言ってからりと笑い、すぐに視線を真剣なものに変えて歌う彼女の方に向ける。その目は確かにヴィオラを大切にしているように思えた。
「ありがとうございました! それとごめんなさい! 最初から悲しい感じのものを歌ってしまって。でも次からは元気が出るのを歌いたいって思います!」
そう言いながら、ヴィオラがこちらを――正確にはフィーナの隣にいる男を見る。男は少し悩まし気な表情を浮かべた後、首肯した。
「それなら私も良いですか?」
リラが元気よく立ち上がる。そのままクウ、カイの三人を引っ張っていく。そんな姿を見ていたカティスは、直ぐに自分も呼ばれて驚きに目を開いた。
「はわぅ!? 歌、ですか? ……はい。ぜひ……」
緊張気味に言いながらも立ち上がり、三人の方へと歩み寄っていく。
自信はないけれど、一人で歌うわけじゃない。ならきっと大丈夫。そう言い聞かせる。
「っ! そういえば、もしかしなくても、幼馴染さん達やフィーの前で歌うのははぢめてなので、は?」
ちらりと、フィーナの方を向く。彼女は何やら先ほどまで話していた男性から離れてこちら歌を聴く準備を始めるように静かに座っている。
途端に、心臓の高鳴りが増していく。目を閉じて、落ち着こうと深呼吸を始めた。
伴奏を行っていた陸はリラやルリ、カイ、クウ、カティスを加えたボーカルの面々がどんな曲にしようかと話し合っている横で、ふと大事な家族のことを思い浮かべていた。
いつか彼女もあの子たちのように歌える日が来るかなと。
「陸さんにお願い……私が歌うとき……いっぱい、伴奏してください……明るい音が聞こえれば、き、緊張も少しは解れるかなって……」
「勿論演奏するよ。安心して歌いな、ルリらしくね」
真っ青な顔をして近づいてきたルリにやさしく声をかける。
「うん……みんなで一緒に歌ってもらえれば、いつの間にか緊張もなくなって
笑って歌える気がします……」
ゆっくりとルリは笑みを浮かべた。
「僕、一応エルフですっ。お歌はすきですー!」
そう言って、持ち物のリュートやフルートを取り出して、アルマも参戦し、新しい曲が始まった。穏やかで楽しく。誰もが自然と笑みを浮かべながら、陸とアルマ、それにクウのギターの音に乗せて、多数の歌い手達の手によって紡がれた歌の音が、草原の寒さを吹き飛ばして風に乗っていった。
●
それから数曲の合唱が行われて、日も暮れてしまうからと紫苑の案でハンターたちは再び出発した。
そこからも何かが出るということもなく進み、問題なく町へと到着していた。
「ありがとうございました。皆さんと一緒に歌えたの楽しかったです。もしよかったら今度やるコンサートも来てもらえると嬉しいです」
「やっぱり楽しいな……音楽って…… 」
ルリはそうぽつりとつぶやく。
「ええ、歌は皆で楽しく歌うのが一番ですから」
それに応じるように、ぐっと元気よく告げるリラ。
「ヴィオラ、流石はプロだね。歌に心を預ける、のめり込むっていう感じで……凄いと思う」
「ああ、よかったと思う」
陸とカイはそう褒めの言葉を残す。
それから少しして、大方の人々が立ち去っていく中、カティスとフィーナが現れる。
「お二人とも、どうかされましたか?」
「いえ、少し……アドバイス……いいかしら」
「はいもちろん!」
「……この旅路を経て、貴方は一体何をしたいのか。見つめなおして。きっと、それを成さない限り…貴方は無名のままなのだと思う。それが解決されない限り、きっと貴方は余計な感情を持ってしまうだろうから」
「……は、はい」
不思議そうにしながらも、心当たりありそうに、ヴィオラはうなずいた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/12 07:41:10 |
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護衛相談 カイ(ka3770) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/12/13 02:26:58 |